説明

テラヘルツ分光分析用液体セルおよびテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法

【課題】溶液交換がスムーズにでき、且つ高いシグナルが得られるテラヘルツ分光分析用液体セルおよびテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法を提供する。
【解決手段】液体セル1は、テラヘルツパルス光を透過する2枚の透光性基材2,3が重ね合わされて貼着され、透光性基材2,3の界面に試料溶液が注入される液体流路2Aを有する。液体流路2Aは、透光性基材2の一方の面に、テラヘルツパルス光の集光エリアCAを包含する領域に形成された渦巻状流路部2aと、導液流路部2bと、流出流路部2cとより成る一本の流路であり、透光性基材3の一方の面上に形成された導液口部3aおよび流出口部3bに連通し、導液口部3aおよび流出口部3bには、液クロマトグラフィーなどに結合するマイクロチューブ4が取付けられている。この液体セル1は、液体流路2A内に試料溶液を注入して、テラヘルツパルス分光計測装置を用いて振動電場の時間波形を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ周波数帯を光源とする分光計測装置に好適に用いることができるテラヘルツ分光分析用液体セルおよびテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ周波数領域(0.1THz〜10THz)の光(パルス状の電磁波)を試料に照射して、試料を透過した透過光または試料から反射した反射光を検出するテラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS:THz-Time Domain Spectroscopy)が注目されている。
THz−TDS法は、テラヘルツパルス分光計測装置を用い、テラヘルツ光(パルス状の電磁波)の時間に依存した試料の電場強度を測定し、その時間に依存した時系列データをフーリエ変換処理することにより、そのパルスを形成する電場強度や位相などの周波数依存性を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、こうしたTHz−TDS法を用いて液体(試料溶液)を測定する場合、エタノールなどパルス光の吸収が弱い溶媒を含む試料溶液に対しては、透過測定法を用いることができるが、水などパルス光の吸収が強い溶媒を含む試料溶液に対しては、透過測定法を用いることは困難であり、一般的に反射測定法が用いられている。例えば、THz光の透過性を有する三角プリズム上に試料(溶液試料)を載置して、三角プリズム底面で全反射することで発生するエバネッセント光を利用して測定する反射測定法(全反射減衰分光法)が用いられている(非特許文献1参照)。
【0004】
この非特許文献1に示されるような三角プリズムを用いた透過測定法は、空気中の水分の影響を受け易く、窒素雰囲気などで用いる必要があると共に、試料溶液の置換毎に試料溶液を三角プリズム底面に完全密着させる必要があり、試料溶液の置換および測定作業に煩雑さが伴うと言う不具合が存在する。
こうした不具合を解決するために、Si基板上にコプレーナストリップライン構造をした伝送線路およびアンテナが形成されたチップ表面に検査物体を塗布して、伝送線路を伝搬するTHz電磁波との相互作用を、空気中に染み出しているエバネッセント波を用いた反射測定法で、検査物体の物性などをセンシングするセンシング装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−266908号公報
【特許文献2】特開2006−64691号公報
【非特許文献1】西沢潤一著、「テラヘルツ波の基礎と応用」、初版、株式会社工業調査会、2005年4月1日、p.245
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に示されるような検査物体をチップ表面に塗布して行う反射測定法は、検査物体の濡れ性や重力などで検査物体の厚みが決定されるために、表面張力や経時変化などによって厚みを制御するのが難しく、精度が高い安定した解析結果が得られない。したがって、液体(試料溶液)の吸収係数の大小に係らず、あらゆる試料溶液に対応して高い精度のシグナルが得られると共に、試料溶液の置換がスムーズで測定作業が容易な液体用セルの出現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
本適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルは、テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層されて形成され、前記透光性基材の界面に沿って液体が流動する液体流路を有し、少なくとも前記テラヘルツ光が集光する集光エリアを包含する領域に、偏光する前記テラヘルツ光に対する等方的構造の液体流路部を有することを特徴とする。
【0009】
これによれば、テラヘルツ分光分析用液体セルが、テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層して形成され、透光性基材の界面に沿って液体が流動する液体流路を有し、少なくともテラヘルツ光が集光する集光エリアを包含する領域に、偏光するテラヘルツ光に対する等方的構造の液体流路部を有することにより、テラヘルツ光の回折共鳴の発生を大幅に抑制し、高い精度のシグナルを得ることができる。したがって、液体の吸収係数の大小に係らず、あらゆる液体に対応することができる。また、液体セルの集光エリアに対する取付け方向を任意に設定して用いることができる。
【0010】
[適用例2]
上記適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルにおいて、前記等方的構造の液体流路部は、二つのスパイラルが前記スパイラルの略中心部で結合し、該結合部を互いの基点とする二重スパイラルより成る渦巻状の流路であることが好ましい。
【0011】
これによれば、少なくともテラヘルツ光が集光する集光エリアを包含する領域に形成された等方的構造の液体流路部が、二つのスパイラルがスパイラルの略中心部で結合し、その結合部を互いの基点とする二重スパイラルより成る渦巻状の流路であることにより、テラヘルツ光の回折共鳴の発生を大幅に抑制し、高い精度のシグナルを得ることができる。したがって、液体の吸収係数の大小に係らず、あらゆる液体に対応することができる。また、液体セルの集光エリアに対する取付け方向を任意に設定して用いることができる。
【0012】
[適用例3]
上記適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルにおいて、前記積層された透光性基材の積層物の板厚方向の表面に、アスペクト比が下記の一般式(3)で表される多数の突起が、テラヘルツ波長以下の周期Pでアレイ状に配列して形成された反射防止機能を備えるのが好ましい。
1.5<(H/P)…(3)
但し、Hは突起の底面から頂点までの高さ、Pは周期を表す。
【0013】
これによれば、透光性基材が積層された透光性基材の積層物の板厚方向の表面に、アスペクト比が上記一般式(3)で表される多数の突起が、テラヘルツ波長以下の周期Pでアレイ状に配列して形成された反射防止機能を備えることによって、テラヘルツ分光分析用液体セルに集光するテラヘルツ光の広い周波数領域に対応した高い透過率特性が得られる。したがって、より高い精度のシグナルが得られる。
【0014】
[適用例4]
