説明

ツバキセラミドの抽出方法、および皮膚・頭髪化粧料

【課題】産業廃棄物として扱われているツバキ搾り粕の有効利用を図る。
【解決手段】ツバキ搾り粕を親油性溶媒で洗浄する工程を複数回繰り返した後、濾過固形分から極性有機溶媒にてツバキセラミドを抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツバキ搾り粕からツバキセラミドを高濃度で抽出する方法、並びに得られたツバキセラミドを含む保湿効果および肌荒れ改善効果の高い皮膚・頭髪化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
ツバキの種子からツバキ油を搾油するに際しては、多量の搾り粕が発生する。ツバキ搾り粕は、かつてシャンプー・リンスが一般的でなかった時代には、その代用品として使用されることもあったが、現在ではその用途も殆どない。ツバキ搾り粕の利用方法としては、特定の肥料としての用途が提案されているのみで(特許文献1)、通常は産業廃棄物として扱われているのが現状である。
【0003】
一方、特許文献2には、ツバキ科植物の水および有機溶媒にともに溶解性を示す抽出物を皮膚外用剤として用いることが示されているが、特許文献2では、かかる抽出物をセラミド産生促進剤として用いているに過ぎない。
【特許文献1】特開2001−352839
【特許文献2】特開2004−189683
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、産業廃棄物として扱われているツバキ搾り粕の有効利用を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ツバキ搾り粕について詳細な研究を進めた結果、特定の抽出方法によればツバキ搾り粕からツバキセラミドを高濃度で抽出できること、並びにかかるツバキセラミドは皮膚・頭髪化粧料の配合成分として極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明は、ツバキ搾り粕を親油性溶媒で洗浄する工程を複数回繰り返した後、濾過固形分から極性有機溶媒にて抽出することを特徴とするツバキ搾り粕からのツバキセラミドの抽出方法、並びに得られたツバキセラミドを含有する皮膚・頭髪化粧料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で言う「ツバキ搾り粕」とは、常法によりツバキ科植物の実(種子)よりツバキ油を搾油した後の残渣である搾り粕を意味し、特に原料となるツバキ科植物の種類・性状等に制限はない。
【0008】
本発明では、ツバキ搾り粕を親油性溶媒で洗浄する工程を複数回繰り返すことにより、ツバキ搾り粕から油脂分を除去し、得られた濾過固形分から極性有機溶媒にてツバキセラミドを抽出する。
【0009】
ツバキ搾り粕は、そのまま用いても良いが、抽出効率から0.5〜2.0mm程度に粉砕して用いるのが好ましい。
【0010】
洗浄工程に用いる親油性溶媒としては、ヘキサン、アセトン、酢酸エチル等が挙げられるが、ヘキサンが好ましい。
【0011】
油脂分を除去する洗浄工程は、複数回、即ち2回または3回以上繰り返すことが必要である。洗浄工程が1回では、その後の抽出工程での抽出効率が悪くなる。作業効率の点から洗浄工程は、2回行うのが望ましい。
【0012】
洗浄工程は、原料であるツバキ搾り粕に対し、数倍量(例えば3〜5倍)の親油性溶媒を用い、数時間還流すればよい。例えば、親油性溶媒としてヘキサンを用いる場合、65℃で1〜2時間程度還流し、濾過後(第1回洗浄)、残渣について同様の第2回洗浄を行えばよい。
【0013】
洗浄工程後の残渣(濾過固形分)について極性有機溶媒にてツバキセラミドを抽出する。抽出工程に用いられる極性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール等の低級アルコールが好ましい。特に好ましくはエタノールであり、また抽出効率の点から高濃度エタノール(含水濃度30%未満)を用いるのが望ましい。含水濃度が高いと、濾過性が悪くなり回収率が低下することがある。
【0014】
抽出工程においては、洗浄工程後の残渣(濾過固形分)に対し、数倍量(例えば3〜5倍)のエタノールを用い、65℃で1〜2時間程度還流し、濾過する。濾過後の濾液を蒸発乾固、減圧乾燥、凍結乾燥等の適宜な手法により固結させることにより、目的とするツバキセラミドが得られる。
【0015】
この場合、抽出工程は1回でも良いが、同様の抽出工程を複数回(2〜3回)繰り返すことにより、原料ツバキ搾り粕に含まれる殆どのツバキセラミドを抽出することができる。
【0016】
本発明により得られるツバキセラミドを配合した皮膚・頭髪化粧料は、保湿効果および肌荒れ改善効果が高く、スキンケア剤、ヘアケア剤として有用である。
【0017】
このようなツバキセラミドが配合された皮膚化粧料を使用し続けることにより、乾燥肌、敏感肌の改善ができ、更に加齢に伴う乾皮症やアトピー性皮膚炎の場合に見られるセラミドの減少を防ぐ効果がある。また、ツバキセラミドが配合された頭髪化粧料は、頭皮、毛髪の保湿を促進し、乾燥による頭皮のかゆみや毛髪のパサツキなどの不快感を軽減する効果がある。
