説明

テラヘルツ波イメージング装置

【課題】周波数が可変のテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ源を被測定物の近傍に移動させて測定することができるテラヘルツイメージング装置を提供する。
【解決手段】テラヘルツイメージング装置100は、センサヘッド部120が本体部110から分離されて複合ケーブル130で接続されており、センサヘッド部120だけを移動させて用いることが可能となっている。本体部110は、2つの波長可変レーザ111、112から出射される異なる波長のレーザ光を光カプラ115で合成し、この合成波を光導波路131を経由してセンサヘッド部120に伝送している。センサヘッド部120は、伝送された合成波をテラヘルツ源121に入射し、合成波のビート成分に相当する周波数のテラヘルツ波を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を被測定物に照射したときの透過波または反射波から当該被測定物の特性を測定するテラヘルツイメージング装置に関し、とくに複数のレーザ光源からその差周波成分に相当するテラヘルツ波を発生させて被測定物の特性を測定するテラヘルツイメージング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波を用いた新たな分析技術の可能性が注目されている。テラヘルツ波は、波長がマイクロ波と光波の境界領域に位置づけられる電磁波であり、波長にしておよそ300μm〜3mmの電波である。試薬類や生体高分子等は、テラヘルツ波に対しそれぞれに固有の吸収スペクトルを示す特徴がある。また、テラヘルツ波は、紙、プラスチック、ビニール、セラミック、木材、骨、歯、脂肪、粉体、乾燥食品等の非金属や無極性材料を透過することから、従来の赤外線分光等では困難であった物質の同定や非破壊検査を、テラヘルツ波を用いて実現できると期待されている。
【0003】
一般に、テラヘルツ波の発生及び検出技術は、発生するテラヘルツ波の特徴から、(1)時間軸上でインパルス性を有するテラヘルツを対象とする技術(時間領域で制御されたテラヘルツ波を用いる方式)と、(2)特定の周波数を有するテラヘルツを対象とする技術(周波数領域で制御されたテラヘルツ波を用いる方式)とに分類できる。(1)の技術は、その広帯域・高分解能性を活かした分光等に、また(2)の技術は、固有の周波数成分の応答特性を活かしたイメージング等に適用されることが多い。
【0004】
(1)、(2)のそれぞれの技術について、テラヘルツ波の発生方法や検出方法がこれまでに検討されている(例えば特許文献1)。特に、(2)の技術については、一般に、所望のテラヘルツ(THz)相当の周波数だけ離れた2つのレーザ光を重ね合わせ、これを光伝導アンテナと呼ばれる非線形結晶(GaP、DAST、KTP等)に照射することで、所望のテラヘルツ相当のビート成分をテラヘルツ波として発生させる、差周波混合の技術として知られている。
【0005】
テラヘルツ波を用いた従来のイメージング装置の構成例を図15に示す。2つのレーザ光源には、Cr:Forsteriteレーザ901が用いられ、レーザ光源から発生された光波は、ミラー等の光学系部品によって光混合器902に導波され、GaPベースで形成されたテラヘルツ源903に照射される。テラヘルツ源903は、2つの異なる波長が重なった光波のビート成分をテラヘルツ波に変換して出射する。テラヘルツ源903から出射されたテラヘルツ波は、試料904に照射され、これを透過したテラヘルツ波が検知器905で検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−313803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図15に例示するような従来のテラヘルツ波を用いたイメージング装置では、安定した周波数のテラヘルツ波を発生させるために、極めて高い安定度を有する高価なレーザ光源を用いており、ミラーやレンズなどの光学系部品を高精度に位置決めしてテラヘルツ源まで導波している。すなわち、レーザ光源からテラヘルツ源までが一体に構成され、光学系部品等の位置精度を厳密に管理する必要があった。また、装置が大型化する等の問題もあった。そのため、測定可能な場所が限定されたり、対象物に対しレーザ光源からテラヘルツ源までを一体に位置決めして配置するのが大きな負担となっていた。
【0008】
さらに、このようなレーザ光源は、出力波長の可変が困難であり、発生できるテラヘルツ波の周波数が限定されてしまうといった問題があった。このような問題により、テラヘルツ波を用いたテラヘルツイメージングの適用が大きく制約されていた。
【0009】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、周波数が可変のテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ源を被測定物の近傍に移動させて測定することができるテラヘルツイメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の第1の態様は、それぞれの発振波長が異なる2以上の波長可変レーザと、前記波長可変レーザから出力されるレーザ光を合成して合成波を出力する光カプラと、前記光カプラから出力される合成波を伝播させる光導波路と、前記光導波路から前記合成波が照射されると前記合成波のビート成分に相当する周波数のテラヘルツ波を出力するテラヘルツ源と、を備え、前記波長可変レーザから出力されるレーザ光を合成した前記合成波を、前記光導波路を介して前記テラヘルツ源に高精度に照射して所定周波数のテラヘルツ波を発生させることを特徴とする。
【0011】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記2以上の波長可変レーザと、前記光カプラと、を本体部に備え、前記テラヘルツ源をセンサヘッド部に備え、前記センサヘッド部が、前記光導波路で接続された前記本体部とは独立に移動可能に構成されていることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、テラヘルツ源を備えるセンサヘッド部を、被測定物の近傍に移動させて測定することが可能となる。また、複数の波長可変レーザを光源とすることにより、それぞれの光源の出力波長の差分を時系列的に変化させることが可能となり、発生させるテラヘルツ波の周波数を可変とすることができる。
【0013】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記波長可変レーザを温度制御することで出力レーザ光の波長を調整するLD制御回路をさらに備え、前記LD制御回路が、前記2以上の波長可変レーザのうち少なくとも1つを温度制御して前記レーザ光の波長を調整することにより、前記テラヘルツ源から出力されるテラヘルツ波の周波数が時系列的に調整されることを特徴とする。
【0014】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記LD制御回路は、前記波長可変レーザの温度を制御するTEC(Thermo Electric Cooler)と、前記波長可変レーザから出力されるレーザ光の一部を受光するフォトダイオード(PD)と、前記合成波の一部を入射して所定周波数のレーザ光のみを通過させる前記波長可変レーザと同数のエタロンフィルタと、前記エタロンフィルタから前記所定周波数のレーザ光を受光する別のフォトダイオードと、前記フォトダイオード及び前記別のフォトダイオードからそれぞれの測定結果を入力し、前記レーザ光の出力強度及び波長が安定的に所定値となるように前記TECを制御するTEC駆動回路と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記テラヘルツ源は、前記波長可変レーザから出力されるレーザ光の出力波長に対応した不純物準位を有し、かつ出力するテラヘルツ波に対し短いキャリア寿命と高い移動度を有する半導体材料からなる基板を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記波長可変レーザは、波長が1.5um帯のレーザ光を出力し、前記テラヘルツ源は、GaN基板を備えることを特徴とする。
テラヘルツ源用材料にGaNを適用することにより、高耐圧環境においても、高信頼なテラヘルツ源を実現することができる。
【0017】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記波長可変レーザは、波長が1.3um帯あるいは1.5um帯のレーザ光を出力し、前記テラヘルツ源は、InGaAsP/InPあるいはInGaAs/AlGaAsからなる基板を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記波長可変レーザは、波長が650nm〜1.5um帯のレーザ光を出力し、前記テラヘルツ源は、II-VI族半導体あるいはIII-V族半導体からなる基板を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記波長可変レーザは、波長が650nm〜1.5um帯のレーザ光を出力し、前記テラヘルツ源は、金属をドープしたII-VI族半導体あるいは金属をドープしたIII-V族半導体からなる基板を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記波長可変レーザは、波長が0.98um帯のレーザ光を出力し、前記テラヘルツ源は、GaAsからなる基板を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記光導波路は、伝播するレーザ光の偏波面を回転または保持する偏波面調整手段を有していることを特徴とする。
