説明

チュウゴクザサエキス、その製造方法及び用途

【課題】原料や処理工程において従来と異なる手法でチュウゴクザサエキスを製造し、しかも、得られるチュウゴクザサエキスが安全かつ安心な素材であることを実証するとともに、新規な用途を提供する。
【解決手段】本発明のチュウゴクザサエキスは、チュウゴクザサ(Sasa veitchii f. tyugokensis)を、150〜200℃の温度及び圧力0.4〜1.6MPaの高温高圧水中で60〜180分間処理することにより得られる。このエキスは、便秘の予防及び/又は症状改善剤、血中中性脂肪抑制剤及び脂質異常症改善剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チュウゴクザサエキス、その製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
クマザサは、ユーラシア大陸のうち日本、朝鮮半島、中国東北部などを中心に山間部に野生で生息するササの一種である。一部の地域では人工的に栽培もされている。日本に自生するクマザサの品種は、クマイザサやチシマザサが代表的であり、北海道を中心に青森県八甲田山、新潟・千島、京都鞍馬などに生息する。出雲を中心とする中国地方に多く自生する品種は、「チュウゴクザサ(学名:Sasa veitchii f. tyugokensis)」であり、江戸時代の文献によると出雲地方では「よささ」と呼ばれた形跡がある。北海道のクマイザサやチシマザサとチュウゴクザサは、種が異なるので、機能性も違うことが考えられるが、比較研究例はみられない。
【0003】
クマザサは、古くから漢方生薬として利用された実績のある伝統素材であり、中国の「本草綱目」という薬学書には、「呼吸器系、咽喉の疾患に効き、腫瘍を消す」と収載されている。日本でも、漢方古来の抽出法をベースに独自に研究がすすみ、近年、クマザサという伝統素材を、健康食品、機能性食品分野に応用するために様々な抽出が試みられた(特許文献1〜5)。
【0004】
クマザサから抽出されるエキスは、製造方法に応じて成分の種類やバランスが異なる。一般に、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、クロロフィル、タンニン、多糖体などの成分を豊富に含む。クマザサエキスは、生理活性物質、抗菌、消臭、抗酸化、抗腫瘍、脂肪分解促進、セラミド合成促進、ケラチナーゼ活性阻害等の機能を有することが知られている(特許文献6〜10)。最近、アラビノースとキシロースとが結合したアラビノキシランのようなササ多糖体が注目されている。この多糖体は、細胞膜損傷部と相互に親和性を有することから、細胞膜の傷ついた箇所の補強・修復機能が示唆されている。
【0005】
クマザサエキスを動物に投与したデータとして、1−20g/kg体重では全く毒性は見られなかった(非特許文献1)。急性毒性の情報として、クマザサ葉エキスのLD50値はマウス10.8g/kg、ラット10.2g/kg以上であり、マウスに1mL、ラットに4mL胃内単回投与で、一過性の鎮静、立毛、体重増加の抑制、臓器重量の減少、肝の組織像の異常が認められた。亜急性毒性の情報としては、クマザサ葉エキスを90日間投与したところ、10%又は100%のクマザサ葉エキス投与により自発運動の抑制、体重増加の抑制、臓器重量の減少、血中コレステロール・総蛋白質の減少、肝腎の機能障害が認められた(非特許文献2)。
【0006】
一方で、クマザサの公的評価として国立健康栄養研究所が公表している「健康食品の安全性・有効性情報」によれば、クマザサは、俗に「健康の維持・増進に効果がある」、「美容に良い」などといわれているが、ヒトでの有効性・安全性については、現時点で信頼できるエビデンスとしてのデータが見当たらないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−257067(クマザサ属抽出物の製造方法、クマザサ属抽出物及びその用途)
【特許文献2】特開2006−257062(クマザサエキスの製造方法)
【特許文献3】特開2004−359628(竹・笹類抽出物の製造方法)
【特許文献4】特開2004−323429(クマザサ抽出物の製造方法)
【特許文献5】特開2003−321384(クマザサ濃縮エキス及びその製造方法)
【特許文献6】特開2005−298460(外皮用剤及びその製造方法)
【特許文献7】再表02/007745(止痒性組成物及び創傷治癒促進組成物)
【特許文献8】特開2004−323430(抗菌性及び抗ウイルス性材料及びその用途)
【特許文献9】特開2003−201247(皮膚保護組成物)
【特許文献10】特開平11−332507(笹エキス入り塩)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】和漢薬百科図鑑I/II保育社 難波恒雄著
