説明

チューブ状エチレン系樹脂多層フィルム

【課題】引裂強度と衝撃強度に優れ、かつ適度な滑り性を有する多層フィルムを提供する。
【解決手段】要件(b1)と(b2)と(b3)を充足するエチレン−α−オレフィン共重合体(B)50〜100重量%、
および酢酸ビニルに基づく単量体単位の含有量が3〜40重量%であり、MFRが0.1〜7g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)0〜50重量%
を含有する芯層と、
要件(a1)と(a2)と(a3)の充足するエチレン系樹脂(A)を含有する二つの表面層とを有するチューブ状エチレン系樹脂多層フィルム。
(a1):NC5が炭素原子1000個あたり0.1未満
(a2):Eaが40kJ/mol以上
(a3):密度が900〜925kg/m
(b1):Eaが40kJ/mol未満
(b2):MFRが0.1〜2g/10分
(b3):密度が900〜925kg/m

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ状エチレン系樹脂多層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、パレットに載せた貨物は、パレットストレッチ包装システムを用いて、パレットや貨物よりも小さなチューブ状フィルムを4周方向に引き伸ばして、これをパレットと貨物に被せ、貨物をパレットとともに結束することによって包装され、それが輸送されたり、保管されている。このような包装手段に用いられるストレッチフードフィルムは、充分に引き伸ばした状態から貨物とパレットをともに結束できる寸法まで復元し、強固に結束する力を有するものである。例えば、特許文献1には、エチレン─酢酸ビニル共重合体からなるストレッチフードフィルムが開示され、特許文献2には、エチレン−α−オレフィン共重合体からなるストレッチフードフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−345880号公報
【特許文献2】特開2010−254963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のストレッチフードフィルムには、引き伸ばした状態から貨物とパレットをともに結束できる寸法まで復元する伸長回復率や、きつく結束する伸長回復力を従来のフィルムと同程度有し、かつ、従来よりも高い引裂強度と高い衝撃強度が求められることがある。また、ストレッチフードフィルムの内表面同士がブロッキングしたり、逆に内表面が滑りすぎることにより、パレットストレッチ包装システムでストレッチフードフィルムの口を広げにくいことがあった。かかる状況のもと本発明が解決しようとする課題は、引裂強度と衝撃強度に優れ、かつ適度な滑り性を有するチューブ状エチレン系樹脂多層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数4〜20のα−オレフィンに基づく単量体単位とを有し、下記要件(b1)と(b2)と(b3)の全てを充足するエチレン−α−オレフィン共重合体(B)50〜100重量%、
およびエチレンに基づく単量体単位と酢酸ビニルに基づく単量体単位とを有し、酢酸ビニルに基づく単量体単位の含有量が3〜40重量%であり、メルトフローレート(MFR)が0.1〜7g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)(ただし、エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)の重量を100重量%とする)0〜50重量%
を含有する(ただし、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)の合計量を100重量%とする)芯層と、
下記要件(a1)と(a2)と(a3)の全てを充足するエチレン系樹脂(A)を含有する二つの表面層と
を有し、
二つの表面層の間に芯層が配置されてなるチューブ状エチレン系樹脂多層フィルムである。
エチレン系樹脂(A)
(a1):13C−NMRにより測定される炭素原子数5の分岐数(NC5)が炭素原子1000個あたり0.1未満である
(a2):流動の活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol以上である
(a3):密度が900〜925kg/mである
エチレン−α−オレフィン共重合体(B)
(b1):流動の活性化エネルギー(Ea)が40kJ/mol未満である
(b2):メルトフローレート(MFR)が0.1〜2g/10分である
(b3):密度が900〜925kg/mである
【発明の効果】
【0006】
本発明により、引裂強度と衝撃強度に優れ、かつ適度な滑り性を有するチューブ状エチレン系樹脂多層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
エチレン系樹脂(A)は、エチレンに基づく単量体単位を主単位として有する重合体であり、エチレンに基づく単量体単位の含有量がエチレン系樹脂(A)の全重量(100重量%)に対して、50重量%以上の重合体である。エチレン系樹脂(A)としては、高圧ラジカル重合法で製造される高圧法低密度ポリエチレン、配位重合法等で製造されるエチレン−α−オレフィン共重合体などがあげられる。エチレン系樹脂(A)は、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数3〜20のα−オレフィンに基づく単量体単位とを有するエチレン−α−オレフィン共重合体であることが好ましい。エチレン−α−オレフィン共重合体中のエチレンに基づく単量体単位の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体の全重量(100重量%)に対して、通常50〜99重量%であり、炭素原子数3〜20のα−オレフィンに基づく単量体単位の含有量は、通常1〜50重量%である。
エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得ることができる。炭素原子数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン等があげられ、好ましくは1−ヘキセン、1−オクテンである。また、上記の炭素原子数3〜20のα−オレフィンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0008】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−オクテン共重合体等があげられ、好ましくはエチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−オクテン共重合体である。
