説明

テストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤

【目的】 安全で効果の高いテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤を提供する。
【構成】 ブラジル生薬パタデバカ、カジュエイロ、ジャトバ、スマロクサ、アンギコカスカ、ムルング、パリカラナの抽出物、あるいはタイにおいて生薬として使用されているカバノキ科のベチュラ アルノイデス、アカネ科のラシアンサス プベルラスの植物の抽出物のうち1種又は2種以上を有効成分とするテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤、及び該生薬あるいは植物の抽出物を1種又は2種以上含有することを特徴とする医薬組成物又は化粧料組成物。
【効果】 本発明の抽出物が、テストステロンを5α−ジヒドロテストステロンに還元させるテストステロン−5α−レダクターゼの活性を阻害する。従って、5α−ジヒドロテストステロンによる種々の疾患、例えば、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症等の予防又は治療に極めて効果が高いものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症等の予防又は治療に有効で、かつ副作用のないテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤及びその用途に関する。
【0002】
【従来の技術】テストステロン−5α−レダクターゼはテストステロンを5α−ジヒドロテストステロンに還元する酵素であり、男性ホルモンであるアンドロゲンの代謝に関与している。このアンドロゲンの過剰分泌は、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症等の疾患につながることが知られている。また、このような疾患において、毛根、皮脂腺、前立腺等の標的器官でのテストステロン−5α−レダクターゼ活性が昂進しており、そのためテストステロンが5α−ジヒドロテストステロンに過剰に還元され、この5α−ジヒドロテストステロンがアンドロゲンとして働き、このような疾患をもたらすと考えられている。従って、これまでにこれらの疾患に対する薬剤としていくつかのテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような阻害剤は、これまでにこれらの疾患に対して一応の効果は認められているが、更に有効でかつ安仝性の高い薬剤の開発が望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、優れたテストステロン−5α−レダクターゼ阻害作用を有する物質を見い出すべく種々の植物抽出物について鋭意にスクリーニングを行った。その結果、ブラジルにおいて生薬として知られるパタデバカ(Pata devaca)、カジュエイロ(Cajueiro)、ジャトバ(Jatoba)、スマロクサ(Suma roxa)、アンギコカスカ(Angico casca)、ムルング(Mulungu)、パリカラナ(Paricarna)及びタイにおいて生薬として使用されているベチュラ アルノイデス、ラシアンサスプベルラスから得られる抽出物が、強いテストステロン−5α−レダクターゼ阻害活性を持ち、又、安全性が極めて高いことを見い出し、更にこれらの抽出物を有効成分として含有する医薬組成物及び化粧料組成物が、テストステロン−5α−レダクターゼ昂進に起因する疾患に有用であることを見い出し、本発明を完成した。
【0005】即ち、本発明は、パタデバカ、カジュエイロ、ジャトバ、スマロクサ、アンギコカスカ、ムルング、パリカラナと称されている生薬の抽出物、あるいはベチュラ アルノイデス、ラシアンサス プベルラスの植物の抽出物のうち1種又は2種以上を含有するテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤を提供するものである。また、本発明は、上記生薬あるいは植物の抽出物を含有するテストステロン−5α−レダクターゼ活性昂進に起因する疾患の予防及び治療に有用な医薬組成物及び化粧料組成物を提供するものである。
