説明

チロシナーゼ活性阻害剤、その製法及び用途

【課題】本発明の課題は、天然植物から抽出、分離した物質のチロシナーゼ活性阻害効果とその作用をなす有効成分の製法及び化学組成式を明らかにし、人皮膚における美白用剤、食品類の褐変防止剤等の用途に好適に使用しうるチロシナーゼ活性阻害剤を提供することにある。
【解決手段】ナンテン(Nandina domestica Thunb)の葉から抽出した、次の一般式(1)(式中、RはCHOH基、COOH基またはCHO基を表わす)で示されるβ−D−グルコピラノシド化合物を含有するチロシナーゼ活性阻害剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素チロシナーゼの作用を阻害し、メラニン生成を抑制する効果のあるチロシナーゼ活性阻害剤に関し、天然植物から抽出される成分、特にナンテン(Nandina domestica Thunb)の葉の抽出物又はこれに含まれる化合物を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤とその製法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ナンテンの葉から抽出、分離して得られる物質又は抽出エキスについては、抗酸化性(特許文献1及び特許文献2)、色素の退色防止効果(特許文献3)、香料の劣化防止効果(特許文献4)、DHA類の安定化効果(特許文献5)、除菌効果(特許文献6)、あるいは紫外線吸収効果・活性酸素除去能(特許文献7)等の種々の効果を示すことが開示されている。
【0003】
しかし、前記各文献において開示される作用機序は、日光照射における吸光度の変化、紫外線吸収度の変化あるいは除菌試験の結果等であって、チロシナーゼ活性阻害については開示されない。また、前記抽出物質の化学組成については、特開平9−249686号公報(特許文献2)において「1−β−O−(4−ホルミルフェニル)−4−O−[3−(3、4−ジヒドロキシフェニル)プロペノイル]−D−グルコピラノシド」なる化合物が開示されるのみである。この化合物は、ナンテンの葉(南天葉)を水又はアルコール類で抽出し、抽出液をクロマトグラム及びHPLCで精製して得たものである。
【0004】
一方、過剰な紫外線刺激による人皮膚の黒色化やシミ・ソバカスなどの生成は、一般に
人皮膚細胞中の酵素チロシナーゼが、チロシンないしドーパを酸化して生成した黒色のメラニンによることが知られている(特許文献8)。さらに人皮膚の美白用皮膚外用剤としてハイドロキノン、コウジ酸、アルブチン或いはビタミンC等のチロシナーゼ活性阻害剤がよく知られている(特許文献9)。しかし、これらのチロシナーゼ活性阻害剤においては、それぞれ安定性、安全性、性能等において一長一短が指摘されており、依然改良の余地が残されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−271654号公報
【特許文献2】特開平9−249686号公報
【特許文献3】特開平8−224068号公報
【特許文献4】特開平8−231979号公報
【特許文献5】特開平8−239685号公報
【特許文献6】特開平11−43442号公報
【特許文献7】特開2000−7521号公報
【特許文献8】特公平4−2562号公報
【特許文献9】特開2001−316268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題とするところは、天然植物の抽出物についてチロシナーゼ活性阻害能を調査・研究し、チロシナーゼ活性阻害剤の新しい供給源となり得る植物を開発すると共に、その作用をなす有効成分の製法とその化学組成を明らかにすることにより、人皮膚における美白用剤、或いはチロシンを含む食品類の褐変防止剤等の用途に好適に使用しうるチロシナーゼ活性阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するに当たり、亜熱帯に位置し多様な植生を有する沖縄地方において栽培される伝統的薬草や食用植物36種53部位(以下「サンプル」という)についてチロシナーゼ活性阻害作用を調査研究し、その中から前記阻害作用の強いサンプルを選択し、選択したサンプルの抽出物について有効成分の化学組成を分析確認した。その結果、特にナンテンの葉の抽出物が特に強いチロシナーゼ活性阻害作用を呈することを見出し、さらに前記抽出物中に含まれる下記一般式(1)(式中、RはCHOH基、COOH基またはCHO基を表わす)で示される化合物が、顕著なチロシナーゼ活性阻害作用を奏することを見出したことにより本発明をなすに至った。
