説明

チタン酸バリウムフィラー含有パーフルオロエラストマー組成物

テトラフルオロエチレンと、少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテルとパーフルオロポリマーを架橋させる官能基を有する少なくとも1種の硬化部位含有モノマーとを含む第1の硬化性パーフルオロポリマーおよびチタン酸バリウムを含む含フッ素エラストマー組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、35 U.S.C.§119(e)の下に、参照により全内容が本明細書に組み込まれている、2008年12月17日出願の米国仮特許出願61/138,333号の利益を請求する。
【0002】
[技術分野]
本発明は、パーフルオロエラストマーを用いて調製された、チタン酸バリウムフィラー系を有する含フッ素エラストマー組成物に関する。また、本発明は、硬化性組成物およびかかるパーフルオロエラストマー組成物から形成された成形品にも関する。
【背景技術】
【0003】
含フッ素エラストマー、特にテトラフルオロエチレン(TFE)単位を中心とするパーフルオロエラストマー(FFKMs)は、優れた耐薬品性、耐溶剤性および耐熱性を示すことから、過酷な環境下でのシール材やその他の製品などの基剤として広く使用されている。
【0004】
パーフルオロエラストマー材料は、耐薬品性、プラズマ耐性を有するものとして知られており、また、代表的なフィラーまたは補強系を有する組成物に用いられる場合は、許容できる耐圧縮永久歪レベルおよび機械的特性を有するものとして知られている。それゆえ、多くの用途、たとえばシールまたはガスケットが高腐食性の薬品および/または厳しい操作条件に曝されるエラストマーシール材の用途や、変形に耐え得る成形品の形成の用途などに適用されてきている。FFKMsはまた、その耐薬品性およびプラズマ耐性により、半導体製造工業におけるシール材用としてもよく知られている。こうした材料は、代表的にはパーフルオロ硬化部位含有モノマーなどのパーフルオロモノマーの少なくとも1種から製造される。これらのモノマーは重合され、硬化部位含有モノマーに由来する硬化部位を有するパーフルオロポリマーが形成され、ついで硬化(架橋)することによりエラストマーが形成される。代表的なFFKM組成物は、上述の重合されたパーフルオロポリマー、硬化部位含有モノマーの反応性硬化性基と反応する硬化剤、および所望のフィラーを含む。硬化したパーフルオロエラストマーは典型的なエラストマー特性を発現する。
【0005】
FFKMsは、一般的に、その高純度、優れた耐熱性、プラズマ耐性、耐薬品性およびその他厳しい環境に対する耐性がゆえに、高性能シール用のO−リングおよび関連シール部品への使用が知られている。そのような環境下における使用が要求される産業としては、半導体、航空宇宙、化学および薬品などの分野がある。これらの材料を用いた新規なパーフルオロエラストマー組成物の開発は、より高い耐熱性、耐薬品性およびプラズマ耐性を与え得るFFKMsおよびFFKMsに基づく組成物に対する増え続ける要求や挑戦に直面している。産業界、特に半導体分野において、より低い汚染性やパーティクル発生に対する要求に加えて、ますます厳しい環境の新規の最終用途における要求に対応するため、シール材の性能向上が望まれている。
【0006】
この技術の分野において認識されているように、FFKM組成物は、硬化部位含有モノマー(CSM)構造のタイプや硬化の化学的作用により、異なった硬化剤を含んでもよい。また、かかる組成物は、目的とする機械的特性や圧縮永久歪を達成し、または耐薬品性およびプラズマ耐性を向上させるため、各種のフィラーおよびそれらを組み合わせたものを含んでもよい。半導体の封止用途に対しては、プラズマの化学的作用の種類に応じてプラズマ耐性を向上させるため、無機および有機フィラーを用いることができる。代表的なフィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、フルオロプラスチック、硫酸バリウム、および他のポリマー、プラスチックがあげられる。半導体用途のFFKM組成物に用いられるフィラーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはテトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(FEP系共重合体ともいう)またはTFEとパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVEs)との共重合体(PFA系共重合体として知られている)などの溶融加工可能なパーフルオロ共重合体から形成されるフルオロプラスチックフィラー粒子、特にミクロサイズまたはナノサイズの粒子があげられる。
【0007】
特許文献1には、FFKMと半結晶性フルオロプラスチック粒子(PTFEなど)とのブレンド物が記載されている。この粒子はコア−シェル構造を有しており、これら材料をラテックスブレンドすることにより形成される。
【0008】
特許文献2には、FFKMと溶融加工可能な熱可塑性フルオロポリマーを溶融ブレンドして得られる組成物が記載されている。この特許において、約10ミクロンの粒子が、溶融した熱可塑性プラスチックのいくつかから再結晶により改質されると述べられている。特許文献3には、FFKMと平均径が100nmを超えるPTFEなどの半結晶性ポリマーおよび/またはPFA系共重合体などの共重合体とを、フルオロプラスチックフィラーの溶解温度を超えるブレンド温度または硬化温度で溶融ブレンドすることが記載されている。
【0009】
特許文献4および特許文献5には、架橋性フルオロプラスチックが記載されている。
【0010】
FFKM組成物が、PTFEやPFA系共重合体などの共重合体のミクロパーティクルまたはナノパーティクルなどの半結晶性フルオロプラスチックフィラーを含む場合、優れた物性、優れたプラズマ耐性および優れた純度が達成される。半導体用途では、金属酸化物などの無機フィラーを有するFFKMsにおいて、かかる系が金属粒子の発生および汚染が生じないようにするのに役立つ。しかしながら、この技術の分野においては、フルオロポリマーが充填されたFFKMsを形成するためのより簡略化された加工方法の開発が必要である。ラテックスブレンドは大規模な商業ベースの処方においては費用が掛かり、溶融ブレンドは、一般的には350℃までの温度が必要となる。多くの商業製品において、フィラーの量は、一般的にはベースポリマーの約30重量%までに制限される。フルオロポリマーフィラーを使用することにより、ときには、組成物は特に高温(たとえば、>300℃)での比較的高い圧縮永久歪性をもつことができる。かかるフルオロポリマーフィラーを使用することにより、成形性および接着性も制限を受けることになる。
【0011】
原子層蒸着(ALD)などの半導体プロセスにおいて、塩素化フッ素ガス(ClF3)などの腐食性で反応性のガスが、高温(たとえば、約280〜約300℃)でのエッチングに用いられる。かかる用途に使用されるパーフルオロエラストマーシールは、ClF3耐性に加えて耐高温性が要求されるという挑戦に直面している。また、かかるパーフルオロエラストマーは、NF3などの他のプラズマガスに加えてClF3に対する一般的に許容できる強い耐薬品性を示すことができなければならず、ALDを含む各種化学蒸着法において優れた特性を維持しなければならない。
【0012】
デュポンエラストマーが販売するKalrez(登録商標)8575などの製品が、この技術の分野において、ALD用途およびその他の用途に使用されるものとして知られている。これらのALD製品は、硫酸バリウム(BaSO4)および二酸化チタン(TiO2)フィラーを含有するFFKMを含むと考えられている。しかしながら、この技術の分野においては、約300℃の温度における圧縮加重下でのさらなる機械的安定性が必要とされる。
【0013】
ペンシルベニア州、カルプスビルに所在するグリーンツィード社製のChemraz(登録商標)XRZシールは、ALD用途に非常に有用であって、この分野において強プラズマ耐性を有する代表的な製品である。
【0014】
しかしながら、高温特性および耐ClF3に対する改善が絶えず望まれている。
【0015】
特許文献6には、フルオロエラストマー、硬化剤(curative)および平均粒径が200nm未満の硫酸バリウムフィラー有するフルオロエラストマー組成物が開示されている。該組成物は、粒径がより大きな硫酸バリウム粒子を含む同様の組成物に比べて、反応性プラズマに曝されたときに重量の減少が少なく、パーティクルの発生が少ないと記載されている。
【0016】
特許文献7には、ニトリル基を有するパーフルオロエラストマーであって、ニトリル基がパーフルオロエラストマーに硬化部位(cure site)を与えるパーフルオロエラストマー;ビスアミノフェノールおよび硬化温度で分解し、アンモニアを発生する化合物である硬化剤;および1〜25pph(parts per hundred)の疎水性シリカフィラーを含む非黒色系パーフルオロエラストマー組成物が開示されている。硬化した組成物は、親水性シリカを含有する同様の化合物に比べて、驚くべき優れた圧縮永久歪性を有すると記載されている。
【0017】
特許文献8には、パーフルオロエラストマーなどの架橋性エラストマーまたはシリコーン組成物用のフィラーが開示されており、該フィラーとしては、ポリイミド、ポリアミドイミドおよびポリエーテルイミドなどのイミドまたは150℃以上の耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックス、たとえばポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリオキシベンゾエートから調製された有機フィラーがあげられている。
【0018】
特許文献9には、耐熱性架橋剤を用いて、平均一次粒径が0.5μm以下の無機フィラーを含有する架橋性含フッ素エラストマー組成物を架橋して得られた含フッ素エラストマー成形品が開示されている。フィラーの例としては、α型酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムがあげられていて、含フッ素エラストマーは、シアノまたはカルボン酸基を有するパーフルオロエラストマーでよいとされている。
【0019】
特許文献10には、平均粒径が0.5μm以下の酸化アルミニウム粒子を含むフィラー系を有する半導体製造装置に用いるエラストマー成形品および架橋性含フッ素エラストマーが開示されている。該エラストマー成形品は、優れたプラズマ耐性を有し、プラズマ照射後に発生するミクロパーティクルが少ないため、クリーンな成形品、特にシール材を提供する。
【0020】
特許文献11には、平均粒径が700μm以下であって、灰化分析法で測定された不純物金属含有量が300ppm以下または100ppm以下であり、プラズマ環境下でのパーティクル発生量が少ないカーボンブラックフィラーを含む架橋したエラストマーから得られるエラストマー成形品が開示されている。
【0021】
この技術の分野において、上記のような組成物が存在する一方、半導体処理用途のような高性能シール用途における使用に対して増え続ける要求を満たし、ClF3やNF3などの過酷なプラズマ暴露に加えて高温に耐えることができると共に、硬化により優れた機械的特性や圧縮永久歪性を与えることができるように、パーフルオロエラストマー組成物の更なる改善が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第6,710,132号明細書
【特許文献2】米国特許第4,713,418号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0261431号明細書
【特許文献4】米国特許第7,019,083号明細書
【特許文献5】国際公開第2006/120882号
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0107544号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0038165号明細書
【特許文献8】米国特許第6,642,300号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1,464,671号明細書
【特許文献10】米国特許第6,803,402号明細書
【特許文献11】米国特許第6,515,064号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、架橋時間を短くし、優れた機械的特性を有する含フッ素エラストマー組成物であって、しかも約300℃という向上した耐熱性を示すと共に、NF3プラズマなどの過酷な環境下における優れたプラズマ耐性を維持し続けるだけではなく、ClF3などに対する向上した耐性を与える含フッ素エラストマー組成物を提供することを目的とする。従来技術の課題を解決する手法は、本発明およびチタン酸バリウムを含むその独自のフィラー系によって提供される。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、テトラフルオロエチレンと、少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテルとパーフルオロポリマーを架橋させる官能基を有する少なくとも1種の硬化部位含有モノマーとを含む第1の硬化性パーフルオロポリマーおよびチタン酸バリウムを含む含フッ素エラストマー組成物に関する。
【0025】
含フッ素エラストマー組成物は、好ましくは200nm以上の平均粒径、さらに好ましい形態においては約300nm〜約1200nmの平均粒径、より好ましい形態においては約500nm〜約1000nmの平均粒径を有するチタン酸バリウムを含む。チタン酸バリウムは、少なくとも2種の異なる平均粒径の混合物として存在していてもよい。
【0026】
1つの実施形態において、チタン酸バリウムは、含フッ素エラストマー組成物中に、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約1〜約200重量部、さらなる実施形態において、パーフルオロポリマー100重量部に対して約1〜約100重量部、好ましくはパーフルオロポリマーに対して約1〜約50重量部存在する。さらなる実施形態において、チタン酸バリウムは、含フッ素エラストマー組成物中に、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約5〜約100重量部、より好ましくは硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約5〜約50重量部、さらに好ましくは硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約5〜約30重量部、また、さらなる実施形態において、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約10〜約20重量部存在する。
【0027】
1つの実施形態において、少なくとも1種の硬化部位含有モノマーの官能基は、ニトリル、カルボキシルおよびアルコキシカルボニルよりなる群から選ばれる。
さらなる実施形態において、組成物が、少なくとも1種の硬化部位含有モノマーの官能基と反応し得る架橋剤を含んでいてもよく、少なくとも1種の硬化部位含有モノマーの官能基は、ニトリル、カルボキシルおよびアルコキシカルボニルよりなる群から任意に選ばれてもよく、架橋剤は、以下の化合物から選ばれてもよい。
(i)式(II):
【化1】

(式中、R1は、同じかまたは異なり、−NH2、−NHR2、−OHまたは−SHであり、R2は、1価の有機基である)で示される架橋性反応基を少なくとも2個含む化合物、
(ii)式(III):
【化2】

(R3は−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基または単結合手であり、R4は、
【化3】

で示される化合物、
(iii)式(IV):
【化4】

(式中、Rf1は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基)で示される化合物、および
(iv)式(V):
【化5】

