ツイストペア線及びワイヤーハーネス
【課題】ハーネス組立時等に2線がばらけることがなく、かつ端末加工が容易であり、2線間の接着力を調節することが可能であるツイストペア線及びワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】導体11、21が絶縁体12、22でそれぞれ絶縁被覆された絶縁電線10、20が撚り合わされ、前記絶縁電線10、20として表面に接着層が13、23が形成されたものを用い、2本の絶縁電線10、20を前記接着層13、23の接着により一体化してツイストペア線1を構成し、前記ツイストペア線1を用いてワイヤーハーネス2を構成した。
【解決手段】導体11、21が絶縁体12、22でそれぞれ絶縁被覆された絶縁電線10、20が撚り合わされ、前記絶縁電線10、20として表面に接着層が13、23が形成されたものを用い、2本の絶縁電線10、20を前記接着層13、23の接着により一体化してツイストペア線1を構成し、前記ツイストペア線1を用いてワイヤーハーネス2を構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツイストペア線及びこれを用いたワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の電子化に伴い、CAN(Controller Area Network)等の高速多重通信が多用される傾向にあり、これらの通信回路にはツイストペア線が使用されることが多い。図11(a)に示すように、シールドなしツイストペア線100は、2本の電線110、120を撚っただけという、シンプルな構造のため、ワイヤーハーネス組立時等にツイストがばらけるという問題があった。電線110、120は、それぞれ、導体111、121が絶縁体からなる被覆材112、122により被覆されている。
【0003】
ツイストペア線100は、ツイストがばらけると、2線間の間隔が異なる部分が形成されてしまう。例えば、図11(a)のA−A線断面の部分が、図11(b)に示すように2本の電線110、120間が隙間無く密着している状態から、ツイストがばらけると、同図(c)に示すように、電線110と電線120の間が開いて隙間Bが形成される。電線110と電線120の間に隙間が形成されると、導体111、121の間隔も変化する。ツイストペア線の、導体の線間の間隔が大きくなることは、特性インピーダンス等の伝送特性の悪化の原因となる。そして最悪の場合には、通信エラー等の不具合につながることになる。
【0004】
また、線癖が強く、剛性の高い電線は、撚り加工で変形させた後に、変形が戻り易いため、ツイスト加工が難しいという問題がある。またツイスト加工後に2線間が開き易い傾向がある。この場合も同様に上記の不具合の原因となる。
【0005】
今後の車載通信のトレンドとしては、大容量化、高速化等が予測されている。通信の高周波数化に伴い、ツイスト線の伝送特性にもよりシビアな特性が要求される。ツイストペア線の伝送特性を向上させるためには、撚りの高品質化は大きな課題となっている。
【0006】
ツイストペア線の2線間の間隔が開かない構造とするためには、(1)周囲をテープ巻き、収縮チューブ、シース等で抑える方法、(2)2本の電線を一体化させる方法等がある。しかし上記(1)の場合には、太径化、コスト上昇に直結してしまうため、好ましくない。また上記(2)の場合には、ツイストペア線の外径が大きく変化しないため、太径にならず、好ましいものである。
【0007】
2本の電線を一体化してツイストペア線を得る場合、コスト上昇を最小に抑えることができ、簡易的に実現可能な手段として、接着或いは熱融着により一体化させる方法が公知である(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−249944号公報
【特許文献2】特開平9−259654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、ポリエチレン(被覆材)で被覆した電線をツイストし、その後、熱風による融着を行い、一体化させてツイストペアケーブルとすることが記載されている。特許文献1に記載のツイストペアケーブルは、被覆材自体を完全に熱で融着させた場合には、後から端末加工のために2線をほぐすことが難しくなってしまうという問題があった。
【0010】
特許文献2は、2線間の非接触部に接着剤を塗布し、2線を不連続的に接着させ、一体化させた高速伝送用対撚りケーブル(ツイストペア線)が記載されている。しかし特許文献2に記載されたツイストペア線は、端末加工が容易であるという利点があるものの、接着剤を不連続的に塗布するため、接着剤を塗布する作業等に手間がかかるという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、ハーネス組立時等に2線がばらけることがなく、かつ端末加工が容易であり、2線間の接着力を調節することが可能であるツイストペア線及びワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のツイストペア線は、導体が絶縁体で絶縁被覆された絶縁電線が2本撚り合わされたツイストペア線であって、前記絶縁電線として表面に接着層が形成されたものを用い、2本の絶縁電線が前記接着層の接着により一体化されていることを要旨とするものである。
【0013】
上記ツイストペア線は、前記2本の絶縁電線間の接着強度が3〜10Nの範囲内であることが好ましい。
【0014】
上記ツイストペア線は、前記絶縁電線の接着層がホットメルト接着剤からなることが好ましい。
【0015】
上記ツイストペア線は、前記絶縁電線の接着層が、該絶縁電線の長手方向に線状に設けられた線状接着層であることが好ましい。
【0016】
上記ツイストペア線は、前記絶縁電線の線状接着層が、直線的に設けられていることが好ましい。
【0017】
上記ツイストペア線は、前記絶縁電線の線状接着層が、複数本設けられていることが好ましい。
【0018】
