説明

テトラジン誘導体、その製造方法及びそれを構成成分とする有機トランジスタ素子

【課題】 本発明の目的は、大気及び光に対して安定であり、有機トランジスタ素子における半導体層として用いることでn型半導体特性を示すテトラジン誘導体を提供することにある。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】


(式中、R〜Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。但し、R〜Rは同時に水素原子とはなり得ない。)で示されるテトラジン誘導体を製造し、これを半導体層とする有機トランジスタ素子を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素又はトリフルオロメチル基が置換したビフェニリル基を3,6位に有するテトラジン誘導体とその製造方法に関する。該テトラジン誘導体は、良好な電子輸送特性を持つことから有機トランジスタ材料として有用であり、本発明は、これらを有機トランジスタ素子の半導体層に用いたn型有機トランジスタ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機トランジスタ素子は、従来の無機トランジスタ素子の半導体層に用いられているアモルファスシリコンや多結晶シリコンを、有機化合物に代替したものであり、電流スイッチング素子としての利用が期待されている。
【0003】
有機トランジスタ材料としてはペンタセン誘導体(非特許文献1)やチオフェン誘導体(特許文献1)等が報告されているが、1,2,4,5−テトラジン誘導体を用いた例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−221434号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,72巻,1854頁,1998年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに報告されている有機トランジスタ材料は、アセン骨格に基づく大きなπ共役系を有するために空気や可視光に鋭敏であることが多く、取り扱いが困難であった。また、既存有機トランジスタ材料は、有機トランジスタ素子に用いた際にp型の半導体特性を示すものが大半であり、電子を電荷の担体とするn型半導体特性を示す有機トランジスタ材料は少ない。有機トランジスタ素子の工業的利用を考える際には、n型半導体特性を有し、かつ大気及び通常光下で安定に取り扱える材料が必要となるが、従来の化合物の中には見出すことができず、新たな材料が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フッ素又はトリフルオロメチル基基が置換したビフェニリル基を3,6位に有するテトラジン誘導体(1)が、大気及び光に対して安定であり、良好な電荷輸送特性を持つことを見出した。また、これらを半導体層として用いた有機トランジスタ素子がn型半導体特性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R〜Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。但し、R〜Rは同時に水素原子とはなり得ない。)で示されるテトラジン誘導体に関するものである。
また本発明は、一般式(2)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、B(ORの2つのRは同一又は相異なっていてもよい。又、2つのRは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成することもできる。)で示される化合物と、一般式(3)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R〜Rは前記と同じ内容を表す。Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)で示される化合物とを、塩基及びパラジウム触媒の存在下にカップリング反応させることを特徴とする一般式(1)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R〜Rは前記と同じ内容を表す。)で示されるテトラジン誘導体の製造方法に関するものである。
【0017】
さらに本発明は、一般式(1)
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、前記と同じ内容を表す。)で示されるテトラジン誘導体を半導体層とする有機トランジスタ素子に関するものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
一般式(4)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R〜Rは前記と同じ内容を表す。)で示される、本発明のテトラジン誘導体(1)における置換基の例として、次の4−1から4−59を例示することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
【化10】

【0027】
【化11】

【0028】
中でも、有機トランジスタ素子用材料としての性能がよく、合成が容易である点で、4−3、4−7、4−9、4−11、4−13、4−16及び4−22で示される置換基が好ましい。
【0029】
次に本発明の製造方法について説明する。
【0030】
本発明のテトラジン誘導体(1)は、次の反応式で示される工程1によって製造することができる。
【0031】
【化12】

【0032】
(式中、R〜Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。但し、R〜Rは同時に水素原子とはなり得ない。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、B(ORの2つのRは同一又は相異なっていてもよい。又、2つのRは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成することもできる。Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
化合物(2)におけるB(ORとしては、B(OH)、B(OMe)、B(OPr)、B(OBu)等が例示できる。また、2つのRが一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成した場合のB(ORの例としては、次の(I)から(VI)で示される基が例示でき、収率がよい点で(II)で示される基が好ましい。
【0033】
【化13】

