説明

チタン酸バリウム系セラミック粉末およびその製造方法

【課題】副成分の大部分が、BaTiO3粒子の表層に近い部分のみに存在し、粒子中央付近にはほとんど存在しない、表層が改質された構造を有し、容量温度特性が良好で、信頼性(絶縁抵抗(IR)の高温負荷寿命)に優れたセラミックコンデンサを実現することが可能なチタン酸バリウム系セラミック粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】BaTiO3粒子をエッチングすることにより、BaTiO3粒子表層のBaを溶出させて、Ti過剰のBaTiO3粒子とし、このTi過剰のBaTiO3粒子に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(副成分)を添加し、Ti過剰のBaTiO3粒子と反応させる。
溶解した状態の副成分をTi過剰のBaTiO3粒子と反応(固液反応)させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミック粉末およびその製造方法に関し、詳しくは、セラミックコンデンサなどに用いられるチタン酸バリウム系セラミック粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年広く用いられているセラミック電子部品の1つに、積層セラミックコンデンサがある。この積層セラミックコンデンサは、例えば、図2に示すように、積層セラミック素子(セラミック焼結体)10の内部に配設された内部電極12が、誘電体層であるセラミック層11を介して積層され、かつ、積層セラミック素子10の両端面には、交互に逆側の端面に露出した内部電極12と導通するように一対の外部電極13a,13bが配設された構造を有している。
【0003】
そして、このような積層セラミックコンデンサの誘電体層を構成するセラミック焼結体は、容量温度特性が良好で、信頼性(絶縁抵抗(IR)の高温負荷寿命)に優れたセラミックコンデンサを実現する見地から、コアシェル構造を有する結晶粒子からなるセラミック焼結体であることが望ましい。なお、コアシェル構造とは、副成分が、結晶粒子の表層に近い部分のみに存在し、粒子中央付近には存在しない形態(構造)をいう。
【0004】
ところで、副成分を表層付近のみに存在させるためには、まず、焼成条件を制御することが考えられる。しかしながら、焼成条件を制御したとしても、副成分の結晶粒子への固溶の状態は不安定になりやすく、コアシェル構造の粒子間ばらつきが大きくなり、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体材料として十分な信頼性を有するセラミック粉末を得ることは困難である。
【0005】
そこで、このような問題点を解決することが可能なセラミック粉末として、平均粒径が0.1〜1μm、Ba/Ti(モル比)が0.997〜1.003のチタン酸バリウムの粒子表面を、チタン酸バリウム1モルに対して0.0001〜0.1モルの酸化チタンで被覆するようにしたチタン被覆チタン酸バリウム粉体が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
そして、この特許文献1のチタン被覆チタン酸バリウム粉体は、チタンの分散性が高く、チタン酸バリウムに酸化チタンを添加する際に問題となりやすいチタンの偏在を低減して、特性を向上させることができるとされている。
しかしながら、特許文献1の粉体の場合、合成直後のBaTiO3粒子の自然面そのもの(もう少し広く捉えていえば表層)を、均質に改質することはできないという問題点がある。
【0007】
また、副成分がBaTiO3粒子の表面に付着しているだけであることから、焼成時に副成分が結晶粒子に必ずしも均質に固溶せず(均質性としては副成分を粉末で添加するのと同程度であると推測される)、チタンの偏在の問題は必ずしも十分に解消されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−147716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、副成分の大部分が、BaTiO3粒子の表層に近い部分のみに存在し、粒子中央付近にはほとんど存在しないコアシェル構造を有し、容量温度特性が良好で、信頼性(絶縁抵抗(IR)の高温負荷寿命)に優れたセラミックコンデンサを実現することが可能なチタン酸バリウム系セラミック粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のチタン酸バリウム系セラミック粉末の製造方法は、
