説明

チプラナビルの合成における中間体のエナンチオ選択的水素化

本発明は特別な水素化触媒の存在下の式(II)の化合物のエナンチオ選択的水素化による一般式(I)の化合物の製造方法に関する。
【化1】


本発明は高いエナンチオ選択性を特徴とし、重要な薬物の物質クラスが簡単な様式で得られることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチプラナビルの合成における中間体の調製方法、特にエナンチオ選択的水素化に関する。この方法を使用して、医薬有効な化合物の製造のための出発化合物として使用し得る中間体生成物を容易に得ることが可能である。
【背景技術】
【0002】
キラリティーは多くの生物学的プロセスに重要な役割を果たし、また例えば、従来開発された薬物のうちの80%より多くがキラル特性を有するという事実により証明されるように、医薬工業について増大する重要性を獲得していた。種々の鏡像体は生体中で全く異なる作用を発生することがあり、その結果、唯一の鏡像体形態が有効であり、投与される。例えば、キラル成分がアミノ酸である酵素は生体中で個々の鏡像体形態を区別することができる。
特に、5,6-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-ピロンの鏡像体が幾つかの医薬有効化合物中の重要な構造要素であり、5,6-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-ピロン-スルホンアミドのカテゴリーが特に重要である。こうして、チプラナビル(PNU-140690)として知られている、〔R-(R*,R*)〕-N-〔3-〔1-〔5,6-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-オキソ-6-(2-フェニルエチル)-6-プロピル-2H-ピラン-3-イル〕プロピル〕フェニル〕-5-(トリフルオロメチル)-2-ピリジンスルホンアミドは、HIVを治療するのに使用され、下記の構造を有するプロテアーゼインヒビターである。
【0003】
【化1】

【0004】
これらの化合物及びその他の構造上似ている化合物が従来技術により知られている(例えば、J. Med. Chem. 1998, 41, 3467-3476を参照のこと)。
それ故、特に上記の化合物の群に関して、できるだけ光学異性体上純粋である活性物資を調製するために、合成の選択的方法を開発することが必須である。これはキラル化合物の多数の調製方法、例えば、結晶化方法又はクロマトグラフィー方法の如き分離方法をもたらす。
非選択的合成は、例えば、化学的方法又は酵素方法による2種の鏡像体の最終ラセミ体開裂の形態の、光学異性体を分離する付加的な工程を必要とする。こうして、唯一の光学異性体(鏡像体又はジアステレオマー)をもたらす選択的合成が有利であることは明白である。こうして、所謂不斉合成がますます使用され、即ち、唯一の光学異性体が反応中に生成されることが好ましい。エナンチオ選択的反応又はジアステレオ選択的反応が実験規模の合成に使用されるだけでなく、工業規模の製造にますます使用される。
光学異性体を優先的に合成する一つの特に優れた別法はキラル触媒によるエナンチオ選択的又はジアステレオ選択的触媒作用である。触媒は一つ以上のキラルリガンドとの遷移金属錯体である。可能なキラルリガンドの数は殆ど想像できない程大きく、それ故、金属と一種以上のリガンドの組み合わせの数はより大きくなる。しかしながら、この変化の範囲は製造されるべきである生成物についての最適の組み合わせに容易に到達することを困難にする。
新規リガンド系の開発は経済的な要件、例えば、安価かつ有効な入手可能性並びに選択性、収率及び変動に関する高性能を満足することに関して、特に工業規模の使用について、多大の関心がある。
不斉触媒作用は幾つかの工業プロセスについて重要であり、なかでも、アミノ酸及びキラルアミンの製造並びにケトン還元に使用される。例えば、デグッサ社はL-アミノ酸及びD-アミノ酸を調製するために、α-ケト酸の還元的アミン化に使用される触媒DeguPhosを開発していた。DuPhos(〔(1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)-1,2-ビス((2R,5R)-ジメチル-ホスホラノ)ベンゼン〕テトラフルオロボレート)がアミノ酸の不斉加水分解に使用されることが知られている。
【0005】
加えて、不斉水素化がキラル反応として次第に重要性を獲得しつつある。或る種の不斉水素化が少量の製造のための実験規模について知られているが、大規模の工業方法は殆ど使用されていない。この種の反応を工業規模に適合させるために、水素化触媒、特にそれらのリガンドが、入手可能性に加えて高い選択性及び活性を有することが必須である。
エナンチオ選択的水素化についての幾つかの提案が従来技術により知られている。こうして、WO 00/55150の開示は二重結合の不斉水素化方法を記載している。種々の中間体生成物がチプラナビルの合成のために調製され、リン原子を含む少なくとも一つのキラルリガンドを有するロジウム触媒が使用される。DuPhos(1,2-ビス((2R,5R)-ジメチル-ホスホラノ)ベンゼン)又はBPE(1,2-ビス((2R,5R)-ジメチル-ホスホラノ)エタン)がキラルリガンドとして使用されることが好ましい。
米国特許第5171892号、同第5532395号又は同第5559267号はDuPhosリガンドを有するエナンチオ選択的ロジウム触媒の使用を記載しており、これは70〜89%の範囲のエナンチオ選択的水素化をもたらすと推定される。
更に、WO 99/12919の教示は、なかでも、DuPhosをリガンドとして含む触媒によるエナンチオ選択的水素化を含む4-ヒドロキシ-2-オキソ-ピラン誘導体の調製方法を記載している。
しかしながら、上記キラルホスファンリガンドの遷移金属錯体は通常この種の接触方法で適度の立体選択性のみと組み合わされた、不十分な活性を示し、その結果として、化学量論量のキラル水素化物試薬を使用することが頻繁に好ましいであろう。それ故、これらの欠点を解消する立体選択的水素化触媒を開発するようにとの要望が依然としてある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それ故、本発明の課題は、従来技術の継続として、高いエナンチオ選択性又はジアステレオ選択性でもって、最低の可能な技術的出費及び高いスペース/時間歩留りでもって、高収率のエナンチオ選択的又はジアステレオ選択的水素化を可能にする方法を提供することである。この方法はまた工業規模へのスケールアップに適するべきであり、即ち、それは実施するのに安価ひいては経済的であるべきである。更に、上記医薬活性化合物の合成に極めて重要である、本発明に従って提供される化合物において、出発化合物に含まれるキラル情報が水素化中に失われるべきではなく、しかもその分子中に存在するその他の基が水素化により影響されるべきではない。こうして、唯一の特別な二重結合が選択的に水素化されて、可能な場合に、唯一の光学異性体を生成する本発明の方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くことに、本発明の上記課題が一般式I

