説明

テストエレメントのための滅菌可能な化学

本発明は、診断用エレメントおよびその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断用エレメントおよびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
診断用エレメントは、臨床的に意義のある分析方法の重要な構成要素である。これは主に、たとえば、分析物に特異的な酵素を使用して直接的にまたは間接的に測定される、たとえば代謝物や基質などの分析物の測定に関する。分析物は、酵素−補酵素複合体を使用して変換され、ついで定量される。この過程で、測定される分析物は適切な酵素、補酵素および任意にはメディエーターと接触され、ここで、補酵素は、酵素反応によってたとえば酸化または還元など物理化学的に変化する。
【0003】
メディエーターが追加で使用される場合、メディエーターは通常、還元された補酵素から分析物の変換のあいだに放出される電子を、光学インジケーターまたは電極の導電性部位上に伝達し、これによりこのプロセスがたとえば光度計測的または電気化学的に検出され得る。較正により、測定された値と測定される分析物の濃度とのあいだの直接的な関係がもたらされる。
【0004】
このようなテストエレメントの滅菌可能性は、診断薬としての使用に関して非常に重要である。たとえば血糖の測定に使用されている、先行技術において既知の診断用エレメントは、この点に関して、滅菌のために従来使用されている電離放射線またはその他の物理的もしくは化学的手段に関し低い安定性をもち、そして、滅菌後において、とりわけ酵素システムへの重篤な損傷を示すという問題を有する。したがって、たとえばAccu−Check Active(登録商標)、Accu−check Aviva(登録商標)または欧州特許出願公開第1 430 831号明細書に記載される、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性酵素および電子移動のためのメディエーターを含むテストエレメントは、電離放射線を用いた滅菌後において酵素活性の顕著な損失を示す。
【0005】
滅菌によって引き起こされる生化学的テストエレメントの酵素システムへの損傷を補うために使用される公知の手段は、酵素システムの過剰使用である。欧州特許第1 293 574号明細書は、PQQ依存性グルコース脱水素酵素をフェノチアジンメディエーターとの組み合わせで含む電気化学的センサーであって、PQQ依存性グルコース脱水素酵素が20酵素単位の濃度で使用されている電気化学的センサーを開示している。電子放射線(線量25kGy)を使用した滅菌後において、滅菌による損失にも関らず、酵素システムの過剰使用のため、機能性酵素の高い絶対量を有するセンサーが酵素システムの処方に依存して得られる。
【0006】
しかしながら、生化学的テストエレメントにおける酵素システムの過剰使用には問題がある。成分の過剰使用が非経済的であり、そして、消費財を大きな産業規模で製造する際に顕著により高い製造コストという結果になるという事実のみならず、高濃度の酵素は特に、溶解度または/および粘度に関連する問題を引き起こし、そして、適切なキャリアへの酵素の適用を困難なものとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が基盤とする目的は、したがって、安定な生化学的テストエレメント、特には、グルコースを測定するためのものであって、それにより少なくとも部分的には先行技術の問題点が除外される、安定な生化学的テストエレメントを提供することであった。特に、滅菌後、および酵素システムを過剰使用することなしに、テストエレメントは高い割合の活性化酵素または活性化補酵素を有し、そして、優れた性能を保証しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分を含有する化学的検出試薬を含む診断用エレメントにより本発明にしたがって達成され、ここで、診断用エレメントは滅菌に付されており、そして、電離放射線に感受性である成分は、滅菌前の診断用エレメント中の成分の総量を基準として80%以上の割合で機能型として存在している。
【発明の効果】
【0009】
驚くべきことに、本発明の範囲内において、電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分を含有する化学的検出試薬を含む、例えばテストテープまたはテストストリップなどの診断用エレメントは、滅菌後において、その成分への損傷を全く示さないか、または、ほんのわずかな損傷を示すのみである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電子放射線(eBeam;線量 25kGy)を用いた滅菌の前および後における、グルコース脱水素酵素およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含む診断用エレメント中でのグルコース脱水素酵素(GlucDH)の活性の図である。測定は、製造直後(0日後)ならびに5℃(冷蔵庫)、室温(RT)または50℃での診断用エレメントの保管から2日後および4日後に行われた。
