説明

テラヘルツ分光用デバイスおよびその製造方法、ならびにテラヘルツ分光装置

【課題】極薄い液体セル、プリズム光学系、およびシリコンロッドなどを用いずに、テラヘルツ波に対して大きな吸収を有する物質のテラヘルツ透過スペクトル測定を良好に行うことを可能にする。
【解決手段】基板30内に形成された空隙部と、基板30において、入力端35と出力端33との間でテラヘルツ波が伝搬されるように、周囲が空隙部に囲まれることによって形成されたエアクラッド型の導波路34とを備える。被測定対象物を収容するための収容部(第1の収容部31A,第2の収容部31B)を、導波路34の周囲において、導波路34を伝搬するテラヘルツ波がエバネッセント波として伝搬する領域を含む領域に形成する。また、エアクラッド型の導波路34を形成する空隙部が、収容部としての機能を兼ねるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いた液体試料のスペクトル分析を行うのに好適なテラヘルツ分光用デバイスおよびその製造方法、ならびにテラヘルツ分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波を利用した技術が注目を集めており、テラヘルツ波を用いた分光やイメージングが産業応用として期待されている。例えば、テラヘルツ波の応用分野として、フォトンエネルギーがX線に比べて極めて小さいことを利用して安全な透視検査装置としてテラヘルツイメージングを行う技術や、分子の振動準位や回転準位に起因する物質の吸収スペクトルや複素誘電率を求めて物質の状態や同定を行う分光技術がある。また、半導体基板のキャリア濃度や移動度の評価、またLSIチップにフェムト秒レーザを照射することにより発生するテラヘルツから配線欠陥位置を検知する技術などが開発されている。
【0003】
中でも特許文献1ないし3に開示されているように、テラヘルツ波を用いて分光光学的手法により物質を分析する方法が知られている。これは、テラヘルツ波を被測定対象試料に照射し、透過もしくは反射したテラヘルツ波のスペクトルを得ることで分析を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4154388号公報
【特許文献2】特許第4002173号公報
【特許文献3】特開2007−71610号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hideki Hirori, et al., "Attenuated total reflection spectroscopy in time domain using terahertz coherent pulses," Jpn.J.Appl.Phys, 43, L1287(2004).
【非特許文献2】Li Cheng, et al., "Terahertz-wave absorption in liquids measured using the evanescent filed of a silicon waveguide," Appl.Phys.Lett, 92, 181104 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで水は、テラヘルツ波のうち0.3THzから30THzの周波数領域に非常に強い吸収スペクトルを有しているため、水を多く含む試料のテラヘルツ分光には数μm〜数10μm程度のごく薄い液体セルを用意しなければならない。さらに時間領域でのテラヘルツ分光を行う場合には、試料界面での反射や試料内での干渉の影響を考慮すると共に、試料厚さの正確な測定が必要となる。このため水を含む試料のテラヘルツ透過スペクトルを得ることは従来では困難であった。
【0007】
そこで、水などの非常に強い吸収スペクトルをテラヘルツ領域に持つ物質の中に含まれる分子などの吸収スペクトルや複素誘電率を求める方法として、非特許文献1に開示されているような全反射減衰分光法と呼ばれる方法が知られている。これは、プリズムを用いた光学系での全反射時に発生するテラヘルツエバネッセント波を利用する方法である。エバネッセント波は、波数ベクトル方向に指数関数的に減衰する電磁場であり、この方法によりテラヘルツ吸収係数を実効的に低減させることで水などの非常に強いテラヘルツ吸収物質中の分子などの分光分析が可能となっている。しかしプリズム光学系を用いた方法では、装置構成が複雑であり、かつ高精度の組み立て技術が必要である。
【0008】
それに対して非特許文献2に開示されているようにシリコンのロッドをテラヘルツ導波路として、導波路周囲に発生するエバネッセント波をも用いる方法が提案されている。しかしながらこの方法では、シリコンロッドの高精度加工が要求されることや、エバネッセント波の発生条件を容易には調整できないこと、またシリコンロッドの保持が難しい、という問題があり装置構成の複雑化や組み立て技術の高精度化が避けられない。
【0009】