【0034】
「工程1」は化合物(2)を、塩基及びパラジウム触媒の存在下に化合物(3)と反応させ、本発明のテトラジン誘導体(1)を得る方法であり、一般的な鈴木−宮浦反応の反応条件を適用することにより、収率よく目的物を得ることができる。
【0035】
「工程1」で用いることのできるパラジウム触媒としては、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、硝酸パラジウム等の塩を例示することができる。さらに、π−アリルパラジウムクロリドダイマー、パラジウムアセチルアセトナト、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及びジクロロ(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム等の錯化合物を例示することができる。中でも、第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体が、収率がよい点で好ましく、入手容易であり収率がよい点で、トリフェニルホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体がさらに好ましい。パラジウム触媒の量は、いわゆる触媒量であれば特に制限はないが、収率がよい点で、パラジウム触媒と化合物(2)とのモル比は、1:50〜1:5が好ましい。
【0036】
なお、これらの第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体は、パラジウム塩又は錯化合物に第三級ホスフィンを添加し、反応系中で調製することもできる。第三級ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(tert−ブチル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、tert−ブチルジフェニルホスフィン、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2−(ジフェニルホスフィノ)−2’−(N,N−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)ビフェニル、2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、トリ(2−フリル)ホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリス(2,5−キシリル)ホスフィン、(±)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル等を例示することができる。収率がよい点で、トリフェニルホスフィン、トリ(tert−ブチル)ホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニルが好ましく、入手容易である点で、トリフェニルホスフィンがさらに好ましい。第三級ホスフィンとパラジウム塩又は錯化合物とのモル比は、1:10〜10:1が好ましく、収率がよい点で1:2〜5:1がさらに好ましい。
【0037】
「工程1」の反応は、塩基の存在に実施することが必須である。用いることのできる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等を例示することができ、収率がよい点で炭酸ナトリウム又は炭酸リチウムが好ましい。塩基と化合物(2)とのモル比に特に制限はないが、1:2〜10:1が好ましく、収率がよい点で1:1〜4:1がさらに好ましい。
【0038】
「工程1」で用いる化合物(3)と化合物(2)とのモル比に特に制限はないが、1:1〜5:1が好ましく、収率がよい点で2:1〜3:1がさらに好ましい。
【0039】
「工程1」の反応は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒として、水、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテル、エタノール、メタノール又はキシレン等が例示でき、これらを適宜組み合わせて用いてもよい。収率がよい点でトルエン及び水の混合溶媒を用いることが望ましい。
【0040】
本発明のテトラジン誘導体(1)は、「工程1」の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー又は昇華等で精製してもよい。
【0041】
本発明のテトラジン誘導体(1)を製造する「工程1」の原料である化合物(2)は、次の反応式で示した方法により製造することができる(実施例−2参照)。
【0042】
【化14】

