説明

チタン酸アルカリ金属化合物及びその製造方法、並びに該チタン酸アルカリ金属化合物を含む電極活物質及び該電極活物質を用いてなる蓄電デバイス

【課題】新規なチタン酸アルカリ金属化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】好ましくは一次元のトンネル構造を有する、一般式としてH2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとる新規化合物である。該化合物は、一般式としてHTi1225の化学組成をとる化合物とアルカリ金属化合物とを反応させて合成することができる。該化合物から作製された電極活物質を含有する電極を、構成部材として用いた蓄電デバイスは、充放電サイクル特性に優れ、高容量が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なチタン酸アルカリ金属化合物及びその製造方法に関する。また、前記チタン酸アルカリ金属化合物を含む電極活物質及びこの電極活物質を用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、サイクル特性に優れていることから、近年急速に普及している。リチウム二次電池の電極活物質、特に負極活物質としては、エネルギー密度が高く、レート特性に優れたリチウム・チタン複合酸化物が普及しており、一方、放電電位が高く、安全性に優れたチタン酸化合物も注目されている。例えば、LiTi12で表されるスピネル型(特許文献1、非特許文献1)、LiTiで表されるラムズデライト型(特許文献2、非特許文献2)等のチタン酸リチウムや、HLiy−xTi(0<x≦y、0.8≦y≦2.7、1.3≦z≦2.2)(特許文献3)で表されるチタン酸水素リチウムを、電極活物質に用いる技術が知られている。あるいは、HTi1225で表されるチタン酸化合物(特許文献4)、HTi1.73(0.5≦x+y≦1.07、0≦y/(x+y)≦0.2、3.85≦z≦4.0、MはLi以外のアルカリ金属)(特許文献5)、ATi(AはNa、Li、Hから選ばれる少なくとも一種)(特許文献6)等で表されるチタン酸アルカリ金属化合物等を用いる技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−270175号公報
【特許文献2】特開2004−221523号公報
【特許文献3】国際公開WO99/003784号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2008/111465号パンフレット
【特許文献5】特開2007−220406号公報
【特許文献6】特開2007−243233号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G.X.Wang, D.H.Bradhurst, S.X.Dou,H.K.Liu, Journal of Power Sources, 83(1999)P156-161
【非特許文献2】Jie Shu, Electrochimica Acta, 54(2009)P2869-2876
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電極活物質に用いることができる、新規なチタン酸アルカリ金属化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとる新規な化合物を見出し、更に、このものを蓄電デバイスの活物質に用いると、優れた電池特性が得られることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、
(1)一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとる化合物、
(2)一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとり、結晶構造の特徴として、一次元のトンネル構造を有する化合物、
(3)一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとり、結晶構造の特徴として、一次元のトンネル構造を有し、単斜晶系に属し、且つX線回折パターンのピーク波形がHTi1225と相似であり、各々のピークの位置がHTi1225より高角側あるいは低角側にシフトしている化合物、
(4)一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとる化合物から作製された蓄電デバイス用電極活物質、
