説明

テラヘルツ測定法

【課題】測定周波数帯域の広帯域化と周波数分解能の高分解能化とを実現したテラヘルツ測定装置等を提供する。
【解決手段】THz波スペクトル測定装置(1)は、フェムト秒レーザーをポンプ光とプローブ光とに分岐するビームスプリッタ(11)と、ポンプ光を受けてTHz波を発生させるTHz波発生源(12)と、プローブ光をチャープパルスに変換するチャープ発生光学器(22)と、チャープパルスを2つに分岐するビームスプリッタ(31)と、分岐された一方の参照光を検出する参照光検出手段と、他方をTHz波の電気光学効果にて変調する電気光学結晶(43)と、電気光学結晶(43)から出力された信号光を検出する信号光検出手段と、同時に検出された参照光と信号光とに基づいてTHz波の時間波形を取得する演算回路(50)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数域が約0.1〜数THz(波長が30μm〜3000μm、以下「THz領域」とする)のテラヘルツ波(以下、THz波とする)を使用するテラヘルツ測定装置等、及び透過THz波が特徴となるスペクトル成分をTHz領域に持つ測定対象物のテラヘルツ測定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、フェムト秒レーザーを用いたTHz波の測定法は、THz時間領域分光法(以下、A法と呼ぶ)が主流である。A法において、レーザーパルスは2つに分岐される。一方のレーザーパルス(ポンプパルスと呼ぶ)はTHz波発生素子に照射されて、THz波パルスの発生に使われる。もう一方のパルス(プローブパルスと呼ぶ)は、THz波パルスの時間波形をサンプリングするために用いられる。
【0003】
A法では、光学的時間遅延器を使って時間幅がTHz波パルスに比べて充分狭いプローブパルスを動かし、THz波パルスの時間波形を一点ずつサンプリングしてTHz波パルスの時間波形全体を得る。光学的時間遅延器を機械的に動かしながら所定の時間間隔毎に測定を繰り返すため、THz波パルスの時間波形全体を測定するのに数分程度の時間を必要とする。
【0004】
また、A法では、測定対象物をTHz波パルスの光路内の測定位置に配置した場合と配置しない場合の両方でTHz波パルスの時間波形を測定し、フーリエ変換してそれぞれの周波数スペクトル(それぞれEr及びEsとする)を取得する。取得した2つの周波数スペクトルに基づいて所定の演算をすることにより、測定対象物のTHz領域の吸収スペクトル(log(|Er|2/|Es|2))と複素振幅透過率スペクトル(Er/Es)とを得る。尚、以下ではTHz領域の吸収スペクトルと複素振幅透過率スペクトルをTHzスペクトルと呼ぶ。
【0005】
A法での測定時間を短縮するための一つの方法として、チャープパルスを用いたマルチチャンネル計測法(以下B法と呼ぶ)が、Jiangらにより提案された(非特許文献1)。B法では、フェムト秒レーザーのレーザーパルスの時間幅をTHz波パルスの時間幅より長く伸張させたチャープパルスを作り、THz波パルスの波形情報全体をそのチャープパルスに載せる。よって、THz波パルスの時間波形の測定は、1個のチャープパルスの検出で足りる。これにより、B法では、THz波パルスの時間波形の単発計測が可能となり、THz波パルスの時間波形の測定時間は、1個のチャープパルスを検出する検出系の応答時間となる。例えば、1ミリ秒程度以下の測定時間も可能である。B法では、A法に比べて測定時間の大幅な短縮が実現できる。
【0006】
A法での測定時間を短縮するための他の方法として、スペクトル幅が広い白色光パルスをフェムト秒レーザーにより発生させた後に、その白色光パルスをチャープさせて用いる方法がある(特許文献1、以下C法と呼ぶ)。B法を開示する非特許文献1ではテラヘルツ分光の測定周波数帯域及び時間分解能はそれぞれ約0.3THz及び0.07THzであるのに対して、C法の実施例では測定周波数帯域及び時間分解能はそれぞれ約1THz及び約0.1THzにできることが開示されている。
【0007】
