説明

テラヘルツ波を用いた検査装置、及び検査方法

【課題】金属の塗膜や半導体ウエハのエピ層等の積層膜中の欠陥検査の測定時間を短縮したテラヘルツ波を用いた検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】予め基準サンプルを用いてテラヘルツ波信号の時間波形を求め、時間波形の基準ピーク位置およびその近傍の基準測定位置の強度データを予め求めておくステップと、被測定物の測定点の時間波形について、基準ピーク位置および基準測定位置について、被測定物の強度データを求めるステップと、基準サンプルと被測定物との基準ピーク位置および基準測定位置の強度データを比較して、ピーク位置のずれと強度データの差とが予め設定された値以上の場合に異常と判定するステップと、から成り、時間波形を予め測定された基準位置の強度データのみをサンプリングして、測定時間を短縮するようにしたことを特徴とするテラヘルツ波を用いた検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施例は、テラヘルツ波を用いた検査装置、及びその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電波と光波のちょうど中間領域にあるテラヘルツ波を用いた技術に注目が集まりつつある。テラヘルツ波は、実時間測定が不可能な高速パルス生成や、高速時間波形を再構築することが困難なことからその利用が遅れていた。
【0003】
しかし、最近のレーザ及び半導体技術の進歩等によりテラヘルツ波の測定が可能となってきた。学術分野により違いがあるが、テラヘルツ波の波長は、一般には波長で30μm〜3mm、振動数では100GHz(10Hz)〜10THz(1012Hz)の領域を指す。
【0004】
従来から、このテラヘルツ波を利用することにより被測定物の物理量や物性を検査する装置が存在し、例えば、テラヘルツ波の伝播時間の差、または、強度の差から粉体の充填密度などの物性の測定装置(例えば、特許文献1参照。)や、テラヘルツ波の強度を検出して容器に収納された粉体、気泡などの散乱物を開封することなく非破壊で検出する散乱物検出装置(例えば、特許文献2参照。)、などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−61455号公報
【特許文献2】特許第4480146号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したようなテラヘルツ波の透過率を利用した検査装置のみならず、テラヘルツ波を被測定物に照射し、その反射波を利用して、金属の腐食を防ぐための塗膜や半導体ウエハ(Wafer)のエピ層等の積層物中の欠陥(気泡)検査を行う検査装置の要求がある。
【0007】
テラヘルツ波の反射波を利用した検査装置は、気泡がないときの反射テラヘルツ波の強度と気泡があるときの反射テラヘルツ波強度とが異なることから気泡の有無を判別するものであるが、被測定物の測定面の全面を測定しようとすると、測定時間が厖大となる問題がある。
【0008】
その理由は、テラヘルツ時間領域分光法(THz-time domain spectroscopy)において超高速時間波形を再構築するポンプ・プローブ方式と呼ばれる測定方法にある。
【0009】
一般にポンプ・プローブ方式では、数10MHzのパルスレーザ光から生成されたテラヘルツ波と、このパルスレーザ光を分岐して生成されたプローブパルス光とが重なるタイミングを機械式のステージにより時間遅延し、重なるタイミング毎にプローブパルス光のパルス幅で時間的に切り出されたテラヘルツ波の強度を求めてつなぎ合わせて時間波形再構築する。
【0010】
そして、求めたテラヘルツ波の時間波形からその周波数スペクトルを演算により求める。
【0011】
1つの測定箇所では、例えば、1024点程度の多数の測定が必要であるが、機械式ステージによる時間遅延走査と、周波数スペクトルを求めるための演算とが必要であることから、分単位の時間を要していた。
【0012】
さらに、その測定面積が大きくなるとその全面を検査するために、例えば、100mmφ程度のウエハの場合は、テラヘルツ波の径を5mmφとしても数日を要する場合があり、その測定時間を短縮することが求められていた。
【0013】
