説明

テトラフルオロエチレン誘導体の群を含んでなる重合物を基体とする新規ポリマーブレンド、該ブレンドの製造法と該ブレンドから得られる製品並びに該ブレンドのポリマー組成物における使用

【課題】 自己粘着性を示さず、自由流動性をもつテトラフルオロエチレン重合物含有ポリマーブレンドの提供。
【解決手段】 乳化重合し得る単量体又は単量体混合物の重合で得られる重合体又は共重合体によって、テトラフルオロエチレン誘導体の群を含む重合物粒子を全体的又は部分的に封入する。このポリマーブレンドは、ブレンドの粒子を相互に連結する網状構造を形成しているテトラフルオロエチレン重合物フィラメントを実質的に含んでいない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、概括的には、テトラフルオロエチレン誘導体の群を含有してなる重合物(以下、テトラフルオロエチレン重合物という)を基体とする新規ポリマーブレンド、及びその製造方法、これらの新規ポリマーブレンドの押出成形、押出ブロー成形又は射出成形によって得られる製品、並びにこれらの新規ポリマーブレンドのポリマー組成物中における使用に関する。
【0002】より詳細には、本発明は乳化重合、特にラジカル法で乳化重合し得る単量体又は単量体混合物の重合で得られる重合体又は共重合体によって全体的又は部分的に封入されたテトラフルオロエチレン重合物粒子を含んだ新規ポリマーブレンドに関するものであり、該ポリマーブレンドは、上記粒子同士を連結する網状構造(ネットワーク)を形成するようなテトラフルオロエチレン重合物フィラメントを実質的に含んでいない。
【0003】この新規ポリマーブレンドは、塊状化傾向をもたない自由流動性粉末の形態で得ることができ、そのため、このブレンドは取扱い及び貯蔵が格段に容易となり、こうした効果は、とりわけ、テトラフルオロエチレン誘導体の群を含んだ重合物の取扱いが困難であったようなプラスチックで顕著である。本発明の新規ポリマーブレンドは、ポリマー組成物(特に難燃化ポリマー組成物)に有効量で配合した場合、そのポリマー組成物の機械的性質を損なうことなく、その難燃性を驚異的に改善し、驚くべきことには、さらに該組成物の幾つかの機械的性質(たとえば引張伸び及び衝撃強さ)さえも改善する。
【0004】
【従来の技術】ドイツ国特許出願公開(DE−A)第3,903,547号公報には、ポリシロキサン−ポリカーボネートブロック共重合体とPTFEの混合物が記載されており、この混合物は硬質熱可塑性樹脂として使用され、良好な環境応力亀裂抵抗をもつ。この混合物は、特に、上記のブロック共重合体を所要量のPTFEの存在下で合成することによって製造し得る。
【0005】欧州特許出願公開(EP−A)第0,166,187号公報には、テトラフルオロエチレン重合物を含有する粉末組成物が記載されている。この粉末はポリ(テトラフルオロエチレン)の分散物をグラフト重合物(たとえばアクリロニトリル−ブタジエン−スチレングラフト化重合物)のラテックスと混合し、粉末を得るために濾過及び乾燥することによって得られる。
【0006】
【解決すべき課題】このようにして共沈(coprecipitation) で得られる粉末(別の呼び方では共凝結(co-coagulation)又は共凝集(co-flocculation) 粉末)は、特に、PTFE含有量が高いとき、たとえば25重量%又はそれ以上の場合、高い自己粘着性をもつという欠点をもち、その結果、自由には流動せず、そのため取扱い及び貯蔵が困難となる。
【0007】
【解決手段】本発明は、重合体又は共重合体によって全体的又は部分的に封入されたテトラフルオロエチレン重合物を含有する自由流動性粉末の形態のポリマーブレンドに係る。本発明は、また、重合体又は共重合体によって全体的又は部分的に封入されたテトラフルオロエチレン重合物粒子を含むポリマーブレンドであって、しかも該ブレンドの粒子を相互に連結する網状構造を形成するテトラフルオロエチレン重合物フィラメントを実質的に含まないことを特徴とするポリマーブレンドに係る。
【0008】本発明は、また、重合体又は共重合体によって全体的又は部分的に封入されたテトラフルオロエチレン重合物粒子を含む自由流動性粉末の形態の新規ポリマーブレンドであって、しかも該ブレンドの粒子を相互に連結する網状構造を形成するテトラフルオロエチレン重合物フィラメントを実質的に含まない新規ポリマーブレンドの製造方法に係る。
【0009】さらに、本発明は、この新規ポリマーブレンドのたとえば押出成形、押出ブロー成形及び射出成形によって得られる製品に係る。最後に、本発明は、この新規ポリマーブレンドを含有してなる組成物、特に難燃化組成物に係り、得られる組成物は改善された難燃性及び機械的性質を有する。