(式中、nは1〜10の整数)で示される化合物。
【0028】
本発明の1つの実施形態において、組成物は第1の硬化性パーフルオロポリマーと同じかまたは異なっていてもよい第2の硬化性パーフルオロポリマーを任意に含んでいてもよい。かかる第2の硬化性パーフルオロポリマーは、好ましくはテトラフルオロエチレンと、第2のパーフルオロアルキルビニルエーテル(第1の硬化性パーフルオロポリマーにおける第1のパーフルオロアルキルビニルエーテルと同じかまたは異なっていてもよい)と第2の硬化部位含有モノマー(第1のパーフルオロポリマーにおける第1の硬化部位含有モノマーと同じかまたは異なっていてもよい)とを含む。かかる実施形態において、第1の硬化性パーフルオロポリマーにおける第1のパーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量は、第2の硬化性パーフルオロポリマーにおける第2のパーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量と異なっていてもよく、第1の硬化性パーフルオロポリマーにおける第1のパーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量と第2の硬化性パーフルオロポリマーにおける第2のパーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量の好ましい差は、約5〜約25モル%である。
【0029】
さらなる実施形態において、含フッ素エラストマー組成物は、パーフルオロメチルビニルエーテルであるパーフルオロアルキルビニルエーテルを含有する。
【0030】
さらなる好ましい実施形態において、含フッ素エラストマー組成物は、化学量論比率のチタン酸バリウムおよびBaTiO3の化学構造を有する。
【0031】
他の実施形態において、また、含フッ素エラストマー組成物は、少なくとも1種の硬化部位含有モノマーの官能基と反応し得る架橋剤を含んでいてもよく、官能基は、ニトリル、カルボキシルおよびアルコキシカルボニルよりなる群から選ばれ、組成物中に架橋剤が約0.6〜約0.9重量%存在する。
【0032】
また、本発明は、本明細書中に記載された含フッ素エラストマー組成物から作製される半導体製造装置用シール材に関する。
【0033】
さらに本発明は、(a)(i)テトラフルオロエチレンと、少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテルとパーフルオロポリマーを架橋させる官能基を有する少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーとを含む第1の硬化性パーフルオロポリマーと(ii)第1の硬化剤との硬化反応により形成された硬化したパーフルオロエラストマーおよび(b)チタン酸バリウムを含む硬化したパーフルオロエラストマー組成物に関する。1つの実施形態において、チタン酸バリウムは、前記の粒径を有し、前記の量で存在していてもよい。
【0034】
1つの実施形態において、硬化したパーフルオロエラストマー組成物は、(i)第1の硬化性パーフルオロポリマーと同じかまたは異なっていてもよく、第2の硬化部位含有モノマーを含有する第2の硬化性パーフルオロポリマーと(ii)第1の硬化剤と同じかまたは異なっていてもよい硬化剤との硬化反応により形成された第2の硬化したパーフルオロエラストマーを含み、少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーの硬化部位および/または第2の硬化部位含有モノマーの硬化部位はニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる官能基である。また、第1のパーフルオロエラストマーおよび第2のパーフルオロエラストマーの少なくとも一方がベンゾイミダゾール架橋構造を有することが好ましい。
【0035】
硬化したパーフルオロエラストマー組成物のさらなる実施形態において、チタン酸バリウムは、化学量論的比率を有し、BaTiO3の化学構造を有する。
【0036】
また、本発明は、本明細書に記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を含む成形品にも関する。かかる成形品は、O−リング、シールまたはガスケットであってもよい。該成形品は、金属または金属合金を含む表面に接着されてもよく、該表面が半導体処理チャンバーのシール用扉の表面であってもよい。
【0037】
さらに本発明は、(a)(i)テトラフルオロエチレンと、パーフルオロアルキルビニルエーテルと硬化部位を有する少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーとを含む第1の硬化性パーフルオロポリマー;(ii)少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーの硬化部位を硬化させ得る少なくとも1種の硬化剤;および(iii)チタン酸バリウムを配合して、硬化性パーフルオロエラストマー組成物を調製し、(b)パーフルオロエラストマー組成物中の硬化性パーフルオロポリマーを硬化させて硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法にも関する。1つの実施形態において、チタン酸バリウムは、前記の粒径を有し、前記の量で存在していてもよい。
【0038】
本明細書記載の方法において、チタン酸バリウムは、化学量論比率を有し、BaTiO3の化学構造を有していてもよい。
【0039】
本明細書の方法により形成された硬化したパーフルオロエラストマー組成物は、ベンゾイミダゾール架橋構造を有することが好ましい。
【0040】
該方法はさらに、硬化性パーフルオロエラストマー組成物を硬化させながら硬化性パーフルオロエラストマー組成物を成形品に形成することをも含む。
【0041】
さらに本発明は、シール材を有する処理装置における処理方法の改良にも関し、該処理においては、高温を使用し、および/またはClF3および/またはNF3ガスまたはプラズマを使用する。該改良は、チタン酸バリウムを含有する硬化したパーフルオロエラストマー組成物を含むシール材に関する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本明細書に記載された新規なパーフルオロエラストマー組成物および/またはO−リング、シール、ガスケットなどを含むシール部材などの該組成物から作製される成形品は、要求される耐薬品性およびプラズマ耐性を与え、より詳しくは、リモートNF3プラズマに曝されたときおよびCF3プラズマに曝されたときに、かかる成形品に優れたレベルの高温耐性および向上したプラズマ耐性を与える。本明細書において、硬化性および硬化された組成物により製造された成形品は、高濃度プラズマCVD(HDPCVD)、プラズマ増速CVD(PECVD)、原子層蒸着(ALD)およびプラズマ増速原子層蒸着(PEALD)などの半導体用プラズマおよびガス化学蒸着(CVD)用途に適した特徴を有する。加工性や性能という観点からは、本明細書に記載された硬化性および硬化した組成物は、本明細書の背景技術に記載したような粒子状フィラーとしての半結晶性のフルオロプラスチックを含む従来技術の各種充填FFKM組成物と同等またはそれ以上の性能を発揮する成形品を与え、従来のフィラーを用いたパーフルオロエラストマー組成物やフィラー系を用いずに異なるPAVE含有量を有する2種のパーフルオロエラストマーを配合したパーフルオロエラストマー組成物に比べてClF3プラズマに対するさらなる耐薬品性を与える。
【0043】
硬化したパーフルオロエラストマー組成物は、1種以上の硬化性パーフルオロポリマーを含む硬化性組成物から製造されてもよい。1つの実施形態において、少なくとも2種のかかるパーフルオロポリマーがあげられる。1種を超えるパーフルオロポリマーを用いる場合、ある実施形態では、少なくとも2種のパーフルオロポリマー中のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)モノマーの含有量を変えることによってある恩恵を被るかもしれない。PAVEの含有量が異なるいずれか2種のかかるパーフルオロポリマーにおいて、モル%で測定された含有量の差は、かかる実施形態においては、好ましくは約5%〜約25%である。
【0044】
かかる組成物において、本明細書の好ましいフィラー系はチタン酸バリウムを含む。チタン酸バリウムは、好ましくはBaTiO3という化学量論的形態で存在するが、分子中におけるチタンに対するバリウムの化学量論比率(1:1)、酸素に対するバリウムの化学量論比率(1:3)および/または酸素に対するチタンの化学量論比率(1:3)が一様ではない化学量論的形態の改質または変形は、化学量論比率が変化するかかる化合物が、本明細書中に記載されたような本発明の有益な効果の少なくともいくつかを与えることができると仮定して、本発明の開示に基づいて本発明の範囲に含まれてもよいと理解すべきであろう。
【0045】
また、本明細書中のある実施形態では、組成物の目的は、通常かかる組成物に用いられるものよりも一般的に低い含有量のPAVEを有する組成物中に特定のフィラーおよびパーフルオロエラストマーを用いるときに、パーフルオロエラストマーのより短い架橋速度を達成し、維持することにある。
【0046】
本願中で用いられているように、「パーフルオロエラストマー」または「硬化したパーフルオロエラストマー」は、特に注記しない限り、本明細書中に記載された硬化性パーフルオロエラストマー組成物中の硬化性パーフルオロポリマーなどの硬化性パーフルオロポリマーを硬化して形成される、いかなる硬化したエラストマー材料または組成物をも含む。硬化したパーフルオロエラストマーを形成するために用いることができる「硬化性パーフルオロポリマー」(この技術の分野において、「パーフルオロエラストマー」または、より適切には「パーフルオロエラストマーゴム」という場合もある)は、実質的に完全にフッ素化されたポリマー、好ましくはポリマー骨格が完全にパーフルオロ化されたポリマーである。架橋性官能基の一部として水素を用いているため、いずれかのパーフルオロエラストマーのその架橋構造中に残存水素が存在するということが、明細書中の記載から理解されるであろう。パーフルオロエラストマーなどの硬化した材料は、一般的に架橋したポリマー構造を有する。
【0047】
硬化により硬化したパーフルオロエラストマーを形成するためのパーフルオロエラストマー組成物に用いられる硬化性パーフルオロポリマーは、1種以上のパーフルオロモノマーを重合することによって製造され、それらのモノマーのうちの1種は、好ましくは硬化させるための官能基を有するパーフルオロ硬化部位含有モノマーであり、該官能基はパーフルオロ化されなくてもよい反応性基を含む。1種以上のパーフルオロポリマーおよび好ましくは少なくとも1種の硬化剤は、パーフルオロエラストマー組成物(1種以上の硬化性パーフルオロポリマー化合物を含むブレンド組成物)に配合され、該組成物は次に硬化されて、本明細書中に記載された架橋され、硬化したパーフルオロエラストマー組成物が形成される。
【0048】
本明細書において用いられているように、「パーフルオロエラストマー組成物」は、1種またはそれ以上の、好ましくは1種を超える硬化性パーフルオロポリマーを含むポリマー組成物であって、硬化性パーフルオロポリマーのそれぞれが、硬化させるための少なくとも1つの官能基を有する少なくとも1種のパーフルオロモノマー、すなわち少なくとも1種の硬化部位含有モノマーを含む2種以上のパーフルオロモノマーを重合することにより調製される。かかる材料は、アメリカン スタンダーダイズド テスティング メソッド(ASTM)の標準化されたゴムの定義に準じ、また本明細書に記載されているように、一般的にはFFKMsをいう。
【0049】
本明細書の中で用いられているように、「圧縮永久歪」とは、変形させる圧縮荷重が除かれた後も変形されたままで、元の形状に戻らないというエラストマー材料の性質を言う。圧縮永久歪値は、材料が回復できない変形のパーセントで表される。たとえば、圧縮永久歪値が0%とは、変形させる圧縮荷重が除かれた後に完全に元の形状に戻ることを示す。逆に、圧縮永久歪値が100%とは、材料が、加えられた圧縮荷重に対してまったく回復しないということを示す。圧縮永久歪値が30%とは、変形の70%が回復したことを意味する。高い圧縮永久歪値は、一般的に封止の漏れの可能性があることを示し、したがって、30%以下の圧縮永久歪値が、封止技術において好ましい。
【0050】
本明細書に記載されているように、本発明は、好ましい硬化性パーフルオロエラストマー組成物、硬化したパーフルオロエラストマー組成物およびそれから形成された成形品に加えてかかる組成物を製造する方法および処理方法に関する改良を含み、かかる処理には高温および/またはNF3やClF3などの過酷な化学ガスやプラズマが使用される。
【0051】
かかるパーフルオロエラストマー組成物は、好ましくは1種以上のパーフルオロ共重合体を含む。2種以上の共重合体を使用する場合、これらのパーフルオロ共重合体のうちの少なくとも1つが、組成物中において他のポリマーより高いテトラフルオロエチレン(TFE)含有量を有するものである。他の好適な共単量体としては、エチレン性不飽和フルオロモノマーが含むことができる。かかるポリマーはそれぞれ、また、直鎖状または分岐鎖状であってもよいアルキル基またはアルコキシ基を含み、エーテル結合を含んでいてもよい1種以上のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVEs)を含む。本明細書において用いられる好ましいPAVEとしては、たとえばパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメトキシビニルエーテルおよびその他の同様の化合物があげられ、特に好ましいPAVEは、PMVE、PEVEおよびPPVEであり、最も好ましくは、本明細書における硬化性組成物を硬化することによって得られる成形品に優れた機械的強度を与えるPMVEである。上記のPAVEは、硬化性パーフルオロポリマーおよび最終の硬化性組成物に単独でまたは組み合わせて用いてもよい。
【0052】
好ましいパーフルオロポリマーは、TFE、少なくとも1つのPAVEおよび硬化性ポリマーを架橋させる官能基を有する少なくとも1種のパーフルオロ硬化部位含有モノマーの共重合体であって、硬化部位含有モノマーの官能基が硬化剤と反応して硬化したエラストマー構造中に架橋を形成する。硬化部位含有モノマーとしては、本明細書中に記載された好ましい硬化部位を有する各種のモノマーであってもよい。好ましい硬化部位としては、窒素含有基、カルボキシル基またはアルキルカルボニル基が含まれるが、特に追加の硬化性パーフルオロポリマーを組成物に配合する場合、この技術の分野において公知のシアノ基含有硬化部位などの他の硬化部位に加えて、ヨウ素、臭素およびその他のハロゲン化硬化部位を用いてもよい。したがって、本明細書中には各種の好ましい硬化剤(本明細書において架橋剤、硬化剤ともいう)が記載されているが、この技術の分野において公知の他の硬化部位を使用する場合、かかる他の硬化部位を硬化させ得るその他の硬化剤をそれに応じて用いてもよい。たとえば、−CH2Iや−CH2Brなどのハロゲン化官能性硬化部位基および他の公知のハロゲン化硬化部位官能基を有する硬化部位含有モノマーを含むパーフルオロポリマーを用いることは、本発明の範囲内であり、その場合有機過酸化物系硬化剤および共硬化剤などのかかる基に好適な硬化剤を使用することができる。
【0053】
非限定的な硬化部位含有モノマーの例としては以下に示す構造(A)を有するものであり、これらのうちほとんどのものは、それぞれ異なるPAVE系の構造および反応性部位を有する。
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X1 (A)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数、X1はニトリルまたはシアノなどの窒素含有基、カルボキシル基および/またはアルコキシカルボニル基)
本明細書において、窒素含有基などの官能基は架橋のための部位である。式(A)の化合物は単独で用いてもよく、または任意の各種のものを組み合わせて用いてもよい。架橋という観点からは、架橋性官能基は窒素含有基、好ましくはニトリル基である。しかしながら、他の基を用いてもよい。
【0054】
式(A)の硬化部位含有モノマーの具体例としては、式(1)〜(17):
CY2=CY(CF2n−X2 (1)
(式中、YはHまたはF、nは1〜約8の整数である)
CF2=CFCF2f2−X2 (2)
(式中、Rf2は(−CF2n−、−(OCF2n−であり、nは0〜約5の整数である)
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2m
(OCH2CF2CF2nOCH2CF2−X2 (3)
(式中、mは0〜約5の整数、nは0〜約5の整数である)
CF2=CFCF2(OCH2CF2CF2m
(OCF(CF3)CF2nOCF(CF2)−X2 (4)
(式中、mは0〜約5の整数、nは0〜約5の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))mO(CF2n−X2 (5)
(式中、mは0〜約5の整数、nは1〜約8の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m−X2 (6)
(式中、mは1〜約5の整数)
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2nCF(−X2)CF3 (7)
(式中、nは1〜約4の整数)
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)−X2 (8)
(式中、nは2〜約5の整数)
CF2=CFO(CF2n−(C64)−X2 (9)
(式中、nは1〜約6の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))nOCF2CF(CF3)−X2 (10)
(式中、nは1〜約2の整数)
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)−X2 (11)
(式中、nは0〜約5の整数)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X2 (12)
(式中、mは0〜約4の整数、nは1〜約3の整数である)
CH2=CFCF2OCF(CF3)OCF(CF3)−X2 (13)
CH2=CFCF2OCH2CF2−X2 (14)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)mCF2CF(CF3)−X2 (15)
(式中、mは0以上の整数である)
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2n−X2 (16)
(式中、nは1以上の整数)
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2−X2 (17)
(式中、X2は、ニトリル(−CN)、カルボキシル(−COOH)またはアルコキシカルボニル基(−COOR5、R5はフルオロ化またはパーフルオロ化されていてもよい炭素数1〜約10のアルキル基)などのモノマー反応性部位のサブユニットであってよい)で表されるモノマーなどがあげられる。ある実施形態においては、パーフルオロポリマーを硬化して得られるパーフルオロエラストマーの耐熱性が優れ、また、パーフルオロエラストマーを重合反応により合成する際に、連鎖移動による分子量低下を抑えるために、水素原子を含まないパーフルオロ化合物を用いることが好ましい。また、TFEとの重合反応性に優れる点からCF2=CFO−構造を有する化合物が好ましい。
【0055】
好適な硬化部位含有モノマーは、架橋反応性が良好である点で、ニトリルまたはシアノ硬化部位などの窒素含有硬化部位を有するものを含む。しかしながら、(上記したものに加えて多数の異なる骨格を有し、)カルボキシル、COOHを有する硬化部位およびこの技術の分野において公知のまたは開発される他の同様の硬化部位を用いてもよい。硬化部位含有モノマーは、単独または組み合わせて用いてもよい。
【0056】
前記のような硬化部位含有モノマーを用いたパーフルオロポリマーおよび、かかるパーフルオロポリマーから形成されるエラストマーの具体例としては、国際公開00/29479A1号パンフレットに記載されたものがあげられ、かかるパーフルオロエラストマー、その含有量および製造方法に関連する部分が、本明細書に組み入れられる。また、特開平09−512569A号公報および特開平11−092529A号公報および米国特許出願公開第2008−0287627A1号明細書も参照される。
【0057】
本発明の組成物に用いるパーフルオロポリマーは、重合により含フッ素エラストマーを製造する公知のまたは開発される重合技術、たとえば、乳化重合、ラテックス重合、鎖開始重合(chain initiated polymerization)、バッチ重合などを用いて合成することができる。好ましくは、重合は、反応性硬化部位がポリマー骨格の片末端または両末端に存在するように、および/または主たるポリマー骨格にぶら下がるように行われる。
【0058】
ポリマーの製造方法の1つとして、この技術の分野において含フッ素エラストマーの重合に用いられる公知の開始剤を用いるラジカル重合をあげることができる(有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物)。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましくは過硫酸の塩、酸化されたカーボネートおよびエステル、ならびに過硫酸アンモニウムがあげられ、最も好ましくは過硫酸アンモニウム(APS)があげられる。これらの開始剤は、単独で使用してもよく、またサルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0059】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中に生ずる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が好ましい。乳化剤の使用量は、一般に添加された水の約0.05〜2重量%であり、0.2〜1.5重量%が好ましい。重合装置付近にはスパークなどの着火源を避けるための特別な対策を採用することに留意すべきである。G.H.Kalb、アドヴァンスト ケミストリー シリーズ(Advanced Chemistry Series.),129,12(1973)参照。
【0060】
重合圧力は、変化させることができる。一般には、0.5〜7MPaの範囲とし得る。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなる。したがって、生産性の向上が望まれる場合、0.7MPa以上であることが好ましい。
【0061】
重合方法としては、この技術の分野において公知の標準的なものを用いることができる。本発明の硬化性パーフルオロポリマーにニトリルまたはシアノなどの窒素含有基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基を用いる場合、かかる基を有する硬化部位を有する追加モノマーを共重合することによってかかる基をポリマーに導入することができる。硬化部位含有モノマーは、含フッ素エラストマーを製造するときに添加して共重合すればよい。かかる基をポリマーに導入するその他の方法として、重合生成物を酸処理することにより、重合生成物に存在しているカルボン酸の金属塩やアンモニウム塩などの基をカルボキシル基に変換する方法もあげることができる。酸処理法としては、たとえば塩酸、硫酸、硝酸、発煙硝酸などにより洗浄するか、これらの酸で重合反応後の混合物の系をpH3以下にする方法が適当である。カルボキシル基を導入するその他の方法としては、ヨウ素または臭素を有する架橋性ポリマーを発煙硝酸により酸化して導入する方法があげられる。
【0062】
未硬化パーフルオロポリマーは市販されており、たとえばDyneon製のパーフルオロポリマー、日本国、大阪府のダイキン工業(株)製Daiel−Perfluor(登録商標)および同様のポリマーがあげられる。その他の好適な材料としては、Solvay Solexis(イタリア国)、旭硝子(株)(日本国)およびW.L.Gore製のものがあげられる。
【0063】
本発明の各種のパーフルオロエラストマー組成物およびエラストマー含有組成物に用いる硬化剤(架橋剤ということもある)は、本明細書中に記載の各種の硬化部位と共に用いられ、硬化部位含有モノマーの官能基または組成物中の各種の未硬化パーフルオロポリマーの硬化部位を硬化(架橋)し得るものであるかまたはそれらと硬化反応を行うことができるものであって、架橋を形成する。好ましい架橋または硬化剤は、オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤、トリアジン架橋剤、アミドキシム系架橋剤、およびアミドラゾン系架橋剤である。これらの中でも機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐寒性に優れ、特に耐熱性と耐寒性にバランスよく優れた架橋物を与える点から、イミダゾール架橋剤が好ましい。
【0064】
窒素含有硬化部位に対しては、ビスアミノフェノールとその塩を含むビスフェニル系硬化剤とその誘導体、テトラフェニルスズなどの硬化剤を用いてもよい。好適な硬化剤の具体例としては、米国特許第7,521,510B2号明細書、米国特許第7,247,749B2号明細書および米国特許第7,514,506B2号明細書に記載されているものなどがあげられ、それらがシアノ基含有パーフルオロポリマーに対する硬化剤として本明細書の関連部分に組み入れられる。また、パーフルオロポリマーは、放射線硬化技術を用いて硬化してもよい。
【0065】
最も好ましいものとしては、以下の式(I)および(II)で示される架橋性基を少なくとも2個有する芳香族アミンである硬化剤で硬化されるシアノ含有硬化部位またはそれらを組み合わせたものであり、硬化によりベンゾイミダゾール架橋構造を形成する。これらの硬化剤は、この技術の分野で公知であり、米国特許第6,878,778号明細書および米国特許第6,855,774号明細書に関連部分および具体例と共に記載されており、本明細書にもそのまま組みいれられる。
【0066】
【化6】

