説明

テプレノンを充填したヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセル製剤

ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルにテプレノンを充填してなるカプセル製剤、さらに、グリシンを充填してなるカプセル製剤を提供することにより、カプセル製剤の崩壊時間の遅延を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、胃潰瘍又は胃炎治療薬として有用なテプレノン組成物を充填したヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下「HPMC」という。)カプセル製剤に関する。
【背景技術】
テプレノンは、胃潰瘍又は胃炎治療薬として知られている(たとえば、特許文献1及び特許文献2参照)。テプレノンは、常温において油状の液体であるため、ケイ酸類等にテプレノンを吸着させ、更に賦形剤を添加して粉末化し、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などに製剤化が行われている。カプセル剤の基材としては、ゼラチンを主成分とするゼラチンカプセルが広く用いられている。
しかしながら、前記ゼラチンカプセル製剤は長期保管することによりその崩壊時間が遅延する場合があることが分かっている。これは、テプレノンのゼラチンカプセル製剤が、ゼラチンのリジン残基とテプレノンの酸化分解反応から生じたアルデヒドを含む過酸化生成物との反応などにより、カプセル剤の剤皮が不溶化するためであると考えられている。長期保存した場合であっても、その溶出試験においては顕著な溶出時間の遅延は観測されず、この崩壊時間の遅延は製品の品質に影響を及ぼす程度のものとは言えないが、品質管理等の観点からは、より経時変化の少ないカプセル製剤とすることが望まれている。
そのため、本発明の目的は、長期間保存しても崩壊時間が遅延しないテプレノンを含有するカプセル製剤を提供することにある。
[特許文献1] 特公昭63−44726号
[特許文献2] 特公平7−103019号
【発明の開示】
そこで、本願発明の発明者らはかかる課題を解決するべく、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明のカプセル製剤は、HPMCカプセルにテプレノン含有組成物を充填してなるHPMCカプセル製剤及びHPMCカプセルにグリシンを配合したテプレノン含有組成物を充填してなるHPMCカプセル製剤である。また、本発明の崩壊遅延抑制方法は、グリシンを配合したテプレノン含有組成物をHPMCカプセルに充填するカプセル製剤の崩壊遅延抑制方法である。さらに、本発明のカプセル製剤の製造方法は、グリシンを配合したテプレノン含有組成物を造粒し、次いでHPMCカプセルに充填するカプセル製剤の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明によるHPMCカプセル製剤の崩壊試験の結果を示す図である。
図2は、本発明に利用されたゼラチン空カプセルの崩壊試験の結果を示す図である。
図3は、本発明に係るHPMCカプセル製剤と、ゼラチン製剤との溶出試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
本発明で用いるテプレノンとは、下記構造式を有する化合物であり、化合物名はゲラニルゲラニルアセトン、又は6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オンである。テプレノンには理論的には8種の幾何異性体が存在し、本発明においてはいずれの幾何異性体も含まれるが、本発明では、このうち医薬品として実用に供されている、3:2(5E:5Z)(9E,13Z)−6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オンを用いることが好ましい。

カプセルに充填されるテプレノンの量は、特に限定されないが、1カプセルあたり、10mg〜200mg、好ましくは30mg〜150mgである。
本発明で用いる用語「HPMCカプセル」とは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を基材としたカプセルをいう。HPMCカプセルとしては、特に限定されないが、例えば、シオノギクオリカプス(株)製の製品を用いることができる。HPMCカプセルの大きさは特に限定されないが、全長10mm〜23mm、好ましくは11mm〜18mmである。
