説明

チロシン配糖体、その製造方法及びその用途

【課題】新規なチロシン配糖体を提供すること。
【解決手段】チロシン誘導体とペンタアセチルグルコースとを酸触媒下反応させ、チロシン配糖体を製造する。続いて、糖残基部分の脱保護化および必要に応じてカルボン酸エステル部分のカルボン酸への変換を行うことにより、新規なチロシン誘導体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、農薬、化粧品素材をはじめ多方面において有用なチロシン配糖体、その製造方法及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フェノール性水酸基が配糖化された生理活性を有する有用化合物が注目されている。例えば、医薬品分野では、腎臓における糖の再吸収を阻害することによって新規な糖尿病治療薬として期待されている新規なフロリジン配糖体(T-1095等)が報告されている(非特許文献1参照。)。また、化粧品素材としては、ハイドロキノンにグルコースが配糖化したアルブチン(特許文献1参照。)や没食子酸にグルコースが配糖化した化合物(特許文献2参照)等が見出され、広く利用されている。
【0003】
一般的には、化合物が配糖化されることで、糖に由来する特異な生理活性の発現が期待されるとともに、配糖化される前の化合物に比べて、水溶性の向上や溶解性の向上等の物性的な改善効果も期待できる。さらに、毒性を有する化合物を配糖化することにより該化合物の毒性が低減し、また生体適合性が向上すると考えられている。
【0004】
このように、配糖化による有用な効果が広く知られるようになると、より多くの新規配糖体が、工業的な観点から安定的にかつ安価に供給されることが強く期待されるようになってきた。例えば、チロシンは毛髪等に多く含有され生体にとって必須なアミノ酸の一つであるが、チロシンが配糖化された化合物群は、医薬品、農薬、化粧品素材をはじめ多方面において高い生理活性および高い生体適合性が期待されている。しかしながら、チロシンおよびチロシン誘導体の配糖体に関する報告例は少ない。
【0005】
一方、配糖体を工業的に製造しようとする場合、収率の問題や目的化合物の単離精製の問題(非特許文献2参照。)等がある。よって、従来技術だけでは、より多くの新規配糖体に対して、工業的な観点から安定的にかつ安価に製造する方法が十分に確立されているとは言い難く、より効果的な製造方法の確立が望まれている。
【特許文献1】特開昭62-263194号公報
【特許文献2】WO2003/026598
【非特許文献1】J. Med. Chem. 1999, 42, 5311-5324
【非特許文献2】Insect. Biochem. 12(4), 377-381, 1982
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規なチロシン配糖体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、チロシンメチルエステルのアミノ基を化学修飾し、次いで酸触媒の存在下でペンタアセチルグルコースと反応させて配糖化されたチロシン誘導体を生成させ、さらに、配糖化されたチロシン誘導体の水酸基、アミノ基、カルボキシル基のそれぞれの保護基を除去することにより新規なチロシン配糖体を製造できることを見出すとともに、該チロシン誘導体が抗菌作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は水素原子、無置換または置換の炭素数1〜30のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基、無置換または置換のフェニル基、無置換または置換のヘテロ環基を示す。)で表される化合物、該化合物の製造方法及び用途に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規なチロシン配糖体及びその製造方法を提供することができる。また、該チロシン配糖体は抗菌剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の化合物は、一般式(1)で表される化合物又は該化合物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩である。
【0013】
一般式(1)中、R1は水素原子、置換していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換していてもよいアラルキル基、置換していてもよいフェニル基、置換していてもよいヘテロ環基を示す。
【0014】
「無置換または置換の炭素数1〜30のアルキル基」とは、炭素数1〜30の無置換アルキル基または炭素数1〜30のアルキル基の任意の水素原子が置換基で置換されたアルキル基を意味する。アルキル基としては、アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、アラキジル基またはアリル基等を挙げることができる。また、アルキル基の置換基としては、水酸基、メトキシ基、ベンジルオキシ基またはメトキシエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基あるいはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子等のハロゲン原子などを挙げることができる。
【0015】
