説明

チロシンキナーゼインヒビターに対する感受性を増加する方法と組成物

本発明は、上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する疾患細胞を、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対して増感する方法であって、前記細胞をmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAと接触させるステップを含むものである前記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、疾患細胞、特に癌細胞のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性を増加する方法に関する。特に、本発明はチロシンキナーゼインヒビター耐性癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性を増加する方法であって、特異的または選択的に上皮成長因子受容体およびそのシグナル伝達経路を標的化する前記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮成長因子受容体(EGFR)はリガンド活性化受容体チロシンキナーゼであり、ErbB受容体ファミリーの一メンバーである。EGFRリガンドには、上皮成長因子(EGF)ファミリー、例えばEGF、トランスフォーミング成長因子α(TGFα)、ヘパリン結合EGF様成長因子(HB-EGF)、アンフィレグリン(AR)、エピレグリン(EPR)、ベタセルリン(BTC)、エピゲンおよびニューレグリン(NRG)-1、NRG-2、NRG-3およびNRG-4のメンバーが含まれる。EGFRリガンド調節不全はいくつも疾患で現れる。例えば、非小細胞肺癌において、血漿TGFαの増加はエルロチニブ耐性に関連しかつアンフィレグリン増加は悪い予後判定の指標である。
【0003】
EGFRは多数の癌において過剰発現されるので、抗癌療法の標的である。例えば、頭頸部癌(HNC)全体の80%超はEGFRを過剰発現する。EGFRからのシグナル伝達は下流のホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)/AktおよびRas/Raf/MAPK経路の活性化をもたらして腫瘍増殖、浸潤、転移、血管新生およびアポトーシス阻害を促進し、これらは全て癌進行および良くない患者予後判定をもたらす。(チロシンキナーゼインヒビターとして作用する)いくつものEGFRのインヒビターが抗癌治療薬として開発されている。しかし、EGFRを標的化するチロシンキナーゼインヒビターによる臨床試験では、HNCを含む癌の範囲において限られた成果しか得られておらず、それにはゲフィチニブおよびエルロチニブおよびモノクローナル抗体セツキシマブが含まれる。抗EGFRチロシンキナーゼインヒビターの臨床使用における主な課題の1つは、これらの治療薬に対する癌の先天的および後天的耐性にある。チロシンキナーゼインヒビター耐性を克服し、チロシンキナーゼインヒビターの効力をより一般的に増加するための有効な手法の開発に関心が高まりつつありかつ必要性が強まっている。
【0004】
マイクロRNA(miRNA)は高度に保存された、スモール内因性非タンパク質コーディングRNA(典型的には21〜25個のヌクレオチド)の豊富なクラスであり、遺伝子発現をネガティブに調節する。miRNAはメッセンジャーRNA(mRNA)内の特異的3-非翻訳領域(3'UTR)と結合してmRNA切断または翻訳阻止を誘発する。個々のmiRNAは典型的にはそのコグネイト標的メッセンジャーRNA(mRNA)と不完全に結合し、ユニークなmiRNAは複数遺伝子の発現を調節することができる。
【0005】
miRNAは、非コーディングDNAの領域から転写された数百個のヌクレオチドを通常含有するRNA前駆体(pri-miRNA)から作製される。pri-miRNAは核内でRNaseIIIエンドヌクレアーゼによりプロセシングされておよそ70個のヌクレオチドのステム-ループ前駆体(pre-miRNA)を形成する。pre-miRNAは細胞質中に能動輸送され、ここでショートRNA二本鎖、典型的には21〜23bpにさらにプロセシングされる。機能性miRNA鎖は相補的な非機能性鎖から分離され、RNA誘発型サイレンシング複合体(RISC)内に置かれる。(あるいはRISCはpre-mRNAヘアピン構造を直接積み込んでもよい)。miRNAは標的mRNAの3'UTRと結合する、そしてこの結合において重要なのはmiRNAの5'末端近くのおよそ6〜7個のヌクレオチド(典型的にはヌクレオチド位置2〜8)のいわゆる「シード(seed)」領域である。3'末端の役割はそれほど明確でない。遺伝子発現のmiRNA誘発型調節は、典型的には翻訳阻止、あるいはリボソームから現れるタンパク質の分解またはリボソームの「凍結」および/または標的mRNAのRNA破壊部位中への運動の促進により達成される。
【0006】
miRNAは多くの正常な細胞機能に重大な影響を与え、幹細胞分裂、胚発生、細胞分化、炎症および免疫などのプロセスに関わる。特定のmiRNA、および個々のmiRNAの発現パターンおよび発現の調節の変化が、癌を含む様々な病状において関係付けられる例が増えている。いくつかのmiRNAは癌において変化し、腫瘍サプレッサーまたは癌遺伝子として作用しうる。例えば、let-7d(miRNAのlet-7ファミリー)は正常な頭頸部組織においてRAS癌遺伝子発現を調節するが、多くの頭頸部でlet-7d発現が低下すると、RAS発現をアップレギュレーションし、腫瘍成長を増加して患者生存率が低下する。対照的に、miR-184発現は舌扁平上皮細胞癌においてアップレギュレーションされ、癌遺伝子c-Myc発現の増加、細胞増殖および腫瘍成長の増加に導く。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様において、本発明は上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する疾患細胞を、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対して増感する方法であって、前記細胞をmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAと接触させるステップを含むものである前記方法を提供する。
【0008】
典型的には疾患細胞は癌細胞である。
【0009】
典型的な増感は、miRNA非存在のもとで要する細胞分裂停止または細胞傷害の用量より低い細胞分裂停止または細胞傷害の用量のチロシンキナーゼインヒビターに対して、細胞を感受性にする。
【0010】
チロシンキナーゼインヒビターは、例えば、小分子または抗体であってもよい。特別な実施形態においては、チロシンキナーゼインヒビターをエルロチニブ、ゲフィチニブおよびAG1478から選択することができる。
【0011】
miR-7 miRNAはhsa-miR-7であってもよく、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含んでもよい。miR-7 miRNA前駆体はhsa-miR-7-1、hsa-miR-7-2およびhsa-miR-7-3、および配列番号2〜4のいずれか1つに記載の配列を含んでもよい。
【0012】
第二の態様において、本発明は上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する疾患細胞を、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対して増感する方法であって、前記細胞を、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤と接触させ、その際、刺激または亢進されるmiRNAの発現または活性が前記疾患細胞をチロシンキナーゼインヒビターに対して増感するステップを含むものである前記方法を提供する。
【0013】
第三の態様において本発明は、癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する被験体における癌を治療する方法であって、被験体にEGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAとの組み合わせを投与するステップを含む前記方法を提供する。
【0014】
前記治療の非存在のもとで、癌はチロシンキナーゼインヒビターに対する耐性を提示しうる。耐性は後天性または先天性であってもよい。
【0015】
EGFRを発現する癌は、例えば、頭頚部癌、グリア芽細胞腫、膵臓癌、結腸癌、結腸直腸癌、鼻咽頭癌、子宮癌、頚部癌、食道癌、胃癌、腎癌、膀胱癌、小細胞肺癌を含む肺癌、前立腺癌、乳癌、肝臓癌、神経芽細胞腫または黒色腫から選択することができる。
【0016】
チロシンキナーゼインヒビターは例えば、小分子または抗体であってもよい。特別な実施形態において、チロシンキナーゼインヒビターはエルロチニブ、ゲフィチニブおよびAG1478から選択される。
【0017】
miR-7 miRNAはhsa-miR-7であってもよくそして配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含んでもよい。miR-7 miRNA前駆体はhsa-miR-7-1、hsa-miR-7-2およびhsa-miR-7-3からなる群より選択してもよく、そして配列番号2〜4のいずれか1つに記載の配列を含んでもよい。
【0018】
チロシンキナーゼインヒビターとmiRNAは、製薬上許容される担体、賦形剤またはアジュバントと一緒に製剤した単一組成で投与してもよくまたは別の組成物で投与してもよい。薬剤を別に投与する場合、投与は同時または逐次であってもよい。
【0019】
特別な実施形態において、miRNAの投与は、miRNA非存在のもとで要する細胞分裂停止または細胞傷害の用量より低い細胞分裂停止または細胞傷害の用量のチロシンキナーゼインヒビターに対して、癌を感受性にする用量である。従って、投与が逐次である場合、典型的には、miRNAを投与した後にチロシンキナーゼインヒビターを投与する。
【0020】
第四の態様において、本発明は癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する被験体における癌を治療する方法であって、被験体にEGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤との組み合わせを投与するステップを含むものである前記方法を提供する。
【0021】
第五の態様において、本発明は、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの使用であって、癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する癌の治療用医薬品を製造するための前記使用を提供する。
【0022】
第六の態様において、本発明は、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤の使用であって、癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する癌の治療用医薬品を製造するための前記使用を提供する。
【0023】
本発明の第七の態様は、腫瘍または癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する被験体における腫瘍成長、癌転移または再発を予防または軽減する方法であって、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの有効量を被験体に投与するステップを含むものである前記方法を提供する。
【0024】
本発明の第八の態様は、腫瘍または癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する被験体における腫瘍成長、癌転移または再発を予防または軽減する方法であって、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤の有効量を被験体に投与するステップを含むものである前記方法を提供する。
【0025】
本発明の第九の態様は、上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する癌の、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性の変化を測定する方法であって、
(a)被験体に、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAを投与するステップ;
(b)被験体からの生体サンプルにおけるEGFRリガンドの発現レベルを測定するステップ;
(c)ステップ(a)と(b)を或る期間にわたって少なくとも1回繰り返すステップ;
および
(d)サンプル中のEGFRリガンドの発現レベルを比較し、ここでEGFRリガンドの発現レベルの変化は癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性を示すものであるステップ
を含むものである前記方法を提供する。
【0026】
EGFRリガンドはTGFα、HB-EGF、アンフィレグリン、エピレグリン、ベタセルリン、エピゲン(epigen)、NRG-1、NRG-2、NRG-3またはNRG-4であってもよい。
【0027】
特別な実施形態において、EGFRリガンドはTGFαである。サンプルは血漿または血清であってもよい。サンプルは血液を含んでもよい。典型的には、正常な細胞と比較した癌細胞中のTGFαの発現レベルの上昇は癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する耐性の指標である。それ故にまた、典型的には、癌細胞中のTGFαの発現レベルの低下は癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性の増加である。チロシンキナーゼインヒビターはエルロチニブであってもよい。