【非特許文献2】薬理と治療 10(5) p2549−63 1982年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
クマザサエキスといっても、原料となるクマザサの種類やそこからの抽出方法により、抽出されたエキス内の成分が異なり、結果として効能や毒性の出方は変わる。そこで、本発明は、出雲地方に自生するチュウゴクザサに特化し、それを従来と異なる方法で処理し、得られるクマザサエキスが安全な素材であることを実証し、さらに新規な用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、チュウゴクザサという特定のササを従来と比べて過酷な条件下に曝すことにより、新規な効能を有するササエキスが得られることを見いだした。すなわち、本発明は、チュウゴクザサ(Sasa veitchii f. tyugokensis)を、150〜200℃の温度及び圧力0.4〜1.6MPaの高温高圧水中で60〜180分間処理して得られるチュウゴクザサエキスを提供する。
【0011】
前記チュウゴクザサエキス100gには、特にチュウゴクザサ由来のキシロースが2〜20g及びチュウゴクザサ由来の食物繊維が5〜25g含まれる。
【0012】
本発明は、また、チュウゴクザサ(Sasa veitchii f. tyugokensis)を、150〜200℃の温度及び圧力0.4〜1.6MPaの高温高圧水で60〜180分間処理することからなる、チュウゴクザサエキスの製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、上記で得られたチュウゴクザサエキスを有効成分として含有する便秘の予防及び/又は症状改善剤を提供する。
【0014】
本発明は、また、上記で得られたチュウゴクザサエキスを有効成分として含有する血中中性脂肪抑制剤を提供する。
【0015】
本発明は、また、上記で得られたチュウゴクザサエキスを有効成分として含有する脂質異常症改善剤を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、チュウゴクザサを150〜200℃の温度及び圧力0.4〜1.6MPaという高温高圧水中で60〜180分間という長時間処理することによって得られるクマザサエキスである。Brixが50〜60の範囲にあるチュウゴクザサエキス100gには、チュウゴクザサ由来のキシロースが2〜20g、及びチュウゴクザサ由来の食物繊維が5〜25gと、従来のクマザサエキスをより格段に多い量で含まれる。
【0017】
本発明のチュウゴクザサエキスは、ヒトの便秘に対して顕著な効能を有し、その症状の緩和や治療、あるいは予防に大いに貢献する。また、過度に服用しても、軟便になる等の効き過ぎの心配もないか極度に少ない点でも有利である。チュウゴクザサエキス摂取に伴う便秘改善効果により、糞便中への胆汁酸排出を促し、結果として腸管におけるコレステロールの再吸収(腸肝循環)を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】日本語版便秘評価尺度MT(CAS−MT)の推移を示す。ここで、平均値±標準偏差(各群n=10)であり、*はp<0.05、**はp<0.01を意味する。
【図2】血中中性脂肪測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のチュウゴクザサエキスの製造方法を、以下に説明する。本発明の原料となるチュウゴクザサ(Sasa veitchii f. tyugokensis)は、イネ科ササ属の単子葉植物である。チュウゴクザサは、主に、中国山地の標高400〜700mに自生する。
【0020】
チュウゴクザサは、古来、熱水抽出したお茶として食されており、食経験は豊富であると考えられる。実施例に示すように、通常量とその3倍量摂取(過剰量)のいずれの場合も、長期間を通じて特異的な体調の変化を訴えることなく、基礎身体測定・理学検査、ならびに血液学的・血液生化学的検査及び尿検査のいずれの検査値においても有害事象は認められなかったことから、チュウゴクザサの安全性は高いといえる。
【0021】
上記原料の葉を洗浄した後、葉柄の部分を除去した上で、約20〜30mm幅に裁断する。裁断したものを適宜の手段(例えば赤外線、天日、風乾、熱風乾燥装置など)で乾燥する。乾燥した葉を、例えばカッター、フードプロセッサー、グラインドミルのような適宜の手段で破砕や粉末化してもよい。
【0022】
次いで、加圧容器又は耐圧容器に水を投入後、およそ100℃に加熱する。加熱後、原料の笹の葉を投入する。投入する水は、蒸留、濾過、イオン交換などの精製水、天然水、常水のいずれも用いることができるが、天然水を用いることが好ましい。
【0023】