【0043】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、B(ORの2つのRは同一又は相異なっていてもよい。又、2つのRは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成することもできる。Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
化合物(4)は、例えば 実施例−1に示した方法により製造することができる。
【0044】
「工程2」は、化合物(4)を塩基及びパラジウム触媒の存在下に、ジボロン化合物(5)と反応させることにより、「工程1」で用いる化合物(2)を製造する工程であり、例えば、The Journal of Organic Chemistry,60巻,7508−7510,1995年又はJournal of Organic Chemistry,65巻,164−168,2000年に開示されている反応条件を適用することにより、収率よく目的物を得ることができる。
【0045】
「工程2」で用いることのできるパラジウム触媒としては、「工程1」で例示したパラジウム塩又は錯化合物と同様のものを例示することができる。中でも、第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体は収率がよい点で好ましく、入手容易であり、収率がよい点で、トリフェニルホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体が特に好ましい。「工程2」で用いるパラジウム触媒の量は、いわゆる触媒量であれば特に制限はないが、収率がよい点で、パラジウム触媒と化合物(2)とのモル比は、1:50〜1:10が好ましい。
【0046】
なお、第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体は、パラジウム塩又は錯化合物に第三級ホスフィンを添加し、反応系中で調製することもできる。第三級ホスフィンとしては、「工程1」で例示した第三級ホスフィンを例示することができる。中でも入手容易である点で、トリフェニルホスフィンが好ましい。「工程2」で用いる第三級ホスフィンとパラジウム塩又は錯化合物とのモル比に特に制限はないが、1:10〜10:1が好ましく、収率がよい点で1:2〜5:1がさらに好ましい。
【0047】
「工程2」は塩基の存在下に実施することが必須である。用いることのできる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等を例示することができ、収率がよい点で酢酸カリウムが望ましい。塩基と化合物(4)とのモル比に特に制限はないが、1:2〜10:1が好ましく、収率がよい点で1:1〜3:1がさらに好ましい。
【0048】
「工程2」で用いるジボロン化合物(5)と化合物(4)とのモル比に特に制限はないが、1:1〜5:1が好ましく、収率がよい点で2:1〜3:1がさらに好ましい。
【0049】
「工程2」の反応は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒として、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテル、エタノール、メタノール又はキシレン等が例示でき、これらを適宜組み合わせて用いてもよい。収率がよい点でテトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサンを用いることが望ましい。
【0050】
本工程で得られた化合物(2)は、反応後単離してもよいが、単離せずに「工程1」に供してもよい。
【0051】
本発明のテトラジン誘導体(1)を構成成分とする有機トランジスタ素子の製造方法に特に限定はないが、真空蒸着法による成膜が可能である。真空蒸着法による成膜は、汎用の真空蒸着装置を用いることにより行うことができる。真空蒸着法で膜を形成する際の真空槽の真空度は、有機電界発光素子作製の製造タクトタイムや製造コストを考慮すると、一般的に用いられる拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ等により到達し得る1×10−2〜1×10−5Pa程度が好ましい。蒸着速度は、形成する膜の厚さによるが0.005〜1.0nm/秒が好ましい。また、本発明のテトラジン誘導体(1)は、汎用の装置を用いたスピンコート法、インクジェット法、キャスト法又はディップ法等による成膜も可能である。
【発明の効果】
【0052】
本発明のテトラジン誘導体(1)は大気及び通常光下において安定であり、これを半導体層として用いることで、n型有機トランジスタ素子の作成が可能となった。
【実施例】
【0053】
以下、 実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
実施例−1
【0055】
【化15】

【0056】
4−ブロモベンゾニトリル(20.0g,110mmol)を脱水エタノール(64mL,1.10mol)及びクロロホルム(200mL)に溶解し、0℃に冷却した。この混合物に塩酸ガスを2時間通じた後、室温に昇温し12時間攪拌した。低沸分を減圧留去し、残渣にジエチルエーテル(200mL)を加えろ過した。得られた白色固体を減圧乾燥し、エチル 4−ブロモベンゾイミデート塩酸塩を得た(28.2g,97%)。
【0057】
次に、エチル 4−ブロモベンゾイミデート塩酸塩(10.0g,38.0mmol)を1,4−ジオキサン(67mL)に懸濁し、ヒドラジン一水和物(6.7mL)を加えた後、12時間還流した。放冷後、反応溶液にメタノール(30mL)及び水(60mL)を加え、析出した固体をろ取した。これを減圧乾燥し、3,6−ビス(4−ブロモフェニル)−1,2−ジヒドロ−1,2,4,5−テトラジンの橙色固体を得た(6.4g,85%)。
【0058】
続いて、3,6−ビス(4−ブロモフェニル)−1,2−ジヒドロ−1,2,4,5−テトラジン(5.4g,14.0mmol)をアセトン(200mL)に懸濁し、亜硝酸イソアミル(16.0mL,120mmol)を加えた後、68時間還流した。放冷後、メタノール(50mL)を加え、析出した固体をろ取した。得られた固体をo-キシレンから再結晶した後、ソックスレー抽出器(溶媒=クロロホルム)を用いて抽出することにより、目的の3.6−ビス(4−ブロモフェニル)−1,2,4,5−テトラジンの深赤紫色固体を得た(3.9g,73%)。
H−NMR(CDCl):δ8.56(d,J=8.7Hz,4H),7.80(d,J=8.7Hz,4H).
【0059】
実施例−2
【0060】
【化16】