式中、式(II)の基において、R1は同じかまたは異なり、NH2、NHR2、OH、SH、1価の有機基またはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基およびアラルキルオキシ基などの炭素数約1〜約10のその他の有機基であり、ここで非芳香族基は分岐鎖状または直鎖状および置換または非置換のものであってもよい、R2は、−NH2、−OH、−SH、もしくは1価の有機基もしくは脂肪族炭化水素基、フェニル基およびベンジル基などのその他の有機基、もしくは炭素数約1〜約10のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基およびアラルキルオキシ基などである。ここで非芳香族基は分岐鎖状または直鎖状および置換または非置換のものであってもよい。好ましい1価の有機基またはアルキル基およびアルコキシ基(またはそれらのパーフルオロ系)などのその他の有機基の炭素数は1〜6であり、好ましい芳香族基はフェニル基およびベンジル基である。それらの例としては、−CF3、−C25、−CH2F、−CH2CF3、−CH225、フェニル基、ベンジル基;−C65、−CH26CF5などのフッ素原子で1〜約5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基、これらの基は、さらに−CF3、または他の低級パーフルオロアルキル基などで置換されてもよい;−C65-n(CF3n、−CH265-n(CF3n(nは1〜約5の整数)などのCF3で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基などがあげられる。水素原子は、さらにフェニル基またはベンジル基で置換されてもよい。しかしながら、耐熱性が特に優れており、架橋反応性が良好であり、さらに合成が比較的容易である点から、フェニル基、CH3が好ましい。
【0067】
有機アミンに導入された式(I)または(II)を有する構造は、少なくとも2つの架橋反応性基を与えるように少なくとも2つの前記式(I)または(II)の基を含むものである。
【0068】
また、本明細書において有用な硬化剤としては、以下に示す式(III)、(IV)および(V)の硬化剤があげられる。
【0069】
【化7】

式中、R3は、好ましくはSO、O、CO、有機基、またはアルキレン基、たとえば炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはアラルコキシ基など、もしくはそれらの基をパーフルオロ化した炭素数約1〜約10で、分岐鎖状もしくは直鎖状、飽和もしくは不飽和、および分岐鎖状もしくは直鎖状のもの(非芳香族基について)、または単結合。R4は、好ましくは以下に示す反応性基:
【化8】

【化9】

(式中、Rf1は炭素数約1〜約10のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルコキシ基であり、直鎖状もしくは分岐鎖状および/または飽和もしくは不飽和および/または置換もしくは非置換されていてもよい)、および
【化10】

(式中、nは約1〜約10の整数)。
【0070】
耐熱性に関しては、オキサゾール系、イミダゾール系、チアゾール系およびトリアジン系架橋剤が好ましく、以下の式の化合物が含まれ、式(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)について、以下に述べる。具体的には、式(II)において、式中のR1は、同じかまたは異なり、−NH2、−NHR2、−OHまたは−SHであり、R2は、1価の有機基であり、好ましくは水素ではない;式(III)において、式中のR3は、−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜約6のアルキレン基、炭素数1〜約10のパーフルオロアルキレン基または単結合であり、R4は以下に述べるとおり;式(IV)において、式中のRf1は炭素数1〜約10のパーフルオロアルキレン基、および式(V)であって、nは1〜約10の整数のものがあげられる。かかる化合物のうち、架橋後の芳香族環の安定化により耐熱性が向上するという点から本明細書に記載の式(II)の化合物が好ましい。式(II)中のR1については、N−R2結合(R2は1価の有機基であり、水素ではない)が、N−H結合よりも耐酸化性が高いため−NHR2をR1として用いることが好ましい。
【0071】
式(II)で示される基を少なくとも2個有する化合物が好ましく、架橋性反応基を2〜3個有する、2個有するものがより好ましい。
【0072】
上記の好ましい式に基づく典型的な硬化剤は、次の構造式(VI)、(VII)また(VIII)に示すように少なくとも2個の官能基を含む。
【0073】
【化11】

式中、R5は、アルキル基、アルコキシ基、芳香族基、SO、O、COまたは炭素原子がパーフルオロ化された同様の基などの飽和もしくは不飽和の、分岐鎖状もしくは直鎖状の、置換もしくは非置換の基であり、炭素数は好ましくは約1〜約10;
【化12】

式中、R1は前記のとおり、R6は、O、SO2、CO、またはアルキル基、アルコキシ基、芳香族基、アリールオキシ基、アラルキル基およびアラルキルオキシ基などの炭素数が約1〜約10のパーフルオロ化された有機基、ここで、非芳香族基は、分岐鎖状もしくは直鎖状の、置換もしくは非置換のものであってもよい、もしくは単結合またはアルキレン結合であってよい。
【0074】
合成が容易である点から、式(II)で示される2個の架橋反応性基を有するものが好ましく、つぎの式(VIII)で示される化合物が、好ましい架橋剤である。
【0075】
【化13】

式中、R1は前記と同じ、R6は、−SO2、−O−、−CO−、炭素数1〜約6のアルキレン基、炭素数1〜約10のパーフルオロアルキレン基、単結合手、または式(IX)で示される基:
【化14】

であり、このものは合成が容易である。炭素数1〜約6のアルキレン基の好ましい例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレンなどがあげられる。炭素数1〜約10のパーフルオロアルキレン基の例としては、
【化15】

などがあげられる。これらの化合物は、ビスアミノフェニル化合物の例示として知られているものである。参考文献として、たとえば特公平2−591177号公報、特開平8−120146号公報などに記載の化合物があげられる。この構造の好ましい化合物としては、式(X):
【化16】

