説明

チーズ類及び凍結乾燥食品

【課 題】即席麺、即席スープ等の即席食品の具材として使用可能な、さらにはその他一般食品群、主にラーメン、スープ、味噌汁、鍋類等の液状食品群の具材として使用できる、湯戻し性に優れ、かつ湯戻し後に良好な糸引き性を有する凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類及びこのチーズ類を凍結乾燥させて得られる凍結乾燥食品を提供すること。
【解決手段】原料ナチュラルチーズとして、熟度指標が20%以下であるか、又は熟度指標を20%以下に調整したナチュラルチーズを使用し、溶融塩として、(A)クエン酸塩類又はモノリン酸塩類とポリリン酸塩類との2種類か、又は(B)クエン酸塩類、モノリン酸塩類及びポリリン酸塩類の3種類を併用使用して、凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類を得る。得られたチーズ類を裁断、切削又は粉砕し、凍結乾燥して凍結乾燥食品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯戻し性に優れ、かつ湯戻し後に良好な糸引き性を有する凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類に関する。
また、本発明は、上記チーズ類を凍結乾燥して得られる、湯戻し性と湯戻し後の糸引き性を併せ持つ凍結乾燥食品に関する。本発明の凍結乾燥食品は、即席麺、即席スープ等の即席食品の具材として、その他一般食品群、主にラーメン、スープ、味噌汁、鍋類等の液状食品群の具材として有用である。
なお、本発明でいうチーズ類とは、プロセスチーズ、チーズフード、及び乳等を主要原料とするチーズ様食品をいう。
【背景技術】
【0002】
チーズ類は、現在の日本の食生活においても徐々に根付き、食卓に上る機会も増加している。それに伴い、他の食品同様、簡便に利用できる即席食品中にも、チーズ類のニーズが増加し、実際にインスタントラーメンやインスタントスープ等の乾燥食品や、高温高圧処理され常温保存が可能なカレールー等のレトルト食品等々、高度な処理を経ても、通常使用と同様の風味、物性、形状等を保つことができるチーズ類の開発が求められている。
【0003】
乾燥チーズ及び凍結乾燥チーズで、糸引き性の良好でないものは本出願前に公知であって、その製造方法も知られている。例えば、溶融塩としてポリリン酸ナトリウムとメタリン酸ナトリウムを加え、製品水分を45〜50%に調整し、緩慢凍結によって組織のポーラス化により湯戻し性を向上したものが知られている(特許文献1)。これは、従来必要であった特殊な製造設備や溶融塩以外の食品添加物が必要で、製造上、手間がかかっていたものを、通常の設備、手間で湯戻し性を向上したものである。
また、溶融塩、安定剤、乳化剤を適宜組み合わせて原料チーズに添加した凍結乾燥チーズも公知である(特許文献2)。この技術は、得られたチーズ食品の湯戻しではなく、きしみのない、そのまま食しても軽い食感のチーズ類食品が得られることがしめされており、湯戻し性や湯戻し後の糸引き性については何ら言及されていない。
【0004】
上記公知技術は、原料チーズに添加物を添加、乳化処理後に、凍結乾燥処理した凍結乾燥チーズ類であるが、特許文献1の技術は、ユーザーニーズの高い湯戻し後の糸引き性に関する記載がなく、実施例に記載される凍結乾燥チーズ類も凍結乾燥後の糸引き性を有するものではないことが確認されている。また、引用文献2の技術でも、得られた製品は湯戻しすることなく、直接的に喫食するため、湯戻しの必要は全くなく、湯戻し性や、湯戻し後の糸引き性に関連する記載はない。
【0005】
さらに、凍結乾燥後の湯戻し性及び、湯戻し後の糸引き性の両方を満たした凍結乾燥チーズも本出願人会社の技術で公知である(特許文献3)。この技術では、原料チーズ類を低速で撹拌しながら加熱し、これに気体を通気して含気チーズ類を真空下で発泡させる特殊な製造方法を用いるものであり、この実施のためには特殊な製造設備が必要となる上に、湯戻し後の糸引き性が良好なものはナチュラルチーズを発泡させたものに限られ、プロセスチーズ、チーズフード、乳等を主要原料とするチーズ様食品を発泡させたものでは、湯戻し性や、湯戻し後の糸引き性が優れた製品は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3581976号公報