「無置換または置換のアラルキル基」とは、無置換のアラルキル基またはアラルキル基の任意の水素原子が置換基で置換されたアラルキル基を意味する。アラルキル基としては、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェニルエチル基または9−フルオレニルメチル基等が挙げられる。アラルキル基の置換基としては、メチル基、tert-ブチル基またはベンジル基等のアルキル基、シクロプロパン、シクロペンタンまたはシクロヘキサン等のシクロアルキル基、フェニル基、水酸基、メトキシ基、ベンジルオキシ基またはメトキシエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基あるいはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子等のハロゲン原子などを挙げることができる。
【0016】
「無置換または置換のフェニル基」とは、無置換のフェニル基またはフェニル基の任意の水素原子が置換基で置換されたフェニル基を意味する。フェニル基の置換基としては、メチル基、tert-ブチル基またはベンジル基等のアルキル基、シクロプロパン、シクロペンタンまたはシクロヘキサン等のシクロアルキル基、フェニル基、水酸基、メトキシ基、ベンジルオキシ基またはメトキシエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基あるいはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子等のハロゲン原子などを挙げることができる。
【0017】
「無置換または置換のヘテロ環基」とは、無置換のヘテロ環基またはヘテロ環基の任意の水素原子が置換基で置換されたヘテロ環基を意味する。ヘテロ環基としては、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチエニル基、ピペリジル基、モルホリニル基、ピペラジニル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、ピリジル基、フルフリル基、テニル基、ピリジルメチル基、ピリミジル基、ピラジル基、イミダゾイル基、イミダゾイルメチル基、インドリル基、インドリルメチル基、イソキノリル基、キノリル基またはチアゾリル基等が挙げられる。ヘテロ環基の置換基としては、メチル基、tert-ブチル基またはベンジル基等のアルキル基、シクロプロパン、シクロペンタンまたはシクロヘキサン等のシクロアルキル基、フェニル基、水酸基、メトキシ基、ベンジルオキシ基またはメトキシエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基あるいはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子等のハロゲン原子などを挙げることができる。
【0018】
一般式(1)で表される化合物には、次に示すように、窒素原子が結合した位置に不斉炭素原子が存在するが、一般式(1)で表される化合物として、例えば、一般式(2)
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、R1は前記の一般式(1)中のR1と同義。)で表される化合物は経済性の観点から好ましい。
一般式(2)中のR1は、前記一般式(1)中のR1と同義である。
前記の一般式(1)で表される化合物は、一般式(3)
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、R1は水素原子、無置換または置換の炭素数1〜30のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基、無置換または置換のフェニル基、無置換または置換のヘテロ環基を示し、R2は無置換または置換の炭素数1〜10のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基または無置換または置換のフェニル基を示す。)で表される化合物から製造することができるため、一般式(3)で表される化合物は一般式(1)で表される化合物の合成中間体である。
【0023】
一般式(3)中、R1は水素原子、無置換または置換の炭素数1〜30のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基、無置換または置換のフェニル基、無置換または置換のヘテロ環基を示し、R2は無置換または置換の炭素数1〜10のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基または無置換または置換のフェニル基を示す。
【0024】
一般式(3)におけるR1又はR2中の「無置換または置換の炭素数1〜30のアルキル基」、「無置換または置換のアラルキル基」、「無置換または置換のフェニル基」及び「無置換または置換のヘテロ環基」はそれぞれ、前記の一般式(1)中のR1について説明した個所に記載したこれらの基と同義である。
【0025】
一般式(3)におけるR2中の「炭素数1〜10の無置換または置換のアルキル基」とは、炭素数1〜10の無置換アルキル基または炭素数1〜10のアルキル基の任意の水素原子が置換基で置換されたアルキル基を意味する。炭素数1〜10の無置換アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基またはアリル基等を挙げることができる。また、アルキル基の置換基としては、水酸基、メトキシ基、ベンジルオキシ基またはメトキシエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基あるいはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子等のハロゲン原子などを挙げることができる。
【0026】
一般式(3)で表される化合物の製造方法について、次に説明する。
一般式(4)
【0027】
【化4】