【0022】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、テラヘルツ波の所定の周波数帯に感度を有するアンテナと、前記アンテナで受信した信号を検波する広帯域検波回路と、を有する検知部をさらに備え、前記テラヘルツ源から出力されたテラヘルツ波を被測定物に照射したときの反射信号または透過信号を前記検知部で受信することを特徴とする。
【0023】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、テラヘルツ波の所定の周波数帯に感度を有するテラヘルツカメラを有する検知部をさらに備え、前記テラヘルツ源から出力されたテラヘルツ波を被測定物に照射したときの反射信号または透過信号を前記検知部で受信することを特徴とする。
【0024】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記テラヘルツ源から出力されるテラヘルツ波の一部を受光して電圧値に変換する波長検知部と、前記波長検知部から前記電圧値を入力し、予め保存する較正用テーブルを用いて前記電圧値から前記テラヘルツ波の波長を推定して前記LD制御回路に出力する電圧較正手段と、をさらに備え、前記LD制御回路は、前記電圧較正手段から前記テラヘルツ波の波長を入力すると、前記テラヘルツ波の波長が所定の目標波長に一致するように前記波長可変レーザの出力を制御することを特徴とする。
【0025】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記テラヘルツ源は、平行に配置された2つの伝送線路と、前記伝送線路のそれぞれの略中央に形成された突起部とを有し、前記突起部の先端が凹状の曲線形状に形成されていることを特徴とする。
【0026】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記2以上の波長可変レーザと前記光カプラを1組とする光源部を2以上備え、さらに、前記2以上の光源部のそれぞれと前記光導波路で接続されて前記光カプラから出力されるそれぞれの合成波を入力して合波する合波部と、前記合波部で合波された混合波を前記テラヘルツ源に照射する別の光導波路と、を備えることを特徴とする。
【0027】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記2以上の波長可変レーザは、前記2以上の光源部のそれぞれで同じ発振波長のレーザ光を出射することを特徴とする。
【0028】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記2以上の波長可変レーザは、前記2以上の光源部のそれぞれで周波数差が等しく発振波長の異なるレーザ光を出射することを特徴とする。
【0029】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記合波部は、PLC(Planar LIghtwave Circuit)を用いて形成されていることを特徴とする。
【0030】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記PLCは、前記2以上の光導波路から入力した合成波の位相をそろえる位相調整部を備えていることを特徴とする。
【0031】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記PLCは、前記2以上の光源部から入力した合成波に対し分散補償を行う分散補償部を備えていることを特徴とする。
【0032】
本発明のテラヘルツ波イメージング装置の他の態様は、前記2以上の光源部から入力した合成波の位相をそろえてそれぞれを前記2以上の光導波路に出力する別の位相調整部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、周波数が可変のテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ源を被測定物の近傍に移動させて測定することができるテラヘルツイメージング装置を提供することが可能となる。本発明では、レーザ光源を備える本体部とテラヘルツ源を備えるセンサヘッド部とを分離した構成とすることで、センサヘッド部を被測定物の近傍まで移動させてテラヘルツ波を発生させることができる。また、2以上の波長可変レーザを光源とすることで、周波数が可変のテラヘルツ波を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係るテラヘルツイメージング装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】LD制御回路の詳細構成を示す本体部のブロック図である。
【図3】波長可変光源の構成を示すブロック図である。
【図4】波長可変光源の波長弁別曲線である。
【図5】光出力オフ状態で波長変更命令、及び光出力パワー変更命令を受信したときの処理を示す流れ図である。
【図6】光出力オン状態で光出力パワー変更命令を受信したときの処理を示す流れ図である。
【図7】テラヘルツ源及び検知部の斜視図である。
【図8】テラヘルツ波の周波数を時系列的に調整する一例を示すグラフである。
【図9】テラヘルツ波の周波数を時系列的に調整する別の例を示すグラフである。
【図10】被測定物の周波数応答を模式的に示すグラフである。
【図11】テラヘルツ波の反射波を検知するセンサヘッド部の構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係るテラヘルツイメージング装置の全体構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の第3実施形態に係るテラヘルツイメージング装置の全体構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の第4実施形態に係るテラヘルツイメージング装置のテラヘルツ源に備えられたアンテナの平面図である。
【図15】テラヘルツ波を用いた従来の検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図16】本発明の第5実施形態に係るテラヘルツイメージング装置の全体構成を示すブロック図である。
【図17】分散補償部を備えたPLCの一例を示す斜視図である。
【図18】本発明の第6実施形態に係るテラヘルツイメージング装置の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の好ましい実施の形態におけるテラヘルツ波イメージング装置の構成について、図面を参照して以下に詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0036】
(第1実施形態)
本発明の好ましい第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態のテラヘルツイメージング装置の全体構成を示すブロック図である。本実施形態のテラヘルツイメージング装置100は、本体部110とセンサヘッド部120、及び両者を接続する複合ケーブル130を備えている。本実施形態では、センサヘッド部120が本体部110から分離されて複合ケーブル130で接続されており、センサヘッド部120だけを移動して用いることが可能となっている。
【0037】
本体部110は、2つの波長可変レーザ111、112、波長可変レーザ111、112からのレーザ光を増幅する半導体光増幅器(SOA)113、114、光カプラ115、波長可変レーザ111、112を制御するLD制御回路116、及びアナログ回路117とデータ処理回路118を備えている。
【0038】
2つの波長可変レーザ111、112は、それぞれで異なる波長のレーザ光を出射しており、この2つのレーザ光がそれぞれSOA113、114で増幅された後、光カプラ115で合成される。光カプラ115で合成された合成波は、複合ケーブル130を経由してセンサヘッド120に伝播される。なお、本実施形態では、波長可変レーザとして111と112の2つを用いているが、これに限定されず、3以上備えるようにすることも可能である。
【0039】
複合ケーブル130は、光カプラ115で合成された合成波をセンサヘッド部120に伝播する光導波路131と、センサヘッド部120で必要な電源を供給する電源ケーブル132と、センサヘッド部120で処理された信号を本体部110のデータ処理回路118に伝送する信号線133を有している。ここでは、光導波路131として光ファイバを用いている。
【0040】
センサヘッド部120は、本体部110の光カプラ115から光導波路131を経由して伝播された合成波が照射されるとその合成波のビート成分に相当する周波数のテラヘルツ波を出力するテラヘルツ源121と、テラヘルツ源121から出力されたテラヘルツ波を被測定物10に好適に照射するためのレンズ122と、被測定物10を透過したテラヘルツ波を検知する検知部123と、被測定物10を透過したテラヘルツ波を検知部123に好適に入射させるためのレンズ124を備えている。ここでは、レンズ123、124に半球レンズを用いている。
【0041】