上記ツイストペア線は前記絶縁電線の複数本の線状接着層が、該線状接着層どうしの間隔が同じ距離に形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明のワイヤーハーネスは、上記のツイストペア線を用いたことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のツイストペア線は、表面に接着層が形成された2本の絶縁電線が前記接着層の接着により一体化されているため、ワイヤーハーネスの製造時等にツイストの崩れが起こることなく、伝送特性の良好なツイストペア線が得られる。
【0021】
また本発明のツイストペア線は、ツイストペア線の周囲をテープ巻き等により抑える従来のツイストペア線と比較して、ツイストペア線の外径が太ることなく2本の電線を一体化することが可能であり、コストの上昇も最小に抑えることができる。
【0022】
本発明のワイヤーハーネスは、上記のツイストペア線を用いたことにより、ハーネス組立時等に2本の絶縁電線がばらけることがなく、かつ端末加工が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のツイストペア線の一例の外観を示す斜視図である。
【図2】図1のC−C線断面を示す端面図である。
【図3】ツイストペア線の接着力の測定方法の説明図である。
【図4】図1のツイストペア線に用いた絶縁電線の斜視図である。
【図5】図4のD−D線断面を示す端面図である。
【図6】ツイストペア線に用いられる絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図7】ツイストペア線に用いられる絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図8】ツイストペア線に用いられる絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図9】ツイストペア線に用いられる絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図10】本発明のワイヤーハーネスの一例を示す斜視図である。
【図11】(a)〜(c)は従来のツイストペア線の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明の実施例について詳細に説明する。図1は本発明のツイストペア線の一実施例の外観を示す斜視図であり、図2は図1のC−C線断面を示す端面図である。図1及び図2に示す実施例のツイストペア線1は、2本の絶縁電線10、20が撚り合わされたものである。図2に示すように、絶縁電線10、20は、それぞれ導体11、21が、絶縁体12、22で絶縁被覆されている。更に絶縁電線10、20は、表面に接着層13、23が形成されたものが用いられる。ツイストペア線1は、2本の絶縁電線10、20が、接着層13、23の接着により一体化されているものである。尚、実施例の絶縁電線10、20は、同一の構造の絶縁電線である。
【0025】
ツイストペア線1は、2本の絶縁電線10、20が接着層13、23の接着により一体化されているから、ツイストの崩れが起こることがなく、絶縁電線間の間隔を一定に維持することができる。その結果、伝送特性に悪影響を及ぼすことがなく、特性インピーダンスが安定なツイストペア線が得られる。ツイストペア線は、特性インピーダンスを規格値内に形成することができ、通信エラー等が発生する恐れがないので、ワイヤーハーネス組立て製造管理が容易であり、コスト上昇を最小に抑制可能である。
【0026】
またツイストペア線1は、電線表面に設けた接着層の接着により、2本の絶縁電線10、20が一体化されているので、従来の周囲をテープ巻き等で固定する方法と比較して、ツイストペア線の外径が太ることがない。またツイストペア線1は、絶縁電線10、20に設けられている接着層13、23の幅、本数等を調節することにより、2本の絶縁電線10、20間の接着強度(以下、ツイストペア線の接着強度、或いは単に接着強度ということもある)をコントロールすることができる。ツイストペア線1の接着強度を特定の範囲とすることで、後加工等の際にツイストを容易にほぐすことが可能である。
【0027】
特性インピーダンスと加工性を良好にする観点から、ツイストペア線1は、接着強度が、3〜10Nの範囲であることが好ましい。上記のツイストペア線1の接着強度は、以下の試験法により測定されるものである。図3はツイストペア線1の接着力の測定方法の説明図である。図3に示すように、ツイストペア線1の一方の端部Nの2本の絶縁電線10、20の接着した部分をほぐし、各絶縁電線を図3に示すように各絶縁電線10、20の端部を接着部分が剥離するように引張り、剥離強度を測定する。この際、ツイストペア線1の他方の端部Tは、固定せずフリーの状態としておく。引張り試験を行う場合、ツイストペア線1の接着部分の長さLを100mmとし、引張り速度を50mm/minとし、接着部分が全部剥離するまで行う。引張り試験で記録された応力の最大値を剥離強度とする。
【0028】
上記のツイストペア線の接着強度を、3N〜10Nとすることにより、ツイストペア線の製造時やワイヤーハーネス組立時にはツイストが崩れる恐れが無く確実に製造することができるとともに、端末加工時にはツイストをほぐすことが容易に行うことが可能であり、特性インピーダンス及び端末加工の作業性が共に優れたツイストペア線が得られる。
【0029】
以下、本発明のツイストペア線1に用いられる絶縁電線について詳細に説明する。以下、絶縁電線10の構成について説明し、同一構造である絶縁電線20の説明は省略する。図4は図1のツイストペア線に用いた絶縁電線の斜視図であり、図5は図4のD−D線断面を示す端面図である。絶縁電線10は、導体11の周囲が絶縁層12により絶縁被覆されており、更に絶縁層12の表面に、接着層13が設けられている。
【0030】