【特許文献2】特開2004−290087号公報
【特許文献3】特公平7−114629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を鑑みなされたものであり、特殊な製造設備等も必要ではなく、通常の乳化釜を使用でき、湯戻し性に優れ、かつ湯戻し後の糸引き性も良好である凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類を提供することを課題とする。また、本発明は、上記チーズ類を凍結乾燥して得られる、湯戻し性と湯戻し後の糸引き性を併せ持つことを特徴とした凍結乾燥食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、原料ナチュラルチーズとして、熟度指標が20%以下であるか、又は熟度指標を20%以下に調整したナチュラルチーズを使用し、溶融塩として、(A)クエン酸塩類又はモノリン酸塩類とポリリン酸塩類との2種類か、又は(B)クエン酸塩類、モノリン酸塩類及びポリリン酸塩類の3種類を併用使用してチーズ類を得、得られたチーズ類を裁断、切削又は粉砕し、凍結乾燥することによって得られた凍結乾燥食品が、良好な湯戻し性を有し、かつ湯戻し後の糸引き性も良好であり、湯戻し性と湯戻し後の糸引き性を併せ持つということを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、原料ナチュラルチーズとして、熟度指標が20%以下であるか、又は熟度指標を20%以下に調整したナチュラルチーズを使用し、溶融塩として、(A)クエン酸塩類又はモノリン酸塩類とポリリン酸塩類との2種類か、又は(B)クエン酸塩類、モノリン酸塩類及びポリリン酸塩類の3種類を併用使用することを特徴とする凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類である。また、本発明は、上記チーズ類を凍結乾燥して得られる凍結乾燥食品である。
【0010】
なお、湯戻し後の糸引き性は、以下の方法で評価することができる。
(湯戻し後の糸引き性)
凍結乾燥食品を5gカップに採取し、90℃の温湯を100ml加え、3分間復元させた。湯戻しさせた食品の中央部に2mm規格のL字型六角レンチの短辺(16mm)が来るように下からくぐらせ、糸引き測定機(富士精機製作所社製)によって、10cm/秒の速度で引き上げた時に、切断するまでの食品の伸びた長さを測定した。100mm以上を糸引き性が良好であるものとする。
また、熟度指標は以下の式で計算する。
熟度指標(%)=(可溶性窒素量/全窒素量)×100
【0011】
本発明でいう凍結乾燥食品の湯戻し性、吸水性にかかわる要因としては、いろいろなことが考えられる。
一般的に、乾燥前の水分含量は高ければ高いほど、乾燥後のポーラス化は促進され、より吸水されやすいものとなると考えられる。場合によっては、強制的に組織中に含気させ、ポーラス化を促進することも可能である。ただし、チーズ類の場合、特にカットチーズ、ダイスチーズ、シュレッドチーズ等の二次加工を行うものに関しては、高水分に調製すると軟らかい組織となってしまい、加工適性を損なってしまう。
また、単位体積辺りの表面積の広さも大きな要因となる。湯戻しする際の温湯との接触面積は広ければ広いほど湯戻し性は良くなる。カットチーズや大きなダイスチーズのような形状よりも、小さなダイスチーズやシュレッドチーズのような小さく薄い形状ものの方がより湯戻し性が高い。
【0012】
糸引き性を有するチーズ類を製造するには、クエン酸ナトリウムやモノリン酸ナトリウムを用いることが一般的であるが、これらの塩類は、イオン交換作用を持つが、タンパク質の膨潤・吸水性を高める解膠作用が弱いので、このような塩類を使用して調製されたチーズ類をそのまま凍結乾燥又は加水して凍結乾燥しても、それらの凍結乾燥品の湯戻し性は非常に悪い。