また特許文献1に開示されているような導波路構造と流路の組み合わせを利用して、流路に充填した液体試料のテラヘルツ波透過スペクトルを得る方法が知られているが、テラヘルツ波伝播方向の流路の厚みを正確に調整しなければならないため、高精度の組み立て技術が必要である。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、極薄い液体セル、プリズム光学系、およびシリコンロッドなどを用いずに、テラヘルツ波に対して大きな吸収を有する物質のテラヘルツ透過スペクトル測定を良好に行うことを可能にするテラヘルツ分光用デバイスおよびその製造方法、ならびにテラヘルツ分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスは、テラヘルツ波が入力される入力端とテラヘルツ波が出力される出力端とを含む基板と、基板内に形成された空隙部と、基板において、入力端と出力端との間でテラヘルツ波が伝搬されるように、周囲が空隙部に囲まれることによって形成されたエアクラッド型の導波路と、導波路の周囲において、導波路を伝搬するテラヘルツ波がエバネッセント波として伝搬する領域を含む領域に形成され、被測定対象物が収容される収容部とを備えたものである。
【0012】
本発明によるテラヘルツ分光装置は、テラヘルツ波を発生する発生手段と、発生手段で発生されたテラヘルツ波が入力されるテラヘルツ分光用デバイスと、テラヘルツ分光用デバイスを伝搬した後のテラヘルツ波を検出する検出手段とを備えている。
そして、そのテラヘルツ分光用デバイスを、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスで構成したものである。
【0013】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスまたはテラヘルツ分光装置では、エアクラッド型の導波路にテラヘルツ波を伝搬させることで、その導波路の近傍にエバネッセント波を発生させる。そのエバネッセント波が伝搬する領域を含む領域に収容部を形成し、被測定対象物を収容することで、テラヘルツ波と被測定対象物とを相互作用させる。これにより、プリズム光学系やシリコンロッドを用いずとも、水などの強いテラヘルツ吸収物質によるテラヘルツ吸収係数を実効的に小さくすることが可能となり、水などの強いテラヘルツ吸収物質中の分子などの吸収スペクトルを良好に得ることが可能となる。
【0014】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスの製造方法は、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造するようにしたものである。
【0015】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスの製造方法では、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、インプリント成型または光造形により大量生産することが可能となる。インプリント成型または光造形により製造可能であるのは、本発明のテラヘルツ分光用デバイスが、例えば数μmの基板製造誤差が分光性能に大きな影響を与えるということはなく、基板製造時の寸法公差による分光性能への影響を低減できるような構造とされているためである。本発明のテラヘルツ分光用デバイスで用いられているテラヘルツ領域でのエアクラッド型の導波路構造は、例えば光通信帯のフォトニック結晶構造と比べて導波路部分のコア径が数10倍から数100倍であるため紫外線硬化樹脂を含む材料を用いた光造形やインプリント成型による大量製造生産が可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のテラヘルツ分光用デバイスまたはテラヘルツ分光装置によれば、エアクラッド型の導波路にテラヘルツ波を伝搬させ、またそれによって発生したエバネッセント波が伝搬する領域を含む領域に収容部を形成して、テラヘルツ波と被測定対象物とを相互作用させるようにしたので、プリズム光学系やシリコンロッドを用いずとも、水などの強いテラヘルツ吸収物質によるテラヘルツ吸収係数を実効的に小さくすることが可能となる。これにより、極薄い液体セル、プリズム光学系、およびシリコンロッドなどを用いずに、テラヘルツ波に対して大きな吸収を有する物質のテラヘルツ透過スペクトル測定を良好に行うことが可能となる。
【0017】
本発明のテラヘルツ分光用デバイスの製造方法によれば、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造するようにしたので、大量生産が可能である。これは、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスが、例えば光通信用のフォトニック結晶構造に比べて高精度な製造公差が要求されないことなどによる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイスの構成例を示す平面図である。
【図2】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスの寸法の一例を示す平面図である。
【図3】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスを組み込んだテラヘルツ分光装置の一例を示す構成図である。
【図4】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスをテラヘルツ分光装置に導入する場合の設置方法の一例を示す斜視図である。
【図5】(A)は図4に示したテラヘルツ分光装置によって検出されるテラヘルツ波の検出結果の一例を示す波形図であり、(B)は(A)の波形に基づいて得られるテラヘルツ波のスペクトル波形を示す波形図である。
【図6】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスの収容部に被測定対象物が収容されていない状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形の一例を示す波形図である。