【0006】本発明で用いた各植物は、いずれも生薬として長い歴史の間人類に受け入れられてきたものであり、安全性には全く問題がない素材である。例えば、パタデバカは、糖尿病等、カジュエイロは、糖尿病等、ジャトバは、気管支炎、百日咳、淋病、泌尿器疾病等、スマロクサは、発疹、百日咳、リューマチ、梅毒等、アンギコカスカは、下痢、赤痢、子宮出血、気管支炎等、ムルングは、神経興奮、不眠症、噛息、胆嚢炎等、パリカラナは、喀血、潰瘍、痔、壊血病、淋疾等の治療薬としてブラジルで広く使用されている。また、ベチュラ アルノイデス及びラシアンサス プベルラスは、強壮剤としてタイで広く使用されている。しかし、これらの生薬あるいは植物から得られる抽出物がテストステロン−5α−レダクターゼ阻害作用を有することは全く知られていなかった。
【0007】本発明において使用するブラジル生薬は、次のような植物を原料植物とするものである。パタデバカはマメ科の植物バウヒニア フォルティフィカタ(Bauhinia foruficata)あるいはバウヒニア アキュレアタ(Bauhinia aculeata)より作られ、カジュエイロはウルシ科の植物アナカルディ コシド(Anacardium cocid)あるいはスポンディアス ルテア(Spondias lutea)より、ジャトバはマメ科の植物ヒメナエア コウルバリル(Hymenaea courbaril)より作られている。また、スマロクサはスミレ科の植物アンチエテア サルタリス(Anchietea salutaris)から、アンギコカスカはマメ科の植物ピプタデニア ペレグリナ(Piptadenia peregrina)、ピプタデニア リギダ(Piptadenia rigida)、ピプタデニアコルブリナ(Piptadenia colubrina)、ピプタデニア マクロカルパ(Piptadenia macrocarpa)あるいはピプタデニア ファルカタ(Piptadenia falcata)から作られ、ムルングはマメ科の植物エリスリナ ムルング(Erythrina mulungu)、エリスリナ クリスタガリ(Erythrina crista−galli)あるいはエリスリナ コラロデンドロン(Erythrina corallodendron)から作られる。更に、パリカラナはマメ科の植物ストリフォデンドロン バルバチマオ(Stryphnodendron barbatimao)、ストリフォデンドロン プルケリマム(Stryphnodendron pulcherrimum)、ミモザ ヴィルギナリス(Mimosa virginalis)、アカシア アドストリンゲンス(Acaciaadstringens)あるいはアカシア ヴィルギナリス(Acaciavirginalis)より作られる。これらの生薬は、ブラジル生薬商より入手できる。
【0008】本発明において使用する生薬あるいは植物の抽出物は、市販(ブラジル生薬商あるいはタイ生薬商より入手可能)の生薬を水系又は有機系溶媒で抽出することにより得られる。使用する溶媒は、有効成分が効果的に抽出される溶媒であれば特に限定されるものではないが、水、アセトン、又はメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、もしくはそれらの混液、酢酸エチル等を用いるのが好ましい。
【0009】抽出に際しては、前記生薬をそのまま溶媒で抽出して得ることもできるが、抽出効率を高めるためには、これらの原料を細かく裁断してから溶媒で抽出することが望ましい。抽出は、細かく裁断した原料1gに対して、5〜100ml、好ましくは10〜20mlの溶媒を用い、1日から1か月間、好ましくは2〜5日間、2〜4回に分けて室温で行うことが望ましい。
【0010】また、抽出物中の有効成分の濃度を高めるために、所望により、得られた抽出物を更に、濃縮、液液分配、吸着クロマトグラフィー、順相もしくは逆相クロマトグラフィー等の手段に付すことも可能である。
【0011】本発明の上記抽出物をテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤として使用するには、上記のようにして得られる抽出物を単独で用いてもよいが、2種以上混合して使用することも可能である。
【0012】本発明において、医薬組成物とは、テストステロン−5α−レダクターゼ活性の昂進に起因する種々の疾患、例えば、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症等の予防及び治療に有効な医薬組成物であり、経口投与剤として、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、細粒剤として、また、非経口投与剤としては、軟膏剤、坐剤等として用いることができる。また、投与量は、患者の症状、年齢、反応に応じて投与することができ、例えば、成人に対する1回の投与においては、1〜1000mg、より好ましくは10〜100mgの生薬あるいは植物の抽出物を含むカプセル剤、あるいは錠剤を服用することができる。
