説明

チッピングプライマー塗料組成物および積層塗膜の形成方法

【課題】耐チッピング性、防錆性に優れた塗膜を形成することができ、かつ塗装器具の洗浄性に優れた、チッピングプライマー塗料組成物を提供すること。
【解決手段】水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体、メラミン硬化剤、および顔料を含有するチッピングプライマー塗料組成物であって、この顔料は高導電性カーボンブラックを含み、高導電性カーボンブラックと他の顔料との比率は5:1〜1:30であり、高導電性カーボンブラックの顔料質量濃度(PWC)は0.1〜9.0質量%であり、水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、水酸基価1〜10であり、数平均分子量が40000〜100000であることを特徴とするチッピングプライマー塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング性、防錆性に優れた塗膜を形成することができ、かつ塗装器具の洗浄性に優れた、チッピングプライマー塗料組成物および積層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体外板に塗装される塗膜に求められる性能の1つとして、耐チッピング性に優れていることが挙げられる。チッピングとは、自動車の走行の際に小石または砂利等が塗膜に衝突し、この衝撃によって塗膜が剥がれてしまう現象をいう。このようなチッピングが生じると、この剥がれた部分から塗膜内に水分が侵入し、車体外板に錆が発生するという不具合が生じる。そのため、耐チッピング性および防錆性により優れた塗膜が望まれている。
【0003】
特開平4−363371号公報(特許文献1)には、酸成分をグラフト化したポリオレフィン樹脂(A)とブチル化メラミン樹脂(B)との比率が90〜50:10〜50(重量部)であることを特徴とする耐衝撃性プライマーが記載されている。そしてこの耐衝撃性プライマーは、自動車などの積層塗膜及び耐衝撃性を要する塗膜の衝撃性を向上させることができると記載されている。
【0004】
また、特開2002−249699号公報(特許文献2)には、(a)塗膜形成成分として(i)マレイン化ポリオレフィン樹脂と(ii)ブチル化メラミン樹脂を配合し、(i)と(ii)との質量比が70/30〜50/50の範囲内であるもの、(b)中空シェル構造を有するカーボンブラック、および(c)酸化防止剤を含有するチッピングプライマー塗料組成物が記載されている。このチッピングプライマー塗料組成物は、良好な耐チッピング性をし、かつ、優れた貯蔵安定性等を有すると記載されている。
【0005】
ところで塗装分野においては、近年の省エネルギーおよびコストダウンの要請から、塗装した後に焼付け硬化をせずに次の塗装を所謂ウェットオンウェットで塗装し、その後、複数層を一度に焼付け硬化させる方法が採用されつつある。このような方法の一例として、チッピングプライマー塗料組成物および中塗り塗料組成物をウェットオンウェットで塗装した後に同時に焼き付け硬化を行う塗装方法が挙げられる。また他の一例として、チッピングプライマー塗料組成物、中塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物をウェットオンウェットで塗装した後に同時に焼き付け硬化を行う塗装方法が挙げられる。ところがこのような塗装方法を行ったところ、焼き付け工程が少ないことに由来する、耐チッピング性および防錆性の低下の発生が判明してきた。
【0006】
一方、チッピングプライマーによって形成される塗膜には、小石などの衝突による強い衝撃力が加えられた場合の剥離面積またはその衝撃エネルギーの素地への波及(チッピングダメージといわれる。)を緩和または解消する性能が求められる。この目的のため、チッピングプライマーは、粘性と弾性とを併せ持つ性質を有する樹脂を含むものが多い。ところがこのような性質を有する樹脂は分子量が高く、この分子量の高さの影響のため溶媒に対する溶解性が乏しいものが多い。これにより、チッピングプライマーの塗装に用いた塗装器具の洗浄が困難となるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平4−363371号公報
【特許文献2】特開2002−249699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、耐チッピング性、防錆性に優れた塗膜を形成することができ、かつ塗装器具の洗浄性に優れた、チッピングプライマー塗料組成物を提供することを課題とする。更に本発明は、複数の未硬化の塗膜をウェットオンウェットで形成した後に同時焼き付けさせる塗膜形成方法であっても、良好な耐チッピング性、防錆性を有する積層塗膜の形成方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体、メラミン硬化剤、および顔料を含有するチッピングプライマー塗料組成物であって、
この顔料は高導電性カーボンブラックを含み、高導電性カーボンブラックと他の顔料との比率は5:1〜1:30であり、
高導電性カーボンブラックの顔料質量濃度(PWC)は0.1〜9.0質量%であり、
水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、水酸基価1〜10であり、数平均分子量が40000〜100000であることを特徴とするチッピングプライマー塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0010】
上記高導電性カーボンブラックは、中空シェル構造を有するカーボンブラックであるのが好ましい。
【0011】
本発明はさらに、積層塗膜の形成方法も提供する。積層塗膜の形成方法の1態様として、下記工程:
被塗物の一部または全部に上記のチッピングプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のチッピングプライマー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜を含む被塗物上に中塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を同時に焼き付け硬化させてチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を形成する工程、および、
得られた中塗り塗膜の上に上塗り塗料組成物を塗装し、焼き付け硬化させて積層塗膜を形成する工程、
を包含することを特徴とする方法が挙げられる。
【0012】
積層塗膜の形成方法の他の1態様として、下記工程:
被塗物の一部または全部に上記のチッピングプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のチッピングプライマー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜を含む被塗物上に中塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上に上塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の上塗り塗膜を形成する工程、および
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜を同時に焼き付け硬化させて積層塗膜を形成する工程、
を包含することを特徴とする方法が挙げられる。
【0013】
本発明はまた、上記積層塗膜の形成方法によって得られる積層塗膜も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、水酸基を有し、かつ、特定の数平均分子量を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体、メラミン硬化剤、および顔料を含有し、顔料は高導電性カーボンブラックを含み、高導電性カーボンブラックの顔料質量濃度(PWC)が0.1〜9.0質量%である。そしてこのような構成により、耐チッピング性に優れ、かつ塗装器具の洗浄性にも優れるという有利な効果が達成される。すなわち、水酸基を有し、かつ特定の数平均分子量を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体を用いることによって、洗浄性が向上するとともに、塗料組成物全体の相溶性が向上することによって硬化性が向上し、得られる塗膜が均一化するために、耐チッピング性が向上したと考えられる。特に特定の数平均分子量を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体を用いることによって、分子量分布が比較的狭くなり、分子量を均一化することができる。このことによって、硬化後得られる塗膜の三次元網目構造も均一になり、得られる塗膜の耐チッピング性が向上すると考えられる。本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、さらに、含まれるカーボンブラックとその他の顔料の質量比率を調整することによって、防錆性にも優れた塗膜を形成できるという利点を有している。そしてこのようなチッピングプライマー塗料組成物は、複数の未硬化の塗膜をウェットオンウェットで形成した後に同時焼き付けさせる塗膜形成方法に用いる場合であっても、良好な耐チッピング性、防錆性を有する積層塗膜を形成できるという利点も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体、メラミン硬化剤、および顔料を含有する。以下、各成分について記載する。
【0016】
水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体
本発明のチッピングプライマー塗料組成物に含まれる水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、チッピングプライマー塗膜を形成する樹脂である。
【0017】
水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、スチレンをハードセグメント、エチレン及びブチレンをソフトセグメントとする共重合体である。この水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、エチレン−プロピレン共重合体を対象として行われる過酸化物加硫工程などが不要であるという製造上の利点がある。水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、例えば、スチレンと、エチレンと、ブタジエンとを含むものである共重合体、そしてこれらの共重合体の水素添加物が挙げられる。これらの水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を合わせて用いてもよい。また、本発明の効果である耐チッピング性、塗装器具の洗浄性および防錆性を低下させない程度に、その他の樹脂などを含むことができる。
【0018】
水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体の構造は、特に制限はなく、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても構わない。また水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体として、鎖状、分岐状および架橋状のもの何れも使用することができる。
【0019】
本発明で用いる水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、官能基として水酸基を有する。水酸基は、メラミン硬化剤と硬化反応し、架橋点を形成することができる。また、本発明で用いる水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、官能基としてさらに酸基(酸無水物基を含む)を有することが好ましい。酸基は、メラミン硬化剤との硬化反応を促進して、硬化性を向上させることができる。水酸基および酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、スチレンと、エチレンと、ブタジエンとの共重合体、そしてこれらの共重合体の水素添加物に、マレイン酸無水物、琥珀酸無水物、フマル酸無水物などの酸無水物を共重合することによって調製することができる。合成上の容易性からマレイン酸無水物を用いて共重合するのがより好ましい。
【0020】
本発明で用いる水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体の水酸基価は、1〜10である。水酸基価が1未満である場合は、塗膜硬化性に劣るおそれがある。一方水酸基価が10を超える場合は、得られるチッピングプライマー塗膜の防錆性に劣るおそれがある。水酸基価は3〜7であることが好ましい。
【0021】
本発明で用いる水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体の酸価は1〜15であるのが好ましく、5〜12であるのがより好ましい。酸価が1未満である場合は、塗膜硬化性に劣ることとなる。一方酸価が15を超える場合は、チッピングプライマー塗料組成物の塗装に用いる塗装器具の洗浄性が劣ることとなる。なお、本明細書中における酸価は樹脂酸価(ワニス酸価)であり、単位はすべてmgKOH/gである。
【0022】