C法を用いることで測定周波数帯域を、B法の0.3THzから約1THzに広げることは可能となるが、約0.1THzというC法の時間分解能は、A法の時間分解能(数0.01THz)に比べると数倍悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−233683号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Zhiping Jiang and X.-C. Zhang"Electro-optic measurement of THz field pulses with a chirped optical beam", Applied Physics Letters, Vol.72, No.16, 20 April 1998, pp.1945-1947.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、THz分光のためには、測定周波数帯域が広く、周波数分解能が高いことが重要である。
【0011】
THz波パルスの波形変調情報が載ったチャープパルスは、一次元多素子検出器付き分光器を用いて測定される。線形のチャープパルスは周波数と時間の間に線形の関係があるので、検出器付き分光器で測定されたチャープパルスのスペクトルの周波数軸は時間軸に変換することができる。よって、THzパルス波形測定に必要な時間分解能に応じて検出器付き分光器の波長分解能を決めればよい。
【0012】
B法及びC法では、定常位相法という近似法に基づいて、時間分解能は以下の式で決定される、と考えている。
【0013】
【数1】

【0014】
この式に従うため、B法における測定装置の時間分解能は、A法に比べて数倍程度広い。THz波パルスの時間波形の時間幅はテラヘルツ分光の測定周波数帯域と逆比例の関係にあるので、時間分解能が広いと測定周波数帯域が狭くなる。B法では測定周波数帯域がA法に比べて数分の一になる。
【0015】
一方、周波数分解能を上げるには、観測時間幅を広くし、チャープパルスの時間幅を伸ばす必要がある。しかし、周波数分解能を上げようとしてチャープパルスの時間幅を伸ばすと、この式から、時間分解能が悪くなり、テラヘルツ分光の測定周波数帯域を狭めることになる。
【0016】
B法を開示する非特許文献1では、テラヘルツ分光の測定周波数帯域及び時間分解能が、それぞれ約0.3THz及び0.07THzである。これに対して、C法の実施例では測定周波数帯域及び時間分解能はそれぞれ約1THz及び約0.1THzにできることが開示されている。
【0017】
C法を用いることで測定周波数帯域を、B法の0.3THzから約1THzに広げることは可能となるが、約0.1THzというC法の時間分解能は、A法の時間分解能(数0.01THz)に比べると数倍悪い。
【0018】
A法を用いたテラヘルツ分光の典型的な周波数分解能である数10GHzをB法及びC法で得るためには、チャープパルスの時間幅を20ピコ秒程度以上にする必要がある。しかし、上式に従うと、仮にフェムト秒レーザーのレーザーパルスの時間幅が100フェムト秒(=0.1ピコ秒)のとき、
【0019】
【数2】

となるから、THz波の時間分解能は約1.4ピコ秒となる。時間分解能の逆数である測定周波数帯域は0.71THzであり、1THzを超えない。
【0020】
ところで、B法及びC法においてTHz波パルスの時間波形を導出するには、THz波パルスの波形変調情報が載ったチャープパルスI(t)_onと波形変調情報が載っていないチャープパルスI(t)_offの両方を測定する必要がある。
【0021】
しかし、B法とC法のいずれでも、I(t)_onとI(t)_offの両方を同時に測定せず、別々のチャープパルスで測定した結果を用いてTHz波パルスの時間波形を導出している。これでは、フェムト秒レーザーのレーザーパルスがパルス毎に揺らぐ場合、測定結果の信頼性を上げることは困難である。
【0022】
更に、B法及びC法にて採用された定常位相近似に基づく式は、すべての実験条件では使えない。
【0023】
