説明

テラヘルツ光検出素子および光学設備

【課題】高感度で所定の周波数のテラヘルツ光を検出できるテラヘルツ光検出素子および、かかるテラヘルツ光検出素子を有する光学設備を提供する。
【解決手段】
屈折率の異なる層を交互に配設することによって形成された1次元フォトニック結晶から形成されており、1次元フォトニック結晶は、テラヘルツ光が入射されると電気光学効果が生じる部材によって形成された欠陥部12と、入射されたテラヘルツ光を、欠陥部12内で共振させ得る構造に形成された一対のミラー部13,13とを備えている。テラヘルツ光が入射されると、電気光学効果によって欠陥部内に複屈折を誘起させることができるから、複屈折率を測定すれば、テラヘルツ光が入射したか否かを検出することができる。しかも、入射したテラヘルツ光を欠陥部内で共振させることができるから、テラヘルツ光を検出する感度を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ光検出素子および光学設備に関する。光と電波の中間に位置するテラヘルツ光は、紙やプラスチック、ビニール、繊維、半導体、脂肪、粉体など様々な物質を透過する特性を持っていることから、分光やイメージング用途への適用が期待される。
本発明は、かかるテラヘルツ光の検出に適したテラヘルツ光検出素子および、かかるテラヘルツ光検出素子を有する光検出手段を備えた光学設備に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、テラヘルツ光を発生させる装置としてフェムト秒レーザがあるが、フェムト秒レーザは非常に高価であり、また、装置自体が大型であるしその取り扱いに非常に注意を要する。このため、フェムト秒レーザは、企業や大学等の研究室における実験等には使用されているが、生産現場や医療機器、セキュリティ設備等におけるテラヘルツ光の光源として使用することは事実上困難である。
【0003】
現在、生産現場等においても使用できるテラヘルツ光源の開発が進められており、非線形光学結晶等に対して励起光を照射したときに生じる光整流効果を利用した技術が開発されている(特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1の技術は、ウェッジ構造を有するZnTe(ジンクテルル)などの非線形光学結晶に対して、励起光として極短レーザーパルス光(波長:〜15fs)を照射することによってテラヘルツ電磁波を発生させるものである。この技術では非線形結晶がウェッジ構造となっており厚さが位置によって異なるので、レーザ光を照射する位置を変えることによって発生するテラヘルツ光の波長を変えることができる。
【0005】
また、特許文献2には、複数のスラブを組み合わせて形成された第1、第2フォトニック結晶を備え、この第1、第2フォトニック結晶間に非線形結晶等の不純物構造を設けた光デバイスが開示されている。この光デバイスでは、不純物構造としてZnTeを用い、このZnTeにスラブ間の空間を通してポンプレーザ光を照射することによって、ZnTeからテラヘルツ光を出力させることができる。そして、光デバイスにおけるZnTeの厚みやフォトニック結晶を構成するスラブの層数を変えれば、出力光のスペクトルや強度を調整できる旨の記載もある。
【0006】
さらに、特許文献3には、第1のフォトニック結晶と、この第1のフォトニック結晶の周囲に第2のフォトニック結晶を設けた波長変換装置が開示されており、第2のフォトニック結晶を通して第1のフォトニック結晶に異なる周波数を有する2つの光を入射してテラヘルツ光を発生させる方法が記載されている。この波長変換装置では、第1のフォトニック結晶の周囲に第2のフォトニック結晶を設けることによって、2つの光の差周波を有効に取り出すことができる旨の記載がある。
【0007】
しかるに、生産現場等においてテラヘルツ光を利用するには、光源から出力されたテラヘルツ光を精度良く検出できなければならない。
しかし、特許文献1〜3の技術では、ZnTeや第1のフォトニック結晶からテラヘルツ光を発生させることはできるものの、発生するテラヘルツ光の強度が弱いため、その検出が困難である。そして、かかる強度が弱いテラヘルツ光を精度良く検出できる検出素子は開発されておらず、生産現場等においてテラヘルツ光源を実用化する上でも、高感度の検出素子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−99453号
【特許文献2】特許第3944569号
【特許文献3】特開2004−279604号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、高感度で所定の周波数のテラヘルツ光を検出できるテラヘルツ光検出素子および、かかるテラヘルツ光検出素子を備えたテラヘルツ検出手段を有する光学設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(テラヘルツ光検出素子)
第1発明のテラヘルツ光検出素子は、屈折率の異なる層を交互に配設することによって形成された1次元フォトニック結晶から形成されており、該1次元フォトニック結晶は、テラヘルツ光が入射されると電気光学効果が生じる部材によって形成された欠陥部と、該欠陥部を挟む一対のミラー部とを備えており、該一対のミラー部は、入射された前記テラヘルツ光を、前記欠陥部内で共振させ得る構造に形成されていることを特徴とする。
