説明

チャンバ内土砂流動の測定装置

【課題】掘削地盤の性状の急変に対応することを可能にすること。
【解決手段】掘進機12には、チャンバ20内における混合物の流動方向とその大きさを把握する測定装置10aが設置されている。装置10aは、チャンバを隔成する隔壁を貫通して、チャンバ20内に出没可能に設置される計測ロッド50を備え、計測ロッド50の変形量から、混合物の流動方向とその大きさとを推定する。一方、予めチャンバ20の機械モデルを設定し、混合物の粘土式に基づいて、チャンバ20内の流速の大きさ,方向,分布の可視化された複数の流動解析結果を求めておく。そして、測定装置10aにより得られた推定値と流動解析結果との相関関係の良好なものを選択して、選択された流動解析結果を推定値が得られた時点の流動状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チャンバ内土砂流動の測定装置に関し、特に、泥土圧式シールド掘進機のチャンバ内土砂流動の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルの構築工事に用いられる泥土圧式シールド掘進機による地盤土砂の掘削は、例えば、非特許文献1に開示されているように、カッターヘッドで掘削した土砂を、チャンバ内に取り込んで充満させ、チャンバ内土圧により切羽の安定を図りながら、スクリューコンベアで排土が行われる。
【0003】
この場合、実施工では、チャンバ内土圧は、シールド推力で切羽の安定に必要な程度に加圧しながら、推進量に見合った排土が行えるようスクリューコンベアの回転数や掘進速度を調整する。
【0004】
このような方式で排土を行う泥土圧式シールド工法では、掘削土砂の流動性や止水性が、チャンバ内の土圧に大きく影響を及ぼすので、特に、重要な管理項目となる。ところが、このような従来の泥土圧式シールド掘進機には、以下に説明する技術的な課題があった。
【非特許文献1】「土木工法事典改訂V」 2001年9月産業調査会発行 639−640pp
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、従来の泥土圧式シールド掘進機では、チャンバ内に土圧計などを設置して、チャンバ内の土圧を管理しているものの、チャンバ内での掘削土砂の流動方向などの状態が判らないので、掘削地盤の性状が急変した場合に、奮発や排土不能状態を引き起こし、復旧に多大の時間と労力とが掛かっていた。
【0006】
また、従来のシールドトンネルの構築工事では、掘削土砂の流動性の評価は、排土された土砂の性状、マシンデータ(カッタートルクや推力の大きさ)に頼るところが大きく、礫地盤や互層地盤などの場合、適切な添加材の選定、および、注入率の設定が困難であった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、チャンバ内の土砂流動方向を把握することで、掘削地盤の性状の急変に対応することが可能で、かつ、適切な添加材の選択と注入率とを設定することができるチャンバ内流動の測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、掘削土砂と加泥材との攪拌混合物が収容された泥土圧式シールド掘進機のチャンバ内における前記混合物の流動性の測定装置において、前記測定装置は、前記チャンバを隔成する隔壁を貫通して、前記チャンバ内に出没可能に設置される計測ロッドを備え、前記混合物が流動する際の前記計測ロッドの変形量から、前記混合物の流動方向とその大きさとを推定する測定装置であって、予め設定する前記チャンバの機械モデルと、前記チャンバ内の混合物の粘土式とに基づいて、前記チャンバ内の前記混合物の流速の大きさ,方向,分布の可視化された複数の流動解析結果を求めておき、前記測定装置により得られた推定値と前記流動解析結果との相関関係の良好なものを選択して、選択された流動解析結果を前記推定値が得られた時点の流動状態とするようにした。
【0009】
このように構成したチャンバ内土砂流動の測定装置によれば、チャンバを隔成する隔壁を貫通して、チャンバ内に出没可能に設置される計測ロッドを備え、混合物が流動する際の計測ロッドの変形量から、混合物の流動方向とその大きさとを推定するので、チャンバ内における混合物の流動方向が把握され、掘削地盤の性状の急変に対応することが可能で、かつ、適切な添加材の選択と注入率とを設定することが可能になる。
【0010】
