説明

チボザニブ応答の予測

チボザニブ(AV−951)を用いた処置に対してヒト腫瘍が感受性か、または抵抗性かどうか予測するための診断法が開示される。本方法は、腫瘍からの組織サンプル中のマクロファージ含有量の測定に基づく。マクロファージ含有量の測定は、例えば、RNA分析または免疫組織化学による、マクロファージマーカー遺伝子発現の解析に基づくことができる。本発明によって例えば、チボザニブを用いた処置に対して抵抗性の腫瘍を同定する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引用
本願は、2009年12月22日に出願された米国特許出願第12/645,355号および2009年10月19日に出願された米国仮特許出願第61/253,036号の利益およびそれらに対する優先権を主張する。それぞれの出願の内容全体は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明の分野は、分子生物学、腫瘍学、および臨床診断法である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ほとんどの制癌剤は、ある患者には効果があるが、他の患者にはない。これは、腫瘍間の遺伝的バリエーションに起因し、同じ患者内の腫瘍間でさえ観察されうる。患者の可変的な応答は、標的化療法剤に関して特に顕著である。それ故に、どの患者がどの薬物から恩恵を受けるか決定するための適切な検査なしに、標的化療法の完全な潜在力を実現することができない。米国国立衛生研究所(NIH:National Institute of Health)に従って、用語「バイオマーカー」は、「正常な生物学的過程または病原過程、あるいは治療介入に対する薬理学的応答の指標として客観的に測定されかつ評価される特性」と定義される。
【0004】
バイオマーカーの発見に基づく改善された診断法の開発は、所定の薬物に対して臨床応答を示す可能性が最も高い患者を前もって特定することによって、新しい薬物の開発を加速する可能性を持つ。これは、臨床試験の規模、期間およびコストを著しく低減することになろう。ゲノミクス、プロテオミクスおよび分子イメージングのような技術は、現在、特異的な遺伝子変異、特定遺伝子の発現レベル、および他の分子バイオマーカーの迅速、高感度で信頼性の高い検出を可能にする。腫瘍の分子キャラクタリゼーションのための様々な技術が利用可能であるにも関わらず、癌バイオマーカーがほとんど発見されていないので、癌バイオマーカーの臨床的使用は、概ね実現されないままである。例えば、最近の総説では、以下のことを述べている。
【0005】
癌の診断および処置を改善するために、バイオマーカーの開発促進とそれらの使用に対する重大なニーズが存在する。(非特許文献1)。
【0006】
癌バイオマーカーに関する別の最近の総説は、次のコメントを含んでいる。
【0007】
課題は、癌バイオマーカーを発見することである。分子的に標的化された薬剤を用いて、いくつかの腫瘍タイプ−例えば、慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍、肺癌および多形神経膠芽腫−の分子的に定義されたサブセットを標的にすることに臨床的に成功したことがあったとはいえ、より広い状況においてかかる成功を適用する能力は、患者における標的化薬剤を評価するための効率的な戦略がないので大幅に制限される。問題は、主に、これらの興味深い新薬を評価するための臨床試験用に、分子的に定義された癌を持つ患者を選択することができないことにある。解決法は、特定の薬剤から恩恵を受ける可能性が最も高い患者を信頼性良く同定するバイオマーカーを必要とする。(非特許文献2の548ページ)。
【0008】
前述のようなコメントは、臨床的に有用なバイオマーカーの発見、およびかかるバイオマーカーに基づく診断法の必要性に関する認識を示す。
【0009】
癌バイオマーカーには、(1)予後バイオマーカー、(2)予測バイオマーカー、および(3)薬力学(PD)バイオマーカーの3つの異なったタイプがある。予後バイオマーカーは、癌(例えば、固形腫瘍)を侵襲性、すなわち、成長および/または転移の速度、ならびに処置に対する不応性に従って、分類するために用いられる。これは、「結果が良好な」腫瘍を「結果が劣る」腫瘍から識別すると呼ばれることがある。予測バイオマーカーは、特定の患者が特定の薬物を用いた処置から恩恵を受ける確率を評価するために用いられる。例えば、ERBB2(HER2またはNEU)遺伝子が増幅される乳癌を患う患者は、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))を用いた処置から恩恵を受ける可能性が高いが、一方でERBB2遺伝子増幅がない患者は、トラスツズマブを用いた処置から恩恵を受ける可能性が低い。PDバイオマーカーは、患者が薬物を服用している間の患者に対する薬物の効果(単数または複数)の指標である。従って、PDバイオマーカーは、新薬の臨床開発の早期段階の間に、しばしば投薬レベルおよび投与回数を指導するために用いられる。癌バイオマーカーの議論については、例えば、非特許文献2を参照のこと。
【0010】
チボザニブ(AV−951としても知られる)は、VEGF受容体1、2および3の強力でかつ選択的な低分子阻害剤である。チボザニブは、3つすべての受容体に対してピコモル濃度の阻害活性を示し、前臨床モデルにおいて抗腫瘍活性を示す(非特許文献3)。チボザニブは、272人の患者の第2相臨床試験において、肯定的な中間結果をもたらした(非特許文献4)。
【0011】
VEGF標的化療法に焦点を合わせた、多量の前臨床および臨床研究にも関わらず、抗VEGF剤の抗腫瘍活性の原因となるメカニズムは、完全には理解されていない。他のタイプの標的化療法と同様に良好に、すべてではないが、いくらかの患者は、チボザニブ治療から恩恵を受ける。VEGFの生物学的な複雑さが、所定のいずれかの腫瘍に対するチボザニブの有効性を予測不可能にする。それ故に、チボザニブを用いた処置に応答する可能性が高い(または可能性が低い)腫瘍を持つ患者を同定するために用いることができる、予測バイオマーカーに基づく診断法の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cho,2007,Molecular Cancer 6:25
【非特許文献2】Sawyers,2008,Nature 452:548−552,
【非特許文献3】Nakamura et al.,2006,Cancer Res.66:9134−9142
【非特許文献4】Bhargava et al.,2009,ASCO Genitourinary Cancers Symposium,Abstract No.283
