説明

チューブ状成形品及びこれを用いた熱収縮チューブ

【課題】 押出性を確保したアイオノマー樹脂組成物を用いて、薄肉で且つ高弾性率のアイオノマー樹脂製チューブを提供する。
【解決手段】 オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーに、中和用金属塩及び4級アンモニウム塩型界面活性剤を溶融混合してなる、中和度60%以上のアイオノマー樹脂100質量部あたり、有機化クレー1〜85質量部含有するアイオノマー樹脂組成物を、チューブ状に押出成形してなるチューブ状成形品であり、電離放射線により、前記樹脂組成物が架橋されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉で高弾性率、しかも生産性に優れたアイオノマー樹脂製のチューブ状成形品及びこれを用いた熱収縮チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池などの缶の外周は、電気的絶縁、保護層、印刷層などを兼ねた熱収縮チューブで被覆されている。この熱収縮チューブの素材としては、電池の電解液に対する耐薬品性が優れるという点から、エチレン系アイオノマー樹脂が広く使用されている。
【0003】
リチウム電池等の缶の被覆は、自動被覆加工機に、熱収縮チューブを口開きの状態でセットし、チューブ内にリチウムイオン電池を挿入した後、チューブを熱収縮させることにより行なっている。近年の小型化の要求から、このような用途に用いられる熱収縮チューブについては、薄肉で、且つ口開きの状態でも自立できる剛性を有する材料を用いる必要がある。
【0004】
アイオノマー樹脂が本来有する耐薬品性を損なわずに、剛性を向上させることができる方法として、特開2007−204729号公報に、アイオノマー樹脂組成物中に、有機化クレー2〜60重量%を分散させることが提案されている。さらに、この特開2007−204729号公報には、酸化亜鉛や水酸化マグネシウム等の金属塩を添加することで、アイオノマー樹脂の中和度を上げることができ、これにより弾性率を上げることができることが示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−204729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されているように、有機化クレーを配合することによって、成形品の機械的強度、弾性率を上げることができるものの、熱収縮チューブのように、更に拡径して用いる用途では、更なる弾性率のアップが望まれている。
しかしながら、弾性率をあげるために有機化クレーの配合量を多くすると、押出性が低下してしまい、ひいては生産性の低下をもたらす。
一方、アイオノマー樹脂の中和度を上げることによって弾性率アップを図るために、酸化亜鉛や水酸化マグネシウム等の金属塩の配合量を増大すると、有機化クレーの分散性は向上するものの、金属塩の凝集物による押出時の被覆切れの低下による生産性の低下、透明性が損なわれるといった新たな問題を招来する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、押出性を確保したアイオノマー樹脂組成物を用いて、薄肉で且つ高弾性率のアイオノマー樹脂製チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ある種の界面活性剤共存下で金属塩を配合することによって、アイオノマーのカルボキシル基の中和度を効率的に上げることができることを見出し、さらに中和度をあげたアイオノマー樹脂を用いたアイオノマー樹脂組成物は、押出性に優れ、しかも高弾性率の成形品を得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明のチューブ状成形品は、下記アイオノマー樹脂組成物をチューブ状に押出成形したものである。
オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーに、中和用金属塩及び4級アンモニウム塩型界面活性剤を溶融混合してなる、中和度60%以上のアイオノマー樹脂100質量部あたり、有機化クレー1〜85質量部含有するアイオノマー樹脂組成物。
【0010】
前記中和用金属塩の含有量は、前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマー中のカルボキシル基に対する金属塩の当量比(金属塩/カルボキシル基)が1.1以下となる量であることが好ましい。また、前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体であることが好ましく、前記4級アンモニウム塩型界面活性剤は、親水基が4級アンモニウムイオンであるカチオン界面活性剤又はベタイン型界面活性剤であることが好ましい。
【0011】
本発明のチューブ状成形品は、上記アイオノマー樹脂組成物が薄肉でも押出成形できることから、肉厚0.01〜0.5mmであってもよい。また、押出成形後に電離放射線を照射して前記アイオノマー樹脂組成物が架橋されたものであってもよい。