上記適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルにおいて、前記透光性基材が、水晶、サファイア、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ダイヤモンド、透光性セラミックの内のいずれかより成るのが好ましい。
【0015】
これによれば、2枚の透光性基材が重ね合わされて貼着される透光性基材が、水晶、サファイア、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ダイヤモンド、透光性セラミックの内のいずれかより成ることによって、テラヘルツパルス光を透過するテラヘルツ分光分析用液体セルが得られる。さらに、透光性基材の界面に沿って液体流路を形成する加工方法に対応して、それに適した透光性基材の材質を選択することができる。例えば、積層される透光性基材の材質が互いに異なっていても良い。表面に凹部を形成する加工が容易な透光性基材と、平滑な表面と応力変形しにくい機械強度を有する透光性基材と、を接合することによって、容易な加工で形成できて、且つ応力変形を起こしにくいテラヘルツ分光分析用液体セルが得られる。
【0016】
[適用例5]
本適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法は、テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層して形成され、前記透光性基材の界面に沿って液体が流動する液体流路を有しする、テラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法であって、前記透光性基材の表面に感光性フィルムをラミネートして、前記透光性基材の表面に前記液体流路に相似した形状の前記感光性フィルムのマスクを形成するマスキング工程と、前記感光性フィルムでマスキングされた前記透光性基材の表面に、研磨剤を噴射するブラスト工程と、前記マスクを除去するマスク剥離工程と、前記透光性基材を積層して互いを接合する透光性基材接合工程と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
この製造方法によれば、透光性基材の表面に感光性フィルムをラミネートして、透光性基材の表面に液体流路に相似した形状の感光性フィルムのマスクを形成するマスキング工程と、感光性フィルムでマスキングされた透光性基材の表面に、研磨剤を噴射するブラスト工程と、マスクを除去するマスク剥離工程と、透光性基材を積層して互いを接合する透光性基材接合工程とを備えることによって、高い精度のシグナルが得られるテラヘルツ分光分析用液体セルを容易に製造することができる。
【0018】
[適用例6]
本適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法は、テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層して形成され、前記透光性基材の界面に沿って液体が流動する液体流路を有する、テラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法であって、前記透光性基材の表面に、表面から順に金属膜、レジスト膜を形成し、前記レジスト膜に光又は電子ビームを照射して前記液体流路に相似した形状を描画した後、前記金属膜をエッチングしてエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、前記エッチングマスクが形成された透光性基材をエッチングするエッチング工程と、前記レジスト膜および前記エッチングマスクを剥離する剥離工程と、前記透光性基材を積層して互いに接合する透光性基材接合工程と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この製造方法によれば、透光性基材の表面に、表面から順に金属膜、レジスト膜を形成し、レジスト膜に光又は電子ビームを照射して液体流路に相似した形状を描画した後、金属膜をエッチングしてエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、エッチングマスクが形成された透光性基材をエッチングするエッチング工程と、レジストおよびエッチングマスクを剥離する剥離工程と、透光性基材を積層して互いを接合する透光性基材接合工程とを備えることによって、高い精度の液体流路が形成されたテラヘルツ分光分析用液体セルを容易に製造することができる。よって、より高いシグナルが得られるテラヘルツ分光分析用液体セルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本実施形態に係るテラヘルツ分光分析用液体セルの一例を、図1に基づいて説明する。
なお、本実施形態のテラヘルツ分光分析用液体セルは、透過測定法を用いて試料溶液の周波数依存性を解析するための液体セルである。
【0021】
図1(a)は、本実施形態に係るテラヘルツ分光分析用液体セルの構成を模式的に示す正面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A断面におけるテラヘルツ分光分析用液体セルの断面図である。なお、以下に示す各図面においては、説明の便宜のために各構成要素の寸法や比率を実際のものとは異ならせてある。
【0022】
図1において、テラヘルツ分光分析用液体セル(以後、液体セルと表す場合がある)1は、テラヘルツ光を透過する2枚の透光性基材2,3と、マイクロチューブ4を含み構成されている。
透光性基材2,3は、共にZ板水晶より成り、例えば、板厚が略1.35mm、平面サイズが略10mm×17mmの長方形の平板状を成している。
【0023】
透光性基材2は、一方の面上に、液体(試料溶液)の通路となる液体流路2Aが形成されている。
液体流路2Aは、渦巻状流路部2aと、導液流路部2bと、流出流路部2cとから成る一本の流路で構成されている。液体流路2A(渦巻状流路部2a、導液流路部2b、流出流路部2c)は、例えば、幅100μm、深さ100μm程度の同一サイズの凹部(溝)で形成されている。
【0024】
渦巻状流路部2aは、渦巻状に配置した流路であり、二つのスパイラルがスパイラルの略中心部で結合し、その結合部を互いの基点とする所定間隔(ピッチ)の二重スパイラルが、例えば左周りに形成されている。なお、二重スパイラルの所定間隔は、例えば200μmである。この渦巻状流路部2aは、後述するテラヘルツパルス分光計測装置100より照射されるテラヘルツ光の少なくとも集光エリアCA(図中に二点鎖線で示す円形内領域)を包含する領域に形成されている。集光エリアCAの直径は、3mm程度である。
【0025】
また、渦巻状流路部2a(二重スパイラル)は、一方端が長方形形状の一方の長辺に沿って短辺側に延伸する導液流路部2bに結合し、他の一方端が導液流路部2bと同様に、長方形形状の他方の長辺に沿って同じ短辺側に延伸する流出流路部2cに結合している。
【0026】
透光性基材3は、一方の面上に、透光性基材2の表面に形成された導液流路部2bおよび流出流路部2cの短辺側の一部が重なるようにして、長方形の長辺方向に沿って延伸し、長方形の一方の短辺に開口する、幅600μm、深さ600μm程度の凹部より成る導液口部3aと流出口部3bとが、長方形の長辺方向に離間して形成されている。
【0027】