発明者は、近似を用いることなく定式化し、チャープパルスの時間幅が数十ピコ秒以上、例えば、20ピコ秒であっても多素子検出器付き分光器の波長分解能を最適化することで時間分解能を低下させない方法を発明した。
【0024】
チャープパルスの時間波形C(t)は、Tc:パルス幅、2α:チャープレート、ω0:中心周波数とするとき、以下の式で示される。
【0025】
【数3】

【0026】
そして、THz電場振幅時間波形ETHz(t)は、以下の式で示される。
【数4】

【0027】
このとき、測定により得られるTHz波形Emes(ω)は、以下の式で示される。
【0028】
【数5】

【0029】
ここで、
【数6】

である。
【0030】
また、発明者は、B法で、THz波パルスとチャープパルスが電気光学結晶中で出会う時間的なタイミング、つまり、THz波パルスにより変調されるチャープパルスの中の時間領域が異なると、得られるTHz波パルスの時間波形が異なることを発見した。これは、測定装置の装置応答が二つのパルスの出会うタイミングにより変化することを意味する。
【0031】
一般に、測定対象物がTHz領域で1と異なる屈折率を持つ場合、測定対象物がある場合とない場合でTHz波パルスにより変調されるチャープパルス内の時間領域が変わる。よって、測定された二つのTHz波パルスの時間波形の間には、装置応答の変化に起因した変化分が存在し、そのままその二つのTHz波パルスの時間波形を用いて測定対象物のTHzスペクトルを導出すると、THzスペクトルが歪んでしまう。B法及びC法はこの効果を考慮していない。
【0032】
本発明は、測定周波数帯域の広帯域化と周波数分解能の高分解能化とを実現し、信頼性の高いテラヘルツ測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
以下、本発明について上記課題を解決するための手段を説明する。尚、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0034】
上記課題を解決するために、本発明にかかるテラヘルツ測定装置(1)は、超短光パルスを発生する光パルス発生手段(10)と、光パルス発生手段(10)にて発生された超短光パルスをポンプ光とプローブ光の2つに分岐する第1の分岐手段(11)と、第1の分岐手段(11)にて分岐された超短光パルスのポンプ光を受けてテラヘルツ波(THz波)を発生させるテラヘルツ波発生光学系(12)と、第1の分岐手段(11)にて分岐された超短光パルスのプローブ光を線形チャープしたチャープパルスに変換するチャープ発生光学系(22)と、チャープ発生光学系(22)にて変換されたチャープパルスを2つに分岐する第2の分岐手段(31)と、第2の分岐手段(31)にて分岐されたチャープパルスの一方を参照光としてスペクトルを検出する参照光検出手段(32,48)と、第2の分岐手段(31)にて分岐されたチャープパルスの他方をテラヘルツ波発生光学系(12)にて発生されたTHz波の電場信号で誘起された電気光学効果にて変調する電気光学結晶(43)と、電気光学結晶(43)にて変調されて出力された光を受けて信号光としてスペクトルを検出する信号光検出手段(45,48)と、同時に検出された参照光検出手段(32,48)による参照光と信号光検出手段(45,48)による信号光とに基づいてTHz波の時間波形を取得する演算手段(50)とを有することを特徴とする。
【0035】
ここで、チャープ発生光学系(22)は、超短光パルスを10ピコ秒以上に線形チャープしたチャープパルスに変換することを特徴とすれば、A法と同程度の数10GHzの周波数分解能を実現できる。
【0036】
また、第1の分岐手段(11)にて分岐された超短光パルスのプローブ光を所定の時間だけ遅延させる光学的時間遅延器(21)を更に有し、テラヘルツ波発生光学系(12)から発生されるTHz波と第2の分岐手段(31)にて分岐されるチャープパルスの他方とが電気光学素結晶(43)において時間的にオーバーラップするように、光学的時間遅延器(21)はプローブ光を遅延させることを特徴とすれば、THz波とチャープパルスとを同期させることができ、チャープパルスに載ったTHz波の変調特性を取得できる。
