テラヘルツ光を用いた紙葉類の真偽判別方法および装置
【課題】紙葉類にインクによる印刷が施されている場合であっても、インクの有無に関係なく、紙葉類の真偽を判定することである。
【解決手段】検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の屈折率を算出し、算出した屈折率が所定の屈折率であるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別する。
【効果】紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光の反射率または反射光量に基いて紙葉類の屈折率を算出できる。そして、算出した屈折率を予め設定された屈折率と比較することで、紙葉類の真偽判別を正確に行うことができる。
【解決手段】検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の屈折率を算出し、算出した屈折率が所定の屈折率であるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別する。
【効果】紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光の反射率または反射光量に基いて紙葉類の屈折率を算出できる。そして、算出した屈折率を予め設定された屈折率と比較することで、紙葉類の真偽判別を正確に行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙葉類にテラヘルツ光を照射し、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を受信し、受信した信号から紙葉類の屈折率を求めて、紙葉類の屈折率が所望の屈折率であるか否かにより紙葉類の真偽を判別する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の紙質判別方法が開示されている。
特許文献1に記載の方法では、紙質を判別する際に、判別対象の紙に370nmの短波長光、および420〜1000nmの長波長光を照射する。そして、それぞれの照射光について得られる紙の吸光度差に基づいて、紙質を判別する。紙の吸光度は、紙質によって相違するため、繊維の並びに依存する濃淡パターンのように、紙の製造工程の相違による影響を受けることなく、紙質を判別することが可能である。
【0003】
また、短波長光と長波長光とを併用することにより、湿度などの環境要因や紙の劣化などによる吸光度への影響を抑制することができる。
この結果、特許文献1によれば、安定して紙質を判別することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−315260号公報
【特許文献2】特開2005−92712号公報
【特許文献3】特願2008−155715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の紙質判別方法は、安定して紙質を判別することが可能である反面、紙にインクによる印刷が施されている場合には、その印刷色によっては、光が吸収されてしまい、反射率が紙質に依存しなくなって、紙質の判別を正確にできないという課題がある。たとえば、紙にインクによる印刷が施されている場合において、その印刷部に青色〜近赤外光を照射した場合には、印刷部のインクによって光が吸収されてしまい、反射率が変化するという課題がある。
【0006】
また、特許文献2には、青色発光ダイオードを用いて紙質による光の透過率の相違を測定し、紙幣の真偽判定を行える旨の内容が記載されている。しかしながら、この先行技術の場合も、紙幣に青色系のインクで印刷が施されている場合には、青色発光ダイオードで照射される光はインクにより反射または吸収されて透過しないので、その透過率を正確に測れないという課題がある。
【0007】
ところで、本願発明者は、特許文献3において、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法を提案した。すなわち、紙葉類(紙幣、商品券、証券類、免許証、クレジットカードなど)に対し、テラヘルツ領域(電波と赤外の間の領域)の電磁波、すなわちテラヘルツ光を照射し、紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を測定することにより、紙葉類の厚さを検出するという発明を提案した。
【0008】
今回は、テラヘルツ光を用いることにより、紙葉類にインクによる印刷が施されている場合であっても、インクの有無に関係なく、紙葉類の屈折率を検出して、検出した屈折率に基づいて紙葉類の真偽を判定するための方法および装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の基材の屈折率を算出し、算出した屈折率が所定の屈折率であるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法である。
【0010】
請求項2記載の発明は、検査対象である紙葉類の厚みを検知する厚み検知ステップを含み、厚み検知ステップにおいて検知された紙葉類の厚みを用い、前記紙葉類の基材の屈折率を算出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の真偽判別方法である。
請求項3記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を偏光P波および偏光S波に制限し、偏光P波および偏光S波をそれぞれ紙葉類に対して照射し、各偏光P波および偏光S波毎に、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出した偏光P波のテラヘルツ反射光および偏光S波のテラヘルツ反射光の反射光量の比を算出し、前記反射光量の比が所定の値の範囲にあるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法である。
【0011】
請求項4記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を偏光P波および偏光S波に制限し、偏光P波および偏光S波をそれぞれ紙葉類に対して照射し、紙葉類の表面および裏面で反射される各テラヘルツ光の偏光P波および偏光S波毎に、テラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の偏光P波および偏光S波の反射率の比を算出し、該反射率の比が所定の値の範囲にあるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法である。
【0012】
請求項5記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する装置であって、検査対象である紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射するための送信子と、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を受信するための受信子と、前記受信子で受信されたテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の基材の屈折率を算出する屈折率算出手段と、前記屈折率算出手段で算出された屈折率に基づいて、紙葉類の真偽を判別する判別手段と、含むことを特徴とする紙葉類の真偽判別装置である。
【0013】
請求項6記載の発明は、前記検査対象である紙葉類の厚みを検出するための厚み検出装置をさらに備え、前記紙葉類の屈折率を算出する手段は、前記厚み検出装置で検出された紙葉類の厚み情報に基づいて紙葉類の屈折率を計算することを特徴とする、請求項5記載の紙葉類の真偽判別装置である。
請求項7記載の発明は、前記テラヘルツ光を紙葉類に対して照射する送信子および紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を検出する受信子は、送信・受信対ユニットとなっており、かつ、当該送信・受信対ユニットは、少なくとも2組設けられていて、一方はテラヘルツ光の偏光P波の送信および受信を行い、他方はテラヘルツ光の偏光S波の送信および受信を行うことを特徴とする、請求項5または6記載の紙葉類の真偽判別装置である。
【0014】
請求項8記載の発明は、前記演算手段は、テラヘルツ光の偏光P波および偏光S波の反射光量の比を算出し、当該反射光量の比が所定の値の範囲にあるか否かにより紙葉類の真偽を判別することを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の真偽判別装置である。