【0013】本発明において、化粧料組成物とは、テストステロン−5α−レダクターゼ活性の昂進に起因する種々の症状、例えば、男性型脱毛症及びアクネ等の予防に有効な化粧料組成物であり、ローション、乳液、クリーム、パック、石鹸等として用いることができる。
【0014】また本発明の医薬組成物及び化粧料組成物は、化粧品、医薬品及び医薬部外品等に一般に用いられている成分、例えば、油性成分、界面活性剤、低級アルコール、保湿剤、防腐剤、殺菌剤、色剤、粉末、香料、水溶性高分子、緩衝剤等をその剤形に合わせ、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜配合することにより調製される。
【0015】本発明のテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤の化粧品及び医薬品中の上記抽出物の配合量は、その剤形等を考慮して定めることが好ましいが、一般的には上記抽出物を原材料換算で0.01〜50重量%、好ましくは、0.1〜20重量%程度とすれば良い。
【0016】
【作用】本発明の有効成分である上記抽出物が、5α−レダクターゼ阻害活性を有することにより、テストステロンから5α−ジヒドロテストステロンへの変換を抑制する。従って、ジヒドロテストステロンの生成過剰に基づく種々の疾患、即ち、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症等の予防、治療剤として有効である。
【0017】次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
実施例1 各種生薬抽出物の調製(1)生薬(パタデバカ、カジュエイロ、ジャトバ、スマロクサ、アンギコカスカ、ムルング及びパリカラナ(ブラジル生薬商より入手))各10gを細かく裁断し、50%エタノール100mlを加えて室温下、48時間抽出した。濾過により固形物を除いた後、抽出液を集めて減圧濃縮により溶液を留去し、抽出物を得た。各々の抽出物の収量は、パタデバカ(抽出物1)0.61g、カジュエイロ(抽出物2)1.09g、ジャトバ(抽出物3)1.00g、スマロクサ(抽出物4)1.03g、アンギコカスカ(抽出物5)1.73g、ムルング(抽出物6)0.47g、パリカラナ(抽出物7)2.69gであった。
【0018】実施例2 各種生薬抽出物の調製(2)生薬(ベチュラ アルノイデス及びラシアンサス プベルラス(タイ生薬商より入手))各10gを細かく裁断し、50%メタノール100mlを加えて室温下、48時間抽出した。濾過により固形物を除いた後、抽出液を集めて減圧濃縮により溶液を留去し、抽出物を得た。各々の抽出物の収量は、ベチュラ アルノイデス(抽出物8)1.13g、ラシアンサス プベルラス(抽出物9)1.25gであった。
【0019】実施例3 テストステロン−5α−レダクターゼ阻害活性の測定9週令のSD系雄性ラットを屠殺脱血して取り出した肝臓にその3倍量の抽出液(250mM ショ糖、1mM DTT及び1mM EDTAを含有する100mM リン酸緩衝液、pH6.5)を加えてホモジナイズし、ガーゼで濾過して得た濾液を酵素溶液とした。エタノールに10mMになるように溶解させたテストステロン15μlに対し、50mM NADPH30μl、0.2M リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)1.5ml、酵素溶液15μl及び適当量の各抽出物を加えて、37℃で1時間反応させた。反応後2mlの酢酸エチルで反応を停止させると共に、反応生成物を抽出した。次いで酢酸エチルを窒素気流下で除去し適当量の酢酸エチルに溶解してから、ガスクロマトグラフィーにて反応量を測定した(カラムOV−17(3mmφ、1.5m)、カラム温度220℃、検出器FID)。対照には、50%エタノールを用いた。対照の反応率を100%(阻害率0%)とし、上記実施例の各抽出物を加えた時の阻害率を算出した。なお、今回調製した酵素溶液を用いて反応を行った場合、テストステロンはジヒドロテストステロン、さらにアンドロスタンジオールへと代謝されるため、阻害率は次式
【数1】により計算した。
【0020】
【数1】


