説明

チーズ風味及び/又は乳感増強方法

【課題】チーズの持つ本来の自然なチーズ感やクリーム感を強化するチーズ風味増強剤及び/又は乳のコク、濃厚感からなる乳感を向上させる乳感増強剤、該増強剤を添加した増強されたチーズ風味を有する嗜好性の高いチーズ含有食品及び/又は乳感を向上させた乳入り製品を提供すること。
【解決手段】食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合することにより、優れたチーズ風味の増強作用を有するチーズ風味増強剤を提供する。また、該増強剤は、乳入り製品に対して、乳のコク、濃厚感からなる乳感を向上させる作用を有し、乳入り製品に対する乳感増強剤を提供する。該チーズ風味及び/又は乳感増強剤を用いることにより、増強されたチーズ風味を有する嗜好性の高いチーズ含有食品、又は乳感の向上した乳入り製品を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合したチーズ風味及び/又は乳感増強剤、該チーズ風味及び/又は乳感増強剤を用いたチーズ、チーズソース又はチーズ風味調味料、及び該チーズ、チーズソース又はチーズ風味調味料を用いた増強されたチーズ風味を有するチーズ含有食品の製造方法、或いは該チーズ風味及び/又は乳感増強剤を用いた乳のコク、濃厚感からなる乳感を向上させた乳系デザート類のような乳入り製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズは、栄養バランスのとれた、嗜好性の高い伝統的な乳の加工品であり、古来より多種類のチーズが世界各地で生産されている。一般にチーズは、加工の仕方や材料により、数種類に分類される。まず、日本では、加工の仕方によって、チーズをナチュラルチーズと、プロセスチーズに分類している。ナチュラルチーズは、乳、バターミルク又はクリームを乳酸菌で発酵させるか、或いは、酵素を加えてできたカード(凝乳)からホエー(乳清)を除去し、固形状にしたもの、又は、これらを熟成させたものをいい、プロセスチーズは、ナチュラルチーズを粉砕、加熱溶融し、乳化したものをいう。
【0003】
また、チーズは、原料、熟成方法、仕上りの状態等によって、フレッシュチーズ、ウォッシュチーズ、白カビチーズ、青カビチーズ等に分類される。チーズの製造法は、それぞれのチーズにより独特のものであるが、基本的な共通の工程と、独自の工程との組合わせにより、特徴のあるチーズが製造されている。例えば、熟成工程を用いるチーズの製造例として、カマンベールのような白カビチーズの製造工程について説明すると、原料乳にスターターとレンネットを加えて凝固させる工程、カッティングとホエーを排除してカードを生成する工程、カードを型詰・成形する工程、成形カードを食塩水に浸漬して加塩する工程、加塩カードに白カビ(Penicillium camemberti)を接種する工程及び熟成する工程(20〜25日間)等の工程により製造され、複雑な手順と、長期間の熟成工程を経て製造されている。
【0004】
近年、チーズは、チーズ自体を食すると共に、チーズから調製されたチーズソースやチーズ風味調味料のような形態で、各種のチーズ含有食品の調製に利用されている。例えば、グラタン、パスタソース、クリームシチュー、クリームチャウダー、クリームコロッケ、ポタージュスープ、ピザ、チーズフォンデュ、ラザニア、チーズリゾット、ドリア、チーズオムレツのようなチーズ含有食品やチーズ風味スナック調味料等、広範囲の用途に利用されている。
【0005】
チーズの嗜好性を増大するために、従来より、その風味の増強や各種チーズフレーバーの開発が行なわれている。報文には、例えば「フレーバーアドバンテージII 最近の乳製品フレーバーの用途展開」と題して、チーズ等の乳製品のフレーバーの調香処方について(月刊フードケミカル、17巻9号、35−41頁、2001)、また、「酵素でチーズフレーバーを増強する」と題して、プロテアーゼやリパーゼを用いてチーズフレーバーを増強することについて(生物工学会誌、82巻10号、494頁、2004)報告されている。また、特公昭53−25024号公報には、液体の全脂肪乳、ナチュラルチーズ又はプロセスチーズに水を加えて液状としたものに、含硫物質を添加し、これを脂肪分解酵素、タンパク分解酵素、及びストレプトコッカス属、ラクトバシルス属、プロピオニバクテリウム属、ぺニシリウム属、サッカロミセス属の微生物を作用させて、フレーバーの強化されたチーズフレーバーを製造することが開示されている。
【0006】