請求項9記載の発明は、前記演算手段は、前記テラヘルツ光の偏光P波と偏光S波との反射率の比を算出し、当該反射率の比が所定の値の範囲内にあるか否かにより紙葉類の真偽を判別することを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の真偽判別装置である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、テラヘルツ光を用い、テラヘルツ光を紙葉類に照射し、紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光の反射率または反射光量に基いて紙葉類の屈折率を算出できる。そして、算出した屈折率を予め設定された屈折率と比較することで、紙葉類の真偽判別を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明により紙葉類を検査する原理を示す。
【図2】図2は、テラヘルツ光を利用した紙葉類の真偽判別装置の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、図2に示す装置を用いて実際に測定した各種の紙の屈折率と厚さとの関係を示す図である。
【図4】図4は、着色されているNIP(Non Impact Printer)用紙を測定した結果およびインクジェット用紙を測定した結果を示す表である。
【図5】図5は、OCR用紙の周波数特性の測定結果を示す図である。
【図6】図6は、周波数0.25THzのテラヘルツ光を用い、入射角度45°で、厚さが100ミクロンの紙を測定した場合の、振幅反射率と屈折率の関係を示す図である。
【図7】図7は、屈折率が1.5の場合の、紙の厚さ変化から振幅反射率変化を求めた図である。
【図8】図8は、P波において、屈折率n=一定としたときの振幅反射率と紙の厚さとの関係を表わす図であり、測定に用いたテラヘルツ光は、入射角度45°で照射し、周波数は0.25THzとしたS波における振幅対厚さの関係を示す。
【図9】図9は、S波において、屈折率n=一定としたときの振幅反射率と紙の厚さとの関係を表わす図であり、測定に用いたテラヘルツ光は、入射角度45°で照射し、周波数は0.25THzとしたP波における振幅対厚さの関係を示す。
【図10】図10は、P波/S波の振幅比と、紙の厚さとの関係を示す図である。
【図11】図11は、図10から屈折率と振幅比との関係を求めた図である。
【図12】図12は、図2に示す真偽判別装置の演算判別処理部28のメモリに予め登録されている判別対象物の厚み情報および屈折率情報の例示内容を示す図である。
【図13】図13は、図2に示す真偽判別装置の判別動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下には、この発明の実施形態について具体的に説明をする。
<発明の原理・概要>
(1)この発明の検査対象は紙葉類(紙幣、有価証券、証拠証券その他の紙類、免許証、クレジットカードその他のカード類など)である。この発明は、これら紙葉類自体の屈折率を検出して、紙葉類の真偽を判定するものである。
(2)検査にはテラヘルツ光を用いる。
【0018】
(a)この明細書で、テラヘルツ光とは、波長が25μm〜10mm(=周波数が12THz〜30GHz)の周波数帯域の電磁波のことをいう。テラヘルツ光は、テラヘルツ波、テラヘルツ電磁波などとも称されることがあるが、この明細書では、テラヘルツ光と称する。
(b)使用するテラヘルツ光の波長は、検査対象である紙葉類の厚さと相関する。紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を用いる。好ましくは、テラヘルツ光の波長は0.3〜2mm、換言すれば、周波数が0.15〜1.0THzのものを用いる。検査の感度が良いからである。
【0019】
(c)使用するテラヘルツ光は、連続波(CW:Continuous Wave)であって、単一周波数のコヒーレント光が好ましい。
(3)図1に、この発明により紙葉類を検査する原理を示す。
テラヘルツ光放射素子(送信子)11は、0.15〜1.0THzの周波数のテラヘルツ光12を照射することができる。このテラヘルツ光12は、検査対象である紙葉類14の一面141へ照射される。テラヘルツ光12の入射角度は、紙葉類14の一面141に対して角度φ1(0≦φ1<(π/2)(単位はラジアン))である。もし、垂直入射の場合には、φ1=0となる。
【0020】
テラヘルツ光12は、乾性の物質を透過し易い性質を有するので、紙葉類14を透過し易く、紙葉類14内での吸収による影響を受けにくい。また、紙葉類14にインクによる印刷が施されている場合であっても、インクによる影響を受けにくい。
かかる性質のテラヘルツ光12は、その一部が紙葉類14の一面141で反射されてテラヘルツ反射光121となる一方、その一部122は紙葉類14内へ進入する。そして進入したテラヘルツ光122の一部は紙葉類14の他面142で反射され、テラヘルツ反射光123は紙葉類14内を戻り、一面141から外部へテラヘルツ反射光124として出力される。
【0021】
紙葉類14内へ進入したテラヘルツ光122の一部は、紙葉類14の他面142から外側へ透過するテラヘルツ透過光125となる。
さらに、紙葉類14内を戻るテラヘルツ反射光123の一部は、紙葉類14の一面141で再反射され、反射光126となって紙葉類14内を進み、その一部は紙葉類14の他面142で再反射されて反射光127となり、紙葉類14の一面141から外部へテラヘルツ反射光128として出力される。さらに、反射光126の一部は紙葉類14の他面142から外側へ出力されるテラヘルツ透過光129となる。
【0022】
このように、紙葉類14へ入射するテラヘルツ光12は、紙葉類14の一面141および他面142で多重反射され、一面141側から少なくともテラヘルツ反射光121および124が出力される。これら2種類のテラヘルツ反射光121、124はテラヘルツ光検出素子(受光子)16で検出される。
テラヘルツ光検出素子16で検出されるテラヘルツ反射光には、上述した通り、紙葉類14の一面(表面)141で反射された第1反射光121および他面(裏面)142で反射された第2反射光124の2種類が含まれている。これら2種類のテラヘルツ反射光121、124は、紙葉類14内を厚さd方向に往復したか否かの違いを有し、この違いは2種類のテラヘルツ反射光121、124の位相差となる。そして、位相差のある2種類のテラヘルツ反射光121、124は干渉し合うので、その干渉の強さまたは振幅反射率を検知することができる。検知した干渉の強さまたは振幅反射率は、位相差と相関しており、その位相差は紙葉類14の厚さdと相関関係があるので、紙葉類14の厚さを検出することができる。
【0023】
ところで、テラヘルツ光を用いると、紙葉類14の厚さdに依存せずに、紙葉類14の屈折率を求めることが可能であり、この発明はこれを前提としてなされたものである。
一般に、図1において、紙葉類14の振幅反射率rは、下記の式(1)で表わされる。
【0024】
【数1】
【0025】
このように、紙葉類14にテラヘルツ光12を照射した場合の振幅反射率rは、上記式(1)〜(7)によって計算することができる。
つまり、紙葉類14の振幅反射率rは、紙葉類の厚さ、屈折率、入射角度、周波数および偏光方向の関数Fとして、次のように表わすことができる。
振幅反射率r=F(厚さ、屈折率、入射角度、周波数、偏光方向)
ここで、各パラメータを分類すると次のようになる。
【0026】
測定値:
(i)紙葉類の振幅反射率(反射強度)
未知数:求めたい値
(ii)紙葉類の厚さ(但し、他の手段を使うことで、同時計測も可
能)
(iii)紙葉類の屈折率(テラヘルツ光の周波数に依存しており、こ
の値が紙葉類の光学特性を示す1つの指標である。)
設定可能値:
(iv)テラヘルツ光の入射角度
(v)テラヘルツ光の周波数
(vi)テラヘルツ光の偏光方向;P波(入射面に平行)、S波(入射
面に垂直)
従って、未知数としては、(ii)「紙葉類の厚さ」、および、(iii)「紙葉類の屈折率」の2つの値になる。つまり、同じ対象物(紙葉類)に対し、設定可能な値を変えて最低2つの測定量を得られれば、紙葉類の「厚さ」および「屈折率」を求めることが可能である。
【0027】
換言すれば、テラヘルツ光の入射角度および周波数を設定して、振幅反射率または反射強度(=振幅の二乗)を測定すれば、紙葉類の厚さ、屈折率を求めることが可能である。
厚さ、屈折率を求めるには、以下の条件が必要である。
(1)紙に印刷されたインクによる吸収・反射がない。
(2)透過光が検出可能な程度に、光が紙葉類を透過すること。
【0028】
この条件を満たす光は、表1に示す様に、テラヘルツ光が最適である。
【0029】
【表1】
【0030】
