説明

テトラヒドロピラン化合物の製造方法

【課題】4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステル、4-シアノテトラヒドロピラン及びテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法の提供。
【解決手段】ビス(2-ハロゲノエチル)エーテル、シアノ酢酸エステル及びアルカリ金属アルコキシドを有機溶媒中にて反応させる、一般式(4a)及び(4b)で示される、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの製造方法、及び上記少なくとも1種のエステルを溶媒中で反応させる、4-シアノテトラヒドロピランの製造方法、並びに上記4-シアノテトラヒドロピランと塩基とを溶媒中で反応させる、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。


(式中、R及びRは、アルキル基を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテルとシアノ酢酸エステルとから、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを製造する方法、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルから4-シアノテトラヒドロピランを製造する方法及び4-シアノテトラヒドロピランからテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドを製造する方法に関する。4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステル、4-シアノテトラヒドロピラン及びテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドは、例えば、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である(例えば、特許文献1及び2参照)。
【背景技術】
【0002】
従来、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテルとシアノ酢酸エステルとから、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを製造する方法としては、例えば、金属ナトリウムの存在下、ビス(2-クロロエチル)エーテルとシアノ酢酸エチルとをエタノール中で反応させて、収率33%で4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチルを製造する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、反応中に水素が発生する上に、収率が低いという問題点があった。
又、ビス(2-クロロエチル)エーテルとシアノ酢酸メチルとを反応させた場合には、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチルに加え、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸が大量に副生することが知られている(例えば、特許文献3参照)。そのため、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを得るためには、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸を再びエステル化しなければならないという問題点があった。
【0003】
更に、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルから4-シアノテトラヒドロピランを製造する方法としては、例えば、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを加水分解させて得られた4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸を、180〜200℃に加熱して、単離収率66%で4-シアノテトラヒドロピランを得る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では高い反応温度が必要であり、4-シアノテトラヒドロピランの工業的な製法としては満足するものではなかった。
【0004】
又、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドを製造する方法としては、例えば、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチルを、アンモニア水/メタノールの混合溶液中で反応させて、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドを製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、刺激の強いアンモニア水を用いなければならないという問題点があった。
更に、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸クロリドとアンモニア水とを反応させて、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドを製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、収率の記載はなく、刺激の強いアンモニア水を用いなければならず、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの工業的な製法としては満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/514389号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/032848号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/028410号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Chem.Soc,1930,2525
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の課題は、即ち、上記問題点を解決し、温和な条件下、簡便な方法によって、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテルとシアノ酢酸エステルとから、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを高収率で製造出来る、工業的に好適な4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの製造方法を提供することである。
本発明の第2の課題は、即ち、上記問題点を解決し、温和な条件下、簡便な方法によって、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルから4-シアノテトラヒドロピランを高収率で製造出来る、工業的に好適な4-シアノテトラヒドロピランの製法を提供することである。
本発明の第3の課題は、即ち、上記問題点を解決し、温和な条件下、簡便な方法によって、4-シアノテトラヒドロピランからテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドを高収率で製造出来る、工業的に好適なテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の課題は、一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
式中、Xは、ハロゲン原子を表す、
で示されるビス(2-ハロゲノエチル)エーテル、一般式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
式中、Rは、炭素原子数2〜6のアルキル基を表す、
で示されるシアノ酢酸エステル及び一般式(3):
【0013】
【化3】

【0014】
式中、Rは、Rと同一又は異なっていても良い炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、Mは、アルカリ金属原子を表す、
で示されるアルカリ金属アルコキシドを有機溶媒中にて反応させることを特徴とする、一般式(4a)及び(4b):
【0015】
【化4】

【0016】
式中、R及びRは、前記と同義である、
からなる群より選ばれる少なくとも一種の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの製造方法によって解決される。
【0017】
本発明の第2の課題は、前記一般式(4a)及び(4b)で示される4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの少なくとも1種と、アルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩又はそれらの混合物とを、カーボネート類、アミド類、アミン類、尿素類、スルホキシド類及びスルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(5):
【0018】
【化5】

【0019】
で示される、4-シアノテトラヒドロピランの製造方法によって解決される。
【0020】
本発明の第3の課題は、前記一般式(5)で示される4-シアノテトラヒドロピランと塩基とを溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(6):
【0021】
【化6】