【0028】
本発明の第十の態様は、癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する被験体における癌を治療する方法であって、
(a)被験体にmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAを投与するステップ;
(b)被験体から生体サンプルを得るステップ;
(c)サンプル中のEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを測定するステップ;
(d)ステップ(b)および(c)を治療期間にわたって少なくとも1回繰り返すステップ;
(e)EGFRリガンドの発現および/または活性が前記期間にわたって変化するかどうかを測定するステップ;および
(f)EGFRリガンドの発現および/または活性のレベルの変化が見られる場合、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターを投与するステップ
を含むものである前記方法を提供する。
【0029】
本発明の第十一の態様は、癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する癌を患う被験体における治療レジメンの効力を評価する方法であって、
(a)被験体をEGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの組み合わせを用いてレジメンの効力を評価するのに十分な期間、治療するステップ;
(b)被験体から生体サンプルを得るステップ;
(c)サンプル中のEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを測定するステップ;
(d)ステップ(b)および(c)を治療期間にわたって少なくとも1回繰り返すステップ;および
(e)EGFRリガンドの発現および/または活性が前記期間にわたって変化するかどうかを測定し、ここでEGFRリガンドの発現レベルの変化は治療レジメンの効力を示すものであるステップ
を含むものである前記方法を提供する。
【0030】
サンプル中のTGFαの発現レベルは癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性または耐性のレベルを予測できるものでり、それによって治療レジメンを調節することができる。
【0031】
本発明また、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNA、またはかかるmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤を含むものである医薬組成物を提供する。
【0032】
限定されるものでない実施例として、本発明の実施形態を以下の図を参照して記載しかつ例示する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1−1】HNC細胞株のEGFR経路発現の特徴とエルロチニブ感受性を示す。(A)は0.5%FBSを含有する培地における血清飢餓24時間後、FaDu、SCC-9およびHN5 HNC細胞株から収穫したタンパク質抽出物を用いる相対的EGFR、P-EGFR、Akt、P-Aktおよびβ-アクチン(対照)発現の免疫ブロット検出を示す。データは3つの独立実験の代表値である。(B)は3種のHNC細胞株のエルロチニブに対する感受性を示す。データは0μM(DMSOネガティブ対照)〜100μMの間の濃度のエルロチニブを添加後3日の最大細胞成長として表す。データは薬物の最低濃度に対して正規化した。バーはビヒクル(DMSO)単独と比較した細胞数の平均差(±SD)を表す。データは少なくとも3つの独立実験の値を表す。
【図1−2】HNC細胞株のEGFR経路発現の特徴とエルロチニブ感受性を示す。(A)は0.5%FBSを含有する培地における血清飢餓24時間後、FaDu、SCC-9およびHN5 HNC細胞株から収穫したタンパク質抽出物を用いる相対的EGFR、P-EGFR、Akt、P-Aktおよびβ-アクチン(対照)発現の免疫ブロット検出を示す。データは3つの独立実験の代表値である。(B)は3種のHNC細胞株のエルロチニブに対する感受性を示す。データは0μM(DMSOネガティブ対照)〜100μMの間の濃度のエルロチニブを添加後3日の最大細胞成長として表す。データは薬物の最低濃度に対して正規化した。バーはビヒクル(DMSO)単独と比較した細胞数の平均差(±SD)を表す。データは少なくとも3つの独立実験の値を表す。
【図2】miR-7がHNC細胞株におけるEGFR発現およびシグナル伝達を調節することを示す。(A)ビヒクル(リポフェクタミン2000、LF)単独、30nM miR-7または30nM miR-NC(ネガティブ対照)前駆体でのトランスフェクション後3日のFaDuおよびHN5 HNC細胞株から収穫したタンパク質抽出物を用いたEGFR、P-EGFR、Akt、P-Aktおよびβ-アクチン(対照)発現の免疫ブロット検出を示す。データは3回の独立実験結果を表す。(B)30nM miR-7またはmiR-NC前駆体でのトランスフェクション24時間後、HN5細胞中のEGFR mRNA発現の定量RT-PCR分析を示す。EGFR mRNA発現をGAPDH mRNA発現に対して正規化し、2-ΔΔCT方法を用いてmiR-NC-トランスフェクトした細胞の比(±SD)として示す。バーはmiR-NCと比較した平均mRNA発現(±SD)を意味する。データは単一実験の値を表す。***はmiR-NC処理した細胞からの有意差(p < 0.001)を示す。(C)トランスフェクション後24時間、全長野生型EGFR 3'-UTR内のmiR-7標的部位に対するmiR-7の活性を実証するルシフェラーゼレポーターアッセイを示す。FaDu細胞を、全長野生型EGFR 3'-UTRホタルルシフェラーゼプラスミドおよび1nM miR-7またはmiR-NC前駆体でトランスフェクトした。相対ルシフェラーゼ発現(ウミシイタケに対して正規化したホタル)値をビヒクル(リポフェクタミン2000、LF)単独の比として表した。バーは標準偏差(SD)を表す。データは単一実験の代表値である。***はビヒクル(リポフェクタミン2000、LF)で処理したレポーターベクター(p<0.001)からの有意差を示す。
【図3】エルロチニブ感受性HN5 NHC細胞はmiR-7によるEGFR経路遮断に感受性であることを示す。5nM miR-7またはmiR-NC前駆体でのトランスフェクション後5日の細胞生存率の細胞力価分析。バーはビヒクル(リポフェクタミン2000、LF)単独と比較した細胞数の平均差(±SD)を意味する。下のパネルはグラフ中のデータを作るのに用いたウエルの写真である。データは3つの独立実験の値を表す。**はネガティブ対照(miR-NC)で処理した細胞から有意差(p<0.01)を示す。
【図4−1】エルロチニブ耐性FaDu HNC細胞をmiR-7によりエルロチニブに対して増感できることを示す。パネルAは、5nM miR-7またはmiR-NC前駆体でのトランスフェクション後7日の細胞生存率の細胞力価を示す。エルロチニブ(7.5μM)をトランスフェクション後3日に4日間加えた。バーはビヒクル(DMSO)単独と比較した細胞数(±SD)の平均差を表す。データは3つの独立実験値である。**はネガティブ対照(miR-NC)エルロチニブで処理した細胞(p<0.01)からの有意差を示す。†は、miR-7とエルロチニブを組み合わせて用いるときの相乗作用を示す。パネルBはビヒクル(リポフェクタミン2000)単独、miR-7またはmiR-NC前駆体でのトランスフェクション後4日のFaDu HNC細胞株から収穫したタンパク質抽出物を用いたEGFR、P-EGFR、Akt、P-Aktおよびβ-アクチン(対照)発現の免疫ブロット検出を示す。エルロチニブ (7.5 μM)をトランスフェクション後3日に24時間加えた。データは2回の独立実験結果を表す。†は、miR-7とエルロチニブによる組み合わせ処理を示す。
【図4−2】エルロチニブ耐性FaDu HNC細胞をmiR-7によりエルロチニブに対して増感できることを示す。パネルAは、5nM miR-7またはmiR-NC前駆体でのトランスフェクション後7日の細胞生存率の細胞力価を示す。エルロチニブ(7.5μM)をトランスフェクション後3日に4日間加えた。バーはビヒクル(DMSO)単独と比較した細胞数(±SD)の平均差を表す。データは3つの独立実験値である。**はネガティブ対照(miR-NC)エルロチニブで処理した細胞(p<0.01)からの有意差を示す。†は、miR-7とエルロチニブを組み合わせて用いるときの相乗作用を示す。パネルBはビヒクル(リポフェクタミン2000)単独、miR-7またはmiR-NC前駆体でのトランスフェクション後4日のFaDu HNC細胞株から収穫したタンパク質抽出物を用いたEGFR、P-EGFR、Akt、P-Aktおよびβ-アクチン(対照)発現の免疫ブロット検出を示す。エルロチニブ (7.5 μM)をトランスフェクション後3日に24時間加えた。データは2回の独立実験結果を表す。†は、miR-7とエルロチニブによる組み合わせ処理を示す。
【図5−1】miR-7発現を細胞株U251(図5A)、U87(図5B)およびU373(図5C)のグリア芽細胞腫細胞に再適用すると、これらの細胞をチロシンキナーゼインヒビターAG1478に対して増感することを示す。細胞を10nM miR-7またはmiR-NCでトランスフェクトした。2日後、細胞を、AG1478の公知の無効用量(U251およびU87細胞については7.5μM、およびU373細胞については12.5μM)で処理し、生存細胞数をさらに3日後に測定した。図5Bでバーは左から右へ、LF2000+DMSO、LF2000+AG1478、pre-miR-7(10nM)+DMSO、pre-miR-7(10nM)+AG1478、pre-miR-NC(10nM)+DMSO、pre-miR-NC(10nM)+AG1478を表す。図5Cでバーは左から右へ、LF2000、LF2000+AG1478(12.5μM)、pre-miR-7(10nM)、pre-miR-7(10nM)+AG1478(12.5μM)、pre-miR-NC(10nM)、pre-miR-NC(10nM)+AG1478(12.5μM)を表す。
【図5−2】miR-7発現を細胞株U251(図5A)、U87(図5B)およびU373(図5C)のグリア芽細胞腫細胞に再適用すると、これらの細胞をチロシンキナーゼインヒビターAG1478に対して増感することを示す。細胞を10nM miR-7またはmiR-NCでトランスフェクトした。2日後、細胞を、AG1478の公知の無効用量(U251およびU87細胞については7.5μM、およびU373細胞については12.5μM)で処理し、生存細胞数をさらに3日後に測定した。図5Bでバーは左から右へ、LF2000+DMSO、LF2000+AG1478、pre-miR-7(10nM)+DMSO、pre-miR-7(10nM)+AG1478、pre-miR-NC(10nM)+DMSO、pre-miR-NC(10nM)+AG1478を表す。図5Cでバーは左から右へ、LF2000、LF2000+AG1478(12.5μM)、pre-miR-7(10nM)、pre-miR-7(10nM)+AG1478(12.5μM)、pre-miR-NC(10nM)、pre-miR-NC(10nM)+AG1478(12.5μM)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書で言及した配列識別子に対応するヌクレオチド配列の表を本明細書に与える。成熟ヒトmiR-7、ヒトmiR-7前駆体およびシード領域のヌクレオチド配列を配列番号1〜5に掲げる。配列番号6〜9は、本明細書で例示した本研究に用いたオリゴヌクレオチドの配列を与える。
【0035】
定義
本明細書および添付した請求項で使用する、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」には文脈が明確に規定しなくとも複数の言及を含む。従って、例えば、「核酸分子」への言及には、複数の核酸分子を含み、そして「細胞」への言及は1以上の細胞への言及を含む、等々である。
【0036】
本明細書および続く請求項を通して、文脈が特に断らない限り、用語「含む」とその文法上の変化形は、言及した整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループを包含するが、他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループを排除するものでないことを理解されたい。
【0037】
本明細書に使用する用語「オリゴヌクレオチド」は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド塩基、天然ヌクレオチドの公知の類似体、またはそれらの混合物の一本鎖配列を意味する。「オリゴヌクレオチド」はDNA、RNA、PNA、LNAまたはこれらのいずれかの組み合わせを含む核酸系分子を含む。主に天然または非天然のリボヌクレオチド塩基を含むオリゴヌクレオチドを、RNAオリゴヌクレオチドと呼んでもよい。オリゴヌクレオチドは典型的には短い(例えば、長さで50ヌクレオチド未満の)配列であって、例えば、直接化学合成またはクローニングおよび適当な配列の制限酵素切断を含むいずれかの好適な方法により調製することができる。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は特定のDNAまたはRNA配列と相補的なオリゴヌクレオチドである。典型的には本発明の文脈においてアンチセンスオリゴヌクレオチドは特定のmiRNAと相補的なRNAオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドはその相補的なmiRNAと結合して、その活性を部分的にまたは全面的に、サイレンシングするかまたは抑圧する。アンチセンスオリゴヌクレオチドの全塩基が「標的」またはmiRNA配列と相補的である必要はない;前記オリゴヌクレオチドがその標的を認識できるために十分な相補性塩基を含有することだけが必要である。オリゴヌクレオチドはまた、さらなる塩基を含んでもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチド配列は未改変のリボヌクレオチド配列であってもよくまたは本明細書に記載の様々な手段により化学的に改変されていてもまたはコンジュゲートされていてもよい。