テラヘルツ光(テラヘルツ周波数帯域)においては、紙葉類は[表1]の条件を満たす。よって、本願発明では、テラヘルツ光を有効活用して、紙葉類の屈折率を求め、紙葉類の真偽判別を行える発明が完成された。
<真偽判別装置の具体例>
図2は、テラヘルツ光を利用した紙葉類の真偽判別装置の具体的な構成例を示すブロック図である。
【0031】
この装置には、テラヘルツ光センサ10が備えられている。テラヘルツ光センサ10には、第1レーザー11および第2レーザー12が備えられている。これら第1レーザー11および第2レーザー12は、たとえば1.5μm帯域の通信用DFBレーザー(分布帰還型レーザー)で構成することが可能である。第1レーザー11から出力されるレーザー光(波長λ1)は光ファイバ13およびファイバカプラ14を経由し、また、第2レーザー12から出力されるレーザー光(波長λ2)は光ファイバ15およびファイバカプラ14を経由して、ファイバカプラ14で混合されたレーザー光は、光ファイバ16および17を介して第1送信子18および第2送信子19へ与えられる。また、バイアス電圧発生源20で発生されるバイアス電圧が、第1送信子18および第2送信子19へ与えられる。
【0032】
第1送信子18および第2送信子19は、たとえばUTC−PD(単一走行キャリア−フォトダイオード)で構成することができる。第1送信子18および第2送信子19では、与えられるレーザー光の差周波に応じた周波数のテラヘルツ光を生成し、当該テラヘルツ光を照射(出力)する。
すなわち、第1送信子18および第2送信子19では、それぞれ、第1レーザー11のレーザー光の周波数と第2レーザー12のレーザー光の周波数の差のテラヘルツ領域の周波数を有するテラヘルツ光を照射位置に向けて放射する。照射位置には、紙幣Bが搬送されて来る前は、金属の基準板100が位置されている。この金属基準板100は、表面が鏡面仕上げされたアルミニウム板、ステンレス板その他の金属板である。金属基準板100に照射されるテラヘルツ光は、金属基準板100によりほぼ100%反射される。
【0033】
この反射されたテラヘルツ光は、それぞれ、第1送信子18および第2送信子と対をなして設けられた第1受信子21および第2受信子22で受信される。そして受信されたテラヘルツ反射光の信号は第1プリアンプ25および第2プリアンプ26へ与えられる。そして、各プリアンプ25、26において増幅された信号は、A/Dコンバータ27でデジタル信号に変換され、CPU等を含む演算判定処理部28へ与えられて、基準受信量(基準反射光量)として記憶される。
【0034】
次いで、金属基準板100が退避され、紙幣Bが搬送され、第1送信子18および第2送信子19では、それぞれ、第1レーザー11のレーザー光の周波数と第2レーザー12のレーザー光の周波数の差のテラヘルツ領域の周波数を有するテラヘルツ光を紙葉類Bの表面に向けて放射する。放射されたテラヘルツ光は紙葉類Bで反射され、それぞれ、第1送信子18および第2送信子19と対をなして設けられた第1受信子21および第2受信子22で受信される。そして受信されたテラヘルツ反射光の信号は、第1プリアンプ25および第2プリアンプ26へ与えられる。そして、各プリアンプ25、26において増幅された信号は、A/Dコンバータ27でデジタル信号に変換され、CPU等を含む演算判定処理部28へ与えられる。
【0035】
ここに、第1受信子21および第2受信子22は、たとえばSBD(ショットキバリアダイオード)で構成することが可能である。そしてこの場合には、センサの信号は、テラヘルツ光のパワーに比例しているので、振幅反射率を求める場合は、出力信号の平方根を求めればよい。
図2に示す構成において、第1送信子18および第1受信子21の対10a、第2送信子19および第2受信子22の対10bは、共に、ユニット化されているのが、配置や取り扱いに便利で好ましい。
【0036】
また、第1送信子18および第1受信子21の対10aと、第2送信子19および第2受信子22の対10bとは、同じ構成を有しているが、両者は、回転角を90°異ならせて設置されている。
このため、偏光方向を見ると、第1送信子18からP偏光波が放射され、紙葉類Bで反射されて第1受信子21で受信されるテラヘルツ光は、P偏光のテラヘルツ光である。また、第2送信子19からS偏光波が放射され、紙葉類Bで反射されて第2受信子22で受信されるテラヘルツ光は、S偏光のテラヘルツ光である。
【0037】
ここで、テラヘルツ光の周波数について説明しておく。
第1レーザー11、第2レーザー12から出力される各レーザー光の波長をそれぞれλ1、λ2とすると、第1送信子18および第2送信子19から放射されるテラヘルツ光の周波数fは、
f=c・(λ2−λ1)/λ1・λ2
となる。ここに、cは光速である。
【0038】
図2に示す判別装置には、さらに、紙葉類Bの厚みを検出するためのメカ式厚み検出装置30が備えられている。メカ式厚み検出装置30は、一対のローラー31a、31b間に紙葉類Bを挟み、ローラー31a、31bの少なくとも一方の変位量をセンサ32により検出する構成を備えている。センサ32は、角度センサ、変位センサ等で構成することが可能である。このセンサ32の検出出力は、演算判定処理部28へ与えられる。
【0039】
真偽判別装置には、さらに、操作・表示パネル29が備えられている。操作・表示パネル29により、予め設定可能な値を演算判定処理部28に設定したり、演算判定処理部28で判定処理された結果を操作・表示部29に表示させることが可能である。
次に、図2に示す装置を用いて実際に測定した各種の紙の屈折率と厚さとの関係を、図3に示す。図3のグラフは、0.25THzのテラヘルツ光により、(1)耐水耐油用紙、(2)OCR用紙、(3)インクジェット用紙を測定し、得られた屈折率と厚さとの関係を示している。
【0040】
図3において、各用紙の屈折率は前述の式(7)から求めたものである。
図3から、紙の種類によって屈折率が異なること、言い換えれば屈折率により紙の種類を判別可能であることが理解できる。
図4は、着色されているNIP(Non Impact Printer)用紙を測定した結果およびインクジェット用紙を測定した結果を示す表である。
【0041】
可視光で反射率を測定したときには、R、G、Bごとに、それぞれ用紙の「色情報」を反映した値が得られる。従って、可視光領域で用紙を測定すると、反射率は用紙の色毎に変わり、同一の用紙であるか否かの判別が困難であることがわかる。
一方、テラヘルツ光で測定すると、色情報は反射率に反映されずに、紙の1つの特性値として屈折率を計測することができ、同じ性質を持った紙か否かの判別が可能であることがわかる。
【0042】
図4において、同じ坪量、厚さで作られているNIP用紙は、「色」が変わっているにもかかわらず、テラヘルツ光で測定した場合は、屈折率が同一であることがわかる。
これに対して、インクジェット紙は、NIP用紙と坪量は同じであるが、厚さが異なり、屈折率も異なっている。
従って、図4の測定結果から、紙質が同一であれば、その紙に付された色情報は屈折率に関与しないことが検証されている。
【0043】
さらに、図5に、OCR用紙の周波数特性の測定結果を示す。図5において、横軸は周波数であり、縦軸は振幅反射率比(反射のP波とS波との比)を表わしている。
図5から、P波とS波との振幅反射率比は、周波数が変わってもほぼ一定であることが理解できる。
テラヘルツ光を用いて紙葉類を測定する場合において、紙葉類の厚さがわかれば、未知数は屈折率nのみの1つとなり、前述した式(1)〜(7)を用いて、逐次代入法により紙葉類の屈折率n2が求まる。
【0044】
図2に示す装置では、紙葉類の厚さはメカ式厚み検出装置30により検出されるから、演算判定処理部28では、上述の式(1)〜(7)を用いて、逐次代入法により紙葉類の屈折率n2を算出することができる。
図6に、周波数0.25THzのテラヘルツ光を用い、入射角度45°で、厚さが100ミクロンの紙を測定した場合の、振幅反射率と屈折率の関係を示す。
【0045】
図6に示すように、たとえば振幅反射率が0.4のとき、紙の屈折率が1.5であることがわかる。従って、図2に示す装置において振幅反射率を測定することにより、測定した紙(紙葉類)の屈折率を求めることができる。
反対に、屈折率がわかっていれば、紙の厚さを知ることができる。図7には、屈折率が1.5の場合の、紙の厚さ変化から振幅反射率変化を求めた図を示す。
【0046】
図8、9に、P波、S波のそれぞれにおいて、屈折率n=一定としたときの振幅反射率と紙の厚さとの関係を表わす。図8、9のグラフでは、測定に用いたテラヘルツ光は、入射角度45°で照射し、周波数は0.25THzとした。
図8は、S波における振幅反射率対厚さの関係を示し、図9は、P波における振幅反射率対厚さの関係を示す。
【0047】
さらに、図10に、P波/S波の振幅反射率比と、紙の厚さとの関係を示す。図10を参照すると、特徴的なこととして、各屈折率において紙の厚さに対して屈折率が同一であれば振幅反射率比が大きく変化せず、ほぼ一定であることがわかる。
