説明

テトラヒドロクルクミン類の製造方法

【課題】より高収率が期待される、微生物菌体、培養物又はそれらの処理物を用いたテトラヒドロクルクミン類の製造方法またはテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をクルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物に作用させてテトラヒドロクルクミン類を生成させ、生成したテトラヒドロクルクミン類を採取することを特徴とするテトラヒドロクルクミン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラヒドロクルクミン類およびテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクミン類は、熱帯性の生姜科ウコン属に属する植物に含まれる黄色色素としてよく知られている。ウコンの根茎の乾燥粉末(ターメリック)及びその精製品であるクルクミンは、食品の着香料や着色料として用いられている。
クルクミン類は、抗酸化作用、抗炎症作用、コレステロール低減作用、発癌抑制作用等の作用を示すことが知られており、食品由来の安全な薬効成分として用いられている。
【0003】
テトラヒドロクルクミンは、クルクミンと比較してより強い抗酸化活性を持つことが知られている(特許文献1、2、非特許文献1参照)。また、テトラヒドロクルクミンは無色無臭であるため、特に着色が弊害となる場合においては、クルクミンの欠点を克服した素材となる。
テトラヒドロクルクミンの製造方法としては、金属触媒を用いたクルクミンの水素添加による製造方法が知られている。しかし、この方法により製造される合成テトラヒドロクルクミンを飲食品用途で使用することは食品衛生上問題がある。
【0004】
食用に利用可能なテトラヒドロクルクミン類を製造できる好適な方法としては、微生物の菌体等とクルクミンを混合して保温することによるテトラヒドロクルクミン類の製造方法があげられる(特許文献3参照)。当該製造方法の改良方法として、水に難溶性のクルクミンを分散するエマルション化技術を応用した方法や(特許文献4参照)、クルクミンにシクロデキストリンを添加してから発酵させる方法が知られているが(特許文献5参照)、いずれも実用化されるにはいたっていない。
【特許文献1】特開平2−49747号公報
【特許文献2】特開平2−51595号公報
【特許文献3】特開平11−235192号公報
【特許文献4】特開2003−33195号公報
【特許文献5】特開2005−304401号公報
【非特許文献1】「バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー(Biosci. Biotech. Biochem.)」、1995年、第59巻、p1609
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、より高収率が期待される、微生物菌体、培養物又はそれらの処理物を用いたテトラヒドロクルクミン類の製造方法またはテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)〜(5)に関する。
(1)0.1mM〜20mMのマグネシウム塩の存在下、式(I)
【0007】
【化3】

【0008】
[式(I)中、R1 、R2 、R3 及びR4 は、同一又は異なって、水素、ヒドロキシ又は低級アルコキシを表す]で示されるクルクミン類(以下、単にクルクミン類という)を式(II)
【0009】
【化4】

【0010】
[式(II)中、R1 、R2 、R3 及びR4 は、同一又は異なって、水素、ヒドロキシ又は低級アルコキシを表す]で示されるテトラヒドロクルクミン類(以下、単にテトラヒドロクルクミン類という)に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をクルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物に作用させてテトラヒドロクルクミン類を生成させ、生成したテトラヒドロクルクミン類を採取することを特徴とするテトラヒドロクルクミン類の製造方法。
(2)0.1mM〜20mMのマグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をクルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物に作用させてテトラヒドロクルクミン類を生成させることを特徴とするテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物の製造方法。
(3)マグネシウム塩が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、乳酸マグネシウムまたはクエン酸マグネシウムである上記(1)または(2)の製造方法。
(4)クルクミン類を含有する組成物がウコン属に属する植物を処理して得られる組成物である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)微生物が、デバリョマイセス属、サッカロマイセス属、ピチア属、クルイベロマイセス属、トルラスポラ属、キャンヂダ属、ラクトバチルス属、スタフィロコッカス属又はペヂオコッカス属に属する微生物である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、触媒を用いる化学合成的な水素添加の手法によらず、微生物菌体、培養物又はそれらの処理物を用いた工業的なテトラヒドロクルクミン類の製造方法またはテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