(式中、R7は、同じかまたは異なり、いずれも水素、炭素数1〜約10のアルキル基;炭素数1〜10の部分フルオロ化もしくはパーフルオロ化アルキル基;フェニル基;ベンジル基;フッ素またはCF3などの低級アルキルもしくはパーフルオロアルキル基で1〜約5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基である)で示される化合物である。
【0076】
硬化剤の具体例としては、限定的ではないが、たとえば、2,2−ビス(2,4−ジアミノフェニルヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−パーフルオロフェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4(N−ベンジルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどがあげられる。これらの中でも、耐熱性が優れている点から、2,2−ビス[3−アミノ−4(N−メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、が好ましく、耐熱性が、特に優れる点から、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノフェニル)]ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0077】
その他の好適な硬化剤としては、オキサゾール、イミダゾール、チアゾール、トリアジン、アミドキシムおよびアミドラゾン系架橋剤があげられ、特に、この技術の分野において公知のまたは開発されるビスアミノフェノール類、ビスアミジン類、ビスアミドキシム類、ビスアミドラゾン類、モノアミジン類、モノアミドキシム類およびモノアミドラゾン類、たとえば米国特許出願公開第2004/0214956A1号明細書にあげられたものが、硬化剤、共硬化剤および促進剤を含めて参照により本明細書の関連部分に組み入れられる。イミダゾール類は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性および低温性能を与えると共に架橋特性と低温、高温特性とのバランスがよく有用である。ビスアミドキシム、ビスアミドラゾン、ビスアミノフェノール、ビスアミノチオフェノールまたはビスジアミノフェニル系硬化剤は、パーフルオロポリマー中のニトリル基、シアノ基、カルボキシル基および/またはアルコキシカルボニル基と反応することができ、本明細書中のある実施形態において好ましいパーフルオロエラストマーを形成し、本発明の組成物から得られる硬化物中には、架橋構造としてオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアジン環を有する。
【0078】
本明細書におけるひとつの実施形態においては、耐熱性を向上させ、芳香族環系を安定化させるために、式(I)または(II)におけるような架橋反応性基と共に少なくとも2種の化学基を含む化合物を用いることができる。式(I)または(II)におけるような基を2〜3個有する場合、かかる基が少ないと適切な架橋が得られないという点から、基(I)または(II)のおのおのを少なくとも2個有することが好ましい。
【0079】
さらなるひとつの実施形態として、硬化性パーフルオロエラストマー組成物は、異なるPAVE含有量を有する少なくとも2種の硬化性パーフルオロポリマー、すなわち、第1のパーフルオロポリマーおよび第2のパーフルオロポリマーを含む。しかしながら、本明細書で述べられているように、本発明は、1種の硬化性パーフルオロポリマーのみを用いて実施してもよく、および/または追加のパーフルオロポリマーとポリマー鎖に異なる量のPAVEモノマーを有する第1および第2のパーフルオロポリマーと組み合わせて使用してもよいと理解される。かかる2種以上のポリマーを用いるとした場合、少なくとも第1および第2のパーフルオロポリマー(および硬化された組成物における第1および第2のパーフルオロエラストマー)が、ポリマー鎖に異なる量のPAVEモノマーを有することが好ましい。異なるPAVE含有量を使用する場合、高PAVE含有量の硬化性パーフルオロポリマーおよび低PAVE含有量の硬化性パーフルオロポリマーを単独で使用するか、または2種のPAVEを使用する場合として、1種以上の追加の硬化性パーフルオロポリマーと組み合わせて使用することが好ましく、その場合、両方が低PAVE含有量のポリマーであって、有益な場合もある一方で、架橋時間が長くなることがある。しかしながら、PAVE含有量の差が本明細書中に記載の最適範囲により近づくほど、架橋時間はより短くなる。かかる好ましいPAVE含有量の差は、また、含フッ素エラストマー組成物から形成される成形品などの最終製品の硬度の調整を容易にすることに役立つ。
【0080】
1種以上のパーフルオロポリマーを用いる場合、少なくとも1種のまたはパーフルオロポリマーのブレンド中の第1の硬化性パーフルオロポリマーは、好ましくは、テトラフルオロエチレンを約0〜約58.5モル%、好ましくは約49.8〜約63.1モル%、第1のパーフルオロアルキルビニルエーテル(単独で用いることができるか、または他のパーフルオロアルキルビニルエーテルと組み合わせて用いることができる少なくとも1つのパーフルオロアルキルビニルエーテルなど)および硬化部位を有する少なくとも1つの第1の硬化部位含有モノマーを含むことが好ましい。パーフルオロアルキルビニルエーテルは、第1の硬化性パーフルオロポリマー中に、好ましくは約31.5〜約99.99、また、好ましくはパーフルオロポリマーに対して約34〜約49.75モル%、またはポリマーに対して約38〜約50モル%の量で含まれる。ひとつの実施形態として、含フッ素エラストマー組成物において、組成物の架橋速度を向上させるため、第1のパーフルオロポリマーが高PAVE含有量の硬化性パーフルオロポリマーであり、PAVE含有量が好ましくは約38モル%以上、より好ましくは約40モル%以上である。この形態において、ポリマーを合成するときの重合速度を上げるためには、PAVE含有量は好ましくは約50モル%以下、より好ましくは約45モル%以下、最も好ましくは約42モル%以下である。また、この分野において公知の同じかまたは異なる量のTFE/PAVEを有する他のパーフルオロポリマーを用いてもよい。
【0081】
最も好ましくは、第1の硬化性パーフルオロポリマーにおいて、ポリマー鎖中のテトラフルオロエチレンと第1のパーフルオロアルキルビニルエーテルとのモル%比が、約0:100〜約65:35、より好ましくは約50:50〜約65:35である。
【0082】
硬化部位を有する少なくとも1つの第1の硬化部位含有モノマーは、好ましくは単一の硬化部位含有モノマーであるが、同じ官能性活性硬化基を有する硬化部位含有モノマー同士の組み合わせ、または異なる硬化部位基を有する異なる硬化部位含有モノマー同士の組み合わせ(2元硬化型(dual cure)組成物)を本明細書において用いてもよい。
【0083】
異なるPAVE含有量を有するパーフルオロポリマーのブレンドを用いる場合、かかる実施形態においては、第2の硬化性パーフルオロポリマーは、好ましくは、第1の硬化性パーフルオロポリマーよりも高い含有量のテトラフルオロエチレンを含み、第2の硬化性ポリマー中の含有量が、より好ましくは約65〜約85.5モル%、最も好ましくは64.7〜約82.5モル%である。第2の硬化性パーフルオロポリマー中の第2のパーフルオロアルキルビニルエーテルは、低PAVE含有量のパーフルオロポリマーであり、単独で、または組み合わせて使用される1種以上のパーフルオロアルキルビニルエーテルであってもよく、第1の硬化性パーフルオロポリマー中の第1のパーフルオロアルキルビニルエーテルと同じであっても異なっていてもよい。第2のパーフルオロアルキルビニルエーテルは、第2のパーフルオロポリマー中に、好ましくは約4.5〜約35モル%、より好ましくは約14.6〜約34.83モル%含まれる。
【0084】
含フッ素エラストマー組成物のひとつの実施形態として、低ガラス転移温度および良好な低温特性に寄与するという点で、第2の硬化性PAVEは、ポリマー中に好ましくは少なくとも約18モル%、より好ましくは少なくとも約21モル%、最も好ましくは少なくとも約25モル%含まれる。この形態において、含フッ素エラストマー組成物を硬化して形成される架橋物の硬度を上げるのに寄与する点で、またかかる架橋物のシール性を向上させるために、PAVE含有量は、好ましくは約35モル%以下、より好ましくは約32モル%以下、最も好ましくは約30モル%以下である。
【0085】
最も好ましくは、第2の硬化性パーフルオロポリマーにおいて、ポリマー鎖中のテトラフルオロエチレンと第2のパーフルオロアルキルビニルエーテルとのモル%比は、約65:35〜約95:5、より好ましくは約65:35〜約85:15である。
【0086】
異なるPAVE含有量を有する硬化性パーフルオロポリマーのブレンドを用いる場合、第1の硬化性パーフルオロポリマー中のPAVE含有量と第2の硬化性パーフルオロポリマー中のPAVE含有量との差は、架橋硬度の調整という点から、少なくとも5モル%であることが最も好ましい。第1の硬化性パーフルオロポリマーと第2の硬化性パーフルオロポリマーとのPAVE含有量の差は、少なくとも約8モル%が好ましく、より好ましくは少なくとも約10モル%である。さらに、PAVE含有量の差は、ガラス転移点が増加することを避けるため、好ましくは約25モル%未満、より好ましくは約15モル%未満、最も好ましくは約10モル%未満である。
【0087】
また、第2の硬化性パーフルオロポリマーは、硬化部位を有する少なくとも1つの第2の硬化部位含有モノマーを含むことが好ましい。第2の硬化部位含有モノマーは、第1の硬化性パーフルオロポリマー中の少なくとも1つの第1の硬化部位含有モノマーと同じかまたは異なっていてもよいが、第1の硬化部位含有モノマーおよび第2の硬化部位含有モノマーは、いずれも同じ種類のものであるか(同じものか、または同じ硬化部位官能基を有することを意味する)、または硬化が容易である点および相溶性の点で同じ硬化剤により硬化可能であることが好ましい。ただし、好ましくは、適切な硬化が適切な硬化剤を用いることによって得られるという前提で、第1の硬化性ポリマーと第2の硬化性ポリマーに2種の硬化材料、または異なる硬化剤を本発明の範囲内で使用してもよいということを、本発明の開示に基づいて、当業者に理解される必要がある。
【0088】
本明細書に記載の硬化性パーフルオロポリマーにおいて、硬化部位含有モノマーが、ポリマー鎖に対して約0.01〜約10モル%、より好ましくは約0.05〜約3モル%含まれることが好ましい。各種の硬化部位官能基を本発明の範囲内で用いてもよいが、少なくとも1つの硬化部位含有モノマーの硬化部位がニトリル、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基などの窒素含有基である官能基であることが好ましい。モノマーは、第1および/または第2の硬化部位含有モノマーが窒素含有基などの官能基を第1または第2の硬化性パーフルオロポリマーおのおのの1つまたは2つの末端に与えるような構成であってもよい。代わりに、または硬化部位基の末端に加えて、かかる窒素を有する硬化部位基が第1および/または第2の硬化性パーフルオロポリマーのポリマー骨格にぶら下がるような位置にあってもよい。しかしながら、本明細書に記載されているように、この技術の分野において公知の、または開発される各種の硬化部位官能基を用いることも本発明の範囲に含まれる。
【0089】
含フッ素エラストマー組成物のひとつの好ましい実施形態として、架橋性を向上させるという点から、少なくとも1つの硬化部位含有モノマーの含有量は、少なくとも約0.1モル%、より好ましくは少なくとも約0.2モル%、最も好ましくは少なくとも約0.3モル%である。さらに、かかる形態において、費用の点で硬化部位含有モノマーの過剰な使用を避けるという点から、少なくとも1つの硬化部位含有モノマーの含有量は、約2.0モル%以下、より好ましくは約1.0モル%以下、最も好ましくは約0.5モル%以下である。
【0090】
本明細書に記載の硬化性パーフルオロポリマー組成物は、好ましくは2種の硬化性パーフルオロポリマーを組み合わせたものであるが、本発明は、また、その範囲において本発明の意図から逸脱することなく、さらなる上記の硬化性パーフルオロポリマーを含んでもよい。
【0091】
上述した硬化性パーフルオロポリマーに加えて、硬化性パーフルオロエラストマー組成物は、好ましくは少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーおよび少なくとも1種の第2の硬化部位含有モノマーを硬化させることができる少なくとも1種の硬化剤を含む。好ましくは、官能基含有硬化部位を硬化性パーフルオロポリマーに用いる場合、ベンゾイミダゾール架橋構造などの架橋構造を形成するために、少なくとも1種の硬化剤を選び、硬化部位含有モノマーの官能基と反応させる。好適な硬化剤としては、本明細書中にあげられたものであり、その量は硬化性パーフルオロエラストマー組成物中に、硬化性パーフルオロポリマーの合計量に対して、硬化性組成物100部につき約0.3〜約10重量部であり、より好ましくは硬化性パーフルオロエラストマー組成物100部につき約0.6〜約0.9重量部である。この好ましい範囲は、良好な強度特性を与え、高温での圧縮力下でクラックまたは構造的な不良を避けるために最も有効である。また、好ましい圧縮永久歪性も与える。
【0092】
本明細書中の含フッ素エラストマーのひとつの実施形態として、硬化剤は、上記の好ましいものとしてあげられたものであって、組成物中のエラストマー(この場合は未硬化ポリマー)100重量部に対して少なくとも約0.3重量部、より好ましくは少なくとも約0.5重量部または少なくとも約0.7重量部、最も好ましくは少なくとも約0.6重量部の量で存在し、多いほど架橋性が向上する。硬化剤または架橋剤は、組成物中のエラストマー100重量部に対して好ましくは10.0重量部以下、より好ましくは2.0重量部以下、最も好ましくは0.9重量部以下である。
【0093】
ニトリル基などを有する含フッ素硬化性パーフルオロポリマーに用いられる本明細書に記載の好ましい硬化剤に加えて、本明細書に記載の組成物に添加されるパーフルオロポリマーに対して、この技術の分野において公知の硬化剤を用いてニトリル基を硬化させることも本発明の範囲に含まれる。この技術の分野において公知の他の硬化剤の例としては、テトラフェニルスズ、トリフェニルスズなどの有機スズ化合物があげられる(これらの化合物は好ましいトリアジン環を形成する)。有機スズ化合物を用いる場合、組成物中の硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して、約0.05〜約10重量部であることが好ましく、約1〜約5重量部であることがより好ましい。有機スズ化合物が、約0.05部より少ないと、ポリマーが硬化により充分架橋されない傾向があり、約10部を超えると、架橋物の物性を悪化させる傾向がある。
【0094】
上記の硬化性パーフルオロエラストマー組成物のほかに、少なくとも第1の硬化したパーフルオロエラストマーおよび第2の硬化したパーフルオロエラストマーを含む硬化したパーフルオロエラストマー組成物があげられる。硬化されたエラストマーは、上記の硬化性パーフルオロポリマーの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つから形成される。硬化後は硬化性パーフルオロエラストマー組成物中の硬化剤は、実質的に反応し、架橋し硬化したパーフルオロエラストマー組成物中に導入される。
【0095】
組成物中の第1のパーフルオロエラストマーと第2のパーフルオロエラストマーの重量%比が約1:99〜約99:1、より好ましくは約20:80〜約80:20、最も好ましくは約75:25〜約45:55となるように、これらの硬化性材料を異なる量で用いることは、本発明の範囲に含まれる。
【0096】
本明細書中に記載の硬化性パーフルオロエラストマー組成物から形成されるかかる硬化したパーフルオロエラストマー組成物は、硬化され、成形されて成形品としてもよい。一般的には、成形品は、O−リング、シール、ガスケット、挿入物などのシール部材に成形されるが、本明細書において公知のまたは開発されるその他の成形品やその他の用途も含まれることを意図するものである。
【0097】
成形品は、表面に接着されて、たとえば、接着シールを形成してもよい。かかる接着シールは、たとえば半導体処理において使用する仮接着ドア、ゲート、スリットバルブドアなどの作製に用いてもよい。かかるシールなどの成形品を接着することができる表面としては、ポリマーの表面、金属および金属合金表面などがあげられる。実施形態としては、本発明においては、たとえばステンレススチールまたはアルミ製のゲートまたはスリットバルブドアがあげられ、シールが設けられるように構成されたドアの溝に合ったO−リングシールが取り付けられる。接着は、接着剤組成物を用いて、または接着剤を介してなされてもよい。さらに、パーフルオロポリマー、少なくとも1つの硬化性パーフルオロポリマーおよび少なくとも1つの硬化性パーフルオロポリマーの硬化部位を架橋させることができる少なくとも1つの好適な硬化剤を溶解可能な3M製のFluorinert(登録商標)溶剤の1種などのフッ素溶媒を用いて接着剤を調製してもよい。
【0098】
接着剤は、O−リング作製用金型に押出されたポリマーの初期硬化の後か、またはドアなどの表面にシールを接着する前に、O−リングまたはドアの溝に塗布してもよく、または、接着剤は、押出されたポリマーに塗布することができ、押出されたポリマーは、熱硬化によりパーフルオロポリマーがO−リング中と接着剤中で同時に硬化されるように、接着される表面(ドア)においてその場で成形され、硬化される。必ずしも必要ではないが、好ましくは、接着剤に用いられるパーフルオロポリマーは、本明細書に記載されたパーフルオロエラストマー組成物中のパーフルオロポリマーの少なくとも1つと同じである。接着剤は好ましくは本明細書に記載の硬化性パーフルオロエラストマー組成物に用いられる両パーフルオロポリマーを含んでもよく、および/または、硬化されて対象とする表面に組成物を接着させる好適な硬化性パーフルオロポリマーを用いることもできる。
【0099】
本明細書中の含フッ素組成物の製造において、組成物が少なくとも200nmの平均粒径を有するチタン酸バリウムを含むことが好ましい。好ましい形態としては、平均粒径は、約300nm〜約1,200nmまたは約500nm〜約1,000nmである。しかしながら、チタン酸バリウムは少なくとも2種の平均粒径を有するものが混合されていてもよい。
【0100】
本明細書に記載の実施形態において、チタン酸バリウムは、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して好ましくは約1〜約200重量部、より好ましくは約1〜約100重量部、最も好ましくは約1〜約50重量部の量で含フッ素エラストマー組成物中に含まれる。他の実施形態においては、チタン酸バリウムは、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して好ましくは約5〜約200重量部、より好ましくは約5〜約100重量部、さらに好ましくは約5〜約50重量部、より好ましくは約5〜約30重量部、最も好ましくは約10〜約20重量部含まれる。
【0101】
また、前記のように、硬化したパーフルオロエラストマー組成物の製造方法も本明細書に記載される。この方法において、硬化性パーフルオロエラストマー組成物は、本明細書中に記載された少なくとも1種の硬化性パーフルオロポリマーと第1のまたは第2の硬化部位含有モノマーの硬化部位を硬化し得る少なくともひとつの硬化剤およびチタン酸バリウムを本明細書中に記載の量で配合することにより製造される。
【0102】
ポリマーおよびチタン酸バリウムは、代表的なゴム用加工機械、たとえば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて混合することができる。組成物は、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から凝析する方法によっても調製することができる。好ましくは、パーフルオロポリマー(パーフルオロエラストマーゴムともいう)を混合するのに使用される代表的なミキサー、たとえば2−ロールミキサーがあげられる。好ましくは、この方法において、ポリマーは室温もしくは約30℃〜約100℃、好ましくは約50℃の高温で混合される。
【0103】
また、必要に応じて、この時点で添加剤を組成物に添加してもよい。添加剤は任意のものであり、第1および第2の硬化性パーフルオロポリマーに独特の相互作用があるためおよび/またはチタン酸バリウムを有する独特のフィラー系であるため必要なものではない。しかしながら、ある種の特性を変更したい場合、硬化促進剤、共硬化剤、コエージェント(co-agent)、加工助剤、可塑剤、フィラー、シリカなどの変性剤、フルオロポリマー(TFE、および溶融加工可能なその共重合体およびこの技術の分野で公知のミクロパウダー、ペレット、ファイバーおよびナノパウダー状のコア−シェル変性フルオロポリマー)、フルオログラファイト、シリカ、硫酸バリウム、カーボン、カーボンブラック、フッ化カーボン、クレー、タルク、金属フィラー(酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ケイ素)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化アルミニウム)、金属窒化物(窒化ケイ素、窒化アルミニウム)、その他の無機フィラー(フッ化アルミニウム、フッ化カーボン)、着色剤、有機色素および/または顔料、たとえば、アゾ、イソインドリノン、キナクリドン、ジケトピロロピロール、アンスラキノンなど、イミドフィラー(ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド)、ケトン系プラスチック(PEEK、PEKおよびPEKKなどのポリアリーレンケトン(PAEKポリマー))、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾエートなどをこの技術の分野で公知の量で、および/または異なる特性を発現するために量を変更して使用してもよい。本明細書におけるすべてのフィラーは単独で用いてもよく、また2種以上のフィラーおよび添加剤を併用してもよい。
