説明

テラヘルツ検出器

【課題】テラヘルツ検出器のテラヘルツ波の検出効率を高める。
【解決手段】テラヘルツ波を検出するテラヘルツ検出素子10は、基板11と、基板11上に形成され、テラヘルツ帯における周波数を共振周波数として有する複数のボウタイアンテナ13A,13Bで構成したアンテナ部13と、基板11上に形成され、アンテナ部13の中心に配置されたSTJ(超伝導トンネル接合)素子15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導トンネル接合(Superconducting Tunnel Junction:STJ)素子を用いてテラヘルツ波を検出するテラヘルツ検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のテラヘルツ検出器として、例えば特許文献1に記載の単結晶固有ジョセフソン接合テラヘルツ検出器がある。この検出器は、アンテナを用いて準光学的にテラヘルツ信号と固有ジョセフソン接合とを結合させてテラヘルツ波を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−246664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、テラヘルツ波は、その直進性、透過性及び吸収特性等から非破壊検査や物質の推定を含むさまざまな分野での応用が期待されており、より精度よくテラヘルツ波を検出することのできるテラヘルツ検出器が必要になると考えられる。
ここで、STJ素子を用いたテラヘルツ検出器(テラヘルツ検出素子)の検出原理として、基板吸収型テラヘルツ検出器の場合、STJ素子を設けた基板面と反対側の基板面にテラヘルツ帯のフォトンを照射し、基板で非平衡フォノンに変換し、この非平衡フォノンがSTJ素子に入射してSTJ素子の電極内のクーパー対を破壊して準粒子を生成し、この準粒子の生成に伴って発生するトンネル電流を検出信号としている。また、特許文献1に記載のようなアンテナ部をSTJ素子に接合したアンテナ結合型テラヘルツ検出器の場合、アンテナ部を設けた基板面にテラヘルツ帯のフォトンを照射すると、アンテナの共振効果でアンテナ中心に電界の集中が起こり、集中した電磁波でSTJ素子の電極内のクーパー対を破壊して準粒子を生成し、この準粒子の生成に伴って発生するトンネル電流を検出信号としている。
【0005】
しかしながら、前者の場合、基板内で生成される非平衡フォノンは基板内を伝搬しSTJ素子の電極に至るまでに時間を要するため、STJ素子を用いたテラヘルツ検出器の特徴である高速応答性が失われるという問題がある。また、後者の場合、電磁波吸収部分となるSTJ素子の接合部分の面積を大きくすることで、電磁波吸収量が増大しテラヘルツ波の検出効率を高められるが、STJ素子の接合部分の面積の増大に比例してSTJ素子の雑音の原因となるリーク電流の増大を招くという問題がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、アンテナ結合型において、STJ素子接合部分の面積を大きくすることなく、テラヘルツ波の検出効率を高めることができるテラヘルツ検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によるテラヘルツ検出器は、テラヘルツ帯における周波数を共振周波数として有するアンテナ部と、該アンテナ部に対応して設けられた超伝導トンネル接合素子と、を備え、前記アンテナ部を、複数のアンテナで構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のテラヘルツ検出器によれば、テラヘルツ帯における周波数を共振周波数として有するアンテナ部と、このアンテナ部に対応して設けられたSTJ素子とを備え、アンテナ部を複数のアンテナで構成するようにしたので、アンテナ面積の増大によって、STJ素子に入射する非平衡フォノンを増大でき、また、STJ素子の接合部分の面積を大きくせずに電磁波吸収量を増大できる。これにより、テラヘルツ波の検出効率が高いテラヘルツ検出器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態によるテラヘルツ検出器に使用されるテラヘルツ検出素子の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のテラヘルツ検出素子の作製工程を示す図である。
【図4】図3に続くテラヘルツ検出素子の作製工程を示す図である。
【図5】図4に続くテラヘルツ検出素子の作製工程を示す図である。
【図6】本発明の実施形態によるテラヘルツ検出器に使用されるテラヘルツ検出素子の別の例の概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態ついて説明する。
図1及び図2は、本発明の一実施形態によるテラヘルツ検出器に使用されるテラヘルツ検出素子の概略構成を示している。図1はテラヘルツ検出素子の平面図、図2は図1のA−A断面図である。
本実施形態におけるテラヘルツ検出素子10は、図1に示すように、基板11と、基板11上に形成されたアンテナ部13と、基板11上に形成された超伝導トンネル接合素子(STJ素子)15と、を備え、前記アンテナ部13は、複数(本実施形態では2つ)のアンテナ13A,13Bを有する。
【0011】
本実施形態において、アンテナ部13の2つのアンテナ13A,13BとSTJ素子15は、基板11上に一体形成されており、換言すれば、テラヘルツ検出素子10は、基板11上に、複数のアンテナを備えたアンテナ部とSTJ素子15を有している。