【図2】電子放射線(eBeam;線量 25kGy)を用いた滅菌の前および後における、グルコース脱水素酵素およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含む診断用エレメント中でのニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の含有量の図である。測定は、製造直後(0日後)ならびに5℃(冷蔵庫)、室温(RT)または50℃(での診断用エレメントの保管から2週間後および4週間後に行われた。
【図3】ガンマ線(gamma;線量 25kGy)を用いた、または、二酸化炭素の存在下ガンマ線(gamma/CO2;線量 25kGy)を用いた、滅菌の前および後における、グルコース脱水素酵素およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含む診断用エレメント中でのグルコース脱水素酵素(GlucDH)の活性の図である。測定は、製造直後(0日後)ならびに5℃(冷蔵庫)、室温(RT)または50℃での診断用エレメントの保管から2週間後および4週間後に行われた。
【図4】ガンマ線(gamma;線量 25kGy)を用いた、または、二酸化炭素の存在下ガンマ線(gamma/CO2;線量 25kGy)を用いた、滅菌の前および後における、グルコース脱水素酵素およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含む診断用エレメント中でのニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の含有量の図である。測定は、製造直後(0日後)ならびに5℃、室温(RT)または50℃での診断用エレメントの保管から2週間後および4週間後に行われた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の診断用エレメントにおいて使用される化学的検出試薬は、基本的に、例えば光学的または電気化学的方法を用いて分析物を測定するために適している任意の成分を含んでよい。そのような成分の例は当業者にとって公知であり、そして、特には、ポリペプチド、補酵素、光学的指示薬、メディエーターならびに補助物質または/および添加剤が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これに関連して、化学的検出試薬は、どのような種類のものでもよいが、好ましくは、適切なキャリアへ適用され、そして適切な場合には同時に分析物を検出するために使用され得る少なくとも一つの試薬層の成分である。
【0012】
電離放射線に感受性である成分は、測定される分析物の診断のために必要とされる化学的検出試薬、すなわち、分析物の物理化学的変換に直接的または間接的に関与するもののいかなる成分であってもよく、ここで、本明細書中で使用される用語「電離放射線に感受性である(sensitive to ionizing radiation)」とは、それぞれの環境条件下、すなわち、それぞれの場合に適用されている圧力、温度および相対空気湿度下において、電離放射線によって成分が物理化学的に変換され得る、または/および、その機能が低下され得ることを意味する。
【0013】
この点において、本発明によって、診断用エレメントの滅菌後において、電離放射線に感受性である成分はまた、滅菌前の診断用エレメント中の成分の総量を基準として、機能型として100%の割合でも存在し、それぞれの場合において前述した安定性の基準が全体としての診断用エレメントに適用される。
【0014】
電離放射線に感受性である成分は、好ましくは、ポリペプチド、補酵素、光学的指示薬またはそれらの組み合わせであり、ポリペプチドが特に好ましい。この場合、任意のポリペプチドが、各条件を満たし、そして、当業者によって適切であるとみなされるポリペプチドとしての考慮の対象である。ポリペプチドは好ましくは酵素であり、特には、補酵素依存性酵素である。このような酵素の例としては、とりわけ、脱水素酵素、たとえばグルコース酸化酵素(EC1.1.3.4)またはコレステロール酸化酵素(EC1.1.3.6)などの酸化酵素、たとえばアスパラギン酸アミノ基転移酵素またはアラニンアミノ基転移酵素などのアミノ基転移酵素、5’−ヌクレオチダーゼ、クレアチンキナーゼおよびジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が挙げられる。
【0015】
