説明

テトラヒドロビオプテリンを含有する医薬剤形

【課題】
【解決手段】 テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を含有する医薬剤形であって、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤との水溶液を調合容器中に有し、且つ調合した水溶液を投与するための投与手段を有する医薬剤形、並びにテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の水溶液を少なくとも1ヶ月の保存期間にわたって安定化するための酸化防止剤の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテトラヒドロビオプテリン欠損による変異型フェニルケトン尿症(phenylketonuria variants)の治療に使用できるテトラヒドロビオプテリン含有医薬剤形(pharmaceutical dosage form)に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロビオプテリンはフェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)の補因子であり、またアルキルグリセロールモノオキシゲナーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH)、及び一酸化窒素ヒドロキシラーゼの補因子でもあることが当初から分かっている。従って、テトラヒドロビオプテリンは、フェニルアラニンのチロシンへの変換、並びにモノアミン神経伝達物質であるドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン、及びセロトニンの産生に必要とされる(非特許文献1)。
【0003】
高フェニルアラニン血症は広く知られる遺伝性代謝疾患であり、大抵の場合(約98%)はフェニルアラニンヒドロキシラーゼ遺伝子の変異によりフェニルアラニンヒドロキシラーゼが欠損することで発症する(非特許文献2)。これに関連する表現型の重症度は、古典的フェニルケトン尿症(血漿中フェニルアラニン>1200μmol/l)から、軽度フェニルケトン尿症(血漿中フェニルアラニン600〜1200μmol/l)や軽度高フェニルアラニン血症(血漿中フェニルアラニン120〜600μmol/l)まで及ぶ。古典的又は軽度フェニルケトン尿症の患者は、神経性の続発症を予防し正常な認知発達を確実にするために、生涯にわたって食餌タンパク質制限が必要である。
【0004】
様々な研究によって、PAH遺伝子に変異を示す患者にテトラヒドロビオプテリン食餌補給を行うと血漿フェニルアラニン濃度が低下することが示されている(非特許文献3)。しかしながら、テトラヒドロビオプテリンに反応性を示すのはPAH遺伝子の特定の変異体のみであり、他のPAHの変異体は反応性を示さないように思われる。テトラヒドロビオプテリン感受性高フェニルアラニン血症は、更にテトラヒドロビオプテリン感受性PAH欠損症とテトラヒドロビオプテリン合成又は再生障害(即ち、典型的な(重症)型のGTPシクロヒドロラーゼ1(GTPCH)欠損症、ジヒドロプテリジンレダクターゼ(DHPR)欠損症、及び6−ピルボイル−テトラヒドロプテリンシンターゼ(PTPS)欠損症)とに分類できる。
【0005】
持続性高フェニルアラニン血症患者の約1〜3%がテトラヒドロビオプテリン合成の欠損を示す(非特許文献4及び5)。テトラヒドロビオプテリン合成障害患者の大多数が高い頻度で脱リン酸化酵素(phosphate-eliminating enzyme)PTPSをコードする遺伝子中に変異を示す。ここで、該酵素はジヒドロネオプテリン三リン酸からテトラヒドロビオプテリンを生合成する際の第2段階を触媒する。このようなテトラヒドロビオプテリン経路欠損によるテトラヒドロビオプテリン感受性高フェニルアラニン血症(神経変性を伴う場合がある)の患者は、低フェニルアラニン食餌治療には反応しない。
【0006】
従って、テトラヒドロビオプテリンを毎日経口投与することを含む治療計画が必要となる(非特許文献6)。或いは、L−セピアプテリンを投与してもよいと考えられる。ニーダーウィーザー(Niederwieser)らは、ジヒドロビオプテリン欠損症患者にL−セピアプテリンを単回投与すると、高フェニルアラニン血症の症状が一時的に消えることを報告している(非特許文献7)。それに関連して、ニコル(Nichol)と共働者は、腎臓及び肝臓中で、DHPRによって触媒される、ジヒドロビオプテリンからジオキソ化合物及びL−セピアプテリンを介してテトラヒドロビオプテリンが再生されるのに関与する、サルベージ経路を示している(非特許文献8)。このようなテトラヒドロビオプテリンの再利用は、減少したテトラヒドロビオプテリンの連続的な供給を確実にし、且つ有害代謝産物の蓄積を防止するために、絶対的に不可欠であると思われる。実際にDHPR遺伝子の数種の変異体は悪性高フェニルアラニン血症を引き起こすことが知られている(非特許文献4)。
【0007】
しかしながら、現在のところ、テトラヒドロビオプテリンの投与には、幾つかの問題を伴う。テトラヒドロビオプテリンは水性溶媒の存在下で迅速に分解されるため、テトラヒドロビオプテリンを長期保存するための唯一の選択肢として、不活性無水固体製剤の状態としなければならないことが広く知られている。その結果、各患者の体重に直接関連する用量は、新生児から成人までの間で大きく変動し、テトラヒドロビオプテリン固体製剤(例えば粉末又はタブレット)を用いて達成される必要がある。一方では各用量のテトラヒドロビオプテリン粉末を別々に秤量しなければならず、その一方でまた例えば包装封止部が破損するなどしてテトラヒドロビオプテリン粉末が一旦酸素に晒されると薬物が急速に酸化されるため、このような固体製剤投与は手間がかかり難しい。従って、患者が個々に秤量する原末製剤としてテトラヒドロビオプテリンを提供することは不可能であった。この問題を解決するための全ての試みは、乾燥固体製剤中のテトラヒドロビオプテリンの安定性を改善し、密封された単一ユニットの固体製剤を投与直前に溶解する戦略に集中してきた。
【0008】
この薬学的技術課題を克服するための最近の戦略は、より安定なテトラヒドロビオプテリン誘導体(例えばより安定な結晶性固体剤形)(特許文献1等参照)、窒素雰囲気下でアンプル中に封入し−20℃以下での保存(シュリックスラボラトリーズ(Schricks Laboratories)、スイス)、及び固体製剤への酸化防止剤の添加(非特許文献9)に集中している。しかしながら、これらすべての戦略を用いても、−20℃以下で保存しない限り、マルチユニット(multi-unit)送達系の安定性は2週間しか維持できない。従って、個人に合わせた簡易な経口テトラヒドロビオプテリン治療に好適な製剤が必要とされている。