本発明の課題は、金属の腐食を防ぐための塗膜や半導体ウエハのエピ層等の積層膜中の欠陥検査の測定時間を短縮した、テラヘルツ波を用いた検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本実施例のテラヘルツ検査装置は、テラヘルツパルスを生成するパルスレーザ生成部と、前記パルスレーザ生成部1で生成されたパルスレーザ光を第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とに分割するビームスプリッタと、前記第1のパルスレーザ光が照射されることによりテラヘルツ波を生成するテラヘルツ波発生器と、前記テラヘルツ波発生器の送信アンテナから生成された第1のテラヘルツ波を所定のビームサイズに集光して被測定物に照射し、当該被測定物から反射した第2のテラヘルツ波を予め定めるテラヘルツ検出器の受信アンテナに集光するテラヘルツ波ガイド部と、前記第2のパルスレーザ光を予め定められた第2の光路長に対して、予め定める定ピッチで逐次光路長を移動して、前記テラヘルツ受信アンテナに到達する時間を逐次積算して時間遅延する時間遅延設定部と、前記時間遅延設定部により設定された光路長に基づいて前記第2のパルスレーザ光が到達したタイミングで、前記受信アンテナで検出された前記第2のテラヘルツ波を検出し、当該第2のテラヘルツ波の強度に応じたテラヘルツ波信号を生成するテラヘルツ波検出器と、前記第1のパルスレーザ光を一定の低周波数で変調し、前記テラヘルツ波信号をサンプリングするサンプリング信号を生成するサンプリング信号生成部と、前記被測定物の測定点を予め定めるピッチで移動させるXYテーブル部と、前記XYテーブル部で設定された測定点において、予め設定される前記時間遅延設定部で設定される遅延時間毎に、前記テラヘルツ波検出器で検出された前記テラヘルツ波信号を前記サンプリング信号で同期検波してテラヘルツ波検出信号を生成するロックインアンプと、前記ロックインアンプで生成された前記テラヘルツ波検出信号をテラヘルツ波の時間波形に相当する時系列データとして時系列に記憶するとともに、予め基準サンプルの時間波形に相当する基準時系列データを求め、さらに、当該基準時系列データから基準ピーク位置とその近傍の基準測定位置とを対応付けて記憶しておくデータ保持部と、当該基準ピーク位置と基準測定位置での前記時系列データと前記基準時系列データとの強度データを比較して、前記被測定物の異常を検出するデータ処理部と、当該データ処理部で処理された異常の測定点の位置を表示する表示部と、を備える信号処理部と、を備え、前記ビームスプリッタを出射点とする前記第1のパルスレーザ光が前記被測定物を経由して前記テラヘルツ波検出器の前記受信アンテナに至る第1の光路長と、前記ビームスプリッタを出射点とする前記第2のパルスレーザ光が前記時間遅延設定部を経由して前記テラヘルツ波検出器の前記受信アンテナに至る第2の光路長とが等しく成る位置に設定し、且つ、前記パルスレーザ光の光軸上、および、当該第1の光路長と当該第2の光路長のテラヘルツ波の光軸上の各部は、同一平面上となるように設け、前記X−Yテーブル部は、前記被測定物を予め定める測定点に移動し、前記時間遅延設定部は、前記分割された前記第2のパルスレーザが、前記受信アンテナに到達する時間を予め設定された遅延時間となる位置に逐次前記第2の光路長を遅延し、前記ロックインアンプは、前記測定点に対して、予め設定された前記遅延時間に対応する前記基準ピーク位置および前記基準測定位置での前記テラヘルツ波検出信号を生成し、前記信号処理部は、予め設定された前記基準ピーク位置および前記基準測定位置について前記基準時系列データと測定した前記時系列データとの強度データを比較し、さらに、ピーク位置のずれと強度データの差とが予め設定された値以上の場合に異常と判定し、前記時系列データに対する周波数変換を行わず、さらに、予め設定された前記基準ピーク位置と前記基準測定位置についてのデータ強度の差を用いて異常の有無を判定し、検査時間を短縮するようにしたことを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために、本実施例のテラヘルツ検査装置は、テラヘルツ波を利用した被測定物の検査方法であって、予め基準サンプルを用いてテラヘルツ波信号の時間波形を求め、当該時間波形の基準ピーク位置およびその近傍の基準測定位置の強度データを予め求めておくステップと、前記被測定物の測定点の時間波形について、前記基準ピーク位置および前記基準測定位置について、被測定物の強度データを求めるステップと、前記基準サンプルと前記被測定物との前記基準ピーク位置および前記基準測定位置の強度データを比較して、ピーク位置のずれと強度データの差とが予め設定された値以上の場合に異常と判定し、異常の有無を判定するステップと、から成り、テラヘルツ波の時間波形からその周波数スペクトルを求めず、且つ、時間波形を予め測定された基準位置の強度データをサンプリングして、測定時間を短縮するようにしたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。