【0010】本発明によれば、乳化重合、特にラジカル法で乳化重合し得る単量体又は単量体混合物の重合で得られる重合体又は共重合体によって全体的又は部分的に封入されたテトラフルオロエチレン重合物粒子を含有してなる新規ポリマーブレンドが製造される。この新規テトラフルオロエチレン重合物基体ブレンドは、共沈によって得られるテトラフルオロエチレン重合物基体ポリマーブレンドとは形態が異なることを本質的な特徴とし、しかも、特にテトラフルオロエチレン重合物含有量が比較的高い場合に、該ブレンドの粒子を相互に連結する網状構造を形成するテトラフルオロエチレン重合物フィラメントを実質的に含まないという特徴を有する。
【0011】テトラフルオロエチレン重合物としては、ポリ(テトラフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体並びにテトラフルオロエチレンと少量の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との共重合体を本発明の新規ポリマーブレンドに使用することができる。これらのポリマーは公知であり、たとえばSchildknecht著“Vinyl and related polymers”(John Wiley & Sons,Inc.、ニューヨーク、1952年発行)第484−494頁及びWoll著“Fluoropolymers”(Wiley−Interscience、John Wiley & Sons、ニューヨーク、1972年発行)に記載されている。
【0012】好ましくは、ポリ(テトラフルオロエチレン)をしようする。テトラフルオロエチレン重合物を封入するための重合体及び共重合体は、乳化重合、特にラジカル法で乳化重合し得る単量体又は単量体混合物から得られる任意の重合体及び共重合体であり得る。本発明の新規ポリマーブレンド中に封入用重合体として使用し得る重合体としては、ポリスチレン、ポリ(α−アルキルスチレン)、たとえばポリ−α−メチルスチレン、ポリ−α−エチルスチレン、ポリ−α−プロピルスチレン、ポリ−α−ブチルスチレンなど、ポリ−p−メチルスチレン、ハロゲン化ポリスチレン、アクリル系ポリマー、たとえばポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリルなど、ポリ(アルキルアクリレート)、たとえばポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(プロピルアクリレート)、ポリ(ブチルアクリレート)など、ポリ(アルキルメタクリレート)、たとえばポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(プロピルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)など、ポリブタジエン、ビニル系ポリマー、たとえばポリ(酢酸ビニル)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ビニルアルコール)など、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0013】本発明の新規ポリマーブレンド中に封入用共重合体として使用し得る共重合体としては、スチレン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、塩化ビニルと、たとえばアクリロニトリルやメタクリロニトリルやアルキルメタクリレートやアルキルアクリレート単量体のような別の単量体との共重合体、並びにグラフト重合物、たとえばポリブタジエン、ポリクロロプレン又はスチレン−ブタジエン共重合体、たとえばアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、アルキルアクリレートゴム、スチレン−ブタジエンゴム、EPDMゴム又はシリコーンゴムを挙げることができる。
【0014】本発明によれば、推奨される重合体は、ポリスチレン、ポリ(α−アルキルスチレン、特にポリ(α−メチルスチレン)、ビニル系ポリマー、特にポリ(塩化ビニル)、ポリ(酢酸ビニル)、並びにポリ(メチルメタクリレート)である。本発明のブレンドに推奨される共重合体はスチレン−アクリロニトリル(SAN)及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体、α−アルキルスチレン−アクリロニトリル共重合体、特にα−メチルスチレン−アクリロニトリル(AMSAN)共重合体、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)並びにこれらの混合物である。