【0009】
テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の剤形は、例えば特許文献2〜5より公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2005/065018
【特許文献2】EP0209689
【特許文献3】EP0906913
【特許文献4】JP10338637
【特許文献5】JP63267781
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Miwa et al., Arch. Biochem. Biophys. 1985;239:234-241
【非特許文献2】Scriver et al. Hum Mutat 2000;15:99-104
【非特許文献3】Kure et al. J Pediatr 1999;135:375-8
【非特許文献4】Danks et al. J. Inherited Metab. Dis. 1978;1:49-53
【非特許文献5】Berlow et al. Pediatrics. 1980;65:837-839
【非特許文献6】Muntau et al., New England Journal of Medicine 2002;347:2122-2132
【非特許文献7】Niederwieser et al. Euro J Pediatr 1982;138(2):110-2
【非特許文献8】Nichol et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 1983;Vol.83:1546-1550
【非特許文献9】Fiege et al., Mol Genet Metab. 2004 Jan;81(1):45-51
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を経口投与するための医薬剤形であって、各患者の体重に応じてテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を容易に投与でき、新生児、小児、又は成人への投与に適しており、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を安定な形態で含有する医薬剤形を発見した。
【0013】
一態様においては、本発明はテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を含有する医薬剤形であって、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤との水溶液を調合容器中に含み、且つ調合した該水溶液を投与するための投与手段を含むことを特徴とする医薬剤形が提供される。
【0014】
本発明で提供する医薬剤形を「本発明の(本発明による)(医薬)剤形」とも表す。
【0015】
本発明の医薬剤形は、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を水溶液の状態で液体投与するための経口剤形を含む。
【0016】
本発明の医薬剤形は水性溶媒に溶解したテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤とを含有し、また任意に1種又は数種の薬学的に許容される助剤を含有する。
【0017】
本発明の剤形において、水性溶媒はそこに溶解している塩又は酸をプロトン化でき、水又は化合物中の水と親水性溶媒(例えばエタノール、イソプロパノール、ポリエチレングリコール、グリセロール、ジメチルスルホキシド、およびこれらの組み合わせ等)とを含む。
【0018】
好ましくは、本発明の剤形における水溶液は、溶媒成分として水を含み、好ましくは少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも99%の水を含み;そして最も好ましくは溶媒は純水(100%)である。例えばL−セピアプテリン(純水中の溶解性0.17g/水100gを有する)と比較して、用いるテトラヒドロビオプテリンの代謝前駆体がより低い水溶性を示す場合、溶解性を改善するために水と他の親水性溶媒(プロピレングリコール、グリセリン等)との混合物を用いるのが好ましい。超音波処理等の様々な公知の方法によって溶解性を改善することもできる。
【0019】
本発明の剤形において、テトラヒドロビオプテリン(5,6,7,8−テトラヒドロ−ビオプテリン)は、下記式:
【0020】
【化1】

【0021】
で表される化合物であり、ビオプテリンの還元型に相当する。ビオプテリンを化学的に還元することで、2つのジアステレオ異性体、すなわち(6S)−及び(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリンが得られる。ここで、(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリンは天然のテトラヒドロビオプテリンに一致する。テトラヒドロビオプテリンはサプロプテリン又はBH4の名称でも知られている。
【0022】
(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリンは、二塩酸塩の形でクバン(Kuvan、登録商標)という商品名で市販されている。(6R)/(6S)比が70/30の(6R,S)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリンは、例えば二塩酸塩の形でシュリックスラボラトリーズ(スイス)から入手できる。
【0023】
本発明の剤形において、テトラヒドロビオプテリンの代謝前駆体としては、プテリン又はビオプテリン中間化合物が挙げられる。このような代謝前駆体は、細胞内濃度で、テトラヒドロビオプテリン生合成のデノボ経路を介して又はテトラヒドロビオプテリン再生に関与するサルベージ経路を介して、5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリンや他のプテリン又はビオプテリン中間化合物へと直接変換/還元できる。(天然)テトラヒドロビオプテリンの代謝前駆体である下記式:
【0024】
【化2】

【0025】
