説明

テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びフッ化ビニリデンに基づくフルオロエラストマーコポリマー

フルオロエラストマーを調製するのに適するフルオロポリマー。フルオロポリマーは、一般に、モノマーであるテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン由来の繰り返し単位、及び任意に、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレン以外のフッ素化モノマー由来の1種以上の繰り返し単位を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロエラストマーを調製するのに適するフルオロポリマー、特に、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VDF)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)由来の繰り返し単位を含むフルオロポリマーに関する。本発明は、さらに、TFE/HFP/VDF/CTFEコポリマーに基づく硬化性フルオロエラストマー組成物及びフルオロエラストマー組成物を硬化することにより得られるフルオロエラストマーを含む燃料管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロエラストマーは、1つ以上のフッ素原子を含むモノマー又はこのようなモノマーと他のモノマーとのコポリマーで、フルオロモノマーが質量で最も大量に存在するものから作られたフルオロエラストマー前駆体(「ゴム」)を硬化することにより調製されたエラストマーである。フルオロエラストマー前駆体は、所望の弾性特性を有するフルオロエラストマーを調製するのに適するフルオロポリマーである。典型的には、フルオロエラストマー前駆体は、非晶質フルオロポリマー即ち融点が殆ど判らないフルオロポリマーである。フルオロエラストマーは、高温及び攻撃的化学物質に耐えることができる能力のほか、標準エラストマー処理装置を用いてフルオロエラストマーゴムを加工することができる能力により多数の用途にうまく用いられてきた。また、フルオロエラストマーは、自動車燃料ホース、給油口ホース、インジェクタO-リング等のような燃料管理システムにも用いられてきた。燃料管理の用途では、低温特性、密封性、及び曲げ特性が良好であることに組み合わせて燃料蒸気透過性が低い必要がある。
【0003】
フッ素含量の高いフルオロエラストマーでは、耐燃料透過性が良好である。しかし、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、及びヘキサフルオロプロピレンに基づく高フッ素含量ターポリマーのような高フッ素含量フルオロエラストマーにはいくつかの限界がある。例えば、テトラフルオロエチレン含量(従ってフッ素含量)が高いと、可撓性及び加工性が損なわれる傾向がある。加工性に関しては、フッ素含量が高度であることにより、材料の融点が約100℃未満であることが必要なロールミル又はバンバリミキサのような標準加工装置で硬化して組み込むには、フルオロエラストマーの剛性が高くなりすぎる可能性がある。一方、ヘキサフルオロプロピレン含量が、フッ化ビニリデンを犠牲にして高すぎる場合には、重合率が市販製品にして許容不可能なほど遅くなる可能性がある。
【0004】
TFE/HFP/VDFコポリマー(THVコポリマーとしても知られる)を用いることに伴う限界のいくつかを克服するために、(特許文献1)では、THVフルオロエラストマー前駆体にフッ素プラスチックをブレンドすることを教示している。
【0005】
また、(特許文献2)もフルオロエラストマーを生成するためのTHVコポリマーを開示している。特に、この特許では、絶縁特性、成形性、耐熱性、難燃性及び可撓性が良好であることが所望されるワイヤコーティングに用いるのに特に適するフルオロエラストマーを生成するときの三元変位関数のモノマーを構成する特定の比率を教示している。(特許文献2)は、燃料管理システムに用いるのに優れた特性を有するフルオロエラストマーを提供することに特に関するわけではない。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,310,141号明細書
【特許文献2】米国特許第4,696,989号明細書
【特許文献3】米国特許第2,567,011号明細書
【特許文献4】米国特許第2,732,398号明細書
【特許文献5】米国特許第2,809,990号明細書
【特許文献6】EP219065号明細書
【特許文献7】国際特許96/24622号パンフレット
【特許文献8】国際特許97/17381号パンフレット
【特許文献9】米国特許第4,745,165号明細書
【特許文献10】米国特許第4,831,085号明細書
【特許文献11】米国特許第4,214,060号明細書
【特許文献12】米国特許第4,501,869号明細書
【特許文献13】米国特許第4,000,356号明細書
【特許文献14】米国特許第5,677,389号明細書
【特許文献15】米国特許第5,565,512号明細書
【特許文献16】米国特許第5,668,221号明細書
【特許文献17】国際公開第00/09603号パンフレット
【特許文献18】欧州特許出願公開第0 661 304A1号明細書
【特許文献19】欧州特許出願公開第0 784 064A1号明細書
【特許文献20】欧州特許出願公開第0 769 521A1号明細書
【特許文献21】米国特許第4,233,421号明細書
【特許文献22】米国特許第4,912,171号明細書
【特許文献23】米国特許第5,086,123号明細書
【特許文献24】米国特許第5,262,490号明細書
【特許文献25】米国特許第5,929,169号明細書
【特許文献26】米国特許第5,591,804号明細書
【特許文献27】米国特許第3,876,654号明細書
【特許文献28】EP761735号明細書
【非特許文献1】ポリマー科学及び工業技術の辞典(Encyclopedia of Polymer Science and Engineering)、第2版第15巻シリコーン204~308頁(ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley&Sons))1989年
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc. 第116号(1994)4521〜4522頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多くの既知のフルオロエラストマー、特にTHVフルオロエラストマーがあるにも関わらず、燃料管理システムに用いるのに優れた特性を有する別のTHVベースのフルオロエラストマー組成物を見出すことが依然として所望されている。特に、便利で費用効率よく製造することができ、良好な加工特性、良好な可撓性を有し、燃料管理システムに用いるのに特に適する特性を有するTHVベースのフルオロエラストマーを見出すことが所望されている。従って、典型的には、THVフルオロエラストマーの気体及び燃料蒸気透過性が低いことが所望されることになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