【0012】
本発明の熱収縮チューブは、上記本発明のチューブ状成形品を加熱下で径方向に膨張させた後、冷却固定したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のチューブ状成形品は、押出性に優れたアイオノマー樹脂組成物を用いてチューブ状に成形されたもので、薄肉であっても高弾性率である。従って、生産性の低下を招くことなく、高剛性のチューブ状成形品、さらには加熱下で拡径した熱収縮チューブを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のチューブ状成形品は、オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーに、中和用金属塩及び4級アンモニウム塩型界面活性剤を溶融混合してなる、中和度60%以上のアイオノマー樹脂100質量部あたり、有機化クレー1〜85質量部含有するアイオノマー樹脂組成物を、チューブ状に押出成形したことを特徴とする。
【0015】
はじめに本発明のチューブ状成形品に用いられるアイオノマー樹脂組成物について説明する。
本発明で用いられる中和度60%以上のアイオノマー樹脂は、直接、オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基を、4級アンモニウム塩型の界面活性剤の存在下、中和用金属塩で中和することにより製造してもよいし、中和度が60%未満であるオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体由来のアイオノマーのカルボキシル基を4級アンモニウム塩型の界面活性剤の存在下、中和用金属塩で中和することにより製造してもよい。
【0016】
ここで、アイオノマーとは、オレフィン−α,β不飽和カルボン酸の共重合体を金属イオンによって中和したものをいう。オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基が金属イオンとの共存下でカルボン酸金属塩となり、さらに複数のカルボン酸金属塩同士が会合することで、共重合体同士が疑似架橋している。
【0017】
オレフィン−α,β不飽和カルボン酸の共重合体に含まれるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン等の低級オレフィンが挙げられ、好ましくはエチレンである。また、α,β不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸(これらを区別しないときは「(メタ)アクリル酸」という)等が挙げられる。好ましいオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が挙げられる。このような共重合体は、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有するアクリル系モノマー又は無水マレイン酸等の酸無水物モノマーと、エチレンとを、公知の方法で共重合、グラフト重合等することにより得られる。各種特性を向上させる目的で、さらに他のモノマーを適宜共重合してもよい。また、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体として、ニュクレル(商品名)、プリマコール(商品名)などの市販品を用いてもよい。
【0018】
中和度60%未満のアイオノマーとして、市販のアイオノマーまたはアイオノマー樹脂を用いてもよい。市販のアイオノマー又はアイオノマー樹脂の具体例としては、三井デュポンポリケミカル株式会社製のハイミラン1605(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1707(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1706(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミランAM7315(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミランAM7317(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1555(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1557(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、エクソン株式会社製のアイオテック8000(ナトリウムイオン中和エチレン−アクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、デュポン社製のサーリン930(リチウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)などが挙げられる。
【0019】