で表されるL−セピアプテリン(CAS17094−01−8)を投与すると、セピアプテリンレダクターゼ活性(=7,8−ジヒドロ−ビオプテリン:NADP+オキシドレダクターゼ)によっては、細胞内濃度でプテリンサルベージ経路を介して(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリンに変換され得る(Blau et al., Mol Genet Metab. 2001;74(1-2):172-185)。テトラヒドロビオプテリンの代謝前駆体は塩、例えば(6S)−及び(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリンの塩の形で存在していてもよい。
【0026】
本発明の剤形において、テトラヒドロビオプテリンは(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン、(6R,S)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン(例えば(6R)/(6S)比が70/30)、及びこれらの塩(特に酸付加塩、例えば二塩酸塩等の塩酸塩)からなる群から選ばれるのが好ましく、(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン(好ましくはその二塩酸塩等の塩の形)であるのが特に好ましい。本発明で用いるテトラヒドロビオプテリンの代謝前駆体はL−セピアプテリン(例えばその塩の形)であるのが好ましい。
【0027】
本発明の剤形において、酸化防止剤は薬学的に許容されるスルフヒドリル化合物(即ち1つ又は幾つかのスルフヒドリル基を有する化合物)を含有し、例えばスルフヒドリル基が酸化されて共有結合性架橋ジスルフィド化合物へと変換され得る。このような化合物の好ましい例としては、スルフヒドリル基を有するアミノ酸及びアミノ酸誘導体(即ちスルフヒドリル化合物)、特にシステイン化合物、例えばシステイン(L−システイン等)やそれから誘導される化合物(N−アセチルシステイン、ホモシステイン、N−アセチルホモシステイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、ホモシステインメチルエステル、ホモシステインエチルエステル等);また、2種以上の異なるスルフヒドリル化合物の混合物が挙げられ、また任意に塩の形でもよい。本発明の剤形において、酸化防止剤はシステイン(L−システイン等)又はN−アセチルシステインであるのが好ましく、例えば塩酸塩等の塩の形でもよい。
【0028】
本発明の剤形において、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤とのモル比は1.5:1〜1:4以上の比を含み、例えば1.1:1、1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:2、1:3、又は1:4、またはそれ以上である。該モル比は少なくとも1:1(例えば1:1〜1:4や1:1〜1:1.5等)であるのが好ましく、約1:1であることが好ましい。本発明の剤形において、酸化防止剤含量の上限は、使用する個別の水性溶媒中での個別の酸化防止剤の溶解性によって決定される。
【0029】
本発明の剤形において、テトラヒドロビオプテリン:酸化防止剤のモル比が1.5:1で既にテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の安定化が見られる場合があり、モル比が(約)1:1であると著しい安定化が得られることがある。
【0030】
テトラヒドロビオプテリンとして(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン二塩化物を用い、酸化防止剤としてL−システイン塩酸塩を用いる場合、1.5〜2g(例えば1.6g、1.7g、1.8g、1.9g、又は2.0g)のテトラヒドロビオプテリンに対して1gの酸化防止剤を使用するのが好ましい。例えば、2.0gテトラヒドロビオプテリンに1gの酸化防止剤を用いる。
【0031】
本発明の剤形において、テトラヒドロビオプテリン及び/又はその前駆体を好ましい濃度で用いることで、十分なテトラヒドロビオプテリン及び/又はその代謝前駆体を投与できる。テトラヒドロビオプテリン感受性高フェニルアラニン血症患者において治療反応を引き起こすために、十分なテトラヒドロビオプテリン及び/又はその代謝前駆体を含む量の液体を用いる。本発明の具体的な実施態様においては、テトラヒドロビオプテリン感受性高フェニルアラニン血症の症状を軽減するために効率をモニタリングすることによって、正確な用量を決定する。テトラヒドロビオプテリン合成欠損症患者において、このような症状は、例えば正常な生理的フェニルアラニン濃度や正常なカテコールアミン及びセロトニン産生によって確認できる。体重1kgあたりのテトラヒドロビオプテリン及び/又はその代謝前駆体の必要用量は、通常は5mg〜80mgの範囲であり、好ましくは10mg〜40mg/kg体重の範囲である。この用量を単回投与してもよく、また1日の間で少量ずつ複数回投与してもよい。特に、体重1kgあたり2.5mg〜40mgのテトラヒドロビオプテリン及び/又はその代謝前駆体を2回投与してよく、1回につき体重1kgあたり5mg〜20mgの範囲で投与するのが好ましい。体重1kgあたり10mgの量を1日に2回投与するのが特に好ましく、よって、例えば4kgの新生児の場合は所定量の液体製剤に約40mgのテトラヒドロビオプテリンが含まれている必要があり、100kgの成人の場合は所定量の液体製剤に約1000mgのテトラヒドロビオプテリンが含まれていなくてはならない。
【0032】
本発明の剤形は、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体(特に(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン・2HCl及び/又はその代謝前駆体)を、0.5重量%〜50.0重量%、好ましくは2.0重量%〜25重量%(例えば2.0重量%〜20重量%)、より好ましくは4.0重量%〜15重量%(例えば5.0重量%〜15重量%、例えば約10重量%)含む。本発明の剤形において、酸化防止剤の濃度は、テトラヒドロビオプテリンを安定化するために十分なモル比が得られるように調整する。
【0033】