導液口部3aは、透光性基材2の一方の面上に形成された液体流路2Aの導液流路部2bに連通すると共に、導液流路部2bを介して渦巻状流路部2aに液体(試料溶液)を液体セルへ供給するためのマイクロチューブ4aが挿入して取付けられている。一方、流出口部3bは、液体流路2Aの流出流路部2cに連通すると共に、渦巻状流路部2aを通過した液体(試料溶液)を、流出流路部2cを介して外部に流出するためのマイクロチューブ4bが、導液口部3aと同様に取付けられている。
【0028】
このように一方の面上に凹部より成る液体流路2Aが形成された透光性基材2と、一方の面上に凹部より成る導液口部3aおよび流出口部3bが形成された透光性基材3とが、それぞれの外形形状を略一致させて、凹部が形成された面同士を相対して重ね合わせて、接着剤(図示せず)を用いて接合されている。これにより、透光性基材2と透光性基材3との界面に液体流路2Aが位置する。
【0029】
なお、透光性基材2の液体流路2Aを除く領域には、透光性基材2と透光性基材3を接着する際に塗布された余分な接着剤を、内部に落とし込んで接着剤貯めとなる接着剤落とし溝(図示せず)が、マトリックス状に多数形成されている。この接着剤落とし溝は、渦巻状流路部2a、導液流路部2bおよび流出流路部2cのいずれの流路部にも掛からないように形成されている。
【0030】
マイクロチューブ4(4a,4b)は、例えば、外径0.4mm、内径0.2mm程度のPFAやETFEなどのフッ素系プラスチックより成り、導液口部3aおよび流出口部3bのそれぞれの孔内に挿入されて、シリコーン系の接着剤5により透光性基材2と透光性基材3とに接着固定されている。
【0031】
このマイクロチューブ4(4a,4b)は挿入されるそれぞれの孔の奥壁とチューブ先端との間に、少なくとも液体が流動可能な広さの空間が形成される位置に、接着固定されている。したがって、マイクロチューブ4aから供給された液体は、透光性基材2の面上に形成された液体流路2Aの導液流路部2b、渦巻状流路部2a、流出流路部2cの順に通過して、マイクロチューブ4bから外部に流出することができる。
【0032】
なお、液体は、流出口部3b(マイクロチューブ4b)から供給し、流出流路部2c、渦巻状流路部2a、導液流路部2bの順に通過して、導液流路部2bに連通する導液口部3a(マイクロチューブ4a)から外部に流出するように用いても良い。
【0033】
また、透光性基材2,3が積層されて形成された液体セル1は、板厚方向の両面となる透光性基材2,3の表面に、反射防止機能を備えるのが望ましい。
図2は、透光性基材の表面に形成された反射防止構造を模式的に示す斜視図である。
【0034】
図2において、透光性基材2,3の表面には、底面形状が正方形の四角錐台より成りなる多数の微細構造の突起Tが、テラヘルツ波長以下の周期Pでアレイ状に配列して形成されている。すなわちモスアイ構造が形成されている。
この突起Tのアスペクト比は、以下の一般式(1)で表される値であるのが好ましい。
1.5<(H/P)…(1)
但し、Hは四角錐台の底面から頂点までの高さ、Pは周期を表す。
【0035】
この反射防止構造は、透光性基材2,3の一方の表面に、予め研削加工法、ブラスト加工法、エッチング加工法、レーザ加工法などを用いて形成することができる。
こうした突起Tがアレイ状に配列して形成された反射防止構造は、テラヘルツ波長域を含む広い周波数領域に対応することができる。また、屈折率を連続的に変化させることによって光の反射を抑制して、回折光の発生を防ぎ高い反射防止効果が得られる。さらに、突起Tを透光性基材2および透光性基材3の表面に隙間なく形成することが可能であり、より高い透過率特性が得られる。よって、高い透過率特性を有し、テラヘルツ波長域を含む広い周波数領域に対応した液体セル1が得られる。
【0036】
なお、反射防止構造を形成する突起Tは、底面形状が正方形の四角錐台より成る場合で説明したが、これに限定されない。底面形状が正六角形または正三角形の台形状の突起であっても良い。すなわち、台形状の六角錐台または台形状の三角錐台の突起であっても良い。また、反射防止構造は、少なくとも集光エリアCAとなる領域に形成されていれば良い。
【0037】
このように構成された液体セル1は、液体流路2A内に液体(試料溶液)を注入して、透過測定法により液体(試料溶液)の周波数依存性などを解析するのに用いられる。
次に、液体セル1を用いて試料溶液を測定するテラヘルツパルス分光計測装置100について説明する。
図3は、テラヘルツパルス分光計測装置の概略構成を示す模式図である。なお、テラヘルツパルス分光計測装置100には液体セル1がセットされた態様で示す。
【0038】
図3において、テラヘルツパルス分光計測装置100は、試料溶液が注入された液体セル1にテラヘルツ光をパルス状に照射し、液体セル1(試料溶液)を透過したテラヘルツパルス光の電場強度の時間に依存した波形(振動電場の時間波形)を測定し、その振動電場の時間波形に基づく時系列データをフーリエ変換処理することにより、電場強度の周波数特性、分光透過率や吸収率などの周波数依存性などが得られる。
【0039】
テラヘルツパルス分光計測装置100は、ポンプ・プローブ方式の分光計測装置であり、パルス光L1を射出するレーザ発生装置30と、ビームスプリッタ31と、ミラー32,41,43,44,45と、テラヘルツ光発生素子33と、集光レンズ34,46と、軸外し放物面鏡35,36と、時間遅延装置42と、テラヘルツ光検出素子47とを備えている。
【0040】
また、テラヘルツパルス分光計測装置100は、テラヘルツ光検出素子47に接続する電流増幅器50と、ロックインアンプ51と、コンピュータ52と、液体セル1を保持固定するホルダー60とを備えている。
【0041】
レーザ発生装置30は、フェムト秒(10-15秒)パルスレーザ光源を備え、繰り返し周期が数kHz〜数10MHz程度、パルス幅が10〜150fs程度の直線偏光のパルス光L1を放射する。
ビームスプリッタ31は、レーザ発生装置30より放射されるパルス光L1をポンプ光L2とプローブ光L11に分割する。
【0042】
テラヘルツ光発生素子33は、半導体基板33aと、超半球レンズ33bなどを備えている。
半導体基板33aは、低温成長ガリウムヒ素などから成る基板上に、合金製の平行伝送線路間に微少ギャップ33cを有する光伝導アンテナが形成されており、平行伝送線路(微少ギャップ33c)間に数10Vの電圧(33d)を印加することにより、集光レンズ34を介して微少ギャップ33cに集束入射するポンプ光L2からテラヘルツ光を発生させる機能を有する。超半球レンズ33bは、半導体基板33aで発生したテラヘルツパルス光をコリメートする機能を有する。
【0043】
軸外し放物面鏡35および軸外し放物面鏡36は、共に回転放物面を有する2つの凹面鏡を備えている。
軸外し放物面鏡35は、テラヘルツ光発生素子33から発したテラヘルツ光L3(パルス状)を反射して、液体セル1に向かって集束して照射する機能を有する。軸外し放物面鏡36は、液体セル1を透過したテラヘルツ光L4を反射して、テラヘルツ光検出素子47に集束して照射する機能を有する。
【0044】
時間遅延装置42は、折り返しミラー42bを備えた可動ステージ42a、可動ステージ42aを図中に矢印で示すβ方向に移動するための移動装置(図示せず)などを備えている。時間遅延装置42は、ビームスプリッタ31において分割されて可動ステージ42aの折り返しミラー42bに入射するプローブ光L11に時間遅延を付与する機能を有する。
【0045】
テラヘルツ光検出素子47は、テラヘルツ光発生素子33と同様に、半導体基板47aと、超半球レンズ47bを備えている。
半導体基板47aは、ガリウムヒ素などから成る基板上に、合金製の平行伝送線路間に微少ギャップ(光伝導アンテナ)47cが形成されており、平行伝送線路(微少ギャップ47c)間に微少電流計47dが接続されている。
