説明

テラヘルツ波イメージング装置

【課題】イメージング画像を簡易な装置構成で高速に取得することができ、透過方式および反射方式のいずれにも適用できるテラヘルツ波イメージング装置を提供する。
【解決手段】サンプル5にテラヘルツ波101を照射する照射手段10と、複数のマイクロミラー7を有し、マイクロミラー7のそれぞれがサンプル5からのテラヘルツ波103を反射するマイクロミラーアレイ6と、単一の受光素子から構成され、マイクロミラーアレイ6からのテラヘルツ波105を検出して電気信号に変換する検出手段20と、電気信号を処理して、サンプル5のイメージング画像を得る画像処理部72と、複数のマイクロミラー7を制御する制御部71を備える。複数のマイクロミラー7は、それぞれの傾斜角度が独立して制御可能である。制御部71は、傾斜角度を変えるマイクロミラー7を特定するための走査アドレス情報71aを保持し、マイクロミラー7のそれぞれの傾斜角度を変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を利用したイメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波とは、0.1THz〜100THzの電磁波を指し、適度な透過性を有すると同時に、分子骨格振動に相当するエネルギーを有しているため、非破壊検査装置や分析装置への応用が期待されている。非破壊検査への用途では、サンプルのイメージング画像を取得し、取得したイメージング画像を画像処理して検査する手法が用いられる。特許文献1に示されるように、イメージング画像を取得する方式は、走査方式またはアレイ検出方式に大別される。
【0003】
走査方式は、モータ駆動2次元ステージなどによりサンプル自体を走査する方法であるサンプル走査方式と、XYビームスキャナなどを用いてテラヘルツ波自体を走査する方法であるビーム走査方式に分類される。一方、アレイ検出方式は、テラヘルツ波に感度を有する2次元アレイ検出器を用いてイメージング画像を一括取得する方法が提案されている。高速にイメージング画像を取得するためには、アレイ検出方式が優れた方法ではある。しかし、現状、2次元ボロメータアレイなどのテラヘルツ波に感度を有する2次元アレイ検出器は、製造技術が難しく、非常に高価で、一般産業用途に使用するのには実用的でない。従って、実用的な手段として、走査方式を用いて高速にイメージング画像を取得することが求められている。
【0004】
一方、特許文献2には、走査機構の小型化を目的として、各マイクロミラーの傾斜角度を独立してアナログ的(連続的)に制御可能なマイクロミラーアレイを使用した反射方式の撮像装置が提案されている。各マイクロミラーは、直線帯状または略正方形状であり、回動することにより傾斜角度を任意に変えることができる。撮像光は、ラインセンサまたはエリアセンサに導かれて検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3387721号公報
【特許文献2】特開平11−69209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背景技術に記載したように、走査方式のテラヘルツ波イメージング技術は、サンプル走査方式とビーム走査方式に分類される。サンプル走査方式では、サンプルを動かすためのモータ駆動2軸XYステージが用いられる。モータ駆動XYステージは、慣性モーメントが大きく、駆動が低速であるため、サンプル走査時間が長くなるという課題があった。一方、ビーム走査方式は、例えば高速に駆動できるガルバノミラーとfθレンズなどの光学系を装備したXYビームスキャナを用いるが、サンプルを挟んで一対(2台)のXYビームスキャナが必要となり、かつ各XYビームスキャナは同期制御が必要であるため、装置構成および制御が複雑になるという課題があった。また、XYビームスキャナを使用する構成においては、サンプル透過波でイメージング画像を取得する透過方式には適用できるものの、サンプル反射波でイメージング画像を取得する反射方式には適用できないという課題もあった。
【0007】