本発明の剤形において、水溶液は酸性pH、例えば5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下を有し、例えば、5.0、4.5、4.0、3.5、3.0、2.5、2.0、1.5、1.0、又はそれ未満、例えば1.0〜5.5である。通常、単にテトラヒドロビオプテリン酸付加塩((6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン二塩酸付加塩等)を溶解するだけで所望の「酸性度」が得られる。個別のテトラヒドロビオプテリンによって所望の低pHが得られない場合、酸性化物質で所望のpH値を調整するのが好ましい。例えば、L−セピアプテリン(純度99%の結晶形がケイマンケミカル社から入手できる)を含む酸性液体製剤の所望の2以下の酸性pHは、適当な量の酸性化物質を補うことによって調整できる。
【0034】
本発明の医薬剤形は、更に1種又は数種の薬学的に許容される助剤を含有してよい。本発明の剤形において存在しうる薬学的に許容される助剤としては、好ましくは生薬(galenics)で使用される助剤、香味添加剤、保存料、酸性化物質、及び/又は着色剤が含まれる。
【0035】
本発明の医薬剤形は、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤とを含有し、任意に薬学的に許容される助剤を含有する固体医薬組成物に、水性溶媒を添加することによって得られる、或いは、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤との水溶液を調製し、これに任意に薬学的に許容される助剤を添加することによって得られる。水溶液は調合容器の中に入れるが、該容器は調合した水溶液を投与するための投与手段に接続されていてもよい。また、固体医薬組成物の含水量は、好ましくは1.0%〜5.0%の範囲であり、例えば1%〜4.0%である。
【0036】
このような固体医薬組成物は、例えば粉末、ペレット、又はタブレット等の顆粒状(granulates)であり、上述した香味添加剤、保存料、酸性化物質、及び/又は着色剤の他に、乾燥剤、賦形剤、及び/又は造粒剤等の更なる薬学的に許容される助剤を含有する。このような固体医薬組成物を本発明の剤形の調製に用いる場合、本発明の剤形における水溶液がこのような更なる薬学的に許容される助剤を含有していてもよい。
【0037】
本発明で用いる香味添加剤は、本発明の医薬製剤の風味改善に役立つ化合物を含み、天然甘味料、人工栄養甘味料、香料等であってよく、例えばシナモン、バニリン、チェリー、イチゴ、オレンジ、バナナ、及び/又はリンゴの風味を付けることができる。
【0038】
本発明の剤形に用いる天然甘味料としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシリトール等の単糖類;フルクトース、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類や、単糖類及び/又は二糖類と多糖類(マルトデキストリン等)との混合物が挙げられ;人工甘味料としてはソルビット、マンニット、アスパルテーム(ニュートラスイート(Nutrasweet、商標)、イコール(Equal、商標)等)、サッカリン、アセスルファムK等の砂糖代替品が挙げられる。
【0039】
本発明の剤形に存在しうる甘味料は、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシリトール、フルクトース、サッカロース、ラクトース、マルトース、及び/又はマルトデキストリンを含有するのが好ましい。
【0040】
本発明の剤形に存在する保存料は、薬学的に認可されており、微生物増殖や望ましくない化学変化によって腐敗するまでの期間を延ばすために食品、飲料、又は医薬品に添加できるものであれば、いかなる天然化合物および合成化合物を含む。例えば、保存料は安息香酸類、ホウ酸類、ソルビン酸類、炭酸類、酢酸類等の細菌や真菌の増殖を阻害する抗菌性化合物であってよく、その例としては安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸メチルエステル、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、ホウ酸ナトリウム、二炭酸ジメチル、または酢酸ジメチル等が挙げられる。本発明の剤形において、他の保存料はさらに抗酸化作用を示してもよく、テトラヒドロビオプテリンの安定化に寄与してもよい。抗酸化作用を有する保存料としては、例えばブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)やそれに関連するブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)等のフェノール性化合物が挙げられる。
【0041】
本発明の剤形において、保存料は安息香酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、二炭酸ジメチル、酢酸ジメチル、ブチル化ヒドロキシアニソール、又はブチル化ヒドロキシトルエンを含有するのが好ましい。
【0042】
本発明で用いる酸性化物質は、薬学的に許容される塩形成酸(固体酸等)を含む(例えばBerge et al., Pharmaceutical salts 1977 J. Pharm. Sci.;66(1):1-19参照)。本発明の酸性化物質も抗酸化特性を示す場合、本発明の剤形の安定性が更に向上する。このような酸性化物質の例としては、クエン酸、酒石酸、安息香酸等が挙げられる。
【0043】
テトラヒドロビオプテリン及び/又はその代謝前駆体を含有する水溶液を長期間保存すると、該水溶液の色が変化する場合がある。ただし、このような変色は必ずしも治療活性が失われたことを暗示しているわけではない。従って、本発明の剤形において、水溶液の外観を維持するために着色剤を使用してもよい。
【0044】
本発明の剤形において用いられうる着色剤は、薬学的に許容される天然色素又は人工合成色素であってよい。多種多様な薬学的に許容される色素が医薬組成物に好適に使用できることが既に知られており、例えば、天然色素としてはアナトー抽出物、アントシアニン類、β−カロテン、ベータAPO8、カロテナール、クロフサスグリ、焦糖(burnt sugar)、カンタキサンチン、カラメル、薬用炭(carbo medicinalis)、カルミン、カルミンブルー、カルミン酸、ニンジン、クロロフィル、クロロフィリン、コチニール抽出物、銅クロロフィル、銅クロロフィリン、クルクミン、クルクミン/CUクロロ(CU-chloro)、エルダーベリー、ブドウ、ハイビスカス、ルテイン、混合カロテノイド、パプリカ、リボフラビン、ホウレンソウ、イラクサ、二酸化チタン、ターメリック、天然色素、アロニア(aronia)/レッドフルーツ(redfruit)、ビートジュース色素、パプリカ抽出物、パプリカオレオレジン等が知られており、人工色素としてはアルラレッド、アマランス、カルモイシン、ファストレッドE、エリスロシン、グリーンS、パテントブルーV、ポンソー4R、キノリンイエロー、レッド2G、サンセットイエロー、タートラジン等が知られている。
