説明

テストパターン印刷方法

【課題】インキ、水の供給条件等の各種条件の調整を容易に行なうことができるようにするためのテストパターン印刷方法及びテストパターン画像の提供。
【解決手段】オフセット印刷機のインキブレードの区画境界に対応する位置で紙のフィード方向に対して平行な方向に形成される複数の境界で区画される複数の平行方向区画領域A〜A24を有し、前記平行方向区画領域の各領域内に、80〜99%の網点面積率を有する網点が形成される大網点領域aと、1〜20%の網点面積率を有する網点が形成される小網点領域bと、を少なくとも有する、テストパターン画像を印刷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷において使用するテストパターン画像及びその印刷方法、並びに、これらのテストパターン画像の印刷結果に基づき印刷条件を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷いわゆる平版印刷方式に使用される印刷版は、文字や絵柄に対応する親油性の画像部と空白部に対応する親水性の非画像部とから形成されている。親水性の非画像部へ水を付着させた後に、親油性の画像部へ油脂性インキを付着させて、インキと水との相互反発作用を利用して紙面へと画像の印刷がなされる。
【0003】
オフセット印刷機は、まず湿し水供給ローラにより刷版に水を付けた後、インキ供給を供給するインキローラによって版の画像部へ油脂性インキを付着させ、つぎに当該版の油脂性インキをブランケットに転移し、該ブランケットと圧胴との間へ印刷用紙を通過させることにより、印刷が行なわれる(例えば、特許文献1)。
【0004】
オフセット印刷の湿し水として、磁気処理及び光触媒処理がされた水が使用できることが報告されている(特許文献2)。本発明によれば、従来、湿し水の必須添加物とされてきたイソプロピルアルコール(IPA)や、エッチ液等の化学薬品を添加しなくとも、湿し水として使用できるのみならず、更に、印刷の品質も従来の化学薬品を添加した湿し水を用いた場合と比較して向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−42602号公報
【特許文献2】国際公開2008/096508号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オフセット印刷では、インキ供給量、インキローラの調整、湿し水供給量、湿し水供給ローラ調整等の各種値が適切に設定されていなければ、結果的に印刷物の紙面上に意図する色を出せないといった問題が発生する。しかし、問題が発生したとしてもオフセット印刷においては様々な要因が絡み問題発生にいたるため、オフセット印刷条件の如何なる部分を調整すればよいのかは簡単に突き止めることができない。
【0007】
本発明は、オフセット印刷の基本であるインキ、水の供給条件等の各種条件の調整を容易に行なうことができるようにするため、如何なる部分の調整が必要か判断できるようなテストパターン印刷方法及びテストパターン画像を提供することを目的とする。併せて、当該テストパターンを使用したオフセット印刷条件の調整方法を提供することを目的とする。
【0008】
ところで、磁気処理及び光触媒処理がされた水を湿し水として用いた場合には、特にインキと湿し水の供給のバランスが重要となる。そこで、本発明は、磁気処理及び光触媒処理がされた水を湿し水として用いた場合において、印刷条件の調整が容易になるテストパターン及び当該テストパターンを用いた印刷方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(1)は、インキつぼ(110)と、前記インキつぼから供給されるインキを受けて練る複数のインキローラ(120)と、前記インキつぼから前記インキローラに対するインキ供給量を調整するための複数のインキブレード(131a〜t)を有するインキブレードユニット(130)と、
水舟(140)と、前記水舟から湿し水を供給するための複数の湿し水供給ローラ(150)と、
前記湿し水供給ローラから供給される湿し水、及び、前記インキローラにより混練されたインキが供給される刷版が表面に形成される版胴(160)と、
