説明

チャンネル型光導波路の形成方法

【目的】 第2高調波発生(SHG)素子、光偏向器、光変調器、光スイッチ、光増幅器あるいは光集積回路などの光デバイスとして有用な、再現性、膜厚均一性に優れ、かつ薄膜結晶性が全く劣化しないリッジ型光導波路を容易に形成すること。
【構成】 基板の上部に光導波路となる薄膜部分を形成し、この上に一般的なフォトリソグラフィー技術を用いて光導波路形状のマスクパターンを施した後、液相エピタキシャル法において使用するフラックスを溶融状態とし、その溶融体中においてエッチングを行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、第2高調波発生(SHG)素子、光偏向器、光変調器、光スイッチ、光増幅器あるいは光集積回路などの光デバイスとして有用なチャンネル型光導波路の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、レーザ光を利用した光情報処理装置の発展にはめざましいものがあるが、なかでも、光偏向器、光変調器、光増幅素子、光スイッチなどの光デバイスについては、電気光学効果や非線形光学効果、磁気光学効果などの光学的特性に優れ、伝搬損失の低い高品質の光導波路の使用が不可欠である。
【0003】光導波路には、基板上に厚さ数μmの平面状薄膜を設けたスラブ(平面)型光導波路と、更にその面内にも帯状に屈折率差を設けるか、あるいは段差すなわち膜厚差を設け、帯状領域のみ導波するようにしたチャンネル型光導波路とがあるが、チャンネル型光導波路の方が光の閉じ込め効率が高くできるため有利とされている。
【0004】チャンネル型光導波路の基本的な形状としては、埋め込み型、リッジ型、装荷型があるが、光変調器などの光デバイスに応用した場合、リッジ型の光導波路とすることが望ましい。それは、この形状の光導波路の方が光の閉じ込め効率が高く、加工も容易にできるからである。
【0005】上記、リッジ型光導波路は、従来、基板の上部に光導波路となる薄膜部分を形成し、この上に一般的なフォトリソグラフィー技術を用いて光導波路形状のマスクパターンを施し、次いで(1)ウエットエッチング(化学エッチング)、(2)イオンビームエッチング、(3)反応性イオンエッチング(RIE、Reactive Ion Etching)などの方法によってマスクパターン以外の薄膜部分を除去してリッジ型光導波路を作製していた。
【0006】
【発明が解決しようとする問題点】しかしながら、前記ウエットエッチング法は、例えば、西原浩、春名正光、栖原敏明 共著「光集積回路」(オーム社発行)のp193に記載されているように、エッチング速度の充分な再現性を得ることが困難で、また等方的であることから、1μm以下の加工精度が要求される場合には満足な結果が得られず、またエッチングした部分にアンダーカットが見られるという欠点があった。
【0007】また、前記イオンビームエッチング、反応性イオンエッチング法は、例えば、電気学会大学講座「電子材料工学」(オーム社発行)のp265〜267に記載されているように、(A)エッチング速度が概して遅く、かつ装置のスループット、すなわち処理能力が低く経済的に不利となる、(B)エッチングプロセス中に反応生成物あるいは反応容器に起因する汚染物が試料表面に付着する、(C)加速イオン衝撃によって試料に損傷を与える、(D)電極間の放電状態あるいは反応ガスの流形によってエッチング速度が不均一となるなどの欠点あった。
【0008】しかるに、前記エッチング工程を含む従来技術で作製したリッジ型光導波路は、再現性、膜厚均一性に劣り、かつ薄膜結晶性の劣化に伴い、光導波路の光学特性の劣化や伝搬損失が増大するという問題点を有していた。
【0009】
【問題点を解決するための手段】本発明者らは、従来技術の問題点を克服するために鋭意研究を重ねた結果、液相エピタキシャル法において結晶を育成するために使用するフラックスを溶融状態とし、その溶融体中において従来の使用目的とは逆にエッチングを行うことにより、再現性、膜厚均一性に優れ、かつ薄膜結晶性が全く劣化しないリッジ型光導波路が極めて容易に得られることを新規に知見した。
【0010】すなわち、本発明は、基板の上部に光導波路となる薄膜部分を形成し、この上に一般的なフォトリソグラフィー技術を用いて光導波路形状のマスクパターンを施した後、溶融状態にあるフラックス中においてエッチングを行うことを特徴とするチャンネル型光導波路の形成方法に関する。