【0008】
【化2】

【0009】
前記36種53部位の各サンプル名は、リュウキュウヨモギ(地上部)、バンジロウ(葉部)及び同(実部)、ロブスターユーカリ(葉部)、ボタンボウフウ(地上部)、ガジュツ(根茎部)、ヨモギ(地上部)、ハルウコン(根茎部)、ニガウリ(実部)、ビョウヤナギ(葉部)、同(枝部)及び同(地下部)、フウトウカズラ(地上部)、クチナシ(枝部)及び同(葉部)、ゲットウ(葉部)、同(葉柄部)、同(実部)及び同(根茎部)、アカメガシワ(枝部)及び同(葉部)、ブッソウゲ(枝部)、同(葉部)及び同(花部)、トウガン(実部)、サキシマスオウノキ(葉部)及び同(枝部)、ニガニガグサ(地上部)、トウアズキ(茎葉部)、ヒハツモドキ(地上部)、ジュズダマ(葉部)、サツマイモ(カライモ種)(地上部)及び同(塊根部)、サルカケミカン(枝葉部)及び同(茎部)、クミスクチン(地上部)、レモングラス(地上部)、キダチアロエ(葉部)、クコ(葉部)、ナンテン(葉部)、コヘンルーダ(茎葉部)、ホソバハダン(地上部)、ヒレザンショウ(実部)、同(葉部)及び同(枝部)、ツルグミ(枝部)及び同(葉部)、オモト(全草)、エビスグサ(種子部)、シマトウガラシ(実部)、サツマイモ(シモン種)(塊根部)、シークワシャー(枝部)及び同(葉部)である。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するための請求項1の発明は、前記一般式(1)(式中、RはCHOH基、COOH基またはCHO基を表わす)で示されるβ−D−グルコピラノシド化合物を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤であることを特徴とする。
【0011】
前記一般式(1)で示される化合物は、それぞれ公知の化合物であって、RがCH
H基の場合は1−β−O−[4−(ヒドロキシメチル)フェニル]−D−グルコピラノシド(以下「化合物1」という。)であり、RがCOOH基の場合は1−β−O−(4−カルボキシフェニル)−D−グルコピラノシド(以下「化合物2」という。)であり、またRがCHO基の場合は1−β−O−(4−ホルミルフェニル)−D−グルコピラノシド(以下「化合物3」という。)である。本発明では、これら三つの化合物をまとめてβ−D−グルコピラノシドと呼ぶ。しかし、従来これらの化合物がチロシナーゼ活性阻害剤として知られることはなかった。
【0012】
また、請求項2の発明は、前記化合物がナンテン(Nandina domestica Thunb)の葉から抽出により得られたものであることを特徴とする。ナンテンは古来より漢方薬としてその果実は咳止めに、又、その葉は強壮薬として愛用されている上、前記各文献にも種々の用途が開示されているが、チロシナーゼ活性阻害作用については明らかにされることはなかった。
【0013】
また、請求項3ないし5の発明は、それぞれ、請求項1又は2記載のチロシナーゼ活性阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤、化粧料及び食品褐変防止剤である。
【0014】
さらに請求項6の発明は、a.ナンテンの葉を極性溶媒で抽出し、抽出液を得る工程、b.前記抽出液から溶媒を除去し、抽出物を得る工程、c.前記抽出物のメタノール溶液をヘキサンで分画する工程、d.前記工程cの分画残余を酢酸エチルで分画する工程、及びe.前記工程dの残余をブタノールで分画し、水可溶部を得る工程を具備することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤の製法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、ナンテンの葉から抽出された化合物が、従来からよく知られているアルブチンと比較しても、遙かに優れたチロシナーゼ活性阻害効果を奏することが明らかとなり、且つその有効成分の製法及び化学組成式が明らかとなったことにより、天然物由来の新規なチロシナーゼ活性阻害剤が人皮膚の美白用剤、食品褐変防止剤等の用途に、従来にまして容易に提供できることとなり、又、ナンテンの葉の活用による農業生産性の向上、地域産業の活性化への波及効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態を説明するに当たり、前記53部位のサンプルから、高いチロシナーゼ活性阻害度を有する植物の選定、有効成分とその作用の確認、及び実施の態様と共に以下に説明する。
【0017】
