説明

チャコ用焼成鉛筆芯

【課題】布への筆記が可能であり、その筆記線の定着性も良く、水などによる洗浄での筆記線の消去性に優れ、鉛筆芯および筆記線の経時変化が少なく、保存安定性に優れた、高温で焼成した焼成芯体の気孔中に、非イオン性界面活性剤を含浸した、チャコ用鉛筆芯を提供すること。
【解決手段】黒鉛を含む高温で焼成した焼成芯体の気孔中に、少なくともHLB値が8〜20である非イオン性界面活性剤を含浸し、チャコ用焼成鉛筆芯とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャコ用焼成鉛筆芯に関する。さらに詳しくは、焼成芯体の気孔中に、非イオン性界面活性剤を含浸したチャコ用焼成鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に焼成鉛筆芯は、黒鉛などの体質材と樹脂などの結合材とを混練し、押出、焼成して得られた焼成芯体の気孔中に、油類を含浸して完成芯としている。気孔中に含浸する油脂類は、筆記濃度を高めると共に、書き味を滑らかにするために用いられている。油脂類としては、動植物油、スピンドル油、流動パラフィンなどの鉱油、シリコーン油、変性シリコーン油、ワックス類などが挙げられ、これらを単独または、組み合わせて使用されている。(例えば特許文献1、2参照)
【0003】
これらの焼成鉛筆芯は、通常の鉛筆芯、シャープペンシル用の芯などに用いられ、紙や布への筆記が可能である。しかしながら、例えば、布の表面に裁断するための線やボタン孔などの目印を一時的にマ−キングする所謂チャコ用として用いた場合、目印としてマーキングした筆記線の消去を、水などによる洗浄で行っても、含浸した油脂類などの影響により、筆記線の消去性が悪いなどの課題があった。
【0004】
一方、水消去性の焼成鉛筆芯は、気孔内に電子供与性呈色性化合物と水溶性の電子受容性化合物が反応した発色した状態で充填し、筆記後、筆記線を水により消去することが可能である。(例えば特許文献3参照)
【0005】
しかしながら、筆記線を消去するメカニズムは、水により水溶性の電子受容性化合物を除去し、消色状態として消去するため、筆記線の色は消えているが、マーキングした布などの表面に、焼成鉛筆芯の材料が残るなどの課題があった。
【0006】
このように、従来の焼成鉛筆芯は、筆記線を完全に消去出来ないため、チャコ用として用いることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−316384号公報
【特許文献2】特開2006−089616号公報
【特許文献3】特開平9−286946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、布への筆記が可能であり、その筆記線の定着性も良く、水などによる洗浄での筆記線の消去性に優れ、焼成鉛筆芯および筆記線の経時変化が少なく、保存安定性に優れた、チャコ用焼成鉛筆芯を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高温で焼成した焼成芯体の気孔中に、特定の非イオン性界面活性剤を含浸し、焼成鉛筆芯とすることなどにより上記課題が解決され、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
「1.黒鉛を含む焼成芯体の気孔中に、少なくともHLB値が8〜20である非イオン性界面活性剤を含浸したことを特徴とするチャコ用焼成鉛筆芯。
2.非イオン性界面活性剤の分子量が400〜6000であることを特徴とする第1項に記載のチャコ用焼成鉛筆芯。
3.非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレン鎖を有することを特徴とする第1項または第2項のいずれかに記載のチャコ用焼成鉛筆芯。」に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼成芯体の気孔中に、HLB値が8〜20の非イオン性界面活性剤を含浸したことにより、筆記線が水溶性となり、布などへの筆記した後に、筆記線を消去するために水などによる洗浄を行った場合にも、筆記線が残らないなど、筆記線の消去性が良好となった。また、特定の非イオン性界面活性剤を含浸させたことにより、焼成鉛筆芯および筆記線の経時変化が少ないなど、チャコ用焼成鉛筆芯としての優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のチャコ用鉛筆芯は、少なくとも高温で焼成した焼成芯体と、焼成芯体の気孔中に含浸した非イオン性界面活性剤を最小の単位として構成する。
【0012】
本発明において、焼成芯体の気孔中に非イオン性界面活性剤を含浸するが、含浸する材料として特定の非イオン性界面活性剤を用いた場合、該界面活性剤が、水溶性であるため、洗浄剤としての効果が働く。この為、従来、含浸する材料として用いていた油脂類では、布に筆記した場合、筆記線を水などにより洗浄した場合に、消え残りがみられたが、該界面活性剤を含浸した場合、消え残りなく消去することが可能となる。
【0013】
本発明に用いる非イオン性界面活性剤のHLB値は、8以上である。HLB値は0〜20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなる。HLB値が8より小さいと親水性が落ちるため、筆記線の水による消去性能が低下する。水による消去性を維持するためには、HLB値が8以上であることが必要である。また、前記の通りHLBは、20までであることから、HLB値の範囲としては、8〜20となる。
【0014】
また、焼成芯体は、親油性の黒鉛で構成されているため、気孔内に含浸する材料は、黒鉛と親和性を有する必要があり、該材料は親油基を有しないと含浸しにくくなるため、親油基と親水基を有する非イオン性界面活性剤を用いることが必要である。さらに、洗浄による消去性を満足するためには、水溶性の非イオン性界面活性剤を用いる必要があり、以上のことから、HLB値が8〜20の非イオン性界面活性剤を用いることが必要である。
【0015】
非イオン界面活性剤としては、HLB値が8以上のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類などが挙げられる。特に、ポリオキシエチレン鎖を有するHLB値が8以上の非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。ポリオキシエチレン鎖を有すると、親水性と親油性のバランスがとれ、筆記線の水に対する溶解性と、前記焼成芯体を布から取り去る効果を有するため好ましい。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0016】
また、HLB値が10より小さい範囲であると、水で完全に消去することは出来るが、水での洗浄に若干時間がかかるようになり、17より大きいと、非イオン性界面活性剤の吸湿性のため、前記焼成芯が、保存や使用する環境の湿度が高い場合、若干べたつく傾向が見られる。このことから、HLB値が10〜17の範囲であると、水による消去性、保存安定性が良好であるため、特に好ましい。
【0017】
本発明に用いる非イオン性界面活性剤の分子量は、400〜6000が好ましい。分子量が400より小さいと、経時後に、該界面活性剤の一部が揮発し、水で完全に消去することは出来るが、初期との比較で、水での洗浄に若干時間がかかるようになり、分子量が6000より大きいと、該界面活性剤を焼成芯体に含浸する場合に、含浸に時間がかかる傾向がある。前記界面活性剤の分子量が上記範囲にあると経時後の変化も起こらず、含浸も簡単に行うことが出来るため、好ましい。このように、分子量が400〜6000の範囲にあると、保存安定性、製造工程上などから、特に好ましい。
【0018】
本発明に用いる非イオン性界面活性剤は、23℃において固体であると、筆記時に筆感がやや重く感じられる傾向があり、液体であると、筆記時に滑らかな筆感が得られるため、23℃において液体であることがより好ましい。
【0019】
本発明のチャコ用鉛筆芯は、前記黒鉛以外に、カーボンブラック、窒化硼素、タルク、雲母などの体質材、製造時に結合材として働く粘土あるいは樹脂を焼成して得られた炭素などを含んでいても良い。粘土としては、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイトなどの粘土鉱物が挙げられる。また、樹脂としては従来公知のものが用いられ、例えばポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、フラン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの合成高分子物質や、リグニン、セルロース、トラガントガム、アラビアガムなどの天然高分子物質、石油アスファルト、コールタールピッチ、樹脂乾留ピッチなどのピッチ類などが挙げられる。
【0020】
また、本発明に用いる焼成芯体の気孔率は特に限定されないが、筆記線の水洗浄による消去性を向上するため、5〜40%の範囲であることが好ましい。5%より小さいと含浸された非イオン性界面活性剤の量が少なくなり、筆記線を水で完全に消去することは出来るが、水での洗浄に若干時間がかかるようになり、40%より大きいと、筆記線の視認性が若干劣る傾向がある。5〜40%の範囲であると、筆記線の視認性が良く、筆記線の消去性が良好であるので好ましい。
【0021】
なお、本発明に用いる焼成芯体の気孔率は、以下の方法により測定することが出来る。浸透性の良い液体(例えばベンジルアルコール)を芯の気孔に吸収させ、吸収された液体の容量を芯の嵩容積で除し、百分率で表したものであり、下記(数1)に示す式により、求められる。
【数1】