【0011】
【作用】本発明のチャンネル型光導波路の形成方法は、基板の上部に光導波路となる薄膜部分を形成し、この上に一般的なフォトリソグラフィー技術を用いて光導波路形状のマスクパターンを施した後、エッチング液として飽和温度以上に加熱されたフラックスを用い、その溶融体中においてエッチングを行うことが特徴である。ここで飽和温度とはフラックス中にフラックスの融解温度よりも高い融点を持つ物質を溶解させる際に、そのフラックス以外の物質がフラックス中に完全に溶解する時の温度をいう。なお、フラックス以外の成分が存在せず、フラックスのみの場合、飽和温度はフラックスの融解温度に等しくなる。溶融体中におけるエッチングは、従来のエッチング液のような等方的なエッチングとはならず、アンダーカットが生じないだけでなく、エッチング速度の再現性にも優れ、またイオンビームエッチング、反応性イオンエッチングのようにエッチング速度が不均一にならないため、膜厚均一性に優れ、かつ薄膜結晶性が全く劣化しない。このため、光学的特性の優れたリッジ型光導波路を極めて容易に形成することができる。
【0012】前記エッチングに使用するフラックス組成としては、薄膜を溶解せしめるものであれば特に限定されないが、PbO−PbF2 、PbO−B2 3 、M+ F、M+ Cl、M+2O−B2 3 、M+2O−MoO3 、M+2O−WO3 、M+2O−V2 5 (M+ =Li、Na、K、Rb)系から選ばれる少なくとも1種のフラックス組成が望ましい。特に、基板上の薄膜結晶がLiNbO3 および異種元素を含むLiNbO3 の場合には、M+2O−V2 5 (M+ =Li、Na、K)系が望ましい。それは、M+2O−V2 5 (M+ =Li、Na、K)系が、LiNbO3および異種元素を含むLiNbO3 を溶解させても極めて安定であり、またM+2O−V2 5 (M+ =Li、Na、K)系フラックスは、酸あるいは水に溶解するため、エッチング終了後に薄膜結晶上に残留しても容易に除去することができるからである。ニオブ酸リチウム単結晶薄膜をエッチングさせる場合は、以下の組成が有利である。LiVO3 −NaVO3 フラックス系の組成としては、Na2 O,MgOを除いた、Li2 O、V2 5 、Nb2 5 の組成範囲が、Li2 O−V2 5 −Nb2 5 の3成分系の三角図において、A(88.90,2.22,8.88)、B(55.00,43.00,2.00)、C(46.50,51.50,2.00)、D(11.11,80.00,8.89)、E(37.50,5.00,57.50)の5組成点で囲まれる領域で示される組成範囲内にあることが有利である。前記組成点は、(Li2 Oのモル%,V2 5 のモル%,Nb2 5 のモル%)を指す。また、前記Na2 O,MgOを除いた、Li2 O、V2 5 、Nb2 5 の組成範囲としてはLi2 O−V2 5 −Nb2 5 の3成分系の三角図において、F(49.49,45.46,5.05)、G(11.11,80.00,8.89)、H(42.81,22.94,34.25)の3組成点で囲まれた組成割合であることが好ましく、また、前記Li2 O−V2 5 −Nb2 5 の組成範囲は、3成分系の三角図において、I(47.64,46.12,6.24)、J(27.01,64.69,8.30)、K(36.71,37.97,25.32)、L(44.05,32.97,22.98)の4組成点で囲まれる範囲が好適であり、さらにM(45.36,46.45,8.19)、N(32.89,57.05,10.06)、O(36.71,44.30,18.99)、P(44.95,40.54,14.51)の4組成点で囲まれる範囲が最適である。本発明におけるNa2 Oの組成割合として、モル比でNa2 O/Li2 Oが、2.0/98.0〜93.5/6.5を満たす範囲であることが望ましい。前記Na2 Oの組成割合として、モル比でNa2 O/Li2 Oが、7.4/92.6〜80.0/20.0を満たす範囲であることが望ましく、16.7/83.3〜48.4/51.6を満たす範囲であることが好適である。また、MgOの組成割合として、モル比でMgO/ニオブ酸リチウムの値が、0.1/99.9〜25.0/75.0を満たす組成範囲であることが望ましい。