説明

テラヘルツ放射線を検出する光学技術を利用して離れたところにある物体を分析する方法

離れたところにある物体を分析する方法であって、ある体積のイオン化された雰囲気ガス(614)を、前記体積内で光ポンプビーム(612)を収束させることによって誘起して、パルス化されたテラヘルツ放射線(615)を標的物体(616)に向けて放出させる工程と、別の体積の雰囲気ガスを、前記別の体積内で光プローブビーム(624)を収束させることによってイオン化して感知用プラズマ(626)を生成する工程とを含む方法である。感知用プラズマ(626)内における、収束光プローブビーム(624)と、パルス化されたテラヘルツ放射線(615)を標的物体に反射させ、または散乱させ、あるいは透過させて生成した入射テラヘルツ波(618)との相互作用によって、放射線(628)が生成される。感知用プラズマ(626)によって放射され、結果として生成される放射線(628)の光学成分を検知することが、入射テラヘルツ波(618)に加えられた標的物体(616)の特徴を検出することを容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、テラヘルツ放射線を生成し検出することに関する。より詳細には、本発明は、光の波長の放射を使用してテラヘルツ放射線による物体の遠隔分析を容易にすることに関する。
【背景技術】
【0002】
簡易爆発物(IED)は極めて危険である。というのは、1つには簡易爆発物は発見が難しいからである。遠隔監視や現場観察により隠された爆発物を検出し得る装置は、多くの防衛・国土安全用途に極めて有益である。
【0003】
テラヘルツ波分光法は、テラヘルツ周波数域での分光的特徴を通じて、従来から多くの化学的な爆発性材料や関連の化合物を検出するのに利用されており、防衛安全用としても利用可能である。例えば、テラヘルツ波分光法は、簡易爆発物(IED)を感知する技術として関心を集めている。しかし、テラヘルツ波は大気中での水蒸気による減衰が極めて大きいので、テラヘルツ波分光法の信頼できる感知範囲は、比較的短い距離に制限されている。例えば、テラヘルツ波をパルス化すると、伝播距離を145mよりも長くすることができるが、信号対雑音比および誤警報率が許容される範囲で分光測定が行える範囲は約30mに制限される。防衛安全用として、テラヘルツ波分光法の信頼できる感知範囲を拡大することが望まれる。そのため、ある範囲の大気条件下でテラヘルツ波を確実に感知し得る範囲を拡大し、湿度に対する感受性を低くする技術が必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
簡潔に言えば、本発明は、ある範囲の大気条件下でテラヘルツ波を確実に感知し得る範囲を拡大する技術の必要性にこたえるものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一態様では、テラヘルツ放射線を検出する方法およびシステムを提供する。この方法は、ある体積の雰囲気ガスを、その体積中で光プローブビームを収束させることによってイオン化して感知用プラズマを生成するステップと、感知用プラズマ内での収束光プローブビームと入射テラヘルツ波との相互作用の結果として生成される放射線の光学成分を検出するステップとを含む。
【0006】
別の態様では、本発明は、離れたところにある物体を分析する方法およびシステムを提供する。この方法は、ある体積のイオン化された雰囲気ガスを、この体積内で光ポンプビームを収束させることによって誘起して、パルス化されたテラヘルツ放射線を標的物体に向けて放射させるステップと、別の体積の雰囲気ガスを、この他の体積の雰囲気ガス内で光プローブビームを収束させることによってイオン化して感知用プラズマを生成するステップとを含む。この方法はさらに、感知用プラズマ内での収束光プローブビームと入射テラヘルツ波との相互作用の結果として生成される放射線の光学成分を検出することを含み、この入射テラヘルツ波は、パルス化されたテラヘルツ放射線と標的物体との相互作用によって生成される。例えば、標的物体は、パルス化されたテラヘルツ放射線を反射、散乱、または透過させて、感知用プラズマへの入射波を生成する。
【0007】
第3態様では、本発明は、離れたところにある物体を分析する方法を提供する。この方法は、ある体積のイオン化された雰囲気ガスを、この体積内で光ポンプビームを収束させることによって誘起して、パルス化されたテラヘルツ放射線を標的物体に向けて放射させること、光ポンプビームによって生成された上記と同じ体積のイオン化された雰囲気ガス内で光プローブビームを収束させること、この体積のイオン化された雰囲気ガス内での収束光プローブビームと入射テラヘルツ波との相互作用の結果として生成される放射線の光学成分を検出することとを含み、入射テラヘルツ波は、パルス化されたテラヘルツ放射線と標的物体との相互作用によって生成される。
【0008】
本発明の上記その他の目的、特徴、および利点は、本発明の様々な態様の以下の詳細な説明を添付の図面と併せ読めば明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
パルス化されたテラヘルツ波による分光法によれば、簡易爆発物(IED)を作り出すことができる化合物を近距離で感知することができる。例えば、化合物RDXは、好天では最大30mの距離で検出されるが、高湿度条件においては、テラヘルツ放射線を使用した検出範囲は10m未満に短くなることがある。その理由は、テラヘルツ波の空気中での伝播が水蒸気による吸収によって大きく制限されるからである。例えば、大気中を通過するテラヘルツ波の減衰は、湿度レベルがたかだか20%でも100dB/kmよりも大きくなる。3%〜100%の湿度レベルでの減衰の影響を測定すると、外気中で、テラヘルツ波が100mよりも長く進んだ後で、そのテラヘルツ波から有用なテラヘルツ分光情報を得るのは実用的でないことがあることが示される。一方、空気中では、光パルス(すなわち、例えば可視光パルス)の減衰は、テラヘルツ波よりもかなり小さい(0.01dB/km程度)。本発明によれば、光パルスを使用してテラヘルツ波の生成を誘起し、テラヘルツ波の入射を感知し得るので、テラヘルツ分光法において光放射を有利に使用してテラヘルツ波を遠隔的に生成かつ検出することができ、そのため、大気中でテラヘルツ放射線の減衰が大きいという問題が解決され、それによって、テラヘルツ分光法により爆発性材料を検出し得る有効範囲を長くすることができる。
【0010】
一態様では、本発明は、テラヘルツ放射線と光プローブビームとの相互作用から得られる光放射線を検出することによってこのテラヘルツ放射線を検出する技術を提供する。別の態様では、本発明は、テラヘルツ放射線と光放射線との組合せを利用して、遠くから爆発物および爆発物関連化合物を検出する技術を提供する。このテラヘルツ放射線は、パルスレーザビームを収束させて標的物体の近くのある体積の雰囲気ガスをイオン化することによって標的物体近傍で生成される。一実施形態では、パルスレーザは、光ビームの焦点周りの周囲空気をイオン化することによってプラズマを生成する光ビームを提供する。このようにして得られたイオン化された周囲空気のプラズマの一部はテラヘルツ波放出器として使用され、このようにして得られたイオン化された周囲空気のプラズマの他の部分はテラヘルツ波感知器として使用される。標的の近傍で光ビームを透過させることによって、標的の近くでテラヘルツ波を生成し検出することができ、それによって水蒸気による減衰が減少する。本発明者らは、イオン化された空気をテラヘルツ波の放出器および感知器として使用することによるテラヘルツ波生成のコヒーレント制御およびテラヘルツ波のコヒーレント検出をそれぞれ実験で実証した。