本発明で用いる水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、数平均分子量が40000〜100000であるのが好ましい。数平均分子量が40000未満である場合は、良好な耐チッピング性が得られないおそれがある。また数平均分子量が100000を超える場合は、得られるチッピングプライマー塗料組成物の溶解性が低下し、塗装器具の洗浄性が劣ることとなる。なお本明細書における数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の相対値として求めることができる。このような、水酸基を有し、かつ特定の数平均分子量を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体として、具体的には、MEX−5657(坂井化学工業社製)などを挙げることができる。
【0023】
本発明のチッピングプライマー塗料組成物においては、水酸基を有し、かつ、特定の数平均分子量を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体を用いることによって、塗装器具の洗浄性が向上するという利点が得られる。そしてこのような、水酸基を有し、かつ特定の数平均分子量を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体を用いることによって、洗浄性が向上するとともに、塗料組成物全体の相溶性が向上することによって硬化性が向上し、得られる塗膜が均一化するために、耐チッピング性が向上したと考えられる。特に、特定の数平均分子量を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体を用いることによって、分子量分布が比較的狭くなり、分子量を均一化することができる。このことによって、硬化後得られる塗膜の三次元網目構造も均一になり、得られる塗膜の耐チッピング性が向上すると考えられる。
【0024】
メラミン硬化剤
本発明のチッピングプライマー塗料組成物に含まれるメラミン硬化剤は、水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体と反応して塗膜を硬化させる成分である。そしてメラミン硬化剤として、イミノ基含有メラミン樹脂が好ましく用いられる。イミノ基含有メラミン樹脂とは、水素原子が1つ結合しているイミノ型の窒素原子を有するものを意味しており、全ての窒素原子がイミノ型である必要はない。イミノ型でない残りの窒素原子は、水素以外の他の基を有していてもよく、例えばメチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数1〜6のアルキル基などを有していてもよい。本発明においては、イミノ基含有ブチル化メラミン樹脂を用いるのがより好ましい。イミノ基含有ブチル化メラミン樹脂は、水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体との混和性により優れるという利点を有するからである。
【0025】
本発明で用いられるメラミン硬化剤は、数平均分子量が1000〜3000であるのが好ましい。数平均分子量が1000未満である場合は、耐チッピング性が劣るおそれがある。一方、数平均分子量が3000を超える場合は、組成物全体の相溶性が低下するおそれがある。
【0026】
イミノ基含有ブチル化メラミン樹脂は、例えば日本サイテックインダストリーズ(株)社などから購入することができる。
【0027】
本発明のチッピングプライマー塗料組成物に含まれる樹脂成分である、水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体と、メラミン硬化剤との質量比は、80:20〜30:70であるのが好ましく、70:30〜40:60であるのがより好ましい。メラミン硬化剤が上記範囲を下まわる量の場合は、チッピングプライマー塗料組成物の硬化性が低下するおそれがある。一方メラミン硬化剤が上記範囲を超える量の場合は、得られるチッピングプライマー塗膜が堅くなり過ぎ、耐チッピング性が低下するおそれがある。なおここでいう質量比は、固形分質量比を意味する。
【0028】
顔料
本発明のチッピングプライマー塗料組成物は顔料を含む。そしてこの顔料は高導電性カーボンブラックを含む。顔料に高導電性カーボンブラックが含まれることによって、チッピングプライマー塗料組成物の塗装後に塗装される中塗り塗料組成物の良好な塗装性、およびチッピングプライマー塗膜の高い防錆性の両立が確保されることとなる。またカーボンブラックが含まれることによって、塗膜においてチッピングダメージを受けた場合、その箇所が目立たなくなるという利点も有している。
【0029】
チッピングプライマー塗料組成物における、高導電性カーボンブラックの顔料質量濃度(PWC)は0.1〜9.0質量%である。高導電性カーボンブラックの顔料質量濃度が0.1質量%未満である場合は、中塗り塗料組成物の良好な静電塗装性が確保できないおそれがある。一方、高導電性カーボンブラックの顔料質量濃度が9.0質量%を超える場合は、チッピングダメージを受けた箇所の防錆性が劣るという不具合がある。顔料質量濃度(PWC)は0.1〜7.0質量%であることが好ましい。なお顔料質量濃度(PWC:pigment weight content)は、以下の数式より求められる。
PWC(質量%)=[顔料質量(g)/{顔料質量(g)+全樹脂固形分質量(g)}]×100
【0030】
高導電性カーボンブラックは、アセチレンブラックなどといった従来のカーボンブラックと比べて高い導電性を有するカーボンブラックである。高導電性カーボンブラックは、従来のカーボンブラックを樹脂等に添加する場合と比べて、1/2〜1/3またはそれ以下の添加量であっても同程度の体積固有抵抗値まで下げて導電性を付与することができるという性質を有している。
【0031】
本発明においては、高導電性カーボンブラックとして、中空シェル構造を有するカーボンブラックを用いるのが好ましい。このようなカーボンブラックを用いることによって、チッピングプライマー塗膜により高いクッション性を付与することができ、耐チッピング性をより向上させることができるという利点がある。
【0032】
ここで「中空シェル構造」とは、粒子形態の外側に薄く黒鉛結晶が寄り集まった構造をいう。この中空シェル構造によって、高いクッション性に加えて、高い導電性が発揮されることとなる。さらにこの中空シェル構造によって、カーボンブラックがより大きい比表面積を有することとなる。
【0033】
このようなカーボンブラックの代表的な例として、粒状形態であるケッチェンブラック・インターナショナル社製の「ケッチェンブラックEC」などが挙げられる。
【0034】