接着層13は、2本の接着層13a、13bにより構成されている。2本の接着層13a、13bは、絶縁電線10の長手方向に直線状に設けられていて、線状接着層として形成されている。また2本の接着層13a、13bは、図5に示すように、両接着層13a、13bの円周方向の間隔が同じ距離となるように、180度の間隔で円対称に配置されている。複数本の接着層13が長手方向に線状に設けられていると、接着層の形成が容易である。例えば、接着層を形成する際、電線の被覆材(絶縁体)の被覆押出工程時に同時に押出成形することで、工数を増やすことなく製造することができるので、電線の製造が容易であり、加工コストの上昇を最小にすることができる。また接着層が長手方向に直線状であると、更に製造が容易である。
【0031】
接着層13(13a,13b)は、加工性を考慮するとホットメルト接着剤を用いる事が好ましい。また接着層13は、絶縁層12よりも融点が低い樹脂を用いる事が、加工が容易である点から好ましい。ホットメルト接着剤としては、特に限定されないが、伝送特性の面からは、誘電率が比較的小さいオレフィン系樹脂が特に好適である。上記オレフィン系樹脂としては、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィンの単独重合体、もしくは相互共重合体、或いはそれらの混合物、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0032】
接着層13a、13bの厚みは、特に限定されないが、10〜100μmの範囲であるのが好ましい。
【0033】
ツイストペア線を製造するには、表面に接着層13が形成された2本の絶縁電線10、20を準備して、ツイスト機等を用いて2本の電線を撚ってツイストさせた状態とし、その状態で接着層13を加熱してツイスト状態の2本の絶縁電線を接着させる。所定の温度に冷却すれば、2本の絶縁電線がツイストした状態が固定されて一体化したツイストペア線が得られる。接着層13にホットメルト接着剤を用いることで、この一体化は短時間の加熱により行うことが可能である。
【0034】
2本の絶縁電線10、20は、接着層13の接触した部分が接着する。2本の絶縁電線10、20をツイストさせた状態では、2本の電線の接着層13は長手方向で不連続的に接触した状態となる。2本の絶縁電線は、接着層が接触した部分だけが接着する。ツイストペア線は、2本の絶縁電線の長手方向において、点状に接着している。このように2本の絶縁電線が長手方向において、全面的に接着していない場合、2本の絶縁電線をほぐすのが容易である。
【0035】
図6〜図9は、本発明のツイストペア線に用いられる絶縁電線の他の態様を示す断面図である。ツイストペア線1に用いられる絶縁電線10は、上記の態様に限定されず、接着層の形状、位置等を任意に変更することが可能である。例えば、図6に示す絶縁電線10は、導体11が絶縁被覆された絶縁体の表面に、絶縁電線の長手方向に3本の直線状の接着層13a、13b、13cが設けられているものである。接着層13a、13b、13cは各接着層間の間隔が同じになるように、120°の間隔で円対称に配置されている。
【0036】
また図7に示す絶縁電線10は4本の直線状の接着層13a、13b、13c、13dが設けられているものである。接着層13a、13b、13c、13dは、各接着層間の間隔が同じになるように、90°の間隔で円対称に配置されている。
【0037】
このように絶縁電線10の接着層13の数は特に2本に限定されず3本以上でもよい。このように接着層13の本数を複数本にすることで、2本の電線を接着層で接着し一体化する際の接着強度を任意にコントロールすることを、更に容易に行うことができる。
【0038】
図8に示す絶縁電線10は、1本の直線状の接着層13aが設けられているものである。接着層13は、図10に示すように1本の直線状に形成してもよい。また図示しないが、接着層は曲線状に形成してもよい。
【0039】
図9に示す絶縁電線10は、絶縁層12の表面全体に接着層13が設けられているものである。接着層13は、図9に示すように絶縁電線表面の全域にわたって形成してもよい。
【0040】
導体11は、銅、銅合金等の素線、或いは撚線等の、一般的な絶縁電線の導体が用いられる。
【0041】
絶縁体12の絶縁材料は、特に限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル樹脂、オレフィン系樹脂等が用いられる。オレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンの単独重合体、エチレンとαオレフィンとの共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル等との共重合体等が挙げられる。
【0042】
接着層13の形成方法は、特に限定されず、各種の形成手段を用いることができる。接着層13は、例えば、樹脂を所定の形状に押出成形することで、形成することができる。接着層13の形成は、導体11の周囲に絶縁体12を押し出す際に、同時に接着層13を絶縁体12の周囲に押し出して、2層を同時に押し出す同時押出成形により行ってもよい。更に、押出成形では、接着層の厚みを成形時に調節することもできる。
【0043】
図10は本発明のワイヤーハーネスの一例を示す斜視図である。図10に示すように、本発明のワイヤーハーネス2は、上記のツイストペア線1を用いたものである。図10のワイヤーハーネス2は、3本のツイストペア線1を用い、その外側を外装材3で束ねたものである。
【0044】
外装材3は、複数本のツイストペア線1を束ねることが可能であればよく、例えば、丸チューブ、コルゲートチューブ、プロテクタ等が用いられる。またワイヤーハーネス2は、外装材3でツイストペア線1を束ねる代わりに、テープ巻き等により結束しても良い。
【0045】
ワイヤーハーネス2においては、被覆電線のうちの一部が本発明のツイストペア線1であっても良いし、全てが本発明のツイストペア線1であっても良い。またワイヤーハーネス2は、ツイスペア線1の数は特に3本に限定されず、1本、2本、4本以上でも、いずれでもよい。
