説明

ツルレイシの苦味低減方法

【課題】
本発明は、ツルレイシを新規な食品加工素材で利用できるようにして、その用途拡大に貢献できる、ツルレイシの苦味低減方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
ツルレイシを水、エタノール水、砂糖水などへ浸積した後か、塩揉みや塩茹でした後に、流水へ浸積するツルレイシの苦味低減方法などにより、前記の課題は解決される。ツルレイシ本来の噛み応えのある食感や色調を保ちつつ、より食べ易くて癖のない風味へツルレイシを改良できる、ツルレイシの苦味低減方法を提供できる。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツルレイシを新規な食品加工素材で利用できるようにして、その用途拡大に貢献できる、ツルレイシの苦味低減方法に関する。より詳しくは、ツルレイシを食品加工素材として利用する際に、非常に簡便な前処理により、ツルレイシ本来の噛み応えのある食感や鮮明な色調を保ちつつ、より食べ易くて癖のない風味へツルレイシを改良できる、ツルレイシの苦味低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ツルレイシはウリ科ツルレイシ属の植物であり、学名をMomordica charantiaという。ツルレイシは別名で、蔓茘枝、ニガウリ、苦瓜、ゴーヤ、ゴーヤーなどと呼ばれている。ツルレイシは未成熟の緑色の果実を生野菜などとして食用でき、例えば、糖尿病の軽減効果などが知られている(アンドリュー・シェヴァリエ著、世界薬用植物百科事典、誠文堂新光社発行、2000年)。
【0003】
ツルレイシ(ゴーヤ)の機能性として、例えば、特開2001−278804号(特許文献1)では、脂質代謝改善材作用を有する、ゴーヤを含む食品が報告されている。特開2006−117657号公報(特許文献2)では、ゴーヤが中性脂肪を低減させて、テカリを防止することが報告されている。特開2006−117658号公報(特許文献3)では、ゴーヤが血中の中性脂肪を低減させることが報告されている。特開2006−117659号公報(特許文献4)では、ゴーヤが血中の中性脂肪を低減させて、脱毛を改善することが報告されている。そして、この他にも、ツルレイシの機能性として、食欲増進効果、ストレス解消効果、ストレス性の胃潰瘍と十二指腸潰瘍の予防効果、肝機能の向上効果、動脈硬化の予防効果、血糖値と血圧の低下作用などの様々な効能が報告されている。ただし、ツルレイシの機能性ではなく、その食感や風味の改良に着目した技術は、あまり報告されていなかった。
【0004】
一方、ツルレイシ(ゴーヤ)の風味の改良に着目した技術として、例えば、特開2006−075083号公報(特許文献5)、特開2008−259498号公報(特許文献5)では、ゴーヤを発酵させて利用する方法が報告されている。特開2007−145782号公報(特許文献7)では、ゴーヤを抽出して利用する方法が報告されている。ただし、これらの技術では、ツルレイシの色調や食感を保持していないばかりか、ツルレイシ本来の特性や形状を維持しておらず、ツルレイシの原型を留めていなかった。
【0005】
ツルレイシ(ゴーヤ)の苦味低減方法として、特開平08−092116号公報(特許文献8)では、マクロポーラス非イオン吸着樹脂で処理する方法が報告されている。特開平08−168354号公報(特許文献9)では、連続的に脱水して乾燥して炒めて処理する方法が報告されている。ただし、これらの技術では、ツルレイシの色調や食感を保持していないばかりか、その処理や操作(作業の手順)が複雑な上に、その効果も十分とはいえなかった。
【0006】
また、ツルレイシ(ゴーヤ)の苦味低減方法として、特開2001−299264号公報(特許文献10)、特開2002−233333号公報(特許文献11)、特開2002−034471号公報(特許文献12)では、マスキング剤を使用することが報告されている。ただし、これらの技術では、ツルレイシを食品加工素材として利用する際に、そのツルレイシを添加した飲食品の風味や物性に対して、マスキング剤が悪影響する可能性があり、その処理や調製に手間が掛かる上に、製品のコストアップにも繋がっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−278804号公報