本実施形態のテラヘルツイメージング装置100は、波長可変レーザ111、112に出力波長の異なる2つのDFBレーザを用いており、それぞれから出射されるレーザ光を合成してテラヘルツ源121に照射させることで、テラヘルツ源121からテラヘルツ波を発生させている。波長可変レーザ111、112の出力周波数をそれぞれω1、ω2とすると、テラヘルツ源121で発生するテラヘルツ波の周波数ωTは、
【数1】

となる。
【0042】
上記のように、所望の周波数ωTのテラヘルツ波を発生させるには、波長可変レーザ111、112に用いる2つのDFBレーザのそれぞれの周波数ω1、ω2を好適に選択すればよい。本実施形態のテラヘルツイメージング装置100は、テラヘルツ波の周波数が可変となるように構成しており、波長可変レーザ111、112に用いる2つのDFBレーザを、出力波長の温度依存性と調整可能な波長範囲を考慮して選択している。
【0043】
波長可変レーザ111、112として、例えば1.5μm帯の光通信用DFBレーザを用いることができる。あるいは、0.98μm帯の光ファイバアンプ用シングルモードポンプレーザや650〜1.5μm帯の市販の赤外レーザを使用してもよい。1.5μm帯の光通信用DFBレーザを用いた場合には、被測定物10の鮮明なイメージ取得や、良好な同定が可能となる。
【0044】
一例として、発生させるテラヘルツ波の周波数を1〜2THzとするとき、波長可変レーザ111に波長1.52955μm(温度が25℃のとき)のDFBレーザを用い、波長可変レーザ112に波長1.54135μm(温度が25℃のとき)のDFBレーザを用いることができる。このとき、波長可変レーザ111の波長を固定しておき、波長可変レーザ112の波長を概ね1.5374〜1.54532μmの範囲で調整することによって、所定周波数のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0045】
本体部110に備えられたLD制御回路116は、波長可変レーザ111、112の温度制御を行う機能を有しており、波長可変レーザ111、112の少なくとも1つを温度制御することでその出力波長を制御している。また、アナログ回路117は、複合ケーブル130内の電源ケーブル132を介して、センサヘッド部120に必要な電源を供給している。さらに、データ処理回路118は、センサヘッド部120の検知部123で検出されたデータを複合ケーブル130内の信号線133を経由して入力し、被測定物10のイメージング処理等を行う。
【0046】
LD制御回路116の詳細構成を、図2を用いて説明する。図2は、LD制御回路116の詳細構成を示す本体部110のブロック図である。LD制御回路116は、波長可変レーザ111、112のそれぞれの温度制御を行う加熱冷却素子(TEC:Thermo Electric Cooler)141、142と、TEC141、142を制御するTEC駆動回路143、144を備えている。
【0047】
また、波長可変レーザ111、112からのレーザ光の出力電力を監視する受光器(PD)145、146と、波長可変レーザ111、112からのレーザ光の出力波長を監視するPD147、148と、入力光から所定周波数の光のみを通過させるエタロンフィルタ149、150とが備えられている。エタロンフィルタ149、150には、TEC151、152がそれぞれ具備されている。PD145〜148でレーザ光を監視するために、レーザ光の一部を分岐する光分岐素子が適宜用いられている。
【0048】
PD145、146は、それぞれ波長可変レーザ111、112から出力されるレーザ光の一部を光分岐素子で分岐したものを受光し、それぞれの出力電力(強度レベル)を測定している。測定結果は、それぞれTEC駆動回路143、144に伝送される。また、光カプラ115から出力される合成波の一部を光分岐素子で分岐し、これをエタロンフィルタ149、150を経由してPD147、148に入射している。PD147、148は、エタロンフィルタ149、150を経由して入射した所定の周波数のレーザ光の強度を測定しており、測定結果はそれぞれTEC駆動回路143、144に伝送される。
【0049】
エタロンフィルタ149、150は、所定の周波数帯の光のみを通過させるものであり、ここでは、それぞれ波長可変レーザ111、112から出力されるレーザ光の周波数帯に一致するように調整されている。エタロンフィルタ149、150の通過周波数帯は、それぞれに具備されたTEC151、152を用いた温度制御で調整することができる。これより、PD147、148は、波長可変レーザ111、112から出力される所定周波数のレーザ光の強度を測定することができ、波長可変レーザ111、112の出力波長(出力周波数)を監視することができる。
【0050】
TEC駆動回路143、144は、PD145〜148からそれぞれの測定結果を入力し、波長可変レーザ111、112から出力されるレーザ光のそれぞれの周波数が所望の周波数に安定的に一致し、かつ両者の出力電力が一致するように、TEC141、142を制御している。本実施形態では、波長可変レーザ111、112にSOA113、114、TEC141、142、及びTEC駆動回路143、144を一体化してモジュール化しており、これにより、従来は極めて高価であったレーザ光源部を小型・低コスト化することが可能となっている。また、モジュール化に当たっては、TEC141、142間の熱的アイソレーションを確保した構造としている。
【0051】
本実施形態の波長可変レーザ111、112及びLD制御回路116に用いられる波長可変光源の一例を、図を用いて詳細に説明する。以下では、波長可変レーザ111について説明するが、波長可変レーザ112も同じ構成とすることができる。図3は、波長可変レーザ111に温度調整型半導体レーザ(DFBレーザ)を用いたときの波長可変光源20の構成を示すブロック図である。半導体レーザ(LD)21(波長可変レーザ111に相当)とSOA22(SOA113に相当)は、TEC温度検出器24を取り付けたTEC23上に搭載されている。レーザ光出力経路には2つの光分岐素子25、26が配置されている。光分岐素子25による分岐光は、エタロンフィルタ等の波長フィルタ27(エタロンフィルタ149に相当)を介して第1PD28(PD147に相当)に入射される。光分岐素子26による分岐光は、そのまま第2PD29(PD145に相当)に入射される。以上の部品は、図3の破線で示すように、すべて同一モジュール内に収容されている。
【0052】
LD駆動電流モニタ回路31の出力アナログ値は、A/D変換器(ADC)32を介して、LD電流モニタ値としてCPU30に取得される。LD電流モニタ値と所定のLD電流目標値との差分情報に基づき、CPU30でLD電流制御指示値が更新され、D/A変換器(DAC)33を介してLD電流駆動回路34に出力される。LD電流駆動回路34では、LD電流制御指示値に基づいてLD21の自動電流制御(ACC:Automatic Current Control)が実現される。
【0053】
第2PDモニタ回路35の出力アナログ値は、ADC36を介して、第2PD29の受光パワーに対応する電流モニタ値としてCPU30に取り込まれる。光出力パワー目標値に対応する電流目標値と第2PD29の電流モニタ値との差分情報に基づき、SOA電流制御指示値が更新され、DAC37を介してSOA電流駆動回路38に出力される。SOA電流駆動回路38では、SOA電流制御指示値に基づいてSOA22の自動光出力制御(APC:Automatic Power Control)が実現される。SOA電流モニタ回路39を実装しているので、SOA22の自動電流制御(ACC)を併用する方式でも良いし、APCとACCとのどちらか一方を選択する方式でも良い。
【0054】
TEC温度モニタ回路41の出力アナログ値は、ADC42を介してTEC温度モニタ値としてCPU30に取り込まれる。TEC温度目標値と上記TEC温度モニタ値との差分情報に基づき、TEC温度制御指示値が更新され、DAC43を介してTEC駆動回路44(TEC駆動回路143に相当)に出力される。TEC駆動回路44では、TEC温度制御指示値に基づいてTEC23の自動温度制御(ATC:Automatic Temperature Control)が実現される。
【0055】
第1PDモニタ回路45と第2PDモニタ回路35の出力アナログ値は、それぞれADC46、36を介して、第1PD電流モニタ値と第2PD電流モニタ値としてCPU30に取り込まれ、PD電流比モニタ値(第1PD電流モニタ値/第2PD電流モニタ値)が導出される。波長目標値に対応するPD電流比目標値と上記PD電流比モニタ値との差分情報に基づき、波長制御指示値が更新され、DAC43を介してTEC駆動回路44に出力される。TEC駆動回路44では、波長制御指示値に基づいて自動波長制御(AWC:Automatic Wavelength Control)が実現される。波長とPD電流比(第1PD電流モニタ値/第2PD電流モニタ値)との間には、図4に示すような周期的な関係がある。この曲線は一般的に波長弁別曲線と呼ばれており、あらかじめ波長ごとに決められたPD電流比目標値に収束させることになる。
【0056】
上記のATCとAWCは、どちらもTEC駆動回路44の制御指示値を更新するものであるが、ATCとAWCを併用する方式でもよいし、どちらか一方を選択する方式でもよい。
【0057】
