説明

ティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シートの製造方法

【課題】 ティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シートにおいて、沸水収縮率を小さくして良好な寸法安定性を持つ透水シートを得る方法を提供する。
【解決手段】 経糸及び緯糸にポリ−L−乳酸モノフィラメントを用いて、平織組織等で製織して織物を得る。この織物を、40℃の精練浴に浸漬する。精練浴は、弱アルカリ水溶液であるのが好ましい。精練後、織物を風乾するのも好ましい。そして、120℃の雰囲気下でセット加工することにより、生分解性透水シートを得る。この生分解性透水シートは、経及び緯共に沸水収縮率が3.50%以下となっているのが好ましい。沸水収縮率は、100℃の沸水中に3分間浸漬して測定されるものである。この生分解性透水シートを用いて、袋を形成し、袋の中に茶葉等を収納すれば、ティーバッグ等の抽出溶液が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑茶、紅茶又は烏龍茶等の茶葉を収納したティーバッグや、コーヒー粉を収納したコーヒーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、緑茶や紅茶等をお湯や水で抽出するために使用するティーバッグ等の抽出容器は、不織布、紙、編織物等の透水シートを袋状にしたものが用いられている。特に、抽出性が良好で高級感のある織物よりなる透水シートを袋状にしたものが好まれている。近年、環境循環型社会の構築が叫ばれており、かかる抽出容器も環境に負荷を与えないものが要望されている。
【0003】
本件出願人は、環境循環型社会に適合した抽出容器、すなわち、生分解性繊維であるポリ−L−乳酸モノフィラメントで構成された織物よりなる透水シートを袋状にした抽出容器を開発した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3770833号公報(特許請求の範囲及び実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抽出容器に用いられる織物よりなる透水シートに要求される性能は、濾過性、抗菌性、安全性、高級感等様々であるが、その中に沸水中に入れて抽出したときの寸法安定性がある。すなわち、沸水中に入れたときに透水シートが収縮すると、織物の目が詰まり、抽出性が低下するので、収縮しにくいことが要求されるのである。
【0006】
しかるに、ポリ−L−乳酸モノフィラメントは、熱処理(セット加工ともいう。)を施さないと沸水収縮率が15%前後であり、このままでは抽出容器の透水シートとして使用することができない。また、一般的に行われている結晶化促進のためのセット加工を施しても、沸水収縮率が5%前後までしか低下せず、未だ十分な寸法安定性を持つと言い難い。すなわち、良好な寸法安定性といえる程度の沸水収縮率とすることは困難であった。
【0007】
したがって、本発明の課題は、沸水収縮率を小さくして良好な寸法安定性を持つ透水シートを得ることにある。なお、沸水収縮率は、100℃の沸水に3分間浸漬するという条件で測定するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
抽出容器に用いる透水シートは、夾雑物や不純物を除去するため、予め精練するのが一般的である。そのため、本件発明者は精練の前にセット加工を施したり、精練の後にセット加工を施したりして、寸法安定性の良好な透水シートを得るべく、検討していたところ、精練浴の温度を特定の温度として精練し、その後、特定の温度でセット加工を施すと、沸水収縮率が極めて小さくなることを発見した。本発明にかかる発見に基づいてなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、経糸及び緯糸がポリ−L−乳酸モノフィラメントで構成された織物を、40℃の精練浴に浸漬した後、120℃の雰囲気下でセット加工することを特徴とするティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シートの製造方法に関するものである。ここで、精練浴の温度である40℃は、有効数字が一桁のものであって、35℃〜44℃の温度を丸めた数値である。また、セット加工の雰囲気温度である120℃は、有効数字が二桁のものであって、115℃〜124℃の温度を丸めた数値である。
【0010】
本発明で用いる織物は、経糸及び緯糸がポリ−L−乳酸モノフィラメントで構成されている。ポリ−L−乳酸モノフィラメントとは、ポリ−L−乳酸を溶融紡糸して得られたモノフィラメントである。乳酸には光学異性体としてL体(L−乳酸)とD体(D−乳酸)があり、本発明でいうポリ−L−乳酸とは、98質量%以上のL−乳酸と2質量%以下のD−乳酸とが重合されてなる重合体である。L−乳酸100質量%のポリ−L−乳酸が最も結晶化度を高くすることができ、沸水収縮率が小さいモノフィラメントを得ることができるので好ましい。しかし、D−乳酸が2質量%以下共重合されていても、同等程度に結晶化度を高くすることができるので、本発明において用いることができる。一方、D−乳酸が2質量%を超えて共重合されると、結晶化度を高くすることが困難となり、沸水収縮率の小さいモノフィラメントを得られにくくなるので、本発明では用いることができない。
【0011】
ポリ−L−乳酸モノフィラメントの繊度は、所望に応じて設定しうる事項であるが、一般的には20〜60dtexで、好ましくは、20〜35dtexの繊度の範囲が最適である。さらに、20〜35dtexの繊度は、製織時の製織工程における製織安定性に優れ、且つ、製織された透水シートの風合い(柔軟性)の良好なものが得やすい。
【0012】
織物組織としては、経及び緯共に同等の寸法安定性となる平織組織であるのが最も好ましい。しかし、経及び緯共に同等程度の寸法安定性が実現しうるのであれば、その他の綾織組織や朱子織組織であってもよい。なお、経とは経糸の走行方向のことを意味しており、緯とは緯糸の走行方向のことを意味している。