(5)正極、負極、セパレーター及び電解質を含む蓄電デバイスにおいて、前記の正極または負極が上記(4)項に記載の電極活物質を含有する蓄電デバイス、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のチタン酸アルカリ金属化合物は、電極活物質に用いると、電池特性に優れた蓄電デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のH2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)が有する結晶構造を示す模式図である。
【図2】既知のHTi1225のX線粉末回折図形である。
【図3】実施例3で得られた本発明のH1.49Li0.52Ti1225(試料C)のX線粉末回折図形である。
【図4】実施例4で得られた本発明のH1.57Li0.42Ti1225(試料D)のX線粉末回折図形である。
【図5】本発明のH2−xLiTi1225のX線粉末回折図形の特徴を、既知のHTi1225と比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の新規チタン酸アルカリ金属化合物(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)は、好ましくはその結晶構造の特徴として、一次元のトンネル構造を有する。
さらに好ましくは、式1の化合物は、単斜晶系に属し、且つX線回折パターンのピーク波形がHTi1225と相似であり、各々のピークの位置がHTi1225より高角側あるいは低角側にシフトしている。尚、「ピーク波形が相似である」とは、HTi1225の特徴的なピーク、すなわち、X線粉末回折測定(CuKα線使用)において2Θが14.0°、24.8°、28.7°、31.1°、43.5°、44.5°、48.6°、57.6°の位置に存在するピークに割り当てることのできるピークを高角側あるいは低角側にシフトした位置に有することをいう。各々のピーク強度あるいはピーク間の強度比は異なっていてもよい。
さらに、式1の化合物は、蓄電デバイス用の電極材料の電極活物質として使用できる。
【0011】
本発明の式1の新規チタン酸アルカリ金属化合物の有する一次元のトンネル構造とは、図1に示すようなTiO八面体が連結することにより構築された骨格構造によってトンネル構造を有し、好ましくはサイズの異なる2種のトンネル空間を有することをいう。このような結晶構造をとることから、トンネル内に大量のリチウムイオンを吸蔵することが可能となり、また一次元の伝導パスが確保されていることから、トンネル方向へはイオンの移動が容易であるという特徴を有し、電極活物質として好ましい。トンネル構造には一部、閉塞した部分があってもよい。
【0012】
さらに、本発明の式1の化合物は、トンネル構造を有することから前記の電極活物質以外にも、吸着剤、触媒等に用いることができる。式1中のMで表されるアルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられ、用いる用途に応じて適宜選択できる。特に、電極活物質に用いる場合、前記アルカリ金属元素がリチウムであれば、より優れた電池特性が得られ易いので好ましい。
【0013】
式1の化合物の平均粒子径(レーザー散乱法によるメジアン径)は、特に制限を受けないが、通常は、0.05〜10μmの範囲にあり、0.1〜2μmの範囲であれば更に好ましい。また粒子形状は、球状、多面体状等の等方性形状、棒状、板状等の異方性形状、不定形状等特に制限は無い。このものの一次粒子を集合させて二次粒子とすると、流動性、付着性、充填性等の粉体特性が向上し、電極活物質に用いる場合には、サイクル特性等の電池特性も改良されるので好ましい。本発明における二次粒子とは、一次粒子同士が強固に結合した状態にあり、通常の混合、粉砕、濾過、水洗、搬送、秤量、袋詰め、堆積等の工業的操作では容易に崩壊せず、ほとんどが二次粒子として残るものである。二次粒子の平均粒子径(レーザー散乱法によるメジアン径)は、0.1〜20μmの範囲にあるのが好ましい。比表面積(BET法)は特に制限は無いが、0.1〜100m/gの範囲が好ましく、1〜100m/gの範囲が更に好ましい。粒子形状も、一次粒子と同様に制限は受けず、様々な形状のものを用いることができる。
【0014】
式1の化合物の一次粒子あるいは二次粒子の粒子表面には、炭素や、シリカ、アルミナ等の無機化合物、界面活性剤、カップリング剤等の有機化合物から選ばれる少なくとも1種が被覆されていても良い。これらの被覆種は、1種を被覆することも、2種以上を積層したり、混合物や複合化物として被覆することもでき、特に、炭素で被覆すると電気伝導性が良くなるので、電極活物質として用いる場合には好ましい。炭素の被覆量は、TiO換算の式1の化合物に対し、C換算で0.05〜10重量%の範囲が好ましい。この範囲より少ないと所望の電気伝導性が得られず、多いと却って特性が低下する。より好ましい含有量は、0.1〜5重量%の範囲である。尚、炭素の含有量は、CHN分析法、高周波燃焼法等により分析できる。あるいは、チタン、アルカリ金属、水素、酸素以外の異種元素を、前記の結晶形を阻害しない範囲で、その結晶格子中にドープさせるなどして含有させることもできる。