なお、本明細書において、「テラヘルツ光」とは、電波と光波の間の周波数を有する電磁波であって、0.1〜10THzの周波数を有するものを意味している。
第2発明のテラヘルツ光検出素子は、第1発明において、前記欠陥部が、ZnTeによって形成されていることを特徴とする。
第3発明のテラヘルツ光検出素子は、第1または第2発明において、前記一対のミラー部は、その軸方向に沿って空気層と固体層とが交互に配設されたものであることを特徴とする。
(光学設備)
第4発明の光学設備は、テラヘルツ光を物体に照射して該物体を透過した透過光に基づいて検査を行うための光学設備であって、テラヘルツ光を出力し得るテラヘルツ光源と、該テラヘルツ光源が出力したテラヘルツ光を受光する受光手段とを備えており、該受光手段は、請求項1、2または3記載のテラヘルツ光検出素子と、該テラヘルツ光検出素子における前記欠陥部の複屈折性の変化を検出する検出部とを備えていることを特徴とする。
第5発明の光学設備は、第4発明において、前記テラヘルツ光源が、1次元フォトニック結晶からなる発光素子を備えており、該テラヘルツ光源の発光素子は、前記受光手段のテラヘルツ光検出素子と同じ共振周波数を有するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(テラヘルツ光検出素子)
第1発明によれば、テラヘルツ光が入射されると、電気光学効果によって欠陥部内に複屈折性を誘起させることができる。よって、欠陥部の複屈折性の変化を検出すれば、テラヘルツ光が入射したか否かを検出することができる。しかも、欠陥部を挟むように一対のミラー部が設けられているので、入射したテラヘルツ光を欠陥部内で共振させることができる。すると、入射するテラヘルツ光の強度が弱くても、欠陥部内に発生する誘起される複屈折性が増大することができるから、テラヘルツ光を検出する感度を高くすることができる。
第2発明によれば、ZnTeは結晶の損傷閾値も高いので、テラヘルツ光が入射されたときに欠陥部内に誘起される複屈折性を増大させることができる。
第3発明によれば、両層の屈折率比が大きくなるので、少ない層数でも高い反射率を得ることができる。
(光学設備)
第4発明によれば、テラヘルツ光源から出射され、物体を透過したテラヘルツ光がテラヘルツ光検出素子に入射すれば、テラヘルツ光検出素子の欠陥部内に複屈折性を誘起させることができる。すると、検出部が欠陥部の複屈折性の時間変動を検出するので、複屈折性の時間変動に基づいて、入射したテラヘルツ光の時間変動を求めることができる。すると、テラヘルツ光の時間変動に基づいて、テラヘルツ光が透過した物体の性質や、テラヘルツ光が透過した物質が何であるかを特定することができる。しかも、テラヘルツ光検出素子は、テラヘルツ光が入射されると電気光学効果が生じる部材によって形成された欠陥部と、欠陥部を挟む一対のミラー部とを備えた1次元フォトニック結晶であるので、テラヘルツ光を検出する感度を高くすることができる。よって、物体の性質や物質自体を特定する精度を高くすることができる。
第5発明によれば、発光素子が1次元フォトニック結晶であるので、その共振周波数に対応するテラヘルツ光(出射光)の強度を強くすることができる。しかも、テラヘルツ光検出素子が出射光の周波数において共振周波数を有するので、テラヘルツ光検出素子に入射したテラヘルツ光の強度が弱くても、欠陥部内に誘起される複屈折性が大きくなる。よって、テラヘルツ光による検査が行いにくい物体であっても、その性質等を特定する精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のテラヘルツ光検出素子10の概略説明図である。
【図2】本実施形態のテラヘルツ光検出素子10におけるミラー部13の構図を説明した図である。
【図3】一次元フォトニック結晶の説明図である。
【図4】本実施形態のテラヘルツ光検出素子10を備えたテラヘルツ光検出手段1の概略説明図である。
【図5】テラヘルツ光強度を測定する実験装置(THz-TDS系)の概略説明図である。
【図6】(A)各素子によって検出されたテラヘルツ光の周波数スペクトルを示した図であり、(B)は本発明のテラヘルツ光検出素子によって検出されたテラヘルツ光をZnTe結晶によって検出されたテラヘルツ光によって除した値の周波数スペクトルを示した図である。
【図7】(A)各素子から出力されたテラヘルツ光の周波数スペクトルを示した図であり、(B)は本発明のテラヘルツ光検出素子から出力されたテラヘルツ光をZnTe結晶にから出力されたテラヘルツ光によって除した値の周波数スペクトルを示した図である。
【図8】光源および検出素子の両方に本発明のテラヘルツ光検出素子を使用した場合に、本発明のテラヘルツ光検出素子によって検出されるテラヘルツ光を推定した周波数スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のテラヘルツ光検出素子は、欠陥部を備えた一次元フォトニック結晶からなる部材であって、テラヘルツ光が入射されたときに電気光学効果を生じる部材によって欠陥部を形成したこと、および、欠陥部を挟むように一対のミラー部を配設したことに特徴を有している。
【0014】
(一次元フォトニック結晶の説明)
まず、本発明のテラヘルツ光検出素子を説明する前に、一次元フォトニック結晶について説明する。