【0038】
本明細書で使用する用語「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド塩基または天然ヌクレオチドの公知の類似体、またはそれらの混合物の一本鎖または二本鎖ポリマーを意味する。ポリヌクレオチドは核酸系分子を含むものであって、DNA、RNA、PNA、LNAまたはそれらのいずれかの組み合わせを含む。この用語は、特に断らなければ、特定した配列ならびにその相補的な配列への言及を含む。ポリヌクレオチドは当業者に公知の様々な手段により化学的に改変されてもよい。従って、「ポリヌクレオチド」は核酸系分子を含むものであって、DNA、RNA、PNA、LNAまたはそれらのいずれかの組み合わせを含む。
【0039】
用語「配列同一性」または「配列同一性のパーセント」は、2つの最適にアラインされた配列またはサブ配列を比較ウインドウまたはスパンにわたって比較することにより決定することができ、その際、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加または欠失の含まないもの)と比較して、任意に、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。
【0040】
本明細書で使用する用語「治療する」および「治療」ならびに文法的同意語は、症状または症候群を治療する、症状または疾患の確立を予防する、またはそうでなく、症状または疾患または他の望ましくない症候群の進行をいずれかの方法で予防する、妨げる、遅らせる、または逆転する、いずれかおよび全ての使用を意味する。従って、用語「治療」はその最も広い文意と考えるべきである。例えば、治療は必ずしも患者を全快まで治療することを意味しない。複数の症候群により現われるまたは特徴付けられる症状の場合、治療は必ずしも前記症候群の全てを治療し、予防し、妨げ、遅らせ、または逆転する必要はなく、前記症候群の1以上を予防し、妨げ、遅らせ、または逆転すればよい。
【0041】
本明細書で使用する用語「有効量」はその意味に、無毒であるが所望の効果を与えるために十分な薬剤または化合物の量または用量を含むものである。必要とされる正確な量または用量は被験体毎に、諸因子、例えば、治療する種、被験体の年齢および一般症状、治療する症状の重篤度、投与する具体的な薬剤、ならびに投与様式などに応じて変わりうる。従って、正確な「有効量」を明記することはできない。しかし、いずれの場合でも、当業者は適当な「有効量」を、ごく通常の実験を用いて決定することができる。
【0042】
本明細書で使用する用語「選択的」は、EGFRのチロシンキナーゼ活性を阻害する化合物の能力の文脈で用いる場合、前記化合物が、直接的または間接的に、それが他の受容体と相互作用するより有意に高い頻度でEGFRと相互作用することを意味する。EGFRに対して「特異的」チロシンキナーゼインヒビターは、他の受容体では認識しうる活性を有しないものである。従って、EGFRに対して「特異的」インヒビターは定義によりEGFRに選択的である。
【0043】
本明細書で使用する用語「被験体」は哺乳動物を意味し、それには、ヒト、霊長類、家畜類(例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験動物(例えばマウス、ウサギ、ラット、モルモット)、演技および興行動物(例えばウマ、家畜、イヌ、ネコ)、愛玩動物(例えばイヌ、ネコ)および捕獲野生動物が含まれる。好ましくは、哺乳動物はヒトまたは実験動物である。さらにより好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0044】
詳細な説明
最初に理解されたいのは、本明細書に記載の図および実施例は本発明およびその様々な実施形態を例示するものであって限定するものでない。
【0045】
本明細書に例示したように、本発明者らは、上皮成長因子受容体(EGFR)がmiRNA miR-7の標的であって、癌細胞株においてmiR-7によりダウンレギュレーションされることを同定した。さらに、本発明者らはmiR-7の使用が癌細胞をチロシンキナーゼインヒビターに対して増感することを同定した。従って、本明細書に開示した実施形態において提供されるのは、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAを用いて、上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する疾患細胞をEGFRに選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対して増感する方法および組成物である。特別な実施形態においては、本明細書に開示した方法および組成物を用いてEGFR発現に関連する疾患と症状、例えば癌を治療する。
【0046】
本発明の実施形態は、特に断らなければ、当業者に公知の通常の分子生物学および薬理学を使用する。かかる技法は、例えば、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 2nd Ed., (ed. by Sambrook, Fritsch and Maniatis) (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989);"Nucleic Acid Hybridization", (Hames & Higgins eds. 1984);"Oligonucleotide Synthesis" (Gait ed., 1984);Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th Edition, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, USA.;"The Merck Index", 12th Edition (1996), Therapeutic Category and Biological Activity Index;および"Transcription & Translation", (Hames & Higgins eds. 1984)に記載されている。
【0047】
本明細書におけるいずれかの先行開示物(またはそれに由来する情報)へのまたは公知であるいずれかの事柄への言及は、先行開示物(またはそれに由来する情報)または公知の事柄は本明細書が関係する努力分野における一般知識の部分を形成することの承認もしくは認容またはいずれかの形の示唆でなく、その様に解釈すべきでない。
【0048】
miRNA
microRNA(miRNA)は小さい非コーディングRNAであって、mRNA上の相補部位との結合により遺伝子発現を制御する植物および動物の調節分子として機能する。いずれの理論または仮説による束縛を欲することなく、miRNA miR-7はEGFをコードするmRNAの3'UTRと結合するという本発明者らの発見に基づいて本発明を断言した。さらに、本発明者らは驚くべきことにEGFRを発現または過剰発現する癌細胞、例えば頭頸部癌細胞におけるmiR-7の発現の増加は、EGFR mRNAおよびタンパク質発現のレベル低下、EGFR下流のシグナル伝達の低下、G1期細胞サイクル停止および細胞死をもたらすことを発見した。
【0049】
miRNAは標的mRNAの3'UTRと結合する、そしてこの結合において重要なのはmiRNAの5'末端近くのほぼ6〜7ヌクレオチド(典型的にはヌクレオチド位置2〜8)のいわゆる「シード」領域である。それ故に、本発明の実施形態は、少なくともその1つがmiR-7のシード領域を有する1以上のmiRNAを細胞または組織と接触するステップ、またはそれを必要とする被験体に投与するステップを広く意図する。特別な実施形態において、このシード領域は配列GGAAGA(配列番号5)を含むものである。
【0050】
特別な実施形態においては、miR-7を使用する。ヒトmiR-7のヌクレオチド配列を配列番号1に記載する。miR-7 miRNAについてのさらなる配列情報はhttp://microRNA.sanger.ac.uk/sequences/index.shtmlに見出すことができる。ほとんどのmiRNAのように、miR-7は色々な種の間で高度に保存されている。従って、典型的にはmiRNAを治療する被験体の種から誘導するかまたはその種から同一の配列を構築することができるものの、例えば、種間のmiRNA配列の高い配列保存レベルを考えれば、この必要はない。
【0051】
本発明の実施形態はまた、miR-7のmiRNA変異体の投与を意図する。変異体は本明細書に開示したmiRNAの配列と実質的に類似であるヌクレオチド配列を含む。変異体は本明細書に開示したmiRNAの配列と実質的に類似であるヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、投与する変異体miRNAはmiR-7(配列番号1)の配列と少なくとも80%配列同一性を示す配列を含む。いくつかの実施形態において、投与する前記miRNAは配列番号1と少なくとも90%配列同一性を示す配列を含む。他の実施形態において、投与するmiRNAは配列番号1と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を示す配列を含む。あるいはまたはさらに、変異体はmiR-7配列と比較して1以上の位置に非天然残基を有するなどの改変を含んでもよい。
【0052】
意図するのはまた、miR-7または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの前駆体分子の投与である。miRNAは、非コーディングDNAの領域から転写された数百ヌクレオチドを通常含有するRNA前駆体(pri-miRNA)から作製される。Pri-miRNAは核内でRNaseIIIエンドヌクレアーゼによりプロセシングされて、およそ70ヌクレオチドのステム-ループ前駆体(pre-miRNA)を形成する。Pre-miRNAは細胞質中に能動的に輸送され、ここでさらにプロセシングされて、典型的には21〜23bpのショートRNA二本鎖となり、その1つが機能性miRNA鎖となる。かかるpri-miRNAおよびpre-miRNA前駆体の投与を本発明は意図しており、この場合、pri-miRNAまたはpre-miRNAは切断されて細胞内で機能性miRNAが作製される。
【0053】
配列番号1に示した全長miR-7分子だけでなく、用語「miR-7」はまた、その断片が機能性断片である限りmiR-7分子の断片を含む。miRNA分子の「断片」は全長分子の一部分を意味する。断片のサイズはそれが機能性断片でなければならない、すなわち、EGFRの発現をモジュレートし、細胞成長をモジュレートするおよび/または細胞分化をモジュレートすることができるという点だけで限定される。典型的には、少なくとも、シード領域配列GGAAGA(配列番号5)を含みうる。
【0054】
miRNAの投与は治療の必要がある被験体に直接であってもよく、または被験体由来の細胞または組織へのex vivo投与であってもよい。投与するmiRNAは合成されたものでもまたは細胞の供給源からの天然由来であってもよい。
【0055】
本発明の実施形態が意図するのはまた、本明細書に記載のmiRNAの発現または活性を刺激または亢進できる薬剤の投与である。かかる薬剤はタンパク性、非タンパク性または核酸系であってもよく、それには、例えば、miRNA遺伝子の調節配列と結合してそれによりmiRNAの内因性発現のレベルを誘発または亢進できる分子および化合物が含まれる。当業者は、本発明の範囲がこれらに限定されるものでなく、miRNA発現または活性を刺激または亢進できるいずれの薬剤も意図されて本発明の開示の範囲に該当することを理解するであろう。
【0056】
本発明の実施形態が意図するのはまた、所望の部位へmiRNAを送達することができる追加の薬剤と連結されたmiRNAの投与である。追加の薬剤はそれ自体EGFRの活性および/または発現を阻害することができてもよい。例えば、EGFRを発現する細胞へmiR-7を標的化するために、セツキシマブなどの抗体とコンジュゲートすることができる。いくつかの実施形態において、miRNAと追加の薬剤との間の連結は切断しうる連結である。切断しうる連結が存在すると、例えば、EGFRを発現する細胞に内部化された後、miRNAを追加の薬剤から切断することができる。
【0057】
EGFRチロシンキナーゼインヒビター
本発明の実施形態は、EGFRを発現する癌を有する被験体の治療を所望する場合、チロシンキナーゼインヒビター(TKI)の投与を提供する。当業者は、本明細書に開示した実施形態による使用のために好適なTKIは様々な形態をとりうることを容易に理解するであろう。TKIは例えば小分子または抗体であってもよい。TKIは天然化合物または自然源に由来する分子であってもよく、または合成品またはそれらの組み合わせであってもよい。TKIはEGFRに選択的または特異的でありうることは理解されよう。
【0058】
EGFR TKI活性を持つ小分子またはその製薬上許容される塩には次のものが含まれる:
N-(3-クロロフェニル)-6,7-ジメトキシ-4-キナゾリンアミド(AG1478);
N-(3-エチニルフェニル)-6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)キナゾリン-4-アミン、またはその製薬上許容される塩(OSI-774、エルロチニブまたはTARCEVA(登録商標));