【0011】
一実施形態では、レーザ源からのフェムト秒(fs)光パルスを使用して、空気などの雰囲気ガス内で放出用および感知用のプラズマを生成する。この放出用プラズマを誘起して、標的物体の近くで、この標的物体に向けられるテラヘルツ放射線を生成し、感知用プラズマは、テラヘルツ放射線と標的との相互作用から得られるテラヘルツ波を検出する。テラヘルツ放射線と標的との相互作用には、標的によるテラヘルツ放射線の反射、散乱、および透過が含まれる。爆発物またはそれに関連する化合物は、感知用プラズマによって検出されるテラヘルツ波中の、指定した分光的材料特徴を識別することによって検出される。
【0012】
爆発物関連化合物を遠隔検出する技術の態様によれば、最初から空気中でテラヘルツ波を透過させるのではなく、周囲のガスを通して光ビームを透過させ、標的近傍のある体積の雰囲気ガス内で収束させてテラヘルツ放射線を生成する。最初からレーザ源近くに配置したテラヘルツ放射検出器によって標的から反射した、または標的によって散乱した、あるいは標的を透過したテラヘルツ放射線を検出するのではなく、パルス化されたレーザ放射を標的近くの別の体積の雰囲気ガス内で収束させてテラヘルツ波感知器を提供してもよい。こうすると、たとえ大気の湿度が高くても、より遠方の(例えば、100m以上離れた)標的の感知または分析が容易になる。一実施形態では、フェムト秒パルスレーザを空気中で透過させ、標的近くのある点で収束させる。このパルス化されたレーザ放射線は、標的近くのある体積の空気をイオン化し、このイオン化された空気(すなわちプラズマ)により、テラヘルツ波放出器が提供される。パルス化されたレーザ放射線を別の体積の雰囲気ガス内で収束させて、テラヘルツ波感知器を提供してもよい。
【0013】
このような一実施形態では、レーザ源からのパルスレーザビームは、光ビームスプリッタによって2本のビームに分割されて、放出用および検出用のプラズマが別々に得られる。これらのビームの一方は、標的近くの空気中でテラヘルツ波を生成し、他方のビームにより、所望の位置でテラヘルツ波が検出される。光ビームの焦点の場所は、1つまたは複数の光学収束要素によって制御することができ、そのため、テラヘルツ放射源の場所を制御し得る。収束された光ビームにより空気プラズマ(イオン化されたガス分子)が生成され、この空気プラズマから高強度高指向性広帯域テラヘルツ波が放出される。標的近くの雰囲気ガスをイオン化する収束光ビームによって生成される感知用プラズマは、この感知用プラズマに入射するテラヘルツ波を感知する。例えば、感知用プラズマに入射するテラヘルツ波は、放出用プラズマによって放出されたテラヘルツ波を物体が反射、散乱、または透過させることによって得られるものとし得る。また、1つまたは複数の光学収束要素によって感知用プラズマの場所を制御することもできる。
【0014】
図1Aおよび図1Bに、物体105を遠隔分析するシステム101の一実施形態であって、このシステムを使用し得る環境の例を示す。この実施形態では、操作者は、テラヘルツビームではなく光ビーム102を標的に向ける。標的は、物体近くのプラズマ103によって放出されるテラヘルツ波104の一部を反射する。図1Aでは、物体から反射したテラヘルツ波106は、物体近くの感知用プラズマ110によって感知される。感知用プラズマ110は、反射テラヘルツ波に加えられた物体の分光的特徴を担持した光波108を放出する。図1Bでは、物体によって散乱したテラヘルツ波107が、物体近くの感知用プラズマ111によって感知される。感知用プラズマ111は、散乱テラヘルツ波に加えられた物体の分光的特徴を担持した光波109を放出する。感知用プラズマによって放出された光放射線は、離れた分析システムによって検出される。
【0015】
図2に、本発明の態様による、物体を遠隔分析するシステムの別の実施形態を示す。この実施形態では、レーザ源201は、可視波長のポンプビーム202を提供し、このポンプビームは、ある体積203の雰囲気ガス内で収束される。光ポンプビーム202によって体積203中でガスが励起されると、それによって励起ガスが誘起されてテラヘルツ放射線が放射される。放出されたテラヘルツ放射線204は標的物体207に向けられる。任意選択で、放出されたテラヘルツ放射線204は、テラヘルツ収束装置205によって集束させてもよい。入射したテラヘルツ波206は、標的物体207と相互作用し、標的物体207は、入射テラヘルツ波206の一部を反射テラヘルツ波208として反射する。この実施形態では、光ポンプビーム202から光プローブビーム209が得られる。光プローブビーム209は、別の体積210の雰囲気ガス内で収束され、このガスは、光プローブビーム209によってその焦点の周りで励起される。反射テラヘルツ波208は体積210に入射し、そこで、光プローブビームと反射テラヘルツ波の非線形混合の結果として、光プローブビームの周波数の第2高調波を含む光信号が励起ガスから放出される。光プローブビームと反射テラヘルツ波との非線形相互作用の結果として放出された光信号は光検出器211で検出することができ、コンピュータ212は、検出された光信号を処理して標的物体の特徴を得る。コンピュータ212は、検出された標的物体の特徴に基づいて、標的物体の分析結果に関する情報を伴う表示213を提供し得る。任意選択で、テラヘルツ収束装置によって反射テラヘルツ波208を体積210内で収束させてもよい。
【0016】
本発明の態様に従って励起されるプラズマによって放出されるテラヘルツ波場の振幅は、ある閾値以降は、イオン化光ビームの出力に比例して増加することが実験により示されている。一実施形態では、増幅型チタンサファイアレーザを使用して100対1の信号対雑音比が得られた。本発明の別の態様によれば、基本周波数およびその第2高調波を含む光ビームを使用してプラズマを生成すると、得られるテラヘルツ場の強さが大きくなる。焦点距離が200mmのレンズを備える一実施形態では、得られるテラヘルツ場の指向性は極めて高くなり、その回折角は6度未満である。
【0017】
標的物体の分析に関する本発明の態様によれば、光学的に誘起されたテラヘルツ波は標的の少なくとも一部を照明する。光学的に誘起されたテラヘルツ波と物体との相互作用の結果、材料の周波数吸収特性などの分光的特徴が、物体によって反射または散乱したテラヘルツ波のスペクトルに加えられる。物体によって反射または散乱したテラヘルツ波を感知するために、レーザ源から30mよりも遠く離れた場所で第2光ビームが収束される。次いで、入射した反射テラヘルツ波に応答して感知用プラズマによって放出される光放射線が検出され、検出された光放射中の材料の特徴が識別される。光放射線にテラヘルツ波を変調として加えることによって、30mよりも遠く離れていても、空気中でのテラヘルツ波の確実な遠隔検出がうまく行われる。というのは、水蒸気による光放射線の減衰はテラヘルツ放射線の減衰よりもはるかに小さいからである。
【0018】
