説明

チャまたはアッサムチャの花部含有成分とその用途

【課題】ツバキ科植物チャまたはアッサムチャの花部に含有される成分の詳細について解明し、その用途を開発することを目的とする。
【解決手段】チャまたはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出によって得られる抽出物あるいはその処理物を有効成分として含有する抗アレルギー剤および当該抽出物またはその処理物に含有される新規化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツバキ科植物であるチャまたはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出によって得られる抽出物を有効成分として含有する抗アレルギー剤に関するものである。
より詳細には、本発明は、上記抽出物に含有され、抗アレルギー作用を有するサポニン化合物またはそれらの塩に関する。
【背景技術】
【0002】
ツバキ科(Theaceae)植物であるチャ(Camellia sinensis(L.)O.Kuntze)またはアッサムチャ(C. sinensis var. assamica)は、中国の西南部が原産地とされている多年生の常緑樹である。これらの植物の栽培法や、葉部の採取時期、製茶工程における発酵工程の有無などの加工調製法の違いにより、様々な種類の茶葉がある。これらの茶葉を用いて調製される飲料は嗜好品として古くから世界各地で親しまれている。
【0003】
これまでに、チャ葉部の機能性に関する研究は盛んに行われている(例えば、非特許文献1)。
またチャの種子から得られるサポニン混合物は、かつては界面活性剤として写真工業などで利用されていた(例えば、非特許文献2〜6)。
しかしながら、チャの花部に関しては、これまで、吉川らがメタノール抽出物およびそのサポニン画分、含有サポニン成分が脂質吸収抑制作用を有することを見出したこと以外何等報告されていない(例えば、特許文献1および非特許文献7)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−70018号公報
【非特許文献1】村松敬一郎、小國伊太郎、伊勢村護、杉山公男、山本(前田)万里編、「茶の機能 生体機能の新たな可能性」、学会出版センター、2002年
【非特許文献2】Kitagawa I.、Hori K.、Motozawa T.、Murakami T.、Yoshikawa M.、Chem. Pharm. Bull.、46、1901−1906(1998)
【非特許文献3】Murakami T.、Nakamura J.、Matsuda H.、Yoshikawa M.、Chem. Pharm. Bull.、47、1759−1764(1999)
【非特許文献4】Murakami T.、Nakamura J.、Kageura T.、Matsuda H.、Yoshikawa M.、Chem. Pharm. Bull.、48、1720−1725(2000)
【0005】
【非特許文献5】Yoshikawa M.、Morikawa T.、Li N.、Nagatomo A.、Li X.、Matsuda H.、Chem. Pharm. Bull.、53、1559−1564(2005)
【非特許文献6】Morikawa T.、Li N.、Nagatomo A.、Matsuda H.、Li X.、Yoshikawa M.、J. Nat. Prod.、69、185−190(2006)
【非特許文献7】Yoshikawa M.、Morikawa T.、Yamamoto K.、Kato Y.、Nagatomo A.、Matsuda H.、J.Nat.Prod.、68、1360−1365(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来利用対象となっていなかったチャ花の新規用途の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Camellia sinensis(L.)O. KuntzeまたはC. sinensis var. assamicaを基源植物とするチャまたはアッサムチャの花部抽出物について抗アレルギー活性を、抗I型アレルギー作用(脱顆粒抑制活性)
試験により評価した。その結果、上記抽出物が抗アレルギー作用を有することを見出した。また、本発明者は、当該抽出物について、上記生物活性を指標とした活性成分の分離、精製を実施した結果、該抽出物を酢酸エチル/水で分配処理した酢酸エチル可溶画分が抗アレルギー活性を有することを見出し、さらに上記の分配処理により得られた水層をn−ブタノール/水で分配したn−ブタノール可溶画分から、抗アレルギー作用の有効成分を単離した。
【0008】
すなわち、本発明者は、当該抽出物についての成分分離について鋭意研究を行った結果、6種の新規サポニン化合物を見出し、これらの化合物と3種の既知サポニン化合物が抗アレルギー作用を有することを見出し、本研究を完成した。
【0009】
したがって、本発明によれば、有効成分としてのチャもしくはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出により得られる抽出物あるいはその処理物と医薬的に受容な賦形剤または担体とからなる、抗アレルギー用組成物が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、前記処理物が、チャもしくはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出により得られる抽出物をさらに酢酸エチル/水の系で分配処理して得られる酢酸エチル可溶画分である抗アレルギー用組成物が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、前記処理物が、前記酢酸エチル/水の系で分配処理して得られる水溶性画分をさらにn−ブタノールとの間で分配処理して得られるn−ブタノール可溶性画分である抗アレルギー用組成物が提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、前記抽出物が、一般式(I):
【化1】

【0013】
[式中、R1はアンゲロイル基またはチグロイル基を表し、R2は水素原子、アセチル基、アンゲロイル基または2−メチルブチリル基を表し、R3は水素原子またはアセチル基を表し、R4は水素原子またはアセチル基を表し、R5は水素原子またはヒドロキシ基を表し、R6はα-L-ラムノピラノシル基またはα−D−キシロピラノシルシル基を表す]
で表されるサポニン化合物の少なくとも一つまたはそれらの塩を含む、抗アレルギー用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抗アレルギー作用の有効成分として、上記一般式(I)で表されるサポニン化合物またはそれらの塩を含有する組成物あるいはこれらのサポニン化合物を含有するチャまたはアッサムチャの花部抽出物あるいはその処理物が提供され、安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の別の観点によれば、前記一般式(I)において、R6がα-L-ラムノピラノシル基である、一般式(II):
【化2】

