説明

チロシナーゼ活性調整剤、その製法、及びそれを含有する外用剤

本発明は、チロシナーゼ阻害活性又は促進活性を有する化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性調整剤及び該活性調整剤を含む外用剤、また該化合物の製造方法を開示するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、チロシナーゼ阻害活性又は促進活性を有する化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性調整剤及び該活性調整剤を含む外用剤に関する。また、該化合物の製造方法に関する。
詳しくは、本発明は、チロシナーゼ阻害活性を有する新規アルブチンエステル化合物、該化合物を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤及び該阻害剤を含む外用剤に関する。また、本発明は、ウンデシレン酸又はその塩或いはそのエステル誘導体を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤および該阻害剤を含む外用剤に関する。また、本発明は、アスコルビン酸又はその誘導体を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤並びに該チロシナーゼ活性促進剤を含有する外用剤に関する。また、本発明は、該チロシナーゼ阻害剤又は促進剤の有効成分となり得る化合物の製造に適した酵素によるエステル化物の製造方法に関する。
【背景技術】
チロシナーゼの阻害活性を有する化合物として、アルブチンやコウジ酸などの天然物が化粧品などの分野において美白剤としてよく用いられている(例えば、薬学雑誌、112(4)、pp.276−282、1992、薬学雑誌、115(8)、pp.626−632、1995、バイオインダストリー、11(4)、206、1994、及びBiosci.Biotech.Biochem.、61、11、pp.1926−1928、1997参照)。しかしながら、化粧品などの皮膚外用剤として用いる場合には、親水性が高く、皮膚吸収性が悪いなどの欠点があり、疎水性を高めたアルブチン誘導体や他の化合物の開発が望まれていた。アルブチン誘導体としては、脱色剤としてアルブチンのフェノール部分をエステル化した化合物が知られている(特開平11−71225号公報)。また、脱色化粧料として、アルブチンの6位をヒドロキシエステル化した化合物が知られている(特開平5−194181号公報)。さらに、リパーゼによるアルブチンとケイ皮酸ビニルのエステル交換反応によって、アルブチンの6位が位置選択的にエステル化された化合物も報告されている(バイオサイエンス バイオテクノロジー アンド バイオケミストリー(Bioscience Biotechnology and Biochemistry)、61、11、pp.1926−1928、1997)。しかしながら、アルブチン誘導体のチロシナーゼ阻害作用又はそれに起因する美白効果については明確になっておらず、未だ満足のいく誘導体は得られていなかった。
ウンデシレン酸は炭素数11の不飽和脂肪酸であり、人の皮膚に含まれる成分であって、皮膚の清浄作用の主役を努めている。工業的にはひまし油の熱分解で得られる。ウンデシレン酸、その塩又はその誘導体は、抗真菌作用が知られており、皮膚洗浄料として使用し得ることが報告されている(特開2002−114669号公報)。また最近では、トレハロースエステルが化粧品素材として開発されている(特開2001−278752号公報及び特開平5−137994号公報)。しかしながら、ウンデシレン酸またはその塩、或いはそのエステル誘導体のチロシナーゼ阻害作用についてはこれまでにまったく知られていなかった。
一方、老化現象の一つである白髪の発生メカニズムについては、メラニン色素が角化細胞に転送されなくなることにより生じることが知られている。このため、白髪防止剤の開発を目的として、チロシナーゼの活性促進成分やメラニン産生促進成分の検索が主になされてきた。具体的には、天然物等の抽出液や各種物質の白髪防止作用を探索することあるいは種々の化合物を有効成分として用いることなどが試みられてきた。例えば、メラニン生成促進剤として、ω−アルコキシカルボニルアルキルアンモニウム及び/又はその塩、ω−アルコキシカルボニルアルキルトリアルキルアンモニウム及び/又はその塩が有効であることが提案されている(特開平7−316048号公報)。また、アデノシン誘導体(特開平6−305940号公報)やジヒドロペオール誘導体(特開2002−3381号公報)が提案されている。しかしながら、これらの化学物質は、安全性の点で不安がある。また、オウレンの水又はエタノール抽出物を有効成分とする白髪防止剤が提案されている(特開平5−78222号公報)。また、コックル、ミドリガイ、カキ等の貝類のエッセンスからなるメラニン生成促進剤が提案されている(特開平7−285874号公報)。また、スギナ、スイカズラ、ヒキオコシ、ブドウ、ヘチマ、セイヨウニワトコ、ブッチャーブルーム及びタイソウから選ばれる1種若しくは2種以上、又はその抽出物を有効成分とする白髪防止剤が提案されている(特開平11−124318号公報)。また、シメジ科、ハリタケ科、サルノコシカケ科、カンゾウタケ科、キコブタケ科、ノボリリュウ科、モエギタケ科及びハラタケ科からなる群より選択される担子類の培養液又は菌体の抽出液群のメラニン生成亢進成分の1種又は2種以上を配合した頭髪料が提案されている(特開平7−316026号公報)。また、ピパーメチシクム及び/又は抽出物がメラニン産生促進効果を発揮することが提案されている(特開平11−189541号公報)。更に、ウブゲグサ属、アミジグサから選択される1種又は2種以上の海藻の抽出物(特開平10−330218号公報)、オタネニンジン、田七人参、タンジン、ユッカ、ビワ、キンギンカ、サルサから選ばれる1種又は2種以上の抽出物(特開2001−288098号公報)、イチジク若しくはクワ又はそれらの抽出物(特開2002−47130号公報)がメラニン産生促進効果を有することが確認されている。しかし、植物や動物成分の抽出物は、原料入手が困難であるため、その製造に制約があり、また原料の含有量も一定でなく、性能も不安定であった。そのため、十分なチロシナーゼ活性促進効果やメラニン産生促進効果を有する化合物の開発が望まれていた。
一方、上記に挙げられるようなエステル化合物の製造に適用し得る酵素的エステル化反応は、原料が疎水性のアルコールと脂肪酸の場合には、食品工業で既に実用化されている技術である(バイオインダストリー、19、p.62−71(2002))。しかし、親水性で、疎水性の有機溶媒には溶けにくい化合物を原料に用いる場合、収量が低く、実際の製造には使用しにくい反応であった。例えば、有機溶媒に対して可溶性の酵素を用いて、オクタンやヘキサン等の有機溶媒中で、ショ糖エステルを製造する方法が報告されている(特開平8−245680号公報)。しかし、それらの溶媒にはショ糖が溶けにくいため、収率は高くない。一方、糖質やプリンヌクレオシドなどが高い溶解性を示す溶媒としては、DMSOやDMFがある。例えばショ糖は、DMSOに対しては約40%の濃度で溶解する(アドバンス オブ カーボハイドレート ケミストリー アンド バイオケミストリー、27、p.85−125(1972))。また、プリンヌクレオシド、例えばグアノシンは、DMSOを50%以上含むDMF中で溶ける。しかし、DMFやDMSOのような非プロトン性有機溶媒を用いると、一般的に加水分解酵素は失活しやすくなり、反応が困難になると考えられていた(特開平9−271387号公報及び特開平8−9987号公報参照)。従って、親水性の化合物が高い溶解性を有する溶媒中でも高い活性を有する酵素が求められていた。これまでにDMFなどの溶媒で活性を有するものとして、バチルス属由来やストレプトマイセス属由来のプロテアーゼは見出されている(ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティ、110、p.584−589(1988))。しかし、糖類やヌクレオシドが可溶な溶媒中で高い活性を保持する他の酵素は、これまでに知られていなかった。
【発明の開示】
本発明は、チロシナーゼ阻害活性又は促進活性を有する化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性調整剤及び該活性調整剤を含む外用剤、並びに該化合物の製造に適用し得るエステル化物の製造方法に関する。
以下、本発明の内容について、詳細に説明する。
I.本発明の第1の好ましい実施形態としては、チロシナーゼ阻害活性がアルブチンに比べて有意に高く、かつ、皮膚吸収性の向上したアルブチンエステル化合物及びその製造方法が提供される。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アルブチンの6位に疎水性置換基を導入することにより、阻害活性がアルブチンに比べて高まることを見出し、更に検討を重ねて本発明を開発するに至った。
即ち、本発明には、以下のアルブチンエステル化合物、チロシナーゼ活性阻害剤、外用剤及びアルブチンエステル化合物の製造方法が含まれる。
1−1.一般式(1)で表されるアルブチンエステル化合物。

[式中、Raは疎水性基を示す。]
1−2.一般式(2)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
1−3.一般式(3)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
1−4.一般式(4)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
1−5.一般式(5)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。


[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
1−6.一般式(6)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。Rはアルキル基、又はアリール基を示す。]
1−7.一般式(7)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、R、R、R、Rはそれぞれ単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。Xは1〜6の繰り返し単位を示す。]
1−8.一般式(8)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。