【0008】
【化2】

【0009】
(式中、
R1及びR2は互に独立に水素又はOH、NH2、NH-CO-CH3もしくはN(-CO-CH3)2、ハロゲン、C1-C4-アルコキシ及びCF3からなる群から選ばれた1個、2個もしくは3個の置換基を有してもよい、C1-C6-アルキル、C3-C8-シクロアルキル、C6-C10-アリール及びC1-C4-アルキレン-C6-C10-アリールからなる群から選ばれる基を表し、R1及びR2は同時に同じ意味を有さず、
R3はメタ位で置換されたアリールを表し、該アリールは少なくとも一つのその他の置換基を含んでもよく、該置換基はF、Cl、Br、I、OH、O-SO2-CF3、NO2、NH2、NH-SO2-(4-トリフルオロメチルピリジン-2-イル)、N(-CH2-アリール)2、NY1Y2(式中、Y1及びY2はH、COO-アルキル、COO-CH2-アリール、CO-アルキル及びCO-アリールから選ばれる)からなる群から選ばれ、
R4はH及びC1-C8-アルキルからなる群から選ばれ、かつ
R5はH、Si(CH3)3、Li、Na、K、Cs、N(R')4からなる群から選ばれ、全てのR'基は同じであってもよく、また異なっていてもよく、C1-C8-アルキル及びCH2-アリールから選ばれる)
の化合物の調製方法であって、
一般式II
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、基R1〜R5は先に示された意味を有してもよい)
の化合物を、キラル1,2-ビス(ホスホラノ)無水マレイン酸の形態の少なくとも一つのリガンドを含む触媒の存在下で水素化することを含む上記一般式Iの化合物の調製方法により解決されることがわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
一般式Iの出発化合物はチプラナビル及び関連製品の調製における中間体であり、これらは医薬活性化合物の調製のための出発化合物として使用される。E/Z異性体(水素化されるべきである二重結合に基づいて)の混合物が使用されてもよく、これから驚くことに唯一の異性体がその後に選択的に水素化される。約50%のEと約50%のZ異性体の混合物が使用されることが好ましい。
本発明の好ましい別型によれば、一般式I及びII中で、R1及びR2が互に独立に、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素、メトキシ、エトキシ及びCF3からなる群から選ばれた置換基を有してもよい、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル、ベンジル、シクロヘキシル、フェニルエチル及びフェニルプロピルからなる群から選ばれてもよい。R1がフェニルエチルを表し、かつR2がプロピルを表し、又はR1がプロピルを表し、かつR2がフェニルエチルを表すことが最も好ましい。
本発明によれば特に好ましい一実施態様によれば、R1及びR2がフェニルエチル及びプロピルから選ばれ、R3がメタ位にNO2基を有する、置換されていてもよいフェニルを表し、R4がメチルを表し、かつR5が水素を表す。メタ位の置換基に加えてR3に別の置換基がある場合、それはF、Cl、Br、I、OH又はO-SO2-CF3から選ばれることが好ましい。
本発明において、その他の基の部分であるものを含む、アルキル基という用語は、特に明記されない限り、1〜4個の炭素原子を有する分岐アルキル基及び非分岐アルキル基を表す。例として、下記の炭化水素基が挙げられる:メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル(イソプロピル)、n-ブチル、2-メチルプロピル(イソ-ブチル)、1-メチルプロピル(sec-ブチル)、1,1-ジメチルエチル(tert.-ブチル)。プロピル及びブチルという用語はまた全ての可能な異性体形態を含む。或る場合には、普通の略号がまた上記アルキル基を表すのに使用され、例えば、メチルについてMe、エチルについてEt、プロピルについてProp、またブチルについてBut等が使用される。
アルキレン基という用語はこの場合には1〜4個の炭素原子を有する分岐アルキレンブリッジ及び非分岐アルキレンブリッジを表す。例として、メチレン、エチレン、プロピレン及びブチレンが挙げられる。特にことわらない限り、先に使用されるプロピレン及びブチレンという用語はまた全ての可能な異性体形態を含む。それ故、プロピレンという用語はまた異性体ブリッジn-プロピレン、メチルエチレン及びジメチルメチレンを含み、またブチレンという用語は異性体ブリッジn-ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、1,1-ジメチルエチレン及び1,2-ジメチルエチレンを含む。