【0037】
更に、演算手段(50)は、所定の測定位置に測定対象物がない状態で取得されたTHz波の第1の時間波形と測定位置に配置された測定対象物を透過したTHz波の第2の時間波形とに基づいて時間遅延量を算出し、光学的時間遅延器(21)は、演算手段(50)にて算出された時間遅延量だけプローブ光を遅延させることを特徴とすれば、測定対象物がある場合とない場合とでTHz波はチャープパルス内の同じ時間領域を変調する。よって、THz波変調領域依存性を除いたTHz波の時間波形を導出でき、歪みのないTHzスペクトルを取得できる。
【0038】
更にまた、第1の分岐手段(11)にて分岐された超短光パルスのポンプ光を更に2つに分岐する第3の分岐手段(101)と、第3の分岐手段(101)にて分岐された超短光パルスの一方の光路を開閉するシャッター(103)とを更に有し、測定位置に配置された測定対象物に対して、第3の分岐手段(101)にて分岐された超短光パルスの一方を照射して光励起させると共に、超短光パルスの他方を受けたテラヘルツ波発生光学系(12)からTHz波を照射させることを特徴とすれば、光励起によって測定対象物内で起こる化学反応や相変化などの機能解析ができる。
【0039】
上記課題を解決するために、本発明にかかる時間波形取得法は、超短光パルスをポンプ光とプローブ光の2つに分岐する第1の分岐手段(11)と、第1の分岐手段(11)にて分岐された超短光パルスのポンプ光を受けてテラヘルツ波(THz波)を発生させるテラヘルツ波発生光学系(12)と、第1の分岐手段(11)にて分岐された超短光パルスのプローブ光を線形チャープしたチャープパルスに変換するチャープ発生光学系(22)と、チャープ発生光学系(22)から出力されたチャープパルスを2つに分岐する第2の分岐手段(31)と、第2の分岐手段(31)にて分岐されたチャープパルスの一方を参照光としてスペクトルを検出する参照光検出手段(32,48)と第2の分岐手段(31)にて分岐されたチャープパルスの他方を受けて、テラヘルツ波発生光学系(12)にて発生されたTHz波の電場信号で誘起された電気光学効果にて変調する電気光学結晶(43)と、電気光学結晶(43)にて変調された光を信号光としてスペクトルを検出する信号光検出手段(45,48)と、同時に検出された参照光と信号光とに基づいてテラヘルツ波発生光学系(12)にて発生されたTHz波の時間波形を演算する演算手段(50)とを有するテラヘルツ測定装置(1)において実行される時間波形取得法であって、THz波を発生させないで参照光R(t)_offと信号光S(t)_offとを同時に検出する第1の検出工程と、THz波を発生させて信号光S(t)_onと参照光R(t)_onとを同時に検出する第2の検出工程と、第1の検出工程にて検出された参照光R(t)_offと信号光S(t)_off、及び、第2の検出工程にて信号光S(t)_onと参照光R(t)_onを使って、THz波の時間波形ETHz(t)を演算して取得する演算工程とを有することを特徴とする。
【0040】
ここで、第1の検出工程にて検出された参照光R(t)_offと信号光S(t)_off、及び、参照光R(t)_offと信号光S(t)_offとから算出される分岐比S(t)_off/R(t)_offのいずれかを記憶する記憶工程を更に有し、演算工程では、記憶工程にて記憶された参照光R(t)_offと信号光S(t)_off及び分岐比S(t)_off/R(t)_offのいずれか一方、並びに、第2の検出工程にて信号光S(t)_onと参照光R(t)_onを使って、THz波の時間波形ETHz(t)を演算して取得することを特徴とすれば、THz波を発生させないで参照光R(t)_offと信号光S(t)_offとを同時に検出する第1の検出工程を1回実行すれば、その後はTHz波を発生させて信号光S(t)_onと参照光R(t)_onとを同時に検出する第2の検出工程だけを実行してTHz波の時間波形を取得できる。
【0041】