原料を加圧容器に投入後、加圧容器を後述の最高処理温度へ向けて、通常、150分〜270分、好ましくは180分〜220分かけて加熱する。加熱によりチュウゴクザサが蒸煮および分解されて、多様な成分が生成する。最高処理温度は、150〜200℃であり、好ましくは160℃〜180℃である。最高処理温度が、150℃より低すぎると、生成量が少なくなり、逆に、200℃より高すぎると、エキスが分解され過ぎるおそれがある。圧力は、0.4〜1.6MPaであり、好ましくは0.5〜1.6MPaである。最高処理温度での保持時間は、その温度によるが、60〜180分であり、好ましくは120〜150分である。最高処理温度がより高ければ、保持時間を短くすることができる。
【0024】
本発明では、処理時に溶剤を使用しない。溶剤を使用しないことは、体内に吸収させる必要のない不必要な物質を抽出させず、また、溶剤によるキャリーオーバー成分をエキス中に残存させないことに寄与する。
【0025】
上記操作後、温度を徐々に下げるともに、常圧に戻す。加圧容器の内容物をろ布、メンブレンフィルター、遠心チューブ、限外濾過フィルターなどでろ過する。ロータリーエバポレーター、真空濃縮機などの濃縮手段を用いて、ろ過物のBrixが、通常、40〜80、好ましくは50〜60になるまで濃縮する。この場合、連続して1回で濃縮してもよいが、Brix15〜16までろ過物を濃縮し、内容物を再ろ過後、ろ過物をbrix50〜60まで濃縮してもよい。濃縮後、ろ過物をチュウゴクザサエキスとして回収する。
【0026】
上記製造方法により得られるチュウゴクザサエキスは、チュウゴクザサ由来のキシロース、アラビノース、食物繊維、抗酸化物質(ポリフェノールなど)が多量に含まれる。具体的には、Brixが50〜60の範囲にあるチュウゴクザサエキス100gあたり、キシロースは、通常、2〜20gであり、特に9〜13gであり、さらに10〜12gである。食物繊維は、通常、5〜25gであり、特に9〜13gであり、さらに10〜12gである。本発明での高温・高圧・長時間の煮沸が、セルロースをより多く分解してキシロース及び食物繊維を作ったものと思われる。
【0027】
チュウゴクザサエキスは、また、ORAC値(活性酸素吸収能力、Oxygen Radical Absorption Capacity)に代表される抗酸化能が、従来のササエキスや本発明の製法によらないチュウゴクササエキスよりも高いことが判明した。抗酸化能の高い本発明のチュウゴクザサエキスは、動脈硬化、癌、糖尿病のような生活習慣病の予防、老化の予防、美容、視力向上などの用途に好適である。
【0028】
本発明のチュウゴクザサエキスには、ヒトを含む動物の便秘に対して治療及び予防効果があることが判明した。ササから取れるエキスには、生薬として疲労回復、口臭除去、口内炎治癒などの医薬用途が知られているが、便秘に関連する効能があることは知られていない。特にチュウゴクザサを特定の条件で処理して得られる本発明のチュウゴクザサエキスに便秘の予防及び/又は症状改善作用があることは、全く知られていない。そこで、本発明は、チュウゴクザサエキスを有効成分とする便秘の予防及び/又は症状改善剤(以下、便秘改善剤という)もまた提供する。
【0029】
本発明の便秘改善剤は、本発明の製造方法により得られるチュウゴクザサエキスを、単独に使用してもよく、あるいは、薬理学上使用可能な担体・賦形剤、結合剤、滑沢剤、潤滑剤、崩壊剤、界面活性剤、乳化剤、溶解補助剤、吸収促進剤、pH調整剤、光沢剤、安定化剤、酸化防止剤、保存剤、湿潤剤、着色剤、芳香剤賦形剤、その他の助剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。
【0030】
本発明の便秘改善剤の用法は、経口投与である。その投与形態としては、通常、ドリンク剤、水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ、ドライシロップのような液剤である。適当な助剤の添加や凍結乾燥などの加工手段により、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、チュアブル錠、ドロップのような固形製剤としてもよい。
【0031】
本発明の便秘改善剤の用量は、患者の症状、体重、投与間隔、投与方法、他の臨床的作用を左右する種々の因子を考慮して決定され得る。典型的には、成人男性一日あたりのチュウゴクザサエキスの摂取量として、0.6〜8g(15〜200滴)、好ましくは0.8〜6g(20〜150滴)が望ましい。一日一回服用しても、何回かに分けて服用してもよい。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例及び比較例を示すことにより、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