また、特開平6−125733号公報には、乳脂肪含有食品材料をリパーゼ処理して得られる生成物に、分枝サイクロデキストリンを配合することによりチーズ等の乳製品フレーバーを製造することについて、特開平8−228713号公報には、2−ヒドロキシー3−メチルペンタン酸とジアセチル又は2−フェニルエチルシンナメートを有効成分とするチーズ様などの香気香味特性を付与し増強させる香料組成物について開示されている。更に、特開2001−299211号公報には、無脂乳固形分15重量%以下及び脂肪分65%以上の組成を有するカビ系チーズの油相からなるチーズフレーバーについて、特開2002−142713号公報には、乳又は乳加工品をリパーゼの存在下に酵素反応させて得られる酵素分解物及び乳又は乳加工品を香気回収手段に供して得られる回収香からなるチーズ等の乳製品フレーバーについて開示されている。
【0007】
また、特表平9−506266号公報には、グリオキシル酸、2−オキソ−プロパン酸、2−オキソ−ブタン酸のような化合物を含有させたチーズ等のフレバリング組成物について、特表2000−508901号公報には、ストラクチャード脂質をチーズ等の食品生成物に添加して芳香放出を強化することについて、開示されている。更に、特開2007−222020号公報には、酵母エキス、畜肉エキス、魚介エキスのような食用エキス由来のリン酸カルシウムやリン酸マグネシウムを有効成分とするチーズ等の食品の品質改良用組成物について、開示されている。また、特開2006−61066号公報には、果汁と酵母エキスを加熱反応させることによって得られる調味料によって乳製品の風味を改善し、コク、甘味、濃厚感、脂肪感、乳感などを付与することについて開示されている。
【0008】
以上のように、各種のチーズ等の乳製品フレーバーが開示されているが、これらは、チーズの持つ本来の自然なチーズ感やクリーム感を強化するフレーバーやフレバリング方法としては、必ずしも満足のいくものではなかった。
【0009】
【特許文献1】特公昭53−25024号公報。
【特許文献2】特開平6−125733号公報。
【特許文献3】特開平8−228713号公報。
【特許文献4】特開2001−299211号公報。
【特許文献5】特開2002−142713号公報。
【特許文献6】特開2006−61066号公報。
【特許文献7】特開2007−222020号公報。
【特許文献8】特表平9−506266号公報。
【特許文献9】特表2000−508901号公報。
【非特許文献1】月刊フードケミカル、17巻9号、35−41頁、2001。
【非特許文献2】生物工学会誌、82巻10号、494頁、2004。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、チーズの持つ本来の自然なチーズ感やクリーム感を強化するチーズ風味増強剤、該チーズ風味増強剤を添加したチーズ、チーズソース、チーズ風味調味料、及び該チーズ、チーズソース、チーズ風味調味料を用いた増強されたチーズ風味を有する嗜好性の高いチーズ含有食品、或いは乳のコク、濃厚感からなる乳感を向上させた乳系デザート類のような乳入り製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、チーズの持つ本来の自然なチーズ感やクリーム感を強化するチーズ風味増強剤について鋭意検討する中で、食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合したものが、優れたチーズ風味の増強作用を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。更に、本発明者は、該食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合したものが、乳系デザート類のような乳入り製品に対して、乳のコク、濃厚感からなる乳感を向上させた作用を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の該チーズ風味及び/又は乳感増強剤は、チーズの持つ本来の自然なチーズ感やクリーム感を強化するもので、優れたチーズ風味増強作用を有するとともに、乳系デザート類のような乳入り製品に対して、乳のコク、濃厚感を著しく向上させる作用を有する。
【0012】
本発明のチーズ風味及び/又は乳感増強剤の調製に用いられるミート様フレーバーを有する粉末調味料は、食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製される。かかるミート様フレーバーを有する粉末調味料の調製に用いられる植物油脂としては、米油、大豆油、パーム油、コーン油、なたね油、ゴマ油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油、アーモンド油又はオリーブ油を挙げることができる。また、酵母エキス粉末としては、含硫化合物を含む酵母エキスであることが好ましく、該含硫化合物を含む酵母エキスとしては、グルタチオン含有酵母エキスであることが好ましい。本発明のチーズ風味及び/又は乳感増強剤の調製に用いられるミート様フレーバーを有する粉末調味料は、食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で、温度70〜180℃で、10〜180分間加熱することにより調製される。