【0015】共重合体として最も推奨されるのは、スチレン−アクリロニトリル及びα−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体である。本発明の新規ポリマーブレンド中のテトラフルオロエチレン重合物の割合は広範囲に設定しうるが、ブレンド中のポリマーの全重量を基準にして、一般に0.01〜80重量%の範囲、好ましくは0.05〜70重量%の範囲である。
【0016】本発明の新規ポリマーブレンドは、単量体又は単量体混合物をポリテトラフルオロエチレンラテックスの存在下で、好ましくはラジカル法で、乳化重合することによって簡単に製造し得る。封入用重合体の製造には、たとえば不連続式、半連続式又は連続式の乳化重合法など、様々な乳化重合法を使用することができる。乳化重合(エマルジョン重合ともいう)に関し、本明細書で用いる用語「エマルジョン」は、エマルジョンだけ或いはエマルジョン−懸濁液を意味する。
【0017】TFE誘導体の群を含んだ重合物ラテックスは、封入用重合体又は共重合体の重合用反応媒質中に、重合開始時から(すなわち、重合が全く始まっていないうちに)導入してもよいし、或いは重合中に(一般には、単量体の90重量%以上が重合又は共重合される前に)導入することもできる。一般に、テトラフルオロエチレン重合物ラテックスは20〜80重量%の固形分を含んでおり、このラテックスの粒度は0.05〜20μm(レーザー回折法で測定)の範囲であり、好ましくは0.1〜1μmの範囲である。
【0018】ラジカル法による乳化重合は周知のプロセスである。ラジカル重合については、たとえばG.CHAMPETIER著の“Chemie macromoleculaire(「巨大分子化学」の意)”第1巻、第3章(HERMANN発行)に記載されている。封入用重合体の重合が完了したら、次の工程で凝結及び乾燥を行って、自由流動性で、塊状化傾向をもたず、しかも目的ポリマーブレンドの粒子を相互に連結する網状構造を形成するようなテトラフルオロエチレン重合物フィラメントを実質的に含まないポリマーブレンド粉末を得る。
【0019】
【実施例】次に本発明を実施例によってさらに説明する。
実施例1−3スチレン−アクリロニトリル(SAN)共重合体によって封入されたテトラフルオロエチレン重合物粒子を含む本発明の新規ポリマーブレンドを、半連続式乳化重合法を用いて製造した。
【0020】重合:スチレン−アクリロニトリル共重合体によって封入されたPTFE粒子を含有してなる新規ブレンド(PTFE/SAN)を以下に述べる方法で製造した。15リットル反応容器を温度60℃で使用し、それを120回転/分(rpm)で攪拌した。SAN共重合体は、第一鉄イオン/クメンヒドロペルオキシド(CHP)レドックス系をラジカル開始剤として、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)キレート剤及びヒドロキシメタンスルフィネートナトリウム・2水和物(SFS)還元剤と併用することによって製造した。t−ドデシルメルカプタン(TDM)を連鎖移動剤として使用した。テトラフルオロエチレン重合物ラテックを、石鹸中の該重合物の溶液の形で導入した。この石鹸系は牛脂脂肪酸(TFA)であった。反応器には、開始剤の供給を開始する前に、まず石鹸/テトラフルオロエチレン重合物溶液全体と残るすべての溶液(SFS/EDTA溶液、FeSO4 溶液及び単量体/TDM溶液)の15重量%を装入した。次に、残るすべての溶液の供給を開始する少し前にCHP開始剤だけを導入した。これらの供給が完了した時点で、反応器を60℃の温度で最大180分の後重合工程の間攪拌状態に保持した。このようにしてテトラフルオロエチレン重合物/SANの新規ブレンドを得た。
【0021】製造法及び得られたブレンドの詳細を次の表1に示す。
表 1実施例番号 SAN/PTFE比: 50/50 50/50 40/60固形物含量(理論値) 24.3% 34.6% 34.6% 反応器の最初の装入物石鹸/PTFE溶液: 重量部 重量部 重量部水 106 114 114PTFE(乾量) 25 50 60PTFEの水分 14.676 28.964 34.757TFA(牛脂脂肪酸) 0.285 0.570 0.456KOH 0.0685 0.1507 0.1206 反応器を60℃に加熱、次いで下記を添加単量体の溶液: スチレン 2.5926 5.2830 4.2264 アクリロニトリル 1.1111 2.2642 1.8113 TDM 0.0148 0.0302 0.0242 SFS/EDTA溶液:水 4.2963 5.2075 4.3774 SFS 0.0100 0.0204 0.0163 EDTA 0.000207 0.0004 0.0003 FeSO4 溶液:水 0.7778 1.5094 1.5094 FeSO4 ・7H2 O 0.000081 0.0002 