[式中、R単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
1−9.一般式(9)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
1−10.一般式(10)で表される1−1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
1−11.1−1〜1−10のいずれかに記載のアルブチンエステル化合物の1種又は2種以上を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
1−12.1−11に記載のチロシナーゼ阻害剤を含有する皮膚外用剤。
1−13.下記一般式(11)〜(19)のいずれかで表されるカルボン酸類と、アルブチンとを、エステル化反応させる工程を有するアルブチンエステル化合物の製造方法。好ましくは、下記一般式(11)〜(19)のいずれかで表されるカルボン酸類と、アルブチンとを、エステル化反応させる工程を有する、一般式(1)〜(10)で表されるアルブチンエステル化合物の製造方法。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換アルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは、単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。Rはアルキル基、又はアリール基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。R、R、R、Rはそれぞれ単結合、アルキレン基又はアリーレン基を示す。Xは1〜6の繰り返し単位を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
1−14.酵素触媒存在下でエステル化反応させる1−13に記載のアルブチンエステル化合物の製造方法。
1−15.化学触媒存在下でエステル化反応させる1−13に記載のアルブチンエステル化合物の製造方法。
1−16.エステル化反応させる工程が、脱水処理を行いながらエステル化反応させる工程である1−13〜1−15のいずれかに記載のアルブチンエステル化合物の製造方法。
1−17.エステル化反応工程後、エステル化反応液中の未反応カルボン酸誘導体を、非極性有機溶媒を用いて抽出して分離する工程、次いで、過剰の水を加えて未反応アルブチンを抽出して分離するともにアルブチンエステル化合物を沈殿させる工程を有する1−13〜1−16のいずれかに記載のアルブチンエステル化合物の製造方法。
以下、本発明の第1の実施形態について更に詳しく説明する。
本発明におけるアルブチンエステル化合物は、アルブチンの6位に疎水性基を導入した化合物である。具体的には、一般式(1)〜(10)で表される化合物である。
本発明のアルブチンエステル化合物は、アルブチンとカルボン酸類をエステル化反応させることによって製造することができる。ここでカルボン酸類とは、カルボン酸、ジカルボン酸又はそれらの誘導体をいう。
以下、アルブチンエステル化合物の製造について具本的に示す。
一般式(2)の化合物
一般式(2)の化合物は、アルブチンに、下記一般式(11)のカルボン酸又はその誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
アルキレン基の炭素数は1〜16、好ましくは2〜8であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
一般式(11)で表されるカルボン酸誘導体としては、例えば、アクリル酸誘導体、10−ウンデシレン酸誘導体を挙げることができる。
一般式(3)の化合物
一般式(3)の化合物は、アルブチンに下記一般式(12)のカルボン酸又はその誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
アルキレン基の炭素数は1〜16、好ましくは2〜8であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
一般式(12)で表されるカルボン酸誘導体としては、例えば、メタアクリル酸誘導体を挙げることができる。
一般式(4)の化合物
一般式(4)の化合物は、アルブチンに下記一般式(13)のカルボン酸又はジカルボン酸誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
アルキレン基の炭素数は1〜16、好ましくは2〜8であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
一般式(13)で表されるジカルボン酸誘導体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、又は(オルト、メタ、パラ)フタル酸等のジカルボン酸から誘導される化合物、例えばアジピン酸ジビニルを挙げるこどができる。
一般式(5)の化合物
一般式(5)の化合物は、アルブチンに下記一般式(14)のジカルボン酸又はその誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
アルキレン基の炭素数は6〜21、好ましくは8〜12であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
一般式(14)で表されるジカルボン酸誘導体としては、具体的には、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、又は(オルト、メタ、パラ)フタル酸等のジカルボン酸又はそれらジカルボン酸から誘導される化合物を挙げることができる。
一般式(6)の化合物
一般式(6)の化合物は、アルブチンに、下記一般式(15)のカルボン酸又はジカルボン酸誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。Rはアルキル基、又はアリール基を示す。]
アルキレン基の炭素数は1〜16、好ましくは2〜8であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
はアルキル基、アリール基を示す。アルキル基の炭素数は1〜16、好ましくは2〜8である。具体的には、メチル、エチル等の直鎖のアルキル基、イソプロピル基等の分岐鎖を有するアルキル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基等を挙げることができる。
一般式(15)で表されるジカルボン酸誘導体としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、又は(オルト、メタ、パラ)フタル酸等のジカルボン酸から誘導される化合物を挙げることができる。
一般式(7)の化合物
一般式(7)の化合物は、アルブチンに下記一般式(16)のカルボン酸又はその誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。R、R、R、Rはそれぞれ単結合、アルキレン基又はアリーレン基を示す。Xは1〜6の繰り返し単位を示す。]
アルキレン基の炭素数は1〜21、好ましくは2〜8であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
一般式(16)で表されるカルボン酸又はその誘導体としては、具体的には、デセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘプタデセン酸、ヘプタデカジエン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、γ?リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコセン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ドコセン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、テトラコセン酸又は該カルボン酸から誘導される化合物を挙げることができる。
一般式(8)の化合物
一般式(8)の化合物は、アルブチンに下記一般式(17)のカルボン酸又はその誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
アルキレン基の炭素数は1〜16、好ましくは2〜8であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
一般式(17)で表されるカルボン酸誘導体としては、具体的には、ピバリン酸から誘導される化合物等を挙げることができる。
一般式(9)の化合物
一般式(9)の化合物は、アルブチンに下記一般式(18)のカルボン酸又はその誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
アルキレン基の炭素数は1〜16、好ましくは2〜8であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
一般式(18)で表されるカルボン酸誘導体としては、具体的には、ベンゾイル酸から誘導される化合物を挙げることができる。
一般式(10)の化合物
一般式(10)の化合物は、アルブチンに下記一般式(19)のカルボン酸又はその誘導体を反応させることによって合成することができる。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
アルキレン基の炭素数は1〜16、好ましくは2〜8であって、その形状は直鎖状、分岐状、環状など特に限定されない。具体的には、メチレン、エチレン等の直鎖のアルキレン基、エチルエチレン、イソプロピレン等の分岐鎖を有するアルキレン基等を挙げることができる。アリーレン基としてはフェニレン基等を挙げることができる。
一般式(19)で表されるカルボン酸としては、具体的には、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸から誘導さる化合物を挙げることができる。
上記の方法において、アルブチンと、一般式(11)〜(19)で表される化合物とのエステル化反応は、酵素触媒存在下又は化学触媒存在下で行うことが好ましい。
酵素触媒としては、例えば、リパーゼ、プロテアーゼ、エステラーゼ等、従来公知のものを使用することができる。より具体的には、シュードモナスセパシア(Pseudomonas cepacia)由来のリパーゼ、カンジダアンタクティカ(Candida anterctica)由来のリパーゼ、バチルスサブチリス(Bacillus subtilis)由来のプロテアーゼやストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.) 由来のプロテアーゼ等を挙げることができる。このうち特にカンジダアンタクティカ(Candida anterctica)由来のリパーゼ、バチルスサブチリス(bacillus subtilis)由来のプロテアーゼを用いることが好ましい。
化学触媒としては、例えば、酸、アルカリ、ピリジン誘導体等の従来公知のものを使用することができる。より具体的には、p−トルエンスルホン酸、ナトリウムアルコキシド、チタニウムアルコキシド、ジメチルアミノピリジン、塩酸、硫酸、酢酸亜鉛、ピリジン、4−ピロリジノピリジン、ジシクロヘキシルカルバミン等を挙げることができる。
上記の方法においては、酵素触媒存在下にエステル化反応させる方法が、アルブチンの6位に対する選択性に優れる点から、好適である。特にカンジダアンタクティカ(Candida anterctica)由来のリパーゼやバチルスサブチリス(bacillus subtilis)由来のプロテアーゼを用いる反応が好ましい。
前記のような酵素触媒を用いてアルブチンエステルを製造する場合、反応温度は0〜100℃、好ましくは30〜50℃である。反応時間は、1〜340時間、好ましくは24〜170時間である。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、アセトン、ジオキサン等を単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。また、原料となるカルボン酸、ジカルボン酸又はそれらの誘導体自体を溶媒として使用することも可能である。反応溶媒中のアルブチンの濃度は1〜40重量%、好ましくは1〜10重量%である。また、酵素の使用割合は、反応溶媒に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。また、アルプチン1モルに対して、カルボン酸、ジカルボン酸又はそれらの誘導体を0.5〜10モル、好ましくは、1〜5モル程度使用するのが好ましい。
一方、化学触媒を用いてアルブチンエステルを製造する場合、反応温度は0〜100℃、好ましくは40〜50℃である。反応時間は、1〜48時間、好ましくは1〜24時間である。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、アセトン、ジオキサンを単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。反応溶媒中のアルブチンの濃度は1〜40重量%、好ましくは1〜10重量%である。また、化学触媒の使用割合は、反応溶媒に対して、0.1〜5重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。また、アルブチン1モルに対して、カルボン酸、ジカルボン酸又はそれらの誘導体を0.5〜10モル、特に、1〜5モル程度使用するのが好ましい。
本発明においては、原料に用いるカルボン酸類として、末端に遊離のカルボキシル基を有する化合物を用いることが好ましい。末端に遊離のカルボキシル基を有する化合物は安価であり、また、エステル化反応において、副生してくる物質が水である、という利点がある。原料にエステル化合物等を用いる場合には、反応中に着色物質が生成しやすく、カラム処理などの精製処理が必要であるが、原料として末端に遊離のカルボキシル基を有する化合物を用いる場合には、このような問題がない。
原料として末端に遊離のカルボキシル基を有する化合物を用いて、アルブチンとエステル化反応させると、水が副生してくるが、エステル化反応は可逆的な反応であるので、効率的にエステル化反応を行うために、脱水処理を行いながら反応を行うことが好ましい。脱水処理の方法は特に限定されず、従来公知の方法等を適宜用いることができる。例えば、減圧により脱水処理を行う方法、乾燥した不活性ガスを通気させて脱水処理を行う方法、モレキュラーシーブスなどの無機化合物に水を選択的に吸着させて脱水処理を行う方法などを例示するこができる。反応スケールが小さい場合にはモレキュラーシーブスを用いて脱水処理を行う方法が簡単であり、好ましい。モレキュラーシーブスの形状は特に限定されるものではなく、例えば粉末、ペレット状のものなどを用いることができる。モレキュラーシーブスの使用量は反応液に対して0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%である。
これらの反応後、従来公知の適当な分離精製処理を施して、反応生成物から、アルブチンの6位に疎水性基が導入された化合物を分離することによって、本発明のアルブチンエステル化合物を取得することができる
分離精製手段としては、例えば、高速液体クロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィーのような公知のクロマトグラフィー手段を用いることができる。カラムの種類や移動相溶媒等の条件は適宜選択することができる。
また、溶液抽出や溶解性に基づく分別沈殿などの分離手段も用いることができる。例えば、非極性有機溶媒を用いてエステル化反応液中の未反応カルボン酸誘導体を抽出、分離した後、過剰の水を加えて未反応アルブチンを抽出、分離するともにアルブチンエステル化合物を沈殿させ、必要に応じ、これらの抽出、分離及び沈殿を行う工程を繰り返した後、沈殿したアルブチンエステル化合物を回収することによって本発明のアルブチンエステル化合物を取得することができる。
非極性溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、エチルエーテル、石油エーテル等が挙げられる。中でも、シクロヘキサンが好ましい。
過剰の水とは、原料のアルブチン化合物に対して重量で20倍程度である。
上記のようにして得られる一般式(1)〜(10)で表されるアルブチンエステル化合物を有効成分として用いることによりチロシナーゼ阻害剤を得ることができる。
該チロシナーゼ阻害剤において、上記一般式(1)〜(10)で表されるアルブチンエステル化合物は、1種単独で用いてもよく、また2種以上の混合物として用いてもよい。
チロシナーゼ阻害剤は、該一般式(1)〜(10)で表されるアルブチンエステル化合物をそのまま用いて又は適当な担体と混合して、公知の方法に従って製剤化することにより得ることができる。
本発明のチロシナーゼ阻害剤は、化粧料、皮膚外用剤、医薬、食品、魚介類養殖用飼料等に配合したり、食品の処理に使用したりすることができる。例えば化粧料に配合して美白作用を有する化粧品とすることができる。また、メラニンの生成による変色を起こしやすい食品の変色防止等のため、その食品に添加したり、表面処理に使用したりすることができる。
また、該チロシナーゼ阻害剤を含有させて外用剤とすることもできる。特に、皮膚外用剤、好ましくは美白用の皮膚外用剤として、好適に用いることができる。
本発明の皮膚外用剤においては、上述の一般式(1)〜(10)で表されるアルブチンエステル化合物を1種単独で又は2種以上混合して配合することができる。
外用剤は、上記チロシナーゼ阻害剤を適当な担体と混合し、公知の方法に従って製造することにより得ることができる。
外用剤には、他に一般に用いられる各種成分、例えば、水性成分、粉末成分、保湿剤、界面活性剤、防腐剤、増粘剤、紫外線吸収剤及び香料等を配合することができる。
外用剤の剤型としては、例えば、軟膏剤、クリーム、乳液、リニメント剤及びローション剤等を挙げることができる。
上記外用剤において、アルブチンエステル化合物の含有割合は、チロシナーゼ阻害効果を奏する有効量程度である。その含有割合は、外用剤全体に対し、0.001〜10%重量%程度、好ましくは、0.005〜5重量%程度である。
外用剤の適用方法は、例えば、顔、首、腕及び手等のシミ、ソバカス等のでき易い部位もしくは患部、日焼けし易い部位もしくは日焼けした部位等に、1日1回〜数回、適当量塗布すれば良い。
本発明に係るアルブチンエステル化合物は、疎水性基を導入することで皮膚吸収性が向上しており、アルブチンと比較してチロシナーゼ阻害活性が顕著に高められている。更に、本発明に係るアルブチンエステル化合物は、糖エステル構造に基づくと考えられる幅広い抗菌作用、フェノール性水酸基に基づくと考えられるラジカル消去能、並びにエステル部の疎水性とアルブチン部の親水性に基づくと考えられる界面活性作用も有する。
これらの性質により、本発明のアルブチンエステル化合物は、チロシナーゼ阻害剤、又は皮膚外用剤などの有効成分として、化粧品や医薬分野において有効に利用することができる。
II.本発明の第2の好ましい実施形態としては、ウンデシレン酸またはその塩、或いはその誘導体を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤、又該チロシナーゼ阻害剤を含有する外用剤、特に、チロシナーゼ阻害剤を含有する美白化粧料が提供される。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ウンデシレン酸またはその塩、あるいはウンデシレン酸の糖エステルがチロシナーゼ阻害活性を有することを見出し、更に検討を重ねた。
本発明には、以下のチロシナーゼ阻害剤及び外用剤が含まれる。
2−1.下記一般式(20)