【図2】テラヘルツ波発生器の構成を示す図である。
【図3】テラヘルツ波検出器の構成を示す図である。
【図4】欠陥の検出動作を説明する図。
【図5】実施例2のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。図1を参照して検査装置の構成を説明する。本実施例で説明する検査装置の測定物は、金属板の塗膜、半導体ウエハのエピ層などの平面板上の積層膜中に生成される気泡等の数百μ〜数μの微小欠陥とし、これを全面検査する場合について説明する。
【0019】
本実施例の検査装置は、パルスレーザ生成部1、ビームスプリッタ2、テラヘルツ波発生器3、テラヘルツ波ガイド部4、時間遅延設定部5、テラヘルツ波検出器7、XYテーブル部10、サンプリング信号生成部50、ロックインアンプ51、及び信号処理部52を備える。
【0020】
各部の構成は、高周波数のテラヘルツパルスを生成するパルスレーザ生成部1と、パルスレーザ生成部1で生成されたパルスレーザ光を第1のパルスレーザ光(ポンピング光とも言う)と第2のパルスレーザ光(プローブパルス光とも言う)とに分割するビームスプリッタ2と、第1のパルスレーザ光が照射されることによりテラヘルツ波を生成するテラヘルツ波発生器3と、テラヘルツ波発生器3の送信アンテナから生成された第1のテラヘルツ波を所定のビームサイズに集光して被測定物100に照射し、当該被測定物100から反射した第2のテラヘルツ波を予め定めるテラヘルツ検出器7の受信アンテナに集光するテラヘルツ波ガイド部4と、とを備える。
【0021】
更に、第2のパルスレーザ光を予め定められた後述する第2の光路長に対して、予め定める定ピッチで逐次光路長を移動して、テラヘルツ検出器7の受信アンテナに到達する時間を逐次積算して時間遅延する時間遅延設定部5と、時間遅延設定部5により設定された光路長に基づいて第2のパルスレーザ光が到達したタイミングで、テラヘルツ検出器7の受信アンテナで検出された第2のテラヘルツ波を検出し、第2のテラヘルツ波の強度に応じたテラヘルツ波信号s1を生成するテラヘルツ波検出器7と、を備える。
【0022】
更に、第1のパルスレーザ光を一定の低周波数で変調し、テラヘルツ波信号s1を予め定められる時間サンプリングするサンプリング信号s4を生成するサンプリング信号生成部50と、被測定物100の測定点を予め定めるピッチ(距離)で移動させるXYテーブル部10と、XYテーブル部10で設定された測定点において、予め設定される時間遅延設定部5で設定される遅延時間毎に、テラヘルツ波検出器7で検出されたテラヘルツ波信号s1をサンプリング信号s4で同期検波してテラヘルツ波検出信号s2を生成するロックインアンプ51と、を備える。
【0023】
そして、ロックインアンプ51で生成されたテラヘルツ波検出信号s2をテラヘルツ波の時間波形に相当する時系列データs3として時系列に記憶するデータ保持部52aと、データ保持部52aには、予め被測定物100の詳細を後述する正常部の品質基準となる基準サンプルの時間波形に相当する基準時系列データを求め、さらに、基準時系列データから基準ピーク位置とその近傍の基準測定位置を定め、当該位置での時系列データと基準時系列データとの強度データを比較して、被測定物100の異常を検出するデータ処理部52bと、データ処理部52bで処理された異常の測定点の位置を表示する表示部52cと、を備える信号処理部52と、を備える。
【0024】
次に、各部の詳細構成と詳細設定について説明する。パルスレーザ生成部1は、数ピコ秒(10−12秒)以下で強度が変化しているパルスレーザ光を生成する。パルスレーザ生成部1はレーザダイオード、または、レーザダイオードの代わりにフェムト秒(10−15秒)パルスレーザを使用してもよい。
【0025】
また、パルスレーザ光の波長は、後述するテラヘルツ波の送信アンテナ及びテラヘルツ波の受信アンテナの後述する低温成長ガリウムヒ素基板を励起できる波長であればよく、例えば、780nm〜830nm程度である。さらに、パルスレーザ光の出力強度は、エミッタ側(テラヘルツ波発生器3の入力側)で約30mW、ディテクタ側(テラヘルツ波検出器7の入力側)で約10mW程度の出力強度があればよい。
【0026】