光プローブビームの焦点スポットの周りの感知用プラズマでは、基本周波数(波長)放射線の光子がテラヘルツ波の光子と相互作用して、3次非線形光学過程により第2高調波光の波長の光子が生成される(空気中での等方的性質により、3次非線形係数だけがゼロでなくなる)。時間分解第2高調波光を測定することによって、反射テラヘルツ波が担持する分光的特徴情報を復号し得る。したがって、空気中で光ビームを透過させて物体に向けられた局所テラヘルツ波を誘起し、光ビームを受け取って物体によって反射または透過したテラヘルツ波を遠隔検出することによって、より離れた距離で、IEDなどの物体を遠隔識別することができる。この測定値は、例えば、第2高調波光の強度、偏光、および位相の1つまたは複数を含み得る。
【0019】
物体を遠隔分析する技術の一実施形態では、本発明の態様によれば、雰囲気ガス内でテラヘルツ放射線を生成する技術がいくつか提供される。図3A、図3B、および図3Cに、本発明で使用し得る光ビームを使用してテラヘルツ波を生成する3つの技術を示す。図3A、図3B、および図3Cの例では、パルス化された光ビームがビームの焦点の周りの雰囲気ガスをイオン化し、その結果、ある体積のプラズマが生成される。このプラズマのイオン化されたガスは、広帯域テラヘルツ波を放射する。図3Aに、1つの波長が支配的であるパルスレーザビーム301をレンズ302で収束することによってテラヘルツ波303が生成されるところを示す。得られたテラヘルツ波は広い帯域を有する。
【0020】
図3Bでは、ダイクロイックミラー305は、基本周波数の光を含む基本光ビーム304と、基本周波数の第2高調波を含む高調波光ビーム306とを混合する。高調波光ビーム306は、基本光ビーム304に対して位相遅れτを有することがある。レンズ307は、基本光ビーム304および高調光波光ビーム306を同じ体積の雰囲気ガス内で収束させる。基本周波数および第2高調波周波数をともに含むパルス化された光放射線によって誘起されるテラヘルツ波308は、図3Aに示す単一波長の光放射線によって誘起されるテラヘルツ波よりも強いことがある。
【0021】
図3Cに、雰囲気ガスをイオン化し、イオン化されたガスを誘起してテラヘルツ波313を放出させる技術の別の例を示す。図3Cでは、レンズ310は、基本周波数を含むパルス化された光ビーム309を収束する。ベータ硼酸バリウム(BBO)結晶などの非線形光学結晶311が、レンズ310とこのレンズの焦点との間に配置される。この非線形光学結晶により、基本周波数成分および第2高調波成分をともに含む光ビームが生成される。得られた基本周波数波および第2高調波により放出用プラズマ312が生成され、放出用プラズマ312から強いテラヘルツ波の放出が誘起される。図3A、図3B、および図3Cに示す技術において波長板などの追加の光学処理コンポーネントを使用して、生成されたテラヘルツ放射線の特性をさらに制御し得ることが当業者には理解されよう。
【0022】
図3Aの技術の一例では、光ビームは、波長が800nmのレーザの100フェムト秒のパルスを含む。別の例では、光ビームは、波長が400nmのレーザの100フェムト秒のパルスを含む。図3Bの技術の例では、基本光ビームの波長は800nmであり、第2高調波光ビームは波長が400nmのパルスレーザを含む。図3Cの技術の一例では、レンズに入射する基本光ビームの波長は800nmである。
【0023】
基本光波およびその第2高調波によってテラヘルツ波が誘起されると、基本光波のエネルギーがある閾値を超えた後では、基本光波のエネルギーに比例して電場の強度が増加することがわかっている。それに比べて、得られるテラヘルツ波の電場は、基本光波のエネルギーがある閾値を超えた後では、第2高調波光ビームのエネルギーの平方根にほぼ比例して増加することがわかっている。このエネルギー閾値は空気をイオン化するためのエネルギーの閾値に極めて近いことが観察されている。
【0024】
800nmまたは400nmの単一波長光パルスによって誘起されたテラヘルツパルスの偏光の測定値から、得られるテラヘルツパルスの偏光は、パルスが伝播する方向に直交する方向にほぼ一様であることが示されている。また、誘起されたテラヘルツパルスの偏光と、S偏光またはP偏光の光励起パルスの偏光との差は20%未満であった。
【0025】
基本光パルスおよび第2高調波光パルスによって誘起されるテラヘルツ波の電場の強さは、基本光励起パルスおよび第2高調波光励起パルスの偏光、強度、および相対位相を制御することによって変化し得ることもわかった。
【0026】
本発明の別の態様では、イオン化された雰囲気ガスは、テラヘルツ放射線を検出する感知器として使用される。使用し得る雰囲気ガスの一例は空気である。テラヘルツ波感知器として空気を使用することは、感知場所を選択するのに柔軟性があり有利である。というのは、空気は、対象とする多くの環境において分析対象の標的物体を取り囲んでいるからである。イオン化された空気の3次非線形感受率を利用することによって空気中でテラヘルツ波を生成するのと同様に、3次非線形光学過程によってテラヘルツ波はイオン化された空気中で検出される。当業者には理解されるように、いくつかの技術により、空気中で3次非線形光学過程を得ることが可能である。光プローブパルスは、光プローブパルスによってイオン化された空気を含む感知用プラズマ中で、入射するテラヘルツ波と相互作用する。得られた光パルスは、プローブパルスの基本周波数の第2高調波の光放射線を含む。光放射線の偏光回転の測定は周知のものであり、偏光の変化を測定することによって、テラヘルツ波を高感度かつ間接的に検出する技術が得られる。
【0027】
別の実施形態では、イオン化された空気と、入射するテラヘルツ波と、光プローブパルスとの非線形相互作用により、プローブパルスの第2高調波が生成され、この第2高調波光放射が検出される。この実施形態では、得られる第2高調波光放射は、入射テラヘルツ波で変調されており、プローブパルスの周波数と異なる周波数を含む。この技術は、有利には、弱い感知器出力信号の検出を可能にする。というのは、プローブビームと感知器出力信号の周波数に差があることから、プローブビームからの強いバックグラウンドの干渉を容易に抑えることができるからである。
【0028】
下記の式は、得られる第2高調波光放射の電場の強さE2ω(t,τ)と、入射テラヘルツ波の電場および非コヒーレント検出用プローブビームの電場との比例関係を示すものである。
2ω(t,τ)∝ETerahertz(t−τ)Eω(t)Eω(t)=ETerahertz(t−τ)Iω(t)
ここで、Eω(t,τ)は、周波数がωの光プローブビームの電場の強さであり、ETerahertz(t−τ)は、入射テラヘルツ波の電場の強さである。感知用プラズマによって放出される第2高調波光放射の電場の強さE2ω(t,τ)はプローブビームの強度(Iω(t))にも比例する。というのは、光プローブビームの電場Eω(t)の平方は、その強度に比例するからである。上式が示すように、2つの基本周波数光子と1つのテラヘルツ光子が感知用プラズマ内で相互作用して、第2高調波光子が生成される。時間分解第2高調波光信号が検出され、それによって入射テラヘルツ波が担持する情報が得られる。E2ω(t)∝ETerahertz(t−τ)Iω(t)の式から、入射プローブビームおよびテラヘルツ波に応答して感知用プラズマによって放出される第2高調波の強度I2ω(t)が光プローブビームの強度の平方に比例することは明らかである。すなわち、I2ω(t)∝ITerahertz(t−τ)Iω(t)であり、ここで、ITerahertz(t−τ)は入射テラヘルツ波の強度である。このことは、基本周波数ωを有する強いプローブビームにより、感知用プラズマによって放出される第2高調波光放射の強度が増加することによって、弱いテラヘルツ波の検出が大きく改善され得ることを示している。