[式中、R1はアンゲロイル基またはチグロイル基を表し、R2は水素原子、アセチル基、アンゲロイル基または2−メチルブチリル基を表し、R3は水素原子またはアセチル基を表し、R4は水素原子またはアセチル基を表し、R5は水素原子またはヒドロキシ基を表す]
で表されるサポニン化合物またはそれらの塩が提供される。
【0016】
本発明によれば、前記一般式(I)および(II)の化合物は、チャおよびアッサムチャの花部抽出物から単離することができる。
本発明において用いられるチャとは、ツバキ科(Theaceae)植物ツバキ属(Camellia L.)に属するチャ(Camellia sinensis、別名Thea sinensis)のことを意味する。また、本発明において用いられるアッサムチャとは、チャと同科同属のアッサムチャ(C. Sinensis var. assamica)を意味する。
【0017】
本発明の抽出材料として用いられるチャおよびアッサムチャの花部とは、雌しべ、雄しべ、花弁、萼、苞葉、花軸、花柄等を含むいわゆる花、花芽および蕾などのいずれをも意味する。
本発明において、チャまたはアッサムチャの花部は、採取したものをそのまま、または乾燥して用いることができる。これらの花部を、さらに粉砕、破砕、切断またはすり潰し等の処理に付して用いることができる。抽出効率の観点からは、これらの花部を上記の処理に付すのが好ましい。
【0018】
本発明のチャおよびアッサムチャの花部抽出物の調製に用いられる溶媒としては、水または低級脂肪族アルコールもしくはそれらの混液が挙げられる。
水以外の上記の低級アルコールとしては、炭素数1〜4のアルコール類が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールもしくはt−ブタノールまたはこれらの混液が挙げられる。
水と低級アルコールの混液としては、それらの任意の割合における混液が挙げられるが、好ましくは含水率が30容量%までの上記アルコール類が挙げられる。なかでもメタノールまたはエタノールあるいはこれらアルコールと水の上記割合の混液が好適に用いられる。
これらの抽出用溶媒は、抽出材料に対して1〜50倍(容量/重量)程度、好ましくは5〜30倍(容量/重量)程度用いられる。
【0019】
なお、抽出温度は、室温〜溶媒の沸点の間で任意に設定できるが、例えば、上記の抽出材料を上記の抽出溶媒に浸漬し、50℃〜抽出溶媒の沸点の温度で、振盪下もしくは非振盪下または還流下に抽出するのが適当である。抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間〜10時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間〜20日間程度行うのが適当である。また、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分間〜数時間加熱還流するのが好ましい。
【0020】
なお、50℃より低い温度で浸漬して抽出することも可能であるが、その場合には、上記の時間よりも長時間浸漬するのが好ましい。抽出操作は、同一材料について1回だけ行ってもよいが、複数回、例えば2〜5回程度繰り返すのが、抽出効率の観点から好ましい。
【0021】
固形物を、抽出後にろ別して得られる抽出液は、常法により濃縮して抽出エキスとしてもよい。濃縮は、減圧下に行うのが好ましい。濃縮は抽出液が乾固するまで行ってもよい。
抽出物は、そのまま本発明の組成物を調製するのに用いてもよいが、粉末状または凍結乾燥品等として用いてもよい。これらの固形物とする方法は、当該分野で公知の方法を採用することができる。
【0022】
したがって、本発明における抽出物とは、抽出液、抽出エキス、濃縮乾固物または凍結乾燥物のいずれも意味するが、本発明による抽出物は、精製せずにそのまま用いることもでき、本発明の一部を構成している。
【0023】
しかしながら、本発明では、抽出液を濃縮した抽出物を、その処理物として溶媒による分配抽出、すなわち、水および水と非混和性有機溶媒とを用いる分配抽出に単回または複数回付し、有機溶媒可溶画分と水溶性画分として分離して用いることができる。
【0024】
水と非混和性有機溶媒としては、酢酸エチル、n−ブタノール、ヘキサン、クロロホルムおよびトルエンなどが挙げられるが、中でも酢酸エチルが好ましい。
すなわち、チャ花の水または低級アルコールもしくはそれらの混液抽出物を濃縮して得られた抽出物をその処理物として、必要に応じて酢酸エチルと水を用いて分配し、酢酸エチル可溶性画分と水溶性画分を得ることができる。
【0025】
また、上記で得られる水溶性画分は、さらに水および水と非混和性有機溶媒を用いる分配抽出に付し、有機溶媒可溶画分と水溶性画分として分離することができる。
この場合の水と非混和性有機溶媒としては、n−ブタノール、ヘキサン、クロロホルムおよびトルエンなどが挙げられるが、中でもn−ブタノールが好ましい。
すなわち、上記の酢酸エチルと水との分配後の水溶性画分をそのままn−ブタノールと水との分配に付すか、または該水溶性画分を濃縮して得られる残渣をさらに水とn−ブタノールとの分配に付し、n−ブタノール画分と水溶性画分を得ることができる。
【0026】
分配抽出は、当該分野で通常行われる撹拌もしくは振盪分配法または液滴向流分配法などの常法に従って行うことができる。例えば、室温下、振盪下または非振盪下に、水と非混和性有機溶媒と、水(1:10〜10:1)とを、前記抽出物などに対して1〜10倍(容量)程度の割合で加えて行うのが適当である。
【0027】
なお、上記のアルコール抽出物およびその処理物、すなわち各分配抽出物は、上記のいずれの段階においても、減圧濃縮処理またはその前後に精製処理に付すことができる。
精製処理としては、上記の溶媒による分配抽出以外に、当業者に公知の各種クロマトグラフ法を単独で、または組み合わせて採用することができる。
【0028】
例えば、上記のクロマトグラフ法の例としては、アルミナ、順相もしくは逆相シリカゲル担体またはイオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーまたは遠心液体クロマトグラフィー等のいずれかを単独で、またはそれらを組み合わせて行う方法などが挙げられる。この際の担体および溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。
【0029】
本発明者は、チャおよびアッサムチャの花部抽出物を、薬理活性を指標としながら上記の精製法を組合せて精製すると同時に、精製物の作用について検討した。
【0030】
その結果、本発明者は、チャおよびアッサムチャの花部抽出物およびその処理物、すなわち該抽出物を酢酸エチル/水で分配抽出して得られる酢酸エチル可溶画分のいずれもが、抗アレルギー活性を有することを見出した。
【0031】
本発明者は、さらに、上記の分配処理により得られた水層をn−ブタノール/水で分配した処理物、すなわちn−ブタノール可溶画分から、抗アレルギー作用の有効成分を単離した。
【0032】
したがって、本発明における処理物とは、チャまたはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出により得られる抽出物をさらに酢酸エチル/水の系で分配処理して得られる酢酸エチル可溶画分および該酢酸エチル/水の系で分配処理して得られる水溶性画分をさらにn−ブタノールとの間で分配処理して得られるn−ブタノール可溶性画分、ならびにこれらの画分をさらに精製したサポニン含有画分のいずれをも意味することができる。
すなわち、本発明の別の観点によれば、本発明により、次の一般式(II):
【化3】