を有するオフセット印刷機を用いてテストパターン画像を印刷する方法において、
前記オフセット印刷機の前記インキブレード(131a〜t)の区画境界に対応する位置で紙のフィード方向に対して平行な方向に形成される複数の境界で区画される複数の平行方向区画領域(A〜A24)を有し、
前記平行方向区画領域の各領域内に、80〜99%の網点面積率を有する網点が形成される大網点領域(a)と、1〜20%の網点面積率を有する網点が形成される小網点領域(b)と、を少なくとも有する、
テストパターン画像を印刷する印刷工程を有することを特徴とする、テストパターン印刷方法である。
【0010】
本発明(2)は、前記印刷工程において、
紙のフィード方向に対して垂直方向に形成される境界で区画される垂直方向区画領域(B)を有し、
前記垂直方向区画領域内に、40〜60%の網点面積率を有する網点が形成される中網点領域(c)を少なくとも有する、
テストパターン画像を印刷することを特徴とする、前記発明(1)のテストパターン印刷方法である。
【0011】
本発明(3)は、前記発明(1)又は(2)の印刷方法により得られた印刷物の平行方向区画領域(A)に形成されている、大網点領域(a)及び小網点領域(b)の網点面積率を測定してインキ供給量の異常を検出し、前記異常に基づいて前記平行方向区画領域に対応するインキブレード(131a〜t)の調整を行なう調整工程を有することを特徴とする、オフセット印刷条件の調整方法である。
【0012】
本発明(4)は、前記発明(2)の印刷方法により得られた印刷物の中網点領域(c)の状態を観察することにより前記垂直方向の均一性の異常を検出し、前記異常に基づいて、インキブレードユニット(130)の調整を行なう調整工程を有することを特徴とする、オフセット印刷条件の調整方法である。
【0013】
本発明(5)は、前記発明(1)又は(2)の印刷方法により得られた印刷物の前記大網点領域及び前記小網点領域の網点を紙のフィード方向に対して複数点で測定して断続的なインキ供給量の調整異常を検出し、前記異常に基づいてインキブレードユニット(130)を調整する調整工程を有することを特徴とする、オフセット印刷条件の調整方法である。
【0014】
本発明(6)は、オフセット印刷に用いられるテストパターン画像において、
オフセット印刷機のインキブレードの区画境界に対応する位置で紙のフィード方向に対して平行な方向に形成される複数の境界で区画される複数の平行方向区画領域(A〜A24)を有し、
前記平行方向区画領域の各領域内に、80〜99%の網点面積率を有する網点が形成された大網点領域(a)と、1〜20%の網点面積率を有する網点が形成された小網点領域(b)と、
を少なくとも有することを特徴とする、テストパターン画像である。
【0015】
本発明(7)は、紙のフィード方向に対して垂直方向に形成される境界で区画される垂直方向区画領域(B)を有し、
前記垂直方向区画領域内に、40〜60%の網点面積率を有する網点が形成された中網点領域(c)
を少なくとも有することを特徴とする、前記発明(6)のテストパターン画像である。
【0016】
本発明(8)は、前記テストパターン画像を紙のフィード方向に対する中間地点で2分した場合に、
紙のフィード方向上流側における、前記大網点領域(a)に対する前記小網点領域(b)の面積比が、
紙のフィード方向下流側における、前記大網点領域(a)に対する前記小網点領域(b)の面積比と、同程度であることを特徴とする、前記発明(6)又は(7)のテストパターン画像である。
【0017】
本発明(9)によれば、前記発明(6)〜(8)のいずれか一つのテストパターン画像を印刷するための親油性の画像部と親水性の非画像部とが形成されている刷版である。
【0018】
以下、本明細書において使用する各用語の意味を説明する。ここで、「インキブレード」とは、一つのインキブレード単位を意味する。また「インキブレードユニット」とは、前記インキブレードの集合した全体を意味する。「インキブレードの区画境界に対応する位置で」とは、インキブレードユニットと紙面を重ね合わせたときにインキブレードの区画の境界部分が存在する位置を意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明(1)、(6)、(9)によれば、インキブレード毎に対応する領域で区分された平行方向区画領域を有することにより、インキブレードの何れのインキブレードを調整すれば、印刷の問題を解決できるかが判断できるという効果を奏する。