(製法)本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は以下の工程a〜eによって作成した。図1は作成工程の一例を示している。
(a)植物乾燥体(以下「サンプル」という。)を、室温下、サンプルを重量比で10ないし15倍の極性溶媒中、5ないし10時間攪拌しながら浸積することにより、サンプルの抽出液(以下「抽出液」という。)を得る。溶媒としては、エタノールが好適に用いられるほか、水、アルコール類もしくはアセトン等の単独または含水有機溶媒を用いることができる。
(b)次に抽出液から溶媒を減圧下で蒸発させ、サンプルの抽出物(以下「抽出物」という。)を得る。
(c)前記抽出物を含水メタノールに懸濁し、これにヘキサンを加えて分配する。次いでそれぞれに分画して濃縮することにより、ヘキサン可溶部(以下「分画1」という。)と残余のメタノール可溶部を得る。
(d)メタノール可溶部は水に懸濁し、酢酸エチルで分配し、濃縮により酢酸エチル可溶部(以下「分画2」という。)を得る。
(e)一方、残余の水懸濁液は、ブタノール(BuOH)と分配し、それぞれ濃縮することにより、ブタノール可溶部(以下「分画3」という。)及び残余の水可溶部(以下「分画4」という。)を得る。本発明によると、分画4から最強の有効成分が得られる。
【0018】
(チロシナーゼ活性阻害率の測定と選別)チロシナーゼ活性阻害率(以下、単に「阻害率」ということがある。)は、ドーパの酸化物であり、黒色物質メラニン生成の中間体たるドーパクロームの生成度を、475nmにおける吸光度の変化を測定することにより求める。具体的には測定は二つの方法を用い、三段階に分けて有望なサンプルを選別する。先ず第1の方法は、抽出物のリン酸緩衝液(pH6.8)をマイクロプレートに入れ、そこへ先ずチロシナーゼ(シグマ社製)を加え、攪拌し、次にドーパ(シグマ社製D9628)を加えて、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用い475nmの吸光度の増加度を読み取る。これを「a」とする。一方、サンプルを加えない以外は前記と同じリン酸緩衝液(コントロール実験と呼ぶ)で、同様の操作を行い、吸光度の増加度を測定する。これを「b」とする。bとaの差から、式[(b−a)/b]×100を用いて阻害率を計算する。これを「活性測定A法」(以下「A法」という。)とする。これにより第1段目の選別をした。
【0019】
次に第2の方法は、先ず抽出物とドーパを共存させ、次にチロシナーゼを加える点以外は第1段目と同様にして475nmの吸光度の増加度(aおよびb)を読み、阻害率を計算する。この方法によると、後からチロシナーゼを加えることによりチロシナーゼによる真のドーパの酸化度に限りなく近い値を得、それより阻害率を求めることが出来る。これを「活性測定B法」(以下「B法」という。)とする。これにより第2段目の選別をした。
【0020】
さらに第3段目として、前記した、抽出物から有機溶剤等を用いて分画した各分画部について前記A法およびB法にて阻害率を測定する。これによって、チロシナーゼ活性阻害物質を同定するための分画精製物の選別をした。
【0021】
(化合物の同定)前記各過程を経て、前記53点のサンプル中からナンテンの葉を選定し、その分画精製物のうち最強の阻害率を示した前記「分画4」について、有効成分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC装置)により単離し、核磁気共鳴吸収スペクトル(NMRスペクトル)、質量分析スペクトル(MSスペクトル)及びアセチル化物のNMRスペクトル法による測定解析することにより、本発明の前記一般式(1)(式中、RはCHOH基、COOH基またはCHO基を表わす)で示されるβ−D−グルコピラノシド化合物を確認した。
【0022】
以上詳述したように、本発明により、ナンテンの葉部に前記一般式(1)で示される公知の化合物であるβ−D−グルコピラノシドが含まれていることが明らかとなり、且つ、これの優れたチロシナーゼ活性阻害作用が明らかになったことにより、天然物由来のチロシナーゼ活性阻害剤の原料としてナンテンの葉の利用、また、有効成分の製法及び有効成分の各種用途への利用が可能になる。
【0023】
(用途)本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、従来のチロシナーゼ活性阻害剤と同様に、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、食品添加物、飼料等の有効成分として利用可能であり、特に、美白効果を目的とした皮膚外用剤や化粧料、食品の褐変防止剤の有効成分として好適に用いられる。この場合、チロシナーゼ阻害剤の添加量は、特に限定されるものではなく、皮膚外用剤や化粧料、食品褐変防止剤の種類によって異なるが、上記一般式(1)で示されるβ−D−グルコピラノシド化合物として、0.01〜10.0重量%程度、好ましくは0.1〜5.0重量%程度であり、目的に合わせて適宜配合すればよい。