0.0001 t=0、下記の供給開始:CHP 0.4 0.2 0.16 供給時間(分) 27 53 53t=(分) 4 8 8 下記の供給の開始単量体の溶液: スチレン 14.9074 29.7170 23.7736 アクリロニトリル 6.3889 12.7358 10.1887 TDM 0.0852 0.1698 0.1358 SFS/EDTA溶液:水 24.7037 29.2925 24.6226 SFS 0.0575 0.1146 0.0917 EDTA 0.0012 0.0024 0.0019 FeSO4 溶液:水 4.4722 8.4906 8.4906 FeSO4 ・7H2 O 0.0005 0.0009 0.0007 供給時間(分) 23 45 45 供給完了後、反応器を60℃に保持:時間(分) 120 180 180各実施例について、転化率(固形物含量に基づく)及びpHを時間の関数としてモニターした。
【0022】結果を表2に示す。
表 2 実施例 1 実施例 2 実施例 3時 間 転化率 pH 転化率 pH 転化率 pH(分) (%) (%) (%)
1 1.11 9.56 1.04 10.01 4.8 9.83 15 1.57 10.08 4.21 9.94 19 7.22 9.62 30 21.55 9.61 8.92 10.06 9.49 9.84 45 44.68 9.5 29.24 9.89 28.58 9.62 60 62.8 9.43 51.37 9.75 51.57 9.56 75 69.22 9.38 90 73.42 9.35 85.79 9.5 85.71 9.41 105 77.46 9.23 120 80.67 9.28 91.62 9.56 93.22 9.35 135 83.8 9.15 150 87.25 9.15 93.06 9.56 95.02 9.31 180 93.7 9.55 95.82 9.32 210 93.87 9.59 96.18 9.28 233 93.7 9.5 96.32 9.28凝結及び乾燥得られたポリマーブレンドを酸溶液(水中に硫酸2部)中に導入し、激しく攪拌しながら95℃に加熱した。固形物含量は15重量%であった。上記の各ブレンドラテックスの導入は約10分で完了した。得られたスラリーをこの温度で20分間攪拌した後に遠心分離した。得られた粉末を次いで55℃で30分間再度ペースト化した。このペーストの固形物含量は18%であった。遠心分離後、得られた粉末を流動床式乾燥機中で60℃の温度で約2時間乾燥した。0.3〜0.4%の間に最終水分量をもつ自由流動性粉末を得た。
【0023】比較のため、SANラテックスとPTFEラテックスの混合物から、上記と同一条件下において、凝結(共沈)によってPTFE50重量%及びSAN50重量%を含有するポリテトラフルオロエチレンとSANのポリマーブレンドを製造した。得られた粉末の流動性を漏斗試験を使用して評価した。結果を以下の表3及び表4に示す。
表 3 漏斗直径(mm) 15 10 8 5 3.5 純粋なSAN 時間(s) 1.5 4 7 22 126 漏斗の タップ数 0 0 0 0 22PTFE/SAN 50/50 時間(s) 流動せず (共沈法) 漏斗の タップ数PTFE/SAN 50/50 時間(s) 4 8 14 流動せず (実施例1) 漏斗の タップ数 0 0 2 PTFE/SAN 50/50 時間(s) 2.5 5.5 9 44 流動せず (実施例2) 漏斗の タップ数 0 0 0 3 PTFE/SAN 60/40 時間(s) 4.5 16 34 流動せず (実施例3) 漏斗の タップの数 0 2 8 表 4 粒度 純粋なSAN PTFE/SAN PTFE/SAN PTFE/SAN PTFE/SAN(μm) 50/50 50/50 50/50 60/40 共沈法 実施例1 実施例2 実施例3>1000 26.9% 23.5% 33.6% 9.9%> 800 36.9% 測定 36.9% 43.7% 14.9%< 160 2.2% 3.8% 3.3% 20.4%< 63 - 不能 0.9% 1.0% 4.8%< 50 - 0.7% 0.9% -平均値 695 650 720 360これらの結果は、本発明のブレンドの粉末は、凝結で得た粉末よりも格段に容易に流動することを示している。粉末の各々についてそれらを一連の篩を通過させることによって、粒度の測定も行った。ラテックス混合物の凝結によって得られた粉末の粒度は、該粉末の自己粘着のために篩を通過させることができなかったので、測定することができなかった。この自己粘着現象はブレンドのPTFE含有量と共に増加することが認められるであろう。本発明のブレンドの粉末がラテックス混合物の凝結によって得られる粉末よりも、PTFE含有量が高い場合は特に、著しく低い粘着傾向をもつことは明らかである。