3. 本発明の概要
本発明は、フルオロエラストマーを調製するのに適するフルオロポリマーを提供する。このフルオロポリマーは、
a.テトラフルオロエチレン由来の繰り返し単位10〜50モル%と、
b.ヘキサフルオロプロピレン由来の繰り返し単位15〜40モル%と、
c.フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位25〜59モル%と、
d.クロロトリフルオロエチレン由来の繰り返し単位1〜20モル%と、
任意に、
e.テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレン以外の1種以上のフッ素化モノマー由来の繰り返し単位と、
を含む。
繰り返し単位a〜eの総量は、典型的には合計100%になる。
【0009】
上で同定されたフルオロポリマーは、高重合率で、特に、CTFE由来の単位を含まないTHVコポリマーに対応する率より高率で生成されうることが見出された。また、CTFE由来の単位を含むことにより、高フッ素含量のフルオロポリマーは、硬化してフルオロエラストマーにするときに高可撓性及び良好な密封性を維持させつつ調製することができる。さらに、それから調製されるフルオロエラストマーは、優れた気体及び蒸気透過性を有するため、燃料管理システムに用いるのに特に適する。後者の用語は、燃料を取り扱うときに用いられうるものであり、例えば燃料ホース、燃料タンク、給油口ホース、ライナ等を含むあらゆるシステム又はシステムの構成要素を意味する。
【0010】
さらに、コポリマー中にCTFEが存在すると、1種以上の水素化物官能基MH(式中MはSi、Ge、Sn及びPbからなる群から選択される)を有する有機化合物の存在下で結合が行われる場合に、シリコーンゴムのようなエラストマー層を含む他の基層にフルオロポリマーが結合する特性が改善することも見出された。この有機化合物は、フルオロエラストマーを調製するフルオロポリマー組成物内に存在することもでき、基層の層に存在することもできる。結合特性を改善させることは、フルオロエラストマーを燃料管理システムの他の非フッ素化構成要素に結合することが必要でありうる燃料管理システムで特に関心がもたれている。
【0011】
別の態様では、本発明は、上に定義したフルオロポリマー及び硬化組成物を含む硬化性フルオロエラストマー組成物を提供する。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、フルオロポリマー及び硬化組成物を有する硬化性フルオロエラストマー組成物を硬化することにより得られるフルオロエラストマーを含む燃料管理システムを提供する。燃料管理システムのフルオロエラストマーは、コーティングのほか、成形物品を含みうる。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、上記のように、上記組成物を有するフルオロポリマーを得るのに適する量でテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン及び任意にさらにフッ素化したモノマーを水性乳化重合するステップを含む、フルオロポリマーを製造する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
4. 詳細な説明
フルオロエラストマーを調製するのに適するフルオロポリマーは、上の本発明の開示に述べた量でTFE、HFP、VDF及びCTFEの繰り返し単位を含む。TFE由来の繰り返し単位の好ましい量は15〜45モル%、HFP由来の繰り返し単位の好ましい量は20〜35モル%、VDF由来の繰り返し単位の好ましい量は28〜58モル%、CTFE由来の繰り返し単位の好ましい量は2〜15モル%である。これらの単位に加えて、フルオロポリマーは、他のフッ素化モノマー由来の繰り返し単位を含みうる。フルオロポリマーに含まれるのに特に好ましいフッ素化コモノマーは、フッ素化ビニルエーテルであり、特に過フッ素化(perfluorinated)ビニルエーテルである。(過)フッ素化ビニルエーテル由来の繰り返し単位の量は、それが存在する場合には、25モル%まで、好ましくは18モル%まで、さらに好ましくは15モル%まででありうる。
【0015】
本発明に用いることができるパーフルオロビニルエーテルの例としては、式
CF2=CF-O-Rf
(式中、Rfは1つ以上の酸素原子を含みうる過フッ素化脂肪族基を表す)と対応するものが含まれる。
【0016】
特に好ましい過フッ素化ビニルエーテルは、式
CF2=CFO(RafO)n(R bfO)mRcf
(式中、Raf及びRbfは、1〜6炭素原子、詳細には2〜6炭素原子の異なる線状又は分枝パーフルオロアルキレン基、m及びnは独立して0〜10であり、Rcfは1〜6炭素原子のパーフルオロアルキル基である)に一致する。過フッ素化ビニルエーテルの特定の例としては、パーフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)、パーフルオロ(n-プロピルビニル)エーテル(PPVE-1)、パーフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテル(PPVE-2)、パーフルオロ-3-メトキシ-n-プロピルビニルエーテル、パーフルオロ-2-メトキシ-エチルビニルエーテル及びCF3-(CF2)2-O-CF(CF3)-CF2-O-CF(CF3)-CF2-O-CF=CF2が含まれる。
【0017】
適するパーフルオロアルキルビニルモノマーは、一般式
CF2=CF−Rdf又はCH2=CH−Rdf
(式中、Rdfは1〜10、好ましくは1〜5炭素原子のパーフルオロアルキル基を表す)に対応する。パーフルオロアルキルビニルモノマーの典型的な例はヘキサフルオロプロピレンである。
【0018】
フルオロエラストマーを調製するためのフルオロポリマーは、フルオロポリマーの加工特性を向上させるために二峰性又は多峰性分子量分布を有する。一般に、フルオロポリマーの重量平均分子量は10,000と500,000g/モルとの間になる。
【0019】