本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、導電性カーボンブラック以外にも他の顔料を含有する。他の顔料として、例えば、タルク、クレー、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸マグネシウム、シリカ等の体質顔料;ストロンチウムクロメート等クロム系顔料、リン酸亜鉛等のリン酸塩系顔料、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミ等のモリブデン系顔料などの防錆顔料;および酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料等の着色顔料;などが挙げられる。高導電性カーボンブラックと他の顔料との比率は5:1〜1:30であるのが好ましい。高導電性カーボンブラックの量がこの比率範囲に満たない場合は、中塗り塗料組成物の良好な塗装性が確保できないおそれがある。一方、高導電性カーボンブラックの量がこの比率範囲を超える場合は、チッピングダメージを受けた箇所の防錆性が劣るという不具合が生じるおそれがある。
【0035】
他の成分
本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、上記成分のほかに、増粘剤として架橋樹脂粒子、有機ベントナイト、脂肪酸ポリアマイド、ポリエチレンワックス等;その他の添加剤として酸触媒、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、レベリング剤、顔料分散剤、可塑剤、消泡剤等を使用してもよい。これらの添加剤は、塗料中の樹脂固形分に対して2.0質量%以下の範囲で含まれ得る。
【0036】
また本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体およびメラミン硬化剤の他に、他の塗膜形成樹脂を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂として、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂などが挙げられる。
【0037】
チッピングプライマー塗料組成物の調製
本発明のチッピングプライマー塗料組成物の製造方法としては、塗料組成物の塗料形態に従って製造することができ、例えば、上記の水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体、メラミン硬化剤、高導電性カーボンブラックを含む顔料、溶媒、そして所望により顔料分散剤およびその他の塗膜形成性樹脂等の配合物を混合する等の当業者に周知の方法を使用することができる。チッピングプライマー塗料組成物の調製において、ペイントシェーカー、ディゾルバー、ボールミル、サンドグラインドミル、ニーダー等の装置を用いてもよい。これらを用いることによって各成分を良好に分散、混合することができる。
【0038】
上記成分を溶解または分散する溶剤として、有機溶媒(例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソなどの芳香族系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの脂肪族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;など)を用いることができる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を混合して用いてもよい。
【0039】
本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、自動車のボンネット先端部、フロント、フェンダー、リアフェンダー、タイヤハウス周り、ルーフ先端部、ピラー部分などの塗装に好適に用いられる。これらの部分にこのチッピングプライマー塗料組成物を塗装することによって、耐チッピング性に優れた自動車を製造することができる。なお、本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、これらの部分以外にも塗装することができ、例えば自動車外装全体に塗装することもできる。本発明のチッピングプライマー塗料組成物はさらに、ガードレール、道路標識などの塗装にも用いることができる。
【0040】
積層塗膜形成方法
本発明のチッピングプライマー塗料組成物を用いて、積層塗膜を形成することができる。積層塗膜の形成方法の一例として、
被塗物の一部または全部にチッピングプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のチッピングプライマー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜を含んだ被塗物の上にウェットオンウェットで中塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、および
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を同時に焼き付け硬化させてチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を形成する工程、
得られた中塗り塗膜の上に上塗り塗料を塗装し、焼き付け硬化させて積層塗膜を形成する工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0041】
被塗物としては特に限定されず、例えば、金属、プラスチック、発泡体等が挙げられる。これらの被塗物のうち、カチオン電着塗装可能な金属基材が特に好適に使用される。金属基材としては特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等の金属単体、並びに、これらの金属単体を含む合金及び鋳造物が挙げられ、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車の車体及び部品が挙げられる。
【0042】
これらの金属基材を被塗物として用いる場合は、リン酸塩、クロム酸塩等で予め化成処理されているのが特に好ましい。そしてこのような化成処理がなされた金属基材上に電着塗膜が形成されているのが好ましい。電着塗料組成物としては、カチオン型およびアニオン型の何れも使用することができるが、カチオン型電着塗料組成物を用いることにより防食性においてより優れた塗膜を形成することができるため好ましい。カチオン型電着塗料組成物は通常用いられる塗料組成物を用いることができる。
【0043】
このように必要に応じて化成皮膜および電着塗膜が形成された被塗物の一部または全部に、チッピングプライマー塗料組成物を塗装してチッピングプライマー塗膜を形成する。本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、被塗物に対して耐チッピング性を付与するものであるから、必ずしも被塗物の全部に塗装する必要はなく、小石等が衝突する可能性がある被塗物の一部に塗装しても良い。