一方、特許文献2に記載されているように、マイクロミラーの傾斜角度を連続的に制御可能なマイクロミラーアレイを用いて撮像光をラインセンサまたはエリアセンサに直接導く撮像装置は、実用的とは言えない。このようなマイクロミラーアレイを製作するのは技術的に困難であり、製作できたとしても費用が高価となり、回動機構を備えるために装置の構造が複雑になるので、技術面とコスト面で課題があるからである。
【0008】
このため、現時点においては、ON/OFF信号により傾斜を2方向のみ(2つの傾斜角度だけ)に制御可能なマイクロミラーアレイを使用することが一般的になっている。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、イメージング画像を簡易な装置構成で高速に取得することができ、透過方式および反射方式のいずれにも適用できるテラヘルツ波イメージング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるテラヘルツ波イメージング装置は、次のような特徴を有する。
【0011】
サンプルにテラヘルツ波を照射する照射手段と、複数のマイクロミラーを有し、前記マイクロミラーのそれぞれが前記サンプルからのテラヘルツ波を反射するマイクロミラーアレイと、単一の受光素子から構成され、前記マイクロミラーアレイからのテラヘルツ波を検出して電気信号に変換する検出手段と、前記電気信号を処理して、前記サンプルのイメージング画像を得る画像処理部と、複数の前記マイクロミラーを制御する制御部を備える。複数の前記マイクロミラーは、それぞれの傾斜角度が独立して制御可能である。前記制御部は、傾斜角度を変える前記マイクロミラーを特定するための走査アドレス情報を保持し、前記走査アドレス情報に従って、複数の前記マイクロミラーのそれぞれの傾斜角度を変える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イメージング画像を簡易な装置構成で高速に取得することができ、透過方式および反射方式のいずれにも適用できるテラヘルツ波イメージング装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例によるテラヘルツ波イメージング装置の全体構成例を示す図である。
【図2】ビーム径縮小手段の別の構成例を示す図である。
【図3】反射方式のテラヘルツ波イメージング装置において、サンプルの照射波と反射波を示す図である。
【図4】マイクロミラーアレイの動作を示す図である。
【図5】マイクロミラーの傾斜角度の制御例およびイメージング画像を取得するまでの過程を示す図である。
【図6】逆投影法を応用したマイクロミラーの傾斜角度の制御例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によるテラヘルツ波イメージング装置は、テラヘルツ波をサンプルに照射し、その透過波または反射波を検出してサンプルのイメージング画像を取得する装置であり、テラヘルツ波の照射手段から検出手段までのテラヘルツ波伝播経路の途中に、マイクロミラーアレイを配置する。このマイクロミラーアレイにより、テラヘルツ波を選択的に反射してテラヘルツ波の検出手段に導くと共に、検出したテラヘルツ波の電気信号にデジタル信号処理を行って画像再構成処理を行い、イメージング画像を取得する。
【0015】
以下、本発明によるテラヘルツ波イメージング装置の好適な実施形態について、図面を用いて詳述する。
【0016】
図1は、テラヘルツ波イメージング装置1の基本的な全体構成例を示す図である。図1では、サンプル5を透過したテラヘルツ波のイメージング画像を取得する装置構成を示している。テラヘルツ波イメージング装置1は、制御部71と画像処理部72を有する全体制御部70により制御される。全体制御部70は、制御線90によりマイクロミラーアレイ6と接続され、マイクロミラーアレイ6を制御する。
【0017】
テラヘルツ波発振部10から放射されたテラヘルツ波100(周波数範囲0.1THz〜100THzの全てまたは一部)は、軸外放物面鏡30によって平行なテラヘルツ波101に成形され、イメージング対象であるサンプル5に照射される。サンプル5を透過したテラヘルツ波102は、ビーム径縮小手段40によりテラヘルツ波103に縮小成形され、マイクロミラーアレイ6に照射される。マイクロミラーアレイ6では、テラヘルツ波が選択的に反射される。マイクロミラーアレイ6で選択的に反射されたテラヘルツ波104は、軸外放物面鏡31によりテラヘルツ波105としてテラヘルツ波検出部20に集光され、テラヘルツ波強度を示す電気信号に変換される。テラヘルツ波強度を示す電気信号は、全体制御部70の画像処理部72に伝達され、イメージング画像の元データとして記憶される。