【0022】
で示されるテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法によって解決される。
本発明においては、上記3つの工程を連続して行ってもよく、何れか2つの連続する工程を目的物を単離・精製することなく連続して行ってもよい。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明により、温和な条件下、簡便な方法によって、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテルとシアノ酢酸エステルとから、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを高収率で製造出来る、工業的に好適な4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの製造方法を提供することが出来る。
【0024】
また、第2の発明により、温和な条件下、簡便な方法によって、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルから4-シアノテトラヒドロピランを高収率で製造出来る、工業的に好適な4-シアノテトラヒドロピランの製造方法を提供することが出来る。
【0025】
更に、第3の発明により、温和な条件下、簡便な方法によって、4-シアノテトラヒドロピランからテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドを高収率で製造出来る、工業的に好適なテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1の発明において使用するビス(2-ハロゲノエチル)エーテルは、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であるが、好ましくは塩素原子又は臭素原子である。
【0027】
前記のビス(2-ハロゲノエチル)エーテルの具体例としては、例えば、ビス(2-クロロエチル)エーテル、ビス(2-ブロモエチル)エーテル、ビス(2-ヨードエチル)エーテルが使用され、好ましくはビス(2-クロロエチル)エーテル、ビス(2-ブロモエチル)エーテルが使用される。なお、これらのビス(2-ハロゲノエチル)エーテルは、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0028】
第1の発明において使用するシアノ酢酸エステルは、前記の一般式(2)で示される。その一般式(2)において、Rは、炭素原子数2〜6のアルキル基であり、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基が挙げられるが、好ましくはエチル基である。なお、これらの基は、各種異性体も含む。
【0029】
前記シアノ酢酸エステルの使用量は、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテル1モルに対して、好ましくは0.8〜20モル、更に好ましくは1.0〜4.0モルである。
【0030】
第1の発明において使用するアルカリ金属アルコキシドは、前記の一般式(3)で示される。その一般式(3)において、Rは、Rと同一又は異なっていても良い炭素原子数1〜6のアルキル基を示すが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基等が挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、ブチル基及びペンチル基、更に好ましくはブチル基である(なお、これらの基は、各種異性体を含む。)。又、Mは、アルカリ金属原子を示すが、例えば、リチウム原子、ナトリウム原子及びカリウム原子等が挙げられるが、好ましくはナトリウム原子及びカリウム原子、更に好ましくはナトリウム原子である。
【0031】
前記のアルカリ金属アルコキシドの具体例としては、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド及びナトリウムt-ペントキシド等のアルカリ金属アルコキシド、好ましくはナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、ナトリウムt-ペントキシド及びカリウムt-ブトキシドが使用される。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0032】
前記塩基の使用量は、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテル1モルに対して、好ましくは1.5〜10.0モル、更に好ましくは1.8〜5.0モルである。
【0033】
第1の発明において使用する有機溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール及びt-ブチルアルコール等のアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドン等のアミド類;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシドのスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられるが、好ましくはアミド類及びスルホキシド類が使用される。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0034】
前記有機溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテル1gに対して、好ましくは0.5〜30ml、更に好ましくは1〜20mlである。
【0035】
第1の発明は、例えば、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテル、シアノ酢酸エステル、塩基及び有機溶媒を混合して、攪拌させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは10〜150℃、更に好ましくは30〜130℃であり、反応圧力は特に制限されない。なお、本発明の反応の好ましい態様としては、シアノ酢酸エステルとアルカリ金属アルコキシドとを予め反応させてシアノ酢酸エステルのアルカリ金属塩を生成させ、次いで、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテルと混合して反応させる方法が挙げられる。
【0036】
第1の発明によって、一般式(4a)及び(4b)からなる群より選ばれる少なくとも1種の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルが得られるが、これらは、反応終了後、例えば、濾過、濃縮、抽出、蒸留、再結晶及びカラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。また、単離・精製することなく、以下の第2の発明を連続して行うことも可能である。
【0037】
第2の発明の反応において使用する4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルは、前記の一般式(4a)及び(4b)で示されるもののうちの少なくとも1種である。その一般式(4a)及び(4b)において、R及びRは前記と同義である。
【0038】
第2の発明の反応においてはアルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩を使用する。アルカリ金属アルコキシドとしては、前記式(3)で示されるアルカリ金属アルコキシドが挙げられ、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド及びナトリウムt-ペントキシド等が挙げられるが、好ましくはナトリウムメトキシドが使用される。カルボン酸アルカリ金属塩としては、例えば、ギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム等のアルカリ金属ギ酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属酢酸塩;プロピオン酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム等のアルカリ金属プロピオン酸塩;安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム等のアルカリ金属安息香酸塩等が挙げられるが、好ましくは酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが使用される。なお、これらのアルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0039】
前記アルカリ金属アルコキシドの使用量は、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステル1モルに対して、好ましくは0.1〜50モル、更に好ましくは0.5〜20モル、特に好ましくは0.8〜5.0モルである。
【0040】