【0013】
本発明において、チーズ風味及び/又は乳感増強剤は、チーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料の製造に際して添加することにより、チーズ風味が増強されたチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を製造することができる。また、該チーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を用いることにより、増強されたチーズ風味を有するチーズ含有食品を製造することができる。また、本発明のチーズ風味及び/又は乳感増強剤を、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、乳入り氷菓、乳入りプディング、又はヨーグルト等の乳系デザート類のような乳入り製品の製造に際して添加することにより、乳のコク、濃厚感を著しく向上さた乳入り製品を製造することができる。
【0014】
すなわち具体的には本発明は、(1)食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合したことを特徴とするチーズ風味及び/又は乳感増強剤や、(2)食用植物油脂が、米油、大豆油、パーム油、コーン油、なたね油、ゴマ油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油、アーモンド油又はオリーブ油であることを特徴とする上記(1)記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤や、(3)酵母エキス粉末が、含硫化合物を含む酵母エキスであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤からなる。
【0015】
また本発明は、(4)酵母エキス粉末が、グルタチオン含有酵母エキスであることを特徴とする上記(3)記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤や、(5)食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で、温度70〜180℃で、10〜180分間加熱することによりミート様フレーバーを有する粉末調味料を調製することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤や、(6)上記(1)〜(5)のいずれか記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤を、チーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料の製造に際して添加することを特徴とするチーズ風味が増強されたチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料の製造方法や、(7)上記(6)記載のチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を用いることを特徴とする増強されたチーズ風味を有するチーズ含有食品の製造方法や、(8)上記(1)〜(5)のいずれか記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤を、乳入り製品の製造に際して添加することを特徴とする乳感が増強された乳入り製品の製造方法や、(9)乳入り製品が乳系デザート類であることを特徴とする上記(8)記載の乳感が増強された乳入り製品の製造方法や、(10)乳系デザート類が、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、乳入り氷菓、乳入りプディング、又はヨーグルトであることを特徴とする上記(9)記載の乳感が増強された乳入り製品の製造方法からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のチーズ風味及び/又は乳感増強剤は、チーズの持つ本来の自然なチーズ感やクリーム感を強化するもので、優れたチーズ風味増強剤を提供する。