【0009】
エチレン系樹脂(A)は、引裂強度と衝撃強度を高める観点から13C−NMRにより測定される炭素原子数5の分岐数(以下、「NC5」と記載することがある。)が、炭素原子1000個あたり0.1未満である。NC5は、好ましくは炭素原子1000個あたり0.05未満であり、より好ましくは0.01未満であり、ゼロであることが最も好ましい。
【0010】
エチレン系樹脂(A)のNC5は、気相重合、スラリー重合などの製造方法の選択や、重合触媒の選択、重合温度、重合圧、コモノマーの種類や添加量などの重合条件によって調整することができる。
【0011】
C5は、次の方法で求めることができる。窓関数にエクスポネンシャルを適用した13C−NMRスペクトルにおいて、5〜50ppmに観測されるすべてのピークの総和を1000として、32.5〜32.7ppm付近にピークトップを有するピークのピーク面積を求めた。該ピーク面積は、炭素原子数5の分岐メチレン炭素の数(下記構造式中のC**)に相当する値である。
・・・・CH2-CH-CH2-・・・・
└CH2-CH2-C**H2−CH2-CH3
なお、前記炭素原子数5以上の分岐が結合したメチン炭素に由来するピークの位置は、測定装置および測定条件によりずれることがあるため、通常、測定装置および測定条件毎に、標品の測定を行って決定する。また、スペクトル解析には、窓関数として、負の指数関数を用いることが好ましい。
【0012】
フィルムを製造しやすいため、エチレン系樹脂(A)の分子量分布(Mw/Mn)は5以上であることが好ましく、より好ましくは6以上であり、さらに好ましくは7以上である。また衝撃強度、引裂強度、伸長回復率、伸長回復力の観点から、エチレン系樹脂(A)の分子量分布は25以下であることが好ましく、より好ましくは20以下である。なお、該分子量分布(Mw/Mn)とは、数平均分子量に対する重量平均分子量の比で表され、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ測定によってポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とを求め、MwをMnで除した値(Mw/Mn)である。前記Mw/Mnは、例えば、重合時の水素濃度または重合温度により変更することができ、水素濃度または重合温度を高くすると、Mw/Mnが大きいエチレン系樹脂(A)が得られる。
【0013】
フィルムの伸長回復率、伸長回復力、およびフィルムの滑り性を高める観点から、エチレン系樹脂(A)の流動の活性化エネルギー(Ea)は、40kJ/mol以上であり、好ましくは50kJ/mol以上であり、より好ましくは55kJ/mol以上であり、さらに好ましくは60kJ/mol以上である。また、引裂強度、衝撃強度の観点から、Eaは、好ましくは100kJ/mol以下であり、より好ましくは90kJ/mol以下である。前記Eaは、例えば、重合時の水素濃度またはエチレン圧により変更することができ、水素濃度またはエチレン圧を低くすると、Eaが大きいエチレン系樹脂(A)が得られる。
【0014】
流動の活性化エネルギー(Ea)は、温度−時間重ね合わせ原理に基づいて、190℃での溶融複素粘度(単位:Pa・sec)の角周波数(単位:rad/sec)依存性を示すマスターカーブを作成する際のシフトファクター(aT)からアレニウス型方程式により算出される数値であって、以下に示す方法で求められる値である。まず、130℃、150℃、170℃および190℃夫々の温度(T、単位:℃)におけるエチレン系樹脂の溶融複素粘度−角周波数曲線(溶融複素粘度の単位はPa・sec、角周波数の単位はrad/secである。)を測定する。次に温度−時間重ね合わせ原理に基づいて、各温度(T)での溶融複素粘度−角周波数曲線を、190℃でのエチレン系共重合体の溶融複素粘度−角周波数曲線に重ね合わせて各温度(T)でのシフトファクター(aT)を求める。夫々の温度(T)と、各温度(T)でのシフトファクター(aT)とから、最小自乗法により[ln(aT)]と[1/(T+273.16)]との一次近似式(下記(I)式)を算出する。次に、該一次式の傾きmと下記式(II)とからEaを求める。
ln(aT) = m(1/(T+273.16))+n (I)
Ea = |0.008314×m| (II)
T :シフトファクター
Ea:流動の活性化エネルギー(単位:kJ/mol)
T :温度(単位:℃)
上記計算は、市販の計算ソフトウェアを用いてもよく、該計算ソフトウェアとしては、Rheometrics社製 Rhios V.4.4.4などがあげられる。
なお、シフトファクター(aT)は、夫々の温度(T)における溶融複素粘度−角周波数の両対数曲線を、log(Y)=−log(X)軸方向に移動させて(但し、Y軸を溶融複素粘度、X軸を角周波数とする。)、190℃での溶融複素粘度−角周波数曲線に重ね合わせた際の移動量であり、該重ね合わせでは、夫々の温度(T)における溶融複素粘度−角周波数の両対数曲線は、曲線ごとに、角周波数をaT倍に、溶融複素粘度を1/aT倍に移動させる。また、130℃、150℃、170℃および190℃の4点の値から(I)式を最小自乗法で求めるときの相関係数は、通常、0.99以上である。
【0015】
溶融複素粘度−角周波数曲線の測定は、粘弾性測定装置(例えば、Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800など。)を用い、通常、ジオメトリー:パラレルプレート、プレート直径:25mm、プレート間隔:1.5〜2mm、ストレイン:5%、角周波数:0.1〜100rad/秒の条件で行われる。なお、測定は窒素雰囲気下で行われ、また、測定試料には予め酸化防止剤を適量(例えば1000ppm。)を配合することが好ましい。
【0016】
エチレン系樹脂(A)の密度は、伸長回復率、伸長回復力、引裂強度、および衝撃強度を高める観点から、900kg/m3〜925kg/m3であり、好ましくは905kg/m3〜921kg/m3であり、さらに好ましくは910kg/m3〜915kg/m3である。なお、該密度は、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った試料を用いて、JIS K7112−1995に規定されたA法(水中置換法)に従って測定される。
