説明

ツーセンダニン又はセンダン(栴檀)抽出物の痴呆の予防又は治療のための使用

本発明はツーセンダニン又はセンダン(栴檀)抽出物を有効成分として含有する痴呆の予防又は治療用組成物に関するものにして、より詳細にはツーセンダニン又はセンダン(栴檀)抽出物を有効成分として含有する痴呆の予防又は治療用薬学的組成物に関する。本発明のセンダン(栴檀)抽出物又はツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する薬学的組成物、これの使用及び痴呆の予防又は治療方法は痴呆の予防又は治療に効果的である。特に、本発明の組成物、使用又は方法はベータアミロイド生成抑制作用及び神経細胞保護効果を示すAPPα生成促進を誘導する作用が優れてアルツハイマー病のような痴呆の予防又は治療に優れた効能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2009年06月19日に出願された大韓民国特許出願第10−2009−0054949号を優権主張し、前記明細書全部は本出願の参考文献である。
【0002】
本発明はツーセンダニン(toosendanin)またはセンダン(栴檀)抽出物の痴呆の予防または治療のための使用に関し、より詳細にはツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩またはセンダン(栴檀)抽出物を、有効成分として含有する痴呆の予防または治療用薬学的組成物、これの使用及びこれを利用した治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
痴呆(dementia)神経細胞の損傷及び損失により記憶力、集中力、言語及び認知等に甚だしい障害が長時間漸進的に進行され、究極には精神能力と社会活動能力の消失に至らしめる症候群として代表的な原因疾患はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease)である。アルツハイマー病は原因により散発性(sporadic type)と家族性(familial type)とに区別され、80〜90%以上が未だに原因を知らない散発性であり、65才の高齢者から主に現れ、その他はアミロイド前駆蛋白質(Amyloid precursor protein;以下APPと称す)、プレセニリン(presenilin; PS)1型及び2型等遺伝子の変位が主な原因であり、65才以下の人口から100%の症状が現れる。アルツハイマー病の症状は脳組織の神経細胞の外で老人斑(senile plaque)を形成するベータアミロイド(以下Aβと称す)と神経細胞内で過剰酸化されて二重螺旋繊維(paired helical filament)を形成するタウ(tau)蛋白質が主要原因物質として認められている。AβはAPPがβー及びγーセクレターゼと言う蛋白分解酵素により、アミノ酸配列に特異的に代謝されて形成される40〜42個のアミノ酸で構成された蛋白質で自己的に凝集されて神経細胞毒性、シナプス損失及び炎症を誘発するものとして報告され(Cappari et al, Neurochem Res,2008,33:526−532)タウ蛋白質は、微細小管(microtubule)とと結合して細胞の形態及び構造を維持する役割に過剰酸化により、微細小管から分離されて微細小管の破壊及び神経繊維結び目(neuropathol,2009,in tangles)を形成して神経細胞の死滅を誘導(Iqbal et al, Acta Neuropathol,2009,in print)するとして報告された。アルツハイマー病患者は2008年現在全世界的に約2,600万人と知られており、老齢人口の増加により2050年には約1億人以上になるものと見込まれ(Carlsson, J Alz Dis, 2008,15:327−338)てはいるが、未だに根本的な治療剤の開発は極めて遅々たる実情である。現在市販されている薬物は記憶と関連した神経伝達物質であるアセチルコリン(acetylcholine)の濃度を一定に維持させるアセチルコリン分解酵素(acetylcholine esterase)活性疎外剤等(Aricept, Exelon,Reminyl等)とCa2+による神経細胞死滅を抑制するNMDA収容体拮抗剤(Memantine)があるが、これらは症状の進展を緩和する目的に使用されていて根本的な治療効果を示す治療剤の開発が切実に求められている実情である。
【0004】
センダン(栴檀)(Melia azedarach, Melia toosendan)は、センダン(Melia)とセンダン(栴檀)に属する植物であって根皮又は樹皮を苦楝皮と称し、果実は天楝子として古代中国から主に駆虫剤として使用されており、その他に抗菌、利尿及び解熱作用があって東医宝鑑には生殖器と睾丸が腫上がって痛く大小便が通じなくなる疝症治療にも使用するとの記録がある。センダン(栴檀)の苦楝皮又は天楝子の駆虫作用はトリタフェノイド系のツーセンダニン(toosendanin又はazedarchin,C303811,分子量574, Wang and Yen, J Tradit Chin Med 1959,262:46−49)が昆虫の摂取及び分化を選択的に抑制して現れるものとして報告された(Zhang et al, Acta Northwe UniAgricult Sin,21:1−5)、センダン(栴檀)以外にツーセンダニンを含有している植物には同じセンダン(栴檀)科に属するチャンチン(Cedrela sinensis)があって、これの根又は幹の表皮である椿白皮は駆虫剤や疫痢、腰気、下痢をとめる止瀉剤として使用されている。
【0005】
ツーセンダニンはこの他にも神経細胞の分化(Tang et al, Neurosci Res,2003,45:225−231)及び癌細胞の細胞死滅(Sin and Tang ,Chin J Neurosci,2004,20:461−465)を誘導すると報告された。センダン(栴檀)とツーセンダニン関連の国内外使用特許には癌細胞毒性(大韓民国特許登録番号第10−0112032号)、美白及び皺除去効果(大韓民国特許登録番号第10−0345226号、米国特許登録番号第06,866,856号)、殺虫作用(大韓民国特許登録番号第10−0112657号、米国特許登録番号第10−06,372,239号)及びアレルギー予防効果(大韓民国特許登録番号第10−0750879号)等があるがツーセンダニンの痴呆に対する効力研究は全無である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は痴呆治療のための新たな物質に関して研究を重ねていく中で、ツーセンダニンを含むセンダン(栴檀)の実である天楝子抽出物及びここで分離した活性成分であるツーセンダニンがAPPの代謝調節を通じて、神経細胞保護効果を示すAPPaの生成を促進すると共にAβの生成を抑制して痴呆動物モデルから記憶力改善効果を示すことを確認して本発明を完成した。
本発明の目的はツーセンダニン又は薬学的に許容可能な塩を痴呆の予防または治療のための使用を提供することである。
本発明のさらに他の目的はセンダン(栴檀)抽出物の痴呆の予防または治療のための使用に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記のような目的を達成する為に、本発明はツーセンダニンまたはこれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する痴呆の予防薬学組成物を提供する。