【0029】
図4に、本発明の態様による、感知器として空気プラズマを使用するテラヘルツ放射線の検出技術の一実施形態を示す。この実施形態では、ダイクロイックミラー401は、光プローブビーム402とテラヘルツ波403を、光プローブビームをレンズ404に向けて透過させ、テラヘルツ波をレンズ404に向けて反射させることによって混合する。レンズ404は、入射する光プローブビームおよびテラヘルツ波を雰囲気ガス内で収束させる。収束された光プローブビームは、レンズの焦点の周りのある体積内で雰囲気ガスをイオン化して感知用プラズマ405を生成する。光プローブビーム402およびテラヘルツ波403は、感知用プラズマ405内で収束される。感知用プラズマ405内で光プローブビームとテラヘルツ波が相互作用する結果、得られた光放射線406が感知用プラズマ405から放出される。光放射線406は、プローブビームの周波数の第2高調波周波数を含む。
【0030】
別の実施形態では、テラヘルツ放射線のコヒーレント検出技術を利用する。この実施形態では、検出対象のテラヘルツ放射線は、テラヘルツ放射線を誘起したのと同じポンプ
ビームから得られたプローブビームと非線形に混合される。その結果、光プローブビームの時間遅れとテラヘルツ放射線の時間遅れが相関づけられる。また、強い基本プローブビームにより、第2高調波バックグラウンドも生成される。こうした条件下では、感知用プラズマ内での光プローブビームと入射テラヘルツ放射線との非線形相互作用の結果として放出される第2高調波光放射は、下記の式によって特徴づけされ得る強度I2ωを有する。この式は、得られる第2高調波光放射の強度I2ω(t,τ)と、入射テラヘルツ波の電場およびコヒーレント検出用プローブビームの電場との比例関係を示している。
2ω∝(IωTerahertz
ここで、Iωは周波数ωを有する光プローブビームの強度であり、ETerahertzは入射テラヘルツ波の電場の大きさである。感知用プラズマによって出力される第2高調波光放射の強度I2ωは、プローブビームの強度の平方に比例する。感知用プラズマによって出力される第2高調波光放射の強度I2ωは、入射テラヘルツ波の電場の大きさにも比例する。実験による測定値から、コヒーレント検出またはホモダイン検出が適していること、ならびに、感知用プラズマによって放出される光放射の強度は、上式で示すようにプローブビームおよび入射テラヘルツ放射線に関係していることが示されている。
【0031】
テラヘルツ放射線のコヒーレント検出技術の一実施形態では、光電子増倍型検出器を使用して、感知用プラズマ内での光プローブビームとテラヘルツ波との相互作用の結果として放出される光放射を検出する。テラヘルツ放射線のコヒーレント検出技術の別の実施形態では、フォトダイオードを使用して感知用プラズマによって放出される光放射を検出した。
【0032】
レーザ誘起空気プラズマの寿命は150ピコ秒よりも長くなり得ることが実験で観察されているので、離れたところにある物体を分析する技術の実施形態で、同じ空気プラズマを、テラヘルツ波を生成する放出用プラズマとして使用し、その後でテラヘルツ波を検出する感知用プラズマとして使用し得る。テラヘルツ波を生成する光ポンプビームによって得られる大きな共鳴3次非線形性を利用するために、テラヘルツ波放出器として使用される同じプラズマに比較的弱いプローブビームを送って、このプラズマに入射するテラヘルツ波を検出することが可能である。
【0033】
図5に、テラヘルツ放射線を検出するシステムの一実施形態を示す。この実施形態は、光プローブビーム501の供給源と、感知用プラズマ505を誘起するためのレンズ502と、パラボリックミラー503を備える。この実施形態では、感知用プラズマ内での光プローブビーム501とテラヘルツ放射線504との相互作用の結果として、第2高調波光ビーム506が放出される。レンズ502は、光プローブビーム501を収束させる。パラボリックミラー503は、収束された光プローブビームを通過させる開口を有する。また、このパラボリックミラーは、収束された光プローブビームによって励起されるある体積の雰囲気ガス内でテラヘルツ放射線を収束させる。第2高調波光ビーム506は、入射テラヘルツ放射線が担持する情報によって変調されており、レンズ508およびフィルタ510を透過し、光電子増倍型検出器512によって検出される。レンズ508は、より強い信号が得られるように第2高調波光ビーム506を集束させる。フィルタ510は、光電子増倍型検出器512が第2高調波光ビーム506を検出する前に、光プローブビームを含めて光学的なバックグラウンド放射を減衰させる。実施形態の例では、光プローブビームは波長800nmの放射線のパルスを含み、得られる第2高調波光ビームは波長400nmの放射線のパルスを含む。
【0034】
図6Aおよび図6Bに、本発明の別の態様による、離れたところにある物体を分析するシステム601の一実施形態を示す。このシステムは、光ポンプビームの供給源と、光ポンプビームを収束させる手段と、光プローブビームの供給源と、標的物体によって被検出テラヘルツ放射線に加えられた標的物体の特徴によって変調される光プローブビームを収束させる手段と、光検出器とを備える。光ポンプビームは、イオン化されたガスを誘起して分析対象物体に向けられるテラヘルツ放射線を生成する。物体に入射するテラヘルツ放射線は物体と相互作用し、この物体は、入射テラヘルツ放射線の少なくとも一部を(図6Aのように)反射または(図6Bのように)散乱させる。光プローブビームの供給源は、ある体積の雰囲気ガスをイオン化して感知用プラズマを生成するための収束光プローブビームを提供する。光プローブビームと、物体によって反射または散乱したテラヘルツ放射線との相互作用の結果得られた光ビームが感知用プラズマから放出される。このようにして得られ、感知用プラズマによって放出された光ビームは、光電子増倍型検出器またはフォトダイオードなどの光検出器によって検出される。
【0035】
図6Aおよび図6Bの実施形態では、光ポンプビームの供給源は、レーザ源602、ビームスプリッタ604、光学遅延装置606、およびレンズ608を備える。光学遅延装置606の一例として、光放射の伝播経路の長さを長くするように配置された一連のミラーがある。レンズ608は、レーザ源が提供する光ビームを収束させて、光ポンプビーム612を生成する。この実施形態では、光ポンプビーム612は、ある体積内の雰囲気ガスをイオン化して放出用プラズマ614を生成する。光ポンプビーム612と放出用プラズマ614との相互作用により、放出用プラズマが誘起されて、分析対象物体616に向かって伝播するテラヘルツ放射線615が放出される。入射するテラヘルツ放射線に応答して、物体は、入射テラヘルツ放射線の一部を(図6Aのように)反射または(図6Bのように)散乱させて、反射テラヘルツ放射線618または散乱テラヘルツ放射線618’が生成される。
【0036】