【0104】
好ましくは、任意のフィラーは、組成物中の硬化性パーフルオロポリマー100部に対して合計で約50部未満、最も好ましくは約30部未満の量で用いられる。有機フィラーは、耐熱性およびプラズマ耐性(プラズマ照射時のパーティクル数が少なく、重量減少率が低い)を与え、その例としては、上記したもの、有機顔料、ポリイミド、ポリアミドイミドおよびポリエーテルイミドなどのイミド構造を有するイミドフィラーおよびPEEK、PEKK、PEKなどのケトン系エンジニアリングプラスチックなどがあげられ、有機顔料が好ましい。
【0105】
耐熱性および耐薬品性の点から、また本明細書に記載の組成物から形成される成形品の特性に与える影響が少ないという点から好ましい着色フィラーとしては、キナクリドン、ジケトピロロピロール、アンスラキノン系顔料および色素があげられ、キナクリドンが好ましい。
【0106】
追加の無機フィラーのうち、プラズマの遮蔽効果の点から好ましいフィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ケイ素、ポリイミド、フッ化カーボンがあげられる。
【0107】
好ましくは、ポリマーの混合後、パーフルオロエラストマー組成物中の第1および第2の硬化性パーフルオロポリマーは、少なくとも部分的に、好ましくは実質的に、また、任意のポストキュアを行うかまたは行わずに本明細書に記載のようにできるだけ完全な程度にまで硬化されて、本明細書に記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物が形成される。
【0108】
硬化部位および硬化剤に応じて、硬化により各種の架橋構造を形成することができる。好ましくは、官能性硬化基が硬化部位含有モノマーに用いられ、そのため硬化したパーフルオロエラストマー組成物はベンゾイミダゾール架橋構造を形成する硬化剤を含む。
【0109】
硬化性パーフルオロエラストマー組成物は、好ましくは組成物中の硬化性パーフルオロポリマーが実質的に硬化されるまで、好ましくは少なくとも70%が硬化されるまで硬化反応が進むのに充分な温度と時間で硬化される。好ましい硬化温度および時間は、約150℃〜約250℃で約5分間〜約40分間である。硬化に続いて、任意のポストキュアを行ってもよい。ポストキュアの許容温度および時間は、約250℃〜約320℃で約5時間〜約48時間である。
【0110】
硬化時には、金型に熱および圧力を加えて硬化しながら、本明細書に記載の硬化性パーフルオロエラストマー組成物を成形品に形成することができる。好ましくは、混合された硬化性パーフルオロポリマーを予備成形体、たとえば予備成形体を入れるのにつけられた溝のある金型に予備成形体を導入するのに、かつ硬化中に成形品を形成するのに有用な押出されたロープまたは他の形状に形成する。
【0111】
フィラーに加えて、本明細書中の好ましい硬化部位含有モノマーと同じかまたは異なる硬化部位含有モノマーを含む各種の追加の硬化性および非硬化性パーフルオロポリマーを含むことも本発明の範囲内である。第1および/または第2のパーフルオロポリマーの硬化を進め、促進するための、または追加の任意の硬化性パーフルオロポリマーの硬化および/または硬化を促進をするための追加の硬化剤および硬化促進剤も本明細書に含めてもよい。非硬化性パーフルオロポリマーとしては、1種以上のエチレン性不飽和モノマー(TFE、HFPおよびPAVEなど)から形成される反応性硬化部位を有さないものがあげられる。追加の硬化性パーフルオロポリマーとしては、本明細書に記載の硬化性パーフルオロポリマーのいずれもがあげられ、また、上記の有機過酸化物などの硬化系およびこの技術の分野において公知の有機過酸化物などの硬化系、たとえば、テトラフェニルスズ硬化剤、ビスアミノフェニル系硬化剤などとの架橋に適した硬化部位を有するものがあげられる。かかるポリマーは、他のブレンドへの展開のため、および本明細書中の組成物の特性を修正するために添加してもよい。
【0112】
本発明のパーフルオロエラストマーは、従来技術で用いられている半結晶性のフルオロプラスチックを含むFFKM組成物に代わるものであり、またかかる組成物に比べて特性が改善されたものであって、異なる量のPAVEを含むパーフルオロエラストマーのブレンドに基づく本出願人の耐プラズマ組成物における改良である。この組成物は、かかるフルオロプラスチック粒子フィラーを追加せずに、また高温混合することもなしに調製することができる。かかるブレンドを用いる場合、第2のポリマーのTFE含有量を高くすることにより、組成物中の硬化されたパーフルオロポリマーの非晶性を維持しながら、高TFE含有量のパーフルオロポリマーが他の硬化性パーフルオロポリマーにおいて「フィラー」として作用し、他のパーフルオロポリマーの性質を変える。このように、本発明のエラストマー組成物により作製された成形品は、厳しい化学作用条件、熱的条件およびプラズマ条件におけるクラックに対してより耐性を有する。
【0113】
従来の技術に比して、本明細書に記載の異なるPAVE含有量を有するパーフルオロポリマー混合組成物においては、追加のフィラーを添加する必要なしに、対象となる用途において望まれる物性をもたらす分子レベルでFFKM組成物が調製される。さらに、従来の技術に比して、本発明の組成物は、半結晶性のポリマー成分を必要とせず、含まれない場合でも非晶性の状態を維持するため、容易に加工することができる。本明細書においては、かかる組成物は、チタン酸バリウムフィラーを用いることによりさらに改善される。
【0114】
以上に検討されたように、異なるPAVE含有量を有するパーフルオロポリマー混合物を用いる場合、組成物中の非晶性の高TFE含有量の硬化性パーフルオロポリマーは、理論上、得られるパーフルオロエラストマー組成物の望まれる基本的な特性を達成するのに役立つものと考えられる。組成物中の高TFE含有量の硬化性パーフルオロポリマーのTFEのモル%は、約95%を超えてはならない。特に融点として認められる結晶化点に近づくことを避けるべきである。架橋されたエラストマー組成物およびそれから作製される成形品は、優れた耐熱性と非常に低い永久圧縮歪を発現する。また、高純度と優れたプラズマ耐性により、半導体の封止用途に用いることができる。
【0115】
本明細書に記載のパーフルオロポリマー混合物から形成された、架橋されたパーフルオロエラストマー組成物の硬度は、約40〜約95のShoreA硬度でよいが、ShoreAで約50以上が好ましく、約55以上がより好ましく、約60以上が最も好ましい。さらに、ShoreAで約95以下が好ましく、約90以下がより好ましく、約85以下が最も好ましい。かかる好ましい硬度により、より良好でさらに優れたシール性が与えられる。
【0116】
本明細書に記載の得られた硬化されたパーフルオロエラストマー組成物は、優れた耐薬品性、プラズマ耐性と良好な機械的強度、耐熱性を有する。また、本明細書に記載の異なるパーフルオロポリマーを組み合わせることにより、フィラーを使用するか、または使用しない場合にかかわらずに、得られるパーフルオロエラストマー組成物の硬度調整を行うことができる。また、得られるパーフルオロエラストマー組成物から発生するアウトガス成分が低減され、それによって、環境の汚染を避けるのに役立つ。したがって、O−リング、角−リング、コーナーリング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ペアリングシール、リップシール、ドアシールなどとして半導体装置の封止用に有用である。かかるシールや関連のガスケット製品は、液晶またはプラズマパネルディスプレイなどの需要の多い透明性を有する半導体製品を与える各種の半導体処理装置に用いることができる。
【0117】
本明細書において、パーフルオロポリマー組成物から形成されるシール製品が用いられる装置の例としては、ドライエッチング装置、プラズマエッチング装置、反応性イオンエッチング装置、反応性イオンビームエッチング装置、スパッタエッチング装置、イオンビームエッチング装置、ウェットエッチング装置、アッシング装置などのエッチング装置;乾式エッチング洗浄装置、UV/O3洗浄装置、イオンビーム洗浄装置、レーザービーム洗浄装置、プラズマ洗浄装置、ガスエッチング洗浄装置などの洗浄装置;ソックスレー抽出洗浄装置、高温高圧抽出洗浄装置、マイクロウェーブ抽出洗浄装置、超臨界抽出洗浄装置などの抽出洗浄装置;ステッパー、コータ・デベロッパーなどの露光装置;CMP装置などの研磨装置;CVD装置、スパッタリング装置などの成膜装置;酸化拡散装置、イオン注入装置などの拡散・イオン注入装置などがあげられる。
【0118】
1つの好ましい実施の形態として、本発明は、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)単位(a)の含有量の異なる本発明のパーフルオロエラストマー(A)として示す2種以上のパーフルオロエラストマーおよびチタン酸バリウムを含む含フッ素エラストマー組成物に関する。
【0119】
2種以上のパーフルオロエラストマー(A)におけるいずれか2種のパーフルオロエラストマー(A)のPAVE単位(a)の含有量の差は、架橋物の硬度調整が容易であるという点から5モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。また、各種のパーフルオロエラストマー(A)におけるPAVE単位(a)の含有量の差は、PAVE単位(a)の含有量の小さい方のパーフルオロエラストマーのガラス転移温度を上昇させないという点から25モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。かかる組成物においては、粒径が1種以上のチタン酸バリウムのブレンドを使用することがさらに好ましい。
【0120】
また、かかる形態において、2種以上のパーフルオロエラストマー(A)におけるいずれか2種のパーフルオロエラストマー(A)のうち、PAVE単位(a)の含有量の大きい方をパーフルオロエラストマー(A1)、PAVE単位(a)の含有量の小さい方をパーフルオロエラストマー(A2)とすると、パーフルオロエラストマー(A1)中のPAVE単位(a)の含有量は、組成物の架橋速度が速いという点から、38モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましい。また、パーフルオロエラストマー(A1)中のPAVEの含有量は、ポリマー合成時の重合速度が速いという点から、50モル%以下が好ましく、45モル%以下がより好ましく、42モル%以下がさらに好ましい。
【0121】
この形態において、パーフルオロエラストマー(A2)中のPAVEの含有量は、ガラス転移温度が低く、低温性が良好であるという点から、18モル%以上が好ましく、21モル%以上がより好ましく、25モル%以上がさらに好ましい。また、パーフルオロエラストマー(A2)中のPAVEの含有量は、架橋物の硬度を上げて、シール材のシール性を向上させる点から、35モル%以下が好ましく、32モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。
【0122】
さらに、この形態において、パーフルオロエラストマー(A1)およびパーフルオロエラストマー(A2)以外の第三のパーフルオロエラストマーを組成物に混合してもよい。
【0123】
PAVE単位の含有量が低いパーフルオロエラストマーのみを用いれば架橋時間が長くなるのに対し、本発明によれば、前記のようにPAVE単位の含有量の大きいパーフルオロエラストマーと小さいパーフルオロエラストマーの少なくとも2種を組み合わせることにより、架橋時間の短縮化を図ることができる。さらにこのような2種のパーフルオロエラストマーを組み合わせることにより、得られる成形品の硬度調整を簡単に行うことも可能である。
【0124】
この場合のPAVEとしては、上記の形態において示したように、たとえばパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。
【0125】
これらのなかで、硬化物の機械強度が優れるという点から、PMVEが好ましい。
【0126】
また、この形態において、パーフルオロエラストマー(A)は、さらにニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる少なくとも1つを有するモノマー単位(b)を有することが好ましい。
【0127】
モノマー単位(b)の含有量は、架橋性エラストマーの架橋性を向上させる点から、パーフルオロエラストマー(A)中に0.1モル%以上であり、0.2モル%以上が好ましく、0.3モル%以上がより好ましい。また、モノマー単位(b)の含有量は、高価であるモノマー単位(b)の使用量を減らせる点から、パーフルオロエラストマー(A)中に2.0モル%以下であり、1.0モル%以下が好ましく、0.5モル%以下がより好ましい。
【0128】
モノマー単位(b)としては、たとえば、式(A):
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X1 (A)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数、X1はニトリル基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基)
で表されるようなモノマーなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0129】
このニトリル基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基が、硬化部位として機能することができる。また、架橋反応性に優れる点から、モノマー単位(b)における硬化部位がニトリル基であるニトリル基含有モノマーであることが好ましい。
【0130】
モノマー単位(b)の具体例としては、式(1)〜(17):
CY2=CY(CF2n−X2 (1)
(式中、Yは水素原子またはフッ素原子、nは1〜8の整数である)、
CF2=CFCF2f2−X2 (2)
(式中、Rf2は−(OCF2n−または−(OCF2n−であり、nは0〜5の整数である)、
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2m
(OCH2CF2CF2nOCH2CF2−X2 (3)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)、
CF2=CFCF2(OCH2CF2CF2m
(OCF(CF3)CF2nOCF(CF3)−X2 (4)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)、
CF2=CF(OCF2CF(CF3))mO(CF2n−X2 (5)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜8の整数である)、
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m−X2 (6)
(式中、mは1〜5の整数)、
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2nCF(−X2)CF3 (7)
(式中、nは1〜4の整数)、
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)−X2 (8)
(式中、nは2〜5の整数)、
CF2=CFO(CF2n−(C64)−X2 (9)
(式中、nは1〜6の整数)、
CF2=CF(OCF2CF(CF3))nOCF2CF(CF3)−X2 (10)
(式中、nは1〜2の整数)、
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)−X2 (11)
(式中、nは0〜5の整数)、
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X2 (12)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数である)、
CH2=CFCF2OCF(CF3)OCF(CF3)−X2 (13)
CH2=CFCF2OCH2CF2−X2 (14)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)mCF2CF(CF3)−X2 (15)
(式中、mは0以上の整数である)、
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2n−X2 (16)
(式中、nは1以上の整数)、
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2−X2 (17)
(式(1)〜(17)中、X2は、ニトリル基(−CN基)、カルボキシル基(−COOH基)またはアルコキシカルボニル基(−COOR5基、R5は炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基)である)で表されるモノマーなどがあげられる。これらの中で、パーフルオロエラストマー(A)の耐熱性が優れ、また、パーフルオロエラストマーを重合反応により合成する際に、連鎖移動による分子量低下を抑えるために、水素原子を含まないパーフルオロ化合物が好ましい。また、テトラフルオロエチレンとの重合反応性に優れる点からCF2=CFO−構造を有する化合物が好ましい。
【0131】
かかるパーフルオロエラストマー(A)の具体例としては、特表平9−512569号公報、国際公開00/29479号パンフレット、特開平11−92529号公報などに記載されているものがあげられる。
【0132】
この形態におけるパーフルオロエラストマー(A)は、常法により製造することができる。
【0133】
本発明のこの形態で使用するラジカル重合開始剤は、フッ素ゴムの重合に使用されているものであればよく、たとえば、有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物がある。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましい開始剤としてAPSがあげられる。APSは単独で使用してもよく、またサルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0134】
本明細書に記載のとおり、乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが選択可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が好ましい。乳化剤の使用量は、添加された水の約0.05〜2重量%が好ましく、とくに0.2〜1.5重量%が好ましい。
【0135】
本発明で使用するモノマー混合ガスは、カルブ(G.H.Kalb)ら、アドヴァンシーズ・イン・ケミストリー・シリーズ(Advances in Chemistry Series),129,13(1973)に記載されるように、爆発性を有するので、重合装置には着火源となるスパークなどが発生しないように工夫する必要がある。
【0136】
重合圧力は、広い範囲で変化させることができる。一般には、0.5〜7MPaの範囲である。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなるため、生産性の向上の観点から、0.7MPa以上であることが好ましい。
【0137】
本発明で用いる含フッ素エラストマーにニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基よりなる群から選択される少なくとも1つの基を導入する方法としては、前述のように、この形態における含フッ素エラストマー製造時に、硬化部位を有するモノマーを添加して共重合することにより導入する方法があるが、その他の方法として、たとえば、重合生成物を酸処理することにより、重合生成物に存在しているカルボン酸の金属塩やアンモニウム塩などの基をカルボキシル基に変換する方法もあげられる。酸処理法としては、たとえば塩酸、硫酸、硝酸などにより洗浄するか、これらの酸で重合反応後の混合物の系をpH3以下にする方法が適当である。
【0138】
また、ヨウ素や臭素を含有する架橋性エラストマーを発煙硝酸により酸化してカルボキシル基を導入することもできる。
【0139】
本発明のこの形態における含フッ素エラストマー組成物は、前述した含フッ素エラストマーが有する硬化部位として作用可能な基と架橋反応可能な架橋剤(B)を有することが好ましい。
【0140】
本発明で用いる架橋剤(B)は、オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤、トリアジン架橋剤、アミドキシム系架橋剤、およびアミドラゾン系架橋剤よりなる群から選ばれる1種以上の架橋剤であり、これらの中でも機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐寒性に優れ、特に耐熱性と耐寒性にバランスよく優れた架橋物を与えることができる点から、イミダゾール架橋剤が好ましい。
【0141】
オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤、トリアジン架橋剤としては、式(II):
【化17】