このことは、この実施形態が判別対象としている紙葉類の厚さは、たとえば80〜120μm程度であるから、その場合、屈折率が1.2〜1.8程度の範囲で変化する。よって、屈折率に基づいて、紙葉類の真偽判別が行えることが実証されている。
【0048】
より具体的に述べると、真偽判別を必要とする紙葉類としては、紙幣、商品券、パスポート等であるが、これらの用紙は上述の範囲内に入るため、屈折率に基づいてこれら紙葉類の真偽を判別することが可能である。
図11は、図10から屈折率と振幅反射率比との関係を求めた図である。点線が計算で求めた結果であり、実線が近似式である。
【0049】
近似式は、
屈折率n=0.89+2.02×振幅反射率比
の式に基づいて求めた。この式により、紙葉類の屈折率を求めることができる。
この実施例、すなわち図2に示す真偽判別装置によれば、検査対象である紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に照射し、紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を検出する。また、メカ式厚み検出装置30により検査する紙葉類の厚さを検出する。そしてその結果、紙葉類の屈折率を求めることができる。
【0050】
検査対象である紙葉類が、予め定められた紙葉類(たとえば紙幣)である場合には、その紙幣の屈折率は既知であり、予め登録されており、登録された屈折率と測定により求められた屈折率とを対比することにより、検査対象である紙幣(紙葉類)の真偽判別を行うことができる。
図12は、図2に示す真偽判別装置の演算判別処理部28のメモリに予め登録されている判別対象物の厚み情報および屈折率情報の例示である。判別対象となる紙葉類の厚み情報および屈折率情報は、予め既知であるから、これら情報がメモリに登録されている。
【0051】
この装置では、テラヘルツ光を用いて、判別対象物である紙葉類の振幅反射率を求め、その振幅反射率に基づいて屈折率を算出する。算出された屈折率が、予め設定されている判別対象物の屈折率と一致するか否かにより、判別対象物である紙葉類の真偽判別を行うことができるものである。
図13は、図2に示す真偽判別装置の判別動作を説明するためのフローチャートである。
【0052】
図13を参照して説明すると、まず、測定対象物に応じて、使用するテラヘルツ光の周波数、測定対象物の厚み情報、屈折率情報が設定登録される(ステップS1)。
そして、装置は、テラヘルツ光センサ10(10a、10b)により、テラヘルツ光を用いて、測定対象物の振幅反射率検出処理を行う(ステップS2)。
振幅反射率検出処理では、まず、照射位置に金属基準板100が配置される(図2において、金属基準板100が上方へ変位されて、照射位置に配置される。)。そして、ステップS1で設定されたテラヘルツ光を金属基準板100に照射し、そのテラヘルツ反射光を受信して、基準受信量(基準反射光量)として記憶する(ステップS2−1)。次いで、金属基準板100を退避させる(図2において破線で示されるように、金属基準板100を下方へ変位させて、退避位置にする。)(ステップS2−1)。そして、照射位置に測定対象物である紙葉類Bが搬送されてくるので、設定されたテラヘルツ光を紙葉類Bに照射し、そのテラヘルツ反射光を受信する(ステップS2−3)。
【0053】
そして、演算判定処理部28では、
判別に用いる反射光=(測定対象物(紙葉類B)の反射光)
÷(金属基準板100の反射光)
という演算を、ステップS−2で行う。
また、メカ式厚み検出装置30により、測定対象物の厚みが検出される(ステップS3)。
【0054】
そして、メカ式厚み検出装置30で検出された厚みと、メモリに設定されている検出対象物の予め登録された厚みとが一致するか否かの判別がされる(ステップS4)。測定された厚みが、登録されている厚みと異なる場合には、測定対象物は正しい厚みを有していないから、測定対象物は偽であると判定される(ステップS8)。
一方、メカ式厚み検出装置30で検出された厚みと、設定されている厚みとが一致する場合には、演算判定処理部28において、テラヘルツ光センサ10で得られた振幅反射率と、検出された厚みとに基づいて、測定対象物の屈折率が算出される(ステップS5)。
【0055】
そして、算出された屈折率が、予め設定されている測定対象物の屈折と対比される(ステップS6)。その結果、演算された屈折率が登録された屈折率と異なる場合には、測定対象物は偽であると判別される(ステップS8)。
一方、演算された屈折率とメモリに設定されている屈折率とが一致する場合には、測定対象物は真であると判定される(ステップS7)。
【0056】
この発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
11 テラヘルツ光放射素子(送信子)
12 テラヘルツ光
14、B 紙葉類
16 テラヘルツ光検出素子(受信子)
10 テラヘルツ光センサ
11 第1レーザー
12 第2レーザー
18 第1送信子
19 第2送信子
21 第1受信子
22 第2受信子
28 演算判定処理部
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙葉類にテラヘルツ光を照射し、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を受信し、受信した信号から紙葉類の屈折率を求めて、紙葉類の屈折率が所望の屈折率であるか否かにより紙葉類の真偽を判別する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の紙質判別方法が開示されている。
特許文献1に記載の方法では、紙質を判別する際に、判別対象の紙に370nmの短波長光、および420〜1000nmの長波長光を照射する。そして、それぞれの照射光について得られる紙の吸光度差に基づいて、紙質を判別する。紙の吸光度は、紙質によって相違するため、繊維の並びに依存する濃淡パターンのように、紙の製造工程の相違による影響を受けることなく、紙質を判別することが可能である。
【0003】
また、短波長光と長波長光とを併用することにより、湿度などの環境要因や紙の劣化などによる吸光度への影響を抑制することができる。
この結果、特許文献1によれば、安定して紙質を判別することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−315260号公報
【特許文献2】特開2005−92712号公報
【特許文献3】特願2008−155715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の紙質判別方法は、安定して紙質を判別することが可能である反面、紙にインクによる印刷が施されている場合には、その印刷色によっては、光が吸収されてしまい、反射率が紙質に依存しなくなって、紙質の判別を正確にできないという課題がある。たとえば、紙にインクによる印刷が施されている場合において、その印刷部に青色〜近赤外光を照射した場合には、印刷部のインクによって光が吸収されてしまい、反射率が変化するという課題がある。
【0006】
また、特許文献2には、青色発光ダイオードを用いて紙質による光の透過率の相違を測定し、紙幣の真偽判定を行える旨の内容が記載されている。しかしながら、この先行技術の場合も、紙幣に青色系のインクで印刷が施されている場合には、青色発光ダイオードで照射される光はインクにより反射または吸収されて透過しないので、その透過率を正確に測れないという課題がある。
【0007】
ところで、本願発明者は、特許文献3において、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法を提案した。すなわち、紙葉類(紙幣、商品券、証券類、免許証、クレジットカードなど)に対し、テラヘルツ領域(電波と赤外の間の領域)の電磁波、すなわちテラヘルツ光を照射し、紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を測定することにより、紙葉類の厚さを検出するという発明を提案した。
【0008】
今回は、テラヘルツ光を用いることにより、紙葉類にインクによる印刷が施されている場合であっても、インクの有無に関係なく、紙葉類の屈折率を検出して、検出した屈折率に基づいて紙葉類の真偽を判定するための方法および装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の基材の屈折率を算出し、算出した屈折率が所定の屈折率であるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法である。
【0010】