式(I)および式(II)におけるR1 、R2 、R3 およびR4 の低級アルコキシのアルキル部分は、炭素数1〜6の直鎖あるいは分岐のアルキルであり、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等があげられる。アルコキシとしては、炭素数1〜2のメトキシ、エトキシが好ましい。式(I)において、R2 およびR4 としては、ヒドロキシである化合物が好ましい。
【0013】
具体的なクルクミン類としては、U1[ディフェルロイルメタン(diferuloyl methane)、 (E,E)-1,7-bis(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-1,6-heptadiene-3,5-dione、以後単にクルクミンというときもある]、U2[ディメトキシクルクミン(demethoxycurcumin )、bis(4-hydroxy-3-methoxycinnamoyl)methane]、U3[ビスディメトキシクルクミン(bisdemethoxycurcumin)、bis(4-hydroxycinnamoyl)methane]、DMU1[(E,E)-1,7-bis(3,4-dimethoxyphenyl)-1,6-heptadiene-3,5-dione]、DHU1[(E,E)-1,7-Bis(3,4-dihydroxyphenyl)-1,6-heptadiene-3,5-dione]等があげられるが、U1、U2、U3およびDHU1が好ましく、U1およびDHU1が特に好ましい。
【0014】
本発明で用いられるマグネシウム塩としては特に制限はないが、例えば酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステリン酸マグネシウム等があげられるが、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウムが好ましい。これらのマグネシウム塩は単独で用いてもよいし、2以上の塩を適宜組み合わせて用いてもよい。また、マグネシウム塩の代りにマグネシウムを豊富に含むことが知られている食品素材を用いても良い。該食品素材としては、例えばにがり、ドロマイト等があげられる。
【0015】
これらのマグネシウム塩は、クルクミン類をテトラヒドロクルクミンに変換する作用を示す微生物の菌体にあらかじめ混合しておいても良いし、菌体がクルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物に作用している間に添加しても良い。
本発明のテトラヒドロクルクミン類又はテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物の製造方法は、マグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物と、クルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物とを反応させる工程を含めばよいが、該工程においては水性媒体中で反応させることが好ましい。
【0016】
水性媒体としては、例えば水、蒸留水、脱イオン水、無機塩水溶液、緩衝液等があげられる。
無機塩水溶液の無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等があげられる。
緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等があげられる。
【0017】
水性媒体として、該微生物の培地、培養液を用いてもよい。
クルクミン類は水に難溶であることから、クルクミン類をそのまま水性媒体に添加しても反応は進みにくい。従ってクルクミン類はエタノールなどのアルコール類で可溶化してから添加することが好ましい。また、クルクミン類を可溶化する手段として、特開2003−33195に記載のエマルション化技術や、特開2005−304401に記載のシクロデキストリンを用いてもよい。
【0018】
テトラヒドロクルクミン類又はテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物の製造は、該反応液を例えば、0〜100℃、好ましくは10〜60℃、特に好ましくは20〜45℃、pHは2〜11、好ましくは3〜9、特に好ましくは4〜8の条件下で、0.01〜168時間、好ましくは0.5〜72時間で行うことができる。
水性媒体中で反応させる場合、微生物の菌体、培養液もしくはそれら処理物は、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有していれば、その添加量に特に制限はないが、例えば湿菌体重量として1μg〜800mg/ml、好ましくは10〜500mg/mlとなるように添加する。
【0019】
また、クルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物の添加量に特に制限はないが、例えばクルクミン類として0.001〜500mg/ml、好ましくは0.01〜100mg/mlとなるように添加する。
反応時のマグネシウム塩の濃度としては、0.1mM以上が好ましく、1mM以上がより好ましく、10mM以上が特に好ましい。一方、反応液中のマグネシウム濃度が過剰である場合、反応を抑制したり、反応後の組成物の風味を損なう可能性があるので、20mMを上限にすることが好ましい。
【0020】
反応液中には必要に応じて緩衝液、乳化剤又は界面活性剤、有機溶剤、補酵素等を存在させることができる。
緩衝液としては、例えば前述の緩衝液の他、リン酸水素ナトリウム緩衝液、グリシン緩衝液、N−2―ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン緩衝液等があげられる。
【0021】
乳化剤又は界面活性剤としては、例えばトリトンX100等があげられる。
有機溶剤としては、例えばエタノール、メタノール、グリセリン等があげられる。