【0018】
また、本発明のツバキセラミドは、皮膚等に塗布しても皮膚刺激やアレルギー反応を起こさない安全な物質である。
【0019】
本発明のツバキセラミドを皮膚・頭髪化粧料に配合する場合の量は、特に制限されないが、通常のセラミド配合化粧料と同様、0.01〜10重量%程度である。
【0020】
本発明の皮膚化粧料は、各種スキンケア化粧品だけでなく、ファンデーションや口紅などのメーキャップ化粧品に応用することができる。また、本発明の頭髪化粧料としては、リンス、シャンプー等に加え、ヘアクリームおよびヘアトニックなどの毛髪化粧品にも応用することができる。また、その剤型は任意であり、化粧水、ローション、乳液、クリーム、パック、軟膏、分散液、固形物、ムース等の任意の剤型をとることができる。
【0021】
本発明の皮膚・頭髪化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲で化粧品、医薬部外品等で通常用いられているものを配合することが出来るが、その例として、流動パラフィンなどの炭化水素、植物油脂、ロウ類、合成エステル油、シリコーン系の油相成分、フッ素系の油相成分、高級アルコール類、脂肪酸類、増粘剤、紫外線吸収剤、粉体、顔料、色材、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、多価アルコール、糖、高分子化合物、生理活性成分、経皮吸収促進剤、溶媒、酸化防止剤、香料、防腐剤等を配合することができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
(ツバキセラミドの抽出方法)
(1) ツバキ搾り粕500gをブレンダーにより約1.0mm程度に粉砕した。
(2) (1) で得た粉砕したツバキ搾り粕500gに対し、2000mlのヘキサンを加え65℃で1.5時間還流した。濾過後、濾液を捨て、残渣に2000mlのヘキサンを加え65℃で1.5時間還流した。濾過後、濾液を捨て、残渣を風乾したところ、483.1gの濾過固形分を得た。
(3) (2) で得た濾過固形分に600mlの95%エタノールを加え80℃で1.5時間還流後、濾過し、濾液を得た。
(4) (3) の濾過残渣に600mlの95%エタノールを加え80℃で1.5時間還流し、濾過後、濾液を得た。
(5) (3) 及び(4) の濾液を合わせて減圧乾燥することにより約40gの乾固物を得た。
【0023】
(5) の工程で得た乾固物は粉砕可能なものであった。また、この乾固物は、ガラクトシルセラミドの標準品と一致していることを薄層クロマトグラフィーで確認した。
【0024】
以下、このツバキセラミドを配合した皮膚・頭髪化粧料の効果を検証した。
実施例1〜2、比較例1〜2
表1に示す処方および下記製法でミルクローションを調製し、その肌荒れ改善効果、使用感の改善を調べた。この結果を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(製法)
A 1,3,4,8,9,12及び13の各成分を加熱混合し、80℃に保つ。
B 2,5及び14の多くを加熱混合し、80℃に保つ。
C BをAに加えて乳化混合した中に、10及び14の一部を加え、冷却後、6,7,11及び14の残部を加え混合し、30℃まで冷却してミルクローションとする。
(試験方法)
本発明の効果を、本発明のツバキセラミドと同様に得られる植物性セラミドとして認知されているコメヌカスフィンゴ糖脂質との比較で行った。24歳から63歳の健常人ボランティア10名について人工的な肌荒れ状態を惹起した皮膚に、本発明組成物や比較品を塗布することにより、肌荒れ改善効果が現れるか試験した。更に、それぞれの使用感についても、感想を聞き取った。
【0027】
被検部位は、上腕屈折部とし、何も塗布していない状態、強制的に肌荒れ〔エーテルアセトン(1:1)で処理〕を起こした状態、その部位に1日2回ミルクローションを塗布した状態を、マイクロスコープカメラを用いて翌日、2日目、4日目、7日目に観察を続けた。観察は、次のスコアに基づき、10名の平均値を取った。使用感については各人の官能評価をまとめた。
1;肌の皮溝が不鮮明であり、角質のはがれが認められる。
2;肌の皮溝がやや不鮮明であるかまたは一方向性が強い。
3;肌の皮溝は認められるが、浅いかまたは一方向性が強い。
4;肌の皮溝は認められるかまたはやや網目状である。
5;肌の皮溝がはっきり認められるかまたはきれいな網目状である。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に見られるように、本発明品を配合したミルクローションは、肌荒れ改善効果が高く、また、しっとりとした使用感が持続する製品であり、どの試験でも皮膚刺激性やアレルギー性皮膚疾患となりうるような懸念等は見られないことがわかった。
実施例3
表3に示す処方および製法で、スキンケアソープを調製した。
【0030】
【表3】