また、本発明のチーズ風味増強剤を用いることにより、チーズ風味が増強されたチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を製造することができ、更に、該チーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を用いることにより、増強されたチーズ風味を有する嗜好性の高いチーズ含有食品を製造することができる。また、本発明のチーズ風味及び/又は乳感増強剤を、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、乳入り氷菓、乳入りプディング、又はヨーグルト等の乳系デザート類のような乳入り製品の製造に際して添加することにより、乳のコク、濃厚感を著しく向上さた味覚に優れた乳入り製品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合したチーズ風味及び/又は乳感増強剤、該チーズ風味及び/又は乳感増強剤を添加したチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料、及び該チーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を用い増強されたチーズ風味を有するチーズ含有食品、或いは、該チーズ風味及び/又は乳感増強剤を添加した乳のコク、濃厚感を著しく向上さたアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、乳入り氷菓、乳入りプディング、又はヨーグルト等の乳系デザート類のような乳入り製品からなる。本発明において、チーズ含有食品の対象とされるチーズは特に限定されないが、チェダーチーズ、ゴーダチーズ、パルメザンチーズ等に有利に適用することができる。
【0018】
本発明のチーズ風味及び/又は乳感増強剤は、食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合することにより調製される。かかるミート様フレーバーを有する粉末調味料の調製に用いる食用植物油脂としては、例えば、米油、大豆油、パーム油、コーン油、なたね油、ゴマ油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油、アーモンド油又はオリーブ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等が挙げられる。特に、好ましくは、米油が挙げられ、該食用植物油脂を用いることにより、良好なミート様フレーバーを有する粉末調味料を得ることができる。
【0019】
酵母エキス粉末としては、特に限定されないが、良好なミート様フレーバーを有する粉末調味料を得るためには、含硫化合物、例えば、システイン、シスチン等の含硫アミノ酸、グルタチオン等を含む酵母エキスが好ましく、その中で、グルタチオン等を含む酵母エキスが特に好ましい。グルタチオン含有酵母エキスは、グルタチオン含有酵母を、熱水抽出、酵素分解抽出、自己消化抽出などの公知の方法で調製することができる。例えば、グルタチオンを1重量%以上、好ましくは3重量%以上含有する酵母エキスが用いられる。本発明における酵母エキス粉末は、酵母エキスをそれ自体公知の方法で粉末化することにより調製することができる。該酵母エキス粉末としては、好ましくは含硫化合物0.5重量%以上、通常、1〜8重量%含有するものを使用する。
【0020】
ミート様フレーバーを有する粉末調味料の調製に際して、食用植物油脂と酵母エキス粉末は、公知の粉体混合手段で混合することができ、食用植物油脂:酵母エキス粉末の重量比が、1:2〜200、好ましくは1:9〜49の割合で混合する。該食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物は、粉末状態で加熱することにより、良好なミート様フレーバーを発現させることができる。加熱方法は、特に限定されない。直接熱源に暴露して加熱しても良く、また、容器に入れて間接的に加熱しても良い。加熱は、温度70〜180℃、好ましくは100〜120℃で、10〜180分間、好ましくは60〜120分間行なう。加熱後、冷却して、本発明のミート様フレーバーを有する粉末調味料を得ることができる。
【0021】