【0018】
イメージング画像を再構成するのに必要な元データが揃ったら、画像処理部72は、この元データに画像再構成処理を施し、サンプル5のイメージング画像を得る。画像再構成処理には、既存の方法を用いることができる。得られたイメージング画像は、表示部80に表示することが可能である。さらに異物検査などの追加処理が必要な場合には、次の処理プロセスにイメージング画像を受け渡すことが可能である。
【0019】
テラヘルツ波発振部10は、パルス波または連続波のいずれかを発振するものを用いることが可能である。パルス波を発振するものとしては、フェムト秒レーザと光伝導スイッチを組み合わせたものがある。連続波を発振するものとしては、高圧水銀ランプなどの熱源(プランク放射則に伴うテラヘルツ放射を有する)や、テラヘルツ帯域を発振する量子カスケードレーザなどがある。ただし、本発明は、テラヘルツ発振源の種類によって限定されるものではない。
【0020】
ビーム径縮小手段40は、サンプル5を透過したテラヘルツ波102の口径を縮小して、マイクロミラーアレイ6に投影する手段である。一般的には、ビームエキスパンダーと称されるもので、図1には凸レンズ41と凹レンズ42を組み合わせたものを示している。この場合、テラヘルツ帯域に吸収が小さいもの(例えばシリコンやポリエチレンなど)を用いる必要がある。ビーム径縮小手段40は、テラヘルツ波102の口径を縮小できれば良く、本発明は、ビーム径縮小手段40の構成によって限定されるものではない。
【0021】
図2は、ビーム径縮小手段40の別の構成例を示す図である。ビーム径縮小手段40の構成としては、図2に示すように、焦点距離の異なる複数の軸外放物面鏡、すなわち軸外放物面鏡43および軸外放物面鏡44を組み合わせたものも利用できる。
【0022】
マイクロミラーアレイ6は、複数のマイクロミラーを有し、それぞれのマイクロミラーがテラヘルツ波103を反射する。詳細は後述するが、複数のマイクロミラーのそれぞれの傾斜角度を選択的に変える制御をして、入射したテラヘルツ波103をテラヘルツ波検出部20に導くように反射することで、サンプル5をテラヘルツ波で走査するのと同等のことができる。
【0023】
テラヘルツ波検出部20は、単一の受光素子から構成されたシングルセンサであり、サンプル5を透過したテラヘルツ波105を検出する。本実施例では、テラヘルツ波105を1点で受信するシングルセンサを用いるので、装置構成が簡易になり、コストを抑えることもできる。
【0024】
図1は、サンプル5を透過したテラヘルツ波102によりイメージング画像を得る所謂透過方式を示しているが、本発明によるテラヘルツ波イメージング装置は、サンプルに反射されたテラヘルツ波によりイメージング画像を得る所謂反射方式にも適用可能である。
【0025】
図3は、反射方式のテラヘルツ波イメージング装置において、サンプル5の照射波と反射波を示す図である。反射方式のテラヘルツ波イメージング装置では、テラヘルツ波101がサンプル5に照射され、サンプル5に反射されたテラヘルツ波106がビーム径縮小手段40によりテラヘルツ波103に縮小成形され、マイクロミラーアレイ6に照射される。従って、反射方式のテラヘルツ波イメージング装置において、軸外放物面鏡30以前とビーム径縮小手段40以後のテラヘルツ波伝播経路における構成は、透過方式の装置(図1参照)と同じである。このため、図3では、サンプル5と、サンプル5に照射するテラヘルツ波101と、サンプル5から反射されたテラヘルツ波106のみを示した。
【0026】
このように、本発明によるテラヘルツ波イメージング装置は、透過方式だけでなく、反射方式にも容易に適用できる。
【0027】
図4は、マイクロミラーアレイ6の動作を説明するために、マイクロミラーアレイ6を拡大して分かりやすく示した図である。マイクロミラーアレイ6は、m行n列のマトリクス状に配置された複数のマイクロミラー7を有し、それぞれのマイクロミラー7は、テラヘルツ波103を反射する。