前記ニオブ酸リチウムとは溶融体組成から析出可能なニオブ酸リチウムの理論量を意味する。さらに、MgOの組成割合として、モル比でMgO/ニオブ酸リチウムの値が、0.7/100〜9.0/100を満たす組成範囲であることが好ましく、3.5/100〜6.0/100を満たす組成範囲であることが好適である。特にLi2 O、Nb2 5 がLi2 O/Nb2 5 >1を満たす組成範囲では、MgOの組成割合として、モル比でMgO/Nb2 5 が、0.2/99.8〜40.0/60.0を満たす範囲であることが望ましい。前記MgOの組成割合として、モル比でMgO/Nb2 5 が、0.7/50.0〜9.0/50.0を満たす範囲であることが好ましく、3.5/50.0〜6.0/50.0を満たす範囲であることが好適である。
【0013】前記エッチング速度は、フラックス溶融体の温度、エッチング時間、フラックス組成によって調整することが望ましい。特に、エッチング速度を遅くしたい場合には、エッチングされる薄膜結晶をあらかじめフラックス中に溶解させておくことが有利である。それは、エッチング速度を遅くするためにフラックス溶融体の温度を下げるとフラックスが不安定となり、フラックス成分あるいはフラックス中に溶解している成分が微結晶として析出してエッチングが継続できなくなる恐れがあるのに対して、エッチングされる薄膜結晶をあらかじめフラックス中に溶解させておくと、フラックス溶融体が安定な、温度が充分高い状態であっても、フラックス溶融体の薄膜結晶に対する溶解能力を低下させることができるからである。
【0014】前記エッチング時のマスク材の特性としては、エッチングする薄膜結晶よりも融点が高いこと、エッチングする温度において薄膜結晶中に拡散しないこと、溶融フラックスに対して薄膜結晶と同等以下の溶解性を有することが必要である。
【0015】前記エッチング時のマスク材としては、エッチングされる薄膜結晶および薄膜結晶の構成元素からなることが有利である。その理由は、前記、マスク材の要求特性を容易に満たしうるからである。例えば、薄膜結晶がLiNbO3の場合には、マスク材としてはLiNbO3 あるいは、Nb2 5 を用いることが有利である。
【0016】前記エッチング時のマスク材の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、スピンコーティング法、ディップコーティング法などが望ましいが、特にスパッタ法が好適である。その理由は、マスク材の膜厚制御が容易であり、かつ、本発明の形成方法においては、マスク材の結晶性が高い必要がなく非晶質でも構わないため、スパッタ法で得られる程度の結晶性で充分その目的を果たしうるためである。
【0017】前記エッチング時のマスク材の膜厚は、チャンネル型光導波路において希望する段差と一致させることが望ましい。その理由は、従来のイオンビームエッチング法などにおいては、マスク材下の薄膜結晶への影響を抑えるために、その膜厚を充分厚く形成し、エッチング終了後、そのマスク材の残留部分を化学エッチングなどの方法によって除去する必要があったが、本発明の形成方法においては、マスク材がすべてエッチングされた時点で、マスク材の膜厚に相当する段差が既に形成されており、更にエッチングを行ってもその段差は変わることないため、マスク材の残留部分を除去する必要がなく、またエッチングされたマスク材下の薄膜結晶の結晶性には全く影響を与えないからである。
【0018】前記エッチングの際には、エッチング試料を回転させることが望ましい。これは試料を回転させることにより、エッチングが均一になされるからである。
【0019】前記エッチング終了後には、試料を回転させ、フラックスを振り切ることが望ましい。これは、フラックスが薄膜結晶表面に残留すると、薄膜の結晶性、光学特性、光伝搬損失が低下する恐れがあるためである。
【0020】本発明の光導波路は、基板と薄膜導波層の結晶格子を互いに整合(格子整合)させたものであることが望ましい。それは、このように基板と薄膜導波層とを格子整合させると、格子の歪みや結晶欠陥が極めて少なくなり、マイクロクラックなどのない高品質の薄膜導波層を形成することができるからである。