補酵素としては、例えばベータニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ベータニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、還元型ベータニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、還元型ベータニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸等があげられる。
【0022】
反応液中に生成したテトラヒドロクルクミン類又はテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物を精製する場合、精製方法としては特に制限はないが、例えば有機溶媒抽出や遠心分離法、カラムクロマトグラフ法、凍結乾燥法、再結晶法、熱風乾燥法等があげられる。
クルクミン類及びテトラヒドロクルクミン類生成物は、HPLC等で分析して検出することができる。
【0023】
クルクミン類あるいはクルクミン類を含有する組成物と微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物の反応は、例えば温度、通気量及び水素イオン濃度の制御をせずに木製の樽等の容器を用いて一定時間放置することによって行うこともできるが、温度、通気量及び水素イオン濃度の制御を自動的あるいは半自動で行うことのできる発酵装置(ジャーファーメンター)を用いて行うのが好ましい。
【0024】
また、用いる微生物がクルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性のほかにアルコール発酵又は乳酸発酵能を有する微生物である場合には、アルコール発酵又は乳酸発酵の途中に、クルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物およびマグネシウム塩を添加することにより、テトラヒドロクルクミン類を含有するアルコール飲料又は乳酸発酵食品等を製造することもできる。
【0025】
本発明によりテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物を製造するために用いるクルクミン類を含有する組成物中のクルクミン含量は、0.01%から99.999%、好ましくは0.1%から99.9%である。
反応液の総容量に制限はないが、0.1mlから1000kl、好ましくは1mlから1000klである。反応後の反応液中のクルクミン類の残量は、反応前のクルクミン類に対して99%から0.001%であって、好ましくは95%から0.001%である。
【0026】
本発明により、実質的にテトラヒドロクルクミン類を含まないクルクミン類を含有する組成物中にテトラヒドロクルクミン類が生じ、テトラヒドロクルクミン類を含有する組成物を得ることができる。また、本発明により、テトラヒドロクルクミン類とクルクミン類を共に含有する組成物中のテトラヒドロクルクミン類の含有量を高めることができる。
本発明により実質的に純粋なテトラヒドロクルクミン類を製造することができるが、反応液から反応に用いた微生物の菌体、培養液もしくはそれら処理物を分離することなく反応液をそのまま食品、酒類、食品添加物、医薬、動物飼料、水産飼料、動物薬、酸化防止剤、化粧料やそれらの原料として用いることができる。
【0027】
ターメリックは、ウコン属に属する植物の根茎の乾燥粉末でありウコン茶や香辛料の原料として用いられている食品である。またターメリックから精製されるクルクミン類は安全な食用天然色素として食品製造に広く使用されている物質である。したがって、本発明において、ウコン属に属する植物の破砕物、抽出物、分画物あるいはターメリックから精製したクルクミン類を含有する組成物を、クルクミン類を含有する組成物として利用することにより、食品、酒類、食品添加物、医薬、動物飼料、水産飼料、動物薬、酸化防止剤、化粧料及びそれらの原料として用いるのに好適な、極めて安全性の高いテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物を得ることができる。
【0028】
例えば、以下に掲げる製造方法によって、ターメリックの破砕物と酵母を作用させるテトラヒドロクルクミン類を含有するターメリック茶、ターメリックと酵母を作用させるテトラヒドロクルクミン類を含有するカレー粉、ターメリックと酵母を作用させるテトラヒドロクルクミン類を含有する酵母食品、クルクミンと酵母を作用させて得たテトラヒドロクルクミン類を含有する酵母をバター、サラダ油又はゴマ油等の食用油に浸漬するテトラヒドロクルクミン類含有食用油、ターメリックと酵母を作用させて得たテトラヒドロクルクミン類を含有するアルコール飲料を製造することができる。
【0029】
テトラヒドロクルクミン類を含有するターメリック茶は、例えばマグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をターメリックの破砕物に作用させることにより製造できる。
テトラヒドロクルクミン類を含有するカレー粉は、例えばマグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をクルクミン類もしくはターメリックを含有する組成物に作用させて得たテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物をカレー粉の原料として用いることにより、カレー粉中のクルクミン類に由来する抗酸化機能や薬理効果を向上させたカレー粉を製造することができる。即ち、種々の香辛料を混和するカレー粉の製造過程で、本発明で得られた組成物をターメリックの代替として用いればよい。カレー粉の黄色はカレー粉原料のターメリックに含まれるクルクミン類によるものであるため、クルクミン類が持つ効能のうち着色や着香以外の効能を高めたカレー粉を製造する目的でカレー粉中のターメリック量もしくはクルクミン類の量を高めようとすると、必要以上の着色や着香をもたらすため実際的ではない。しかしながら、本発明でテトラヒドロクルクミン類の含量を高めたクルクミン類もしくはターメリックをカレー粉の原料に用いた場合には、無色無臭のテトラヒドロクルクミン類の含有量に応じて黄色が減じているために、カレー粉として許容される着色度や香気の範囲を越えることなくテトラヒドロクルクミン類が持つ機能を付与することができる。ただし、食用として許容される範囲内であれば、ターメリックの代替としてではなく、カレー粉の組成に発明で得られたテトラヒドロクルクミン類を添加してもよい。