これは解膠作用が低いことにより、タンパク質自体の吸水性が低くなってしまい、たとえチーズ類調製時の水分含量を高めたり、単位体積辺りの表面積を広げたりしても、タンパク質自体の吸水性が悪く、一部復元したチーズ類も、ガム質で強固な繊維を形成するため、硬く弾力性のあるものとなる。そのため、湯戻し後のチーズ類は見かけ上糸引き性が低いものとなることがわかった。
【0013】
そこで、本発明では、復元した凍結乾燥食品において、ガム質で強固な繊維では滑らかで軟らかい糸引き性は期待できないとの考えから、滑らかで軟らかい糸引き性付与のために若干糸引き性が低下しても、タンパク質自体の吸水性をより高めるために、解膠作用の高いポリリン酸塩類(ジリン酸塩類も含む)を添加することが好ましいという考えに至り、凍結乾燥後の湯戻し性と湯戻し後の糸引き性の好ましい両者の物性を併せ持つ凍結乾燥食品を得た。
【0014】
また、本発明では、原料ナチュラルチーズも重要な要件であり、特に、熟度指標が20%以下であるナチュラルチーズ自体又は熟度指標を20%以下に調整したナチュラルチーズを用いることが重要である。
このような原料ナチュラルチーズとしては、通常、プロセスチーズ、チーズフード、乳等を主要原料とするチーズ様食品の製造に使用されるゴーダチーズ、チェダーチーズ、モツァレラチーズ等を例示することができる。熟度指標が20%以下であるナチュラルチーズ自体又は熟度指標を20%以下に調整したナチュラルチーズであれば、特に限定されるものではないが、良好な糸引き性を有する硬質又は半硬質で低熟度のナチュラルチーズを用いることが好ましい。
なお、熟度指標の調整は、例えば熟度指標を10%に調整する場合、熟度指標12%と8%のナチュラルチーズを等量混合したり、熟度指標24%と8%のナチュラルチーズをそれぞれ12.5重量%と87.5重量%の割合で混合すればよい。
【0015】
本発明で用いる溶融塩としては、イオン交換作用があり、解膠作用の弱いクエン酸塩類又はモノリン酸塩類、及び解膠作用の強いポリリン酸塩類を2種類併用する。上記2種類の併用に加えて、場合によってはクエン酸塩類、モノリン酸塩類及びポリリン酸塩類の3種類を併用するか、さらには予めそれらを配合した溶融塩も使用することができる。
【0016】
本発明に使用される解膠作用の弱いモノリン酸塩類とは、構造上、リンを1つ持つものである。通常、チーズ類製造に使用されるモノリン酸塩であれば、特に限定はしない。
また、本発明に使用される解膠作用の強いポリリン酸塩類とは、一般的にポリリン酸塩、メタリン酸塩と呼ばれる、構造上、リンを2つ以上持つものや、ジリン酸塩、ピロリン酸塩と呼ばれる、構造上、リンを2つ持つものも包含するものとする。通常、チーズ類製造に使用されるポリリン酸塩であれば、特に限定はしない。
さらに、本発明におけるクエン酸塩類とは、例えばクエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等が挙げられる。通常、チーズ類の製造に使用されるクエン酸塩であれば、特に限定はしない。
【0017】
本発明では、上述するように溶融塩の2種類又は3種類を組み合わせて用いるが、解膠作用の弱いクエン酸塩類又はモノリン酸塩類、及び解膠作用の強いポリリン酸塩類の併用は必須である。
上記条件に従いながら、解膠作用の弱いクエン酸塩類又はモノリン酸塩類、及び解膠作用の強いポリリン酸塩類が最低1種類以上ずつ併用されていれば、それ以外に複数のクエン酸塩類やその他のモノリン酸塩類、ポリリン酸塩類を併用し、合計として3成分以上の溶融塩を使用することは本発明の範囲内である。
また、これ以外に、一般的にチーズ類調製に使用される例えば酒石酸塩等の溶融塩の使用も、本発明の特徴である良好な湯戻し性と湯戻し後の良好な糸引き性を阻害しない範囲で可能である。
【0018】
本発明における溶融塩の添加量は、原料チーズの熟度指標の設定、最終製品の水分含量、二次加工の有無等々の条件によって適宜決定すればよい。原料ナチュラルチーズに対して、(A)クエン酸塩類又はモノリン酸塩類とポリリン酸塩類との2種類を併用する場合は、クエン酸塩類又はモノリン酸塩類0.1〜2重量%、好ましくは0.2〜1.8重量%、ポリリン酸塩類0.1〜1.5重量%、好ましくは0.2〜1.0重量%であり、 (B)クエン酸塩類、モノリン酸塩類及びポリリン酸塩類の3種類を併用する場合は、クエン酸塩類及びモノリン酸塩類0.1〜2重量%、好ましくは0.2〜1.8重量%、ポリリン酸塩類0.1〜1.5重量%、好ましくは0.2〜1.0重量%である。そして、上記個々の溶融塩添加量の条件に加えて、全溶融塩添加量として0.5〜2.5重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%とする。この全溶融塩添加量は、一般的にチーズ類調製に使用される溶融塩を加えて添加することにより調整してもよい。