この場合、本発明の測定装置によれば、予め設定するチャンバの機械モデルと、チャンバ内の混合物の粘土式とに基づいて、チャンバ内の流速の大きさ,方向,分布の可視化された複数の流動解析結果を求めておき、測定装置により得られた推定値と流動解析結果との相関関係の良好なものを選択して、選択された流動解析結果を推定値が得られた時点の流動状態とするので、チャンバ内の全域における流動分布などが可視化され、実施工現場において、掘削地盤の性状の急変に対応することが容易に行え、かつ、適切な添加材の選択と注入率とを設定することも簡単に行える。
【0011】
前記計測ロッドは、基端側に設けられた複数の歪ゲージを備え、前記歪ゲージの検出信号から、前記変形量を求めることができる。
【0012】
前記チャンバ内土砂流動の測定装置は、前記チャンバに対して、同一円周上に、周方向に沿って所定の間隔を隔てて複数配置することができる。
【0013】
前記測定装置は、前記回転板が前記チャンバ内から退避した際に、隔壁開口部を閉塞するシャッタ装置を設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるチャンバ内土砂流動の計測装置によれば、チャンバ内の土砂流動の方向および大きさを把握することで、掘削地盤の性状の急変に対応することが可能で、かつ、適切な添加材の選択と注入率とを設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1から図5は、本発明にかかるチャンバ内土砂流動の測定装置の実施例1を示している。図1は、本発明の測定装置10を設置した泥土式シールド掘進機12を示している。
【0017】
同図に示したシールド掘進機12は、円筒状のスキンプレート14を備え、スキンプレート14の前端には、カッタ16が配置されている。カッタ16は、図2のその正面詳細図を示すように、中心から外方に向けて放射状の延設されたスポーク状のカッタフェイス16aと、カッタフェイス16aの前面に設けられた多数のカッタビット16bと、カッタフェイス16aの背面中心に固設された中心軸16cとを備えている。
【0018】
スキンプレート14の前端側には、外周縁をスキンプレート14の内面に固設した円板状の隔壁18が設けられ、カッタ16は、この隔壁18を中心軸16cが貫通するようにして、回転自在に支持されており、このようにカッタ16を配置することにより、カッタフェイス16aの背面と隔壁18とで概略円盤状に隔成されたチャンバ20が設けられている。
【0019】
カッタフェイス16aの背面側には、チャンバ20内に突出する複数の攪拌翼16dが設けられ、また、カッタフェイス16aの背面には、隔壁18に当接する複数の支持ステー16eが突設されている。
【0020】
中心軸16cの側面には、チャンバ20に設置されたアジテータ16fが設けられており、このアジテータ16fは、隔壁18の外側に設置された駆動モータ16gにより、カッタフェイス16aと独立した形態で中心軸16cとともに、回転駆動される。
【0021】
支持ステー16eは、一端側が隔壁18を貫通して、その外部に突出し、この突出した部分にリングギア16hが設けられ、このリングギア16hには、カッタ駆動モータ16iが連結されており、このモータ16iを駆動すると、リングギア16hを介して、カッタフェイス16aが回転駆動されて、地盤の掘削がカッタビット16bにより行われる。
【0022】
カッタビット16bで掘削された掘削土砂は、カッタフェイス16aの開口部を介して、チャンバ20内に取り込まれる。この際に、掘削土砂には、粘土,ベントナイト,高吸水性樹脂,増粘材などの加泥材が添加され、掘削土砂と加泥材は、チャンバ20内で攪拌翼16dやアジテータ16fにより攪拌混合されることで、流動性を有する混合物とされて、チャンバ20内に充満されて、切羽に対抗させる。
【0023】
そして、このような混合物は、切羽の安定を確保しながら、隔壁18を貫通するようにして設けられている排土機構(スクリューコンベア)22を介して、外部に排出される。なお、図1に符号24で示した部材は、シールド掘進機12の後部側に組立てられるセグメント26に反力を取って、掘進機12を前方に推進させるシールドジャッキである。
【0024】
以上のような泥土式シールド掘進機12としての基本的構成は、この種の従来機と同様であるが、本実施例の掘進機12は、以下に説明する点に顕著な特徴がある。
【0025】