アイオノマーを構成するカルボキシル基を中和する金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等の1価金属イオン;亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、銅イオン、マンガンイオンなどの2価金属イオン;アルミニウムイオン、ネオジウムイオンなどの3価金属イオンなどが挙げられる。
【0020】
上記金属イオン供給に用いられる金属塩(中和用金属塩)としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、III族、遷移金属等の酸化物、水酸化物、炭酸塩等を使用でき、具体的には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等を例示できる。
【0021】
金属塩の混合量は、中和の対象となるカルボキシル基含有ポリマー(アイオノマー又はオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体)の種類、所望の中和度により適宜決められる。中和の対象となるカルボキシル基含有ポリマー中のカルボキシル基に対する金属塩の当量比(金属塩/カルボキシル基)が1.1以下となる量の金属塩を添加することが好ましい。すなわち、1価の金属イオンを提供する化合物であれば、モル比で、金属塩/カルボキシル基が1.1/1以下となるように、2価の金属イオンを提供する化合物であれば、金属塩/カルボキシル基で0.55/1となるように添加することが好ましい。
【0022】
4級アンモニウム塩型界面活性剤は、疎水基として天然又は合成の長鎖アルキル、ベンジルアルキル等の炭化水素基を有し、親水基として4級アンモニウムイオンを有するカチオン界面活性剤、あるいはベタイン化した両性界面活性剤が挙げられる。
具体的には、ドデシルトリメチル−アンモニウムクロライド、ヤシアルキルトリメチル−アンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチル−アンモニウムクロライド、牛脂アルキルトリメチル−アンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチル−アンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチル−アンモニウムクロライド等のトリメチル型カチオン性界面活性剤;ジデシルジメチル−アンモニウムクロライド、ジ硬化牛脂アルキルジメチル−アンモニウムクロライド、ジオレイルジメチル−アンモニウムクロライド等のジアルキル型カチオン性界面活性剤;ヤシアルキル−ジメチルベンジル−アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジル−アンモニウムクロライド、N,N−ジアシルオキシエステル−N−ヒドロキシエチル−N−メチルアンモニウム−メチルサルフェート、1−メチル−1−ヒドロキシエチル−2−牛脂アルキル−イミダゾニウムクロライド等のベンジル型カチオン性界面活性剤などが挙げられる。また、アルキルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピル−ジメチルアミノ酢酸−ベタイン、パーム核油脂肪酸−アミドプロピルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸−アミドプロピルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチル−イミダゾリウムベタイン等のベタイン型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0023】
このような界面活性剤の共存下では、エチレン−(メタ)アクリル酸等のオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体と中和用金属塩の相溶性が向上するためか、金属塩が有効に中和に働くことができる。この点、界面活性剤の非共存下では、金属塩の添加による中和度の向上効率が低いため、所望の中和度を得るためには、金属塩の添加量を増やす必要があるが、多量の金属を配合すると、カルボキシル基の中和に利用されない金属塩が増えて凝集し、透明性が損なわれるばかりか、弾性率、強度低下ももたらしてしまう。しかし、界面活性剤の共存下では、金属塩/カルボキシル基(当量比)=1.1以下の量の中和用金属塩の添加で、中和度60%以上のアイオノマー樹脂、さらには80%以上のアイオノマー樹脂を得ることができ、弾性率増大を図ることができる。
【0024】
4級アンモニウム塩型界面活性剤の添加量は0.01〜10質量部が好ましい。0.01質量部未満では、中和用金属塩の中和度向上効果が認められない傾向にあり、10質量部を越えると、樹脂組成物中に均一に分散されにくくなって、樹脂組成物中に塊となって存在するおそれがある。
【0025】