波長可変光源20の初期化完了後で遷移可能な安定状態は、光出力オフ状態と光出力オン状態である。光出力オフ状態とは、波長可変光源として外部への光出力が無視できる状態を意味する。このことが保証されるのであれば、TEC23のATCとLD21のACCをともに稼動させてもよいし、TEC23のATCのみを稼動させてもよい。TEC23のATCとLD21のACCの両方を、必ずしも稼動させる必要はない。光出力オン状態とは、上位装置から指定された所望の波長、ならびに所望の光出力パワーを出力できている状態を意味する。
【0058】
光出力オフ状態で波長変更命令、および光出力パワー変更命令を受信した場合には、図5に示す目標値決定プロセスのフローチャートに従い、各種制御の目標値を決定する。すなわち、その時点の目標波長と目標光出力パワーの組合せに対応したAWC目標値(第1PD電流/第2PD電流)と、APC目標値(第2PD電流)の決定、ならびに目標波長に対応したACC目標値(LD電流)とATC目標値(TEC温度)を決定する。4つの目標値を決定しているが、その順番は入れ替えても問題ない。
【0059】
ここでは、光出力パワー変更命令を受信した場合でも、4つの目標値を変更することになっているが、目標光出力パワーに関連する2つの目標値だけを更新してもよい。すなわち、その時点の目標波長と目標光出力パワーの組合せに対応したAWC目標値(第1PD電流/第2PD電流)とAPC目標値(第2PD電流)の決定を行なうだけでもよい。
【0060】
光出力オフ状態で光出力オン命令を受信した場合には、以下の手順に従って光出力オン状態に遷移させ、その時点の目標波長ならびに目標光出力パワーに対応した各種制御の目標値を決定する。すでに、光出力オフ状態で実行済みであれば必ずしも行なわなくともよい。引き続き、ATC目標値とTEC温度モニタ値との差分、およびACC目標値とLD電流モニタ値との差分のそれぞれが許容値以下に収束するように、ATCとACCの制御処理を行なう。このとき、すでに光出力オフ状態でATCとACCが稼働中であれば、それぞれの目標値を変更することにより、自動制御を継続させることになる。
【0061】
ATCとACCの制御処理でそれぞれの目標値に収束できたことを確認した後は、APCとAWCの制御処理を開始させる。ATC目標値とTEC温度モニタ値との差分、ACC目標値とLD電流モニタ値、APC目標値と第2PD電流モニタ値との差分、およびAWC目標値とPD電流比モニタ値との差分、のそれぞれが許容値以下に収束するように、ATC、ACC、APC、及びAWCの制御処理を行なう。すべての収束条件を満足できれば、光出力オン状態に遷移できたことになる。
【0062】
ここでは、APCとAWCを同時に稼動させたが、APCが収束した後にAWCを稼動させてもよい。また、ATCとAWCとを同時に稼動させているが、AWCを稼動させる場合にはATCを停止する方式でも良い。
【0063】
一方、光出力オン状態で波長変更命令、および光出力パワー変更命令を受信した場合には、上記の光出力オフ状態で光出力オン命令を受信した場合と同様の手順に従い、光出力オン状態に遷移させる。但し、目標値決定プロセスを実行する前に、APCとAWCの制御処理をこの順番で停止する点が、上記の光出力オフ状態で光出力オン命令を受信した場合と異なる。これは、共用できない指定波長以外の信号光の発出を抑止する対策である。これでも光出力レベルが無視できない場合には、AWC停止の前にACCの制御処理も停止することで対応することになる。
【0064】
ここで、光出力パワー変更過程における出力波長の変動量が、運用上許容されるレベルであれば、光出力オン状態で光出力パワー変更命令を受信した場合に、上記のAPCとAWCの制御処理を停止させることなく、目標値決定プロセスを実行してもよい。すなわち、図6に示すフォローチャートに従った制御処理となる。
【0065】
光出力オン状態で光出力オフ命令を受信した場合には、APCとAWCの制御処理をこの順番で停止させ、光出力オフ状態に遷移させる。これは、光出力オフ状態に遷移させる過程で、所望の波長以外の信号光を外部に出力しない対策である。APCを停止するだけでは、光出力レベルが無視できない場合には、AWCを停止する前にLD21のACCも停止することで対応することになる。
【0066】
このように、各種制御処理の目標値、すなわちAWC目標値、APC目標値、ACC目標値、ATC目標値を、目標波長と目標光出力パワーの組合せにより決定しているので、波長可変光源モジュールの内部で発生する発熱量や散乱光の影響を抑制することができ、波長可変光源に求められている出力波長や光出力パワーの設定精度や安定性を確保できる。上記で示した目標値決定プロセスは、採用する制御方式に対応させて、以下のように適宜調整してもその効果に変わりはない。
【0067】
第2PD29の受光パワーに対応する第2PD電流値を目標とするAPCではなく、第2PD受光パワーそのものを目標値とするAPC制御を採用する場合には、第2PD電流値から第2PD受光パワーに変換するための係数α(λ、Pow)を更新することで対応できる。この変換係数α(λ、Pow)は、式(1)に示すように、その時点の目標波長λと目標光出力パワーPowの組合せにより一意に決定されるものである。変換係数α(λ、Pow)は、テーブル化してメモリ47に格納しておき、目標波長と目標光出力パワーの組合せにより、選択する方式や補完する方式で対応できる。
第2PD受光パワー=α(λ、Pow)×第2PD電流 (1)
【0068】
また、各PD受光パワーに対応するPD電流値(第1PD電流、第2PD電流)やTEC温度は、動作環境温度により変動する可能性がある。この場合、ADC値からPD電流に変換する係数A(T)、B(T)、およびTEC目標温度を補正する係数C(T)、D(T)を、その時点の環境温度T(ケース温度:図3参照)で補正する方式を採用することで、環境温度依存性を抑制することができる。その結果、波長可変光源を高精度で安定に動作させることができる。
【0069】
上記の変換係数A(T)、B(T)、C(T)、D(T)は、次式(2)、(3)に示すように、その時点の環境温度Tにより一意に決定されるものである。変換係数A(T)、B(T)、C(T)、D(T)は、テーブル化してメモリ47に格納しておき、環境温度Tにより、選択する方式や補完する方式で対応できる。ADC値と物理値との関係が非線形である場合には、変換そのものをテーブル参照方式で対応しても良い。
第2PD電流=A(T)×ADC値+B(T) (2)
TEC温度=C(T)×ADC値+D(T) (3)
【0070】
さらに、第2PD電流から第2PD受光パワーに変換するプロセスとして(1)式を採用する制御方式の場合には、第2PD電流から第2PD受光パワーに変換する係数β(λ)の目標波長依存性を補償する仕組みと、第2PD受光パワーを補正する係数γ(Pow)の目標光出力パワー依存性を補償する仕組みとを併用する。その結果、波長可変光源は高精度で安定に動作させることができる。
【0071】
この変換係数は、次式(4)に示すように、その時点の目標波長と目標光出力パワーにより一意に決定されるものである。変換係数β(λ)と補正係数γ(Pow)は、テーブル化してメモリ47に格納しておき、目標波長と目標光出力パワーの組み合わせにより、選択する方式や補完する方式で対応できる。式(4)の変換係数β(λ)と補正係数γ(Pow)は、式(1)の変換係数α(λ、Pow)をλとPowの独立性に注目して分割したものである。この方式で対応できる場合には、テーブル化された変換係数や補正係数の容量を圧縮できるので、式(1)の方式より効率がよい。
第2PD受光パワー=β(λ)×γ(Pow)×第2PD電流 (4)
【0072】
以上のように、波長可変光源の制御方式に対応させて、目標値決定プロセスを適宜調整することで、波長可変光源として高精度で安定な動作を確保できる。要は、その時点の目標波長と目標光出力パワーの組合せに対応させて、各種制御の目標値、モニタ値の変換係数や補正係数を調整すればよい。
【0073】
さらに、環境温度の影響が無視できない場合には、その時点の目標波長、目標光出力パワーに加えて、環境温度にも対応させて、各種制御の目標値、モニタ値の変換係数や補正係数を調整することで、さらに高精度で安定な波長可変光源を実現できる。
【0074】
上記の波長可変光源の一例では、半導体レーザに温度調整型半導体レーザ(DFBレーザ)を例示して説明した。しかし、これに限定されるものではなく、電流制御型半導体レーザに置き換えてもよい。ただし、電流制御型半導体レーザ(DBRレーザ)と温度調整型半導体レーザ(DFBレーザ)との間では、以下の点で異なる。温度調整型半導体レーザ(DFBレーザ)の場合には、AWCをTEC駆動回路の制御指示値を更新することで実現したが、電流制御型半導体レーザ(DBRレーザ)の場合には、LD駆動回路の制御指示値を更新することになる。そのため、電流制御型半導体レーザ(DBRレーザ)の場合には、LDのACCとAWCはどちらもLD駆動回路の制御指示値を更新するものとなるが、ACCとAWCの併用する方式でも良いし、どちらか一方の選択する方式でも良い。
【0075】
さらに、温度調整型半導体レーザ(DFBレーザ)の場合には、LDのACCを独立で動作させていたが、電流制御型半導体レーザ(DBRレーザ)の場合には、TECのATCを独立で動作させることになる。
【0076】
なお、上記では、PD145〜148を用いて、波長可変レーザ111、112から出力されるレーザ光の出力電力の監視と周波数の監視を別々に行う構成としたが、PD145〜148に代えて、出力電力と周波数を同時に監視できるOPMを用いてもよい。OPMは、例えば光カプラ115の出力側に設けることができる。OPMを用いることで、波長可変レーザ111、112から出力される2つのレーザ光をそれぞれの波長に精度よく分離してそれぞれの出力電力を監視することができる。