【0030】
テトラヒドロクルクミン類を含有する酵母食品は、例えばマグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する食用酵母をクルクミン類もしくはターメリックを含有する組成物に作用させてテトラヒドロクルクミン類を生成させた後、反応物全体を凍結乾燥あるいは熱風乾燥により回収することにより製造することができる。従来滋養目的で製造されている酵母食品に対してテトラヒドロクルクミン類の機能を付与した新しい酵母食品を得ることができる。
【0031】
また、テトラヒドロクルクミン類を含有する酵母食品は、例えばマグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する食用酵母をクルクミン類もしくはターメリックを含有する組成物に作用させてテトラヒドロクルクミン類を菌体内に生成させた後、遠心分離等の手法によってテトラヒドロクルクミン類を含有する酵母を回収した後、これを乾燥等してテトラヒドロクルクミン類含有酵母食品を製造することができる。さらに、本発明で製造したテトラヒドロクルクミンを含有する酵母を熱水抽出もしくはアルコール抽出した後に乾燥もしくは濃縮して得た抽出物は、従来滋養目的で製造されている酵母抽出物に比してテトラヒドロクルクミン類の機能を付与した新しい食用酵母抽出物として用いることができる。
【0032】
テトラヒドロクルクミン類を含有する食用油は、例えばマグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をクルクミン類もしくはターメリックを含有する組成物に作用させテトラヒドロクルクミン類を生成させた後、食用油とを混和し、次いで遠心分離等の手法で食用油を回収すれば、テトラヒドロクルクミン類を含有する食用油を製造することができる。食用油に対するテトラヒドロクルクミン類の溶解性はクルクミン類と比較して高いため、この方法を用いることにより、狭雑物としてのクルクミン類の含量が低いテトラヒドロクルクミン類を含有する食用油が得られる。テトラヒドロクルクミン類は抗酸化作用を有するため、得られたテトラヒドロクルクミン類を含有する食用油は空気酸化の起こり難い安定性の高い食用油として用いうるほか、テトラヒドロクルクミン類の種々の生理機能を備えた食用油として用いることができる。
【0033】
テトラヒドロクルクミン類を含有するアルコール飲料は、例えばマグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をクルクミン類もしくはターメリックを含有する組成物に作用させテトラヒドロクルクミン類を生成させた後、飲料用アルコールと混和し、次いで遠心分離等の手法でアルコールを回収し、必要に応じて甘味料、アミノ酸、糖類、着色料、着香料を添加し、さらにアルコール濃度を高める必要がある場合はエタノールを添加することにより製造することができる。
【0034】
また、テトラヒドロクルクミン類を含有するワインもしくは清酒は、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有するワイン酵母や清酒酵母等を用いてブドウもしくは米を発酵させ、発酵途中もしくは発酵終了時に、例えばマグネシウム塩の存在下、クルクミン類もしくはターメリックを添加してテトラヒドロクルクミン類を生成させてから圧搾して製造することができる。赤ワインに含まれる赤い色素やタンニン類の抗酸化活性に由来する抗動脈硬化作用等が注目されているが、本発明により、色や味に影響を与えることなく抗酸化活性を強化した白ワインや清酒を製造することができる。
【0035】
また、テトラヒドロクルクミン類を含有する醗酵乳製品は、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する乳酸菌を用いて乳等を醗酵させ、発酵途中もしくは発酵終了時に、例えばマグネシウム塩の存在下、クルクミン類もしくはターメリックを添加して製造することができる。
本発明に用いる微生物としては、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物であればいかなる微生物も用いうる。微生物としては、例えば細菌、放線菌、酵母、糸状菌、きのこ、藻類等があげられる。
【0036】
細菌としては、例えばアセロバクター属(Acetobacter )、アクロモバクター属(Achromobacter )、アーセロバクター属(Arthrobacter)、バチルス属(Bacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium )、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、セルロモナス属(Cellulomonas)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium )、シトバクター属(Citobacter)、クロストリヂウム属(Clostridium )、コリネバクテリウム属(Corynebacterium )、エンテロコッカス属(Enterococcus)、エーウイニア属(Erwinia )、エッシェリシア属(Escherichia )、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、グルコノバクター属(Gluconobacter )、ハロバクテリウム属(Halobacterium )、クレブシエラ属(Klebsiella)、リューコノストク属(Leuconostoc )、ミクロコッカス属(Micrococcus )、ペヂオコッカス属(Pediococcus )、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium )、プロタミノバクター属(Protaminobacter )、プロビデンシア属(Providencia )、シュードモナス属(Psudomonas)、セラチア属(Serratia)、ストレプトバクテリウム属(Streptobacterium)、ストレプトコッカス属(Streptococcus )、キサントモナス属(Xanthomonas )、ジモモナス属(Zymomonas )、ラクトバチルス属(Lactobacillus )、ペヂオコッカス属(Pediococcus )、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)等があげられる。
【0037】
放線菌としては、例えばアクチノプラネス属(Actinoplanes)、ミクロモノスポラ属(Micromonospora)、ストレプトミセス属(Streptomyces)等があげられる。
酵母としては、例えばデバリョマイセス属(Debaryomyces )、サッカロマイセス属(Saccharomyces )、ピチア属(Pichia k)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces )、トルラスポラ属(Torulaspora )、キャンヂダ属(Candida )、シュビア属(Ashbya)、ブレッタノマイセス属(Brettanomyces )、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、エレモテリウム属(Eremothecium)、イッサチェンキア属(Issatchenkia)、クロッケラ属(Klockera)、リポマイセス属(Lipomyces )、メトシュニコウイア属(Metschnikowia )、ロードトルア属(Rhodotorula )、シゾサッカロマイセス属(Shizosaccharomyces)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces )等があげられる。
【0038】
糸状菌としては、例えばアクレモニウム属(Acremonium)、アクチノムコール属(Actinomucor )、アスペルギルス属(Aspergillus )、アウレオバシヂウム属(Aureobasidium )、バクーセラ属(Backusella)、ボトリチス属(Botrytis)、チャララ属(Chalara )、クラビセプス属(Claviceps )、コルチシウム属(Corticium )、クリフォネクトリア属(Cryphonectria )、ユウロチウム属(Eurotium)、フサリウム属(Fusarium)、ゲオトリチュム属(Geotrichum)、モナスカス属(Monascus)、モルチエレラ属(Mortierella )、ムコール属(Mucor )、ミロテシウム属(Myrothecium )、ニューロスポーラ属(Neurospora)、パエシロマイセス属(Paecilomyces)、ペニシリウム属(Penicilium)、ペスタロチオプス属(Pestalotiopsis)、リゾムコール属(Rhizomucor)、リゾプス属(Rhizopus)、スクレロチニア属(Sclerotinia )、シンセファラストルム属(Syncephalastrum )、トリコデルマ属(Trichoderma )等があげあられる。
【0039】
きのことしては、例えばアガリクス属(Agaricus)、アグロシベ属(Agrocybe)、アルミラリア属(Armillaria)、アウリクラリア属(Auricularia )、フラムリナ属(Flammulina)、ガノデルマ属(Ganoderma )、グリフォーラ属(Grifola )、ヒプシジガス属(Hypsizigus)、イルペックス属(Irpex )、レンチヌーラ属(Lentinula )、レピスタ属(Lepista )、リオフィリウム属(Lyophyllum)、マイコレプトドノイデス属(Mycoleptodonoides )、ナエマトロマ属(Naematoloma )、パネルス属(Panellus)、ポリオタ属(Pholiota)、プリューロツス属(Pleurotus )、ピクノポラス属(Pycnoporus)、トレメーラ属(Tremella)、トリコローマ属(Tricholoma)、ボルバリエラ属(Volvariella )等があげられる。
【0040】
藻類としては、例えばアナリプス属(Anaripus)、コンドラス属(Chondrus)、エイセニア属(Eisenia )、ユーシューマ属(Eucheuma)、フルセラリア属(Furcellaria )、ジガーチナ属(Gigartina )、ヒジキア属(Hizikia )、クジェラマニエラ属(Kjellamaniella)、ラミナリア属(Laminaria )、マクロクリスチス属(Macrocrystis)、ペタロニア属(Petalonia )、ポルフィラ属(Porphyra)、ロヂメニス属(Rhodymenis)、シトシフォン属(Scytosiphon )、スピルリナ属(Spirulina )、ウンダリア属(Undaria )等があげられる。
【0041】
上記の微生物のうち、デバリョマイセス属、サッカロマイセス属、ピチア属、クルイベロマイセス属、トルラスポラ属、キャンヂダ属等に属する微生物である酵母、ラクトバチルス属、ペヂオコッカス属等に属する微生物である乳酸菌、スタフィロコッカス属等に属する微生物であるブドウ状球菌等が好適に用いられる。