[式中、R1はアンゲロイル基またはチグロイル基を表し、R2は水素原子、アセチル基、アンゲロイル基または2−メチルブチリル基を表し、R3は水素原子またはアセチル基を表し、R4は水素原子またはアセチル基を表し、R5は水素原子またはヒドロキシ基を表す]
で表されるサポニン化合物またはそれらの塩が提供される。
【0033】
ことに、新規化合物として上記の式(II)において、R1がアンゲロイル基であり、R2がアセチル基であり、R3、R4およびR5が共に水素原子であるフロラテアサポニン(floratheasaponin)D(1);R1およびR2が共にアンゲロイル基であり、R3およびR4が水素原子であり、R5がヒドロキシ基であるフロラテアサポニンE(2);R1がアンゲロイル基であり、R2が2−メチルブチリル基であり、R3およびR4が水素原子であり、R5がヒドロキシ基であるフロラテアサポニンF(3);R1がチグロイル基であり、R2がアセチル基であり、R3、R4およびR5が水素原子であるフロラテアサポニンG(4);R1がアンゲロイル基であり、R2がアセチル基であり、R3が水素原子であり、R4がアセチル基であり、R5が水素原子であるフロラテアサポニンH(5);ならびにR1がアンゲロイル基であり、R2が水素原子であり、R3がアセチル基であり、R4およびR5が水素原子であるフロラテアサポニンI(6)またはこれらの塩が提供される。
【0034】
より詳細には、本発明によれば、式(1):
【化4】

【0035】
式(2):
【化5】

【0036】
式(3):
【化6】

【0037】
式(4):
【化7】

【0038】
式(5)
【化8】

【0039】
および式(6):
【化9】

で表される新規サポニン化合物(1)〜(6)(フロラテアサポニン(floratheasaponin)D〜I)またはこれらの塩が提供される。
【0040】
上記のサポニン化合物(1)〜(6)の塩としては、常法によって形成される当該化合物が有しているカルボキシ基とナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属との塩が挙げられる。
さらに、上記の化合物が有するエステル結合のいずれかが常法によって部分加水分解された化合物も本発明の一部を構成する。
【0041】
また、本発明者は、上記サポニン化合物(1)〜(6)を精製する過程で、チャおよびアッサムチャの花部抽出物のサポニン含有画分ならびに各単離した化合物を、抗アレルギー剤としての活性評価の指標として、抗I型アレルギー作用(脱顆粒抑制活性)試験に付した。
その結果、本発明者は、チャおよびアッサムチャの花部メタノール抽出物ならびにその処理物である酢酸エチル可溶性画分、n−ブタノール可溶性画分のいずれもが、抗アレルギー作用を有することを見出した。
また、本発明者は、上記の新規サポニン化合物(1)〜(6)のいずれもが、抗アレルギー作用を有することを見出した。
さらに、本発明者は、上記のサポニン化合物(1)〜(6)に加え、既知のサポニン化合物(7)〜(9)(フロラテアサポニンA、BおよびC)(Yoshikawa Mら、J.Nat.Prod.、68、1360-1365 (2005))も同様に抗アレルギー作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0042】
したがって、本発明によれば、抗アレルギー作用の有効成分として、式(1)〜(9):
【化10】