【特許文献2】特開2006−117657号公報
【特許文献3】特開2006−117658号公報
【特許文献4】特開2006−117659号公報
【特許文献5】特開2006−075083号公報
【特許文献6】特開2008−259498号公報
【特許文献7】特開2007−145782号公報
【特許文献8】特開平08−092116号公報
【特許文献9】特開平08−168354号公報
【特許文献10】特開2001−299264号公報
【特許文献11】特開2002−233333号公報
【特許文献12】特開2002−034471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術の課題点を鑑みてなされたものであり、ツルレイシを新規な食品加工素材で利用できるようにして、その用途拡大に貢献できる、ツルレイシの苦味低減方法を提供することを課題とする。
【0009】
つまり、本発明は、ツルレイシを食品加工素材として利用する際に、非常に簡便な前処理により、ツルレイシ本来の噛み応えのある食感や鮮明な色調を保ちつつ、より食べ易くて癖のない風味へツルレイシを改良できる、ツルレイシの苦味低減方法を提供することを課題とする。
【0010】
また、本発明は、清涼飲料、乳飲料、ヨーグルト、ゼリー、プリン、アイスクリーム、チーズ、チョコレートなどの飲食品に添加する食品加工素材として特に適しており、食感や色調が良好で苦味の低減されたツルレイシを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、前記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、ツルレイシを常温の水、エタノール水、砂糖水などに浸積した(漬け込んだ)後に、常温の流水へ保管(保持)することにより、ツルレイシの苦味を低減できるという知見を見出し、本発明を完成するに至った。このとき、ツルレイシを塩揉みや塩茹でなどした後に、常温の流水へ保管することにより、ツルレイシの苦味を低減できるという知見を同時に見出した。
【0012】
具体的には、ツルレイシを所定温度の水、エタノール、砂糖水などに所定時間で浸積した後に、所定温度の流水へ所定時間で保管することにより、ツルレイシ本来の噛み応えのある食感や鮮明な色調を保ちつつ、より食べ易くて癖のない風味へツルレイシを食品加工素材として改良できることを見出した。このとき、ツルレイシを所定時間で塩揉みや塩茹でなどした後に、所定温度の流水へ保管することにより、ツルレイシ本来の噛み応えのある食感や鮮明な色調を保ちつつ、より食べ易くて癖のない風味へツルレイシを食品加工素材として改良できることを同時に見出した。
【0013】
そして、前記の食感や色調が良好で苦味の低減されたツルレイシは、清涼飲料、乳飲料、ヨーグルト、ゼリー、プリン、アイスクリーム、チーズ、チョコレートなどの飲食品に添加する食品加工素材として特に適しており、これら飲食品本来の良質な風味を損なうことなく、ツルレイシ独特の良好な食感を付与した飲食品を得られることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下からなる。
[1] ウリ科ツルレイシ属の植物を、5〜50℃の水へ2〜5時間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3〜6時間で浸積する、若しくは、ウリ科ツルレイシ属の植物を、5〜50℃のアルコール水溶液、食塩水溶液、糖水溶液の何れかへ1〜5時間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ2〜6時間で浸積することを特徴とする、ウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法。
[2] ウリ科ツルレイシ属の植物を、食塩及び/又は糖と混ぜて揉んだ後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3〜6時間で浸積することを特徴とする、ウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法。