N-(3-クロロ-4-フルオロフェニル)-7-メトキシ-6-(3-モルホリノプロポキシ)キナゾリン-4-アミン(ZD 1839、ゲフィチニブ);
N-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[(1-メチルピペリジン-4-イル)メトキシ]キナゾリン-4-アミン(バンデタニブ);
6-アクリルアミド-N-(3-クロロ-4-フルオロフェニル)-7-(3-モルホリノプロポキシ)キナゾリン-4-アミン(PD183805またはCI 1033);
4-[(1R)-1-フェニルエチルアミノ]-6-(4-ヒドロキシフェニル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(PKI-166、CGP 75166またはCGP 59326);
N-[4-(3-ブロモアニリノ)キナゾリン-6-イル]ブタ-2-インアミド(CL-387785またはEKB-785);
4-(3-クロロ-4-フルオロアニリノ)-3-シアノ-6-(4-ジメチルアミノブタ-2(E)-エナミド)-7-エトキシキノリン(EKB-569);
N-[-4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[3-(4-モルホリニル)プロポキシ]-6-キナゾリニル]-2-プロペンアミド二塩酸塩(PD 169540);
4-[(3-ブロモフェニル)アミノ]-6-(メチルアミノ)-ピリド[3,4-d]ピリミジン(PD-158780としても知られる);
4-[(3-ブロモフェニル)アミノ]-6,7-ジメトキシキナゾリン塩酸塩(PD 153035としても知られる);
4-(R)-フェネチルアミノ-6-(ヒドロキシル)フェニル-7H-ピロロ[2,3-d]-ピリミジン(PKI-166としても知られる);および
GW-2016(GW-572016またはラパチニブ・ジトシレートとしても知られる)。
【0059】
EGFR TKI活性を持つ他の小分子、または製薬上許容される塩には、ZD1839、CP 358774、CI 1033、PKI-166、CL-387785およびEKB-569が含まれる。好ましい実施形態において、EGFR TKI活性を持つ小分子はゲフィチニブ、エルロチニブまたはAG1478である。
【0060】
他の実施形態において小分子EGFR TKIは、BE-23372M、BIBX-1382、BBR-1611、ナアミジンA、AS-23、DAB-720、ADL-681、CGP-52411、CGP-60261、CGP-62706シリーズ、PKI-166、CP-292597、PD-0158780、RG-13022、RG-14620、RG-50875、AG-1478、VRCTC-310、SU-5271であってもよい。
【0061】
本発明によって使用できる低分子量EGFR TKIの具体的な例は[6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)-4-キナゾリン-4-イル]-(3-エチニルフェニル)アミン、N-(3-エチニルフェニル)-6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)キナゾリン-4-アミン(OSI-774としても知られる)、エルロチニブ、またはTARCEVA(登録商標)(エルロチニブ塩酸塩)であってもよい。
【0062】
本発明によって使用できる低分子量EGFR TKIの他の具体的な例は、ゲフィチニブ(ZD1839またはイレッサ(登録商標)としても知られる)であってもよい。イレッサは癌成長の促進に関係するシグナル伝達経路をブロックする経口活性インヒビターである。イレッサは、報告によれば、抗血管形成活性を有し、結腸、乳房、卵巣、胃、非小細胞肺癌、膵臓、前立腺、および白血病などの癌に対して抗腫瘍活性を有し、EGFR、HER2、およびHER3リン酸化を排除し、ヒト乳房異種移植成長を阻害し、そして患者に用いられている。イレッサはキナゾリンであって、化学名4-キナゾリンアミド、N-(3-クロロ-4-フルオロフェニル)-7-メトキシ-6-[3-(4-モルホリニル)プロポキシ]-(9Cl)および化学式C22H24ClFN4O3を有する。
【0063】
低分子量EGFR TKIのさらなる具体的な例は、N-[-4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[3-(4-モルホリニル)プロポキシ]-6-キナゾリニル]-2-プロペンアミド二塩酸塩(CI-1033またはPD183805またはカネルチニブとして公知)であってもよい。
【0064】
他の実施形態において、EGFR TKIは、EGFR活性化を部分的または完全にブロックできる抗体または抗体フラグメントを含んでもよい。EGFR TKI活性を持つ特別な抗体にはパニツムマブ、ネシツムマブ、RG-7160およびニモツズマブが含まれる。
【0065】
他の実施形態において、EGFR TKIは天然化合物を含んでもよい。EGFR TKI活性を持つ特別な天然化合物またはそのその製薬上許容される塩にはカハラリド(kahalalide)化合物、例えば、mollusc, Elysia sp.から単離された化合物が含まれる。カハラリドはカハラリドA、B、C、D、E、F、G、H、I、J、KおよびOのいずれか1つまたはいずれの組み合わせであってもよい。特別な実施形態において、カハラリドはカハラリドFである。いくつかの実施形態においては、カハラリド化合物を合成することができる。
【0066】
チロシンキナーゼインヒビターに対する感受性を増加する方法
特別な実施形態において、本発明は上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する疾患細胞をEGFRに選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対して増感する方法およびEGFRを発現する癌を治療する方法を提供する。
【0067】
細胞または癌をmiRNAまたはmiR-7 miRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤と接触させるステップは当技術分野で公知のいずれの方法により達成してもよい。いくつかの実施形態において、細胞とmiRNAを接触させるステップはin vivoで起こる。miRNAまたはmiR-7 miRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤を細胞と直接接触させる、すなわち、TKIに対して増感する必要のある細胞に直接施用してもよく、または、あるいは、細胞と間接的に、例えば、分子を被験体の血流中に注射することにより組み合わせ、次いで血流がその分子をTKIに対して増感する必要のある細胞へ運んでもよい。さらに、サンプルを、被験体から取出し、miRNAまたはmiR-7 miRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤とin vitroで組み合わせ、その後にサンプルの少なくとも一部分を被験体に注射して戻してもよい。例えば、前記サンプルは血液サンプルであってもよく、このサンプルを被験体から取出し、前記miRNAと組み合わせ、その後に血液の少なくとも一部分を被験体に注射して戻す。
【0068】
いくつかの実施形態においては、miRNAまたはmiR-7 miRNAの発現または活性を刺激または亢進できる薬剤を、miRNAの内因性レベルがmiRNAと接触前の細胞と比較して異なる細胞に接触させる。この文脈で使用する用語「内因性」は関係miRNAの発現および/または活性の「天然」レベルを意味する。これらの実施形態においては、化合物または組成物を細胞と接触させて、miRNAの発現および/または活性を「天然」レベルと比較して増加または減少させることができる。
【0069】
いくつかのEGFRリガンド、例えば、TGFαの高いレベルはTKI耐性または非感受性の指標である(Addison et al (2010) J. Clin Oncol.、2010年11月15日に10.1200/JCO.2010.31.0805として印刷前に開示された)。従って、いくつかの実施形態において、上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する疾患細胞の、EGFRに選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターへの増感はEGFRリガンドレベルを分析することにより確認することができる。例えば、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの被験体への投与はEGFRリガンドの発現レベルを変えることができる。かかる被験体から得たサンプルを当技術分野で公知の方法により試験してサンプル中のEGFRリガンドの発現レベルを測定することができる。サンプリングと試験の過程をある期間にわたって繰り返すことにより、EGFRリガンドの発現レベルをモニターしおよび/または比較することができる。サンプル中のEGFRリガンドの発現レベルの変化は癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性または耐性のレベルを予報しうる。典型的には、正常細胞と比較した癌細胞におけるTGFαの発現レベルの上昇は、癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する耐性の指標である。それ故にまた、典型的には、癌細胞中のTGFαの発現レベルの低下は癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性の増加の指標である。チロシンキナーゼインヒビターはエルロチニブであってもよい。EGFRリガンドはTGFα、HB-EGF、アンフィレグリン、エピレグリン、ベタセルリン、エピゲンNRG-1、NRG-2、NRG-3またはNRG-4であってもよい。特別な実施形態において、EGFRリガンドはTGFαである。サンプルはいずれの生体サンプル、例えば、血漿または血清であってもよい。チロシンキナーゼインヒビターはエルロチニブであってもよい。
【0070】
いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド(例えば、miRNA)の投与は、ベクター(例えば、ウイルスの)に基づく手法を介するか、または目的の細胞、すなわちEGFRを発現する細胞にポリヌクレオチドを標的化するプロタミン-Fab抗体フラグメントと結合した融合タンパク質の形態でのポリヌクレオチドの投与による。
【0071】
疾患と症状
EGFRは、癌を含む多くの症状に関わる細胞に発現される。本発明は、以上記載したmiRNAまたはmiR-7 miRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤を用いて、細胞をTKIに対して増感する方法および組成物を提供する。これらの組成物および方法はまた、EGFR発現に関連する症状の治療または予防に応用可能である。本発明の方法と組成物が応用可能である症状には、限定されるものでないが、癌、腎疾患、肺疾患、心臓疾患、皮膚疾患または感染性疾患が含まれる。本明細書で使用する用語「癌」は、異常および無制御の細胞分裂により引き起されるいずれかの悪性細胞成長または腫瘍を意味する。
【0072】
癌は、EGFRを発現または過剰発現するいずれの癌であってもよい。典型的には、かかる癌は正常な細胞および組織と比較して、EGFRの発現または活性のレベルのアップレギュレーションまたは上昇に関連しうる。例示の癌には、限定されるものでないが、肝臓、卵巣、膀胱、子宮、頚部、結腸直腸、肺、小細胞肺、乳房、前立腺、膵臓、腎、結腸、胃、子宮内膜、胃、鼻咽頭、咽頭、食道、甲状腺および頭頚部の癌、腹膜癌腫症、リンパ腫、肉腫またはそれらの二次転移、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、および黒色腫が含まれる。
【0073】
いくつかの実施形態において、有効な投与量、最適な投与回数、個々の投与の間隔および最適な治療コースは、EGFRリガンド、例えばTGFαの血清または血漿レベルのモニタリングにより決定することができる。例えば、薬剤、例えば、miRNAまたはTKIの被験体への投与、または治療のコースの開始に先立って、血液、血清または血漿サンプルなどのサンプルを当技術分野で公知のいずれかの方法により試験してEGFRリガンドのレベルを測定することにより試験することができる。薬剤の投与後、または治療コース中に間隔をおいて、さらなるサンプルを採取しかつ試験してEGFRリガンドのレベルを測定してもよい。EGFRリガンドのレベルが減少しなかった場合、用量または治療を最適化するために用量の増加または用量頻度の増加を指示することができる。EGFRリガンドのレベルが減少した場合、用量または治療を最適化するために用量の減少または用量頻度の減少を指示することができる。
【0074】
EGFRリガンド、例えば、TGFαのレベルに基づいてチロシンキナーゼインヒビターに対する耐性を確認できることは、本発明による治療が好適な患者を選択する有用な手段を得ることにもなる。
【0075】
組成物と投与経路
本発明の実施形態は、EGFRを発現する細胞のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性を高めるための、および/またはEGFR発現に関連する症状を治療または予防するための組成物を意図する。かかる組成物をいずれかの好都合なまたは好適な経路で、例えば、非経口(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下を含む)、経口、経鼻、粘膜(舌下を含む)、腔内または局所経路により投与することができる。従って、組成物を溶液、懸濁液、乳濁液、および固形を含む様々な剤形で製剤することができ、そして典型的には選んだ投与経路に好適なように、例えば、経口摂取用のカプセル、錠剤、カプレット、エリキシルとして、吸入による(鼻腔内吸入または経口吸入による)投与に好適なエアロゾルの形態で、局所投与用に好適な軟膏、クリーム、ゲル、ゼリー または ローションに、または非経口投与用に好適な注射可能な製剤で製剤する。好ましい投与経路は、治療すべき症状および所望の成果を含むいくつかの因子に依存しうる。所与の環境に対する最も有利な経路を当業者は決定することができる。例えば、所望の薬剤の適当な濃度を、治療する身体の部位に直接送達することが必要である環境においては、投与を全身に対してよりむしろ局所的である方がよい。局所投与は所望の薬剤の非常に高い局所濃度を送達できるので、従って、身体の他器官の化合物への曝露を避けて潜在的に副作用を軽減する一方、所望の治療または予防効果を達成するのに好適である。