【0028】
図4では、8行、8列に配置されたマイクロミラー7で構成したマイクロミラーアレイ6を表しているが、これは表記上簡略化しているものであり、マイクロミラーアレイ6におけるマイクロミラー7の配列数はこれに限定されるものではない。なお、説明上、マイクロミラー7の座標を特定するために、m行、n列に位置するマイクロミラー7をマイクロミラー7(m,n)と表記する。mとnは、等しくても異なっていても良い。
【0029】
マイクロミラー7のそれぞれは、全体制御部70の制御部71により、傾斜角度が制御される。制御部71は、後述するように、予め定めた走査アドレス情報を保持しており、走査アドレス情報に従ってマイクロミラー7のそれぞれの傾斜角度を制御する。傾斜角度は、マイクロミラー7のそれぞれに対して独立に制御可能であり、それぞれの傾斜角度は2つとする。すなわち、複数のマイクロミラー7のそれぞれは、テラヘルツ波103を第一方向および第二方向という2方向に向けて反射するように、傾斜角度が制御可能である。
【0030】
第一方向は、マイクロミラー7に入射したテラヘルツ波103を、テラヘルツ波検出部20に導くように反射する方向である。本実施例での装置構成では、テラヘルツ波103を、軸外放物面鏡31に入射させるように反射する方向である。第二方向は、第一方向以外の特定の方向である。第二方向は、第一方向以外であれば任意に定めて良い。また、マイクロミラー7のそれぞれにおいて、第二方向が同じ方向でも異なる方向でも良い。なお、以下の説明において、マイクロミラー7がテラヘルツ波103を第一方向(または第二方向)に向けて反射する角度に傾斜していることを、「マイクロミラー7が第一方向(または第二方向)に傾斜している」と称する。
【0031】
マイクロミラー7が第一方向に傾斜しているときに反射されるテラヘルツ波を、第一方向反射波107と呼ぶ。マイクロミラー7が第二方向に傾斜しているときに反射されるテラヘルツ波を、第二方向反射波108と呼ぶ。第一方向反射波107は、軸外放物面鏡31に入射してテラヘルツ波検出部20に入射するテラヘルツ波であるので、テラヘルツ波104のことである。第二方向反射波108は、軸外放物面鏡31に入射しない。
【0032】
図4において、マイクロミラー7(2,1)は、第一方向に傾斜しており、マイクロミラー7(2,1)以外のマイクロミラー7は、第二方向に傾斜している。マイクロミラー7のそれぞれは、テラヘルツ波103が入射すると、これを反射する。マイクロミラー7(2,1)により反射された第一方向反射波107(テラヘルツ波104)は、軸外法物面鏡31で反射され、テラヘルツ波検出部20に導かれ、テラヘルツ波強度に従って電気信号へ変換され、イメージング画像を再構成するための元データとなる。一方、マイクロミラー7(2,1)以外のマイクロミラー7で反射された第二方向反射波108は、第一方向以外の方向に反射され、テラヘルツ波検出部20には導かれない。
【0033】
このような装置構成において、初期状態として全てのマイクロミラー7を第二方向に傾斜させておき、第一方向に傾斜するマイクロミラー7を選択的に順に変えていきテラヘルツ波103の一部を選択的に反射していくことで、テラヘルツ波検出部20に導かれるテラヘルツ波104を選択的に変えていくことが可能となる。このようにマイクロミラー7の傾斜角度を選択的に順に変えていくことで、サンプル5をテラヘルツ波で走査するのと同等のことが可能となる。すなわち、本実施例によるテラヘルツ波イメージング装置では、サンプル自体やテラヘルツ波自体を走査しないが、これらを走査するのと同等の方法により、サンプルのイメージング画像を取得することができる。
【0034】
図5は、マイクロミラー7の傾斜角度の制御例およびサンプルのイメージング画像を取得するまでの過程を示す図である。図5において、ビーム径縮小手段40の表示を省略している。
【0035】