第2の発明の反応は、カーボネート類、アミド類、アミン類、尿素類、スルホキシド類及びスルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で行うが、使用する溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びエチレンカーボネート等のカーボネート類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドン等のアミド類;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の尿素類;トリ-n-ブチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、ピリジン、2-ピコリン、3-ピコリン、キノリン等のアミン類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類が挙げられる。好ましくはカーボネート類、アミド類、アミン類及び尿素類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。又、本発明の反応において、反応に関与しない溶媒として、炭化水素類(例えば、シクロヘプタン、トルエン、キシレン等)を入れて、操作性・攪拌性を向上させても良い。
【0041】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステル1gに対して、好ましくは0.1〜100ml、更に好ましくは0.5〜50ml、特に好ましくは1.0〜10mlである。
【0042】
第2の発明の反応は、例えば、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステル、アルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩、又はそれらの混合物、並びにカーボネート類、アミド類、尿素類、アミン類、スルホキシド類及びスルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは20〜170℃、更に好ましくは50〜160℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0043】
なお、最終生成物である4-シアノテトラヒドロピランは、例えば、反応終了後、濾過、抽出、濃縮、蒸留、再結晶及びカラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。また、単離・精製することなく、以下の第3の発明を連続して行うことも可能である。
【0044】
第3の発明において使用する塩基は、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド及びナトリウムt-ペントキシド等のアルカリ金属アルコキシドが挙げられるが、好ましくはアルカリ金属水酸化物、更に好ましくは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが使用される。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0045】
前記塩基の使用量は、4-シアノテトラヒドロピラン1モルに対して、好ましくは0.1〜10.0モル、更に好ましくは0.2〜5.0モルである。
【0046】
本発明において使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール及びt-ブチルアルコール等のアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドン等のアミド類;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノール、n-ブチルアルコール及びt-ブチルアルコール等のアルコール類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0047】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、4-シアノテトラヒドロピラン1gに対して、好ましくは0.5〜30ml、更に好ましくは1〜20mlである。
【0048】
本発明は、例えば、4-シアノテトラヒドロピラン、塩基及び溶媒を混合して、攪拌させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは30〜130℃であり、反応圧力は特に制限されない。また、本発明においては、反応時に水を存在させることが望ましい。
前記水の使用量は、4-シアノテトラヒドロピラン1モルに対して、好ましくは0.01〜50.0モル、更に好ましくは0.1〜10.0モルである。
【0049】
なお、本発明によってテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドが得られるが、これは、反応終了後、例えば、濾過、濃縮、中和、抽出、蒸留、再結晶及びカラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。又、本発明の反応においては、過酸化物(例えば、過酸化水素等)や相間移動触媒(四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩等)を存在させて反応性を調節しても良い。
【実施例】
【0050】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0051】
実施例1(4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチルの合成)
攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容積8000mlのガラス製フラスコに、アルゴン雰囲気下、N,N-ジメチルアセトアミド2700ml及び純度95%のナトリウムt-ブトキシド976g(9.65mol)を加え、攪拌しながら純度98%のシアノ酢酸エチル1114g(9.65mol)をゆるやかに滴下した。滴下終了後、40℃にて1時間攪拌させて、シアノ酢酸エチルのナトリウム塩を含む溶液を調製した。
次いで、攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容積10lのガラス製フラスコに、純度99%のビス(2-クロロエチル)エーテル606g(4.20mol)及びトルエン600mlを加え、液温を71.3℃まで昇温させた後、前記シアノ酢酸エチルのナトリウム塩を含む溶液をゆるやかに滴下した。滴下終了後、窒素雰囲気下、80℃で5.5時間反応させた。反応終了後、反応液を10℃まで冷却し、攪拌しながら、酢酸101g(1.68mol)をゆるやかに滴下した。続いて水3000mlを加え、水層と有機層(トルエン層)を分離し、水層をトルエン1200mlで抽出した後、該有機層とトルエン抽出液を合わせて、20質量%塩化ナトリウム水溶液1710mlで洗浄した。その後、有機層を減圧下で濃縮(85℃、0.53kPa)し、濃縮液1168gをガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル744gが生成していた(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準の単離収率:96.7%)。なお、濃縮液中には、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸の生成は確認されなかった。
【0052】
実施例2(4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル及び4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチルの合成)
攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容積200mlのガラス製フラスコに、アルゴン雰囲気下、N,N-ジメチルホルムアミド60ml及び純度99%のナトリウムメトキシド18.9g(346.4mmol)を加え、0℃まで冷却した後、純度98%のシアノ酢酸エチル39.6g(343.1mmol)をゆるやかに滴下した。滴下終了後、30℃にて2時間攪拌させて、シアノ酢酸エチルのナトリウム塩を含む溶液を調製した。
次いで、攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容積200mlのガラス製フラスコに、純度99%のビス(2-クロロエチル)エーテル20.0g(138.5mmol)を加え、液温を80℃まで昇温させた後、前記シアノ酢酸エチルのナトリウム塩を含む溶液をゆるやかに滴下した。滴下終了後、窒素雰囲気下、80℃で10時間環化反応させた。反応終了後、反応液を30℃まで冷却した後、不溶物を濾過し、濾物をメタノール40mlで洗浄した後、濾液と洗浄液を合わせた。この溶液169.1gをガスクロマトグラフィーで分析したところ、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル12.5g(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準の収率:53.3%)及び4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル8.0g(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準の収率:31.5%))が生成していた。即ち、エステルの合計収率は84.8%であった。