【0017】
エチレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、通常、0.1〜50g/10分であり、引裂強度、衝撃強度、フィルムの滑り性、および伸長回復力を高める観点から2g/10分以下であることが好ましい。なお、該MFRは、JIS K7210−1995に従い、温度190℃および荷重21.18Nの条件でA法により測定される。
【0018】
エチレン系樹脂(A)は、下記式(II)で定義されるg*が0.70〜0.95であることが好ましい。
g*=[η]/([η]GPC×gSCB*) (II)
[式中、[η]は、エチレン系樹脂の極限粘度(単位:dl/g)を表し、下記式(II−I)によって定義される。[η]GPCは、下記式(II−II)によって定義される。gSCB*は、下記式(II−III)によって定義される。
[η]=23.3×log(ηrel) (II−I)
(式中、ηrelは、エチレン系樹脂の相対粘度を表す。)
[η]GPC=0.00046×Mv0.725 (II−II)
(式中、Mvは、エチレン系樹脂の粘度平均分子量を表す。)
SCB*=(1−A)1.725 (II−III)
(式中、Aは、下記式(II−V)によって定義される。
A=((12×n+2n+1)×y)/((1000−2y−2)×14+(y+2)×15+y×13) (II−V)
式中、nはエチレン系樹脂に含まれる短鎖分岐を構成する炭素原子数を表し(例えばα−オレフィンとしてブテンを用いた場合はn=2、ヘキセンを用いた場合はn=4)、yはNMRないしは赤外分光より求められる炭素原子1000個あたりの短鎖分岐数を表す。)]
なお、g*については、以下の文献を参考にした:Developments in Polymer Characterisation-4,. J. V.. Dawkins,. Ed.,. Applied Science, London,. 1983, Chapter. I,. 「Characterization. of. Long Chain Branching in Polymers,」Th. G. Scholte著
【0019】
[η]GPCは、極限粘度を測定するエチレン系樹脂の分子量分布と同一の分子量分布であって、かつ分子鎖が直鎖状であると仮定した仮想重合体の極限粘度(単位:dl/g)を表す。
SCB*は、エチレン系樹脂に短鎖分岐を導入することによって生じるg*への寄与を表す。
式(II−II)は、L. H. Tung著 Journal of Polymer Science, 36, 130 (1959) 287-294頁に記載されている。
【0020】
エチレン系樹脂の相対粘度(ηrel)は、次の方法で測定することができる。熱劣化防止剤としてブチルヒドロキシトルエン(BHT)を0.5重量%含むテトラリン100mlに、エチレン系樹脂100mgを135℃で溶解してサンプル溶液を調製する。ウベローデ型粘度計を用いて測定される前記サンプル溶液の降下時間と、0.5重量%のBHTのみを含むテトラリンからなるブランク溶液の降下時間から、エチレン系樹脂の相対粘度(ηrel)を算出する。
【0021】
エチレン系樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、下式(II−IV)

で定義され、a=0.725とした。
【0022】
g*は、長鎖分岐に起因する、溶液中での分子の収縮度を表す指標であり、分子鎖あたりの長鎖分岐を含有する量が多ければ分子鎖の収縮は大きくなり、g*は小さくなる。エチレン系樹脂のg*は、伸長回復率、伸長回復力、引裂強度、衝撃強度の観点から、好ましくは0.70〜0.95であり、より好ましくは0.75〜0.90であり、さらに好ましくは0.75〜0.85である。g*が0.95以下であると、伸長回復率に優れ、好ましい。また、g*が0.70以上であると、結晶を形成したときの分子鎖の広がりが十分であるため、タイ分子の生成確率が高く、また、分子鎖の緩和時間が短く、伸張回復力、引裂強度、衝撃強度に優れ、好ましい。
【0023】
エチレン系樹脂(A)として好ましく用いられるエチレン系樹脂としては、特開2008−106264号に記載されたエチレン系樹脂が挙げられる。
【0024】
エチレン−α−オレフィン共重合体(B)は、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数4〜20のα−オレフィンに基づく単量体単位とを有する共重合体である。エチレン−α−オレフィン共重合体(B)は、オレフィン重合用触媒を用いてエチレンと炭素原子数4〜20のα−オレフィンとを共重合して得ることができる。該エチレン−α−オレフィン共重合体(B)として、例えば、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−オクテン共重合体等があげられ、引裂強度、衝撃強度を高める観点から、好ましくはエチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体である。
【0025】
エチレン−α−オレフィン共重合体(B)中のエチレンに基づく単量体単位の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)の全重量(100重量%)に対して、通常50〜99重量%である。炭素原子数4〜20のα−オレフィンに基づく単量体単位の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体の全重量(100重量%)に対して、通常1〜50重量%である。
【0026】
伸張回復力、衝撃強度、および引裂強度を高める観点から、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)の流動の活性化エネルギー(Ea)は、40kJ/mol未満であり、好ましくは38kJ/mol未満である。該流動の活性化エネルギー(Ea)は、エチレン系樹脂(A)の流動の活性化エネルギー(Ea)と同じ方法で求められる。
【0027】
エチレン−α−オレフィン共重合体(B)の密度は、900〜925kg/mであり、フィルムの柔軟性、および伸長回復率を高める観点から、好ましくは922kg/m3未満であり、さらに好ましくは915kg/m3未満である。該密度は、エチレン系樹脂(A)の密度と同じ方法で測定される。
【0028】