(a)BaTiO3粒子をエッチングすることにより、BaTiO3粒子表層のBaを溶出させて、Ti過剰のBaTiO3粒子とするエッチング工程と、
(b)前記Ti過剰のBaTiO3粒子に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を添加する化合物添加工程と、
(c)前記(b)の工程で添加した前記化合物を、前記Ti過剰のBaTiO3粒子と反応させる反応工程と
を具備することを特徴としている。
【0011】
また、本発明のチタン酸バリウム系セラミック粉末の製造方法においては、
前記(b)の化合物添加工程を、前記(a)の工程でエッチングしたBaTiO3粒子を水系分散媒に分散させたBaTiO3粒子分散液に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を溶解させる工程とし、 前記(c)の反応工程を、前記BaTiO3粒子分散液に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を溶解させた液を、室温または室温を超える温度で攪拌することにより、前記化合物を前記Ti過剰のBaTiO3粒子と反応させる工程とすることが望ましい。
【0012】
本発明のチタン酸バリウム系セラミック粉末は、Ti過剰のBaTiO3粒子の表面に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物が、少なくとも前記BaTiO3粒子のTiの過剰モル数に相当するモル数となるような割合で、かつ、前記BaTiO3粒子の表面と反応した状態で保持されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明のチタン酸バリウム粉末の製造方法は、BaTiO3粒子をエッチングすることにより、BaTiO3粒子表層のBaを溶出させて、Ti過剰のBaTiO3粒子とし、このTi過剰のBaTiO3粒子に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(副成分)を添加し、Ti過剰のBaTiO3粒子と反応させるようにしているので、副成分を単にBaTiO3粒子の表面に付着させてBaTiO3粒子の表面を被覆する場合に比べて、ペロブスカイト構造を有するBaTiO3粒子の表層を確実に改質することが可能になる。また、エッチングしてBaを溶出させるようにしているため、BaTiO3粒子の表層では、Ba/Ti比がTiリッチとなっており、上記副成分(Ca,Sr,およびMg化合物)が反応しやすい状態になっていることから、副成分をBaTiO3粒子の表面に十分に反応させて、BaTiO3粒子の表層を確実に改質することができる。
【0014】
したがって、本発明の方法により製造されたチタン酸バリウム系セラミック粉末を誘電体材料として用いることにより、容量温度特性が良好で、信頼性(絶縁抵抗(IR)の高温負荷寿命)に優れたセラミックコンデンサを実現することができる。
【0015】
なお、本発明において、BaTiO3粒子をエッチングするためのエッチング液としては種々の酸を用いることができる。そして、酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などを用いることができる。
【0016】
また、エッチングしたBaTiO3粒子を水系分散媒に分散させたBaTiO3粒子分散液に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を溶解させることにより、化合物添加工程を実施し、BaTiO3粒子分散液に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を溶解させた液を、室温または室温を超える温度で攪拌することにより、反応工程を実施するようにした場合、溶解した副成分を、固液反応によりBaTiO3粒子の表面に均一に反応させて、固溶させることが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0017】
すなわち、副成分をBaTiO3粒子に反応させるにあたっては、固相の副成分を同じく固相のBaTiO3粒子の表面に付着させた状態で熱処理を行うことにより反応させる(固体どうしを反応させる)ことも可能であるが、副成分を溶解させた状態で反応させる(固液反応させる)ほうがペロブスカイト構造を有するBaTiO3粒子の自然面のあらゆる部位から均一な反応を進行させることが可能になり、より均質な表層の改質を行うことができる。
【0018】