【0021】このような格子整合に当たって、前記薄膜導波層の格子定数は、基板の格子定数の99.81〜100.03%であることが望ましい。この理由は、薄膜導波層の格子定数が、基板の格子定数の99.81%より小さくなると薄膜導波層にクラックが発生し、また、薄膜導波層の格子定数が、基板の格子定数の100.03%より大きくなると薄膜導波層にファセットが発生するため、いずれの場合においても光学用途に使用できる高品質の薄膜導波層を得ることが困難となるためである。
【0022】本発明において、前記薄膜導波層と基板との組み合せは、特に限定されるものではないが、例えば、薄膜導波層としては、LiNbO3 、α−石英、KTiOPO4 (KTP)、β−BaB2 4 (BBO)、KH2 PO4 (KDP)、KD2 PO4 (KD* P)、NH4 2 PO4 (ADP)、C5 2 AsO4 (CDA)、C5 2 AsO4 (CD* A)、RbH2 PO4 (RDP)、RbH2 AsO4 (RDA)、BeSO4 ・4H2 O、LiClO4 ・3H2 O、LiClO3 、α−LiCdBO3 、LiB3 5 (LBO)、尿素、Y3 Fe5 12、(Bi,Y)3 (Al,Fe)5 12などのガーネット、Ba2 NaNb5 15(BNN)、(Sr,Ba)Nb2 6 などが使用でき、この薄膜導波層に組み合わせて用いる基板としては、例えば、LiTaO3 、LiTaO3 薄膜が形成されたLiNbO3 、SiO2 、α−サファイア、BeO、ZnO、Gd3 Ga5 12などのガーネット、KTP、BBO、LBO、KDPおよび類似化合物、ソーダガラス、パイレックスガラスなどが用いられる。
【0023】特に、薄膜導波層としてLiNbO3 を用い、基板としてLiTaO3 を用いる組み合せは最も望ましい形態である。それは、これらの単結晶は、結晶構造が互いに類似しており、格子整合させやすいからである。
【0024】次に、本発明の光導波路の薄膜導波層の製造方法としては、液相エピタキシャル成長法、スパッタ法、蒸着法などが望ましいが、特に液相エピタキシャル成長法が好適である。この理由は、液相エピタキシャル成長法によれば、結晶性に優れた均質な膜が得やすく、その結果、光伝搬損失が小さく光導波路として好適な、しかも単結晶本来が持つ非線形光学効果、電気光学効果、音響光学効果などを充分活かせるからである。また、液相エピタキシャル成長法の場合、エッチングのためのフラックスを新たに用意する必要がなく、薄膜成長に使用した溶融液をそのまま使用することができるからである。この場合は、溶融液の温度を薄膜成長させた温度より充分高く、すなわち溶融液の飽和温度以上にすることでその目的を達成することができる。また、液相エピタキシャル成長法の場合は、エッチングを行い、マスク材を完全に溶解させて希望の段差を形成した後に、溶融液の温度を下げて通常の液相エピタキシャル成長を行うことで、段差を維持したまま薄膜導波層の膜厚を厚くすることもできるという他の方法ではできない利点も有する。
【0025】本発明の光導波路形成方法は、SHG素子などの光変調器、光偏向器、光スイッチ、光増幅素子、光集積回路など、導波路型光デバイスすべてに適用できる。
【0026】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1(1) Li2 CO3 19.6g、V2 5 51.9g,Nb2 5 18.9g、Na2 CO3 9.7g、MgO 0.3g秤量(Li2 CO3 42.7モル%、V2 5 45.9モル%、Nb2 5 11.4モル%、Na2 CO3 をLi2 CO3 に対して25.6モル%、MgOを前記溶融物組成から析出可能なLiNbO3 の理論量に対して5モル%添加(MgO/(LiNbO3 +MgO)*100=5mol%を満たすようにMgOを添加})した混合物を白金ルツボに入れ、エピタキシャル成長装置中で空気雰囲気下で1050℃まで加熱してルツボの内容物を溶解させ、19.5時間攪拌した。溶融体を1時間当たり120℃の冷却速度で1000℃まで、さらに1時間当たり60℃の冷却速度で939℃まで徐冷した。
(2) 2インチφ、厚さ1mmのLiTaO3 単結晶1の(0001)面を光学研磨した後、液相エピタキシャル成長法によりLiNbO3 単結晶薄膜2を3μmの膜厚でエピタキシャル成長させた。LiTaO3 単結晶1とLiNbO3 単結晶薄膜2のa軸の格子定数は5.154Åで両者は略一致していた(図1工程A)。