【0021】この測定方法で、上記実施例の各抽出物について、種々の濃度でテストステロン−5α−レダクターゼ阻害活性を測定した。結果を第1表に示す。本発明の抽出物はいずれも、実用に十分なテストステロン−5α−レダクターゼ阻害活性を示した。
【0022】
【表1】


【0023】実施例4 育毛評価C57BLマウスの背毛部をバリカンと電気カミソリを用い剃毛した。翌日から毎日2%テストステロン溶液と上記実施例の各抽出物の70%エタノール溶液を塗布し、毛の再生過程を観察した。コントロール群には70%エタノールのみを塗布した。塗布から20日目の再生毛の割合を第2表に示す。本発明の抽出物はいずれも、実用化に充分な発毛効果を示した。
【0024】
【表2】


【0025】
実施例5 クリームの製造〔処方〕
A 抽出物1 0.05g 精製水 5.50gB 3−サクシニルオキシグリチルレチン酸 第二ナトリウム 0.05gC スクワラン 10.00g ミリスチン酸オクチルドデシル 8.00g マイクロクリスタリンワックス 4.00g ベヘニルアルコール 3.00g 親油型モノステアリン酸グリセリン 2.50g モノステリン酸ポリオキシエチレン ソルビタン(20E.O.) 2.50gD 1,3−ブチレングリコール 10.00g パラオキシ安息香酸メチル 0.10g 精製水 54.00gE 香料 0.30g
【0026】〔製法〕80〜85℃に加熱したDにBを加え、これに80〜85℃に加熱溶解したCをホモミキサーで撹拌しながら加え、均一に乳化した。これを室温で徐々に約5℃に冷却し、E及びAを加えた。さらに撹拌を続けながら、室温まで冷却し、クリームを製造した。このようにして製造したクリームは、アクネ等の皮膚障害に優れた効果を示した。
【0027】実施例6 シャンプーの製造抽出物2 0.1%ヤシ油 14%オリーブ油 3%ヒマシ油 3%水酸化カリウム 4.7%グリセリン 2%エタノール 4%ヘキサメタリン酸ナトリウム 1%香料 0.2%蒸留水 全量100%とする。
このようにして製造したシャンプーは、ふけ、かゆみ、抜け毛等の症状に有効に作用した。
【0028】実施例7 カプセル剤の製造乳糖 40mgステアリン酸マグネシウム 2mg抽出物3 5mgデキストリン 153mg上記の割合で抽出物3、乳糖及びデキストリンを混合し、打錠したのち粉砕し、ステアリン酸マグネシウムを混ぜ、混合物を2号カプセルに充填した。このカプセルは、アクネ等の皮膚障害に優れた効果を示した。
【0029】
【発明の効果】パタデバカ、カジュエイロ、ジャトバ、アンギコカスカ、ムルング、パリカラナ、ベチュラ アルノイデス及びラシアンサス プベルラスの各抽出物は、テストステロン−5α−レダクターゼを著しく阻害する。従って、本発明のこれらの生薬あるいは植物より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を含有するテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤は、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症等の予防又は治療に極めて効果が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ブラジル生薬パタデバカ、カジュエイロ、ジャトバ、スマロクサ(Sumaroxa)、アンギコカスカ、ムルング、パリカラナの抽出物、あるいはタイにおいて生薬として使用されているカバノキ科のベチュラ アルノイデス(Betula alnoides)、アカネ科のラシアンサス プベルラス(Lasianthus puberulus)の植物の抽出物のうち1種又は2種以上を有効成分とするテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤。
【請求項2】 請求項1記載の生薬あるいは植物の抽出物を1種又は2種以上含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】 請求項1記載の生薬あるいは植物の抽出物を1種又は2種以上含有することを特徴とする化粧料組成物。

【公開番号】特開平7−258106
【公開日】平成7年(1995)10月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−92820
【出願日】平成6年(1994)3月25日
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)