本発明において、チーズ風味及び/又は乳感増強剤を調製するには、ミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合することにより調製することができる。ミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスの配合は、通常、ミート様フレーバーを有する粉末調味料:酵母エキス=1:0.1〜10の配合比で配合され、好ましくはミート様フレーバーを有する粉末調味料:酵母エキス=1:0.3〜3の配合比で配合される。本発明において、本発明のチーズ風味増強剤をチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料の製造に際して添加することにより、チーズ風味の増強されたチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を調製することができ、更に、該チーズ風味の増強されたチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を用いることにより、増強されたチーズ風味を有する嗜好性の高いチーズ含有食品を製造することがでる。また、本発明のチーズ風味及び/又は乳感増強剤を、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、乳入り氷菓、乳入りプディング、又はヨーグルト等の乳系デザート類のような乳入り製品の製造に際して添加することにより、乳のコク、濃厚感を著しく向上さた味覚に優れた乳入り製品を製造することができる。
【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
[ミート様フレーバーを有する粉末調味料の調製]
(サンプルの調製):
食用米油5重量部をグルタチオン含有酵母エキス粉末95重量部に加え、均一に馴染むまで混合した後、120〜130℃に熱した容器中で60分間加熱して、所望のミート様フレーバーを有する粉末調味料を調製した(サンプルD)。本発明品の対象として、以下のA〜Cのサンプルを作製し、比較した。
サンプルA:グルタチオン含有酵母エキス粉末。
サンプルB:食用米油5重量部をグルタチオン含有酵母エキス粉末95重量部に加え、均一に馴染むまで混合した粉末。
サンプルC:グルタチオン含有酵母エキス粉末を120〜130℃に熱した容器中で30分間加熱した粉末。
【0024】
(評価)
サンプルA〜Dの1%湯溶液をパネル3名で官能評価した。評価は、サンプルAを基準とし、各項目について採点法(±3点)で行なった。[+3(−3):非常に強い(非常に弱い);+2(−2)かなり強い(かなり弱い);+1(−1)やや強い(やや弱い);0:どちらでもない]。結果を、表1に示す。
【0025】
【表1】

【実施例2】
【0026】
[チーズ風味及び/又は乳感増強剤の調製]
表2に示す原材料を用いて、チーズ風味増強剤を調製した(調製したチーズ風味増強剤を、以下「本製剤」と呼ぶ)。
[本製剤の製造例]:
本製剤は、表2の配合表に沿って秤量した各原料を混合して調製する。以下に調製手順を示す。混合容器にフレーバ原エキス(ミート様フレーバーを有する粉末調味料)を投入し、酵母エキス類(酵母エキス「酵味」:キリンフードテック(株)製および、酵母エキス「HR」:キリンフードテック(株)製など)、野菜エキス(オニオンパウダー、ハクサイエキスパウダーなど)、香辛料(ホワイトペッパー、ガーリックパウダー、ローレルパウダーなど)を加えて充分混合する。次に食塩、デキストリン、砂糖、粉末しょうゆ、食用植物油脂を加え、更に充分混合する。
【0027】
【表2】

【実施例3】
【0028】
[「本製剤」のチーズ感増強効果についての試験]
1.試料
以下の実施例で表示される試料は、以下のとおりである:
(1)「本製剤」
(2)「フレーバ原エキス」(以下、「原エキス」とする。)
(3)原エキス以外の原材料類(以下、「その他原料」とする。)
(4)使用原材料グループ分け(表2)
a)酵母エキス類(以下、「Aグループ」とする。)
b)野菜エキス類(以下、「Bグループ」とする。)
c)香辛料類(以下、「Cグループ」とする。)
【0029】
2.試験方法
[試験1]「本製剤」のチーズ感増強効果の確認
「本製剤」のチーズ感増強効果を確認するために、「本製剤」のグラタンチーズソースでの添加効果を評価した。
【0030】
(官能評価用モデル食品の調製)
グラタンチーズソースの配合として、表3に示すグラタンチーズソースの配合を使用した。該グラタンチーズソースに、表4の配合を用いて、以下の調製法により、官能評価用モデル食品を調製した。
【0031】
<調製法>:
(1)小麦粉をバターでなめらかになるまで炒める。(2)牛乳を少しずつ入れ、(1)をのばす。(3)塩、ホワイトペッパーを加える。(4)ゴーダチーズを加える。(5)本製剤を加える(無添加品は塩分調整のために食塩を0.12%加える。)