(3) 得られた薄膜結晶表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は25secであった。
(4) 得られた薄膜結晶の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をプリズム移動法によって測定したところ、0.8dB/cmであった。
(5) ついで、この薄膜結晶上に、フォトリソグラフィーおよびRFスパッタ法により、膜厚1μm、幅5μmのNb2 5 膜6を形成したものをエッチング試料とした。(図1 工程B〜E)
(6) フラックスLiVO3 90モル%、LiNbO3 10モル%の割合で調製した混合物を白金ルツボに入れエピタキシャル装置中で空気雰囲気下で、1100℃に加熱して、ルツボの内容物を溶解した。さらに溶融体を白金プロペラを用い、100rpmの回転速度で6時間撹拌させた。
(7) 溶融体を1時間当りに60℃の冷却速度で950℃まで徐冷した後、このエッチング試料を950℃で予備加熱し、溶融体中に50rpmで回転させながら2分間浸漬した。LiNbO3 単結晶薄膜およびNb2 5 膜のエッチング速度は、共に約0.5μm/分であった。
(8) 溶融体からエッチング試料を引き上げ、回転数1000rpmで3分間溶融体上で溶融体を振り切った後、1℃/分の速度で室温まで徐冷し、段差約1μm、幅5μm、膜厚3μmのリッジ型光導波路7を得た。(図1 工程F)
(9) また、薄膜導波層表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は25secであった。
(10) また、リッジ型光導波路の側面8は、極めて平滑であった。(図2)
(11) 得られたリッジ型光導波路に対して垂直に端面研磨を施して、レーザ光を端面入射させ、出射光のニアフィールドパターンを観察したところ、レーザ光が導波路内に良好に閉じ込められていることが確認できた。
(12) 得られたリッジ型光導波路の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をカットバック法によって測定したところ、1.3dB/cmであった。
【0027】実施例2(1) 2インチφ、厚さ1mmのLiTaO3 単結晶の(0001)面を光学研磨した後、液相エピタキシャル成長法により、Na、Mg含有LiNbO3 単結晶薄膜を5μmの膜厚でエピタキシャル成長させた。
(2) 得られた薄膜結晶表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は19secであった。
(3) 得られた薄膜結晶の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をプリズム移動法によって測定したところ、0.6dB/cmであった。
(4) ついで、この薄膜結晶上に、フォトリソグラフィーおよびRFスパッタ法により、膜厚2μm、幅5μmのLiNbO3 膜を形成したものをエッチング試料とした。
(5) フラックスLi0.7 Na0.3 VO3 80モル%、LiNbO3 20モル%の割合で調製した混合物を白金ルツボに入れエピタキシャル装置中で空気雰囲気下で、1100℃に加熱して、ルツボの内容物を溶解した。さらに溶融体を白金プロペラを用い、100rpmの回転速度で6時間撹拌させた。
(6) 溶融体を1時間当りに60℃の冷却速度で945℃まで徐冷した後、このエッチング試料を945℃で予備加熱し、溶融体中に50rpmで回転させながら3分間浸漬した。Na、Mg含有LiNbO3 単結晶薄膜およびLiNbO3膜のエッチング速度は、共に約1μm/分であった。
(7) 溶融体からエッチング試料を引き上げ、回転数1000rpmで3分間溶融体上で溶融体を振り切った後、1℃/分の速度で室温まで徐冷し、段差約2μm、幅5μm、膜厚4μmのリッジ型光導波路を得た。
(8) また、薄膜導波層表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は19secであった。
(9) また、リッジ型光導波路の側面は、極めて平滑であった。
(10) 得られたリッジ型光導波路に対して垂直に端面研磨を施して、レーザ光を端面入射させ、出射光のニアフィールドパターンを観察したところ、レーザ光が導波路内に良好に閉じ込められていることが確認できた。