また、本発明のチタン酸バリウム系セラミック粉末は、複合酸化物であるBaTiO3を一般式ABO3で表した場合におけるBサイトを構成するTiが過剰であるBaTiO3粒子の表面に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(副成分)を、少なくともBaTiO3粒子のTiの過剰モル数に相当するモル数となるような割合で、かつ、BaTiO3粒子の表面と反応した状態で保持させるようにしており、結晶粒子の表層に近い部分のみに副成分が存在する、表層が改質されたBaTiO3粒子となっていることから本発明のチタン酸バリウム系セラミック粉末を用いることにより、容量温度特性が良好で、信頼性(絶縁抵抗(IR)の高温負荷寿命)に優れたセラミックコンデンサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例にかかるチタン酸バリウム系セラミック粉末の製造方法において、BaTiO3粒子の表面に副成分を固液反応させて、表層を改質したBaTiO3粒子を形成する工程を模式的に示す図である。
【図2】本発明のチタン酸バリウム系セラミック粉末を用いて作製される積層セラミックコンデンサの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
(1)BaTiO3粒子のエッチング
まず、平均粒子径が0.30μmのBaTiO3粉末を用意した。そして、このBaTiO3粉末を300g秤量し、別途調製しておいた0.2Nの希塩酸1L中に投入し、室温で、フッ素樹脂(テフロン(登録商標))製の羽根を使って60分間撹拌した。これにより、BaTiO3を一般式ABO3で表した場合におけるAサイトを構成するバリウム(Ba)が溶解して、Bサイトを構成するTiリッチのBaTiO3となる。
【0022】
その後、吸引ろ過を行って、溶出したBa2+イオンを取り除いた。それから、得られた固形分を1Lの純水(洗浄液)に十分に分散させた後、洗浄液はろ別した。この洗浄を5回繰り返して行った後、固形分を分離した。
【0023】
そして、分離した固形分(洗浄済みの固形分)を140℃で十分間乾燥させた後、整粒した。このようにして得たエッチング後のBaTiO3粉末のBa/Ti比(モル比)は0.990であった。
【0024】
(2)副成分の添加、およびBaTiO3粒子の表面への反応
次に、酸によるエッチング後のBaTiO3粉末50gに、純水300gを加えてスラリー化するとともに、このスラリーを撹拌しながら70℃に加熱した。
【0025】
そして、これとは別に、副成分原料であるCa(OH)2粉末を0.160g秤量し、加熱したスラリーに添加して、さらに70℃で1時間撹拌を続けることにより、副成分をBaTiO3粒子に反応させた。
【0026】
その後、150℃に設定したオーブンで、水を蒸発させて除去した後、整粒することにより、BaTiO3粒子の表層が改質されたチタン酸バリウム系セラミック粉末を得た。
【0027】
なお、図1は、実施例1にかかるチタン酸バリウム系セラミック粉末の製造方法において、BaTiO3粒子を酸によりエッチングした後、エッチングされたBaTiO3粒子の表面に副成分を固液反応させて、表層を改質したBaTiO3粒子を形成する工程を模式的に示す図である。
【0028】
この図1に示すように、実施例1においては、原料であるBaTiO3粒子1aをエッチングして、TiリッチのBaTiO3粒子1bとし、このTiリッチのBaTiO3粒子1bに純水を加えてスラリー状にするとともに、このスラリーに副成分原料であるCa(OH)2粉末を添加して溶解させ、加熱、攪拌を続けて、副成分をBaTiO3粒子1bの表面に固液反応させることにより、反応が、BaTiO3粒子1bの自然面のあらゆる部位から均一に進行する。その結果、表面に副成分が均一に反応した、表層が改質されたBaTiO3粒子1が得られる。なお、コアシェル構造を有するBaTiO3粒子1の表層2は、図1に示すように、(Ba,Ca)TiO3となる。
【0029】
このチタン酸バリウム系セラミック粉末は、(Ba,Ca)TiO3で表され、(Ba+Ca)とTiの比率(モル比)が(Ba+Ca)/Ti=1.000であり、かつ、CaとTiの比率(モル比)がCa/Ti=0.01のチタン酸バリウム系セラミック粉末である。
【0030】
(3)誘電体粉末の作製
上記(2)の工程で得た表層が改質された改質粉末(チタン酸バリウム系セラミック粉末)100モル部に対して、
Dy23粉末1.0モル部、
MgCO3粉末1.2モル部、
MnCO3粉末0.2モル部、
BaCO3粉末1.0モル部、
SiO2粉末1.2モル部
を添加し、純水と1mmφのZrO2ボールを用いたボールミルにより粉砕・混合することにより誘電体粉末を作製した。
【0031】
(4)積層セラミックコンデンサの作製