本発明の他の目的を達成する為に、本発明はツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩の痴呆の予防または治療剤製造のための使用を提供する。
本発明の他の目的を達成する為に、本発明はツーセンダニンまたは、これの薬学的に許容可能な塩を必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする痴呆の予防又は治療方法を提供する。
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明はセンダン(栴檀)抽出物を有効成分として含有する痴呆の予防または治療用薬学組成物を提供する。
本発明の他の目的を達成するために、本発明はセンダン(栴檀)抽出物の痴呆の予防または治療剤製造のための使用を提供する。
本発明の他の目的を達成するために、本発明はセンダン(栴檀)抽出物をこれを必要とする個体に有効成分として投与することを特徴とする痴呆の予防または治療方法を提供する。
【0008】
以下本発明を詳細に説明する。
化学式1で表示される本発明のツーセンダニンは殺虫作用、癌細胞毒性、美白及び皺除去の効果があることが知られており、痴呆の予防又は治療効果がある。前記ツーセンダニンの痴呆の予防または治療効果は本発明により最初に知られた効果である。
【化1】

【0009】
痴呆とは、成長期には正常な知的水準を維持し、後天的に認知機能の損傷及び人格の変化が発生する疾患を意味する。痴呆は多様な原因により脳神経が破壊されることにより、記憶力障碍、言語能力障碍、便尿失禁、偏集症的事故、失語症のような精神機能の全般的な障碍が現れ、進行する過程で憂鬱症や人格障碍、攻撃性などの精神医学的症状が同伴することもある。医学界では老化と遺伝による原因性に注目しているが、未だに正確な発病原因と治療法は究明されていない状態である。痴呆に分類される疾患はこれに限定されるものではなく、アルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症、老人性痴呆及び頭部損傷による痴呆が含まれる。
【0010】
本発明のツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する組成物には、ツーセンダニンを有効成分として含有した抽出物はいずれでも本発明の組成物の一部にもなることができて、例えば、これに限定はされないが、チャンチン(香椿)抽出物又はセンダン(栴檀)抽出物でもあり、センダン(栴檀)(Melia azedarach, Melia toosendan)の抽出物でもあって、最もこの天楝子(センダン(栴檀)の実)又は苦楝皮(センダンの根皮又は樹皮)抽出物でもある。センダン(栴檀)はセンダン(栴檀)(Meria)とセンダン(栴檀)に属する植物で根皮または樹皮を苦楝皮と称して、果実は天楝子として古代中国から主に駆虫剤として使用され、この他にも抗菌、利尿及び解熱作用があって東医宝鑑には生殖器と睾丸が腫上がって痛く大小便が通じなくなる疝症治療にも使用するとの記録がある。本発明に伴うセンダン(栴檀)抽出物はセンダン(栴檀)の実、葉、幹、根等の全ての部位から抽出して製造することができて、実、根皮又は樹皮からも製造できる。
【0011】
本発明のセンダン(栴檀)抽出物は当業界に知られた溶媒抽出法により製造することができる。抽出溶媒には例えば、水、エタノール及びメタノールのような炭素数1乃至6個のアルコール、エチルアセテート、ジクロロメタン、クロロホルム、n−核酸、ジエチルエテル、アセトン、ベンゼンのような有機溶媒の中で選ばれたいずれか一つ又はこれらの混合溶媒を使用することができる。水又は炭素数1乃至6個のアルコールを用いて抽出できる。前記溶媒抽出法により抽出物を製造する場合には、熱水抽出、超音波抽出及び灌流抽出方法を使用できる。本発明のセンダン(栴檀)抽出物はメタノールを溶媒に利用して抽出して製造できる。抽出の際のセンダン(栴檀)とメタノールの比は特に限定はされないが、センダン(栴檀)にメタノールを 3〜15倍(重量基準)で添加できる。
【0012】
抽出時の温度は常圧下の10〜30℃で行うことが好ましく、抽出時間は抽出温度によって異なるが、48時間乃至96時間、好ましくは72時間抽出する。抽出時間において抽出時間が短いとセンダン(栴檀)成分の抽出がおろそかになり、抽出時間が長すぎると蒸発による抽出収率が落ち込むようになる。さらに、抽出効率を増大させるために、センダン(栴檀)を粉砕機で粉砕して使用し、メタノール抽出過程を2回繰返して残余の成分を追加抽出して使用することもできる。
【0013】
メタノールにより抽出された抽出物は不純物を除去して活性成分の濃度を高めるために、公知の方法で分画することができる。分画の効率のために抽出物を減圧濃縮することができ、分画のための溶媒にはエタノール及びメタノールのような炭素数1乃至6個のアルコール、エチルアセテート、ジクロロメタン、クロロホルム、n−核酸、ジエチルアセテート、アセトン、ベンゼンのような有機溶媒の中で選ばれたいずれか一つ又はこれらの混合溶媒を使用することができ、エチルアセテートで分画することができる。分画物は、そのまま使用されるか又は再分画することができて、再分画する場合は、水、メタノール、n−核酸の混合溶媒を使用できる。
【0014】
本発明の一実施例では細かく粉砕した天楝子を重量対比5倍のメタノールに3日間抽出を2回繰返して抽出液を濾過及び減圧濃縮した後、水に懸濁して同一嵩のエチルアセテートを処理してエチルアセテート分画を回収して減圧濃縮した。濃縮された分画物を90〜95%メタノールと同一嵩のn−核酸を添加して比較した後、メタノール分画を回収して減圧濃縮して最終抽出物を得た(実施例1参照)。
【0015】
本発明のツーセンダニンは天然から分離精製するかまたは商業的に購入して使用するかまたは当業界に広く知られた化学的合成法で製造することができる。
【0016】
本発明のツーセンダニンは天然から分離精製することができる。センダン(栴檀)から分離精製することができ、センダン(栴檀)の実の天楝子又は根や幹の表皮である苦楝皮から分離精製することができる。センダン(栴檀)やツーセンダニンが含有された抽出物を得る方法は前記記載の通りであり、抽出物からツーセンダニンを分離することは当業界に広く知られたクロマトグラフィーを利用した分離方法によることができる。例えば、シリカカラムクロマトグラフィー(silica column chromatography)及び高性能液体クロマトグラフィー(HPLC; High performance liquid chromatography)分取を通じて活性成分を純粋分離できる。
【0017】
本発明の一実施例ではセンダン(栴檀)抽出物を60meshシリカレジンから100%ジクロロメタン、0%メタノールから始めて漸次メタノールの混合比を高め、最終的に0%ジクロロメタン、100%メタノールを使用して8個の分画に分けて分画物を得た。以降活性が最も高い分画(ジクロロメタン:メタノール=25:1)を、オクタデシル化したシリカレジンを使用してメタノールの濃度を異にしながら分画して活性が最も高い分画を確保して、これを同一な条件でメタノール濃度を異にして再度分画し、活性が最も高い分画を確保した後、高性能液体クロマトグラフィー分取でツーセンダニンを純粋分離した(実施例2参照)。分取物がツーセンダニンであることを核磁気共鳴(NMR spectroscopy)分析及び質量分析法(mass spectroscopy)で確認した。