また、ビームスプリッタ2は、パルスレーザ生成部1より発せられたパルスレーザ光を第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とに分割する。
【0027】
ところで、ビームスプリッタ2を出射点とする第1のパルスレーザ光が被測定物100を経由してテラヘルツ波検出器7の受信アンテナに至る第1の光路長と、ビームスプリッタ2を出射点とする第2のパルスレーザ光が時間遅延設定部5を経由してテラヘルツ波検出器7の受信アンテナに至る第2の光路長とが等しくなる位置に設定し、且つ、第1及び第2のパルスレーザ光の光軸上、および、当該第1の光路長と当該第2の光路長のテラヘルツ波の光軸上に備える各部は、同一平面上となるように設ける。
【0028】
次に、テラヘルツ波発生器3の詳細構成について説明する。テラヘルツ波発生器3は、第1のパルスレーザ光を所定の光軸方向に反射するミラー3a、ミラー3aで反射した第1のパルスレーザ光を送信アンテナ3cに集光するレンズ3b、及びテラヘルツ波を生成する送信アンテナ3cから構成される。
【0029】
送信アンテナ3cは、図2に示すように、シリコンレンズ25と、低温成長ガリウムヒ素基板22と、低温成長ガリウムヒ素基板22上に設けられる電極20と、を備え、電極20とサンプリング信号生成部50が接続されている。
【0030】
この電極20は、例えば、ダイポール、ボウタイ等の形状を有しており、材質として主に金が用いられる。また、シリコンレンズ25は、半球レンズあるいは超半球レンズを用いたものである。さらに、アンテナとなる電極20の黒丸で示された中央のギャップ間に、レンズ3bにより第1のパルスレーザ光が集光される。
【0031】
また、テラヘルツ検出器7は、第2のパルスレーザ光を所定の光軸方向に反射するミラー7a、ミラー7aで反射した第1のパルスレーザ光を受信アンテナ7cに集光するレンズ7b、及びテラヘルツ波を生成する受信アンテナ7cから構成される。
【0032】
受信アンテナ7cは、時間遅延設定部7により時間遅延を与えられた第2のパルスレーザ光に基づいた検出タイミングで受信アンテナ7cにより検出されたテラヘルツ波を検出し、検出したテラヘルツ波の強度に応じたテラヘルツ波信号s1を生成する。
【0033】
受信アンテナ7cは、図3に示すように送信アンテナ3cと同様の構成を有しており、シリコンレンズ25に低温成長ガリウムヒ素基板22が設けられている。ただし、受信アンテナ7cの低温成長ガリウムヒ素基板22上の電極20には、サンプリング信号生成部50に代わりにロックインアンプ51が接続されている。
【0034】
さらに詳細には、第2のパルスレーザ光が受信アンテナ7cのギャップに照射されると電子が励起し、そこに第2のテラヘルツ波が照射されると電極20に微小電流が流れる。ロックインアンプ51は、サンプリング信号生成部50のサンプリング信号s4で同期をとるとともに、この微小電流を増幅してテラヘルツ波検出信号s2として出力する。
【0035】
次に、時間遅延設定部5は、ビームスプリッタ2によりた第2のパルスレーザ光に時間遅延を与える。時間遅延設定部5は、被測定物100から反射したテラヘルツ波の時間波形を再現する分解能を有するように、予め設定されるピッチで設定する可動鏡を備える時間遅延機構部5aと、その移動速度とピッチ(移動量)とを制御する遅延時間制御部5bとを備える。
【0036】
例えば、照射される数ピコ秒のパルスレーザ光のパルスを80MHzの高周波で点滅する場合、生成される1つのテラヘルツ波のパルス幅は、400μm(時間換算、1.3ピコ秒)相当が生成されるので、例えば、このピッチを8μm(時間換算26フェムト秒)の分解能で設定すると、50点が分解可能となる。
【0037】
次に、XYテーブル部10は、XYテーブル10aとそのXYテーブル10a上に置かれる被測定物100の座標位置を、放物面鏡4bで集光されたテラヘルツ波の位置に順次移動する位置制御部10bとを備える。
【0038】
また、サンプリング信号生成部50は、例えば、テラヘルツ波発生器3に照射される80MHzの第1のレーザパルス光に対して、11kHz±10Vの変調信号を生成し、送信アンテナ3cに印加するとともに、この変調信号をサンプリング信号s4としてロックインアンプ51に入力する。
【0039】
サンプリング信号生成部50の代わりに光学チョッパを用いてもよい。光学チョッパを用いる場合は、ビームスプリッタ2と送信アンテナ3cとの間、もしくはビームスプリッタ2と受信アンテナ7cとの間に設置する。
【0040】