【0015】
フォトニック結晶とは、内部に周期的な屈折率分布を有する材料であり、屈折率が一次元的に分布しているものが一次元フォトニック結晶である。一次元フォトニック結晶としては、例えば、図3に示すように、屈折率の異なる2つ物質からなる2層(A層、B層)が一次元的に交互に配設された結晶を挙げることができる。
【0016】
一次元フォトニック結晶は、屈折率分布に沿った方向(以下、軸方向という)では、特定の周波数における電磁波の透過率が極端に低くなる性質を有しており、この透過率が極端に低い周波数領域はフォトニックバンドギャップと呼ばれる。
【0017】
図3に示すように、A層、B層が、以下(1)式の関係にあるときには、フォトニックバンドギャップは、c/λを中心周波数として形成される。
なお、n、n各層を形成する物質の屈折率、d、dは各層の厚み、λは電磁波の波長、cは光速を示している。
【数1】

【0018】
そして、一次元フォトニック結晶の一部に周期配列を乱す部分(以下、欠陥部という)を設け、この欠陥部が以下(2)式を満たすときには、c/λの周波数を有する電磁波が欠陥部内に生じた場合、c/λの周波数を有する電磁波の定在波が欠陥部に形成される。これは、c/λの周波数の電磁波に対して、一次元フォトニック結晶における欠陥部を挟む部分が共振器として機能するからであり、かかる定在波が欠陥部に形成されると、c/λの周波数の電磁波は欠陥部内において増幅されるのである。
なお、nは欠陥部を形成する物質の屈折率、dは欠陥部の厚み、λは電磁波の波長を示している。
【数2】

【0019】
以上のごとく、欠陥部を備えた一次元フォトニック結晶では、その屈折率分布に応じた周波数の電磁波を欠陥部内で増強することができるのである。
【0020】
(テラヘルツ光検出素子10の説明)
つぎに、本実施形態のテラヘルツ光検出素子10を図面に基づき説明する。
本実施形態のテラヘルツ光検出素子10は、特定の波長(言い換えれば、特定の周波数)を有するテラヘルツ光(以下、被検出テラヘルツ光という)を感度良く検出できるものであり、図1に示すように、一次元フォトニック結晶構造を有するものである。
【0021】
図1に示すように、本実施形態のテラヘルツ光検出素子10は、欠陥部12と、欠陥部12を挟むように配設された一対のミラー部13,13と備えている。つまり、欠陥部12と一対のミラー部13,13は、テラヘルツ光検出素子10の軸方向(図1(B)では左右方向)に沿って、ミラー部13、欠陥部12、ミラー部13の順で積層されているのである。
【0022】
(欠陥部12について)
欠陥部12は、電気光学効果(ポッケルス効果)により、被検出テラヘルツ光の電場によって複屈折性が誘起される部材によって形成されている。しかも、この欠陥部12は、共振効果によって被検出テラヘルツ光が入射されたときに電場が増強され、複屈折性が増大する性質も有しているものである。
【0023】
かかる欠陥部12の素材には、例えば、ジンクテルル(ZnTe)やLiTaO、BBOなどの無機非線形光学結晶、有機非線形光学結晶、GaAs、ZnTe、CdTe、GaSeなどの半導体、ポリマー等の電気光学効果が生じる材料が適している。
とくに、無機非線形光学結晶であるジンクテルル(ZnTe)を欠陥部2に使用すれば、結晶の損傷閾値も高いので、被検出テラヘルツ光が入射されたときに欠陥部2内に発生する電場を増大させることができ、誘起される複屈折性も大きくできるので、好適である。
【0024】
(ミラー部13について)
図1に示すように、一対のミラー部13,13は、欠陥部12を、テラヘルツ光検出素子10の軸方向から挟むように配設されている。
各ミラー部13は、テラヘルツ光源1の軸方向に沿って屈折率の異なる層が交互に配設されている。具体的には、図2に示すように、各ミラー部13は、被検出テラヘルツ光を透過しうる光透過性部材13aと、中空な部材13bとを複数枚重ねて形成されている。中空な部材13bとは、板状の部材であってその表裏を貫通する貫通孔13hが形成された部材である。つまり、各ミラー部13では、テラヘルツ光源1の軸方向に沿って、光透過性部材13aの層(固体層)と、中空な部材13bの貫通孔13hの部分(空気層)とが交互に配設されているのである。
なお、光透過性部材13aの素材はとくに限定されないが、可視光とテラヘルツ光に対して透明であり、空気層に比べて屈性率が大きいものが好ましく、例えば、酸化マグネシウム(MgO)やポリプロピレン等を使用することができる。
【0025】
(テラヘルツ光検出素子10の全体構成)
そして、前記欠陥部12は、テラヘルツ光検出素子10の軸方向長さdと、欠陥部12を構成する材料の屈折率nの積が、被検出テラヘルツ光の波長λの1/2の長さとなるように形成されている。
また、前記一対のミラー部13,13を構成する光透過性部材13aは、その軸方向長さdと、光透過性部材13aを構成する材料の屈折率nの積が、被検出テラヘルツ光の波長λの1/4の長さとなるように形成されている
そして、中空な部材13bは、テラヘルツ光検出素子10の軸方向長さdと、空気の屈折率nの積が、被検出テラヘルツ光の波長λの1/4の長さとなるように形成されている。
【0026】
上記のごとき構成であるから、テラヘルツ光検出素子10に対して、テラヘルツ光源1の軸方向から被検出テラヘルツ光が入射されれば、ミラー部13の光透過性部材13aを透過し、中空な部材13bの貫通孔3hを通過して、欠陥部12に到達する。すると、電気光学効果により欠陥部12には、入射された被検出テラヘルツ光の強度に対応した複屈折性が誘起される。