【0018】
本発明の組成物またはセンダン(栴檀)抽出物内の有効成分であるツーセンダニンはβーセクレターゼの活性を阻害し、αーセクレターゼの活性を促進して究極にはベータアミロイドの生成を抑制する活性を有し、このような点は発明者等により初めて究明された。
【0019】
アルツハイマー病はAβとタウ蛋白質が主要原因物質として老人斑及び神経繊維をそれぞれ神経細胞外部及び内部で形成させて、脳組織の萎縮と記憶障碍等を誘発する。Aβとタウの内、直接的な神経細胞死滅と密接な関連があるのはAβであって、アルツハイマー病は、ある原因によってAPPでAβが生成される経路の活性化が初期症状を誘導して以降、病気の加速化にタウ蛋白質が関連するものと予想(Small and Duff,Neuron,2008,5:591−598)されている。アルツハイマー病の予防又は治療のためには先ず、Aβ生成経路の遮断が重要に認められている。Aβはβーセクレターゼにより、APPがAPPβとAβアミノ酸配列を含むC−末端切片β(C−terminal fragmentβ;CTFβに切断され、 CTFβにγーセクレターゼが作用してACID(APP intracellular domain)とAβが形成されるので、βーセクレターゼの活性を阻害することが、アルツハイマー病の予防又は治療の一つの方法となる。αーセクレターゼはβーセクレターゼと競争的にAPPを分解してAβの生成を抑制して、αーセクレターゼにより、分解された産物の内の一つであるAPPはAPPα生成を誘導するので、αーセクレターゼの活性を増加させることがアルツハイマー病の予防又は治療の異なる方法になる。
【0020】
本発明の組成物又は組成物内の有効成分であるツーセンダニンは、Aβ生成経路を効果的に遮断し、神経細胞保護効果を示すAPPαの生成を促進する前記のアルツハイマー病治療剤開発の目的と符合するAβ生成遮断剤である。
【0021】
本発明の一実施例では本発明の組成物内のセンダン(栴檀)抽出物又はツーセンダニンがAPPαの生成を促進し、APPβの生成を抑制することを細胞実験を通じてウェスタンブロットで確認し(実施例5−1参照)、ベータアミロイドの生成を抑制することを細胞実験を通じてベータアミロイド定量キットで確認した(実施例5−2参照)。
【0022】
本発明の他の一実施例では本発明の組成物内のセンダン(栴檀)抽出物又はツーセンダニンが痴呆動物モデルにおいて、ベータアミロイド水準を減少させるのを動物実験を通じてベータアミロイド定量キットで確認した(実施例8参照)。
【0023】
本発明のさらに他の一実施例では、本発明の組成物内のセンダン(栴檀)抽出物またはツーセンダニンが痴呆動物モデルにおいて、痴呆の主な症状の内の一つである記憶及び認知機能低下を治療することを本発明の組成物を投与した痴呆誘導ネズミを対照にしたY字状迷路試験、水中迷路試験及び受動回避試験を通じて確認した(実施例7参照)。
【0024】
本発明の組成物はAβ生成経路を効果的に遮断し、神経細胞保護効果を示すAPPα生成を促進し、痴呆予防または治療に卓越な効果があることを確認した。
【0025】
本発明の他の一実施例では、多様な濃度の酒精(エタノール)を抽出溶媒として本発明の組成物内のセンダン(栴檀)抽出物を得て、各抽出物の毒性及び効能を比較した。その結果、本発明のセンダン(栴檀)抽出物を、酒精を抽出溶媒にして抽出する場合、酒精の濃度に関係なく全般的に優れた効能を示し、特に酒精含量を30%乃至50%に調整した抽出溶媒を使用して抽出する場合、本発明の効能は維持されながら毒性が大幅に軽減されたセンダン(栴檀)抽出物を確保できることを確認した(実施例9参照)。
【0026】
本発明はツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する痴呆の予防または治療用薬学的組成物を提供する。さらに、センダン(栴檀)抽出物を有効成分として含有する痴呆の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。本発明の組成物はセンダン(栴檀)抽出物、ツーセンダニンまたはこれの薬学的に許容可能な塩0.001乃至99.999重量%及び残量の担体を含む組成を有することができる。
【0027】
本発明に伴うツーセンダニンそのものまたは薬学的に許容可能な塩の形態で使用できる。前記にて“薬学的に許容可能な”とは、生理学的に許容されてヒトに投与した際、一般的に、アレルギー反応又はこれと類似した反応を起こさないことを意味し、前記塩では薬学的に許容可能な遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が好ましい。前記遊離酸は有機酸と無機酸を使用することができる。前記有機酸はこれに制限はされないが、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、ホルム酸、プロピオン酸、オキサル酸、トリフルオロアセト酸、ベンゾ酸、グルコン酸、メタスルホン酸、グリコール酸、コハク酸、4−トルエンスルホン酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸を含む。さらに、前記無機酸はこれに限定はされないが、塩酸、ブロム酸、硫酸及びリン酸を含む。
【0028】
本発明に伴う薬学的組成物はツーセンダニンまたはこれの薬学的に許容可能な塩又はセンダン(栴檀)抽出物を単独で含有するか、または一つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を追加して含有できる。
【0029】
前記にて“薬学的に許容される”とは、生理学的に許容されてヒトに投与された際、活性成分の作用を阻害せず、一般的に、胃腸障碍、眩気症のようなアレルギー反応またはこれと類似した反応を起こさない非毒性の組成物を言う。
【0030】
薬学的に許容される担体には、例えば、経口投与用担体又は非経口投与用担体を追加して含めることができる。経口投与用担体は、ラクトース、澱粉、セルロース誘導体、マグネシウムステアレート、ステアリン酸等を含み得る。さらに、ペプチド製剤に対する経口投与用に使用される多様な薬物運搬物質を含み得る。さらに、非経口投与用担体は水、合したオイル、食塩水、水性グルコール等を含むことができ、安定化剤及び保存剤を追加して含み得る。適した安定化剤には亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはアスコロビン酸のような抗酸化剤がある。適した保存剤にはベンゾアルコニウムコロライド、メチルーまたはプロピルーパラベン及びクロロブタノールがある。本発明の薬学的組成物は前記成分などの他に潤滑剤、湿潤剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤などを追加して含み得る。その他の薬学的に許容される担体には、下記の文献に記載されていることを参考にできる(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 19th ed., Mack Publishing Company, Easton, PA, 1995)。