【0046】
このテラヘルツ光検出素子47は、軸外し放物面鏡36から超半球レンズ47bを介して微少ギャップ47cに集束して照射されるテラヘルツ光L4と、集光レンズ34を介してテラヘルツ光L4と反対側から光伝導アンテナ47cに集束して照射される時間遅延装置42で時間遅延されたプローブ光L12とから、微少電流計47dにおいて、テラヘルツ光L4の振動電場に比例した瞬時電流(瞬時電流波形)を計測する機能を有する。すなわち、テラヘルツ光L4の振動電場の時間波形(時間に依存した時系列データ)を計測する。
【0047】
電流増幅器50は、テラヘルツ光検出素子47において検出された瞬時電流を増幅する。
ロックインアンプ51は、電流増幅器50において増幅された振動電場の時間波形のノイズ成分を減少させるために、光チョッパーの変調をかけて同期検波を行う。
【0048】
コンピュータ52は、記憶回路、演算回路およびディスプレイなどを備え、ロックインアンプ51を介して検波されたテラヘルツ光L4の時間波形をフーリエ変換することによって、テラヘルツ光L4の分光透過率の周波数特性を得ることができる。
【0049】
ホルダー60は、液体セル1(図1参照)を保持固定する着脱チャックであり、2つの保持具60aが、透光性基材2,3が重ね合わされた液体セル1を、板厚方向の両面(表裏面)側から挟み込んで保持固定する。ホルダー60は、軸外し放物面鏡35と軸外し放物面鏡36との間の、テラヘルツ光L3が略集束する位置に配設されている。
【0050】
また、2つの保持具60aには、テラヘルツ光L3が通過する窓として機能する貫通孔60bがそれぞれ形成されている。それぞれの貫通孔60bは、液体セル1の集光エリアCAよりも広い大きさを有する同一形状の円形孔を成している。
ホルダー60に保持固定された液体セル1は、導液口部3aに取付けられたマイクロチューブ4a(図1参照)が、例えば、液クロマトグラフィー61に接続され、流出口部3bに取付けられたマイクロチューブ4b(図1参照)が廃液容器(図示せず)に接続されている。
【0051】
液クロマトグラフィー61は、例えば、モータを動力源とする注射筒型のポンプを備え、移動相として液体を用い、混合物の成分を例えば分子量に基づいた成分毎に分離する装置である。この成分毎に分離した液体(試料溶液)を、液体セル1を用いて解析する試料溶液として、ポンプを稼動することによって、マイクロチューブ4aを介して液体セル1の液体流路2A内に注入したり、マイクロチューブ4bを介して廃液容器に排出したりすることができる。液体セル1の液体流路2A内に試料溶液が注入される注入速度、すなわち液体流路2A内から液体が排出される速度は、例えば1cm/sec程度である。
【0052】
こうした液体セル1の液体流路内に液体を注入したり、排出したりする際に、流路径(流路幅)が変動する液体流路形状が形成されていると、気泡が発生し易い。特に、流路径が小から大に変化する液体流路形状では、流路体積が急激に大きくなることによって流入圧力が低下して、液体が気化し易くなり気泡が発生する。これに対して、液体セル1の液体流路2Aは、同一サイズの凹部より成る流路で形成されていることにより、気泡の発生や試料溶液残りなどの置換不良を排除したスムーズな注入および排出を行うことができる。
【0053】
次に、テラヘルツパルス分光計測装置100の動作について簡単に説明する。なお、ホルダー60には、予め液クロマトグラフィー61からマイクロチューブ4aを介して液体流路2A内に液体(試料溶液)が注入された液体セル1が保持固定される。
【0054】
先ず、レーザ発生装置30からフェムト秒パルスレーザのパルス光L1が射出される。レーザ発生装置30から射出されるパルス光L1は、例えば、繰り返し周期が10MHz、パルス幅が100fsである。
そして、レーザ発生装置30から放射(射出)されたフェムト秒パルスレーザのパルス光L1は、ビームスプリッタ31に入射する。ビームスプリッタ31では、入射するパルス光L1が、ポンプ光L2とプローブ光L11に分割される。
【0055】
ビームスプリッタ31で分割された一方のポンプ光L2は、ミラー32で反射された後、集光レンズ34を介してテラヘルツ光発生素子33に入射する。テラヘルツ光発生素子33に入射するポンプ光L2は、半導体基板33a上に形成され、数10Vの電圧が印加された平行伝送線路間の微少ギャップ(光伝導アンテナ)33cに集束して入射する。
【0056】
テラヘルツ光発生素子33では、半導体基板33a中に光励起キャリアが生成され、微少ギャップ33c間の電圧で光励起キャリアが加速されて、瞬時電流が流れることによって、パルス幅が1ピコ秒程度のテラヘルツ光L3が放射される。
【0057】
そして微少ギャップ33c間から放射されたテラヘルツ光L3(パルス状)は、超半球レンズ33bでコリメートされて、軸外し放物面鏡35に入射する。
軸外し放物面鏡35では、回転放物面を有する2つの凹面鏡によって、テラヘルツ光発生素子33から発したテラヘルツ光L3を反射して、ホルダー60に保持固定された液体セル1に向かって集束して照射する。
【0058】
液体セル1に向かって集束して照射されたテラヘルツ光L3は、ホルダー60の一方の保持具に形成された貫通孔60bから液体セル1に入射して、液体セル1を透過する。この時テラヘルツ光L3は、液体セル1(液体流路2A)内に注入された液体(試料溶液)に対して集光エリアCA(図1参照)に集束して透過する。集光エリアCAの直径は、例えば、3mm程度である。
【0059】
液体セル1を透過したテラヘルツ光L4(パルス状)は、試料溶液における特性情報を含んでいる。
そして、液体セル1を透過したテラヘルツ光L4は、軸外し放物面鏡36に入射する。
【0060】
軸外し放物面鏡36では、回転放物面を有する2つの凹面鏡によって、液体セル1を透過したテラヘルツ光L4を反射して、テラヘルツ光検出素子47に入射する。テラヘルツ光L4は、超半球レンズ47bを介して微少ギャップ47cに集束して入射する。
【0061】
一方、ビームスプリッタ31において分割されたプローブ光L11は、ミラー41で反射されて時間遅延装置42に入射する。
時間遅延装置42では、移動装置を稼動して可動ステージ42aを図中に矢印で示すβ方向に移動して、折り返しミラー42bに入射するプローブ光L11に時間遅延を付与したプローブ光L12を反射する。この時間遅延装置42において付与される時間遅延は、プローブ光L11の繰り返し周期が10MHzであることから、入射光の光路長の0.3mmの変化が、1ピコ秒の変化に相当する。
【0062】
そして、時間遅延装置42において時間遅延が付与されたプローブ光L12は、ミラー43、ミラー44、ミラー45の順に順次反射された後、集光レンズ46を介してテラヘルツ光検出素子47に集束して入射する。テラヘルツ光検出素子47に入射するプローブ光L12は、半導体基板47a上に形成され、微少電流計47dが接続された平行伝送線路間の微少ギャップ(光伝導アンテナ)47cに集束して入射する。
【0063】
テラヘルツ光検出素子47では、液体セル1を透過して入射するテラヘルツ光L4が光伝導アンテナ47cに入射した状態で、光伝導アンテナ47cにプローブ光L12が入射すると、プローブ光L12が入射する間、テラヘルツ光L4によって半導体基板47a中に生成された光励起キャリアが、テラヘルツ光L4に伴う振動電場で加速されて、振動電場に比例する瞬時電流が流れる。そして、この瞬時電流が微少電流計47dで計測される。すなわち、テラヘルツ光L4の振動電場の時間に依存した時系列データ(振動電場の時間波形)が計測される。
【0064】