【0024】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を皮膚外用剤として利用する場合、その形態としては、軟膏剤、クリーム剤、乳剤、ゲル剤、ローション剤、トリートメント剤、貼付剤等が挙げられる。又、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を化粧料として利用する場合、その形態としては、クリーム、乳液、化粧水、ローション、ジェル、美容液、パックなどの基礎化粧品、又、日焼け止めクリーム、日焼け止めローション、日焼け止めリップクリームなどの日焼け止め化粧料、又、メイクアップベースクリーム、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、口紅などのメイクアップ化粧料、さらには、ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディローション、浴用剤などのボディ用化粧料などが挙げられる。
【0025】
上述したような皮膚外用剤や化粧料には、有効成分である本発明のチロシナーゼ活性阻害剤の他に、通常外用剤や化粧料などの製造に使用される原料、例えば界面活性剤、油分、水、保湿剤、アルコール類、増粘剤、安定剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、顔料、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、各種ビタミン類、各種アミノ酸類などを配合することもできる。さらに、他のチロシナーゼ活性阻害剤などの美白剤を配合することもできる。このような皮膚外用剤や化粧料を製造するには、常法にしたがい、皮膚外用剤や化粧料の製造の任意の段階で、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を適量添加すればよい。
【0026】
さらに本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を食品褐変防止剤として利用する場合、その対象となる食品としては、各種フルーツ、椎茸、マッシュルームなどのきのこ類、カニやエビなどの海産物などが挙げられる。その使用方法としては、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を適当な媒体で希釈し、この溶液を対象物に噴霧、または浸漬させることで食品表面の褐変を防止することができる。
【実施例】
【0027】
本発明の実験例を基に具体的に説明するが、本発明の主旨とするところは、決してこれに限定されるものではない。
(植物の成分抽出とチロシナーゼ阻害活性)沖縄地方において栽培される伝統的薬草や食用植物36種53部位の植物乾燥体をサンプルとし、エタノールで抽出した。抽出は、室温下で、サンプル約30gをエタノール350mgに浸漬し、6時間攪拌しながら行った。続いてエタノールを減圧下で蒸発させ、抽出物を得た。次に得られた抽出物のチロシナーゼ阻害活性率を二段階に分けて測定し、比較的高い阻害率を示すサンプルを選別した。選別されたサンプルの抽出植物名(部位)と測定結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に記載する活性測定A法の詳細は次のとおりである。最終植物抽出物の測定濃度が0.5mg/ml及び0.15mg/mlとなるように調製した1/15Mリン酸緩衝液(pH6.8)120μlを96穴マイクロプレートに入れ、そこに40U/mlのチロシナーゼ(シグマ社製)40μlを23℃で加え、攪拌し、10分後、2.5mMのドーパ(シグマ社製D9628)40μlを加えると同時に、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用い5分後の475nmの吸光度の増加度(a)を読み取る。一方、何もサンプルを加えないもの(コントロール実験と呼ぶ)で、同様な操作を行い、得られた吸光度の増加度(b)を用い、式[(b−a)/b]×100を用いてA法のチロシナーゼ活性阻害率(%inhibition±SD)を得る。
【0030】