上記(3)の工程で作製した誘電体粉末に、ポリブチラール系バインダと可塑剤を添加し、さらにトルエンとエチルアルコールを加えて、ボールミルによりスラリー化した。そして、このスラリーをシート状に成形して、焼結後の厚みが3.0μmとなるようなセラミックグリーンシートに作製した。
【0032】
そして、このセラミックグリーンシート上に、ニッケルを主成分とする導電ペーストをスクリーン印刷し、焼成後に内部電極となる導電ペーストパターン(内部電極パターン)を形成した。その後、導電ペーストパターンが形成されたセラミックグリーンシートを、導電ペーストパターンが交互に逆側に引き出されるような態様で11枚(有効誘電体層(コンデンサ形成層)が10層となるように)積層し、さらに、上下両面側に、導電ペーストパターンが形成されていないセラミックグリーンシートを外層として積層することにより、積層ブロックを作製した。
【0033】
それから、この積層ブロックを、焼結して緻密化した後の寸法が、長さ3.2mm、幅1.6mmとなるようにカットしてグリーン積層チップを得た。
そして、このグリーン積層チップを、大気中、280℃で熱処理し、バインダを燃焼除去した。引き続き、N2−H2−H2O気流中、1300℃、酸素分圧:10-9.7MPaの条件で2時間の焼成を行い、焼成済みの積層チップ(積層セラミック素子)を得た。
【0034】
それから焼成済みの積層チップの、内部電極が引き出された両端面に、銅を主成分とする導電ペーストを塗布して、800℃で焼き付けることにより外部電極を形成した。これにより、図2に模式的に示すように、積層セラミック素子(セラミック焼結体)10の内部に配設された内部電極12が、誘電体層であるセラミック層11を介して積層され、かつ、積層セラミック素子10の両端面には、交互に逆側の端面に露出した内部電極12と導通するように一対の外部電極13a,13bが配設された構造を有する積層セラミックコンデンサを得た。
【0035】
<実施例2>
(a)エッチングに0.6Nの希塩酸を用いたこと、
(b)エッチング時間を45分としたこと、
(c)エッチング後のBaTiO3粉末に添加する副成分として、Sr(OH)2・8H2O結晶を、表1に示すような割合で添加したこと、すなわち、エッチング後のBaTiO3粉末50gに純水300gを加えてスラリー化し、撹拌しながら70℃に加熱するともに、加熱したスラリーにSr(OH)2・8H2O結晶(1.154g)を添加して、さらに70℃で1時間撹拌を続けたこと
を除いて上記<実施例1>の場合と同じ方法および条件で積層セラミックコンデンサを作製した。
【0036】
なお、この実施例2では酸によるエッチング後のBaTiO3粉末のBa/Ti比(モル比)は0.980であった。そして、溶出したBaのモル数に相当するモル数となるような割合で上記副成分を添加した。
【0037】
<実施例3>
(a)エッチング後のBaTiO3粉末に添加する副成分として、Ca(OH)2粉末と、MgCO3粉末とを、表1に示すような割合で添加したこと、すなわち、エッチング後のBaTiO3粉末50gに純水300gを加えてスラリー化し、撹拌しながら70℃に加熱するともに、加熱したスラリーにCa(OH)2粉末(0.159g)とMgCO3粉末(0.001g)を添加して、さらに70℃で1時間撹拌を続けたこと
を除いて上記<実施例1>の場合と同じ方法および条件で積層セラミックコンデンサを作製した。
【0038】
なお、この実施例3では酸によるエッチング後のBaTiO3粉末のBa/Ti比(モル比)は0.990であった。そして、溶出したBaのモル数に相当するモル数となるような割合で上記副成分を添加した。
【0039】
<実施例4>
(a)エッチングに0.6Nの希塩酸を用いたこと、
(b)エッチング時間を120分としたこと、
(c)エッチング後のBaTiO3粉末に添加する副成分として、Ba(OH)2・8H2O結晶と、Ca(OH)2粉末とを、表1に示すような割合で添加したこと、すなわち、エッチング後のBaTiO3粉末50gに純水300gを加えてスラリー化し、撹拌しながら70℃に加熱するともに、加熱したスラリーにBa(OH)2・8H2O結晶(2.426g)とCa(OH)2粉末(0.081g)を添加して、さらに70℃で1時間撹拌を続けたこと
を除いて上記<実施例1>の場合と同じ方法および条件で積層セラミックコンデンサを作製した。
【0040】
なお、この実施例4では酸によるエッチング後のBaTiO3粉末のBa/Ti比(モル比)は0.960であった。そして、溶出したBaのモル数に相当するモル数となるような割合で上記副成分を添加した。
【0041】
<実施例5>
(a)エッチングの対象となる元のBaTiO3粉末として、(Ba0.95Ca0.05)TiO3を用いたこと、