【0044】
チッピングプライマー塗料組成物は、必要に応じて溶剤を用いて希釈してもよい。本発明のチッピングプライマー塗料組成物の塗装時の全固形分量は、5〜20質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、粘性が低すぎて反転、なじみ、ムラ等の外観不良が発生するおそれがある。一方20質量%を超えると、粘性が高すぎて塗膜外観が低下するおそれがある。塗装時の全固形分量は好ましくは7〜15質量%である。チッピングプライマー塗料組成物の塗装は、噴霧、塗布等の方法により、被塗物に対して行われる。塗装時の粘度はフォードカップを用いて測定することができる。チッピングプライマー塗料組成物の塗装時の粘度は、室温(20℃)においてNo.3のフォードカップで10〜20秒であるのが好ましく、13〜18秒であるのがさらに好ましい。
【0045】
チッピングプライマー塗料組成物の塗装に用いることができる塗装機として、霧化式塗装機を用いることが好ましい。このような塗装機として、例えばエアースプレー塗装機及びエアー霧化式若しくは回転式静電塗装機などが挙げられる。チッピングプライマー塗膜の厚さは、乾燥膜厚で2〜15μmにするのが好ましい。チッピングプライマー塗膜の厚さが2μm未満では耐チッピング性が劣ることとなるおそれがある。また15μmを超す厚さとすると、外観不良となるおそれがある。より好ましいチッピングプライマー塗膜の厚さは乾燥膜厚として5〜10μmである。
【0046】
未硬化のチッピングプライマー塗膜の形成後、加熱硬化させることなく次工程の中塗り塗膜の形成工程に移る。ここで、中塗り塗膜を形成する前に、必要に応じて加熱硬化(焼付け)処理で用いられる温度より低い温度でプレヒートを行なってもよい。
【0047】
中塗り塗膜の形成に用いる中塗り塗料組成物は、通常用いられている中塗り塗料組成物を用いることができる。中塗り塗料組成物としては、水性塗料組成物であってもよく、また溶剤型塗料組成物であってもよい。これらの塗料組成物の成分としては、中塗り樹脂成分、顔料、そして水性溶媒および/または有機溶媒が挙げられる。中塗り樹脂成分は、中塗り塗料樹脂および、必要に応じて中塗り硬化剤、から構成される。水性溶媒、有機溶媒は、上記で例示したものを、同様に使用することができる。
【0048】
中塗り塗料樹脂として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂などが挙げられる。これらの樹脂のうち、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましく使用される。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
中塗り塗料樹脂には一般に、硬化可能なタイプとラッカータイプとがあるが、硬化可能なタイプのものが好ましく使用される。硬化可能なタイプを使用する場合は、中塗り塗料樹脂と併せて、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、オキサゾリン化合物およびカルボジイミド化合物などの中塗り塗料硬化剤を使用する。この中塗り塗料硬化剤を、中塗り樹脂成分中に含めて、後に加熱下または常温下において硬化反応を進行させることができる。また、硬化可能なタイプの中塗り塗料樹脂と、硬化可能ではないタイプのものとを併用することもできる。
【0050】
中塗り塗料硬化剤が含まれる場合、塗料固形分中における中塗り塗料樹脂と中塗り塗料硬化剤との好ましい質量割合は、90/10〜50/50、より好ましくは85/15〜60/40である。中塗り塗料樹脂と中塗り塗料硬化剤との質量割合が90/10から外れる程、中塗り塗料硬化剤の量が少ない場合は、塗膜中の十分な架橋が得られないことがある。一方、この割合が50/50から外れる程、中塗り塗料硬化剤の量が多い場合は、塗料組成物組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなり、塗膜外観が悪くなる恐れがある。
【0051】
中塗り塗料組成物に含まれる顔料として、バライト粉、沈殿性硫酸バリウム、炭酸バリウム、石膏、クレー、シリカ、タルク、炭酸マグネシウム、アルミナホワイトなどの体質顔料、および着色顔料などが挙げられる。着色顔料として、例えば、ベンズイミダゾロン顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジコ系顔料、ベリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料、カーボンブラック等の有機顔料、あるいは黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン等の無機顔料が挙げられる。顔料の量は、所望の性能および色相を発現するのに合わせて任意に設定できる。これら顔料は、1種のみ単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。
【0052】
中塗り塗料組成物の塗料固形分に対する顔料の濃度(PWC)は、下限10質量%上限50質量%の範囲であるのが好ましい。上記上限は30質量%であることがより好ましい。また、中塗り塗料組成物の固形分濃度は、下限35質量%上限65質量%の範囲が好ましい。
【0053】
中塗り塗料組成物は、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜添加することができる。これらの添加剤を、中塗り樹脂成分100質量部(固形分基準)に対して15質量部以下の割合で配合することにより、塗料組成物や塗膜の性能を改善することができる。
【0054】
中塗り塗膜を形成する方法として、スプレー法、ロールコーター法などを用いて中塗り塗料組成物を塗装する方法が挙げられる。塗装方法として具体的には、「リアクトガン」といわれる静電塗装機や、「マイクロ・マイクロ(μμ)ベル」、「マイクロ(μ)ベル」、「メタベル」などといわれる回転霧化式静電塗装機を用いて塗装するのが好ましい。この中で、回転霧化式の静電塗装機を用いて塗装するのが、特に好ましい。中塗り塗膜の好ましい乾燥膜厚は5〜80μmであり、10〜50μmがより好ましい。
【0055】
こうして形成された未硬化のチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜の2層の塗膜を、120〜160℃で所定時間焼付けて硬化させて、被塗物の上にチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を形成することができる。
【0056】