【0027】
したがって、欠陥部12の複屈折性の変化を検出すれば、テラヘルツ光検出素子10に対して、被検出テラヘルツ光が入射されたか否か、また、入射された被検出テラヘルツ光の強度がどの程度であるかも検出することができる。
【0028】
また、被検出テラヘルツ光は、その波長λの光に対して一対のミラー部13,13が共振器として機能することにより欠陥部12内でその強度が増強されるから、被検出テラヘルツ光の強度の増大にともなって、欠陥部12に誘起される複屈折性も増大する。
すると、テラヘルツ光検出素子10に入射された被検出テラヘルツ光の強度が弱くても、欠陥部12に誘起される複屈折性は大きくできるから、被検出テラヘルツ光を検出する感度を高くすることができる。よって、テラヘルツ光検出素子10に入射される入射光に波長λのテラヘルツ光が含まれているか否かを選択的に検出することもできる。
【0029】
とくに、欠陥部12の軸方向長さdを薄くした場合、欠陥部12内で共振する共振モードを少なくできる。すると、共振モードに被検出テラヘルツ光の周波数が入るように調整すれば、被検出テラヘルツ光に対する閉じ込め増強効果をより高くできるので、被検出テラヘルツ光を検出する感度をより高くすることができる。
【0030】
さらに、本実施形態のテラヘルツ光検出素子10では、各ミラー部13に、光透過性部材13aの層(固体層)と空気層とが交互に配設された構造を採用しているので、少ない層数でも高い反射率を得ることができる。なぜなら、屈折率の異なる層のうち、一方を空気層としているので、両層の屈折率比が大きくなるからである。そして、少ない層数でも高い反射率が得られれば、テラヘルツ光検出素子10をコンパクトにしつつも被検出テラヘルツ光の閉じ込め増強効果を高くできる。つまり、テラヘルツ光検出素子10をコンパクトにしても、被検出テラヘルツ光を検出する感度を高く維持することができるのである。
【0031】
なお、ミラー部13は、少なくとも光透過性部材13aが2層と、中空な部材13bが1層必要であるが、光透過性部材13aおよび中空な部材13bを設ける数はとくに限定されない。つまり、欠陥部12から交互に中空な部材13bと光透過性部材13aとが配設されていればよい。原則として、中空な部材13bおよび光透過性部材13aを設ける数が多くなるほど、欠陥部12内に被検出テラヘルツ光を閉じ込めて増強する効果が高くなるので、欠陥部12に誘起される複屈折性を増大させることができる。
【0032】
具体的には、テラヘルツ光検出素子10に入射された、波長λの被検出テラヘルツ光の増強度Gは、以下の(3)式で表される。
【数3】

なお、Tはテラヘルツ光検出素子10の共振ピークの透過率であり、nは空気の屈折率であり、nはミラー部13の光透過性部材13aを形成する物質の屈折率であり、Nはミラー部13の周期である。なお、ミラー部13の周期とは、光透過性部材13a一層と中空な部材13b一層とからなる層を結合層とすると、この結合層の繰り返しを意味しており、周期がNであるとは、この結合層がN回繰り返されていることを意味する。
例えば、図1のテラヘルツ光検出素子10は、周期がN=2のミラー部13を有するテラヘルツ光検出素子10である。
【0033】
また、式(3)からも分かるように、光透過性部材13aの屈折率と空気の屈折率との差が大きいほど、テラヘルツ光を増幅させる効果が大きくなるので、光透過性部材13aは大きい屈折率を有するものが好ましい。
さらに、ミラー部13において、中空な部材13bに代えて、貫通孔を有しない板状部材を設けてもよい。この場合、板状部材には、可視光とテラヘルツ光に対して透明なもの、つまり、可視光とテラヘルツ光の透過性は高いが吸収性は低いものが好ましいのはいうまでもない。
【0034】
(光学設備の説明)
つぎに、上記のごときテラヘルツ光検出素子10を採用した光学設備1を説明する。
上記のごときテラヘルツ光検出素子10を採用した光学設備は、例えば、テラヘルツ光の透過率測定や反射率測定、イメージング等の方法によって, 危険物質や物質中の水分,半導体素子内欠陥等を検査する場合にも使用することができる。
以下では、代表として、テラヘルツ光を物質Mに照射してその透過光を検出することによって、既知の物質Mの性質を測定したり不明な物質Mを特定したりする光学設備1を説明する。
【0035】
図4に示すように、本実施形態の光学設備1は、テラヘルツ光TLを出力し得るテラヘルツ光源2と、このテラヘルツ光源2が出力したテラヘルツ光TLを受光する受光手段3とを備えている。
【0036】
まず、テラヘルツ光源2は、例えば、非線形光学結晶等に対して励起光を照射したときに生じる光整流効果を利用してテラヘルツ光TLを発生することができるものなどをあげることができるが、とくに限定されない。
【0037】
また、受光手段3は、前記テラヘルツ光源2が発生したテラヘルツ光TLを受光する、上述したテラヘルツ光検出素子10と、このテラヘルツ光検出素子10の欠陥部12に誘起される複屈折性を検出する検出部20とを備えている。
【0038】
受光手段3のテラヘルツ光検出素子10は、前記テラヘルツ光源2が出力し検査すべき物質Mを透過したテラヘルツ光TLがその軸方向から入射するように配設されている。