【0019】
上記添加量において、全溶融塩添加量が0.5重量%未満では、乳化の不安定が懸念され、ポリリン酸塩添加量が1.5重量%を超えると、湯戻し後の良好な糸引き性は期待できない。
【0020】
本発明に用いられる副原材料としては、脱脂粉乳等の乳製品、乳成分、安定剤、乳化剤、澱粉、加工澱粉、植物性脂肪、糖質類、香辛料、香料等々、プロセスチーズ、チーズフード、乳等を主要原料とするチーズ様食品、それぞれのグレードにおいて使用可能なものを、それぞれの目的に応じた形で選択できる。例えば物性調整、風味調整等である。もちろん使用しても良いし、使用しなくても良い。
【0021】
本発明における乳化処理は、通常、プロセスチーズ、チーズフード、乳等を主要原料とするチーズ様食品の乳化に用いられる乳化剤や安定剤を適宜使用して、乳化機、例えば高速せん断乳化釜等を用いて、400〜1500rpmの中速から高速で撹拌することが好ましいが、特に限定されるものではない。
上記配合、上記工程を経た後、通常のチーズ類と同様に充分に冷却し、本発明の凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類を得る。さらに、得られたチーズ類について、必要に応じて二次加工を行い、凍結乾燥に供することにより、本発明の凍結乾燥食品を得る。
【0022】
なお、二次加工の態様としては、いろいろな形状が考えられるが、例えば加水後、種々の形状に成型した後に凍結乾燥する方法や、ブロック状のチーズを直接凍結乾燥する方法、さらには、短冊状、スライス状、ダイス状に裁断後、あるいはシュレッド状に切削後又はクラッシュ状、粉体状に粉砕後、凍結乾燥する方法等、二次加工の方法、サイズ、形状、凍結乾燥の条件等は問わないが、一般的に湯戻し性に影響する要因として考えられる、単位体積辺りの表面積をできるだけ広く取る方がより有利である。当然、厚く、大きなブロックやカット品を凍結乾燥したものは必ずしも湯戻し性は良好では無いが、通常、考えられる乾燥食品群への使用に耐え得るサイズへの裁断、切削、粉砕後、凍結乾燥し、得られた凍結乾燥食品は、良好な湯戻し性と湯戻し後の糸引き性を併せ持つことができる。
また、本発明の凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類は、二次加工の方法、サイズ、形状により求められる性質が異なり、例えばシュレッドする場合にはシュレッド後のチーズ片が結着しにくいというシュレッド適性が求められる。すなわち、本発明の凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類においては、求められる適性を実現できる二次加工の方法、サイズ、形状に合わせて適宜副原材料も含めた原料配合を決定すればよい。
【0023】
本発明により得られる凍結乾燥食品を復元する際に用いる温湯は、特に温度帯は制限しないが、湯戻し後の糸引き性を良好に発現させるためには、より高い温度の温湯が有利である。これは復元後のチーズへの軟らかさ付与とも関連するためである。
凍結乾燥食品の主な用途に挙げられる、カップスープ、インスタントラーメン等の具材として使用したときには、沸騰水や熱湯を用いるため、何ら問題なく、湯戻し性と湯戻し後の糸引き性を併せ発現させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、湯戻し性に優れ、かつ湯戻し後に良好な糸引き性を有する凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類及びこのチーズ類を凍結乾燥した凍結乾燥食品を得ることができる。本発明の凍結乾燥食品は、湯戻し後、糸引き性を有する通常のナチュラルチーズやプロセスチーズと同様の良好な糸引き性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施例を示しながら、本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0026】