【0045】
本発明の医薬剤形を調製する際にテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を含有する固体医薬組成物を使用する場合、本発明の剤形もまた、上述した成分とは別に、乾燥剤、賦形剤、及び/又は造粒剤を含有していてもよい。
【0046】
本発明の剤形に用いる乾燥剤は、薬剤又は添加賦形剤の吸湿性を相殺できる物質を含み、その例としてはSiO2(例えばサイロイド(Syloid、登録商標)AL等に含まれる)、エアロゾル、CaCO3等が挙げられる。
【0047】
本発明の剤形に用いられる賦形剤は、例えば、ラクトース、サッカロース、セルロース、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、デンプン、タルカム、及び/又はリン酸水素カルシウムを含有する。
【0048】
本発明の剤形に用いられる造粒剤は、例えば、エタノール、ゼラチン、クロスポビドン、及び/又はポリビニルピロリドンを含有する。
【0049】
本発明の剤形において、調合容器は気密且つ液密の容器を含み、好ましくはガラス(例えば茶色ガラス材料)又はプラスチック(例えば光学的不透明プラスチック材料)からなる。調合容器の容量は、10ml〜1000ml(25ml〜1000ml、25ml〜500ml、50ml〜200ml等)であるのが好ましく、例えば10ml、25ml、50ml、75ml、100ml、125ml、150ml、175ml、200ml、300ml、400ml、500ml、600ml、700ml、800ml、900ml、又は1000mlであってよい。
【0050】
本発明の剤形の調合容器は、調合した水溶液の投与に適した投与手段を該容器に又は該容器で接続するための、接続手段(例えばねじ山)を有してよい。
【0051】
本発明の剤形において、調合した水溶液を投与する投与手段としては、所望量の水溶液を投与するのに適した、ポンプ、シリンジ、ピペットポンプ等の液体投与手段が挙げられる。
【0052】
投与手段は好ましくはアクチュエータを有し、このアクチュエータは調合容器中に配置してよく、また調合容器内に延在してもよい。投与手段は該アクチュエータとしてポンプデバイスを有するのが好ましく、このポンプデバイスは調合容器に移動可能な状態で取り付けられてよく、カニューレ等で調合容器内に延在してもよい。ポンプデバイスを調合容器の排出口に移動させると、水溶液が正確な投与量だけ調合容器の排出口から出てくる。
【0053】
投与手段は一定量の水溶液を投与するのに適しており、ここで一定量は例えば100μl〜2000μl(200μl〜1500μl、500μl〜1000μl等)であり、例えば100μl、200μl、300μl、400μl、500μl、600μl、700μl、800μl、900μl、1000μl、1100μl、1200μl、1300μl、1400μl、1500μl、1600μl、1700μl、1800μl、1900μl、又は2000μlである。投与手段で投与する水溶液の正確な分量をあらかじめ規定してもよく、或いは機械的に所望の体積に調整できるようにしてもよい。
【0054】
一実施態様において、本発明は、投与手段が調合容器に堅固に接続された剤形を提供する。
【0055】
加えて、使用前の成分の酸化を防ぐために、投与手段と共に、或いは投与手段とは別に、調合容器をアルミニウム複合材料からなるフィルム内に密封してもよい。
【0056】
他の実施態様においては、本発明は、調合容器中の水溶液と投与手段とが互いに分離した状態で1つのパッケージ中に包まれたキットを提供する。
【0057】
調合容器に接続された(又は後に接続される)投与手段を用いて、本発明の剤形中の水溶液を適当な用量だけ患者に投与することができる。患者の直接経口摂取によって投与してもよく、また患者がミルク、ヨーグルト、ノンアルコール飲料、ソフトドリンク(オレンジジュース、リンゴジュース、コカコーラ、スープ、水等)、ベビーフードといった食品を摂取する際に、摂取にできるだけ近い時点で適当量を該食品に添加してもよい。本発明の剤形中の水溶液を母乳で希釈したものや、本発明の剤形中の水溶液を調製粉乳溶液(例えばアプタミル(Aptamil、登録商標)、HAプレ(HA Pre、登録商標)、ミルパ(Milupa、登録商標)等の調製粉乳の12.2重量%溶液)で希釈したものは凝固しない;例えば10%のテトラヒドロビオプテリンを含有する本発明の剤形中の水溶液1部を、5部の母乳と使用する場合、又は本発明の剤形中の水溶液を5部の調製粉乳溶液(例えば、アプタミル(登録商標)、HAプレ(登録商標)、ミルパ(登録商標)等の調製粉乳の12.2重量%溶液)と使用する場合である。従って、本発明の剤形中の水溶液を、母乳又は調製粉乳(例えばアプタミル(登録商標)、HAプレ(登録商標)、ミルパ(登録商標))の溶液や、市販のベビーフードと組み合わせて、小児や幼児に投与することもできる。
【0058】
一態様においては、本発明の剤形は、任意に賦形剤を添加したテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤との水溶液を調製し、この水溶液を調合水溶液投与手段に接続された調合容器に導入して製造してもよい。
【0059】
一態様において、本発明の剤形の調製方法は、
(i)酸化防止剤(スルフヒドリル化合物等)とテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体とを秤量し、更に任意に薬学的に許容される助剤を秤量する工程、
(ii)任意に工程(i)の成分を混合する工程、
(iii)酸化防止剤、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体、及び任意に用いられる薬学的に許容される助剤、或いはこれらの混合物を、水性溶媒に溶解する工程、並びに
(iv)任意に工程(iii)で得られた単一又は複数の水溶液を、調合水溶液投与手段に接続された(又は後に接続される)調合容器に導入する工程
を含む。
【0060】
酸化防止剤、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体、及び任意に用いられる薬学的に許容される助剤の溶解は、成分を別々に水性溶媒に溶解させる、またはこれらの1種又は数種、場合によっては全ての成分を、同時に水性溶媒に溶解させることで実施してもよい。