【0022】
本発明の焼成鉛筆芯の製造方法は、黒鉛と、必要に応じてカーボンブラック、窒化硼素、タルク、雲母などの体質材、粘土、天然高分子物質、合成高分子物質などの結合材を加え、必要に応じて溶剤、可塑剤、耐熱性顔料などを添加して混練、押出成形する。この押出成形物を、600℃以上の高温で焼成し、焼成芯体を得る。得られた焼成芯体の気孔中に、非イオン性界面活性剤を含浸して鉛筆芯とする。非イオン性界面活性剤を含浸する方法としては、常圧含浸または減圧、加圧含浸法を用いて、温度を70〜200℃に保ち含浸を行う。充分に含浸させた後に、表面に付着した余分な非イオン性界面活性剤を遠心分離または吹き付け洗浄などにより除去する。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
実施例1
黒鉛 50質量部
ピッチ状物質 35質量部
ポリビニルアルコール 15質量部
上記配合物をニーダー、三本ロールにて混練し、得られた混練物を所定の径にて押出成形を行い、成形物を得た。この成形物をアルゴンガス中において、昇温速度50℃/時間で900℃まで昇温し、2時間保持し、気孔率が25%の焼成芯体を得た。得られた焼成芯体を、70℃に加温したポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテル(HLB値18.4 分子量2300 23℃における状態は固体)中に浸漬し、10時間保持をした。次に、ポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテルを含浸した焼成芯体の表面をエタノールで洗浄し、表面に付着した過剰のポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテルを除去し、チャコ用焼成鉛筆芯を得た。
【0024】
実施例2
黒鉛 60質量部
ピッチ状物質 40質量部
上記配合物をニーダー、三本ロールにて混練し、得られた混練物を所定の径にて押出成形を行い、成形物を得た。この成形物をアルゴンガス中において、昇温速度50℃/時間で900℃まで昇温し、2時間保持し、気孔率が30%の焼成芯体を得た。得られた焼成芯体を、100℃に加温したポリエチレングリコール(141)モノステアレート(HLB値19.4 分子量6488 23℃における状態は固体)中に浸漬し、15時間保持をした。次に、ポリエチレングリコール(141)モノステアレートを含浸した焼成芯体の表面をエタノールで洗浄し、表面に付着した過剰のポリエチレングリコール(141)モノステアレートを除去し、チャコ用焼成鉛筆芯を得た。
【0025】
実施例3
黒鉛 50質量部
ピッチ状物質 35質量部
ポリビニルアルコール 15質量部
上記配合物をニーダー、三本ロールにて混練し、得られた混練物を所定の径にて押出成形を行い、成形物を得た。この成形物をアルゴンガス中において、昇温速度50℃/時間で900℃まで昇温し、2時間保持し、気孔率が25%の焼成芯体を得た。得られた焼成芯体を、100℃に加温したポリエチレングリコール(140)ジステアレート(HLB値18.9 分子量6710 23℃における状態は固体)中に浸漬し、15時間保持をした。次に、ポリエチレングリコール(140)ジステアレートを含浸した焼成芯体の表面をエタノールで洗浄し、表面に付着した過剰のポリエチレングリコール(140)ジステアレートを除去し、チャコ用焼成鉛筆芯を得た。
【0026】
実施例4〜12
ポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテルの代わりに、(表1)の非イオン性界面活性剤を用いた以外は、実施例1と同じ方法でチャコ用焼成鉛筆芯を得た。
【表1】