シクロアルキル基は本発明によれば3〜8個の炭素原子を有する飽和環式炭化水素基を表すことが意図されている。3〜6個の炭素原子を有する環式炭化水素が好ましい。例はシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルである。
【0013】
アルキルオキシ(これはまたアルコキシと称されてもよい)は本発明の範囲内で酸素原子を介して結合された1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基を表す。メトキシ基が特に好ましい。
アリールという用語は6〜10個の炭素原子を有する芳香族環系を表す。好ましいアリール基はナフチル及びフェニルであり、フェニル基が特に好ましい。略号ナフチルについてNaph及びフェニルについてPhが必要により使用されてもよい。アリール-アルキレン又はアルキレン-アリールは、本発明の目的のために、アルキレンブリッジを介して結合されたアリール基を意味し、上記定義がアルキレン基及びアリール基に適用される。本発明の好ましいアルキレン-アリール基は、特に明記されない限り、ベンジル、2-フェニルエチル及び3-フェニルプロピルである。
ハロゲンという用語は一般にフッ素、塩素、臭素又はヨウ素を表し、そのうち、特にことわらない限り、フッ素、塩素及び臭素が好ましい。
上記一般式Iの出発化合物は触媒の存在下でエナンチオ選択的に水素化される。分子の水素化はその分子中に存在するその他のキラル中心により影響されることが知られている。しかしながら、これは式Iの本化合物ではそうではない。それ故、本発明によれば、このエナンチオ選択的水素化における触媒が極めて重要である。それは上記式Iの化合物が更なる中間工程又は異性体形態の労力を要する分離を用いないで、式IIの化合物から直接合成されることを可能にする。
この状況におけるエナンチオ選択的水素化はまた、一般式Iの化合物中に別のキラル中心があり得るので、ジアステレオ選択的水素化を含むべきである。しかしながら、当業者は本ケースでこれにより意味されるものを知っている。
本発明の触媒は、既に説明されたように、遷移金属イオン、例えば、ロジウム-(I)、ルテニウム-(I)、イリジウム-(I)又はその他の好適な遷移金属を含み、ロジウム-(I)が好ましい。この遷移金属はキラル1,2-ビス(ホスホラノ)無水マレイン酸の形態の少なくとも一つのリガンドで配位される。
本発明のこの1,2-ビス(ホスホラノ)無水マレイン酸は、最も好ましくは、一般式III
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、RL1及びRL2は同じでも異なっていてもよく、分岐又は非分岐C1-C8-アルキル、好ましくはC1-C4-アルキル、特に好ましくはメチル、エチル又はイソ-プロピルを表す)
の系を意味する。
本発明によれば、RL1及びRL2が同じ意味を有し、特に好ましくは両方ともメチルを表す式IIIの系が特に好ましい。特に好ましいと記載された最後に挙げられた式IIIの化合物(式中、RL1及びRL2が両方ともメチルを表す)は、従来技術で名称MalPhosによりまた知られている。
上記キラル1,2-ビス(ホスホラノ)無水マレイン酸は置換されていてもよい二座ビスホスホラン系であり、即ち、夫々が環中に1個のリン原子を有する二つの5員飽和環−所謂ホスホラン系−が2個のリン原子を介して無水マレイン酸の二重結合に結合されている。このようなリガンドがトレード名MalPhosにより知られている。遷移金属がリガンドと錯体を形成し、これが水素化触媒として使用し得る。
別の好ましい実施態様によれば、触媒が下記の構造を有する。
〔リガンド1-遷移金属-リガンド2〕陰イオン
〔式中、リガンド1は先に示された式IIIのキラル1,2-ビス(ホスホラノ)無水マレイン酸を表す〕
リガンド2が3〜12個の炭素原子を有する不飽和環式炭化水素であることが好ましく、シクロペンタジエン系、ベンゼン系、シクロヘプタトリエン系又はシクロオクタジエン系が使用されることが好ましい。シクロペンタジエン又は1,5-シクロオクタジエン(COD)がリガンド2として使用されることが最も好ましい。
リガンド2は一つ以上の有機基で置換されていてもよい。本発明の好ましい実施態様において、リガンド2は置換されていない。一方、リガンド2が置換されている場合、直鎖又は分岐C1-C8-アルキル基、特にC1-C4-アルキル基が置換基として使用されてもよい。
本発明に従って使用される触媒中に、遷移金属-陽イオン錯体の対イオンとしての陰イオン、例えば、BF4-、CF3-CO-O-、Cl-、Br-又はI-があることが好ましく、そのうちBF4-付加物が好ましい。
下記の式は本発明の方法に特に好ましい水素化触媒、MalPhos-ロジウム-1,5-シクロオクタジエン-テトラフルオロボレート付加物を表す。