【0015】
本発明の式1で表される化合物は、一般式として(式2)HTi1225の化学組成をとる化合物とアルカリ金属化合物とを反応させる工程を含む製造方法によって得られる。式2の化合物とアルカリ金属化合物を反応させるには、両者を液相中で混合するなどして接触させる方法を用いても良く、固相中で混合するなどして接触させ加熱しても良い。液相中で反応を行なう場合、反応はスラリー中で行うのが好ましく、水性媒体を用いてスラリー化するのが更に好ましい。水性媒体を用いる場合は、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩等の水溶性アルカリ金属化合物を用いるのが好ましい。固相中で反応を行なう場合は、加熱によって、アルカリ金属化合物が溶融塩となって、式2の化合物と反応すると考えられ、アルカリ金属化合物としては、比較的融点が低いアルカリ金属の硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩を用いるのが好ましい。加熱温度は、用いるアルカリ金属化合物によって適宜設定されるが、通常は、150〜400℃の範囲が好ましい。式1中のxの値の範囲は、アルカリ金属化合物による水素イオンの置換量を制御することで定まる。例えば、式2の化合物に含まれる水素イオンの一部をリチウムイオンと置換し、式1中のxの範囲を0<x<2に調整すれば、一般式としてH2−xLiTi1225(0<x<2)の化学組成をとる化合物が得られる。あるいは、式1中のxが2である化合物、即ち、一般式としてNaTi1225の化学組成をとるチタン酸ナトリウム以外の化合物を得るには、水素イオンの全部を置換すれば良い。
【0016】
(式1’)H2−xMxTi1225(0<x<2、Mはアルカリ金属を表す)で表される化合物を得るのに、式2の化合物と反応当量以上のアルカリ金属化合物と反応させて、一旦、式2の化合物に含まれる水素イオンの全部をアルカリ金属イオンと置換した後、得られた化合物に含まれるアルカリ金属イオンの一部を水素イオンと置換してもよい。この方法は、式1中のxを0<x<2の範囲に制御し易く、より好ましい方法である。この方法で、式2の化合物に含まれる水素イオンの全部を置換したものは、一般式として(式3)MTi1225(x≧2、Mはアルカリ金属元素を表す)の化学組成をとる化合物と考えられる。式3で表される化合物として、LiTi1225、KTi1225等を用いても良く、あるいは、組成式3中のxが2の場合、Mで表されるアルカリ金属元素がナトリウムである化合物も用いることもできる。式3中のxが2より大きい値をとり得るのは、式2の化合物が一次元のトンネル構造を有しており、過剰のアルカリ金属イオンが結晶構造中に取り込まれるためであると推測される。xの値に上限は無いが、3以下とすると、式3の化合物の構造が変化し難いので好ましい。アルカリ金属イオンと水素イオンとの置換は、式3の化合物と酸性化合物及び/又は水とを反応させることで行える。この化合物に含まれるアルカリ金属イオンは反応性が高いので、水を用いても置換反応が生じる。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸を用いると反応が進み易く、塩酸、硫酸であれば工業的に有利に実施できるので好ましい。酸性化合物の濃度には特に制限は無いが、遊離酸の濃度は2規定以下にするのが好ましい。反応温度に特に制限は無いが、式3の化合物の構造が変化し難い100℃未満の範囲の温度下で行なうのが好ましい。水素イオンによる置換の程度は、酸性化合物を用いて置換反応を行う場合、たとえば、酸性化合物の使用量を制御することによって、水を用いる場合は、たとえば、水の使用量、温度、反応時間等を制御することによって、制御することができる。
【0017】
得られた式1の化合物は、必要に応じて洗浄、固液分離した後、乾燥する。特に、洗浄を行なうと、残余のアルカリ金属化合物を除去できるので好ましく、そのような洗浄媒液として、例えば、水や極性非水溶媒が挙げられる。極性非水溶媒としては、エタノール、メタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、エタノールが好ましい。あるいは、粒子同士の凝集の程度に応じて、公知の機器を用いて本発明の効果を損ねない範囲で粉砕してもよい。
【0018】