この方法では、チッピングプライマー塗料組成物および中塗り塗料組成物が、この順番に、それぞれウェットオンウェットで塗装される。つまり未硬化の塗膜が順次形成される。なお本発明において「未硬化」とは、完全に硬化していない状態をいい、プレヒートが行なわれた塗膜の状態も含むものである。「プレヒート」は、加熱硬化(焼付け)処理で用いられる温度より低い温度である室温〜100℃で、1〜10分間放置または加熱することにより、行なうことができる。未硬化のチッピングプライマー塗膜を形成した後にプレヒートを行なうことによって、最終的により良好な仕上り外観を有する積層塗膜を得ることができる。
【0057】
こうしてチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を形成した後、さらに次工程の上塗り塗膜の形成工程に移る。上塗り塗膜の形成に用いる上塗り塗料組成物は、通常用いられている上塗り塗料組成物を用いることができる。上塗り塗料組成物として、上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物が挙げられる。上塗り塗料組成物として、上塗りベース塗料組成物または上塗りクリヤー塗料組成物の何れかのみを用いてもよく、また上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物の両方をこの順番で用いてもよい。
【0058】
上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物としては特に限定されない。例えば、上塗りベース塗料組成物として、上塗りベース樹脂成分、光輝性顔料および/または着色顔料、体質顔料および溶媒を含有する、光輝性塗料組成物またはソリッド塗料組成物を用いることができる。この上塗りベース塗料組成物は、水分散系または有機溶媒分散系を含む、水系または有機溶媒系のものである。
【0059】
これらの上塗りベース塗料組成物に含まれる上塗りベース樹脂成分は、上塗りベース塗料樹脂と必要に応じて上塗りベース塗料硬化剤とから構成される。上記上塗りベース塗料組成物に含まれる上塗りベース樹脂成分(上塗りベース塗料樹脂、上塗りベース塗料硬化剤)、着色顔料、体質顔料、各種添加剤および溶媒としては、上記中塗り塗料組成物に関して記載したものをいずれも使用できる。上塗りベース樹脂成分を使用して、光輝性上塗りベース塗料組成物では光輝性顔料と必要に応じて着色顔料が、ソリッド上塗りベース塗料組成物では着色顔料が、分散される。
【0060】
上塗りベース塗料樹脂として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂およびこれらの変性樹脂から選ばれた少なくとも1種の塗膜形成性樹脂が使用できる。上塗りベース塗料硬化剤として、上記の中塗り塗料硬化剤を用いることができ、なかでもエーテル化メラミン樹脂を用いるのが好ましい。エーテル化メラミン樹脂は、メラミンをメタノールやブタノール等のアルコールでエーテル化することにより得られる。上塗りベース樹脂成分である上塗りベース塗料樹脂および上塗りベース塗料硬化剤の好ましい組合せとして、アクリル樹脂・メラミン樹脂系が挙げられる。この場合アクリル樹脂としては、酸価10〜200、水酸基価30〜200、および数平均分子量2000〜50000のものが好ましい。このような上塗りベース塗料組成物は当業者に公知の方法によって調製することができる。
【0061】
上塗りクリヤー塗料組成物は、上塗りクリヤー樹脂成分、各種添加剤および溶媒を含有するクリヤー塗料組成物から形成される。上記上塗りクリヤー塗料組成物は、水分散系および有機溶媒分散系を含む、水系または有機溶媒系のものである。
【0062】
これらの上塗りクリヤー塗料組成物に含まれる上塗りクリヤー樹脂成分は、上塗りクリヤー塗料樹脂と必要に応じて上塗りクリヤー塗料硬化剤とから構成される。上記上塗りクリヤー塗料組成物に含まれる上塗りクリヤー樹脂成分(上塗りクリヤー塗料樹脂、上塗りクリヤー塗料硬化剤)、各種添加剤および有機溶媒としては、上記中塗り塗料組成物に関して記載したものがいずれも使用できる。
【0063】
上塗りクリヤー樹脂成分である上塗りクリヤー塗料樹脂および上塗りクリヤー塗料硬化剤の好ましい組合せとして、アクリル樹脂・メラミン樹脂系の組み合わせ、そしてカルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂の組み合わせ、などが挙げられる。これらの上塗りクリヤー塗料組成物はいずれも当業者に公知のものを用いることができる。この上塗りクリヤー塗料組成物は、透明性を失わない程度に着色顔料を含んでいてもよい。
【0064】
上塗り塗膜として、いわゆるソリッド塗膜と呼ばれる上塗りベース塗膜のみを形成する場合は、中塗り塗膜上に、上塗りベース塗料組成物を塗装する。上塗り塗膜として上塗りクリヤー塗膜のみを形成する場合は、中塗り塗膜上に、上塗りクリヤー塗料組成物を塗装する。そして上塗り塗膜として上塗りベース塗膜および上塗りクリヤー塗膜を形成する場合は、中塗り塗膜上に、上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物をウェットオンウェット方式で順次塗装する。なお、上記ウェットオンウェット方式で順次塗装する場合は、最終的な積層塗膜の仕上がり外観の点から、上記上塗りクリヤー塗料組成物を塗装する前に上記のプレヒートを行うことが好ましい。
【0065】
これらの上塗り塗料組成物の塗装方法は特に限定されない。より好ましくは、上塗りベース塗料組成物を自動車車体等に対して塗装する場合の具体的な塗装方法として、エアー静電スプレーによる多ステージ塗装、好ましくは2ステージ塗装を挙げることができる。この塗装方法を行なうことによって、意匠性を高めることができる。または、上塗りベース塗料組成物の塗装方法として、エアー静電塗装機と上記の回転式霧化式静電塗装機とを組合せた塗装方法が挙げられる。上塗りベース塗膜の乾燥膜厚は、1コートにつき5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。上塗りクリヤー塗料組成物の具体的な塗装方法として、上記の回転霧化式静電塗装機を用いた塗装方法等を挙げることができる。上塗りクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、1コートにつき20〜50μmが好ましく、25〜40μmがより好ましい。こうして上塗り塗膜を形成することによって、意匠性により優れた積層塗膜を得ることができる。
【0066】
この方法においては、チッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜上の、未硬化の上塗りベース塗膜および/または上塗りクリヤー塗膜を、120〜160℃で所定時間焼き付けて硬化させることによって、積層塗膜を形成することができる。
【0067】
次に、本発明のチッピングプライマー塗料組成物を用いて積層塗膜を形成する方法の他の一例を挙げる。積層塗膜を形成する方法の他の一例として、
