説明

ティルティングパッド軸受

【課題】簡単な構成で潤滑油のパッド面への所望供給量を確保し、もって所望の潤滑性能を確保する。
【解決手段】回転軸2の周りに傾斜自在に配置される複数の軸受パッド15と、該軸受パッド15を背面から保持するパッドハウジング11と、回転軸2が各貫通孔17,17に挿通された状態で軸受パッド15の両端に設けられる一対のサイドプレート16A、16Bと、を備え、各サイドプレート16A、16Bの少なくとも一方には軸受パッド15の背面に相当する位置に潤滑油を外部に排出する排油孔が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティルティングパッド軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
高速回転体を安定支持する軸受としてティルティングパッド軸受が用いられている。このティルティングパッド軸受は、回転軸の周りに傾斜自在に複数配置されたパッドによって回転軸を支持するものである。また、このティルティングパッド軸受は、上記パッドを背面から保持するパッドハウジング、パッドの両端に設けられた一対のシールプレート及び回転軸によって形成される略閉塞空間に潤滑油を供給することにより、回転軸とパッドとの間に油膜を形成して潤滑性を確保する油浴型と回転軸とパッドの間に潤滑油を直接給油することで、回転軸とパッドとの間に油膜を形成して潤滑性を確保する直接潤滑型がある。油浴型の場合、構造がシンプルであり、一般的に広く使われている。一方、直接潤滑型は、油浴型に比べ冷却性能が高く、パッド面での焼付きが起きにくい利点があるが、パッド面への十分な給油量を確保するため、その給油方法が複雑なものとなる。
下記特許文献1、2には、直接潤滑型ティルティングパッド軸受の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3637187号公報
【特許文献2】特開2004−197890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、油浴型ティルティングパッド軸受では、パッドを背面から保持するパッドハウジングに給油路を構築し、パッド間に給油孔を設けるのが一般的である。油浴型と同一パッドハウジングを直接潤滑軸受型ティルティングパッド軸受へ転用する場合、給油孔が潤滑油で浸ることで油面抵抗が大きくなり、パッド面へ必要量給油することが困難となる。そのため、別途、直接パッド面へ給油する方法が必要とされた。
【0005】
特許文献1で示されるパッド表面に給油孔を設ける形態や特許文献2で示されるパッドハウジング給油孔にノズルを設けてパッド面近傍で給油するなどの手法によりパッド面に潤滑油を直接給油する方法が挙げられる。しかしながら、これらの場合、各部品が小さく、給油装置を設けるスペースが無い小型機への適用が困難であり、また、部品数や加工工数が増加するという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で潤滑油のパッド面への所望供給量を確保し、もって所望の潤滑性能を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、回転軸の周りに傾斜自在に配置される複数の軸受パッドと、該軸受パッドを背面から保持するパッドハウジングと、前記回転軸が貫通孔に挿通された状態で前記軸受パッドの両端に設けられる一対のサイドプレートと、を備え、サイドプレートの少なくとも一方には軸受パッドの背面に相当する位置に潤滑油を外部に排出する排油孔が設けられる、という手段を採用する。
【0008】
第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、排油孔は貫通孔と一体化された状態で形成されている、という手段を採用する。
【0009】
第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、軸受パッドに潤滑油を供給する給油路を複数備え、排油孔は各給油路に対応して設けられる、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サイドプレートの軸受パッドの背面に相当する位置に潤滑油を外部に排出する排油孔が設けられるので、パッドハウジング給油孔に潤滑油の油溜まりが形成されない。したがって、本発明によれば、簡単な構成で潤滑油のパッド面への所望供給量を確保することが可能であり、よって所望の潤滑性能を確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るティルティングパッド軸受の一部を破断した正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るティルティングパッド軸受及び当該ティルティングパッド軸受が装着されたターボ圧縮機(回転機械)の要部断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るティルティングパッド軸受の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るティルティングパッド軸受10は、ターボ圧縮機1(回転機械)の回転軸2を支持するものである。上記回転軸2には、ティルティングパッド軸受10に加えてエアシール3及びオイルシール4が挿入状態で設けられており、また回転軸2の一端(図1の左側端)には増速ギア5が接続され、他端にはインペラ6が装着されている。すなわち、回転軸2には、後端側から順に増速ギア5、ティルティングパッド軸受10、オイルシール4、エアシール3及びインペラ6の順で各々が装着されている。
なお、以下の説明では、周方向、径方向等の方向を示す用語は、回転軸2の軸線方向を基準とするものである。
【0013】
ティルティングパッド軸受10は、図2に示すように、2分割構造のパッドハウジング11の中心部に、回転軸2の周りを取り囲むように、かつ、各々に傾斜自在に配置された5個の軸受パッド15と、これら軸受パッド15を背面から保持するパッドハウジング11と、回転軸2が各貫通孔17、17に挿通された状態で軸受パッド15の両端(回転軸2の軸線方向における両端)に設けられる一対のサイドプレート16A,16Bから構成されている。