[3] ウリ科ツルレイシ属の植物を、95〜105℃の水、食塩水溶液、糖水溶液の何れかへ5〜60秒間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3.5〜6時間で浸積することを特徴とする、ウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法。
[4] ウリ科ツルレイシ属の植物がツルレイシであることを特徴とする、前記[1]〜[3]の何れかに記載の苦味低減方法。
[5] 前記[1]〜[4]の何れかに記載の苦味低減方法により得られたウリ科ツルレイシ属の植物であることを特徴とする、食品加工素材。
[6] 前記[5]に記載の食品加工素材を添加することを特徴とする、飲食品。
[7] 飲食品が清涼飲料、乳飲料、ヨーグルト、ゼリー、プリン、アイスクリーム、チーズ、チョコレートであることを特徴とする、前記[6]に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ツルレイシを新規な食品加工素材で利用できるようにして、その用途拡大に貢献できる、ツルレイシの苦味低減方法を提供できる。
【0016】
つまり、本発明によれば、ツルレイシを食品加工素材として利用する際に、非常に簡便な前処理により、ツルレイシ本来の噛み応えのある食感や鮮明な色調を保ちつつ、より食べ易くて癖のない風味へツルレイシを改良できる、ツルレイシの苦味低減方法を提供できる。
【0017】
また、本発明によれば、清涼飲料、乳飲料、ヨーグルト、ゼリー、プリン、アイスクリーム、チーズ、チョコレートなどの飲食品に添加する食品加工素材として特に適しており、食感や色調が良好で苦味の低減されたツルレイシを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法は、ウリ科ツルレイシ属の植物を、5〜50℃の水へ2〜5時間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3〜6時間で浸積する、若しくは、ウリ科ツルレイシ属の植物を、5〜50℃のアルコール水溶液、食塩水溶液、糖水溶液の何れかへ1〜5時間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ2〜6時間で浸積することを特徴とする。そして、実験的に検討した結果の示す通り、本発明のウリ科ツルレイシ属の植物として、ツルレイシであることが好ましい。
【0019】
本発明のウリ科ツルレイシ属の植物は、未成熟の果実でも成熟した果実でも良く、その使用部位は果実の全体、ワタ及び/又は種子を除いた果実、果肉の何れでも良い。このとき、本発明の食品加工素材の風味や色調、食感や物性の観点や、本発明の苦味低減方法の処理時間の効率面などから、本発明の植物をスライス状やダイス状などに切断することが好ましく、例えば、その厚さとして、0.5〜5mmが好ましく、0.5〜3mmがより好ましく、1〜3mmがさらに好ましい。
【0020】
本発明において浸漬(漬け込む)とは、水、アルコール水溶液、食塩水溶液、糖水溶液などの処理液を所定容器へ充填し、その処理液へツルレイシ(対象物)の全部又は体積で9割以上の部分を埋没している状態にして所定時間で保持することを意味する。本発明の処理液として、具体的には、水、アルコール水溶液、食塩水溶液、糖水溶液が好ましいが、食用であれば特に制限されず、例えば、アルコール類、炭化水素類、有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基、超臨界流体などから、単独又は複数の組合せで水溶液などを調製して適用することも考えられる。
【0021】
本発明において浸漬とは、特別に流水などと明記しない限り、最初に調製した処理液をそのまま使用すること、すなわち、ツルレイシの保持の途中で処理液を交換したり、処理液の濃度を調整したりなどせずに、ツルレイシを静置した状態にして所定時間で保持することを意味するが、必要に応じて処理液を撹拌したり、対象物を振とうしたりなどしても良い。なお、最初に調製した処理液をそのまま使用することで、ツルレイシ本来の風味や色調を適度に維持しながら、食感や物性のみを変化させて改良できることとなる。そして、このような観点から、本発明の浸漬では、所定容器へ充填するツルレイシの重量に対する処理液の重量として、5〜100倍が好ましく、5〜50倍がより好ましく、5〜20倍がさらに好ましく、10〜20倍が最も好ましい。