エチレン−α−オレフィン共重合体(B)のメルトフローレート(MFR)は、0.1〜2g/10分であり、加工性、引裂強度を高める観点から、好ましくは1g/10分以上である。なお、該MFRは、JIS K7210−1995に従い、温度190℃および荷重21.18Nの条件でA法により測定される。
【0029】
エチレン−α−オレフィン共重合体(B)は、例えば、溶液重合法、スラリー重合法、気相重合法、高圧イオン重合法等により製造することができる。
【0030】
本発明の多層フィルムは、前記エチレン−α−オレフィン共重合体(B)を含有する芯層を有する。該芯層は、樹脂成分としてエチレン−α−オレフィン共重合体(B)を単独で用いてもよく、さらに他の樹脂を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の多層フィルムの芯層が他の樹脂を含む場合の芯層の好ましい例として、前記エチレン−α−オレフィン共重合体(B)と、エチレンに基づく単量体単位と酢酸ビニルに基づく単量体単位とを有し、酢酸ビニルに基づく単量体単位の含有量が3〜40重量%であり、メルトフローレート(MFR)が0.1〜7g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)(ただし、エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)の重量を100重量%とする)とを含有する層が挙げられる。このような芯層を有するフィルムは、高い伸長回復力を保持したまま、さらに伸長回復率にも優れる。
【0032】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)における酢酸ビニルに基づく単量体単位の含有量は、フィルムの柔軟性、および伸長回復率を高める観点から、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは15重量%以上である。エチレン−酢酸ビニル共重合体に含まれる酢酸ビニルに基づく単量体単位の含有量が40重量%以下であると、フィルムの伸張回復力に優れる。
【0033】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)のメルトフローレート(MFR)は、フィルム強度、伸長回復力を高める観点から、7g/10分以下である。なお、該MFRは、JIS K7210−1995に従い、温度190℃および荷重21.18Nの条件でA法により測定される。
【0034】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)は、エチレンと酢酸ビニルとを、触媒を用いて重合することにより製造される。例えば、ラジカル開始剤を用いた塊状重合法、溶液重合法等があげられる。
【0035】
本発明のチューブ状多層フィルムは、前記エチレン−α−オレフィン共重合体(B)50〜100重量%およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)0〜50重量%を含有する芯層(ただし、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)の合計量を100重量%とする)を有するフィルムである。芯層に含有されるエチレン−α−オレフィン共重合体(B)の含有量を増やすと、引裂強度、衝撃強度、柔軟性により優れる。
【0036】
本発明のチューブ状多層フィルムは、前記エチレン系樹脂(A)を含有する二つの表面層と前記エチレン−α−オレフィン共重合体(B)50〜100重量%、および前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)0〜50重量%を含有する芯層とを有し、二つの表面層の間に芯層が配置されてなるフィルムである。具体的な層構成としては、表面層/芯層/表面層、表面層/層(α)/芯層/表面層、表面層/層(α)/芯層/層(β)/表面層などが挙げられる。ここで、層(α)、層(β)は、本発明の表面層と芯層以外の層を表す。好ましくは、少なくとも一方の表面層が芯層に隣接して配置されてなる構成である。また、より好ましくは、表面層/芯層/表面層となる構成である。
【0037】
前記表面層に含有されるエチレン系樹脂(A)の含有量としては、表面層に含有される構成成分全量を100重量%として、好ましくは、70重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上である。表面層には、エチレン系樹脂(A)と異なる樹脂や、後述する各種添加剤などを含んでもよい。
また、芯層に含有されるエチレン−α−オレフィン共重合体(B)および前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)の合計量は、芯層に含有される構成成分全量を100重量%として、好ましくは、80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。芯層に含有される構成成分全量を100重量%として、芯層には、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)と異なる樹脂や、後述する各種添加剤などを含んでもよい。芯層には、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)と異なる樹脂として、エチレン系樹脂(A)を含んでもよい。
【0038】
本発明のチューブ状多層フィルムの厚みは、引裂強度および衝撃強度を高める観点から、0.01mm以上であることが好ましい。また、フィルムの被覆作業性などの観点から、0.3mm以下が好ましく、0.03〜0.25mmの範囲がより好ましい。
【0039】
本発明のチューブ状多層フィルム全体の厚みに対する前記芯層の厚みの割合としては、押出成形性、得られるフィルムの透明性およびヒートシール性を高める観点から、好ましくは、30%以上90%未満であり、より好ましくは、50%以上80%未満である。
【0040】