【0024】本発明のブレンドの粉末及びラテックス混合物の共沈によって得られる粉末のそれぞれの顕微鏡写真を図面として添付する。図1は、ラテックス混合物の共沈によって得られた50/50 PTFE/SANブレンド粉末の走査電子顕微鏡写真(倍率25000×)である。この図に示されているように、SAN粒子はPTFEフィラメントによって連結されている。
【0025】図2及び図3は、本発明に従う実施例1及び実施例3の新規ブレンド粉末の走査電子顕微鏡写真(倍率25000×)である。図1では粉末粒子を連結するフィラメントの数が多すぎて粉末の自由な流動を妨げるほどであるのに対して、図2及び図3にみられるように、実施例1のブレンドの場合には粒子同士を連結しているフィラメントは粉末に全く存在しておらず、また実施例3のブレンドの場合にも粉末にはフィラメントは実質的に存在せず、その結果として、得られる粉末は60重量%もの高いPTFEレベルでも自由に流動する。
【0026】さきに示したように、本発明に従う新規ブレンドは押出成形、押出ブロー成形又は射出成形によって製品を得るために直接使用することができる。本発明の新規ブレンドは、ポリマー組成物、特に難燃化ポリマー組成物の難燃性を増大させるのに特に有用であることが認められた。テトラフルオロエチレン重合物は、難燃化ポリマー組成物中にドリップ防止剤として既に使用されている。しかしながら、これらの重合物の使用はいくつかの欠点をもつ。特に、かゝるテトラフルオロエチレン重合物を含有する組成物から得られる押出フィルムは表面状態が劣悪で、表面に非溶融粒子を呈するか或いはテトラフルオロエチレン重合物がポリマーマトリックス中で繊維質の網状構造を形成し、その結果、非常に低い衝撃強度特性を与える。最後に、これらのテトラフルオロエチレン重合物粉末を配合すると、元来透明であったマトリックスの不透明度を増す傾向がある。
【0027】これらの短所は、明らかに、組成物マトリックス中におけるテトラフルオロエチレン重合物粒子の不十分な分散によるものである。本発明の新規テトラフルオロエチレン重合物基体ブレンドを組成物に配合すると、上述の短所は矯正される。特に、これらの新規な封入テトラフルオロエチレン重合物基体ブレンドを使用すると、マスターバッチ中のテトラフルオロエチレン重合物含有量を高くする(たとえば40%を超える)ことが可能になるが、こうしたことは、これ以外のマスターバッチ製造法(たとえばポリテトラフルオロエチレンラテックスと支持ポリマーラテックスとの共凝結法)を用いた場合には実質的に達成不可能である。本発明の新規な封テトラフルオロエチレンポリマーブレンドは易分散性であり、マトリックスと相溶性であって、きわめて微細なテトラフルオロエチレン重合物粒子が均一に分散されていて、その結果、射出成形品又は押出成形品は優れた表面状態を呈しつつ、組成物のそれ以外の優れた性質も保持する。
【0028】特に、本発明による新規ブレンドの使用は、テトラフルオロエチレン重合物が高レベルで含まれているときにも(たとえば60%)、衝撃強さ、とりわけ多軸衝撃強さ及びアイゾット衝撃強さに悪影響を与えない。本発明は、したがって、本発明のポリマーブレンドを、テトラフルオロエチレン重合物含有量がポリマーマトリックス100重量部当たり0.05〜10重量部、好ましくは0.05〜6重量部となるような割合で含有してなる組成物を提供する。
【0029】好ましくは、本発明の組成物は難燃剤をさらに含んでいる。本発明の組成物のポリマーマトリックス用に使用し得るポリマーの代表的なものとしては、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリ(ブチレンテレフタレート)及びポリ(エチレンテレフタレート)のようなポリ(アルキレンテレフタレート)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)のようなビニルポリマー、ポリプロピレン及びポリエチレンのようなポリアルキレン、ポリ(メチルアクリレート)及びポリ(メチルメタクリレート)のようなポリアクリレート及びポリメタクリレート、ポリスチレン、特に耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリスルホン及びポリエーテルイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン及びスチレン−アクリロニトリル共重合体及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン/ポリカーボネートブレンド、ポリ(フェニレンオキシド)/ポリスチレンブレンド、及びポリ(ブチレンテレフタレート)/ポリカーボネートブレンドのような熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネートブレンドを挙げることができる。