(11) 得られたリッジ型光導波路の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をカットバック法によって測定したところ、1.1dB/cmであった。
【0028】実施例3(1) 2インチφ、厚さ1mmのLiTaO3 単結晶の(110)面を光学研磨した後、液相エピタキシャル成長法により、Zn含有LiNbO3 単結晶薄膜を2μmの膜厚でエピタキシャル成長させた。
(2) 得られた薄膜結晶表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は26secであった。
(3) 得られた薄膜結晶の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をプリズム移動法によって測定したところ、1.4dB/cmであった。
(4) ついで、この薄膜結晶上に、フォトリソグラフィーおよびRFスパッタ法により、膜厚1μm、幅3μmのZn含有LiNbO3 膜を形成したものをエッチング試料とした。
(5) フラックスNaVO3 100モル%の割合で調製した混合物を白金ルツボに入れエピタキシャル装置中で空気雰囲気下で、1100℃に加熱して、ルツボの内容物を溶解した。さらに溶融体を白金プロペラを用い、100rpmの回転速度で6時間撹拌させた。
(6) 溶融体を1時間当りに60℃の冷却速度で960℃まで徐冷した後、このエッチング試料を960℃で予備加熱し、溶融体中に50rpmで回転させながら1分間浸漬した。LiNbO3 単結晶薄膜およびLiNbO3膜のエッチング速度は、共に約1μm/分であった。
(7) 溶融体からエッチング試料を引き上げ、回転数1000rpmで3分間溶融体上で溶融体を振り切った後、1℃/分の速度で室温まで徐冷し、段差約1μm、幅3μm、膜厚2μmのリッジ型光導波路を得た。
(8) また、薄膜導波層表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は26secであった。
(9) また、リッジ型光導波路の側面は、極めて平滑であった。
(10) 得られたリッジ型光導波路に対して垂直に端面研磨を施して、レーザ光を端面入射させ、出射光のニアフィールドパターンを観察したところ、レーザ光が導波路内に良好に閉じ込められていることが確認できた。
(11) 得られたリッジ型光導波路の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をカットバック法によって測定したところ、1.9dB/cmであった。
【0029】実施例4(1) 2インチφ、厚さ0.5mmのGa3 Ga5 12単結晶の(111)面を光学研磨した後、液相エピタキシャル成長法により、(Bi,Y)3 (Fe,Al)5 12単結晶薄膜を3μmの膜厚でエピタキシャル成長させた。
(2) 得られた薄膜結晶表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は23secであった。
(3) 得られた薄膜結晶の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をプリズム移動法によって測定したところ、1.0dB/cmであった。
(4) ついで、この薄膜結晶上に、フォトリソグラフィーおよびRFスパッタ法により、膜厚1μm、幅5μmのY3 Fe5412膜を形成したものをエッチング試料とした。
(5) 溶融体を1時間当りに60℃の冷却速度で970℃まで徐冷した後、このエッチング試料を970℃で予備加熱し、溶融体中に50rpmで回転させながら3分間浸漬した。(Bi,Y)3 (Fe,Al)5 12単結晶薄膜およびY3 Fe5 12膜のエッチング速度は、共に約0.5μm/分であった。
(6) フラックスとしてPbO−B2 3 系を用い、モル比でPbO/B2 3 が15.7となる割合で調製した混合物を白金ルツボに入れエピタキシャル装置中で空気雰囲気下で、1100℃に加熱して、ルツボの内容物を溶解した。さらに溶融体を白金プロペラを用い、100rpmの回転速度で6時間撹拌させた。