活性測定B法の詳細は次の通りである。前記A法と同濃度のサンプルおよびドーパを共存させたマイクロプレートに同濃度のチロシナーゼを加え、サンプル実験ならびにコントロール実験を行い、同様に5分後の475nmの吸光度の増加度(aおよびb)を読み取り、阻害率を計算する。この方法によると、最後にチロシナーゼを加えることによりチロシナーゼによる真のドーパの酸化度に限りなく近い値を得ることができ、それよりB法のチロシナーゼ活性阻害率(%inhibition±SD)を得る。
【0031】
A法、B法のいずれにおいても吸光度の増加の測定は、ドーパの酸化物であり黒色物質メラニン生成の重要な中間体であるドーパクロームの生成度を、475nmの吸光度を用いて、吸光度測定器・マイクロプレートリーダー(株式会社バイオラッド製Model550)を用いて測定することによる。阻害度は、酵素チロシナーゼによる着色度合によることから、阻害度が大きいほどドーパクロームの生成が少ないので吸光度が低く、透過率が高い。すなわちチロシナーゼ無添加のサンプル混合液の透過率を100%としたときの検体液の透過率を「阻害率%±SD(標準偏差)」(%inhibition±SD)で表現している。また酸化反応の度合を直接的に見るのでB法の精度が高い。従って、実験では第1段目でA法による阻害活性を判別し、ここで強い阻害活性を示したサンプルについて、第2段目としてB法を適用するという二段階のプロセスでデータを得た。これを表1の中央列と右端列に示した。
【0032】
(測定結果)表1のA法の欄から明らかなとおり、ゲットウ(根茎部)、サキシマスオウノキ(枝部)、レモングラス(地上部)、ナンテン(葉部)及びツルグミ(枝部)の5サンプルがA法で強い阻害率を示した。次にこれら5サンプルについてB法による阻害度を測定し、B法の欄に記載する阻害率を得た。すなわち二段階の活性測定方法による結果から、ナンテンの葉部が、53サンプル中最強の阻害活性を示し、レモングラス(地上部)がそれに続く強度の阻害活性を示すことが判明した。
【0033】
(溶媒分画)第2段目で選別されたナンテン葉部及び比較サンプルのレモングラス地上部の各抽出物を、さらに有機溶剤を用いて分画した。これを表2に示す。ナンテンについては、抽出物の分画原料20.43gを含水メタノール200mlに懸濁し、ヘキサン200mlと分配して、それぞれ濃縮し、ヘキサン可溶部1.26g(分画1)と残りのメタノール可溶部を得た。メタノール可溶部は再度300mlの水に懸濁し、酢酸エチル450mlで分配した。酢酸エチル可溶部(分画2)を濃縮により6.11gを得た。一方、水懸濁液は、再度ノルマルブタノール450mlと分配し、それぞれ濃縮することにより、ノルマルブタノール可溶部6.24g(分画3)、水可溶部5.27g(分画4)を得た。
【0034】
同様な操作により、比較例のレモングラス抽出物8.44gより、ヘキサン可溶部2.84g、酢酸エチル可溶部2.78g、ノルマルブタノール可溶部0.99g、水可溶部2.16gを得た。
【0035】
【表2】

【0036】
(可溶画分のチロシナーゼ活性阻害率)上記分画法で得られた分画1ないし4について、前記A法およびB法にてチロシナーゼ阻害活性を測定した。その結果を表3に示す。表3から明らかとおり、ナンテンの葉の抽出物の可溶画分の中でも、特に水可溶画分(分画4)がA法及びB法の何れの方法においても、最も阻害率が高いという結果を得た。
【0037】
【表3】

【0038】
チロシナーゼ阻害活性は抽出物が含有する阻害活性物質によるものと考えられるが、阻害度から見ると、レモングラスは活性物質が各可溶部に広く存在し、分画による活性物質の濃縮には成功していない。従って本発明においては、これを比較例とした。一方、ナンテンに関しては、極性分画である水可溶部、ノルマルブタノール可溶部が他の分画部に比較して強く認められ、特に水可溶部は強く、活性物質の濃縮精製に成功したものと考えられる。よって、ナンテンの葉部抽出物からの分画4を化合物の組成分析に供した。
【0039】
(ナンテンの葉部抽出物の水可溶分画からチロシナーゼ阻害活性物質の同定)続いて最強の阻害活性を示したナンテンの葉部の抽出物水可溶画分(分画4)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC装置)により分析した。その結果、HPLCのデータを図2に示す。図2から明らかなように、3つの強い化合物ピークを示した。そのピーク1、2および3に該当する物質をHPLCにて精製単離し、化合物1、化合物2および化合物3を得た。これらの核磁気共鳴吸収スペクトル(NMRスペクトル)、質量分析スペクトル(MSスペクトル)及びアセチル化物のNMRスペクトル法による測定解析の結果、化学構造を決定した。すなわち各化合物は前記一般式(1)で表されるβ−D−グルコピラノシドであって、それぞれ1−β−O−[4−(ヒドロキシメチル)フェニル]−D−グルコピラノシド(化合物1)、1−β−O−(4−カルボキシフェニル)−D−グルコピラノシド(化合物2)、及び1−β−O−(4−ホルミルフェニル)−D−グルコピラノシド(化合物3)であることが確認された。化合物1、2、3およびそのアセチル化誘導体の前記機器分析データは表4、5、及び6に示す通りであった。