次に、テラヘルツ波ガイド部4の詳細構成について説明する。被測定物100は平面形状の場合、テラヘルツ波発生器3で生成されたテラヘルツ波を平行ビームとする第1の放物面鏡4aと、平行ビームを被測定物100の測定位置に集光させる第2の放物面鏡4bと、第1の放物面鏡4aと第2の放物面鏡4bとの間に設けられ、平行ビームを透過させて第2の放物面鏡4bの第1の方向に送るとともに、被測定物100から反射したテラヘルツ波を異なる第2の方向に反射させるビームスプリッタ4dと、ビームスプリッタ4dで反射されたテラヘルツ波をテラヘルツ波検出器7に集光する第3の放物面鏡4cと、を備える。
【0041】
この放物面鏡4a〜4cは、テラヘルツ波の減衰がないものであればよく、例えば金属(鉄、アルミ等)が使用できる。
【0042】
また、被測定物100表面でのテラヘルツ波のビーム径は、要求される空間分解能と検査速度とがトレードオフとなるので、両者の兼ね合いでその最適値が予め設定される。例えば、要求される気泡の径を100μmとすると、被測定物100の表面でのテラヘルツ波のビーム径を1mmとし、両者の面積比を検出可能なS/N比(ここでは、1/100)の目安を定め、実際の実測定でS/N比を検証して最適値を選択する。
【0043】
この被測定物100表面テラヘルツ波のビーム径は、放物面鏡4bの焦点距離と入射するテラヘルツ波の径とから設定することができる。同様に、テラヘルツ波検出器7の焦光位置でのビーム径は、放物面鏡4cの焦点距離と入射するテラヘルツ波の径とから設定することができる。
【0044】
また、テラヘルツ波の投受光角度は、被測定物100の表裏面の反射特性で適宜最適な系を選択するが、ここでは、被測定物100表面の鉛直方向から投光し、放物面鏡4aと放物面鏡4bとの平行ビーム光路上にテラヘルツ波用のビームスプリッタ4dを設け反射波を鉛直方向から受光する、エネルギーロスの少ない正反射光学系とする。
【0045】
次に、信号処理部52は、データ保持部52a、及びデータ処理部52b、及び表示部52cを備える。
【0046】
時間遅延設定部5により順次設定される時間遅延に基づいて、受信アンテナ7cで検出されたテラヘルツ波信号s1はロックインアンプ51で増幅され、テラヘルツ波検出信号s2と成る。
【0047】
そして、信号処理部52は、順次生成されるこのテラヘルツ波検出信号s2から、遅延時間に対応して時系列データs3を生成し、この時系列データの変化から被測定物100の欠陥の有無を検査する。
【0048】
時系列データs3から欠陥の有無を判定する方法は、予め被測定物100の品質基準となる基準サンプルを使用して、その基準時系列データをデータ保持部52aに記憶しておき、データ処理部52bでこの基準時系列データと測定した時系列データs3とを比較して、被測定物100の欠陥の有無を判定する。
【0049】
一般的に、被測定物100の塗膜などが多層積層されている中に気泡が存在する場合にはテラヘルツ波が散乱し、時系列データのピーク値は、基準サンプルの基準時系列データに対して小さくなったり、位置がずれたりする。
【0050】
そこで、データ処理部52bは、基準時系列データに基づいて予め設定された基準ピーク位置とその近傍の複数の基準位置に対応する時系列データs3を測定し、対応する位置の強度データを比較して、欠陥の有無を判定する。
【0051】
データ保持部52aは、時間遅延制御部5bから遅延設定位置信号を受信して時系列データを生成し記憶する。また、データ処理部52bは、測定位置制御部10aから測定位置信号を受信して、検出した欠陥の位置を対応付けして表示部52cに表示させる。
【0052】
次に、本実施例の動作を説明する前に本発明の動作原理を説明する。本発明の動作原理は、テラヘルツ波を被測定物に照射して、その反射波の時間波形の基準サンプルで予め測定して基準時系列データを求めておく。そして、この基準時系列データからその強度がピークを示す基準ピーク位置と、この基準ピーク位置の近傍の複数点を基準測定位置として定めておく。
【0053】
そして、被測定物100の各測定点についての時系列データの強度を、この基準ピーク位置と基準測定位置について求め、基準サンプルと被測定物の対応する位置の強度データとを比較して、ピーク位置のずれ、及び強度データの差から欠陥の有無を判定するものである。
【0054】
すなわち、テラヘルツ波信号の強度データを予め定めた位置のみに限定して測定し(周波数スペクトルを求めることなく)、且つ、予め求めておいた基準サンプルのデータとの比較により欠陥の有無を判定して、大幅な測定時間の短縮を図るものである。