【0030】このましくは、本発明の組成物は難燃化される。難燃剤としては、こうした組成物用の公知の任意の難燃剤系を使用することができる。難燃剤の例としては、オルガノホスフェート及びハロゲン化有機化合物を挙げることができる。好ましくは、たとえばテトラブロモビスフェノールAから誘導される化合物のような臭素化芳香族化合物が使用される。さらに好ましくは、ハロゲン化芳香族化合物(特に臭素化化合物)とアンチモン化合物(たとえば酸化アンチモンなど)を含有する相乗的組合せが使用される。
【0031】オルガノホスフェート系難燃剤としては、特にフェニルビスドデシルホスフェート、フェニルビスネオペンチルホスフェート、ポリエチレン水素ホスフェート、フェニルビス(3,5,5′−トリメチルヘキシル)ホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジ−p−トリルホスフェート、ジフェニル水素ホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)p−トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリノニルホスフェート、フェニルメチル水素ホスフェート、ジドデシルp−トリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ハロゲン化トリフェニルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2−クロロエチルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート及びジフェニル水素ホスフェートを挙げることができ、これらは場合によってはヘキサブロモベンゼン及び酸化アンチモンと組み合わせて使用される。
【0032】本発明の組成物中に難燃剤として使用し得るハロゲン化有機化合物としては、テトラブロモビスフェノールA、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、ポリ(ブロモジフェニルエーテル)、ポリ(ブロモフェノール)、ポリ(ブロモフェニルアルキルエーテル)、ポリ(ブロモベンジルアクリレート)又はポリアクリレート、ポリ(ブロモシクロドデカン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(ブロモフェニルマレイミド)、臭素化エポキシ単量体又はエポキシポリマー、ハロ−置換ジフェノールとジフェノールから誘導されるコポリカーボネート(好ましくはハロゲンが塩素又は臭素であるもの)を挙げることができる。好ましくは、このコポリカーボネートは、ハロゲン化ビスフェノールA(たとえばテトラブロモビスフェノールA及びテトラクロロビスフェノールAなど)とジフェノール(たとえばビスフェノールAなど)との生成物である。好ましくは、難燃化用ハロゲン化有機化合物はアンチモン化合物(たとえば酸化アンチモン)と組み合わせて使用される。
【0033】本発明の組成物には、慣用添加剤、たとえば増量剤、補強用充填剤、顔料、着色剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、耐衝撃性改良剤などを添加してもよい。
実施例4−7及び比較例A、B及びC以下の表5に示す通り、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンと本発明のPTFE/SANブレンドの混合物を製造した。PTFE/SANブレンドの添加量は活性ポリテトラフルオロエチレン含有量がABS樹脂100重量部当たり0.1重量部となる量である。
【0034】これらの組成物の機械的性質及び難燃性を表6に示す。ビカー試験はISO 306標準法に従って行い、アイゾット衝撃強さ試験はISO 180−1A標準法に従って行い、伸び及び引張降伏応力試験はISO527標準法に従って行い、そして多軸衝撃強さ試験はISO 6603−2標準法に従って行った。
表 5 比較例 比較例 実施例 実施例 比較例 実施例 実施例 A B 4 5 C 6 7ABS 100 100 100 100 100 100 100ビス(トリブロモ 23 23 23 23 23 23 23フェノキシ)エタン(難燃剤)