【0012】
基板11は、絶縁性基板であり、例えばシリコン基板やサファイア基板、酸化マグネシウム(MgO)基板等を用いることができる。アンテナ結合型テラヘルツ検出器の場合は、アンテナとインピーダンスを近づけ伝搬効率を上げるために基板裏面からテラヘルツ光を入射する。よって、テラヘルツ光の透過率が比較的良いサファイア基板、酸化マグネシウム(MgO)基板等を用いる。
【0013】
アンテナ部13の2つのアンテナ13A,13Bは、テラヘルツ帯における周波数をその共振周波数として形成され、基板11上に配置されている。本実施形態におけるテラヘルツ帯とは、0.1〜10THz(好ましくは0.1〜5THz)程度の周波数帯域のことをいい、アンテナ部13の周波数は、テラヘルツ検出器の仕様等に応じて任意に設定することができる。ここで、図1に示すように、本実施形態におけるアンテナ部13の2つのアンテナ13A,13Bは、所謂ボウタイアンテナとして形成されている。
【0014】
STJ素子15は、超伝導膜層−絶縁膜層−超伝導膜層からなる積層構造を有する素子である。具体的には、STJ素子15は、基板11上に、超伝導電極材料の単層又は超伝導エネルギーギャップの異なる二層の膜からなる下部電極51、絶縁膜からなるトンネル障壁(トンネルバリア)53、及び、超伝導電極材料の単層又は超伝導エネルギーギャップの異なる二層の膜からなる上部電極55が順に積層されて形成されている(図2参照)。そして、STJ素子15は、アンテナ部13の2つのアンテナ13A,13Bの中心に配置されている。
【0015】
上述したように、本実施形態においてはアンテナ部13が所謂ボウタイアンテナとして形成されており、アンテナ部13の共振周波数と一致する周波数のテラヘルツ波が基板11上に照射されるとアンテナ部13の中心部に電界の集中が起きる。従って、STJ素子15をアンテナ部13の中心に配置することで、集中した電磁波が超伝導電極内のクーパー対を破壊することとなり、アンテナ部13の共振周波数及びその近傍の周波数を有するテラヘルツ波を効率的に検出できる。尚、STJ素子によるテラヘルツ波の検出については後述する。
【0016】
前記超伝導電極材料としては、例えばAl(アルミニウム)/Nb(ニオブ)の二層膜を用いることができ、トンネル障壁となる絶縁膜としては、例えばAlOx(酸化アルミニウム)等を用いることができる。ここで、前記超伝導電極材料を超伝導エネルギーギャップの異なる二層の膜とすれば、超伝導エネルギーギャップの値が小さい材料の層が大きい材料の層で発生した準粒子を集める層(トラップ層)として作用し、トンネルバリア付近のクーパー対の崩壊による準粒子数の増加が期待できる。
【0017】
また、STJ素子15の下部電極51は、基板11上に形成された下部配線17を介してグランドPAD19に接続されている。更に、STJ素子15は、SiO(二酸化ケイ素)等からなる層間絶縁膜21によって覆われており、この層間絶縁膜21上に上部配線23が形成されている。そして、上部配線23の一端は層間絶縁膜21に形成されたコンタクトホール25を介して上部電極55に接続しており、上部配線23の他端には信号検出用のPAD27が設けられている。
【0018】
次に、図3〜図5によりテラヘルツ検出素子10の作製プロセスを説明する。
図3(a)に示す第1工程では、スパッタリングによって、超伝導体で薄い絶縁体を挟んだSIS(Superconducting-Insulator-Superconducting)構造の薄膜、ここではNb/Al−AlOx−Al/Nb構造の薄膜71を基板11上に堆積させる。尚、トンネルバリア層(AlOx)は、Al膜を酸素雰囲気中に長時間放置して酸化させることで得られる。ここで、薄膜71の上層側のNb/AlがSTJ素子15の上部電極層となり、中間層のAlOxがSTJ素子15のトンネルバリア層となり、下層のAl/NbがSTJ素子15の下部電極層となる。
【0019】
図3(b)に示す第2工程では、感光性フォトレジストをスピンコーターやスプレーコーター等によって薄膜71上に塗布し、フォトマスクを用いてSTJ素子15の上部電極55の形状にパターンニングし、紫外光によって感光させた後に、ポジ型の現像液にて現像してレジスト72を形成する。
【0020】
図3(c)に示す第3工程では、反応性イオンエッチング(RIE)によって上部電極層、トンネルバリア層、及び、下部電極層の一部を削り、アセトン等の有機溶剤で超音波洗浄して残ったレジスト72を取り除く。これにより、STJ素子15の上部電極55及びトンネルバリア53が形成される。
【0021】
図3(d)に示す第4工程では、前記第2工程と同様の方法によってアンテナ部13の2つのアンテナ13A,13B、STJ素子15の下部電極51、STJ素子15の下部配線17及びグランドPAD19の形状にパターニングされたレジスト73を形成する。ここで、アンテナ部13における2つのアンテナ13A,13Bの形状は、該アンテナ部13の共振周波数がテラヘルツ帯における周波数に一致するように予め設定される。
【0022】
図4(a)に示す第5工程では、前記第3工程と同様の方法でエッチングを行って下部電極層を削り、その後、残ったレジスト73を取り除く。これにより、アンテナ部13の2つのアンテナ13A,13B、STJ素子15の下部電極51、STJ素子15の下部配線17及びグランドPAD19が形成される。
【0023】