【0055】
したがって、基準サンプルによる基準ピーク位置、その近傍の複数の基準測定位置は、時間波形の特徴を、少ない測定点で求めるものなので、被測定物100の品種毎に、また、その測定位置により複数の位置を定めるようにしても良い。
【0056】
例えば、金属の多層塗膜の場合には、塗膜の表面反射、裏面反射があるため多重反射によりそのピーク位置は複数の点が現れるが、塗膜の部位により時間波形のピーク位置が異なるので、検査対象とすると塗膜の部位毎に比較する位置と、判定基準とを定めるようにしても良い。
【0057】
基準サンプルは、被測定物100の表面に近似した取り扱いし易いアルミミラーなどのようなものでも良い
次に、この動作原理に基づく、信号処理部52で処理されるテラヘルツ波を利用した検査装置の欠陥の判定動作について図4を参照して説明する。
【0058】
図4(a)は、半導体ウエハの測定位置を示すもので、XYテーブル10a上に置かれた半導体ウエハは、測定位置制御部10bで順次位置設定され、その全測定点についてもれなく欠陥の有無が判定される。
【0059】
図4(b)は、基準サンプルに基づく時間波形を示し、横軸は遅延時間設定部5で設定された時間波形を示し、縦軸はその強度を示す。図4(c)は図4(b)の基準ピーク位置の拡大図を示し、太い破線が予め測定しておく基準サンプルでの基準時系列データを示し、細い破線が実際の被測定物100による時系列データを示す。
【0060】
実測定においては、細い破線の時系列データは、基準ピーク位置P1と、その両側近傍の基準測定点、P2、P3の2点について黒丸印で示す箇所の強度データのみを測定する。
【0061】
図4(c)の場合は、ピーク位置のずれは判定できないが、その近傍の基準測定点P2での強度差がΔa1であることを示し、図4(d)の場合は、ピーク位置p3が基準ピーク位置とΔtずれ、基準ピーク位置P1での強度差がΔa2であることを示す。
【0062】
そして、図4に示すようなピーク位置のずれ、及び強度データの差を比較して、その特徴抽出点を限定した少ない測定点のデータで時間波形の変化パターンを捕らえて欠陥の有無を判定する。
【0063】
次に、このように構成された検査装置の動作について説明する。先ず、X−Yテーブル部10は、被測定物100を予め定める測定点に移動させる。
【0064】
そして、時間遅延設定部5は、分割された第2のパルスレーザ光が、受信アンテナ7cに到達する時間を、予め設定された遅延時間となる位置に逐次第2の光路長を遅延設定する。
【0065】
次に、ロックインアンプ51は、測定点に対して、予め設定された前記遅延時間に対応する基準ピーク位置および基準測定位置のテラヘルツ波検出信号s4を検出し信号処理部52に送る。
【0066】
信号処理部52は、基準ピーク位置および基準測定位置の時系列データと、基準時系列データと時系列データとの強度データを比較し、ピーク位置のずれと強度データの差とが予め設定された値以上の場合に異常と判定する。
【0067】
上述したように、本発明の実施例1に係るテラヘルツ波を用いた検査装置及び検査方法によれば、時間波形の周波数変換を行わず、さらに、予め設定された基準ピーク位置と基準測定位置について、ピーク位置のずれと強度データとの差を用いて異常の有無を判定し、金属の腐食を防ぐための塗膜や半導体ウエハのエピ層等の積層物中の欠陥検査を行う際に、測定時間の短縮を図ることができる。
【実施例2】
【0068】
次に、本発明の実施例2のテラヘルツ波を用いた検査方法について図5を参照して説明する。実施例2の各部について、実施例1の各部と同一のものは同一の符号を付しその説明を省略する。
【0069】
実施例2が実施例1と異なる点は、実施例1のテラヘルツ波ガイド部4は、被測定物100に対してテラヘルツ波の投受光角度を鉛直方向としたが、実施例2は、投受光角度を同じ角度とする正反射光学系(例えば、30°〜60°)、または、投受光角度が異なる角度とする乱反射光学系(例えば、投光角度30°,受光角度45°)を選択できるようにしたことにある。
【0070】
このようなテラヘルツ波ガイド部4によれば、多層膜を備える被測定物に対して、ピーク位置の位置ずれが拡大して検出できるだけでなく、夫々の膜毎の測定を同時に行うことも可能となる。
【0071】
尚、実施例は、テラヘルツ波の反射波から被測定物の異常を検出する検査装置を例として説明したが、本発明の原理は、テラヘルツ波の透過波から被測定物の異常を検出する検査装置の場合にも適用できることは、言うまでもない。
【0072】