【0031】
本発明に伴うセンダン(栴檀)抽出物、ツーセンダニン又は薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む薬学的組成物は薬学的に有効な量のセンダン(栴檀)抽出物、ツーセンダニン又はこれの塩を単独で含むか、または一つ以上の薬学的に許容される担体を追加して含むことができる。“薬学的に有効な量”とは陰性対照群に比べて異常反応を示す量を意味し、痴呆を治療又は予防するに十分な量を意味する。痴呆はアルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症、老人性痴呆及び頭部損傷による痴呆でもある。
【0032】
本発明の組成物はヒトを始め哺乳動物にいかなる方法でも投与することができる。非経口的な投与方法ではこれに限定はされないが、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、境膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻孔内、腸管、舌下または直腸内投与でもある。
【0033】
本発明の薬学的組成物は上述のような投与経路によって経口投与用または非経口投与用製剤に製剤化できる。
【0034】
経口投与用製剤の場合に、本発明の組成物は粉末、顆粒、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル剤、シロップ剤、スラリ剤、懸濁液などで当業界に広く知られた方法を利用して製剤化できる。例えば、経口用製剤は活性成分を個体賦形剤と配合し、これを粉砕して適した補助剤を添加した後、顆粒混合物に加工することにより、錠剤または糖衣錠剤を得られる。適した賦形剤の例にはラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール。キシリトール、エリスリトール及びマルチトールなどを含む糖類トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、お米澱粉及び馬鈴薯澱粉などを含む澱粉類、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルーセルロースなどを含むセルロース類、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなどのような充填剤が含まれる。場合によっては架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはナトリウムアルギネートなどを添加できる。本発明の薬学的組成物は抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などを追加して含めることができ。
【0035】
非経口投与用製剤の場合には、注射剤、クリーム剤、ローション剤、外用軟膏剤、オイル剤、保濕剤、ゲル剤、エアロゾル及び鼻腔吸入れ剤の形態で当業界に知られた方法で製剤化することができる。これらの製剤は全ての製薬化学に一般的に、広く知られた処方書である文献( Remington’s Pharmaceutical Science, 15th Edition, 1975. Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania 18042, Chapter 87: Blaug, Seymour)に記載されている。
【0036】
本発明の薬学的組成物の全有効量は単一投与量(single dose)で患者に投与することができ、多重投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(frsctionted treatment protocol)により投与することができる。本発明の薬学的組成物は疾患のていどによって有効成分の含量を異にすることができる。本発明のツーセンダニン又はセンダン(栴檀)抽出物全体の用量は1日当り患者の体重1kg当り約0.01μg乃至500mg、0.1μg乃至100mgでもある。しかしながら、前記ツーセンダニン又はセンダン(栴檀)抽出物の容量は薬学的組成物の投与経路及び治療回数のみならず、患者の年令、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌及び排泄率など、多様な要因等を考慮して患者に対する有効投与量が決まるので、このような点を考慮するに当分野の一般的な知識を有する者であれば前記ツーセンダニン又はセンダン(栴檀)抽出物を、痴呆の予防又は治療剤としての特定の用途に伴う適切な有効投与量を定め得る。本発明に伴う薬学的組成物は本発明の効果を示した一つの製剤、投与経路及び投与方法に制限はない。
【0037】
本発明はツーセンダニンまたはこれの薬学的に許容可能な塩の痴呆の予防または治療剤製造のための使用を提供する。
【0038】
本発明はセンダン(栴檀)抽出物の痴呆の予防または治療剤製造のための使用を提供する。
【0039】
さらに、本発明はツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩を必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする痴呆の予防または治療方法を提供する。
【0040】
さらに、本発明はセンダン(栴檀)抽出物を必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする痴呆の予防または治療方法を提供する。
【0041】
本発明のツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩、センダン(栴檀)抽出物を有効量で経口、経皮、皮下、静脈又は筋肉を含む多様な経路を通じて投与できる。前記にて“有効量”とは、患者に投与した際、痴呆の治療効果を表わす量を意味する。
【0042】
前記“個体(subject)”とは、動物、哺乳動物、特にヒトを含む動物でもあって、動物から由来した細胞、組織、器官でもある。前記個体は治療が必要な患者(patient)でもある。
【0043】
前記本発明のセンダン(栴檀)抽出物、ツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩そのものを投与するか、又は上述したような多様な製剤で製造されて投与することができ、望む効果、つまり痴呆の治療効果が導出されるまで投与できる。
【0044】
従って、本発明のセンダン(栴檀)抽出物またはツーセンダニンまたはこれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する薬学的組成物、これの用途及び痴呆の予防または治療方法は痴呆の予防または治療に効果的である。特に、本発明の組成物、用途又は方法はAβ生成抑制作用及び神経細胞保護効果を示すAPPα生成促進を誘導する作用が優れて、アルツハイマー病のような痴呆の予防またに優れた効能を有する。本発明のセンダン(栴檀)抽出物又はツーセンダニンを有効成分として含む組成物、これの用途及び痴呆の予防または治療方法を痴呆が発生したか、若しくは発生し易い年令のヒトを対照にした予防又は治療用医薬品の製造など多様な分野に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明に伴うツーセンダニン及びこれを含有した天楝子抽出物及び分画を得る過程を示した図式。