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は、部分的に、哺乳動物の腫瘍からの組織サンプルにおけるマクロファージ含有量の上昇(例えば、マクロファージ数の上昇、またはマクロファージマーカー発現の上昇、例えば、マクロファージマーカータンパク質の発現の上昇、あるいはマクロファージマーカータンパク質をコードするmRNAの発現の上昇)が、チボザニブを用いた処置に対する抵抗性と相関するという知見に基づく。従って、本発明は、チボザニブを用いた処置に対して抵抗性である可能性が高い腫瘍を同定する方法を提供する。本方法は、(a)腫瘍からの組織サンプル中のマクロファージ含有量を測定し、それによってマクロファージスコアを決定すること;および(b)マクロファージスコアを、閾値決定解析によって定義された閾値スコアに対して比較すること、を含む。この閾値スコアを上回るマクロファージスコアは、この腫瘍がチボザニブを用いた処置に対して抵抗性である可能性が高いことを示す。この閾値スコア未満のマクロファージスコアは、この腫瘍がチボザニブを用いた処置に対して応答性である可能性が高いことを示す。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態において、マクロファージ含有量の測定は、マクロファージマーカータンパク質の存在または量を測定することによって行なわれる。他の実施形態において、マクロファージ含有量の測定は、所定の細胞集団におけるマクロファージの数を決定することによって行なわれる。例えば、マクロファージ含有量の測定は、マクロファージマーカータンパク質の検出を含む免疫組織化学によって行うことができる。別の実施形態において、マクロファージ含有量の測定は、マクロファージマーカータンパク質をコードするmRNAの存在または量を測定することによって行われる。マクロファージマーカータンパク質の例は、CCR2、CD14、CD68、CD163、CSF1RおよびMSR1を含む。閾値決定解析は、受信者動作者特性曲線解析を含むことができる。本発明の方法は、例えば、乳房腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、直腸結腸腫瘍、および膵臓腫瘍を含む様々なタイプの腫瘍を検査するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、マクロファージ含有量によって最低から最高までランク付けされた26個の個別のマウス乳房腫瘍のマクロファージスコア(%)を示す棒グラフである。(左から右へ向かう)最初の8個の腫瘍は、実施例1に記載されるチボザニブを用いた処置に対して応答性である(チボザニブ感受性腫瘍)と分類される。残りの18個の腫瘍は、実施例1に記載されるチボザニブを用いた処置に対して非応答性である(チボザニブ抵抗性腫瘍)と分類される。エラーバーは、標準誤差(n=3)を示す。マクロファージスコア(%)は、細胞総数で除して100%を乗じた(IHCで決定した場合の)MSR1陽性細胞またはF4/80陽性細胞として計算された。
【図2】図2は、図1のチボザニブ感受性腫瘍、および図1のチボザニブ抵抗性腫瘍の平均マクロファージスコア(所定のサンプルにおける細胞総数で除したMSR−1陽性細胞またはF4/80陽性細胞の数のパーセンテージ)を示す棒グラフである。チボザニブ感受性腫瘍における平均マクロファージパーセンテージは、8.2%±3.3%であることがわかった。チボザニブ抵抗性腫瘍における平均マクロファージパーセンテージは、36.4%±13.4%であることがわかった。
【図3】図3は、マウス乳房腫瘍の連続切片をIHCによって分析した場合の、MSR1陽性細胞の数とF4/80陽性細胞の数との間の高い相関(R=0.944)を示す線形回帰(y=1.439x+6.468)のプロットである。
【図4】図4は、線形回帰のトレンドラインを示す散布図である。線形回帰解析は、CD68 IHCによって測定されたマクロファージ含有量と、チボザニブを用いた処置に対するヒト腎細胞癌腫の応答との間の高度の相関を示す。検査された21人の患者の間で、Rho値は0.52であり、p=0.017(スピアマン相関)であった。これは、CD68細胞マーカーを発現するとして可視化された細胞の数が多いほど、腫瘍のチボザニブに対する抵抗性がより大きいことを示す。実線は、線形回帰を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される「AV−951」と「チボザニブ」は、その塩および多形体を含め、次の化学構造を持つ、N−{2−クロロ−4−[6,7−ジメトキシ−4−キノリル)オキシ]−フェニル}−N’−(5−メチル−3−イソオキサゾリル)尿素を意味する。
【0017】
【化1】

【0018】
本明細書で使用される「マクロファージマーカータンパク質」は、その検出が、腫瘍からの組織サンプル中に存在する他の細胞タイプの中からマクロファージを同定するのに有用な、マクロファージ細胞表面タンパク質を意味する。例示的なヒトマクロファージマーカータンパク質は、CCR2、CD14、CD68、CD163、CSF1RおよびMSR1である。本発明を実施する際に他のマクロファージマーカータンパク質を使用することができる。
【0019】
本明細書で使用される「最適閾値スコア」は、分類指標が、偽陰性のコールの損失(cost)と偽陽性のコールとの間で最も望ましいバランスを与える閾値スコアを意味する。
【0020】
本明細書で使用される「受信者動作特性」(ROC)曲線は、2分類指標システムについての偽陽性率(感受性)対真陽性率(特異性)のプロットを意味する。ROC曲線の構築には、次の定義が適用される。
偽陰性率「FNR」=1−TPR
真陽性率「TPR」=真陽性/(真陽性+偽陰性)
偽陽性率「FPR」=偽陽性/(偽陽性+真陰性)。
【0021】
本明細書で使用される、処置に対する「応答」または「応答している」は、処置される腫瘍に関して、腫瘍が(a)成長の緩徐化、(b)成長の停止、または(c)退縮を示すことを意味する。
【0022】
本明細書で使用される「マクロファージスコア」は、腫瘍中のマクロファージ含有量のレベルを表す数値である。例えば、一実施形態において、マクロファージスコアは、所定の細胞集団におけるマクロファージの数として表現することができ、パーセンテージ、比率、あるいは別の方法で表現することができる。他の実施形態において、マクロファージスコアは、濃度、すなわち、腫瘍における単位体積中のマクロファージの数として表現することができる。別の実施形態において、マクロファージスコアは、マクロファージマーカータンパク質またはマクロファージマーカータンパク質をコードするmRNAの発現のレベルとして表現することができる。タンパク質発現のレベルは、例えば、ELISAまたは他の免疫学的方法によって、得ることができる。遺伝子発現レベルは、例えば、qRT−PCR,マイクロアレイ、または他の分析によって、得ることができる。マクロファージスコアは、閾値決定解析において、例えば、ROC曲線解析を用いて経験的に決定されうる、閾値スコアに関して解釈することができる。
【0023】
本明細書で使用される「閾値決定解析」は、所定の腫瘍タイプ(例えばヒト腎細胞癌腫)を表すデータセットの、その特定の腫瘍タイプに対する閾値スコアを決定するための解析を意味する。所定の腫瘍タイプを表すデータセットは、かかる腫瘍の群からのそれぞれの腫瘍に対して、(a)実際の腫瘍応答データ(チボザニブに対する応答および非応答)、および(b)マクロファージ含有量、を含む。
【0024】
本明細書で使用される「閾値スコア」は、そのスコアを上回ると腫瘍がチボザニブ処置に対して抵抗性である可能性が高いとして分類されるスコアを意味する。
【0025】