【0014】
パッドハウジング11の内部には、軸受パッド15を外側から取り囲むように環状の油供給溝18が設けられている。油供給溝18には、パッドハウジング11に設けられた軸受潤滑油入口19により外側から潤滑油が供給されると共に、周方向に並んで複数個設けられた給油孔20により、軸受パッド15の周囲に潤滑油が供給される。給油孔20は、隣接する軸受パッド15の間に位置するように各々設けられ、潤滑油が軸受パッド15の背面及び側面を経て軸受パッド15のパッド面(回転軸2との摺動面)に供給される。
【0015】
また、図2に示すように、油供給溝18の側面は一方のサイドプレート16Bによって覆われており、これによって潤滑油の流路が形成されている。さらに、図1に示すように、パッドハウジング11とサイドプレート16A、16Bは、それぞれ回転軸2を挟んで2分割された構造であり、互いに分離しないようにボルト21で結合されている。
【0016】
軸受パッド15は、リングを周方向に所定角度で分割したセグメント形状を有している。図2に示すように、軸受パッド15の両側面には外側へ突出するピボット25が設けられている。このピボット25は、径方向中心側がサイドプレート16A,16Bの着座部26により支持されているので、軸受パッド15は、ティルティング可能(傾斜自在)となっている。
【0017】
また、図1に示すように、軸受パッド15の外周側には穴27が形成されている。この穴27にパッドハウジング11を通して径方向外側から内側へ挿入された位置決め固定ピン28の先端が挿入されることにより、軸受パッド15は、回転軸2の周方向に移動することが規制されている。
【0018】
さらに、本ティルティングパッド軸受10では、各サイドプレート16A,16Bに設けられた各貫通孔17、17から径方向外側に向かって放射状の切り欠き30が排油孔として複数設けられている。この切り欠き30は、各サイドプレート16A,16Bに対して給油孔20と同じ数だけ設けられ、また給油孔20と対向した位置に設けられている。切り欠き30の先端、つまり径方向において最も外側の端部は、軸受パッド15の背面よりも多少先に位置している。すなわち、この切り欠き30は、各貫通孔17、17と一体化された状態で軸受パッド15の背面に延在するように形成されている。
【0019】
このように構成されたティルティングパッド軸受10では、軸受潤滑油入口19、油供給溝18及び給油孔20を経て軸受パッド15の周囲に供給された潤滑油は、軸受パッド15と回転軸2との間に供給されて軸受パッド15を潤滑させる。
【0020】
ここで、軸受パッド15の背面、すなわち径方向外側に供給された余分な潤滑油は、図2に矢印で示すように、切り欠き30(排油孔)を通じて軸受パッド15の背面近傍から各サイドプレート16A,16Bの外へ排出される。すなわち、本ティルティングパッド軸受10によれば、切り欠き30(排油孔)を介して軸受パッド15の背面近傍から潤滑油が外部に排出されるので、極めて簡単な構成で軸受パッド15の背面における潤滑油の油溜まりの発生を抑制することができる。
【0021】
また、潤滑油を積極的に排出すると、軸受パッド周囲に対するかき混ぜ損失が低減する。したがって発熱が抑えられ、潤滑油の温度が低下するため、潤滑油の供給量を逆に減らすことができるという効果も得ることができる。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上述した切り欠き30に代えて、図3に示すような排油孔32、32を各サイドプレート16A,16Bに設けても良い。すなわち、各排油孔32、32は、各貫通孔17、17に対して独立した丸穴であり、給油孔20と同じ数、また各給油孔20と対向した位置で給油孔20に開口するように設けられている。排出孔32の孔形状は、丸穴に限定されるものではなく他の形状であっても良く、全ての各排油孔32、32の形状が同じ形状である必要も無い。
【0023】
(2)上記実施形態及び変形例において、各切り欠き30、30あるいは各排油孔32、32から排出された潤滑油が不要な部位(例えば隣接する増速ギアやオイルシール等)へ過度に流出するのを防止するため、排出された潤滑油を案内するガイド部材をサイドプレート16A,16Bの外側に設けても良い。
【0024】
(3)上記実施形態及び変形例では、各サイドプレート16A,16Bの両方に対して同じように各切り欠き30、30あるいは各排油孔32、32を設けたが、各サイドプレート16A,16Bに対して異なる配置(非対称に)に各切り欠き30、30あるいは各排油孔32、32を設けても良い。また、各サイドプレート16A,16Bの一方にのみに各切り欠き30、30あるいは各排油孔32、32を設けても良い。
【符号の説明】
【0025】
1…ターボ圧縮機、2…回転軸、5…増速ギア、10…ティルティングパッド軸受、11…パッドハウジング、15…軸受パッド、16A…サイドプレート、16B…サイドプレート、17、17…貫通孔、20…給油路、30、30…切り欠き、32、32…排油孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の周りに傾斜自在に配置される複数の軸受パッドと、
該軸受パッドを背面から保持するパッドハウジングと、
前記回転軸が貫通孔に挿通された状態で前記軸受パッドの両端に設けられる一対のサイドプレートと、を備え、
前記サイドプレートの少なくとも一方には、前記軸受パッドの背面に相当する位置に潤滑油を外部に排出する排油孔が設けられることを特徴とするティルティングパッド軸受。
【請求項2】
前記排油孔は、前記貫通孔と一体化された状態で形成されることを特徴とする請求項1に記載のティルティングパッド軸受。
【請求項3】
前記軸受パッドに潤滑油を供給する給油路を複数備え、前記排油孔は各給油路に対応して設けられることを特徴とする請求項1または2に記載のティルティングパッド軸受。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−242842(P2010−242842A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91412(P2009−91412)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】