【0039】
(検出部20の説明)
検出部20は、テラヘルツ光検出素子10の欠陥部12に誘起される複屈折性を検出して、テラヘルツ光TLの強度を求めることができるものであれば特に限定されない。例えば、欠陥部12に誘起される複屈折性を、欠陥部12におけるテラヘルツ光TLの偏光方向の屈折率変化として検出する場合には、図4に示すような構成を採用することができる。
【0040】
図4において、符号21は、プローブ光源を示している。このプローブ光源は、直線偏光に調整された光を出力できるものであり、連続光を出力できるものや、パルス光を所定の周期で出力できるもの等である。例えば、プローブ光源21として、フェトム秒レーザなどの光源と、この光源から出力された出力光を直線偏光の光(以下、プローブ光P1という)に調整する調整手段とを備えたものを採用することができる。
そして、プローブ光源21は、ペリクリムビームスプリッタ20a等を介して、プローブ光P1がテラヘルツ光TLと同軸な状態でテラヘルツ光検出素子10に入射するように配設されている。
【0041】
プローブ光P1およびテラヘルツ光TLがテラヘルツ光検出素子10に入射する方向の前方、つまり、テラヘルツ光源2に対してテラヘルツ光検出素子10の後方には、λ/4板22、ウォラストンプリズム23、バランス検出器24がこの順で並んで配設されている。
λ/4板22は、テラヘルツ光検出素子10を透過したプローブ光(以下、透過プローブ光P2という)が入射する位置に配置されている。このλ/4板22は、透過プローブ光P2の偏光を変換し、偏光プローブ光P3とするものである。例えば、透過プローブ光P2が直線偏光であれば円偏光に、また、透過プローブ光P2が円偏光であれば直線偏光に、そして、透過プローブ光P2が楕円偏光であればその長軸短軸の比率が変化するように、λ/4板22は透過プローブ光P2の偏光を変換し、偏光プローブ光P3とする。
ウォラストンプリズム23は、テラヘルツ光検出素子10によって偏光された偏光プローブ光P3を、偏光方向が互いに直交した二つの直線偏光成分に分割するものである。
また、バランス検出器24は、分割された二つの直線偏光成分の強度をそれぞれ検出するものである。
【0042】
そして、バランス検出器24には、解析部25が接続されている。この解析部25は、バランス検出器24が検出した二つの直線偏光成分の強度に基づいて、テラヘルツ光検出素子10の欠陥部12のテラヘルツ光TLの偏光方向における屈折率の変化を算出し、この屈折率の変化に基づいてテラヘルツ光TLの強度を検出するものである。
なお、解析部25は、テラヘルツ光TLの強度を絶対値として求めてもよいし、基準となるテラヘルツ光の強度に対する測定したテラヘルツ光TLの相対的な値として求めてもよい。
【0043】
(検出原理の説明)
上記検出部20によって テラヘルツ光検出素子10の欠陥部12に発生している複屈折性の大きさ、つまり、テラヘルツ光TLの強度が検出できる原理は以下のとおりである。
まず、テラヘルツ光検出素子10に入射されたプローブ光P1は、テラヘルツ光検出素子10を透過する。このとき、テラヘルツ光検出素子10にプローブ光P1のみが入射されている場合、つまり、テラヘルツ光TLがテラヘルツ光検出素子10に入射されていない場合には、テラヘルツ光検出素子10の欠陥部12には電場が形成されていない。このため、プローブ光P1の偏光が直線偏光のまま維持された透過プローブ光P2がテラヘルツ光検出素子10から出力される。この透過プローブ光P2は、λ/4板に入射するが、直線偏光であるから、円偏光の偏光プローブ光P3に偏光される。
円偏光に偏光された偏光プローブ光P3は、ウォラストンプリズム23によって偏光方向が互いに直交した2本の直線偏光成分に分割され、その強度がバランス検出器24によって検出される。
しかし、偏光プローブ光P3が円偏光であるため、分割された2本の直線偏光成分の強度は同じ強度となる。すると、解析部25は、2本の直線偏光成分の強度から、テラヘルツ光検出素子10の欠陥部12には電場が形成されていないと判断し、テラヘルツ光検出素子10にテラヘルツ光TLが入射されていないと判断できる。
【0044】
一方、テラヘルツ光検出素子10にプローブ光P1だけでなくテラヘルツ光TLも入射されている場合には、テラヘルツ光検出素子10の欠陥部12には、電気光学効果により入射したテラヘルツ光TLの強度に対応する電場が形成される。すると、この電場の影響により、欠陥部12では複屈折が誘起される(欠陥部12の屈折率が変化する)ので、プローブ光P1の直線偏光が楕円偏光に変換され、変換された透過プローブ光P2がテラヘルツ光検出素子10から出力される。
楕円偏光となった透過プローブ光P2は、λ/4板に入射すると、長軸短軸の比率が変化するように偏光される。このため、偏光プローブ光P3がウォラストンプリズム23によって2本の直線偏光成分に分割されると、分割された直交する二つの偏光成分間には強度差が生じる。
すると、二つの偏光成分の強度がバランス検出器24によって検出されれば、両偏光成分間の強度差に応じて、テラヘルツ光検出素子10の欠陥部12の屈折率が検出できるから、欠陥部12に誘起された複屈折性の程度を把握することができる。よって、かかる複屈折性を誘起したテラヘルツ光TL、つまり、テラヘルツ光検出素子10に入射したテラヘルツ光TLの強度を算出することができるのである。
【0045】