で表されるサポニン化合物(1)〜(9)またはその塩の少なくとも1つを含む組成物が提供される。
【0043】
また、本発明によれば、有効成分として、チャもしくはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出物と医薬的に受容な賦形剤または担体とからなる、抗アレルギー用組成物が提供される。
【0044】
さらに本発明によれば、抗アレルギー作用の有効成分として、チャもしくはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出液を得、この抽出液をさらに酢酸エチル/水の系で分配処理して得られる酢酸エチル可溶画分か、または該酢酸エチル/水の系で分配処理して得られる水溶性画分をさらにn−ブタノールとの間で分配処理して得られるn−ブタノール可溶性画分を含み、上記サポニン化合物(1)〜(9)の少なくともいずれか一つまたはそれらの塩を含む抗アレルギー用組成物が提供される。
【0045】
その上、本発明によれば、チャまたはアッサムチャの前記抽出物または上記サポニン化合物(1)〜(9)からなる群から選択される1以上のサポニン化合物またはその塩を含む組成物または上記の抽出物を含む医薬または健康食品が提供される。
【0046】
上記のような抽出物およびサポニン含有画分ならびに化合物(1)〜(9)のそれぞれは単独または混合物として、それぞれそのままの状態または適当な媒体で希釈して、医薬品等の製造分野において公知の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等の種々の医薬品の形態に製剤化して使用することができる。
【0047】
これらの形態においては、適当な媒体を添加してもよい。そのような媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば結合剤(例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガントまたはポリビニルピロリドン)、充填剤(例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトールまたはグリシン)、錠剤用滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールまたはシリカ)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉)または湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0048】
錠剤は、通常の製薬の実際に周知の方法でコートしてもよい。液体製剤は、例えば水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップまたはエリキシルの形態であってもよく、使用前に水または他の適切な賦形剤と混合する乾燥製品として提供してもよい。
【0049】
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤(例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂)、乳化剤(例えばレシチン、ソルビタンモノオレエートまたはアラビアゴム)(食用脂を含んでもよい)、非水性賦形剤(例えばアーモンド油、分画ココヤシ油またはグリセリン、プロピレングリコールまたはエチレングリコールのような油性エステル)、保存剤(例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピルまたはソルビン酸)、および所望により着色剤または香料等を含んでもよい。
【0050】
また、上記の抽出物およびそのサポニン含有画分は単独でまたは混合物として、また化合物(1)〜(9)の各々または混合物は、食品および/または健康食品に利用することができる。
【0051】
健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等を目的とした食品を意味し、例えば、液体または半固形、固形の製品、具体的には散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。
これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記の抽出物および/または化合物等を混合または塗布、噴霧などにより添加して、健康食品とすることができる。
【0052】
上記抽出物およびそのサポニン含有画分または抽出エキスおよび化合物(1)〜(9)の使用量は、濃縮、精製の程度、活性の強さ等、使用目的、対象疾患や自覚症状の程度、使用者の体重、年齢等によって適宣調整することができ、例えば、成人1回につき抽出液または抽出エキスでは精製度や水分含量等に応じて、1 mg〜20 g程度が挙げられ、化合物では1 mg〜1 g程度が挙げられる。
また、健康食品としての使用時には、食品の味が外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1 kgに対して、上記の抽出物およびそのサポニン含有画分ならびに化合物(1)〜(9)を、1 mg〜20 g程度の範囲で添加することが適当である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の抽出物の調製、新規化合物(1)〜(6)の精製およびサポニン化合物(1)〜(9)の抗アレルギー作用について、実施例を具体的に説明するが、以下の実施例および試験例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0054】
なお、本実施例では、特に記載がない限り、以下の各種溶媒、ろ紙、クロマトグラフィー用担体およびHPLC用カラムを用いた:
メタノール:ナカライテスク社製、一級
クロロホルム:ナカライテスク社製、一級
酢酸エチル:ナカライテスク社製、一級
n−ブタノール:ナカライテスク社製、一級
【0055】
HPLC用メタノール:関東化学社製、特級
HPLC用アセトニトリル:関東化学社製、特級
ろ紙:アドバンテック社製:No.2
順相シリカゲルカラムクロマトグラフ用担体:富士シリシア社製、BW−200、150〜300メッシュ
【0056】
逆相ODSカラムクロマトグラフ用担体:富士シリシア社製、Chromatorex ODS 1020T、100〜200メッシュ
HPLCカラム:YMC社製、YMC Pack-ODS-A、20 mm(i.d.)×250 mm
【0057】
なお、各種物理データは、以下の装置を用いて測定した:
旋光度;堀場製作所社製:high sensitive SEPA-300 digital polarimeter (l=0.5)
高分解能質量分析;日本電子データム社製:JMS-SX 102A QQ型質量分析装置
赤外吸収スペクトル(IR);島津製作所社製:FT-IR DR-8000 spectrometer
核磁気共鳴スペクトル(NMR);日本電子データム社製:JNM-LA 500 (500 MHz)
なお、核磁気共鳴(NMR)スペクトルにおいて、化学シフト値:δは百万分の一(ppm)で表示し、略語はそれぞれ次の意味を有する:s:シングレット; d:ダブレット;dd:ダブルダブレット;ddd:ダブルダブルダブレット;t:トリプレット; q:クァルテット;dq:ダブルクァルテット;m:マルチプレット;br:ブロード;Ac:アセチル;Ang:アンゲロイル;2MB:2−メチルブチリル;Tig:チグロイル。
【0058】
実施例1
(1) チャ花部メタノール抽出エキスの調製
乾燥したチャ(C. sinensis)の花部1.8 kgを粉砕し、これに約10倍量のメタノール(18 L)を加え、加熱還流下3時間抽出した。抽出液を冷却後、ひだ折りろ紙でろ過し、抽出残渣に再度メタノール(18 L)を加え、3時間加熱還流し、冷却後、同様にろ過作業を行った。合計3回の抽出を行い、その抽出液をあわせ、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下に溶媒を留去して、チャ花部のメタノール抽出エキス693 g(乾燥原料からの収率38.5%)を得た。
【0059】
(2) メタノール抽出エキスの溶媒分配
上記メタノール抽出エキス(680 g)を酢酸エチル/水(1/1、5 L)で繰り返し分配抽出し、次いでその水層部を同量のn−ブタノール(3 L)で繰り返し分配抽出し、酢酸エチル移行部(135 g)、n−ブタノール移行部(226 g)および水移行部(320 g)を得た。
【0060】
(3) メタノール抽出エキスの分離および精製
上記n−ブタノール移行部(220 g)を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(3.0 kg)、移動相:メタノール/クロロホルム/水(10/3/1の下層→7/3/1の下層→6/4/1の下層で順次溶出し、最後にメタノールで溶出)で順次溶出し、溶出画分1(0.2 g)、2(10.3 g)、3(8.2 g)、4(15.8 g)、5(124.8 g)、6(60.0 g)を得た。
【0061】
このうち、溶出画分3(8.2 g)について、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(240 g、移動相:メタノール/水(10/90→20/80→30/70→50/50→70/30で順次溶出し、最後にメタノールで溶出))およびHPLC(移動相:メタノール/水(30/70、45/55または50/50))にて分離、精製し、カフェイン(caffeine、0.0024%)、ケンフェロール3−O−β−D−ガラクトピラノシド(kaempferol 3−O−β−D−galactopyranoside、0.0083%)およびケンフェロール3−O−β−D−グルコピラノシド(kaempferol 3−O−β−D−glucopyranoside、0.0064%)を得た。
【0062】
溶出画分4(5.8 g)について、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(240 g、移動相:メタノール/水(20/80→30/70→50/50→70/30で順次溶出し、最後にメタノールで溶出))およびHPLC(移動相:メタノール/水(30/70または45/55))にて分離、精製し、プリメベロシド(primeveroside、0.011%)、フェニルアルコールβ−D−キシロピラノシル(1→6)−β−D−グルコピラノシド(phenylalcohol β−D−xylopyranosyl(1→6)−β−D−glucopyranoside、0.032%)、シマウリノシド(shimaurinoside、0.058%)、ケルセチン3−O−β−D−ガラクトピラノシド(quercetin 3−O−β−D−galactopyranoside、0.024%)、ケンフェロール3−O−β−D−ガラクトピラノシド(kaempferol 3−O−β−D−galactopyranoside、0.066%)およびケンフェロール3−O−α−L−ラムノピラノシル(1→6)β−D−ガラクトピラノシド(kaempferol 3−O−α−L−rhamnopyranosyl(1→6)−β−D−galactopyranoside、0.011%)を得た。
【0063】
溶出画分5(124.8 g)について、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(2.0 kg、移動相:メタノール/水(20/80→50/50→70/30で順次溶出し、最後にメタノールで溶出))およびHPLC(移動相:メタノール/水(40/60または45/55)またはメタノール/1%酢酸(65/35、70/30または75/25))にて分離、精製し、フロラテアサポニンA((7)、0.013%)、B((8)、0.011%)、C((9)、0.054%)、D((1)、0.12%)、E((2)、0.25%)、F((3)、0.13%)、G((4)、0.053%)、H((5)、0.065%)およびI((6)、0.018%)、アッサムサポニン(assamsaponin E、0.25%)、ケンフェロール3−O−β−D−グルノピラノシル(1→3)−α−L−ラムノピラノシル(1→6)−β−D−ガラクトピラノシド(kaempferol 3−O−β−D−glucopyranosyl(1→3)−α−L−rhamnopyranosyl(1→6)−β−D−galactopyranoside、0.38%)およびケンフェロール3−O−β−D−グルノピラノシル(1→3)−α−L−ラムノピラノシル(1→6)−β−D−グルコピラノシド(kaempferol 3−O−β−D−glucopyranosyl(1→3)−α−L−rhamnopyranosyl(1→6)−β−D−glucopyranoside、0.36%)を得た。
【0064】
(4) 新規化合物の構造および物性
上記で得られた新規化合物(1)〜(6)の構造式を以下に示す。なお、以下の1H−NMRおよび13C−NMRによる構造解析に用いたナンバリングは、次式に基づいている。
【化11】