制御部71は、予め定めた走査アドレス情報71aを保持しており、走査アドレス情報71aに従ってマイクロミラー7のそれぞれの傾斜角度を制御する。この制御により、マイクロミラーアレイ6は、テラヘルツ波を選択的に反射することができる。走査アドレス情報71aには、複数のステップと、各ステップにおいて第一方向に傾斜するマイクロミラー7の位置情報が含まれる。マイクロミラー7の位置情報としては、マイクロミラー7の座標(m,n)を用いることができる。走査アドレス情報71aにより、各ステップにおいて第一方向に傾斜するマイクロミラー7(すなわち、テラヘルツ波を第一方向に向けて反射するように傾斜角度を変えるマイクロミラー7)を特定することができる。
【0036】
第一方向に傾斜するマイクロミラー7の座標は、第一方向に傾斜する複数のマイクロミラー7の座標群でも良い。すなわち、各ステップにおいて、1個または複数個のマイクロミラー7の傾斜角度を制御することができる。あるステップで第一方向に傾斜したマイクロミラー7は、次のステップでは、走査アドレス情報71aで第一方向に傾斜するように指示されていない場合は、第二方向に傾斜する。また、走査アドレス情報71aには、第二方向に傾斜するマイクロミラー7の座標(または座標群)が含まれていても良く、ステップの代わりに(またはステップと共に)時間が含まれていても良い。
【0037】
サンプル5は、イメージ5aを有している。イメージ5aは、テラヘルツ波の透過率が、サンプル5の他の部分と異なる。サンプル5を透過したテラヘルツ波103は、マイクロミラーアレイ6に縮小投影される。マイクロミラーアレイ6が有するマイクロミラー7は、制御部71が保持する走査アドレス情報71aに従って制御される。ここでは、走査アドレス情報71aに、各ステップにおいて、第一方向に傾斜するマイクロミラー7の座標が1つ含まれているものとする。従って、マイクロミラー7のそれぞれは、1度に1個ずつ、順次、第二方向から第一方向へ傾斜していく(あるステップで第一方向に傾斜したマイクロミラー7は、次のステップでは第二方向に傾斜する)。
【0038】
マイクロミラー7により反射されたテラヘルツ波104(第一方向反射波107)は、軸外放物面鏡31で反射され、テラヘルツ波105としてテラヘルツ波検出部20に入射する。テラヘルツ波検出部20は、テラヘルツ波105の強度に従って、強度信号を全体制御部70に出力する。この時、テラヘルツ波検出部20から出力された強度信号は、強度信号データ72aとして画像処理部72に取り込まれ、第一方向に傾斜制御されたマイクロミラー7の走査アドレス情報71a(ステップと座標)と共に記録される。
【0039】
走査アドレス情報71aに従ったマイクロミラー7の傾斜角度の制御が終了した時点で、マイクロミラー7の走査アドレス情報71a(ステップと座標)と強度信号データ72aを元データとして、画像再構成処理を行い、イメージング画像72bを取得することが可能となる。なお、画像再構成処理は、マイクロミラー7の傾斜角度の制御と並列に逐次処理することも可能である。
【0040】
マイクロミラー7の駆動(傾斜角度の制御)は非常に高速であるので、イメージング画像72bを再構成するための元データを非常に高速に取得することが可能となり、結果的にイメージング画像72bを高速に取得することが可能となる。
【0041】
図5を用いた上記の説明において、マイクロミラー7の制御として、1度に1個ずつ、順次、第一方向に傾斜させる方法(一般的にはラスタースキャンと称される)を説明した。マイクロミラー7の制御には、これ以外の方法を用いることもできる。例えば、隣接する複数個(N個)のマイクロミラーを同時に第一方向に傾斜させるように制御することで、解像度を1/Nに減じたイメージング画像を取得することが容易にできる。この制御方法では、撮像時間を1/Nに短縮することができるので、さらに高速にイメージング画像を取得できる。また、同時に第一方向に傾斜させるマイクロミラー7の個数を、ステップごと(または時間ごと)に変えることで、1つのイメージング画像において複数の解像度で撮像することが可能となり、解像度を非常に柔軟に選択したり変更したりすることができる。
【0042】
このようなマイクロミラー7の制御は、走査アドレス情報71aに、ステップ(または時間)と、各ステップ(または各時間)において傾斜角度を変えるマイクロミラー7の座標(または座標群)を記録しておくことにより可能となる。
【0043】
図6は、マイクロミラー7の傾斜角度の制御例を示す図であり、X線CTなどで広く用いられている画像再構成法である公知の逆投影法を応用した制御方法を示す。