【0027】
比較例1〜4
ポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテルの代わりに(表2)の含浸材料を用いた以外は、実施例1と同じ方法でチャコ用焼成鉛筆芯を得た。
【表2】

【0028】
実施例1〜12、比較例1〜4で得たチャコ用焼成鉛筆芯について、下記要領にて評価を行った。結果を(表3)に示す。
【表3】


筆記線の水消去性:チャコ用焼成鉛筆芯を用いて、綿100%からなる布(VANCETカラーブロード オフホワイト)筆記し、印つけを行った。この布を1時間放置した後に、洗濯機にて水洗いし、乾燥後、その消去状態を確認した。
◎:5分以内の水洗いで、完全に筆記線が消去されている。
○:5〜15分以内の水洗いで、完全に筆記線が消去されている。
×:15分以上の水洗い後、筆記線は筆記直後と比較して薄くはなっているが、視認可能であり、筆記線が消去されていない。
××:15分以上の水洗い後も、筆記線が筆記直後の状態で残っており、水による消去性を有していない。
【0029】
保存安定性:チャコ用焼成鉛筆芯の質量を、初期と60℃で60日間送風乾燥機に放置した後に測定し、その減量を比較した。
◎:減量が3%以内となっている。
○:減量が3〜10%以内となっている。
【0030】
加湿時保存安定性:チャコ用焼成鉛筆芯を25℃で湿度80%の恒温槽内に30日間放置した後、チャコ用焼成鉛筆芯の状態の観察を行った。
◎:初期と変化がない。
○:チャコ用焼成鉛筆芯が吸湿しており、表面がべとついている。
【0031】
筆感:チャコ用焼成鉛筆芯を用いて、綿100%からなる布(VANCETカラーブロード オフホワイト)筆記し、印つけを行った時の筆感を評価した。
◎:滑らかに筆記可能。
○:筆感がやや重い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のチャコ用鉛筆芯は、布への筆記が可能であり、水洗いで筆記線を完全に消去できることなどから、チャコなどとしての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛を含む焼成芯体の気孔中に、少なくともHLB値が8〜20である非イオン性界面活性剤を含浸したことを特徴とするチャコ用焼成鉛筆芯。
【請求項2】
非イオン性界面活性剤の分子量が400〜6000であることを特徴とする請求項1に記載のチャコ用焼成鉛筆芯。
【請求項3】
非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレン鎖を有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のチャコ用焼成鉛筆芯。

【公開番号】特開2011−111476(P2011−111476A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266887(P2009−266887)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】