【0016】
【化5】

【0017】
水素化のエナンチオ選択性は使用される触媒により影響されることが知られているが、このような錯体系では構造と活性の相関関係についての予測は二三の単離された場合にのみ可能である。このような錯体中に使用し得るキラルリガンドの開発において、立体データ、例えば、錯体の或る種のコンフォメーションの剛性が役割を果たす。ホスホランの立体パラメーター(これらはリガンド主鎖と一緒になって全体の構造を同時決定し、金属結合部位の配置を固定する)は別として、ドナー原子の電子的性質(σ/πドナー/アクセプターキャパシティー)が触媒活性遷移金属錯体の性質を重大に決定する第二の変数である。更に、リガンドの総合の電子的特性が重要であることが明らかである。
リガンドのコンホメーションの性質、立体的性質及び電子的性質の微細同調がかなりの費用で明らかに可能であるが、多くの異なる影響のために、系統的な結論が特別な触媒の有効性及び適性について容易に導かれない。
リガンドの化学的性質及び物理的性質は別にして、遷移金属及びリガンドのコスト並びに触媒の活性及び安定性だけでなく、それらを回収し、それらを好適な処理後に再使用する可能性がまた役割を果たす。更に、触媒は商業上容易に得られず、最初に労力を要する方法により調製されるべきである。これらの考慮事項が、特に大規模の工業方法では重い負担になる。
上記知見に鑑みて、非常に多数の試験が所望の要件を高度に満足する触媒を見出すために行なわれた。本発明によれば、水素化触媒が提供された方法に成功裏に使用され、これは優れた活性及び安定性を有し、製造するのに安価であるだけでなく、高度にエナンチオ選択的な様式で所望の生成物をもたらす。こうして、本発明の方法を使用して、エナンチオ選択的水素化が約90%以上、好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の付近で達成される。
【0018】
本発明の方法が今詳しく記載される。
上記一般式Iの出発化合物はチプラナビルの合成における中間体であり、これらはエナンチオ選択的水素化が起こった後に更に処理し得る。式Iの出発化合物は異性体の形態で使用されてもよく、又はE異性体とZ異性体の混合物として使用されてもよい。
或る種の置換基では、水素化が塩基の存在下で行なわれるべきである。これは、例えば、R5が水素原子又はSi(CH3)3基を表す場合である。これは当業者の一般知識の一部であり、彼は相当する塩基を使用することが必要である場合を知っている。
塩基は水酸化物、C1-C5-アルコキシド、重炭酸塩、炭酸塩、二塩基性リン酸塩及び三塩基性リン酸塩、ホウ酸塩、フッ化物、C1-C4-アルキル又はアリールで置換されていてもよいアミン、C1-C3-アルキルで置換されていてもよいシランからなる群から選ばれることが好ましい。塩基はアルカリ金属又はアルカリ土類金属のメトキシド、エトキシド又は炭酸塩であることが特に好ましく、炭酸塩であることが更に好ましい。特に好ましいアルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド又は炭酸塩はナトリウム、カリウム、カルシウム又はマグネシウムのそれらであり、ナトリウム及びカリウム、特にナトリウムのそれらが、本発明によれば格別重要である。
【0019】
塩基が約1モル%〜約20モル%、特に約5モル%〜約15モル%の量で使用されることが特に有利と判明した。
水素化を不活性ガス雰囲気下で行なうことが推奨される。好適な媒体は窒素ガス又は貴ガス、例えば、アルゴンであり、窒素がコストの理由のために好ましい。
本発明の水素化は溶媒中で有利に行なわれる。本発明の好適な溶媒は水素化の反応に通常使用されるものである。例として、メタノール、エタノール、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、トルエン、キシレン及びアセトニトリルが挙げられる。メタノール及びエタノールが溶媒として特に好ましい。
触媒を反応混合物に最後に添加することが特に有利と判明した。しかしながら、これは夫々の場合に必須ではない。使用される触媒の量は好ましくは約0.001モル%〜約5モル%、好ましくは約0.01モル%〜約0.5モル%、特に約0.05モル%〜約0.15モル%である。これは約200/1〜5000/1、好ましくは約500/1〜約3000/1、特に約1000/1〜約2000/1の基質/触媒の比(モル基準)をもたらす。