【図7】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスの収容部に被測定対象物を収容した状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形の一例を示す波形図である。
【図8】図6のスペクトル波形と図7のスペクトル波形とから求められる被測定対象物のテラヘルツ波に対する吸収スペクトル波形を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
[テラヘルツ分光用デバイス1の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイス1の構成例を示している。また図2は、このテラヘルツ分光用デバイス1の具体的な寸法例を示している。このテラヘルツ分光用デバイス1は、測定を行おうとするテラヘルツ波の波長に対して透明もしくは所定の透過率を持つ材料からなる基板30を備えている。基板30は、全体として例えば単一の材料(紫外線硬化樹脂を含む材料等)からなる。基板30は全体として平板状であり、図2に示したように、厚みが例えば0.1mm〜10mm程度、横方向および縦方向の長さが例えば10mm〜300mm程度となっている。
【0021】
基板30には、入力端35および出力端33と、入力端35と出力端33との間でテラヘルツ波の伝搬を行うエアクラッド型の導波路34(コア)とが設けられている。入力端35には、例えばフェムト秒レーザと光伝導アンテナとを用いて発生させたテラヘルツ波36が入力される。出力端33からは導波路34を伝搬した後のテラヘルツ波32が出力される。
【0022】
基板30には、被測定対象物(例えば液体試料)が収容される第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bが設けられている。第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bには、例えば注射器などを用いて液体試料が注入される。第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bは、導波路34の周囲において、導波路34を伝搬するテラヘルツ波がエバネッセント波として伝搬する領域を含む領域に形成されている。図1の例では、平面形状および断面形状が矩形状の収容部が設けられている構造例を示しているが、被測定対象物を充填させるための空間となっていれば良く、その形状は矩形状に限るものではない。
【0023】
第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bは、基板30における第1の面(表面)側が開放されると共に、第1の面に対向する第2の面(裏面)側が閉じた領域とされた掘り込み型の構造を有している。第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bにおける第2の面側の厚みは、テラヘルツ波の波長未満の厚みとされていることが好ましい。テラヘルツ波の波長未満の厚みとすることで、第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bにおけるテラヘルツ波の放射損失を最低限に抑えることができる。
【0024】
第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bは、エアクラッド型の導波路34を形成するための空隙部としての機能を兼ねている。このため、第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bは、基板30において入力端35と出力端33との間で、テラヘルツ波が伝搬されるエアクラッド型の導波路34が形成されるように、導波路34の周囲を囲む(挟み込む)ようにして設けられている。
【0025】
導波路34は、テラヘルツ波を伝搬させるために、図2に示したように、断面積(テラヘルツ波の進行方向に直交する方向の断面の面積)が100mm2未満の矩形の棒状コアとなっている。導波路34は、入力端35および出力端33の近傍で基板30と繋がっていることで基板30に保持される両持ち梁構造となっている。なお、導波路34をエアクラッド型のテラヘルツ導波路として機能させるためには、測定に用いるテラヘルツ波の波長に応じて必要な屈折率の材料とコア径などのコア形状を決める。これには例えばビーム伝搬法や時間領域有限差分法などの数値計算手法により設計を行う。本実施の形態では、クラッド部を持たない導波路構造によってテラヘルツエバネッセント波を発生させることが目的であるので、形状と寸法は上述したものに限るものではない。
【0026】
[テラヘルツ分光用デバイス1による作用および効果]
このテラヘルツ分光用デバイス1では、単一の基板30内に存在するエアクラッド型の導波路34によりテラヘルツ波を伝搬させることで、その導波路34の近傍にエバネッセント波を発生させる。そのエバネッセント波が伝搬する領域を含む領域に第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bを形成し、被測定対象物を収容することで、テラヘルツ波と被測定対象物とを相互作用させる。ここで発生するテラヘルツエバネッセント波は、波数ベクトル方向に指数関数的に減衰する電磁波であるが、エアクラッド型の導波路の設計パラメータであるコア形状およびコア径、そして用いる材料によりその減衰距離の制御が可能である。このため、上述の第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bで起こるテラヘルツ波と被測定対象物との相互作用の大小を制御することが可能である。