請求項2記載の発明は、検査対象である紙葉類の厚みを検知する厚み検知ステップを含み、厚み検知ステップにおいて検知された紙葉類の厚みを用い、前記紙葉類の基材の屈折率を算出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の真偽判別方法である。
請求項3記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を偏光P波および偏光S波に制限し、偏光P波および偏光S波をそれぞれ紙葉類に対して照射し、各偏光P波および偏光S波毎に、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出した偏光P波のテラヘルツ反射光および偏光S波のテラヘルツ反射光の反射光量の比を算出し、前記反射光量の比が所定の値の範囲にあるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法である。
【0011】
請求項4記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を偏光P波および偏光S波に制限し、偏光P波および偏光S波をそれぞれ紙葉類に対して照射し、紙葉類の表面および裏面で反射される各テラヘルツ光の偏光P波および偏光S波毎に、テラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の偏光P波および偏光S波の反射率の比を算出し、該反射率の比が所定の値の範囲にあるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法である。
【0012】
請求項5記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する装置であって、検査対象である紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射するための送信子と、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を受信するための受信子と、前記受信子で受信されたテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の基材の屈折率を算出する屈折率算出手段と、前記屈折率算出手段で算出された屈折率に基づいて、紙葉類の真偽を判別する判別手段と、含むことを特徴とする紙葉類の真偽判別装置である。
【0013】
請求項6記載の発明は、前記検査対象である紙葉類の厚みを検出するための厚み検出装置をさらに備え、前記紙葉類の屈折率を算出する手段は、前記厚み検出装置で検出された紙葉類の厚み情報に基づいて紙葉類の屈折率を計算することを特徴とする、請求項5記載の紙葉類の真偽判別装置である。
請求項7記載の発明は、前記テラヘルツ光を紙葉類に対して照射する送信子および紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を検出する受信子は、送信・受信対ユニットとなっており、かつ、当該送信・受信対ユニットは、少なくとも2組設けられていて、一方はテラヘルツ光の偏光P波の送信および受信を行い、他方はテラヘルツ光の偏光S波の送信および受信を行うことを特徴とする、請求項5または6記載の紙葉類の真偽判別装置である。
【0014】
請求項8記載の発明は、前記演算手段は、テラヘルツ光の偏光P波および偏光S波の反射光量の比を算出し、当該反射光量の比が所定の値の範囲にあるか否かにより紙葉類の真偽を判別することを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の真偽判別装置である。
請求項9記載の発明は、前記演算手段は、前記テラヘルツ光の偏光P波と偏光S波との反射率の比を算出し、当該反射率の比が所定の値の範囲内にあるか否かにより紙葉類の真偽を判別することを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の真偽判別装置である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、テラヘルツ光を用い、テラヘルツ光を紙葉類に照射し、紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光の反射率または反射光量に基いて紙葉類の屈折率を算出できる。そして、算出した屈折率を予め設定された屈折率と比較することで、紙葉類の真偽判別を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明により紙葉類を検査する原理を示す。
【図2】図2は、テラヘルツ光を利用した紙葉類の真偽判別装置の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、図2に示す装置を用いて実際に測定した各種の紙の屈折率と厚さとの関係を示す図である。
【図4】図4は、着色されているNIP(Non Impact Printer)用紙を測定した結果およびインクジェット用紙を測定した結果を示す表である。
【図5】図5は、OCR用紙の周波数特性の測定結果を示す図である。
【図6】図6は、周波数0.25THzのテラヘルツ光を用い、入射角度45°で、厚さが100ミクロンの紙を測定した場合の、振幅反射率と屈折率の関係を示す図である。
【図7】図7は、屈折率が1.5の場合の、紙の厚さ変化から振幅反射率変化を求めた図である。
【図8】図8は、P波において、屈折率n=一定としたときの振幅反射率と紙の厚さとの関係を表わす図であり、測定に用いたテラヘルツ光は、入射角度45°で照射し、周波数は0.25THzとしたS波における振幅対厚さの関係を示す。
【図9】図9は、S波において、屈折率n=一定としたときの振幅反射率と紙の厚さとの関係を表わす図であり、測定に用いたテラヘルツ光は、入射角度45°で照射し、周波数は0.25THzとしたP波における振幅対厚さの関係を示す。
【図10】図10は、P波/S波の振幅比と、紙の厚さとの関係を示す図である。
【図11】図11は、図10から屈折率と振幅比との関係を求めた図である。
【図12】図12は、図2に示す真偽判別装置の演算判別処理部28のメモリに予め登録されている判別対象物の厚み情報および屈折率情報の例示内容を示す図である。
【図13】図13は、図2に示す真偽判別装置の判別動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下には、この発明の実施形態について具体的に説明をする。
<発明の原理・概要>
(1)この発明の検査対象は紙葉類(紙幣、有価証券、証拠証券その他の紙類、免許証、クレジットカードその他のカード類など)である。この発明は、これら紙葉類自体の屈折率を検出して、紙葉類の真偽を判定するものである。
(2)検査にはテラヘルツ光を用いる。
【0018】
(a)この明細書で、テラヘルツ光とは、波長が25μm〜10mm(=周波数が12THz〜30GHz)の周波数帯域の電磁波のことをいう。テラヘルツ光は、テラヘルツ波、テラヘルツ電磁波などとも称されることがあるが、この明細書では、テラヘルツ光と称する。
(b)使用するテラヘルツ光の波長は、検査対象である紙葉類の厚さと相関する。紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を用いる。好ましくは、テラヘルツ光の波長は0.3〜2mm、換言すれば、周波数が0.15〜1.0THzのものを用いる。検査の感度が良いからである。
【0019】
(c)使用するテラヘルツ光は、連続波(CW:Continuous Wave)であって、単一周波数のコヒーレント光が好ましい。
(3)図1に、この発明により紙葉類を検査する原理を示す。
テラヘルツ光放射素子(送信子)11は、0.15〜1.0THzの周波数のテラヘルツ光12を照射することができる。このテラヘルツ光12は、検査対象である紙葉類14の一面141へ照射される。テラヘルツ光12の入射角度は、紙葉類14の一面141に対して角度φ1(0≦φ1<(π/2)(単位はラジアン))である。もし、垂直入射の場合には、φ1=0となる。
【0020】
テラヘルツ光12は、乾性の物質を透過し易い性質を有するので、紙葉類14を透過し易く、紙葉類14内での吸収による影響を受けにくい。また、紙葉類14にインクによる印刷が施されている場合であっても、インクによる影響を受けにくい。
かかる性質のテラヘルツ光12は、その一部が紙葉類14の一面141で反射されてテラヘルツ反射光121となる一方、その一部122は紙葉類14内へ進入する。そして進入したテラヘルツ光122の一部は紙葉類14の他面142で反射され、テラヘルツ反射光123は紙葉類14内を戻り、一面141から外部へテラヘルツ反射光124として出力される。
【0021】
紙葉類14内へ進入したテラヘルツ光122の一部は、紙葉類14の他面142から外側へ透過するテラヘルツ透過光125となる。