従って、本発明で用いられる中和度60%以上のアイオノマー樹脂は、中和度60%未満のアイオノマー(中和度60%未満のアイオノマー樹脂を含む)又はオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体と、中和用金属化合物と、界面活性剤とを所定量づつ配合し、溶融混合することによって、製造することができる。混合温度は、アイオノマー又はオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体が溶融できる温度であればよい。
【0026】
ここで中和度とは、アイオノマー樹脂中のカルボキシル基の中和度をいい、アイオノマー中のカルボキシル基総量に対するイオン化したカルボキシル基(カルボン酸イオン)量の割合であり、赤外吸収スペクトル(IR)測定により求めることができる。カルボキシル基は1700cm−1付近にC=O伸縮吸収ピークを持つが、金属イオンで中和されてカルボン酸イオンとなると、このピークは消失する。また金属イオンで中和されたカルボン酸イオンを強酸である塩酸で処理すると、金属イオンが脱離して元のカルボキシル基に戻り、C=O吸収ピークが復活する。アイオノマー樹脂のC=O伸縮吸収ピークを測定することでイオン化していないカルボキシル基を定量でき、塩酸処理したアイオノマー樹脂のC=O伸縮吸収ピークを測定することで、アイオノマー樹脂全体のカルボキシル基を定量できる。両者を測定することで中和度が求められ、具体的には、以下の式で算出できる。
中和度(%)=(1−P1/P2)×100
P1:アイオノマー樹脂のC=O伸縮吸収ピーク高さ
P2:塩酸処理したアイオノマー樹脂のC=O伸縮吸収ピーク高さ
【0027】
本発明で用いられる有機化クレーとは、モンモリロナイト等の層状珪酸塩(クレー)において、層状に積層した珪酸塩平面の層間に有機化合物がインターカレーションしたものである。層状に積層した珪酸塩平面の間には、ナトリウムイオンやカルシウムイオンのような中間層カチオンが存在して層状の結晶構造を保っている。中間層カチオンを有機カチオンとイオン交換することで、有機化合物が珪酸塩平面の表面に化学的に結合して層間に挿入される。
【0028】
有機化クレーは、層間に有機化合物がインターカレーションすることにより、珪酸塩平面間の層間距離が大きくなり、有機物への分散性が向上する。このような有機化クレーとしては、Nanofil、エスベン等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0029】
層間にインターカレーションされる有機化合物としては塩化ジメチルステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム等の4級アンモニウムイオンが挙げられ、これらのうち、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム又は塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムが、エチレン系アイオノマー樹脂への分散性に優れていて、剛性の改善効果が高いという点から、好ましく用いられる。
【0030】
また、有機化クレー配合による剛性の向上は、エチレン系アイオノマー樹脂との組合わせにおいて顕著にみられる効果である。エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート等、アイオノマー構造を有しないエチレン系樹脂に有機化クレーを分散させても剛性の向上はほとんどみられない。
【0031】
有機化クレーの含有量は、中和度60%以上のアイオノマー樹脂100質量部あたり1〜85質量部であり、好ましくは2〜40質量部である。1質量部未満では、顕著な剛性の向上が認められない。また85質量部を越えると、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、薄肉での押出加工性が急激に悪くなり、汎用の押出設備での加工が困難となる。
【0032】
以上のような組成を有するアイオノマー樹脂組成物は、まず界面活性剤存在下で中和用金属塩を配合して中和度60%以上のアイオノマー樹脂を調製し、そのアイオノマー樹脂に有機化クレーを所定量添加して、溶融混合することによって調製(以下、「バッチ法」という)してもよい。あるいは、中和度60%以上のアイオノマー樹脂を調製する工程で有機化クレーを添加、すなわち、中和度60%未満のアイオノマー若しくはアイオノマー樹脂又はエチレン−α,β不飽和カルボン酸共重合体と中和用金属塩及び界面活性剤とともに、一括して所定量づつ配合した混合物を溶融混合することによって調製してもよい(以下「一括法」という)。好ましくは、中和度60%以上のアイオノマー樹脂をまず調製し、これに有機化クレーを添加するバッチ法である。一括仕込みよりもバッチ仕込みの方が、同じ量の中和用金属塩を添加しても、アイオノマー樹脂の中和度が高くなる傾向にあり、ひいては得られる成形品の弾性率が高くなる傾向にある。換言すると、バッチ法の方が、金属塩による中和作用が有効に働きやすく、同程度の中和度を達成するために必要とする金属塩の添加量が少なくて済み、ひいては透明性に与える影響が少なくて済む。