【0027】
このような方法により、プリズム光学系やシリコンロッドなどを用いずとも、水などの強いテラヘルツ吸収物質によるテラヘルツ吸収係数を実効的に小さくすることが可能となり、水などの強いテラヘルツ吸収物質中の分子などの吸収スペクトルを良好に得ることが可能となる。この場合、例えば数μmの基板製造誤差が分光性能に大きな影響を与えるということはなく、基板製造時の寸法公差による分光性能への影響を低減できる。また、このテラヘルツ分光用デバイス1で用いられているテラヘルツ領域でのエアクラッド型の導波路構造は、例えば光通信帯のフォトニック結晶構造と比べて導波路部分のコア径が数10倍から数100倍であるため、比較的高精度な製造公差は要求されず、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いた光造形やインプリント成型による大量製造生産が可能である。
【0028】
以上のように本実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイス1によれば、極薄い液体セル、プリズム光学系、およびシリコンロッドなどを用いずに、テラヘルツ波に対して大きな吸収を有する物質のテラヘルツ透過スペクトル測定を良好に行うことが可能となる。
【0029】
[テラヘルツ分光装置への適用例]
図3は、テラヘルツ分光用デバイス1を用いたテラヘルツ分光装置の一例を示している。このテラヘルツ分光装置は、フェムト秒レーザ90と、ビームスプリッタ91と、光伝導アンテナ92A,92Bと、シリコンレンズ93A,93Bと、放物面鏡94,96と、シリコンレンズ95A,95Bと、反射鏡97と、時間遅延器98とを備えている。
フェムト秒レーザ90と光伝導アンテナ92Aは、本発明における「発生手段」の一具体例に相当する。また、主として光伝導アンテナ92Bが、本発明における「検出手段」の一具体例に相当する。
【0030】
図4は、図1に示したテラヘルツ分光用デバイス1を図3に示したテラヘルツ分光装置に導入する場合の設置方法の一例を示している。テラヘルツ分光用デバイス1は、エバネッセント波を用いた測定を行うため、例えばデバイスの底面が床面に密着または密接した状態で測定を行うと、放射損失によって測定に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、デバイスの底面および表面近傍には、障害物が無い状態で測定を行うことが好ましい。例えば導波路34および収容部31A,31Bから離れた位置において基板30を部分的に支持することにより、テラヘルツ分光用デバイス1を空間中に浮かせた状態で測定を行うことが好ましい。図4に示した設置例では、土台用基板40の上で、柱状の支持部41によって四隅でテラヘルツ分光用デバイス1を部分的に支持することによりデバイス全体を空間中に浮かせた状態にしている。支持部41は、導波路34を伝搬するテラヘルツ波が発生するエバネッセント波が及ばない十分な距離(例えば10mm以上)離して設置する。なお、図4の設置例では、デバイスの下側から支持部41で支持する構造であるが、上側からデバイスを支持する構造であっても良い。例えば図4の設置例とは上下逆に、土台用基板40を最も上側に配置して、そこから支持部41を介してデバイス全体を吊り下げるような構造であっても良い。
【0031】
[テラヘルツ分光装置による測定動作]
図3に示したテラヘルツ分光装置において、フェムト秒レーザ90から100fs(フェムト秒)程度のパルス幅を持つレーザパルスを発生させる。そのレーザパルスをビームスプリッタ91で分け、一方を低温成長させたGaAs(ガリウムヒ素)等で作製され、バイアスされた光伝導アンテナ92Aのギャップ部に照射してテラヘルツ波を発生させる。そのテラヘルツ波を、光伝導アンテナ92Aの直後に設置したシリコンレンズ93Aで集め、放物面鏡94およびシリコンレンズ95Aを経て、テラヘルツ分光用デバイス1の入力端35(図1)に入射させ、内部の導波路34に結合する。テラヘルツ分光用デバイス1に入力されたテラヘルツ波は、導波路34を伝搬する間に、上述したようにエバネッセント波によって被測定対象物との相互作用がなされて、出力端33から出力される。テラヘルツ分光用デバイス1から出力されたテラヘルツ波は、シリコンレンズ95B、放物面鏡96、およびシリコンレンズ93Bを経て光伝導アンテナ92Bに結合する。
【0032】
一方で、ビームスプリッタ91で分割された他方のレーザパルスが、時間遅延器98、および反射鏡97を経て、到達時間がずれた状態で光伝導アンテナ92Bに結合する。この到達時間のずらされた各遅延時間における光伝導アンテナ92Bからの光電流を測定することで、例えば図5(A)に示したようなテラヘルツ波の電界時間波形100を得ることができる。これをフーリエ変換することで、例えば図5(B)に示したようなテラヘルツ波のスペクトル101を得ることができる。
【0033】
次に、図6〜図8を参照して、被測定対象物のスペクトルが得られる測定手順を説明する。図6は、テラヘルツ分光用デバイス1の第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bに被測定対象物が収容されていない状態で、図3のテラヘルツ分光装置によって得られるテラヘルツ波のスペクトル波形20を模式的に示している。図7は、テラヘルツ分光用デバイス1の第1の収容部31Aおよび第2の収容部31Bに被測定対象物を収容した状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形21を模式的に示している。