本明細書で使用される「CCR2」(CD192、CKR2、CMKBR2、MCP−1−R、CC−CKR−2、FLJ78302、MGC103828、MGC111760、およびMGC168006としても知られる、ケモカイン(C−Cモチーフ)受容体2)は、Entrez GeneID番号729230およびその対立遺伝子変異型によって特定される遺伝子によってコード化されたヒトタンパク質を意味する。
【0026】
本明細書で使用される「CD14」は、Entrez GeneID番号929およびその対立遺伝子改変体によって特定される遺伝子によってコード化されたヒトタンパク質を意味する。
【0027】
本明細書で使用される「CD68」(GP110;SCARD1;およびDKFZp686M18236としても知られる)は、Entrez GeneID番号968およびその対立遺伝子改変体によって特定される遺伝子によってコード化されたヒトタンパク質を意味する。
【0028】
本明細書で使用される「CD163」(M130およびMM130としても知られる)は、Entrez GeneID番号9332およびその対立遺伝子改変体によって特定される遺伝子によってコード化されたヒトタンパク質を意味する。
【0029】
本明細書で使用される「CSF1R」(CSFR、FMS、FIM2、C−FMS、およびCD115としても知られるコロニー刺激因子1受容体)は、Entrez GeneID番号1436およびその対立遺伝子改変体によって特定される遺伝子によってコード化されたヒトタンパク質を意味する。
【0030】
本明細書で使用される「MSR1」(CD204、SCARA1、SR−A、phSR1およびphSR2とも呼ばれるマクロファージスカベンジャー受容体1)は、Entrez GeneID番号4481およびその対立遺伝子改変体によって特定される遺伝子によってコード化されたヒトタンパク質を意味する。
【0031】
本明細書で使用される「F4/80」(EMR1、Ly71、GPF480、TM7LN3、DD7A5−7、EGF−TM7としても知られる)は、Entrez GeneID番号13733およびその対立遺伝子改変体によって特定される遺伝子によってコード化されたマウスタンパク質を意味する。
【0032】
組織サンプル
ヒト患者における腫瘍からの組織サンプルは、本発明を実施する際に、そのサンプル中のマクロファージ含有量のレベルを決定することができるように、RNAの供給源、タンパク質の供給源、または免疫組織化学(IHC:immunohistochemistry)のための薄切片の供給源として用いることができる。組織サンプルは、従来の腫瘍生検機器および手順を用いることによって得ることができる。内視鏡生検、切除生検、切開生検、細針生検、パンチ生検、薄片生検および皮膚生検は、腫瘍サンプルを得るために当業者が用いることができる、認められた医学的手順の例である。腫瘍組織サンプルは、マーカー遺伝子(例えば、CD68)の発現レベルを測定するためかまたはIHC(例えば、CD68陽性細胞の発現)によってマクロファージを可視化するために十分なRNA、タンパク質、または薄切片を提供するのに十分多くなければならない。
【0033】
腫瘍組織サンプルは、マクロファージ含有量の測定を可能にする任意の形態とすることができる。言い換えれば、組織サンプルは、RNA抽出、タンパク質抽出、または薄切片の調製のために十分でなければならない。従って、組織サンプルは、新鮮であるか、適切な低温技術によって保存されるか、あるいは非低温技術によって保存されることができる。臨床生検標本を取り扱うための標準プロセスは、組織サンプルをホルマリン中で固定し、次にパラフィン中に包埋することである。この形態のサンプルは、ホルマリン固定パラフィン埋込(FFPE:formalin−fixed,paraffin−embedded)組織として一般に知られている。その後の分析のために組織を調製する適切な技術は、当業者によく知られている。
【0034】
マクロファージ含有量
本発明を実施するときに、(例えば、腫瘍からの)組織サンプルにおけるマクロファージ含有量(例えば、マクロファージ数またはマクロファージマーカーの発現、例えば、マクロファージマーカータンパク質の発現またはマクロファージマーカータンパク質をコードするmRNAの発現)のレベルを決定することは、いくつかある任意の適切な方法によって、行うことができる。例えば、マクロファージ含有量を間接的に測定することは、マクロファージマーカーとして有用なことが知られている1つ以上の遺伝子の発現を測定するによって行うことができる。遺伝子の発現を測定するための様々な方法が、当該分野で知られている。かかる方法は、マクロファージマーカータンパク質またはマクロファージマーカータンパク質をコードするmRNAのレベルを決定するときに、適用することができる。例示的なヒトマクロファージマーカー遺伝子は、CCR2、CD14、CD68、CD163、CSF1RおよびMSR1である。他のマクロファージマーカーも、同様に良好に用いることができる。
【0035】
RNA分析
従来のマイクロアレイ分析および定量的なポリメラーゼ連鎖反応(QPCR:quantitative polymerase chain reaction)は、mRNAレベルにおけるマクロファージマーカー遺伝子の発現のレベルを決定するための方法の例である。本発明のいくつかの実施形態において、RNAは、標準的なプロトコルを用いて、対象の細胞、腫瘍または組織から抽出される。他の実施形態において、RNA分析は、RNA単離を必要としない技術を用いて行われる。
【0036】
RNA単離
組織サンプルからの真核生物性mRNA、すなわち、ポリ(a)RNAの迅速かつ効率的な抽出のための方法は、よく確立されており、当業者に知られている。例えば、Ausubel et al.,1997,Current Protocols of Molecular Biology,John Wiley & Sonsを参照のこと。組織サンプルは、臨床研究用腫瘍標本のような、新鮮なサンプル、凍結されたサンプル、あるいは固定されたパラフィン埋込(FFPE)サンプルとすることができる。一般に、新鮮な組織サンプルまたは凍結された組織サンプルから単離されたRNAは、FFPEサンプルからのRNAよりフラグメント化が少ない傾向がある。しかしながら、腫瘍材料のFFPEサンプルは、より容易に入手することができ、FFPEサンプルは、本発明の方法に用いるのに適したRNA供給源である。RT−PCRによる遺伝子発現量のプロファイリングのためのRNA供給源としてのFFPEサンプルの議論については、例えば、Clark−Langone et al.,2007,BMC Genomics 8:279を参照のこと。また、De Andre’s et al.,1995,Biotechniques 18:42044;およびBaker et al.,米国特許出願公開第2005/0095634号も参照のこと。RNAの抽出および調製に関する販売者の使用説明書を含む市販キットの使用が、普及しており、一般的である。様々なRNA単離生成物および完全なキットの商業的販売者は、Qiagen(Valencia,CA)、Invitrogen(Carlsbad,CA)、Ambion(Austin,TX)およびExiqon(Woburn,MA)を含む。
【0037】
