説明

チューブ状の糸及びその成型方法

【課題】 強化樹脂成形部材を補強するために、軽くて引っ張り強度の高い補強糸の提供。
【解決手段】 多数の極細ガラスフィラメント11,11・・から成って撚りが与えられていない結束糸を開繊した平坦な帯状の糸12を使用し、これに樹脂液26を付着して丸く成型し、貫通した穴3を形成し、そして外周面には細かいガラス球2,2・・を付着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多数のフィラメントで構成したチューブ状の糸及びその成型方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のボディや航空機などに繊維強化プラスチックを使用する場合が多い。例えば、ガラス繊維、カーボン繊維など強化繊維のトウで織ったクロスに、ナイロン、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂をマトリクスとして溶融含浸せしめたプリプレグは、輸送機器、スポーツ用具などの製造に用いられている。
【0003】
しかし、このプリプレグは平板状のものであって変形させにくいため、成形の自由度が低く、また、強化繊維のトウ内部への樹脂の含浸が不十分になりやすいという問題もあり、そこで近年は、強化繊維とマトリクスとなる熱可塑性樹脂の繊維とを用いて、これらを混紡し、混紡トウとしたものをクロスに織ったプリプレグが用いられるようになっている。このプリプレグは、変形が容易で成形の自由度が高く、また、型に装填して熱圧を加えるとき、マトリクス繊維は溶融したその場で強化繊維のトウに含浸されるので、FRTPの均質性も高くなる。
【0004】
特開平6−322159号に係る「シート状FRTPプリプレグの製法」は、強化繊維と熱可塑性樹脂からなるマトリクス繊維とを開繊しながら混合し、これにバインダーの溶液を含浸し、これをリボン状の混紡トウにまとめたうえでドラムワインドしてシート状に広げ、これによって形成されたシートを部分的に加熱融着してその繊維配列を固定し、シート状FRTPプリプレグを製造するものである。
【0005】
シート状FRTPプリプレグを製造するに際して、トウの織成が不要であり安価に製造できる。また、繊維が一方向に配向しかつ空気層が排除されているので作業性が良好である。強化繊維とマトリクス繊維とが隣接しているのでマトリクスの含浸が均一に行われ、物性と均質性に優れたFRTP製品が得られる。
【0006】
このようにして製造されたFRTP製品は物性と均質性に優れた高強度のシート状FRTPプリプレグとなるが、ここで使用される糸はガラス繊維やカーボン繊維などの強化繊維とマトリクス繊維とを開繊しながら混合し、これにバインダー溶液を含浸したものである。従って、FRTPプリプレグの強度は高くても従来の繊維強化プラスチック部材に比較して軽く出来ない。
【特許文献1】特開平6−322159号に係る「シート状FRTPプリプレグの製法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように従来の繊維強化プラスチック部材には上記のごとき問題がある。本発明が解決しようとする課題はこの問題点であり、軽くて強度の高い繊維強化プラスチックを製造する為の補強繊維となるチューブ状の糸を提供する。並びに該チューブ状の糸の成型方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るチューブ状の糸は多数のフィラメントから成り、所定厚さと幅を有す帯状の糸を丸めてチューブ状に成型したものである。従って内部は空洞化した穴を有している。ところで、このチューブ状の糸の製造方法は、多数のフィラメントから成る所定厚さで所定幅の帯状の糸に樹脂を付着して丸められる。すなわち、帯状の糸を樹脂液付着回転ロールに接触させて移動させることで樹脂液を付着するが、帯状の糸を適度な張力で引くならば樹脂液付着回転ロールから離れると共に丸まって成型される。
【0009】
そして、このチューブ状の糸は乾燥・固化されて巻取り器に巻き取られる。ところで、本発明のチューブ状の糸の所々に(一般には一定ピッチで)潰されて節を設けることもある。さらに、チューブ状の糸の外周に細かい粒を付着する場合もある。この粒の付着はチューブ状の糸として成型される工程の後に該粒の付着工程を設けることで行われる。
【0010】