【0033】
尚、本発明で用いられるアイオノマー樹脂組成物には、界面活性在存在下で中和用金属を溶融混合することにより中和度60%以上としたアイオノマー樹脂、有機化クレーの他、その特性を損なわない範囲で、適宜他のポリマーを添加して、新たな特性を付与してもよい。添加可能な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、無水マレイン酸又はアクリル酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸又はアクリル酸グラフトポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタアクリレート共重合体、エチレン−ブチルメタアクリレート共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリエチレン共重合体、前記ポリエチレン共重合体にもう1成分を加えた、ポリエチレンターポリマー、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、6ナイロンや11ナイロンに代表されるポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテルなどのエンジニアリングプラスチック、熱可塑性エラストマー、生分解性ポリマー、植物由来ポリマーなどが挙げられる。これらのポリマー添加により、ポリマーの種類に応じて、耐薬品性、加工性、耐衝撃性の向上、コストダウンなどを図ることが可能である。
【0034】
他のポリマーを含有する場合、アイオノマー樹脂との相溶性などの点から、他のポリマーは、ポリマー全体の50重量%未満とすることが好ましい。他のポリマーは、中和度60%以上のアイオノマー樹脂を調製した後、有機化クレーとともに、あるいは有機化クレー添加後に配合することが好ましい。
【0035】
本発明で用いられるアイオノマー樹脂組成物には、上記成分の他、さらに必要に応じて、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート等の多官能性モノマーや、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、着色剤、シラン系カップリング剤等の各種添加剤を混合することができる。これらの材料はオープンロール、加圧ニーダー、単軸混合機、2軸混合機等の既知の混合装置を用いて混合することができ、アイオノマー樹脂の融点以上の温度で溶融混合することが好ましい。
【0036】
本発明のチューブ状成形品は、以上のような組成を有するアイオノマー樹脂組成物をチューブ状に押出成形したものである。押出成形に際しては、一旦、アイオノマー樹脂組成物を調製し、所定の組成を有する樹脂ペレットを製造した後、その樹脂ペレットを押出成形機に供することが好ましい。
【0037】
押出機の種類は特に限定せず、スクリュー式、非スクリュー式のいずれもよいが、好ましくはスクリュー式である。
スクリューの種類も特に限定しないが、全長Lとシリンダ孔径Dの比(L/D)は、通常15〜40程度であることが好ましい。またダイス引落し率(DDR)は、特に限定しないが、1〜20程度が好ましい。また、ヒータの温度は、使用するアイオノマー樹脂組成物を均一に溶融できる温度であればよい。
【0038】
本発明でチューブ状成形品の肉厚は、0.01〜0.5mmである。本発明で使用するアイオノマー樹脂組成物は押出性に優れているので、この程度の肉厚のチューブであっても生産性の低下を招くことなく、押出成形することができる。しかも、有機化クレーの配合効果、高中和度に基づいて、薄肉であっても1.2〜5倍程度に拡径した熱収縮チューブとすることができる。
【0039】
本発明のチューブ状成形品は、押出成形後、電離放射線を照射して架橋してもよい。電離放射線の照射により、耐熱性を向上させることができ、また、成形品を溶融しにくくすることができる。さらに、長手方向の収縮が少なくなり、バリア性も向上する。
電離放射線源としては、加速電子線やγ線、X線、α線、紫外線などが挙げられる。線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度等、工業的利用の観点から、加速電子線が最も好ましく利用できる。
【0040】
加速電子線の加速電圧は、チューブの肉厚によって適宜設定すればよい。例えば、厚み50μm〜200μmのチューブでは、加速電圧は50〜300kVの間で選定される。照射線量としては、30〜500kGyで十分な架橋度が得られる。
【0041】
本発明の熱収縮チューブは、上記チューブ状成形品を融点以上の温度に加熱した状態で、チューブ内に圧縮空気を導入する等の方法により、所定の外径に膨張した後、冷却して形状を固定することにより得ることができる。電子線照射により架橋されたチューブ状成形品であっても、架橋後、同様にして熱収縮チューブを得ることができる。架橋された熱収縮チューブは、耐熱性に優れ、ハンダ付け作業などの高温にさらされた場合でも溶融することがない。
