説明

テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤、およびそれを含有する育毛剤

【課題】安全性、安定性に優れるテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤、および育毛効果、皮脂分泌抑制効果、頭皮を健康な状態へ導く効果に優れるとともに、使用後のべたつきが無い等の使用感、経時安定性のいずれにも優れる育毛剤の提供。
【解決手段】本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤は、アンズ、モモ、リンゴおよびイチゴから選ばれる一種又は二種以上のバラ科植物の果汁を含有し、さらにコンブ科のクロメの抽出物を含有することが好ましい。本発明の育毛剤は、本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤、およびそれを含有する育毛剤に関する。さらに詳しくは、安全性、安定性に優れるテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤、および化粧品、医薬部外品、医薬品として利用され得る育毛剤に関する。本発明の育毛剤は、育毛効果、皮脂分泌抑制効果、頭皮を健康な状態へ導く効果に優れ、かつ使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに経時安定性にも優れている。
【背景技術】
【0002】
毛髪の脱毛、薄毛には、栄養障害、遺伝、加齢、血行不良、性ホルモン等が関わっていると考えられている。特に、男性ホルモンの影響による男性型脱毛症は広く知られている。男性型脱毛症とは、過度の男性ホルモン作用により毛髪の軟毛化が生じ、毛周期を繰り返すうちに毛包が萎縮し繊維化して脱毛を引き起こすものであり、男性、女性どちらにも生じる。男性ホルモンであるテストステロンが、毛乳頭細胞内のテストステロン−5α−レダクターゼで還元されることによって、5α−ジヒドロテストステロンとなり、それが毛乳頭細胞核内の男性ホルモン受容体に結合して、TGF−β1が産生される。このTGF−β1が毛髪の成長を抑制することが原因で男性型脱毛症になると考えられている。また、脂漏症、前立腺肥大症等にも5α−ジヒドロテストステロンが関係していることが知られているので、テストステロン−5α−レダクターゼの活性を阻害することは、育毛、皮脂分泌抑制、ニキビ予防、前立腺肥大症の治療等に有効である。特に、男性型脱毛症の防止を目的に、テストステロン−5α−レダクターゼ活性を阻害する成分やその阻害活性を促進する成分の探索が盛んに行われてきている。
【0003】
テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害効果があるといわれている成分として、女性ホルモンであるエチニルエストラジオールが挙げられるが、女性ホルモン特有の作用を併発する可能性がある。そこで近年、安全性や安定性の面で、より優れたテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤の提案、さらにそれを使用した化粧品や医薬品等の組成物としての提案がなされてきている。例えば、テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤として、ランタナの根部の抽出物(特許文献1)、アンマロク抽出物(特許文献2)、バクモンドウ等の抽出物(特許文献3)等が提案されており、例えば特許文献2においては、アンマロク抽出物を含有する育毛剤が男性型脱毛症の予防又は改善効果を有することが開示されている。
【0004】
しかしながら、これらのテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤は、安全性の面では改善されているものの、テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害効果が十分でないばかりでなく、抽出に用いる部位・溶媒によって効果にバラツキ等を生じることがあり、阻害活性の安定性の点で十分ではなかった。また、それらテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤を応用した育毛剤においては、十分な育毛効果を得ることや頭皮を健康な状態へ導くことが困難であり、しかも、皮脂の分泌を効果的に抑制することは難しく、さらに育毛剤の使用後のべたつきが無い等の使用感や経時安定性を確保することも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−335232号公報
【特許文献2】特開2005−145902号公報