(式中、R1基は、同じかまたは異なり、−NH2、−NHR2、−OHまたは−SHであり、R2は、1価の有機基である)で示される架橋性反応基を少なくとも2個含む化合物、
式(III):
【化18】

(R3は−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基または単結合手であり、R4は、
【化19】

で示される化合物、
式(IV):
【化20】

(式中、Rf1は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基)で示される化合物、および
式(V):
【化21】

(式中、nは1〜10の整数)で示される化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることが、耐熱性の点から好ましい。
【0142】
これらのなかでも、本明細書中の他の形態で述べられているように、架橋後に、芳香族環により安定化されるために耐熱性が向上する点から、式(II)で示される架橋性反応基を少なくとも2個有する化合物が好ましい。
【0143】
式(II)で示される架橋性反応基を少なくとも2個有する化合物は、架橋性反応基を2または3個有することが好ましく、より好ましくは2個有するものである。なお、式(II)で示される架橋性反応基が2個未満であると、架橋することができない。
【0144】
式(II)で示される架橋性反応基における置換基R1に含まれるR2は、水素原子以外の1価の有機基である。N−R2結合は、N−H結合よりも耐酸化性が高いため前述の置換基R1としては−NHR2を用いることが好ましい。
【0145】
1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、脂肪族炭化水素基、フェニル基またはベンジル基があげられる。具体的には、たとえば、R2の少なくとも1つが−CH3、−C25、−C37などの炭素数1〜10、特に1〜6の低級アルキル基;−CF3、−C25、−CH2F、−CH2CF3、−CH225などの炭素数1〜10、特に1〜6のフッ素原子含有低級アルキル基; フェニル基; ベンジル基;−C65、−CH265などのフッ素原子で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基;−C65-n(CF3n、−CH265-n(CF3n(nは1〜5の整数)などの−CF3で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基などがあげられる。
【0146】
これらのうち、耐熱性が特に優れており、架橋反応性が良好であり、さらに合成が比較的容易である点から、フェニル基、−CH3が好ましい。
【0147】
架橋剤(B)としては、式(II)で示される架橋性反応基を2個有する式(VIII):
【化22】

(式中、R1は前記と同じ、R6は、−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基、単結合手、または
【化23】

で示される基である)で示される化合物が、合成が容易な点から好ましい。
【0148】
上記の炭素数1〜6のアルキレン基の好ましい具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などをあげることができる。炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基としては、
【化24】

などがあげられる。なお、これらの化合物は、特公平2−59177号公報、特開平8−120146号公報などで、ビスジアミノフェニル化合物の例示として知られているものである。
【0149】
これらの中でもより好ましい架橋剤(B)としては、式(X):
【化25】