【0077】
次に、センサヘッド部120のテラヘルツ源121と検知部123について、図7を用いて詳細に説明する。センサヘッド部120は、図1に示すように、テラヘルツ源121と検知部123を備えており、7(a)、(b)は、それぞれの斜視図を示している。
【0078】
テラヘルツ源121は、所定の半導体材料からなる基板161の一方の面にアンテナ162を配置して構成されている。アンテナ162は、平行に配置された伝送線路163、164と、伝送線路163、164のそれぞれの略中央に形成された突起部165、166で構成されている。突起部165、166は、両者の間に小さなギャップが設けられており、微小ダイポールアンテナを形成している。また、伝送線路163、164の間には、直流電源167から直流バイアスが印加されている。
【0079】
上記のように構成されたテラヘルツ源121において、アンテナ162のギャップ部に光導波路131から出射された合成波を照射すると、照射された合成波からなるテラヘルツ相当のビート信号がテラヘルツ波に変換されて発生し、基板161の他方の面から出射される。出射されたテラヘルツ波のビームを半球レンズ122で拡大して被測定物10に照射し、被測定物10を透過したテラヘルツ波を半球レンズ124で集光して検知部123に入射させる。検知部123では、入射したテラヘルツ波に対応する信号を検知する。
【0080】
テラヘルツ源121の基板161に用いる非線形材料として、波長可変レーザ111、112の出力波長に対応した不純物準位(吸収帯)を有するとともに、出力するテラヘルツ波に対し短いキャリア寿命と高い移動度を有する半導体材料を用いるのがよい。従来は、例えば1.5μm帯の光源に対しては、DASTと呼ばれる有機結晶や、低温成長GaAsが採用されることが多かった。しかし、高出力のテラヘルツ波を発生させるために高電圧で直流バイアスを印加したときの劣化や、結晶体への光波照射による劣化などにより、テラヘルツ源の信頼性に課題があった。
【0081】
そこで、本実施形態では、波長可変レーザ111、112から波長が1.5μm帯のレーザ光が出射されるときには、テラヘルツ源121の基板161にGaN基板を用いるようにしている。発明者らは、GaNが、その結晶成長のプロセスの特徴から、結晶内に欠陥を多く含んだ材料であり、低温成長GaAsと同様に、テラヘルツ波を発生させる材料として好適であることを見出した。GaNは、その耐圧性及び信頼性から、高電圧環境においても、高い信頼度を有するテラヘルツ源を実現することができる。また、GaNのもつ高周波特性から、テラヘルツ源121にGaNを用いた増幅素子も集積することにより、高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0082】
また、波長可変レーザ111、112から波長が1.3μmまたは1.5μm帯のレーザ光が出射されるときには、テラヘルツ源121の基板161に、InGaAsP/InPあるいはInGaAs/AlGaAsからなる基板を用いることができる。
【0083】
波長可変レーザ111、112から波長が650nm〜1.5μm帯のレーザ光が出射されるときには、テラヘルツ源121の基板161に、II-VI族半導体あるいはIII-V族半導体からなる基板、ないしは、金属をドープしたII-VI族半導体あるいは金属をドープしたIII-V族半導体からなる基板を用いることができる。波長可変レーザ111、112から出射されるレーザ光の波長を650nm〜1.5μm帯と広くする場合には、II-VI族半導体あるいはIII-V族半導体のどの材料を組み合わせるかで、テラヘルツ波の出力レベルが異なってくる。とくに、1.5μm帯では、II-VI族半導体あるいはIII-V族半導体にErやBeのような金属をドープしてもよい。
【0084】
さらに、波長可変レーザ111、112から波長が0.98μm帯のレーザ光が出射されるときには、テラヘルツ源121の基板161に、GaAsからなる基板を用いるのがよい。
【0085】
検知部123は、図7(b)に示すように、テラヘルツ波受信部170と広帯域検出回路180を備えている。テラヘルツ波受信部170は、テラヘルツ源121と同様な構成を有しており、所定の半導体材料からなる基板171の一方の面にアンテナ172が配置されている。アンテナ172は、アンテナ162と同様に、平行に配置された伝送線路173、174と、伝送線路173、174のそれぞれの略中央に形成された突起部175、176で構成されている。突起部175、176は、両者の間に小さなギャップが設けられており、微小ダイポールアンテナを形成している。
【0086】
アンテナ172では、アンテナ162と異なり、伝送線路173、174の間に直流バイアスは印加されておらず、それに代えて電流計181が接続されている。電流計181で測定された電流は、ADC182でデジタル信号に変換され、信号線133を経由してデータ処理回路118に伝送される。データ処理回路118では、信号線133を経由して入力したデジタル信号を強度信号等に変換し、これをもとに被測定物10のイメージング処理等を行う。本実施形態では、広帯域検出回路180が電流計181とADC182を備える構成としている。
【0087】
検知部123を、上記のようなテラヘルツ波受信部170と広帯域検出回路180を用いて構成することにより、検知部123の小型化が容易となる。また、検知部123の別の実施形態として、上記のテラヘルツ波受信部170及び広帯域検出回路180に代えて、テラヘルツ波の所定の周波数帯に感度を有するテラヘルツカメラを用いることも可能である。このような構成としても、検知部を小型化することができる。
【0088】
本実施形態のテラヘルツイメージング装置100を用いて、被測定物10を測定する方法を以下に説明する。テラヘルツイメージング装置100は、本体部110に2つの波長可変レーザ111、112を備えており、それぞれのTEC141、142を温度制御することで、それぞれの出射レーザ光の波長を調整することが可能となっている。これにより、TEC141、142の温度制御を時系列的に行うことで、テラヘルツ源121から出力されるテラヘルツ波の周波数を時系列的に調整することが可能となっている。
【0089】
テラヘルツ波の周波数を時系列的に調整する一例を、図8及び図9を用いて説明する。図8では、一方の波長可変レーザ111の出力周波数(符号S1で示す)を所定の値に固定し、他方の波長可変レーザ112の出力周波数(符号S2で示す)を時系列的に連続的に変化させた例を示している。テラヘルツ波の周波数は、波長可変レーザ111と112の周波数の差となることから、符号S3で示すように時系列的に連続して変化する。
【0090】
図8に示すように、周波数が時系列的に変化するテラヘルツ波を被測定物10に照射することで、被測定物10に固有の周波数応答(イメージング)を得ることができる。周波数応答の一例を、図10に模式的に示す。同図では、検出したい物質A、B、Cのそれぞれの周波数応答を模式的に示している。図8に示すような周波数が時系列的に連続的に変化するテラヘルツ波を被測定物10に照射することで、データ処理回路118において周波数応答が得られる。得られた周波数応答を、図10に示す検出したい物質の周波数応答と比較することで、被測定物10が検出したい物質A、B、Cのいずれか、あるいは検出したい物質でないことを判定することができる。
【0091】
また、図9では、一方の波長可変レーザ111の出力周波数(符号S4で示す)を所定の値に固定し、他方の波長可変レーザ112の出力周波数(符号S4で示す)を時系列的に所定の周波数にステップ状に変化させた例を示している。この場合には、テラヘルツ波の周波数も、符号S3で示すように、時系列的に特定の周波数にステップ状に変化する。このようなテラヘルツ波を被測定物10に照射することで、特定の周波数に対する被測定物10の周波数応答を得ることができる。検出したい物質が、特定の周波数で固有の応答を示すときは、図9に示すようなテラヘルツ波を用いるのがよい。
【0092】
上記実施形態のセンサヘッド部120は、被測定物10を透過したテラヘルツ波を検知部123で検知する構成としているが、これに代えて、被測定物10で反射されたテラヘルツ波を検知部123で検知するように構成することも可能である。被測定物10で反射されたテラヘルツ波を検知部123で検知するように構成されたセンサヘッド部120の実施形態を、図11のブロック図に示す。
【0093】
また、上記実施形態では、検知部123のテラヘルツ波受信部170と半球レンズ124をともにセンサヘッド部120に設ける構成としていたが、テラヘルツ波受信部170を本体部110側に設け、センサヘッド部120には、テラヘルス源121と半球レンズ124を設ける構成とすることも可能である。この場合には、信号線133に代えて複合ケーブル130に所定のテラヘルツ波導波路を配索させ、被測定物10を透過または反射したテラヘルツ光を半球レンズ124で集光させる。そして、集光させたテラヘルツ波を所定のテラヘルツ波導波路に入射させ、このテラヘルツ波導波路を経由して本体部110側に設けたテラヘルツ波受信部170に出射させる。
【0094】
さらに、本実施形態のセンサヘッド部120では、テラヘルツ源121で発生させたテラヘルツ波を被測定物10に広範囲に照射し、被測定物10を透過したテラヘルツ波を検知部123に入射させるために、レンズ123、124にそれぞれ半球レンズを用いているが、これに限定されず、例えば凹レンズ及び凸レンズを用いて構成することも可能である。
【0095】