本発明の製造方法で用いる式2の化合物は、一般式として(式4)MTi2y+1(y>2、Mはアルカリ金属元素を表す)の化学組成をとる化合物と酸性化合物とを反応させた後、適宜洗浄、固液分離、乾燥を行い、150〜400℃の範囲の温度で加熱脱水することで得られる。式4中のMで表されるアルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられ、中でもナトリウム、カリウム、セシウムは工業的に有利に実施できるので好ましい。式4中のyの値は2より大きければ特に制限は無いが、3〜5の範囲の整数であるのが好ましい。具体的には、Na2Ti37、K2Ti49、Cs2Ti511等が挙げられる。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸を用いると反応が進み易く、塩酸、硫酸であれば工業的に有利に実施できるので好ましい。酸性化合物の量や濃度には特に制限は無いが、式4の化合物に含まれるアルカリ金属イオンの反応当量以上で、遊離酸の濃度を2規定以下にするのが好ましい。反応温度に特に制限は無いが、式4の化合物の構造が変化し難い100℃未満の範囲の温度で行なうのが好ましい。式4の化合物は、予め造粒しておくと、酸性化合物との反応性が高くなるので好ましく、造粒には噴霧乾燥を用いるのが工業的に好ましい。加熱脱水には、流動炉、静置炉ロータリーキルンを用いることができ、加熱雰囲気は、大気中、不活性ガス中のいずれであっても良い。
【0019】
式4の化合物は、チタン化合物とアルカリ金属化合物とを、乾式または湿式で混合した後、焼成することで得られる。チタン化合物としては、チタン酸化物やチタン塩化物等の無機チタン塩、及び、チタンアルコキシド等の有機チタン化合物を用いることができ、アルカリ金属化合物には、アルカリ金属の炭酸塩、水酸化物等を用いることができる。中でも、チタン酸化物とアルカリ金属炭酸塩を用いるのが好ましい。尚、チタン酸化物は、本発明では、チタンと酸素の化合物及びその含水素化合物、含水物または水和物を包含する化合物であり、例えば、二酸化チタン(TiO)等の酸化チタンのほか、メタチタン酸(HTiO)、オルトチタン酸(HTiO)等のチタン酸化合物等が挙げられ、これらから選ばれる1種あるいは2種以上を用いることができる。また、結晶性の化合物であっても、非晶質であってもよく、結晶性の場合は、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型等のいずれであってもよく、結晶形にも特に制限を受けない。焼成温度は600〜1000℃の範囲が好ましく、この範囲より低いと反応が進み難く、この範囲より高いと生成物同士の焼結が生じ易い。更に好ましい範囲は、700〜900℃である。反応を促進し、且つ生成物の焼結を抑制するために、焼成を2回以上繰り返して行うこともできる。焼成には、流動炉、静置炉、ロータリーキルン、トンネルキルン等の公知の焼成炉を用いることができる。焼成雰囲気としては、大気中及び非酸化性雰囲気を適宜選択できる。焼成機器は、焼成温度等に応じて適宜選択する。焼成後、焼結の程度に応じて、粉砕を行っても良い。粉砕は、ハンマーミル、ピンミル、遠心粉砕機等の衝撃粉砕機、ローラーミル等の摩砕粉砕機、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の圧縮粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を用いて乾式で行なっても良く、サンドミル、ボールミル、ポットミル等を用いて湿式で行っても良い。
【0020】
式1の化合物の二次粒子を製造するには、式2の化合物とアルカリ金属化合物とを反応させる工程において、更に(1)式2の化合物とアルカリ金属化合物とを共に造粒後に反応させるか、(2)式2の化合物を造粒してアルカリ金属化合物と反応させるか、又は(3)式2の化合物をアルカリ金属化合物と反応させてから造粒する工程が含まれていれば良い。造粒には、乾燥造粒、撹拌造粒、圧密造粒等が挙げられ、二次粒子の粒子径や形状を調整し易いので、乾燥造粒が好ましい。乾燥造粒には、式2の化合物、アルカリ金属化合物あるいはこれらの反応生成物を含むスラリーを脱水後、乾燥して粉砕する;前記スラリーを脱水後、成型して乾燥する;前記スラリーを噴霧乾燥する等の方法が挙げられ、中でも噴霧乾燥が工業的に好ましい。二次粒子にすると、式2の化合物に含まれる水素イオンのアルカリ金属イオンによる置換が促進されるので、粉体特性や電池特性の改良ばかりでなく、水素イオンが全て置換されたLiTi1225、KTi1225等の式3の化合物を得るには好ましい方法である。得られた二次粒子を、200〜500℃の温度で加熱処理すると、水素イオンの置換が一層促進されるので、LiTi1225、KTi1225等の式3の化合物の製造には、より好ましい方法である。式1中のxの範囲を0<x<2に調整し、式1’の化合物の二次粒子を得るには、(1)〜(3)の方法で、式3の化合物の二次粒子を得た後、酸性化合物及び/又は水と反応させて、式3の化合物に含まれるアルカリ金属イオンの一部と水素イオンとを置換させると、xの値を制御し易く好ましい。
【0021】