【0020】
本発明(2)、(7)によれば、垂直方向区画領域が形成されていることによって、フィード方向に対して垂直方向の均一性を評価することが可能となる。特に、中網点領域を有することにより、厳密には紙面上の網点の面積率を測定器で計測する必要があるが、網点のムラが色味に反映されやすく、肉眼で的一性の悪さを検知することが出来るので容易に垂直方向の均一性評価することができる。
【0021】
本発明(3)によれば、本発明に係るテストパターン印刷結果によって、調整が必要なブレードを容易に特定することができるので、印刷条件を容易に調整することが可能となる。
【0022】
本発明(4)によれば、本発明に係るテストパターン印刷結果によって、垂直方向の均一性を容易に評価でき、更に、調整の必要なインキブレードを容易に特定することができるため、印刷条件を容易に調整することが可能となる。
【0023】
本発明(5)によれば、本発明に係るテストパターン印刷結果によって、断続的なインキ供給の不良を特定し、更に対応するインキブレードを特定することができるため、印刷条件を容易に調整することが可能となる。
【0024】
本発明(8)によれば、紙面上のインキ供給量の分布の極端な偏りを解消することができるため、実際の印刷におけるインキ供給態様と近似した条件に設定できるため、オフセット印刷条件の過度の調整を要求しないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、オフセット印刷に用いられるオフセット印刷機の概略構成図である。
【図2】図2は、印刷ユニット1の内部の構造を示す概略構成図である。
【図3】図3は、インキブレードユニット130の概略構成を示した図である。
【図4】図4は、磁気処理装置及び光触媒装置を有する湿し水製造装置20の概略構成図である。
【図5】図5は、本発明に係るテストパターン画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るテストパターン印刷方法は、大網点領域及び小網点領域を形成したテストパターン画像を印刷することによって、オフセット印刷における調整の必要な部位の特定に役立てることができ、印刷条件の調整を容易にする。
【0027】
本発明に係るテストパターン印刷方法では、オフセット印刷機を用いてテストパターンを印刷する。図1は、オフセット印刷に用いられるオフセット印刷機の概略構成図である。通常、オフセット印刷機では、印刷ユニット1が複数設けられている。当該印刷ユニットの数は印刷の原色数にあわせて決定され、図1で示した一般的な構成のオフセット印刷機では、墨(ブラック)インキ用の印刷ユニット1(B)、シアンインキ用の印刷ユニット1(C)、マゼンタインキ用の印刷ユニット1(M)、イエローインキ用の印刷ユニット1(Y)が設けられる。尚、ここでは、4つのユニットを有するオフセット印刷機を例に挙げたが、当該ユニット数には特に限定されず、原色を4つ以上使用する場合には、その数にあわせてユニットが増設される。
【0028】
オフセット印刷は、上流側に設置された給紙装置2と、印刷ユニット群の下流側に任意で設置されるニス引きユニット3と、乾燥装置4と、排紙装置5と、を有する。給紙装置2から供給された紙が各印刷ユニットで各原色の画像が印刷された後に、任意でニス引きユニット3に送られて必要に応じてニスを塗布する。その後、乾燥装置4で紙面上を乾燥させた後に、排紙装置5に送られる。
【0029】