この発明によれば、テラヘルツ源を備えたセンサヘッド部を小型化することが容易であり、センサヘッド部を被測定物の近傍に移動させて測定することが可能となる。また、レーザ光源の波長可変を可能とするLD制御回路を波長可変レーザと一体化させてモジュール化することによって、従来、極めて高価であったレーザ光源部を小型・低コスト化することができる。また、テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ源の材料にGaNを採用することによって、高い駆動電圧条件においても、高い信頼性を有するテラヘルツ源を実現することができる。さらに、GaNを用いた増幅素子も集積すれば、テラヘルツ波の高出力化にも寄与する。
【0096】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施の形態を図12を用いて説明する。図12は、本実施形態のテラヘルツイメージング装置200の全体構成を示すブロック図である。テラヘルツ源121におけるテラヘルツ波の発生効率は、光導波路131を経由してセンサヘッド部120に伝播された合成波が、テラヘルツ源121に照射される時点でどのような状態にあるかに影響される。すなわち、合成波がテラヘルツ源121に照射される時点で、2つのレーザ光の偏波が所定の条件を満たし、かつ2つのレーザ光の出力電力がほぼ等しいときに、テラヘルツ源121からテラヘルツ波が効率よく発生される。
【0097】
2つのレーザ光の偏波については、それぞれが波長可変レーザ111、112から出射されたときの偏波面を維持している、あるいは、偏波面が回転(円偏波)している、との条件が満たされているときに、テラヘルツ波が効率よく発生される。そこで、本実施形態では、光導波路231が、光導波路131を伝播するレーザ光の偏波面を回転させる、または維持する偏波面調整手段201を有する構成としている。
【0098】
図12に示す本実施形態のテラヘルツイメージング装置200では、光導波路131を伝播する2つのレーザ光の偏波面を回転させるために、偏波面調整手段201として、光導波路131の途中にデポラライザを配置している。デポラライザは、2つのレーザ光の偏波面を回転させることができる。また、デポラライザを配置する代わりに、光導波路131に用いる光ファイバを、光カプラ115との融着面を所定幅だけ軸ずれさせて接続するようにしてもよい。この場合には、光導波路131に用いる光ファイバと光カプラ115との融着面が偏波面調整手段となる。
【0099】
一方、光導波路131を伝播する2つのレーザ光の偏波面を維持させる偏波面調整手段として、光導波路131にパンダファイバを用いることができる。
【0100】
上記のように、光導波路131を伝播する2つのレーザ光の偏波面を回転、または維持する機能を具備することによって、2つのレーザ光の合成波が有するビート成分のレベル変動を抑制し、効率の高いテラヘルツ波発生を実現することができる。
【0101】
また、本実施形態では、光導波路131から出力される2つのレーザ光の出力電力が等しくなるように制御するために、テラヘルツ源121の手前にさらに出力監視手段202を備えている。出力監視手段202は、2つのレーザ光のそれぞれの出力電力を測定して両者の差(以下では、出力誤差とする)を算出している。2つのレーザ光のそれぞれの出力電力を測定するのに、例えばOPMを用いることができる。
【0102】
出力監視手段202で算出された出力誤差は、複合ケーブル130に追加された制御用信号線203を経由してLD制御回路116に伝送される。LD制御回路116は、出力監視手段202から入力した出力誤差に従って、波長可変レーザ111、112の駆動電流またはSOA113、114の駆動電流を制御することで、テラヘルツ源121に照射される2つのレーザ光の出力電力が等しくなるように調整する。これにより、テラヘルツ源121で効率よくテラヘルツ波が発生される。
【0103】
(第3実施形態)
本発明の第3の実施の形態を図13を用いて説明する。図13は、本実施形態のテラヘルツイメージング装置300の全体構成を示すブロック図である。テラヘルツ源121で発生されるテラヘルツ波は、2つのレーザ光の周波数の差に相当する周波数を有している。しかしながら、2つのレーザ光からなる合成波がテラヘルツ源121に照射された時点で、両者の間に出力電力に差が生じていると、発生するテラヘルツ波の周波数が変化するおそれがある。そこで、本実施形態では、テラヘルツ源121で発生されたテラヘルツ波の周波数を直接測定するようにしている。
【0104】
本実施形態では、テラヘルツ源121で発生されるテラヘルツ波のうち、被測定物10の方向に照射されない漏れ光を波長検知部301で受光するようにしている。波長検知部301では、受光したテラヘルツ波の波長または周波数に対応する電圧値に変換し、これを複合ケーブル130に追加した制御用信号線303を経由して本体部110の例えばLD制御回路116に伝送する。
【0105】
しかし、波長検知部301では、電圧値への変換効率のばらつきにより、受光したテラヘルツ波の波長に対応する電圧値に正確に変換されていないおそれがある。また、変換された電圧値が制御用信号線303を経由して本体部110に伝送されるまでに、制御用信号線303の影響等を受けて変動してしまうおそれがある。このように、本体部110に伝送された電圧値が、テラヘルツ波の波長に精度よく対応していない場合には、テラヘルツ波の周波数を所望の周波数に制御することができなくなる。
【0106】
そこで、本実施形態のテラヘルツイメージング装置300では、本体部110に電圧較正手段302を設け、ここで、上記の変換効率のばらつきや制御用信号線303の影響等を取り除くように、伝送された電圧値を較正している。
【0107】
制御用信号線303を経由して伝送された電圧値の較正方法を以下に説明する。まず、あらかじめ工場出荷時に、所定の高精度な波長検出器を用いてテラヘルツ源121で発生されるテラヘルツ波の周波数を直接測定する。それと同時に、波長検知部301で受光されたテラヘルツ波から電圧値に変換され、制御用信号線303を経由して本体部110に伝送された電圧値を取得する。これより、波長検出器で正確に測定されたテラヘルツ波の波長と、本体部110に伝送された電圧値とを対応させた較正用テーブルを作成する。電圧較正手段302は、事前に作成された上記の較正用テーブルを保存し、テラヘルツ波の波長を推定するのに用いる。
【0108】
電圧較正手段302において、較正用テーブルを用いてテラヘルツ波の波長を制御する方法を以下に説明する。電圧較正手段302は、波長検知部301から制御用信号線303を経由して電圧値が伝送されると、これを事前に保存している較正用テーブルを用いてテラヘルツ波の波長に変換する。そして、変換された波長をLD制御回路116に出力する。LD制御回路116では、電圧較正手段302から入力した波長が所望のテラヘルツ波の波長に一致するように、波長可変レーザ111、112の出力電力等を制御する。
【0109】
上記のように、本実施形態では、テラヘルツ源121で発生されるテラヘルツ波を受光し、その波長が所望の波長に一致するように波長可変レーザ111、112を制御するように構成されていることから、非対象物の周波数応答を高精度に測定することが可能となる。
【0110】
(第4実施形態)
本発明の第4の実施の形態を図14を用いて説明する。図14は、本実施形態のテラヘルツ源121に備えられたアンテナ462の平面図である。第2実施形態のテラヘルツイメージング装置200では、光導波路131を伝播する2つのレーザ光の偏波面を維持するために、光導波路131にパンダファイバを用いている。しかしながら、2つのレーザ光が光導波路131を出射してからテラヘルツ源121に照射されるまでの間に、2つのレーザ光の偏波面がずれるおそれがある。2つのレーザ光がテラヘルツ源121に到達する時点で偏波面がずれていると、発生されるテラヘルツ波の出力が低下してしまう。
【0111】
そこで、本実施形態では、テラヘルツ源121のアンテナ462を、図14に示すような形状としている。すなわち、アンテナ462の突起部465、466を、先端部が凹状の曲線形状となるように形成している。このように、突起部465、466の先端部を凹状の曲線形状に形成していると、その間に照射された2つのレーザ光の偏波面が一致するようになるといった効果が得られる。
【0112】
上記いずれの実施形態においても、テラヘルツ源を備えたセンサヘッド部を小型化することが容易であり、センサヘッド部を被測定物の近傍に移動させて測定することが可能となる。また、レーザ光源の波長可変を可能とするLD制御回路を波長可変レーザと一体化させてモジュール化することによって、従来、極めて高価であったレーザ光源部を小型・低コスト化することができる。また、テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ源の材料にGaNを採用することによって、高い駆動電圧条件においても、高い信頼性を有するテラヘルツ源を実現することができる。さらに、GaNを用いた増幅素子も集積すれば、テラヘルツ波の高出力化にも寄与する。
【0113】
(第5実施形態)
本発明の第5の実施の形態を図16を用いて説明する。図16は、本実施形態のテラヘルツイメージング装置500の全体構成を示すブロック図である。本実施形態のテラヘルツイメージング装置500では、テラヘルツ源121から高い電力のテラヘルツ波が得られるようにするために、本体部510に光源部501を複数設けている。図16では、一例として光源部501a〜501dの4つの光源部を設けている。なお、本体部510に設ける光源部501の数は4つに限定されず、必要に応じて適宜増減させることができる。