一般に、RNA単離は、組織/細胞破壊で始まる。組織/細胞破壊の間に、RNaseによるRNAの分解を最小限に抑えることが望ましい。RNA単離プロセス中のRNaseの活性を制限するための一手法は、細胞が破壊されたらなるべくすぐに、変性剤を細胞内容物に確実に接触させることである。別の一般的なやり方は、RNA単離プロセスに1つ以上のプロテアーゼを含めることである。必要に応じて、新鮮な組織サンプルは、収集されるとすぐに、室温で、RNA安定化溶液に浸漬される。安定化溶液は、その後の単離のために、迅速に細胞に浸透し、4℃での貯蔵のためにRNAを安定化する。1つのかかる安定化溶液が、RNAlater(登録商標)として市販されている(Ambion,Austin,TX)。
【0038】
いくつかのプロトコルにおいて、全RNAが、塩化セシウム密度勾配遠心分離によって、破壊された腫瘍材料から単離される。一般に、mRNAは、総細胞RNAのおおよそ1%から5%を構成する。固定化されたオリゴ(dT)(例えばオリゴ(dT)セルロース)が、リボゾームRNAおよびトランスファーRNAからmRNAを分離するために、一般に用いられる。もし単離後に貯蔵されるのであれば、RNAは、RNaseのない条件下で貯蔵されなければならない。単離されたRNAの安定貯蔵のための方法は、当該分野で知られている。RNAの安定貯蔵のための様々な市販製品が利用できる。
【0039】
マイクロアレイ
マクロファージマーカータンパク質をコードする1つ以上の遺伝子のmRNA発現のレベルは、従来のDNAマイクロアレイ発現プロファイリング技術を用いて測定することができる。DNAマイクロアレイは、ガラス、プラスチックまたはシリコンのような固体表面または基材に取り付けられた特異的なDNAセグメントまたはプローブのコレクションであって、それぞれの特異的なDNAセグメントは、アレイにおいて既知の位置を占めるものである。(通常はストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下での)標識化されたRNAのサンプルを用いたハイブリダイゼーションは、アレイにおけるそれぞれのプローブに対応するRNA分子の検出および定量を可能にする。非特異的に結合したサンプル材料を除去するためのストリンジェントな洗浄後に、マイクロアレイが、共焦点レーザー顕微鏡法または他の適切な検出法によって走査される。DNAチップとしてしばしば知られる、最新の市販DNAマイクロアレイは、典型的に何万ものプローブを含み、かくして何万もの遺伝子の発現を同時に測定することができる。かかるマイクロアレイは、本発明を実施するために用いることができる。あるいは、マクロファージマーカータンパク質をコードする1つ以上の遺伝子の発現を測定するために必要とされるだけのわずかなプローブ、加えて必要な対照または標準(例えば、データ正規化のための)を含んだカスタムチップを、本発明を実施する際に用いることができる。
【0040】
データ正規化を容易にするために、2色マイクロアレイリーダーを用いることができる。2色(2チャンネル)システムでは、サンプルは、第1の波長で放出する第1のフルオロフォアを用いて標識され、一方でRNAまたはcDNA標準は、異なった波長で放出する第2のフルオロフォアを用いて標識される。例えば、2色法マイクロアレイシステムにおいて、Cy3(570nm)およびCy5(670nm)がしばしば一緒に使用される。
【0041】
DNAマイクロアレイ技術は、十分に開発されて、市販され、かつ広く使用されている。従って、本発明の方法を行なうときに、当業者は、過度の実験なしに、マクロファージマーカータンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定するためにマイクロアレイ技術を用いることができる。DNAマイクロアレイチップ、(RNAまたはcDNAの調製、RNAまたはcDNAの標識、ハイブリダイゼーションおよび洗浄溶液用のような)試薬、(マイクロアレイリーダーのような)機器ならびにプロトコルは、当該分野でよく知られており、様々な商業的供給源から入手可能である。マイクロアレイシステムの商業的販売者は、Agilent Technologies(Santa Clara,CA)およびAffymetrix(Santa Clara,CA)を含むが、他のPCRシステムも使用することができる。
【0042】
定量的RT−PCR
マクロファージマーカータンパク質をコードする個別の遺伝子を表すmRNAのレベルは、従来の定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR:quantitative reverse transcriptase polymerase chain reaction)技術を用いて測定することができる。qRT−PCRの利点は、感度、融通性、定量的精度、および密接に関連するmRNA間を識別する能力を含む。定量的PCRのために組織サンプルを処理することに関するガイダンスは、qRT−PCRのための市販品の製造業者および販売者(例えば、Qiagen(Valencia,CA)およびAmbion(Austin,TX)を含む、様々な供給源から入手可能である。qRT−PCRを自動化して実行するための機器システムは、市販されており、多くの研究所で日常的に使用されている。よく知られた市販システムの例は、Applied Biosystems 7900HT Fast Real−Time PCR System(Applied Biosystems,Foster City,CA)である。
【0043】
単離mRNAが一旦単離されると、RT−PCRによる遺伝子発現プロファイリングの第1のステップは、mRNAテンプレートのcDNAへの逆転写であり、それが次にPCR反応で指数関数的に増幅される。よく用いられる2つの逆転写酵素は、トリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV−RT:avilo myeloblastosis virus reverse transcriptase)およびモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV−RT:Moloney murine leukemia virus reverse transcriptase)である。逆転写反応は、通常、特異的プライマー、ランダムヘキサマー、またはオリゴ(dT)プライマーを用いて、プライミングされる。適切なプライマーは、市販されている、例えば、GeneAmp(登録商標)RNA PCRキット(Perkin Elmer,Waltham,MA)である。結果として生じるcDNA生成物は、その後のポリメラーゼ連鎖反応におけるテンプレートとして用いることができる。
【0044】
PCRステップは、耐熱性のDNA依存性DNAポリメラーゼを用いて実行される。PCRシステムにおいて最もよく用いられるポリメラーゼは、Thermus aquaticus(Taq)ポリメラーゼである。PCRの選択性は、増幅の標的とされるDNA領域、すなわち、マクロファージマーカータンパク質をコードする遺伝子から逆転写されるcDNA領域、に相補的なプライマーの使用に起因する。従って、本発明にqRT−PCRが用いられるときには、それぞれのマーカー遺伝子に特異的なプライマーは、遺伝子のcDNA配列に基づく。SYBR(登録商標)グリーンまたはTaqMan(登録商標)(Applied Biosystems,Foster City,CA)のような商業用技術を、販売者の使用説明書に従って使用することができる。メッセンジャーRNAのレベルは、βアクチンまたはGAPDHのようなハウスキーピング遺伝子のレベルを比較することによって、サンプル間のローディングの違いに対して正規化することができる。mRNA発現のレベルは、正常な非腫瘍性の組織または細胞からのmRNAのような、任意の単一対照サンプルと比較して、表現することができる。あるいは、mRNA発現のレベルは、腫瘍サンプル、または腫瘍細胞株のプールからのmRNA、あるいは市販の対照mRNAセットからのmRNAと比較して、表現することができる。