さらに、紙葉類14内を戻るテラヘルツ反射光123の一部は、紙葉類14の一面141で再反射され、反射光126となって紙葉類14内を進み、その一部は紙葉類14の他面142で再反射されて反射光127となり、紙葉類14の一面141から外部へテラヘルツ反射光128として出力される。さらに、反射光126の一部は紙葉類14の他面142から外側へ出力されるテラヘルツ透過光129となる。
【0022】
このように、紙葉類14へ入射するテラヘルツ光12は、紙葉類14の一面141および他面142で多重反射され、一面141側から少なくともテラヘルツ反射光121および124が出力される。これら2種類のテラヘルツ反射光121、124はテラヘルツ光検出素子(受光子)16で検出される。
テラヘルツ光検出素子16で検出されるテラヘルツ反射光には、上述した通り、紙葉類14の一面(表面)141で反射された第1反射光121および他面(裏面)142で反射された第2反射光124の2種類が含まれている。これら2種類のテラヘルツ反射光121、124は、紙葉類14内を厚さd方向に往復したか否かの違いを有し、この違いは2種類のテラヘルツ反射光121、124の位相差となる。そして、位相差のある2種類のテラヘルツ反射光121、124は干渉し合うので、その干渉の強さまたは振幅反射率を検知することができる。検知した干渉の強さまたは振幅反射率は、位相差と相関しており、その位相差は紙葉類14の厚さdと相関関係があるので、紙葉類14の厚さを検出することができる。
【0023】
ところで、テラヘルツ光を用いると、紙葉類14の厚さdに依存せずに、紙葉類14の屈折率を求めることが可能であり、この発明はこれを前提としてなされたものである。
一般に、図1において、紙葉類14の振幅反射率rは、下記の式(1)で表わされる。
【0024】
【数1】
【0025】
このように、紙葉類14にテラヘルツ光12を照射した場合の振幅反射率rは、上記式(1)〜(7)によって計算することができる。
つまり、紙葉類14の振幅反射率rは、紙葉類の厚さ、屈折率、入射角度、周波数および偏光方向の関数Fとして、次のように表わすことができる。
振幅反射率r=F(厚さ、屈折率、入射角度、周波数、偏光方向)
ここで、各パラメータを分類すると次のようになる。
【0026】
測定値:
(i)紙葉類の振幅反射率(反射強度)
未知数:求めたい値
(ii)紙葉類の厚さ(但し、他の手段を使うことで、同時計測も可
能)
(iii)紙葉類の屈折率(テラヘルツ光の周波数に依存しており、こ
の値が紙葉類の光学特性を示す1つの指標である。)
設定可能値:
(iv)テラヘルツ光の入射角度
(v)テラヘルツ光の周波数
(vi)テラヘルツ光の偏光方向;P波(入射面に平行)、S波(入射
面に垂直)
従って、未知数としては、(ii)「紙葉類の厚さ」、および、(iii)「紙葉類の屈折率」の2つの値になる。つまり、同じ対象物(紙葉類)に対し、設定可能な値を変えて最低2つの測定量を得られれば、紙葉類の「厚さ」および「屈折率」を求めることが可能である。
【0027】
換言すれば、テラヘルツ光の入射角度および周波数を設定して、振幅反射率または反射強度(=振幅の二乗)を測定すれば、紙葉類の厚さ、屈折率を求めることが可能である。
厚さ、屈折率を求めるには、以下の条件が必要である。
(1)紙に印刷されたインクによる吸収・反射がない。
(2)透過光が検出可能な程度に、光が紙葉類を透過すること。
【0028】
この条件を満たす光は、表1に示す様に、テラヘルツ光が最適である。
【0029】
【表1】
【0030】
テラヘルツ光(テラヘルツ周波数帯域)においては、紙葉類は[表1]の条件を満たす。よって、本願発明では、テラヘルツ光を有効活用して、紙葉類の屈折率を求め、紙葉類の真偽判別を行える発明が完成された。
<真偽判別装置の具体例>
図2は、テラヘルツ光を利用した紙葉類の真偽判別装置の具体的な構成例を示すブロック図である。
【0031】
この装置には、テラヘルツ光センサ10が備えられている。テラヘルツ光センサ10には、第1レーザー11および第2レーザー12が備えられている。これら第1レーザー11および第2レーザー12は、たとえば1.5μm帯域の通信用DFBレーザー(分布帰還型レーザー)で構成することが可能である。第1レーザー11から出力されるレーザー光(波長λ1)は光ファイバ13およびファイバカプラ14を経由し、また、第2レーザー12から出力されるレーザー光(波長λ2)は光ファイバ15およびファイバカプラ14を経由して、ファイバカプラ14で混合されたレーザー光は、光ファイバ16および17を介して第1送信子18および第2送信子19へ与えられる。また、バイアス電圧発生源20で発生されるバイアス電圧が、第1送信子18および第2送信子19へ与えられる。
【0032】
第1送信子18および第2送信子19は、たとえばUTC−PD(単一走行キャリア−フォトダイオード)で構成することができる。第1送信子18および第2送信子19では、与えられるレーザー光の差周波に応じた周波数のテラヘルツ光を生成し、当該テラヘルツ光を照射(出力)する。
すなわち、第1送信子18および第2送信子19では、それぞれ、第1レーザー11のレーザー光の周波数と第2レーザー12のレーザー光の周波数の差のテラヘルツ領域の周波数を有するテラヘルツ光を照射位置に向けて放射する。照射位置には、紙幣Bが搬送されて来る前は、金属の基準板100が位置されている。この金属基準板100は、表面が鏡面仕上げされたアルミニウム板、ステンレス板その他の金属板である。金属基準板100に照射されるテラヘルツ光は、金属基準板100によりほぼ100%反射される。
【0033】
この反射されたテラヘルツ光は、それぞれ、第1送信子18および第2送信子と対をなして設けられた第1受信子21および第2受信子22で受信される。そして受信されたテラヘルツ反射光の信号は第1プリアンプ25および第2プリアンプ26へ与えられる。そして、各プリアンプ25、26において増幅された信号は、A/Dコンバータ27でデジタル信号に変換され、CPU等を含む演算判定処理部28へ与えられて、基準受信量(基準反射光量)として記憶される。
【0034】
次いで、金属基準板100が退避され、紙幣Bが搬送され、第1送信子18および第2送信子19では、それぞれ、第1レーザー11のレーザー光の周波数と第2レーザー12のレーザー光の周波数の差のテラヘルツ領域の周波数を有するテラヘルツ光を紙葉類Bの表面に向けて放射する。放射されたテラヘルツ光は紙葉類Bで反射され、それぞれ、第1送信子18および第2送信子19と対をなして設けられた第1受信子21および第2受信子22で受信される。そして受信されたテラヘルツ反射光の信号は、第1プリアンプ25および第2プリアンプ26へ与えられる。そして、各プリアンプ25、26において増幅された信号は、A/Dコンバータ27でデジタル信号に変換され、CPU等を含む演算判定処理部28へ与えられる。
【0035】
ここに、第1受信子21および第2受信子22は、たとえばSBD(ショットキバリアダイオード)で構成することが可能である。そしてこの場合には、センサの信号は、テラヘルツ光のパワーに比例しているので、振幅反射率を求める場合は、出力信号の平方根を求めればよい。
図2に示す構成において、第1送信子18および第1受信子21の対10a、第2送信子19および第2受信子22の対10bは、共に、ユニット化されているのが、配置や取り扱いに便利で好ましい。
【0036】
また、第1送信子18および第1受信子21の対10aと、第2送信子19および第2受信子22の対10bとは、同じ構成を有しているが、両者は、回転角を90°異ならせて設置されている。
このため、偏光方向を見ると、第1送信子18からP偏光波が放射され、紙葉類Bで反射されて第1受信子21で受信されるテラヘルツ光は、P偏光のテラヘルツ光である。また、第2送信子19からS偏光波が放射され、紙葉類Bで反射されて第2受信子22で受信されるテラヘルツ光は、S偏光のテラヘルツ光である。
【0037】
ここで、テラヘルツ光の周波数について説明しておく。
第1レーザー11、第2レーザー12から出力される各レーザー光の波長をそれぞれλ1、λ2とすると、第1送信子18および第2送信子19から放射されるテラヘルツ光の周波数fは、
f=c・(λ2−λ1)/λ1・λ2
となる。ここに、cは光速である。
【0038】
図2に示す判別装置には、さらに、紙葉類Bの厚みを検出するためのメカ式厚み検出装置30が備えられている。メカ式厚み検出装置30は、一対のローラー31a、31b間に紙葉類Bを挟み、ローラー31a、31bの少なくとも一方の変位量をセンサ32により検出する構成を備えている。センサ32は、角度センサ、変位センサ等で構成することが可能である。このセンサ32の検出出力は、演算判定処理部28へ与えられる。
【0039】