好ましい実施態様によれば、触媒が最初に溶媒に分散又は溶解され、次いで水素化すべき化合物、溶媒及び必要により塩基を含む反応混合物に添加される。同じ溶媒がその後に触媒及び反応混合物に使用されることが好ましい。しかしながら、触媒はまた無溶媒で添加されてもよい。
【0020】
水素化は触媒の添加の後又はその間に始まる。本発明の方法における水素化は約20℃から約100℃まで、好ましくは約40℃から約80℃まで、特に好ましくは約50℃から約70℃まで、最も特に好ましくは約60℃の温度範囲で行なわれることが好ましい。分子中に感受性反応基がある場合、温度が約100℃、又は個々の場合に80℃を越えないことが特に推奨される。例えば、分子中に存在するニトロ基が約80℃以上の温度でアミノ基に還元され、これは望ましくないかもしれない。約20℃より下の温度は反応を経済的に最早実行できない程度に遅くする。
本発明の水素化の範囲内で、設定される圧力レベルは特に制限されない。これは反応の速度を増大するのに実質的に利用できる。しかしながら、水素化のための水素圧を約2バールから約200バールまで、特に約10バールから約50バールまで、特に好ましくは約15バール〜約40バールの範囲に設定することが推奨される。
本発明の水素化は好ましくは約1時間から約100時間まで、更に好ましくは約5時間から約40時間まで、特に好ましくは約10時間から約30時間までの反応期間にわたって行なわれる。それ故、本発明によれば、約24時間の比較的短い反応期間で約90%以上、好ましくは約95%以上、更には約98%以上のエナンチオ選択性を達成することが可能である。これは当業界で従来知られていた系(これらはこの程度の選択性を示さない)に対し明らかな優秀性を示す。
得られた水素化生成物は付加的な精製、例えば、一つ以上の洗浄工程及び/又は使用される溶媒からの再結晶にかけられてもよく、通常の方法で分離され、処理されてもよい。
当業者は特別な水素化に最も適した反応条件、例えば、温度、圧力、溶媒、反応時間等を難なく選択し、設定し、従ってこれらの条件を二三の案内実験により最適化するであろう。
本発明と関連する利点は多くある。本発明の方法は従来得るのに比較的困難である異性体の入手の簡単な手段を提供し、またこれが優れた生産性で大きい工業規模で行なわれることを可能にする。本発明の方法は所望の生成物を高収率だけでなく、非常に高いエナンチオ選択性で調製することを可能にする。付加的な精製工程が必要とされず、生成物はそれらが丁度生じる際に更に直接処理されてもよい。
本発明の水素化触媒は、特にその優れた活性及び安定性の形態で、高い性能を示し、しかも高度にエナンチオ選択的であり、その結果、所望の生成物が容易に得られる。本発明の方法を使用して、エナンチオ選択性が約90%以上、好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の付近で達成される。E/Z異性体混合物から開始して、2種の異性体への労力を要する分離がこうして回避し得る。むしろ、所望の異性体のみが水素化形態で得られ、方法が実験規模だけでなく、大きい工業プラントで実施される。
【0021】
大規模の工業上の使用に関する経済的要件、例えば、選択性、収率及び変動に関する高性能がこうして本発明の触媒により高度に満たされる。加えて、本発明の水素化方法に使用される触媒は製造するのに安価である。こうして、MalPhosの調製のための出発生成物は、触媒の製造さえもが極めて安価であるという結果とともに、DuPhosのための出発物質と較べて、かなり安価である。
本発明に従って使用される触媒系の有効性は従来技術の触媒よりも明らかに優れている。こうして、例えば、ロジウム-Malphos系で触媒作用された反応は相当するDuPhos系と較べて、速く、しかも高いエナンチオ選択性で進行する。
それ故、本発明によれば、重要な医薬組成物のクラス、非ペプチドHIV-プロテアーゼインヒビター、例えば、チプラナビルが容易に入手でき、その結果、本発明の技術的教示が医薬セクターへの有益な付加を構成する。
本発明が以下に実施例により詳しく記載され、これらは本発明の教示を制限すべきではない。付加的な実施態様は本発明の開示から当業者に明らかになるであろう。
【実施例1】
【0022】
本発明のエナンチオ選択的水素化を下記の化合物1から出発して行なった。
【0023】
【化6】