また、第1の検出工程にて検出された参照光R(t)_offと信号光S(t)_offとに基づいて分岐比S(t)_off/R(t)_offを算出し、第2の検出工程にて検出された参照光R(t)_onと算出された分岐比S(t)_off/R(t)_offとを使って、THz波で変調されないチャープパルスI(t)_offを演算し、第2の検出工程にて検出された信号光S(t)_onをTHz波で変調されたチャープパルスI(t)_onと見なして、THz波の時間波形ETHz(t)を演算して取得することを特徴とすれば、THz波で変調されたチャープパルスI(t)_onと変調されないチャープパルスI(t)_offの実効的な同時測定を果たし、レーザーの揺らぎに起因する歪みを除去できる。
【0042】
更に、THz波で変調されないチャープパルスI(t)_offを、式(1)
【0043】
【数7】

により演算し、THz波の時間波形ETHz(t)を、式(2)
【0044】
【数8】

により取得することを特徴とすれば、(2)式によりTHz波パルスの時間波形のレーザーの揺らぎに起因する歪みを除去できる。
【0045】
上記課題を解決するために、本発明にかかるテラヘルツ測定法は、所定の測定位置に測定対象物がない状態でTHz波の第1の時間波形を取得する第1時間波形取得工程と、測定位置に配置された測定対象物を透過したTHz波の第2の時間波形を取得する第2時間波形取得工程と、第1時間波形取得工程にて取得された第1の時間波形と第2時間波形取得工程にて取得された第2の時間波形とに基づいて時間遅延量を算出する時間遅延量算出工程と、時間遅延量算出工程にて算出された時間遅延量だけプローブ光を遅延させて、測定対象物を透過したTHz波の第3の時間波形を取得する第3時間波形取得工程と、第1時間波形取得工程にて取得した第1の時間波形と、第3時間波形取得工程にて取得された第3の時間波形とに基づいて、測定対象物を透過したTHz波のスペクトルを計算するTHzスペクトル計算工程とを有することを特徴とする。
【0046】
ここで、時間遅延量算出工程では、第1の時間波形と第2の時間波形との主ピークの時間差に基づいて時間遅延量を算出することを特徴とすれば、測定対象物がある場合とない場合とでTHz波をチャープパルス内の同じ時間領域で変調させ、THz波変調領域依存性を除いたTHz波の時間波形を導出できる。
【0047】
また、第1の時間波形を記憶する第1時間波形記憶工程を更に有し、時間遅延量算出工程では、第1時間波形記憶工程にて記憶された第1の時間波形と第2の時間波形とに基づいて時間遅延量を算出することを特徴とすれば、所定の測定位置に測定対象物がない状態でTHz波の第1の時間波形を取得する第1時間波形取得工程を省くことができるので、測定時間を短縮できる。
【0048】
更に、第1乃至第3時間波形取得工程の少なくともいずれか1つの時間波形取得工程は複数回実行され、複数回検出された参照光と信号光とに基づいてTHz波の時間波形を取得することを特徴とすれば、信号/雑音比(S/N比)を上げることができる。
【0049】
上記課題を解決するために、本発明にかかるテラヘルツ測定法は、超短光パルスを励起光として測定対象物に照射して、光励起された測定対象物を透過した透過THz波の時間波形を取得する励起状態での時間波形取得工程と、基底状態の測定対象物を透過した透過THz波の時間波形を取得する基底状態での時間波形取得工程と、励起状態での時間波形取得工程にて取得された励起状態での透過THz波の時間波形と、基底状態での時間波形取得工程にて取得された基底状態での透過THz波の時間波形とに基づいて、光励起によって測定対象物に生じる変化を解析する解析工程とを有することを特徴とする。
【0050】
上記課題を解決するために、本発明にかかる検査装置(99)は、測定対象物を所定の測定位置に搬送する搬送手段(98)と、搬送手段(98)により測定位置に搬送された測定対象物を透過する透過THz波を測定するテラヘルツ測定装置(1)とを有することを特徴とする。
【0051】