真偽判別装置には、さらに、操作・表示パネル29が備えられている。操作・表示パネル29により、予め設定可能な値を演算判定処理部28に設定したり、演算判定処理部28で判定処理された結果を操作・表示部29に表示させることが可能である。
次に、図2に示す装置を用いて実際に測定した各種の紙の屈折率と厚さとの関係を、図3に示す。図3のグラフは、0.25THzのテラヘルツ光により、(1)耐水耐油用紙、(2)OCR用紙、(3)インクジェット用紙を測定し、得られた屈折率と厚さとの関係を示している。
【0040】
図3において、各用紙の屈折率は前述の式(7)から求めたものである。
図3から、紙の種類によって屈折率が異なること、言い換えれば屈折率により紙の種類を判別可能であることが理解できる。
図4は、着色されているNIP(Non Impact Printer)用紙を測定した結果およびインクジェット用紙を測定した結果を示す表である。
【0041】
可視光で反射率を測定したときには、R、G、Bごとに、それぞれ用紙の「色情報」を反映した値が得られる。従って、可視光領域で用紙を測定すると、反射率は用紙の色毎に変わり、同一の用紙であるか否かの判別が困難であることがわかる。
一方、テラヘルツ光で測定すると、色情報は反射率に反映されずに、紙の1つの特性値として屈折率を計測することができ、同じ性質を持った紙か否かの判別が可能であることがわかる。
【0042】
図4において、同じ坪量、厚さで作られているNIP用紙は、「色」が変わっているにもかかわらず、テラヘルツ光で測定した場合は、屈折率が同一であることがわかる。
これに対して、インクジェット紙は、NIP用紙と坪量は同じであるが、厚さが異なり、屈折率も異なっている。
従って、図4の測定結果から、紙質が同一であれば、その紙に付された色情報は屈折率に関与しないことが検証されている。
【0043】
さらに、図5に、OCR用紙の周波数特性の測定結果を示す。図5において、横軸は周波数であり、縦軸は振幅反射率比(反射のP波とS波との比)を表わしている。
図5から、P波とS波との振幅反射率比は、周波数が変わってもほぼ一定であることが理解できる。
テラヘルツ光を用いて紙葉類を測定する場合において、紙葉類の厚さがわかれば、未知数は屈折率nのみの1つとなり、前述した式(1)〜(7)を用いて、逐次代入法により紙葉類の屈折率n2が求まる。
【0044】
図2に示す装置では、紙葉類の厚さはメカ式厚み検出装置30により検出されるから、演算判定処理部28では、上述の式(1)〜(7)を用いて、逐次代入法により紙葉類の屈折率n2を算出することができる。
図6に、周波数0.25THzのテラヘルツ光を用い、入射角度45°で、厚さが100ミクロンの紙を測定した場合の、振幅反射率と屈折率の関係を示す。
【0045】
図6に示すように、たとえば振幅反射率が0.4のとき、紙の屈折率が1.5であることがわかる。従って、図2に示す装置において振幅反射率を測定することにより、測定した紙(紙葉類)の屈折率を求めることができる。
反対に、屈折率がわかっていれば、紙の厚さを知ることができる。図7には、屈折率が1.5の場合の、紙の厚さ変化から振幅反射率変化を求めた図を示す。
【0046】
図8、9に、P波、S波のそれぞれにおいて、屈折率n=一定としたときの振幅反射率と紙の厚さとの関係を表わす。図8、9のグラフでは、測定に用いたテラヘルツ光は、入射角度45°で照射し、周波数は0.25THzとした。
図8は、S波における振幅反射率対厚さの関係を示し、図9は、P波における振幅反射率対厚さの関係を示す。
【0047】
さらに、図10に、P波/S波の振幅反射率比と、紙の厚さとの関係を示す。図10を参照すると、特徴的なこととして、各屈折率において紙の厚さに対して屈折率が同一であれば振幅反射率比が大きく変化せず、ほぼ一定であることがわかる。
このことは、この実施形態が判別対象としている紙葉類の厚さは、たとえば80〜120μm程度であるから、その場合、屈折率が1.2〜1.8程度の範囲で変化する。よって、屈折率に基づいて、紙葉類の真偽判別が行えることが実証されている。
【0048】
より具体的に述べると、真偽判別を必要とする紙葉類としては、紙幣、商品券、パスポート等であるが、これらの用紙は上述の範囲内に入るため、屈折率に基づいてこれら紙葉類の真偽を判別することが可能である。
図11は、図10から屈折率と振幅反射率比との関係を求めた図である。点線が計算で求めた結果であり、実線が近似式である。
【0049】
近似式は、
屈折率n=0.89+2.02×振幅反射率比
の式に基づいて求めた。この式により、紙葉類の屈折率を求めることができる。
この実施例、すなわち図2に示す真偽判別装置によれば、検査対象である紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に照射し、紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を検出する。また、メカ式厚み検出装置30により検査する紙葉類の厚さを検出する。そしてその結果、紙葉類の屈折率を求めることができる。
【0050】
検査対象である紙葉類が、予め定められた紙葉類(たとえば紙幣)である場合には、その紙幣の屈折率は既知であり、予め登録されており、登録された屈折率と測定により求められた屈折率とを対比することにより、検査対象である紙幣(紙葉類)の真偽判別を行うことができる。
図12は、図2に示す真偽判別装置の演算判別処理部28のメモリに予め登録されている判別対象物の厚み情報および屈折率情報の例示である。判別対象となる紙葉類の厚み情報および屈折率情報は、予め既知であるから、これら情報がメモリに登録されている。
【0051】
この装置では、テラヘルツ光を用いて、判別対象物である紙葉類の振幅反射率を求め、その振幅反射率に基づいて屈折率を算出する。算出された屈折率が、予め設定されている判別対象物の屈折率と一致するか否かにより、判別対象物である紙葉類の真偽判別を行うことができるものである。
図13は、図2に示す真偽判別装置の判別動作を説明するためのフローチャートである。
【0052】
図13を参照して説明すると、まず、測定対象物に応じて、使用するテラヘルツ光の周波数、測定対象物の厚み情報、屈折率情報が設定登録される(ステップS1)。
そして、装置は、テラヘルツ光センサ10(10a、10b)により、テラヘルツ光を用いて、測定対象物の振幅反射率検出処理を行う(ステップS2)。
振幅反射率検出処理では、まず、照射位置に金属基準板100が配置される(図2において、金属基準板100が上方へ変位されて、照射位置に配置される。)。そして、ステップS1で設定されたテラヘルツ光を金属基準板100に照射し、そのテラヘルツ反射光を受信して、基準受信量(基準反射光量)として記憶する(ステップS2−1)。次いで、金属基準板100を退避させる(図2において破線で示されるように、金属基準板100を下方へ変位させて、退避位置にする。)(ステップS2−1)。そして、照射位置に測定対象物である紙葉類Bが搬送されてくるので、設定されたテラヘルツ光を紙葉類Bに照射し、そのテラヘルツ反射光を受信する(ステップS2−3)。
【0053】
そして、演算判定処理部28では、
判別に用いる反射光=(測定対象物(紙葉類B)の反射光)
÷(金属基準板100の反射光)
という演算を、ステップS−2で行う。
また、メカ式厚み検出装置30により、測定対象物の厚みが検出される(ステップS3)。
【0054】
そして、メカ式厚み検出装置30で検出された厚みと、メモリに設定されている検出対象物の予め登録された厚みとが一致するか否かの判別がされる(ステップS4)。測定された厚みが、登録されている厚みと異なる場合には、測定対象物は正しい厚みを有していないから、測定対象物は偽であると判定される(ステップS8)。
一方、メカ式厚み検出装置30で検出された厚みと、設定されている厚みとが一致する場合には、演算判定処理部28において、テラヘルツ光センサ10で得られた振幅反射率と、検出された厚みとに基づいて、測定対象物の屈折率が算出される(ステップS5)。
【0055】
そして、算出された屈折率が、予め設定されている測定対象物の屈折と対比される(ステップS6)。その結果、演算された屈折率が登録された屈折率と異なる場合には、測定対象物は偽であると判別される(ステップS8)。
一方、演算された屈折率とメモリに設定されている屈折率とが一致する場合には、測定対象物は真であると判定される(ステップS7)。
【0056】
この発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
11 テラヘルツ光放射素子(送信子)
12 テラヘルツ光
14、B 紙葉類
16 テラヘルツ光検出素子(受信子)
10 テラヘルツ光センサ
11 第1レーザー
12 第2レーザー
18 第1送信子
19 第2送信子
21 第1受信子
22 第2受信子