【図2】図2はツーセンダニン及びこれを含有した天楝子抽出物などのAPP代謝物であるAPPαとAPPβの生成に及ぼす影響をウェスタンブロットで測定した結果である(control,c:抽出物未処理対照群;MeOH:天楝子メタノール抽出物処理群)。
【図3】図3は苦楝皮抽出物などのAPP代謝物であるAPPβの生成に及ぼす影響をウェスタンブロット測定した結果である(EtOH:苦楝皮エタノール抽出物処理群;MeOH:苦楝皮メタノール抽出物処理群;EA:苦楝皮エチルアセテート抽出物処理群;Hexane:苦楝皮n−核酸抽出物処理群;C:抽出物未処理対照群)。
【図4】図4はBACE1及びスエーデン突然変異(Swedish mutation)されたAPP695を過発現するCHO細胞株から天楝子酒精抽出物を処理する際、Aβ40の生成抑制可否を調べるために、Aβ40定量キットでAβ40の量を測定した結果のグラフ。
【図5】図5は痴呆のねずみのY字状迷路の試験で天楝子酒精抽出物の記憶改善効果を調べるために、自発的交叉行動量(alternation behavior,%)を比較測定したグラフである(%Alternation:交叉行動量(%); Vehicle:抽出物無しで10%ラブラソルのみを投与した対照群;天楝子酒精抽出物投与群)。
【図6】図6は痴呆のねずみの水中迷路の試験で天楝子酒精抽出物の記憶改善効果を調べるために、プラットホームを探す時間を比較測定した結果のグラフ(脱出時間)(Escape latency time)(s):プラットホームを探すのにかかる時間(秒); Vehicle:抽出物無しで10%ラブラソルのみを投与した対照群;天楝子:天楝子酒精抽出物投与群)。
【図7】図7は痴呆のねずみの受動回避試験で天楝子酒精抽出物の記憶改善効果を調べるために、暗い部屋へ入るのにかかる時間を測定した結果のグラフ(待機時間(Retention Latency time)(s): 暗い部屋へ入るのにかかる時間(秒); Vehicle:抽出物無しで10%ラブラソルのみを投与した対照群;天楝子:天楝子酒精抽出物投与群)。
【図8】図8は天楝子酒精抽出物投与により痴呆のねずみの脳組織でAβ40の生成の抑制可否を調べるために、Aβ40定量キットでねずみの脳組織でのAβ40の量を測定した結果のグラフ。
【図9】図9はツーセンダニンを投与したラットの血液からAβ40の生成が抑制されるか、否かを調べるために、Aβ40定量キットでラットの血漿でのAβ40の量を測定した結果のグラフ(Vehicle:ツーセンダニン無しで20%酒精のみを投与した対照群;天楝子:5mg/kg:ツーセンダニンをそれぞれ5mg/kg,50mg/kgで投与した試験群)。
【図10】図10は抽出溶媒に伴う本発明組成物のAPPβ生成抑制又はAPPα生成促進効能変化をウェスタンブロットで比較した結果写真(100%酒精乃至30%酒精:各%の比率で酒精が水に混合された混合溶媒でセンダン(栴檀)から抽出した抽出物を使用した群;C:抽出物未処理対照群)。
【図11】図11は抽出溶媒に伴う本発明組成物のAPPβ生成抑制効能の変化を測定した結果のグラフ(100%酒精乃至50%酒精:各%の比率で酒精が水に混合された混合溶媒でセンダン(栴檀)から抽出した抽出物を使用した群)。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
ただし、下記実施例は本発明を例示することであるのみ、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
天楝子及び苦楝皮の抽出及び分画
細かく粉砕した天楝子(乾燥重量10kg)を50Lのメタノールに3日間入れておく方法で抽出した。この過程を2回繰返して抽出液を回収して濾過及び減圧濃縮した。得られた濃縮物に10Lの水を加えて懸濁し、同一嵩のエチルアセテートを添加して撹拌し、静置してエチルアセテート溶媒分画を回収して減圧濃縮した。エチルアセテート濃縮物をさらに分画するために、90〜95%メタノール(5〜10%水)10Lとn−核酸10Lを添加して撹拌後静置して90〜95%メタノール分画を回収して減圧濃縮した。抽出及び分画過程で得た各分画は活性分析に使用され、活性成分の分離前まで4℃に保管した。苦楝皮も同一な方法で抽出して溶媒別に抽出物を確保した。
【0048】
実施例2
天楝子細部分画物から活性成分分離
前記実施例1で確保した90〜95%メタノール分画濃縮物から活性成分を分離した。濃縮物はシリカレジン(60 mesh)において100%ジクロロメタンから始めてメタノールを漸進的に増量しながら最終に100%メタノールを使用して8個の細部分画に分画し、これらの内で活性がある3個の分画(ジクロロメタン:メタノール−25:1,10:1.5:1)を確保した。活性が最も高い25:1分画の濃縮物をオクタデシリル化したシリカレジン(Biotage FLASH+TM system,C18HS 25+M,60Å,40−63μm,FPK0−1107−16046,10ml/min)でMeOHの濃度を15%から100%に段階別に増量させ、分画して活性調査結果活性を示す分画である35%及び50%分画を確保した。この活性分画をMeOHの濃度(30〜100%)だけを異にして同一実験で再分画して活性分画(40〜60%)を確保し、これを濃縮してアセトニトリル(acetonitrile)と水の混合溶媒を分離溶媒(acetonitrile 48%)とし、オクタデシリル化したシリカレジン(YMC−pack,ODS−A,150×10mm i.d.,120Å,S−5μm.AA12S05−1510WT)を使用した高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)より4mlの流速で活性成分を純粋分離した(図1参照)。
【0049】
純粋分離された活性成分は核磁器共鳴分光法(NMR spectroscopy)及び質量分析法(mass spectroscopy)で構造分析及び分子量決定を通じて化学式1のツーセンダニンを確認した。
【0050】
実施例3
天楝子酒精抽出物内ツーセンダニン含量測定
天楝子酒精抽出物を対象に効能試験を進行するため、指標及び合成成分で天楝子酒精抽出物内ツーセンダニンの含有量を確認した。分析条件として0.05%TFA(trifluoroaceticacid)を含有する30%アセトニトリル(acetonitrile)を溶出溶媒に使用し、カラムはオクタデシリル化したシリカレジン(YMC−pack,ODS−A,150×10mm I.d.,S5μm)を利用したHPLCから分当り1mlの流速及び214nmの波長でツーセンダニンを分析した。購入したツーセンダニン標準品を適切な濃度に希釈して濃度別面積値を測定し、これを基準に標準品のクロマトグラムを面積対濃度比の絶対減量線をひいて、直線性が0.999になることを確認して定量に利用した。ツーセンダニンは自然界内で異性質体で混在していて、前記の分析条件でそれぞれ15.7及び20.6分で検出された。さらに、正確な定量のため天楝子エタノール抽出物を蒸留水に懸濁してエチルアセテートで溶媒分画した後、これを濃縮して分析に利用した。この検量線に代入して定量した結果、天楝子酒精抽出物内ツーセンダニンは約1.15%の含量で存在することを確認した。
【0051】
実施例4
天楝子酒精抽出物の細胞毒性測定