【0076】
概して、好適な組成物は当業者に公知の方法によって調製することができ、そして製薬上許容される希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤を含みうる。希釈剤、アジュバントおよび賦形剤は、それが組成物の他成分と共存しうるという意味で「受け入れられる」ことおよびそのレシピエントに無害であることが必要である。
【0077】
製薬上許容される希釈剤の例は、鉱質除去したまたは蒸留した水;生理食塩水;植物油、例えば、ピーナッツ油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、例えばピーナッツ油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油またはヤシ油;シリコーン油、すなわち、ポリシロキサン、例えば、メチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリシロキサン;揮発性シリコーン;鉱油、例えば液体パラフィン、軟パラフィンまたはスクワラン;セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース;低級アルカノール、例えばエタノールまたはイソプロパノール;低級アラルカノール;低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールまたはグリセリン;脂肪酸エステル、例えばイソプロピルパルミチン酸、イソプロピルミリスチン酸エステルまたはオレイン酸エチル;ポリビニルピロリドン;寒天;カラゲナン;トラガカントガムまたはアカシアガム、および石油ゼリーである。典型的には、担体が組成物の1%〜99.9重量%を占める。
【0078】
注入可能な溶液または懸濁液として投与するための無毒の非経口で許容される希釈剤または担体には、リンゲル液、中鎖トリグリセリド(MCT)、等張生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノールおよび1,2プロピレングリコールが含まれる。経口用の好適な担体、希釈剤、賦形剤およびアジュバントのいくつかの例には、ピーナッツ油、液体パラフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アカシアガム、トラガカントガム、ブドウ糖、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチンおよびレシチンが含まれる。これらの経口製剤はさらに好適な香料および着色剤を含有してもよい。カプセル形状で用いる場合、カプセルを、崩壊を遅らせるモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの化合物でコーティングしてもよい。
【0079】
典型的なアジュバントには、軟化薬、乳濁化剤、粘稠剤、保存剤、殺菌剤および緩衝剤が含まれる。
【0080】
経口投与用の固体剤形は、医薬および獣医薬用に許容される結合剤、甘味剤、崩壊剤、希釈剤、香料、コーティング剤、保存剤、滑沢剤および/または時間遅延剤を含有してもよい。好適な結合剤には、アカシアガム、ゼラチン、トウモロコシデンプン、トラガカントガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースまたはポリエチレングリコールが含まれる。好適な甘味剤には、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテームまたはサッカリンが含まれる。好適な崩壊剤には、トウモロコシデンプン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、グアールガム、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸または寒天が含まれる。好適な希釈剤にはラクトース、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、カオリン、セルロース、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムまたはリン酸二カルシウムが含まれる。好適な香料には、ペパーミント油、ウィンターグリーンの油、チェリー、オレンジまたはラズベリー香料が含まれる。好適なコーティング剤には、アクリル酸および/またはメタクリル酸および/またはそれらのエステルのポリマーまたはコポリマー、ワックス、脂肪族アルコール、ゼイン、シェラックまたはグルテンが含まれる。好適な保存剤には、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α-トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは重亜硫酸ナトリウムが含まれる。好適な滑沢剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが含まれる。好適な時間遅延剤にはモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルが含まれる。
【0081】
経口投与用の液剤形は、上記薬剤だけでなく、液担体を含有してもよい。好適な液担体には、水、油、例えばオリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油、ひまわり油、サフラワー油、ラッカセイ油、ヤシ油、液体パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪族アルコール、トリグリセリドまたはそれらの混合物が含まれる。
【0082】
経口投与用の懸濁液はさらに分散剤および/または懸濁剤を含んでもよい。好適な懸濁剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ポリ-ビニル-ピロリドン、アルギン酸ナトリウムまたはアセチルアルコールが含まれる。好適な分散剤には、レシチン、脂肪酸、例えばステアリン酸のポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトールモノ-またはジ-オレイン酸エステル、-ステアリン酸エステルまたは-ラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ-またはジ-オレイン酸エステル、-ステアリン酸エステルまたは-ラウリン酸エステルなどが含まれる。
【0083】
経口投与用の乳濁液はさらに1種以上の乳濁化剤を含んでもよい。好適な乳濁化剤には先に例示した分散剤または天然ガム、例えば、グアールガム、アカシアガムまたはトラガカントガムが含まれる。
【0084】
非経口投与可能な組成物を調製する方法は当業者に明らかであり、例えば、本明細書に参照により組み込まれるRemington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.にさらに詳しく記載されている。本組成物は、いずれの好適な界面活性剤、例えばアニオン、カチオンまたは非イオン界面活性剤、例えばソルビタンエステルまたはそれらのポリオキシエチレン誘導体を組み入れてもよい。懸濁剤、例えば天然ガム、セルロース誘導体または無機物質、例えばケイ素質シリカ、およびラノリンなどの他の成分を含んでもよい。
【0085】
医薬組成物を調製するための方法および医薬品担体は当技術分野で公知であり、教科書、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, Williams & Wilkins, Pennsylvania, USAに記載されている。担体は投与経路に依存するであろう、そして再び、当業者はそれぞれの具体的な事例に対する最も好適な製剤を容易に決定することができるであろう。
【0086】
組成物はまたリポソームの形態で投与してもよい。リポソームは一般にリン脂質または他の脂質物質に由来し、水培地に分散された単層または多層の水和液晶により形成される。リポソームを形成することができる無毒の、生理学的に許容されかつ代謝可能な脂質を用いることができる。リポソーム形態の組成物は安定剤、保存剤、賦形剤などを含有してもよい。好ましい脂質は、自然および合成両方のリン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成する方法は当技術分野で公知であり、これに関しては具体的に、その内容が参照により本明細書に組み込まれるPrescott, Ed., Method in Cell Biology, Volume XIV, Academic Press, New York, N.Y. (1976), p.33 etseq.に記載されている。
【0087】
併用レジメン
有利な治療は併用レジメンを通して実現することができる。併用療法においては、miRNA、またはmiRNAの発現または活性を刺激または亢進できる薬剤および少なくともさらなる治療薬を同時投与することができる。例えば、癌の関係では、患者の症状を管理し、局所の腫瘍制御を改善し、および/または転移のリスクを低減するために、本発明の実施形態による薬剤を使用する一方、進行中の抗癌療法、例えば化学療法および/または照射療法の維持を求めてもよい。従って、通常の療法と共に、例えば、チロシンキナーゼインヒビター、照射療法、化学療法、外科、または他の形態の医療介入と共に、本発明による治療の方法を適用することができる。「共投与」は、同じ製剤でまたは2種の異なる製剤で、同じかまたは異なる経路を介する同時投与、または同じかまたは異なる経路による逐次投与を意味する。「逐次」投与は、2種の製剤または療法のの投与間に時間差、例えば、秒、分、時、日、週または月があることを意味する。製剤または療法はいずれの順序で投与してもよい。
【0088】
併用療法の一態様では、癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する癌を、最初、被験体にmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAを投与することにより治療してもよい。ある期間後に、被験体からの生体サンプルをいずれかの当技術分野で公知の方法により試験してサンプル中のEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを測定することができる。サンプリングと試験の過程を治療のある期間にわたって少なくとも1回繰り返すことにより、EGFRリガンドの発現および/または活性がその期間にわたって変化するかどうかを確認することができる。EGFRリガンドの発現および/または活性のレベルの変化が見られる場合、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターを投与してもよい。
【0089】
EGFRリガンドはTGFα、HB-EGF、アンフィレグリン、エピレグリン、ベタセルリン、エピゲンNRG-1、NRG-2、NRG-3またはNRG-4であってもよい。特別な実施形態において、EGFRリガンドはTGFαである。サンプルは血漿または血清を含みうる。サンプル中のTGFα発現レベルの変化は癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性または耐性のレベルを予報しうるので、治療レジメンを調節することができる。典型的には、正常細胞と比較した癌細胞におけるTGFαの高い発現レベルは、癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する耐性を示す。チロシンキナーゼインヒビターはエルロチニブであってもよい。
【0090】
使用する追加の治療薬は治療または予防する症状に依存しうる。例えば、症状が頭頚部癌である場合、好適な治療薬には、エルロチニブ(Tarecva)、ゲフィチニブ(イレッサまたはZD1839)またはAG1478、バンデタニブ PD183805、CI1033、PKI-166、CGP75166、CGP59326、CL-387785、EKB-785、EKB-569、PD169540、PD-158780、PD153035、PKI-166、ラパチニブジトシレート、CP358774、BE-23372M、BIBX-1382、BBR-1611、ナアミジンA、AS-23、DAB-720、ADL-681、CGP-52411、CGP-60261、CGP-62706シリーズ、PKI-166、CP-292597、PD-0158780、RG-13022、RG-14620、RG-50875、AG-1478、VRCTC-310、SU-5271が含まれる。
【0091】
他の実施形態において、追加の治療薬はTKI抗体、例えば、パニツムマブ、ネシツムマブ、RG-7160およびニモツズマブであってもよい。他の実施形態において、追加の治療薬は天然化合物、例えば、カハラリドFであってもよい。
【0092】