噴霧乾燥するのであれば、用いる噴霧乾燥機としては、ディスク式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、四流体ノズル式などの乾燥機をスラリーの性状や処理能力に応じて適宜選択することができる。二次粒子径の制御は、例えば、スラリー中の固形分濃度を調整したり、あるいは、上記のディスク式ならディスクの回転数を、圧力ノズル式、二流体ノズル式、四流体ノズル式等なら噴霧圧やノズル径を調整する等して、噴霧される液滴の大きさを制御することにより行える。乾燥温度としては入り口温度を150〜250℃の範囲、出口温度を70〜120℃の範囲とするのが好ましい。スラリーの粘度が低く、造粒し難い場合や、粒子径の制御を更に容易にするために、有機系バインダーを適量、加えても良い。用いる有機系バインダーとしては、例えば、(1)ビニル系化合物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)、(2)セルロース系化合物(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等)、(3)タンパク質系化合物(ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等)、(4)アクリル酸系化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等)、(5)天然高分子化合物(デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等)、(6)合成高分子化合物(ポリエチレングリコール等)等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、ソーダ等の無機成分を含まないものは、加熱処理により分解、揮散し易いので更に好ましい。
【0022】
また、本発明の式1の化合物を電極活物質として含有する電極を構成部材として用いた蓄電デバイスは、高容量で、かつ可逆的なリチウム挿入・脱離反応が可能であり、高い信頼性が期待できる蓄電デバイスである。
【0023】
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、キャパシタ等が挙げられ、これらは電極、対極及びセパレーターと電解液とを含み、電極は、前記電極活物質にカーボンブラックなどの導電材とフッ素樹脂などのバインダを加え、適宜成形または電極基板に塗布して得られる。リチウム電池の場合、前記電極活物質を正極に用い、対極として金属リチウム、リチウム合金など、または黒鉛などの炭素系材料などを用いることができる。あるいは、前記電極活物質を負極として用い、正極にリチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・バナジン複合酸化物等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リチウム・鉄・複合リン酸化合物等のオリビン型化合物等を用いることができる。キャパシタの場合は、前記電極活物質と、黒鉛とを用いた非対称型キャパシタとすることができる。セパレーターには、いずれにも、多孔性ポリエチレンフィルムなどが用いられ、電解液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタンなどの溶媒にLiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiBF4などのリチウム塩を溶解させたものなど常用の材料を用いることができる。蓄電デバイスの構造としては電極活物質を除き、上記の他、周知のものが使用でき、特に限定されない。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0025】
実施例1
市販のルチル型高純度二酸化チタン(PT−301:石原産業製)1000gと、炭酸ナトリウム451.1gに、純水を1284gを加え、攪拌してスラリー化した。このスラリーを噴霧乾燥機(MDL−050C型:藤崎電気製)を用いて、入口温度200℃、出口温度70〜90℃の条件で噴霧乾燥した。得られた噴霧乾燥品を、電気炉を用い、大気中で800℃の温度で10時間加熱焼成し、メジアン径が5.5μmの生成物を得た。
【0026】
得られた試料について、ICP発光分析法(島津製作所製、商品名ICPS−7500)により、化学組成を分析したところ、Na:Ti=1.99:3.00(各元素の分析誤差0.04以内)となり、NaTiの化学式で妥当であった。さらに、X線粉末回折装置(リガク製、商品名RINT2550V)により、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群P2/mの結晶構造の単一相であることが明らかとなった。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、公知のNaTiとの値と良く一致していた。