すなわち、本実施例のシールド掘進機12は、掘削土砂と加泥材との攪拌混合物が収容された泥土圧式シールド掘進機12のチャンバ20内における混合物の流動方向と流動速度とを把握する測定装置10aが設置されている。
【0026】
図3に測定装置10aの詳細を示している。同図に示した測定装置10aは、泥土式シールド掘進機に適用されるものであって、測定装置10aは、チャンバ20を隔成する隔壁18を貫通して、チャンバ20内に出没可能に設置される計測ロッド50を備え、混合物が流動する際の計測ロッド50の変形量から、混合物の流動方向とその大きさとを推定する。
【0027】
また、本実施例の場合、図2に示すように、同一構成の4個の測定装置10aが、チャンバ20に対して、同一円周上にあって、周方向に所定の間隔を隔てて配置されている。これらの測定装置10aの配置位置は、回転板28をチャンバ20内に突出させた際に、攪拌翼16dやアジテータ16fとの相互干渉を避ける位置に設けられている。
【0028】
計測ロッド50は、ガイド筒36a内に設置されたスライダ38aに支持され、先端が閉塞された中空管であって、その基端側の内面に設けられた複数の歪ゲージ52を備えている。歪ゲージ52は、周方向に等角度間隔で複数配置され、放射方向にも複数配置されている。
【0029】
スライダ38aは、シリンダ40a伸縮動作に伴って、ガイド筒36aに沿ってスライド移動する。ガイド筒36aは、計測ロッド50がチャンバ20から退避した際に、シャッタ装置42により閉塞される。本実施例の場合、計測ロッド50に設置された歪ゲージ52の検出信号から、計測ロッド50に発生する変形量を求める。
【0030】
このシャッタ装置42は、測定装置10の下方に設置され、ガイド筒36を閉塞する上下移動自在なシャッタ板42aと、シャッタ板42aの駆動シリンダ42bとを有している。
【0031】
以上のように構成された測定装置10では、チャンバ20内の土砂流動の測定を行わない場合には、計測ロッド50がガイド筒36aの後部側に位置していて、ガイド筒36aは、シャッタ装置42により閉塞されている。
【0032】
チャンバ20内の土砂流動を測定する際には、シャッタ装置42のガイド筒36aの閉塞状態を開放して、シリンダ40aを駆動させて、計測ロッド50をチャンバ20内の所定位置まで突出させる。
【0033】
この際の計測ロッド50に発生する変形量は、チャンバ20内を流動する掘削土砂との加泥材の混合物の衝突により発生し、変形量の大きさは、流動方向に対応するので、変計量が最も大きい方向を、混合物の流動方向とし、その個所の変計量を流動方向の大きさと推定する。
【0034】
以上のように構成したチャンバ内土砂流動の測定装置によれば、チャンバ20を隔成する隔壁18を貫通して、チャンバ20内に出没可能に設置される計測ロッド50を備え、混合物が流動する際の計測ロッド50の変形量から、混合物の流動方向とその大きさとを推定するので、チャンバ20内における混合物の流動方向が把握され、掘削地盤の性状の急変に対応することが可能で、かつ、適切な添加材の選択と注入率とを設定することが可能になる。
【0035】
また、本実施例の測定装置では、流動解析の手法を採用している。図4及び図5は、本実施例で採用する流動解析の一例を示している。これらの図は、例えば、非特許文献2,3(非特許文献2、「シールドチャンバ内の泥土・泥水の流動解析」1994年8月「トンネルと地下」35−39pp、非特許文献3、「シールドチャンバ内における掘削土砂流動解析」大林組技術研究所報、No.48 1994年)に開示されているシールドチャンバ内の流動解析に基づく解析結果を、実際のシールド掘進機に適用する際の例を示している。
【0036】
シールド掘進機のチャンバ内における掘削土砂と加泥材の混合物の流動解析は、上記非特許文献2,3に開示されているように、シールド掘進機のチャンバの機械モデルと、混合物の粘土式(μ=C1+C2/γ)が与えられると、チャンバ内における流速の大きさ,方向,分布などの詳細な解析結果が得られることが知られている。
【0037】
ここに、μ:土砂と加泥材(気泡)との混合流体に対する粘度
γ:ひずみ速度
,C:土砂およびαに依存する(物質)定数
α:土砂と加泥材(気泡)との混合流体中の加泥材の体積占有率(0≦α≦1)
上粘度式中の定数、C,Cについては、土砂の種類ごとに、加泥材の包含率(体積占有率)αの関数として、流体計測実験と対応する流動解析により決定する。
【0038】