【0053】
比較例1(4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチルの合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積50mlのガラス製フラスコに、アルゴン雰囲気下、N,N-ジメチルホルムアミド30ml及びナトリウムメトキシド9.44g(174.8mmol)を加え、内温を0℃まで冷却した後、攪拌しながら純度99%のシアノ酢酸メチル17.5g(174.8mmol)をゆるやかに滴下した。滴下終了後、室温にて3時間攪拌させて、シアノ酢酸メチルのナトリウム塩を含む溶液を合成した。
次いで、攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのガラス製フラスコに、純度99%のビス(2-クロロエチル)エーテル10.1g(69.9mmol)を加え、液温を80℃まで昇温させた後、前記シアノ酢酸メチルのナトリウム塩を含む溶液をゆるやかに滴下した。滴下終了後、窒素雰囲気下、80℃で20時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却してガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチルが8.30g生成していた(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準の反応収率:70.2%)。
続いて、反応液を0℃まで冷却し、純度95%の硫酸ジメチル23.2g(174.7mmol)をゆるやかに滴下した。滴下終了後、室温にて1時間反応させて、副生した4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸をメチルエステルへと誘導して、その存在量を確認した。その結果、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチルの生成量から算出される4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸の生成量は2.05gであった。(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準で18.9%であった。)
即ち、本反応系では4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸が大量に副生することが分かる。
【0054】
実施例3(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度100%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル507mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド432mg(8.0mmol)及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン5mlを加え、攪拌しながら130℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが315mg生成していた(反応収率;94.5%)。
【0055】
実施例4(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度100%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル507mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド216mg(4.0mmol)及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン5mlを加え、攪拌しながら130℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが312mg生成していた(反応収率;93.6%)。
【0056】
実施例5(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度100%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル507mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド432mg(8.0mmol)及び炭酸ジエチル5mlを加え、攪拌しながら130℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが237mg生成していた(反応収率;71.1%)。
【0057】
実施例6(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度100%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル507mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド1.08g(20mmol)及び炭酸ジエチル10mlを加え、攪拌しながら130℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが241mg生成していた(反応収率;72.3%)。
【0058】
実施例7(テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの合成)
攪拌装置、滴下漏斗及び温度計を備えた内容積500mlのガラス製フラスコに、純度99%の4-シアノテトラヒドロピラン56.13g(0.5mol)、t-ブチルアルコール281ml及び純度85%の水酸化カリウム39.61g(0.6mol)を加え、攪拌しながら100℃にて2時間反応を行なった。反応終了後、トルエン112ml及び水112mlを加えた後、液温を25℃以下に保ちながら35%塩酸50mlを滴下してpH7.5に調整した。次いで、室温にて水層を分液した後、水層を酢酸エチル281mlで抽出した。得られた有機層と抽出液を合わせ、減圧下で濃縮(60℃、2.0kPa)し、純度92.5質量%(ガスクロマトグラフィーによる内部標準法)のテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミド43.47gを得た(単離収率;62.3%)。又、前記の水層をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドが12.45g含まれていた(19.3%)。なお、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの物性値は以下の通りであった。
【0059】
CI-MS(m/e);130(M+1)
1H-NMR(DMSO-d6,δ(ppm));1.36〜1.63(4H,m)、2.26〜2.50(1H,m)、3.24〜3.36(2H,m)、3.81〜3.87(2H,m)、6.77〜7.25(2H,d,J=48.4Hz)
【0060】
実施例8(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド216mg(4.0mmol)及びN,N-ジメチルホルムアミド5mlを加え、攪拌しながら110℃にて6時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが222mg生成していた(反応収率;66.6%)。
【0061】
実施例9(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド216mg(4.0mmol)、 1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン1ml及びトルエン4mlを加え、攪拌しながら130℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが189mg生成していた(反応収率;56.7%)。
【0062】
実施例10(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド216mg(4.0mmol)、 N,N-ジメチルホルムアミド1ml及びトルエン4mlを加え、攪拌しながら110℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが224mg生成していた(反応収率;67.2%)。
【0063】
実施例11(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、97%酢酸カリウム607mg(6.0mmol)及びN,N-ジメチルホルムアミド5mlを加え、攪拌しながら150℃にて6時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが308mg生成していた(反応収率;92.4%)。