細胞毒性はMTT法で測定した。細胞株はAPPβ生成抑制試験に使用するための、HEK293由来のBA−3細胞株(Yeon et al,Peptides,2007,28:838−844)とヒトの血液癌細胞株であるHL60及びヒトの肝がん細胞株であるHepG2を使用した。96−well plateに 1×104 /90ul/wellの濃度で細胞を分株して1日間培養後DMSOに溶解した各物質を、最終濃度が1%になるように培養液で希釈して各細胞株に処理して3日間培養した。培養後顕微鏡で細胞の状態を観察して MTT[3−(4,5−dimethylthiazol−2yl)−2,5−diphenyl−2Htetrazolium bromide,5mg/ml in PBS]溶液を各well当り15ulずつ添加して37℃で4時間反応させ、well当り100ulのlysis buffer(0.01N HCl,10% SDS)を処理して形成されたホルマザン(formazan)が完全に溶解されるように37℃で24時間放置後570/652nmで吸光度を測定した。
【0052】
その結果、天楝子酒精抽出物はBA−3に処理最高濃度である100ug/mlでも細胞毒性は示されなかったが、若干の細胞成長抑制効果を誘導した。天楝子酒精抽出物を処理したHepG2とHL60は顕微鏡観察結果、細胞毒性は示されなかったが細胞成長を抑制した。天楝子抽出物が各細胞の成長を50%抑制する濃度はそれぞれ3.2ug/ml及び34ug/mlであった。
【0053】
実施例5
細胞で天楝子抽出物及びツーセンダニンのアミロイド前躯蛋白質(APP)代謝抑制効果分析
5−1 APPβ生成抑制効果
BACE1(β−secretase)及びAPP695が過発現されるHEK293由来のBA−3細胞株が、6−well plateの各well当り80%以上の面積を占めるように10%牛胎児血清(fetal havin serum,FBS)が含まれたDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)を用いて分株して1日間培養した。培地を除去して牛胎児血清がないfree DMEMを37℃に加熱して各wellに0.9mlを入れて、0.1mlのfree DMEMにツーセンダニン又は各溶媒で抽出した天楝子分画を適正濃度に希釈して処理後、24時間培養した。各試料が処理された培地0.2mlを回収して8%SDS−PAGE(polyacrylamide gel electrophoresis)に電気泳動した後、APPα及びAPPβの抗体であるAB1560(monoclonal)及びRb53(polyclonal)抗体を使用してウェスタンブロットで培養液内のAPPα及びβ量を測定した。
【0054】
その結果、天楝子メタノール、酒精、エチルアセテート抽出物はAPPβの生成を抑制し、APPαの生成は促進することを確認した。酒精抽出物の希釈濃度別APPβの生成抑制及びAPPαの生成促進効果の試験結果、6.26ug/ml濃度で処理する場合、非処理群(Control,100%)対比APPβの生成は27.7%に減少し、APPαの生成は131.3%に増加するなど、APPβの場合処理最低濃度の0.05ug/ml以下でも濃度依存的な抑制効果を示し、これとは逆にAPPαの生成は促進することを確認した。純粋分離したツーセンダニンも12.5nM以下でもAPPβの生成を抑制する反面、APPαの生成は促進(0.8nMで非処理群対比APPβは17.8%に減少、APPαは14.5%に増加)するものとして示され、Aβ生成を促進するAPP代謝を極めて強く抑制する物質であることが分かる(図2参照)。
【0055】
センダン(栴檀)の樹皮である苦楝皮抽出物も天楝子と同一な有機溶媒抽出条件で酒精、メタノール、エチルアセテート及び90%メタノール抽出物を確保し、これを対象にAβ生成減少効果を調査した。その結果、天楝子抽出物よりは弱いが抽出物全て12.5〜6.25μg/mlでAPPβ生成減少効果を示した(図3参照)。
【0056】
5−2 天楝子抽出物のAβ生成抑制効果
BACE1(GenBank accession No;AF190725)及びスエーデン突然変異(Sweddish mutation)APP695(GenBank accession No;MIM:104760.008)遺伝子をそれぞれpcDNA3.1/myc−His(Invitrogen,USA)とpcDNA3.1/Hygro(Invitrogen,USA)ベクタに入れ、CHO細胞株に導入してBACE1及びスエーデン突然変異APP695蛋白質を過発現する細胞株を利用して天楝子抽出物がAβ40の生成を抑制するかを試験した。前記CHO細胞株を6−well plateの各well当り適切な数で10%牛胎児血清が含まれたDMEMを使用、分株して1日培養した。培地を除去した後、牛胎児血清がないfree DMEMを37℃に加熱して各wellに0.9mlを入れ、0.1ml free DMEMにツーセンダニン含有天楝子抽出物を適正濃度に希釈して処理後、24時間培養後培地を分離してBioSource社(CA,USA)のAβ40定量キット(Humanβ Amyloid(1−40)colorimetric ELISA kit,BioSource,CA)で定量した。
【0057】
その結果、10ug/ml以下の天楝子酒精抽出物から50%以上のAβ40生成抑制効果を観察した(図4参照)。
【0058】
実施例6
天楝子酒精抽出物の毒性試験
ツーセンダニンを含有した天楝子酒精抽出物を経口投与の際、毒性誘発可否を確認するため単回毒性及び4週繰返し投与毒性試験を行った。
【0059】
単回毒性は6週令雄ICRマウス5匹ずつをそれぞれ一つの群として、天楝子酒精抽出物を経口で750〜3,000mg/kgで単回投与後2週間生存可否をしらべて、実験動物を剖検により腸器異常所見を観察した。1,500mg/hg以上投与の際一部のマウスが斃死して毒性があったが、1,000mg/kg以下では斃死せず腸器異常所見もなかったので毒性がないものと判断された。
【0060】
繰返し投与毒性は6週令の雄ICRマウス6匹ずつをそれぞれ一つの群にして、天楝子酒精抽出物を経口で 125〜1,000mg/kgで毎日1回ずつ26日間繰返し投与しながら体重変化、一般症状及び生存可否を調べて条件動物を剖検により腸器異常所見を観察した。実験結果、最大耐性容量(MTD)は 750〜1,000mg/kg,無毒性量(NOAEL)は500mg/kgに確認された。
【0061】
実施例7
痴呆動物モデルで天楝子酒精抽出物の記憶力及び認知機能改善効果
天楝子酒精抽出物を10%ラブラソルに懸濁してスエーデン変異(Swedish mutation)が起きた変異アミロイド前躯蛋白質(APP)を生産するように形質転換された痴呆ねずみに300mg/kg(経口投与、週5回、6匹)で3ヶ月間繰返し投与後、Y字状迷路(Y maze)、水中迷路(water maze)及び受動回避(passive avoidance)試験を行い、ビヒクル群(10%labrasol投与群、5匹)と比べて記憶改善効果があるかを分析した。
【0062】
7−1. Y字状迷路試験