Sb2 3 4 4 4 4 4 4 4塩素化ポリエチレ 3ン(CPE)粉末PTFE粉末 0.1 (500μm) 封入50/50PTFE/SAN 0.2 封入60/40PTFE/SAN 0.1666 共沈20/80PTFE/SAN 0.5 封入40/60PTFE/SAN 0.25封入30/70PTFE/SAN 0.333 表 6 比較例 比較例 実施例 実施例 比較例 実施例 実施例 A B 4 5 C 6 7ビカーB/120(℃) 88.9 88.6 88.8 89.3 88.9 88.6 88.9ノッチ付アイゾッ 12.3 10.2 9.6 9.8 10.2 10.5 10.5ト衝撃強さ(KJ/m2 ) 全エネルギー多軸 18 17 22 23 20 23 24 衝撃強さ(Nm)破断点伸び、 51.87 56.75 55.55 53.25 55.85 57.93 64.98標準(%) 引張降伏応力、 42.47 43.61 43.61 43.23 43.37 42.69 42.73標準(MPa) 破断点伸び、 2.45 2.386 2.46 2.44 2.59 2.55 2.6 ウェルドライン(%) 引張降伏応力、 41.14 42.05 42.57 41.58 41.83 41.9 41.81 ウェルドライン(MPa) 表面状態 良好 繊維状 良好 良好 良好 良好 良好UL94試験、1.6mm ドリッピング あり なし なし なし なし なし なし (火炎滴)
格付け 不合格 V-0 V-0 V-0 V-0 V-0 V-0 比較例D−F及び実施例8−11以下の例では、各組成物の成分の割合は組成物の全重量に対する重量%で表した。
【0035】前記の実施例の場合と同様にして表7に示す組成物を製造した。
表 7成 分 10 11重量平均分子量 98.92 - - 98.992 98.956 - - 23000のPC重量平均分子量 - 98.92 98.85 - - 98.956 98.9327000のPC離型剤 0.40 0.40 0.40 0.40 0.40 0.40 0.40難燃化相乗剤 0.45 0.45 0.50 0.45 0.45 0.45 0.50酸化防止剤 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.0580/20 PC 0.18 0.18 0.20 - - - - (M=23000)/PTFE分散物封入50/50 - - - 0.108 0.144 0.144 0.12PTFE/SANこれらの組成物の機械的性質及び難燃性を表8に示す。
表 8 10 11ノッチ付アイゾット(KJ/m2
0℃ - - 23.0 - - - 29.1 10℃ - 26.2 - - - 38.8 - 23℃ 16.4 58.5 60.3 15.3 15.1 48.5 69.0引張モジュラス(MPa)2440 2402 2345 2440 2394 2350 2266 降伏応力(MPa) 66.5 63.0 63.5 64.6 64.3 63.4 64.2破断点伸び(%) 97.3 100.3 101.0 107.9 113.7 114.3 126.4燃焼試験 UL94-1.6mm格付け V-2 V-2 V-1 V-0 V-0 V-0 V-0 UL94-2.0mm格付け V-0 V-0 - V-0 V-0 V-0 -表8は、ポリカーボネート樹脂中に本発明の新規ブレンドを使用することによって、破断点伸びの格段に高い数値にみられるように、優れた難燃性及び最良の相溶性が得られることを示している。
比較例G−I及び実施例12−14以下の例では、使用した成分の割合は樹脂100重量部当たりの重量部で示す。
【0036】表9に示す混合物は、純粋なPTFE及び本発明のブレンドと自消性PC/ABSポリマーブレンドとを混合することによって製造した。この自消性PC/ABSブレンドはポリカーボネート80重量部とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂20重量部及び慣用の添加剤(難燃剤、酸化防止剤、滑剤等)を含有する。
表 9成 分 12 13 1480/20 PC/ABS 100 100 100 100 100 10080/20 PC/PTFE 分散物 1 - - - - - 共沈20/80 PTFE/SAN - 1 - - - - 純粋なPTFE(500μm) - - 0.2 - - - 封入50/50 PTFE/SAN - - - 0.4 - - 封入40/60 PTFE/SAN - - - - 0.50 - 封入30/70 PTFE/SAN - - - - - 0.67表9の組成物の機械的性質及び難燃性の試験の結果を表10に示す。
表 10 12 13 14溶融状態における 204 197 202 204 201 201 粘度(Pa.s)