【0046】
本発明のワイヤーハーネス2は、自動車のCAN等の高速多重通信用ワイヤーハーネスとして好適である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。
実施例1
(絶縁電線の作製)
図5に示すように、絶縁電線10の表面の絶縁体12の表面に、接着層の樹脂としてEMAを用いて3本の接着層13a、13b、13cを形成した。3本の接着層13a、13b、13cは電線の長手方向に直線状に設け、各接着層は120°間隔で等間隔となるように円対称に配置した。また3本の接着層13a、13b、13cは、それぞれ幅0.5mm、厚み25μmに形成した。絶縁電線10は、断面積0.13mm2の軟銅線からなる導体11の外周に、ポリプロピレン系樹脂を押出し成形して、厚み0.2mmの絶縁体12が形成されたハロゲンフリー電線を用いた。
【0048】
(ツイスト線の作製)
上記の絶縁電線を2本用い、調尺切断後、ツイスト機を用いてピッチ25mmの撚り加工を施した(片端のみ回転)。そして電気ヒータを用いて120℃、30秒間加熱して、接着層の樹脂を接着させて、実施例1のツイストペア線を得た。
【0049】
比較例1
実施例1で用いた絶縁電線の代わりに、接着層を形成しなかった以外は実施例1と同様の構成の絶縁電線を用いて、実施例1と同様にツイスト機を用いて、2本の絶縁電線をピッチ25mmの撚り加工を施して比較例1のツイストペア線を得た。比較例1のツイストペア線は、単に2本の絶縁電線が撚り合わされただけのツイストペア線であり、絶縁電線間は接着されていない。
【0050】
比較例2
比較例1のツイストペア線を200℃、1分間加熱して、絶縁層を融着させて2本の絶縁電線を完全に一体化させた。この絶縁電線の絶縁層は融点が160℃程度のポリプロピレン系樹脂なので、上記の加熱条件で絶縁層どうしが溶融して接着する。
【0051】
実施例1、比較例1、2のツイストペア線について、接着性、特性インピーダンス、及び端末加工性の試験を行った。試験結果を表1に示す。尚、表1の試験方法は、以下の通りである。
【0052】
[接着強度の試験方法]
ツイストペア線を一体化させた後、前述した図3に示す試験方法を用いて、2線間の剥離強度の測定を行った。
【0053】
[特性インピーダンスの測定方法と評価]
LCRメータ(Agilent Technologies社製)を用いて、全長3mのツイストペア線の試験体を、オープンショート法により測定を行った。測定は量産ばらつきを考慮して、N=50で実施し、最小値〜最大値を記載した。試験は、ハーネス組立工程前と後(ハーネス組立工程後)の両方で測定した。また測定結果について、インピーダンスがCAN規格(95〜140Ω)の範囲内の場合、「OK」と判定し、上記範囲外の場合、「NG」と判定した。
【0054】
[端末加工性の試験方法]
ワイヤーハーネス製造ラインのオペレータが、得られたツイストペア線を用いて、ツイストペア線の端末を80mmほぐした後、ほぐした電線の端末を端子挿入して、実際にハーネス組立工程時に端末加工性検証を行い、その良否を判定した。この端末加工を容易に行うことができた場合を「可」とし、端末加工ができなかった場合を「不可」とした。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、実施例1は2本の絶縁電線どうしが接着層の接着により一体化されているので、ハーネス組立工程前後の特性インピーダンスが安定しており、かつ端末加工性が良好である。
【0057】
これに対し比較例1は、絶縁電線に接着層がなく、2本の絶縁電線は接着されていないので、ハーネス組立工程前でも、実施例1と比較して特性インピーダンスが大きくなる傾向が見られる。これは電線を撚り合せた直後でも、撚りが戻り、2線間が開き易い傾向にあることを示している。特に剛性の強い電線の場合には、電線の腰が強く、撚りが戻り易い傾向が大きい。更にハーネス組立工程後では特性インピーダンスが顕著に大きくなっており、規格外れ品も発生している(CAN規格:95〜140Ω)。比較例1は、2本の電線が接着されていないので、端末加工性は良好である。
【0058】
また比較例2は、絶縁被覆した絶縁体自体を溶融させ、2本の絶縁電線を一体化させているため、接着強度が非常に大きくなってしまい(38N)、特性インピーダンスは安定しているものの、端末加工性が不可となってしまった。
【符号の説明】
【0059】
1 ツイストペア線
2 ワイヤーハーネス
10 絶縁電線
11 導体
12 絶縁体
13(13a,13b,13c,13d) 接着層
20 絶縁電線
21 導体
22 絶縁体
23 接着層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツイストペア線及びこれを用いたワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の電子化に伴い、CAN(Controller Area Network)等の高速多重通信が多用される傾向にあり、これらの通信回路にはツイストペア線が使用されることが多い。図11(a)に示すように、シールドなしツイストペア線100は、2本の電線110、120を撚っただけという、シンプルな構造のため、ワイヤーハーネス組立時等にツイストがばらけるという問題があった。電線110、120は、それぞれ、導体111、121が絶縁体からなる被覆材112、122により被覆されている。
【0003】
ツイストペア線100は、ツイストがばらけると、2線間の間隔が異なる部分が形成されてしまう。例えば、図11(a)のA−A線断面の部分が、図11(b)に示すように2本の電線110、120間が隙間無く密着している状態から、ツイストがばらけると、同図(c)に示すように、電線110と電線120の間が開いて隙間Bが形成される。電線110と電線120の間に隙間が形成されると、導体111、121の間隔も変化する。ツイストペア線の、導体の線間の間隔が大きくなることは、特性インピーダンス等の伝送特性の悪化の原因となる。そして最悪の場合には、通信エラー等の不具合につながることになる。