【特許文献3】特開平5−255102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安全性、安定性に優れるテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤、および育毛効果、皮脂分泌抑制効果、頭皮を健康な状態へ導く効果に優れるとともに、使用後のべたつきが無い等の使用感、経時安定性のいずれにも優れる育毛剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤について、様々な植物を用いて鋭意研究を重ねてきた。その結果、バラ科植物の果汁、特にアンズ、モモ、リンゴおよびイチゴの果汁が、安全性、安定性に優れるテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤となり得ることを見出した。また、アンズ、モモ、リンゴおよびイチゴの果汁と、コンブ科のクロメ抽出物を組み合わせることで、アンズ、モモ、リンゴおよびイチゴの果汁単独の場合に比べて、テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害作用が飛躍的に増大することを見出した。
【0008】
また、アンズ、モモ、リンゴあるいはイチゴの果汁を含有する育毛剤、あるいは、クロメ抽出物をさらに含有する育毛剤は、育毛効果、皮脂分泌抑制効果、頭皮を健康な状態へ導く効果に優れるとともに、使用後のべたつきが無い等の使用感、経時安定性のいずれにも優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、アンズ、モモ、リンゴおよびイチゴから選ばれる一種又は二種以上のバラ科植物の果汁を含有するテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤、およびコンブ科のクロメの抽出物をさらに含有するテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤に関する。
また、本発明は、これらテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤を含有する育毛剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤は、食用果実の果汁や海藻抽出物を含有するので、安全性や安定性に優れるものである。さらに、本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤を含有する育毛剤は、育毛効果、皮脂分泌抑制効果、頭皮を健康な状態へ導く効果に優れるとともに、使用後のべたつきが無い等の使用感、経時安定性のいずれにも優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤は、アンズ、モモ、リンゴおよびイチゴから選ばれる一種又は二種以上のバラ科植物の果汁を含有する。
【0012】
〔果汁〕
本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤は、アンズ、モモ、リンゴおよびイチゴから選ばれる一種又は二種以上のバラ科植物の果汁を含有する。
本発明におけるアンズ果汁とは、バラ科サクラ属のホンアンズ(Prunus armenica L.)、ホンアンズの栽培品種であるアンズ(Prunus armeniaca L.var. ansu Maxim.)、マンシュウアンズ(Prunus mandshurica Koehne)およびモウコアンズ(Prunus sibirica L.)等の果実から得られる果汁のことであり、ホンアンズ、アンズの果実から得られる果汁が特に好ましい。
【0013】
本発明におけるモモ果汁とは、バラ科サクラ属のモモ(Prunus persica (L.) Batsch.)の果実から得られる果汁のことである。
本発明におけるリンゴ果汁とは、バラ科リンゴ属のリンゴ(Malus pumila Mill.)の果実から得られる果汁のことである。
本発明におけるイチゴ果汁とは、バラ科イチゴ属の植物の果実から得られる果汁のことであり、イチゴ(Fragaria × ananassa Duch.)、チリイチゴ(Fragaria chiloensis Duch.)の果実から得られる果汁が特に好ましい。
本発明における果汁の中でも好ましくは、ホンアンズ、アンズ、イチゴあるいはチリイチゴの果実から得られる果汁であり、さらに好ましくはホンアンズ、アンズの果実から得られる果汁である。
【0014】