[式中、Rbは水素または一個の水酸基を除いた糖残基を示す。]
で表されるウンデシレン酸またはその塩あるいはそのエステル誘導体からなるチロシナーゼ阻害剤。
2−2.Rbが一個の水酸基を除いた糖残基である2−1に記載のチロシナーゼ阻害剤。
2−3.Rbが水素であるウンデシレン酸またはその塩からなる2−1に記載のチロシナーゼ阻害剤。
2−4.2−1〜2−3のいずれかに記載のチロシナーゼ阻害剤を含む外用剤。
2−5.外用剤が美白化粧料である2−4に記載の外用剤。
以下、本発明の第2の実施形態について更に詳しく説明する。
ウンデシレン酸またはその塩、あるいはその誘導体
ウンデシレン酸またはその塩は公知物質である。
ウンデシレン酸の塩としては、ウンデシレン酸のナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、銅、ジエタノールアミン、アンモニウム、ジメチルアミン、トリメチルアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、ステアリルジメチルアミンなどの塩が挙げられる。
これらの塩は、ウンデシレン酸とアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、その他の金属酸化物ないし各種アミンを、水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなど)、THF、エーテル、アセトニトリルなどから選ばれる1種以上の溶媒中で混合することにより調製することができる。
Rbは、水素、又は一個のの水酸基を除いた糖残基を示す。Rbが糖残基である場合、Rb−OHは、単糖、二糖、三糖または糖アルコールなどの糖化合物を示す。
Rb−OHで表される糖としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、リボース、アラビノース、キシロース、ラムノース等の単糖類、マルトース、ラクトース、イソマルトース、セルビオース、ゲンチオビオソース、スクロース、トレハロース、イソコージビオース、ラミナリビオース、ニゲロース、サンブビオース、ネオヘスペリドース等の二糖類、マルトトリオース、イソマルトトリオース、セロトリオース、ラフィノース及びゲンチオトリオース等の三糖類、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールおよびイノシトールなどの糖アルコールが挙げられる。好ましい糖としては、スクロース、トレハロースが挙げられる。
本発明のウンデシレン酸エステルは、特開2000−65290号公報に記載の方法に従い、酵素触媒の存在下、ウンデシレン酸メチルエステル、ウンデシレン酸エチルエステルなどのエステルを糖残基と反応させて、エステル交換することにより、得ることができる。
触媒として用いられる酵素としては、バチルス属由来のアルカリ性プロテアーゼ、カンジダアンタクティカ(Candida anterctica)由来のリパーゼなどが挙げられる。
上述のウンデシレン酸またはその塩、或いはそのエステル誘導体からなる群から選ばれるいずれかの化合物、またはそれらの2種以上の混合物を有効成分として用いることにより、チロシナーゼ阻害剤を得ることができる。
チロシナーゼ阻害剤は、ウンデシレン酸又はその塩あるいはそのエステル誘導体の1種または2種以上を、そのまま用いて又は適当な担体と混合して、公知の方法に従って製剤化することにより得ることができる。
また、チロシナーゼ阻害剤は、美白化粧料、医薬、食品、魚介類養殖用飼料等に配合したり、食品の処理に使用したりすることができる。すなわち、チロシナーゼ阻害によってメラニンの生成を抑制することから、化粧料に配合して美白作用を有する化粧品などにすることができる。また、メラニンの生成による変色を起こしやすい食品の変色防止等のため、その食品に添加したり表面処理に使用したりすることができる。ウンデシレン酸は皮膚に本来含まれる成分であり、その安全性は確立されており、ウンデシレン酸またはその塩を有する食品を摂取することにより、安心して皮膚の美白効果を期待することができる。
上述の一般式(20)で表されるウンデシレン酸またはその塩あるいはウンデシレン酸糖エステル誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤を含有させて外用剤とすることもできる。
外用剤は、皮膚外用剤、特に美白化粧料として好適に用いることができる。外用剤は、公知の製剤技術を用いて製造することができる。
また、外用剤には、他に一般に用いられる各種成分、例えば、水性成分、粉末成分、保湿剤、界面活性剤、防腐剤、増粘剤、紫外線吸収剤及び香料等を配合することができる。
外用剤に配合されるウンデシレン酸またはその塩あるいはウンデシレン酸糖エステルの含有割合は、チロシナーゼ阻害効果を奏する有効量程度である。その含有割合は、外用剤全体に対し、通常0.001〜10重量%、好ましくは0.005〜5重量%、より好ましくは0.01〜3重量%、特に好ましくは0.1〜1重量%程度である。
外用剤の形態は特に限定されず、例えば、軟膏、クリーム、乳液、リニメント剤及びローション剤等の形態に調製され得る。
本発明の外用剤の適用方法は、適宜設定し得るが、例えば、顔、首、腕及び手等のシミ、ソバカス等のでき易い部位もしくは患部、日焼けのし易い部位もしくは日焼けした部位に、1日1回〜数回、適当量塗布すれば良い。
本発明は、ウンデシレン酸と二糖のエステル体が、チロシナーゼ阻害活性をアルブチンと異なる作用で顕著に高めることを見出し、該作用によるチロシナーゼ阻害剤を提供するものである。すなわち、本発明において、チロシナーゼ作用は、モノフェノールの1,2−ジフェノール(カテコール)への水酸化作用とカテコールのo−キノンへの酸化反応を触媒しているが、アルブチンは前者のモノフェノールの水酸化反応を効率的に阻害し、ウンデシレン酸糖エステルは後者のカテコールへの酸化反応を阻害することにより、アルブチンとは異なるメカニズムでチロシナーゼを阻害していることが見出された。具体的には、図6に示されるようにアルブチンはフェノール基質の方をよく阻害しているのに対し、図5に示されるようにウンデシレン酸糖エステルはカテコール基質、フェノール基質を共に阻害している。これらのメカニズムを図示すると図9のようになる。
このような作用により、本発明におけるウンデシレン酸又はその塩あるいはエステル誘導体を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤は、外用剤、特に皮膚外用剤や美白化粧料として、化粧品や医薬分野において有効に利用することができる。
III.本発明の第3の好ましい実施形態としては、アスコルビン酸又はその誘導体を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤、及び該チロシナーゼ活性促進剤を含有する外用剤、特に白髪改善及び白髪防止に顕著な効果を有する外用剤が提供される。
本発明者らは、アスコルビン酸及びアスコルビン酸誘導体が、低濃度において、優れたチロシナーゼ活性促進効果を発現することを見いだし、更に鋭意検討を重ねた。
本発明には、以下のチロシナーゼ活性促進剤及び該チロシナーゼ活性促進剤を含有する外用剤が含まれる。
3−1.アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤。
3−2.アスコルビン酸誘導体が、アスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステル又はその脂肪酸エステル又はそれらの塩、アスコルビン酸グルコシド又はその脂肪酸エステル、及びアスコルビン酸硫酸エステル又はその脂肪酸エステル又はそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である3−1に記載のチロシナーゼ活性促進剤。
3−3.3−1又は3−2に記載のチロシナーゼ活性促進剤を含有する外用剤。
3−4.3−1又は3−2に記載のチロシナーゼ活性促進剤を含有する頭髪用外用剤。好ましくは、白髪防止又は白髪改善のための頭髪用外用剤。
3−5.3−1又は3−2に記載のチロシナーゼ活性促進剤を含有する皮膚用外用剤。好ましくは、皮膚黒化又は皮膚の抗白斑治療のための皮膚用外用剤。
3−6.アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体の含有量が外用剤全体の0.00001〜10重量%である3−3〜3−5のいずれかに記載の外用剤。
3−7.チロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤であって、アスコルビン酸の含有量が外用剤全体の0.0001〜1重量%である3−3〜3−5のいずれかに記載の外用剤。
3−8.チロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸リン酸エステル及びアスコルビン酸グルコシドからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤であって、該化合物の含有量が外用剤全体の0.001〜10重量%である3−3〜3−5のいずれかに記載の外用剤。
3−9.チロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸の脂肪酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステルの脂肪酸エステル及びアスコルビン酸グルコシドの脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤であって、該化合物の含有量が外用剤全体の0.00001〜0.1重量%である3−3〜3−5のいずれかに記載の外用剤。
以下、本発明の第3の実施形態について更に詳しく説明する。
本発明のチロシナーゼ活性促進剤は、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を有効成分とする。該チロシナーゼ活性促進剤において、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体は、1種単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
アスコルビン酸は、水溶性の生体内抗酸化物質であり、ビタミンCとも呼ばれ、生体内あるいは細胞内の様々な場所で様々な標的分子に対してその機能を発揮している。アスコルビン酸には、L−体、D−体があるが、本発明のアスコルビン酸としては、L体が用いられる。
また、アスコルビン酸誘導体としては、アスコルビン酸の2、3、5及び6位の少なくとも1つの水酸基に置換基を有するものであって、チロシナーゼ活性促進効果を有するものが用いられる。
具体的に、アスコルビン酸誘導体としては、アスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステル又はその脂肪酸エステル又はそれらの塩、アスコルビン酸グルコシド又はその脂肪酸エステル、及びアスコルビン酸硫酸エステル又はその脂肪酸エステル又はそれらの塩等が挙げられる。特に生体内に吸収された後、アスコルビン酸を生成するものが好ましい。
アスコルビン酸誘導体における脂肪酸、具体的にはアスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステルの脂肪酸エステル、アスコルビン酸グルコシドの脂肪酸エステル、及びアスコルビン酸硫酸エステルの脂肪酸エステルにおいて用いられる脂肪酸には、飽和又は不飽和の脂肪酸、また、直鎖状又は分枝状の脂肪酸が包含され、その種類は特に限定されない。脂肪酸の炭素数も特に限定されないが、通常炭素数1〜24、好ましくは8〜20、より好ましくは10〜18のものが用いられる。
アスコルビン酸脂肪酸エステルとしては、アスコルビン酸の2、3、5及び6位の少なくとも1つの水酸基と脂肪酸を反応させてエステル化した化合物が挙げられる。例えば、アスコルビン酸−6−パルミテート、アスコルビン酸−2,6−パルミテート、アスコルビン酸−6−ステアレートなどが挙げられる。
アスコルビン酸リン酸エステルとしては、例えば、アスコルビン酸の2位の水酸基にリン酸がエステル化したアスコルビン酸−2−リン酸エステルなどが挙げられる。
アスコルビン酸リン酸エステルの塩としては、アスコルビン酸リン酸エステルの塩、具体的には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。より具体的には、アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム塩、アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩などが挙げられる。
アスコルビン酸リン酸エステルの脂肪酸エステルとしては、アスコルビン酸リン酸エステルの水酸基に脂肪酸が更にエステル化した化合物、例えばアスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミテート、アスコルビン酸−2−リン酸−6−ラウレート、アスコルビン酸−2−リン酸−6−ステアレートなどが挙げられる。
また、アスコルビン酸リン酸エステルの脂肪酸エステルの塩としては、例えば、アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミテートナトリウム塩、アスコルビン酸−2−リン酸−6−ラウレートマグネシウム塩などが挙げられる。
アスコルビン酸グルコシドとしては、例えば、アスコルビン酸の2位の水酸基にグルコースがグルコシド結合したアスコルビン酸−2−グルコシドなどが挙げられる。
アスコルビン酸グルコシドの脂肪酸エステルとしては、アスコルビン酸グルコシドに脂肪酸が更にエステル化した化合物、例えばアスコルビン酸−2−グルコシド−6−パルミテート、アスコルビン酸−2−グルコシド−6−ステアレート、アスコルビン酸−2−グルコシド−6−ラウレートなどが挙げられる。
アスコルビン酸硫酸エステルとしては、例えば、アスコルビン酸の2位の水酸基に硫酸がエステル化したアスコルビン酸−2−硫酸エステルなどが挙げられる。
アスコルビン酸硫酸エステルの塩としては、アスコルビン酸硫酸エステルの塩、具体的には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
アスコルビン酸硫酸エステルの脂肪酸エステルとしては、アスコルビン酸硫酸エステルの水酸基に脂肪酸が更にエステル化した化合物、例えば、アスコルビン酸−2−硫酸−6−パルミテート、アスコルビン酸−2−硫酸−6−ステアレート、アスコルビン酸−2−硫酸−6−ラウレートなどが挙げられる。
このうち、特にアスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステルの脂肪酸エステル、アスコルビン酸グルコシド、及びアスコルビン酸グルコシドの脂肪酸エステルが、安定性が高く、チロシナーゼ活性促進作用に優れる点で好ましい。
本発明におけるチロシナーゼ活性促進剤の有効成分であるアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体は、有効量で用いることによって、優れたチロシナーゼ活性促進効果を奏する。
チロシナーゼは、チロシンを基質にして、その水酸化反応と生じたDOPAの酸化反応を触媒するが、水酸化反応時にアスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体が水素供与体として働くことにより、チロシナーゼ活性を促進するものと考えられる。
そして、該アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を含有するチロシナーゼ活性促進剤は、経皮的に吸収されて毛根部位に達し、メラノサイトに働いて、優れたメラニン産生促進作用を示す。
このような性質により、本発明のアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤は、優れたメラニン産生促進効果を発揮する。
本発明のチロシナーゼ活性促進剤は、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を、そのまま用いて又は適当な担体と混合させて、公知の製法に従って製剤化することにより得ることができる。
また、該チロシナーゼ活性促進剤を含有成分として用いて外用剤を得ることもできる。外用剤は、適宜公知の製法に従って、上記チロシナーゼ活性促進剤を所望の成分又は適当な担体と混合することにより、得ることができる。
該外用剤は、優れたチロシナーゼ活性促進作用又はメラニン産生促進作用を有し、例えば、頭髪用外用剤又は皮膚用外用剤として利用することができる。また、中脳黒質のようなメラニン産生細胞に作用するパーキンソン病の治療用外用剤としても使用することができる。
頭髪用外用剤としては、具体的には、白髪防止、白髪改善又は頭髪褐色化のための頭髪用外用剤が挙げられる。
頭髪用外用剤の種類は特に限定されず、例えば、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、ヘアパック、ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアスプレー、発毛剤、染毛剤、養毛剤等として用いることができる。外用剤の形態も特に限定されず、例えば、液状、乳液状、クリーム状、ジェル状、固形状等、種々の形態で用いることができる。
皮膚用外用剤としては、具体的には、皮膚の抗白斑治療、皮膚褐色化又は皮膚黒化のための皮膚用外用剤が挙げられる。
皮膚用外用剤の種類は、特に限定されず、例えば、ローション、乳液、クレンジングクリーム、栄養クリーム、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、ボディローション、ハンドクリーム、レッグクリーム、洗顔料、ボディソープ、ボディシャンプー等として用いることができる。外用剤の形態も特に限定されず、ローション状、液状、クリーム状、ジェル状、乳液状、固形状等の形態で用いることができる。
外用剤には、チロシナーゼ活性促進剤の効力を高めるのに有効な任意の助剤又は公知の添加剤を適宜配合することができる。例えば、流動パラフィン、ワセリン等の炭化水素類、カルナバワックス、モクロウ等のロウ類、オリーブ油、ホホバ油等の油脂類、オクタデシルパルミテート、ネオペンチルグリコールジイソオクタネート等のエステル類、ステアリン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸類、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、ノニオン、アニオン、カチオン、両性等の界面活性剤、天然あるいは合成の香料や色素、パラベン類、グルコン酸クロルヘキシジン等の防腐剤、ビタミンE、ビタミンP等のビタミン類、BHT等の抗酸化剤、ベンゾフェノン、アミノ安息香酸等の紫外線吸収剤、エタノール、プロパノール等のアルコール類、クエン酸塩、酢酸塩等のpH調節剤、及び各種目的に応じた薬効成分などを適宜配合することができる。
外用剤におけるチロシナーゼ活性促進剤の含有割合は、チロシナーゼ活性促進作用を奏する有効量程度であり、該含有割合は、使用態様及びに含有成分の種類に応じて適宜調整される。
頭髪用外用剤として用いる場合、チロシナーゼ活性促進剤の含有量は、外用剤全体に対し、0.00001〜10重量%程度、好ましくは、0.0001〜0.1重量%程度である。また皮膚用外用剤として用いる場合、チロシナーゼ活性促進剤の含有量は外用剤全体に対し、0.00001〜10重量%程度、好ましくは0.0001〜0.1重量%程度である。
チロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤である場合、アスコルビン酸の含有量は、外用剤全体に対し、0.0001〜1重量%程度、好ましくは0.001〜1重量%程度、より好ましくは0.01〜1重量%程度、更に好ましくは0.1〜1重量%程度である。アスコルビン酸は皮膚からはほとんど吸収されないため、細胞内の濃度を有効量と考えられる10−4M又はそれ以下の濃度とする場合、アスコルビン酸の、チロシナーゼ活性促進剤の組成物全体における濃度は、0.0001〜1重量%程度と考えられる。
チロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸リン酸エステル及びアスコルビン酸グルコシドからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤である場合、該化合物の含有量は、外用剤全体に対し、0.001〜10重量%程度、好ましくは0.01〜10重量%程度、より好ましくは0.01〜1重量%程度、更に好ましくは0.1〜1重量%程度である。アスコルビン酸リン酸エステルやグルコシド体は、アスコルビン酸よりも安定性が高く、アスコルビン酸に比べて皮膚透過性乃至吸収性が増している。このため、細胞内の濃度を活性化作用が見られる有効量と考えられる10−2M〜10−4M程度とする場合、アスコルビン酸リン酸エステルやグルコシド体の、チロシナーゼ活性促進剤の組成物全体における濃度は、0.001〜10重量%程度と考えられる。
またチロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸の脂肪酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステルの脂肪酸エステルおよびアスコルビン酸グルコシドの脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤である場合、該化合物の含有量は、外用剤全体に対し、0.00001〜0.1重量%程度、好ましくは0.0001〜0.1重量%程度、より好ましくは0.001〜0.1重量%程度、更に好ましくは0.01〜0.1重量%程度である。アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体の脂肪酸エステルは、安定性が高く、皮膚透過性はかなり高くなっていると考えられる。このため、細胞内の濃度を有効量と考えられる10−4M以下程度とする場合、アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体の脂肪酸エステルの、チロシナーゼ活性促進剤の組成物全体における濃度は、0.00001〜0.1重量%程度と考えられる。
本発明によれば、安全性が高く、製造コストが安価なアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を有効成分として、優れたチロシナーゼ活性促進作用又はメラニン産生促進作用を有するチロシナーゼ活性促進剤及び外用剤が提供される。
従来、アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体は、メラニン生成抑制剤として用いられていたが、本発明により、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体が、チロシナーゼ活性促進剤及びチロシナーゼ活性促進作用を奏する製剤又は外用剤の有効成分として用い得ることが明らかとなった。
本発明に係るチロシナーゼ活性促進剤は、安全性が高く、安価で製造することができ、優れたチロシナーゼ活性化作用及びメラニン産生促進作用を奏する。また、該チロシナーゼ活性促進剤を含有する外用剤も、優れたチロシナーゼ活性化作用及びメラニン産生促進作用を奏する。
本発明に係るチロシナーゼ活性促進剤及び該チロシナーゼ活性促進剤を含有する外用剤は、チロシナーゼ活性促進又はメラニン産生促進を目的として、化粧品、医療等の分野において有効に利用できる。例えば、白髪防止用、白髪改善用などの頭髪用外用剤、また、皮膚黒化用、皮膚の抗白斑治療用などの皮膚用外用剤として、有効に利用できる。
IV.本発明の第4の好ましい実施形態としては、糖類やヌクレオシドが可溶な溶媒中での酵素によるエステル化物の製造方法が提供される。
本発明者らは、カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼタイプAが非プロトン性有機溶媒中で高い活性を有することを見出した。更に、反応基質としてショ糖を用いた場合には、特に選択性の高い反応が行われることも見出し、これらの知見に基づき、鋭意検討を重ねた。
即ち、本発明には、以下のエステル化物の製造方法が含まれる。
4−1.カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼタイプAの存在下、非プロトン性有機溶媒中で、水酸基を有する化合物と脂肪酸又はその誘導体とをエステル化させるエステル化物の製造方法。
4−2.非プロトン性有機溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミドとジメチルホキシドとの混合溶媒からなる群から選ばれるいずれかである4−1に記載のエステル化物の製造方法。
4−3.水酸基を有する化合物が糖類、ヌクレオシド類、糖アルコール類、又は水酸基を有するアミノ酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上である4−1又は4−2に記載のエステル化物の製造方法。
4−4.水酸基を有する化合物が糖類である4−3に記載のエステル化物の製造方法。
4−5.水酸基を有する化合物がショ糖であって、エステル化物が下記一般式(21)で表される化合物である4−1に記載のエステル化物の製造方法。