本発明の多層フィルムにおいて、前記芯層、および前記表面層に必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、他の樹脂などを配合してもよく、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記の酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジアルキルフェノール誘導体や2−アルキルフェノール誘導体などのいわゆるヒンダードフェノール系化合物、フォスファイト系化合物、フォスフォナイト系化合物などの3価のリン原子を含むリン系エステル化合物が挙げられる。これら酸化防止剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。本発明のフィルムが着色しにくいという観点から、ヒンダードフェノール系化合物とリン系エステル化合物を併用することが好ましい。酸化防止剤が含有される各層において、該層の樹脂の重量を100重量部とするとき、該層に酸化防止剤が0.01〜1重量部含有されることが好ましく、0.03〜0.5重量部含有されることがより好ましい。酸化防止剤は、芯層および二つの表面層の全てに含有されることが好ましい。
【0042】
上記の光安定剤としては、例えば、特開平8−73667号公報に記載の構造を有するヒンダードアミン系化合物が挙げられ、具体的には、商品名チヌビン622−LD、キマソーブ944−LD(以上チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ホスタビンN30、VP Sanduvor PR−31(以上クラリアント社製)、サイヤソーブUV3529、サイヤソーブUV3346(以上サイテック社製)などが挙げられる。さらには、特開平11−315067号公報に記載の構造を有する立体障害性アミンエーテル化合物が挙げられ、具体的には、商品名チヌビンNOR371(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)が挙げられる。光安定剤が含有される各層において、該層の樹脂の重量を100重量部とするとき、該層に光安定剤が0.01〜3重量部含有されることが好ましく、0.05〜2重量部含有されることがより好ましく、0.1〜1重量部含有されることがさらに好ましい。光安定剤は、芯層および二つの表面層の全てに含有されることが好ましい。
【0043】
上記の紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。紫外線吸収剤が含有される各層において、該層の樹脂の重量を100重量部とするとき、該層に紫外線吸収剤が0.01〜3重量部含有されることが好ましく、0.03〜2重量部含有されることがより好ましい。紫外線吸収剤は、芯層および二つの表面層の全てに含有されることが好ましい。
【0044】
上記の滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸等の脂肪酸;オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド等の脂肪酸アミド;高級脂肪酸のグリセリンエステル;ソルビタンエステル、n−ブチルステアレート等の脂肪酸エステル等を使用することができる。本発明の多層フィルムに含有される滑剤の含有量は、多層フィルムに含有される前記エチレン系樹脂(A)と前記エチレン−α−オレフィン共重合体(B)と前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)との合計の重量を100重量部とするとき、0.02重量部未満であることが好ましい。また、本発明の多層フィルムは、滑剤を含有しなくてもよい。
【0045】
上記のアンチブロッキング剤としては、乾式シリカ、湿式シリカ等の合成シリカ;珪藻土等の天然シリカ;シリコン樹脂;ポリメチルメタアクリレート等を使用することができる。アンチブロッキング剤が含有される各層において、該層の樹脂の重量を100重量部とするとき、該層にアンチブロッキング剤が0.2〜5重量部含有されることが好ましい。アンチブロッキング剤は、一方の表面層、または両方の表面層に含有されることが好ましい。
【0046】
各層を構成する成分が複数ある場合は、それらの成分は、混合および/または溶融混練した後、後述の製造方法でフィルムとされる。混合方法としては、例えば、タンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサーなどでそれらを混合する方法があげられる。また、溶融混練方法としては、例えば、単軸押出機や多軸押出機などでそれらを溶融混練する方法、ニーダーやバンバリーミキサーなどでそれらを溶融混練する方法などがあげられる。
【0047】
本発明のチューブ状多層フィルムの製造方法としては、例えば、共押出インフレーションフィルム成形法、共押出Tダイキャストフィルム成形法等が挙げられ、好ましくは、共押出インフレーションフィルム成形法である。
【0048】
フィルムの製造方法としてインフレーション成形法やTダイキャスト成形法などの押出成形を行う場合、押出成形温度は、通常、110〜250℃である。フィルムと被包装体の密着性を高める観点から、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは140℃以上である。また、フィルムの熱劣化を抑える観点から、好ましくは240℃以下であり、より好ましくは220℃以下であり、さらに好ましくは190℃以下である。
【0049】
本発明のチューブ状多層フィルムは伸長回復率、伸長回復力に優れる。具体的には、フィルム製膜方向と垂直な方向(以下TD方向と記す)の伸張回復力が23N/50mm巾以上、その寸法の伸長回復率が70%以上であることが好ましい。
尚、伸長回復力、伸長回復率は、それぞれ以下の方法により求められる値である。
〔伸長回復力〕
長手方向が、TD方向となるように巾50mm、長さ140mmの試験片を作製し、該試験片中央部に100mm離れて平行な2本の標線をつける。引張試験機の二つのチャックにより、該試験片を標線部分で(チャック間を100mmとして)つかみ、常温下、引張速度1000mm/minの条件で、チャック間が200mmとなるまで試験片を延伸し(延伸倍率2.0倍)、そのまま5秒間保持後、チャック間を185mmに戻して、延伸倍率が1.85倍の状態とする。チャック間を185mmに戻してから1分後の張力を伸長回復力とする。
〔伸長回復率〕
伸長回復力を測定後、試験片をチャックからはずして、荷重を開放した後の標線間距離(L)を測定し、伸長回復率を次式により算出する。
伸長回復率(%)=(1−(L−100)/100)×100
伸張回復率は、伸長回復力測定を行い、荷重を開放した後、フィルムの長さがどの程度まで復元したかを示す指標である。
【0050】
フィルムのTD方向の伸長回復率が70%以上であると、重量貨物を載せたパレットの運搬中や保管中、フィルムと重量貨物の間に隙間が生じにくく、横方向に力を受けても荷崩れを起こしにくい。