【0045】
マクロファージマーカータンパク質をコードする遺伝子の発現レベルのPCR分析に適したプライマーセットは、過度の実験なしに、当業者によって設計および合成することができる。あるいは、本発明を実施するためのPCRプライマーセットは、商業的供給源、例えば、Applied Biosystemsから購入することができる。PCRプライマーは、好ましくは約17から25ヌクレオチドの長さである。プライマーは、Tm評価のための従来のアルゴリズムを用いて、特定の融解温度(Tm)を持つように設計することができる。プライマー設計およびTm評価のためのソフトウェアは、市販されており、例えば、Primer Express(商標)(Applied Biosystems)であり、加えて、インターネット上でも入手可能であり、例えば、Primer3(Massachusetts Institute of Technology)である。PCRプライマー設計の確立された原理を適用することによって、CD14、CD68、MSR1、CSFR1、CD163およびCCR2のようなマクロファージマーカー遺伝子をはじめとする、所定の任意の遺伝子の発現レベルを測定するために、多数の様々なプライマーを用いることができる。
【0046】
qNPA(商標)
本発明のいくつかの実施形態において、RNA分析は、RNA抽出も単離も含まない技術を用いて行われる。1つのかかる技術は、qNPA(商標)(High Throughput Genomics,Inc.,Tucson,AZ)の名称で市販されている定量的ヌクレアーゼプロテクションアッセイである。この技術は、分析すべき腫瘍組織サンプルがFFPE材料の形態であるときに有利でありうる。例えば、Roberts et al.,2007,Laboratory Investigation 87:979−997を参照のこと。
【0047】
タンパク質分析
本発明の方法において、マクロファージマーカー遺伝子の発現は、タンパク質レベルで検出することができる。マクロファージマーカー遺伝子の発現のレベルをタンパク質レベルで測定するための方法の例は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA:enzyme linked immunosorbent assay)およびIHC分析を含む。
【0048】
ELISA
マクロファージマーカータンパク質のELISA、例えばCD68 ELISAを行うことは、マクロファージマーカータンパク質に対する少なくとも1つの抗体、すなわち、検出抗体を必要とする。例示的な実施形態において、CD68がマクロファージマーカータンパク質である。分析すべきサンプルからのCD68タンパク質は、ポリスチレンマイクロタイタープレートのような固体支持体上に固定される。この固定化は、CD68の、例えば、表面への吸着を通じた、非特異的結合によることができる。あるいは、固定化は、「サンドウィッチ」ELISAにおいて、例えば、捕捉抗体(検出抗体と異なる抗CD68抗体)によるサンプルからのCD68タンパク質への結合を通じた、特異的結合によることができる。CD68が固定化された後に、検出抗体が加えられ、検出抗体は、結合されたCD68と複合体を形成する。検出抗体は、直接的か、または間接的に、例えば、検出抗体を特異的に認識する二次抗体を介して、酵素に連結される。典型的に各ステップの間に、CD68が結合されたプレートが、マイルドな界面活性剤溶液を用いて洗浄される。典型的なELISAプロトコルは、プレートへのタンパク質試薬の望ましくない非特異的結合を阻止するための、ウシ血清アルブミンのような非特異的結合タンパク質の使用を含む、1つ以上のブロッキングステップも含む。最終的な洗浄ステップ後に、プレートが適切な酵素基質の添加によって発色されて視認できる信号を生成し、この信号がサンプル中のCD68量を示す。基質は、例えば、色素形成性基質または蛍光発生基質とすることができる。ELISAの方法、試薬および機器は、当該分野でよく知られており、市販されている。
【0049】
他のマクロファージマーカータンパク質、例えば、CCR2、CD14、CD163、CSF1R、およびMSR1、ならびに他のマクロファージに特異的なマーカータンパク質の発現レベルは、それぞれのマクロファージマーカータンパク質に特異的な検出抗体を用いて、ELISAによって測定できることが理解される。
【0050】
免疫組織化学(IHC)
所定の細胞集団におけるマクロファージの数は、免疫組織化学によって決定する(例えば、可視化する)ことができる。IHC(例えば、CD68 IHC)によるマクロファージマーカータンパク質のアッセイは、マクロファージマーカータンパク質に対する少なくとも1つの抗体(例えば、少なくとも1つの抗CD68抗体)を必要とする。IHCに適した多くの抗CD68抗体が市販されている。例えば、適切な抗体は、Dako North America,Inc.(Carpinteria,CA)、abcam(Cambridge,MA)、Abnova(Walnut,CA)、R&D Systems(Minneapolis,MN)またはInvitrogen(Carlsbad,CA)から購入することができる。標準的な技術を用いて、抗CD68抗体を用いて、パラフィン埋込切片および凍結腫瘍切片をはじめとした、腫瘍から得られた切片(例えば5マイクロメートルの切片)におけるCD68タンパク質の存在を検出することができる。典型的に、腫瘍材料を収集し保存する最初のプロセスにおいて固定されたタンパク質の抗原構造を回収するように、腫瘍切片が最初に処置される。次に、抗CD68検出抗体による非特異的結合を防ぐために、スライドがブロッキングされる。次に、CD68タンパク質への抗CD68抗体の結合によって、CD68タンパク質の存在が検出される。検出(一次)抗体は、直接的か、または間接的に、例えば、検出(一次)抗体を特異的に認識する二次抗体またはポリマーを介して、酵素に連結される。典型的に、腫瘍切片は、ステップ間で、洗浄され、ウシ血清アルブミンのような非特異的タンパク質を用いてブロッキングされる。スライドは、然るべき酵素基質を用いて発色されて視認できる信号を生成する。サンプルは、ヘマトキシリンを用いて対比染色することができる。
【0051】
他のマクロファージマーカータンパク質、例えば、CCR2、CD14、CD163、CSF1R、およびMSR1、ならびに他のマクロファージに特異的なマーカータンパク質の発現は、それぞれのマクロファージマーカータンパク質に特異的な抗体を用いてIHCによって検出できることが理解される。
【0052】
データ解釈