【0042】
本発明の熱収縮チューブでは、上記本発明のチューブ状成形品を1.2〜5倍程度に膨張させたものであることが好ましい。本発明の熱収縮チューブは、収縮温度80〜110℃で収縮させることができ、電池等の被包装物を密着包装することができる。
【実施例】
【0043】
本発明を実施するための形態を実施例により説明する。下記実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
〔樹脂ペレットの製造及び評価方法〕
(1)樹脂ペレットの製造方法
二軸混合機(30mmφ、L/D=30)において、バレル温度を指定温度に設定し、スクリュー回転数100rpmで樹脂組成物を溶融混合した後、ストランドカットペレタイザで、ペレットを作成した。
【0045】
(2)中和度
アイオノマー樹脂(又は樹脂組成物)の赤外吸収スペクトルをATR法で測定した。測定誤差を少なくするため、1700cm−1(C=O伸縮)のピーク高さを2915−1(CH伸縮)のピーク高さで割り、規格化した数値をP1とした。また、アイオノマー樹脂(組成物)を塩酸処理した試料についても同様に赤外吸収スペクトルを測定して、P2を求め、以下の式によりアイオノマー樹脂(組成物)の中和度を算出した。
中和度(%)=(1−P1/P2)×100
【0046】
(3)透明性
樹脂ペレットを熱プレス機にて160℃、10分、200N/cmでプレスし、厚み1mmのシートを作製した。尚、シートの厚みは、マノメータで測定した。ランダムに5カ所測定し、その平均値が±0.05mm以内であることを確認した。作製したシートを文字の書かれた書面上に載置して、書面の文字が確認できるかどうかを目視で判定した。文字を確認できる場合を「○」、確認できない場合を「×」とした。
【0047】
(4)押出性
単軸押出機(径25mm、L/D=24)を用いて、押出線速40m/分、DDR=1〜20のチュービングダイを用いて、内径15mm、肉厚20μmのチューブ状成形品を安定して作製可能な材料を「○」、被覆破れがまれに起る材料を「△」、作製不可能な材料を「×」とした。
【0048】
〔チューブ状成形品及び熱収縮チューブの作製及び評価方法〕
(1)熱収縮チューブの作製
アイオノマー樹脂組成物を、単軸溶融押出機(45mmφ、L/D=24)を用いて、押出線速度40m/分、DDR=1〜20のチュービングダイを用いて、内径10mm、肉厚80μmのチューブ状成形品(押出チューブの内径B=10mm)を得た。得られたチューブ状成形品に、加速電圧300kVの加速電子線を200kGyを照射した。電子線照射したチューブを約1m長に切断し、片端は、ホースを介して、減圧弁つきの窒素ボンベに接続してチューブ内を加圧できるようにした。このチューブを内径20mm、長さ90cmのアルミパイプに挿入し、140℃の恒温槽内で5分間予熱した後、圧縮空気をチューブ内部に導入して、チューブ外周面が上記アルミパイプに貼着するまで膨張させた後、圧縮空気を導入した状態のままアルミパイプごと水槽で冷却して、架橋タイプの熱収縮チューブ(内径C=20mm)を得た。
【0049】
(2)弾性率
作成した熱収縮チューブを10cm長さに切断し、引張り速度=100mm/分、標線間距離=20mmで引張り試験を行ない、応力−伸び曲線から弾性率を求めた。
【0050】
(3)熱収縮チューブの収縮温度
作製した熱収縮チューブ(内径C=20mm)を、50℃のギヤオーブン中に3分間放置して、チューブ内径を測定する。その後、10℃ずつ温度を上昇させて3分間放置し、内径(A)を測定する。
収縮率(%)=100×(1−(A−B)/(C−B))
A:加熱後の内径(mm)
B:押出チューブの内径(10mm)
C:熱収縮チューブの内径(20mm)
上式で定義される収縮率が80%になる温度を収縮温度を測定した。収縮温度が110℃以下のものは良好と判定できる。
【0051】
(4)外観
押出直後に得られたチューブ状成形品の径変動や成形品表面のメルトフラクチャが存在しないものを良好とした。
【0052】
(5)耐電解液性
熱収縮チューブをプロピレンカーボネートに室温で1日浸漬した後、重量増加率を測定した。同様の操作をジエチルカーボネートについても行なった。いずれの液に対しても重量増加率10%未満のものを良好とした。
【0053】
〔チューブ状成形品No.1〜8の製造及び評価〕
上記方法に基づいて、表1に示す組成を有するアイオノマー樹脂組成物の樹脂ペレットを製造し、この樹脂ペレットを用いて中和度を測定した。尚、樹脂組成物の調製にあたっては、No.1、3では、まずアイオノマーと4級アンモニウム塩型界面活性剤、中和用金属塩を溶融混合して、所定の中和度のアイオノマー樹脂を調製した後、有機化クレーを添加して再度混練することにより行ない(バッチ法)、No.2、4〜8では、カルボキシル基含有ポリマー(EMAA)、アンモニウム塩、中和用金属塩、酸化防止剤、有機化クレーをすべて所定量配合した後、指定温度で混練することにより調製した(一括法)。
【0054】