(具体的なテラヘルツ光の強度算出方法)
バランス検出器24によって検出される二つの偏光成分の強度差は、二つの偏光成分の位相差に比例しており、この位相差と欠陥部12の電場の強度との間には、以下の式(4)の関係が成立する。よって、この解析部25に、必要な公知のパラメータを記憶させておけば、式(4)に基づいて得られる位相差から、式(5)に基づいて、テラヘルツ光検出素子10に入射したテラヘルツ光TLの強度Iを得ることができる。
なお、式(4)、(5)において、ΔΓは入射するテラヘルツ光に対する位相遅れ、λは入射するテラヘルツ光の波長、dは欠陥部12の厚さ、noptは入射するテラヘルツ光の屈折率、r41は電気光学定数、ETHzは欠陥部12の電場の強度、cは光速、εは真空の誘電率を表している。
【数4】

【数5】

【0046】
以上のごとき構成であるから、本実施形態の光学設備1は、テラヘルツ光源2から出射されたテラヘルツ光TLがテラヘルツ光検出素子10に入射すれば、入射したテラヘルツ光TLの時間変動を求めることができる。
【0047】
よって、テラヘルツ光源2から出射されたテラヘルツ光TLを物質Mに照射して、その物質Mを透過したテラヘルツ光TLをテラヘルツ光検出素子10に入射させれば、物質Mの影響を受けたテラヘルツ光TLの時間変動を把握することができる。
すると、このときのテラヘルツ光TLの時間変動を、物質Mが存在しない場合におけるテラヘルツ光TLの時間変動と比較すれば、テラヘルツ光TLが透過した物質Mの性質や、テラヘルツ光TLが透過した物質Mを特定することができる。
しかも、本実施形態の光学設備1では、テラヘルツ光検出素子10に、テラヘルツ光TLが入射されると電気光学効果が生じる部材によって形成された欠陥部12と、欠陥部12を挟む一対のミラー部13,13とを備えた1次元フォトニック結晶を採用している。よって、テラヘルツ光TLを検出する感度を高くすることができるから、物質Mを透過するテラヘルツ光TLの強度が弱い場合などでも、物質Mの性質や物質を特定する精度を高くすることができる。
【0048】
例えば、周波数ωのテラヘルツ光に対する物質Mの複素透過係数がt(ω)とすると、物質Mが存在しない場合に検出されるテラヘルツ光TLの時間波形と、物質Mが存在する場合に検出されるテラヘルツ光TLの時間波形とから、以下の式(6)により物質Mの複素透過係数t(ω)を求めることができる。
なお、式(6)において、E(ω)は振幅であり、θ(ω)は位相であり、添え字のsamが物質Mが存在する場合を示しており、添え字のrefが物質Mが存在する場合を示している。
【数6】

【0049】
(フォトニック結晶の発光素子)
とくに、テラヘルツ光源2における発光素子として、テラヘルツ光検出素子10と同様の構造を有するフォトニック結晶を採用することが好ましい。つまり、発光素子として、一次元フォトニック結晶からなる部材であって、テラヘルツ光TLを発生し得る部材によって形成された欠陥部と、欠陥部を挟むように配設された一対のミラー部とから構成されたものを採用することが好ましい。
かかる構造の発光素子の場合、発光素子の軸方向から励起光を照射すれば、励起光によって欠陥部(例えば、ZnTe結晶等)が光整流効果によりテラヘルツ光TLを発生する。すると、発生したテラヘルツ光TLに対し一対のミラー部が共振器として機能するので、励起光が照射されたときに発生したテラヘルツ光TLよりも高強度のテラヘルツ光TLをテラヘルツ光源2から出力させることができる
【0050】
すると、物質Mに照射されるテラヘルツ光TL(出射光)の強度が強いので、テラヘルツ光検出素子10が検出するテラヘルツ光TLの時間変動を精度良く検出することができる。よって、テラヘルツ光TLによる検査が行いにくい物質Mであっても、その性質等を特定する精度を高くすることができる。
とくに、発光素子として、テラヘルツ光検出素子10と同じ共振周波数を有するものを使用すれば、テラヘルツ光検出素子10に入射したテラヘルツ光TLの強度が弱くても、テラヘルツ光検出素子10の欠陥部12内に形成される電場らに大きくできる。つまり、欠陥部12に誘起される複屈折性をさらに大きくできるから、より一層検査精度を高くすることができる。かかる効果を得る上では、発光素子に、テラヘルツ光検出素子10と同一の素子を使用することが最も好ましい。
【0051】
また、テラヘルツ光源2における発光素子に、上記のごときフォトニック結晶を採用した場合、この発光素子に対して励起光(例えば、フェムト秒パルス光等)を照射する光源として、例えば、モード同期レーザー等を使用することができる。この様な励起光源を使用する場合には、励起光源から発光素子に照射された照射光の一部を分光して、この光をプローブ光としてテラヘルツ光検出素子10に入射してもよい(図5参照)。つまり、テラヘルツ光源2の励起光源を、検出部20のプローブ光源として使用してもよく、この場合には、検出部20をコンパクトに構成できる。
【実施例1】
【0052】
本発明のテラヘルツ光検出素子によるテラヘルツ光の強度の検出感度を、一般的な検出素子であるZnTe結晶の検出感度と比較した。
【0053】
(検出素子の説明)
本実施例において使用した本発明のテラヘルツ光検出素子の欠陥部、ミラー部の固体層および空気層は、以下のとおりである。
なお、各ミラー部の周期は、N=1(固体層が1層、空気層が1層)である。
欠陥部: ZnTe結晶(屈折率n=2.92)、厚さ120μm