そして、チューブ状の糸を構成するフィラメントの材質はガラスフィラメント、炭素フィラメント、その他、高分子フィラメントなどが用いられる。又チューブ状の糸の外周面に付着する粒はガラス粒、炭素粒などで材質は限定しないことにする。さらに、帯状の糸を丸めてチューブ状の糸に成型する場合の樹脂液は接着性のあるものであればよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のチューブ状の糸は内部が空洞化されて穴を有す糸であり、その為にチューブ状の糸の見かけの比重は非常に小さくなり、比重を1以下にすることも可能である。そして、上記チューブ状の糸を構成しているフィラメントはガラス繊維やカーボン繊維などの強化繊維が用いられることで、非常に高い引っ張り強度が得られる。そこで、該チューブ状の糸を補強材として用いて成形される強化プラスチック部材は軽くて強い強度を得ることが出来る。
【0012】
そして、本発明のチューブ状の糸は帯状の糸を丸めて成型することが出来るが、該帯状の糸を樹脂液付着回転ロールに接触して移動させることで樹脂液を付着し、帯状の糸を適度な張力で引くことで樹脂液付着回転ロールから離れると共に丸まって成型される。すなわち、帯状の糸とロール表面との間に作用する樹脂液の表面張力と帯状の糸に作用する張力のバランスを利用することで丸く成型できる。
【実施例】
【0013】
図1は本発明に係るチューブ状の糸を示している実施例であり、同図の1はチューブ状の糸、2はガラス球(中空)を表している。チューブ状の糸1は内部が空洞化した穴3を有し、その外周面4には多量の細かいガラス球2,2・・が付着して外周面4を被覆している。ここで、チューブ状の糸1は一部潰れて変形することで、その外形が円形ではなく、同じく穴3も円形断面に限るものではない。
【0014】
上記チューブ状の糸は多数のガラスフィラメント11で構成され、所定厚さで所定幅の帯状の糸を丸めてチューブ状の糸1に成型されている。例えば、10μm程度の太さのガラスフィラメント約4200本を使用して帯状にした糸である。図2はこの帯状の糸12を表している。
【0015】
図3は帯状の糸12をチューブ状の糸に成型する為の成型装置を表している実施例である。同図の13は給糸ロール、14は樹脂液を入れた槽、15は樹脂液付着回転ロール、16はガラス球付着器、17は乾燥器、18は巻取りロールをそれぞれ表している。上記給糸ロール13には開繊された帯状の糸12が巻付いており、給糸ロール13から帯状の糸12が供給される。
【0016】
給糸ロール13から供給された帯状の糸12は樹脂液付着回転ロール15の上を移動することで帯状の糸12には樹脂液が付着する。槽14には樹脂液26が満たされており、樹脂液付着回転ロール15の下側一部はこの樹脂液26に浸かって回転し、その為にロール表面20に付着した樹脂液26は帯状の糸12に付着する。そして樹脂液26が付着した帯状の糸12は樹脂液付着回転ロール15から離れると共にチューブ状の糸19に丸まって成型される。
【0017】
帯状の糸12は巻取りロール18にて引っ張られるが、樹脂液付着回転ロール15に接触して樹脂液が付着した帯状の糸12は、樹脂液付着回転ロール15になじんだ状態で樹脂液付着回転ロール15と共に回転してある程度巻き込まれる。しかし、帯状の糸12には所定の張力が付勢されている為に、ある程度巻き込まれた位置で樹脂液付着回転ロール15のロール表面20から離れる。
【0018】
帯状の糸12は樹脂液付着回転ロール15の回転に巻き込まれ、所定の位置でロール表面20から離れるときに帯状の糸の張力と樹脂液との表面張力とのバランスで丸められて中空となる。そして、帯状の糸12の両側端は樹脂液26にて接着される。
【0019】
図4は帯状の糸12がチューブ状の糸に成型される各工程の断面図を表しているが、(a)は平坦な帯状の糸の断面拡大図、(b)は帯状の糸が僅かに湾曲した場合の断面拡大図、(c)は丸く湾曲した場合の断面拡大図、(d)は丸まってチューブ状の糸と成った断面拡大図をそれぞれ表している。帯状の糸12はロール表面20に密着して回転するが、ある位置にてロール表面20から離れるが、帯状の糸12の両側部21,21は遅く離れ、中央部22は早く離れる。その為に、図4(b)に示すように湾曲する。
【0020】
そして、さらに引っ張られることで一段と丸まって図4(c)のようになり、遂には両側端が突き合わされて図4(d)に示すようにチューブ状の糸1に成型される。チューブ状の糸1はガラス球付着器16にて多量の細かいガラス球2,2・・が外周面に付着する。本発明ではガラス球2,2・・の付着方法は限定しないが、エアーにて吹付けることで外周面4に塗布されている樹脂液26に付着することが出来る。
【0021】
外周面4にガラス球2,2・・が付着したチューブ状の糸1は乾燥器17を通過して乾燥される。図5は乾燥器17の中心部をチューブ状の糸1が通過する場合を表しているが、乾燥器17は内側に鉄管23を、外側には保温材24を有しており、鉄管23と保温材24との間にはヒータ25が介在している。従って、ヒータ25から発せられる熱は鉄管23を加熱して中心部を移動する中空糸1を乾燥することが出来る。そして、乾燥したチューブ状の糸1は巻取りロール18に巻き取られる。