【0065】
フロラテアサポニンD(floratheasaponin D)(1)の物性値
性状:無色微細結晶(m.p.203〜206℃,CHCl3−MeOH)
旋光度:[α]D21 −12.8°(c=0.88,MeOH)
高分解能陽イオン質量分析:
理論値 C609426Na(M+Na)+ :1253.5931
実測値 :1253.5923
赤外吸収スペクトル(KBr,cm-1):3475,1719,1654,1048
質量分析
陽イオンFAB−MS:m/z1253(M+Na)+
陰イオンFAB−MS:m/z1229(M−H)-,1067(M−C6105-
【0066】
核磁気共鳴スペクトル:
1H−NMR(500 MHz、ピリジン−d5):δ 0.83,0.87,1.09,1.14,1.29,1.31,1.82(3H,全てs,25,26,29,24,23,30,27−H3),1.92(3H,s,Ac−H3),2.02(3H,s,Ang−5−H3),2.10(3H,d,J=7.0Hz,Ang−4−H3),3.04(1H,m,18−H),3.32(1H,dd-様,3−H),3.37,3.60(1H、それぞれ共にd,J=10.7Hz,28−H2),4.44(1H,m,16−H),4.97(1H,d,J=7.4Hz,1’−H),5.40(1H,br s,12−H),5.62(1H,d,J=7.6Hz,1’’−H),5.98(1H,qd-様,Ang−3−H),5.99(1H,br s,1’’’’−H),6.03(1H,d,J=5.8Hz,1’’’−H),6.15,6.54(1H それぞれ共にd,J=10.4Hz,22,21−H)
13C−NMR(125 MHz,ピリジン−d5):δC (表1に示す)
【0067】
フロラテアサポニンE(floratheasaponin E)(2)の物性値
性状:無色微細結晶(m.p. 204〜207℃,CHCl3−MeOH)
旋光度:[α]D21 −9.3°(c=0.85,MeOH)
高分解能質量分析(陽イオンFAB−MS):
理論値 C639827Na(M+Na)+ :1309.6193
実測値 :1309.6201
赤外吸収スペクトル(KBr,cm-1):3475,1719,1654,1046
質量分析
陽イオンFAB−MS:m/z1309(M+Na)+
陰イオンFAB−MS:m/z1285(M−H)-,1123(M−C6105-
【0068】
核磁気共鳴スペクトル:
1H−NMR(500 MHz,ピリジン−d5):δ 0.85,1.02,1.11,1.15,1.26,1.33,1.50(3H、それぞれ全てs,25,26,29,24,23,30,27−H3),1.76,2.01(3H、それぞれ共にs,22−Ang−5−H3,21−Ang−5−H3),1.96,2.09(3H、それぞれ共にd,J=7.0Hz,22−Ang−4−H3,21−Ang−4−H3),3.06(1H,m,18−H),3.28(1H,dd-様,3−H),3.49,3.74(1H、それぞれ共にd,J=10.7Hz,28−H2),4.20(1H,m,16−H),4.40(1H,m,15−H),4.95(1H,d,J=7.1Hz,1’−H),5.51(1H,br s,12−H),5.61(1H,d,J=7.1Hz,1’’−H),5.81,5.96(1H,それぞれ共にqd-様,22−Ang−3−H,21−Ang−3−H),5.99(1H,br s,1’’’’−H),6.02(1H,d,J=5.8Hz,1’’’−H),6.28,6.67(1H, それぞれ共にd,J=10.4Hz,22,21−H)
13C−NMR(125 MHz,ピリジン−d5):δC (表1に示す)
【0069】
フロラテアサポニンF(floratheasaponin F)(3)の物性値
性状:無色微細結晶(m.p.210〜213℃,CHCl3−MeOH)
旋光度:[α]D21 −9.4°(c=0.78,MeOH)
高分解能質量分析(陽イオンFAB−MS):
理論値 C6310027Na(M+Na)+ :1311.6350
実測値 :1311.6365
赤外吸収スペクトル(KBr,cm-1):3475,1722,1654,1046
質量分析
陽イオンFAB−MS:m/z1311(M+Na)+
陰イオンFAB−MS:m/z1287(M−H)-
【0070】
核磁気共鳴スペクトル:
1H−NMR(500 MHz,ピリジン−d5):δ 0.70(3H,t,J=7.4Hz,2MB−4−H3),0.86,1.03,1.10,1.13,1.28,1.30,1.82(3H、それぞれ全てs,25,26,29,24,23,30,27−H3),1.02(3H,d-様,2MB−5−H3),1.25,1.60(1H、それぞれ共にm,2MB−3−H2),2.03(1H,br s,2MB−2−H),2.03(3H,br s,Ang−5−H3),2.09(3H,dd,J=1.3,7.4Hz,Ang−4−H3),3.05(1H,m,18−H),3.28(1H,dd-様,3−H),3.47,3.73(1H、それぞれ共にd,J=10.7Hz,28−H2),4.19(1H,m,16−H),4.40(1H,m,15−H),4.93(1H,d,J=7.6Hz,1’−H),5.50(1H,br s,12−H),5.61(1H,d,J=7.1Hz,1’’−H),5.96(1H,qd-様,Ang−3−H),5.99(1H,br s,1’’’’−H),6.02(1H,d,J=5.8Hz,1’’’−H),6.28,6.62(1H、それぞれ共にd,J=10.4Hz,22,21−H)
13C−NMR(125 MHz,ピリジン−d5):δC(表1に示す)
【0071】
フロラテアサポニンG(floratheasaponin G)(4)の物性値
性状:無色微細結晶(m.p. 207〜210℃,CHCl3−MeOH)
旋光度:[α]D21 −16.5°(c=0.22,MeOH)
高分解能質量分析(陽イオンFAB−MS):
理論値 C609426Na(M+Na)+ :1253.5931
実測値 :1253.5940
赤外吸収スペクトル(KBr,cm-1):3424,1719,1658,1080,1050
質量分析
陽イオンFAB−MS:m/z 1253(M+Na)+
陰イオンFAB−MS:m/z 1229(M−H)-
【0072】
核磁気共鳴スペクトル:
1H−NMR(500 MHz,ピリジン−d5):δ 0.83,0.87,1.10,1.16,1.25,1.32,1.82(3H、それぞれ全てs,25,26,29,24,23,30,27−H3),1.66(3H,d,J=7.1Hz,Tig−4−H3),1.96(3H,s,Tig−5−H3),2.10(3H,s,Ac−H3),3.07(1H,m,18−H),3.28(1H,dd-様,3−H),3.38,3.62(1H、それぞれ共にd,J=10.7Hz,28−H2),4.45(1H,m,16−H),4.93(1H,d,J=7.5Hz,1’−H),5.40(1H, br s,12−H),5.62(1H,d,J=7.6Hz,1’’−H),5.97(1H,br s,1’’’’−H),6.02(1H,d,J=5.8Hz,1’’’−H),6.21,6.56(1H、それぞれ共にd,J=10.1Hz,22,21−H),7.09(1H,qd-様,Tig−3−H)
13C−NMR(125 MHz,ピリジン−d5):δC(表1に示す)
【0073】
フロラテアサポニンH(floratheasaponin H)(5)の物性値
性状:無色微細結晶(m.p. 210〜213℃,CHCl3−MeOH)
旋光度:[α]D21 −21.0°(c=0.13,MeOH)
高分解能質量分析(High−resolution 陽イオンFAB−MS):
理論値 C629627Na(M+Na)+ :1295.6046
実測値 :1295.6037
赤外吸収スペクトル(KBr,cm-1):3475,1717,1654,1085,1055
質量分析
陽イオンFAB−MS:m/z 1295(M+Na)+
陰イオンFAB−MS:m/z 1272(M−H)-
【0074】
核磁気共鳴スペクトル:
1H−NMR(500 MHz,ピリジン−d5):δ 0.77,0.78,1.07,1.15,1.47,1.47,2.03(3H、それぞれ全てs,25,26,29,24,23,30,27−H3),2.15,2.50(3H、それぞれ共にs,22−Ac−H3,16−Ac−H3),1.96(3H,s,Ang−5−H3),2.06(3H,d,J=7.3Hz,Ang−4−H3),3.00(1H,dd-様,18−H),3.32(1H,dd-様,3−H),3.46,3.59(1H、それぞれ共にd,J=10.4Hz,28−H2),4.94(1H,d,J=7.1Hz,1’−H),5.39(1H,m,16−H),5.39(1H,br s,12−H),5.63(1H,d,J=7.3Hz,1’’−H),5.86,6.11(1H、それぞれ共にd,J=10.1Hz,22,21−H),5.98(1H,br s,1’’’’−H),5.99(1H,qd-様,Ang−3−H),6.05(1H,d,J=5.8Hz,1’’’−H)
13C−NMR(125 MHz,ピリジン−d5):δC(表1に示す)
【0075】
フロラテアサポニンI(floratheasaponin I)(6)の物性値
性状:無色微細結晶(m.p. 200〜203℃,CHCl3−MeOH)
旋光度:[α]D21 +26.2°(c=0.26,MeOH)
高分解能質量分析(陽イオンFAB−MS):
理論値 C609426Na(M+Na)+ :1253.5931
実測値 :1253.5935
赤外吸収スペクトル(KBr,cm-1):3475,1719,1654,1081,1051
質量分析
陽イオンFAB−MS:m/z 1253(M+Na)+
陰イオンFAB−MS:m/z 1229(M−H)-,1067(M−C6105-
【0076】
核磁気共鳴スペクトル:
1H−NMR(500 MHz,ピリジン−d5):δ 0.83,0.98,1.08,1.12,1.26,1.28,1.99(3H、それぞれ全てs,25,26,29,24,23,30,27−H3),1.97(3H,s,Ang−5−H3),2.04(3H,d,J=7.3Hz,Ang−4−H3),2.11(3H,s,Ac−H3),2.82(1H,dd-様,18−H),3.27(1H,dd-様,3−H),4.21(2H,m,28−H2),4.43(1H,m,16−H),4.94(1H,d,J=6.7Hz,1'−H),5.40(1H,br s,12−H),5.44(1H,m,22−H),5.57(1H,d,J=7.3Hz,1’’−H),5.91(1H,qd-様,Ang−3−H),5.93(1H,br s,1’’’’−H),5.98(1H,d,J=5.2Hz,1'''−H),6.39(1H,d,J=9.5Hz,21−H)
13C−NMR(125 MHz,ピリジン−d5):δC(表1に示す)
【0077】
【表1】