より好ましい実施態様において、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存性またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存性の脱水素酵素が酵素として使用され、ここで酵素は、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、L−アミノ酸脱水素酵素(EC1.4.1.5)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)、グリセロール脱水素酵素(EC1.1.1.6)、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(EC1.1.1.30)、乳酸脱水素酵素(EC1.1.1.27、EC1.1.1.28)、リンゴ酸脱水素酵素(EC1.1.1.37)およびソルビトール脱水素酵素を含む群より特には選択される。酵素は最も好ましくは、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)またはグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)である。
【0016】
電離放射線に感受性である成分はさらに、補酵素であってもよい。本発明は基本的に、任意の補酵素の使用を想定している;しかしながら、好ましくはNAD(P)/NAD(P)H化合物が補酵素として使用される。本願の範囲内において使用される用語NAD(P)/NAD(P)H化合物とは、たとえばニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)などの天然型のNAD(P)/NAD(P)H化合物、ならびに、天然のNAD(P)/NAD(P)H化合物の化学的修飾によって得られうる、そして、特には3−アセチルピリジンアデニンジヌクレオチド(3−acetyl NAD)および3−アセチルピリジンアデニンジヌクレオチドリン酸(3−acetyl NADP)を含む人工のNAD(P)/NAD(P)H化合物を包含する。
【0017】
ある実施態様において、補酵素は安定化された補酵素である。本発明の意味内において、安定化された補酵素とは、天然の補酵素と比較して化学的に修飾されており、湿気、特に0℃から50℃までの範囲の温度、特にpH4からpH10までの範囲の酸および塩基、または/ならびに、たとえばアルコールもしくはアミンなどの求核試薬に対し、天然の酵素と比較してより高い安定性を大気圧下で有しており、そしてこの意味において、同一の環境条件下で天然の補酵素よりもより長期間にわたり活性であり得る補酵素である。
【0018】
安定化された補酵素は、好ましくは、天然の補酵素と比較してより高い加水分解安定性を有しており、試験条件下において完全に耐加水分解性であることが特に好ましい。安定化された補酵素は、天然の補酵素と比較して、酵素に対して低下または増加した結合定数を有していてもよく、たとえば2倍またはそれ以上に低下または増加した結合定数を有していてもよい。
【0019】
NAD(P)/NAD(P)H化合物が補酵素として使用される場合、好ましくは一般式(I)の化合物
【化1】

式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸エステル基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH32、NH、NCH3
Y=NH、S、O、CH2
Z=直鎖状または環状有機残基、
またはその塩もしくは還元型
から選択される。
【0020】
好ましい実施態様において、一般式(I)の化合物は、アデニンまたはたとえばC8−置換およびN6−置換されたアデニンなどのアデニン類似体、7−デアザなどのデアザ変異体、8−アザなどのアザ変異体、またはたとえば7−デアザもしくは8−アザの組合せ、またはホルモマイシンなどの炭素環類似体を含み、7−デアザ変異体はハロゲン、C1〜C6−アルキニル、C1〜C6−アルケニルまたはC1〜C6−アルキルによって7位が置換され得る。
【0021】
また別の好ましい実施態様において、一般式(I)の化合物は、リボースの代わりに、たとえば2−メトキシデオキシリボース、2’−フルオロデオキシリボース、ヘキシトール、アルトリトール、またはビシクロ、LNAおよびトリシクロ糖などの多環類似体を含むアデノシン類似体を含む。特に、一般式(I)の化合物において、(ジ)ホスフェート酸素はまた、等電子数的に、たとえばO-をS-またはBH3-によって、OをNH、NCH3またはCH2によって、および=Oを=Sによって置換することができる。一般式(I)の化合物において、Wは、好ましくはCONH2またはCOCH3である。
【0022】
一般式(I)の化合物において、Zは、好ましくは4〜6個のC原子、好ましくは4個のC原子を有する直鎖状残基であって、1個または2個のC原子が任意に、O、SおよびNから選択される1つもしくはそれ以上のヘテロ原子で置換されている直鎖状残基であるか、または5個もしくは6個のC原子を有する環状基を含む残基であって、任意にはO、SおよびNから選択されるヘテロ原子および任意には1つまたはそれ以上の置換基を含む残基、ならびにCR42残基(CR42は環状基およびX2に結合され、R4はそれぞれ独立してH、F、Cl、CH3である)を含む残基である。
【0023】
Zは好ましくは、飽和または不飽和の炭素環式または複素環式の5員環、とりわけ一般式(II)の基
【化2】

式中、単結合または二重結合がR5'およびR5''との間に存在でき、