(式中、Rcは炭素数1〜24の脂肪酸残基を示す。)
以下、本発明の第4の実施形態について更に詳しく説明する。
第4の実施形態に係るエステル化物の製造方法は、カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼタイプAの存在下、非プロトン性有機溶媒中で、水酸基を有する化合物と脂肪酸又はその誘導体とをエステル化させることを特徴とする。
ここで、エステル化とは、エステルを合成することを意味し、エステル化反応及びエステル交換反応が含まれる。具体的には、カルボン酸とアルコールとの反応(R’−COOH+R”−OH→R’−COO−R”)、エステルとアルコールとの反応(R’−COO−R”+R’’’−OH→R’−COO−R’’’)などが含まれる。
リパーゼ
該エステル化物の製造方法では、酵素触媒として、カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼタイプAを用いる。
カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼには、タイプAとタイプBが存在する。本発明者らは、このうち、リパーゼタイプAが、非プロトン性有機溶媒中で高い活性を有する、優れた酵素触媒であることを見出した。
本発明を適用すれば、有機溶媒に溶けにくい、水酸基を有する化合物を基質とする反応についても、高い収率で生成物を得ることが可能になる。
リパーゼAは、発酵後のリパーゼから、例えば、ゲルろ過により調製して得ることができる。また、リパーゼAをコードする遺伝子により、組み換えDNA技術を用いて産生することもできる。リパーゼタイプAの使用割合は、溶媒に対して、0.1〜20重量%程度、好ましくは0.1〜10重量%程度である。
リパーゼタイプAを用いる反応の反応温度は適宜設定し得るが、通常10〜100℃程度、好ましくは30〜50℃程度である。
非プロトン性有機溶媒
本発明の方法は、非プロトン性有機溶媒中で行う。
非プロトン性有機溶媒の種類は、特に限定されないが、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイソプロピルアミド、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、N−メチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリジノンジプロピルスルホキシドあるいはそれらの混合溶媒等が挙げられる。
このうち、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、又はジメチルホルムアミドとジメチルスルホキシドとの混合溶媒が、生成収率が高い点で好ましい。特にジメチルスルホキシドが好ましい。混合溶媒の割合は適宜設定できるが、ジメチルスルホキシドの割合が60%以上、好ましくは80%以上であるものが好ましい。
水酸基を有する化合物
本発明における水酸基を有する化合物としては、水酸基を一個以上有している化合物であれば、特に限定されない。例えば、糖類、ヌクレオシド類、糖アルコール類、水酸基を有するアミノ酸などを適用することができる。
糖類としては、単糖、少糖、多糖およびそれらの加水分解生成物等の天然糖ならびに合成糖が挙げられる。また、これらの置換体や誘導体、例えば、アミノ糖、硫黄糖、ウロン酸等が挙げられる。また、これらの溶媒和物等が挙げられる。
単糖としては、例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、又はアスコルビン酸等の炭素数2〜8個の化合物、好ましくは5〜7個の化合物が挙げられる。
少糖としては、例えば、トレハロース又はその二水和物、スクロース(ショ糖)、マルトース、セロビオース、ラクトース等の二糖、ラフィノース等の三糖、マンノオリゴ糖、マルトオリゴ糖等のオリゴ糖が挙げられる。
多糖としては、例えば、セルロース、デンプン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、マンナン、キシラン、プルラン等が挙げられる。
なかでも、コストや反応溶媒に対する溶解性の点から、単糖および少糖が好ましく、少糖としては特に二糖が好ましい。具体的には、グルコース、トレハロースおよびスクロースが好ましく、特にスクロースが好ましい。
ヌクレオシド類としては、例えば、アデノシン、グアノシン、シトシン、チミン及びウラシルの各塩基にデオキシリボース又はリボースが結合した化合物又はその誘導体等が挙げられる。
糖アルコール類としては、例えば、グリセロール、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イノシトールが挙げられる。
また、水酸基を有するアミノ酸としては、セリン、スレオニン、チロシンが挙げられる。
これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。
反応溶媒中の水酸基を有する化合物の濃度は、0.01〜1M、好ましくは0.1〜0.5M程度である。
脂肪酸又はその誘導体
本発明において用いられる脂肪酸又はその誘導体の種類は所望に応じて適宜設定し得る。
脂肪酸としては、飽和または不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸、およびカルボン酸を分子内に3個以上有するポリカルボン酸等が挙げられる。脂肪酸の炭素数は、通常1〜24、好ましくは、6〜18である。
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプロン酸,ソルビン酸,カプリル酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミトレイン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,イソステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸,ペンタデカン酸,エイコサン酸,ドコサン酸,ドコセン酸,アラキドン酸,リシノレイン酸,ジヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。中でも、パルミチン酸,ステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリル酸が好ましい。
また、ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、セバチン酸等が挙げられる。なかでも、ジビニルエステルとした場合に重合性モノマーが得られることから、飽和または不飽和の脂肪族ジカルボン酸、特にアジピン酸が好ましい。
また脂肪酸の誘導体としては、上記脂肪酸とアルコールとの反応から得られる脂肪酸エステルや脂肪酸の酸無水物などが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば、脂肪酸のビニルエステル、低級アルキルエステル、ハロゲン化低級アルキルエステル等が挙げられる。なかでも、エステル交換反応の脱離基として優れていることから、ビニルエステルが好ましい。
なお、ここでいう「低級アルキル」とは、炭素数1〜6個の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を意味し、「ハロゲン化低級アルキル」とは、少なくとも1個のハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)で置換された前記低級アルキルを意味する。脂肪酸の誘導体の具体例としては、上記脂肪酸のビニルエステル、メチルエステル、エチルエステル、トリフルオロエチルエステルおよびトリクロロエチルエステル、アジピン酸およびセバチン酸のジビニルエステルが挙げられる。
なかでも、反応性の点から、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ウンデシレン酸ビニル、オレイン酸ビニル、およびアジピン酸ジビニルが好ましい。
これらの脂肪酸又はその誘導体は、1種単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの脂肪酸又はその誘導体は、水酸基,カルボニル基フェニル基、ハロゲン基等の置換基で適宜置換されたものでも良い。
上記脂肪酸又はその誘導体の濃度は適宜設定し得るが、通常、水酸基を有する化合物1モルに対して、1〜10モル、好ましくは1.2〜4モル程度である。
ショ糖エステル
該エステル化物の製造方法において、水酸基を有する化合物として、スクロース(ショ糖)を用いた場合には、スクロースの2位の二級水酸基が特異的にエステル化された化合物が得られる。
具体的には、カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼタイプAの存在下、非プロトン性有機溶媒中で、スクロースと脂肪酸又はその誘導体とをエステル化させた場合、下記一般式で表される化合物が得られる。