【0078】
型アレルギー作用(脱顆粒抑制)に及ぼす作用
チャ花部メタノール抽出エキスおよびその溶媒分画により得られた各移行部ならびにフロラテアサポニンA〜F(化合物(7)〜(9)および(1)〜(3))の抗アレルギー作用の指標として、抗I型アレルギー作用(脱顆粒抑制活性)を検討した。
【0079】
抗原刺激による脱顆粒の指標として、脱顆粒によってメディウム中にヒスタミンなどとともに遊離してくるβ-ヘキソサミニダーゼ活性を求めた。
すなわち、RBL-2H3細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)を10%牛胎児血清 (FCS)、100 単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン含有Minimum Essential Medium Eagle (Sigma社)で培養(培養条件5% CO2, 37℃)した。
【0080】
次に細胞培養用24ウエル平板マイクロプレートに2.0×105細胞(400μl/ウェル)ずつ播種し、1時間培養した後、マウスモノクローナル抗DNP IgE抗体(Sigma社)を培養液に加え(終濃度:0.45μg/ml)、約24時間培養(5% CO2、37℃)することによって細胞を感作した。その後、感作した細胞を400μlの5.6 mMブドウ糖、1mM 塩化カルシウム、0.1% 牛血清含有シラガニアン緩衝液 (119 mM塩化ナトリウム、5 mM塩化カリウム、0.4 mM塩化マグネシウム、25 mMピペラジン-N,N'-ビス(2-エタンスルホン酸) (PIPES)、40 mM 水酸化ナトリウム、pH 7.2)で2回洗浄し、160μlの5.6 mMブドウ糖、1 mM塩化カルシウム、0.1%牛血清アルブミン含有シラガニアン緩衝液を加えて10分間予備加温(加温条件5% CO2、37℃)した。
【0081】
20μlの被験物質のジメチルスルホキシド溶液(ジメチルスルホキシドの終濃度0.1%)を加え、10分後に抗原(ジニトロフェニル化牛血清アルブミン、終濃度:10μg/ml) 20μlを加えて10分間インキュベートして細胞を刺激した。その後、10分間氷冷して反応を止め、上清50μlを96ウエル平板マイクロプレートに移し、0.1 Mクエン酸緩衝液に溶解した1 mM p-ニトロフェニル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド50μlを加えて混和後、37℃で1時間反応させた。
【0082】
反応溶液に200 μlの停止液(0.1M 炭酸緩衝液、pH 10.0)を加えて混和し、マイクロプレートリーダー(モデル 550型, BIO-RAD社)にて吸光度(測定波長:405 nm, 参照波長:655 nm)を測定し。遊離率したβ-ヘキソサミニダーゼ活性から脱顆粒抑制率を算出した。比較対照としてトラニラストを用いた。
得られたデータは各群において集計し、平均値および標準誤差を算出した。また、対照群と被験薬物投与群における平均値の差はDunnett法を用いて検定し、危険率(p) 5%以下を有意とみなした。
【0083】
試験結果
上記実施例1の項において得られたメタノール抽出エキス、酢酸エチル可溶性画分、n-ブタノール可溶性画分および水可溶性画分の各種濃度で抗I型アレルギー作用試験に付し
て得られた結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
上記の結果から、メタノール抽出エキス、酢酸エチル可溶性画分およびn-ブタノール可溶性画分のいずれもが脱顆粒抑制作用を有することが判明した。特に、n-ブタノール画分は、トラニラストの脱顆粒抑制作用と比べても遜色がない極めて高い脱顆粒抑制作用を有することが判明した。
【0086】
次にフロラテアサポニンA〜F(化合物(7)〜(9)および化合物(1)〜(3)について同様に脱顆粒抑制作用を調べた結果を表3に示す。
【表3】