試験は3つの通路(arm)を延ばしてアルファベットY字状をなしており、各枝の長さ25cm、高さ14cm、幅 5cmで同一な角度で設けられY字状迷路測定装置を利用して行った。Y字状迷路の一つの通路の端に実験動物の頭部が向かうようにして、8分間自在に通路を歩き回るようにした。痴呆鼠の後脚まで通路に入った場合を通過したものと(arm entry)見なす方法で動きを交叉回数(alternation)で記録し、連続的に3つの通路を通過した時を実際交叉回数(actual alternation)として1点を与えて実際交叉回数を最大可能な交叉回数(つまり、全交叉回数から2を引いた値)の百分率で算出した自発的な交叉行動量(alternation behavior,%)を求めた。
【0063】
その結果、ツーセンダニンが含有された天楝子酒精抽出物投与群の自発的交叉行動量は62.6±3.1%であり、ビヒクル(vehicle,10% labrasol)投与群は53.9±3.4%に測定され、天楝子酒精抽出物投与の際、95%以上の信頼度(p<0.05)で約16.1%の記憶改善効果を示すことを確認した(図5参照)。
【0064】
7−2 水中迷路試験
水中迷路試験中参照記憶(reference memory)試験は試験開始1日前にプラットホームがない水槽で60秒間自在に水泳をさせて適応させた後で行った。試験は5日間毎日 4〜5回水に浸されているプラットホームにたどり着くまでの時間(escape latency,単位;秒)を測定する方法で行い、最大許容時間は60秒に制限した。試験2日目まではプラットホームの位置を探せないと制限時間である60秒以内にプラットホームを探すように導きプラットホームに上がれば10秒間とどまるようにした。
【0065】
参照記憶の試験が終了して24時間後、水槽内のプラットホームを取り除き60秒間自在に水泳をさせて、プラットホームがあった位置にとどまる時間を測定する方法で探針検査(probe test)を行った。
【0066】
その結果、参照記憶の試験ではビヒクル投与群は試験期間中水槽を探す時間の改善がなかったが、天楝子酒精抽出物投与群は試験2日目からビヒクル投与群よりもプラットホームを早目に捜し出して試験4日目に最大の差を示した(図6参照)。探針検査では天楝子投与群のプラットホームがあった場所にとどまった比率が33.0±3.2%、ビヒクル投与群の14.o±5.8%よりも統計的に有意性をもって2.35倍(p<0.05)以上とどまるものと示された。
【0067】
7−3 受動回避試験
受動回避試験の実験装置は仕切りドア(guillotine door)で二つの区画に区分されたシャトルボックス(shuttle box)を利用して行った。片側の区画は照明で明るくし、他方の区画は照明無しに黒い布で覆って暗くした。初日、痴呆鼠を明るい部屋に入れて30秒の探索時間を与えた後、仕切りドアを開けて暗い部屋に入るようにして暗い部屋に入るまでの時間(acquisition latency time)を測定し、暗い部屋に入ると仕切りドアを閉めて格子状床を通じて0.5mAの電気衝撃を3秒間加えて鼠が電気刺激を記憶するようにした。24時間後痴呆鼠を明るい部屋に入れて30秒の探索時間を与えた後、仕切りドアを開けて暗い部屋に鼠の脚全部が入るまでにかかる時間(retention latency time)を最大で300秒まで測定した。Retention latency timeが長いほど学習を通じた受動回避に対する記憶が維持されるものと判断した。
【0068】
電気刺激学習後暗い部屋に入る時間測定結果天楝子酒精抽出物投与群は288.8±9.2秒で、ビヒクル投与群は131.8±59.6秒で天楝子投与群が95%以上の信頼度で220%以上受動回避に対する記憶改善効果を示した(図7参照)。これで本発明の組成物は痴呆による記憶力及び認知機能低下治療に卓越な効能があることを確認した。
【0069】
実施例8
天楝子酒精抽出物及びツーセンダニンの生体内Aβ抑制効果
8−1 形質転換痴呆鼠での天楝子酒精抽出物のAβ抑制効果
記憶試験が終わった後、形質転換痴呆鼠の脳を摘出及び抽出して脳組織内Aβの変化を測定した。摘出した脳の重さを測定して重さ対比冷却した8倍嵩の溶液A(5M guanidine HCl,50mM Tris HCl)を添加し、ホモゲナイザーで脳組織をすり砕いて均質化した後、室温で3〜4時間放置後、遠心分離(16,000×g,20分、4℃)して上澄液を回収する方法で脳組織を抽出した。回収した上澄液を溶液B(Phsophate buffered saline,5% BSA,0.03% Tween−20,pH7.4,protease inhibitor cocktail)で3,200倍に希釈してBioSource社(CA,USA)のAβ40定量キットを利用してAβ40を定量した。
【0070】
その結果、3,200倍に希釈して測定した脳組織の重さ対比Aβ40の測定値がビヒクル投与群では、362.5±20.7pg/mlである反面天楝子酒精抽出物投与群では、111.9±84.6pg/mlで天楝子酒精抽出物投与により69%ほどAβ40が減少した(図8参照)。
【0071】
8−2 Ratを利用したツーセンダニンのAβ抑制効果
ツーセンダニン投与前に血液を確保し、以降5及び50mg/kg容量でツーセンダニンを20%酒精に懸濁して経口投与した2時間後、血液を採り投与前後の血液内のAβ濃度の変化を測定した。回収された血液を遠心分離(16,000×g,20分、4℃)して回収された血漿内Aβ40をAβ40定量キット(Mouse/Rat Amyloidβ(1−40)High Specific Assay Kit,IBL,Japan)を利用して定量した。
【0072】
その結果、ビヒクル投与群は投与前と比べて投与後約40%ほどAβ40が増加する傾向を示したが、統計的に有意性を示さない反面ツーセンダニン5mg/kg投与の際、投与前と比べてAβ40が85%以上抑制されることを確認し、このような結果から推してみるにより低い容量投与の際にもAβ40の生成が抑制されることと予想される(図9参照)。これで本発明の組成物はAβの生成を抑制して痴呆の予防又は治療に優れた効能があることを確認した。
【0073】
実施例9
抽出溶媒に伴う毒性及び効能実験
本発明の組成物の効能が維持されながら毒性が最も低い抽出物を得るため、抽出溶媒の酒精含量の差を異にする天楝子を抽出して毒性及び効能試験を行った。
【0074】
9−1 天楝子酒精抽出物製造
粉砕した天楝子10kgを50Lの100%,70%,50%, 及び30%の酒精に3日間入れて抽出し、濾過及び減圧濃縮後凍結乾燥して天楝子酒精抽出物を得た。
【0075】
9−2 天楝子酒精抽出物の繰返し毒性試験
6週令雄ICRマウス各6匹ずつを一つの群にしてビヒクル1群及び酒精濃度別各3群ずつを準備した。
【0076】
前記実施例9−1で得た天楝子酒精抽出物を賦形剤である10%ラブラゾル(labrasol, Gate Fosse Inc.,フランス)に溶解して1日1回マウスに経口投与した。各濃度別酒精抽出物を1000,1500,2000mg/kgの容量になるように各群ごとに投与した。
【0077】
一般症状は、投与当日投与後6時間まで1時間おきに観察し、投与1日後から毎日1回一般症状を観察、記録した。週2回体重測定日に合わせて動物体重をはかり、投与終了後1夜絶食させた動物から採血して血液生化学検査を行った。採血が終わった動物は剖検を行い主要臓器の異常の有無を観察した。
【0078】
各群当たり動物の測定日別平均体重と斃死有無を記録して、試料の最大耐性容量(MTD)及び無毒性量(NOAEL)を求めた。対照群と投与群との平均体重及び血液生化学数値に差があるかを調査するため、多重比較法であるdunnett’s testを行い、検定の棄却域は5%に決めた(*P<0.05)。