【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
【表6】

【0043】
(本発明とアルブチンとのチロシナーゼ活性阻害率比較)精製単離した化合物1、2および3と従来からチロシナーゼ活性阻害剤として多用されているアルブチンのチロシナーゼ活性阻害率をB法により測定し、比較した。その結果を表6に示す。表6から明らかなとおり、本発明の化合物が従来品に比べて極めて高いチロシナーゼ活性阻害率を示し、新しいチロシナーゼ活性阻害剤として好適な物質であることが明らかとなった。また同時に、これらを含有する前記ナンテンの葉部がその原料として極めて有用であることが明らかとなった。
【0044】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のβ−D−グルコピラノシド化合物は、酵素チロシナーゼの作用を阻害し、メラニン生成を抑制する効果、いわゆるチロシナーゼ阻害活性を有する。しかも、薬草としてよく知られているナンテンの葉から抽出、分離して得られる物質であるため、安全性も高い。従って、チロシナーゼ活性阻害剤として非常に有用であり、従来のチロシナーゼ活性阻害剤と同様に、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、食品添加物、飼料等の有効成分として利用可能である。特に、人皮膚の黒色化やシミ・ソバカスなどの色素沈着の防止・改善を目的とした美白用の皮膚外用剤や化粧料、さらに各種フルーツ、きのこ類、カニやエビなどの海産物などの食品褐変防止剤として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明における製法を示すフロー図である。
【図2】本発明における抽出物の分画精製した水可溶部のHPLC測定データを示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1・・・HPLC測定における化合物1のピークを示す。
2・・・HPLC測定における化合物2のピークを示す。
3・・・HPLC測定における化合物3のピークを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)(式中、RはCHOH基、COOH基またはCHO基を表わす)で示されるβ−D−グルコピラノシド化合物を含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤。
【化1】

【請求項2】
前記一般式(1)の化合物がナンテン(Nandina domestica Thunb)の葉から抽出されたものであることを特徴とする請求項1記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のチロシナーゼ活性阻害剤を有効成分として含有する皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項1又は2記載のチロシナーゼ活性阻害剤を有効成分として含有する化粧料。
【請求項5】
請求項1又は2記載のチロシナーゼ活性阻害剤を有効成分として含有する食品褐変防止剤。
【請求項6】
請求項2記載の抽出方法が、次の工程aないしeを具備することを特徴とする、チロシナーゼ活性阻害剤の製法。
a.ナンテンの葉を極性溶媒で抽出し抽出液を得る工程。
b.前記抽出液から溶媒を除去し、抽出物を得る工程。
c.前記抽出物のメタノール溶液をヘキサンで分画する工程。
d.前記工程cの残余を酢酸エチルで分画する工程。
e.前記工程dの残余をブタノールで分画し、水可溶部を得る工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−176420(P2006−176420A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369033(P2004−369033)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】