ゴーダチーズ5kg及びモツァレラチーズ5kgを原料ナチュラルチーズとして用い、熟度指標を下記[表1]に示すように、10%、15%、20%、25%に調整し、粉砕、混合した。混合チーズ10kgを高速せん断乳化釜に投入し、これに溶融塩としてモノリン酸ナトリウムを100g、ポリリン酸ナトリウムを50g、乳化を安定にし、シュレッド適性を付与するために安定剤としてグアーガム10gを添加した後、最終の水分含量が45重量%となるように水を添加し、1000rpmで78℃まで加熱撹拌した。加熱したチーズについては、400gカートンに充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却し、プロセスチーズを得た。
得られたプロセスチーズを、4mm×15mmにシュレッドし、−40℃に凍結、0.2Torrの条件で凍結乾燥を行い、凍結乾燥プロセスチーズを得た。
【0027】
(試験例1)
実施例1で得られた凍結乾燥プロセスチーズについて、(1)湯戻し性、(2)湯戻し後の糸引き性について、以下の方法で試験を行った。
(1)湯戻し性
凍結乾燥プロセスチーズを5gカップに採取し、90℃の温湯を100ml加え、3分間復元させた時の様子を観察した。
(2)湯戻し後の糸引き性
上記方法で湯戻しさせた復元チーズの中央部に来るように、2mm規格のL字型六角レンチの短辺(16mm)を下からくぐらせ、糸引き測定機によって、10cm/秒の速度で引き上げた時に、切断するまでのチーズの伸びた長さを測定した。100mm以上を糸引き性が良好であるものとする。
その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
上記[表1]の結果より、湯戻し性は熟度指標10%〜25%の範囲内で全般的に良好であったが、熟度指標が10%から高くなるに従って湯戻し後の糸引き性は弱くなった。
【実施例2】
【0030】
ゴーダチーズ5kg及びモツァレラチーズ5kgを原料ナチュラルチーズとして用い、粉砕、混合して熟度指標を12%に調整した。混合チーズ10kgを高速せん断乳化釜に投入し、これに溶融塩としてクエン酸ナトリウムを60g、ポリリン酸ナトリウムを80g、乳化を安定にし、シュレッド適性を付与するために、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを50g、及び安定剤としてローカストビンガムを30g、植物性脂肪として大豆白絞油100gを添加した後、最終の水分含量が45重量%となるように水を添加し、1000rpmで78℃まで加熱撹拌した。加熱したチーズについては、400gカートンに充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却し、本発明の凍結乾燥食品の原料に適したチーズ類であるチーズフードを得た。
得られたチーズフードを、4mm×15mmにシュレッドし、−40℃に凍結、そのまま凍結乾燥を行い、本発明の凍結乾燥食品であるチーズフードを得た。
得られた凍結乾燥チーズフードを5gカップに採取し、90℃の温湯を100ml注いだところ、実施例1における熟度指標10%のものと同様、良好な湯戻し性と湯戻し後の良好な糸引き性を併せ持つものであった。
【実施例3】
【0031】
ゴーダチーズ5kg及びモツァレラチーズ5kgを原料ナチュラルチーズとして用い、熟度指標を10%に調整し、粉砕、混合した。混合チーズ10kgを高速せん断乳化釜に投入し、これに溶融塩として、クエン酸ナトリウム、モノリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムをそれぞれ下記[表2]に従って添加した後、最終の水分含量が47重量%となるように水を添加し、1000rpmで80℃まで加熱撹拌した。加熱したチーズについては、400gカートンに充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却し、プロセスチーズを得た。