図6Aおよび図6Bのシステムは、ある体積内の雰囲気ガスをイオン化して感知用プラズマ626を生成するための光プローブビーム624も提供する。光プローブビーム624は、ビームスプリッタ604、ミラー620、およびレンズ622によって生成される。ビームスプリッタ604は、レーザ源602からの光放射の一部をミラー620に向ける。ミラー620は、ビームスプリッタから入射する光放射をレンズ622に向け、レンズ622は、ミラー620からの光放射を収束させて光プローブビーム624を形成する。感知用プラズマ626内での光プローブビーム624と反射または散乱されたテラヘルツ放射線618との相互作用の結果、得られた光放射628が感知用プラズマから放出される。得られた光放射628は、例えば、光プローブビームの基本周波数の第2高調波周波数を含み、レンズ630によって集束され、フィルタ632によってフィルタリングされて、バックグラウンド光放射が減衰する。光検出器634は、得られた光放射628のうちフィルタ632を通過する第2高調波成分を検出する。光検出器634は、例えば光電子増倍型検出器を含み得るが、別の例としてフォトダイオードを含み得る。
【0037】
図6Aおよび図6Bの実施形態では、光ポンプビーム源は、ベータ硼酸バリウム(BBO)結晶などの非線形光学結晶610を備えてもよく、それによって、放出用プラズマが誘起されてより強いテラヘルツ放射線が放出される。
【0038】
図6Cおよび図6Dに、本発明の態様による、離れたところにある物体を分析するシステム640の別の実施形態を示す。図6Cおよび図6Dのシステム640は、図6Aおよび図6Bのシステム601に追加された非線形光学結晶623を備える。この実施形態では、非線形光学結晶623は、光プローブビーム624を生成する光学処理経路においてレンズ622の後方に配置される。非線形光学結晶623によって生成される光プローブビーム624は、レーザ源が出力する光放射の周波数を有する基本周波数成分と、第2高調波成分をと含む。感知用プラズマ内での光プローブビームの基本周波数成分および光プローブビームの第2高調波と、入射するテラヘルツ放射線との相互作用の結果得られた第2高調波周波数を含む光放射が感知用プラズマによって放出される。こうした得られた光放射線は、反射テラヘルツ放射線に担持される物体の特徴によって変調されている。
【0039】
図6Eに、本発明の態様による、離れたところにある物体を分析するシステムの実施形態を示す。この実施形態では、同じプラズマをテラヘルツ放射線の放出器および感知器として使用する。図6Cの実施形態と同様に、光ポンプビーム612は、ある体積内の雰囲気ガスをイオン化して放出用プラズマ614を生成する。放出用プラズマ614は、分析対象物体616に向かって伝播するテラヘルツ放射線615を放出する。入射するテラヘルツ放射線に応答して、物体は、入射テラヘルツ放射線の一部を反射して、反射テラヘルツ放射線618を生成する。図6Eの実施形態では、離れたところにある物体を分析するシステム640は、放出用プラズマ614内で光プローブビーム624を収束させ、放出用プラズマ614内での光プローブビーム624と反射テラヘルツ放射線618との相互作用の結果として、光放射628が生成される。すなわち、標的物体に向けられるテラヘルツ放射線を放出する同じプラズマを使用して、テラヘルツ放射線615と分析対象物体616との相互作用によって得られるテラヘルツ放射線も感知する。光検出器634は、得られた光放射628のうちフィルタ632を通過した成分を検出する。例えば、検出される成分は、光プローブビーム624の第2高調波とし得る。
【0040】
図7Aおよび図7Bに、本発明の態様による、光学的に誘起されるイオン化ガスを使用してテラヘルツ放射線を放出し検出するシステムの実施形態を示す。図7Aでは、標的物体を透過するテラヘルツ波を測定し、図7Bでは、物体から反射するテラヘルツ波を測定する。チタンサファイア増幅器を備えるレーザ源は、光パルスを含むレーザビーム702を生成する。例えば、チタンサファイア増幅器は、中心波長が800nmの120フェムト秒の光パルスを1kHzの繰返し率で生成する。この実施形態の一例では、レーザビーム702の光パルスは800μJ以上のエネルギーを有する。レーザビーム702は、ビームスプリッタ704によって2本のビームに分割される。基本ポンプビーム706である一方のビームを使用してテラヘルツ波を生成し、プローブビーム730である他方のビームを使用してこのテラヘルツ波を検出する。基本ポンプビーム706は、複数のミラーを含む光学遅延器708によって遅らされる。遅れた基本ポンプビーム706はレンズ710によって収束される。こうして遅らされ収束された基本ポンプビームは、非線形光学装置712によって処理されて、周波数がωの基本ポンプビームと、周波数が2ωの第2高調波とを含む合成光ポンプビーム714が生成される。一実施形態では、この非線形光学装置は、厚さ100mmのタイプIベータ硼酸バリウム(BBO)結晶を含む。この合成ポンプビームは、雰囲気ガス(例えば、空気)内で収束されて放出用プラズマ716が生成される。合成ポンプビーム714は、放出用プラズマ716を誘起して、4波混合光学過程によって生成される高強度高指向性広帯域テラヘルツ波718が放出される。図7Aでは、テラヘルツ波718は、パラボリックミラー720によってコリメートされ、標的物体721を透過し、再収束ミラー724によって収束される。一実施形態では、コリメートミラー720は、直径が76.2mmであり、有効焦点距離は101.6mmである。再収束ミラー724は、直径が50.8mmであり、焦点距離は50.8mmである。図7Bでは、テラヘルツ波718は、パラボリックミラー720によってコリメートされ、金属ミラー750および754によって方向が変えられ、標的物体752によって反射される。いずれの実施形態でも、テラヘルツ波は、再収束ミラー724である第2パラボリックミラーによって収束され、再収束ミラー724は、収束されたプローブビーム738が通過し得る穴を有する。再収束ミラー724は、収束されたプローブビーム738が通過し得る穴を有する。フィルタ722は、テラヘルツ波718を透過させ、残りの800nmおよび400nmのビームを遮断する。例えば、フィルタ722は、高抵抗率シリコンウエハを含み得る。
【0041】
半波長板732を使用してプローブビーム730の偏光を制御することができ、フィルタ734を使用してこのプローブビームをさらに処理することができる。レンズ736は、ある体積の雰囲気ガス内でプローブビームを収束させ、この雰囲気ガス内で感知用プラズマ740が生成される。テラヘルツ波718は、その生成とは逆の過程で検出される。この逆過程では、収束プローブビーム738と入射テラヘルツ場を混合することによって第2高調波光信号742が生成される。第2高調波光信号742を時間分解測定することにより、テラヘルツ場718の振幅および位相のコヒーレント検出が行われる。
【0042】
図7Aおよび図7Bに示す実施形態の例では、テラヘルツ波およびプローブビームは、感知用プラズマ740内の同じ点で収束される。ここで、焦点スポットの推定直径はそれぞれ約0.8mmおよび24μmである。テラヘルツ場により誘起された第2高調波光信号は、光電子増倍管748によって検出される。任意選択で、レンズ744で第2高調波光信号を収束させ、フィルタ746を採用して光プローブビームの基本周波数での放射を含むバックグランド光放射を減衰させることによって、第2高調波光信号742の検出を改善させてもよい。図7Aおよび図7Bの実施形態では、プローブビームの強度が1.8×1014W/cm未満のときに単極波形が検出された。この強度レベルよりも大きいところでは、検出される波形が変化し始め、約5.5×1014W/cmよりも大きいところでは、第2高調波の測定波形は双極になり、コヒーレント検出が実現される。