a=9.131Å(誤差0.001Å以内)
b=3.804Å(誤差0.001Å以内)
c=8.569Å(誤差0.001Å以内)
β=101.60°(誤差0.01°以内)
【0027】
得られたNaTi1077gに、純水4310gを加え、ダイノミル(MULTI LAB型:シンマルエンタープライズ製)で湿式粉砕して、メジアン径が1.2μmの分散スラリーを得た。このスラリー4848gに64%硫酸739gを加え、攪拌しながら60℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗した。ろ過ケーキに純水を加え3370gにしてから再分散させ、64%硫酸481gを加え、攪拌しながら80℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗乾燥して生成物を得た。
【0028】
得られた試料について、ICP発光分析法により、化学組成を分析したところ、ナトリウムは検出されず、ほぼ完全にプロトン交換されたHTiの化学式で妥当であった。さらに、X線粉末回折装置により、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群C2/mの結晶構造のHTiの単一相であることが明らかとなった。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、公知のHTiとの値と良く一致していた。
a=16.032Å(誤差0.001Å以内)
b=3.751Å(誤差0.001Å以内)
c=9.194Å(誤差0.001Å以内)
β=101.44°(誤差0.01°以内)
【0029】
このようにして得られたHTiの粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子製、商品名JSM−5400)により調べたところ、出発原料であるNaTiの形状が保持された約1ミクロン角の等方的な形状を有していた。
【0030】
得られたHTi300gを、電気炉を用い、大気中で260℃で10時間加熱脱水し、生成物を得た。
【0031】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、X線回折データを測定し、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群P2/mの結晶構造のHTi1225の単一相であることが明らかとなった。そのX線回折図形を図2に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、国際公開WO2008/111465号に開示されるHTi1225の値と良く一致していた。
a=14.82Å(誤差0.01Å以内)
b=3.890Å(誤差0.001Å以内)
c=9.866Å(誤差0.08Å以内)
β=111.06°(誤差0.08°以内)
【0032】
また、化学組成の妥当性について、試料の250〜600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定し、加熱減量が構造水に相当すると仮定して算出したところ、HTi1225の化学組成が妥当であることが確認された。
【0033】
このようにして得られたHTi1225の粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により調べたところ、出発原料であるNaTi、前駆体であるHTiの形状が保持された約1ミクロン角の等方的な形状を有していた。
【0034】
得られたHTi1225153gに純水1リットルと水酸化リチウム一水和物13.1gを加えて撹拌しながら、60℃で3時間反応させた。その後、このスラリーを前記のNaTiと同じ条件で噴霧乾燥し、更に350℃の温度で10時間加熱処理して、メジアン径が5.3μmの本発明の式1の化合物を得た。(試料A)
【0035】
実施例2
実施例1で得られた試料A100gに、純水900ミリリットルを加え、60℃で3時間反応させた。その後ろ過水洗、100℃で乾燥して本発明の式1の化合物を得た。(試料B)
【0036】
実施例3
実施例1で得られたHTi12250.5gに硝酸リチウム10gを混合して、電気炉を用い、270℃で5時間加熱し、反応させた。反応後、冷却し、純水で十分に洗浄して過剰の硝酸リチウムを除去し、ろ過水洗、100℃で乾燥して本発明の式1の化合物を得た。(試料C)
【0037】
実施例4
実施例3において、加熱時間を20時間とした以外は、実施例3と同様にして、本発明の式1の化合物を得た。(試料D)
【0038】
実施例5
実施例3において、加熱時間を20時間とし、反応・冷却後の洗浄を純水に替えてエタノールを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、本発明の式1の化合物を得た。(試料E)