フルオロエラストマーを硬化するのに適するフルオロポリマーは典型的にはフリーラジカル重合により調製される。フリーラジカル重合は、一般に、フリーラジカル発生開始剤を用いることにより開始される。開始剤としては、テトラフルオロエチレンのようなフッ素化オレフィンの重合によく用いられる公知の開始剤の何れを用いることができる。例えば過酸化物は、フリーラジカル開始剤として用いることができる。過酸化物開始剤の特定の例としては、過酸化水素、過酸化ジアシル、例えば過酸化ジアセチル、過酸化ジプロピオニル、過酸化ジブチリル、過酸化ジベンゾイル、過酸化ベンゾイルアセチル、過酸化ジグルタル酸及び過酸化ジラウリル、さらに、水溶性過酸、及び、例えば、アンモニウム、ナトリウム又はカリウム塩のようなその水溶性塩が含まれる。過酸の例としては、過酢酸が含まれる。同様に、過酸のエステルも用いることができ、この例としては、t-ブチルパーオキシアセテート及びt-ブチルパーオキシピバレートが含まれる。用いられうる開始剤の別の部類は、水溶性アゾ化合物である。開始剤として用いるのに適する酸化還元系には、例えばペルオキソジスルフェート及び亜硫酸水素塩又は重亜硫酸塩の組み合わせ、チオ硫酸塩及びペルオキソジスルフェートの組み合わせ、ペルオキソジスルフェート及びヒドラジン又はアゾジカルボキサミド(その塩、好ましくはアルカリ又はアンモニウム塩を含む)の組み合わせが含まれる。用いられうる別の開始剤は、過マンガン酸又はマンガン酸のアンモニウム-アルカリ-又はアルカリ土類塩又はマンガン酸である。用いる開始剤の量は、重合混合物の全重量を基準にして、典型的には重量で0.03〜2%の間、好ましくは重量で0.05〜1%の間である。重合開始時に開始剤の全量を加えることもでき、又は重合の間に70〜80%が変換されるまで連続的に重合混合物に開始剤を加えることもできる。また、開始剤の一部を開始時に加え、残りをまとめて又は別々の付加的な部分にして重合の間に加えることもできる。好ましい開始剤系にはペルオキソジスルフェート及び過マンガン酸塩が含まれる。
【0020】
フリーラジカル重合は、有機溶媒中で行うこともでき、水性懸濁重合又は水性乳化重合とすることもできる。本発明では、水性乳化重合が好ましい。
【0021】
水性乳化重合では、フッ素化モノマーは、一般にフリーラジカル開始剤及びフッ素化界面活性剤又は乳化剤、好ましくは非テロゲン乳化剤を存在させて水相で重合される。乳化剤は、一般に、水相の重量を基準にして重量で1%未満、例えば重量で0.1〜1%の量で用いられうるであろう。フッ素化乳化剤の例としては、アルキル鎖中に炭素原子4〜11を有するカルボン酸及びスルホン酸を含む線状又は分枝パーフルオロアルキルの塩類、特にアンモニウム塩が含まれる。特定の例としては、パーフルオロオクタン酸アンモニウム塩(APFO、(特許文献3)に記載)C8F17SO3Li(バイエル(Bayer)AGから市販)、C4F9SO3Li及びC4F9SO3K((特許文献4)に記載)が含まれる。カルボン酸塩を含むパーフルオロアルキルの別の例は、C8F17SO2N(C2H5)CH2COOK((特許文献5)に記載)である。用いることができるさらに別の乳化剤には、(特許文献6)に記載されているようなパーフルオロポリエーテルカルボキシレート乳化剤が含まれる。しかし、APFOは、重合の最後で重合製品から容易に除去することができるため、好ましい乳化剤である。また、水性乳化重合は、フッ素化乳化剤を加えることなく行うこともできる。このような重合は、例えば(特許文献7)及び(特許文献8)に記載されている。
【0022】
水性乳化重合を行う本発明の好ましい実施態様としては、液体フッ素化モノマー又は液体フッ素化好ましくは過フッ素化炭化水素化合物のエアロゾルが提供され、蒸気加熱され、重合槽内に送り込まれる。この実施態様の利点は、CTFEのフルオロポリマー内への組み込みが改善することであり、これは、フッ素化乳化剤又は界面活性剤を重合系に加えない場合に特に望ましい。この発見事項は、フルオロポリマーの性質に得に限定されるわけでなく、従って、本発明の主題以外の他のフルオロポリマーへのCTFEの組み込みを改善するのにも用いることができることは当業者には理解されると考える。「液体」という用語は、個々の成分が周囲温度(20℃)及び気圧(1気圧)で液体であることを意味する。この実施態様に用いるのに適する液体フッ素化モノマーの例は、液体(過)フッ素化ビニルエーテル類、例えば上に記載した式で表されるものである。適するフッ素化炭化水素には、炭素原子3〜25を有するものが含まれ、過フッ素化炭化水素に加えて1又は2水素原子以下を含む高度フッ素化炭化水素が含まれる。過フッ素化炭化水素の例としては、過フッ素化線状、分枝又は環状アルカンのような過フッ素化飽和線状、分枝及び/又は環状脂肪族化合物や、過フッ素化ベンゼン又は過フッ素化テトラデカヒドロフェナントレンのような過フッ素化芳香族化合物が含まれる。また、過フッ素化トリアルキルアミンのような過フッ素化アルキルアミンとすることもできる。また、デカリンのような過フッ素化環状脂肪族、及び、好ましくは、パーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフランのような環内に酸素又はイオウを含む複素環脂肪族化合物とすることもできる。
【0023】
過フッ素化炭化水素の特定の例としては、パーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロデカリン、パーフルオロメチルデカリン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ(1,3-ジメチルシクロヘキサン)、パーフルオロジメチルデカヒドロナフタレン、パーフルオロフルオレン、パーフルオロ(テトラデカヒドロフェナントレン)、パーフルオロテトラコサン、パーフルオロケロシン、オクタフルオロナフタレンや、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)と、パーフルオロ(トリプロピルアミン)、パーフルオロ(トリブチルアミン)、又はパーフルオロ(トリペンチルアミン)のようなパーフルオロ(トリアルキルアミン)と、オクタフルオロトルエンとのオリゴマー、ヘキサフルオロベンゼン、及び、フルオリナート(Fluorinert)FC-75、FC-72、FC-84、FC-77、FC-40、FC-43、FC-70又はFC5312(全て3Mカンパニー(3M Company)製)のような市販のフッ素化溶媒が含まれる。有用な高度フッ素化炭化水素化合物の例はC3F7-[O-CF(CF3)-CF2]n-O-CHF-CF3(式中、nは1〜10)である。
【0024】
水性乳化重合は連続的に行うことができるが、得られる乳剤又は懸濁剤を連続的に除去しつつ、例えば、モノマー、水、任意にさらに乳化剤、緩衝液及び触媒が、最適な圧力及び温度条件下で撹拌しながら反応器に供給される。代替的な技術としては、原料を撹拌しながら反応器に供給し、設定温度で特定の時間反応させることによるか、又は原料を反応器に入れ、望ましい量のポリマーが形成されるまでモノマーを反応器に供給して定圧を維持させることによるバッチ又は半バッチ(半連続)重合である。重合は、気体状フッ素化モノマーの乳化重合のための標準又は従来の槽で行うことができる。
【0025】
重合系は、緩衝剤及び必要ならば錯体形成剤又は連鎖移動剤のような助剤を含んでもよく、これには例えばエタン及びn-ペンタンのようなアルカン類、ジメチルエーテルのようなジアルキルエーテル類、メチルt-ブチルエーテル及び連鎖移動剤を含む塩素又は臭素を含む。重合温度は、10〜180℃、典型的には30℃〜100℃としうる。重合圧力は、1〜40バール、典型的には3〜30バールとしうる。
【0026】