4=それぞれ独立してH、F、Cl、CH3
5=OまたはCR42
5'およびR5''との間に単結合が存在する場合、R5'=O、S、NH、NC1〜C2−アルキル、CR42、CHOH、CHOCH3、および、R5''=CR42、CHOH、CHOCH3
5'およびR5''との間に二重結合が存在する場合、R5'=R5''=CR4、ならびに
6、R6'=それぞれ独立してCHまたはCCH3
である。
【0024】
5は好ましくは、一般式(II)の基のうちのOまたはCH2である。さらに、R5'が、CH2、CHOHおよびNHから選択されることが好ましい。好ましい実施態様において、R5'およびR5''はそれぞれCHOHである。別の好ましい実施態様においては、R5'=NHおよびR5''=CH2である。式(II)の基において、R4=H、R5=OまたはCH2、R5'=R5''=CHOHおよびR6=R6'=CHがより好ましい。
【0025】
本発明の特に好ましい実施態様において、補酵素は、NAD、NADP、3−acetyl−NADまたは3−acetyl−NADPである。さらにより好ましい変形例においては、安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物または式(III)の化合物
【化3】

が補酵素として使用される。
【0026】
安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物は好ましくは、グリコシル結合によらずにたとえば直鎖状または環状の有機残基、特には環状の有機残基によりリン酸残基などのリン含有残基に連結されている3−ピリジンカルボニルまたは3−ピリジンチオカルボニル残基を含む。
【0027】
好ましい変形例において、安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物は、前記一般式(I)の化合物から選択され、ここでZ基およびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない。この場合、Z基は好ましくは、R5=CR42ならびにR4、R5'、R5''、R6およびR6'残基は上記で規定される、一般式(II)の基である。R4=H、R5=CH2、R5'=R5''=CHOHおよびR6=R6'=CHである式(II)の基が特に好ましい。
【0028】
最も特に好ましい実施態様において、安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物は、カルバNAD(J.T. Slama, Biochemistry (1988), 27,183およびBiochemistry (1989), 28, 7688)またはカルバNADPである。本発明により使用され得る他の安定な補酵素は、国際公開第98/33936号、国際公開第01/49247号、国際公開第2007/012494号、米国特許第5,801,006号明細書、米国特許第11/460,336号明細書およびBlackburnらの文献(Chem. Comm. (1996), 2765)に記載されており、その開示は本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0029】
あるいは、電離放射線に感受性である成分はまた、光学的指示薬であってもよい。還元可能であり、そして、たとえば色、蛍光、緩和、透過率、偏光または/および屈折率など、還元された場合に光学的性質において検出可能な変化を生じる任意の物質が、光学的指示薬として使用され得る。試料中の分析物の存在または/および量の測定は、肉眼で、または/および当業者には適切であることが明らかな光学的方法、特には測光法もしくは蛍光測定法、または、電気化学的方法を用いて行うことができる。
【0030】
対応するヘテロポリブルーに還元される、ヘテロポリ酸、たとえば2,18−リンモリブデン酸などが、光学的指示薬として好ましく使用される。さらに、たとえばレザズリン、ジクロロフェノールインドフェノールまたは/およびテトラゾリウム塩などのキノン類もまた光学的指示薬として使用することが可能である。本発明の目的に特に適しているテトラゾリウム塩は、たとえば市販の製品WST−3、WST−4およびWST−5(全てはDojindo社)を含むが決してこれらに限定されるわけではない。
【0031】
診断用エレメントは、分析物を含む試料によって湿潤され得る任意のエレメントであり得る。したがって、診断用エレメントは、電離放射線に感受性である、たとえばポリペプチドまたは補酵素などの一つの成分(または複数の成分)を、たとえば一またはそれ以上の試薬層であって、任意には、分析物の定性的または/および定量的測定を容易にする試薬をさらに含む試薬層中に含んでもよい。このような試薬の例としては、特には、メディエーターならびに補助物質または/および添加剤が挙げられる。
【0032】