【0004】
また、線癖が強く、剛性の高い電線は、撚り加工で変形させた後に、変形が戻り易いため、ツイスト加工が難しいという問題がある。またツイスト加工後に2線間が開き易い傾向がある。この場合も同様に上記の不具合の原因となる。
【0005】
今後の車載通信のトレンドとしては、大容量化、高速化等が予測されている。通信の高周波数化に伴い、ツイスト線の伝送特性にもよりシビアな特性が要求される。ツイストペア線の伝送特性を向上させるためには、撚りの高品質化は大きな課題となっている。
【0006】
ツイストペア線の2線間の間隔が開かない構造とするためには、(1)周囲をテープ巻き、収縮チューブ、シース等で抑える方法、(2)2本の電線を一体化させる方法等がある。しかし上記(1)の場合には、太径化、コスト上昇に直結してしまうため、好ましくない。また上記(2)の場合には、ツイストペア線の外径が大きく変化しないため、太径にならず、好ましいものである。
【0007】
2本の電線を一体化してツイストペア線を得る場合、コスト上昇を最小に抑えることができ、簡易的に実現可能な手段として、接着或いは熱融着により一体化させる方法が公知である(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−249944号公報
【特許文献2】特開平9−259654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、ポリエチレン(被覆材)で被覆した電線をツイストし、その後、熱風による融着を行い、一体化させてツイストペアケーブルとすることが記載されている。特許文献1に記載のツイストペアケーブルは、被覆材自体を完全に熱で融着させた場合には、後から端末加工のために2線をほぐすことが難しくなってしまうという問題があった。
【0010】
特許文献2は、2線間の非接触部に接着剤を塗布し、2線を不連続的に接着させ、一体化させた高速伝送用対撚りケーブル(ツイストペア線)が記載されている。しかし特許文献2に記載されたツイストペア線は、端末加工が容易であるという利点があるものの、接着剤を不連続的に塗布するため、接着剤を塗布する作業等に手間がかかるという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、ハーネス組立時等に2線がばらけることがなく、かつ端末加工が容易であり、2線間の接着力を調節することが可能であるツイストペア線及びワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のツイストペア線は、導体が絶縁体で絶縁被覆された絶縁電線が2本撚り合わされたツイストペア線であって、前記絶縁電線として表面に接着層が形成されたものを用い、2本の絶縁電線が前記接着層の接着により一体化されていることを要旨とするものである。
【0013】
上記ツイストペア線は、前記2本の絶縁電線間の接着強度が3〜10Nの範囲内であることが好ましい。
【0014】
上記ツイストペア線は、前記絶縁電線の接着層がホットメルト接着剤からなることが好ましい。
【0015】
上記ツイストペア線は、前記絶縁電線の接着層が、該絶縁電線の長手方向に線状に設けられた線状接着層であることが好ましい。
【0016】
上記ツイストペア線は、前記絶縁電線の線状接着層が、直線的に設けられていることが好ましい。
【0017】
上記ツイストペア線は、前記絶縁電線の線状接着層が、複数本設けられていることが好ましい。
【0018】
上記ツイストペア線は前記絶縁電線の複数本の線状接着層が、該線状接着層どうしの間隔が同じ距離に形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明のワイヤーハーネスは、上記のツイストペア線を用いたことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のツイストペア線は、表面に接着層が形成された2本の絶縁電線が前記接着層の接着により一体化されているため、ワイヤーハーネスの製造時等にツイストの崩れが起こることなく、伝送特性の良好なツイストペア線が得られる。
【0021】
また本発明のツイストペア線は、ツイストペア線の周囲をテープ巻き等により抑える従来のツイストペア線と比較して、ツイストペア線の外径が太ることなく2本の電線を一体化することが可能であり、コストの上昇も最小に抑えることができる。
【0022】
本発明のワイヤーハーネスは、上記のツイストペア線を用いたことにより、ハーネス組立時等に2本の絶縁電線がばらけることがなく、かつ端末加工が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のツイストペア線の一例の外観を示す斜視図である。
【図2】図1のC−C線断面を示す端面図である。
【図3】ツイストペア線の接着力の測定方法の説明図である。
【図4】図1のツイストペア線に用いた絶縁電線の斜視図である。
【図5】図4のD−D線断面を示す端面図である。
【図6】ツイストペア線に用いられる絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図7】ツイストペア線に用いられる絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図8】ツイストペア線に用いられる絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図9】ツイストペア線に用いられる絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図10】本発明のワイヤーハーネスの一例を示す斜視図である。