【0028】
(式中R2は前記の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物またはその酸塩とR1−CO−X(式中、R1は前記の一般式(3)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子またはO−CO−R1(R1は前記の一般式(3)中のR1と同義。))で表される化合物を塩基の存在下で反応させて一般式(5)
【0029】
【化5】

【0030】
(式中、R1およびR2は前記の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造し、次いで該一般式(5)で表される化合物とペンタアセチルグルコースを酸触媒の存在下で反応させて一般式(6)
【0031】
【化6】

【0032】
(式中、R1およびR2は前記の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造した後、該一般式(6)で表される化合物のグルコース残基上のアセチル基を脱保護化することにより、一般式(3)で表される化合物を製造することができる。
一般式(4)中のR2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR2と同義である。
【0033】
一般式(4)で表される化合物は市販品を入手することができるが、チロシンから公知のエステル化法によって容易に製造することができる。
【0034】
一般式(4)で表される化合物またはその酸塩とR1−CO−X(式中、R1は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子またはO−CO−R1(R1は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1と同義。))で表される化合物を塩基の存在下で反応させて一般式(5)で表される化合物を製造することができる。
【0035】
一般式(4)で表される化合物の酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭素酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0036】
R1−CO−Xにおいて、R1は前記の一般式(3)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子またはO−CO−R1を示す。なお、R1は前記の一般式(3)中のR1と同義である。
【0037】
R1−CO−Xとしては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸、無水コハク酸、アセチルクロライド、アセチルブロマイド、プロピオニルクロライド、ラウロイルクロライド、パルミトイルクロライド、ステアロイルクロライド等が挙げられる。
【0038】
一般式(4)で表される化合物に対するR1―CO―Xの使用量は、特に制限は無いが、好ましくは1〜3当量の範囲である。
【0039】
一般式(5)で表される化合物を製造する際に用いることができる塩基としては、特に制限はないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、金属ナトリウム、水素化ナトリウム等の無機塩基、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシド塩基、n-ブチルリチウム、エチルマグネシウムブロマイド等の有機金属塩基、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロウンデセン等の有機アミン塩基等を挙げることができる。
【0040】
一般式(5)で表される化合物を製造する際には、通常反応溶媒を用いる。反応溶媒としては、反応の進行を妨げるものでなければ特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール性溶媒、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサンまたはジエチルエーテル等を挙げることができる。これら反応溶媒は、任意の比率での混合溶媒としても使用可能であり、例えばトルエンと水等による二相系の使用方法でも用いることができる。
【0041】
一般式(5)で表される化合物を製造する際の反応温度に特に制限はないが、好ましくは−20℃〜溶媒の沸点までの範囲である。
【0042】
一般式(5)中のR1およびR2は前記一般式(3)中のR1およびR2と同義である。
【0043】
一般式(5)で表される化合物とペンタアセチルグルコースを酸触媒の存在下で反応させることにより一般式(6)で表される化合物を製造することができる。
【0044】
酸触媒としては、特に制限はないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、無水ホウ酸等の無機酸触媒、P-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸触媒、三フッ化ホウ素、塩化スズ(II)、塩化チタン(IV)、臭化亜鉛、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、ヨウ化銅、トリフルオロメタンスルホン酸銀等のルイス酸触媒、酸化チタン、酸化アルミナ、酸化亜鉛、シリカゲル等の固体酸触媒、リンモリブデン酸、リンタングステン酸等のヘテロポリ酸触媒、Nafion、Amberlite IR-120B plus等の酸性樹脂触媒等を挙げることができる。これらの酸触媒のなかでも、三フッ化ホウ素は好ましい触媒である。
【0045】
使用する触媒量は、一般式(5)で表される化合物に対して0.001〜10当量の範囲で実施可能であるが、好ましくは1〜2当量の範囲である。
【0046】
ペンタアセチルグルコースは、α体、β体あるいは任意の比率での立体異性体の混合物で使用可能である。ただしβ体の方が、より高い反応性を得ることができる。ペンタアセチルグルコースの使用量は、一般式(5)で表される化合物に対して特に制限はないが、好ましくは0.5〜5当量の範囲で、さらに好ましくは1〜2当量の範囲である。
【0047】
一般式(6)で表される化合物を製造するに際しては通常反応溶媒を用いる。反応溶媒としては、反応の進行を妨げるものでなければ特に制限はないが、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン(EDC)等のハロゲン系溶媒、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサンまたはジエチルエーテル等を挙げることができる。また、これら反応溶媒は、任意の比率での混合溶媒としても使用可能である。
【0048】
一般式(6)で表される化合物を製造する際の反応温度に特に制限はないが、好ましくは−20℃〜溶媒の沸点までの範囲である。
【0049】
一般式(6)中のR1およびR2は、前記の一般式(3)中のR1およびR2と同義である。
【0050】
一般式(6)で表される化合物のグルコース残基上のアセチル基を脱保護化することにより、一般式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0051】
一般式(6)で表される化合物のグルコース残基上のアセチル基を脱保護化する方法としては、アルコール性溶媒存在下、アルカリ金属アルコキシドを用いるエステル交換による方法等を挙げることができる。
【0052】
使用可能なアルカリ金属アルコキシドとしては、リイウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム tert-ブトキシド、カリウム tert-ブトキシド等を挙げることができる。また、アルカリ金属アルコキシドの使用当量は、反応基質に対して触媒量で実施可能である。好ましくは0.001〜1当量の範囲である。反応溶媒は、メタノール、エタノール、2−プロパノール、tert-ブタノール等のアルコール性溶媒を単独で、あるいは任意の比率での混合溶媒として使用可能である。また、前記のアルコール性溶媒とトルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサンまたはジエチルエーテル等との混合溶媒としても使用可能である。また、一般式(3)のカルボン酸エステル部分のR2は、反応溶媒として使用したアルコール性溶媒に対応したエステル体として得ることも可能である。例えば、アルコール性溶媒としてメタノールを使用すれば、メチルエステル体を得ることができる。反応温度に特に制限はないが、好ましくは−20℃〜溶媒の沸点までの範囲である。
【0053】
また、一般式(3)で表される化合物は、反応終了後、陽イオン交換樹脂を使用することで、反応に用いたアルカリ金属を除去することが可能である。陽イオン交換樹脂としては、特に制限はないが、Amberlite 120B plus等の強酸性陽イオン交換樹脂等を挙げることができる。
【0054】
前記の一般式(4)で表される化合物からの一般式(3)で表される化合物の製造例を示すとすれば、例えば、一般式(7)
【0055】
【化7】

【0056】
(式中、R2は前記の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物またはその酸塩とR1−CO−X(式中、R1は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子またはO−CO−R1(R1は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1と同義。))で表される化合物を塩基の存在下で反応させて一般式(8)
【0057】
【化8】

【0058】
(式中、R1およびR2は前記の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造し、次いで該一般式(8)で表される化合物とペンタアセチルグルコースを酸触媒(例えば、三フッ化ホウ素)の存在下で反応させて一般式(9)
【0059】
【化9】