本願の範囲内において使用される用語「メディエーター(mediator)」は、分析物との反応により得られる還元された補酵素と反応し、そして、好適な光学的指示薬もしくは光学的指示薬系または電気化学的電極への電子の移動を可能にする化合物を意味する。本発明にしたがって考慮の対象とされるメディエーターとしては、特には、たとえば[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩などのニトロソアニリン、たとえばフェナントレンキノン、フェナントロリンキノンもしくはベンゾ[h]キノリンキノンなどのキノン、たとえば1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチル−フェナジニウムトリフルオロメタンスルホネートなどのフェナジン、または/およびジアホラーゼ(EC1.6.99.2)がある。しかしながら、本発明の診断用エレメントは、好ましくは、メディエーターを含まず、メディエーターの副反応が避けられ、そしてこの結果、診断用エレメントの長期間にわたる安定性が損なわれないという利点を有する。
【0033】
本発明の診断用エレメントは、滅菌後において、電離放射線に感受性である成分を、使用される滅菌方法に依存して、滅菌前の診断用エレメント中の成分の総量を基準として80%以上の割合で、好ましくは90%以上の割合で機能型で有し、ここで、上述したように、100%という割合もまた当然のことながら含まれる。
【0034】
本願の範囲内において使用される用語「機能型(in a functional form)」とは、成分が化学的に活性な型で存在し、診断用エレメント中でその意図される機能を果すことができることを意味する。対照的に、用語「非機能型(in a non-functional form)」とは、成分が化学的に不活性な型で存在するか、または、化学的に活性な型で存在しているにも関らずその型が所望の機能を発揮するために必要な型とは異なるためその意図される機能を果すことができないことを意味する。
【0035】
したがって、本発明によれば、滅菌前に診断用エレメント中に存在していた電離放射線に感受性である成分の分子、すなわち、機能的な分子プラス非機能的な分子の少なくとも80%が、滅菌後において活性型で存在し、そしてその結果、必要であれば化学的検出試薬の他の成分とともに、測定される分析物の所望の転換をもたらすことができる。したがって、本発明による診断用エレメントの電離放射線に対する安定性は、個々の成分の機能的分子の滅菌に関連する損失を補う働きをする、化学的検出試薬の他の成分に対する化学的検出試薬の個々の成分(たとえば酵素)の過剰使用を不要にするという利点を有する。
【0036】
好ましい実施態様において、本発明の診断用エレメントは、電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分に加えて、追加で、試料収集のためのエレメント(試料収集エレメント)を含み、これは一体化されていてもよく、また、分離して存在していてもよい。本発明の意味において、一体化された試料収集エレメントとは、診断用エレメントに物理的に接続されそして収集された試料を、たとえばキャピラリーチャンネルなどの適切な方法によって直接的に診断用エレメント上へ移動させることが可能な装置として理解される。
【0037】
対照的に、分離の試料収集エレメントは、診断用エレメントから分離されて存在しており、そして診断用エレメントとの物理的接続を有さない試料収集装置として定義される。この場合、試料はたとえば、診断用エレメントがその中に位置しているマガジンに試料収集装置が戻った後に、本発明の診断用エレメント上へ移動されてもよい。
【0038】
分析物の試料を収集することができ、そして続いて試料をたとえばキャピラリー効果を利用するなどして診断用エレメント上に移動させることができる任意のエレメントが、試料収集エレメントとして使用可能である。この意味において、ニードルエレメントの使用が特には有利であることが実証されており、前記ニードルエレメントは、好ましくは試料を収集するためのキャピラリーチャンネルを含み、そして、任意の材料、しかし好ましくはたとえば金属またはプラスティックなどの滅菌可能な材料からなる。
【0039】
本発明において、診断用エレメントが試料収集エレメントおよび特にはニードルエレメントとともに保管容器内で保管されることが好ましい。保管容器は、基本的には、当業者にとって診断用エレメントを保管するという目的に適切であると思われる任意の材料からなる。この意味において、部分的または完全にプラスティックからなる保管容器が好ましいと考えられ、ここで、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンおよびポリプロピレンをベースとするプラスティックが特には使用される。
【0040】
保管容器は、数個の本発明の診断用エレメントを含むマガジンであることが特に好ましい。本明細書中で使用される用語「数個の(several)」とは、1より大きい任意の数を意味するが、好ましくは少なくとも10個、および特に好ましくは少なくとも25個の診断用エレメントがマガジン中に保管され得る。マガジンは任意のデザインのものとすることができるが、好ましくは、たとえば欧州特許出願公開0 951 939号明細書および国際公開公報第2005/104948号に記載されているような、ブリスターマガジン(blister magazines)、ディスクマガジン(disk magazines)およびドラムマガジン(drum magazines)を特には含み、これらの開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0041】