ノッチ付アイゾッ 36.1 44.2 29.7 45.1 43.1 44.5ト衝撃強さ多軸衝撃強さ 室温(Nm) 108 131 119 135 137 140 -20℃(Nm) 94 109 96 113 110 111 破断点伸び(%) 30 64 40 73 73 70 UL94:1.6mm V-0 V-0 V-0 V-0 V-0 V-0 UL94 5V: 2.5mm 不合格 5V 不合格 5V 5V 不合格表10は、本発明によるPC/ABSポリマーブレンドの組成物は多軸及びアイゾット衝撃強さに優れ、格段に優れた破断点伸びをもちながら、しかも良好な難燃性を保持していることを示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来技術のポリマーブレンドの走査電子顕微鏡写真(倍率25000×)である。
【図2】本発明のポリマーブレンド(実施例1)の走査電子顕微鏡写真(倍率25000×)である。
【図3】本発明のポリマーブレンド(実施例3)の走査電子顕微鏡写真(倍率25000×)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリマーブレンドであって、該ポリマーブレンドは、乳化重合し得る単量体又は単量体混合物の重合で得られる重合体又は共重合体によって全体的又は部分的に封入されたテトラフルオロエチレン誘導体の群を含む重合物粒子を含んでいて、しかも該ポリマーブレンドは、該ブレンドの粒子同士を連結する網状構造を形成するテトラフルオロエチレン重合物フィラメントを実質的に含んでいないことを特徴とするポリマーブレンド。
【請求項2】 前記封入用重合体又は共重合体が、ラジカル法で乳化重合し得る単量体又は単量体混合物の重合によって得られるものであることを特徴とする、請求項1記載のポリマーブレンド。
【請求項3】 前記封入用重合体又は共重合体が、ポリスチレン、ポリ−α−アルキルスチレン、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、ビニルポリマー、ポリブタジエン、スチレン−アクリロニトリル(SAN)共重合体、α−アルキルスチレンとアクリロニトリルの共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、及びこれらの混合物からなる群から選定されることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のポリマーブレンド。
【請求項4】 前記封入用重合体又は共重合体が、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチルアルデヒド、スチレン−アクリロニトリル共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、及びこれらの混合物からなる群から選定されることを特徴とする、請求項3記載のポリマーブレンド。
【請求項5】 前記テトラフルオロエチレン重合物が、ブレンド中のポリマーの全重量を基準にして、0.01〜80重量%に相当することを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のポリマーブレンド。
【請求項6】 該ポリマーブレンドが自由流動性粉末の形態であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のポリマーブレンド。
【請求項7】 請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のポリマーブレンドの押出成形、押出ブロー成形又は射出成形によって得られる製品。
【請求項8】 重合体又は共重合体によって全体的又は部分的に封入されたテトラフルオロエチレン重合物粒子を含むポリマーブレンドの製造方法であって、乳化重合し得る単量体又は単量体混合物をテトラフルオロエチレン重合物ラテックスの存在下で乳化重合し、そして自由流動性粉末の形態のポリマーブレンドを回収することを特徴とする方法。
【請求項9】 前記乳化重合し得る単量体がラジカル法で重合し得る単量体であり、しかも前記乳化重合をラジカル法によって行うことを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】 請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のポリマーブレンドがポリマーマトリックス中に分散したものからなる組成物であって、該組成物中のポリマーブレンドの割合が、前記テトラフルオロエチレン誘導体の群を含んだ重合物の該組成物中における含有量がポリマーマトリックス重量の0.05〜10重量%に相当するような量であることを特徴とする、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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