【0031】
(製法)
成分1〜5,8及び9の多くを加熱溶解し、6,7及び9の残部を加えた後、型に流し冷却し、熟成後スキンケアソープとする。
実施例4
表4に示す処方および製法で、ボディソープを調製した。
【0032】
【表4】

【0033】
(製法)
成分1〜11を加熱溶解し、冷却後ボディソープとする。
【0034】
実施例3,4については、ツバキセラミドを加えることにより、洗浄効果を損なうことなく、使用後の保湿効果を高める製品となった。
実施例5
表5に示す処方および製法で、シャンプーを調製した。
【0035】
【表5】

【0036】
(製法)
成分1〜10を加熱溶解し、冷却後シャンプーとする。
【0037】
実施例5については、ツバキセラミドを加えることにより、シャンプー効果を損なうことなく、使用後の髪の保湿効果を高める製品となった。
実施例6
表6に示す処方および製法で、トリ―トメントを調製した。
【0038】
【表6】

【0039】
(製法)
成分1〜3、5,6及び9を80℃に加熱溶解したところに、80℃に加熱溶解した4及び10の多くを加え、冷却後7,8及び10の残部を加えトリートメントとする。
実施例6については、ツバキセラミドを加えることにより、トリートメント効果が一層強化され、使用後の髪の保湿効果、髪のしなやかさを高める製品となった。
実施例7
表7に示す処方および製法で、ミルクローションを調製した。
【0040】
【表7】

【0041】
(製法)
成分1,3〜7,11及び12を80℃に加熱溶解したところに、80℃に加熱溶解した2,10及び13の多くを加え、冷却後8,9及び13の残部を加えミルクローションとする。
実施例8
表8に示す処方および製法で、ローションを調製した。
【0042】
【表8】

【0043】
(製法)
成分3〜5を80℃に加熱溶解したところに、80℃に加熱溶解した1,2,10及び11の多くを加え、冷却後6〜9及び11の残部を加えローションとする。
実施例9
表9に示す処方および製法で、クリームを調製した。
【0044】
【表9】

【0045】
(製法)
成分1,3〜6,12及び13を80℃に加熱溶解したところに、80℃に加熱溶解した2,8及び14の多くを加え乳化後、10及び14の一部を加え混合し、冷却後7,9,11及び14の残部を加えクリームとする。
【0046】
実施例7〜9については、ツバキセラミドを加えることにより、皮膚への保湿効果が一層強化され、使用後の皮膚を健やかにしっとりする効果を高める製品となった。
実施例10
表10に示す処方および製法で、ヘアートリートメントを調製した。
【0047】
【表10】

【0048】
(製法)
成分3,4を80℃に加熱溶解したところに、80℃に加熱溶解した1,9及び10の多くを加え、冷却後2,5〜8及び10の残部を加えヘアートリートメントとする。
【0049】
実施例10については、ツバキセラミドを加えることにより、髪への保湿効果が一層強化され、使用後の毛髪をしなやかにしっとりとする効果を高める製品となった。
実施例11
表11に示す処方および製法で、オイルエッセンスを調製した。
【0050】
【表11】

【0051】
(製法)
2〜4を均一に溶解した中に、1を加えオイルエッセンスとする。
【0052】
実施例11については、ツバキセラミドを加えることにより、皮膚の保湿効果が一層高まった上、肌荒れも改善された。また、頭髪に使用した場合は、髪への保湿効果が一層強化され、使用後の毛髪をしなやかにしっとりとする効果を高める製品となった。
実施例12
表12に示す処方および製法で、入浴剤を調製した。
【0053】
【表12】

【0054】
(製法)
成分1〜9を均一に溶解し、入浴剤とする。
【0055】
実施例12については、ツバキセラミドを加えることにより、入浴剤として皮膚の保湿効果が一層高まった上、肌荒れも改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバキ搾り粕を親油性溶媒で洗浄する工程を複数回繰り返した後、濾過固形分から極性有機溶媒にて抽出することを特徴とするツバキ搾り粕からのツバキセラミドの抽出方法。
【請求項2】
親油性溶媒がヘキサンであり、極性有機溶媒がエタノールである請求項1記載の抽出方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により得られたツバキセラミド。
【請求項4】
請求項3記載のツバキセラミドを含有する皮膚・頭髪化粧料。

【公開番号】特開2007−308424(P2007−308424A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139806(P2006−139806)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(399044942)株式会社 大島椿本舗 (1)
【Fターム(参考)】