(式中、Rcは炭素数1〜24の脂肪酸残基を示す。)
非プロトン性有機溶媒としては、前記した溶媒を適宜使用し得るが、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及び、ジメチルホルムアミドとジメチルスルホキシドとの混合溶媒が好ましく用いられる。特にジメチルスルホキシドが好ましい。
脂肪酸又はその誘導体としては、前記脂肪酸又はその誘導体として例示した化合物などを所望に応じて適宜使用し得るが、特に、アジピン酸ジビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルが反応性の点で好適に用いられる。
従来実用化されているショ糖エステルは化学触媒法で製造されたもので、モノ、ジ、トリエステルの混合物である。しかもスクロースの1’位、6位、6’位の一級水酸基に脂肪酸エステルが置換している。このため、親水性が低く、可溶化や乳化における水溶性が不十分である。これに対し、本発明を用いれば、2位の水酸基が選択的にエステル化されたモノエステル化合物が高収率で取得できる。また、本発明を用いれば、2位の二級水酸基のみが特異的にエステル化されたショ糖エステルを、高純度含有物の形で、複雑な工程を要さずに取得することができる
本発明の方法により得られる2位の水酸基が選択的にエステル化されたショ糖エステルは、食品、化粧品、シャンプー、リンス、医薬、農薬、洗浄剤などの分野における乳化剤や界面活性剤等として好適に用いることができる。
本発明のエステル化物の製造方法によれば、水溶性が高い化合物を原料とする場合でも、エステル化物を効率よく取得することができる。特に本発明に係るエステル化物の製造方法は、化学合成が難しく、酵素による選択的な反応が求められるエステル化物の製造に、好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、モレキュラーシーブスを添加して、アルブチンエステルを製造する場合において、アルブチン転化率(反応率)の経時変化を、モレキュラーシーブスの濃度を種々に変化させて、測定した結果を示す図面である。分析はHPLCを用いて行った。
図2は、モレキュラーシーブスを添加して、アルブチンエステルを製造する場合において、アルブチン転化率(反応率)の経時変化を、アルブチンの濃度を種々に変化させて、測定した結果を示す図面である。分析はHPLCを用いて行った。
図3は、マッシュルーム由来チロシナーゼに対する、アルブチン及び実施例1で得得られるアルブチンエステル化合物の阻害活性を評価した結果を示す図面である。
図4は、マウスメラノーマ細胞を用いて、アルブチン及び実施例1で得られたアルブチンエステル化合物のメラニン産生抑制作用を評価した結果を示す図面である。
図5は、実施例2−1と実施例2−4で行われたピロカテコールあるいはフェノールを基質にしたときのウンデシレン酸トレハロースエステルのチロシナーゼ阻害活性の評価を示す図である。−○−Catechol(カテコール)はピロカテコールを基質にした場合、−●−Phenol(フェノール)はフェノールを基質にした場合の測定結果を示す。
図6は、比較例2−1と比較例2−3で行われたカテコールあるいはフェノールを基質にした場合におけるアルブチンのチロシナーゼ阻害活性の評価を示す図である。−○−Catechol(カテコール)はピロカテコールを基質にした場合、−●−Phenol(フェノール)はフェノールを基質にした場合の測定結果を示す。
図7は、実施例2−1及び2−3と比較例2−2で行われたカテコールを基質にしたときのチロシナーゼ阻害活性の評価を示す図である。
図8は、実施例2−5と比較例2−4で行われたフェノールを基質にしたときのチロシナーゼ阻害活性の評価を示す図である。
図9は、チロシナーゼに対するアルブチン及びウンデシレン酸の阻害活性を図示した図面である。アルブチンは主にモノフェノールの水酸化反応を阻害し、ウンデシレン酸誘導体はジフェノールの酸化反応を阻害する。
図10は、アスコルビン酸及びアスコルビン酸誘導体のチロシナーゼ活性促進率を調べた結果を示した図面である。
図11は、ショ糖0.25M、アジピン酸ジビニル1Mを溶かしたDMFあるいはDMSOに、カンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(CAL−A)あるいはカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプB(CAL−B)を添加し、40℃で24時間反応した後のエステル体への変換率を示す図面である。○はリパーゼタイプAの変換率を、●はリパーゼタイプBの変換率を示す。
図12のAは、ショ糖(0.125M)とアジピン酸ジビニル(0.5M)を含んだDMFとDMSOの混合溶液中にカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(CAL−A)を添加し、DMFとDMSOの混合割合を変えて、30℃で24時間撹拌したときのスクロースエステルへの変換率を示す図面である。図12のBは、ショ糖(0.125M)とアジピン酸ジビニル(0.5M)を含んだDMFとDMSOの混合溶液中にカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプB(CAL−B)を添加し、DMFとDMSOの混合割合を変えて、30℃で7日間撹拌したときのスクロースエステルへの変換率を示す図面である。
図13は、マルトース0.25M、アジピン酸ジビニル1Mを、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)の各溶媒に溶かし、カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼタイプA(CALA)及びタイプB(CALB)をそれぞれ10mg/ml添加し、40℃で24時間攪拌後のエステル体への変換率を示す図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明をより詳しく説明するため実施例及び比較例を挙げるが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【実施例1−1】
アルブチン6.8g、10−ウンデシレン酸ビニルエステル21g、水3.8gを含むジメチルホルムアミド72.6mlにバチルスサブチリス(Bacillus subtilis)由来のプロテアーゼ0.5g(ナガセケムテックス社製)を添加し、30℃、130rpmにて一週間撹拌した。変換率は80%であった。生成物をTLCで調べたところ、ほぼモノエステルのみが生成していることが分かった。酵素反応液をろ過して、酵素粉末を除去した後、反応液を減圧濃縮しDMFを除去した。これをシリカゲル100gを充填したカラムに添加し、クロロホルム:メタノール(8:1)で溶出し、生成物を集め、濃縮し、6−O−(10−ウンデシレノイル)アルブチンの結晶を得た。収率は62%であった。13C−NMR:δ101.6(C1),76.4(C2),73.2(C3),70.1(C4),73.7(C5),63.4(C6),115.5,117.7,150.2 152.4(phenol),172.8(C=O),114.6,138.9(CH=CH),24.4,28.3,28.5,28.7,33.2,33.6(CH)Anal.Calcd for C2334(438):C,63.01;H,7.76,Found:C,63.16;H,7.75.
同様の方法で、各種脂肪族カルボン酸ビニルとアルブチンのバチルスサブチリス(Bacillus subtilis)由来のプロテアーゼ存在下での反応を行った。その結果を表1−1に示す。