本発明における果汁は、果実を圧搾して得られた果汁をそのまま使用しても良く、あるいはそれをさらに濃縮した濃縮果汁を使用してもよい。また、果実を圧搾して得られた果汁に、ろ過、希釈等の処理を施した処理物を使用することも可能である。すなわち、本発明における果汁とは、果実を圧搾して得た果汁そのもの、濃縮果汁若しくはこれらの処理物をいう。なお、果実に対する処理には、水や有機溶媒による抽出は除外される。
【0015】
本発明で用いられるアンズ果汁、モモ果汁、リンゴ果汁およびイチゴ果汁としては、例えば、市販品としてグリセリンを15質量%、水を45質量%含有するアンズ果汁であるアンズ果汁PH(日油株式会社製)、グリセリンを35質量%、水を35質量%含有するモモ果汁であるHormo Fruit Peach/N(香栄興業株式会社社製)、グリセリンを30質量%、水を40質量%含有するリンゴ果汁であるHormo Fruit Apple/N(香栄興業株式会社社製)、水を40質量%含有するイチゴ果汁であるイチゴポリフェノール−L(株式会社東洋発酵製)がそれぞれ挙げられる。
【0016】
〔クロメ抽出物〕
本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤は、アンズ、モモ、リンゴおよびイチゴから選ばれる一種又は二種以上のバラ科植物の果汁とともに、コンブ科のクロメの抽出物をさらに含有していることが好ましい。
本発明に用いられるクロメ(Ecklonia kurome)は、コンブ科カジメ属に属する植物である。
本発明に用いられるクロメ抽出物は、クロメの全藻を、そのまま、もしくは乾燥させた後、各種溶媒にて抽出したものであり、抽出液そのもの、もしくはその濃縮物をいう。抽出に用いられる溶媒としては、炭化水素、エステル、ケトン、エ−テル、ハロゲン化炭化水素、水溶性のアルコ−ル類及び水等が挙げられる。中でも好ましくは水、低級アルコ−ル、多価アルコ−ルの1種または2種以上を用いて得られる抽出物であり、さらに好ましくは水、エタノ−ル、1,3−ブチレングリコ−ルの1種または2種以上を用いて得られる抽出物である。抽出に際しては、クロメの全藻を、そのまま、もしくは乾燥させた後、スライスや粉砕したものに、抽出溶媒を加え1時間以上浸漬し、ろ過することで抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、そのまま用いてもよく、あるいは溶媒留去により濃縮したり、カラムクロマトグラフィ−や溶媒分画等の処理により精製したりしてもよい。
【0017】
〔テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤〕
上記のバラ科植物の果汁、あるいは上記のバラ科植物の果汁とクロメ抽出物を含有するテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤は、医薬品、医薬部外品、食品、化粧品類(例えば、ローション、乳液、クリーム、ジェル、ヘアトニック、パック、オイル、軟膏、スプレー、貼付剤等)として利用することができ、全身的または局所的に、経口または経皮で投与される。本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤を医薬品として適用する場合は、例えば、前立腺肥大症の治療を目的として経口投与することができ、脱毛症やニキビの治療を目的として経皮投与することができる。
【0018】
〔育毛剤〕
本発明の育毛剤は、本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤、すなわち上記のバラ科植物の果汁、あるいは上記のバラ科植物の果汁とクロメ抽出物を含有するものである。本発明の育毛剤は、通常、果汁の有効分のみを0.0001〜5質量%、あるいは果汁の有効分0.0001〜5質量%とクロメ抽出物の有効分0.0001〜5質量%を含有するものである。本発明における果汁とクロメ抽出物の有効分は、乾燥質量で表わされ、実際に水分や溶媒を除去して乾燥させた残留物の質量のみならず、残留物に含まれる水分量や溶媒量を算出し、その水分量や溶媒量を減じた残留物の質量も概念的に包含される。例えば、溶媒が揮発性である場合は、溶媒を105℃〜120℃で完全に留去させ、残存した固形分の質量であり、溶媒が難揮発性である場合は、高速液体クロマトグラフィー等で溶媒量を定量し、それ以外の成分量が果汁やクロメ抽出物の有効分である。
【0019】
果汁およびクロメ抽出物の配合量は、上記のとおり、通常、それぞれ0.0001〜5質量%であり、好ましくはそれぞれ0.001〜2質量%である。それぞれの配合量が0.0001質量%未満では育毛効果、皮脂分泌抑制効果、頭皮を健康な状態へ導く効果を発揮させることが困難となることがあり、5質量%を超えると、製剤の安定性に問題が生じやすくなる。
【0020】