【0022】
本発明の浸漬では、処理液の温度は常温程度で良く、例えば、5〜50℃であり、温度の管理や制御の容易さなどから、5〜40℃が好ましく、5〜30℃がより好ましく、10〜25℃がさらに好ましい。なお、本発明の浸漬では、処理液を水にすると、保持の時間には、例えば、2時間以上が必要であり、ツルレイシ本来の風味や色調を適度に維持しながら、食感や物性のみを変化させる観点や、細菌的な衛生面や処理時間の効率面などから、2〜5時間が好ましく、2.5〜5時間がより好ましく、3〜5時間がさらに好ましい。このとき、本発明の処理液の水は、例えば、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水、水道水、井水(井戸水)などであり、食用であれば何れを使用しても良く、細菌的な衛生面などで問題がなければ、特に制限されない。
【0023】
本発明の浸漬では、処理液をアルコール水溶液、食塩水溶液、糖水溶液にすると、保持の時間には、例えば、1時間以上が必要であり、ツルレイシ本来の風味や色調を適度に維持しながら、食感や物性のみを変化させる観点や、細菌的な衛生面や処理時間の効率面などから、1〜5時間が好ましく、1.5〜5時間がより好ましく、2〜5時間がさらに好ましい。このとき、本発明の処理液のアルコール水溶液は、例えば、無水アルコール、焼酎、ホワイトリカー、ウイスキー、ワイン、紹興酒、日本酒、洋酒などであり、食用であれば何れを使用しても良く、入手や取扱いの容易さなどから、エタノールに由来する酒類であることが好ましい。本発明の処理液のアルコール水溶液は、アルコールの濃度として、例えば、10重量%以上であり、ツルレイシの風味や色調、食感や物性などの観点や、細菌的な衛生面や処理時間の効率面などから、10〜70重量%が好ましく、20〜60重量%がより好ましく、30〜50重量%がさらに好ましく、30〜40重量%が最も好ましい。
【0024】
本発明の処理液の食塩水溶液は、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどの水溶液であり、岩塩、海塩、加工塩などの水溶液として、食用であれば何れを使用しても良く、入手や取扱いの容易さなどから、塩化ナトリウムの水溶液であることが好ましい。本発明の処理液の食塩水溶液は、食塩の濃度として、例えば、0.05重量%以上であり、ツルレイシの風味や色調、食感や物性などの観点や、細菌的な衛生面や処理時間の効率面などから、0.05〜10重量%が好ましく、0.05〜5重量%がより好ましく、0.1〜3重量%がさらに好ましく、0.1〜1重量%が最も好ましい。本発明の処理液の糖水溶液は、例えば、砂糖、果糖、異性化糖、蜂蜜などの水溶液であり、食用であれば何れを使用しても良く、入手や取扱いの容易さなどから、砂糖の水溶液であることが好ましい。本発明の処理液の糖水溶液は、糖の濃度として、例えば、1重量%以上であり、ツルレイシの風味や色調、食感や物性などの観点や、処理時間の効率面などから、1〜20重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましく、2〜10重量%がさらに好ましく、2〜5重量%が最も好ましい。
【0025】
本発明において流水への浸漬とは、水(処理液)を所定容器へ充填し、その水へツルレイシの全部又は体積で9割以上の部分を埋没している状態にして、所定流量で加水しながら所定時間で保持することを意味する。本発明の流水への浸漬では、所定容器へ充填するツルレイシの重量に対する処理液の重量として、5〜100倍が好ましく、5〜50倍がより好ましく、5〜20倍がさらに好ましく、10〜20倍が最も好ましい。本発明において希釈倍率とは、加水の流量(単位時間の流水の重量、kg/s)を所定容器の処理液の重量(kg)で除した数値である。このとき、本発明の希釈倍率として、0.005〜0.05s-1が好ましく、0.005〜0.03s-1がより好ましく、0.01〜0.03s-1がさらに好ましい。そして、本発明の加水の流量として、例えば、0.01〜2kg/sであれば良い。