【0061】
単一または複数の水溶液の、調合水溶液投与手段に接続された(又は後に接続される)調合容器への導入は、1種、数種、又は全ての成分を含む単一又は複数の水溶液を調合容器内に充填することにより実現されてもよい。或いは、1種、数種、又は全ての成分を含む水溶液を調合容器内で直接調製し、任意に1種又は数種の成分の水溶液を追加することにより実現されてもよい。
【0062】
他の態様においては、本発明の剤形の調製は、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤とを含有し、更に任意に薬学的に許容される助剤を含有する固体製剤(例えば粉末、ペレット、顆粒、タブレットの形で)から、水性溶媒を添加することにより得てもよい。ここで、水溶液は、調合水溶液投与手段に接続された(又は後に接続される)調合容器に導入される。
【0063】
このような固体製剤は、例えば容器内で、好ましくは気密封止した状態で、提供されうる。
【0064】
固体製剤が例えば粉末である場合、調製方法は、
(i)酸化防止剤(スルフヒドリル化合物等)とテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体とを秤量し、更に任意に薬学的に許容される助剤を秤量する工程、
(ii)工程(i)の成分を混合する工程、
(iii)工程(ii)で得られた混合物を、任意に調合水溶液投与手段に取り付けた調合容器内で、水性溶媒に溶解する工程、並びに
(iv)任意に工程(iii)で得られた水溶液を、調合水溶液投与手段に接続された(又は後に接続される)調合容器に導入する工程
を含む。
【0065】
固体製剤が顆粒の形で、例えば気密容器中、例えば小袋(sachet)中に提供する場合、調製方法は、例えば、
(i)薬学的に許容される助剤、酸化防止剤(スルフヒドリル化合物等)、及びテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を秤量する工程、
(ii)工程(i)の成分を混合する工程、
(iii)造粒剤を用いて工程(ii)で得られた混合物を粒状化する工程、
(iv)工程(iii)で得られた顆粒を加圧乾燥又は加熱乾燥する工程、
(v)任意に好ましくは工程(iv)で得られた顆粒を、例えば篩等によって区分する工程、
(vi)任意に工程(v)で得られた顆粒に更なる薬学的に許容される助剤を添加し混合する工程、
(vii)工程(vi)で得られた混合物を、任意に調合水溶液投与手段に取り付けた調合容器内で、水性溶媒に溶解する工程、並びに
(viii)任意に工程(vii)で得られた水溶液を、調合水溶液投与手段に接続された(又は後に接続される)調合容器に導入する工程
を含む。
【0066】
固体組成物が例えばペレットの形で提供される場合、調製方法は、
(i)薬学的に許容される助剤、酸化防止剤(スルフヒドリル化合物等)、並びにテトラヒドロビオプテリン及び/又はその代謝前駆体を秤量する工程、
(ii)工程(i)の成分を混合する工程、
(iii)造粒剤を用いて工程(ii)で得られた混合物を粒状化する工程、
(iv)工程(iii)で得られた顆粒をペレット化する工程、
(v)工程(iv)で得られた顆粒を乾燥する工程、
(vi)工程(v)で得られた混合物を、任意に調合水溶液投与手段に取り付けた調合容器内で、水性溶媒に溶解する工程、並びに
(vii)任意に工程(vi)で得られた水溶液を、調合水溶液投与手段に接続された(又は後に接続される)調合容器に導入する工程
を含む。
【0067】
例えば適当な薬学的に許容される助剤を用いて、任意に、粉末、ペレット、又は顆粒状の固体組成物を押圧して、タブレット等の丸薬(pellets)としてもよい。
【0068】
固体組成物が例えばタブレット等の丸薬状の形で提供される場合、調製方法は、
(i)タブレット等の丸薬を、任意に調合水溶液投与手段に取り付けた調合容器内で、水性溶媒に溶解する工程、並びに
(ii)任意に工程(i)で得られた水溶液を、調合水溶液投与手段に接続された(又は後に接続される)調合容器に導入する工程
を含む。
【0069】
本発明の剤形において、水溶液は2℃〜60℃の温度(例えば4℃〜40℃や室温)で安定であることが分かっている。
【0070】
本発明の剤形中の水溶液を少なくとも1ヶ月(例えば2、3、4、5、6、9、又は12ヶ月)にわたって保存したとき、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体(特に(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン・2HCl)の初期濃度の95%以上(例えば96%、97%、98%、又は99%)が含まれている場合、該水溶液は「安定である」とする。テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の初期濃度は、本発明の剤形中に水溶液を供給した直後にHPLC等の適当な手段を用いて測定した濃度と定義する。
【0071】
本発明の剤形を用いると高精度に投薬できるため、該剤形はおそらくテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の幼児又は小児への投与に特に好適である。この場合、例えば、本発明の剤形中の水溶液を食品(母乳や調製粉乳等のミルク、ノンアルコール飲料、スープ、ベビーフード等)と組み合わせて投与するのが有利である。
【0072】
他の態様においては、本発明は、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の幼児又は小児への投与に特に好適である医薬剤形を提供し、例えば、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を(特にミルク又はベビーフードと組み合わせて)小児又は幼児に投与することによってテトラヒドロビオプテリン欠損による変異型フェニルケトン尿症(特に高フェニルアラニン血症)を治療するための薬剤を調製するため、本発明の医薬剤形を用いる方法が提供される。
【0073】
他の態様においては、本発明は、ある保存期間(少なくとも1ヶ月、例えば2、3、4、5、6、9、又は12ヶ月)にわたって、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の水溶液を例えば開口状態で保存する際に、該水溶液を安定化するために酸化防止剤の使用(例えばスルフヒドリル化合物の使用)を提供する。この方法において、特に、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤とのモル比は、約1.5:1〜1:4、特に1:1〜1:1.5を含む。