【0034】
このように、被測定対象物が収容されていない状態で得られたスペクトル波形20と、被測定対象物を収容した状態で得られたスペクトル波形21とを測定し、さらにそれらの比を求める。これにより、例えば図8に示したように、被測定対象物のテラヘルツ波に対する吸収スペクトル波形22を得ることができる。
【0035】
なお、図7に示したスペクトル波形21を測定する際には、第1の収容部31Aと第2の収容部31Bとの双方に被測定対象物を収容しても良いし、片方の収容部のみに被測定対象物を収容しても良い。
【0036】
<他の実施の形態>
本発明は、上記実施の形態に限定されず種々の変形実施が可能である。
例えば、テラヘルツ波の発生手段は、図3に示したようなフェムト秒レーザ90と光伝導アンテナ92Aとを用いたものに限らない。例えば量子カスケードレーザや光パラメトリック発振によって発生させたものを用いても良い。
【符号の説明】
【0037】
1…テラヘルツ分光用デバイス、30…基板、31A…第1の収容部(空隙部)、31B…第2の収容部(空隙部)、33…出力端、34…導波路(コア)、35…入力端、32,36…テラヘルツ波、40…土台用基板、41…支持部、90…フェムト秒レーザ、91…ビームスプリッタ、92A,92B…光伝導アンテナ、93A,93B…シリコンレンズ、94,96…放物面鏡、95A,95B…シリコンレンズ、97…反射鏡、98…時間遅延器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波が入力される入力端と前記テラヘルツ波が出力される出力端とを含む基板と、
前記基板内に形成された空隙部と、
前記基板において、前記入力端と前記出力端との間で前記テラヘルツ波が伝搬されるように、周囲が前記空隙部に囲まれることによって形成されたエアクラッド型の導波路と、
前記導波路の周囲において、前記導波路を伝搬するテラヘルツ波がエバネッセント波として伝搬する領域を含む領域に形成され、被測定対象物が収容される収容部と
を備えたテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項2】
前記空隙部が、前記収容部としての機能を兼ねている
請求項1に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項3】
前記導波路は、断面積が100mm2未満である
請求項1に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項4】
前記収容部は、前記基板における第1の面側が開放されると共に、前記第1の面に対向する第2の面側が閉じた領域とされた掘り込み型の構造を有し、
前記収容部における前記第2の面側の厚みは、前記テラヘルツ波の波長未満の厚みとされている
請求項1に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項5】
前記基板は、前記テラヘルツ波を透過する単一の材料からなる
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項6】
テラヘルツ波を発生する発生手段と、
前記発生手段で発生されたテラヘルツ波が入力されるテラヘルツ分光用デバイスと、
前記テラヘルツ分光用デバイスを伝搬した後のテラヘルツ波を検出する検出手段と
を備え、
前記テラヘルツ分光用デバイスは、
前記テラヘルツ波が入力される入力端と前記テラヘルツ波が出力される出力端とを含む基板と、
前記基板内に形成された空隙部と、
前記基板において、前記入力端と前記出力端との間で前記テラヘルツ波が伝搬されるように、周囲が前記空隙部に囲まれることによって形成されたエアクラッド型の導波路と、
前記導波路の周囲において、前記導波路を伝搬するテラヘルツ波がエバネッセント波として伝搬する領域を含む領域に形成され、被測定対象物が収容される収容部と
を有するテラヘルツ分光装置。
【請求項7】
前記導波路および前記収容部から離れた位置において前記基板を部分的に支持することにより、前記テラヘルツ分光用デバイスを空間中に浮かせた状態で測定を行う
請求項6に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項8】
テラヘルツ波が入力される入力端と前記テラヘルツ波が出力される出力端とを含む基板と、
前記基板内に形成された空隙部と、
前記基板において、前記入力端と前記出力端との間で前記テラヘルツ波が伝搬されるように、周囲が前記空隙部に囲まれることによって形成されたエアクラッド型の導波路と、
前記導波路の周囲において、前記導波路を伝搬するテラヘルツ波がエバネッセント波として伝搬する領域を含む領域に形成され、被測定対象物が収容される収容部と
を備えたテラヘルツ分光用デバイスを、
紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造する
テラヘルツ分光用デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−169639(P2011−169639A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31513(P2010−31513)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】