【0026】
本発明の流水への浸漬では、処理液の温度は常温程度で良く、例えば、5〜50℃であり、温度の管理や制御の容易さなどから、5〜40℃が好ましく、5〜30℃がより好ましく、10〜25℃がさらに好ましい。なお、本発明の流水への浸漬では、保持の時間には、例えば、2時間以上が必要であり、ツルレイシ本来の風味や色調を適度に維持しながら、食感や物性のみを変化させる観点や、細菌的な衛生面や処理時間の効率面などから、2〜6時間が好ましく、2.5〜6時間がより好ましく、3〜6時間がさらに好ましい。このとき、本発明の処理液の水は、例えば、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水、水道水、井水(井戸水)などであり、食用であれば何れを使用しても良く、細菌的な衛生面などで問題がなければ、特に制限されない。
【0027】
本発明の流水への浸漬では、必要に応じて、その事前に前処理として、ツルレイシ(対象物)をアルコールへ浸積したり、アルコールと水へ交互に浸積することを繰り返しても良い。この前処理では、アルコールや水の温度は常温程度で良く、例えば、5〜50℃であり、温度の管理や制御の容易さなどから、5〜40℃が好ましく、5〜30℃がより好ましく、10〜25℃がさらに好ましい。なお、この前処理では、保持の時間には、例えば、10秒間以上が必要であり、ツルレイシ本来の風味や色調を適度に維持しながら、食感や物性のみを変化させる観点や、処理時間の効率面などから、10〜90秒間が好ましく、10〜60秒間がより好ましく、20〜40秒間がさらに好ましい。そして、アルコールと水へ交互に浸積する回数として、例えば、2〜10回であり、ツルレイシの風味や色調、食感や物性などの観点や、処理時間の効率面などから、2〜5回が好ましく、2〜4回がより好ましく、2〜3回がさらに好ましい。このとき、この前処理の水は、例えば、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水、水道水、井水(井戸水)などであり、食用であれば何れを使用しても良く、細菌的な衛生面などで問題がなければ、特に制限されない。また、この前処理のアルコールは、例えば、無水アルコールなどであり、食用であれば何れを使用しても良く、入手や取扱いの容易さなどから、エタノールであることが好ましい。
【0028】
本発明のウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法は、ウリ科ツルレイシ属の植物を、食塩及び/又は糖と混ぜて揉んだ後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3〜6時間で浸積することを特徴とする。そして、実験的に検討した結果の示す通り、本発明のウリ科ツルレイシ属の植物として、ツルレイシであることが好ましい。
【0029】
本発明において塩揉みなどとは、食塩や糖と混ぜて揉むことであり、食塩や糖をツルレイシ(対象物)に添加して、その表面の全体へ略均等に行き渡らせた後に手のひらを使い程良い強さの力加減で握るなどして圧力を掛けて搾ってから、所定時間で保持することを意味する。本発明の塩揉みなどでは、ツルレイシ(対象物)の温度は常温程度で良く、例えば、5〜50℃であり、温度の管理や制御の容易さなどから、5〜40℃が好ましく、5〜30℃がより好ましく、10〜25℃がさらに好ましい。
【0030】
本発明の塩揉みなどでは、食塩や糖の添加量(ツルレイシの重量に対する食塩や糖の重量)として、例えば、0.01重量%以上であり、ツルレイシの風味や色調、食感や物性などの観点や、処理時間の効率面などから、0.01〜5重量%が好ましく、0.05〜4重量%がより好ましく、0.1〜3重量%がさらに好ましく、0.5〜2重量%が最も好ましい。なお、本発明の塩揉みなどでは、保持の時間には、例えば、3秒間以上が必要であり、ツルレイシ本来の風味や色調を適度に維持しながら、食感や物性のみを変化させる観点や、処理時間の効率面などから、3〜30秒間が好ましく、4〜20秒間がより好ましく、5〜15秒間がさらに好ましい。