(7) 溶融体からエッチング試料を引き上げ、回転数1000rpmで3分間溶融体上で溶融体を振り切った後、1℃/分の速度で室温まで徐冷し、段差約1μm、幅5μm、膜厚2.5μmのリッジ型光導波路を得た。
(8) また、薄膜導波層表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は23secであった。
(9) また、リッジ型光導波路の側面は、極めて平滑であった。
(10) 得られたリッジ型光導波路に対して垂直に端面研磨を施して、レーザ光を端面入射させ、出射光のニアフィールドパターンを観察したところ、レーザ光が導波路内に良好に閉じ込められていることが確認できた。
(11) 得られたリッジ型光導波路の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をカットバック法によって測定したところ、1.5dB/cmであった。
【0030】比較例1(1) 2インチφ、厚さ1mmのLiTaO3 単結晶の(0001)面を光学研磨した後、液相エピタキシャル成長法によりLiNbO3 単結晶薄膜を3μmの膜厚でエピタキシャル成長させた。
(2) 得られた薄膜結晶表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は25secであった。
(3) 得られた薄膜結晶の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をプリズム移動法によって測定したところ、0.8dB/cmであった。
(4) ついで、この薄膜結晶上に、フォトリソグラフィーおよびRFスパッタ法により、膜厚0.5μm、幅5μmのAl膜を形成したものをエッチング試料とした。
(5) CF4 を反応ガスとして、反応性イオンエッチング(RIE:ReactiveIon Etching)法により、エッチング試料を3時間エッチングした後、HFにより残留Al膜を除去し、段差約1μm、幅5μm、膜厚3μmのリッジ型光導波路を得た。
(6) なお、薄膜導波層表面は基本的には鏡面であったが、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は40secと大きくなった。
(7) また、リッジ型光導波路の側面には、かなりの荒れが認められた。
(8) 得られたリッジ型光導波路に対して垂直に端面研磨を施して、レーザ光を端面入射させ、出射光のニアフィールドパターンを観察したところ、導波路側面での散乱および導波路以外の薄膜導波層へのレーザ光の洩れが認められた。
(9) 得られたリッジ型光導波路の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をカットバック法によって測定したところ、13dB/cmであった。
【0031】比較例2(1) 2インチφ、厚さ1mmのLiTaO3 単結晶の(0001)面を光学研磨した後、液相エピタキシャル成長法により、Na、Mg含有LiNbO3 単結晶薄膜を5μmの膜厚でエピタキシャル成長させた。
(2) 得られた薄膜結晶表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は19secであった。
(3) 得られた薄膜結晶の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をプリズム移動法によって測定したところ、0.6dB/cmであった。
(4) ついで、この薄膜結晶上に、フォトリソグラフィーおよびRFスパッタ法により、膜厚0.5μm、幅5μmのTi膜を形成したものをエッチング試料とした。
(5) Arを反応ガスとして、イオンビームエッチング法により、エッチング試料を2時間エッチングした後、HF+HNO3 により残留Ti膜を除去し、段差約1μm、幅5μm、膜厚5μmのリッジ型光導波路を得た。
(6) なお、薄膜導波層表面は基本的には鏡面であったが、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は35secと大きくなった。
(7) また、リッジ型光導波路の側面には、かなりの荒れが認められた。
(8) 得られたリッジ型光導波路に対して垂直に端面研磨を施して、レーザ光を端面入射させ、出射光のニアフィールドパターンを観察したところ、導波路側面での散乱および導波路以外の薄膜導波層へのレーザ光の洩れが認められた。