【0044】
逆投影法とは、物体の透過データから物体の物理量の2次元分布(即ちイメージング画像)を求める画像再構成法であり、x−y座標系と、x−y座標系を角度θ回転したs−t座標系とを考えた場合、角度θ方向(0≦θ<π)からの透過像200(P(s,θ)で表す)が既知(測定可能)であるときに、P(s,θ)から各画素の物理量f(x,y)を導き出す方法である。より詳細には、(式1)にP(s,θ)の関係式を示すが、t軸と平行な投影線300を考えた場合、投影線300上の各画素f(x,y)を積分(加算)して積分値201を取得し、さらにs軸(投影軸202)に沿って投影線300を平行移動していったときに、透過像200であるP(s,θ)が導かれる。P(s,θ)から物理量f(x,y)を導き出す詳細については、公知のため割愛する。
【0045】
【数1】

【0046】
本発明では、マイクロミラーアレイ6の各マイクロミラー7を物理量f(x,y)に見立て、投影線300上にあるマイクロミラー7の群を第一方向に傾斜させることで、テラヘルツ波検出部20において積分値201に相当する値が取得できる。そして、投影線300をs軸に沿って平行移動していくと同時に、投影線300上にあるマイクロミラー7の群を第一方向に傾斜させていくことで(投影線300から外れたマイクロミラー7は、第二方向に傾斜させる)、P(s,θ)に相当するデータを取得することが可能となる。このP(s,θ)に対して逆投影法を適用することで、イメージング画像210が再構成できる。
【0047】
投影線300上にあるマイクロミラーアレイ7の列を選択する手段としては、(式2)に示す座標変換式を用いれば良く、各θについて、sとt(sとtはいずれも整数値)を選択することで、座標(x,y)が一意に選択される。この時、xおよびyも整数値である必要があるので、例えば近傍補間(s、tに最も近傍の整数値x、yを選択する方法)などを用いて、適切なx−y座標系における座標(x,y)を選択することができる。ここで、x−y座標系における座標(x,y)に位置するマイクロミラー7をM(x,y)と記述すると、sおよびtを選択することにより、一意なM(x,y)が選択されることになる。この時、tの値(整数値)を適宜動かすと、特定のsに対してt軸に沿ったマイクロミラー7の列が選択できる。
【0048】
これを各sに対して(s軸に沿って)順次行っていけば、透過像200であるP(s,θ)を決定することができる。
【0049】
【数2】

【0050】
上記の手法に従えば、例えば1024×1024(210×210)個のマイクロミラー7を有するマイクロミラーアレイ6を考えた場合、θを1°ステップ(0≦θ<π)とすると、高々1024×√2×180(≒26万)回の図5に示す強度信号データ72aを取得すれば良いことになる。従って、上記の手法は、ラスタースキャン(マイクロミラー7のそれぞれを1度に1個ずつ制御する方法)を実施して220(≒105万)個の強度信号データ72aを取得する場合と比較して、強度信号データ72aの取得時間が短くなる効果があり、イメージ画像取得の高速化が可能となる。
【0051】
図6は、画像再構成法として、逆投影法を適用した場合の例であるが、本発明によるテラヘルツ波イメージング装置は、逆投影法に限らず、他の画像再構成法と組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0052】
1…テラヘルツ波イメージング装置、5…サンプル、5a…イメージ、6…マイクロミラーアレイ、7…マイクロミラー、10…テラヘルツ波発振部、20…テラヘルツ波検出部、30…軸外放物面鏡、31…軸外放物面鏡、40…ビーム径縮小手段、41…凸レンズ、42…凹レンズ、43…軸外放物面鏡、44…軸外放物面鏡、70…全体制御部、71…制御部、71a…走査アドレス情報、72…画像処理部、72a…強度信号データ、72b…イメージング画像、80…表示部、90…制御線、100〜106…テラヘルツ波、107…第一方向反射波、108…第二方向反射波、200…透過像、201…積分値、202…投影軸、210…再構成したイメージング画像、300…投影線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルにテラヘルツ波を照射する照射手段と、