本発明のいくつかの実施例を説明したが、これらの実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施例やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1 パルスレーザ生成部
2 ビームスプリッタ
3 テラヘルツ波発生器
3a ミラー
3b レンズ
3c 送信アンテナ
4 テラヘルツ波ガイド部
4a 放物面鏡
4b 放物面鏡
4c 放物面鏡
4d ビームスプリッタ
4e ミラー
4f 一対の放物面鏡
4g 一対の放物面鏡
4h ミラー
5 時間遅延設定部
5a 時間遅延機構部
5b 時間遅延設定部
7 テラヘルツ波検出器
7a ミラー
7b レンズ
7c 受信アンテナ
10 XYテーブル部
10a テーブル
10b 位置制御部
20 電極
22 低温成長ガリウム砒素基板
25 シリコンレンズ
50 サンプリング信号生成部
51 ロックインアンプ
52 信号処理部
52a データ保持部
52b データ処理部
52c 表示部
100 被測定物
s1 テラヘルツ波信号
s2 テラヘルツ波検出信号
s3 時系列データ
s4 サンプリング信号
P1 基準ピーク位置
P2、P3 基準測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波のテラヘルツパルスを生成するパルスレーザ生成部と、
前記パルスレーザ生成部1で生成されたパルスレーザ光を第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光とに分割するビームスプリッタと、
前記第1のパルスレーザ光が照射されることによりテラヘルツ波を生成するテラヘルツ波発生器と、
前記テラヘルツ波発生器の送信アンテナから生成された第1のテラヘルツ波を所定のビームサイズに集光して被測定物に照射し、当該被測定物から反射した第2のテラヘルツ波を予め定めるテラヘルツ検出器の受信アンテナに集光するテラヘルツ波ガイド部と、
前記第2のパルスレーザ光を予め定められた第2の光路長に対して、予め定める定ピッチで逐次光路長を移動して、前記テラヘルツ受信アンテナに到達する時間を逐次積算して時間遅延する時間遅延設定部と、
前記時間遅延設定部により設定された光路長に基づいて前記第2のパルスレーザ光が到達したタイミングで、前記受信アンテナで検出された前記第2のテラヘルツ波を検出し、当該第2のテラヘルツ波の強度に応じたテラヘルツ波信号を生成するテラヘルツ波検出器と、
前記第1のパルスレーザ光を一定の低周波数で変調し、前記テラヘルツ波信号をサンプリングするサンプリング信号を生成するサンプリング信号生成部と、
前記被測定物の測定点を予め定めるピッチで移動させるXYテーブル部と、
前記XYテーブル部で設定された測定点において、予め設定される前記時間遅延設定部で設定される遅延時間毎に、前記テラヘルツ波検出器で検出された前記テラヘルツ波信号を前記サンプリング信号で同期検波してテラヘルツ波検出信号を生成するロックインアンプと、
前記ロックインアンプで生成された前記テラヘルツ波検出信号をテラヘルツ波の時間波形に相当する時系列データとして時系列に記憶するとともに、予め基準サンプルの時間波形に相当する基準時系列データを求め、さらに、当該基準時系列データから基準ピーク位置とその近傍の基準測定位置とを対応付けて記憶しておくデータ保持部と、当該基準ピーク位置と基準測定位置での前記時系列データと前記基準時系列データとの強度データを比較して、前記被測定物の異常を検出するデータ処理部と、当該データ処理部で処理された異常の測定点の位置を表示する表示部と、を備える信号処理部と、
を備え、
前記ビームスプリッタを出射点とする前記第1のパルスレーザ光が前記被測定物を経由して前記テラヘルツ波検出器の前記受信アンテナに至る第1の光路長と、前記ビームスプリッタを出射点とする前記第2のパルスレーザ光が前記時間遅延設定部を経由して前記テラヘルツ波検出器の前記受信アンテナに至る第2の光路長とが等しく成る位置に設定し、
且つ、前記パルスレーザ光の光軸上、および、当該第1の光路長と当該第2の光路長のテラヘルツ波の光軸上の各部は、同一平面上となるように設け、
前記X−Yテーブル部は、前記被測定物を予め定める測定点に移動し、
前記時間遅延設定部は、前記分割された前記第2のパルスレーザが、前記受信アンテナに到達する時間を予め設定された遅延時間となる位置に逐次前記第2の光路長を遅延し、
前記ロックインアンプは、前記測定点に対して、予め設定された前記遅延時間に対応する前記基準ピーク位置および前記基準測定位置での前記テラヘルツ波検出信号を生成し、