本明細書中で記載される診断用エレメントの製造は、滅菌を含み、ここで、電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分を含有する化学的検出試薬および任意には一体化されたまたは分離の試料収集エレメントを含む診断用エレメントが提供され、そして続いて滅菌に付される。本発明によれば、診断用エレメントは、滅菌の前または後に、たとえばマガジンなどの適切な保管容器の中に挿入されてもよく、ここで、滅菌を行う前の対応する挿入が好ましいと考えられる。
【0042】
診断用エレメントが滅菌の前に保管容器内に挿入される場合、原則的に診断用エレメントを滅菌する前または後に保管容器を密封することが可能であり、衛生的理由から滅菌を行う前の密封が特に好ましい。したがって、本発明の特に好ましい実施態様において、診断用エレメントの製造は、診断用エレメントをマガジン内に挿入すること、マガジンを密封することおよび続いて密封されたマガジン中の診断用エレメントを滅菌することを含み、ここで診断用エレメントは好ましくは分離のニードルエレメントを含む。
【0043】
滅菌自体は、たとえば化学的滅菌、熱による滅菌および電離放射線を用いた滅菌などが例として挙げられる、種々の方法によって行われ得る。本発明によって、電離放射線を用いて滅菌を行うことが有利であることが実証され、ここで、電離放射線としては好ましくは電子放射線または/およびガンマ線が挙げられ、特には電子放射線が好ましい。
【0044】
滅菌に使用される電離放射線の線量は、当業者により個々の条件に応じて選択され得る。好ましい実施態様においてはしたがって、診断用エレメントを滅菌するために使用される電子放射線は15〜35kGyの範囲、特には20〜30kGyの範囲の線量のものであり、一方、ガンマ線を使用する場合には、15〜35kGyの範囲、特には20〜30kGyの範囲の線量が使用される。
【0045】
前記の方法を用いて滅菌された診断用エレメントは、好ましくは、滅菌後に無菌様式で、必要であれば一体化されたまたは分離の試料収集エレメントとともにパッケージされる。滅菌パッケージは、本発明の診断用エレメントを、新たな滅菌を必要とすることなしにのちのその使用まで、無菌状態に保つことを可能にする。したがって、特に好ましくは、本発明の診断用エレメントは、無菌性が喪失しているために、使用後に再使用されない使い捨ての品である。
【0046】
本明細書中に開示される診断用エレメントは基本的に、試料中の分析物の存在または/および量の測定に適している、当業者によく知られている任意の物理的な形状を含んでいてもよい。診断用エレメントはそれぞれ、分析物を含む試料と接触することができ、そして、分析物の定性的または/および定量的測定を適切な方法を用いて可能にする、少なくとも一つの試験領域を含む。
【0047】
本発明の好ましい実施態様において、診断用エレメントは、測定される分析物の存在下で光学的または電気化学的に検出可能なシグナルを生成するようにデザインされており、たとえば光度測定法もしくは蛍光光度法などの光学的方法または電気化学的技術を用いて分析物の定性的または/および定量的測定を可能にする。本発明の意味における診断用エレメントの例としては、特には一体化されたニードルエレメントを有するテストエレメント、テストテープ、テストストリップ、および、国際公報第2005/084530号明細書で記載されている診断エレメントが挙げられ、分析物はたとえば水溶液または非水溶液の形でその上に適用され得る。前記の国際出願の開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0048】
本発明の診断用エレメントは、光化学的または電気化学的に検出され得る任意の生物学的または化学的物質を測定するために使用され得る。分析物は好ましくは、リンゴ酸、アルコール、アンモニウム、アスコルビン酸、コレステロール、システイン、グルコース、グルタチオン、グリセロール、尿素、3−ヒドロキシ酪酸、乳酸、5’−ヌクレオチダーゼ、ペプチド、ピルビン酸塩、サリチル酸塩およびトリグリセリドを含む群より選択され、グルコースが特に好ましい。この場合、分析物は、任意の供給源由来であり得るが、好ましくは、これらに限定されるものではないが、全血、血漿、血清、リンパ液、胆汁、脳脊髄液、細胞外組織液、尿およびたとえば唾液または汗などの腺分泌物を含む体液中に存在する。本明細書に記載される診断用エレメントは好ましくは、全血、血漿、血清もしくは細胞外組織液である試料中の分析物の存在または/および量を測定するために使用される。
【0049】