特定の実施態様としては、フルオロポリマーは、塩化物塩の存在下でフリーラジカル重合を開始することにより調製しうる。塩化物塩が存在すると、多数の極性、特にイオン性末端基を減少させることができ、CF2Cl末端基が形成される。これによりフルオロポリマーの加工特性を向上させることが見出されている。さらに、CF2Cl末端基も、特に上に述べたようにMH官能基を有する有機化合物が存在する場合には、フルオロエラストマーが他の基層に結合する結合特性を改善しうる。
【0027】
本発明に関する硬化性フルオロエラストマー組成物は、フルオロポリマー及び硬化組成物を含む。このような硬化性フルオロエラストマー組成物は、当業者に公知のいずれの方法によっても硬化しうる。硬化組成物は、典型的には、フルオロポリマー鎖を互いに連結させることにより3次元網状組織を形成させる1種以上の成分を含む。このような成分は、触媒、硬化剤及び/又は架橋助剤を含みうる。
【0028】
フルオロポリマーを硬化させる一実施態様では、いわゆる過酸化物硬化システムを用いうる。典型的な過酸化物硬化システムでは、フルオロポリマーには、過酸化物硬化反応に関与しうるハロゲンを含む1つ以上の硬化部位が設けられ、フルオロポリマーを生成するための組成物には有機過酸化物が含まれる。過酸化物硬化反応に関与しうるハロゲンは、典型的には臭素又はヨウ素であり、これは、ポリマー鎖に沿って分布してもよく、及び/又はフルオロポリマーの末端基に含まれうる。典型的には、フルオロポリマーに含まれる臭素又はヨウ素の量は、フルオロポリマーの全重量に関し、重量で0.001と5%との間、好ましくは0.01と2.5%との間である。さらに、上述のようなMH官能基を有する有機化合物が存在する場合には、塩素もフルオロポリマーの過酸化物硬化反応に関与しうることも見出されている。従って、CTFE由来の単位により塩素原子を含む本発明のフルオロポリマーは、過酸化物硬化反応で硬化のために用いうる。当然、フルオロポリマーは、付加的に臭素及び/又はヨウ素で修飾しうる。
【0029】
CTFE単位の塩素原子に加え、過酸化物硬化反応に関与しうるハロゲンを鎖に沿って導入するために、フルオロポリマーの塩基性モノマーの共重合は、適するフッ素化硬化部位モノマー(例えば(特許文献9)、(特許文献10)、及び(特許文献11)参照)とともに行いうる。このようなコモノマーは、例えば
(a)ブロモ又はヨード(パー)フルオロアルキル−パーフルオロビニルエーテル類であって、以下の式を有するもの:
Z-Rf-O-CF=CF2
(式中、ZはBr又はI、Rfは任意に塩素及び/又はエーテル酸素原子を含む(パー)フルオロアルキレンC1-C12;例えば、BrCF2-O-CF=CF2、BrCF2CF2-O-CF=CF2、BrCF2CF2CF2-O-CF=CF2、CF3CFBrCF2-O-CF=CF2等);
(b)ブロモ−又はヨード(パー)フルオロオレフィン類であって、以下の式を有するようなもの:
Z'-R'f-CF=CF2
Z'-R'f-CH=CH2
(式中、Z’はBr又はI、R'fは、任意に塩素原子を含む(パー)フルオロアルキレンC1-C12;例えば、ブロモトリフルオロエチレン、4-ブロモ-パーフルオロブテン-1等;又は1-ブロモ-2,2-ジフルオロエチレン及び4-ブロモ-3,3,4,4-テトラフルオロブテン-1及び4-ヨード-3,3,4,4-テトラフルオロブテン-1のようなブロモフルオロオレフィン);
(c)臭化ビニル及び4-ブロモ-1-ブテンのような非フッ素化ブロモ−オレフィン
から選択しうる。
【0030】
硬化部位コモノマーの代わり又はそれに加えて、フルオロポリマーは、(特許文献12)に記載されるか又は適する開始剤由来のポリマー調製の間に反応媒体に導入される適する連鎖移動剤由来の硬化部位成分を末端位置に含みうる。有用な開始剤の例としては、n=1〜10のX(CF2)nSO2Na(式中、XはBr又はI)又は過硫酸アンモニウム及び臭化カリウム及び/又はヨウ化カリウムを含む開始剤組成物が含まれる。フリーラジカル重合の開始時に塩化物塩が存在するときに導入されたCF2Cl末端基の塩素も、過酸化物硬化反応に関与しうる。
【0031】
連鎖移動剤の例としては、式RfBrx(式中、Rfは任意に塩素原子を含むx-価(パー)フルオロアルキルラジカルC1-C12、xは1又は2である)を有するものが含まれる。例としてCF2Br2、Br(CF2)2Br、Br(CF2)4Br、CF2ClBr、CF3CFBrCF2Br等が挙げられる。適する連鎖移動剤の別の例としてCH2Br2、CH2I2及び(特許文献13)に開示されているものが挙げられる。
【0032】
適する有機過酸化物は、硬化温度でフリーラジカルを生じるものである。50℃より高温で分解するジアルキル過酸化物又はビス(ジアルキル過酸化物)が特に好ましい。多くの場合、ペルオキシ酸素がついた第3級炭素原子を有するジ-t-ブチル過酸化物を用いることが好ましい。この種の最も有用な過酸化物には、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサンが含まれる。他の過酸化物は、過酸化ジクミル、過酸化ジベンゾイル、t-ブチルペルベンゾエート、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ-ジイソプロピルベンゼン)、及びジ[1,3-ジメチル-3-(t-ブチルペルオキシ)-ブチル]カーボネートのような化合物から選択することができる。一般に、フルオロポリマー100部に対し過酸化物約1〜3部が用いられる。
【0033】
また、硬化部位成分は、ニトリル基含有硬化部位モノマーを含みうる。好ましい有用なニトリル基含有硬化部位モノマーには、以下に示すようなニトリル含有フッ素化オレフィン類及びニトリル含有フッ素化ビニルエーテル類が含まれる。
CF2=CF-CF2-O-Rf-CN
CF2=CFO(CF2)lCN
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]g(CF2)vO CF(CF3)CN
CF2=CF[OCF2CF(CF3)]kO(CF2)uCN
(上の式を参照すると、式中、l=2〜12、g=0〜4、k=1〜2、v=0〜6;及びu=1〜4、Rfはパーフルオロアルキレン又は二価パーフルオロエーテル基である)。このようなモノマーの代表例としては、パーフルオロ(8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテン)、CF2=CFO(CF2)5CN、及びCF2=CFO(CF2)3OCF(CF3)CNが含まれる。
【0034】
フルオロポリマーにニトリル含有硬化部位成分が含まれる場合には、1種以上のアンモニア-生成化合物を含む触媒を用いて硬化を起こすことができる。「アンモニア生成化合物」には、周囲条件で固体又は液体であるが、硬化条件下ではアンモニアを発生する化合物が含まれる。このような化合物には、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(ウロトロピン)、ジシアンジアミド、及び式