【0039】
比較例1
実施例1で中間生成物として得られた式2の化合物 HTi1225を、比較対象とした。(試料F)
【0040】
評価1:結晶性の確認、格子定数の測定
実施例3で得られた化合物(試料C)、及び実施例4で得られた化合物(試料D)について、X線粉末回折装置により、X線回折データを測定し、良好な結晶性を有する、単斜晶系で、且つX線回折パターンのピーク波形がHTi1225と相似であり、各々のピークの位置がHTi1225より高角側あるいは低角側にシフトしていることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図3および図4に示す。また、既知のHTi1225のピーク位置との違いが顕著なピークについて、図5で比較した。試料Cおよび試料Dにおけるピーク位置は、既知のHTi1225と比べ大きく高角側へシフトしていることが確認された。このようなX回折パターンは公知の化合物とは一致せず、新物質であることが明らかになった。
【0041】
評価2:結晶構造の確認
更に、粉末X線回折装置で測定した強度データを用いて粉末X線構造解析法(プログラムRIETAN2000使用)により、結晶構造解析を行なったところ、公知の物質であるNaTi1225と同じ骨格構造を有する一次元のトンネル構造を有することが明らかとなった。
【0042】
また、解析により明らかとなった結晶構造を図1に示す。TiO八面体が構築した骨格構造によって、サイズの異なる2種のトンネル空間が形成されていることが明らかとなった。
【0043】
評価3:組成の確認
実施例1〜5で得られた化合物(試料A〜E)を弗酸に熔解して、ICP分析法でチタンとリチウムの含有量を測定した。また、これらの試料の250〜600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定し、加熱減量が構造水に相当すると仮定して、組成式1におけるxの値を算出した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
評価4:充放電特性の評価(1)
実施例1〜4で得られた化合物(試料A〜D)を、電極活物質として用いて、リチウム二次電池を調製し、その充放電特性を評価した。電池の形態や測定条件について説明する。
【0046】
上記各試料と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリ四フッ化エチレン樹脂を重量比で5:4:1で混合し、乳鉢で練り合わせ、直径10mmの円形に成型してペレット状とした。ペレットの重量は10mgであった。このペレットに直径10mmに切り出したアルミニウム製のメッシュを重ね合わせ、9MPaでプレスして作用極とした。
【0047】
この作用極を100℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型評価用セルに正極として組み込んだ。評価用セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウムを直径12mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPFを溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0048】
作用極は評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。さらにその上に負極と、厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封した。
【0049】
充放電容量の測定は、電圧範囲を1.0〜2.5Vに、充放電電流を0.2mAに設定して、室温下、定電流で行った。2サイクル目と30サイクル目の充放容量を測定し、(30サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100をサイクル特性とした。この値が大きい程、サイクル特性が優れている。結果を表2に示す。本発明のチタン酸アルカリ金属化合物を用いた電極活物質は、サイクル特性に優れ、充放電容量が大きいことが判る。
【0050】
【表2】

【0051】
評価5:充放電特性の評価(2)
実施例1〜5、比較例1で得られた化合物(試料A〜F)について、評価4と同様にして、リチウム二次電池を調製し、その充放電特性を評価した。サイクル特性は、2サイクル目と30サイクル目の充放容量を測定し、(30サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100で算出した。結果を表3に示す。本発明のチタン酸アルカリ金属化合物を用いた電極活物質は、サイクル特性に優れていることが確認できる。
【0052】
【表3】