【0043】
図7Cに、本発明の態様による、光学的に誘起されるイオン化ガスを使用してテラヘルツ放射線を放出し検出し、それによって物体を分析するシステムの別の実施形態を示す。この実施形態では、標的物体を透過するテラヘルツ波が検出される。この実施形態は、図7Aに示す実施形態と類似している。図7Cの実施形態は、標的物体721が、パラボリックミラー720とフィルタ722の間ではなく、放出用プラズマ716とパラボリックミラー720の間に配置されるという点で図7Aの実施形態と異なっている。
【0044】
図8Aに、本発明による図7Cの実施形態を使用して得られた生化学トリプトファンの吸収係数の測定値のグラフ801を示す。この試験では、図7Cの標的物体721は、トリプトファン試料を含むものとした。光電子増倍管748によって検出された光信号を分析して、約0.25THz〜2THzの範囲の周波数についてトリプトファンの吸収係数の測定値が得られた。
【0045】
図8Bに、本発明による図7Cの実施形態を使用して得られた、相対湿度30%での水蒸気によるテラヘルツ放射線の減衰の測定値のグラフ802を周波数の関数として示す。この試験では、標的物体721は、経路長が約38cmの水蒸気試料を含むものとした。光電子増倍管748によって検出された光信号を分析して、約0.5THz〜6THzの範囲の周波数について、38cmの経路にわたる水蒸気によるテラヘルツ放射線の減衰の測定値が得られた。
【0046】
図9Aに、本発明の態様による、離れたところにある物体を分析し、分光分析システムを実現するシステム901の実施形態を示す。システム901は、図6Aのシステム601を備え、信号902を分析する分光信号処理ユニット903をさらに備える。信号902は、得られた光放射628の検出成分に応答して、光検出器634によって提供される。
【0047】
図9Bに、本発明の態様による、離れたところにある物体を分析し、分光画像化を実現するシステム901の別の実施形態を示す。この実施形態では、システム901はさらに、分光信号処理ユニット903に接続された画像化信号処理ユニット904を備える。画像化信号処理ユニット904は、分光信号処理ユニット903の出力から、標的物体またはその特徴の分光画像を生成する。分光信号処理ユニット903および画像化信号処理ユニット904は、例えば、コンピュータ、マイクロプロセッサ、またはデジタル信号プロセッサ(DSP)チップ上で実行可能な命令からなるプログラムを含み得る。
【0048】
本明細書では本発明のいくつかの態様を説明し図示してきたが、当業者なら、代替態様によって同じ目的を実現することができよう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の趣旨および範囲に含まれるあらゆる代替態様を包含することが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1A】物体を遠隔分析するシステムの一実施形態を、このシステムを使用し得る環境の例で示す図であり、物体から反射したテラヘルツ波が検出される。
【図1B】物体を遠隔分析するシステムの一実施形態を、このシステムを使用し得る環境の例で示す図であり、物体によって散乱したテラヘルツ波が検出される。
【図2】本発明の態様による、物体を遠隔分析するシステムの別の実施形態を示す図である。
【図3A】本発明の態様による、光ビームを使用することによって雰囲気ガス内でテラヘルツ放射線を生成する技術を示す図である。
【図3B】本発明の態様による、光ビームを使用することによって雰囲気ガス内でテラヘルツ放射線を生成する技術を示す図である。
【図3C】本発明の態様による、光ビームを使用することによって雰囲気ガス内でテラヘルツ放射線を生成する技術を示す図である。
【図4】本発明の態様による、感知器としてガスプラズマを使用するテラヘルツ放射線の検出技術の一実施形態を示す図である。
【図5】本発明の態様による、感知器としてイオン化されたガスを使用してテラヘルツ放射線を検出するシステムの一実施形態を示す図である。
【図6A】本発明の態様による、離れたところにある物体を分析するシステムの実施形態を示す図である。
【図6B】本発明の態様による、離れたところにある物体を分析するシステムの実施形態を示す図である。
【図6C】本発明の態様による、離れたところにある物体を分析するシステムの別の実施形態を示す図である。
【図6D】本発明の態様による、離れたところにある物体を分析するシステムの別の実施形態を示す図である。
【図6E】本発明の態様による、同じプラズマをテラヘルツ放射線の放出器および感知器として使用し、離れたところにある物体を分析するシステムの実施形態を示す図である。
【図7A】本発明の態様による、光学的に誘起されるイオン化ガスを使用してテラヘルツ放射線を放出し検出し、それによって物体を分析するシステムの実施形態を示す図であり、標的物体を透過するテラヘルツ波が検出される。
【図7B】本発明の態様による、光学的に誘起されるイオン化ガスを使用してテラヘルツ放射線を放出し検出し、それによって物体を分析するシステムの実施形態を示す図であり、標的物体から反射したテラヘルツ波が検出される。
【図7C】本発明の態様による、光学的に誘起されるイオン化ガスを使用してテラヘルツ放射線を放出し検出し、それによって物体を分析するシステムの別の実施形態を示す図であり、標的物体を透過するテラヘルツ波が検出される。
【図8A】本発明による図7Cの実施形態を使用して得られたトリプトファンの吸収係数の測定値のグラフである。
【図8B】本発明による図7Cの実施形態を使用して得られた、相対湿度30%での水蒸気による減衰の測定値のグラフであり、周波数の関数として示されている。
【図9A】本発明の態様による、離れたところにある物体を分析し、分光分析を実現するシステムの実施形態を示す図である。
【図9B】本発明の態様による、離れたところにある物体を分析し、分光画像化を実現するシステムの実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ放射線を検出する方法であって、
ある体積の雰囲気ガスを、前記体積中で光プローブビーム(501)を収束させることによってイオン化して感知用プラズマ(505)を生成することと、
前記感知用プラズマ(505)内での前記収束光プローブビーム(501)と入射テラヘルツ波(504)との相互作用の結果として生成される放射線(506)の光学成分を検出することとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記感知用プラズマ(505)内で前記テラヘルツ波(504)を収束させる(503)ことをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出することは、前記感知用プラズマ(505)から離れたところに配置された光学的収束手段(508)で、前記得られた放射線(506)の少なくとも前記光学成分を収束させることを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記検出することは、前記得られた放射線(506)の成分を減衰させる(510)ことをさらに含み、前記成分は、前記光プローブビーム(501)の周波数を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記光プローブビーム(624)は、基本周波数を有する光放射成分と、前記基本周波数と高調波関係にある周波数を有する高調波光放射成分とを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