【実施例1−2】
アルブチン2.8g、アジピン酸ジビニル9.5gをピリジン40.5mlに溶解し、ストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)由来のアルカリ性プロテアーゼ5g(東洋紡績社製)を添加し、30℃、130rpmにて4日間撹拌した。生成物をTLCで調べたところ、モノエステルのみが生成していることが分かった。酵素反応液をろ過して、酵素粉末を除去した後、反応夜を減圧濃縮し、ピリジンを除去した。これをシリカゲル100gを充填したカラムに添加し、ヘキサン:酢酸エチルエステル(4:1)で溶出し、生成物を集め、濃縮し、6−O−(ビニルアジポイル)アルブチンの結晶を得た。単離収率は85%であった。H−NMR:δ1.556(4H,m,−CHCH−),2.320(2H,m,−COCH−),2.430(2H,t,−CHCO−),3.12−3.29(3H,m,H−2,3,4),3.508(1H,m,H−5),4.070(1H,q,H−6),4.310(1H,dd,H−6),4.640(1H,dd,=CH),4.675(1H,d,H−1),4.900(1H,dd,=CH),5.11−5.32(3H,m,OH−2,3,4),6.66(2H,m,φ),6.83(2H,m,φ),7.21(1H,q,−CH=)
また、DMF、DMSO、N−メチル−2−ピロリドン中でも上記と同様の反応条件で反応を行った。原料アルブチンは速やかにエステル化され、TLC分析からこれらの溶媒中ではモノエステルが主生成物として検出されたが、ピリジン中と異なり、ジ、トリ、テトラエステルも生成することが分かった。
【実施例1−3】
アルブチン6.8g、10−ウンデシレン酸ビニルエステル21gを含む76.2mlに4−ピロリジノピリジン1g(和光純薬社製)を添加し、80℃、130rpmにて24時間撹拌した。生成物をTLCで調べたところ、モノ、ジ、トリ、ポリエステルが生成していることが分かった。反応液を減圧濃縮しDMFを除去した。これをシリカゲル100gを充填したカラムに添加し、クロロホルム:メタノール(8:1)で溶出し、モノエステルを集め、濃縮し、6−O−(10−ウンデシレノイル)アルブチンの結晶を得た。収率は10%であった。13C−NMR:δ101.6(C1),76.4(C2),73.2(C3),70.1(C4),73.7(C5),63.4(C6),115.5,117.7,150.2 152.4(phenol),172.8(C=O),114.6,138.9(CH=CH),24.4,28.3,28.5,28.7,33.2,33.6(CH)Anal.Calcd for C2334(438):C,63.01;H,7.76,Found:C,63.06;H,7.81.
同様の方法で、各種脂肪族カルボン酸ビニルとアルブチンの4−ピロリジノピリジン存在下での反応を行った。結果を表1−2に示す。

【実施例1−4】
アルブチン0.3g、アジピン酸ジビニル1gをDMF4mlに溶解し、ジメチルアミノピリジン10mgを添加し、80℃で3時間撹拌した。生成物をTLCで調べたところ、モノ、ジ、トリ、テトラエステルが生成していることが分かった。反応液を減圧濃縮しDMFを除去した。これをシリカゲル100gを充填したカラムに添加し、クロロホルム:メタノール(8:1)で溶出し、モノエステルを集め、濃縮し、6−O−(ビニルアジポイル)アルブチンの結晶を得た。収率は21%であった。
【実施例1−5】
三角フラスコにアルブチン327mg、10−ウンデシレン酸885mgを4.0mlの1,4−ジオキサン/DMSO(=9:1)混合溶媒に溶解し、次いで活性化したモレキュラーシーブス4Aを0.4g入れた後、カンジダアンタクティカ(Candida anterctica)由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製)40mgを添加し、40℃、130rpmにて1週間撹拌した。なお、モレキュラーシブスの活性化は電子レンジを用いた簡便法で行った。すなわち、フラスコに入れたモレキュラーシブス4Aを電子レンジで1分ほど加熱し、直後に、真空ポンプで減圧下室温まで放冷し、この操作を3回繰り返した。酵素反応生成物をTLCで調べたところモノエステルのみが生成していることが分かった。酵素反応液を濾過して、酵素とモレキュラーシーブスを除去した後、反応液を減圧濃縮した。これに4mlメタノールと2.5mlの水を加え、さらにヘキサン5mlを添加して未反応のウンデシレン酸をヘキサン層に抽出した。ヘキサンによる抽出操作を6回繰り返した後、水層をエバポレーターにて濃縮した。この濃縮液に8mLの水を添加して白色沈殿を生じさせた後、遠心分離によって上清を廃棄した。この水抽出操作を3回繰り返して未反応のアルブチン、およびDMSOを除去した。回収した白色沈殿物を減圧乾燥し、287mgの粉体を得た。
この精製物を、100%酢酸エチルを用いてTLC分析した結果、未反応10−ウンデシレン酸が除去され、単一のエステル化合物が得られていることを確認した。この精製物のNMR分析を行ったところ、実施例1−1で得られたエステル化合物と同一で6−O−(10−ウンデシレノイル)アルブチンであることが確認された。
得られたエステル化合物の収率は91%であった。また、本実施例の方法は、シリカゲルカラムによる精製が必要なく、簡便であった。
【実施例1−6】
三角フラスコにアルブチン33mg、10−ウンデシレン酸89mgを4.0mlの1,4−ジオキサンに溶解し、次いで活性化したモレキュラーシーブス4Aを0〜15重量%入れた後、カンジダアンタクティカ(Candida anterctica)由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製)40mgを添加し、40℃、130rpmにて1週間撹拌した。なお、モレキュラーシブスの活性化は実施例1−5と同じ方法で行った。アルブチン転化率の経時変化をHPLC分析により測定した。HPLC分析条件は次の通りである。装置:島津LC−10、カラム:TSK gel Amide−80、移動相溶媒:アセトニトリル/水(=90:10)、流速:1.0ml、検出:示差屈折。
結果を図1に示す。脱水剤であるモレキュラーシーブスを添加することによって、アルブチン転化率(反応率)が顕著に向上した。また、モレキュラーシーブスの添加濃度が多くなるほど転化率は上昇した。
【実施例1−7】
アルブチンを55mg〜872mg(0.05M〜0.8M)、10−ウンデシレン酸をアルブチンの4倍モル量としたこと以外は、実施例1−6と同じ方法で酵素反応を行った。アルブチン転化率の経時変化をHPLC分析により測定した。結果を図2に示す。また、アルブチンの濃度が多くなるほど反応速度は速くなり、0.6M以上では変わらない値を示した。
評価1:プロリンを用いたチロシナーゼ阻害活性評価
本発明のアルブチンエステル化合物のチロシナーゼ阻害活性について、プロリンを用いた方法で測定した(Analytical Biochemistry,179,375−381,1989)。pH7.5の0.1Mリン酸緩衝液に溶解した0.749MのL−プロリン40μl、0.037Mの1,2−ジヒドロキシベンゼン40μl、種々の濃度の実施例1−1で得られた6−O−(10−ウンデシレノイル)アルブチン溶液1.41mlを吸光度用キュベット中で撹拌した。ついで、350μg/mlのチロシナーゼ(マッシュルーム由来、SIGMA)溶液を10μl加え、撹拌下、吸光度の変化を10秒間525nmで測定した。同様の条件でアルブチンについても測定した。結果を図3に示す。
図3の結果に示されるように、アルブチンの6位の炭素における水酸基がエステル化されたアルブチン化合物のチロシナーゼ阻害活性は、エステル化されていないアルブチンに比べて顕著に向上していることが明らかとなった。
評価2:マウスメラノーマ細胞を用いたメラニン産生抑制作用の評価
D−MEM 10%FCS培地15mlを入れた75cm培養フラスコに3.6×10個のマウスメラノーマ細胞(B16細胞)を添加、37℃、5%炭酸ガス下にて一晩培養して細胞を接着させた後、種々の濃度の実施例1−1で得られた6−O−(10−ウンデシレノイル)アルブチンまたはアルブチンを溶かした0.1%DMSO含有D−MEM 10%FCS培地15mlと培地交換し、同条件にてさらに2日間培養した。次いで同培地15mlと培地交換を行い、同条件にてさらに2日間培養を行った。培養後、細胞を回収し、細胞の湿重量を測定した。湿重量測定後、細胞ペレットをMilliQ水に懸濁、総容量を700μlとした。これを15minの超音波破砕した後、700μlの6N水酸化ナトリウム水溶液を添加・混合し、細胞の完全溶解・メラニン抽出を行い、吸光度(405nm)で測定を行った。尚、実験は3回行い、結果はその平均値として求めた。細胞当たりのメラニン生産性はA405測定値/細胞湿重量(μg)で表した。アルブチン未添加時の細胞当たりのメラニン生産性を100%として各濃度のアルブチンウンデシレン酸またはアルブチンのメラニン生産抑制作用を求めた。結果を図4に示す。
図4に示されるように、メラノーマ細胞を用いたメラニン産生阻害作用を調べた結果、アルブチンウンデシレン酸はアルブチンに比べて約100倍高い阻害作用を示した。
【実施例2−1】
ウンデシレン酸糖エステルのチロシナーゼ阻害活性について、プロリンを用いた方法で測定した(Analytical Biochemistry,179,375−381,1989)。すなわちpH7.5の0.1Mリン酸緩衝液に溶解した0.749MのL−プロリン40μl、0.037Mのピロカテコール40μl、種々の濃度のトレハロースウンデシレン酸エステル(Tre−Unde)溶液1.41mlを吸光度用キュベット中で撹拌した。ついで、350μg/mlのチロシナーゼ(マッシュルーム由来、SIGMA)溶液を10μl加え、撹拌下、吸光度の変化を3分間525nmで測定し、チロシナーゼを阻害することを確認した。結果を図5に示す。
【実施例2−2】
実施例2−1で示した方法と同様の方法で、ウンデシレン酸(Unde)のチロシナーゼ阻害活性を調べ、チロシナーゼ活性を阻害することを確認した。結果を図7に示す。
【実施例2−3】
実施例2−1で示した方法と同様の方法でスークロースウンデシレン酸エステル(Suc−Unde)のチロシナーゼ阻害活性を調べ、チロシナーゼ活性を阻害することを確認した。結果を図7に示す。
比較例2−1
実施例2−1で示した方法と同様に、ピロカテコールを基質として、アルブチン(Arbutin)のチロシナーゼ阻害活性を調べ、チロシナーゼ活性を阻害することを確認した。結果を図6に示す。
比較例2−2
実施例2−1で示した方法と同様にトレハロースジウンデシレン酸エステル(Tre−di−Unde)のチロシナーゼ阻害活性を調べ、チロシナーゼ活性を阻害しないことを確認した。結果を図7に示す。
【実施例2−4】
ウンデシレン酸糖エステルのチロシナーゼ阻害活性について、ピロカテコールを用いた方法を改良してフェノールを基質に測定した。pH7.5の0.1Mリン酸緩衝液に溶解した0.749MのL−プロリン40μl、0.037Mのフェノール40μl、種々の濃度のトレハロースウンデシレン酸エステル(Tre−Unde)溶液1.41mlを吸光度用キュベット中で撹拌した。ついで、350μg/mlのチロシナーゼ(マッシュルーム由来、SIGMA)溶液を10μl加え、撹拌下、吸光度の変化を15分間525nmで測定し、吸光度の増加を抑えること、すなわちチロシナーゼを阻害することを確認した。結果を図5に示す。
【実施例2−5】
実施例2−4で示した方法と同様にスークロースウンデシレン酸エステル(Suc−Unde)のチロシナーゼ阻害活性を調べ、チロシナーゼ活性を阻害することを確認した。結果を図8に示す。
比較例2−3
実施例2−4で示した方法と同様にアルブチン(Arbutin)のチロシナーゼ阻害活性を調べ、チロシナーゼ活性を阻害することを確認した。結果を図6に示す。
比較例2−4
実施例2−4で示した方法と同様に、フェノールを基質として、トレハロースオレイン酸エステル(Tre−Ole)のチロシナーゼ阻害活性を調べ、チロシナーゼ活性を阻害しないことを確認した。結果を図8に示す。
【実施例3−1】
アスコルビン酸及びアスコルビン酸誘導体を被験物質とし、それらのチロシナーゼ活性化促進作用について、フェノールを基質にしてプロリン存在下で測定した。
すなわち、フェノールはチロシナーゼにより水酸化され、このときに水素供与体を必要とする。生成したピロカテコールはチロシナーゼにより酸化されてオルトキノン体を生成する。このオルトキノンの生成をプロリン存在下で定量することにより、チロシナーゼ活性を測定した。
具体的には、次のように測定した。pH7.5の0.1Mリン酸緩衡液に溶解した0.749MのL−プロリン40μl、0.037Mのフェノール40μl及び種々の濃度の被験物質溶液1.41mlを、吸光度用キュベット中で撹拌した。ついで、350μg/mlのチロシナーゼ(マッシュルーム由来、SIGMA)溶液を10μl加え、撹拌下、吸光度の変化を15分間525nmで測定し、チロシナーゼ活性を測定した。
チロシナーゼ活性促進率は被験物質未添加時のチロシナーゼ活性に対して、何%阻害或いは促進したかで表した。チロシナーゼ活性促進率100%とはチロシナーゼ活性が被験物質未添加時に比べて2倍になっていることを示す。
被験物質として、アスコルビン酸としては、L−アスコルビン酸(和光純薬 番号:016−04805)を用いた。アスコルビン酸誘導体としては、下記構造式で表されるアスコルビン酸−2−グルコシド(和光純薬 番号:074−04581)、アスコルビン酸−2−リン酸エステル(アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩(和光純薬 番号:013−12061)を使用)及びアスコルビン酸−6−パルミテート(和光純薬 番号:011−13662)を用いた。