このように、テラヘルツ光検出素子47では、時間遅延によってプローブ光L12がテラヘルツ光検出素子47に到達するタイミングを変えることによって、プローブ光L12とテラヘルツ光L4の間に光学的な時間遅延を設定して、10MHzの繰り返し周期で入射するテラヘルツ光L4の振動電場の時間波形の計測が行われる。
【0065】
そして、テラヘルツ光検出素子47で計測されたテラヘルツ光L4の電場強度の時間波形は、電流増幅器50に出力されて増幅された後、電流増幅器50からロックインアンプ51に出力される。
ロックインアンプ51では、電流増幅器50において増幅された振動電場の時間波形のノイズ成分を減少させるために、光チョッパーで数KHzの変調をかけて同期検波が行われる。この数KHzの変調に対してテラヘルツ光L4の繰り返し周期が10MHzであることによって、同期検波されたテラヘルツ光L4の時間波形は、連続波形として扱うことができる。
【0066】
そして、同期検波されたテラヘルツ光L4の振動電場の時間波形は、コンピュータ52に出力される。
コンピュータ52では、ロックインアンプ51において同期検波されたテラヘルツ光L4の振動電場の時間波形をフーリエ変換することによって、テラヘルツ光L4の電場強度の周波数特性、分光透過率や吸収率などの周波数依存性などデータ、すなわち、試料溶液の特性情報が得られる。この後、これらの得られた周波数特性や周波数依存性などを解析することにより、試料溶液の物理的、化学的な性質を探求することができる。
【0067】
このように、液体セル1は、液クロマトグラフィー61に直結して使用することが可能であり、試料溶液の置換がスムーズで、しかも測定作業を容易に行うことができる。なお、この液体セル1は、こうしたテラヘルツ分析の他に、赤外分光分析やラマン分光分析などに利用することもできる。また、用いられる試料溶液としては液体であれば限定されない。例えば、有機溶剤、血液などである。
【0068】
次に、液体セル1に注入された試料溶液をテラヘルツパルス分光計測装置100を用いて計測した計測データについて説明する。
計測データは、試料溶液の溶媒として、テラヘルツパルス光の吸収が弱い(吸収係数が小さい)エタノールと、テラヘルツパルス光の吸収が強く(吸収係数が大きく)、一般的に透過測定法を用いて測定するのが困難であると言われている水を用いた場合で説明する。なお、試料溶液の大多数は、エタノールと水の間の吸収係数値を示す。
【0069】
図4は、振動電場の時間波形にフーリエ変換を施して得られた透過率の波形を示すグラフであり、図5は、吸収係数(スペクトル強度)の波形を示すグラフである。なお、図5に示す吸収係数の波形は、図4に示す透過率の実測波形データに基づいて、液体セル1のリファレンス透過率を1として演算して得られたグラフである。
【0070】
図4に示すグラフの横軸は波数(cm-1)、縦軸は透過率(%)を表し、波数100cm-1(周波数3.0THzに相当する)までの間におけるシグナル透過率を示す。また、グラフ中の線図a1は、エタノールにおける波形を示し、線図a2は、水における波形を示す。
一方、図5に示すグラフの横軸は波数(cm-1)、縦軸は吸収係数(cm-1)を表し、グラフ中の線図b1は、エタノールにおける波形を示し、線図b2は、水における波形を示す。
【0071】
図5および図4から、液体(試料溶液)として液体セル1に注入されたエタノール(線図b1,a1)、水(線図b2,a2)は、共にシグナルが得られる。すなわち、液体セル1を用いることにより、透過測定法を用いて測定するのが困難であると言われている水であっても、透過測定法を用いて計測することができる。
また、図5において、液体が水の場合の吸収係数αは、60cm-1〜180cm-1程度であり、エタノールにおける吸収係数αは、10cm-1〜40cm-1程度である。
【0072】
次に、シグナルを得るための液体セル1の液体流路2Aの形状について説明する。
液体セル1の入射光強度と透過光強度との関係は、入射光強度I0、液体の厚みL、吸収係数α、透過光強度I1とすると、ランベルト・ベールの法則に基づいて、下記の一般式(2)で与えられる。
I1=I0×10-αL…(2)
一般式(2)から、Lの値が大きい場合は、液体の吸収が増え透過光が得られない。一方、Lの値が小さい場合には、I1とI0に差異がなくシグナルが観測され難い。
【0073】
この一般式(2)に基づいて、シグナルが得られるための液体流路2Aの形状は、下記の一般式(3)を満たせば良いと言える。
(0.05/(1−10-αL))≦A≦((0.95/(1−10-αL))…(3)
但し、一般式(3)中のAの値は、液体セル1(液体流路2A)内に注入された液体(試料溶液)にテラヘルツ光L3が集束して照射する集光エリアCA(図1参照)の集光面積をSt、集光エリアCA内の渦巻状流路部2aの流路面積をSsとした時、「Ss/St」で表される値である。すなわち、Aの値は、集光エリアCAの集光面積Stに対する渦巻状流路部2aの流路面積Ssの占める割合である。
【0074】
一般式(3)における0.05および0.95の値は、液体セル1のリファレンスを100%とした時、シグナル透過率で5%〜95%が得られることを意味する。この値は、信頼性の面からノイズ発生を考慮した値である。
【0075】
この一般式(3)および図5に示した吸収係数αのグラフに基づいて、5%以上のシグナルが得られるAの値(Ss/St)を演算すると、以下の演算結果が得られる。
「α<10cm-1」の範囲において、「0.25≦A≦1」。
「10cm-1≦α≦50cm-1」の範囲において、「0.08≦A≦1」。
「50cm-1<α≦180cm-1」の範囲において、「0.05≦A≦1」。
【0076】
このことから、5%〜95%のシグナル透過率が得られることを条件として、Aの値(集光エリアCAの集光面積Stに対する渦巻状流路部2aの流路面積Ssの占める割合)は、「0.05≦A≦1」であるのが好ましいと言える。このAの値の範囲「0.05≦A≦1」の内、より好ましい範囲は「A≧0.5」である。
なお、この演算に用いたLの値は、100μm(液体流路2A(渦巻状流路部2a)を形成する凹部(溝)の深さ)である。すなわち、液体セル1の渦巻状流路部2aを形成する凹部の深さが、液体の厚みLに相当する。したがって、以後、凹部の深さをLと表す場合がある。
【0077】
同様に、一般式(3)および図5に示した吸収係数αのグラフに基づいて、5%以上のシグナルが得られる液体の厚みL、すなわち液体セル1の渦巻状流路部2aを形成する凹部の深さを求めると、以下の演算結果が得られる。
Aの値が1の場合において、液体が水の場合の厚みLは50μm以下(30μm〜50μm)、試料溶液がエタノールの場合の厚みLは300μm以下。
Aの値が0.5の場合において、液体が水の場合の厚みLは100μm以下、液体がエタノールの場合の厚みLは600μm以下。
【0078】
このことから、5%以上のシグナルが得られる液体の厚みL(液体セル1の渦巻状流路部2aを形成する凹部の深さL)は、「30μm≦L≦600μm」であるのが好ましいと言える。このLの値の範囲「30μm≦L≦600μm」の内、Lの値が100μm程度であれば、どんな物質を含む液体(試料溶液)であっても5%以上のシグナルが容易に得られる。
【0079】
一方、液体セル1の液体「流路2Aを形成する凹部の断面積、すなわち流路の断面積は、0.0015mm2〜0.25mm2程度であるのが好ましい。0.25mm2以上(大き過ぎる)と試料溶液の置換に長い時間を必要として、置換をスムーズに行うことができない。また、0.015mm2以下(小さ過ぎる)と試料溶液の置換は問題ないがシグナルが得られ難くなる。