【0060】
(式中、R1およびR2は前記の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造した後、該一般式(9)で表される化合物のグルコース残基上のアセチル基を脱保護化することにより、一般式(10)
【0061】
【化10】

【0062】
(式中、R1およびR2は前記の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造することができる。
【0063】
一般式(7)、一般式(8)、一般式(9)及び一般式(10)中のR2は前記の一般式(3)中のR2と同義であり、一般式(8)、一般式(9)及び一般式(10)中のR1は前記の一般式(3)中のR1と同義である。
【0064】
また、一般式(11)
【0065】
【化11】

【0066】
(式中、R2は前記の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物とペンタアセチルグルコースを三フッ化ホウ素(BF3)の存在下で反応させて一般式(12)
【0067】
【化12】

【0068】
(式中、R2は前記の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物を製造した後、該一般式(12)で表される化合物のグルコース残基上のアセチル基を脱保護化することにより、一般式(13)
【0069】
【化13】

【0070】
(式中、R2は前記の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物を製造することができる。
【0071】
一般式(11)、一般式(12)及び一般式(13)中のR2は、前記の一般式(3)中のR2と同義である。
【0072】
前記のようにして製造される一般式(3)で表される化合物を加水分解することにより、一般式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0073】
一般式(1)で表される化合物を製造するための加水分解の方法としては、アルカリ金属水酸化物等による方法を挙げることができる。反応に用いることのできるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができる。反応を完結させる為には、アルカリ金属水酸化物の使用当量は、一般式(3)の化合物に対して1当量以上を必要とするが、好ましくは1〜3当量の範囲である。反応溶媒は、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール性溶媒を単独で、あるいは任意の比率での混合溶媒として使用可能である。また、前記の溶媒とトルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサンまたはジエチルエーテル等との混合溶媒としても使用可能である。反応温度に特に制限はないが、好ましくは−20℃〜溶媒の沸点までの範囲である。
【0074】
一般式(1)で表される化合物の中で、遊離のカルボン酸を有する化合物は、例えば、反応終了後、陽イオン交換樹脂を用い、反応に用いたアルカリ金属を除去することで、製造可能である。この場合に用いる陽イオン交換樹脂としては、特に制限はないが、Amberlite 120B plus等の強酸性陽イオン交換樹脂等を挙げることができる。
【0075】
また、一般式(1)で表される化合物の中で、カルボン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩を有する化合物は、一般式(1)で表される化合物の中で、遊離のカルボン酸を有する化合物に対して、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物で処理することで、製造可能である。
【0076】
一般式(3)で表される化合物を加水分解することによる一般式(1)で表される化合物の製造例を示すとすれば、例えば、一般式(13)で表される化合物を加水分解することにより、N-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンを製造することができる。
【0077】
さらに、N-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンを加水素化分解することにより、O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンを製造することができる。
【0078】
加水素化分解は水素雰囲気下で行われる。加水素化分解に使用可能な触媒に特に制限はないが、例えば、パラジウム−炭素、ラネーニッケル等を挙げることができる。触媒の使用量および使用水素圧に特に制限は無い。加水素化分解には通常反応溶媒を用いる。反応溶媒としては、反応の進行を妨げるものでなければ特に制限はないが、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール性溶媒、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサンまたはジエチルエーテル等を挙げることができる。これら反応溶媒は、任意の比率での混合溶媒としても使用可能である。
【0079】
加水素化分解する際の反応温度に特に制限はないが、好ましくは−20℃〜溶媒の沸点までの範囲である。
【0080】
前記の製造方法により製造される一般式(1)で表される化合物は、公知の手段、例えば、ゲルろ過、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる方法、あるいは結晶化操作等により反応混合物から分離回収することができる。
【0081】
一般式(1)で表される化合物は、イネ紋枯病菌(Pellicularia sasakii )、灰色カビ病菌(Botrytis cinerea )、リンゴ斑点落葉病菌(Alternaria mali )及びキュウリつる割病菌(Fusarium oxysporus f. sp. Cucumerinum )に対して抗菌作用を有することが判明した。したがって、一般式(1)で表される化合物からなる殺菌剤は、これらの菌を殺菌するのに有用である。一般式(1)で表される化合物のなかでも、N-アセチル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシン及びO-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンは殺菌剤として好ましい化合物である。
【0082】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【実施例1】
【0083】
N-アセチル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステルの製造
[N-アセチル-L-チロシンメチルエステルの製造]
【0084】
【化14】