図2は、印刷ユニット1の内部の構造を示す概略構成図である。印刷ユニット1は、インキ供給系として、インキつぼ110と、前記インキつぼから供給されるインキを受けて練る複数のインキローラ120と、前記インキつぼから前記インキローラに対するインキ供給量を調整するためのインキブレードユニット130とを有する。インキローラ120は、インキつぼ110から供給されるインキを受けるインキフォームローラ121と、前記インキフォームローラから受けたインキを練る複数のローラで構成される練りインキローラ123とを有する。また、印刷ユニット1は、湿し水供給系として、水舟140と、前記水舟から湿し水を供給するための複数の湿し水供給ローラ150とを有する。また、印刷ユニット1は、前記湿し水供給ローラから供給される湿し水、及び、前記インキローラにより混練されたインキが供給される刷版が表面に形成される版胴160を有する。
【0030】
版胴160と隣接して、ブランケット胴170が設けられている。またブランケット胴170と隣接して、圧胴180が設けられている。
【0031】
図3は、インキブレードユニット130の概略構成を示した図である。ここで、図3(a)は図2の上側の視点から書いた平面図であり、図3(b)は図2と同様の視点から書いた拡大側面図である。インキブレードユニット130は、インキつぼ110と、インキフォームローラ121と間に形成されている。インキブレードユニット130は、複数のインキブレード131a〜tを有している。このようにインキブレードは、複数存在するためこれらの間に区画境界が形成される。また一つのインキブレードは幅w(メーカにもよるが、例えば35mm程度)を有する。当該インキブレードは、それぞれ独立してインキつぼ110に対して上下方向に回動可能に接続されており、サーボモータ等によってインキローラ120とインキブレードの隙間を調節できるように構成されている。
【0032】
ここで、上記の一般的な装置を用いた場合のオフセット印刷の原理を説明する。
インキつぼ110に供給されたインキは、インキブレードユニット130を介してインキフォームローラ121に供給される。この際に、インキブレードユニット130は、インキブレードごとにインキ供給量を調整する。インキブレードユニット130から供給されたインキは練りインキローラ121で練られて、版胴160に供給される。一方、湿し水系においては、湿し水が水舟140から湿し水供給ローラ150により版胴160に供給される。版胴160の表面に設けられている刷版上には親油性の画像部と親水性の非画像部とが形成されており、当該刷版上に湿し水が供給され、更に、インキが供給されて親油性の画像部に乗り、原色ごとの画像を形成する。当該刷版に形成された画像は、ブランケット胴170に転写されて、更に、当該ブランケット胴170と圧胴180の間を通過する紙の表面上に印刷される。当該紙は、渡し胴により印刷ユニット間を移動する。
【0033】
上記の湿し水として、磁気処理装置及び光触媒装置を有する湿し水製造装置により製造された湿し水を使用することが好適である。当該装置を用いて製造した湿し水によれば、イソプロプロピルアルコール(IPA)や、エッチ液を添加しなくてもオフセット印刷ができる。しかし、上記の湿し水を用いた場合、オフセット印刷条件の厳密な調整が必要となるので設定の難易度が高まる。したがって当該湿し水を用いた場合には、本発明に係るテストパターン印刷方法を用いて、テスト印刷を行ない印刷条件の設定を効率的に行なうことが好適である。
【0034】
図4は、磁気処理装置及び光触媒装置を有する湿し水製造装置20の概略構成図である。湿し水製造装置20は、少なくとも、水が通過可能な流路Paと、前記流路内を通過する水に対して磁気処理を施す磁気処理装置23、及び、前記流路内を通過する水に対して光触媒処理を施す光触媒装置24とを有する。また、当該装置20内の流路を循環させるためにポンプ21を設けることが好適である。前記構成に加えて、湿し水製造装置20は、水から気体を分離するための気水分器26、フィルタ22、流量計25等を更に有していてもよい。湿し水製造装置20は、オフセット印刷機Oの貯水タンクTに取り付けられて使用される。尚、湿し水製造装置としてはWO2008/096508に記載されている装置を使用することが好適である。
【0035】