【0064】
実施例12(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、97%酢酸カリウム607mg(6.0mmol)及びN,N-ジメチルアセトアミド5mlを加え、攪拌しながら150℃にて6時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが276mg生成していた(反応収率;82.8%)。
【0065】
実施例13(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、97%酢酸カリウム607mg(6.0mmol)及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン5mlを加え、攪拌しながら150℃にて6時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが288mg生成していた(反応収率;86.4%)。
【0066】
実施例14(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド216mg(4.0mmol)及びDMF5mlを加え、攪拌しながら130℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが325mg生成していた(反応収率;97.5%)。
【0067】
実施例15(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド216mg(4.0mmol)及びキノリン5mlを加え、攪拌しながら130℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが211mg生成していた(反応収率;63.3%)。
【0068】
実施例16(4-シアノテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlのガラス製フラスコに、純度92.1%の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル597mg(3.0mmol)、ナトリウムメトキシド216mg(4.0mmol)及び 2-ピコリン5mlを加え、攪拌しながら130℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが240mg生成していた(反応収率;72.0%)。
【0069】
実施例17(テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの合成)
攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容積500mlのガラス製フラスコに、アルゴン雰囲気下、N,N-ジメチルホルムアミド289ml及び純度99%のナトリウムメトキシド68.2g(1.25mol)を加え、0℃まで冷却した後、純度98%のシアノ酢酸エチル144.3g(1.25mmol)をゆるやかに滴下した。滴下終了後、20℃にて1時間攪拌させて、シアノ酢酸エチルのナトリウム塩を含む溶液を調製した。
攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容積1000mlのガラス製フラスコに、純度99%のビス(2-クロロエチル)エーテル72.2 g(0.50mol)を加え、液温を80℃まで昇温させた後、前記シアノ酢酸エチルのナトリウム塩を含む溶液をゆるやかに滴下した。
【0070】
反応終了後、反応液を10℃まで冷却し、攪拌しながら、酢酸18.2g(0.30mol)をゆるやかに滴下し、続いて水361mlを加えた。水層と有機層(トルエン層)を分離し、水層をトルエン144mlで1回抽出した後、該有機層とトルエン抽出液を合わせて、20重量%食塩水217mlで3回洗浄し、有機層を減圧下で濃縮した(85℃、0.53kPa)。得られた赤紫色液体をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル43.1g(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準の収率:51.0%)、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル25.9g(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準の収率:28.3%)を含んでいた。この赤紫色液体を減圧蒸留し(92〜101℃、0.71〜1.08kPa)、無色透明液体57.4gを得た。この無色透明液体をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル37.8g(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準の収率:44.7%)、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチル19.5g(ビス(2-クロロエチル)エーテル基準の収率:21.3%)を含んでいた。
【0071】
次に、攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積500mlのガラス製フラスコに、先に得られた4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル及び4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチルの混合物50.0g(4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルとして288mmol相当)、ナトリウムメトキシド20.66g(382mmol)及びN,N-ジメチルホルムアミド250mlを攪拌しながら130℃にて6時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、4-シアノテトラヒドロピランが24.29g生成していた(4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル及び4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチルの混合物基準の反応収率;75.9%)。続いて酢酸24.18g(403mmol)を加え、室温で2時間攪拌後、不要物を濾過し、濾物をトルエン50mlで洗浄した。
その後、濾液と洗浄液を合わせて減圧蒸留し(71〜74℃、1.60〜2.00kPa)、無色透明液体18.13gを得た。この無色透明液体をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ4-シアノテトラヒドロピランを17.88g(4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸メチル及び4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エチルの混合物基準の収率:55.9%)を含んでいた。
【0072】
次に、攪拌装置、滴下漏斗及び温度計を備えた内容積200mlのガラス製フラスコに、先に得られた純度98.7%の4-シアノテトラヒドロピラン14.0g(124mmol)、t-ブチルアルコール70ml及び純度85%の水酸化カリウム9.84g(149mmol)を加え、攪拌しながら100℃にて2時間反応を行なった。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析(内部標準法)したところ、テトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドが15.80g生成していた(4-シアノテトラヒドロピラン基準の収率:98.6%)。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、ビス(2-ハロゲノエチル)エーテルとシアノ酢酸エステルとから、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを、温和な条件下、簡便な方法によって製造する方法が提供される。
本発明によれば、また、4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルから4-シアノテトラヒドロピランを、温和な条件下、簡便な方法によって製造する方法が提供される。
本発明によれば、更に、4-シアノテトラヒドロピランからテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドを、温和な条件下、簡便な方法によって製造する方法が提供される。
本発明により得られる4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステル、4-シアノテトラヒドロピラン及びテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドは、例えば、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化7】