【0022】
このように成型されたチューブ状の糸1はその内部が連続した穴3となっている。従って、太さの割には軽い糸であるが、多数のガラスファイバー11,11・・にて構成しているために、その引張り強度は非常に高い。しかし、穴3は外力の作用で潰れることがあり、穴3が潰れるならば太さに対しての重さは大きくなってしまう。
【0023】
そこで、本発明ではチューブ状の糸1の所々を潰して節27,27・・を形成する。節27を設けることで節27,27・・に挟まれて形成している穴3は潰れることはない。すなわちエアーが漏れないためにチューブ状の糸1の外形が崩れることはない。従って、各節27,27・・で挟まれた穴3は閉じた空間となってエアーが漏れることはなく、チューブ状の糸1は潰れない。図6はチューブ状の糸1の所々を潰して穴3を閉じた場合であり、上記乾燥工程の前に加熱した工具を押圧することでチューブ状の糸1は潰されて内面が固着する。
【0024】
ところで、本発明では樹脂液付着回転ロール15の上を該ロールの回転と共に帯状の糸12が移動することで、帯状の糸12に樹脂液26を付着し、樹脂液付着回転ロール15に僅かに巻付いてから離れることで、本発明のチューブ状の糸1に成型される。しかし、この成型条件は樹脂液付着回転ロール15の回転速度並びに樹脂液26の濃度に影響される。一般には樹脂液付着回転ロール15の回転速度が遅い場合には丸く成型され難く、樹脂液濃度が低いほど丸く成型され難い。
【0025】
従って、樹脂液濃度を高くすると共に樹脂液付着回転ロール15の回転速度を高めることで丸まってチューブ状の糸1に成型され易くなる。このように、チューブ状の糸1は樹脂成形部材の補強材として使用されるが、樹脂成形部材は軽くて高い強度を得ることが出来る。そしてチューブ状の糸1を補強材として用いた樹脂の成形部材はその比重を1以下とすることも可能であり、例えばボートの構成部材として利用することで底に穴があいても沈むことのないボートを構成することが可能となる。勿論、その他の各分野への利用価値も高く、自動車のバンパーなどの構成部材、航空機などへの応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る中空糸を示す実施例。
【図2】開繊した平坦な帯状の糸。
【図3】中空糸の成型装置の具体例。
【図4】帯状の糸が丸まる各工程の断面図。
【図5】乾燥器の断面図。
【図6】所々を潰して閉じた穴を形成した中空糸。
【符号の説明】
【0027】
1 チューブ状の糸
2 ガラス球
3 穴
4 外周面
11 ガラスフィラメント
12 帯状の糸
13 給糸ロール
14 槽
15 樹脂液付着回転ロール
16 ガラス球付着器
17 乾燥器
18 巻取りロール
20 ロール表面
21 側部
22 中央部
23 鉄管
24 保温材
25 ヒータ
26 樹脂液
27 節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のフィラメントから成る帯状の糸を使用し、これに樹脂液を付着してフィラメントの長さ方向に丸く成型し、貫通した穴を形成したことを特徴とするチューブ状の糸。
【請求項2】
所々を潰して節を設け、所定の長さごとに穴を閉じた請求項1記載のチューブ状の糸。
【請求項3】
外周面に細かい粒を付着した請求項1、又は請求項2記載のチューブ状の糸。
【請求項4】
多数のフィラメントで構成されるチューブ状の糸を成型する方法において、樹脂液付着回転ロールに接触させて多数のフィラメントから成る帯状の糸を移動することで樹脂液を付着し、付着した樹脂液の表面張力と引張り力とのバランスにて該帯状の糸がロールに巻き込まれた位置にてロール表面から離れることでフィラメントの長さ方向に丸く成型することを特徴とするチューブ状の糸の成型方法。
【請求項5】
丸く成型した後に多量の細かい粒を外表面に付着した請求項4記載のチューブ状の糸の成型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−261227(P2007−261227A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92947(P2006−92947)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(596044169)英光産業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】