【0087】
上記の結果から、フロラテアサポニンA〜Fはいずれも脱顆粒抑制作用を有することが判明した。
【0088】
実施例2
当該分野で公知の方法にしたがって、チャまたはアッサムチャの花部メタノール抽出物10重量部を乳糖25重量部と混合し、ゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に抽出物が500 mg含有されるゼラチンカプセル剤を得た。
【0089】
実施例3
実施例1で得られた酢酸エチル可溶画分を実施例2のエタノール抽出物に替えて、実施例2と同様にして、ゼラチンカプセル剤を得た。
【0090】
実施例4
実施例1で得られたブタノール可溶画分を実施例2のエタノール抽出物に替えて、実施例2と同様にして、ゼラチンカプセル剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の、チャおよびアッサムチャの花部またはその水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出によって得られる抽出物あるいはその処理物または化合物(1)〜(9)を有効成分として含有する抗アレルギー剤は、優れた抗アレルギー効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてのチャもしくはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出により得られる抽出物あるいはその処理物と医薬的に受容な賦形剤または担体とからなる、抗アレルギー用組成物。
【請求項2】
前記処理物が、チャもしくはアッサムチャの花部の水あるいは低級アルコールまたはそれらの混液抽出により得られる抽出物をさらに酢酸エチル/水の系で分配処理して得られる酢酸エチル可溶画分である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記処理物が、前記酢酸エチル/水の系で分配処理して得られる水溶性画分をさらにn−ブタノールとの間で分配処理して得られるn−ブタノール可溶性画分である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抽出物が、一般式(I):
【化1】