【0114】
各光源部501(501a〜501dのそれぞれ)は、第1実施形態の本体部110と同様に、波長可変レーザ111、112及びそれぞれに設けられたSOA113、114と、光カプラ115と、LD制御回路116とを備えている。本体部510は、上記の4つの光源部501a〜501dと、アナログ回路117と、データ処理回路118とを備えて構成されている。
【0115】
各光源部501a〜501dにはそれぞれ光導波路531a〜531dが接続されており、各光源部501a〜501dの光カプラ115で生成された合成波が、それぞれに接続された光導波路531a〜531dでセンサヘッド部120側に伝送される。各光源部501a〜501dの光カプラ115から出力される合成波は、同位相でそれぞれの光導波路531a〜531dに入力される。センサヘッド部120側にはPLC(Planar LIghtwave Circuit)535が設けられており、各光導波路531a〜531dがPLC535に接続されている。PLC535には、各光導波路531a〜531dから出力される合成波を合波する合波部535aが形成されており、合波された光が光導波路531eを経由してテラヘルツ源121に出力される。
【0116】
本実施形態では、光導波路531a〜531dから出力される複数の合成波を合波させるのにPLC535を用いているが、PLC535を用いることで各合成波の位相をそろえた上で合波部535aで合波させるようにすることができる。すなわち、光導波路531a〜531dとPLC535との各接続点から合波部535aまでの光導波路の長さをそれぞれで調整する(位相調整部)ことにより、合波部535aで合波されるときには各合成波の位相がそろっているようにすることができる。各合成波の位相をそろえて合波部535aで合波することにより、テラヘルツ源121に対しより高い電力のテラヘルツ波を出力させるようにすることができる。なお、各合成波の位相をそろえる別の方法として、光導波路531a〜531eのそれぞれの長さを調整して行うことも可能である。
【0117】
上記のように、本体部510に複数の光源部501を設けてセンサヘッド部120側に設けられたPLC535に複数の合成波を出力させ、PLC535で複数の合成波を合波させたのち光導波路531eを経由してテラヘルツ源121に出力させる構成とすることにより、テラヘルツ源120に高電力の合成波を照射することができる。その結果、テラヘルツ源121から高電力のテラヘルツ波を出力させることが可能となる。
【0118】
第1実施形態では、波長可変レーザ111、112からそれぞれ異なる周波数ω1、ω2のレーザ光を出力させているが、本実施形態でも光源部501a〜501dのそれぞれの波長可変レーザ111、112からそれぞれ周波数ω1、ω2のレーザ光を出力させるようにすることができる。これにより、周波数ω1、ω2のレーザ光からなる合成波の電力を高くすることができ、テラヘルツ源121に高い電力の合成波を与えて高い電力のテラヘルツ波を出力させることが可能となる。
【0119】
あるいは、光源部501a〜501dのそれぞれで周波数の異なるレーザ光を波長可変レーザ111、112から出力させるようにすることも可能である。一例として、光源部501a〜501dのそれぞれの波長可変レーザ111及び112から、それぞれ周波数ω1及びω2、ω3及びω4、ω5及びω6、ω7及びω8、のレーザ光を出力させるようにすることができる。このとき、式(5)より各周波数は次式を満たすように設定される。
|ω1−ω2|=|ω3−ω4|=|ω5−ω6|=|ω7−ω8| (6)
【0120】
このように、光源部501a〜501dのそれぞれの波長可変レーザ111、112から出力されるレーザ光の周波数がすべて異なるように設定することで、PLC535で合波された混合波が、各周波数では比較的低い電力を持つことになる。これに対し、光源部501a〜501dのそれぞれの波長可変レーザ111、112で同じ周波数ω1、ω2のレーザ光を出力させる場合には、周波数ω1、ω2で高い電力を持つことになり、これが光導波路531eを経由してテラヘルツ源121に出力されることになる。
【0121】
特定の周波数で電力の高い光が光導波路(光ファイバ)531eを導波すると、光ファイバの非線形特性により非線形な影響を受けてテラヘルツ源121に出力されてしまう。その結果、例えば光導波路531eが長くなると、十分な高さの電力を有するテラヘルツ波を出力させることができなくなることも考えられる。これに対し、光源部501a〜501dのそれぞれの波長可変レーザ111、112から出力されるレーザ光の周波数をすべて異なるようにすると、光導波路531eに導波させる混合波のピーク電力を低くすることができ、非線形な影響を十分に低減させることが可能となる。その結果、テラヘルツ源121から高い電力を有するテラヘルツ波を出力させることができる。
【0122】
本実施形態では、本体部510で生成された合成波が光ファイバからなる光導波路531a〜531dを経由してPLC535まで伝送されている。そのため、光導波路531a〜531dが長くなると、光ファイバにおける分散の影響により光パルス(合成波)のパルス幅が広がってピーク強度が低下してしまうことも考えられる。そこで、PLC535に入力された合成波に対し分散補償(歪補償)を行うようにすることにより、光パルスの広がりを抑制することができる。本実施形態では、分散補償を行う分散補償部をPLC535に設けることができる。
【0123】
分散補償部を備えたPLCの一例を図17に示す。図17は、分散補償部535bを備えたPLC535’の一例を示す斜視図である。分散補償部535bは、分散補償が可能な非線形デバイスで形成されており、合波部535aで合波された合成波を入力して分散補償した後、これを光導波路531eを経由してセンサヘッド部120に出力するようにしている。このように、分散補償部535bを設けてテラヘルツ源121に出力される合成波の分散補償を行うことにより、さらに高出力かつ安定なテラヘルツ波を発生させることが可能となる。なお、PLC535に分散補償部535bを設けるのに代えて、分散補償ファイバ(DCF)を光導波路531a〜531dまたは光導波路531eに接続するようにしてもよい。
【0124】
(第6実施形態)
本発明の第6の実施の形態を図18を用いて説明する。図18は、本実施形態のテラヘルツイメージング装置600の全体構成を示すブロック図である。第5実施形態では、光導波路531a〜531dから出力される複数の合成波の位相をそろえるために、PLC535上の光導波路531a〜531dとの接続点から合波部535aまでの光導波路の長さを調整することを説明した。本実施形態のテラヘルツイメージング装置600では、各光源部501a〜501dから出力される合成波の位相をさらに高精度にかつ容易にそろえることが可能となるように、第5実施形態のテラヘルツイメージング装置500にさらにPLC636を追加している。
【0125】
PLC636は、一端が各光源部501a〜501dに接続され、他端が光導波路531a〜531dに接続されている。光源部501a〜501dはそれぞれ、PLC636上の導波路636a〜636dを経由して光導波路531a〜531dに接続されている。各光源部501a〜501dは、それぞれの光カプラ115から出力される合成波の位相がほぼそろった状態でPLC636に出力されるように構成されるが、本実施形態では各合成波の位相をPLC636でさらに高精度にそろえている。すなわち、光源部501a〜501dと光導波路531a〜531dのそれぞれを接続する導波路636a〜636dをPLC636上に形成し、導波路636a〜636dの長さを調整することで位相のそろった合成波を光導波路531a〜531dに出力するようにしている。
【0126】
上記説明のように、本実施形態のテラヘルツイメージング装置600では、光源部501a〜501dから出力される合成波の各位相を高精度にそろえることが可能となり、高精度に位相がそろった合成波を導波路636a〜636dを経由してセンサヘッド部120側に伝送させることができる。また、センサヘッド部120側では、導波路636a〜636dを通過する間に生じた位相誤差を補正して再び位相が高精度にそろうようにPLC535に形成されている導波路の長さを調整する。これにより、高精度に位相のそろった合成波をテラヘルツ源121に出力させることが可能となり、テラヘルツ源121から高い電力を有するテラヘルツ波を出力させることができる。
【0127】
なお、上記の実施形態では、いずれも波長可変レーザを2つ備える例について説明したが、波長可変レーザの数は2つに限定されず、3以上備えるようにすることも可能である。本実施の形態における記述は、本発明に係るテラヘルツ波イメージング装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるテラヘルツ波イメージング装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0128】
10 被測定物
100、200、300、500、600 テラヘルツイメージング装置
110、510 本体部
111、112 波長可変レーザ
113、114 SOA
115 光カプラ
116 LD制御回路
117 アナログ回路
118 データ処理回路
120 センサヘッド部
121 テラヘルツ源
122、124 レンズ
123 検知部
130 複合ケーブル
131、531 光導波路
132 電源ケーブル