得られたプロセスチーズを、4mm×15mmにシュレッドし、−40℃に凍結、0.2Torrの条件で凍結乾燥を行い、凍結乾燥プロセスチーズを得た。
【0032】
(試験例2)
実施例3で得られた凍結乾燥プロセスチーズについて、湯戻し性及び湯戻し後の糸引き性について、試験例1と同様の方法で試験を行った。凍結乾燥前のプロセスチーズの乳化状態及び乳化後の糸引き性の結果とともに、その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
上記[表2]の結果より、クエン酸ナトリウム及び/又はモノリン酸ナトリウムと、ポリリン酸ナトリウムを併用したサンプル1〜3では、湯戻し性と湯戻し後の糸引き性が両立していた。これに対し、それぞれの溶融塩を単独で使用したサンプル4〜9では、湯戻し後の糸引き性が劣るものとなっていた。
また、サンプル4〜6は、溶融塩の添加量がサンプル1〜3やサンプル7〜9の半分のため、乳化状態が不安定であり、離水気味であった。
クエン酸ナトリウム又はモノリン酸ナトリウムのいずれかのみを添加したサンプル5、6、8、9では、吸水性が良くないため、湯戻し性が悪く、湯戻し後に一部復元されるチーズ組織も、透明でガム質、強固な繊維を形成し、見かけ糸引き性が悪いものとなった。
ポリリン酸ナトリウムのみを加えたサンプル4は、湯戻し性は良いが、乳化状態、糸引き性が劣るものとなり、またサンプル7は、乳化状態、湯戻し性も良いが、糸引き性が劣るものとなった。
このことから、溶融塩の組み合わせとしてクエン酸ナトリウム及び/又はモノリン酸ナトリウムと、ポリリン酸ナトリウムとを併用した場合に良好な湯戻し性と湯戻し後の良好な糸引き性を併せ持つ凍結乾燥プロセスチーズが得られることが分かった。
【実施例4】
【0035】
ゴーダチーズ5kg及びモツァレラチーズ5kgを原料ナチュラルチーズとして用い、熟度指標を10%に調整し、粉砕、混合した。混合チーズ10kgを高速せん断乳化釜に投入し、これに溶融塩をそれぞれ下記[表3]に従って添加した後、最終の水分含量が47重量%となるように水を添加し、1000rpmで80℃まで加熱撹拌した。加熱したチーズについては、400gカートンに充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却し、プロセスチーズを得た。
得られたプロセスチーズを、4mm×15mmにシュレッドし、−40℃に凍結、0.2Torrの条件で凍結乾燥を行い、凍結乾燥プロセスチーズを得た。
(試験例3)
実施例4で得られた凍結乾燥プロセスチーズについて、湯戻し性及び湯戻し後の糸引き性について、試験例1と同様の方法で試験を行った。凍結乾燥前のプロセスチーズの乳化状態及び乳化後の糸引き性の結果とともに、その結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
上記[表3]の結果より、クエン酸ナトリウム及びポリリン酸ナトリウムの両者を併用し、ポリリン酸ナトリウムの添加量がそれぞれ25g(原料ナチュラルチーズの0.25重量%)、50g(原料ナチュラルチーズの0.25重量%)、100g(原料ナチュラルチーズの1重量%)と適正な添加量であるサンプル11、12、13では、湯戻し性と湯戻し後の糸引き性が両立していた。これに対し、ポリリン酸ナトリウムの添加量が10g(原料ナチュラルチーズの0.1重量%)と少ないサンプル10や、ポリリン酸ナトリウムの添加量が150g(原料ナチュラルチーズの1.5重量%)と多いサンプル14では、湯戻し時に芯が残る傾向にあり、湯戻し後の見かけ糸引き性が若干悪くなった。さらに200g(原料ナチュラルチーズの2重量%)とポリリン酸ナトリウムの添加量が多いサンプル15は、乳化が非常に安定で組織が絞まり、湯戻し性が悪く、また糸引き性も乳化時から悪く、湯戻し後も同様であった。
このことから、ポリリン酸ナトリウムの添加量としては、0.1〜1.5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.25〜1.0重量%であることが分かった。