28 演算判定処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の基材の屈折率を算出し、
算出した屈折率が所定の屈折率であるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法。
【請求項2】
検査対象である紙葉類の厚みを検知する厚み検知ステップを含み、
厚み検知ステップにおいて検知された紙葉類の厚みを用い、前記紙葉類の基材の屈折率を算出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の真偽判別方法。
【請求項3】
テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を偏光P波および偏光S波に制限し、偏光P波および偏光S波をそれぞれ紙葉類に対して照射し、
各偏光P波および偏光S波毎に、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出した偏光P波のテラヘルツ反射光および偏光S波のテラヘルツ反射光の反射光量の比を算出し、
前記反射光量の比が所定の値の範囲にあるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法。
【請求項4】
テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を偏光P波および偏光S波に制限し、偏光P波および偏光S波をそれぞれ紙葉類に対して照射し、
紙葉類の表面および裏面で反射される各テラヘルツ光の偏光P波および偏光S波毎に、テラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の偏光P波および偏光S波の反射率の比を算出し、
該反射率の比が所定の値の範囲にあるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法。
【請求項5】
テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する装置であって、
検査対象である紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射するための送信子と、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を受信するための受信子と、
前記受信子で受信されたテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の基材の屈折率を算出する屈折率算出手段と、
前記屈折率算出手段で算出された屈折率に基づいて、紙葉類の真偽を判別する判別手段と、
を含むことを特徴とする紙葉類の真偽判別装置。
【請求項6】
前記検査対象である紙葉類の厚みを検出するための厚み検出装置をさらに備え、
前記紙葉類の屈折率を算出する手段は、前記厚み検出装置で検出された紙葉類の厚み情報に基づいて紙葉類の屈折率を計算することを特徴とする、請求項5記載の紙葉類の真偽判別装置。
【請求項7】
前記テラヘルツ光を紙葉類に対して照射する送信子および紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を検出する受信子は、送信・受信対ユニットとなっており、かつ、当該送信・受信対ユニットは、少なくとも2組設けられていて、一方はテラヘルツ光の偏光P波の送信および受信を行い、他方はテラヘルツ光の偏光S波の送信および受信を行うことを特徴とする、請求項5または6記載の紙葉類の真偽判別装置。
【請求項8】
前記演算手段は、テラヘルツ光の偏光P波および偏光S波の反射光量の比を算出し、
当該反射光量の比が所定の値の範囲にあるか否かにより紙葉類の真偽を判別することを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の真偽判別装置。
【請求項9】
前記演算手段は、前記テラヘルツ光の偏光P波と偏光S波との反射率の比を算出し、
当該反射率の比が所定の値の範囲内にあるか否かにより紙葉類の真偽を判別することを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の真偽判別装置。
【請求項1】
テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の基材の屈折率を算出し、
算出した屈折率が所定の屈折率であるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法。
【請求項2】
検査対象である紙葉類の厚みを検知する厚み検知ステップを含み、
厚み検知ステップにおいて検知された紙葉類の厚みを用い、前記紙葉類の基材の屈折率を算出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の真偽判別方法。
【請求項3】
テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を偏光P波および偏光S波に制限し、偏光P波および偏光S波をそれぞれ紙葉類に対して照射し、
各偏光P波および偏光S波毎に、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出した偏光P波のテラヘルツ反射光および偏光S波のテラヘルツ反射光の反射光量の比を算出し、
前記反射光量の比が所定の値の範囲にあるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法。
【請求項4】
テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を偏光P波および偏光S波に制限し、偏光P波および偏光S波をそれぞれ紙葉類に対して照射し、
紙葉類の表面および裏面で反射される各テラヘルツ光の偏光P波および偏光S波毎に、テラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の偏光P波および偏光S波の反射率の比を算出し、
該反射率の比が所定の値の範囲にあるか否かに基づいて、紙葉類の真偽を判別することを特徴とする紙葉類の真偽判別方法。
【請求項5】
テラヘルツ光を用いて紙葉類の真偽を判別する装置であって、
検査対象である紙葉類の厚さ〜その厚さの約20倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射するための送信子と、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を受信するための受信子と、
前記受信子で受信されたテラヘルツ反射光に基づいて紙葉類の基材の屈折率を算出する屈折率算出手段と、
前記屈折率算出手段で算出された屈折率に基づいて、紙葉類の真偽を判別する判別手段と、
を含むことを特徴とする紙葉類の真偽判別装置。
【請求項6】
前記検査対象である紙葉類の厚みを検出するための厚み検出装置をさらに備え、
前記紙葉類の屈折率を算出する手段は、前記厚み検出装置で検出された紙葉類の厚み情報に基づいて紙葉類の屈折率を計算することを特徴とする、請求項5記載の紙葉類の真偽判別装置。
【請求項7】
前記テラヘルツ光を紙葉類に対して照射する送信子および紙葉類で反射されるテラヘルツ反射光を検出する受信子は、送信・受信対ユニットとなっており、かつ、当該送信・受信対ユニットは、少なくとも2組設けられていて、一方はテラヘルツ光の偏光P波の送信および受信を行い、他方はテラヘルツ光の偏光S波の送信および受信を行うことを特徴とする、請求項5または6記載の紙葉類の真偽判別装置。
【請求項8】
前記演算手段は、テラヘルツ光の偏光P波および偏光S波の反射光量の比を算出し、
当該反射光量の比が所定の値の範囲にあるか否かにより紙葉類の真偽を判別することを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の真偽判別装置。
【請求項9】
前記演算手段は、前記テラヘルツ光の偏光P波と偏光S波との反射率の比を算出し、
当該反射率の比が所定の値の範囲内にあるか否かにより紙葉類の真偽を判別することを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の真偽判別装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−34173(P2011−34173A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177492(P2009−177492)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】
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