この値に基づけば、例えば、断面積が最小値の0.0015mm2における凹部の深さLが30μmの場合の凹部の幅は、0.05mm(50μm)であり、断面積が最大値の0.25mm2における凹部の深さLが100μmの場合の凹部の幅は、2.5mmである。
【0080】
なお、好ましい流路の断面積(0.0015mm2〜0.25mm2)は、ハーゲン・ポアゾイユの式に基づく下記の一般式(4)に示す流量と圧力の関係より、液体(試料溶液)を液体セル1の液体流路2Aに注入(排出)する適正な圧力範囲を、60gf/cm2〜4000gf/cm2として算出した値である。
Q=5×10-5×((w×h3)/l))×P…(4)
但し、一般式(4)中、Qは流量、Pは圧力を表し、wは流路の幅、hは流路の深さ、lは流路の長さを表す。
【0081】
次に液体セル1の液体流路2Aを形成する渦巻状流路部2a(図1参照)について説明する。
液体セル1の液体流路2Aは、流路内に注入された液体(試料溶液)の電場強度を測定する際に、ノイズとして現れる流路構造と直線偏光であるテラヘルツ光とが回折共鳴することによって、分子振動とは異なるシグナルを得ないようにすることが求められる。
【0082】
そこで、この課題に対応するために、液体セル1の液体流路2Aは、テラヘルツ光が集束して照射する集光エリアCA内に、渦巻状に流路を配置した渦巻状流路部2aを配置している。すなわち、等方的構造を有している。これにより、液体流路2Aを偏光するテラヘルツ光に対して等方的に扱うことが可能となり、回折共鳴の発生を大幅に抑制し、より高い精度のシグナルを得ることができる。
【0083】
渦巻状流路部2aを配置することによる回折共鳴に対する効果を確認するために、以下のシミュレーションを行った。
シミュレーションは、液体セル1に形成された渦巻状流路部2aと同じ形状の二重スパイラル(幅100μmの二つのスパイラルがスパイラルの略中心部で結合し、その結合部を互いの基点とするピッチ200μmの二重スパイラル)の渦巻状の貫通孔(渦巻状流路に相当する)が形成された厚さ100μmの水晶板を、厚さが無限大の水晶板を両面側から挟み込んだ態様のシミュレーション用液体セルに、テラヘルツ光(パルス状)を照射する想定で行った。なお、両面側に配置した水晶板は、干渉縞の発生を排除するために、厚さを無限大とした。また、水晶の屈折率を2.12、空気の屈折率を1.0とし、共に光の吸収はないものとした。
【0084】
このシミュレーションにより得られた渦巻状流路(渦巻状の貫通孔)の界面における透過率の周波数特性を、図6に示す。
図6(a)は、渦巻状流路のテラヘルツ光の偏光軸に平行な偏光方向における透過率の周波数特性を示すグラフであり、図6(b)は、渦巻状流路のテラヘルツ光の偏光軸に垂直な偏光方向における透過率の周波数特性を示すグラフである。
図6(a)、図(b)に示すグラフの横軸は波長(μm)、縦軸は透過率(%)を表し、波長が1000μmまでの間における透過率の周波数特性を示す。
【0085】
図6(a)、(b)において、図6(a)中に線図c1で示すTHz光の偏光軸に平行な偏光方向における透過率の周波数特性と、図6(b)中に線図c2で示すTHz光の偏光軸に垂直な偏光方向における透過率の周波数特性とは、略同一の線図を描く。すなわち、渦巻状流路は、偏光するテラヘルツ光に対する等方的構造を備えている。
よって、等方的構造の渦巻状流路部2aを備えた液体セル1は、回折共鳴の発生を大幅に抑制し、より高い精度のシグナルを得ることができると言える。
【0086】
次に、図1を参照して液体セル1の製造方法を説明する。
先ず、予め切断加工された板厚が略1.35mm、平面サイズが略10mm×17mmの長方形の平板状を成した水晶板(Z板水晶)を準備する(準備工程)。この水晶板は、後に透光性基材2,3を構成する。
そして準備した水晶板は、溝加工工程に移行する。
【0087】
溝加工工程では、ブラスト加工法を用いて所定形状の溝が形成される。
形成される溝は、1枚の水晶板(第1の水晶板)の一方面上に液体流路2A(渦巻状流路部2a、導液流路部2b、流出流路部2c)となる凹部が形成される。また、他の1枚の水晶板(第2の水晶板)の一方面上に導液口部3aおよび流出口部3bとなる凹部が形成される。
【0088】
ブラスト加工法は、マスクを形成するマスキング工程と、ブラスト工程とを有する。
マスキング工程は、第1の水晶板の表面に感光性ドライフィルムをラミネートする。そして、感光性ドライフィルムの上面に、予め作製した液体流路2A以外の領域を除去するように形成されたマスクを重ね合わせて、感光性ドライフィルムの露光を行う。露光は、露光装置を用いて、マスク上に紫外線が照射される。なお、第1の水晶板の表面に形成する液体流路2Aの幅は、略100μmである。
【0089】
そして、現像を行う。現像は、感光性ドライフィルムの露光が行われた第1の水晶板を、現像装置内に投入して、露光された感光性ドライフィルム上に現像液をスプレイノズルから噴射して行う。現像液としては、例えば、濃度0.1%〜0.3%程度で、液温が30℃程度の炭酸ナトリウム水溶液を用いる。これにより、第1の水晶板の表面に、液体流路2Aの流路形状に相似した形状の多数の感光性ドライフィルムが残存する。
【0090】
第2の水晶板についても、表面にラミネートした感光性ドライフィルムの上面に、導液口部3aおよび流出口部3b以外の領域を除去するように形成されたマスクを重ね合わせて、感光性ドライフィルムの露光を行った後、第1の水晶板と同様の方法で現像を行う。なお、第2の水晶板の表面に形成する導液口部3aおよび流出口部3bの幅は、略600μmである。
そして、酸性水溶液によるリンスおよび乾燥を行った後、ブラスト工程に移行する。
【0091】
ブラスト工程では、感光性ドライフィルムが現像された第1の水晶板および第2の水晶板を、マイクロブラスト装置を用いて、ブラスト加工が行われる。
ブラスト加工は、マイクロブラスト装置を用いて、感光性ドライフィルムが現像された第1の水晶板および第2の水晶板の表面に、ブラストノズルから圧縮空気と共に研磨剤を噴射して、残存する感光性ドライフィルム以外の領域の水晶板を脆性破壊原理により除去する。研磨剤としては、炭化ケイ素、アルミナ、ガラスビーズあるいはステンレスパウダーなどが挙げられる。また、研磨剤の粒度は、JIS1998に規定された#600〜#6000(粒子径:4μm〜25μm)程度の微粉を用いるのが好ましい。
【0092】
第1の水晶板は、水晶板の表面に、0.15MP程度の噴射圧力で研磨剤を噴射しながら、移動速度50mm/sec程度で、20パスの加工を行う。これにより、第1の水晶板の表面に深さが略100μm、幅が略100μmの渦巻状流路部2a、導液流路部2bおよび流出流路部2cより成る液体流路2Aが形成された透光性基材2が完成する。
一方、第2の水晶板に対しては、水晶板の表面に、0.35MP程度の噴射圧力で研磨剤を噴射しながら、移動速度50mm/sec程度で、30パスの加工を行って、深さ600μm程度の導液口部3aおよび流出口部3bが形成される。
【0093】
そして、マスク剥離工程に移行する。
マスク剥離工程では、ブラスト加工された第1の水晶板および第2の水晶板を25℃から50℃位の水温の水中に一時間放置し、感光性ドライフィルムを除去する。
これにより、透光性基材2および透光性基材3が完成する。
【0094】
なお、説明は省いてきたが、第1の水晶板の加工面には、液体流路2Aとなる凹部の形成と同時に、液体流路2Aとなる凹部を除く領域に、液体流路2Aとなる凹部に掛からないように、多数の接着剤落とし溝がマトリックス状に形成される。したがって、形成される多数の接着剤落とし溝の深さも略100μmである。接着剤落とし溝は、上記のように、後の透光性基材接合工程において、完成した透光性基材2と透光性基材3とを接着する際に、余分な接着剤を内部に落とし込んで接着剤貯めとなる凹部(溝)である。