本発明の育毛剤は、様々な剤形にて調整することができ、例えば、ローション、乳液、クリーム、ジェル、ヘアトニック、パック、オイル、軟膏、スプレー、貼付剤等として利用することができる。本発明の育毛剤においては、化粧料や医薬品等の育毛剤に常用されている添加物を、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜配合することが可能である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0022】
〔果汁〕
アンズ果汁として、アンズ果汁PH(日油株式会社製)、モモ果汁として、Hormo Fruit Peach/N(香栄興業株式会社製)、リンゴ果汁として、Hormo Fruit Apple/N(香栄興業株式会社製)およびイチゴ果汁として、イチゴポリフェノール−L(株式会社東洋発酵製)を使用した。なお、上記アンズ果汁、モモ果汁、リンゴ果汁およびイチゴ果汁の有効分は、それぞれ40質量%、30質量%、30質量%および60質量%であった。
【0023】
〔クロメ抽出物〕
クロメの全藻を乾燥し粉砕したもの100gに500gの精製水を加えて90〜100℃で10分間抽出し、ろ過することによりクロメの抽出液を500g得た。このクロメ抽出物の有効分は6質量%であった。
【0024】
〔杏仁抽出物〕
アンズ果汁との比較対照として、アンズの種子である杏仁の抽出物を用いた。細かく刻んだ杏仁100gに500gの精製水を加えて90〜100℃で10分間抽出し、ろ過することにより杏仁の抽出液を500g得た。この杏仁抽出物の有効分は7質量%であった。
【0025】
〔アンズ抽出物〕
アンズ果汁との比較対照として、アンズ果実の抽出物を用いた。アンズ果実を乾燥し破砕したもの100gに500gの20質量%エタノ−ル水溶液を加えて室温で3日間抽出し、ろ過することによりアンズ果実の抽出液を500g得た。このアンズ抽出物の有効分は12質量%であった。
【0026】
〔モモ抽出物〕
モモ果汁との比較対照として、モモ果実の抽出物を用いた。モモ果実を乾燥し破砕したもの100gに500gの20質量%エタノ−ル水溶液を加えて室温で3日間抽出し、ろ過することによりモモ果実の抽出液を500g得た。このモモ抽出物の有効分は10質量%であった。
【0027】
〔リンゴ抽出物〕
リンゴ果汁との比較対照として、リンゴ果実の抽出物を用いた。リンゴ果実を乾燥し破砕したもの100gに500gの20質量%エタノ−ル水溶液を加えて室温で3日間抽出し、ろ過することによりリンゴ果実の抽出液を500g得た。このリンゴ抽出物の有効分は9質量%であった。
【0028】
〔イチゴ抽出物〕
イチゴ果汁との比較対照として、イチゴ果実の抽出物を用いた。イチゴ果実を乾燥し破砕したもの100gに500gの20質量%エタノ−ル水溶液を加えて室温で3日間抽出し、ろ過することによりイチゴ果実の抽出液を500g得た。このイチゴ抽出物の有効分は12質量%であった。
【0029】
〔実施例1〜6、比較例1〜6:テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害試験〕
上記の果汁、クロメ抽出物、杏仁抽出物、アンズ抽出物、モモ抽出物、リンゴ抽出物、イチゴ抽出物を用いて、下記の方法によりテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害試験を行った。
以下、試験に用いた試薬について説明する。
【0030】
<テストステロン溶液>
テストステロン(東京化成工業株式会社製)4.2mgを1,2−プロパンジオ−ル1mLに溶解してテストステロン溶液を調製した。
【0031】
<NADPH溶液>
NADPH(オリエンタル酵母工業株式会社製)25.0mgを5mMトリス塩酸緩衝液(pH7.2)25mLに溶解してNADPH溶液を調製した。
【0032】
<S−9(ラット肝ホモジネ−ト;オリエンタル酵母工業株式会社製)>
S−9は、7週令のSDラットの雄の肝臓から調製したものであり、テストステロン−5α−レダクターゼを含有している。
【0033】
以下、試験方法について説明する。
テストステロン溶液10μLに、表1に記載の各濃度(表1中の括弧内の数値はその有効分濃度(質量%)である)に精製水で調整した試料を30μL加え、さらに、NADPH溶液を420μL、S−9を40μL加えて、37℃で30分間反応させた。その後、メタノ−ル800μLを加え撹拌し、反応を停止させ、上澄みを分取し、テストステロンの残存量をHPLCにより定量した。
【0034】
テストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害率(%)は、下記の式に従い求め、結果を表1に示した。なお、試料として精製水を用い、反応をさせなかったもの、30分間反応をさせたものをそれぞれ阻害率100%、0%とした。