離れたところにある物体を分析する方法であって、
ある体積のイオン化された雰囲気ガス(614、716)を、前記体積内で光ポンプビーム(612、714)を収束させることによって誘起して、パルス化されたテラヘルツ放射線(615、718)を標的物体(616、721)に向けて放出させることと、
別の体積の雰囲気ガスを、前記別の体積内で光プローブビーム(624、730)を収束させることによってイオン化して感知用プラズマ(626、740)を生成することと、
前記感知用プラズマ(626、740)内での前記収束光プローブビーム(624、738)と入射テラヘルツ波(618、718)との相互作用の結果として生成される放射線(628、742)の光学成分を検出することとを含み、前記入射テラヘルツ波(618、718)は、前記パルス化されたテラヘルツ放射線(615、718)と前記標的物体(616、721)との相互作用によって生成されることを特徴とする方法。
【請求項7】
前記感知用プラズマ(740)内で前記入射テラヘルツ波(718)を収束させる(724)ことをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記検出することは、前記感知用プラズマ(626)から離れたところに配置された光学的収束手段(630)で、前記得られた放射線(628)の前記光学成分を収束させることを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記得られた放射線(628)の前記光学成分は、前記光プローブビーム(624)の基本周波数の高調波を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記光プローブビーム(730)は、少なくとも1つの光放射パルスを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記標的物体(616、721)は、人間に有害な爆発性材料または生物作用物質あるいは化学作用物質を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記光プローブビーム(624)は、基本周波数を有する光放射成分と、前記基本周波数と高調波関係にある周波数を有する高調波光放射成分とを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記体積のイオン化された雰囲気ガス(614、716、103)は、前記光ポンプビーム(612、714、102、202)の供給源(602、101、201)から30メートルよりも遠く離れたところにあることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記感知用プラズマ(626、740、110、111)は、前記光学成分(628、742、108、109)が検出される場所(601、748、101)から30メートルよりも遠く離れたところにあることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記検出すること(634、748、101、211)は、前記標的物体(616、721、105、207)から30メートルよりも遠く離れたところで実施されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項16】
テラヘルツ放射線を検出するシステムであって、
光プローブビーム(624)の供給源(602、101、201)と、
ある体積(210)の雰囲気ガスをイオン化して感知用プラズマ(626、740、505、110、111、210)を生成する収束光プローブビーム(624、738、501)を生成するために前記光プローブビーム(624、209)を収束させる手段(608)と、
前記感知用プラズマ(626、740、505、110、111、210)内での前記収束光プローブビーム(624、738、501)と入射テラヘルツ波(618、718、504、106、107、208)との相互作用の結果として前記感知用プラズマ(626、740、505、110、111、210)から放出されることによって得られる放射線(628、742、506、108、109)の光学成分を検出する光検出器(601、634、748、512、211)とを備えることを特徴とするシステム。
【請求項17】
前記感知用プラズマ内で前記テラヘルツ波(718、504)を収束させる手段(503、724)をさらに備えることを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記光検出器(601)は、前記得られた放射線(628)の光学成分を収束させる手段(630)を備え、前記光学成分を収束させる前記手段(630)は、前記感知用プラズマ(626)から離れたところに配置されることを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記得られた放射線(628)の光学成分は、前記光プローブビーム(624、501)の基本周波数の高調波を含み、前記光検出器(601)はさらに、前記光プローブビーム(624、501)の前記基本周波数を含む前記得られた放射線のある成分を減衰させる光学フィルタ(632、510)を備えることを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記光プローブビーム(730)は、少なくとも1つの光放射パルスを含むことを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項21】
前記テラヘルツ波(618、718、504)は、少なくとも1つのテラヘルツ放射パルスを含むことを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項22】
前記光プローブビーム(730)は、基本周波数を有する光放射成分と、前記基本周波数と高調波関係にある周波数を有する高調波光放射成分とを含み、前記システムはさらに、前記光放射成分および前記高調波光放射成分の相対位相をずらす手段(732)を備えることを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項23】
前記光検出器(634、748)は、光電子増倍管(748、512)またはフォトダイオード(634)を含むことを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項24】
離れたところにある物体を分析するシステムであって、
光ポンプビーム(706)の供給源(602、101、201)と、
ある体積の雰囲気ガスをイオン化して放出用プラズマ(614、716)を生成し、前記放出用プラズマから標的物体(616、721、752、207)に向けられるパルス化されたテラヘルツ放射線(615、718)の放出を誘起する収束光ポンプビーム(612、714)を生成するために、前記光ポンプビーム(706)を収束させる手段と、