【0013】
経糸密度及び緯糸密度は、得られた透水シートの目開きが抽出に最適となるように設定される。具体的には、経糸密度及び緯糸密度共に、85〜110本/2.54cmであるのが好ましい。経糸密度及び緯糸密度共に85本/2.54cm未満であると、繊度を20〜35dtexとしたとき、精練及びセット加工をしても、目開きが大きすぎて、茶葉等が漏れ出る恐れがある。また、110本/2.54cmを超えると、精練及びセット加工後において、目開きが小さすぎて、抽出性が低下する恐れがある。
【0014】
本発明では、織物に付着している夾雑物や不純物等を取り除くために、まず精練する。精練は、精練浴に織物を浸漬させて行う。精練浴としては、一般的にアルカリ水溶液を用いるが、本発明では弱アルカリ水溶液を用いるのが好ましい。強アルカリ水溶液を用いると、ポリ−L−乳酸モノフィラメントが減量する恐れがあり、得られた透水シートの目開きが大きくなる恐れがある。弱アルカリ水溶液のpHは、好ましくは7.1〜7.5であり、最も好ましくは7.2〜7.3である。なお、弱アルカリ水溶液は、水にソーダ灰を溶解させて調製するのが好ましい。
【0015】
本発明で重要なことは、精練浴の温度を40℃に設定し、その後のセット加工を120℃で行うことである。40℃で精練を行い、120℃でセット加工を行うことにより、後記実施例及び実験例で実証したとおり、ポリ−L−乳酸モノフィラメント中の結晶の状態が最も安定となって、経及び緯共に沸水収縮率が最も小さくなり、本発明の課題を解決しうる透水シートが得られるのである。精練の温度が40℃未満であったり40℃を超えても、所望の沸水収縮率を持つ透水シートが得られない。また、セット加工の温度が120℃未満であっても、所望の沸水収縮率を持つ透水シートが得られない。
【0016】
精練を行った後、直ちにセット加工を行ってもよいが、一般的には、風乾してからセット加工を行う。風乾は、精練後の織物をガイドローラ間で所定時間蛇行させるだけでもよいし、蛇行時に扇風機等で送風して行ってもよい。その後のセット加工は、従来公知の方法で行うことができる。一般的には、ピンテンター機に導入し、織物の両端をピンで把持した状態で、雰囲気温度を120℃にして行う。
【0017】
以上のようにして得られた透水シートを用いて、製袋して茶葉等を収納すれば、ティーバッグ等の抽出容器が得られる。製袋の際に袋の口を封するには、ポリ−L−乳酸モノフィラメントが熱可塑性であるため、熱を与えて軟化又は溶融させて融着させればよい。熱を与える手段としては、加熱したり、高周波や超音波を照射すればよい。また、袋の形状は特に限定されず、平面形状、三角錐形状、四角錐等の多角錐形状、円柱形状等であってよい。さらに、抽出容器には、それを吊り下げるために、糸やタグ等が取り付けられていてもよい。糸やタグ等も生分解性のものを採用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る方法で得られた織物製の生分解性透水シートは、経及び緯共に、沸水収縮率が極めて小さくなっている。したがって、この生分解性透水シートを用いて得られた抽出容器を、沸水中に浸漬しておいても、経糸方向及び緯糸方向に収縮しにくく、織物の目開きが小さくなることを防止しうる。よって、本発明に係る方法で得られた透水シートを製袋してなる抽出容器は、沸騰水を用いて抽出する際においても、目開きが小さくならず、抽出性が低下するのを防止しうるという効果を奏する。
【0019】
なお、本発明に係る方法で得られた透水シートは、生分解性であるため、微生物分解型のコンポスト処理装置等に投入しておけば、速やかに二酸化炭素と水に分解され、環境循環型社会に適合したものである。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、ポリ−L−乳酸モノフィラメントで構成された織物は、40℃で精練を行い、120℃でセット加工を行うことにより、特異的に沸水収縮率が小さくなるとの発見に基づくものとして、解釈されるべきである。
【0021】
実施例1
繊度26dtexのポリ−L−乳酸モノフィラメント(ユニチカファイバー株式会社製「テラマック」)を経糸及び緯糸に使用して、経糸密度及び緯糸密度共に99本/2.54cmとなるように、平織組織で製織して織物を得た。この織物を、ソーダ灰を溶解させた40℃の弱アルカリ水溶液(pH7.2)に、約1分間浸漬して精練を行った。精練後、風乾を行い、引き続いてピンテンター機に導入し、120℃の雰囲気下で30秒間セット加工を行い、透水シートを得た。
【0022】
比較例1
精練浴の温度を30℃に変更した他は、実施例1と同一の方法により、透水シートを得た。
【0023】
比較例2
精練浴の温度を50℃に変更した他は、実施例1と同一の方法により、透水シートを得た。
【0024】
比較例3
精練浴の温度を60℃に変更した他は、実施例1と同一の方法により、透水シートを得た。
【0025】
比較例4
セット加工の雰囲気温度を100℃に変更する他は、実施例1と同一の方法により、透水シートを得た。
【0026】
比較例5
セット加工の雰囲気温度を100℃に変更する他は、比較例1と同一の方法により、透水シートを得た。
【0027】
比較例6
セット加工の雰囲気温度を100℃に変更する他は、比較例2と同一の方法により、透水シートを得た。
【0028】
比較例7
セット加工の雰囲気温度を100℃に変更する他は、比較例3と同一の方法により、透水シートを得た。
【0029】
[沸水収縮率の測定]
実施例1及び比較例1〜7で得られた透水シートを、100℃の沸水に3分間浸漬して、経及び緯の沸水収縮率を測定した。沸水収縮率の測定は、各透水シートにつき3回行った。その結果を表1に示した。
【0030】
[表1]
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沸 水 収 縮 率(%)