そして、透光性基材接合工程に移行する。
【0095】
透光性基材接合工程では、ブラスト加工法による溝加工工程(マスキング工程およびブラスト工程)において完成した透光性基材2と透光性基材3とを接合するために接着固定する。
接着固定は、透光性基材2の液体流路2Aが形成された面に、例えばスクリーン印刷法を用いて、熱硬化性接着剤を塗布する。そして、透光性基材2の熱硬化性接着剤が塗布された面に、透光性基材3の外形形状を略一致させて、導液口部3aおよび流出口部3bが形成された面を重ね合わせる。
【0096】
その後、重ね合わされた透光性基材2と透光性基材3を、外側両面から加圧した状態で、温度が75°程度に設定した加熱炉中に、2.5時間程度投入して、熱硬化性接着剤の硬化処理を行う。
【0097】
こうした接着固定の際、透光性基材同士を外側両面から加圧することによって、透光性基材2の面に塗布された余分な接着剤は、接着剤落とし溝の内部に落とし込まれて、厚さが数μm程度の硬化した接着剤層によって、透光性基材2と透光性基材3とが接着固定される。なお、接着剤として、熱硬化性接着剤に代えて、紫外線硬化接着剤を用いても良い。
そして、マイクロチューブ取付け工程に移行する。
【0098】
マイクロチューブ取付け工程では、導液口部3aおよび流出口部3bのそれぞれの孔内に、マイクロチューブ4(4a,4b)を挿入して、シリコーン系の接着剤5により透光性基材2と透光性基材3とに接着固定する。マイクロチューブ4は、挿入されるそれぞれの孔の奥壁とチューブ先端との間に少なくとも液体が流通可能な広さの空間が形成される位置に接着固定する。
これにより、液体セル1が完成する。
【0099】
完成した液体セル1は、マイクロチューブ4aを液クロマトグラフィー61に結合し、テラヘルツパルス分光計測装置100のホルダー60に取付けて、液クロマトグラフィー61において成分毎に分離した液体を試料溶液として、順次、液体セル1の液体流路2A内に注入して、試料溶液の振動電場の時間波形を測定することができる。
【0100】
以上の実施形態において、次の変形例として挙げられているような形態であっても、実施形態と同様な効果を得ることが可能である。
【0101】
(変形例1)
液体セル1の透光性基材2の一方の面上に形成される液体流路は、図1に示した渦巻状に配置した液体流路2Aに限定されない。
図7は、テラヘルツ分光分析用液体セルの別の構成を模式的に示す正面図であり、図8は、テラヘルツ分光分析用液体セルのさらに別の構成を模式的に示す正面図である。なお、図7および図8に示す液体セルは、液体流路の正面形状以外は、図1に示す液体セル1と同じであり、液体流路以外の説明は省略または簡略化する。また、構成の明瞭化のために液体流路を実線で示し、それ以外の構成要素を二点鎖線で示す。
【0102】
図7において、液体セル20の液体流路22Aは、矩形螺旋状流路部22aと、導液流路部22bと、流出流路部22cとから成る一本の流路で構成されている。
矩形螺旋状流路部22aは、二つの矩形螺旋の略中心部で結合し、その結合部を互いの基点とする、所定間隔(ピッチ)の二重矩形状螺旋が、例えば左周りに形成されている。二重矩形状螺旋の所定間隔は、例えば200μmである。矩形螺旋状流路部22aは、テラヘルツパルス分光計測装置100より照射されるテラヘルツ光の少なくとも集光エリアCA(図中に二点鎖線で示す円形内領域)を包含する領域に形成されている。
【0103】
また、矩形螺旋状流路部22a(二重矩形状螺旋)は、一方端が長方形形状の一方の長辺に沿って短辺側に延伸する導液流路部22bに結合し、他の一方端が導液流路部22bと同様に、長方形形状の他方の長辺に沿って同じ短辺側に延伸する流出流路部22cに結合している。
このように構成された液体セル20は、前記液体セル1と同様に用いることができる。また、液体セル1と同様な効果が得られる。
【0104】
一方、図8において、液体セル10の液体流路12Aは、反復ライン状流路部12aと、導液流路部12bと、流出流路部12cとから成る一本の流路で構成されている。
反復ライン状流路部12aは、テラヘルツパルス分光計測装置100より照射されるテラヘルツ光の少なくとも集光エリアCA(図中に二点鎖線で示す円形内領域)を包含する領域に、長方形より成る外形形状の長辺に沿う方向に、所定間隔(ピッチ)で反復して折り返す形状に形成されている。所定間隔は、例えば200μmである。
【0105】
また、反復ライン状流路部12aは、一方端が長方形形状の一方の長辺に沿って短辺側に延伸する導液流路部12bに結合し、他の一方端が導液流路部12bと同様に、長方形形状の他方の長辺に沿って同じ短辺側に延伸する流出流路部12cに結合している。
このように構成された液体セル10は、前記液体セル1と同様な効果が得られる。但し、液体セル10を用いる場合には、回折共鳴を回避するために、照射されるテラヘルツパルス光の偏光方向を考慮して、反復ライン状流路部12aが反復して折り返す方向を決定してセットすることが必要である。
【0106】
(変形例2)
液体セル1の製造方法において、第1の水晶板の一方面上に液体流路2Aとなる凹部を形成する溝加工工程に、ブラスト加工法を用いた場合で説明したが、ブラスト加工法に代えて、エッチング加工法を用いることができる。
【0107】
エッチング加工法を用いて形成される溝は、1枚の水晶板(第1の水晶板)の一方面上に液体流路2A(渦巻状流路部2a、導液流路部2b、流出流路部2c)となる凹部が形成される。また、他の1枚の水晶板(第2の水晶板)の一方面上に導液口部3aおよび流出口部3bとなる凹部が形成される。
エッチング加工法は、エッチングマスク形成工程と、エッチング処理を施すエッチング工程とを有する。
【0108】
エッチングマスク形成工程では、先ず、水晶板(第1の水晶板および第2の水晶板)の表面に、スパッタリング法を用いて金属膜としてのCr膜を0.1μm程度の厚みで形成する。このCr膜は、エッチング処理を行う際にマスクとして機能する。そして、Cr膜の表面にスピンコート法を用いて熱可塑性樹脂、例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル)より成るレジスト膜を形成する。
【0109】
そして、Cr膜上に形成されたレジスト膜に、光又は電子ビームを照射して、第1の水晶板の表面に形成する液体流路2A(渦巻状流路部2a、導液流路部2b、流出流路部2c)形状を描画する。これにより,光又は電子ビームが照射された描画部分が化学反応に対して可溶となる。
そして、ウエットエッチング法により、描画部分のレジスト膜およびレジスト膜の下層に形成されたCr膜をエッチングして、第1の水晶板の表面に液体流路2Aの形状に相似したCr膜よりなるポジ型エッチングマスクが形成される。
そして、エッチング工程に移行する。
【0110】
エッチング工程では、エッチングマスクが形成された第1の水晶板をウエットエッチング装置を用いてエッチング処理を行う。
エッチング処理は、エッチング処理の時間は100分程度である。このエッチング処理により、第1の水晶板の表面に深さが略100μm、幅が略100μmの渦巻状流路部2a、導液流路部2bおよび流出流路部2cより成る液体流路2Aが形成される。
【0111】
そして、剥離工程に移行する。
剥離工程ではKOH水溶液でレジスト膜を除去し、Crエッチング液でCrマスクの除去を行う。これにより、透光性基材2が完成する。
【0112】