(b)エッチングに0.6Nの希塩酸を用いたこと、
(c)エッチング時間を45分としたこと、
(d)エッチング後のBaTiO3粉末に添加する副成分として、Ba(OH)2・8H2O結晶と、MgCO3粉末(0.009g)とを、表1に示すような割合で添加したこと、すなわち、エッチング後のBaTiO3粉末50gに純水300gを加えてスラリー化し、撹拌しながら70℃に加熱するともに、加熱したスラリーにBa(OH)2・8H2O結晶(1.395g)とMgCO3粉末(0.009g)を添加して、さらに70℃で1時間撹拌を続けたこと
を除いて上記<実施例1>の場合と同じ方法および条件で積層セラミックコンデンサを作製した。
【0042】
なお、この実施例5では酸によるエッチング後のBaTiO3粉末のBa/Ti比(モル比)は0.980であった。そして、溶出したBaのモル数に相当するモル数となるような割合で上記副成分を添加した。
【0043】
<比較例1>
酸によるエッチングを行うとともに、副成分であるCaCO3を(Ba+Ca)/Ti=1.000、Ca/Ti=0.01となるように添加したが、CaCO3は単にBaTiO3粒子の表面に付着させただけで、上記実施例1の場合のように、副成分をBaTiO3粒子とを反応させることなく、原料粉末として用いた。そして、その他は、上記<実施例1>の場合と同じ方法および条件で積層セラミックコンデンサを作製した。
【0044】
なお、この比較例1では酸によるエッチング後のBaTiO3粉末のBa/Ti比(モル比)は0.960であった。そして、溶出したBaのモル数に相当するモル数となるような割合で上記副成分を添加した。
【0045】
<比較例2>
酸によるエッチングを行わず、副成分の添加による表層の改質も行っていないBaTiO3粉末を原料粉末として用いたこと、を除いて、上記<実施例1>の場合と同じ方法および条件で積層セラミックコンデンサを作製した。
なお、表1に、上述のようにして作製した、<実施例1>〜<実施例5>,<比較例1>および<比較例2>の各試料の作製条件、副成分を反応させた後の未反応異相の有無などをまとめて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
[特性の評価]
上述のようにして作製した<実施例1>〜<実施例5>,<比較例1>および<比較例2>の各積層セラミックコンデンサ(試料)50個について、静電容量を1kHz、1Vrmの条件で、LCRメーターにより測定し、得られた静電容量の値から比誘電率を算出した。
【0048】
また、上記50個の試料のうちの任意の10個について、−55℃〜+125℃における静電容量の温度特性を測定した。そして、+25℃の静電容量(C25)を基準としたときに、125℃における容量変化率が最も大きかったことから、これをΔC125(%)として記録した。なお、ΔC125(%)は、下記の式(1)から求めた値である。
ΔC125(%)={(C125−C25)/C25}×100) ……(1)
【0049】
これらとは別に、50個の積層セラミックコンデンサを、並列接続された2端子冶具にセットし、175℃、40Vの条件で絶縁抵抗の寿命試験を行った。
そして、積層セラミックコンデンサの絶縁抵抗が1MΩまで低下するまでに要する時間を寿命試験における故障寿命とした。
それから、上記寿命試験から得られた故障寿命について、ワイブル解析を行い、平均寿命(MTTF)を求めた。
【0050】
また、作製した積層セラミックコンデンサを、ダイヤモンド・スラリーを用いて研磨し、コンデンサ形成部(誘電体層として機能する部分)を露出させた。そして、25μm□の視野でDyの分布を波長分散型X線分光法にて分析し、検出されたDyの特性X線(L線)の平均カウントと最大カウントから、最大カウント/平均カウント比を算出した。
上記のようにして調べた<実施例1>〜<実施例5>,<比較例1>および<比較例2>の各積層セラミックコンデンサ(試料)の特性を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示すように、実施例1〜5の試料の場合、比誘電率は3000以上と高いにもかかわらず、容量変化率ΔC125が−12.3%(実施例1)〜−13.8%(実施例2)と小さく、EIA規格のX7R特性、すなわち25℃の静電容量を基準とし、−55℃〜+125℃の温度範囲における容量変化率(ΔC125)が±15%以内という特性を、余裕をもって満足することが確認された。
【0053】
また、MTTFも、311時間(実施例2)〜395時間(実施例5)と長いことが確認された。
【0054】
また、Dyの特性X線の最大/平均カウント数比が1.5(実施例1,4,5)〜1.7(実施例3)と小さく、均一な磁器が得られていることが確認された。