(式中、R7基は、同じかまたは異なり、いずれも水素原子、炭素数1〜10のアルキル基;フッ素原子を含有する炭素数1〜10のアルキル基;フェニル基;ベンジル基;フッ素原子および/または−CF3で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基である)で示される化合物である。
【0150】
本明細書中の他の形態と同様、具体例としては、限定的ではないが、たとえば、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−パーフルオロフェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−ベンジルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどがあげられる。これらの中でも、耐熱性が優れている点から、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、が好ましく、耐熱性が、特に優れる点から、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0151】
これらのビスアミドキシム系架橋剤、ビスアミドラゾン系架橋剤、ビスアミノフェノール系架橋剤、ビスアミノチオフェノール系架橋剤またはビスジアミノフェニル系架橋剤は、含フッ素エラストマーが有するニトリル基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基と反応し、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環またはトリアジン環を形成し、架橋物を与える。
【0152】
架橋剤(B)の配合量は、組成物の架橋性を向上させるという点から、エラストマー100重量部に対して、0.3重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましく、0.7重量部以上がさらに好ましい。また、架橋剤(B)の配合量は、エラストマー100重量部に対して、10.0重量部以下が好ましく、2.0重量部以下がより好ましい。
【0153】
本発明においては、前記架橋剤とともに、その他の架橋剤を併用することができる。
【0154】
また、本発明のこの形態において、含フッ素エラストマーがニトリル基を有する場合には、ニトリル基がトリアジン環を形成し、トリアジン架橋させることもできる点から、含フッ素エラストマー組成物はテトラフェニルスズ、トリフェニルスズなどの有機スズ化合物を含んでいてもよい。
【0155】
本発明のこの形態において、有機スズ化合物は、含フッ素エラストマー100重量部に対して、0.05〜10重量部であることが好ましく、1〜5重量部であることがより好ましい。有機スズ化合物が、0.05重量部より少ないと、含フッ素エラストマーが充分架橋されない傾向があり、10重量部を超えると、架橋物の物性を悪化させる傾向がある。
【0156】
本発明のこの形態の含フッ素エラストマー組成物において、必要に応じて架橋性エラストマー組成物に配合される通常の添加物、たとえばフィラー、加工助剤、可塑剤、着色剤などを配合することができる。また、組成物に前記のものとは異なる常用の架橋剤や架橋促進剤を1種またはそれ以上配合してもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲において、別種のエラストマーを混合してもよい。
【0157】
この形態において、フィラーとしては、有機フィラーがあげられ、耐熱性、耐プラズマ性(プラズマ照射時の低パーティクル性、低重量減少率)の点から有機顔料;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのイミド構造を有するイミド系フィラー;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)などのケトン系エンジニアプラスチックが好ましく、特に有機顔料が好ましい。
【0158】
この形態において用いられる有機顔料としては、縮合アゾ系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料などがあげられる。それらの顔料の中でも、耐熱性、耐薬品性に優れ、成形体特性に与える影響が少ない点から、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料が好ましく、キナクリドン系顔料がより好ましい。
【0159】
さらに、本発明のこの形態の含フッ素架橋性組成物は、一般的なフィラーを含有してもよい。
【0160】
かかる一般的なフィラーとしては、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾエート、ポリテトラフルオロエチレン粉末などのエンジニアリングプラスチック製の有機物フィラー;酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウム、酸化チタンなどの金属酸化物フィラー;炭化ケイ素、炭化アルミニウムなどの金属炭化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物フィラー;フッ化アルミニウム、フッ化カーボン、硫酸バリウム、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルクなどの無機物フィラーがあげられる。
【0161】
これらのフィラーの中でも、各種プラズマの遮蔽効果の点から、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ケイ素、ポリイミド、フッ化カーボンが好ましい。
【0162】
また、前記無機フィラー、有機フィラーを単独で、または2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0163】
本発明のこの形態の含フッ素エラストマー組成物は、上記の各成分を、通常のゴム用加工機械、たとえば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて混合することにより調製することができる。この他、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から共凝析する方法によっても調製することができる。
【0164】
本発明のこの形態の含フッ素エラストマーを架橋して得られる架橋物の硬度は、本発明のエラストマー組成物を用いたシール材におけるシール性が良好であるという点から、shoreAで50以上が好ましく、55以上がより好ましく、60以上がさらに好ましい。また、架橋物の硬度は、本発明のエラストマー組成物を用いたシール材におけるシール性が良好であるという点から、95以下が好ましく、90以下がより好ましく、85以下がさらに好ましい。
【0165】
本発明のこの形態の含フッ素エラストマー組成物を架橋成形して得られる架橋物は、耐薬品性、機械的強度、耐熱性に優れる。また、本発明のこの形態によれば2種のパーフルオロエラストマーを組み合わせることにより硬度調整を行うことができるため、フィラーを添加せずとも所望の硬度に調整することも可能である。この場合には、硬化物は、硬化物から発生するアウトガス成分が低減されるため、使用環境の汚染を改善するという点から、例えば半導体装置の封止用のシール材などとして好適である。シール材としてはO−リング、角−リング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ベアリングシール、リップシールなどがあげられる。
【0166】
なお、本発明でいう半導体製造装置は、特に半導体を製造するための装置に限られるものではなく、液晶パネルやプラズマパネルを製造するための装置など、高度なクリーン度が要求される半導体分野において用いられる製造装置全般を含むものであり、たとえば次のようなものをあげることができる。
【0167】
(1)エッチング装置
ドライエッチング装置
プラズマエッチング装置
反応性イオンエッチング装置
反応性イオンビームエッチング装置
スパッタエッチング装置
イオンビームエッチング装置
ウェットエッチング装置
アッシング装置
(2)洗浄装置
乾式エッチング洗浄装置
UV/O3洗浄装置
イオンビーム洗浄装置
レーザービーム洗浄装置
プラズマ洗浄装置
ガスエッチング洗浄装置
抽出洗浄装置
ソックスレー抽出洗浄装置
高温高圧抽出洗浄装置
マイクロウェーブ抽出洗浄装置
超臨界抽出洗浄装置
(3)露光装置
ステッパー
コータ・デベロッパー
(4)研磨装置
CMP装置
(5)成膜装置
CVD装置
スパッタリング装置
(6)拡散・イオン注入装置
酸化拡散装置
イオン注入装置
【実施例】
【0168】
つぎに実施例をあげて本発明および実施形態を説明するが、本発明および実施形態はかかる実施例に限定されるものではない。
【0169】
実施例1
実施例で用いた化合物を以下に示す。硬化剤または架橋剤として、以下に示す化合物(NPh−AF)を用いた。
【0170】
【化26】

【0171】
製造例1:パーフルオロエラストマー(1)の合成
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水2.34リットルおよび乳化剤として
【化27】

を23.4g、(NH42CO30.21gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、オートクレーブを52℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=22/78モル比)を、内圧が0.78MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、CF2=CFO(CF25CN0.82gを窒素で圧入した後、過硫酸アンモニウム(APS)12.3gを水30gに溶解し窒素で圧入して反応を開始した。
【0172】
重合の進行に伴い、槽内圧力が低下するので、内圧が0.78MPa・Gになるように、TFEおよびPMVEを圧入し、重合終了までにTFEを323gおよびPMVE356gを、一定の比率で圧入した。反応途中、CF2=CFO(CF25CN合計14.67gを17分割して圧入し、固形分濃度21.2重量%の水性分散体2989gを得た。
【0173】
得られた水性分散体のうち500gを水500gで希釈し、3.5重量%塩酸水溶液2800g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後5分間撹拌した後、凝析物をろ別し、得られたポリマーを2kgのHCFC−141b中にあけ、5分間撹拌し、再びろ別した。この後このHCFC−141bによる洗浄、ろ別の操作をさらに4回繰り返したのち、60℃で72時間真空乾燥させ、110gのポリマー(パーフルオロエラストマー(1))を得た。
【0174】
得られたパーフルオロエラストマー(1)は、表1に示すF−NMRにて分析した各モノマーの単位量となった。
【0175】
実施例2
製造例2:パーフルオロエラストマー(2)の合成
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水2.34リットルおよび乳化剤として
【化28】

を23.4g、(NH42CO30.21gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、52℃に昇温し、TFEとPMVEの混合ガス(TFE/PMVE=41/59モル比)を、内圧が0.78MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、CF2=CFO(CF25CN0.87gを窒素で圧入した後、APS12.3gを水30gに溶解し窒素で圧入して反応を開始した。
【0176】
重合の進行に伴い、槽内圧力が低下するので、内圧が0.78MPa・Gになるように、TFEおよびPMVEを圧入し、重合終了までにTFEを400gおよびPMVE284gを一定の比率で圧入した。反応途中、CF2=CFO(CF25CN合計14.72gを17分割して圧入し、固形分濃度22.5重量%の水性分散体3087gを得た。
【0177】
得られた水性分散体のうち500gを水500gで希釈し、3.5重量%塩酸水溶液2800g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後5分間撹拌した後、凝析物をろ別し、得られたポリマーを2kgのHCFC−141b中にあけ、5分間撹拌し、再びろ別した。この後このHCFC−141bによる洗浄、ろ別の操作をさらに4回繰り返したのち、60℃で72時間真空乾燥させ、110gのポリマー(パーフルオロエラストマー2)を得た。
【0178】
得られたパーフルオロエラストマー(2)のF−NMRにて分析した各モノマーの単位量を表1に示す。
【0179】
【表1】

【0180】
実施例3
実施例1で得られたパーフルオロエラストマー(1)、実施例2で得られたパーフルオロエラストマー(2)および架橋剤としてNPh−AF(上に示す)を表2で示す配合量にて混合し、オープンロールにて混練して架橋可能な含フッ素エラストマー組成物を調製した。
【0181】
この含フッ素エラストマー組成物を180℃で20分間プレスして架橋を行ったのち、さらに290℃で18時間のオーブン架橋を施し、O−リング(P−24)の被験サンプルを作製した。この被験サンプルの架橋時の架橋性、および常態物性を以下の方法にて測定した。結果を表2に示す。
【0182】
架橋性:
各架橋性組成物についてJSR型キュラストメーターII型により、180℃にて加硫曲線を求め、最低トルク(ML)、最大トルク(MH)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求めた。
【0183】
常態物性:
JIS K6301に準じて厚さ2mmの架橋物の常態(25℃)での100%モジュラス(M100)、引張強度(TB)、伸び(EB)および硬度(Hs)を測定した。
【0184】
比較例1
パーフルオロエラストマーとしてパーフルオロエラストマー(1)および(2)の併用の代わりにパーフルオロエラストマー(1)のみを用いた以外は、実施例3と同様にして組成物を調製し、架橋時の架橋性および常態物性を実施例3と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0185】
比較例2
パーフルオロエラストマーとしてパーフルオロエラストマー(1)および(2)の併用の代わりにパーフルオロエラストマー(2)のみを用いた以外は、実施例3と同様にして組成物を調製し、架橋時の架橋性および常態物性を実施例3と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0186】
【表2】

【0187】
実施例4〜14
実施例4〜14のエラストマー組成物は、パーフルオロポリマーと所望の添加剤とを混合または配合して調製した。ポリマーおよび添加剤は、ニュージャージー州、S.ハッケンザックのC.W.ブラベンダー インスツルメント社製の市販の密閉式混合機またはニューヨーク州、ファーミングデールのMorijama製の市販の密閉式混合機などを用いて混合してもよい。実施例4〜12では、この技術の分野で公知の通常のゴム混合方法を用いて、6インチ径の2本ロールミキサー(「オープンミルミキサー」ともいう)で混合して調製した。1回分の重量500gに対して、ロール温度は約50℃でロール速度は約25〜35rpmであった。
【0188】
この調製方法において、第1のポリマーを50℃でミルに添加し、およそ8〜9分間混合した。最初の硬化性パーフルオロポリマーをミルにおいて分出し後、第2の硬化性パーフルオロポリマーを添加した。両ポリマーを3〜4分間混合した後、硬化剤を添加し、充分に混合した。硬化剤を添加後、混合物をロール上で3度カットし、混合した。次にカット、混合を30回行った。混合物をミルから取り出し、約室温まで冷却した。冷却後、混合物をミルに戻し、カット、混合を多数回繰り返した。
【0189】
混合温度50℃およびカット/再混合工程(3+30+30カット/再混合)以外は標準の通常のゴム混合手順を用いた。
【0190】
実施例13および14では、密閉式混合機を用いて、マスターバッチの組成に基づいて第1のパーフルオロポリマーおよび硬化剤を添加し、50℃でマスターバッチを混合した。マスターバッチは100重量部のポリマーAとNPh−AF(100重量部に対して6.8部)を含有していた。次にマスターバッチを希釈して実施例13および14の組成に調製した。マスターバッチを密閉式混合機から取り出してオープンミルに移動させた。最後の工程で硬化剤を含むマスターバッチを添加した以外は実施例4〜12(硬化剤のみを加える)における上記と同じ手順で行った。
【0191】
これらの手順は、これらの実施例のみに関するものであって、本発明においては、他のいかなる標準ゴム混合機または通常の密閉式混合機をも使用し得る。
【0192】
本発明の方法によって調製されたエラストマー組成物および成形品を表3に示す。表3に本発明によって調製されたエラストマーの物性を示す。実施例4〜14において、表4に示すASTMの手法を用いて特性試験を行い、エラストマーから作製したO−リングの物性パラメータ:Tb(引張破断強度psi(MPa));EB(破断伸び%);M100(100%モジュラスpsi(MPa));硬度(ジュロメーターM);圧縮永久歪を記録した。
【0193】
実施例のコンパウンドは市販のパーフルオロポリマー組成物から調製し、本明細書に記載のように混合した。実施例では、本明細書で定義されているように、ダイキン工業のポリマーAが第1のパーフルオロポリマーであって、TFEとパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)をモル比60/40で含むパーフルオロポリマーである。ダイキン工業のポリマーBが第2のポリマーであって、TFEとPMVEをモル比70/30で含むパーフルオロポリマーである。ポリマーAおよびポリマーBにおいて、硬化用のシアノ官能基を含む硬化部位含有モノマーを0.6モル%含む。硬化剤のNPh−AFは4,4’−[2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス[N1−フェニル−1,2−ベンゼンジアミン]である。各成分のポリマーAおよびBおよびNPh−AFは市販のものである。得られた各実施例のエラストマー(実施例4〜14)の重量%比を表3に示すように異なる。コンパウンドは182℃で30分間硬化され、次に290℃で18時間ポストキュアした。
【0194】
本発明のエラストマーから形成された成形品、一般的にはO−リング、シールまたはガスケットが、本明細書記載されている。シールはパーフルオロポリマーから、圧縮成形法、射出成形法、押出し法などの各種の加工方法により形成することができる。これらの実施例では成形法が用いられた。
【0195】
表3に示すように、高温でのリモートNF3プラズマにおけるテスト後に、サンプルには無視してもよい程度の重量損失が見られた。サンプルの保持性および表面の外観には大きな変化は見られなかった。対照の市販のサンプルに比べて、実施例ではリモートNF3プラズマに対する良好な耐性が示された。直接のプラズマ環境下(O2、O2+CF4)では、市販品に匹敵する結果が示された。
【0196】
圧縮永久歪の評価のため、実施例4〜14で得られたエラストマーからO−リングを作製した。実施例4〜14では、25%デフレクションにおいて300℃で70時間後に25%より低い圧縮永久歪であり、25%デフレクションにおいて300℃で168時間後に40%より低い圧縮永久歪であった。これは、この技術の分野においては大きな改善である。
【0197】
実施例4〜14で得られたエラストマーから作製したO−リングをプラズマガス環境に曝し、評価した。表4に示すインターナルスクリーニング法に基づくそれぞれの%損失を表3に示す。
【0198】
【表3】

【0199】
【表4】

【0200】
実施例15
本明細書中で述べたように、本明細書中の各種の含フッ素エラストマーおよびパーフルオロエラストマー混合物を金属やその他の基材に接着し、成形して、接着品を作製することができる。接着サンプルを作製し、ASTM−D−429のメソッドAに準じて、室温で0.4mm/sec(1インチ/min)の速度で2枚の金属プレートを引っ張り、接着力を記録することによって接着サンプルの評価を行った。本発明に準じた2種のパーフルオロポリマーの混合物を2枚の円形の金属プレート表面の間に成形した。各表面は接着プロセス前に接着剤で処理された。2平方インチ(12.9cm2)の表面積を有する金属プレートは、使用前に36サイズのグリットでサンドブラスト処理された。
【0201】
パーフルオロエラストマーコンパウンドCをFluorinert(登録商標)FC−77に溶解し、表3に示す実施例9の混合された組成物をアルミニウムとスチールの表面に接着した。実施例9の組成物は、ポリマーAを100部につき35部、ポリマーBを100部につき65部およびNPh−AF(100部につき0.9部)を含む。接着剤(パーフルオロエラストマーコンパウンドC)は、ニトリル官能基含有硬化部位含有モノマーを有するパーフルオロエラストマーポリマー(FFKM、100部)、Aerosil(登録商標)R972(FFKM100部につき12部)、2,2−ビス[3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン(硬化剤100部につき1.5部)、Cromophthal Blue A3R(着色剤として100部につき0.5部),Cromophthal Yellow 2RF(着色剤として100部につき0.5部)およびVarox(登録商標)DBPH−50(100部につき1部)を含む。ポリマーFFKM Dにおいて、TFE:PMVE:CSMのモル比は53:44:3であった。
【0202】
コンパウンドCをFC−77に溶解後、混合物を金属基材に塗布し、薄層を形成した。溶液は30分間乾燥され、実施例9の組成物のプレスされたものを360°F(182.2℃)にて30分間で基材上に成形し、次に550°F(287.8℃)にて22時間ポストキュアした。
【0203】
表5に接着力試験の結果を示す。
【0204】
【表5】