出雲地方に自生するチュウゴクザサの葉を洗浄した後、葉柄の部分を除去し、約20〜30mm幅に裁断し、熱風乾燥装置で乾燥させた。容量1000Lの加圧容器(製品名:クラッチドア式圧力容器1850L立形二重蒸煮缶:楠ボイラ株式会社製)に天然水1000kgを投入後、100℃に加熱した。この温水中へ上記チュウゴクザサ50kg(乾燥重量)を投入した。加圧容器の加熱温度履歴を表1に示す。最高処理温度160℃、0.70MPaに到達後、その温度で約140分保持した。この後、温度を徐々に下げるともに、常圧に戻した。
【0033】
【表1】

【0034】
加圧容器の内容物を、ろ紙を用いてろ過した。得られたろ過物を、真空濃縮機でbrix50〜60まで減圧ろ過を行った。最後に、ろ過物約16kgをチュウゴクザサエキスとして回収した。このときの収率〔乾燥原料(50kg)+水(1000kg)=仕込量(1050kg)に対する最終的収量(Brix55)の割合(%)〕は、1.5%であった。
【0035】
実施例1のチュウゴクザサエキスについて組成を分析した。その成分(100g当たりの含有量)を、クマザサエキス従来品とともに表2に示す。
【0036】
また、チュウゴクザサエキスの抗酸化能を測定した。ORAC法を用いてビタミンE様物質troloxをスタンダードとし、ラジカルによる蛍光退色の防止作用を指標に抗酸化能を評価した。試験は、Wu,X et al, J.Agric. Food Chem., 2004, 52, 4026−4037の記載内容を参考に行い、抽出液には、50%エタノールを用いた。
【0037】
〔比較例1及び2〕
実施例1において、最高処理温度での条件を表2に示すものに変更した以外は、実施例1と同様の手順でチュウゴクザサエキスを取得した。このときの収率及び得られたエキスの成分を表2に示す。
【0038】
〔比較例3〕
実施例1において、原料をチュウゴクザサからクマザサに変更し、最高処理温度での条件を表2に示すものに変更した以外は、実施例1と同様の手順でクマザサエキスを取得した。このときの収率及びエキスの成分を表2に示す。
【0039】
【表2】

nd:未測定
※収率:乾燥原料50kgと水1000kgとの合計1050kgの仕込量に対する最終的収量(Brix55)の割合(%)
【0040】
実施例1を比較例1〜2と対比すると、処理条件の違いによって、組成が異なったことがわかる。すなわち、実施例1は比較例1に比べてキシロース及び食物繊維が多く生成している。これは、実施例1での高温高圧での長時間の煮沸がセルロースを効率的に分解してより多くのキシロース及び食物繊維を作ったものと推定される。また、実施例1では、高温高圧の長時間の処理でORAC値に代表される抗酸化力も強まることが判明した。
【0041】
〔実施例2〕
上記実施例1で得たチュウゴクザサエキスのヒトにおける便秘改善効果及び中性脂肪抑制効果を検証した。まず、以下の選択基準及び除外基準に基づいて、便秘に悩む女性10名と男性10名を選別した。
<選択基準>
1)女性は閉経後の者。男性は40歳以上の者。(男性と女性の割合は1:1)
2)肥満度1以上(BMI 25以上)の者
3)便秘気味の者。又は便秘の自覚症状がある者(排便が数日に1回程度の者)
4)本試験の説明を受け書面による同意をし、事前の健康診断で責任医師より健康と診断された者
<除外基準>
1)他のサプリメントを常用している者
2)食物アレルギーのある者
3)現在治療中・通院中の疾患のある者
4)喫煙者
5)3ヶ月以内に他の臨床試験に参加した者
【0042】
被験者20名を、チュウゴクザサを通常摂取する10名(以下、「通常量群」という)と、過剰量摂取する10名(以下、「過剰量群」という)の2群に分けて、それぞれ、6週間毎日摂取させた。
【0043】
通常量群の投与量(摂取量)には、一般的に摂取され経験的に体感性のよいとされる用量として1回10滴を、1日毎食後3回、合計30滴(約1.2g/日)とした。
【0044】
過剰量群の投与量には、通常量群投与量の3倍(すなわち、1回30滴)を1日毎食後3回、合計90滴(約3.6g/日)摂取することとした。
【0045】
1.日本語版便秘評価尺度MT(CAS−MT)の測定
「お腹がはった感じ(膨れた感じ)・排ガス量・便の回数・直腸に内容が充満している感じ・排便時の肛門の痛み・便の量・便の排泄状態・下痢又は水様便」の計8項目について、それぞれ、0〜2点の3段階で評価し、高得点であるほど便秘傾向があると判断する日本語版便秘評価尺度MT(CAS−MT)を実施した。
【0046】
(統計処理)
本試験において、摂取前と摂取後及び通常量群と過剰量群で比較して差がないという帰無仮説の検証を行った。この帰無仮説が棄却された場合に有意差があると結論した。統計処理は、摂取前と摂取後及び通常量群と過剰量群との差を比較し、t−検定で両側の有意確率がp<0.05の場合有意差あり、p<0.1で傾向ありとした。日本語版便秘評価尺度MT(CAS−MT)の推移を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
通常量群では、6週間の摂取期間中、「お腹がはった感じ(膨れた感じ)・排ガス量・便の回数・直腸に内容が充満している感じ・排便時の肛門の痛み・便の量・便の排泄状態・下痢又は水様便」の計8項目全てにおいて平均値の減少が認められた。