【0051】
TD方向の伸長回復率が70%以上であり、かつ、伸長回復力が23N/50mm巾以上である場合には、結束した重量貨物同士を密に固定することができるため、運搬中や保管中等に荷崩れを起こしにくい。
【0052】
本発明のチューブ状多層フィルムは滑剤を含まずとも適度な滑り性を有する。具体的には、チューブ状多層フィルムの内表面の動摩擦係数(以下μkとする)の値が0.30以上0.70未満であることが好ましい。動摩擦係数(μk)が0.30以上であると、パレットストレッチ包装機が該フィルムの口を自動で広げる際に、フィルムが滑り過ぎず、口を広げやすい。また、動摩擦係数(μk)が0.70未満であるとフィルム同士がブロッキングしにくく、口を広げやすい。
尚、動摩擦係数(μk)は、ASTM D−1894にしたがって測定される。
【0053】
本発明のチューブ状多層フィルムは、ストレッチフードフィルムとして有用である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例により本発明を説明する。
実施例および比較例の物性は、次の方法に従って測定した。
【0055】
(1)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
JIS K 7210−1995に規定された方法に従い、荷重21.18N、温度190℃の条件でA法により測定した。
【0056】
(2)密度(単位:kg/m3
JIS K7112−1995のうち、A法に規定された方法に従って測定した。なお、測定試料片は、JIS K6760−1995に記載の低密度ポリエチレンの方法に従いアニーリングを行い測定に用いた。
【0057】
(3)分子量分布(Mw/Mn、単位:−)
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法を用いて、下記の条件(1)〜(9)により、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
測定条件
(1)装置:Waters社製 150CV ALC/GPC
(2)分離カラム:昭和電工社製Shodex GPC AT−806MS
(3)温度 :140℃
(4)溶媒 :o−ジクロロベンゼン
(5)溶出溶媒流速:1.0ml/分
(6)試料濃度:1mg/ml
(7)測定注入量:400μl
(8)分子量標準物質:標準ポリスチレン(東ソー社製;分子量=6000000〜500)
(9)検出器:示差屈折
【0058】
(4)流動の活性化エネルギー(Ea、単位:kJ/mol)
粘弾性測定装置(Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800)を用いて、130℃、150℃、170℃および190℃のそれぞれの温度において、下記測定条件で溶融複素粘度−角周波数曲線を測定し、次に、得られた溶融複素粘度−角周波数曲線から、Rheometrics社製計算ソフトウェア Rhios V.4.4.4を用いて、活性化エネルギー(Ea)を求めた。
<測定条件>
ジオメトリー:パラレルプレート
プレート直径:25mm
プレート間隔:1.5〜2mm
ストレイン:5%
角周波数:0.1〜100rad/秒
測定雰囲気:窒素下
【0059】
(5)g*
g*=[η]/([η]GPC×gSCB*) (II)
前記式(II)によってg*を求めた。
[η]は以下の方法で求めた。まず、熱劣化防止剤としてブチルヒドロキシトルエン(BHT)を0.5重量%含むテトラリン100mlに、エチレン系樹脂100mgを135℃で溶解してサンプル溶液を調製した。ウベローデ型粘度計を用いて測定される前記サンプル溶液との降下時間と、0.5重量%のBHTのみを含むテトラリンからなるブランク溶液の降下時間から、エチレン系樹脂の相対粘度(ηrel)を算出した。算出した相対粘度(ηrel)を、式(II−I)に代入し、[η]を求めた。
[η]=23.3×log(ηrel) (II−I)
(式中、ηrelは、エチレン系樹脂の相対粘度を表す。)
[η]GPCは、以下の方法で求めた。前記の(3)分子量分布の測定結果より、粘度平均分子量(Mv)を算出した。算出したMvを式(II−II)に代入し、[η]GPCを求めた。
[η]GPC=0.00046×Mv0.725 (II−II)
(式中、Mvは、エチレン系樹脂の粘度平均分子量を表す。)
SCB*は、式(II−V)により求めたAを式(II−III)に代入して求めた。 gSCB*=(1−A)1.725 (II−III)
(式中、Aは、下記式(II−V)によって定義される。
A=((12×n+2n+1)×y)/((1000−2y−2)×14+(y+2)×15+y×13) (II−V)
式中、nはエチレン系樹脂に含まれる短鎖分岐を構成する炭素原子数を表し、yは炭素原子1000個あたりの短鎖分岐数を表す。)]
なお、エチレン系樹脂に含まれる短鎖分岐の分岐短鎖数nと、炭素原子1000個あたりの短鎖分岐数yの測定ならびに計算は、文献(Die Makromoleculare Chemie, 177, 449 (1976) McRae, M. A., Madams, W. F. )記載の方法に従い、α−オレフィン由来の特性吸収を利用して実施した。赤外吸収スペクトルは、赤外分光光度計(日本分光工業社製 FT−IR7300)を用いて測定した。
【0060】
(6)NC5の算出方法
炭素核磁気共鳴法によって、次の測定条件により、炭素核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)を測定し、下記算出法より求めた。
<測定条件>
装置:Bruker社製 AVANCE600
測定プローブ:10mmクライオプローブ
測定溶媒:1,2−ジクロロベンゼン/1,2−ジクロロベンゼン−d4
=75/25(容積比)の混合液
測定温度:130℃
測定方法:プロトンデカップリング法
パルス幅:45度
パルス繰り返し時間:4秒
測定基準:テトラメチルシラン
窓関数 :エクスポネンシャルまたはガウシャン
積算回数:2500回
<分岐度の算出方法>
炭素原子数5の分岐数の算出方法 (NC5、単位:1/1000C)
窓関数にエクスポネンシャルを適用した13C−NMRスペクトルにおいて、5〜50ppmに観測されるすべてのピークの総和を1000として、32.5〜32.7ppm付近にピークトップを有するピークのピーク面積を求めた。
【0061】
[フィルムの物性]
(7)動摩擦係数(単位:なし)
ASTM D−1894に従って、チューブ内表面の動摩擦係数を測定した。