測定した結果を図10に示す。
図10に示されるように、アスコルビン酸は、10−3M〜10−1Mの濃度でチロシナーゼの阻害作用が見られたが、10−4M以下の濃度において逆にチロシナーゼ活性促進作用が見られた。
また、アスコルビン酸脂肪酸エステルであるアスコルビン酸パルミチン酸エステルにおいては、10−4M以下の濃度でチロシナーゼ活性促進作用が見られた。
また、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸グルコシドでは10−2M〜10−4Mの濃度でチロシナーゼ活性促進作用が見られた。
【実施例4−1】
スクロース0.25M、アジピン酸ジビニル1Mを溶かしたジメチルホルムアミド(DMF)あるいはジメチルスルホキシド(DMSO)に、カンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)を10mg/mlの濃度になるように添加し、40℃で24時間反応後のエステル体への変換率を調べた。反応液のHPLC分析よりほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。
HPLCの分析条件を以下に示す。
カラム:TSKgel Amide−80
溶離液:アセトニトリル/水(3/1)
検出 :示差屈折
比較例4−1
実施例1において、カンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)に代えて、カンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプB(Chirazyme,L2,lyo:CAL−B)を用いる以外は、実施例4−1と同様の操作を行って、エステル体の変換率を調べた。
実施例4−1と比較例4−1におけるエステル体の変換率の結果を図11に示す。図11に示されるように、リパーゼタイプAは、DMFやDMSO中においてリパーゼタイプBに比べて高い活性を示すことが明らかとなった。特にDMSO中において、その効果は顕著であった。
【実施例4−2】
スクロース0.125Mとアジピン酸ジビニル0.5Mを含んだDMFとDMSOの混合溶液中にカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo)(10mg/ml)を添加し、DMFとDMSOの混合割合を適宜変えて、30℃で24時間撹拌したときのスクロースエステルへの変換率を調べた。反応液のHPLC分析よりほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。
HPLCの分析条件を以下に示す。
カラム:TSKgel Amide−80
溶離液:アセトニトリル/水(3/1)
検出 :示差屈折
比較例4−2
スクロース0.125Mとアジピン酸ジビニル0.5Mを含んだDMFとDMSOの混合溶液中にカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプB(Chirazyme,L2,lyo)(10mg/ml)を添加し、DMFとDMSOの混合割合を適宜変えて、30℃で7日間撹拌したときの、スクロースのエステル体への変換率を調べた。反応液のHPLC分析よりほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。HPLCの分析条件は、実施例4−2と同様とした。
実施例4−2と比較例4−2におけるエステル体の変換率の結果を図12に示す。図12に示されるように、リパーゼタイプA(CAL−A)は、DMFとDMSOの混合溶媒中においてリパーゼタイプB(CAL−B)に比べて高い活性を示すことが明らかとなった。特にリパーゼタイプAはDMSOの混合割合が多いほど、その効果は顕著であった。
【実施例4−3】
マルトース0.25M、アジピン酸ジビニル1Mを、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン(NMP)の各溶媒に溶かし、カンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)を10mg/ml添加し、40℃で24時間攪拌後のエステル体への変換率を調べた。反応液のHPLC分析よりほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。
HPLCの分析条件を以下に示す。
カラム:TSKgel Amide−80
溶離液:アセトニトリル/水(3/1)
検出 :示差屈折
比較例4−3
実施例4−3において、カンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)に代えて、カンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプB(Chirazyme,L2,lyo:CAL−B)を用いる以外は同様の操作を行ってエステル体の変換率を調べた。
実施例4−3と比較例4−3におけるエステル体の変換率を調べた結果を図13に示す。図13に示されるように、マルトースの場合においても、リパーゼタイプAはタイプBと異なり、各非プロトン性有機溶媒中において顕著な反応性を示した。
【実施例4−4】
スクロース6.42g(0.125M)およびカプロン酸ビニル10.7g(0.5M)を溶かしたジメチルホルムアミド150mlにカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)500mgを加えて懸濁した。この酵素反応液を30℃にて130rpmで24時間撹拌した。反応液について、実施例4−1と同様の分析条件でHPLC分析を行い、ほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。
また反応液のTLC分析から生成物は一つであることを確認した。反応液中の不溶物を濾過で除去し、エバポレーターで減圧濃縮後、シリカゲルカラム(クロロホルム:メタノール=12:1)でエステル体を単離精製し、白色結晶として6.5g(収率79%)を得た。13C NMR分析から、スクロースの2位にカプロン酸残基が導入されたスクロース 2−カプロン酸エステルの生成が確認された。
13C NMR(DMSOd6):d88.70(C1)、72.99(C2)、70.05(C3)、69.83(C4)、72.56(C5)、60.31(C6)、61.14(C1’)、104.23(C2’)、75.3(C3’)、82.63(C4’)、73.75(C5’)、62.32(C6’)。
【実施例4−5】
スクロース6.42g(0.125M)およびカプリル酸ビニル12.8g(0.5M)を溶かしたジメチルホルムアミド150mlにカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)500mgを加えて懸濁した。この酵素反応液を30℃にて130rpmで24時間撹拌した。反応液について、実施例4−1と同様の分析条件でHPLC分析を行い、ほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。反応液から不溶物を濾過により除去後、濃縮しシリカゲル100gを詰めたカラムを用いて、クロロホルム:メタノール(12:1,v/v)で溶出した。白色結晶として6.8g(収率68%)を得た。13C NMR分析から、スクロースの2位にカプリル酸残基が導入されたスクロース 2−カプリル酸エステルの生成が確認された。
13C NMR(DMSOd6):d88.71(C1)、72.96(C2)、70.05(C3)、69.85(C4)、72.55(C5)、60.35(C6)、61.13(C1’)、104.25(C2’)、75.27(C3’)、82.62(C4’)、73.80(C5’)、62.39(C6’)。
【実施例4−6】
スクロース6.42g(0.125M)およびカプリン酸ビニル15g(0.5M)を溶かしたジメチルホルムアミド150mlにカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)500mgを加えて懸濁した。この酵素反応液を30℃にて130rpmで3日間撹拌した。反応液について、実施例4−1と同様の分析条件でHPLC分析を行い、ほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。実施例4−5と同様の方法で生成物を単離し、白色結晶として6.0g(収率64%)を得た。13C NMR分析から、スクロースの2位にカプリン酸残基が導入されたスクロース 2−カプリン酸エステルの生成が確認された。
13C NMR(DMSOd6):d88.72(C1)、72.94(C2)、70.07(C3)、69.86(C4)、72.53(C5)、60.34(C6)、61.21(C1’)、104.30(C2’)、75.27(C3’)、82.59(C4’)、73.78(C5’)、62.37(C6’)。
【実施例4−7】
スクロース6.42g(0.125M)およびラウリン酸ビニル17g(0.5M)を溶かしたジメチルホルムアミド150mlにカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)500mgを加えて懸濁した。この酵素反応液を30℃にて130rpmで3日間撹拌した。反応液について、実施例4−1と同様の分析条件でHPLC分析を行い、ほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。実施例4−5と同様の方法で生成物を単離し、白色結晶として6.9g(収率70%)を得た。13C NMR分析から、スクロースの2位にラウリン酸残基が導入されたスクロース 2−ラウリン酸エステルの生成が確認された。
13C NMR(DMSOd6):d88.80(C1)、72.95(C2)、70.10(C3)、69.88(C4)、72.55(C5)、60.33(C6)、61.19(C1’)、104.30(C2’)、75.31(C3’)、82.62(C4’)、73.83(C5’)、62.35(C6’)。
【実施例4−8】
スクロース2.14g(0.25M)およびアジピン酸ジビニル5g(1M)を溶かしたジメチルスルホキシド25mlにカンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプA(Chirazyme,L5,lyo:CAL−A)250mgを加えて懸濁した。この酵素反応液を30℃にて130rpmで2日間撹拌した。反応液について、実施例4−1と同様の分析条件でHPLC分析を行い、ほぼ定量的にスクロースがエステル体へ変換されていることを確認した。実施例4−5と同様の方法で生成物を単離し、白色結晶として2.6g(収率81%)を得た。13C NMR分析から、スクロースの2位にビニルアジピン酸残基が導入されたスクロース 2−ビニルアジピン酸エステルの生成が確認された。
13C NMR(DMSOd6):d88.70(C1)、72.99(C2)、70.05(C3)、69.83(C4)、72.56(C5)、60.31(C6)、61.14(C1’)、104.28(C2’)、75.30(C3’)、82.63(C4’)、73.75(C5’)、62.32(C6’)、23.49,32.76,33.18(−CH−)、98.12,141.26(−C=C−)、170.33,172.62(−C=O)。
比較例4−4
実施例4−8において、カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来リパーゼタイプA(リパーゼA)に代えて、ムコールジャバニカス(Mucor javanicus)由来リパーゼ(リパーゼM)、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)由来リパーゼ(リパーゼA’)、及びカンジダシリンドラセ(Candida cylindracea)由来リパーゼ(リパーゼAY)を用いる以外は同様の操作を行って、スクロースのエステル体の変換率を調べた。
実施例4−8と比較例4−4における各リパーゼを用いた場合のスクロース 2−ビニルアジピン酸エステルへの変換率を表4−1に示す。