【0205】
実施例16〜41
少なくともひとつのパーフルオロエラストマーポリマーを含む各種の組成物を表6に示す。本明細書中の前の実施例で使用されたパーフルオロポリマー(1)および(2)(FFKM(1)および(2))は、実施例16〜33において、単独使用およびFFKM(3)(1.2モル%のシアノ官能性硬化部位含有モノマーを含むDyneon製PFE131TX)、FFKM(4)(1.2モル%のシアノ官能性硬化部位含有モノマーおよび20部のPFAコポリマーを含むDyneon製PFE133TBX)、FFKM(5)(テトラフルオロエチレンモノマーを53.2%、パーフルオロメチルビニルエーテルモノマーを44.1%およびシアノ官能性硬化基を有する硬化部位含有モノマーを2.7モル%含む)およびFFKM(6)(パーオキサイド硬化性官能基を有するSolvay製PFR95HT)などの他のパーフルオロポリマー化合物と組み合わせて用いられる。また、ビスアミノフェノール(BOAP)、Nph−AF、および2種のフルオロケミカル酸性オニウム化合物(1)と(2)などの4種の異なる硬化剤を用いた。これらの実施例では、各種のフィラーと異なるフィラーサイズと同様に異なるポリマーおよび硬化剤について評価した。その結果を表7に示す。使用したフィラーは、約0.03μmの平均粒径を有する硫酸バリウム(日本国の堺化学製Barifine(登録商標)BF20)、酸化チタン(デュポン製Ti−Pure(登録商標))、平均粒径1.7μmの硫酸バリウム(Solvay製Blank Fixe N(登録商標))、50nmの粒径を有するチタン酸バリウム粉末(ニューメキシコ、TPL,Inc.)、100nm未満の粒径を有するチタン酸バリウム(TPL, Inc.製NanOxide(登録商標))、約100nmの粒径のチタン酸バリウムナノ粉末(コネチカット州、アドバンスト マテリアルズ製Inframat(登録商標))、アルミナ粉末(アルミナ AKP G−0625)、アルミナチタニア粉末(Inframat Nanox(登録商標)S2613P)、ニッケル/酸化ニッケル粉末(Quantum Sphere,QSI−Nano(登録商標))、20nmの粒径を有する酸化ニッケル粉末(Inframat)および炭化シリカ(45〜55nm)などである。
【0206】
ClF3耐性を与える組成物の性能に関して、同じポリマー系における異なるフィラーの比較を行った。ClF3は、280℃でClF3とアルゴンの50%混合物として仕込み、それぞれ200標準立方センチ/分で30分の暴露とした。O2およびNF3プラズマ試験は、ダイレクトプラズマ試験(RIE 90分)とした。試験を行ったフィラーのうちのある種のもの、たとえば、Ni/NiO、アルミナやSiCフィラーは他のフィラーほどの効果を示さなかった。最も優れた結果を発現したのはBaSO4とBaTiO3であった。データによるとBaSO4は、ClF3耐性は小さいがより優れた耐圧縮永久歪性を示している。しかしながら、BaSO4を含む組成は、長いT90時間を示した(硬化が遅い)。BaTiO3は総体的に優れたClF3耐性を示した。かかる利点にも関らず、粒径が50〜100nmのチタン酸バリウムを含む組成では圧縮永久歪が好ましい範囲(100〜120%)よりも高いものであった。圧縮永久歪に関するかかる試験ではこのフィラーを、総体的な用途に対する潜在能力を有する候補としては篩い落としたろうが、驚くべきことに表8の実施例34から始まる実施例群で分かるように、同じフィラー、ただしより大きなナノサイズの粒径を有するもの(より大きなサイズが処理中の不純物の一因と考えられているが)を使用すると、改善された圧縮永久歪が与えられ、結果として、応分の圧縮永久歪および強いClF3耐性が達成されるという好ましい形態が与えられる。
【0207】
これらの結果に続いて、さらに、最適な基本組成を与えると思われるパーフルオロエラストマー(1)とパーフルオロエラストマー(2)との50/50の好ましいブレンドを用いて、異なるサイズのチタン酸バリウム(コネチカット州のアドバンスト マテリアルズ製の700nmサイズのものを含む)の効果を実証する試験が行われた。試験に用いられた組成物を表8に、そのデータおよび結果を表9に示す。試験は、表8に示す条件で50/50のClF3とアルゴンおよび100%ClF3プラズマを350℃で使用し、60分で30標準cm3/分を仕込んだ。ダイレクトO2プラズマと共にアルゴン下にリモートNF3プラズマ(800Torr、6時間、50標準cm3/分で仕込んだ)およびダイレクトNF3プラズマ(RIE、90分)を試験に用いた。表9からわかるように、700nmサイズのBaTiO3フィラーは、最適なClF3耐性を維持しながら、優れた圧縮永久歪(30%)を有する組成において予期せぬ驚くべき結果をもたらす。その他の結果も驚くことに優れたものである。静止摩擦、硬化スピードおよびリモートNF3耐性などの他の特性も優れたものである。
【0208】
【表6】

【0209】
【表7】

【0210】
【表8】

【0211】
【表9】

【0212】
上記の形態に対して、その明白な発明の概念から外れることなく変更を加え得ることは、当業者が認めるところである。したがって、この発明は、開示された特定の形態に限定されるものではなく、請求の範囲において定義された本発明の精神および範囲を超えることのない変更をも包含することを意図するものであることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレンと、少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテルとパーフルオロポリマーを架橋させる官能基を有する少なくとも1種の硬化部位含有モノマーとを含む第1の硬化性パーフルオロポリマーおよび
チタン酸バリウム
を含む含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
チタン酸バリウムが、少なくとも200nmの平均粒径を有する請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
チタン酸バリウムが、約300nm〜約1200nmの平均粒径を有する請求項2記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項4】
チタン酸バリウムが、約500nm〜約1000nmの平均粒径を有する請求項2記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項5】
チタン酸バリウムが、少なくとも2種の異なる平均粒径の混合物として存在している請求項2記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項6】
チタン酸バリウムが、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約1〜約200重量部含まれる請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項7】
チタン酸バリウムが、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約1〜約100重量部含まれる請求項6記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項8】
チタン酸バリウムが、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約1〜約50重量部含まれる請求項7記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項9】
チタン酸バリウムが、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約5〜約50重量部含まれる請求項8記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項10】
チタン酸バリウムが、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約5〜約30重量部含まれる請求項9記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項11】
チタン酸バリウムが、硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約10〜約20重量部含まれる請求項10記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項12】
少なくとも1種の硬化部位含有モノマーの官能基が、ニトリル、カルボキシルおよびアルコキシカルボニルよりなる群から選ばれる請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項13】
さらに、少なくとも1種の硬化部位含有モノマーの官能基と反応し得る架橋剤を含んでいる請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項14】
少なくとも1種の硬化部位含有モノマーの官能基が、ニトリル、カルボキシルおよびアルコキシカルボニルよりなる群から選ばれ、架橋剤が、
(i)式(II):
【化1】

(式中、R1基は、同じかまたは異なり、−NH2、−NHR2、−OHまたは−SH;R2は、1価の有機基である)で示される架橋性反応基を少なくとも2個含む化合物、
(ii)式(III):
【化2】

(R3は−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基または単結合手であり、R4は、
【化3】

で示される化合物、
(iv)式(IV):
【化4】

(式中、Rf1は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基)で示される化合物、および
(v)式(V):
【化5】

(式中、nは1〜10の整数)で示される化合物である請求項13記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項15】
さらに、第1の硬化性パーフルオロポリマーと同じかまたは異なっていてもよい第2の硬化性パーフルオロポリマーを含む請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項16】
第2の硬化性パーフルオロポリマーが、テトラフルオロエチレンと、少なくとも1種の第2のパーフルオロアルキルビニルエーテルとパーフルオロポリマーを架橋させる官能基を有する少なくとも1種の第2の硬化部位含有モノマーとからなり、第1のパーフルオロポリマーにおける第1のパーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量が、第2の硬化性パーフルオロポリマーにおける第2のパーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量と異なる請求項15記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項17】
第1の硬化性パーフルオロポリマーにおける第1のパーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量と第2の硬化性パーフルオロポリマーにおける第2のパーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量の差が、約5〜約25モル%である請求項16記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項18】
パーフルオロアルキルビニルエーテルがパーフルオロメチルビニルエーテルである請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項19】
チタン酸バリウムが化学量論比率およびBaTiO3の化学構造を有する請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項20】
少なくとも1種の硬化部位含有モノマーの官能基と反応し得る架橋剤を含み、該官能基が、ニトリル、カルボキシルおよびアルコキシカルボニルよりなる群から選ばれ、組成物中に架橋剤が約0.6〜約0.9重量%存在する請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項21】
請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物から作製される半導体製造装置用シール材。
【請求項22】
(a)(i)テトラフルオロエチレンと、少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテルと第1の硬化性パーフルオロポリマーを架橋させる官能基を有する少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーとを含む第1の硬化性パーフルオロポリマーと(ii)第1の硬化剤との硬化反応により形成された硬化したパーフルオロエラストマーおよび
(b)チタン酸バリウム
を含む硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項23】
さらに、(i)第2の硬化部位含有モノマーを含み、第1の硬化性パーフルオロポリマーと同じかまたは異なっていてもよい第2の硬化性パーフルオロポリマーと(ii)第1の硬化剤と同じかまたは異なっていてもよい硬化剤との硬化反応により形成された第2の硬化したパーフルオロエラストマーを含み、少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーの硬化部位および/または第2の硬化部位含有モノマーの硬化部位がニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる官能基である請求項22記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項24】
第1のパーフルオロエラストマーおよび第2のパーフルオロエラストマーの少なくとも一方がベンゾイミダゾール架橋構造を有する請求項23記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項25】
チタン酸バリウムが化学量論比率およびBaTiO3の化学構造を有する請求項22記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項26】
チタン酸バリウムが、少なくとも200nmの平均粒径を有する請求項22記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項27】
チタン酸バリウムが、約300nm〜約1200nmの平均粒径を有する請求項26記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項28】
チタン酸バリウムが、約500nm〜約1000nmの平均粒径を有する請求項27記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項29】
チタン酸バリウムが、少なくとも2種の異なる平均粒径の混合物として存在する請求項22記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項30】
チタン酸バリウムが、第1の硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約1〜約50重量部含まれる請求項22記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項31】
チタン酸バリウムが、第1の硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約5〜約30重量部含まれる請求項30記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項32】
チタン酸バリウムが、第1の硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約10〜約20重量部含まれる請求項31記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項33】
請求項22記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を含む成形品。
【請求項34】
O−リング、シールまたはガスケットである請求項33記載の成形品。
【請求項35】
金属または金属合金を含む表面に接着される請求項33記載の成形品。
【請求項36】
半導体処理チャンバーのシール用扉の表面に接着される請求項35記載の成形品。
【請求項37】
(a)(i)テトラフルオロエチレンと、パーフルオロアルキルビニルエーテルと硬化部位を有する少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーとを含む第1の硬化性パーフルオロポリマー;
(ii)少なくとも1種の第1の硬化部位含有モノマーの硬化部位を硬化させ得る少なくとも1種の硬化剤;および
(iii)チタン酸バリウムを配合して、硬化性パーフルオロエラストマー組成物を調製し、
(b)パーフルオロエラストマー組成物中の硬化性パーフルオロポリマーを硬化させて
硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項38】
チタン酸バリウムが化学量論比率およびBaTiO3の化学構造を有する請求項37記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項39】
硬化したパーフルオロエラストマー組成物がベンゾイミダゾール架橋構造を有する請求項37記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項40】
硬化性パーフルオロエラストマー組成物を硬化しながら、硬化性パーフルオロエラストマー組成物を成形品に形成することをさらに含む請求項37記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項41】
チタン酸バリウムが、少なくとも200nmの平均粒径を有する請求項37記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項42】
チタン酸バリウムが、約300nm〜約1200nmの平均粒径を有する請求項41記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項43】
チタン酸バリウムが、約500nm〜約1000nmの平均粒径を有する請求項42記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項44】
チタン酸バリウムが、少なくとも2種の異なる平均粒径の混合物として存在する請求項37記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項45】
チタン酸バリウムが、第1の硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約1〜約200重量部含まれる請求項37記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項46】
チタン酸バリウムが、第1の硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約5〜約50重量部含まれる請求項45記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項47】
チタン酸バリウムが、第1の硬化性パーフルオロポリマー100重量部に対して約10〜約20重量部含まれる請求項46記載の硬化したパーフルオロエラストマー組成物を形成する方法。
【請求項48】
高温を使用し、および/またはClF3および/またはNF3ガスまたはプラズマを使用する、シール材を有する処理装置の処理方法において、チタン酸バリウムを含有する硬化したパーフルオロエラストマー組成物を含むシール材を含む処理装置の処理方法。

【公表番号】特表2012−512311(P2012−512311A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542274(P2011−542274)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/067592
【国際公開番号】WO2010/071758
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(505283588)グリーン, ツイード オブ デラウェア, インコーポレイテッド (17)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】