製造した樹脂ペレットを用いて、上記測定評価方法に基づいて、中和度、押出性を測定し、さらに上記方法によりシートを成形して、透明性を評価した。次いで、上記製造方法に基づいて、各樹脂組成物を用いてチューブ状成形品を製造し、得られた成形品の外観を観察した後、熱収縮チューブを製造して、弾性率、耐電解液性、収縮温度を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1中、組成物調製に使用した成分は下記の通りである。
(1)アイオノマー(樹脂):ハイミラン1706(三井デュポンポリケミカル(株)製のエチレン系アイオノマー樹脂である)
(2)EMAA:ニュクレルN1525(三井デュポンケミカル(株)製のエチレン−メタクリル酸共重合体)
(3)ZnO:ハクスイテック(株)製の亜鉛華1種
(4)Mg(OH):平均粒径0.8μm、合成水酸化マグネシウム
(5)アンモニウム塩A1:ニッサンカチオンBB(日油化学(株)製のドデシルトリメチルアンモニウムクロライド30質量%水溶液)
(6)アンモニウム塩A2:ニッサンアノンBF(日油化学(株)製のアルキルジメチルアミノサクベンタイン25質量%水溶液)
(7)有機化クレー:ホージュン株式会社製のエスベンN400(インターカレーション用有機化合物が塩化ジメチルジステアリルベンジルジメチルステアリルアンモニウムのクレー)
(8)酸化防止剤:チバスペシャリティケミカルズ株式会社製のイルガノックス1010
【0057】
No.1〜5はいずれも中和度60%以上のアイオノマー樹脂を含有する組成物を用いたチューブである。中和度60%未満のアイオノマー樹脂に有機化クレーを含有させただけのアイオノマー樹脂組成物を用いて製造したチューブ(No.6)と比べて高弾性率であった。また、No.7、8は、中和用金属塩を添加して、中和度60%以上としたアイオノマー樹脂組成物を用いたチューブであるが、中和用金属塩を界面活性剤の非共存下で添加した場合であり、中和度60%未満のNo.6よりも弾性率が向上していたが、界面活性剤存在下で添加した場合(No.1〜5)ほどの改善は認められなかった。また、界面活性剤非共存下で中和用金属を添加することにより中和度を上げたNo.7、8では、透明性が劣り、金属イオンが均一に分散しない金属イオンが凝集して、ブツとなって現われているのが認められた。
さらに、収縮温度に関しても、界面活性剤存在下で中和用金属を添加したアイオノマー樹脂組成物で構成されるNo.1〜5のチューブの方が、界面活性剤の非共存下で中和用金属を添加したNo.7,8のチューブの収縮温度よりも低かった。従って、No.1〜5の熱収縮チューブの方が汎用性に優れているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のアイオノマー樹脂製チューブは、押出性、透明性の低下を招くことなく、弾性率の向上を図ったもので、高弾性、生産性が要求されるアイオノマー樹脂製の薄肉チューブを効率よく押出成形できることから、耐薬品性、小型化などが要求される小型製品の収縮包装用チューブとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーに、中和用金属塩及び4級アンモニウム塩型界面活性剤を溶融混合してなる、中和度60%以上のアイオノマー樹脂100質量部あたり、有機化クレー1〜85質量部含有するアイオノマー樹脂組成物を、チューブ状に押出成形してなるチューブ状成形品。
【請求項2】
前記中和用金属塩の含有量は、前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマー中のカルボキシル基に対する金属塩の当量比(金属塩/カルボキシル基)が1.1以下となる量である請求項1に記載のチューブ状成形品。
【請求項3】
前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体である請求項1又は2に記載のチューブ状成形品。
【請求項4】
前記4級アンモニウム塩型界面活性剤は、親水基が4級アンモニウムイオンであるカチオン界面活性剤又はベタイン型界面活性剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載のチューブ状成形品。
【請求項5】
肉厚0.01〜0.5mmである請求項1〜4のいずれか1項に記載のチューブ状成形品。
【請求項6】
前記アイオノマー樹脂組成物が電離放射線照射により架橋されている請求項1〜5のいずれか1項に記載のチューブ状成形品。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のチューブ状成形品を加熱下で径方向に膨張させた後、冷却固定した熱収縮チューブ。

【公開番号】特開2009−197089(P2009−197089A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38573(P2008−38573)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】