【図11】(a)〜(c)は従来のツイストペア線の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明の実施例について詳細に説明する。図1は本発明のツイストペア線の一実施例の外観を示す斜視図であり、図2は図1のC−C線断面を示す端面図である。図1及び図2に示す実施例のツイストペア線1は、2本の絶縁電線10、20が撚り合わされたものである。図2に示すように、絶縁電線10、20は、それぞれ導体11、21が、絶縁体12、22で絶縁被覆されている。更に絶縁電線10、20は、表面に接着層13、23が形成されたものが用いられる。ツイストペア線1は、2本の絶縁電線10、20が、接着層13、23の接着により一体化されているものである。尚、実施例の絶縁電線10、20は、同一の構造の絶縁電線である。
【0025】
ツイストペア線1は、2本の絶縁電線10、20が接着層13、23の接着により一体化されているから、ツイストの崩れが起こることがなく、絶縁電線間の間隔を一定に維持することができる。その結果、伝送特性に悪影響を及ぼすことがなく、特性インピーダンスが安定なツイストペア線が得られる。ツイストペア線は、特性インピーダンスを規格値内に形成することができ、通信エラー等が発生する恐れがないので、ワイヤーハーネス組立て製造管理が容易であり、コスト上昇を最小に抑制可能である。
【0026】
またツイストペア線1は、電線表面に設けた接着層の接着により、2本の絶縁電線10、20が一体化されているので、従来の周囲をテープ巻き等で固定する方法と比較して、ツイストペア線の外径が太ることがない。またツイストペア線1は、絶縁電線10、20に設けられている接着層13、23の幅、本数等を調節することにより、2本の絶縁電線10、20間の接着強度(以下、ツイストペア線の接着強度、或いは単に接着強度ということもある)をコントロールすることができる。ツイストペア線1の接着強度を特定の範囲とすることで、後加工等の際にツイストを容易にほぐすことが可能である。
【0027】
特性インピーダンスと加工性を良好にする観点から、ツイストペア線1は、接着強度が、3〜10Nの範囲であることが好ましい。上記のツイストペア線1の接着強度は、以下の試験法により測定されるものである。図3はツイストペア線1の接着力の測定方法の説明図である。図3に示すように、ツイストペア線1の一方の端部Nの2本の絶縁電線10、20の接着した部分をほぐし、各絶縁電線を図3に示すように各絶縁電線10、20の端部を接着部分が剥離するように引張り、剥離強度を測定する。この際、ツイストペア線1の他方の端部Tは、固定せずフリーの状態としておく。引張り試験を行う場合、ツイストペア線1の接着部分の長さLを100mmとし、引張り速度を50mm/minとし、接着部分が全部剥離するまで行う。引張り試験で記録された応力の最大値を剥離強度とする。
【0028】
上記のツイストペア線の接着強度を、3N〜10Nとすることにより、ツイストペア線の製造時やワイヤーハーネス組立時にはツイストが崩れる恐れが無く確実に製造することができるとともに、端末加工時にはツイストをほぐすことが容易に行うことが可能であり、特性インピーダンス及び端末加工の作業性が共に優れたツイストペア線が得られる。
【0029】
以下、本発明のツイストペア線1に用いられる絶縁電線について詳細に説明する。以下、絶縁電線10の構成について説明し、同一構造である絶縁電線20の説明は省略する。図4は図1のツイストペア線に用いた絶縁電線の斜視図であり、図5は図4のD−D線断面を示す端面図である。絶縁電線10は、導体11の周囲が絶縁層12により絶縁被覆されており、更に絶縁層12の表面に、接着層13が設けられている。
【0030】
接着層13は、2本の接着層13a、13bにより構成されている。2本の接着層13a、13bは、絶縁電線10の長手方向に直線状に設けられていて、線状接着層として形成されている。また2本の接着層13a、13bは、図5に示すように、両接着層13a、13bの円周方向の間隔が同じ距離となるように、180度の間隔で円対称に配置されている。複数本の接着層13が長手方向に線状に設けられていると、接着層の形成が容易である。例えば、接着層を形成する際、電線の被覆材(絶縁体)の被覆押出工程時に同時に押出成形することで、工数を増やすことなく製造することができるので、電線の製造が容易であり、加工コストの上昇を最小にすることができる。また接着層が長手方向に直線状であると、更に製造が容易である。
【0031】
接着層13(13a,13b)は、加工性を考慮するとホットメルト接着剤を用いる事が好ましい。また接着層13は、絶縁層12よりも融点が低い樹脂を用いる事が、加工が容易である点から好ましい。ホットメルト接着剤としては、特に限定されないが、伝送特性の面からは、誘電率が比較的小さいオレフィン系樹脂が特に好適である。上記オレフィン系樹脂としては、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィンの単独重合体、もしくは相互共重合体、或いはそれらの混合物、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0032】
接着層13a、13bの厚みは、特に限定されないが、10〜100μmの範囲であるのが好ましい。
【0033】
ツイストペア線を製造するには、表面に接着層13が形成された2本の絶縁電線10、20を準備して、ツイスト機等を用いて2本の電線を撚ってツイストさせた状態とし、その状態で接着層13を加熱してツイスト状態の2本の絶縁電線を接着させる。所定の温度に冷却すれば、2本の絶縁電線がツイストした状態が固定されて一体化したツイストペア線が得られる。接着層13にホットメルト接着剤を用いることで、この一体化は短時間の加熱により行うことが可能である。
【0034】
2本の絶縁電線10、20は、接着層13の接触した部分が接着する。2本の絶縁電線10、20をツイストさせた状態では、2本の電線の接着層13は長手方向で不連続的に接触した状態となる。2本の絶縁電線は、接着層が接触した部分だけが接着する。ツイストペア線は、2本の絶縁電線の長手方向において、点状に接着している。このように2本の絶縁電線が長手方向において、全面的に接着していない場合、2本の絶縁電線をほぐすのが容易である。