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
<試験区>
試験区:試験区を表5に示す。なお、無添加品は基準品を示す。本製剤は、「本製剤」添加、0.3%のものを示す。
【0035】
【表5】

【0036】
(官能評価)
上記各試料(40℃)について、味質を10名によるクローズドパネル法で官能評価した。評価は、無添加品を基準として、味質(うま味、塩味、甘味、酸味、苦味、複雑味、先味、中味、後味、厚み、持続性、チーズ感、クリーム感、乳感、嗜好性)を採点法(±3点)で評価した。味質の評点を、表6に示す。
【0037】
【表6】

【0038】
(官能評価結果の検定)
一元配置の分散分析後、Tukey-Kramer Testによる多重比較にて有意差検定(有意水準5
%)を行った。
【0039】
[試験2]「本製剤」のチーズ感増強効果に起因する原材料の特定
表3に示す本製剤の原材料について、「原エキス」、「その他原料」及び「A〜Cグループ」の単独又は組合せたときの添加効果をグラタンチーズソースで評価した。
【0040】
(i)「原エキス」及び「その他原料」での官能評価
<官能評価用モデル食品>
[試験1]の「(官能評価用モデル食品の調製)」と同様とした。
【0041】
<試験区>
試験区:試験区を表7に示す。なお、無添加品は基準品を示す。本製剤は、「本製剤」添加、0.3%のものを示す。原は、「原エキス」添加、0.027%のものを示す。他は、「その他原料」添加、0.273%のものを示す。
【0042】
【表7】

【0043】
(官能評価)
上記各試料(40℃)について、味質を10名によるクローズドパネル法で官能評価した。評価は、無添加品を基準として、味質(厚み、持続性、チーズ感、クリーム感、乳感、嗜好性)を採点法(±3点)で評価した。評点は、[試験1]の「(官能評価)」の評点と同様とした。
【0044】
(官能評価結果の検定)
試験1の「(官能評価結果の検定)」と同様とした。
【0045】
(ii)使用原材料のグループ毎の官能評価
【0046】
<官能評価用モデル食品>
[試験1]の「(官能評価用モデル食品の調製)」と同様とした。
【0047】
<試験区>
試験区:試験区を表8に示す。なお、試験区の各表示は以下のとおり:
・無添加品(基準品)
・本製剤:「本製剤」添加(0.3%)
・原A :「原エキス」+「Aグループ」添加(合計0.090%)
・原B :「原エキス」+「Bグループ」添加(合計0.065%)
・原C :「原エキス」+「Cグループ」添加(合計0.029%)
・原AB:「原エキス」+「A+Bグループ」添加(合計0.128%)
・原AC:「原エキス」+「A+Cグループ」添加(合計0.092%)
・原BC:「原エキス」+「B+Cグループ」添加(合計0.067%)
【0048】
【表8】

【0049】
(官能評価)
試験1の「(官能評価)」と同様とした。
【0050】
(官能評価結果の検定)
試験1の「(官能評価結果の検定)」と同様とした。
【0051】
2.試験結果
【0052】
(1)「本製剤」のチーズ感増強効果の確認
「本製剤」の評価結果を表9に示した(以下、表中の*印は、無添加品と比べて有意水準5%で統計的に有意差があることを示す)。なお、概要は下記の通り。添加品は無添加品に対して、うま味、塩味、先味、中味、後味、厚み、持続性、チーズ感、クリーム感及び嗜好性がやや強かった。「本製剤」のチーズ感増強効果の官能評価において、各味質に対する評価結果を図1に示した。
【0053】
【表9】

【0054】
(2)「本製剤」のチーズ感増強効果に起因する原材料の特定
(「原エキス」及び「その他原料」での官能評価結果)
「原エキス」及び「その他原料」での官能評価結果を表10に示した。なお、概要は次の通り:「本製剤」は無添加品に対して、厚み、持続性、チーズ感、クリーム感及び嗜好性がやや強かった。「原」は無添加品に対して、持続性、クリーム感、乳感及び嗜好性がやや強かった。「他」は無添加品に対して、厚み、持続性、チーズ感、クリーム感及び乳感がやや強かった。「原エキス」及び「その他原料」での官能評価結果における各官能評価観点の結果を、図2に示した。
【0055】
【表10】

【0056】
(使用原材料のグループ毎の官能評価)