表4−1に示されるように、他の微生物由来のリパーゼとの比較においても、カンジダアンタークティカ由来リパーゼタイプAが顕著な変換率を示すことが確認された。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、チロシナーゼ阻害活性又は促進活性を有する化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性調整剤、及び該活性調整剤を含む外用剤が提供される。また、該化合物の製造方法が提供される。
具体的には、チロシナーゼ阻害活性を有する新規アルブチンエステル化合物、該化合物を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤及び該阻害剤を含む外用剤が提供される。
また、ウンデシレン酸又はその塩或いはそのエステル誘導体を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤および該阻害剤を含む外用剤が提供される。
また、アスコルビン酸又はその誘導体を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤並びに該チロシナーゼ活性促進剤を含有する外用剤が提供される。
また、上記チロシナーゼ阻害剤又は促進剤の有効成分となる化合物の製造に適用し得る、酵素によるエステル化物の製造方法に関する。
本発明における新規アルブチンエステル化合物は、アルブチンの6位の水酸基に疎水性基を導入することにより、アルブチンと比較して、チロシナーゼ阻害活性が顕著に高まっている。また、該化合物は、疎水性基を導入することで皮膚吸収性が向上している。更に、糖エステル構造に基づくと考えられる幅広い抗菌作用、フェノール性水酸基に基づくと考えられるラジカル消去能、並びにエステル部の疎水性とアルブチン部の親水性に基づくと考えられる界面活性作用も有している。
そして、該化合物を有効成分とする本発明のチロシナーゼ阻害剤及び該阻害剤を含む外用剤は、顕著なチロシナーゼ活性阻害作用を示し、皮膚外用剤、美白用化粧剤、添加剤等として、化粧品や医薬分野において有効に利用することができる。
また、本発明において、ウンデシレン酸と二糖のエステル体は、チロシナーゼ阻害活性をアルブチンと異なる作用で顕著に高めることが見いだされた。すなわち、チロシナーゼ作用は、モノフェノールの1,2−ジフェノール(カテコール)への水酸化作用とカテコールのo−キノンへの酸化反応を触媒しているが、アルブチンは前者のモノフェノールの水酸化反応を効率的に阻害し、ウンデシレン酸その塩又はそのエステル誘導体は後者のカテコールへの酸化反応を阻害することにより、アルブチンとは異なるメカニズムでチロシナーゼを阻害していることが見いだされた。
特に、ウンデシレン酸のエステル誘導体は、疎水性基を導入することで皮膚吸収性が向上している。更に、ウンデシレン駿基に基づくと考えられる幅広い抗菌作用、並びにエステル部の疎水性とアルブチン部の親水性に基づくと考えられる界面活性作用も有する。
そして、該性質を有するウンデシレン酸又はその塩或いはそのエステル誘導体を有効成分とする本発明のチロシナーゼ阻害剤および該阻害剤を含む外用剤は、化粧品、美白化粧料、添加剤等として、化粧品や医薬分野において有効に利用することができる。
また、本発明において、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体が、優れたチロシナーゼ活性促進作用及びメラニン産生促進作用を有することが見出された。
従来、アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体は、メラニン生成抑制剤として用いられていたが、本発明により、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体が、チロシナーゼ活性促進作用及びメラニン産生促進作用を有することが明らかとなった。
また、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体は、安価で製造することができ、安全性も高い。
該性質を有するアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を有効成分とする本発明のチロシナーゼ活性促進剤吸び該促進剤を含有する外用剤は、安全性が高く、安価で製造することができ、優れたチロシナーゼ活性化作用及びメラニン産生促進作用を奏するものである。
本発明のチロシナーゼ活性促進剤及び該促進剤を含有する外用剤は、化粧品や医薬分野において有用に使用することができ、例えば、白髪防止又は白髪改善のための頭髪用製剤又は外用剤、或いは、皮膚黒化又は皮膚の抗白斑治療のための皮膚用製剤又は外用剤などとして、利用できる。
また、本発明においては、水酸基を有する化合物も原料に用いることができ、しかも収率の高い、エステル化物の酵素的製造方法が見出された。
従来の酵素的エステル交換反応は、主に疎水性有機溶媒中で行われていたが、本発明において、特定の酵素を用いることにより、DMSO等の非プロトン性有機溶媒中で酵素によるエステル化が可能になることが見出された。このため、水酸基を有する化合物を有する化合物が高い溶解性を有する溶媒中で、該化合物を原料に用いて、高い収率でエステル化物を得ることが何能になった。
また、本発明のエステル化物の製造方法において、水酸基を有する化合物としてショ糖を用いることにより、ショ糖の2位の水酸基が特異的にエステル化されたエステル化物が得られることが明らかになった。
従来、ショ糖脂肪酸エステルは、1’位、6位、6’位の一級水酸基がエステル化したモノ、ジ、トリエステル化合物の混合物として主に得られていたが、本発明を用いれば、2位の二級水酸基のみが特異的に選択されたショ糖モノエステル化合物を高純度で取得することが可能となる。
本発明の製造方法を用いて得られるショ糖エステル化合物は、親水性が高く、可溶化性、乳化性、安定性等において優れた特性を有するものであり、食品、化粧品、シャンプー、リンス、医薬、農薬、洗浄剤などの分野における乳化剤や界面活性剤等として好適に用いることができる。
本発明のエステル化物の製造方法は、疎水性有機溶媒には溶けにくい水酸基を有する化合物を原料に用いるエステル化物の製造、並びに、化学合成が難しく、酵素による選択的な反応が求められるエステル化物の製造において、特に優れた手段を提供するものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるアルブチンエステル化合物。

[式中、Raは疎水性基を示す。]
【請求項2】
一般式(2)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
【請求項3】
一般式(3)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
【請求項4】
一般式(4)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
【請求項5】
一般式(5)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
【請求項6】
一般式(6)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。Rはアルキル基、又はアリール基を示す。]
【請求項7】
一般式(7)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。


[式中、R、R、R、Rはそれぞれ単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。Xは1〜6の繰り返し単位を示す。]
【請求項8】
一般式(8)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
【請求項9】
一般式(9)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。

[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
【請求項10】
一般式(10)で表される請求項1に記載のアルブチンエステル化合物。


[式中、Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のアルブチンエステル化合物の1種又は2種以上を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
【請求項12】
請求項11に記載のチロシナーゼ阻害剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項13】
下記一般式(11)〜(19)のいずれかで表されるカルボン酸類と、アルブチンとを、エステル化反応させる工程を有するアルブチンエステル化合物の製造方法。

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換アルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。Rはアルキル基、又はアリール基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。R、R、R、Rはそれぞれ単結合、アルキレン基又はアリーレン基を示す。Xは1〜6の繰り返し単位を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]

[式中、Aは水素、置換又は非置換のアルキル基又はビニル基を示す。Rは単結合、アルキレン基、又はアリーレン基を示す。]
【請求項14】
酵素触媒存在下でエステル化反応させる請求項13に記載のアルブチンエステル化合物の製造方法。
【請求項15】
化学触媒存在下でエステル化反応させる請求項13に記載のアルブチンエステル化合物の製造方法。
【請求項16】
エステル化反応させる工程が、脱水処理を行いながらエステル化反応させる工程である請求項13に記載のアルブチンエステル化合物の製造方法。
【請求項17】
エステル化反応工程後、エステル化反応液中の未反応カルボン酸誘導体を、非極性有機溶媒を用いて抽出して分離する工程、次いで、過剰の水を加えて未反応アルブチンを抽出して分離するともにアルブチンエステル化合物を沈殿させる工程を有する請求項13に記載のアルブチンエステル化合物の製造方法。
【請求項18】
下記一般式(20)

[式中、Rbは水素または一個の水酸基を除いた糖残基を示す。]
で表されるウンデシレン酸またはその塩あるいはそのエステル誘導体かちなるチロシナーゼ阻害剤。
【請求項19】
Rbが一個の水酸基を除いた糖残基である請求項18に記載のチロシナーゼ阻害剤。
【請求項20】
Rbが水素であるウンデシレン酸またはその塩からなる請求項18に記載のチロシナーゼ阻害剤。
【請求項21】
請求項18に記載のチロシナーゼ阻害剤を含む外用剤。
【請求項22】
外用剤が美白化粧料である請求項21に記載の外用剤。
【請求項23】
アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤。
【請求項24】
アスコルビン酸誘導体が、アスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステル又はその脂肪酸エステル又はそれらの塩、アスコルビン酸グルコシド又はその脂肪酸エステル、及びアスコルビン酸硫酸エステル又はその脂肪酸エステル又はそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項23に記載のチロシナーゼ活性促進剤。
【請求項25】
請求項23に記載のチロシナーゼ活性促進剤を含有する外用剤。
【請求項26】
頭髪用外用剤である請求項25に記載の外用剤。
【請求項27】
皮膚用外用剤である請求項25に記載の外用剤。
【請求項28】
アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体の含有量が外用剤全体の0.00001〜10重量%である請求項25に記載の外用剤。
【請求項29】
チロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤であって、アスコルビン酸の含有量が外用剤全体の0.0001〜1重量%である請求項25に記載の外用剤。
【請求項30】
チロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸リン酸エステル及びアスコルビン酸グルコシドからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性促進剤であって、該化合物の含有量が外用剤全体の0.001〜10重量%である請求項25に記載の外用剤。
【請求項31】
チロシナーゼ活性促進剤がアスコルビン酸の脂肪酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステルの脂肪酸エステル及びアスコルビン酸グルコシドの脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするチロシナーセ活性促進剤であって、該化合物の含有量が外用剤全体の0.00001〜0.1重量%である請求項25に記載の外用剤。
【請求項32】
カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼタイプAの存在下、非プロトン性有機溶媒中で、水酸基を有する化合物と脂肪酸又はその誘導体とをエステル化させるエステル化物の製造方法。
【請求項33】
非プロトン性有機溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミドとジメチルホキシドとの混合溶媒からなる群から選ばれるいずれかである請求項32に記載のエステル化物の製造方法。
【請求項34】
水酸基を有する化合物が糖類、ヌクレオシド類、糖アルコール類、及び水酸基を有するアミノ酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項32に記載のエステル化物の製造方法。
【請求項35】
水酸基を有する化合物が糖類である請求項34に記載のエステル化物の製造方法。
【請求項36】
水酸基を有する化合物がショ糖であって、エステル化物が下記一般式(21)で表される化合物である請求項32に記載のエステル化物の製造方法。


(式中、Rcは炭素数1〜24の脂肪酸残基を示す。)

【国際公開番号】WO2004/033475
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501026(P2005−501026)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013018
【国際出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(391045392)甲南化工株式会社 (6)
【Fターム(参考)】