化学治療薬の例には、アドリアマイシン、タキソール、フルオロウラシル、メルファラン、シスプラチン、オキザリプラチン、αインターフェロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、アンジオインヒビン、TNP-470、ペントサンポリサルフェート、血小板因子4、アンジオスタチン、LM-609、SU-101、CM-101、テクガラン、サリドマイド、SP-PGなどが含まれる。他の化学治療薬には、アルキル化剤、例えば、窒素マスタード(メクロレタミン、メルファン、クロランブシル、シクロホスファミドおよびイホスファミドを含む);ニトロソウレア(カルムスチン、ロムスチン、セムスチンおよびストレプトゾシンを含む);アルキルスルホン酸エステル(ブスルファンを含む);トリアジン(ダカルバジンを含む);エチレンイミン(チオテパおよびヘキサメチルメラミンを含む);葉酸類似体(メトトレキセートを含む);ピリミジン類似体(5-フルオロウラシル、シトシンアラビノシドを含む);プリン類似体(6-メルカプトプリンおよび6-チオグアニンを含む);抗腫瘍抗生物質(アクチノマイシンDを含む);アントラサイクリン(ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンCおよびメトラマイシンを含む);ホルモンおよびホルモンアンタゴニスト(タモキシフェンおよびコルチコステロイドを含む)および様々な薬剤(シスプラチンおよびブレキナールを含む)、およびレジメン、例えば、COMP(シクロホスファミド、ビンクリスチン、メトトレキセートおよびプレドニソン)、エトポシド、mBACOD(メトトレキセート、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびデキサメタゾン)、およびPROMACE/MOPP(プレドニソン、メトトレキセート(ロイコビンレスキューと共に)、ドキソルビシン、シクロホスファミド、タキソール、エトポシド/メクロレタミン、ビンクリスチン、プレドニソンおよびプロカルバジン)が含まれる。
【0093】
本明細書に開示した薬剤と組成物を治療または予防のために投与することができる。治療の応用においては、薬剤と組成物を、すでに症状を患う患者に、症状およびその症候群および/または合併症を治癒または少なくとも部分的に停止させるのに十分な量だけ投与する。薬剤または組成物を、患者を効果的に治療するのに十分な活性化合物の量を提供すべきである。
【0094】
投与量
いずれかの特別な被験体に対する投与薬剤(例えば、miRNAまたはTKI)の有効な用量レベルは様々な因子に依存しうるのであって:かかる因子には、医薬における周知の他の関係因子と一緒に、治療する症状のタイプおよび症状の段階;使用する薬剤の活性と性質;使用する組成物;被験体の年齢、体重、健康状態、性別および食事;投与時間;投与経路;化合物の隔絶の割合;治療時間;治療との組み合わせてまたは同時に用いる薬物が含まれる。
【0095】
当業者は、通常の実験により、適用できる症状を治療するのに必要でありうる有効な、無毒の投与量を決定することができるであろう。これらは、ケースバイケースで決定することが最も多い。
【0096】
一般に、有効な投与量は、kg体重当たり24時間当たり約0.0001mg〜約1000mg;典型的には、kg体重当たり24時間当たり約0.001mg〜約750mg;kg体重当たり24時間当たり約0.01mg〜約500mg;kg体重当たり24時間当たり約0.1mg〜約500mg;kg体重当たり24時間当たり約0.1mg〜約250mg;またはkg体重当たり24時間当たり約1.0mg〜約250mgの範囲であると予想される。より典型的には、有効な用量範囲はkg体重当たり24時間当たり約10mg〜約200mgの範囲であると予想される。
【0097】
あるいは、有効な投与量は約5000mg/m2までであってもよい。一般に、有効な投与量は、約10〜約5000mg/m2、典型的には約10〜約2500mg/m2、約25〜約2000mg/m2、約50〜約1500mg/m2、約50〜約1000mg/m2、または約75〜約600mg/m2の範囲にあると予想される。さらに、当業者には、個々の投与量の最適な量と間隔は治療する症状の性質と程度、剤形、投与の経路と部位、および治療する特定の個体の性質により決定しうることは明らかであろう。また、かかる最適な症状は通常の技法により決定することができる。
【0098】
当業者には、治療の最適なコース、例えば、決められた日数に対して1日当たり与えられる組成物の投与量の数は、治療確認試験の通常のコースを用いて当業者により確認することができることも明らかであろう。
【0099】
上記したように、いくつかの実施形態において、有効な投与、最適な投与数、個々の投与の間隔、および最適の治療コースは、EGFRリガンド(例えばTGFα)の血清または血漿レベルのモニタリングにより決定することができる。
【0100】
治療レジメンの効力はまた、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAとの組み合わせで治療した被験体からのサンプル中のEGFRリガンドの発現レベルを測定することにより評価することができる。ある期間の後、被験体からのさらなるサンプル中のEGFRリガンドの発現のレベルを測定すると、EGFRリガンドのレベルの変化は治療レジメンの効力の指標となりうる。
【0101】
EGFRリガンドはTGFα、HB-EGF、アンフィレグリン、エピレグリン、ベタセルリン、エピゲンNRG-1、NRG-2、NRG-3またはNRG-4であってもよい。特別な実施形態において、EGFRリガンドはTGFαである。サンプルは血漿または血清を含んでもよい。サンプル中のTGFαの発現レベルは癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性または耐性のレベルを予報しうる、従って、治療レジメンを調節することができる。典型的には、正常細胞と比較した癌細胞におけるTGFαの発現レベルの上昇は、癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する耐性の指標である。チロシンキナーゼインヒビターはエルロチニブであってもよい。
【0102】
ここで、本発明をさらに詳しく、以下の具体的な実施例を参照することにより記載しよう、しかしこれらはいかなる方法でも本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【実施例】
【0103】
実験手順
化学品と試薬
エルロチニブ(LC Laboratories; Woburn, Massachusetts)を96%(v/v)ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma-Aldrich; Sydney, Australia)および4%(v/v)MilliQ水中の23mMストック溶液として調製した。ヒトmiR-7に対応する合成miRNA前駆体分子(Pre-miR miRNA前駆体 Product ID: PM10047)(Ambion; Victoria, Australia)およびネガティブ対照miRNA(miR-NC;Pre-miR miRNA前駆体ネガティブ対照#1, Product ID: AM17110)(Ambion;Victoria, Australia)を、RNase非含有の水(Ambion; Victoria, Australia)中の50μMストック溶液として調製した。miR-7および/またはエルロチニブの効果を試験する実験において、ビヒクル対照細胞培養を、DMSO(エルロチニブの代わりに)またはリポフェクタミン2000(Invitrogen; Victoria, Australia)(miR-7およびmiR-NCの代わりに)の当量v/v希釈液で処理した。
【0104】
DNAプラスミド
次のDNAプラスミドを用いた:pRL-CMVウミシイタケルシフェラーゼレポーター(Promega, New South Wales, Australia)およびpmiR-レポート-EGFR 3’-UTRホタルルシフェラーゼレポーターベクター(Webster ら, 2009, J Biol Chem 284:5731-5741)。
【0105】
細胞株と細胞培養
HNC細胞株FaDuおよびSCC-9はAmerican Type Culture Collection (ATCC; Virginia, USA)から得て、HNC細胞株HN5はA/Prof. Terrance Johns (Monash Institute of Medical Research)から好意で贈られた。FaDuとHN5細胞株を37℃にて5%CO2中の10%胎仔ウシ血清(FBS)を補充した低グルコースDMEM(Invitrogen; Victoria, Australia)において培養した。細胞株SCC-9を37℃にて5%CO2中の10%胎仔ウシ血清(FBS)および400ng/mlヒドロコルチゾンを補充した低グルコースDMEM(Invitrogen; Victoria, Australia)において培養した。細胞株は全実験で最初のストックの20継代内に用いた。基礎となるEGFR経路発現およびシグナル伝達を分析するために、細胞を6ウエルプレートに2.8〜4.0 x 105細胞/ウエルの密度でプレーティングし、プレーティング後24時間に、0.5% FBSを補充したDMEMで24時間、血清飢餓後にタンパク質抽出を行った。
【0106】
エルロチニブ感受性アッセイ
細胞株を1ウエル当たり5.0 x 103細胞の密度で96ウエルプレートにまいた。様々な濃度のエルロチニブ(0mM〜100mM)を含有する新鮮培地を最初の細胞プレーティング後24時間に加えた。細胞生存率をエルロチニブの添加後の3日に、CellTitre 96 Aquous One Solution 細胞増殖アッセイキット(Promega; Sydney, Australia)を製造業者取扱説明書に従いかつFLUOstar OPTIMAマイクロプレートリーダー(BMG Labtech; Victoria, Australia)を使用して測定した。
【0107】
miRNA前駆体トランスフェクションおよびルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
細胞を4.5 x 105(FaDu)または5.0 x 105(HN5)細胞の密度で6ウエルプレートにまいて、リポフェクタミン2000(Invitrogen; Victoria, Australia)を用いてmiR-7またはmiR-NC前駆体分子によって1〜30nMの範囲の最終濃度にてトランスフェクトした。細胞を24時間に収穫してRNA抽出、または3日に収穫してタンパク質抽出を行った。エルロチニブも加えたFaDu細胞トランスフェクションについては、細胞を上記の通りまいて、エルロチニブ(7.5mM)を24時間トランスフェクション後の3日に加え、その後、細胞を収穫してタンパク質抽出を行った。ルシフェラーゼレポーターアッセイについては、細胞を2.0 x 105細胞の密度で24ウエルプレートにまき、リポフェクタミン2000(Invitrogen)をmiR-7またはmiR-NC前駆体分子(1nM)、およびトランスフェクション対照として100ng/ウエルのホタルルシフェラーゼレポーターDNAおよび5ng/ウエルのpRL-CMVウミシイタケルシフェラーゼレポーターと共に用いて同時トランスフェクトした。溶菌液をトランスフェクション後24時間に、1X Passive溶解バッファー(Promega; Sydney, Australia)を用いて回収し、-80℃にて一晩凍結し、解凍しそして5分間、13,000 x gで遠心分離した。各上清を、二重ルシフェラーゼレポーターアッセイ系(Promega; Sydney, Australia)およびFLUOstar OPTIMA照度計(BMG Labtech; Victoria, Australia)を用いて、ホタルおよびウミシイタケルシフェラーゼ活性について試験した。相対的なルシフェラーゼ発現を、ホタルルシフェラーゼ値をウミシイタケルシフェラーゼ値に正規化することにより決定した。
【0108】
タンパク質抽出
タンパク質を6ウエルプレート中の細胞から、PhosSTOPホスファターゼインヒビター(Roche; New South Wales, Australia)およびComplete EDTA非含有プロテアーゼインヒビター(Roche; New South Wales, Australia)を含有するCEB溶解バッファー(Giles ら, 2003, J Biol Chem 278:2937-2946)を用いて抽出した。細胞溶解液を-80℃にて一晩凍結し、遠心分離により13,000 x gにて5分間透明化し、上清を採集した。全タンパク質濃度を製造業者取扱説明書に従ってBio-Radタンパク質アッセイ(Bio-Rad; New South Wales, Australia)およびFLUOstar OPTIMAマイクロプレートリーダー(BMG Labtech; Victoria, Australia)により定量した。
【0109】
ウェスタンブロット
20μgの全タンパク質サンプルをNuPAGE NOVEX 4-12%Bis-Triゲル(Invitrogen; Victoria, Australia)に溶解し、PVDFウェスタンブロット膜(Roche; New South Wales, Australia)へ移した。膜を抗-EGFRウサギモノクローナル抗体(1:5000, Abcam ab52894-100; Massachusetts, USA)、抗-ホスホ-EGFR(Tyr1173)ヤギポリクローナル抗体(1:750, Santa Cruz Biotechnology, Inc. sc-12351; California, USA)、抗-Aktウサギポリクローナル抗体(1:1000, Cell Signaling Technology, Inc. # 9272; Massachusetts, USA)、抗-ホスホ-Akt(Ser473)ウサギモノクローナル抗体(1:500, Cell Signaling Technology, Inc. # 4060S; Massachusetts, USA)または抗-β-アクチンマウスモノクローナル抗体(1:15,000, Abcam ab6276-100; Massachusetts, USA)で探索した。二次西洋わさびペルオキシダーゼ連結抗ウサギ-IgG(1:10,000, General Electric Healthcare # NA934V; Wisconsin, USA)、西洋わさびペルオキシダーゼ連結抗-マウス-IgG(1:10,000, General Electric Healthcare # NA931V; Wisconsin, USA)および西洋わさびペルオキシダーゼ連結抗-ヤギ-IgG抗体(1:10,000, Santa Cruz Biotechnology, Inc. sc-2020; California, USA)を用いた後、ECL Plusウェスタンブロット検出システム(General Electric Healthcare; Wisconsin, USA)およびECL-Hyperfilm(General Electric Healthcare; Wisconsin, USA)で検出した。