【0053】
評価6:充放電特性の評価(3)
評価5において、室温下で行なった充放電を、60℃の恒温槽中で行なった以外は、評価5と同様にして、サイクル特性の評価を行なった。結果を表4に示す。本発明は、高温下で充放電を行なっても、サイクル特性に優れていることが判る。比較例1は、高温下では、実施例より初期容量が大きくなるものの、サイクル特性が著しく低下する。
【0054】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の新規チタン酸アルカリ金属化合物H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)は、一次元的なトンネル空間を有するという結晶構造の特徴から、現行のスピネル型LiTi12よりも高容量であり、リチウムのスムースな吸蔵・放出に有利であり、かつ、初期充放電効率、サイクル特性の観点で優れた材料である。そのため、リチウム二次電池等の蓄電デバイス電極材料として実用性の高いものである。
【0056】
また、その製造方法も、特別な装置を必要とせず、また、使用する原料も低価格であることから、低コストで高付加価値の材料を製造可能である。
【0057】
さらに、本発明の新規チタン酸アルカリ金属化合物H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)を電極活物質として電極材料に適用した蓄電デバイスは、可逆的なリチウム挿入・脱離反応が可能で、長期にわたる充放電サイクルに対応可能であり、また高容量が期待できる蓄電デバイスである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとる化合物。
【請求項2】
一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとり、一次元のトンネル構造を有する化合物。
【請求項3】
一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとり、一次元のトンネル構造を有し、単斜晶系に属し、且つX線回折パターンのピーク波形がHTi1225と相似であり、各々のピークの位置がHTi1225より高角側あるいは低角側にシフトしている化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載に化合物の一次粒子を集合させた二次粒子である化合物。
【請求項5】
一般式として(式1)H2−xTi1225(0<x≦2、Mはアルカリ金属元素を表す、但しx=2の場合MはNaを除く)の化学組成をとる化合物を含む蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項6】
式1中のMで表されるアルカリ金属元素がリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムから選ばれる少なくとも一種である請求項5記載の電極活物質。
【請求項7】
一般式として(式2)HTi1225の化学組成をとる化合物とアルカリ金属化合物とを反応させる工程を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【請求項8】
式2の化合物とアルカリ金属化合物とを液相中で接触させて反応させる請求項7に記載の化合物の製造方法。
【請求項9】
式2の化合物とアルカリ金属化合物とを固相中で接触させ加熱して反応させる請求項7に記載の合物の製造方法。
【請求項10】
一般式として(式2)HTi1225の化学組成をとる化合物とアルカリ金属化合物とを反応させる工程において、更に(1)式2の化合物とアルカリ金属化合物とを共に造粒後に反応させるか、(2)式2の化合物を造粒してアルカリ金属化合物と反応させるか、又は(3)式2の化合物とアルカリ金属化合物とを反応させてから造粒する工程を含む請求項4記載の化合物の製造方法。
【請求項11】
(1)〜(3)のいずれかの工程によって一般式として(式3)MTi1225(x≧2、Mはアルカリ金属元素を表す)の化学組成をとる化合物の二次粒子を得た後、この二次粒子と酸性化合物及び/又は水とを反応させて、式1中のxを0<x<2の範囲に調整する請求項10に記載の化合物の製造方法。
【請求項12】
正極、負極、セパレーター及び電解質を含む蓄電デバイスにおいて、前記正極または負極が請求項5に記載の電極活物質を含有する蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−26188(P2011−26188A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143573(P2010−143573)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】