[式中、R1はアンゲロイル基またはチグロイル基を表し、R2は水素原子、アセチル基、アンゲロイル基または2−メチルブチリル基を表し、R3は水素原子またはアセチル基を表し、R4は水素原子またはアセチル基を表し、R5は水素原子またはヒドロキシ基を表し、R6はα-L-ラムノピラノシル基またはα−D−キシロピラノシルシル基を表す]
で表されるサポニン化合物の少なくとも一つまたはそれらの塩を含む、請求項1に記載の抗アレルギー用組成物。
【請求項5】
前記一般式(I)において、R6がα-L-ラムノピラノシル基である、一般式(II):
【化2】

[式中、R1はアンゲロイル基またはチグロイル基を表し、R2は水素原子、アセチル基、アンゲロイル基または2−メチルブチリル基を表し、R3は水素原子またはアセチル基を表し、R4は水素原子またはアセチル基を表し、R5は水素原子またはヒドロキシ基を表す]
で表されるサポニン化合物またはそれらの塩。
【請求項6】
前記一般式(II)において、R1がアンゲロイル基であり、R2がアセチル基であり、R3、R4およびR5が共に水素原子である請求項5に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項7】
前記一般式(II)において、R1およびR2が共にアンゲロイル基であり、R3およびR4が水素原子であり、R5がヒドロキシ基である請求項5に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項8】
前記一般式(II)において、R1がアンゲロイル基であり、R2が2−メチルブチリル基であり、R3およびR4が水素原子であり、R5がヒドロキシ基である請求項5に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項9】
前記一般式(II)において、R1がチグロイル基であり、R2がアセチル基であり、R3、R4およびR5が水素原子である請求項5に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項10】
前記一般式(II)において、R1がアンゲロイル基であり、R2がアセチル基であり、R3が水素原子であり、R4がアセチル基であり、R5が水素原子である請求項5に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項11】
前記一般式(II)において、R1がアンゲロイル基であり、R2が水素原子であり、R3がアセチル基であり、R4およびR5が水素原子である請求項5に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の組成物または請求項5〜11のいずれか一つに記載のサポニン化合物またはその塩を含む健康食品。

【公開番号】特開2008−24654(P2008−24654A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199605(P2006−199605)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(501361600)株式会社 日本薬用食品研究所 (8)
【出願人】(504300066)株式会社 ハリマ漢方製薬 (6)
【Fターム(参考)】