【0085】
L-チロシンメチルエステル塩酸塩50.6gをトルエン250gとメタノール50gに懸濁し、これに炭酸水素ナトリウム20.4gを加え、室温にて30分間攪拌した。無水酢酸27.0gを滴下し、室温にて4時間攪拌した。水100gを加え、水層を分取した。得られた水層に20%食塩水50gを加え、酢酸エチル100gで目的化合物を抽出した。残った水層から、再度、酢酸エチル50gで目的化合物を抽出した。得られた酢酸エチル層を減圧濃縮した。得られた残渣にトルエン50gを加え、得られた白色結晶をろ取した。続いて、減圧下、40℃にて乾燥した。
収量 : 49.5g
収率 : 95%
融点 : 122〜124℃
H−NMR(CDCl,270MHz) δ6.94(d,2H,J=8.6Hz),6.73(d,2H,8.6Hz),6.52(s,1H),6.02(d,1H,J=7.9Hz),4.87(ddd,1H,J=5.9,6.1,7.9Hz),3.74(s,3H),3.09(dd,1H,J=5.9,14.2Hz),2.97(dd,1H,J=6.1,14.2Hz),1.99(s,3H)
【0086】
[N-アセチル-O-(2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシル)-L-チロシンメチルエステルの製造]
【0087】
【化15】

【0088】
上記で得られたN-アセチル-L-チロシンメチルエステル30.0gを1,2,−ジクロロエタン300gに溶解し、β−ペンタアセチルグルコース61.6gおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体21.5gを加え、35〜45℃の範囲で、4時間反応を行った。反応終了後、HPLCによる分析によって、反応収率は81%であった。続いて、反応液を15℃以下に冷却し、炭酸ナトリウム50gを水300gに溶解したものを滴下した。15℃以下で1時間攪拌後、有機層を分取した。水100gで洗浄後、有機層を減圧濃縮した。得られた残渣に酢酸エチル180gを加え、0〜10℃にて30分間冷却攪拌することで、目的化合物の結晶化を行った。得られた結晶をろ取し、続いて減圧下、40℃にて乾燥した。
収量 : 51.3g
収率 : 72%
融点 :178〜180℃
H−NMR(CDCl,270MHz) δ7.01(d,2H,J=8.6Hz),6.90(d,2H,J=8.6
Hz),5.89(d,1H,J=7.6Hz),5.34−5.22(m,2H),5.17(t,1H,J=9.7Hz),5.07(d,1H,J=7.6Hz),4.86(ddd,1H,J=5.3,5.9,7.6Hz),4.29(dd,1H,J=5.3,12.5Hz),4.17(dd,1H,J=2.3,12.5Hz),3.86(ddd,1H,J=2.3,5.3,9.7Hz),3.73(s,3H),3.12(dd,1H,J=5.9,13.8Hz),3.05(dd,1H,J=5.3,13.8Hz),2.08,2.07,2.05,2.04and1.99(5s,each 3H)
【0089】
[ N-アセチル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステルの製造]
【0090】
【化16】

【0091】
上記で得られたN-アセチル-O-(2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシル)-L-チロシンメチルエステル35.0gをメタノール175gに懸濁させ、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液1.2gを加え室温にて1時間攪拌した。続いて、強酸性樹脂(Amberlite 120B plus)15gで中和処理した。ろ過により樹脂を除去した後に、ろ液を減圧濃縮し、メタノール30gから結晶化を行った。目的化合物をろ取し、減圧下、40℃にて乾燥を行った。
収量 : 24.6g
収率 : 定量的
融点 :170〜172℃
H−NMR(DO,270MHz) δ7.17(d,2H,J=8.3Hz),7.03(d,2H,J=8.3Hz),5.04(d,1H,J=7.3Hz),4.60(dd,1H,J=5.9,8.6Hz),3.88(dd,1H,J=
2.0,12.0Hz),3.73−3.67(m,1H),3.67(s,3H),3.60−3.51(m,3H),
3.44(t,1H,J=9.2Hz),3.11(dd,1H,J=5.9,14.2Hz),2.92(dd,1H,J=
8.6Hz,14.2Hz)
【実施例2】
【0092】
N-アセチル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンの製造
【0093】
【化17】

【0094】
実施例1で得られたN-アセチル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステル
24.6gをメタノール123gに溶解し、0〜10℃の範囲で4N−水酸化ナトリウム水溶液23.2mlを滴下した。反応液を0〜10℃の温度で1時間攪拌し、続いて強酸性樹脂(Amberlite 120B plus)35gで中和処理した。ろ過により樹脂を除去した後に、ろ液を減圧濃縮し、残渣に水20gを加え減圧濃縮を行った。得られた残渣に水15gを加え、0〜5℃で冷却攪拌することで目的化合物の結晶化を行った。得られた白色結晶をろ取し、減圧下、40℃にて乾燥を行った。
収量 : 13.5g
収率 : 57%
融点 :215℃(分解)
H−NMR(DO,270MHz) δ7.19(d,2H,J=8.2Hz),7.03(d,2H,J=8.2Hz),5.05(d,1H,J=6.9Hz),4.56(dd,1H,J=5.3,8.7Hz),3.88(d,1H,J=
5.6Hz),3.69(dd,1H,J=5.6,12.5Hz),3.59−3.40(m,4H),3.14(dd,
1H,J=5.3,14.2Hz),2.93(dd,1H,J=8.7,14.2Hz),1.89(s,3H)
【実施例3】
【0095】
N-ステアロイル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステルの製造
[N-ステアロイル-L-チロシンメチルエステルの製造]
【0096】
【化18】