【実施例5】
【0038】
ゴーダチーズ5kg及びモツァレラチーズ5kgを原料ナチュラルチーズとして用い、熟度指標を10%に調整し、粉砕、混合した。混合チーズ10kgを高速せん断乳化釜に投入し、これに溶融塩をそれぞれ下記[表4]に従って添加した後、最終の水分含量が47重量%となるように水を添加し、1000rpmで80℃まで加熱撹拌した。加熱したチーズについては、400gカートンに充填し、5℃冷蔵庫で、24時間以上冷却し、プロセスチーズを得た。
得られたプロセスチーズを、4mm×15mmにシュレッドし、−40℃に凍結、0.2Torrの条件で凍結乾燥を行い、凍結乾燥プロセスチーズを得た。
(試験例4)
実施例5で得られた凍結乾燥プロセスチーズについて、湯戻し性及び湯戻し後の糸引き性について、試験例1と同様の方法で試験を行った。凍結乾燥前のプロセスチーズの乳化状態及び乳化後の糸引き性の結果とともに、その結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
上記[表4]の結果より、ポリリン酸ナトリウムの添加量を50g(原料ナチュラルチーズの0.5重量%)とした場合、サンプル16、17、18では、湯戻し性と湯戻し後の糸引き性が両立された。
ただし、クエン酸ナトリウムの添加量が10g(原料ナチュラルチーズの0.1重量%)と少ないサンプル16では、湯戻し時に芯が残る傾向にあり、湯戻し後の見かけ糸引き性が若干悪くなった。また、クエン酸ナトリウムの添加量が200g(原料ナチュラルチーズの2重量%)と多いサンプル18では、クエン酸ナトリウム量が多いため、風味的に良くなく、保存が長くなるにつれ、クエン酸ナトリウムの結晶が生じ、品質上の問題が生じた。
また、ポリリン酸ナトリウムの量を100g(原料ナチュラルチーズの1重量%)と増やしたサンプル19、20では、ポリリン酸ナトリウムに対するクエン酸ナトリウムの量が少ないため、湯戻し後の糸引き性が悪くなる傾向が見られた。さらに、クエン酸ナトリウムを200g(原料ナチュラルチーズの2重量%)とさらに増やしたサンプル21では、乳化が非常に安定で組織が絞まり、湯戻し性が悪くなった。糸引き性も乳化時から悪く、湯戻し後も同様であった。なお、サンプル21では、サンプル18同様、風味的に良くなく、保存が長くなるにつれ、クエン酸ナトリウムの結晶が生じ、品質上の問題が生じた。
このことから、クエン酸ナトリウムはポリリン酸ナトリウムに比べて解膠作用が弱い分、添加量を増やすことが可能であり、クエン酸ナトリウムの添加量としては原料ナチュラルチーズに対して0.1〜2重量%が好ましく、さらに好ましくは0.2〜1.8重量%であることが分かった。また、ポリリン酸ナトリウムの添加量を多くすると、クエン酸ナトリウムによる糸引き性の効果を打ち消す傾向にあることが分かった。さらに、溶融塩全体の添加量としては、試験例2の結果から添加量が少ないと、乳化が不安定になり、添加量が多いと乳化が安定になりすぎて湯戻し性が悪くなったり、風味が悪くなったり、溶融塩の結晶が生じたりすることから、原料ナチュラルチーズに対して0.5〜2.5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ナチュラルチーズとして、熟度指標が20%以下であるか、又は熟度指標を20%以下に調整したナチュラルチーズを使用し、溶融塩として、(A)クエン酸塩類又はモノリン酸塩類とポリリン酸塩類との2種類か、又は(B)クエン酸塩類、モノリン酸塩類及びポリリン酸塩類の3種類を併用使用することを特徴とするチーズ類。
【請求項2】
請求項1記載のチーズ類を凍結乾燥して得られる凍結乾燥食品。


【公開番号】特開2011−142924(P2011−142924A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102689(P2011−102689)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【分割の表示】特願2006−84121(P2006−84121)の分割
【原出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】