133 信号線
141、142、151、152 TEC
143、144 TEC駆動回路
145、146、147、148 PD
149、150 エタロンフィルタ
161、171 基板
162、172、462 アンテナ
163、164、173、174 伝送線路
165、166、175、176、465、466 突起部
167 直流電源
170 テラヘルツ波受信部
180 広帯域検出回路
181 電流計
182 ADC
201 偏波面調整手段
202 出力監視手段
203 制御用信号線
301 波長検知部
302 電圧較正手段
303 制御用信号線
501 光源部
535、636 PLC
535a 合波部
535b 分散補償部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの発振波長が異なる2以上の波長可変レーザと、
前記波長可変レーザから出力されるレーザ光を合成して合成波を出力する光カプラと、
前記光カプラから出力される合成波を伝播させる光導波路と、
前記光導波路から前記合成波が照射されると前記合成波のビート成分に相当する周波数のテラヘルツ波を出力するテラヘルツ源と、
を備え、
前記波長可変レーザから出力されるレーザ光を合成した前記合成波を、前記光導波路を介して前記テラヘルツ源に照射して所定周波数のテラヘルツ波を発生させる
ことを特徴とするテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項2】
前記2以上の波長可変レーザと、前記光カプラと、を本体部に備え、
前記テラヘルツ源をセンサヘッド部に備え、
前記センサヘッド部が、前記光導波路で接続された前記本体部とは独立に移動可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項3】
前記波長可変レーザを温度制御することで出力レーザ光の波長を調整するLD制御回路をさらに備え、
前記LD制御回路が、前記2以上の波長可変レーザのうち少なくとも1つを温度制御して前記レーザ光の波長を調整することにより、前記テラヘルツ源から出力されるテラヘルツ波の周波数が時系列的に調整される
ことを特徴とする請求項1または2に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項4】
前記LD制御回路は、
前記波長可変レーザの温度を制御するTEC(Thermo Electric Cooler)と、
前記波長可変レーザから出力されるレーザ光の一部を受光するフォトダイオード(PD)と、
前記合成波の一部を入射して所定周波数のレーザ光のみを通過させる前記波長可変レーザと同数のエタロンフィルタと、
前記エタロンフィルタから前記所定周波数のレーザ光を受光する別のフォトダイオードと、
前記フォトダイオード及び前記別のフォトダイオードからそれぞれの測定結果を入力し、前記レーザ光の出力強度及び波長が安定的に所定値となるように前記TECを制御するTEC駆動回路と、を有する
ことを特徴とする請求項3に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項5】
前記テラヘルツ源は、
前記波長可変レーザから出力されるレーザ光の出力波長に対応した不純物準位を有し、かつ出力するテラヘルツ波に対し短いキャリア寿命と高い移動度を有する半導体材料からなる基板を備える
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項6】
前記波長可変レーザは、波長が1.5um帯のレーザ光を出力し、
前記テラヘルツ源は、GaN基板を備える
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項7】
前記波長可変レーザは、波長が1.3um帯あるいは1.5um帯のレーザ光を出力し、
前記テラヘルツ源は、InGaAsP/InPあるいはInGaAs/AlGaAsからなる基板を備える
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項8】
前記波長可変レーザは、波長が650nm〜1.5um帯のレーザ光を出力し、
前記テラヘルツ源は、II-VI族半導体あるいはIII-V族半導体からなる基板を備える
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項9】
前記波長可変レーザは、波長が650nm〜1.5um帯のレーザ光を出力し、
前記テラヘルツ源は、金属をドープしたII-VI族半導体あるいは金属をドープしたIII-V族半導体からなる基板を備える
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項10】
前記波長可変レーザは、波長が0.98um帯のレーザ光を出力し、
前記テラヘルツ源は、GaAsからなる基板を備える
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項11】
前記光導波路は、伝播するレーザ光の偏波面を回転または保持する偏波面調整手段を有している
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項12】
テラヘルツ波の所定の周波数帯に感度を有するアンテナと、前記アンテナで受信した信号を検波する広帯域検波回路と、を有する検知部をさらに備え、
前記テラヘルツ源から出力されたテラヘルツ波を被測定物に照射したときの反射信号または透過信号を前記検知部で受信する
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項13】
テラヘルツ波の所定の周波数帯に感度を有するテラヘルツカメラを有する検知部をさらに備え、
前記テラヘルツ源から出力されたテラヘルツ波を被測定物に照射したときの反射信号または透過信号を前記検知部で受信する
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項14】
前記テラヘルツ源から出力されるテラヘルツ波の一部を受光して電圧値に変換する波長検知部と、
前記波長検知部から前記電圧値を入力し、予め保存する較正用テーブルを用いて前記電圧値から前記テラヘルツ波の波長を推定して前記LD制御回路に出力する電圧較正手段と、をさらに備え、
前記LD制御回路は、前記電圧較正手段から前記テラヘルツ波の波長を入力すると、前記テラヘルツ波の波長が所定の目標波長に一致するように前記波長可変レーザの出力を制御する
ことを特徴とする請求項3乃至13のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項15】
前記テラヘルツ源は、平行に配置された2つの伝送線路と、前記伝送線路のそれぞれの略中央に形成された突起部とを有し、
前記突起部の先端が凹状の曲線形状に形成されている
ことを特徴とする請求項12に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項16】
前記2以上の波長可変レーザと前記光カプラを1組とする光源部を2以上備え、
さらに、前記2以上の光源部のそれぞれと前記光導波路で接続されて前記光カプラから出力されるそれぞれの合成波を入力して合波する合波部と、
前記合波部で合波された混合波を前記テラヘルツ源に照射する別の光導波路と、を備える
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項17】
前記2以上の波長可変レーザは、前記2以上の光源部のそれぞれで同じ発振波長のレーザ光を出射する
ことを特徴とする請求項16に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項18】
前記2以上の波長可変レーザは、前記2以上の光源部のそれぞれで周波数差が等しく発振波長の異なるレーザ光を出射する
ことを特徴とする請求項16に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項19】
前記合波部は、PLC(Planar LIghtwave Circuit)を用いて形成されている
ことを特徴とする請求項16乃至18のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項20】
前記PLCは、前記2以上の光導波路から入力した合成波の位相をそろえる位相調整部を備えている
ことを特徴とする請求項19に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項21】
前記PLCは、前記2以上の光源部から入力した合成波に対し分散補償を行う分散補償部を備えている
ことを特徴とする請求項19または20に記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項22】
前記2以上の光源部から入力した合成波の位相をそろえてそれぞれを前記2以上の光導波路に出力する別の位相調整部を備えている
ことを特徴とする請求項16乃至21のいずれか1項に記載のテラヘルツ波イメージング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−117957(P2011−117957A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249163(P2010−249163)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】