Aw+(NH3)vYw-
(式中、Aw+は、Cu2+、Co2+、Co3+、Cu+、Ni2+のような金属陽イオンであり、wは金属陽イオンの原子価に等しく、Yw-は対イオン、典型的にはハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等であり、vは1〜約7の整数である)の金属含有化合物が含まれる。
【0035】
また、式
【化1】

(式中、Rは水素又は1〜約20個の炭素原子を有する置換又は非置換アルキル、アリール、又はアラルキル基)のような置換及び非置換トリアジン誘導体もアンモニア生成化合物として有用である。特定の有用なトリアジン誘導体には、ヘキサヒドロ-1,3,5-s-トリアジン及びアセトアルデヒドアンモニア三量体が含まれる。
【0036】
また、ニトリル含有硬化部位成分を含むフルオロポリマーは、アンモニア生成触媒と共に1種以上の過酸化物硬化剤を用いて硬化しうる。この目的に適する過酸化物硬化剤には、上に列記したものが含まれる。硬化性フルオロエラストマー組成物にはニトリル含有硬化部位及び過酸化物硬化反応に関与しうるハロゲンを含む硬化部位の混合物のような硬化部位成分の混合物を含みうることも当業者には理解されるであろう。後者の場合には、アンモニア生成化合物及び過酸化物の混合物が一般に用いられることになる。
【0037】
ニトリル含有フルオロポリマーを硬化するために、アミノフェノール類((特許文献14))、アンモニア塩類((特許文献15))、アミドキシン類((特許文献16))及び他のアンモニア生成化合物((特許文献17))又はイミド酸塩類のような他の全ての周知の化合物を用いうる。
【0038】
有機過酸化物及び/又はニトリル含有硬化部位成分に基づく硬化組成物中に通常含まれる別の成分は、ポリ非飽和化合物からなる架橋助剤であり、これは過酸化物と共働して有用に硬化することができる。これらの架橋助剤は、0.1及び10部/100部フルオロポリマーに等しい量、好ましくは2〜5部/100部フルオロポリマーの量で加えることができる。有用な架橋助剤の例としては、トリアリルシアヌレート;トリアリルイソシアヌレート;トリアリルトリメリテート;トリ(メチルアリル)イソシアヌレート;トリス(ジアリルアミン)-s-トリアジン;亜リン酸トリアリル;N,N-ジアリルアクリルアミド;ヘキサアリルホスホラミド;N,N,N',N'-テトラアルキルテトラフタルアミド;N,N,N',N'-テトラアリルマロナミド;トリビニルイソシアヌレート;2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン;N,N'-m-フェニレンビスマレイミド;ジアリル−フタレート及びトリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレートが含まれる。トリアリルイソシアヌレートが特に有用である。他の有用な架橋助剤には、(特許文献18)、(特許文献19)及び(特許文献20)に開示されたビス−オレフィン類が含まれる。
【0039】
別の実施態様によれば、フルオロポリマーの硬化は、ポリヒドロキシ化合物を用いて達成することができ、従って、硬化組成物は、ポリヒドロキシ化合物を含むことになる。フルオロポリマーを硬化するためにポリヒドロキシ化合物を用いる利点は、フルオロポリマー内に特定の硬化部位成分を必ずしも含む必要がないことである。ポリヒドロキシ化合物に加えて、ポリヒドロキシ硬化系は、一般に、ポリヒドロキシ化合物に加えて1種以上の有機オニウム促進剤を含む。本発明に有用な有機オニウム化合物は、典型的には少なくとも1つのヘテロ原子、即ち、有機又は無機成分に結合したN、P、S、Oのような非炭素原子を含み、例えばアンモニウム塩類、ホスホニウム塩類及びイミニウム塩類を含む。本発明に有用な第4級有機オニウム化合物の1部類には、広義には、リン、ヒ素、アンチモン又は窒素が一般に陽イオンの中心原子を構成し、陰イオンが有機又は無機陰イオン(例えばハロゲン化物、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、水酸化物、アルコキシド、フェノール塩、ビスフェノール塩等)とすることができる相対的陽イオン及び相対的陰イオンが含まれる。
【0040】
本発明で有用な有機オニウム化合物の多くが記載されており、当技術分野で公知である。例えば、(特許文献21)(ウォルム(Worm))、(特許文献22)(グロータート(Grootaert)ら)、(特許文献23)(グンスナー(Guenthner)ら)、及び(特許文献24)(コルブ(Kolb)ら)、(特許文献25)を参照されたい。これらの特許の全ては、本明細書に参照により援用する。代表的な例としては、以下の個々の列記した化合物、
トリフェニルベンジルホスホニウムクロリド
トリブチルアリルホスホニウムクロリド
トリブチルベンジルアンモニウムクロリド
テトラブチルアンモニウムブロミド
トリアリールスルホニウムクロリド
8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド
ベンジルトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリド
ベンジル(ジエチルアミノ)ジフェニルホスホニウムクロリド
及びその混合物が含まれる。有用な有機オニウム化合物の別の部類には、1つ以上のペンダントフッ素化アルキル基を有するものが含まれる。一般に、最も有用なフッ素化オニウム化合物は、コッジョ(Coggio)らにより(特許文献26)に開示されている。
【0041】
ポリヒドロキシ化合物は、遊離又は非塩形で、又は選択した有機オニウム促進剤の陰イオン部分として用いることができる。架橋剤は、(特許文献27)(パティソン(Pattison))、及び(特許文献21)(ウォルム(Worm))に開示されるポリヒドロキシ化合物のようなフルオロポリマーに対する架橋剤又は共硬化剤として機能する当技術分野で公知のポリヒドロキシ化合物の何れとすることもできる。最も有用でよく用いられる芳香族ポリフェノール類の1つは、4,4'-ヘキサフルオロイソプロピリデニルビスフェノールであり、これは、一般にビスフェノールAFとして知られる。化合物4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールSとしても知られる)及び4,4'-イソプロピリデニルビスフェノール(ビスフェノールAとしても知られる)も広く実際に用いられる。
【0042】
ポリヒドロキシ化合物に基づく硬化組成物はさらに酸受容体も含みうる。酸受容体は、無機とすることもでき、又は無機及び有機のブレンドとすることもできる。無機受容体の例としては、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、二塩基性亜リン酸鉛、酸化亜鉛、炭酸バリウム、水酸化ストロンチウム、炭酸カルシウム等が含まれる。有機受容体には、エポキシ類、ステアリン酸ナトリウム、及びシュウ酸マグネシウムが含まれる。好ましい酸受容体は、酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムである。酸受容体は、単一で用いることも又は組み合わせて用いることもでき、好ましくは、重量で約2〜25部/フルオロポリマー100部の範囲の量で用いられる。