腫瘍に関するマクロファージスコアは、閾値スコアに対して解釈することができる。閾値スコア以上であるマクロファージスコアは、腫瘍が、チボザニブ処置に対して抵抗性(非応答性)である可能性が高いことの予測として解釈することができる。あるいは、閾値スコア以下であるマクロファージスコアは、腫瘍が、チボザニブ処置に対して感受性(応答性)である可能性が高いことの予測として解釈することができる。例えば、実施例2に示されるように、(IHCによって決定された場合の)MSR1陽性細胞またはF4/80陽性細胞を細胞総数で除したパーセンテージとして計算された閾値スコアは、約10%から約15%である。
【0053】
最適閾値マクロファージスコアは、閾値決定解析を行なうことによって経験的に決定する(或いは少なくとも概算する)ことができる。好ましくは、閾値決定解析は、受信者動作者特性(ROC)曲線解析を含む。ROC曲線解析は、確立された統計的技術であり、その適用は当該分野における通常の技術の範囲内にある。ROC曲線解析の議論については、一般に、Zweig et al.,1993,”Receiver operating characteristic(ROC) plots:a fundamental evaluation tool in clinical medicine,”Clin.Chem.39:561-577;およびPepe,2003,The statistical evaluation of medical tests for classification and prediction,Oxford Press,New Yorkを参照のこと。
【0054】
マクロファージスコアおよび最適閾値マクロファージスコアは、腫瘍タイプごとに変化しうる。それ故に、閾値決定解析は、好ましくは、本発明を用いて検査されるべき任意の所定の腫瘍タイプを表す1つ以上のデータセットに関して行われる。閾値決定解析に用いられるデータセットは、(a)実際の応答データ(応答または非応答)、および(b)腫瘍群からのそれぞれの腫瘍サンプルに関するマクロファージスコアを含む。所定の腫瘍タイプに対して、マクロファージスコア閾値が一旦決定されると、その腫瘍タイプの腫瘍からマクロファージスコアを解釈するために、この閾値を適用することができる。
【0055】
ROC曲線解析は、次のように行うことができる。閾値以上のマクロファージスコアを持つ任意のサンプルは、非応答物(抵抗性)として同定される。あるいは、閾値以下のマクロファージスコアを持つ任意のサンプルは、応答物(感受性)として同定される。検査されたサンプルセットからのすべてのマクロファージスコアに対して、そのスコアを閾値として用いて、「応答物」および「非応答物」(仮想コール)が分類される。このプロセスは、データセットについての実際の応答データに対する仮想コールの比較を通じて、それぞれの潜在的な閾値に対する、TPR(yベクトル)およびFPR(xベクトル)の計算を可能にする。次に、ROC曲線が、TPRベクトル、およびFPRベクトルを用いて、ドットプロットを作ることによって構築される。もしROC曲線が、(0,0)点から(1.0,0.5)点への対角線より上にあれば、それは、マクロファージ検査結果がランダムより良い検査であることを示す。
【0056】
ROC曲線は、最良動作点を同定するために用いることができる。最良動作点は、偽陰性の損失に対して重み付けされた偽陽性の損失の間の最良のバランスをもたらす動作点である。これらの損失は、等しい必要はない。ROC空間の点x、yにおける分類の平均予想損失は、次式によって決定される。
【0057】
C=(1−p)α×x+p×β(1−y)
但し:
α=偽陽性の損失、
β=陽性(偽陰性)を見逃す損失、および
p=陽性症例の比率。
【0058】
偽陽性および偽陰性は、αおよびβに対して異なった値を割り当てることによって、異なるように重み付けすることができる。例えば、非応答物である患者をより多く処置する損失で、より多くの患者を応答物群に含めると決めたならば、αにより多くの重みをかけることができる。この場合には、偽陽性および偽陰性の損失は、同じ(αはβに等しい)ことが仮定される。それ故に、ROC空間の位置x、yにおける分類の平均予想損失は、
C’=(1−p)×x+p×(1−y)
である。最小C’は、偽陽性および偽陰性(x,y)のすべての対を用いた後に、計算することができる。最適スコア閾値は、C’における(x,y)のスコアとして計算される。
【0059】
腫瘍がチボザニブ処置に対して感受性かまたは抵抗性かどうかを予測すること、すなわち2項分類、に加えて、マクロファージスコアは、腫瘍が、感受性または抵抗性である可能性はどれくらいかに関する、およそではあるが有用な指標を提供する。一般に、マクロファージスコアが低いほど、腫瘍がチボザニブに対して感受性である可能性が高く、そしてマクロファージスコアが高いほど、腫瘍がチボザニブに対して抵抗性がある可能性が高い。
【0060】
検査キット
本発明は、本発明の方法を行なうための特定成分を備える診断検査キットを含む。診断検査キットは、診断アッセイの性能における便利さ、スピードおよび再現性を向上させる。例えば、本発明の例示的なqRT−PCRに基づく実施形態において、基本的な診断検査キットは、マクロファージマーカー、例えば、CD68の発現を分析するためのPCRプライマーを含む。他の実施形態において、より巧緻な検査キットは、PCR技術を用いてCD68発現レベルを測定するために、PCRプライマーだけでなく、バッファー、試薬および詳細な使用説明書も含む。いくつかの実施形態において、キットは、検査プロトコルと、RNAサンプル(単数または複数)を除く、検査に必要とされるすべての消費可能成分とを含む。
【0061】
本発明の例示的なDNAマイクロアレイに基づく実施形態において、検査キットは、特定の機器とともに用いるように設計されたマイクロ流体(micro fluidic)カード(アレイ)を含む。必要に応じて、マイクロ流体カードは、マクロファージマーカー遺伝子の発現量の測定のために特に設計された特注デバイスである。かかる特注マイクロ流体カードは、市販されている。例えば、TaqMan Arrayは、Applied Biosystems 7900HT Fast Real Time PCR System(Applied Biosystems,Foster City,CA)とともに使用するために設計された、384ウェルのマイクロ流体カード(アレイ)である。例示的な流体カードは、CCR2、CD14、CD68、CD163、CSF1Rおよび/またはMSR1の発現に加えて、(例えば、データ正規化のための)必要な対照または標準を測定するためのプローブの任意の組み合わせを含むことができる。他のマクロファージマーカータンパク質も、本発明を実施するための流体カード上に含まれることができる。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態において、検査キットは、IHCによって腫瘍マクロファージ含有量を決定するための材料を含む。例えば、IHCキットは、ヒトマクロファージマーカーに対する一次抗体、例えば、マウス抗ヒトCD68抗体、およびレポーター酸素に結合した二次抗体、例えば、西洋わさびペルオキシダーゼを含んでもよい。いくつかの実施形態において、二次抗体は、一次抗体を特異的に認識する結合ポリマーに置換される。
【実施例】
【0063】
本発明が、次の実施例によってさらに説明される。実施例は、例示的な目的のために提供されるに過ぎず、本発明の範囲または内容をいかなる方法においても制限すると解釈されるべきではない。
【0064】
(実施例1)