分析物の定性的または/および定量的測定は、いかなる方法で行われてもよい。この目的のために、手動でまたは適切な方法を用いて評価または読み取りされ得る測定可能なシグナルを生成する、先行技術から公知のあらゆる酵素反応検出法が基本的に使用できる。本発明の範囲内において、たとえば吸光、蛍光、円偏光二色性(CD)、旋光分散(ORD)、または/および屈折率の測定などを含む光学的検出法が好ましくは使用され、分析物は特に好ましくは、光度計測的または蛍光計測的に、たとえば蛍光計測的に検出可能な補酵素の変化によって間接的に検出される。あるいは、分析物はまた、電気化学的に検出されてもよく、たとえば電流、電圧または/および抵抗などの電気的シグナルが検出される。
【0050】
本発明の他の局面は、以下の工程:
(a)電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分を含有する化学的検出試薬を含む診断用エレメントを提供する工程であって、前記電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分が、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存性またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存性の脱水素酵素である工程、および
(b)診断用エレメントを電離放射線を用いて滅菌する工程
を含む診断用エレメントの製造方法に関する。
【0051】
本発明は以下の図面および実施例により、さらに詳細に説明される。
【実施例】
【0052】
グルコースを測定するために使用され、そして、グルコース脱水素酵素およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含む診断用エレメントの化学システムの、電離放射線に対する安定性を評価するために、診断用エレメント中のグルコース脱水素酵素の活性およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの含有量が、電子放射線またはガンマ線を用いた滅菌の前および後において、同時に保管期間および保管温度のパラメータを変化させながら測定された。
【0053】
図1および2は、電子放射線を用いた滅菌の前および後における、前述の診断用エレメント中でのグルコース脱水素酵素(GlucDH)の活性の比較およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の含有量の比較を示す。図に示されるように、GlucDHの活性およびNADの含有量は、診断用エレメントへの電子放射線の照射によって影響を受けなかった。
【0054】
驚くべきことに、酵素活性およびNAD含有量は、診断用エレメントの製造後すぐに(0週間後)行われた、照射された診断用エレメントおよび非照射の診断用エレメントのあいだでの比較においてそれぞれ100%である。保管期間が増加(0から4週間)し、そして、保管温度が上昇(5℃から50℃)するにつれて、酵素活性およびNAD含有量は、診断用エレメント中で、放射線滅菌の予想される影響とは無関係に減少する。この方法で保管された診断用エレメントにおける先の照射は、GlucDHの活性およびNAD含有量の若干の減少を引き起こすが、それは誤差の分析限界の範囲内である。
【0055】
図3および4は、ガンマ線を用いた滅菌の前および後における、前述の診断用エレメント中でのグルコース脱水素酵素(GlucDH)の活性の比較およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の含有量の比較を示す。この場合、酵素および補酵素が、少ない程度ではあるものの、電子放射線による滅菌の場合よりも高エネルギーガンマ線にさえ耐え得ることが明らかである。
【0056】
実際に、製造後すぐに(0週間後)滅菌されたシステムにおける酵素活性は、初期値の約55%に減少するが、一方で、ガンマ線および二酸化炭素の組み合わせを使用した場合の損傷は、より少なく80%の残存酵素活性である。補酵素の場合、約90%というNADの残存含有量がガンマ線を用いた滅菌後において検出される;ガンマ線および二酸化炭素の組み合わせを使用した場合、未処理の診断用エレメントと比較してNAD含有量において違いは見られない。
【0057】
電子放射線を用いて行われる実験と同様に、保管期間が増加(0から4週間)し、そして、保管温度が上昇(5℃から50℃)するにつれて、酵素活性および補酵素含有量は、未処理の診断用エレメント中で、およびガンマ線照射でまたは二酸化炭素との組み合わせの下ガンマ線照射で処理された診断用エレメント中で減少するが、診断用エレメントがガンマ線および二酸化炭素で処理された場合には、残存酵素活性およびNADの含有量は、対応する未処理の診断用エレメントの値をわずかに下回るのみである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分を含有する化学的検出試薬を含む診断用エレメントであって、
前記診断用エレメントが滅菌に付されており、かつ、前記電離放射線に感受性である成分が、滅菌前の診断用エレメント中の成分の総量を基準として80%以上の割合で、特には90%以上の割合で機能型として存在することを特徴とする診断用エレメント。