【0097】
L-チロシンメチルエステル塩酸塩5.0gをトルエン50gに懸濁し、炭酸水素ナトリウム4gを水25gに溶解した溶液を加えた後、0〜10℃で15分間攪拌した。続いてステアロイルクロライド7.85gを0〜10℃で滴下し、滴下終了後、反応液を室温まで昇温し、8時間攪拌した。反応液中に析出した目的化合物をろ取し、トルエン20g、水20gで順次洗浄した。得られた白色結晶を減圧下、40℃にて乾燥した。
収量 : 9.65g
収率 : 97%
融点 : 104〜106℃
H−NMR(CDCl,270MHz) δ6.96(d,2H,J=8.6Hz),6.74(d,2H,J=8.4
Hz),5.90(d,1H,J=7.9Hz),5.72(s,1H),4.89(ddd,1H,J=5.6,6.0,
7.9Hz),3.75(s,3H),3.10(dd,1H,J=5.6,13.9Hz),3.00(dd,1H,J=
6.0Hz),2.18(t,2H,J=7.2Hz),1.62−1.57(m,2H),1.26(s,28H),0.89(t,3H,J=6.6Hz)
【0098】
[ N-ステアロイル-O-(2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシル)-L-チロシンメチルエステルの製造]
【0099】
【化19】

【0100】
上記で得られたN-ステアロイル-L-チロシンメチルエステル2.31gを1,2−ジクロロエタン35gに溶解し、β−ペンタアセチルグルコース2.44gおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.84gを加え、35〜45℃の範囲で、6時間反応を行った。反応終了後、HPLCによる分析によって、反応収率は78%であった。続いて、反応液を15℃以下に冷却し、炭酸ナトリウム5gを水30gに溶解したものを滴下した。15℃以下で1時間攪拌後、有機層を分取した。水20gで洗浄後、有機層を減圧濃縮した。得られた残渣に酢酸エチル2gおよびヘキサン2gを加え、0〜10℃にて30分間冷却攪拌することで、目的化合物の結晶化を行った。得られた結晶を減圧下、40℃にて乾燥した。
収量 : 2.5g
収率 : 63%
融点 : 109〜111℃
H−NMR(CDCl,270MHz) δ7.01(d,2H,J=8.6Hz),6.90(d,2H,J=8.6
Hz),5.85(d,1H,J=7.9Hz),5.30−5.13(m,3H),5.06(d,1H,J=7.6Hz),4.91−4.86(m,1H),4.30(dd,1H,J=5.3,12.2Hz),4.16(dd,1H,J=2.3,12.2Hz),3.89−3.83(m,1H),3.73(s,3H),3.10−3.07(m,2H),2.18(t,2H,J=7.6Hz),2.08,2.07,2.05and2.04(4s,each 3H),1.63−1.58(m,2H),1.26(s,28H),0.88(t,3H,J=6.6Hz)
【0101】
[ N-ステアロイル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステルの製造]
【0102】
【化20】

【0103】
反応2で得られたN-ステアロイル-O-(2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシル)-L-チロシンメチルエステル1.5gをメタノール20gに溶解し、室温にて28%−ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.2gを加えた。反応液を室温にて3時間攪拌し、1N−塩酸1.1mlで反応を停止させた。反応液に、酢酸エチル30gおよび水30gを加え、有機層を分取した。
有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、目的物のアモルファス状残渣を得た。
収量 : 1.09g
収率 : 92%
H−NMR(DMSO-d6,270MHz) δ8.21(d,1H,J=7.6Hz),7.11(d.2H,J=
8.6Hz),6.92(d,2H,J=8.6Hz),5.26(d,1H,J=4.6Hz),5.05(d,1H,J=4.3Hz),4.99(d,1H,J=5.0Hz),4.79(d,1H,J=7.3Hz),4.53(t,1H,J=
5.8Hz),4.39(ddd,1H,J=5.8,7.6,9.2Hz),3.71−3.64(m,1H),3.58(s,3H),3.50−3.39(m,2H),3.30−3.12(m,3H),2.94(dd,1H,J=5.8,13.7Hz),2.81(dd,1H,J=9.2,13.7Hz),2.04(t,2H,J=7.1Hz),1.46−
1.35(m,2H),1.24(s,28H),0.85(t,3H,J=6.6Hz)
【実施例4】
【0104】
N-ステアロイル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンの製造
【0105】
【化21】