当該タンクから水を循環して処理される。磁気処理及び光触媒処理を施されることによって、当該処理の相乗効果によってオフセット印刷が可能な湿し水となる。より詳細には、貯水タンクT内に、水道水等の水を導入して、当該水をポンプ21によりくみ上げて流路Pa内を循環させる。はじめに、フィルタ22を通過して、大きなゴミを除去する。続いて、磁気処理装置23を通過して、磁気処理が施され、その後、光触媒処理装置24を通過して光触媒処理が施される。続いて、気水分器26を通過して、水に溶け込んだ気体を分離除去する。その後、再度磁気処理装置23を通過して磁気処理が施される。この際に、流量計25により流量を計測して、磁気処理が適切に行なわれる流速になるように管理することが好適である。湿し水製造装置20により処理された水は、各印刷ユニットの水舟140に送られて、湿し水として使用される。貯水タンクTの水(例えば、水道水)は、10〜15℃の恒温に保たれていることが好適であり、8〜12℃の恒温に保たれていることがより好適である。装置内の水流量は、10〜50L/minが好適であり、20〜40L/minがより好適であり、27〜35L/minが更に好適である。
【0036】
《テストパターン画像》
本発明に係るテストパターン印刷方法では、オフセット印刷により例えば図5に示すテストパターン画像を印刷する。すなわち、当該テストパターン画像は、平行方向区画領域Aを有し、当該平行方向区画領域Aの各領域内には大網点領域(a)と、小網点領域(b)とが形成されている。
【0037】
平行方向区画領域Aは、複数形成されており(A〜A24)、オフセット印刷機のインキブレードの区画境界に対応する位置で紙のフィード方向に対して平行な方向に形成される複数の境界で区画されている。すなわち、平面方向区画領域Aは、インキブレードの幅と同程度の幅wを有している。このようにして、インキブレードごとに領域を区画することによって、どのインキブレードとの関連性が強い部分であるかが明確になる。また、当該区画領域は明確な境界線が形成されている必要はなく、領域が目視で認識できる程度の境界が形成されていれば足りる。
【0038】
大網点領域(a)は80〜99%の網点面積率を有する網点が形成される領域であり、小網点領域(b)は1〜20%の網点面積率を有する網点が形成される領域である。これらの網点領域が、上記の平行方向区画領域内に形成されていることによって、特に網点のつぶれの発生しやすい高面積率を有する網点と、特に、着肉不良の発生しやすい低面積率を有する網点の状態を確認することができるため、オフセット印刷の条件が適切な条件に設定されているかが判定できる。更に、印刷物上の当該網点を測定することにより、関連性の強いインキブレードが明らかになり、調整が容易となる。
【0039】
大網点領域(a)の網点面積率は、90〜99%が好適であり、97〜98%がより好適である。当該好適範囲の網点面積率に設定することにより、印刷条件の調整不具合を検知し易くなる。小網点領域(b)の網点面積率は、1〜10%が好適であり、2〜3%がより好適である。当該好適範囲の網点面積率に設定することにより、印刷条件の調整不具合を検知し易くなる。尚、テストパターン画像における網点面積占有率は、印刷物の網点面積率ではなく、理論上の網点面積率を意味する。
【0040】
尚、大網点領域(a)及び小網点領域(b)の網点面積は、網点の理論値が、前記範囲内のいずれか一の値に形成されるものであることが好適である。このように単一の値を有する大網点領域(a)及び単一の値を有する小網点領域(b)が、区画領域内に形成されていることによって、印刷のムラを判定し易くなる。
【0041】
本発明に係るテストパターン画像において、前記大網点領域(a)と、前記小網点領域(b)のフィード方向の長さが、一本のインクローラの外周の3倍以上の長さを有することが好適である。このような構成とすることによって、インクローラから版面に対して、インキ量が断続的に均一に供給されているか否かが確認できる。例えば、フィード方向に対して複数点で紙面上の網点を測定して、フィード上流側の網点が、下流側の網点と比較して高い値を示す場合には、上流側の網点の太りが大きく、下流側の網点では太りが少なくなることになり、インキの供給量が不足していることが予想できる。
【0042】