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経 緯
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1回目 2回目 3回目 平均 1回目 2回目 3回目 平均
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実施例1 3.25 3.25 3.25 3.25 3.00 3.25 3.50 3.25
比較例1 3.75 4.00 4.50 4.08 4.00 4.50 4.25 4.25
比較例2 3.75 4.00 3.75 3.83 3.75 4.00 3.75 3.83
比較例3 3.75 4.50 4.25 4.17 4.25 4.25 3.75 4.08
比較例4 7.00 7.75 7.75 7.50 7.50 7.50 7.50 7.50
比較例5 9.00 9.00 8.75 8.92 8.00 8.00 8.00 8.00
比較例6 8.00 8.25 8.50 8.25 7.50 7.25 7.50 7.42
比較例7 8.25 8.50 8.00 8.25 7.75 7.75 7.50 7.67
対照例 16.25 − − − 15.06 − − −
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なお、対照例は、実施例1で得られた織物(精練もセット加工も行っていないもの)の沸水収縮率を測定したものである。
【0031】
表1の結果から明らかなように、実施例1で得られた透水シートは、経及び緯共に、沸水収縮率が3.50%以下となっており、沸水で緑茶等を抽出する際に、収縮を最も抑制できることが分かる。これに対して、40℃未満又は40℃超える温度で精練を行ったり、120℃未満の温度でセット加工を施した比較例1〜7で得られた透水シートは、沸水収縮率が安定して3.50%以下とならず、沸水で緑茶等を抽出する際に、抽出性が低下する恐れがある。
【0032】
[実験例(モノフィラメント中の結晶の融解温度の測定)]
本発明者は、実施例1で得られた透水シートの沸水収縮率が特異的に低くなるのは、モノフィラメント中の結晶の状態が安定しているためと推定した。この推定が正しいか否かを検討するために、実施例1及び比較例1〜3で得られた透水シートと対照例の織物から、各々、モノフィラメントを50cm採取し、緊張法にて結晶の融解温度を測定した。すなわち、50cm長さの各々のモノフィラメントに2gの荷重を負荷しながら、縦5mm、横1.5mm、厚さ0.5mmの銅板に巻き付け、巻き始めと巻き終わりとを結んで試料を作成した。そして、各試料をDSC測定用アルミパンに収納し、160℃から10℃/分の昇温速度で昇温し、DSCチャートを求めた。DSCチャートに現れたピーク温度は、以下の表2のとおりであった。
【0033】
[表2]
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ピーク温度
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実施例1 173.0℃
比較例1 172.5℃
比較例2 171.5℃
比較例3 171.5℃
対照例 172.0℃
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【0034】
表2の結果から、実施例1で得られた透水シート中のモノフィラメントは、結晶の融解温度が最も高くなっていることが分かる。したがって、実施例1のように特定の精練処理及びセット加工処理を行うと、モノフィラメント中の結晶が最も安定した状態となり、本件発明者の推定が正しいことが実証されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸がポリ−L−乳酸モノフィラメントで構成された織物を、40℃の精練浴に浸漬した後、120℃の雰囲気下でセット加工することを特徴とするティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シートの製造方法。
【請求項2】
織物が平織組織である請求項1記載のティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シートの製造方法。
【請求項3】
精練浴は、弱アルカリ水溶液である請求項1記載のティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シートの製造方法。
【請求項4】
精練浴に浸漬した後、セット加工をする前に、織物を風乾させる請求項1記載のティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法で得られたティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シート。
【請求項6】
経及び緯の100℃で3分間の条件下での沸水収縮率が3.50%以下である請求項5記載のティーバッグ等の抽出容器に用いる生分解性透水シート。
【請求項7】
請求項5又は6記載の生分解性透水シートを製袋してなるティーバッグ等の抽出容器。

【公開番号】特開2010−254362(P2010−254362A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108917(P2009−108917)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【特許番号】特許第4342605号(P4342605)
【特許公報発行日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000178882)山中産業株式会社 (14)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】