第2の水晶板についても、第1の水晶板と同様に、Cr膜上に形成されたレジスト膜に、光又は電子ビームを照射して、形成する導液口部3aおよび流出口部3bの形状を描画した後、ウエットエッチングを行って第2の水晶板の表面に導液口部3aおよび流出口部3bに相似したCr膜よりなるポジ型エッチングマスクが形成される。そして、エッチング処理などを施して、深さ600μm程度の導液口部3aおよび流出口部3bが形成された透光性基材3が完成する。なお、エッチング処理の時間は600分程度である。
【0113】
こうしたエッチング加工法を用いて溝加工された液体セル1は、ブラスト加工法を用いた場合に比べて加工解像度が高いので、上記Aの値(集光エリアCAの集光面積Stに対する渦巻状流路部2aの流路面積Ssの占める割合)を大きく設定することが可能となり、より高い精度のシグナルを得ることができる。
【0114】
(変形例3)
テラヘルツ光を透過する透光性基材2,3として、水晶を用いた場合で説明したが、水晶に代えて、サファイア、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ダイヤモンド、透光性セラミック、ルミセラ(登録商標、(株)村田製作所)などを用いることができる。また、これらを組み合わせて積層し、テラヘルツ分光分析用液体セルを形成してもよい。
【0115】
(変形例4)
透光性基材2,3に、Z板水晶を用いた場合で説明したが、X板水晶やY板水晶を用いても良い。但し、透光性基材2,3の表面に形成される凹部(溝)の加工方法によって適宜選択する必要がある。例えば、透光性基材としてY板水晶にエッチング加工法を用いて形成する場合には、エッチングレートが低い。
なお、上記の実施例では2枚の透光性基材を積層する例を示したが、それに限らず、3以上の枚数の透光性基材を積層して、テラヘルツ分光分析用液体セルを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】(a)は本実施形態に係るテラヘルツ分光分析用液体セルの構成を模式的に示す正面図であり、(b)は(a)のA−A断面におけるテラヘルツ分光分析用液体セルの断面図。
【図2】透光性基材の表面に形成された反射防止構造を模式的に示す斜視図。
【図3】テラヘルツパルス分光計測装置の概略構成を示す模式図。
【図4】振動電場の時間波形にフーリエ変換を施して得られた透過率の波形を示すグラフ。
【図5】吸収係数の波形を示すグラフ。
【図6】(a)は渦巻状流路のテラヘルツ光の偏光軸に平行な偏光方向における透過率の周波数特性を示すグラフであり、(b)は渦巻状流路のテラヘルツ光の偏光軸に垂直な偏光方向における透過率の周波数特性を示すグラフ。
【図7】テラヘルツ分光分析用液体セルの別の構成を模式的に示す正面図。
【図8】テラヘルツ分光分析用液体セルのさらに別の構成を模式的に示す正面図。
【符号の説明】
【0117】
1,10,20…テラヘルツ分光分析用液体セル(液体セル)、2…透光性基材、2A,12A,22A…液体流路、2a…渦巻状流路部、2b,12b,22b…導液流路部、2c,12c,22b…流出流路部、3…透光性基材、3a…導液口部、3b…流出口部、4(4a,4b)…マイクロチューブ、5…接着剤、12a…反復ライン状流路部、22a…矩形螺旋状流路部、33…テラヘルツ光発生素子、35,36…放物面鏡、42…時間遅延装置、47…テラヘルツ光検出素子、60…ホルダー、61…液クロマトグラフィー、100…テラヘルツパルス分光計測装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ分光分析用液体セルであって、
前記テラヘルツ分光分析用液体セルは、テラヘルツ光を透過する透光性基材が接合されて形成され、前記透光性基材の界面に沿って液体が流動する液体流路を有し、
少なくとも前記テラヘルツ光が集光する集光エリアを包含する領域に、偏光する前記テラヘルツ光に対する等方的構造の液体流路部を有することを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セル。
【請求項2】
請求項1に記載のテラヘルツ分光分析用液体セルであって、
前記等方的構造の液体流路部は、二つのスパイラルが前記スパイラルの略中心部で結合し、該結合部を互いの基点とする二重スパイラルより成る渦巻状の流路であることを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のテラヘルツ分光分析用液体セルであって、
前記積層された透光性基材の積層物の板厚方向の表面に、
アスペクト比が下記の一般式(3)で表される多数の突起が、テラヘルツ波長以下の周期Pでアレイ状に配列して形成された反射防止機能を備えたことを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セル。
1.5<(H/P)…(3)
但し、Hは突起の底面から頂点までの高さ、Pは周期を表す。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のテラヘルツ分光分析用液体セルであって、
前記透光性基材が、水晶、サファイア、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ダイヤモンド、透光性セラミックの内のいずれかより成ることを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セル。
【請求項5】
テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層して形成され、前記透光性基材の界面に沿って液体が流動する液体流路を有する、テラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法であって、
前記透光性基材の表面に感光性フィルムをラミネートして、前記透光性基材の表面に前記液体流路に相似した形状の前記感光性フィルムのマスクを形成するマスキング工程と、
前記感光性フィルムでマスキングされた前記透光性基材の表面に、研磨剤を噴射するブラスト工程と、
前記マスクを除去するマスク剥離工程と、
前記透光性基材を積層して互いを接合する透光性基材接合工程と、
を備えたことを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法。
【請求項6】
テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層して形成され、前記透光性基材の界面に沿って液体が流動する液体流路を有する、テラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法であって、
前記透光性基材の表面に、表面から順に金属膜、レジスト膜を形成し、前記レジスト膜に光又は電子ビームを照射して前記液体流路に相似した形状を描画した後、金属膜をエッチングしてエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、
前記エッチングマスクが形成された透光性基材をエッチングするエッチング工程と、
前記レジスト膜および前記エッチングマスクを剥離する剥離工程と、
前記透光性基材を積層して互いを接合する透光性基材接合工程と、
を備えたことを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−288047(P2009−288047A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140499(P2008−140499)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】