阻害率(%)=100−(A−B)/(A−C)×100
A:試料として精製水を用い反応をさせなかった時のテストステロンのピーク面積
B:表1に記載の各試料を用い30分間反応をさせた時のテストステロンのピーク面積
C:試料として精製水を用い30分間反応をさせた時のテストステロンのピーク面積
【0035】
【表1】

【0036】
1)アンズ果汁PH(有効分40質量%含有)、日油株式会社製
2)Hormo Fruit Peach/N(有効分を30質量%含有)、香栄興業株式会社製
3)Hormo Fruit Apple/N(有効分を30質量%含有)、香栄興業株式会社製
4)イチゴポリフェノール−L(有効分を60質量%含有)、株式会社東洋発酵製
5)クロメ抽出物(有効分を6質量%含有)
6)杏仁抽出物(有効分を7質量%含有)
7)アンズ抽出物(有効分を12質量%含有)
8)モモ抽出物(有効分を10質量%含有)
9)リンゴ抽出物(有効分を9質量%含有)
10)イチゴ抽出物(有効分を12質量%含有)
注)表中の数値は、反応溶液に加えた各試料の濃度(質量%)であり、括弧内の数値はその有効分濃度(質量%)である。
【0037】
表1の結果から、果汁のみを用いた本発明に係る実施例1〜4では、クロメ抽出物単独(比較例1)に比べて、濃度依存的に高いテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害率が認められた。さらに、アンズ果汁とクロメ抽出物を組み合わせた試料(実施例5)、イチゴ果汁とクロメ抽出物を組み合わせた試料(実施例6)では、果汁とクロメ抽出物の総有効分濃度と同じ有効分濃度のアンズ果汁単独(実施例1)、イチゴ果汁単独(実施例4)、クロメ抽出物単独(比較例1)に比べて、どの有効分濃度においても飛躍的にテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害率が増加していることが分かる。したがって、果汁とクロメ抽出物を組み合わせることによる相乗効果が認められた。
【0038】
一方、アンズの種子である杏仁の抽出物を用いた比較例2、アンズの果実の抽出物を用いた比較例3、モモの果実の抽出物を用いた比較例4、リンゴの果実の抽出物を用いた比較例5、イチゴの果実の抽出物を用いた比較例6では、果汁単独の実施例1〜4と同じ有効分濃度領域においてテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害が認められなかった。なお、表1における有効分とは、溶媒を除く残留物のことである。
【0039】
〔実施例7〜11および比較例7〜10:育毛評価、官能評価〕
上記の果汁、クロメ抽出物、杏仁抽出物、アンズ抽出物を用い、防腐剤としてフェノキシエタノールを0.3質量%配合して、表2に示すローション(育毛剤)を調製し、下記の6項目について下記評価基準により評価を行った。その結果を表2に示す。なお、表2における有効分とは、溶媒を除く残留物のことである。
【0040】
【表2】

【0041】
1)アンズ果汁PH、日油株式会社製
2)Hormo Fruit Peach/N、香栄興業株式会社製
3)Hormo Fruit Apple/N、香栄興業株式会社製
4)イチゴポリフェノール−L、株式会社東洋発酵製
【0042】
〔評価項目及び評価基準〕
(1)毛髪本数増加率
髪が薄くなったり、抜け毛が増えたり等の自覚がある10名の男性(30才〜60才)をパネラーとし、育毛剤を1日2回、12週間使用後の毛髪本数増加率(%)について下記のように算出した。
育毛剤を塗布する予定の部位の毛髪を根元から約2mmだけ残し切り、切った直後の頭皮画像をカメラで撮影し、撮影画像から育毛剤塗布前の毛髪本数を計測した。12週間後も同様にカメラで撮影し、撮影画像から12週間の育毛剤塗布後の毛髪本数を計測した。毛髪本数増加率は、育毛剤塗布前の毛髪本数に対する12週間の育毛剤塗布後の毛髪本数の割合(相対値%)で表わした。なお、表2の毛髪本数増加率は、パネラー10名の平均値である。
【0043】
(2)育毛効果
20名の男性(30才〜60才)をパネラーとし、育毛剤を1日2回、12週間使用後の毛髪の状態について下記のように官能評価を行った。
2点:抜け毛が明らかに少なくなり、毛髪が明らかに増えたと感じた場合。
1点:抜け毛がやや少なくなり、毛髪がやや増えたと感じた場合。
0点:育毛効果が見られないと感じた場合。
さらに、20名の評価を加算し、合計点を下記の基準で判定した。
◎:35点以上かつ0点を評価したパネラーが1人もいない(非常に優れた育毛効果を有する育毛剤)
○:30点以上かつ0点を評価したパネラーが1人まで(優れた育毛効果を有する育毛剤)
△:15点以上かつ0点を評価したパネラーが2人まで(わずかに育毛効果を有する育毛剤)