【0061】
3,6−ビス(4−ブロモフェニル)−1,2,4,5−テトラジン(6.0g,15.0mmol)、ビス(ピナコラート)ジボラン(8.5g,34.0mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(526mg,0.75mmol)及び酢酸カリウム(7.2g,74.0mmol)を取り、THF(500mL)を加え、12時間還流した。放冷後、反応溶液を減圧乾固した。残渣に水(200mL)を加え、クロロホルム(100mL×3)を用いて抽出した。溶媒を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO,溶離液:クロロホルム/ヘキサン=2/1)により精製することで、目的の3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジンの赤紫色固体を得た(7.0g,94%)。
H−NMR(CDCl):δ8.58(d,J=7.7Hz,4H),7.98(d,J=7.7Hz,4H),1.32(s,24H).
【0062】
実施例−3
【0063】
【化17】

【0064】
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(200mg,0.41mmol)、1−ブロモ−4−フルオロベンゼン(120μL,1.0mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(38mg,0.03mmol)を、2M−炭酸ナトリウム水溶液(8mL)及びトルエン(10mL)に懸濁し、100℃にて48時間攪拌した。放冷後、反応溶液を減圧乾固し、メタノール及び水を加えた。生じた固体をろ別後、カラムクロマトグラフィー(SiO,溶離液:クロロホルム)及び再結晶(o−キシレン)により精製し目的の3,6−ビス(4’−フルオロビフェニル−4−イル)−1,2,4,5−テトラジンの赤紫色固体を得た(98mg,57%)。
H−NMR(CDCl):δ8.76(d,J=8.5Hz,4H),7.84(d,J=8.5Hz,4H),7.28(dd,J=5.3,8.7Hz,4H),7.23(t,J=8.7Hz,4H).
19F−NMR(CDCl):δ−114.0.
【0065】
実施例−4
【0066】
【化18】

【0067】
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(200mg,0.41mmol)、1−ブロモ−2,6−ジフルオロベンゼン(120μL,1.0mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(38mg,0.03mmol)を、2M−炭酸ナトリウム水溶液(8mL)及びトルエン(10mL)に懸濁し、100℃にて48時間攪拌した。放冷後、反応溶液を減圧乾固し、メタノール及び水を加えた。生じた固体をろ別後、カラムクロマトグラフィー(SiO,溶離液:クロロホルム)及び再結晶(o−キシレン)により精製し目的の3,6−ビス(2’,6’−ジフルオロビフェニル−4−イル)−1,2,4,5−テトラジンの赤紫色固体を得た(100mg,54%)。
H−NMR(CDCl):δ8.71(d,J=8.5Hz,4H),7.69(d,J=8.5Hz,4H),7.28(tt,J=6.3,8.4Hz,2H),6.98(dd,J=8.0,8.4Hz,4H).
19F−NMR(CDCl):δ−114.0(s,4F).
【0068】
実施例−5
【0069】
【化19】

【0070】
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(2.20g,4.5mmol)、1−ブロモ−3,5−ジフルオロベンゼン(2.60mL,22.6mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(840mg,0.72mmol)を、2M−炭酸ナトリウム水溶液(45mL)及びトルエン(100mL)に懸濁し、100℃にて32時間攪拌した。放冷後、反応溶液を減圧乾固し、メタノール及び水を加えた。生じた固体をろ別後、カラムクロマトグラフィー(SiO,溶離液:クロロホルム)により精製し目的の3,6−ビス(3’,5’−ジフルオロビフェニル−4−イル)−1,2,4,5−テトラジンの紫色固体を得た(1.49g,72%)。
H−NMR(CDCl):δ8.80(d,J=8.6Hz,4H),7.90(d,J=8.6Hz,4H),7.33(dd,J=2.2,8.6Hz,4H),6.96(tt,J=2.2,8.9Hz,2H).
19F−NMR(CDCl):δ−109.0(s,4F).
【0071】
実施例−6
【0072】
【化20】

【0073】
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(97mg,0.20mmol)、1−ブロモ−3,4,5−トリフルオロベンゼン(71μL,0.6mmol)及びジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(14mg,0.02mmol)を、2M−炭酸ナトリウム水溶液(800μL)及びトルエン(4mL)に懸濁し、100℃にて12時間攪拌した。放冷後、反応溶液を減圧乾固し、メタノール及び水を加えた。生じた固体をろ別後し目的の3,6−ビス(3’,4’,5’−トリフルオロビフェニル−4−イル)−1,2,4,5−テトラジンの赤紫色固体を得た(71mg,72%)。
H−NMR(CDCl):δ8.70(d,J=8.6Hz,4H),7.71(d,=8.6Hz,4H),7.26(dd,J=6.4,8.6Hz,4H).
19F−NMR(CDCl):δ.−133.3(d,J=20.4Hz,4F),−160.8(t,J=20.4Hz,2F).
【0074】
実施例−7
【0075】
【化21】