【0035】
図6〜図9は、本発明のツイストペア線に用いられる絶縁電線の他の態様を示す断面図である。ツイストペア線1に用いられる絶縁電線10は、上記の態様に限定されず、接着層の形状、位置等を任意に変更することが可能である。例えば、図6に示す絶縁電線10は、導体11が絶縁被覆された絶縁体の表面に、絶縁電線の長手方向に3本の直線状の接着層13a、13b、13cが設けられているものである。接着層13a、13b、13cは各接着層間の間隔が同じになるように、120°の間隔で円対称に配置されている。
【0036】
また図7に示す絶縁電線10は4本の直線状の接着層13a、13b、13c、13dが設けられているものである。接着層13a、13b、13c、13dは、各接着層間の間隔が同じになるように、90°の間隔で円対称に配置されている。
【0037】
このように絶縁電線10の接着層13の数は特に2本に限定されず3本以上でもよい。このように接着層13の本数を複数本にすることで、2本の電線を接着層で接着し一体化する際の接着強度を任意にコントロールすることを、更に容易に行うことができる。
【0038】
図8に示す絶縁電線10は、1本の直線状の接着層13aが設けられているものである。接着層13は、図10に示すように1本の直線状に形成してもよい。また図示しないが、接着層は曲線状に形成してもよい。
【0039】
図9に示す絶縁電線10は、絶縁層12の表面全体に接着層13が設けられているものである。接着層13は、図9に示すように絶縁電線表面の全域にわたって形成してもよい。
【0040】
導体11は、銅、銅合金等の素線、或いは撚線等の、一般的な絶縁電線の導体が用いられる。
【0041】
絶縁体12の絶縁材料は、特に限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル樹脂、オレフィン系樹脂等が用いられる。オレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンの単独重合体、エチレンとαオレフィンとの共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル等との共重合体等が挙げられる。
【0042】
接着層13の形成方法は、特に限定されず、各種の形成手段を用いることができる。接着層13は、例えば、樹脂を所定の形状に押出成形することで、形成することができる。接着層13の形成は、導体11の周囲に絶縁体12を押し出す際に、同時に接着層13を絶縁体12の周囲に押し出して、2層を同時に押し出す同時押出成形により行ってもよい。更に、押出成形では、接着層の厚みを成形時に調節することもできる。
【0043】
図10は本発明のワイヤーハーネスの一例を示す斜視図である。図10に示すように、本発明のワイヤーハーネス2は、上記のツイストペア線1を用いたものである。図10のワイヤーハーネス2は、3本のツイストペア線1を用い、その外側を外装材3で束ねたものである。
【0044】
外装材3は、複数本のツイストペア線1を束ねることが可能であればよく、例えば、丸チューブ、コルゲートチューブ、プロテクタ等が用いられる。またワイヤーハーネス2は、外装材3でツイストペア線1を束ねる代わりに、テープ巻き等により結束しても良い。
【0045】
ワイヤーハーネス2においては、被覆電線のうちの一部が本発明のツイストペア線1であっても良いし、全てが本発明のツイストペア線1であっても良い。またワイヤーハーネス2は、ツイスペア線1の数は特に3本に限定されず、1本、2本、4本以上でも、いずれでもよい。
【0046】
本発明のワイヤーハーネス2は、自動車のCAN等の高速多重通信用ワイヤーハーネスとして好適である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。
実施例1
(絶縁電線の作製)
図5に示すように、絶縁電線10の表面の絶縁体12の表面に、接着層の樹脂としてEMAを用いて3本の接着層13a、13b、13cを形成した。3本の接着層13a、13b、13cは電線の長手方向に直線状に設け、各接着層は120°間隔で等間隔となるように円対称に配置した。また3本の接着層13a、13b、13cは、それぞれ幅0.5mm、厚み25μmに形成した。絶縁電線10は、断面積0.13mm2の軟銅線からなる導体11の外周に、ポリプロピレン系樹脂を押出し成形して、厚み0.2mmの絶縁体12が形成されたハロゲンフリー電線を用いた。
【0048】
(ツイスト線の作製)
上記の絶縁電線を2本用い、調尺切断後、ツイスト機を用いてピッチ25mmの撚り加工を施した(片端のみ回転)。そして電気ヒータを用いて120℃、30秒間加熱して、接着層の樹脂を接着させて、実施例1のツイストペア線を得た。
【0049】
比較例1
実施例1で用いた絶縁電線の代わりに、接着層を形成しなかった以外は実施例1と同様の構成の絶縁電線を用いて、実施例1と同様にツイスト機を用いて、2本の絶縁電線をピッチ25mmの撚り加工を施して比較例1のツイストペア線を得た。比較例1のツイストペア線は、単に2本の絶縁電線が撚り合わされただけのツイストペア線であり、絶縁電線間は接着されていない。
【0050】
比較例2
比較例1のツイストペア線を200℃、1分間加熱して、絶縁層を融着させて2本の絶縁電線を完全に一体化させた。この絶縁電線の絶縁層は融点が160℃程度のポリプロピレン系樹脂なので、上記の加熱条件で絶縁層どうしが溶融して接着する。
【0051】
実施例1、比較例1、2のツイストペア線について、接着性、特性インピーダンス、及び端末加工性の試験を行った。試験結果を表1に示す。尚、表1の試験方法は、以下の通りである。
【0052】
[接着強度の試験方法]
ツイストペア線を一体化させた後、前述した図3に示す試験方法を用いて、2線間の剥離強度の測定を行った。
【0053】
[特性インピーダンスの測定方法と評価]