使用原材料のグループ毎の官能評価結果(1)、(2)を、それぞれ表11及び表12に示した。なお、概要は次の通り:「本製剤」は無添加品に対して、厚みがかなり強く、持続性、チーズ感、クリーム感、乳感及び嗜好性がやや強かった。「原A」は無添加品に対して、厚み、持続性、チーズ感、クリーム感、乳感及び嗜好性がやや強かった。「原B」は無添加品に対して、厚み及び持続性がやや強かった。「原C」は無添加品に対して、ほぼ同等の味質であった。「原AB」は無添加品に対して、厚み、持続性、チーズ感、クリーム感、乳感及び嗜好性がやや強かった。「原AC」は無添加品に対して、厚み、持続性、チーズ感、クリーム感及び嗜好性がやや強かった。「原BC」は無添加品に対して、厚み、持続性、チーズ感、クリーム感、乳感及び嗜好性がやや強かった。使用原材料のグループ毎の官能評価結果(1)、(2)を、図3及び図4に示した。
【0057】
【表11】

【0058】
【表12】

【0059】
(評価結果の考察)
「本製剤」をグラタンチーズソースに添加して官能評価した結果、無添加品に対して有意(有意水準5%)にチーズ感を増強させた。有効成分を特定するため、同品の原材料をグループ化して、前述同様に評価した結果、「フレーバ原エキス」+「酵母エキス類」の組み合わせが、無添加品に対して有意(有意水準5%)にチーズ感を増強させた。以上より、グルタチオンを含有する酵母エキスと米油を混合し、加熱したフレーバ原エキスと酵母エキスを併用することによりチーズ風味増強効果を奏する調味料を得ることが出来ることが確認された。
【実施例4】
【0060】
[チーズ風味及び/又は乳感増強剤の調製]
ミート様フレーバーを有する原エキス9部に対して、酵母エキスHR(キリンフードテック(株)製)を6部、デキストリン50.1部、食塩34.9部の配合で混合してチーズ風味及び/又は乳感増強剤を調製した。
【実施例5】
【0061】
[乳入りココナッツミルクデザートにおける乳感増強効果]
次の処方による乳入りココナッツミルクデザートに、実施例4で調製したチーズ風味及び/又は乳感増強剤を添加して、その乳感増強効果について、試験した。
【0062】
(処方)
ココナッツミルク 55部
生クリーム 5部
砂糖 10部
水 30部
【0063】
(評価)
社内パネル5名で官能評価したところ、0.05%でココナッツミルクデザートの甘味や濃厚感が向上し、クリーム感が向上した。
【実施例6】
【0064】
[アイスクリーム類における乳感増強効果]
表13に示す市販のアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスに対して、実施例4で調製したチーズ風味及び/又は乳感増強剤を0.2%添加・混合し、その乳感増強効果について、試験した。評価は、社内パネル8名、オープンで官能評価により実施した。
【0065】
【表13】

【実施例7】
【0066】
[アイスクリーム類における乳感効果の分析]
市販のアイスクリームに対して、実施例4で調製したチーズ風味及び/又は乳感増強剤を0.2%添加・混合し、その乳感効果について分析した。評価は、社内パネル18名、ブラインド、7点評価法で評価した。
【0067】
(評価)
濃厚感:無添加区 3.0点 試験区 3.4点
コク: 無添加区 3.0点 試験区 3.6点
甘味: 無添加区 3.0点 試験区 3.9点
以上のように3項目全てにおいて、無添加区を上回る評価が得られた。
【実施例8】
【0068】
[氷菓における乳感増強効果]
市販氷菓製造用粉末調製品(乳入りシャーベット調製用粉末調製品A)を標準レシピ通り溶解したものに対し、実施例4で調製したチーズ風味及び/又は乳感増強剤を0.1%添加して冷凍庫で凍らせた。得られたものについて社内パネル9名で官能評価したところ、全員が無添加品と比べて、乳の濃厚感、コク味が顕著に向上したと評価した。
【実施例9】
【0069】
[氷菓における乳感増強効果]
市販氷菓製造用粉末調製品(シャーベット調製用粉末調製品B)を標準レシピ通り冷凍した後に牛乳を加えたものに対し、実施例4で調製したチーズ風味及び/又は乳感増強剤を0.1%添加して混合した。得られたものについて社内パネル3名で官能評価したところ、全員が無添加品と比べて、乳の濃厚感、コク味が顕著に向上したと評価した。
【実施例10】
【0070】
[プリンにおける乳感増強効果]
市販プリンの素(乳入りプリンミクス)を標準レシピ通り湯に溶解した後に水で希釈したものに対し、実施例4で調製したチーズ風味及び/又は乳感増強剤を0.05%添加して枠に流し込み冷蔵庫中で固めて調製した。得られたものについて社内パネル9名で官能評価したところ、全員が無添加品と比べて、乳の濃厚感、コク味が顕著に向上したと評価した。
【実施例11】
【0071】
[プリンにおける乳感増強効果]
市販プリンの素(プリンの素A、プリンの素B(黒ゴマプリン)、プリンの素C(豆乳ミルクプリン))に牛乳を入れて暖めたものに対し、実施例4で調製したチーズ風味及び/又は乳感増強剤を0.05%添加して混合後、枠に流し込み冷蔵庫中で固めて調製した。得られたものについて社内パネル2名で官能評価したところ、調製したいずれのプリンについても、全員が無添加品と比べて、乳の濃厚感、コク味が顕著に向上したと評価した。