【0062】
(8)剛性(1%SM)(単位:MPa)
幅20mm、長さ120mmの短冊形試験片を、長手方向がフィルム引取り方向(MD)およびMD方向に対して直交する方向(TD)となるようにそれぞれ採取し、該試験片を用いて、チャック間60mm、引張速度5mm/minの条件で引張試験を行い、応力−歪曲線を測定した。該応力−歪曲線から、1%伸び時の荷重(単位:N)を求め、下記式から1%SMを求め、フィルムの剛性とした。
1%SM=[F/(t×l)]/[s/L0]/106
F:1%伸び時の荷重(単位:N)
t:試験片厚み(単位:m)
l:試験片幅(単位:m,0.02)
L0:チャック間距離(単位:m,0.06)
s:1%歪み (単位:m,0.0006)
【0063】
(9)引裂強度(単位:kN/m )
ASTM D1922に規定された方法に従って測定した。
【0064】
(10)衝撃強度(単位:kJ/m )
振り子衝撃試験機(東洋精機製作所製)を用い、衝撃球(15mmφの半球)を用いて、67mmφの衝撃面の中心を衝撃球が打ち抜いたときの破壊エネルギーを衝撃強度として求めた。
【0065】
(11)伸長回復力(単位:N/50mm巾)
製膜したフィルムから、長手方向が、引取り方向に対して直交する方向(TD)となるように巾50mm、長さ140mmの試験片を作製した。該試験片中央部に100mm離れて平行な2本の標線をつけた。引張試験機の二つのチャックにより、該試験片を標線部分で(チャック間を100mmとして)つかみ、常温下で、引張速度1000mm/minの条件で、チャック間が200mmとなるまで試験片を延伸し(延伸倍率2.0倍)、そのまま5秒間保持後、チャック間を185mmに戻して、延伸倍率が1.85倍の状態とした。チャック間を185mmに戻してから1分後の張力を伸長回復力とした。
【0066】
(12)伸長回復率(単位:%)
伸長回復力を測定後、試験片をチャックからはずして、荷重を開放した後の標線間距離(L)を測定し、伸長回復率を次式により算出した。
伸長回復率(%)=(1−(L−100)/100)×100
【0067】
[実施例1]
(1)助触媒担体の調製
窒素置換した撹拌機を備えた反応器に、窒素流通下で300℃において加熱処理したシリカ(デビソン社製 Sylopol948;50%体積平均粒子径=55μm;細孔容量=1.67ml/g;比表面積=325m2/g)2.8kgとトルエン24kgとを入れて、撹拌した。その後、5℃に冷却した後、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン0.9kgとトルエン1.4kgとの混合溶液を反応器の温度を5℃に保ちながら30分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間撹拌し、次に95℃に昇温し、95℃で3時間撹拌し、ろ過した。得られた固体生成物をトルエン20.8kgで6回、洗浄を行った。その後、トルエン7.1kgを加えスラリーとし、一晩静置した。
【0068】
上記で得られたスラリーに、ジエチル亜鉛のヘキサン溶液(ジエチル亜鉛濃度:50重量%)3.46kgとヘキサン2.05kgとを投入し、撹拌した。その後、5℃に冷却した後、3,4,5−トリフルオロフェノール1.55kgとトルエン2.88kgとの混合溶液を、反応器の温度を5℃に保ちながら60分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間撹拌し、次に40℃に昇温し、40℃で1時間撹拌した。その後、5℃に冷却し、水 0.221kgを反応器の温度を5℃に保ちながら1.5時間で滴下した。滴下終了後、5℃で1.5時間撹拌し、次に40℃に昇温し、40℃で2時間撹拌し、更に80℃に昇温し、80℃で2時間撹拌した。撹拌後、室温にて、残量が16Lになるまで上澄み液を抜き出し、トルエン11.6kgを投入し、次に、95℃に昇温し、4時間撹拌した。撹拌後、室温にて、上澄み液を抜き出し、固体生成物を得た。得られた固体生成物をトルエン20.8kgで4回、ヘキサン24リットルで3回、洗浄を行った。その後、乾燥することにより、固体成分(以下、助触媒担体(a)と称する。)を得た。
【0069】
(2)予備重合触媒成分(1)の調製
予め窒素置換した内容積210リットルの撹拌機付きオートクレーブに、ブタン80リットルを投入した後、ラセミ−エチレンビス(1−インデニル)ジルコニウムジフェノキシド144mmolを投入し、オートクレーブを50℃まで昇温して撹拌を2時間行った。次に上記助触媒担体(a)0.5kgを投入し、オートクレーブを31℃まで降温した。系内が安定した後、エチレンを0.1kg、水素を0.1リットル(常温常圧体積)仕込み、続いてトリイソブチルアルミニウム207mmolを投入して重合を開始した。エチレンと水素をそれぞれ0.6kg/時間と0.5リットル(常温常圧体積)/時間で連続供給しながら30分経過した後、50℃へ昇温するとともに、エチレンを3.6kg/時間、水素を10.9リットル(常温常圧体積)/時間で連続供給することによって合計6時間の予備重合を実施した。重合終了後、エチレン、ブタン、水素などをパージして残った固体を室温にて真空乾燥し、助触媒担体(a)1g当り37gのポリエチレンを含有する予備重合触媒成分(1)を得た。
【0070】
(3)エチレン−1−ヘキセン共重合体の製造
上記の予備重合触媒成分(1)を用い、連続式流動床気相重合装置でエチレンと1−ヘキセンとを共重合した。重合条件は、温度80℃、全圧2MPa、エチレンに対する水素のモル比を1.48%、エチレンに対する1−ヘキセンのモル比を1.70%とした。重合中はガス組成を一定に維持するためにエチレン、1−ヘキセン、水素を連続的に供給した。また、流動床の総パウダー重量を80kgに維持し、平均重合時間が4時間となるように、上記予備重合触媒成分(1)と、トリイソブチルアルミニウムとを一定の割合で連続的に供給した。重合により、20.3kg/時間の重合効率でエチレン−1−ヘキセン共重合体(以下、PE−1と称する。)のパウダーを得た。
【0071】
(4)エチレン−1−ヘキセン共重合体パウダーの造粒
上記で得たPE−1のパウダーを、押出機(神戸製鋼所社製 LCM50)により、フィード速度50kg/時間、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度4.2mm、サクション圧力0.2MPa、樹脂温度200〜230℃条件で造粒して、PE−2のペレットを得た。PE−1のペレットの評価結果を表1に示す。