本発明に係るテストパターン画像は、大網点領域(a)及び小網点領域(b)が紙面全体に適度に分散していることが好適である。より具体的には、本発明に係るテストパターン画像は、当該テストパターン画像を紙のフィード方向に対する中間地点で2分した場合に、紙のフィード方向上流側における、前記大網点領域(a)に対する前記小網点領域(b)の面積比が、紙のフィード方向下流側における、前記大網点領域(a)に対する前記小網点領域(b)の面積比と、同程度であることが好適である。このような構成とすることにより、紙面上のインキ供給量の極端なムラが少なくなり、過度の調整を要求しないという効果を奏する。
【0043】
本発明に係るテストパターン画像は、各平行方向区画領域において、前記大網点領域(a)の形成されている位置と前記小網点領域(b)の形成されている位置が、隣接する平行方向区画領域の境界線で線対称となるように形成されていることが好適である。より具体的に、図5に示したA及びAの関係を例に挙げて説明する。平行方向区画領域Aに形成されている大網点領域aに隣接する位置において、平行方向区画領域Aでは小網点領域bが形成されている。また平行方向区画領域Aに形成されている小網点領域bに隣接する位置において、平行方向区画領域Aでは大網点領域aが形成されている。このような構成とすることによって、紙面に対するインキ供給量が極端に片寄ったりしないため、実際の印刷に近い供給量となるので過度の調整を要求しないこととなる。
【0044】
また、本発明に係るテストパターン画像は、垂直方向区画領域Bを有することが好適である。更に、当該領域内に中網点領域cを有することが好適である。垂直方向区画領域Bは、紙のフィード方向に対して垂直方向に形成される境界で区画される領域である。このように、垂直方向区画領域Bが形成されていることによって、フィード方向に対して垂直方向の均一性を評価することが可能となる。このため、インキローラや湿し水供給ローラなどの劣化や調整不足などの不具合を発見し易くなる。図5では、フィード方向に対して中心位置に垂直方向区画領域を形成しているが、この態様に限定されず、どの位置に設けられていてもよい。また、垂直方向区画領域は、1区画の領域のみならず、複数設けられていてもよい。
【0045】
垂直方向区画領域内に形成される中網点領域(c)は、40〜60%の網点面積率を有する網点が形成され、45〜55%の網点面積率を有することが好適である。このように、中網点領域(c)は、網点面積率が50%付近であるため、目視で印刷のムラを観察し易くなるので、フィード方向に対して垂直方向の異常を発見し易くなる。
【0046】
一つのテストパターン画像は、墨(ブラック)、シアン、マゼンタ、イエロー等から選ばれる一つの原色のみで形成されることが好適である。また、テストパターン画像は、それぞれの原色ごとに印刷を行なうことにより、各印刷ユニットの調整を行うことが好適である。
【0047】
テストパターン画像は、JEPG、GIF、TIFFなどの形式の電子データとしてもよい。また、テストパターン画像は、印刷する画像そのものであってもよいし、平行方向区画領域を一区分のみ配布して、印刷の際に、使用する印刷機のブレードの幅及び数にあわせて合成して画像を作成し印刷してもよい。尚、本発明に係るテストパターン画像を印刷するための親油性の画像部と親水性の非画像部とが形成されている刷版として提供してもよい。
【0048】
《テストパターン印刷による印刷条件の調整方法》
本発明に係るオフセット印刷条件の調整方法は、テストパターン画像を印刷する印刷工程と、前記印刷工程により得られた印刷物の状態を観察して、オフセット印刷条件を調整する調整工程とを有する。印刷工程においては、上記で説明したような一般的なオフセット印刷によって、本発明に係るテストパターン画像を印刷する。
【0049】
続いて、調整工程においては、当該印刷によって得られた印刷物の網点の状態を測定することによって、オフセット印刷の調整の不具合を発見する。網点の状態は、特に限定されないが、例えば、テシコン社製スペクトロプレートハンディ型網点測定機等の網点測定機により測定できる。以下、本発明に係るテストパターン画像を印刷した場合において発見可能な異常及びその調整方法の例を挙げて説明する。
【0050】