ところが、このような解析は、あくまでもシミュレーションであって、実際のシールド掘進機でどのようになっているのかは、確認されていない。そこで、本実施例では、図1に示したシールド掘進機のチャンバ20に関する機械モデルを図4に示すように設定し、混合物の粘土式を、現場掘削土,砂地盤,粘土地盤など各種地質に応じて設定し、流動解析を予め行い、図5にその一例を示すような複数の可視化された流動解析結果を求めておく。
【0039】
そして、上述した測定装置10aにより、上述した手段により、混合物の流動方向とその大きさを推定し、これと流動解析の結果とを照合して、測定装置10aの設置個所(図5に丸印A〜Dで示した個所)において、最も相関のよいものを選択して、その流動解析結果を、測定装置10aでの測定時点における流動状態とする。
【0040】
このようにして流動解析結果を利用すると、チャンバ20内の全域における流動分布などが可視化されるので、実施工現場において、掘削地盤の性状の急変に対応することが容易に行え、かつ、適切な添加材の選択と注入率とを設定することも簡単に行える。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明にかかるチヤンバ内土砂流動の測定装置は、泥土式シールド掘進機に適用すると、施工の安全性や経済性を確保する上で有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明にかかるチヤンバ内土砂流動の測定装置が適用されるシールド掘進機の断面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】本発明にかかるチヤンバ内土砂流動の測定装置の一例を示す側面図である。
【図4】本発明にかかるチヤンバ内土砂流動の測定装置に用いる解析の機械モデルの説明図である。
【図5】本発明にかかるチヤンバ内土砂流動の測定装置に用いる流動解析結果の説明図である。
【符号の説明】
【0043】
10a 測定装置
12 シールド掘進機
20 チャンバ
50 測定ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削土砂と加泥材との攪拌混合物が収容された泥土圧式シールド掘進機のチャンバ内における前記混合物の流動性の測定装置において、
前記測定装置は、前記チャンバを隔成する隔壁を貫通して、前記チャンバ内に出没可能に設置される計測ロッドを備え、
前記混合物が流動する際の前記計測ロッドの変形量から、前記混合物の流動方向とその大きさとを推定する測定装置であって、
予め設定する前記チャンバの機械モデルと、前記チャンバ内の混合物の粘土式とに基づいて、前記チャンバ内の前記混合物の流速の大きさ,方向,分布の可視化された複数の流動解析結果を求めておき、
前記測定装置により得られた推定値と前記流動解析結果との相関関係の良好なものを選択して、選択された流動解析結果を前記推定値が得られた時点の流動状態とすることを特徴とするチャンバ内土砂流動の測定装置。
【請求項2】
前記計測ロッドは、基端側に設けられた複数の歪ゲージを備え、
前記歪ゲージの検出信号から、前記変形量を求めることを特徴とする請求項1記載のチャンバ内土砂流動の測定装置。
【請求項3】
請求項1記載のチャンバ内土砂流動の測定装置は、前記チャンバに対して、同一円周上に、周方向に沿って所定の間隔を隔てて複数配置することを特徴とするチャンバ内土砂流動の測定装置。
【請求項4】
前記測定装置は、前記回転板が前記チャンバ内から退避した際に、隔壁開口部を閉塞するシャッタ装置を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のチャンバ内土砂流動の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−169692(P2008−169692A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90236(P2008−90236)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【分割の表示】特願2003−328089(P2003−328089)の分割
【原出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(507137634)三菱重工地中建機株式会社 (25)
【Fターム(参考)】