【0076】
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(2.00g,4.1mmol)、1−ブロモ−4−トリフルオロメチルベンゼン(1.70mL,12.3mmol)及びジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(290mg,0.4mmol)を、2M−炭酸ナトリウム水溶液(16.5mL)及びトルエン(82mL)に懸濁し、100℃にて12時間攪拌した。放冷後、反応溶液にメタノールを加え、生じた固体をろ別後し水で洗浄した。固体を減圧乾固し、目的の3,6−ビス[4’−(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンの赤紫色固体を得た(1.47g,70%)。
H−NMR(CDCl):δ8.82(d,J=8.6Hz,4H) ,7.91(d,J=8.6Hz,4H),7.86(d,J=8.2Hz,4H), 7.80(d,J=8.2Hz,4H).
19F−NMR(CDCl):δ−62.79(s,6F).
【0077】
実施例−8
【0078】
【化22】

【0079】
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(1.10g,2.3mmol)、1−ブロモ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(1.99g,6.8mmol)及びビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(158mg,0.23mmol)を、2M−炭酸ナトリウム水溶液(9mL)及びトルエン(45mL)に懸濁し、100℃にて24時間攪拌した。放冷後、反応溶液を減圧乾固し、メタノール及び水を加えた。生じた固体をろ別後、カラムクロマトグラフィー(SiO,溶離液:クロロホルム)により精製し、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンの赤紫色固体を得た(1.14g,76%)。
H−NMR(CDCl):δ8.76(dd,J=1.8,8.6Hz,4H), 8.07(s,4H),7.88(s,2H),7.83(dd,J=1.8,8.6Hz,4H).
19F−NMR(CDCl):δ−62.8(s,12F).
【0080】
実施例−9
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(97mg,0.2mmol)、1−ブロモ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(176mg,0.6mmol)、酢酸パラジウム(4.5mg,0.02mmol)及びトリフェニルホスフィン(10mg,0.04mmol)を、2M−炭酸ナトリウム水溶液(800μL)及びトルエン(4mL)に懸濁し、100℃にて12時間攪拌した。放冷後、反応溶液に水(10mL)を加え、クロロホルム(10mL×3)を用いて抽出した。有機層を減圧乾固し、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを87%の収率で含む粗体を得た。定量はH−NMRにより行った。
【0081】
実施例−10
トリフェニルホスフィンに替え、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(11mg,0.02mmol)を用いた以外は 実施例−9と同様に反応を行い、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを91%の収率で含む粗体を得た。定量はH−NMRにより行った。
【0082】
実施例−11
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(97mg,0.2mmol)、1−ブロモ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(176mg,0.6mmol)及びジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(14mg,0.02mmol)を、2M−炭酸リチウム水溶液(800μL)及びトルエン(4mL)に懸濁し、100℃にて24時間攪拌した。放冷後、反応溶液に水(10mL)を加え、クロロホルム(10mL×3)を用いて抽出した。有機層を減圧乾固し、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを92%の収率で含む粗体を得た。定量はH−NMRにより行った。
【0083】
実施例−12
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに替え、酢酸パラジウム(4.5mg,0.02mmol)及び1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(8.0mg,0.02mmol)を用いた以外は 実施例−11と同様に反応を行い、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを37%の収率で含む粗体を得た。定量はH−NMRにより行った。
【0084】
実施例−13
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに替え、酢酸パラジウム(4.5mg,0.02mmol)及び1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(8.2mg,0.02mmol)を用いた以外は 実施例−11と同様に反応を行い、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを95%の収率で含む粗体を得た。定量はH−NMRにより行った。
【0085】
実施例−14
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(97mg,0.2mmol)、1−ブロモ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(176mg,0.6mmol)、酢酸パラジウム(4.5mg,0.02mmol)及びトリ−tert−ブチルホスフィン(12mg,0.06mmol)を、2M−炭酸リチウム水溶液(800μL)及びトルエン(4mL)に懸濁し、100℃にて12時間攪拌した。放冷後、反応溶液に水(10mL)を加え、クロロホルム(10mL×3)を用いて抽出した。有機層を減圧乾固し、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを34%の収率で含む粗体を得た。定量はH−NMRにより行った。
【0086】
実施例−15
トリ−tert−ブチルホスフィンに替え、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル(19.1mg,0.04mmol)を用いた以外は 実施例−14と同様に反応を行い、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを17%の収率で含む粗体を得た。定量はH−NMRにより行った。
【0087】
実施例−16
3,6−ビス[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]−1,2,4,5−テトラジン(97mg,0.2mmol)、1−ブロモ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(176mg,0.6mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(23.1mg,0.02mmol)を、2M−炭酸カリウム水溶液(800μL)及びトルエン(4mL)に懸濁し、100℃にて12時間攪拌した。放冷後、反応溶液に水(10mL)を加え、クロロホルム(10mL×3)を用いて抽出した。有機層を減圧乾固し、目的の3,6−ビス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを36%の収率で含む粗体を得た。定量はH−NMRにより行った。
【0088】
実施例−17
【0089】
【化23】