(9) 得られたリッジ型光導波路の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をカットバック法によって測定したところ、18dB/cmであった。
【0032】比較例3(1) 2インチφ、厚さ1mmのLiTaO3 単結晶の(0001)面を光学研磨した後、液相エピタキシャル成長法により、Na、Mg含有LiNbO3 単結晶薄膜を5μmの膜厚でエピタキシャル成長させた。
(2) 得られた薄膜結晶表面は鏡面であり、薄膜の結晶性を2結晶法ロッキングカーブにて評価したところ、ピーク半価幅は25secであった。
(3) 得られた薄膜結晶の、波長0.83μmの半導体レーザに対する伝搬損失をプリズム移動法によって測定したところ、0.8dB/cmであった。
(4) ついで、この薄膜結晶上に、フォトリソグラフィーおよびRFスパッタ法により、膜厚0.5μm、幅5μmのエッチングレジスト膜を形成したものをエッチング試料とした。
(5)このエッチング試料をHF+HNO3 (1:2)によりエッチングを行い、レジストを除去し、段差約1μm、幅4μm、膜厚3μmのリッジ型光導波路を得た。
(6)リッジ部のエッチング面にはアンダーカットが見られ、サイドエッチングにより導波路がサイドエッチングのため導波路の幅が設定値より1μm狭くなった。
(7)上記工程を3回行ったが、全てのサンプルで段差、サイドエッチングの度合いが異なり、再現性のあるエッチング速度、導波路の幅の制御は困難であった。
【0033】
【発明の効果】以上述べたように、本発明方法によれば、基板の上部に光導波路となる薄膜部分を形成し、この上に一般的なフォトリソグラフィー技術を用いて光導波路形状のマスクパターンを施した後、液相エピタキシャル法において使用するフラックスを溶融状態とし、その溶融体中においてエッチングを行う。このように溶融体中においてエッチングすることにより、再現性、膜厚均一性に優れ、かつ薄膜結晶性が全く劣化しないリッジ型光導波路を極めて容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に基づく製造工程の説明図
【図2】図2は、リッジ型チャンネル型光導波路の斜視図
【図3】図3は、Li2 O−V2 5 −Nb2 5 の3成分系の三角図
(Li2 Oのモル%,V2 5 のモル%,Nb2 5 のモル%)
A(88.90,2.22,8.88)
B(55.00,43.00,2.00)
C(46.50,51.50,2.00)
D(11.11,80.00,8.89)
E(37.50,5.00,57.50)
F(49.49,45.46,5.05)
G(11.11,80.00,8.89)
H(42.81,22.94,34.25)
I(47.64,46.12,6.24)
J(27.01,64.69,8.30)
K(36.71,37.97,25.32)
L(44.05,32.97,22.98)
M(45.36,46.45,8.19)
N(32.89,57.05,10.06)
O(36.71,44.30,18.99)
P(44.95,40.54,14.51)
【符号の説明】
1 LiTaO3 単結晶基板
2 LiNbO3 単結晶薄膜
3 フォトレジスト
4 導波路パターン
5 Nb2 5 エッチングマスク
6 導波路パターン(Nb2 5 膜)
7 リッジ状チャンネル型光導波路
8 リッジ状チャンネル型光導波路の側面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に形成された薄膜上に、エッチングマスクを設け、エッチング液によりエッチングを行い、チャンネル型光導波路を形成する方法において、エッチング液として飽和温度以上に加熱されたフラックスを用いることを特徴とするチャンネル型光導波路の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平5−196828
【公開日】平成5年(1993)8月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−27157
【出願日】平成4年(1992)1月17日
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)