これら微生物としては、例えばデバリョマイセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomycescerevisiae)、ピチア・サブペリキュローサ(Pichia subpelliculosa)、ピチア・アノマーラ(Pichiaanomala)、ピチア・メンブラナエフェイシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピチア・クルイベリ(Pichiakluyveri)、クルイベロマイセス・マークシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ポリスポルス(Kluyveromycespolysporus)、トルラスポラ・デルブルッキイ(Torulaspora delbrueckii)、キャンヂダ・ウチリス(Candidautilis)、キャンヂダ・ファマータ(Candida famata)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillusplantarum)、ペヂオコッカス・アシヂラクチシ(Pediococcus acidilactici)、スタフィロコッカス・カルノサス(Staphylococcuscarnosus)、スタフィロコッカス・キシロサス(Staphylococcus xylosus)に属する微生物が好適に用いられる。
【0042】
さらに具体的に好適な菌株としては、例えばデバリョマイセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)ATCC-20261、デバリョマイセス・ハンゼニイ(Debaryomyceshansenii)IFO-0094、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)乾燥酵母Lallmand社製、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomycescerevisiae)IAM-4500、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae) IAM-4519 、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae) ATCC-7754、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomycescerevisiae) FERM-P-6189、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae) IFO-2044 、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae) ATCC-20018 、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomycescerevisiae) FERM-P-6213、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae) FERM-P-6214、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae) FERM-P-7614、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomycescerevisiae) FERM-P-7615、ピチア・サブペリキュローサ(Pichia subpelliculosa)ATCC-16766、ピチア・アノマーラ(Pichiaanomala)ATCC-2149、ピチア・メンブラナエフェイシエンス(Pichia membranaefaciens)IAM-4986、ピチア・メンブラナエフェイシエンス(Pichiamembranaefaciens)ATCC-36908、ピチア・クルイベリ(Pichia kluyveri)ATCC-9768、クルイベロマイセス・マークシアヌス(Kluyveromycesmarxianus)IFO-0433、クルイベロマイセス・マークシアヌス(Kluyveromyces marxianus)IFO-1090、クルイベロマイセス・ポリスポルス(Kluyveromycespolysporus)ATCC-22028、トルラスポラ・デルブルッキイ(Torulaspora delbrueckii)IAM-4816、キャンヂダ・ウチリス(Candidautilis)ATCC-9950 、キャンヂダ・ファマータ(Candida famata)ATCC-2560 、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillusplantarum) LPT(協和ハイフーズ社製)、ペヂオコッカス・アシヂラクチシ(Pediococcus acidilactici) P2M120(TEXEL社製)、スタフィロコッカス・カルノサス(Staphylococcus carnosus) M72(TEXEL 社製)、スタフィロコッカス・キシロサス(Staphylococcus xylosus) P2M120(TEXEL社製)があげられる。
【0043】
これらはいずれの菌株でも、単独でもしくは混合して用いることができる。またこれらの菌株を人工的変異方法、例えば紫外線照射、X線照射、変異誘起剤処理、遺伝子操作等で変異させた変異株あるいは自然に変異した変異株でも、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換させる能力のある菌株であれば本発明に用いることができる。
これらの微生物の培養には通常の酵母、細菌等の培養に用いられる培地でこれら微生物が生育できる培地であれば炭素源、窒素源その他の栄養素を含む天然培地、半合成培地、合成培地等いかなる培地でも用いうる。
【0044】
炭素源としては澱粉、デキストリン、シュクロース、グルコース、マンノース、フルクトース、ラフィノース、ラムノース、イノシトール、ラクトース、キシロース、アラビノース、マンニトール、糖蜜等があげられこれらを単独又は組合せて用いることができる。さらに、菌の資化能によっては炭化水素、アルコール類、有機酸等を用いてもよい。