【0090】
3.6−ビス(4−ブロモフェニル)−1,2,4,5−テトラジン(78mg,0.2mmol)、ペンタフルオロベンゼン(66μL,0.6mmol)、炭酸カリウム(55mg,0.4mmol)、酢酸パラジウム(4.5mg,0.02mmol)及び2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2,6−ジメトキシビフェニル(16mg,0.04mmol)を、酢酸ブチル(2mL)に懸濁し、100℃にて12時間攪拌した。放冷後、メタノールを加え、生じた固体をろ別した。得られた固体を再結晶(ジクロロメタン/メタノール)により精製し目的の3,6−ビス(2’,3’,4’,5’,6’−ペンタフルオロビフェニル−4−イル)−1,2,4,5−テトラジンの赤紫色固体を得た(106mg,94%)。
H−NMR(CDCl):δ8.75(d,J=8.6Hz,4H),7.65(d,J=8.6Hz,4H).
19F−NMR(CDCl):δ−161.4(4F),−153.9(2F),−142.6(4F).
【0091】
評価例−1
10mm×10mmのSi/SiO2基板にゲート電極として金(50nm)を電子ビーム法を用いて蒸着した。同基板表面に実施例−5において合成した3,6−ビス[4’−(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンを真空蒸着装置を用いて50nmの膜厚で蒸着した。この際、基盤温度を室温、60℃、100℃とした3種類を作成した。最後にメタルマスクを配し、ソース・ドレイン電極として銀(200nm)を電子ビーム法を用いて蒸着した。作製したFET素子の測定は全て減圧下で行い、ドレイン電圧V=20〜−100V,ゲート電圧V=−20〜100Vの範囲で掃引した。
【0092】
作成した素子の測定値は、閾値Vth=40〜60V、オン/オフ比=10となった。これらから3,6−ビス[4’−(トリフルオロメチル)ビフェニル−4−イル]−1,2,4,5−テトラジンの電界効果移動度は3.8×10−3cm/Vsであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、電子輸送特性を有し、かつ大気及び光に安定な新規構造を有するテトラジン誘導体を提供し、さらに当該化合物を用いたn型有機トランジスタ素子を提供するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R〜Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。但し、R〜Rは同時に水素原子とはなり得ない。)で示されるテトラジン誘導体。
【請求項2】
一般式(2)
【化2】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、B(ORの2つのRは同一又は相異なっていてもよい。又、2つのRは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成することもできる。)で示される化合物と、一般式(3)
【化3】

(式中、R〜Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。但し、R〜Rは同時に水素原子とはなり得ない。Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)で示される化合物とを、塩基及びパラジウム触媒の存在下にカップリング反応させることを特徴とする一般式(1)
【化4】

(式中、R〜Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。但し、R〜Rは同時に水素原子とはなり得ない。)で示されるテトラジン誘導体の製造方法。
【請求項3】
パラジウム触媒が、第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム触媒である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)
【化5】

(式中、R〜Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。但し、R〜Rは同時に水素原子とはなり得ない。)で示されるテトラジン誘導体を半導体層とする有機トランジスタ素子。

【公開番号】特開2011−184368(P2011−184368A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51756(P2010−51756)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】