【0043】
本発明の別の実施態様では、硬化組成物は、上記のように有機過酸化物及びポリヒドロキシベースの硬化系を含みうる。このような硬化組成物は、過酸化物硬化反応に関与しうるハロゲンを有するフルオロポリマーのほか、このようなハロゲンを有さないフルオロポリマーと共に用いることができる。フルオロポリマーが過酸化物硬化反応に関与しうるハロゲンを有する場合には、ポリヒドロキシ化合物及び過酸化物を有する硬化組成物は、いわゆる二重硬化を行うことができる。硬化組成物に有機過酸化物を用いると、フルオロポリマーが、例えばシリコーンベースのエラストマーの場合のようにこれも過酸化物硬化系を用いて形成される別のエラストマーに結合されたフルオロエラストマー層を形成することになっている場合に特に有利である。
【0044】
硬化性フルオロエラストマー組成物には、カーボンブラック、安定剤、可塑剤、潤滑剤、充填剤のような添加剤をさらに含んでもよく、フルオロポリマーの化合に典型的に用いられる加工助剤が、意図する使用条件に適する安定性を有するならば、本発明の組成物にこれらを組み込みうる。
【0045】
硬化性フルオロエラストマー組成物は、フルオロポリマー、硬化組成物、及び任意に水素化物官能基を有する有機化合物及び他の添加剤を従来のゴム加工装置で混合することにより調製しうる。このような装置には、ゴム用ロール機、バンバリミキサのような密閉式混合機、及び混合押出し機が含まれる。
【0046】
上述のように、フルオロポリマーは、特に水素化物官能基MHを有する有機化合物が存在する場合に他の基層への結合特性に優れる。また、フルオロポリマー組成物にこの化合物を含むことにより、過酸化物硬化性フルオロポリマー組成物を得ることができる。この有機化合物の例としては、1つ以上のMH官能基を有するシロキサン又はシラゼンが含まれる。典型的には、有機化合物がシロキサン又はシラゼンである場合には、MH官能基は-SiH官能基とされることになる。好ましくは、SiH官能基が-OSiH又はNSiHとされることにより、水素がケイ素原子に付着し、これがさらに酸素又は窒素原子に結合する。シロキサン又はシラゼンは単一の低分子量有機化合物とすることもでき、又は例えば線状、分枝又は環状とすることができるポリシロキサンを含む高分子化合物とすることもできる。特定の例としては、HSi(OCH2CH3)3、(CH3)2(CH3CH2O)SiH、1,1,3,3テトライソプロピルジシロキサン、ユナイテッド・ケミストリー(United Chem)から入手可能なジフェニル-1,1,3,3-テトラキス(ジメチルシロキシ)ジシロキサン、水素化シリル末端ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(メチルヒドロシロキサン)及びジメチルシロキサン及びメチルヒドロシロキサンのコポリマーである、1,3,5-トリメチルシクロシロキサン及び1-フェニル-3,3,5,5-テトラメチルシクロシロキサンが含まれる。SiH基を有するポリシロキサン及びシロキサンは当技術分野で公知であり、例えば:(非特許文献1)に開示されているような周知の手順に従って生成することができる。また、SiH基を有するシロキサンは一般に市販もされている。好ましくは、シロキサン又はポリシロキサンの分子量は150g/モルと10000g/モルとの間とされることになる。
【0047】
また、この有機化合物は、式
【化2】

(式中、Rは任意に1つ以上の置換基を含む炭化水素基を表し、各R基は同じでも異なってもよく、これにより、2つのR基が互いに連結して環を形成することもでき、MはSi、Ge、Sn及びPbから選択され、qは1〜3の値であり、xは1〜3の値であり、y及びzは0〜3の値を表し、y+zの合計=4-xである)に対応する化合物とすることもできる。炭化水素基Rに存在することができる置換基の例としては、アルコキシ、アリールオキシ、塩素及び臭素のようなハロゲン、ニトリル基、ヒドロキシ基及びアミノ基が含まれる。炭化水素基の主鎖は、1つ以上の例えば酸素及び窒素原子のようなヘテロ原子によりさらに中断されることができる。炭化水素基の典型的な例としては、飽和又は不飽和の線状、分枝又は環状の脂肪族基及び芳香族基が含まれる。特定の例は、C1-C5アルキル基、炭素原子6〜12のアリール基、炭素原子7〜14のアリールアルキル及びアルキルアリール基である。上の式(I)の化合物は公知であり、例えば(非特許文献2)に記載されている。例としてはトリ(n-ブチル)スズヒドリド、トリ(エチル)シリルヒドリド、ジ(トリメチルシリル)シリルメチルヒドリド、トリ(トリメチルシリル)シリルヒドリド、トリ(フェニル)シリルヒドリドが含まれる。式(I)の化合物は、さらに、(特許文献28)にも開示されている。
【0048】
本発明は、以下の例を参照してさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。全ての部は、特に記載しない限り重量によるものである。
【実施例】
【0049】
試験法:
支持重量5.0kg、265℃又は297℃の温度の何れかで、ドイツ工業標準規格(DIN)53735、国際標準化機構(ISO)12086又は米国材料試験協会(ASTM)D-1238によりメルトフローインデックス(MFI)を行った。MFIは、直径2.1mm、長さ8.0mmの標準押出しダイを用いて得た。
【0050】
レオメトリー・サイエンティフィック(Rheometry Scientific)のひずみ制御ARES流量計を用い、周波数掃引実験でフルオロポリマーの加工性を評価した。粘性データは、25mm平行板幾何学的配置及び典型的には10%ひずみを用い、265℃の窒素雰囲気中で種々のせん断速度で求めた。
【0051】
特に記載しなければ、5〜7MPa、163℃で50分間プレスすることにより物理特性試験のための76×152×2mmのプレス硬化シートを調製した。これらのプレス硬化シートから、ASTM D412により破断時の引張強さ及び破断時の伸びを測定した。硬度はASTM D2240方法Aにより求めた。ショア(Shore)Aデュロメータを用いた。
【0052】
フルオロ樹脂の溶融ピークは、ASTM4591により、パーキン・エルマー(Perkin-Elmer)DSC7.0を用いて窒素流下加熱率10℃/分で求めた。指示された融点は、溶融ピーク最大値に関する。
【0053】