式中、Xは、ハロゲン原子を表す、
で示されるビス(2-ハロゲノエチル)エーテル、一般式(2):
【化8】


式中、Rは、炭素原子数2〜6のアルキル基を表す、
で示されるシアノ酢酸エステル及び一般式(3):
【化9】


式中、Rは、Rと同一又は異なっていても良い炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、Mは、アルカリ金属原子を表す、
で示されるアルカリ金属アルコキシドを有機溶媒中にて反応させることを特徴とする、一般式(4a)及び(4b):
【化10】


式中、R及びRは、前記と同義である、
からなる群より選ばれる少なくとも一種の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ペントキシド、カリウムt−ブトキシド又はそれらの混合物である請求の範囲第1項記載の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
一般式(4a)及び(4b):
【化11】


式中、Rは、炭素原子数2〜6のアルキル基を表し、Rは、Rと同一又は異なっていても良い炭素原子数1〜6のアルキル基を表す、
で示される4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの少なくとも1種とアルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩、又はそれらの混合物とを、カーボネート類、アミド類、アミン類、尿素類、スルホキシド類及びスルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で反応させること特徴とする、式(5):
【化12】


で示される4-シアノテトラヒドロピランの製造方法。
【請求項4】
一般式(4a)及び(4b)で示される4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルが、一般式(1):
【化13】


式中、Xは、ハロゲン原子を表す、
で示されるビス(2-ハロゲノエチル)エーテル、一般式(2):
【化14】


式中、Rは前記と同義である、
で示されるシアノ酢酸エステル及び一般式(3):
【化15】


式中、Rは前記と同義であり、Mは、アルカリ金属原子を表す、
で示されるアルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩、又はそれらの混合物とを有機溶媒中にて反応させて得られるものである請求の範囲第3項記載の4-シアノテトラヒドロピランの製造方法。
【請求項5】
一般式(5):
【化16】


で示される4-シアノテトラヒドロピランと塩基とを溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(6):
【化17】