【0031】
本発明のウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法は、ウリ科ツルレイシ属の植物を、95〜105℃の水、食塩水溶液、糖水溶液の何れかへ5〜60秒間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3.5〜6時間で浸積することを特徴とする。そして、実験的に検討した結果の示す通り、本発明のウリ科ツルレイシ属の植物として、ツルレイシであることが好ましい。
【0032】
本発明において塩茹でなどとは、沸騰水、沸騰した食塩水溶液や糖水溶液へ浸積して所定時間で保持することを意味する。本発明の塩茹でなどでは、処理液の温度は約100℃以上であれば良く、例えば、95〜105℃であり、温度の管理や制御の容易さなどから、96〜104℃が好ましく、97〜103℃がより好ましく、98〜102℃がさらに好ましい。
【0033】
本発明の塩茹でなどでは、本発明の処理液の食塩水溶液は、食塩の濃度として、例えば、0.01重量%以上であり、ツルレイシの風味や色調、食感や物性などの観点や、細菌的な衛生面や処理時間の効率面などから、0.01〜5重量%が好ましく、0.05〜3重量%がより好ましく、0.1〜1重量%がさらに好ましく、0.1〜0.5重量%が最も好ましい。本発明の処理液の糖水溶液は、糖の濃度として、例えば、0.1重量%以上であり、ツルレイシの風味や色調、食感や物性などの観点や、処理時間の効率面などから、0.1〜10重量%が好ましく、0.5〜8重量%がより好ましく、1〜5重量%がさらに好ましく、1〜3重量%が最も好ましい。なお、本発明の塩茹でなどでは、保持の時間には、例えば、5秒間以上が必要であり、ツルレイシ本来の風味や色調を適度に維持しながら、食感や物性のみを変化させる観点や、処理時間の効率面などから、5〜60秒間が好ましく、10〜45秒間がより好ましく、15〜30秒間がさらに好ましい。
【0034】
本発明の苦味低減方法により得られたウリ科ツルレイシ属の植物は、そのまま食用しても良いが、食品加工素材として新規で有用であり、あらゆる飲食品へ添加して、その食感や色調を改良できる。特に、本発明の食品加工素材を、清涼飲料、乳飲料、ヨーグルト、ゼリー、プリン、アイスクリーム、チーズ、チョコレートなどと組合せると、独特で良好な食感や色調の飲食品を得られる。このとき、本発明のウリ科ツルレイシ属の植物の食感と、飲食品本来の食感との組合せにより得られる、新規な飲食品の意外性や独自性などを美味しく楽しめる観点から、本発明の飲食品として、ヨーグルト、ゼリー、プリン、アイスクリーム、チーズ、チョコレートが好ましく、ヨーグルト、ゼリー、プリン、アイスクリームがより好ましく、ヨーグルト、ゼリーがさらに好ましい。
【0035】
本発明の飲食品では、原材料の成分として特に限定されず、水、脂質、タンパク質、糖質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基、果汁、果肉、ソース、プレパレーション、香料(フレーバー)などを使用できる。これらの成分は、単独又は複数で組合せて使用でき、必要に応じて合成品を使用しても良い。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。なお、本明細書において、%の表示は明示しない場合、重量%を示すものとする。また、苦味、食感、色調の官能評価は、長年に亘り食品の研究開発に携わってきた、専門パネラーの4名により実施した。これらの官能評価では、苦味、食感、色調を5段階で数値化し、専門パネラーの4名の平均値を評価値とした。この官能評価の基準を表1に示した。具体的には、ツルレイシ本来のカリカリとした食感と、ツルレイシ本来の緑色の変化を数値化した。なお、本発明では、ツルレイシ本来の食感と色調を良好に維持しながら、ツルレイシ本来の苦味を低減することが目的となる。
【0037】
【表1】

【0038】
[実験例1] 処理方法の種類の検討(1)