分子量分布は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により求め、35℃でテトラヒドロフラン-UVグレードで記録した。SEC装置は、ウォーターズ(Waters)510アイソクラティックポンプ、パーキン・エルマー(Perkin Elmer) ISS-100オートサンプラー、ウォーターズ(Waters)カラムオーブン、ポリマー・ラボラトリーズ(Polymer Laboratories)の3つのゲル混合ベッドB型カラム(10μm) (300 mm×7.5mm)、及びウォーターズ(Waters)410RI検出器からなるものであった。器具は1280g/モル〜7,300,000g/モルの範囲の10個の分布幅が小さいポリスチレン標準試料(PSS、マインツ(Mainz)/ドイツ)を用いて較正した。ポリスチレンで較正したSEC-エルグラム(elugrams)は、マーク−ホーウィンク(Mark-Houwink)係数α=0.751及びK=0.045396ml/gを用いる普遍的較正手順で分子量分布に変換した。
【0054】
ラテックス粒度の決定は、ISO/DIS 13321に従い、マルベルン・ゼータザイザー(Malvern Zetazizer)1000 HSAを用いて動的光散乱により行った。報告された平均粒度はZ平均である。測定の前に、重合から得たポリマーラテックスを0.001モル/L KCl溶液で希釈した。全ての場合で測定温度は20℃であった。
【0055】
ASTM D814に従って蒸気透過性(浸透率)を評価するために、試験流体として容量で42.5%トルエン、42.5%イソオクタン及び15%メタノールの混合物を用いた。各ポリマー組成物の0.75〜0.90mm厚さのシートをプレス硬化した。各シートから直径3インチの試料を打ち抜いた。各々2.5インチの開口部(4.909インチ2の露出試料表面)有し、容量がほぼ160mlの蒸気透化カップを用いたが、これは、トウィング・アルバート・インストルメント・カンパニー(Thwing-Albert Instrument Co.)から入手可能である。高度フッ素、低度デュロメータフルオロエラストマーガスケットにより、試料と試験流体との間を確実に良好に密封する。カップには、100mlの流体を入れ、カップと試料との間に0.5mmガスケット、試料とクランプリングとの間に1.5mmガスケットを配置することにより組み立てた。試料は試験中に伸長可能であるため、上側ガスケットとクランプリングとの間に16メッシュの円形スクリーンを配置した。全ての試験は、カップを立てたまま40℃で32日間行った。試験の最初の7日は、試料を透化平衡に到達させるためにデータ収集は行わなかった。次に、ほぼ一日置きにカップの重量を量った。次に、透過率に試料の厚さ(ミリメートル)を掛けて各値を正規化した。
【0056】
実施例1(比較試験)
インペラ撹拌機システムを装備した総容量186.1l重合槽に、脱イオン水114.6l、パーフルオロオクタノエートアンモニウム塩(3Mカンパニー(Company)のFX1006、APFO)の30重量%水溶液950gを満たした。次の3サイクルで、槽を脱気し、続いて窒素を満たして全ての酸素を確実に除去した。次に、槽を71℃まで加熱し、撹拌システムを210 rpmに設定した。槽には、エタンを反応圧力0.6絶対バールまで、HFPを13.4絶対バールまで、VDFを14.1絶対バールまで、TFEを15.5絶対バールまで満たした。重合は983g 30% APS溶液(ペルオキソ硫酸アンモニウム)により開始した。反応が開始すると、供給率HFP(kg)/TFE(kg)が1.011、VDF(kg)/TFE(kg)が0.528でTFE、HFP及びVDFを気相に供給することにより反応圧力を15.5絶対バールに維持した。また反応温度も71℃に維持した。4時間25分後に22kgTFEの供給を終了し、モノマーバルブを閉めた。反応器を通気させ、3サイクルでN2を流した。
【0057】
このようにして得た171kgポリマー分散体の固体含量は32%であった。ラテックス粒子直径は動的光散乱で測定すると141nmであった。得られたフルオロポリマーの組成は、40モル%TFE、27モル%HFP、33モル%VDFであった。フルオロポリマーのフッ素含量は72.5重量%であった。
【0058】
このポリマー分散体1000mlを撹拌しながら水性MgCl2溶液に滴下して加えることにより凝固させ、その後脱水して脱イオン水(60〜70℃)で3回洗った。ポリマーを130 ℃の空気循環オーブン内で1晩乾燥した。ポリマーは、67℃でわずかに溶け始め、融解熱は0.7J/gである。ポリマーのMFI(265/5)は105g/10分である。
【0059】
実施例2
実施例1の比較例のフルオロポリマーと同様の条件で本発明に関するポリマーを調製した。実施例1の反応槽は反応圧力をエタンで絶対圧力0.8バールまで、CTFEで1.2バールまで、HFPで11.2バールまで、VDFで13.1バールまで、TFEで15.5バールまで加圧した。重合は、983g 30%APS溶液で開始した。反応が急速に開始した後、反応器ジャケットを冷却することにより反応温度を71℃に、供給比CTFE(kg)/TFE(kg)が0.209、HFP(kg)/TFE(kg)が0.846、VDF(kg)/TFE(kg)が0.482でTFE、CTFE、HFP及びVDFを気相に供給することにより反応圧力を絶対圧力15.5バールに維持した。3時間5分後に、21kg TFEの供給を終了し、モノマーバルブを閉めた。反応器を通気させ、3サイクルでN2を流した。
【0060】
このようにして得た169kgポリマー分散体の固体含量は31%であった。ラテックス粒子直径は動的光散乱によれば146nmであった。フルオロポリマーは、以下の組成、即ち7.2モル%CTFE、22.6モル%HFP、30.2モル%VDF及び40モル%TFEであった。フッ素含量は72.4重量%であり、合計ハロゲン含量は73.1重量%であった。ポリマー生成を実施例1と同様に行うと、ポリマーは49℃でわずかに溶け始め、融解熱は0.3J/gであった。ポリマーのMFI(265/5)は189g/10分であった。質量平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィーによればMw=49,700g/モルであり、分子量分布は対称のように見え、Mw/ Mn=1.6の多分散である。
【0061】
この例では、実施例1のフルオロポリマーに匹敵する超低度の結晶性を維持しつつ、HFPをCTFEで部分的に置換することができることを示す。また、CTFEを含むことにより、反応速度が増大した。
【0062】
実施例3
本発明に関するフルオロポリマーは、APFOAを用いないことを除けば実施例1及び実施例2と同じ反応槽で同様の条件下で調製した。槽には、反応圧力として、235gのPPV E-2(蒸気加熱エアロゾルとして供給)を反応圧力0.62絶対バールまで、204g CTFEを1.17絶対バールまで、4760g HFPを10.87絶対バールまで、456g VDFを12.97絶対バールまで、890g TFEを15.50絶対バールまで満たした。重合は、980gの30%水性過硫酸アンモニウム(APS)溶液を加えることにより開始した。反応が開始すると、供給比CTFE(kg) /TFE(kg)が0.209、HFP(kg)/TFE(kg)が0.846及びVDF(kg)/TFE(kg)が0.482でTFE、HFP、CTFE及びVDFを気相に供給することにより反応圧力を圧力15.5絶対バールに維持する。重合の間、PPVE-2を付加的に供給速度50g/時間で加熱エアロゾルとして供給する。また、反応温度も71℃に維持する。10.5(kg)TFEを供給した後、反応器から液体分散体試料を取り、85gのエタン連鎖移動剤を槽に入れると、実質的に重合速度が減少する。合計重合時間4時間35分後に21.0kgのTFEが供給されるまで重合を続ける。モノマーバルブを閉めた後、モノマー気相が反応し、15分以内に槽圧力11.6バールに下がる。反応器を通気し、3サイクルでN2を流す。