【0106】
実施例3で得られたN-ステアロイル-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステル625mgをメタノール15gに溶解し、室温にて2N−水酸化ナトリウム水溶液1mLを加えた。反応液を室温にて1時間攪拌した後に、強酸性樹脂(Amberlite IR-120B plus)1gにて処理した。樹脂をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、目的物のアモルファス状残渣を得た。
収量 : 610mg
収率 : 100%
H−NMR(DMSO-d6,270MHz) δ8.03(d,1H,J=7.9Hz),7.12(d,2H,J=
8.9Hz),6.91(d,2H,J=8.9Hz),5.25(d,1H,J=4.5Hz),5.05(s,1H),
4.99(s,1H),4.79(d,1H,J=7.3Hz),4.53(t,1H,J=5.5Hz),4.35(ddd,
1H,J=4.9,7.9,9.2Hz),3.71−3.63(m,1H),3.50−3.15(m,5H),2.96(dd,1H,J=4.9Hz,13.9Hz),2.79(dd,1H,J−9.2,13.9Hz),2.04(t,2H,J=6.6Hz),1.45−1.35(m,2H),1.23(s,28H),0.85(t,3H,J=6.6Hz)
【実施例5】
【0107】
N-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステルの製造
[ N-カルボベンゾキシ-O-(2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシル)-L-チロシンメチルエステルの製造]
【0108】
【化22】

【0109】
N-カルボベンゾキシ-L-チロシンメチルエステル40gを1,2−ジコロロエタン600gに溶解し、β−ペンタアセチルグルコース58.9gおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体20.6gを加え、35〜45℃の範囲で、6時間反応を行った。反応終了後、HPLCによる分析によって、反応収率は80%であった。続いて、反応液を15℃以下に冷却し、炭酸ナトリウム48gを水430gに溶解したものを滴下した。15℃以下で1時間攪拌後、有機層を分取した。2%食塩水300gで2回洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣に酢酸エチル80gおよびヘキサン80gを加え、0〜10℃にて2時間冷却攪拌することで、目的化合物の結晶化を行った。得られた結晶をろ取し、続いて減圧下、40℃にて乾燥した。
収量 : 55g
収率 : 69%
融点 : 110〜112℃
H−NMR(CDCl,270MHz) δ7.39−7.29(m,5H),7.01(d,2H,J=8.6Hz),6.89(d,2H,J=8.6Hz),5.33−5.03(m,6H),5.04(d,1H,J=7.5Hz),
4.66−4.61(m,1H),4.29(dd,1H,J=5.3,12.2Hz),4.16(dd,1H,J=2.3Hz),3.87−3.81(m,1H),3.72(s,3H),3.09−3.05(m,2H),2.07,2.06,2.05and2.03(4s,each 3H)
【0110】
[ N-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステルの製造]
【0111】
【化23】

【0112】
上記で得られたN-カルボベンゾキシ-O-(2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシル)-L-チロシンメチルエステル45gをメタノール225gに懸濁し、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液を加えて室温にて2時間攪拌した。反応液を強酸性樹脂(Amberlite IR-120B plus)44gで処理し、続いて樹脂をろ別した。ろ液を減圧濃縮し、得られた残渣に水115gを加え、室温にて30分間攪拌した。続いて0〜10℃にて1時間冷却攪拌し、析出した目的化合物をろ取した。得られた白色結晶を、減圧下、40℃にて乾燥した。
収量 : 31.9g
収率 : 95%
融点 : 172〜174℃
H−NMR(CDOD,270MHz) δ7.36−7.28(m,5H),7.11(d,2H,J=8.6Hz),7.01(d,2H,J=8.6Hz),5.03(s,2H),4.87(d,1H,J=7.6Hz),4.40(dd,
1H,J=5.6,8.9Hz),3.89(d,1H,J=13.6Hz),3.73−3.62(m,1H),3.69(s,3H),3.47−3.38(m,4H),3.09(dd,1H,J=5.6,14.0Hz),2.89(dd,
1H,J=8.9,14.0Hz)
【実施例6】
【0113】
O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンの製造
[ N-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンの製造]
【0114】
【化24】

【0115】
実施例5で得られたN-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンメチルエステル20.0gをメタノール200gに溶解し、4N-水酸化ナトリウム水溶液15.3mLを加え、室温にて1時間攪拌した。反応液を強酸性樹脂(Amberlite IR-120B plus)44gで処理し、続いて樹脂をろ別した。ろ液を減圧濃縮し、目的化合物をアモルファス状固体として得た。
収量 : 19.0g
収率 : 98%
H−NMR(CDOD,270MHz) δ7.32−7.29(m,5H),7.13(d,2H,J=8.6Hz),7.00(d,2H,J=8.6Hz),5.03(s,2H),4.85−4.70(m,1H),4.38(dd,1H,J=5.0,8.8Hz),3.88(d,1H,J=11.9Hz),3.69(dd,1H,J=4.0,11.5Hz),3.46−3.41(m,4H),3.13(dd,1H,J=5.0,13.8Hz),2.88(dd,1H,J=8.8,13.8Hz)
【0116】
[ O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンの製造]
【0117】
【化25】