ツルレイシの苦味を低減できる処理方法の種類を検討した。ツルレイシの果実から種とワタを取り除き、その果肉を厚さで約1mmのスライス状にした。スライス状の果肉への処理方法として、常温の塩揉み(食塩添加濃度:1%、処理時間:10秒間)、塩茹で(食塩濃度:0.1%、食塩水溶液量:果肉の10倍の重量、処理時間:30秒間)、竹串の穴空け、真空緩慢凍結を試行した。それぞれに官能評価を実施したところ、塩揉みと塩茹での場合に、ツルレイシの食感と色調の変化が小さく、苦味を低減できることが分かった。
【0039】
[実験例2] 処理方法の種類の検討(2)
ツルレイシの苦味を低減できる処理方法の種類を検討した。ツルレイシの果実から種とワタを取り除き、その果肉を厚さで約1mmのスライス状にした。スライス状の果肉への処理方法として、常温の無水エタノール、砂糖水溶液(砂糖濃度:5%)、エタノールと砂糖水溶液(砂糖濃度:5%)の混合液(エタノール濃度:50%)への浸積を試行した。それぞれに官能評価を実施したところ、何れの場合にも、ツルレイシの食感と色調の変化が小さく、苦味を低減できることが分かった。そして、エタノールの場合に、苦味を低減できる効果が最も高いことが分かった。
【0040】
[実験例3] 処理方法の種類の検討(3)
ツルレイシの苦味を低減できる処理方法の種類を検討した。ツルレイシの果実から種とワタを取り除き、その果肉を厚さで約1mmのスライス状にした。スライス状の果肉への第一段階の処理方法として、未処理、常温水への浸積(水量:果肉の10倍の重量、処理時間:2時間)、常温の塩揉み(食塩添加濃度:1%、処理時間:10秒間)を試行した。そして、この第一段階の処理方法の後に、第二段階の処理方法として、それぞれの果肉(10g)を常温の無水エタノール(100mL)へ添加して、30秒間で振とうした後に、それぞれの果肉を常温水(100mL)へ添加して、30秒間で振とうした。これを3回で繰り返してから、常温水(1L)に加水(10mL/s)しながら、1時間、2時間、17時間で保持した。それぞれに官能評価を実施したところ、何れの場合にも、ツルレイシの食感と色調の変化が小さく、苦味を低減できることが分かった。そして、塩揉みの場合に、苦味を低減できる効果が最も高いことが分かった。この官能評価の結果を表2に示した。
【0041】
【表2】

【0042】
[実験例4] 処理方法の種類の検討(4)
ツルレイシの苦味を低減できる処理方法の種類を検討した。ツルレイシの果実から種とワタを取り除き、その果肉を厚さで約1mmのスライス状にした。スライス状の果肉への第一段階の処理方法として、未処理、常温のエタノール水溶液(エタノール濃度:35%、ホワイトリカー)への浸積(ホワイトリカー量:果肉の10倍の重量、処理時間:2時間、撹拌)、常温の塩揉み(食塩添加濃度:1%、処理時間:10秒間)、塩茹で(食塩濃度:0.2%、食塩水溶液量:果肉の10倍の重量、処理時間:20秒間)を試行した。そして、この第一段階の処理方法の後に、第二段階の処理方法として、それぞれの果肉(10g)を、常温水(1L)に加水(10mL/s)しながら、1〜6時間で保持した。それぞれに官能評価を実施したところ、未処理の場合を除く何れの場合にも、ツルレイシの食感と色調の変化が小さく、苦味を低減できることが分かった。そして、塩茹での場合に、苦味を低減できる効果が最も高く、エタノール水溶液への浸積の場合に、その効果が塩茹での次に高く、塩揉みの場合に、その効果が最も低いことが分かった。この官能評価の結果を表3に示した。
【0043】
【表3】

【0044】
[実験例5] 処理方法の種類の検討(5)
ツルレイシの苦味を低減できる処理方法の種類を検討した。ツルレイシの果実から種とワタを取り除き、その果肉を厚さで約1mmのスライス状にした。スライス状の果肉への第一段階の処理方法として、表4に示した通りの条件で、水茹で(水量:果肉の10〜50倍の重量、処理時間:20秒間)、塩茹で(食塩濃度:0.1〜0.5%、食塩水溶液量:果肉の10〜50倍の重量、処理時間:20秒間)を試行した。そして、この第一段階の処理方法の後に、第二段階の処理方法として、それぞれの果肉(10g)を、常温水(1L)に加水(10mL/s)しながら、1分、0.5〜2時間で保持した。それぞれに官能評価を実施したところ、第二段階の処理方法の流水時間(加水の保持の時間)で約30分間以上の場合に、ツルレイシの食感と色調の変化が小さく、苦味を低減できることが分かった。そして、水茹でよりも塩茹での場合に、苦味を低減できる効果が最も高いことが分かった。なお、食塩濃度が高い場合や、水容量が多い場合に、苦味を低減できる効果が高いことが分かった。ただし、流水時間が長くなると、食塩濃度や水容量の影響は小さくなった。つまり、処理時間を短くして、苦味を低減できる効果を高めるためには、食塩濃度や水容量の調整が重要であることが分かった。この官能評価の結果を表4に示した。