窒素源としては塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーン・スチープ・リカー、大豆粉、カザミノ酸等があげられこれらを単独又は組合せて用いることができる。
【0045】
無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅等があげられこれらを単独又は組合せて用いることができる。
微量成分としては、ビオチン、サイアミン又はニコチン酸等のビタミン類やβ−アラニン又はグルタミン酸等のアミノ酸類等があげられこれらを単独又は組合せて用いることができる。
【0046】
培養法としては、液体培養法、特に深部攪拌培養法が適している。培養は温度10〜80℃、好ましくは10〜60℃、特に好ましくは20〜40℃、pH2〜11、pH3〜10、好ましくはpH5〜8で行われ、通常1〜7日間行う。培地のpH調整にはアンモニア水や炭酸アンモニウム溶液等が用いられる。
本発明に用いる培養液の処理物としては、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の培養液の濃縮物、乾燥物、冷凍物、冷蔵物、凍結乾燥物、加熱物、加圧物、超音波破砕物、界面活性剤又は有機溶媒処理物、溶菌酵素処理物等があげられる。また、菌体処理物としては、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体の乾燥物、冷凍物、冷蔵物、凍結乾燥物、加熱物、加圧物、超音波破砕物、界面活性剤又は有機溶剤処理物、溶菌酵素処理物、固定化菌体或いは菌体から精製した酵素等があげられる。
【0047】
菌体からの酵素の精製には、蛋白質の一般的な精製法を用いることができる。例えば、ホモジナイザー、ガラスビーズ、アンモニア溶解、酵素法等による菌体の破砕、ろ過、遠心分離等による酵素液の回収、塩析、有機溶媒沈殿、抗体等による酵素の回収、透析等による濃縮、限外ろ過、ゲルろ過、電気泳動法、液相分配法による分離、イオン交換体、吸着剤、アフィニティー吸着体等を用いたクロマトグラフィー、バッチ法、結晶化等を単独であるいは組み合わせて用いることができる。
【0048】
クルクミン類は、試薬として例えばシグマアルドリッチジャパン社から入手できる。
クルクミン類を含有する組成物としては特に限定されないが、例えばウコン属に属する植物を処理して得られる組成物があげられる。ウコン属に属する植物としては、例えばキョウオウ(俗に、春ウコンと呼ばれる。)、ウコン(俗に、秋ウコンと呼ばれる。)、ガジュツ等の植物があげられる。処理方法は特に限定されないが、例えば粉砕、乾燥、抽出等の方法があげられる。また、クルクミン類を含有する組成物としては、例えばカレー粉、ウコン茶等一般の食料品もあげられる。
【0049】
また、クルクミン類を含有する組成物としてはクルクミン類を含有しない食品、酒類、飼料、化粧料にクルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物を添加して得られる組成物もあげられる。クルクミン類を含有しない食品、酒類、飼料、化粧料としては例えば、飲料用アルコール、食用油、果汁等があげられる。
クルクミン類及びクルクミン類を含有する組成物は、食品として市販品を容易に入手できる。
【0050】
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0051】
(1)Debaryomyces hansenii(PRISCA、LACTO LABO)をYM培地(ニッスイ)で25℃で2昼夜培養し(0.03g菌体/ml)、2.0mlエッペンドルフチューブ内で12,000rpmで10分間遠心分離し、菌体を得た。該菌体を0.4g菌体/mlになるように水で懸濁した。
また、塩化マグネシウム(無水、分子量120.37、和光純薬)を水で溶解し、200mMの塩化マグネシウム水溶液を調製した。さらにクルクミン(日研化成)をエタノールで溶解し4mg/mlのクルクミンエタノール溶液を調製した。
【0052】
2mlエッペンドルフチューブ内に該菌体懸濁液0.2mlを注入した。ここに、200mMの塩化マグネシウム水溶液を10マイクロリットル添加し、さらに、4mg/mlのクルクミンエタノール溶液を10マイクロリットル添加し、37℃で4時間、振蕩培養機(TC−C−500R型、高崎科学器械社製)を用いて200rpmで烈しく振蕩しながら保温することにより反応させた。
(2)2mlエッペンドルフチューブ内に、菌体懸濁液0.2mlを注入する代りに水0.2mlを注入する以外は、(1)と同様の方法を用いて反応させた。
(3)2mlエッペンドルフチューブ内に、200mMの塩化マグネシウム水溶液を10マイクロリットル添加する代りに水を10マイクロリットル添加する以外は、(1)と同様の方法を用いて反応させた。
(4)グルコン酸銅(協和醗酵工業)、硫酸第一鉄(7水和物、関東化学)、DL-乳酸カルシウム(5水和物、和光純薬)を各々水に溶解し、200mMグルコン酸銅水溶液、200m硫酸第一鉄水溶液、100mM乳酸カルシウム水溶液を調製した。
【0053】
2mlエッペンドルフチューブ内に、塩化マグネシウム溶液を10マイクロリットル添加する代わりに、グルコン酸銅水溶液10マイクロリットル、硫酸第一鉄水溶液10マイクロリットル、乳酸カルシウム水溶液20マイクロリットルを添加する以外は(1)と同様の方法を用いて反応させた。
上記(1)〜(4)の反応液にDMSOを1ml添加し、激しく攪拌後、遠心分離して上清を得た。該上清中のクルクミン(U1)およびテトラヒドロクルクミン(THU1)を下記HPLC測定条件にて分析した。
【0054】
HPLC条件:
溶媒:0.05%トリフルオロ酢酸含有50%アセトニトリル水溶液
流速:1ml/分、
検出:280nm
上記方法により反応液中のクルクミンおよびテトラヒドロクルクミンを定量した結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示される通り、菌体に塩化マグネシウムを添加することにより、テトラヒドロクルクミンの生成量は増大した。