本発明に係るテストパターン画像が印刷されている印刷物の平行方向区画領域に形成されている、大網点領域(a)及び小網点領域(b)の網点面積率を測定する。このように測定することによって、大網点領域においては網点が潰れてベタ(100%の面積率)となってしまうことがある。例えば、このような状態となると、写真などの影の部分の再現性が悪くなり、極端な例を挙げれば、大網点領域は全て黒く塗りつぶされた状態となってしまうことがある。このような場合には、インキ供給量が過剰であることが想定されるので、網点潰れの発生する平行方向区画領域に対応するインキブレードを調整して、インキ供給量を少なくすることが好適である。
【0051】
一方、小網点領域(b)においては、版面の非画像部の割合が大きく、湿し水に囲まれた環境下に、小さな点が配されることとなるので、インキの着肉不良やにじみ等が発生する可能性が高い。着肉不良が発生する場合には、オフセット印刷機の湿し水の供給量が適切でない可能性があるので、湿し水供給量を調整することによって、当該問題を解決することが出来る場合がある。特に、湿し水製造装置20(図4)により製造した湿し水を用いた場合には、湿し水供給量の厳密な調整が必要となるが、当該テストパターンを使用することにより素早くオフセット印刷条件を調整することができる。
【0052】
更に、大網点領域(a)又は小網点領域(b)内を紙のフィード方向に複数の点で測定することによって断続的なインキ供給量の調整異常を検出することができる。紙のフィード方向に複数点で測定して、下流側に位置するにしたがって、網点の面積率が低下する場合には、断続的なインキ供給量の調整が悪いということである。この問題は特に大網点領域において発生する。この問題が発生した場合、対応するインキブレードからのインキ供給量を調整することにより解決することが出来る場合が多い。
【0053】
垂直方向区画領域内に中網点領域(c)が形成されているテストパターン画像を印刷した場合、網点測定機を用いて観察してもよいが、目視でも印刷ムラを観察できる。また、フィード方向に対して垂直方向に形成されているため、垂直方向の均一性の異常が検出できる。このような場合、インキブレードの調整を行ない、インキ供給量の均一化を測ることで、当該問題を解決できる場合がある。また、中網点領域(c)においては、インキ供給量と、湿し水供給量のバランスの良し悪しが顕著に現れるため、特に、湿し水製造装置20(図4)により製造した湿し水を用いた場合には、容易に条件調整が可能である。
【0054】
オフセット印刷機では、コンピュータ制御により各ブレードからのインキ供給量を調整することがしばしば行なわれる。この場合、インキブレードの開き具合をサーボモータにより調整する。このため、サーボモータの異常によっても、オフセット印刷の品質に影響を与える場合がある。すなわち、コンピュータ画面上に示されている各ブレードの数値が、現実の数値と必ずしも一致しない場合がある。本発明に係るテストパターン画像の印刷によれば、このような現実の値との相違の検知のきっかけともなりえる。例えば、垂直方向区画領域を形成することによって、垂直方向の印刷の均一性を判断できるので、当該印刷結果と、コンピュータ画面上の数値を照らし合わせて、現実の数値と一致しないと思われる部位を特定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係るオフセット印刷において使用するテストパターン画像及びその印刷方法、並びに、これらのテストパターン画像の印刷結果に基づき印刷条件を調整する方法によれば、オフセット印刷の条件調整を容易にする。
【符号の説明】
【0056】
1:印刷ユニット
2:給紙装置
3:ニス引きユニット
4:乾燥装置
5:排紙装置
110:インキつぼ
120:インキローラ
130:インキブレードユニット
140:水舟
150:湿し水供給ローラ
160:版胴
170:ブランケット胴
A:平行方向区画領域
B:垂直方向区画領域
a:大網点領域
b:小網点領域
c:中網点領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキつぼと、前記インキつぼから供給されるインキを受けて練る複数のインキローラと、前記インキつぼから前記インキローラに対するインキ供給量を調整するための複数のインキブレードを有するインキブレードユニットと、
水舟と、前記水舟から湿し水を供給するための複数の湿し水供給ローラと、