光プローブビーム(730)の供給源(602、101、201)と、
別の体積の前記雰囲気ガスをイオン化して感知用プラズマ(626、740)を生成する収束光プローブビーム(624、738)を生成するために、前記光プローブビームを収束させる別の手段(622、736)と、
前記感知用プラズマ内での前記収束光プローブビーム(624、738)と、得られたテラヘルツ波(618、718)との相互作用の結果として前記感知用プラズマ(626、740)から放出されることによって得られる放射線(628、742)の光学成分を検出する光検出器(601、634、748)とを備え、前記得られたテラヘルツ波は、前記パルス化されたテラヘルツ放射線(615、718)が前記標的物体(616、721、752、207)に入射することに応答して前記標的物体から反射した、または前記標的物体によって散乱した、あるいは前記標的物体を透過したテラヘルツ放射線を含むことを特徴とするシステム。
【請求項25】
前記感知用プラズマ(740)内で前記得られたテラヘルツ波(718)を収束させる手段(724)をさらに備えることを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記光検出器(601、101)は、前記得られた放射線(628、108、109)の少なくとも前記光学成分を収束させる手段(630)を備え、少なくとも前記光学成分を収束させる前記手段は、前記感知用プラズマ(626、110、111)から離れたところに配置されることを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
前記得られた放射線(628)の光学成分は、前記光プローブビーム(624)の基本周波数の高調波を含み、前記光検出器(601)はさらに、前記光プローブビームの前記基本周波数を含む前記得られた放射線の成分を減衰させる光学フィルタ(632、746)を備えることを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
前記光プローブビーム(624、730)は少なくとも1つの光放射パルスを含むことを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項29】
前記光プローブビーム(624)は、基本周波数を有する光放射成分と、前記基本周波数と高調波関係にある周波数を有する高調波光放射成分とを含むことを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項30】
前記光検出器(634、748)は、光電子増倍管(748、512)またはフォトダイオード(634)を含むことを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項31】
前記放出用プラズマ(614、716、103)は、前記光ポンプビーム(612、706、102、202)の前記供給源(602、101、201)から30メートルよりも遠く離れたところにあることを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項32】
前記感知用プラズマ(626、740、110、111)は、前記光検出器(601、634、748、101)から30メートルよりも遠く離れたところにあることを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項33】
前記光検出器(601、634、748、101、211)は、前記標的物体(616、721、752、105、207)から30メートルよりも遠く離れたところに配置されることを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項34】
前記標的物体(616、721、752、105、207)は、人間に有害な爆発性材料または生物作用物質あるいは化学作用物質を含むことを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項35】
離れたところにある物体を分析する方法であって、
ある体積のイオン化された雰囲気ガス(614)を、前記体積内で光ポンプビーム(612)を収束させることによって誘起して、パルス化されたテラヘルツ放射線(615)を標的物体(616)に向けて放出させることと、
前記体積の前記イオン化された雰囲気ガス(614)内で光プローブビーム(624)を収束させることと、
前記体積の前記イオン化された雰囲気ガス(614)内での前記収束光プローブビーム(624)と入射テラヘルツ波(618)との相互作用の結果として生成される放射(628)の光学成分を検出することとを含み、前記入射テラヘルツ波は、前記パルス化されたテラヘルツ放射線(615)と前記標的物体(616)との相互作用によって生成されることを特徴とする方法。
【請求項36】
前記体積(614、716)と前記別の体積(626、740)とは重なり合っていることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項37】
前記体積(614、716)と前記別の体積(626、740)とは重なり合っていることを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項38】
前記検出する(902)ことによって検出された結果として得られた放射線の光学成分を処理して(903)、分光分析情報(801、213)を生成することをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項39】
前記分光分析情報(801)から分光画像(904、212、213)を生成することをさらに含むことを特徴とする請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記光検出器(634、211)によって検出された(902)結果として得られた放射線の前記光学成分を分析する分光信号処理ユニット(903、212)をさらに備えることを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項41】
前記分光信号処理ユニット(903、212)から提供される分光分析情報(801)から分光画像(213)を生成する画像化信号処理ユニット(904、212)をさらに備えることを特徴とする請求項40に記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【公表番号】特表2009−521706(P2009−521706A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548801(P2008−548801)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/062091
【国際公開番号】WO2007/079342
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(502263411)レンセラール ポリテクニック インスティチュート (14)
【Fターム(参考)】