【0110】
細胞生存率アッセイ
細胞を5.0 x 103細胞の密度で96ウエルプレートにまいて、上記のようにmiR-NC前駆体分子を用いてトランスフェクトした。細胞生存率をトランスフェクションの5日後に、CellTitre 96 Aquous One Solution 細胞増殖アッセイキット(Promega; Sydney, Australia)を製造業者取扱説明書に従いかつFLUOstar OPTIMAマイクロプレートリーダー(BMG Labtech; Victoria, Australia)を使用して測定した。96ウエルプレートを、Canon EOS 400Dデジタルカメラ(Sydney, Australia)を用いて写真撮影した。miRNA前駆体によるトランスフェクション後にエルロチニブを加えるFaDu細胞トランスフェクションのために、細胞を上記のようにまいて、エルロチニブ(7.5μM)を4日間のトランスフェクション後の3日に加えた後、細胞生存率を測定した(トランスフェクション後、合計7日に測定した)。
【0111】
定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)分析
全RNAをHN5細胞からTRIzol試薬(Invitrogen; Victoria、Australia)を用いて抽出し、DNase I(Promega; Sydney、Australia)で処理して汚染ゲノムDNAを排除した。EGFRおよびGAPDH mRNA発現をqRT-PCR分析するために、0.5μgの総RNAをランダムヘキサマーでThermoscript(Invitrogen;Victoria, Australia)を用いてcDNAに逆転写した。EGFRおよびGAPDH cDNAに対するリアルタイムPCRを、Corbett 3000 RotorGene計器(Corbett Research; Sydney、Australia)上で、SensiMixPlus SYBRキット(Quantace; New South Wales、Australia)ならびにEGFRおよびGAPDHプライマー:EGFR-F、5'-GCG TTC GGC ACG GTG TAT AA- 3'(配列番号6);EGFR-R、5'-GGC TTT CGG AGA TGT TGC TTC-3'(配列番号7);GAPDH-F、5'-ATG GGG AAG GTG AAG GTC G- 3'(配列番号8);GAPDH-R、5'-GGG GTC ATT GAT GGC AAC ATT A-3'(配列番号9)を用いて行った。単一ピーク融解曲線および>0.9の反応効率がデータのさらなる分析に必要であった。GAPDH mRNAと比較したEGFR、RAF1およびPAK1 mRNAの発現を、2ΔΔCT法(Livak & Schmittgen (2001), Methods 25:402-408)を用いて確認した。
【0112】
統計学
全ての結果を平均値±標準偏差(S.D.)として掲げた。統計的有意性はスチューデント統計的有意性をスチューデントのt検定(両側検定、不対(unpaired))を用いて計算し、有意性のレベルをp<0.05に設定した。免疫ブロット用の全サンプルを重複して仕込んで、タンパク質の等しい仕込みを確認した。qRT-PCRデータの統計解析はGenExソフトウエア(MultiD;California、USA)を用いて実施した。データの正規性はKolmogorov-Smimov検定(KS検定)を用いて確認した。
【0113】
エルロチニブ感受性(EC50)をGraphPad Prismソフトウエア(GraphPad Software; California, USA)を用いて計算した。感受性細胞株は5μMエルロチニブ未満のEC50を有するものとし、そして耐性細胞株を5μMエルロチニブ超のEC50を有するものとして定義した。miR-7とエルロチニブの組み合わせの相乗作用はBliss付加モデル(Bliss additivism model; Elia & Flescher (2008), Neoplasia 10:1303-1313)を用い、式:
Ebliss = EA + EB - EA × EB
を使って評価した。
【0114】
EAはmiR-7単独により得る分率阻害として定義し、そしてEBはエルロチニブ単独により得る分率阻害として定義した。Eblissは、miR-7とエルロチニブの組み合わせが相加的であれば期待しうる分率阻害であった。もし実験測定した分率阻害がEblissより大きければ、miR-7とエルロチニブの組み合わせは相乗的であると言える。
【0115】
実施例1 HNC細胞株におけるEGFR発現とエルロチニブ感受性
FaDu、SCC-9、およびHN5 HNC細胞株はEGFR経路を発現し、ある範囲のエルロチニブ感受性を有する。miR-7が、3種のHNC細胞株においてその公知の標的、EGFRおよび活性Akt(P-Akt)を調節するのに用いる(Kefas et al., (2008), Cancer Res 68:3566-3572; Webster et al.、2009、前掲)ことができるかどうかを確立するために、EGFR経路を特徴付けてこれらの標的の発現を確認した。EGFR経路分子の基礎発現を測定するために、細胞プレーティング数を最適化し次いで0.5%FBSを補充したDMEMで24時間、血清飢餓した。タンパク質を収穫し、次いでEGFR、P-EGFR(活性EGFR)、Akt、P-Aktおよびβ-アクチン(均一負荷対照として用いた)について免疫ブロットした。β-アクチン負荷対照はタンパク質の均一な負荷を示したので、相対的EGFR経路発現の比較を行うことができた(図1A)。分析した全3種のHNC細胞株はEGFR経路の公知のmiR-7標的を発現した(図1A)。HN5は、最高の相対的EGFR発現およびP-EGFR活性を有し、従来の研究と一致した(Rusnak et al., (2007), Cell Prolif 40: 580-594)。FaDuは中度のEGFR発現とP-EGFR活性を有し、そしてSCC-9はHN5と比較して最低のEGFR発現とP-EGFR活性を有した。P-Akt活性はEGFR発現または活性と相関が無かった。SCC-9は最高の相対的P-Akt活性を表し、HN5およびFaDuがそれに次いだ。
【0116】
プレーティング用の細胞数を最適化しかつある範囲のエルロチニブ濃度を用いた後、FaDu、SCC-9およびHN5細胞のエルロチニブに対する感受性を測定した。示差エルロチニブ感受性を、FaDu(エルロチニブ耐性細胞株として分類され、8.26μMのEC50を持つ)および細胞株SCC-9およびHN5(エルロチニブ感受性として分類され、それぞれ2.15μMおよび0.64μMのEC50値を持つ)について観察した(図1B)。エルロチニブ耐性(FaDu)および最高エルロチニブ感受性(HN5)のHNC細胞株を比較のために選択してさらなる実験に用いた。
【0117】
実施例2 HNC細胞におけるEGFR発現のmiR-7調節
miR-7はHNC細胞におけるEGFR発現およびAkt活性を調節する。それ故に、HNC細胞株におけるmiR-7のEGFR発現およびAkt活性を調節する潜在能力を研究した。FaDuおよびHN5細胞をトランスフェクション試薬単独、miR-ネガティブ対照(miR-NC)またはmiR-7(Ambion)のいずれかによりトランスフェクトした後、タンパク質を収穫し、EGFR、P-EGFR、Akt、P-Aktおよびβ-アクチン(負荷対照として用いた)について免疫ブロットを実施した(図2A)。β-アクチン負荷対照はタンパク質の均一な負荷を示したので、相対的EGFR経路発現の比較を行うことができた(図2A)。トランスフェクション試薬単独およびmiR-NCレーンのmiR-7レーンとの比較は、miR-7がエルロチニブ耐性FaDuおよびエルロチニブ感受性HN5の両方のHNC細胞株においてEGFR発現、P-EGFRおよびP-Akt活性をダウンレギュレーションすることを立証した(図2A)。次に、EGFRの豊富なHN5細胞におけるEGFR mRNA発現に与えるmiRNAの効果を、miR-7 または miR-NCによるトランスフェクション、およびトランスフェクション後24時間に収穫したRNAのqRT-PCR分析に従って確認した。miR-NCによるトランスフェクションと比較して、miR-7によるトランスフェクションはHN5 HNC細胞におけるmRNA発現の有意な低下(2.92倍)をもたらし(図2B)、miR-7はHNC細胞中の分解についてEGFR mRNAを標的化することを示唆した。
【0118】
ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて、miR-7がFaDu細胞の全長野生型EGFR 3'-UTR内の標的部位に与える活性を確認した(図2C)。全長野生型EGFR 3'-UTRを含有したレポーターの有意な発現低下が、トランスフェクション試薬単独またはネガティブ対照miRNA(miR-NC)で処理したサンプルと比較して、miR-7で処理したサンプルにおいてみられた(図2C)。これは、HNC細胞においてEGFR 3'-UTRがmiR-7の直接標的であることを示唆した。
【0119】
本実施例は、miR-7がHN5およびFaDu HNC細胞株のタンパク質およびRNA(EGFRの場合)レベルにおけるEGFR発現およびP-Akt活性を調節できる(図2A、2B、2C)、従ってmiR-7はHNCを含む癌細胞株におけるEGFRおよびP-Akt活性を同時に調節できることを示す。miR-7はEGFR経路の複数メンバーを標的化し、エルロチニブ感受性細胞株の生存率を低下しかつエルロチニブ耐性細胞株のエルロチニブに対する感受性を増加することを見ることができる。
【0120】
実施例3 miR-7とエルロチニブ感受性HNC細胞
エルロチニブ感受性HNC細胞はmiR-7によるEGFR経路遮断に対して感受性がある。次に、miR-7の単一薬としての効果を、高レベルのEGFR、miR-7の標的を発現するエルロチニブ感受性細胞株HN5(図1Aおよび図2A)を用いて研究した。トランスフェクション試薬単独、miR-NC前駆体またはmiR-7前駆体細胞によるHN5細胞のトランスフェクション後、生存率をトランスフェクション後5日に、細胞力価アッセイを介して確認した。miR-7でトランスフェクションしたこれら細胞では、トランスフェクション試薬単独またはmiR-NC前駆体でトランスフェクトした細胞と比較して、細胞生存率の有意かつ用量依存性の減少が見られた(図3、グラフおよびプレート写真)。5nMのmiR-7前駆体にて、HN5細胞生存率のほとんど全てが喪失した(図3、プレート写真)。
【0121】
エルロチニブ感受性HN5細胞株において、miR-7は細胞生存率を用量依存性の方式で低減し、かつ、1nM、2.5nMおよび5nM、すなわち、エルロチニブで処理した患者の血清における濃度(3〜10μM)より低い濃度で用いて、この効果を達成することが見出された(図3)。
【0122】
実施例4 miR-7とエルロチニブ耐性HNC細胞
miR-7はエルロチニブに対するエルロチニブ耐性HNC細胞株の感受性を増加し、2種の薬剤を組み合わせて用いると相乗作用があることを実証した。miR-7は、HNC細胞株中のEGFR発現とAkt活性の両方を標的化することが示された(実施例2を参照)ので、miR-7のエルロチニブ耐性HNC細胞株FaDuの感受性をエルロチニブのサブ最適な(すなわち、サブ-EC50)濃度(7.5μM)へ増加する潜在能力を研究した。FaDu細胞のトランスフェクション試薬単独、miR-NC前駆体またはmiR-7前駆体によるトランスフェクションの後、エルロチニブを4日間のトランスフェクション後の3日に加え、次いで細胞生存率の細胞力価アッセイを行った(図4A)。miR-7前駆体とエルロチニブを用いて処理した細胞では、miR-NC前駆体とエルロチニブを用いて処理したものと比較して細胞生存率の有意な増加が見られ、これはエルロチニブ耐性FaDu細胞のエルロチニブに対する感受性が増加したことを示した(図4A)。エルロチニブのサブ最適濃度との組み合わせで用いたときのmiR-7の相乗潜在能力をBliss モデル:Ebliss = EA + EB - EA x EB(Elia & Flescher, 2008、前掲)を用いて決定した。EAはmiR-7単独により得られる分率阻害、0.15と規定した。EBはエルロチニブにより得られる分率阻害、0.18と規定した。上記式を用いかつ適当な値で置換すると、Ebliss = 0.15 + 0.18 - 0.15 x 0.18 = 0.30である。それ故に実験により観察された阻害の分率は、もしmiR-7とエルロチニブの組み合わせ効果が単に相加的であれば0.30と予想され、そしてもしmiR-7とエルロチニブの組み合わせ効果が相乗的であれば、0.30より大きいと予想される。miR-7とエルロチニブを組み合わせて用いた場合、実験的に観察される阻害の分率は0.61であった(図4A)。従って、miR-7とエルロチニブの組み合わせは、FaDu細胞に相乗的な成長阻害効果を及ぼす。
【0123】