前記湿し水供給ローラから供給される湿し水、及び、前記インキローラにより混練されたインキが供給される刷版が表面に形成される版胴と、
を有するオフセット印刷機を用いてテストパターン画像を印刷する方法において、
前記オフセット印刷機の前記インキブレードの区画境界に対応する位置で紙のフィード方向に対して平行な方向に形成される複数の境界で区画される複数の平行方向区画領域を有し、
前記平行方向区画領域の各領域内に、80〜99%の網点面積率を有する網点が形成される大網点領域(a)と、1〜20%の網点面積率を有する網点が形成される小網点領域(b)と、を少なくとも有する、
テストパターン画像を印刷する印刷工程を有することを特徴とする、テストパターン印刷方法。
【請求項2】
前記印刷工程において、
紙のフィード方向に対して垂直方向に形成される境界で区画される垂直方向区画領域を有し、
前記垂直方向区画領域内に、40〜60%の網点面積率を有する網点が形成される中網点領域(c)を少なくとも有する、
テストパターン画像を印刷することを特徴とする、請求項1記載のテストパターン印刷方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の印刷方法により得られた印刷物の平行方向区画領域に形成されている、大網点領域(a)及び小網点領域(b)の網点面積率を測定してインキ供給量の異常を検出し、前記異常に基づいて前記平行方向区画領域に対応するインキブレードの調整を行なう調整工程を有することを特徴とする、オフセット印刷条件の調整方法。
【請求項4】
請求項2記載の印刷方法により得られた印刷物の中網点領域(c)の状態を観察することにより前記垂直方向の均一性の異常を検出し、前記異常に基づいて、インキブレードユニットの調整を行なう調整工程を有することを特徴とする、オフセット印刷条件の調整方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の印刷方法により得られた印刷物の前記大網点領域及び前記小網点領域の網点を紙のフィード方向に対して複数点で測定して断続的なインキ供給量の調整異常を検出し、前記異常に基づいてインキブレードユニットを調整する調整工程を有することを特徴とする、オフセット印刷条件の調整方法。
【請求項6】
オフセット印刷に用いられるテストパターン画像において、
オフセット印刷機のインキブレードの区画境界に対応する位置で紙のフィード方向に対して平行な方向に形成される複数の境界で区画される複数の平行方向区画領域を有し、
前記平行方向区画領域の各領域内に、80〜99%の網点面積率を有する網点が形成された大網点領域(a)と、1〜20%の網点面積率を有する網点が形成された小網点領域(b)と、
を少なくとも有することを特徴とする、テストパターン画像。
【請求項7】
紙のフィード方向に対して垂直方向に形成される境界で区画される垂直方向区画領域を有し、
前記垂直方向区画領域内に、40〜60%の網点面積率を有する網点が形成された中網点領域(c)
を少なくとも有することを特徴とする、請求項6記載のテストパターン画像。
【請求項8】
前記テストパターン画像を紙のフィード方向に対する中間地点で2分した場合に、
紙のフィード方向上流側における、前記大網点領域(a)に対する前記小網点領域(b)の面積比が、
紙のフィード方向下流側における、前記大網点領域(a)に対する前記小網点領域(b)の面積比と、同程度であることを特徴とする、請求項6又は7記載のテストパターン画像。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項記載のテストパターン画像を印刷するための親油性の画像部と親水性の非画像部とが形成されている刷版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−125985(P2012−125985A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278505(P2010−278505)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(390018234)日本平版機材株式会社 (1)
【Fターム(参考)】