固体層:酸化マグネシウム(MgO)(屈折率n=3.12)、厚さ78μm
空気層:空気(屈折率n=1)、厚さ265μm
また、比較対象のZnTe結晶は、厚さ120μmである。
【0054】
(光源の説明)
検出するテラヘルツ光は、ZnTe結晶(テラヘルツ光源)に励起光を照射することにより発生させた。使用した励起光は、モード同期Ti:Sapphireレーザーから発振されたフェムト秒パルス光である。
【0055】
(実験装置およびテラヘルツ光検出方法の説明)
また、本実施例では、検出したテラヘルツ光の強度は電気光学(ElectroOptic:EO)サンプリング法を利用して評価した。EOサンプリング法は、外部電界によって屈折率が変化するEO結晶の性質(電気光学効果)を利用して、フェムト秒レーザーパルスの偏光制御により超高速過渡応答信号を検出する方法である。
【0056】
以下、図5に基づいて、本実施例の実験装置および、この実験装置によるEOサンプリング法を利用したテラヘルツ光強度の検出について説明する。
なお、本実施例では、図5および以下の説明におけるテラヘルツ光検出素子LDに、本発明のテララヘルツ光検出素子またはZnTe結晶を使用してテラヘルツ光強度を検出した。
【0057】
まず、モード同期Ti:Sapphireレーザーからフェムト秒パルスを発振する。発振されたフェムト秒パルスは、ペリクルビームスプリッターによりポンプ光とプローブ光の二つに分けられ、ポンプ光は光チョッパーを用い約3kHzの周波数で振幅変調を掛けた状態で、テラヘルツ光源LSに照射される。すると、テラヘルツ光源LSにおいてテラヘルツ光が発生し、発生したテラヘルツ光は、ポンプ光と同軸かつ入射側と反対側に出力される。
【0058】
なお、レーザーのスポットには広がりがあるので、ポンプ光をレンズにより集光させた状態でテラヘルツ光源LSに照射している。
さらになお、テラヘルツ光源の出力側には黒い紙を置いている。テラヘルツ光源LSに照射されたポンプ光は、テラヘルツ光源LSにおけるテラヘルツ光の発生に寄与するとともにテラヘルツ光源LSを通過する。このテラヘルツ光源LSを通過したポンプ光がテラヘルツ光を検出するテラヘルツ光検出素子に入射すると、テラヘルツ光強度の検出精度に影響を与える。上述したように、テラヘルツ光源LSの直後に黒い紙を置いておけば、黒い紙は可視光に対しては不透明だが、テラヘルツ光に対しては透明であるので、ポンプ光を黒い紙で遮断することができ、検出精度に影響を与えることを防ぐことができる。
【0059】
テラヘルツ光源から発生したテラヘルツ光は、軸はずし放物面鏡(焦点距離約15cm)で平行光線にした後、もう一つの軸はずし放物面鏡(焦点距離約15cm)でテラヘルツ光検出素子に入射される。
なお、軸はずし放物面鏡とテラヘルツ光検出素子との間には、ペリクルビームスプリッターが設けられている。しかし、ペリクルビームスプリッターはその厚みが2μmとテラヘルツ光の波長に対して非常に薄いため、テラヘルツ光はペリクルビームスプリッターを透過して、テラヘルツ光検出素子に入射される。
【0060】
一方、ペリクルビームスプリッターによりポンプ光と分離されたプローブ光は、回転NDフィルターでその強度を調整される。強度が調整されたプローブ光は、偏光板で完全な直線偏光にした後、光学ステージでポンプ光に対して時間遅延を与えてから、テラヘルツ光検出素子LDに入射される。なお、プローブ光は、軸はずし放物面鏡とテラヘルツ光検出素子LDとの間に位置するペリクルビームスプリッターで反射されてからテラヘルツ光検出素子LDに入射する。
【0061】
テラヘルツ光検出素子LDに入射されたプローブ光はテラヘルツ光検出素子LDを通過し、λ/4板を通された後、ウォラストンプリズムで互いに直交する二つの偏光成分に分けられる。
そして、二つの偏光成分に分けられた光を、バランス検出器によってロックイン検出すれば、テラヘルツ光検出素子LDが検出したテラヘルツ光の強度を検出することができる。
【0062】
なお、プローブ光を時間遅延させれば、プローブ光がテラヘルツ光検出素子LDに到達するタイミングをずらすことができ、異なるタイミングにおけるテラヘルツ光の強度を検出できるから、テラヘルツ光の時間波形を計測することができる。すると、テラヘルツ光の時間波形をフーリエ変換することにより周波数領域における振幅と位相情報の両方を一度に得ることができる。
【0063】
また、バランス検出器において検出されるテラヘルツ光の検出精度を高くするために、プローブ光は、バランス検出器に入射する二つの光のパワーが0.1〜1mWとなるように、回転NDフィルターで調整されており、また、テラヘルツ光(信号光)とプローブ光の強度比が約1:2となるように、λ/4板で調整した。バランス検出器の特性上、このような条件にするとS/Nが良くTHz波を検出できる。
【0064】
以下に実験結果を示す。
図6(A)に示すように、ZnTe結晶によって検出されたテラヘルツ光は、全体的に滑らかな山形となっている。ZnTe結晶内部の干渉効果により、こぶのように強度の強い部分も存在するが、近接する周波数の強度と比べてもそれほど大きなさは見られない。
一方、本発明のテラヘルツ光検出素子では、共振モードにおいてその強度が大きく立ち上がっており、逆に、共振モードの周辺の周波数の強度が非常に小さくなっていることが確認できる。
【0065】