【0045】
【表4】

【0046】
[実験例6] ヨーグルトの食感、色調、苦味(風味)の検討
実験例5で第二段階の処理方法の流水時間を2時間とした果肉を使って、ヨーグルトを調製した。具体的には、ツルレイシの果肉(20g)とプレーンヨーグルト(40g)を混合して、ツルレイシ入りヨーグルトを調製した。このヨーグルトを、5℃、48時間で保存した後に、それぞれに官能評価を実施したところ、何れの場合にも、ツルレイシの食感と色調の変化が小さく、苦味は低減されていることが分かった。そして、ツルレイシの単独(実験例5)よりも、ツルレイシとヨーグルトを混合することで、苦味を低減できる効果が高まることが分かった。この官能評価の結果を表5に示した。
【0047】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0048】
ツルレイシを新規な食品加工素材で利用できるようにして、その用途拡大に貢献できる、ツルレイシの苦味低減方法を提供できる。つまり、ツルレイシを食品加工素材として利用する際に、非常に簡便な前処理により、ツルレイシ本来の噛み応えのある食感や鮮明な色調を保ちつつ、より食べ易くて癖のない風味へツルレイシを改良できる、ツルレイシの苦味低減方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウリ科ツルレイシ属の植物を、5〜50℃の水へ2〜5時間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3〜6時間で浸積する、若しくは、ウリ科ツルレイシ属の植物を、5〜50℃のアルコール水溶液、食塩水溶液、糖水溶液の何れかへ1〜5時間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ2〜6時間で浸積することを特徴とする、ウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法。
【請求項2】
ウリ科ツルレイシ属の植物を、食塩及び/又は糖と混ぜて揉んだ後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3〜6時間で浸積することを特徴とする、ウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法。
【請求項3】
ウリ科ツルレイシ属の植物を、95〜105℃の水、食塩水溶液、糖水溶液の何れかへ5〜60秒間で浸積した後に、希釈倍率を0.005〜0.05s-1として、5〜50℃の流水へ3.5〜6時間で浸積することを特徴とする、ウリ科ツルレイシ属の植物の苦味低減方法。
【請求項4】
ウリ科ツルレイシ属の植物がツルレイシであることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の苦味低減方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の苦味低減方法により得られたウリ科ツルレイシ属の植物であることを特徴とする、食品加工素材。
【請求項6】
請求項5に記載の食品加工素材を添加することを特徴とする、飲食品。
【請求項7】
飲食品が清涼飲料、乳飲料、ヨーグルト、ゼリー、プリン、アイスクリーム、チーズ、チョコレートであることを特徴とする、請求項6に記載の飲食品。

【公開番号】特開2011−62148(P2011−62148A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216239(P2009−216239)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】