本発明に係るHPMCカプセル製剤は、充填されたテプレノン含有組成物中にグリシンを配合してもよい。ここで、グリシンとは、α−アミノ酸の一つで、アミノ酢酸にあたり、種々の蛋白質の重要な成分である。グリシンは、食品の栄養素として重要であるが、医薬品の添加物として使用が認められており、市販品を容易に入手できる。カプセルに充填されたテプレノン含有組成物中に配合されるグリシンの量は、特に限定されないが、テプレノンに対する比率としてテプレノン1重量部に対してグリシン0.001〜0.1重量部、好ましくは0.01〜0.04重量部である。
本発明に係るHPMCカプセル製剤に、充填したテプレノン含有組成物及びグリシンに加えて、更に賦形剤を添加してもよい。本発明に用いられる賦形剤としては、マンニトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコールを使用することが好ましい。上記賦形剤の使用量は賦形剤の種類等により異なるが、通常は1カプセルあたり、5mg〜50mgである。更に、本発明のテプレノン含有組成物は、各種酸化防止剤、例えばビタミンEを添加することもできる。
本発明に係るカプセル製剤は、通常の方法により製造することができ、例えば、次のようにして製造することができる。すなわち、ビタミンEを配合したテプレノンをケイ酸類に吸着させ、マンニトール、トウモロコシデンプン等を配合し、次いで、マクロゴール6000に溶解したグリシンを徐々に混合、攪拌して造粒する。得られた顆粒を乾燥後、整粒し、タルク等を配合して、HPMCカプセルに充填してカプセル製剤を製造することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明をこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
テプレノン3000g(エーザイ(株)製、商品名「セルベックス」)にトコフェロール3gを添加し、十分混和させたものを含水二酸化ケイ素に攪拌しながら吸着させた。次いでマンニトール600gとトウモロコシデンプン396gを加えて混合し、さらに600gのマクロゴール6000溶解液(日本油脂(株)製)にグリシン30gを溶解させた液を徐々に添加して造粒した。得られた造粒物を70°Cで乾燥し、整粒後にタルク及び含水二酸化ケイ素240gを添加してテプレノン含有の顆粒を得、4号のHPMCカプセル(シオノギクオリカプス(株)製)に充填してカプセル剤を得た。
(参考例)
テプレノン3000gにトコフェロール3gを添加し、十分混和させたものを含水二酸化ケイ素に攪拌しながら吸着させた。次いでマンニトール600gとトウモロコシデンプン396gを加えて混合し、さらに600gのマクロゴール6000溶解液にグリシン30gを溶解させた液を徐々に添加して造粒した。得られた造粒物を70°Cで乾燥し、整粒後にタルク及び含水二酸化ケイ素240gを添加してテプレノン含有の顆粒を得、4号のゼラチンカプセル(シオノギクオリカプス(株)製)に充填してカプセル剤を得た。
(HPMCカプセル製剤の崩壊試験例)
本願発明のHPMCカプセル製剤を用いて崩壊試験を行った。前述の実施例で得られたHPMCカプセル製剤を以下に示すEx−1〜EX−7の包装形態で準備した。なお、比較のために用いたゼラチンカプセル製剤は、実施例で得られたテプレノン含有顆粒をゼラチンカプセルに充填して得られたものである(参考例を参照)。
Ex−1:カプセル製剤100個のカプセルを4号のポリプロピレン瓶に充填し、ポリプロピレンキャップをしたもの。
Ex−2:PTP充填機を用いて、カプセル製剤を、ポリプロピレンフイルムを用いてPTP充填(10カプセル/1シート)し、その後箱に入れたもの。
Ex−3:PTP充填機を用いて、カプセル製剤を、UVカットタイプのポリプロピレンフイルムを用いてPTP充填(10カプセル/1シート)し、その箱に入れたもの。
Ex−4:カプセル製剤100個のカプセルをアルミ袋に充填し、ヒートシールしたもの。
Ex−5:PTP充填機を用いて、カプセル製剤を、ポリプロピレンフイルムを用いてPTP充填(10カプセル/1シート)したもの。
Ex−6:PTP充填機を用いて、カプセル製剤を、UVカットタイプのポリプロピレンフイルムを用いてPTP充填(10カプセル/1シート)したもの。
Ex−7:カプセル製剤100個のカプセルをガラス製のシャーレに入れたもの。