チボザニブに対するマウス腫瘍の応答
100個を上回るマウス乳房腫瘍のライブラリ(BHアーカイブ)を用いて、チボザニブに対して感受性の腫瘍(応答物)、およびチボザニブに対して抵抗性の腫瘍(非応答物)を同定した。BHアーカイブを、Her2に依存する誘導性の自然発生的な乳房腫瘍を発症する操作キメラマウスに由来する、100を超える自然発生的なマウス乳房腫瘍からの一次腫瘍材料のインビボの増殖および凍結保存によって確立した。マウスを、基本的に次のように作製した。
【0065】
Ink4aホモ接合性null ES細胞を、個別のフラグメントとしての次の4つのコンストラクト:MMTV−rtTA、TetO−Her2V664Eneu、TetO−ルシフェラーゼおよびPGK−ピューロマイシンでコトランスフェクトした。ピューロマイシン抵抗性細胞を、PCRおよびサザンブロットによって遺伝子型を同定した。ES細胞における癌遺伝子の誘導能を、ノーザンブロットによって分析した。トランスフェクトされたES細胞をC57BL/6胚盤胞中に注入し、これを妊娠のための擬妊娠雌マウス中に移植し、キメラマウスの誕生に繋げた。
【0066】
リバーステトラサイクリントランスアクチベーター(rtTA:reverse tetracycline transactivator)の乳房に特異的な発現を導くために、マウス乳癌ウイルスの長末端反復(MMTV:mouse mammary tumor virus)を使用した。rtTAは、ドキシサイクリンがマウス用の飲料水中でマウスに提供されたときに、Her2活性化された癌遺伝子の乳房に特異的な発現をもたらした。
【0067】
Her2癌遺伝子およびルシフェラーゼの誘導能を、マウスに由来する培養細胞を用いて、それぞれ、RT−PCRおよびルシフェラーゼアッセイによって確認した。キメラマウスから乳腺を取り出し、コラゲナーゼを用いて消化した。採集されたオルガノイドの半分をドキシサイクリンの存在下で培養し、他の半分はドキシサイクリンなしで培養した。5日間の培養後に、細胞をトリプシン処理し、細胞の10分の1をルシフェラーゼアッセイのために使用し、残りをRNA抽出のために使用した。
【0068】
Her2乳癌モデルマウスから採取された腫瘍の組織学分析により、浸潤性腺癌が示された。2つの主要なパターンが識別された。それらは、充実性シート状増殖パターン、および壊死性の中心部を持つ入れ子状増殖パターンであった。乳房腫瘍の免疫組織化学分析は、腫瘍内の2つの細胞型を明らかにした。第1の細胞型は、上皮由来(サイトケラチン陽性)であり、Her2の発現と強い増殖とを示した。2番目の細胞型は、間葉系由来であり、線維芽細胞のような外観を有した。これらの細胞は、コラーゲン陽性であり、強い増殖は示さず、間質機能を呈示した。腫瘍の上皮部分の壊死性中心部にはアポトーシスが見られた。マウスモデルの腫瘍がHer2発現に依存したことを確認するために、腫瘍退縮研究(ドキシサイクリンの休薬に応じた退縮)を行なった。ドキシサイクリンによるテトラサイクリン応答性プロモーターの誘発の後、マウスは、潜伏期が約2から4カ月で乳房腫瘍を発達させた。
【0069】
腫瘍細胞を、細胞ストレーナを用いた腫瘍の物理的な破壊によって単離した。典型的には1×10個の細胞をマトリゲルと混合し(50:50体積)、雌のNCr nu/nuマウスの肩甲骨間の上背部に皮下注射した。これらの腫瘍がおよそ500mmに成長したとき(典型的に2から4週を要した)に、さらなる増殖、薬物応答試験、および分析のためにそれらを収集した。分析は、マイクロアレイプロファイリング、一般的な組織病理学、およびIHC(腫瘍の脈管構造に対してCD31、腫瘍の細胞増殖に対してKi67)を含んでいた。この腫瘍集団のキャラクタリゼーションは、微小血管系、VEGF発現および特異遺伝子発現プロファイルのような、血管新生の重要なパラメータにおける顕著な度合いの変化を明らかにした。
【0070】
チボザニブに対する腫瘍応答の評価を、本質的に次のように行なった。物理的に破壊された(マトリゲルと混合された)腫瘍細胞を7週齢の雌のNCrヌードマウス中に注入することによって、皮下に移植された腫瘍を確立した。腫瘍がおよそ200〜400mmに達したときに、腫瘍を持った30匹のマウスを3つの群に無作為化した。群1は、賦形剤を受けた。群2は、強制経口投与によって毎日5mg/kgのチボザニブを受けた。群3は強制経口投与によって毎日20mg/kgのチボザニブを受けた。腫瘍をカリパスによって週2回測定して、腫瘍体積を計算した。処置の終りに、組織病理学的分析およびIHC分析のために、腫瘍を収集した。
【0071】
これらの研究は、チボザニブに対する応答における、有意な腫瘍間のバリエーションを明らかにした。腫瘍成長抑制、ならびに血管新生抑制に関する典型的な組織病理学的およびIHC(CD31)特性に基づいて、応答物および非応答物を同定した。典型的に、応答物は、5mg/kgのチボザニブで処置されたときに、カリパス測定によって腫瘍の進行が(組織学によって)示されず、周辺を除いて完全な腫瘍の殺傷に近かった。マウスモデル腫瘍が自然発生的に生じたので、応答における変化は予想されており、それ故にそれらが、血管新生を含めて、腫瘍の血管新生を含む腫瘍化に繋がった無作為の突然変異の異なったセットを含むことが予想された。応答におけるかかるバリエーションは、自然発生的なヒト腫瘍におけるバリエーションと同様であり、かくして分子サインまたはボザニブ応答性を同定するのに使用するためのチボザニブ応答性腫瘍およびチボザニブ抵抗性腫瘍の識別を可能にしたので、望ましかった。
【0072】
(実施例2)
マウス乳房腫瘍におけるマクロファージ含有量
実施例1(上記)に記載されたマウス乳房腫瘍のパネルからの組織サンプル(およそ1000mm)を切除して取り出し、ホルマリン中で一晩固定した。固定された腫瘍を次に従来のIHC分析のためにパラフィン処理し、それぞれの腫瘍のマクロファージ含有量を決定した。マクロファージを、MSR1またはF4/80をマクロファージ細胞表面マーカーとして用いて同定した。MSR1のIHCに対しては、ラット抗マウスMSR1抗体(Dako North America,Inc.,Carpinteria,CA)を、5マイクロメートルのパラフィン切片とともにインキュベートした。信号を、販売者の使用説明書に従って、市販のラット−オン−マウス(rat−on−mouse)HRPポリマー検出キット(Biocare Medical,LLC,Concord,CA,Catalog No.RT517)を用いることによって検出した。F4/80のIHCに対しては、ラット抗マウスF4/80抗体(Serotec,MCA497R)を連続切片に対して使用した。F4/80信号は、同じラット−オン−マウスHRPポリマー検出キットを用いて検出した。
【0073】
MSR1アッセイまたはF4/80アッセイにおける陽性によって同定されたマクロファージを、高出力の顕微鏡視野(200×)をタッチ感応式パッドイメージアナライザー上に投影することによってカウントした。それぞれの乳房腫瘍に対して、3つの生物学的レプリカ(同じ研究からのn=3 sc腫瘍)を、腫瘍の中心部にまたがる切片からの5視野を用いて分析した。パーセンテージとしてのマクロファージスコアを、MSR1陽性細胞またはF4/80陽性細胞を細胞総数で除し、100%を乗じたものとして計算した。腫瘍ごとに、結果を、15個の画像の平均として表現した。マクロファージスコア(%)の観点からの結果を、チボザニブに応答性である腫瘍、およびチボザニブに応答性でない腫瘍に対して図1に提示する。