【0024】
化合物1 ジアステレオ選択的水素化された化合物1
分子量=421.50 分子量=423.51
実験式C25H27NO5 実験式C25H29NO5
水素化を以下のように行なった。
化合物1 67g、メタノール270ml及び炭酸ナトリウム1.7gを500mlのオートクレーブに入れた。それを完全に不活性にした後、脱気メタノール10ml中のMalphos-〔Rh(COD)〕-BF4 96.8mgの溶液を窒素雰囲気下で添加した。次いでその混合物を約24時間にわたって約60℃で約10バールの水素圧のもとに撹拌した。
その水素化溶液をガラス反応器へとメタノール14mlで洗浄し、約50℃に加熱し、塩酸(32%)で約1.4のpHに調節した。2時間にわたって、水61mlを約50℃で滴下して添加した。次いでその混合物を3時間にわたって20℃に冷却し、この温度で1.5時間撹拌し、最後に結晶性生成物を吸引濾過した。それをメタノール/水(2:1)133mlで再度洗浄し、約45℃で真空で乾燥させ、水素化された化合物1約50.5g(約80%)を製造した。
化学的かつ光学的純度:>98%(1H-NMR)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
【化1】

(式中、
R1及びR2は互に独立に水素又はOH、NH2、NH-CO-CH3もしくはN(-CO-CH3)2、ハロゲン、C1-C4-アルコキシ及びCF3からなる群から選ばれた1個、2個もしくは3個の置換基を有してもよい、C1-C6-アルキル、C3-C8-シクロアルキル、C6-C10-アリール及びC1-C4-アルキレン-C6-C10-アリールからなる群から選ばれる基を表し、R1及びR2は同時に同じ意味を有さず、
R3はメタ位で置換されたアリールを表し、該アリール基は少なくとも一つのその他の置換基を含んでもよく、該置換基はF、Cl、Br、I、OH、O-SO2-CF3、NO2、NH2、NH-SO2-(4-トリフルオロメチルピリジン-2-イル)、N(-CH2-アリール)2、NY1Y2(式中、Y1及びY2はH、COO-アルキル、COO-CH2-アリール、CO-アルキル及びCO-アリールから選ばれる)からなる群から選ばれ、
R4はH及びC1-C8-アルキルからなる群から選ばれ、かつ
R5はH、Si(CH3)3、Li、Na、K、Cs、N(R')4からなる群から選ばれ、全てのR'基は同じであってもよく、また異なっていてもよく、C1-C8-アルキル及びCH2-アリールから選ばれる)
の化合物の調製方法であって、
一般式II
【化2】