【0118】
上記で得られたN-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシン19.0gをメタノール200gに溶解し、10%パラジウム−炭素触媒(50%含水品)3.0gを加え、水素雰囲気下(大気圧)、室温にて2時間攪拌を行った。反応終了後、水1000gを加え、析出した目的化合物を溶解し、セライトを用いて触媒をろ別した。ろ液を減圧濃縮し、得られた残渣に水15gおよびエタノール15gを加え、続いて0〜10℃にて攪拌することで、結晶化を行った。得られた白色結晶をろ取し、減圧下、40℃にて乾燥した。
収量 : 10.6g
収率 : 77%
融点 :260℃(分解)
H−NMR(DO,270MHz) δ7.23(d,2H,J=8.9Hz),7.08(d,2H,J=8.9Hz),5.08(d,1H,J=7.5Hz),3.94−3.85(m,2H),3.70(dd,1H,J=5.6,12.2Hz),3.62−3.52(m,4H),3.45(t,1H,J=9.2Hz),3.20(dd,1H,J=5.3,
14.4Hz),3.04(dd,1H,J=7.9,14.4Hz)
【実施例7】
【0119】
実施例2および6で得られた化合物に関して、抗菌試験を実施した。
[試験方法]
直径9cmの培地を含む滅菌シャーレ上に植菌し、サンプル濃度100ppm、25℃で抗菌試験を実施した。実施した病原菌は以下のものである。
イネ紋枯病菌:Pellicularia sasakii (以下、「PS」と略記する。)
灰色カビ病菌:Botrytis cinerea (以下、「BC」と略記する。)
リンゴ斑点落葉病菌:Alternaria mali (以下、「AM」と略記する。)
キュウリつる割病菌:Fusarium oxysporus f. sp. Cucumerinum (以下、「FO」と略記する。)
また、阻害率を以下の式で求めた。
阻害率(%)=[(コントロールの菌糸伸張−処理区の菌糸伸張)/コントロールの菌糸伸張]×100
[試験結果]
実施例2および6記載の化合物において抗菌作用が見られた。試験結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、新規なチロシン配糖体を提供するのに有用である。また、本発明の新規なチロシン配糖体は抗菌作用を有するため、殺菌剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


(式中、R1は水素原子、無置換または置換の炭素数1〜30のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基、無置換または置換のフェニル基、無置換または置換のヘテロ環基を示す。)で表される化合物又は該化合物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩。
【請求項2】
一般式(2)
【化2】


(式中、R1は前記請求項1に記載の一般式(1)中のR1と同義。)で表される化合物。
【請求項3】
一般式(3)
【化3】


(式中、R1は水素原子、無置換または置換の炭素数1〜30のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基、無置換または置換のフェニル基、無置換または置換のヘテロ環基を示し、R2は無置換または置換の炭素数1〜10のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基または無置換または置換のフェニル基を示す。)で表される化合物。
【請求項4】
一般式(4)
【化4】


(式中R2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物またはその酸塩とR1−CO−X(式中、R1は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子またはO−CO−R1(R1は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1と同義。))で表される化合物を塩基の存在下で反応させて一般式(5)
【化5】


(式中、R1およびR2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造し、次いで該一般式(5)で表される化合物とペンタアセチルグルコースを酸触媒の存在下で反応させて一般式(6)
【化6】


(式中、R1およびR2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造した後、該一般式(6)で表される化合物のグルコース残基上のアセチル基を脱保護化する、一般式(3)
【化7】


(式中、R1およびR2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物の製造法。
【請求項5】
一般式(7)
【化8】


(式中、R2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物またはその酸塩とR1−CO−X(式中、R1は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子またはO−CO−R1(R1は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1と同義。))で表される化合物を塩基の存在下で反応させて一般式(8)
【化9】


(式中、R1およびR2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造し、次いで該一般式(8)で表される化合物とペンタアセチルグルコースを酸触媒の存在下で反応させて一般式(9)
【化10】


(式中、R1およびR2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物を製造した後、該一般式(9)で表される化合物のグルコース残基上のアセチル基を脱保護化する、一般式(10)
【化11】


(式中、R1およびR2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR1およびR2と同義。)で表される化合物の製造法。
【請求項6】
酸触媒が三フッ化ホウ素(BF3)である、請求項4または請求項5に記載の製造法。
【請求項7】
一般式(11)
【化12】


(式中、R2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物とペンタアセチルグルコースを三フッ化ホウ素(BF3)の存在下で反応させて一般式(12)
【化13】


(式中、R2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物を製造した後、該一般式(12)で表される化合物のグルコース残基上のアセチル基を脱保護化する、一般式(13)
【化14】


(式中、R2は前記請求項3記載の一般式(3)中のR2と同義。)で表される化合物の製造法。
【請求項8】
請求項7に記載の一般式(13)で表される化合物を加水分解してN-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンを製造し、次いで該N-カルボベンゾキシ-O-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンをさらに加水素化分解するO-β-D-グルコピラノシル-L-チロシンの製造法。
【請求項9】
一般式(1)
【化15】


(式中、R1は水素原子、無置換または置換の炭素数1〜30のアルキル基、無置換または置換のアラルキル基、無置換または置換のフェニル基、無置換または置換のヘテロ環基を示す。)で表される化合物又は該化合物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩からなる殺菌剤。

【公開番号】特開2006−131587(P2006−131587A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325013(P2004−325013)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】