【0063】
このようにして得た168kgポリマー分散体の固体含量は31%であり、続くポリマー生成は、実施例1と同様に行った。フルオロポリマーは、以下の組成、即ち、7.2モル% CTFE、39.9モル%TFE、30.2モル%VDF、22.6モル%HFP及び0.1モル%PPVE-2であった。フッ素含量は、72.2重量%であり、合計ハロゲン含量は73.1重量%であった。ポリマーは、88℃でわずかに溶け始め、融解熱は0.8J/gである。ポリマーのMFI(265/5)は188g/10分である。サイズ排除クロマトグラフィーによれば、質量平均分子量はMw= 50,500g /モルであり、分子量分布は、非対称のように見え、高分子量テーリングを有し、Mw/Mn=3.1の多分散である。10.5kg TFE供給で取った分散体試料を同等の条件で作用させた。この試料のMFIは18.8g/10分であった。
【0064】
この材料を加工挙動に関して評価し、実施例2の材料の単一モデルと比較した。加工評価データを表1にまとめる。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例4
以下に記載するように、ビスフェノール硬化組成物を用いて実施例1〜実施例3のポリマーをプレス硬化し、種々の物理的特性を測定した。各場合で、ポリマーの100部を2つのロールミル上で以下の原料と混合した。(以下のmmhrは重量でミリモル/100部フルオロポリマーを意味する)
・5.94(mmhr)のビスフェノールAF
・0.54(mmhr)の以下のホスホニウム錯体
(C4H9)3P+CH2CH(CH3)OCH3 -OC6H4C(CF3)2C6H4OH
これは、トリブチルホスフェン(サイテック(Cytec)から入手可能)アリルクロリド及びメタノールから調製され、その後ビスフェノールAFのナトリウム塩と反応させたトリブチルメトキシプロピルホスホニウムクロリドである。
・1.03(mmhr)の別の錯体。これは、トリブチルメトキシプロピルホスホニウムクロリドをパーフルオロオクチル-n-メチルスルホンアミドのナトリウム塩と反応させることにより調製した錯体である。
【0067】
また、以下の他の配合原料も加えた。即ち、3g/100グラム(phr)フルオロポリマーマグネシウムオキシド(モートン・インターナショナル(Morton International)から入手されるエラストマグ(Elastomag)170)及び6phr水酸化カルシウム及び20phrカーボンブラック(N762)である。この組成物は、5〜7MPa、165℃で50分間圧縮することにより76×152×2mmに測定した個々のシートの形で調製した。最後に、3つの硬化化合物全てを試験し、上に記載した試験手順により、種々の特性を比較した。試験結果を表2に示す。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロエラストマーを調製するのに適するフルオロポリマーであって、
a.テトラフルオロエチレン由来の繰り返し単位10〜50モル%と、
b.ヘキサフルオロプロピレン由来の繰り返し単位15〜40モル%と、
c.フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位25〜59モル%と、
d.クロロトリフルオロエチレン由来の繰り返し単位1〜20モル%と、任意に、
e.テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレン以外の1種以上のフッ素化モノマー由来の繰り返し単位と、
を含む前記フルオロポリマー。
【請求項2】
前記任意の1種以上の繰り返し単位が過フッ素化(perfluorinated)ビニルエーテルモノマー由来である、請求項1に記載のフルオロポリマー。
【請求項3】
前記任意の1種以上の繰り返し単位が全量25モル%まで存在する、請求項2に記載のフルオロポリマー。
【請求項4】
前記フルオロポリマーの分子量分布が二峰性又は多峰性である、請求項1に記載のフルオロポリマー。
【請求項5】
前記フルオロポリマーが過酸化物硬化反応に関与しうる1つ以上の硬化部位を含む、請求項1に記載のフルオロポリマー。
【請求項6】
前記硬化部位が臭素及び/又はヨウ素原子を含む、請求項5に記載のフルオロポリマー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフルオロポリマー及び硬化組成物を含む、硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項8】
前記硬化組成物がポリヒドロキシ化合物及びオニウム化合物を含む、請求項7に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項9】
前記硬化組成物が有機過酸化物を含む、請求項7又は8に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項10】
水素化物官能基MH(式中、MはSi、Ge、Sn及びPbから選択される)を含む有機化合物をさらに含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物を硬化することにより得られるフルオロエラストマーを含む、燃料管理システムの構成要素。
【請求項12】
請求項1に記載の組成を有するフルオロポリマーを得るのに適する量で、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン及び任意にさらにフッ素化モノマーを水性乳化重合するステップを含む、請求項1に記載のフルオロポリマーを製造する方法。
【請求項13】
前記方法がフッ素化界面活性剤を加えることなく行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
液体フッ素化モノマー又は液体フッ素化炭化水素のエアロゾルを提供し、蒸気加熱で反応槽に送り込まれ、そこで、前記水性乳化重合が行われる、請求項12又は13に記載の方法。

【公表番号】特表2006−514125(P2006−514125A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−524025(P2004−524025)
【出願日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【国際出願番号】PCT/IB2003/005083
【国際公開番号】WO2004/011543
【国際公開日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】