(式中、基R1〜R5は先に示された意味を有してもよい)
の化合物を、キラル1,2-ビス(ホスホラノ)無水マレイン酸の形態の少なくとも一つのリガンドを含む触媒の存在下で水素化することを含む上記一般式Iの化合物の調製方法。
【請求項2】
R1及びR2が互に独立に、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素、メトキシ、エトキシ及びCF3からなる群から選ばれた置換基を有してもよい、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル、ベンジル、シクロヘキシル、フェニルエチル及びフェニルプロピルからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
R1がフェニルエチルを表し、かつR2がプロピルを表し、又はR1がプロピルを表し、かつR2がフェニルエチルを表すことを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
R1及びR2がフェニルエチル及びプロピルから選ばれ、R3がメタ位にNO2基を有する、置換されていてもよいフェニルを表し、R4がメチルを表し、かつR5が水素を表すことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
一般式Iの出発化合物をE/Z混合物の形態で使用することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
E及びZ異性体のおよそ50:50の混合物を使用することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
触媒が下記の構造:
〔リガンド1-遷移金属-リガンド2〕陰イオン
〔式中、リガンド1は式III
【化3】

(式中、RL1及びRL2は同じでも異なっていてもよく、分岐又は非分岐C1-C8-アルキルを表す)
のキラル1,2-ビス(ホスホラノ)無水マレイン酸を表す〕
を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
リガンド2が3〜12個の炭素原子を有する不飽和環式炭化水素を表すことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
リガンド2がシクロペンタジエン系、ベンゼン系、シクロヘプタトリエン系又はシクロオクタジエン系を表すことを特徴とする、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
リガンド2がシクロペンタジエン又は1,5-シクロオクタジエンを表すことを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
式IIIのリガンド1中で、RL1及びRL2が分岐又は非分岐C1-C4-アルキル、好ましくはメチル、エチル又はイソ-プロピルを表すことを特徴とする、請求項7から10の少なくとも一つに記載の方法。
【請求項12】
RL1及びRL2が両方ともメチルを表すことを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
触媒中の遷移金属がロジウム-(I)、ルテニウム-(I)又はイリジウム-(I)であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
触媒中の陰イオンがBF4-、CF3-CO-O-、Cl-、Br-又はI-であることを特徴とする、請求項1から13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
方法が下記の触媒:
【化4】

の存在下で行なわれることを特徴とする、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
水素化が塩基の存在下で行なわれることを特徴とする、請求項1から15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
塩基が水酸化物、C1-C5-アルコキシド、重炭酸塩、炭酸塩、二塩基性リン酸塩、三塩基性リン酸塩、ホウ酸塩、フッ化物、C1-C4-アルキル又はアリールで置換されていてもよいアミン、C1-C3アルキルで置換されていてもよいシランからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
塩基がアルカリ金属又はアルカリ土類金属のメトキシド、エトキシド又は炭酸塩から選ばれることを特徴とする、請求項16又は17記載の方法。
【請求項19】
塩基が約1モル%から約20モル%まで、好ましくは約5モル%から約15モル%までの量で使用されることを特徴とする、請求項16から18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
基質/触媒の比(モル基準)が約200/1〜5000/1、好ましくは約500/1〜約3000/1であることを特徴とする、請求項1から19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
水素化中の温度が約20℃〜約100℃、好ましくは約50℃〜約70℃であることを特徴とする、請求項1から20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
水素化中の水素圧が約2バール〜約100バール、好ましくは約10バール〜約50バールであることを特徴とする、請求項1から21のいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2006−520748(P2006−520748A)
【公表日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518679(P2005−518679)
【出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002894
【国際公開番号】WO2004/085427
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】