LCRメータ(Agilent Technologies社製)を用いて、全長3mのツイストペア線の試験体を、オープンショート法により測定を行った。測定は量産ばらつきを考慮して、N=50で実施し、最小値〜最大値を記載した。試験は、ハーネス組立工程前と後(ハーネス組立工程後)の両方で測定した。また測定結果について、インピーダンスがCAN規格(95〜140Ω)の範囲内の場合、「OK」と判定し、上記範囲外の場合、「NG」と判定した。
【0054】
[端末加工性の試験方法]
ワイヤーハーネス製造ラインのオペレータが、得られたツイストペア線を用いて、ツイストペア線の端末を80mmほぐした後、ほぐした電線の端末を端子挿入して、実際にハーネス組立工程時に端末加工性検証を行い、その良否を判定した。この端末加工を容易に行うことができた場合を「可」とし、端末加工ができなかった場合を「不可」とした。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、実施例1は2本の絶縁電線どうしが接着層の接着により一体化されているので、ハーネス組立工程前後の特性インピーダンスが安定しており、かつ端末加工性が良好である。
【0057】
これに対し比較例1は、絶縁電線に接着層がなく、2本の絶縁電線は接着されていないので、ハーネス組立工程前でも、実施例1と比較して特性インピーダンスが大きくなる傾向が見られる。これは電線を撚り合せた直後でも、撚りが戻り、2線間が開き易い傾向にあることを示している。特に剛性の強い電線の場合には、電線の腰が強く、撚りが戻り易い傾向が大きい。更にハーネス組立工程後では特性インピーダンスが顕著に大きくなっており、規格外れ品も発生している(CAN規格:95〜140Ω)。比較例1は、2本の電線が接着されていないので、端末加工性は良好である。
【0058】
また比較例2は、絶縁被覆した絶縁体自体を溶融させ、2本の絶縁電線を一体化させているため、接着強度が非常に大きくなってしまい(38N)、特性インピーダンスは安定しているものの、端末加工性が不可となってしまった。
【符号の説明】
【0059】
1 ツイストペア線
2 ワイヤーハーネス
10 絶縁電線
11 導体
12 絶縁体
13(13a,13b,13c,13d) 接着層
20 絶縁電線
21 導体
22 絶縁体
23 接着層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体が絶縁体で絶縁被覆された絶縁電線が2本撚り合わされたツイストペア線であって、前記絶縁電線として表面に接着層が形成されたものを用い、2本の絶縁電線が前記接着層の接着により一体化されていることを特徴とするツイストペア線。
【請求項2】
前記2本の絶縁電線間の接着強度が3〜10Nの範囲内であることを特徴とする請求項1記載のツイストペア線。
【請求項3】
前記絶縁電線の接着層がホットメルト接着剤からなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のツイストペア線。
【請求項4】
前記絶縁電線の接着層が、該絶縁電線の長手方向に線状に設けられた線状接着層であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のツイストペア線。
【請求項5】
前記絶縁電線の線状接着層が、直線的に設けられていることを特徴とする請求項4記載のツイストペア線。
【請求項6】
前記絶縁電線の線状接着層が、複数本設けられていることを特徴とする請求項4又は請求項5記載のツイストペア線。
【請求項7】
前記絶縁電線の複数本の線状接着層が、該線状接着層どうしの間隔が同じ距離に形成されていることを特徴とする請求項6記載のツイストペア線。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のツイストペア線を用いたことを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項1】
導体が絶縁体で絶縁被覆された絶縁電線が2本撚り合わされたツイストペア線であって、前記絶縁電線として表面に接着層が形成されたものを用い、2本の絶縁電線が前記接着層の接着により一体化されていることを特徴とするツイストペア線。
【請求項2】
前記2本の絶縁電線間の接着強度が3〜10Nの範囲内であることを特徴とする請求項1記載のツイストペア線。
【請求項3】
前記絶縁電線の接着層がホットメルト接着剤からなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のツイストペア線。
【請求項4】
前記絶縁電線の接着層が、該絶縁電線の長手方向に線状に設けられた線状接着層であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のツイストペア線。
【請求項5】
前記絶縁電線の線状接着層が、直線的に設けられていることを特徴とする請求項4記載のツイストペア線。
【請求項6】
前記絶縁電線の線状接着層が、複数本設けられていることを特徴とする請求項4又は請求項5記載のツイストペア線。
【請求項7】
前記絶縁電線の複数本の線状接着層が、該線状接着層どうしの間隔が同じ距離に形成されていることを特徴とする請求項6記載のツイストペア線。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のツイストペア線を用いたことを特徴とするワイヤーハーネス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−84365(P2013−84365A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221794(P2011−221794)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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