【0072】
(5)フィルム成形
スクリュー径40mmφの押出機3台からなる3層共押出インフレーション成形機(ダイ径100mm、リップ開度1.2mm)を用いて、以下の条件でインフレーション成形を行った。上記のPE−1のペレット85重量%と、アンチブロッキング剤マスターバッチ(アンチブロッキング剤濃度10重量%。以下、AB−MBと記す。)15重量%とを、タンブラーミキサーを用いて均一にペレット混合した。得られたペレット混合物を外層用押出機、および内層用の押出機に導入し、市販のエチレン−1−ヘキセン共重合体(住友化学株式会社製 スミカセンE FV203[MFR=2g/10分、密度=912kg/m3、分子量分布=2.0]:以下、LL−1とする。LL−1の基本物性を表1に示した。)100重量%を中間層用の押出機に導入し、押出機、ダイ設定温度を180℃とし、内層、中間層、および外層の押出量をそれぞれ3kg/時間、9kg/時間、3kg/時間とし、ブローアップレイシオ(BUR)を2.0の条件で共押出インフレーション成形を行い、厚み100μmの多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの物性評価結果を表2に示した。
【0073】
(6)上記フィルム成形に用いたアンチブロッキング剤マスターバッチ(AB−MB)
アンチブロッキング剤マスターバッチ(AB−MB)として、市販のエチレン−1−ヘキセン共重合体(住友化学株式会社製 スミカセンE FV402[MFR=4g/10分、密度=915kg/m3、分子量分布=3.2]:以下、LL−2とする。LL−2の基本物性を表1に示した。)90重量%と、アンチブロッキング剤10重量%とからなる樹脂組成物を用いた。
【0074】
[実施例2]
インフレーション成形において、中間層用押出機に導入する樹脂をLL−1のペレット75重量%と、市販のエチレン−酢酸ビニル共重合体(住友化学株式会社製 エバテート H2020[MFR=1.5g/10分、酢酸ビニル含量15重量%]のペレット25重量%との混合物とした以外は実施例1と同様に行った。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0075】
[比較例1]
上記LL−2のペレット95重量%と、AB−MBを5重量%とを、タンブラーミキサーを用いて均一にペレット混合した。
PE−1のペレット99重量%と、滑剤マスターバッチ(滑剤濃度4重量%。以下、SA−MBと記す。)を1重量%とを、タンブラーミキサーを用いて均一にペレット混合した。
LL−2ペレットとAB−MBとの混合物を外層用押出機、および内層用の押出機に導入し、PE−1ペレットとSA−MBとの混合物を中間層用押出機に導入した以外は比較例1と同様に、インフレーション成形を行った。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。尚、この時フィルム中の滑剤含有量は、フィルムの重量を100重量%とした時、0.024重量%である。
滑剤マスターバッチ(SA−MB)として、上記LL−2 96重量%と、滑剤4重量%とからなる樹脂組成物を用いた。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数4〜20のα−オレフィンに基づく単量体単位とを有し、下記要件(b1)と(b2)と(b3)の全てを充足するエチレン−α−オレフィン共重合体(B)50〜100重量%、
およびエチレンに基づく単量体単位と酢酸ビニルに基づく単量体単位とを有し、酢酸ビニルに基づく単量体単位の含有量が3〜40重量%であり、メルトフローレート(MFR)が0.1〜7g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)(ただし、エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)の重量を100重量%とする)0〜50重量%
を含有する(ただし、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)の合計量を100重量%とする)芯層と、
下記要件(a1)と(a2)と(a3)の全てを充足するエチレン系樹脂(A)を含有する二つの表面層と
を有し、
二つの表面層の間に芯層が配置されてなるチューブ状エチレン系樹脂多層フィルム。
エチレン系樹脂(A)
(a1):13C−NMRにより測定される炭素原子数5の分岐数が炭素原子1000個あたり0.1未満である
(a2):流動の活性化エネルギーが40kJ/mol以上である
(a3):密度が900〜925kg/mである
エチレン−α−オレフィン共重合体(B)
(b1):流動の活性化エネルギーが40kJ/mol未満である
(b2):JIS K 7210−1995に規定された方法に従い、荷重21.18N、温度190℃の条件でA法により測定したメルトフローレートが0.1〜2g/10分である
(b3):密度が900〜925kg/mである
【請求項2】
前記エチレン系樹脂(A)が、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数3〜20のα−オレフィンに基づく単量体単位とを有し、下記要件(a4)を充足するエチレン−α−オレフィン共重合体である請求項1に記載のチューブ状エチレン系樹脂多層フィルム。
(a4):数平均分子量に対する重量平均分子量の比で表される分子量分布が5〜25である
【請求項3】
前記チューブ状エチレン系樹脂多層フィルムに含有される前記エチレン系樹脂(A)と前記エチレン−α−オレフィン共重合体(B)と前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)との合計の重量を100重量部とするときに、チューブ状エチレン系樹脂多層フィルムに含有される滑剤の含有量が0.02重量部未満である請求項1または2に記載のチューブ状エチレン系樹脂多層フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のチューブ状エチレン系樹脂多層フィルムからなるストレッチフードフィルム。

【公開番号】特開2013−60006(P2013−60006A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182174(P2012−182174)
【出願日】平成24年8月21日(2012.8.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】