FaDu細胞中のEGFRシグナル伝達経路の発現と活性に与えるmiR-7とエルロチニブの効果を次いで測定した。FaDu細胞のトランスフェクション試薬単独、miR-NC前駆体またはmiR-7前駆体によるトランスフェクションの後、エルロチニブ(7.5mM)を、24時間トランスフェクション後の3日に加え、次いでEGFR、P-EGFR、Akt、P-Aktおよびβ-アクチン(負荷対照として用いた)について免疫ブロットを行った。β-アクチン負荷対照がタンパク質の均一な負荷を示したので、相対的EGFR経路発現の比較を行うことができ(図4B)、エルロチニブは、エルロチニブの確立されたチロシンキナーゼ阻害作用(Specenier および Vermorken, 2007, 前掲; Loeffler-Ragg ら, 2008, 前掲)によってFaDu細胞株におけるP-EGFR活性をダウンレギュレーションできることが明らかになった。さらにエルロチニブ処理はまた、P-Akt活性もいくらか低減した(図4B)。しかし、P-EGFRとP-Akt活性のさらに大きいダウンレギュレーションが、miR-7(EGFR発現とAkt活性を標的化する)とエルロチニブ (EGFR活性だけを標的化する)の両方で処理したFaDu細胞において見られ(図4B)、miR-7とエルロチニブによる組み合わせ処理の相乗的活性を支持した。
【0124】
エルロチニブ耐性細胞株におけるmiR-7とエルロチニブの組み合わせでの使用は相乗的な方式で細胞生存率を低減する。細胞生存率の相乗的減少は、miR-7またはエルロチニブ単独で処理した場合と比較してmiR-7とエルロチニブで処理したエルロチニブ耐性細胞においてみられた(図4A)。P-Akt活性の最大の減少はmiR-7とエルロチニブで処理したサンプルにおいて見られたので、免疫ブロットはこの傾向を反映している(図4B)。
【0125】
実施例5 miR-7とAG1478耐性グリア芽細胞腫細胞
エルロチニブ耐性HNC細胞株FaDuで得た結果(実施例4)をグリア芽細胞腫細胞、特異的AG1478耐性細胞株U251、U87およびU373に拡張した。グリア芽細胞腫細胞(3,000細胞/ウエル)を製造業者の取扱説明書に従いリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を用いて、miR-NCまたはmiR-7(最終濃度10nM)でトランスフェクトした。2日後、ウエルに、DMSO(ビヒクル)またはEGFRチロシンキナーゼインヒビターAG1478(U251およびU87については7.5μM;またはU373細胞については12.5μM)を含有する培地を再供給し、さらに3日後、細胞生存率を製造業者の取扱説明書に従いCellTitre96 Aquous One Solution細胞増殖アッセイキット(Promega)およびFLUOstar OPTIMAマイクロプレートリーダー(BMG Labtech)を用いて評価した。
【0126】
図5に示したように、全3種の細胞株において、分析した細胞生存率はmiR-NCと比較してmiR-7の存在下で低下し、そしてmiR-7の存在下で細胞はmiR-7の非存在下で細胞生存率を低下させるのに有効であったより低い用量のAG1478に対して感受性となった。これらの結果は、miR-7は3種のEGFRTKI耐性グリア芽細胞腫細胞株をEGFR TKI AG1478に対して感受性にし、グリア芽細胞腫の治療における可能な治療計画としてmiR-7とEGFR TKIの組み合わせを支持することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する疾患細胞を、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対して増感する方法であって、前記細胞をmiR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAと接触させるステップを含むものである前記方法。
【請求項2】
前記細胞が癌細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増感は、miRNAの非存在のもとで要する細胞分裂停止または細胞傷害の用量より低い細胞分裂停止または細胞傷害の用量のチロシンキナーゼインヒビターに対して、細胞を感受性にする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
チロシンキナーゼインヒビターがエルロチニブおよびAG1478からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
miR-7 miRNAがhsa-miR-7であって、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
miR-7 miRNA前駆体がhsa-miR-7-1、hsa-miR-7-2およびhsa-miR-7-3からなる群より選択されて、配列番号2〜4のいずれか1つに記載の配列を含むものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する疾患細胞を、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対して増感する方法であって、前記細胞を、miR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤と接触させ、それによって、刺激または亢進されるmiRNAの発現または活性が前記疾患細胞をチロシンキナーゼインヒビターに対して増感するステップを含むものである前記方法。
【請求項8】
癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する、被験体における癌を治療する方法であって、被験体にEGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAとの組み合わせを投与するステップを含む前記方法。
【請求項9】
前記治療をしない場合、癌がチロシンキナーゼインヒビターに対する耐性を提示する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
EGFRを発現する癌は、頭頚部癌、グリア芽細胞腫、膵臓癌、結腸癌、結腸直腸癌、鼻咽頭癌、子宮癌、頚部癌、食道癌、胃癌、腎癌、膀胱癌、小細胞肺癌を含む肺癌、前立腺癌、乳癌、肝臓癌、神経芽細胞腫または黒色腫から選択される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
チロシンキナーゼインヒビターはエルロチニブおよびAG1478から選択される、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
miR-7 miRNAはhsa-miR-7でありおよび配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
miR-7 miRNA前駆体はhsa-miR-7-1、hsa-miR-7-2およびhsa-miR-7-3からなる群より選択され、および配列番号2〜4のいずれか1つに記載の配列を含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
チロシンキナーゼインヒビターとmiRNAを、製薬上許容される担体、賦形剤またはアジュバントと一緒に製剤した単一組成で投与する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
チロシンキナーゼインヒビターとmiRNAを別の組成物で投与する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
miRNAを投与した後にチロシンキナーゼインヒビターを投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する、被験体における癌を治療する方法であって、被験体にEGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤との組み合わせを投与するステップを含むものである前記方法。
【請求項18】
癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する癌の治療用医薬品を製造するための、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAの使用。
【請求項19】
癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する癌の治療用医薬品を製造するための、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤の使用。
【請求項20】
腫瘍または癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する被験体における腫瘍成長、癌転移または再発を予防または軽減する方法であって、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの有効量を被験体に投与するステップを含むものである前記方法。
【請求項21】
腫瘍または癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する被験体における腫瘍成長、癌転移または再発を予防または軽減する方法であって、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤の有効量を被験体に投与するステップを含むものである前記方法。
【請求項22】
上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する癌の、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性の変化を測定する方法であって、
(a)被験体に、miR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAを投与するステップ;
(b)被験体由来の生体サンプルにおけるEGFRリガンドの発現レベルを測定するステップ;
(c)ステップ(a)と(b)を或る期間にわたって少なくとも1回繰り返すステップ;
および
(d)サンプル中のEGFRリガンドの発現レベルを比較するステップであって、ここでEGFRリガンドの発現レベルの変化は癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性を示すものである、上記ステップ、
を含むものである前記方法。
【請求項23】
EGFRリガンドがTGFαである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
サンプルが血漿または血清を含むものである、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
癌細胞中のTGFαの発現レベルの低下は癌のチロシンキナーゼインヒビターに対する感受性の増加である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
チロシンキナーゼインヒビターがエルロチニブである、請求項22〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する、被験体における癌を治療する方法であって、
(a)被験体にmiR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAを投与するステップ;
(b)被験体から生体サンプルを得るステップ;
(c)サンプル中のEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを測定するステップ;
(d)ステップ(b)および(c)を治療期間にわたって少なくとも1回繰り返すステップ;
(e)EGFRリガンドの発現および/または活性が前記期間にわたって変化するかどうかを測定するステップ;および
(f)EGFRリガンドの発現および/または活性のレベルの変化が見られる場合、EGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターを投与するステップ
を含むものである前記方法。
【請求項28】
癌細胞がEGFRを発現または過剰発現する癌を患う被験体における治療レジメンの効力を評価する方法であって、
(a)被験体をEGFRおよび/またはそのシグナル伝達経路に選択的または特異的なチロシンキナーゼインヒビターとmiR-7 miRNA、その前駆体もしくは変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を含むmiRNAの組み合わせを用いてレジメンの効力を評価するのに十分な期間、治療するステップ;
(b)被験体から生体サンプルを得るステップ;
(c)サンプル中のEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを測定するステップ;
(d)ステップ(b)および(c)を治療期間にわたって少なくとも1回繰り返すステップ;および
(e)EGFRリガンドの発現および/または活性が前記期間にわたって変化するかどうかを測定し、ここでEGFRリガンドの発現レベルの変化は治療レジメンの効力を示すものであるステップ
を含むものである前記方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公表番号】特表2013−511560(P2013−511560A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540229(P2012−540229)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/AU2010/001578
【国際公開番号】WO2011/063456
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(502074529)ザ ユニバーシティ オブ ウェスタン オーストラリア (2)
【Fターム(参考)】