で示されるテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項6】
塩基がアルカリ金属水酸化物である請求の範囲第5項記載のテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項7】
溶媒がアルコール類である請求の範囲第5項記載のテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項8】
反応時に水を存在させることを特徴とする請求の範囲第5項記載のテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項9】
水の使用量が、4-シアノテトラヒドロピラン1モルに対して、好ましくは0.01〜50.0モル、更に好ましくは0.1〜10.0モルである請求の範囲第8項記載のテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項10】
一般式(5)で示される化合物が、一般式(4a)及び(4b):
【化18】


式中、Rは、炭素原子数2〜6のアルキル基を表し、Rは、Rと同一又は異なっていても良い炭素原子数1〜6のアルキル基を表す、
で示される4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの少なくとも1種とアルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩、又はそれらの混合物とを、カーボネート類、アミド類、アミン類、尿素類、スルホキシド類及びスルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で反応させることにより得られるものである請求の範囲第5〜9項のいずれか一項に記載のテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項11】
一般式(4a)及び(4b)で示される4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルが、一般式(1):
【化19】


式中、Xは、ハロゲン原子を表す、
で示されるビス(2-ハロゲノエチル)エーテル、一般式(2):
【化20】


式中、Rは前記と同義である、
で示されるシアノ酢酸エステル及び一般式(3):
【化21】


式中、Rは前記と同義であり、Mは、アルカリ金属原子を表す、
で示されるアルカリ金属アルコキシドを有機溶媒中にて反応させて得られるものである請求の範囲第10項記載のテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項12】
一般式(1):
【化22】


式中、Xは、ハロゲン原子を表す、
で示されるビス(2-ハロゲノエチル)エーテル、一般式(2):
【化23】


式中、Rは、炭素原子数2〜6のアルキル基を表す、
で示されるシアノ酢酸エステル及び一般式(3):
【化24】


式中、Rは、Rと同一又は異なっていても良い炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、Mは、アルカリ金属原子を表す、
で示されるアルカリ金属アルコキシドを有機溶媒中にて反応させ、一般式(4a)及び(4b):
【化25】


式中、R及びRは、前記と同義である、
からなる群より選ばれる少なくとも一種の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを得、
次いで、得られた4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの少なくとも1種とアルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩、又はそれらの混合物とを、カーボネート類、アミド類、アミン類、尿素類、スルホキシド類及びスルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で反応させ、式(5):
【化26】


で示される4-シアノテトラヒドロピランを得、
更に、得られた4-シアノテトラヒドロピランと塩基とを溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(6):
【化27】


で示されるテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項13】
一般式(1):
【化28】


式中、Xは、ハロゲン原子を表す、
で示されるビス(2-ハロゲノエチル)エーテル、一般式(2):
【化29】


式中、Rは、炭素原子数2〜6のアルキル基を表す、
で示されるシアノ酢酸エステル及び一般式(3):
【化30】


式中、Rは、Rと同一又は異なっていても良い炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、Mは、アルカリ金属原子を表す、
で示されるアルカリ金属アルコキシドを有機溶媒中にて反応させ、一般式(4a)及び(4b):
【化31】


式中、R及びRは、前記と同義である、
からなる群より選ばれる少なくとも一種の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを得、
次いで、得られた4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの少なくとも1種とアルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩、又はそれらの混合物とを、カーボネート類、アミド類、アミン類、尿素類、スルホキシド類及びスルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で反応させることを特徴とする式(5):
【化32】


で示される4-シアノテトラヒドロピランの製造方法。
【請求項14】
一般式(4a)及び(4b):
【化33】


式中、Rは、炭素原子数2〜6のアルキル基を表し、Rは、Rと同一又は異なっていても良い炭素原子数1〜6のアルキル基を表す、
からなる群より選ばれる少なくとも一種の4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルを得、
次いで、得られた4-シアノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸エステルの少なくとも1種とアルカリ金属アルコキシド、カルボン酸アルカリ金属塩、又はそれらの混合物とを、カーボネート類、アミド類、アミン類、尿素類、スルホキシド類及びスルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で反応させ、式(5):
【化34】


で示される4-シアノテトラヒドロピランを得、
更に、得られた4-シアノテトラヒドロピランと塩基とを溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(6):
【化35】


で示されるテトラヒドロピラン-4-カルボン酸アミドの製造方法。

【公開番号】特開2013−35854(P2013−35854A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−208346(P2012−208346)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【分割の表示】特願2007−556037(P2007−556037)の分割
【原出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】