【請求項2】
前記電離放射線に感受性である成分が、ポリペプチド、補酵素、光学的指示薬またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の診断用エレメント。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、酵素、好ましくはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存性またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存性の脱水素酵素、より好ましくはグルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)またはグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)であることを特徴とする請求項2記載の診断用エレメント。
【請求項4】
前記補酵素が、NAD(P)/NAD(P)H化合物、好ましくは安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物、より好ましくはカルバNADまたはカルバNADPであることを特徴とする請求項2または3記載の診断用エレメント。
【請求項5】
前記診断用エレメントがメディエーターを含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の診断用エレメント。
【請求項6】
前記診断用エレメントが、一体化されたまたは分離の試料収集エレメント、特にはニードルエレメントを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の診断用エレメント。
【請求項7】
前記診断用エレメントが、試料収集エレメントとともに保管容器中、特にはマガジン中に保管されることを特徴とする請求項6記載の診断用エレメント。
【請求項8】
前記診断用エレメントが、無菌様式でパッケージされることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の診断用エレメント。
【請求項9】
前記診断用エレメントが、光学的または電気化学的に検出可能なシグナルを生成するようにデザインされていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の診断用エレメント。
【請求項10】
前記診断用エレメントが、一体化されたニードルエレメントを有するテストエレメント、テストテープまたはテストストリップとしてデザインされていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の診断用エレメント。
【請求項11】
診断用エレメントの製造方法であって、以下の工程:
(a)電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分を含有する化学的検出試薬を含む診断用エレメントを提供する工程であって、前記電離放射線に感受性である少なくとも一つの成分が、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存性またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存性の脱水素酵素である工程、および
(b)前記診断用エレメントを電離放射線、特には電子放射線または/およびガンマ線を用いて滅菌する工程
を含む製造方法。
【請求項12】
前記診断用エレメントが追加で、一体化されたまたは分離の試料収集エレメント、特にはニードルエレメントを含むことを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記製造方法が、診断用エレメントを滅菌前に保管容器の中に、特にはマガジンの中に挿入する工程を含むことを特徴とする請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
前記製造方法が追加で、滅菌前に保管容器を密封する工程を含むことを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記電子放射線の線量が、15〜35kGyの範囲、好ましくは20〜30kGyの範囲内であるか、または、前記ガンマ線の線量が、15〜35kGyの範囲、好ましくは20〜30kGyの範囲内であることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−513372(P2013−513372A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542559(P2012−542559)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069368
【国際公開番号】WO2011/070149
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】