【0074】
他の態様においては、本発明は、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の水溶液を安定化するために酸化防止剤(特にシステイン等のスルフヒドリル化合物)を使用する方法を提供する。この方法において、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体は、40±2℃で相対湿度75±5%の条件下及び/又は25±2℃で相対湿度60±5%の条件下で安定となる。特に、少なくとも1ヶ月(特に2、3、4、5、6、9、又は12ヶ月)の保存期間にわたって、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の初期濃度の95%(特に96%、97%、97.5%、98%、又は99%)が維持される。
【0075】
例えばテトラヒドロビオプテリン感受性高フェニルアラニン血症、II型糖尿病、数種の高血圧症、勃起障害、一部の神経伝達物質代謝変化を伴う疾患(パーキンソン病等)といった、テトラヒドロビオプテリン及び/又はその代謝前駆体の投与を必要とする疾患を治療、改善、又は治癒するための薬剤として、また、このような薬剤の製造のために本発明の剤形中の水溶液を用いてもよい。
【0076】
ここで、「高フェニルアラニン血症」という語は、血清フェニルアラニン濃度が上昇すること、典型的には120〜600μmol/lの範囲に上昇することを特徴とする哺乳類(好ましくはヒト)における代謝障害を包含する。
【0077】
ここで用いられる「テトラヒドロビオプテリン感受性高フェニルアラニン血症」という語は、テトラヒドロビオプテリン及び/又はその前駆体を投与することによって改善、治療、又は治癒できる、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ欠損又はテトラヒドロビオプテリン合成障害を特徴とする高フェニルアラニン血症の変異型を示す。
【0078】
高フェニルアラニン血症の治療、特にテトラヒドロビオプテリン感受性高フェニルアラニン血症の治療には、患者の体重に応じて個々の量を毎日投与する必要がある。1日服用量を2回に分けて投与してよく、或いは更に多数回に分けて投与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図示の濃度(m/v)のN−アセチルシステインの、水溶液中テトラヒドロビオプテリン安定性に対する影響。図示の値は少なくとも3回の実験の平均値±SDである。
【図2】図示の濃度(m/v)のシステインの、水溶液中テトラヒドロビオプテリン安定性に対する影響。図示の値は少なくとも3回の実験の平均値±SDである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0080】
幼児から成人までのヒトに本発明の剤形を単回投与するための投薬パラメーター
500μlアリコートを分注するための投薬ポンプを用いて、10%テトラヒドロビオプテリン液体製剤を使用することにより、正確な投薬の可能性を下記表1に示す(ただし、テトラヒドロビオプテリン感受性高フェニルアラニン血症の治療、改善、又は治癒に必要な適量のテトラヒドロビオプテリンを投与するためには、下記量を1日に2回投与する必要がある)。
【0081】
【表1】

【0082】
また、体重70〜100kg以上の成人に必要な単位数を減らすために、1.0、1.5、又は2.0mlを分注可能な投薬ポンプを用いてもよい。
【実施例2】
【0083】
水性BH4組成物
10%w/wのBH4・2HClを含有する液体製剤A
(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン・2HCl 10g
L−システイン・HCl 5g
安息香酸ナトリウム(EuAB) 0.2g
脱塩水(EuAB) ad 100ml
【0084】
10%w/wのBH4・2HClを含有する液体製剤B
(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン・2HCl 10g
L−システイン・HCl 5g
サイロイド(登録商標)AL 5g
安息香酸ナトリウム(EuAB) 0.2g
脱塩水(EuAB) ad 100ml
【0085】
10%w/wのBH4・2HClを含有する液体製剤AB
(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン・2HCl 10g
L−システイン・HCl 5g
安息香酸ナトリウム(EuAB) 0.1g
ソルビン酸カリウム(EuAB) 0.1g
脱塩水(EuAB) ad 100ml
【実施例3】
【0086】
水溶液調製のためのテトラヒドロビオプテリンとの粉末予混合物(premixture)
適当量の脱塩水中で再構成して100mlの10%テトラヒドロビオプテリン液体製剤を得るように、テトラヒドロビオプテリンの乾燥製剤をデザインする。この乾燥製剤は好ましくは乾燥剤を含有する。
【0087】
固体製剤C
(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン・2HCl 10g
無水L−システイン・HCl 5g
安息香酸ナトリウム(EuAB) 0.2g
【0088】
固体製剤D(1%のサイロイド(登録商標)を含有)
(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン・2HCl 10g
無水L−システイン・HCl 5g
サイロイド(登録商標)AL 1 FP(5%) 0.15g
安息香酸ナトリウム(EuAB) 0.2g
【0089】
固体製剤E(5%のサイロイド(登録商標)を含有)
(6R)−5,6,7,8−テトラヒドロ−L−ビオプテリン・2HCl 10g
無水L−システイン・HCl 5g
サイロイド(登録商標)AL 1 FP(5%) 0.76g
安息香酸ナトリウム(EuAB) 0.2g
【実施例4】
【0090】
添加したスルフヒドリル化合物に基づく安定性