【0079】
最大耐性容量(maximal tolerance dose,MTD)は試験物質を試験動物に投与した際、対照群に比べて10%以内の体重増加抑制又は上昇を示しながら、斃死に影響を及ぼさない毒性症状が示されることと期待される最小容量を意味する。無毒性量(observable adverse effect level, NOAEL)は毒性試験において投与物質の有害な影響を長期的に及ぼさない最大の露出量を意味する。
【0080】
その結果、下記表1に示した通り、酒精含量を下げて抽出するほど無毒性量は比例して増加し、30%酒精抽出物では投与最大容量である2,000mg/kgでも毒性が発見されないことを確認した。
【0081】
【表1】

【0082】
9−2 天楝子酒精抽出物の抽出溶媒種類別効能比較実験
前記実施例9−1で得た天楝子酒精抽出物のAPPβ生成減少効果、APPα生成促進効果及びAβ生成抑制効果を実施例5と同一な方法で測定した。
【0083】
その結果、図10に示した通り、抽出溶媒を酒精100%、70%、50%、及び30%にして抽出した本発明のセンダン(栴檀)抽出物のAPPβ生成減少効果及びAPPα生成促進効果は全て差がなく優れたことを確認した。さらに、図11に示した通り、Aβ抑制効果は酒精30%で抽出する場合、14%ほど効能が減少するが全体的に優れたことを確認した。
【0084】
これで本発明のセンダン(栴檀)抽出物酒精を抽出溶媒にして抽出する場合、酒精の濃度に関係なく全般的に優れた効能を示し、特に酒精含量を30%乃至50%に調整した抽出溶媒を使用して抽出する場合、本発明の効能は維持されながら毒性が大幅に軽減されたセンダン(栴檀)抽出物を確保することができることを確認した。
【0085】
本発明の化合物を含む薬学的組成物の製剤例を説明するが、本発明はこれを限定するためでなく、ただ具体的に説明するためである。
【0086】
製剤例1.散剤の製造
天楝子抽出物 20mg
乳糖 100mg
タルク 10mg
上記の成分等を混合して機密包に充填して散剤を製造した。
【0087】
製剤例2.錠剤の製造
天楝子抽出物 10mg
トウモロコシ澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記の成分等を混合して通常の製造方法により打錠して錠剤を製造した。
【0088】
製剤例3.カプセル剤の製造
苦楝皮抽出物 10mg
結晶性セルロース 3mg
ラクトース 14.8mg
ステアリン酸マグネシウム 0.2mg
通常のカプセル剤の製造方法により前記の成分を混合してゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0089】
製剤例4.注射剤の製造
ツーセンダニン抽出物 1mg
マンニトール 180mg
注射用滅菌蒸留水 2793mg
Na2 HPO4 12H2 O 26mg
通常の注射剤の製造方法により1アンプル当り(2ml)前記の成分含量で製造した。
【0090】
製剤例5.液剤の製造
ツーセンダニン抽出物 2mg
異性化糖 10g
マンニトール 5g
精製水 適量
通常の液剤の製造方法により精製水にそれぞれの成分を加えて溶解させレモンの香りを適量加えて、前記の成分を混合して精製水を加え、全体を精剤水を加えて全体を100mlに調節した後、褐色ビンに充填して滅菌させて液体を製造する。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上察した通り、本発明のセンダン(栴檀)抽出物又は、ツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する薬学的組成物、これの使用及び痴呆の予防又は治療方法は痴呆の予防又は治療に効果的である。特に、本発明の組成物、使用又は方法はAβ生成抑制作用及び神経細胞保護効果を示すAPPα生成促進を誘導する作用が優れ、アルツハイマー病のような痴呆の予防又は治療に優れた効能を有する。本発明のセンダン(栴檀)抽出物又はツーセンダニンを有効成分として含む組成物、これの使用及び痴呆の予防又は治療方法は痴呆が発生したか、又は発生し易い年令のヒトを対象にした予防又は治療用医薬品製造等、多様な分野で利用することができて産業上利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表示されるツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する痴呆の予防又は治療用薬学的組成物。
【化2】

【請求項2】
前記痴呆はアルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症、老人性痴呆及び頭部損傷による痴呆からなる群より選ばれた一つ以上の疾患である第1項記載の組成物。
【請求項3】
下記化学式1で表示されるツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩の痴呆の予防又は治療剤製造のための使用。
【請求項4】
下記化学式1で表示されるツーセンダニン又はこれの薬学的に許容可能な塩を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする痴呆の予防又は治療方法。
【請求項5】
センダン(栴檀)抽出物を有効成分として含有する痴呆の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記センダン(栴檀)は、センダン(栴檀)の根皮又は樹皮(苦楝皮)、又は実(天楝子)であることを特徴とする第5項記載の組成物。
【請求項7】
前記抽出物はエチルアセテート又は水、炭素数1乃至4の低級アルコール又はこれらの混合溶媒を使用して抽出した抽出物であることを特徴とする第5項記載の組成物。
【請求項8】
前記痴呆はアルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症、老人性痴呆及び頭部損傷による痴呆からなる群より選ばれた一つ以上の疾患である第5項記載の組成物。
【請求項9】
センダン(栴檀)抽出物の痴呆の予防又は治療剤製造のための使用。
【請求項10】
センダン(栴檀)抽出物をこれを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする痴呆の予防又は治療方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図4】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−530698(P2012−530698A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515994(P2012−515994)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003971
【国際公開番号】WO2010/147434
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511301913)イルドン ファーム カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】