前記信号処理部は、予め設定された前記基準ピーク位置および前記基準測定位置について前記基準時系列データと測定した前記時系列データとの強度データを比較し、
さらに、ピーク位置のずれと強度データの差とが予め設定された値以上の場合に異常と判定し、
前記時系列データに対する周波数変換を行わず、さらに、予め設定された前記基準ピーク位置と前記基準測定位置についてのデータ強度の差を用いて異常の有無を判定し、検査時間を短縮するようにしたことを特徴とするテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項2】
前記基準測定点は、前記基準ピーク位置近傍の左右2点としたことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項3】
前記テラヘルツ波ガイド部は、前記被測定物は平面形状の場合、前記テラヘルツ発生部で生成されたテラヘルツ波を平行ビームとする第1の放物面鏡と、
前記平行ビームを前記被測定物の測定位置に集光させる第2の放物面鏡と、
前記第1の放物面鏡と前記第2の放物面鏡との間に設けられ、前記平行ビームを透過させて前記第2の放物面鏡の第1の方向に送るとともに、前記被測定物から反射したテラヘルツ波を異なる第2の方向に反射させるビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタで反射されたテラヘルツ波を前記テラヘルツ波検出器に集光する第3の放物面鏡と、
を備え、
前記テラヘルツ波ガイド部の前記第1の放物面鏡は前記テラヘルツ波発生器に対し、また、前記第1の放物面鏡は前記被測定物平面に対して、当該テラヘルツ波の光軸が鉛直方向となるように設けられた請求項1に記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項4】
テラヘルツ波ガイド部は、前記被測定物は平面形状の場合、前記テラヘルツ発生部で生成されたテラヘルツ波を反射する第1のミラーと、
前記第1のミラーから反射されたテラヘルツ波の前記被測定物表面に対する投光角を設定する一対の第1の放物面鏡と、前記被測定物表面から受光角を設定する一対の第2の放物面鏡と、
前記第2の放物面鏡から反射されたテレヘルツ波が、前記テラヘルツ検出器に集光するように設けられる第2のミラーと、
を備え、
前記投光角、前記受光角は、同一の角度とし、その角度は30°〜60°の範囲とし、
前記基準時系列データは、複数のピーク位置に対して基準ピーク位置とその近傍の基準測定位置を定め、
前記データ処理部は、前記複数の基準ピーク位置とその近傍の基準測定位置に対する夫々の前記時系列データと前記基準時系列データとの強度データを比較して、ピーク位置のずれと強度データの差とが予め設定された値以上の場合に異常と判定し、
前記被測定物の多層膜毎の異常を検出するようにしたことを特徴とする請求項3に記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項5】
テラヘルツ波を利用した被測定物の検査方法であって、
予め基準サンプルを用いてテラヘルツ波信号の時間波形を求め、当該時間波形の基準ピーク位置およびその近傍の基準測定位置の強度データを予め求めておくステップと、
前記被測定物の測定点の時間波形について、前記基準ピーク位置および前記基準測定位置について、被測定物の強度データを求めるステップと、
前記基準サンプルと前記被測定物との前記基準ピーク位置および前記基準測定位置の強度データを比較して、ピーク位置のずれと強度データの差とが予め設定された値以上の場合に異常と判定するステップと、
から成り、
テラヘルツ波の時間波形からその周波数スペクトルを求めず、且つ、時間波形を予め測定された基準位置の強度データのみをサンプリングして、測定時間を短縮するようにしたことを特徴とするテラヘルツ波を用いた検査方法。
【請求項6】
前記基準測定点は、前記基準ピーク位置の左右2点としたことを特徴とする請求項5に記載のテラヘルツ波を用いた検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−92496(P2013−92496A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235888(P2011−235888)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】