図4(b)に示す第6工程では、スパッタリングによって層間絶縁層(例えばSiO等)74を堆積させる。
【0024】
図4(c)に示す第7工程では、前記第2工程と同様の方法によって層間絶縁膜21、コンタクトホール25、上部配線23及びPAD27を形成するためのレジスト75を形成する。
【0025】
図4(d)に示す第8工程では、前記第3工程と同様の方法によって層間絶縁層74を削り、その後、残ったレジスト75を取り除く。これにより、層間絶縁膜21及びコンタクトホール25が形成される。
【0026】
図5(a)に示す第9工程では、スパッタリングによって上部配線層(例えばNb層)76を堆積させる。
【0027】
図5(b)に示す第10工程では、前記第2工程と同様の方法によって上部配線23及びPAD27の形状にパターニングされたレジスト77を形成する。
【0028】
図5(c)に示す第11工程では、前記第3工程と同様の方法によって上部配線層76を削り、その後、残ったレジスト77を取り除く。これにより、上部配線23及びPAD27が形成される。
以上の第1〜第11工程によってテラヘルツ検出素子10が作製される。
尚、以上ではスパッタリングによって各層を堆積させているが、これに限るものではなく、他の方法(例えば蒸着)によって各層を堆積させるようにしてもよい。
【0029】
ここで、テラヘルツ検出素子10の一連の作用を説明する。
上述したように、基板11上には、ボウタイアンテナからなる2つのアンテナ13A,13Bがアンテナ部13として形成されており、アンテナ部13はテラヘルツ帯における周波数をその共振周波数として有している。そして、STJ素子15はアンテナ部13の中心に配置されている。
【0030】
このため、基板11上にテラヘルツ波が照射されると、アンテナ部13の共振効果によってアンテナ部13の中心に電界の集中が起こり、集中した電磁波(電磁場)によってSTJ素子15の下部電極51内のクーパー対が破壊されて準粒子が生成される。そして、STJ素子15は、下部電極51内で生成された準粒子がトンネルバリア53をトンネルする際に流れるトンネル電流を検出信号として出力する。
【0031】
そして、図示は省略するが、本実施形態によるテラヘルツ検出器は、テラヘルツ検出素子10の検出信号を増幅して出力するプリアンプ、このプリアンプの出力をA/D変換してデジタルデータとして出力するA/D変換器、及び、A/D変換器の出力を記録する記録装置を備えており、STJ素子の検出信号、即ち、テラヘルツ波の検出結果を記録する。
【0032】
前記テラヘルツ検出器(テラヘルツ検出素子10)は、次のような効果を有する。
基板11上に、テラヘルツ帯域における周波数を共振周波数として有するアンテナ部13として複数のアンテナ13A,13Bを設け、STJ素子15が複数のアンテナ13A,13Bに接続されているので、テラヘルツ光の照射されるアンテナ面積の増大により、STJ素子15の接合部分の面積を増大せずにSTJ素子15の電磁波吸収量を増大できる。これにより、STJ素子15の雑音の原因となるリーク電流の増大させずにSTJ素子内で生成される準粒子の数を増加でき、テラヘルツ検出器(テラヘルツ検出素子)によるテラヘルツ波の検出効率を高めることができる。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【0034】
上記実施形態では、アンテナ部のアンテナとしてボウタイアンテナを用いた例を示したが、図6に示すように、複数(図6では2つ)のダイポールアンテナ13′A,13′Bを用いてアンテナ部13′を形成してもよい。ただ、ダイポールアンテナの場合、インピーダンスが2つのアンテナ間の角度だけでなく周波数にも依存するため、検出するテラヘルツ光の周波数に応じてアンテナの長さと角度を変更する必要があり、ボウタイアンテナと比べてインピーダンスマッチングが難しくなる。
【0035】
尚、アンテナ部が有する複数のアンテナは、ボウタイアンテナとダイポールアンテナのどちらの場合でも、2つに限るものではなく、可能であれば3つ以上設けてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 テラヘルツ検出素子
11 基板
13 アンテナ部
13A、13B アンテナ(ボウタイアンテナ)
13′A、13′B アンテナ(ダイポールアンテナ)
15 超伝導トンネル接合素子(STJ素子)
51 下部電極
53 トンネルバリア
55 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ帯における周波数を共振周波数として有するアンテナ部と、
該アンテナ部に対応して設けられた超伝導トンネル接合素子と、
を備え、
前記アンテナ部を、複数のアンテナで構成したことを特徴とするテラヘルツ検出器。
【請求項2】
前記アンテナ部及び前記超伝導トンネル接合素子は、一つの基板上に形成されている請求項1に記載のテラヘルツ検出器。
【請求項3】
前記アンテナ部は、複数のボウタイアンテナで構成され、
前記複数のボウタイアンテナの中心に前記超伝導トンネル接合素子が配置されている請求項1又は2に記載のテラヘルツ検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−4717(P2013−4717A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134049(P2011−134049)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】