【実施例12】
【0072】
[ドリンクヨーグルトにおける乳感増強効果]
市販ドリンクヨーグルト(市販ドリンクヨーグルト「飲むヨーグルト(いちご)」、「飲むヨーグルト(マンゴー)」、「飲むヨーグルト(ブルーベリー)」)に対し、実施例4で調製したチーズ風味及び/又は乳感増強剤を0.05%添加して混合した。得られたものについて社内パネル3名で官能評価したところ、いずれのヨーグルトにおいても、全員が無添加品と比べて、乳の濃厚感、コク味が向上したと評価した。いちごの酸味やマンゴーの風味の向上も認められた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例の「本製剤」のチーズ感増強効果の試験において、各味質に対する官能評価結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例の「本製剤」のチーズ感増強効果の試験において、「原エキス」及び「その他原料」での官能評価結果における各官能評価観点の結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例の「本製剤」のチーズ感増強効果の試験において、使用原材料のグループ毎の官能評価結果(1)を示す図である。
【図4】本発明の実施例の「本製剤」のチーズ感増強効果の試験において、使用原材料のグループ毎の官能評価結果(2)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と酵母エキスを配合したことを特徴とするチーズ風味及び/又は乳感増強剤。
【請求項2】
食用植物油脂が、米油、大豆油、パーム油、コーン油、なたね油、ゴマ油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油、アーモンド油又はオリーブ油であることを特徴とする請求項1記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤。
【請求項3】
酵母エキス粉末が、含硫化合物を含む酵母エキス粉末であることを特徴とする請求項1又は2記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤。
【請求項4】
酵母エキス粉末が、グルタチオン含有酵母エキス粉末であることを特徴とする請求項3記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤。
【請求項5】
食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で、温度70〜180℃で、10〜180分間加熱することによりミート様フレーバーを有する粉末調味料を調製することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤を、チーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料の製造に際して添加することを特徴とするチーズ風味が増強されたチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のチーズ、チーズソース、又はチーズ風味調味料を用いることを特徴とする増強されたチーズ風味を有するチーズ含有食品の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか記載のチーズ風味及び/又は乳感増強剤を、乳製品の製造に際して添加することを特徴とする乳感が増強された乳入り製品の製造方法。
【請求項9】
乳入り製品が乳系デザート類であることを特徴とする請求項8記載の乳感が増強された乳入り製品の製造方法。
【請求項10】
乳系デザート類が、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、乳入り氷菓、乳入りプディング、又はヨーグルトであることを特徴とする請求項9記載の乳感が増強された乳入り製品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−261385(P2009−261385A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228494(P2008−228494)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(502118328)キリンフードテック株式会社 (27)
【Fターム(参考)】