これに対して、菌体懸濁液を添加しない場合、テトラヒドロクルクミンは検出されず、添加したクルクミンが全量残存した。
また、菌体に塩化マグネシウム以外の塩を添加してもテトラヒドロクルクミンの生成量が増大することはなかった。
【実施例2】
【0057】
塩化マグネシウム(無水、キシダ化学)を水で溶解し、200mMの塩化マグネシウム溶液を作成した。該溶液を水で段階的に希釈して、20mMの塩化マグネシウム溶液、2mMの塩化マグネシウム溶液を作成した。同様に、硫酸マグネシウム(無水、キシダ化学)を水で溶解し、200mM、20mM、2mMの硫酸マグネシウム溶液を作成した。同様に乳酸マグネシウム(3水和物、キシダ化学)を水で溶解し、200mM、20mM、2mMの乳酸マグネシウム水溶液を調製した。
【0058】
Debaryomyces hansenii(PRISCA、LACTO LABO)をYM培地(ニッスイ)で、25℃で2昼夜培養し(0.03g菌体/ml)、2.0mlエッペンドルフチューブ内で12,000rpmで10分間、遠心分離し、菌体を得た。該菌体を0.4g菌体/mlになるように水で懸濁し1mlとした。該懸濁液0.2mlに、水を10マイクロリットルあるいは作成した各濃度のマグネシウム塩水溶液を10マイクロリットル添加し(終濃度10mM、1mM、0.1mM)、さらに、4mg/mlのクルクミンエタノール溶液を10マイクロリットル添加し、37℃で4時間、振蕩培養機(TC−C−500R型、高崎科学器械)を用いて200rpmで烈しく振蕩しながら保温することにより反応させた。
【0059】
一方、菌体の懸濁液ではなく、水0.2mlに水を10マイクロリットル添加し、さらに、4mg/mlのクルクミンエタノール溶液を10マイクロリットル添加し、37℃で4時間、振蕩培養機(TC−C−500R型、高崎科学器械)を用いて200rpmで烈しく振蕩しながら保温した。
実施例1と同様の方法で反応液中のクルクミン(U1)とテトラヒドロクルクミン(THU1)を定量した。
【0060】
結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示される通り、硫酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、塩化マグネシウムの最終濃度10mMの添加条件ではいずれも、テトラヒドロクルクミンの生成量がマグネシウム塩未添加(水)条件の1.7倍以上に増大した。また、硫酸マグネシウムの最終濃度0.1mMでは、テトラヒドロクルクミンの生成量がマグネシウム塩未添加(水)条件の1.8倍以上に増大した。
【実施例3】
【0063】
Debaryomyces hansenii(PRISCA、LACTO LABO)をYM培地(ニッスイ)で、25℃で2昼夜培養し(30kg菌体/1000L)、シャープレスで分離して菌体を得る。該菌体を0.4g菌体/mlになるように約70Lの水で懸濁する。該懸濁液70Lに、200mM硫酸マグネシウム水溶液を3.5L添加する(終濃度10mM)。さらに、4mg/mlのクルクミンエタノール溶液を3.5L添加し、37℃で攪拌保温する。4時間後、全量を加熱乾燥し、2kgの乾燥物を得る。これを粉砕することにより、THU1と酵母を含有する粉末を取得する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1mM〜20mMのマグネシウム塩の存在下、式(I)
【化1】

[式(I)中、R1 、R2 、R3 及びR4 は、同一又は異なって、水素、ヒドロキシ又は低級アルコキシを表す]で示されるクルクミン類(以下、単にクルクミン類という)を式(II)
【化2】

[式(II)中、R1 、R2 、R3 及びR4 は、同一又は異なって、水素、ヒドロキシ又は低級アルコキシを表す]で示されるテトラヒドロクルクミン類(以下、単にテトラヒドロクルクミン類という)に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をクルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物に作用させてテトラヒドロクルクミン類を生成させ、生成したテトラヒドロクルクミン類を採取することを特徴とするテトラヒドロクルクミン類の製造方法。
【請求項2】
0.1mM〜20mMのマグネシウム塩の存在下、クルクミン類をテトラヒドロクルクミン類に変換する活性を有する微生物の菌体、培養液又はそれらの処理物をクルクミン類又はクルクミン類を含有する組成物に作用させてテトラヒドロクルクミン類を生成させることを特徴とするテトラヒドロクルクミン類を含有する組成物の製造方法。
【請求項3】
マグネシウム塩が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、乳酸マグネシウムまたはクエン酸マグネシウムである請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
クルクミン類を含有する組成物がウコン属に属する植物を処理して得られる組成物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
微生物が、デバリョマイセス属、サッカロマイセス属、ピチア属、クルイベロマイセス属、トルラスポラ属、キャンヂダ属、ラクトバチルス属、スタフィロコッカス属又はペヂオコッカス属に属する微生物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−45008(P2009−45008A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214302(P2007−214302)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】