これらの効果は、上述のように、BaTiO3粒子の表層が均質に改質されたことによるものである。
【0055】
一方、BaTiO3粒子のエッチングは行ったが、添加した副成分をBaTiO3粒子と反応させる工程を設けていない比較例1の場合、比誘電率が3000未満となり、EIA規格のX7R特性を満足しないことが確認された。
【0056】
さらに、比較例1の場合、容量変化率(ΔC125)が−15.1%と大きくなり、また、MTTFも、80時間(比較例1)と短かく、好ましくないことがわかった。
【0057】
さらに、比較例1の場合、Dyの特性X線の最大/平均カウント数比が4.2と大きくなっており、均一性が低い磁器となっていることが確認された。
【0058】
また、BaTiO3粒子のエッチングを行わず、副成分の添加による表層の改質を行っていない比較例2の場合、比誘電率は3030とEIA規格のX7R特性を満足するが、容量変化率(ΔC125)が−14.8%と大きく、好ましくないことが確認された。
【0059】
さらに、比較例2の場合、MTTFは210時間と短かく、また、Dyの特性X線の最大/平均カウント数比が2.8と大きく、不均質な磁器となっていることが確認された。これは、比較例2のチタン酸バリウム系セラミック粉末の場合、副成分がBaTiO3粒子に付着しているだけであることから、BaTiO3粒子の表面における、副成分とBaTiO3粒子と反応が、不均質に進行したことによるものと考えられる。
【0060】
なお、本発明の方法により製造されるチタン酸バリウム系セラミック粉末は、積層セラミックコンデンサに限らず、LC複合部品などにも適用することが可能である。
【0061】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、本発明のチタン酸バリウム系セラミック粉末を製造する場合の各原料の種類、仮焼工程における昇温速度、Baの副成分による置換割合などに関し、発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1a エッチング前のBaTiO3粒子
1b エッチング後のTiリッチのBaTiO3粒子
1 表層を改質したBaTiO3粒子
2 BaTiO3粒子の表層
11 セラミック層
12 内部電極層
13a,13b 外部電極
10 積層セラミック素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)BaTiO3粒子をエッチングすることにより、BaTiO3粒子表層のBaを溶出させて、Ti過剰のBaTiO3粒子とするエッチング工程と、
(b)前記Ti過剰のBaTiO3粒子に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を添加する化合物添加工程と、
(c)前記(b)の工程で添加した前記化合物を、前記Ti過剰のBaTiO3粒子と反応させる反応工程と
を具備することを特徴とするチタン酸バリウム系セラミック粉末の製造方法。
【請求項2】
前記(b)の化合物添加工程を、前記(a)の工程でエッチングしたBaTiO3粒子を水系分散媒に分散させたBaTiO3粒子分散液に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を溶解させる工程とし、 前記(c)の反応工程を、前記BaTiO3粒子分散液に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を溶解させた液を、室温または室温を超える温度で攪拌することにより、前記化合物を前記Ti過剰のBaTiO3粒子と反応させる工程としたこと
を特徴とする請求項1記載のチタン酸バリウム系セラミック粉末の製造方法。
【請求項3】
Ti過剰のBaTiO3粒子の表面に、Ca,Sr,およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物が、少なくとも前記BaTiO3粒子のTiの過剰モル数に相当するモル数となるような割合で、かつ、前記BaTiO3粒子の表面と反応した状態で保持されていること
を特徴とするチタン酸バリウム系セラミック粉末。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184247(P2011−184247A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51767(P2010−51767)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】