被塗物の一部または全部にチッピングプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のチッピングプライマー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜を含む被塗物の上に中塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上に上塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の上塗り塗膜を形成する工程、および
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0068】
この方法では、チッピングプライマー塗料組成物および中塗り塗料組成物を、上述の方法にて、この順番にそれぞれウェットオンウェットで塗装した後に焼き付け硬化させることなく、これらの未硬化の塗膜に対してさらに上塗り塗料組成物を塗装する方法である。上塗り塗料組成物として、上塗りベース塗料組成物および/または上塗りクリヤー塗料組成物が挙げられる。上塗り塗料組成物として、上塗りベース塗料組成物または上塗りクリヤー塗料組成物の何れかのみを用いてもよく、また上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物の両方をこの順番で用いてもよい。上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物として、上記の上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物を用いることができる。
【0069】
この積層塗膜形成方法においては、上記と同様に未硬化のチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を形成した後、これらの塗膜を加熱硬化させることなく次工程の上塗り塗膜の形成工程に移る。この場合において、上塗り塗膜を形成する前に、加熱硬化(焼付け)処理で用いられる温度より低い温度でプレヒートを行なってもよい。
【0070】
上塗り塗膜として、いわゆるソリッド塗膜と呼ばれる上塗りベース塗膜のみを形成する場合は、未硬化の中塗り塗膜上に、上塗りベース塗料組成物を塗装する。上塗り塗膜として上塗りクリヤー塗膜のみを形成する場合は、未硬化の中塗り塗膜上に、上塗りクリヤー塗料組成物を塗装する。そして上塗り塗膜として上塗りベース塗膜および上塗りクリヤー塗膜を形成する場合は、未硬化の中塗り塗膜上に、上塗りベース塗料組成物および上塗りベース塗料組成物をウェットオンウェット方式で順次塗装する。
【0071】
これらの上塗り塗料組成物の塗装方法は特に限定されず、上塗りベース塗料組成物の塗装方法および上塗りクリヤー塗料組成物の塗装方法としては、上述の方法を挙げることができる。こうして上塗り塗膜を形成することによって、意匠性がより向上する。
【0072】
この方法においては、チッピングプライマー塗膜、中塗り塗膜および上塗りベース塗膜および/または上塗りクリヤー塗膜から構成される未硬化の3層または4層の塗膜を、120〜160℃で所定時間焼き付けて硬化させることによって、積層塗膜を得ることができる。
【0073】
このようにして得られる積層塗膜は、耐チッピング性に優れ、かつチッピングダメージを受けた箇所の防錆性にも優れるという利点を有している。本発明の方法は、良好な耐チッピング性、防錆性を有する積層塗膜を、省エネルギーおよびコストダウンの要請に対応した焼付け硬化が少ない塗装方法によって形成できるという利点も有している。
【実施例】
【0074】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0075】
実施例1
水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体(坂井化学工業社製、MEX−5657、数平均分子量60000、粘度91mPa・s、不揮発分15.4%、水酸基価5、酸価5.3)42質量部、
イミノ基含有ブチル化メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ社製、XM−1992、数平均分子量1200、不揮発分64%)28質量部、
高導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC)1質量部、
二酸化チタン(堺化学工業(株)社製、チタンR−650)14.5質量部、
硫酸バリウム(堺化学工業(株)社製、バリエースB−100)14.5質量部、
を、トルエン13質量部およびソルベッソ13質量部中に加え、卓上SGミルで1時間分散することにより、チッピングプライマー塗料組成物を調製した。調製後の塗料粘度は16秒(#3フォードカップ/20℃)であった。チッピングプライマー塗料組成物の組成および配合量を表1に示す。なお表1および2中の各組成の量は、固形分質量を示す。
【0076】
実施例2および比較例1〜7
各成分の組成および配合量を表1または表2に記載とおり変更して、実施例1と同様にチッピングプライマー塗料組成物を調製した。
【0077】
積層塗膜を有する鋼板試料の作成
厚さ0.8mmのリン酸亜鉛処理したSPC−1ダル鋼板上に、カチオン電着塗料(日本ペイント社製、カチオン型電着塗料「パワートップU−50」(硬度2H;グレー色))を用いて乾燥膜厚約25μmになるように塗装した後、170℃で30分間焼き付けることにより電着塗膜を形成した。
【0078】
実施例または比較例のチッピングプライマー塗料組成物の塗料粘度を、希釈剤としてトルエン/ソルベッソ100/n−ブタノール=6/2/1を用いて、16秒(#3フォードカップ/20℃)に予め調整した。電着塗膜上に、チッピングプライマー塗料組成物を、乾燥膜厚が5μmとなるようにスプレー塗装した。5分間セッティング後、「オルガ−TO−H880−2 グレー」(日本ペイント社製中塗り塗料組成物)を、乾燥膜厚約40μmとなるようにスプレー塗装し、約7分間セッティングした。その後、「オルガ−TO−H600−2レッドマイカ」(日本ペイント社製上塗りベース塗料組成物)を乾燥膜厚が約15μmとなるように塗装した後、ウェットオンウェット方式で「マックフローO−1600−1」(日本ペイント社製上塗りクリヤー塗料組成物)を乾燥膜厚約40μmとなるように塗装した。約7分間セッティングした後、140℃で30分間焼き付けることにより、積層塗膜を得た。
【0079】
こうして形成された鋼板試料上の積層塗膜の模式的な断面図を図1に示す。図1に示すように、被塗物であるダル鋼板1の上に電着塗膜2が形成され、この電着塗膜2上にチッピングプライマー層3が形成されている。チッピングプライマー3上に、中塗り層4と、メタリックベース塗膜とクリヤー塗膜から構成される複合塗膜形態の上塗り層5が順次形成されている。
【0080】
評価試験
1.耐チッピング性試験