【0074】
これらの切片において、MSR1およびF4/80が、マクロファージの信頼できるマーカーとして機能していたと仮定すると、2本のマーカーが同様の結果をもたらすであろうことが期待された。実験的な対照として、相関分析によってこれを確認し、R2=0.944の正相関がもたらされた(図3)。
【0075】
(実施例3)
チボザニブに対するヒト腫瘍応答
利用可能な場合には、以前の腎摘除または生検からアーカイブされた腫瘍組織を、治験第2相(AV−951−07−201研究)に登録されたヒト患者から収集した。この研究に登録された患者は、(a)再発性または転移性の腎細胞癌腫あるいは原発性腎細胞癌腫(RCC:renal cell carcinoma)(すべての組織学)を組織学的または細胞学的に確認したこと;(b)RCCのための事前の全身的処置を1回までしか受けなかったこと;および(c)事前のVEGF標的化療法を受けなかったこと、が必要とされた。インフォームドコンセントが得られた後に、地域的な手順に従って、1つのヘマトキシリンおよびエオシンスライドならびに4つまでの無染色スライドを収集した。
【0076】
この研究は、1.5mgのチボザニブの安全性、無進行生存、抗腫瘍作用、薬物動態学/薬力学、および薬理ゲノミック/メタボロミクスを評価するように設計された、第2相、無作為化、プラセボ対照、多施設、投薬中止研究であった。本研究に登録された272人のすべての患者は、最初の16週間に、非盲検のチボザニブを受けた。患者は、1.5mg/日のチボザニブを続けて3週間受けた後に、1週間にわたって治験薬がなかった(1周期=3週間あり、1週間なし)。患者は、もし1.5mgの用量に耐えられなければ、1.0mgへの用量の低減を許された。患者は、各2処置サイクル後に疾患評価を受けた。応答を、固形腫瘍における応答評価基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors;RECIST)の判定基準(第1.0版)によって決定した。16週間後に、腫瘍退縮が25%以上の患者は、非盲検のチボザニブを用いた処置を継続し、一方でベースラインからの変化(成長または退縮)が25%未満の患者は、次の12週間にわたって二重盲検の仕方でチボザニブまたはプラセボに無作為化された。腫瘍サイズの増加が25%以上の患者は、研究から排除された。分析に用いられた腫瘍組織は、ベースラインで利用できる腫瘍組織を持ち、治療の開始後に、少なくとも一回の腫瘍評価を受けた患者に由来した。そのうえ、プラセボ治療群に無作為化された患者は、このサンプル分析に含まれなかった。
【0077】
(実施例4)
ヒトRCC腫瘍におけるマクロファージ含有量
実施例3(上記)に記載された臨床研究からの21個のヒトRCC腫瘍におけるマクロファージ含有量を、ホルマリン固定されてパラフィン包埋された腫瘍組織サンプルからの5マイクロメートル切片で測定した。ヒトマクロファージを検出するための一次抗体は、マウス抗ヒトCD68抗体(Dako,カタログ番号m0814)であった。一次抗体を、販売者の使用説明書に従って市販のマウス−オン−ヒトHRPポリマー検出キット(Biocare Medical,カタログ番号MHRP520)を用いることによって可視化した。
【0078】
CD68アッセイにおける陽性によって同定されたマクロファージを、高出力の顕微鏡視野(200×)をタッチ感応式パッドイメージアナライザー上に投影することによってカウントした。それぞれの腫瘍に対して1つの切片を、無作為に選ばれた5つの顕微鏡視野を用いて分析した。パーセンテージとしてのマクロファージスコアを、CD68陽性細胞数を細胞総数で除し、100を乗じたものとして計算した。ヒト腫瘍のマクロファージ含有量とチボザニブを用いた処置に対する腫瘍の抵抗性との間の有意な相関関係が見出された。より具体的には、腫瘍中でCD68を発現するマクロファージ数が高いほど、チボザニブに対する腫瘍の抵抗性が大きい。この結果を、チボザニブに対する腫瘍応答に対するマクロファージスコア(%)の散布図に要約する(図4)。この結果は、腫瘍のマクロファージ含有量の測定によって、チボザニブ処置に対するヒト腫瘍の抵抗性を予測できることを実証した。
【0079】
参照による組み込み
本明細書に引用される特許文献および科学論文のそれぞれの全開示が、すべての目的で参照により組み込まれる。
【0080】
均等物
本発明は、その本質的な特徴から逸脱して、他の具体的な形態において実現することができる。それ故に、前述の実施形態は、本明細書に記載される発明に関して、限定的ではなくむしろ例示的であると見做されるべきである。本発明の範囲は、前述の記載によるのではなく、添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の意味および均等の範囲に入るあらゆる変更は、その範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チボザニブを用いた処置に対して抵抗性の腫瘍を同定する方法であって、該方法は、
(a)チボザニブを用いた処置が考慮されているヒト患者から得られた腫瘍からの組織サンプル中のCD68ポリペプチド発現を測定することによってマクロファージ含有量を測定し、それによってマクロファージスコアを決定するステップ;および
(b)ステップ(a)において測定された該マクロファージスコアを、チボザニブを用いて予め処置されてチボザニブに抵抗性であることが示されたヒト患者およびチボザニブを用いて予め処置されてチボザニブに感受性であることが示されたヒト患者から得られた腫瘍の組織サンプル中のCD68ポリペプチド発現を測定することによって決定された閾値スコアに対して比較するステップを含み、
該閾値スコアを上回るマクロファージスコアは、該腫瘍がチボザニブを用いた処置に抵抗性であることを示す、方法。
【請求項2】
CD68ポリペプチド発現を測定する前記ステップは、免疫組織化学によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閾値スコアの決定は、受信者動作者特性曲線解析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記腫瘍は、乳房腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、直腸結腸腫瘍、および膵臓腫瘍からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−508679(P2013−508679A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534184(P2012−534184)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/037187
【国際公開番号】WO2011/049645
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(506070224)アベオ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (14)
【Fターム(参考)】