様々な濃度のN−アセチルシステイン(図1)及びL−システイン(図2)の、10%(w/w)テトラヒドロビオプテリン溶液の安定性に対する影響を評価した。液体製剤を室温で保存し、所定の時間に一定量をサンプリングし、フクシマらが記載の識別酸化法(differentiated oxidation method)に従ってテトラヒドロビオプテリン含量を分析した(Fukushima T., Nixon J. C. - Analysis of reduced forms of biopterin in biological tissues and fluids. - Anal Biochem., 102(1), 176-188, 1980、Fukushima T., Nixon J. C. - Chromatographic analysis of pteridines. - Methods Enzymol., 66, 429-436, 1980)。この試験結果を図1及び図2に示す。
【実施例5】
【0091】
BH4液体製剤の長期安定性
製剤Aに対応するBH4含有粉末材料を、ミリポア超純水を100gまで充填したバロワ(Valois)製茶色ガラス瓶に移し、バロワ製アルディスク(aludisc)及び蓋で密封した。更に、瓶の半分をアルバッグ(alubag)で包んだ。加速条件(40±2℃、相対湿度75±5%)及び長期条件(25±2℃、相対湿度60±5%)下、サンプルを気候暴露試験キャビネットに入れ、6ヶ月間保存した。試験開始時及び6ヶ月後のBH4含量を、フクシマらによる酸性アルカリ性酸化法(acidic and alkaline oxidation method)を用いて評価した。初期量と比較した、6ヶ月又は12ヶ月保存後に測定した相対BH4量を、表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
BH4液体製剤のBH4含量は加速条件下で6ヶ月間保存しても悪化しないことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を含有する医薬剤形であって、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤との水溶液を調合容器中に含み、且つ調合した水溶液を投与するための投与手段を含むことを特徴とする医薬剤形。
【請求項2】
酸化防止剤がスルフヒドリル化合物であることを特徴とする請求項1に記載の医薬剤形。
【請求項3】
スルフヒドリル化合物がシステイン化合物であり、特にシステイン及びそれから誘導される化合物(特にN−アセチルシステイン、ホモシステイン、N−アセチルホモシステイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、ホモシステインメチルエステル、及びホモシステインエチルエステルからなる群から選ばれる化合物)からなる群から選ばれ、または2種又は数種の異なるスルフヒドリル化合物の混合物であり、任意に塩(特に塩酸塩)の形であることを特徴とする請求項2に記載の医薬剤形。
【請求項4】
テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の濃度が0.5重量%〜50重量%、特に2重量%〜20重量%、特に5重量%〜15重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬剤形。
【請求項5】
テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と酸化防止剤とのモル比が1.5:1〜1:4、特に1:1〜1:1.5を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬剤形。
【請求項6】
水溶液のpHが5以下、特に2以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬剤形。
【請求項7】
投与手段によって100μl〜2000μlの範囲で水溶液のアリコートが分注(dispensation)されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬剤形。
【請求項8】
投与手段が調合容器に堅固に接続されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬剤形。
【請求項9】
調合容器中の水溶液と投与手段とが互いに分離した状態で1つのパッケージ中にまとめられたキットを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬剤形。
【請求項10】
テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の水溶液を少なくとも1ヶ月(特に2、3、4、5、6、9、又は12ヶ月)の保存期間にわたって安定化するための、酸化防止剤(特にスルフヒドリル化合物、特にシステイン)の使用であって、特に前記テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体と前記酸化防止剤とのモル比が約1.5:1〜1:4、特に1:1〜1:1.5を含むことを特徴とする使用。
【請求項11】
テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体が、40±2℃で相対湿度75±5%の条件下及び/又は25±2℃で相対湿度60±5%の条件下で安定であり、特にテトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体の初期濃度の95%(特に96%、97%、97.5%、98%、又は99%)が少なくとも1ヶ月(特に2、3、4、5、6、9、又は12ヶ月)保存しても維持されることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の医薬剤形の、薬剤の調製のための使用であって、前記薬剤が、テトラヒドロビオプテリン又はその代謝前駆体を小児又は幼児に(特にミルク又はベビーフードと組み合わせて)投与することによって、テトラヒドロビオプテリン欠損による変異型フェニルケトン尿症(特に高フェニルアラニン血症)を治療するための薬剤であることを特徴とする使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−530540(P2011−530540A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522346(P2011−522346)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/AT2009/000306
【国際公開番号】WO2010/017570
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(511029497)オルファ スイス ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】