上記で作成された積層塗膜を有する鋼板試料を、グラベロテスター(スガ試験機社製)を用いて、テスト温度−20℃にて、7号砕石50gを35cmの距離から3.5kgf/cmの空気圧で、塗膜に対して45度の角度で衝突させた。水洗乾燥後、ニチバン社製布粘着テープを用いて剥離テストを行い、その後、塗膜の剥離の程度を目視により観察した。評価結果を表1および表2に示す。なお、評価基準は以下の通りとした。
○:剥離面積が小さく、剥離の頻度も少ない
△:剥離面積は小さいが、剥離の頻度が多い
×:剥離面積は大きく、剥離頻度も多い
【0081】
2.防錆性試験
上記1.耐チッピング性試験を行った鋼板試料を、塩水浸漬試験(5%食塩水、55℃)を240時間行い、ふくれおよび錆が生じた部分の個数を数えた。
【0082】
3.塗装器具洗浄性
ブリキ板(50mm×100mm、厚さ0.3mm)に、チッピングプライマー塗料組成物をスプレー塗装した。得られた試験片を室温で2時間乾燥させた。この試験片をN−1315シンナー中に10秒間浸漬して取り出し、この浸漬を4回行った。浸漬により塗膜が剥がれた部分の質量を減少率(%)として測定した。乾燥により得られた塗膜の減少率が大きいほど、塗装器具洗浄性に優れていると評価できる。この結果を表1および表2に示す。
【0083】



























【表1】

【0084】
【表2】

(表中「−」は配合しなかったことを表す。)
1) 坂井化学工業社製、商品名「MEX−5657」数平均分子量60000、酸価5.3、水酸基価5
2) 坂井化学工業社製、商品名「BOR−904」、数平均分子量670000以上、酸価3
3) 日本サイテックインダストリーズ社製、商品名「XM−1992」、数平均分子量1200、不揮発分64%
4) 三井化学社製、商品名「U−20N−60」、数平均分子量1700、不揮発分60%
5) ケッチェンブラック・インターナショナル社製、商品名「ケッチェンブラックEC」
6) 丸尾カルシウム社製、商品名「LMR−100」
7) 堺化学工業社製、商品名「チタンR−650」
8) 堺化学工業社製、商品名「バリエースB−100」
【0085】
表1および2に示されるとおり、実施例のチッピングプライマー塗料組成物を用いて得られた塗膜は、耐チッピング性に優れ、かつチッピングダメージを受けた箇所の防錆性にも優れることが確認された。さらに実施例のチッピングプライマー塗料組成物は、塗装器具洗浄性にも優れていることが確認された。一方、カーボンブラックのPWCが9.0質量%を超える比較例1〜4のチッピングプライマー塗料組成物は何れもチッピングダメージを受けた箇所の防錆性が劣っており、また塗膜形成樹脂としてエチレン−プロピレン共重合体を用いた比較例5〜7はいずれも塗装器具洗浄性が劣っており、塗装器具洗浄性と防錆性との両立はできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のチッピングプライマー塗料組成物を用いることによって、耐チッピング性に優れ、かつチッピングダメージを受けた箇所の防錆性にも優れる塗膜を形成することができる。さらに本発明のチッピングプライマー塗料組成物は、塗装器具の洗浄性も優れている。さらに本発明の積層塗膜の形成方法は、良好な耐チッピング性、防錆性を有する積層塗膜を、省エネルギーおよびコストダウンの要請に対応した焼付け硬化が少ない塗装方法によって形成できるという利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例で形成された積層塗膜の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1…基材、2…電着塗膜、3…チッピングプライマー塗膜、4…中塗り塗膜、5…上塗り塗膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体、メラミン硬化剤、および顔料を含有するチッピングプライマー塗料組成物であって、
該顔料は高導電性カーボンブラックを含み、高導電性カーボンブラックと他の顔料との比率は5:1〜1:30であり、
高導電性カーボンブラックの顔料質量濃度(PWC)は0.1〜9.0質量%であり、
水酸基を有するスチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、水酸基価1〜10であり、数平均分子量が40000〜100000であることを特徴とするチッピングプライマー塗料組成物。
【請求項2】
前記高導電性カーボンブラックは、中空シェル構造を有するカーボンブラックである、請求項1に記載のチッピングプライマー塗料組成物。
【請求項3】
被塗物の一部または全部に請求項1または2に記載のチッピングプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のチッピングプライマー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜を含む被塗物上に中塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を同時に焼き付け硬化させてチッピングプライマー塗膜および中塗り塗膜を形成する工程、および、
得られた中塗り塗膜の上に上塗り塗料組成物を塗装し、焼き付け硬化させて積層塗膜を形成する工程、
を包含することを特徴とする、積層塗膜の形成方法。
【請求項4】
被塗物の一部または全部に請求項1または2に記載のチッピングプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のチッピングプライマー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜を含む被塗物上に中塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上に上塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の上塗り塗膜を形成する工程、および
得られた未硬化のチッピングプライマー塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜を同時に焼き付け硬化させて積層塗膜を形成する工程、
を包含することを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の積層塗膜の形成方法によって得られる積層塗膜。

【図1】
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【公開番号】特開2009−102452(P2009−102452A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272664(P2007−272664)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】