複数のマイクロミラーを有し、前記マイクロミラーのそれぞれが前記サンプルからのテラヘルツ波を反射するマイクロミラーアレイと、
単一の受光素子から構成され、前記マイクロミラーアレイからのテラヘルツ波を検出して電気信号に変換する検出手段と、
前記電気信号を処理して、前記サンプルのイメージング画像を得る画像処理部と、
複数の前記マイクロミラーを制御する制御部を備え、
複数の前記マイクロミラーは、それぞれの傾斜角度が独立して制御可能であり、
前記制御部は、傾斜角度を変える前記マイクロミラーを特定するための走査アドレス情報を保持し、前記走査アドレス情報に従って、複数の前記マイクロミラーのそれぞれの傾斜角度を変える、
ことを特徴とするテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項2】
複数の前記マイクロミラーのそれぞれは、前記テラヘルツ波を第一方向および第二方向という2方向に向けて反射するように、前記傾斜角度が制御可能であり、
前記第一方向に傾斜角度を制御された前記マイクロミラーにより反射された前記テラヘルツ波は、前記検出手段に導かれ、
前記第二方向に傾斜角度を制御された前記マイクロミラーにより反射された前記テラヘルツ波は、前記検出手段には導かれない請求項1記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項3】
前記走査アドレス情報は、複数のステップと、前記ステップのそれぞれにおいて前記傾斜角度を変える前記マイクロミラーの位置情報を含み、
前記制御部は、前記走査アドレス情報に従って、前記ステップごとに、複数の前記マイクロミラーのそれぞれの傾斜角度を変える請求項1記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項4】
複数の前記マイクロミラーが反射する前記サンプルからのテラヘルツ波は、前記サンプルの透過波である請求項1記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項5】
複数の前記マイクロミラーが反射する前記サンプルからのテラヘルツ波は、前記サンプルの反射波である請求項1記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項6】
前記制御部は、複数の前記マイクロミラーに対し、1度に1個ずつ前記傾斜角度を変える請求項1記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項7】
前記制御部は、複数の前記マイクロミラーに対し、1度に複数個ずつ前記傾斜角度を変える請求項1記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項8】
前記制御部は、複数の前記マイクロミラーに対し、1度に1個または複数個の前記傾斜角度を変える請求項1記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項9】
前記制御部は、複数の前記ステップのそれぞれにおいて、複数の前記マイクロミラーのうち1個の前記傾斜角度を変える請求項3記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項10】
前記制御部は、複数の前記ステップのそれぞれにおいて、複数の前記マイクロミラーのうち複数個の前記傾斜角度を変える請求項3記載のテラヘルツ波イメージング装置。
【請求項11】
前記制御部は、複数の前記ステップのそれぞれにおいて、複数の前記マイクロミラーのうち1個または複数個の前記傾斜角度を変える請求項3記載のテラヘルツ波イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−24842(P2013−24842A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163179(P2011−163179)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000233549)株式会社日立ハイテクコントロールシステムズ (130)
【Fターム(参考)】