上記Ex−1からEx−7のカプセル製剤を60°C、40°C−相対湿度75%及び1,000Lux露光の3つの条件下にて10日から最大50日間保存し、崩壊時間を保存期間ごとに測定した。試験は、第14改正日本薬局方に規定されている崩壊試験に従って行った。試験器を29〜32往復/分、振幅53〜57mmで滑らかに上下運動を行うように調節した後、本品1カプセルずつをそれぞれ顆粒剤の崩壊試験に用いられる補助筒6個に取り、補助筒を試験器のガラス管に1個づつ入れて底に固定し、試験液はイオン交換水1,000mLを用い、試験温度は37±1°Cに保って行った。崩壊時間は、補助筒内のカプセルを経時的に観察し、試料の皮膜を含む残留物がなくなった時点の時間とした。結果を図1に示す。
(ゼラチン空カプセルの崩壊試験)
一方、対照としてゼラチン空カプセル(未充填カプセル)を40°C−相対湿度75%の条件下で保存した後、崩壊試験を行った。本崩壊試験に用いたサンプルは以下のとおりである。
Ex−8:カプセル製剤100個のカプセルを、4号のポリプロピレン瓶に充填したもの。
Ex−9:カプセル製剤100個のカプセルを、4号のポリプロピレン瓶に充填し、ポリプロピレンキャップをしたもの。
ゼラチン空カプセルの崩壊試験の結果を図2に示す。
図1に示した通り、ゼラチンカプセル製剤では、実用には影響を及ぼさないと考えられる程度ではあるが、いずれの条件下でも保存により経時的にゼラチン皮膜の不溶化現象が観察され、崩壊時間が延長していることが分かった。ゼラチン空カプセルでは、図2に示した通り、40°C−相対湿度75%の条件下での保存後において崩壊性が変化していないことから、テプレノンとゼラチンカプセルとの相互作用によるものであると考えられる。
一方、本発明に係るカプセル製剤では、崩壊時間の延長は観察されなかった。これは、HPMCカプセル製剤が、内容物であるテプレノンと相互作用がないためであると考えられる。
(HPMCカプセルの溶出試験)
本発明に係るHPMCカプセル製剤とゼラチンカプセル製剤との溶出の比較試験を行った。本試験は、HPMCカプセル製剤及びゼラチンカプセル製剤を、ポリプロピレンフィルムを用いてPTP充填(10カプセル/1シート)し、その後箱に入れて6ヶ月間保存した後、第14改正日本薬局方に規定されている溶出試験に従って溶出試験を行った。
図3は、溶出時間を比較したグラフを示す。図3から明らかなように、本発明に係るHPMCカプセル製剤の溶出時間は、初期(保存前)及び保存後ともにゼラチンカプセル製剤の溶出時間と同等であるということが判明した。
【産業上の利用可能性】
本発明に係るテプレノン含有組成物を充填したHPMCカプセル製剤は、充填物とカプセル基材との相互作用が生じないため、崩壊試験におけるカプセル製剤の崩壊時間の遅延を起こすことなく、安定なテプレノン含有カプセル製剤を提供することができる。また、本発明によるテプレノン含有組成物を充填したHPMCカプセル製剤は、良好な溶出特性を有しており、その溶出挙動はゼラチンカプセル製剤と同等であった。よって、本発明によれば、溶出時間がゼラチンカプセル製剤と同等であり、崩壊時間の遅延が生じないHPMCカプセル製剤を得ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルにテプレノン含有組成物を充填してなることを特徴とするカプセル製剤。
【請求項2】
グリシンを配合したテプレノン含有組成物をヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルに充填してなることを特徴とするカプセル製剤。
【請求項3】
グリシンを配合したテプレノン含有組成物をヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルに充填することを特徴とするカプセル製剤の崩壊遅延抑制方法。
【請求項4】
グリシンを配合したテプレノン含有組成物を造粒し、次いでヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルに充填することを特徴とするカプセル製剤の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/047822
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554981(P2004−554981)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014738
【国際出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】