【0049】
統計学的には、お腹がはった感じが55.56%の減少(p=0.052)、排ガス量が45.45%の減少(p=0.052)であった。
【0050】
CAS−MT集計値は36.23%の減少(p=0.037)と統計的に有意な変化であった。
【0051】
過剰量群では、6週間の摂取期間中、「お腹がはった感じ(膨れた感じ)・排ガス量・便の回数・直腸に内容が充満している感じ・排便時の肛門の痛み・便の量・便の排泄状態・下痢又は水様便」の計8項目全てにおいて平均値の減少が認められた。
【0052】
統計的有意差が認められたのは、お腹の張った感じが63.64%の減少(p=0.025)、排ガス量が62.50%の減少(p=0.015)、排便の回数が61.54%の減少(p=0.003)、直腸に便が充満している感じが80.00%の減少(p=0.003)、排便時の肛門の痛みが100.00%の減少(p=0.024)、便の量が61.54%の減少(p=0.000)、便の排泄状態が81.82%の減少(p=0.001)、及びCAS−MT集計値が71.23%の減少(p=0.000)であった。
【0053】
群間比較で統計的有意差が認められたのは、排便の回数(p=0.048)、直腸に便が充満している感じ(p=0.048)、便の量(p=0.018)、及びCAS−MT集計値(p=0.026)であった。
【0054】
便秘に対する作用としては、通常量群においてCAS−MT値の有意な減少が認められ(p=0.037)、全体の平均値では36.23%減少した。過剰量群においても有意な減少が認められ(p=0.000)、全体の平均値では71.62%の減少が認められた。便秘改善効果は、通常量群よりも過剰量群の方でより明らかな効果が得られた。チュウゴクザサエキス摂取による高い便秘改善効果が示された。
【0055】
従来の便秘を改善する生薬系の素材は、一般に、強く作用することにより便が緩くなり過ぎ、下痢又は水様便などを伴うことが多い。一方、本発明のチュウゴクザサエキスは、過剰量摂取しても、そのような症状は見られなかった。よりスムーズな排便を促したことは、注目に値する。
【0056】
2.血中中性脂肪の測定
被験者を、各検査日の予め指定された時刻に、医療法人社団盛心会タカラクリニック(東京)に来所させ、十分安静にした後、採血を行い、血中中性脂肪を測定した。
【0057】
6週間摂取による血中中性脂肪の変化量は、図2に示す。通常量群では、3289%の減少(平均値:171.50mg/dl→115.10mg/dl、p=0.109)であり、過剰量群では17.70%の減少(平均値:135.60mg/dl→111.60mg/dl、p=0.147)であった。
【0058】
これらの血中中性脂肪の減少は、チュウゴクザサエキス摂取に伴う便秘改善効果により糞便中の胆汁酸排出を促し、結果として腸管におけるコレステロールの再吸収(腸肝循環)を抑制したためと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チュウゴクザサ(Sasa veitchii f. tyugokensis)を、150〜200℃の温度及び圧力0.4〜1.6MPaの高温高圧水で60〜180分間処理して得られるチュウゴクザサエキス。
【請求項2】
前記チュウゴクザサエキス100gあたり、チュウゴクザサ由来のキシロースが2〜20g、及びチュウゴクザサ由来の食物繊維が5〜25g含まれる、請求項1に記載のチュウゴクザサエキス。
【請求項3】
チュウゴクザサ(Sasa veitchii f. tyugokensis)を、150〜200℃の温度及び圧力0.4〜1.6MPaの高温高圧水で60〜180分間処理することからなる、チュウゴクザサエキスの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のチュウゴクザサエキスを有効成分として含有する便秘の予防及び/又は症状改善剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のチュウゴクザサエキスを有効成分として含有する血中中性脂肪抑制剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のチュウゴクザサエキスを有効成分として含有する脂質異常症改善剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184360(P2011−184360A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51375(P2010−51375)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(507355571)株式会社出雲不二本舗 (1)
【Fターム(参考)】