×:15点未満または0点を評価したパネラーが3人以上(育毛効果を有しない育毛剤)
【0044】
(3)皮脂分泌抑制効果
20名の男性(30才〜60才)をパネラーとし、育毛剤を1日2回、12週間使用後の頭皮の状態について下記のように官能評価を行った。
2点:皮脂の分泌が明らかに少なくなったと感じた場合。
1点:皮脂の分泌がやや少なくなったと感じた場合。
0点:皮脂分泌抑制効果が見られないと感じた場合。
さらに、20名の評価を加算し、合計点を下記の基準で判定した。
◎:35点以上かつ0点を評価したパネラーが1人もいない(非常に優れた皮脂分泌抑制効果を有する育毛剤)
○:30点以上かつ0点を評価したパネラーが1人まで(優れた皮脂分泌抑制効果を有する育毛剤)
△:15点以上かつ0点を評価したパネラーが2人まで(わずかに皮脂分泌抑制効果を有する育毛剤)
×:15点未満または0点を評価したパネラーが3人以上(皮脂分泌抑制効果を有しない育毛剤)
【0045】
(4)頭皮を健康な状態へ導く効果
20名の男性(30才〜60才)をパネラーとし、育毛剤を1日2回、12週間使用後の頭皮の状態について下記のように官能評価を行った。
2点:頭皮が明らかに健康であると感じた場合。
1点:頭皮がやや健康であると感じた場合。
0点:頭皮を健康な状態へ導く効果が見られないと感じた場合。
さらに、20名の評価を加算し、合計点を下記の基準で判定した。
◎:35点以上かつ0点を評価したパネラーが1人もいない(非常に優れた頭皮を健康な状態へ導く効果を有する育毛剤)
○:30点以上かつ0点を評価したパネラーが1人まで(優れた頭皮を健康な状態へ導く効果を有する育毛剤)
△:15点以上かつ0点を評価したパネラーが2人まで(わずかに頭皮を健康な状態へ導く効果を有する育毛剤)
×:15点未満または0点を評価したパネラーが3人以上(頭皮を健康な状態へ導く効果を有しない育毛剤)
【0046】
(5)使用後のべたつき
20名の男性(30才〜60才)をパネラーとし、洗髪した後に育毛剤を使用して10分後の頭皮の感触について下記のように判定した。
2点:べたつきが無いと感じた場合。
1点:肌がややべたつくと感じた場合。
0点:肌が非常にべたつくと感じた場合。
さらに、20名の評価を加算し、合計点を下記の基準で判定した。
◎:35点以上かつ0点を評価したパネラーが1人もいない(非常に優れた使用後のべたつきが無い育毛剤)
○:30点以上かつ0点を評価したパネラーが1人まで(優れた使用後のべたつきが無い育毛剤)
△:15点以上かつ0点を評価したパネラーが2人まで(わずかに使用後のべたつきがある育毛剤)
×:15点未満または0点を評価したパネラーが3人以上(使用後のべたつきがある育毛剤)
【0047】
(6)経時安定性
育毛剤を透明ガラス容器に密封して0℃、25℃、40℃でそれぞれ3ヶ月間保存し、その外観を観察して、下に示す2段階で評価した。
○:経時安定性良好(いずれの温度においても外観の変化がない。)
×:経時安定性不良(いずれかの温度において澱(おり)、沈殿を生じるか、または分離する。もしくは変色が著しい。)
【0048】
実施例7〜11の結果から、本発明による果汁単独あるいはアンズ果汁とクロメ抽出物を組み合わせた育毛剤は、育毛効果、皮脂分泌抑制効果、頭皮を健康な状態へ導く効果に優れ、かつ使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに、製剤の経時安定性も良好であることが理解できる。
一方、比較例4〜7は、使用後のべたつきが無い等の使用感に優れ、製剤の経時安定性も良好なものの、十分な育毛効果、皮脂分泌抑制効果、頭皮を健康な状態へ導く効果は見られなかった。
さらに、毛髪本数増加率の点で実施例と比較例を比較すると、実施例がより高く優れた育毛剤であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンズ、モモ、リンゴおよびイチゴから選ばれる一種又は二種以上のバラ科植物の果汁を含有するテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤。
【請求項2】
コンブ科のクロメの抽出物をさらに含有する請求項1記載のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のテストステロン−5α−レダクターゼ活性阻害剤を含有する育毛剤。

【公開番号】特開2012−229167(P2012−229167A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97148(P2011−97148)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】