また、図6(B)に示すように、本発明のテラヘルツ光検出素子によって検出された強度と、ZnTe結晶によって検出されたテラヘルツ光強度の比を取ると、本発明のテラヘルツ光検出素子では、0.67THz付近において、ZnTe結晶の2.5倍以上の強度でテラヘルツ光を検出できている。一方、0.67THzから少し離れた周波数では、1/10程度まで強度が低下している。その他の共振モードの周波数でも、同様の傾向が見られる。
【0066】
以上の結果より、本発明のテラヘルツ光検出素子を用いれば、共振モードのテラヘルツ光を選択的に高感度で検出できることが確認できる。
【実施例2】
【0067】
図5の実験装置において、テラヘルツ光検出素子LDとしてZnTe結晶を用い、テラヘルツ光源LSとして、本発明のテラヘルツ光検出素子と同等のテラヘルツ光源(以下、フォトニック結晶光源という)を使用した場合と、ZnTe結晶を使用した場合とにおいて、テラヘルツ光検出素子LDによって検出される発光強度を比較した。
【0068】
図7(A)に示すように、テラヘルツ光源LSをZnTe結晶とした場合、検出されるテラヘルツ光は全体的に滑らから山形となっている。ZnTe結晶内部の干渉効果により、こぶのように強度の強い部分も存在するが、近接する周波数の強度と比べてもそれほど大きな差は見られない。
一方、テラヘルツ光源LSをフォトニック結晶光源とした場合には、検出されるテラヘルツ光は、共振モードにおいてその強度が鋭くかつ大きく立ち上がっており、逆に、共振モード周辺の周波数では強度が非常に小さくなっていることが確認できる。
【0069】
また、図7(B)に示すように、両強度の比を取ると、フォトニック結晶光源は、ZnTe結晶の場合と比べて、0.67THz付近において2.5倍以上の強度のテラヘルツ光が検出されている。一方、0.67THzから少し離れた周波数では、フォトニック結晶光源は、ZnTe結晶の場合と比べて、1/10程度の強度のテラヘルツ光しか検出されない。そして、その他の共振モードの周波数でも、同様の傾向が見られる。
【0070】
以上の結果より、テラヘルツ光源LSとして、フォトニック結晶光源を用いれば、共振モードのテラヘルツ光を選択的強く発生させることが確認できる。
【0071】
そして、図5の実験装置において、テラヘルツ光検出素子LDに本発明のテラヘルツ光検出素子を用い、かつ、テラヘルツ光源LSにフォトニック結晶光源を用いた場合に検出されるテラヘルツ光の強度を、上記実施例1、2の結果を用いて推定すると、両方にZnTe結晶を用いる場合に比べて、最大10倍程度、検出感度を向上できると推測される(図8)。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のテラヘルツ光検出素子は、生産現場や医療機器やセキュリティ設備等において、テラヘルツ光を検査用光源とした場合における検出素子に適している。
【符号の説明】
【0073】
1 光学設備
2 テラヘルツ光源
3 受光手段
10 テラヘルツ光検出素子
12 欠陥部
13 ミラー部
20 検出部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率の異なる層を交互に配設することによって形成された1次元フォトニック結晶から形成されており、
該1次元フォトニック結晶は、
テラヘルツ光が入射されると電気光学効果が生じる部材によって形成された欠陥部と、
該欠陥部を挟む一対のミラー部とを備えており、
該一対のミラー部は、
入射された前記テラヘルツ光を、前記欠陥部内で共振させ得る構造に形成されている
ことを特徴とするテラヘルツ光検出素子。
【請求項2】
前記欠陥部が、ZnTeによって形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のテラヘルツ光検出素子。
【請求項3】
前記一対のミラー部は、
その軸方向に沿って空気層と固体層とが交互に配設されたものである
ことを特徴とする請求項1または2記載のテラヘルツ光検出素子。
【請求項4】
テラヘルツ光を物体に照射して該物体を透過した透過光に基づいて検査を行うための光学設備であって、
テラヘルツ光を出力し得るテラヘルツ光源と、
該テラヘルツ光源が出力したテラヘルツ光を受光する受光手段とを備えており、
該受光手段は、
請求項1、2または3記載のテラヘルツ光検出素子と、
該テラヘルツ光検出素子における前記欠陥部の複屈折性の変化を検出する検出部とを備えている
ことを特徴とする光学設備。
【請求項5】
前記テラヘルツ光源が、
1次元フォトニック結晶からなる発光素子を備えており、
該テラヘルツ光源の発光素子は、
前記受光手段のテラヘルツ光検出素子が同じ共振周波数を有するものである
ことを特徴とする請求項4記載の光学設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−210991(P2010−210991A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57552(P2009−57552)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人レーザー学会、「レーザー学会学術講演会第29回年次大会」の講演予稿集
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】