ここで、様々な物質のTHz領域におけるTHzスペクトルを記憶するデータベース(96)を更に有し、テラヘルツ測定装置(1)にて測定された測定対象物の透過THz波とデータベース(96)に記憶されたTHzスペクトルとに基づいて測定対象物を検査することを特徴とすれば、測定対象物を容易に特定できる。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、測定周波数帯域の広帯域化と周波数分解能の高分解能化とを実現し、信頼性の高いテラヘルツ測定装置等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1の実施形態にかかるテラヘルツ波スペクトル測定装置の構成図である。
【図2】THz波パルスの時間波形のフーリエ変換スペクトルを示す図である。
【図3】周波数分解能を変えて検出したTHz波パルスの時間波形を示す図である。
【図4】THz波パルスとチャープパルスとの時間的タイミングを変えて得たTHz波パルスの時間波形を示す図である。
【図5】第2の実施形態にかかるテラヘルツ波スペクトル測定装置の構成図である。
【図6】図1に示すテラヘルツ波スペクトル測定装置を用いた検査装置の概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
(第1の実施形態)
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0055】
図1は、本発明にかかるテラヘルツ測定装置の一例としての第1の実施形態にかかるテラヘルツ波スペクトル測定装置1の構成図である。
【0056】
図1に示すように、テラヘルツ波スペクトル測定装置1は、超短光パルスの一例としてのフェムト秒レーザーを発生する光パルス発生手段の一例としてのレーザー発生部10と、レーザー発生部10から出力されるフェムト秒レーザーをポンプ光とプローブ光の2つに分岐する第1の分岐手段の一例としてのビームスプリッタ11と、ビームスプリッタ11で分岐されたポンプ光を受けて、テラヘルツ波パルス(THz波パルス)を発生させるテラヘルツ波発生光学系の一例としてのTHz波発生源12とを有する。
【0057】
また、テラヘルツ波スペクトル測定装置1は、ビームスプリッタ11で分岐されたプローブ光を受けて所定の時間遅延させて出力する光学的時間遅延器21と、光学的時間遅延器21にて時間遅延されて出力されたプローブ光を線形チャープしたチャープパルスに変換して出力するチャープ発生光学系の一例としてのチャープ発生光学器22と、所定の振動方向を有する直線偏光を透過する偏光子23とを有する。
【0058】
更に、テラヘルツ波スペクトル測定装置1は、チャープ発生光学器22にて変換されたチャープパルスを参照光と信号光の2つに分岐する第2の分岐手段の一例としてのビームスプリッタ31と、ビームスプリッタ31にて分岐された参照光を取り込んで、後述する分光検出部48へ出力する参照光入力部32とを有する。
【0059】
更にまた、テラヘルツ波スペクトル測定装置1は、ビームスプリッタ31にて分岐されたチャープパルスの信号光を、THz波発生源12で発生されたTHz波パルスの電場信号で誘起された電気光学効果にて変調する光学素子配列40と、光学素子配列40で変調された信号光を取り込んで、後述する分光検出部48へ出力する信号光入力部45とを有する。
【0060】
更にまた、テラヘルツ波スペクトル測定装置1は、参照光入力部32から取り込んだ参照光と信号光入力部45から取り込んだ信号光とを光ファイバを介して取得し、分光して参照光及び信号光のスペクトルを検出する分光検出部48と、分光検出部48にて検出された参照光と信号光とに基づいてTHz波パルスの時間波形を取得する演算手段の一例としての演算回路50とを有して構成される。
【0061】
ここで、レーザー発生部10は、例えば、チタン・サファイア・レーザーの再生増幅システムで構成される。また、レーザー発生部10は、例えば、スペクトル幅10nm程度、パルス幅100フェムト秒、波長800nm、パルスエネルギ1mJ/パルス、パルス繰り返し1KHzのフェムト秒レーザーの超短光パルスを発生する。尚、超短光パルスは、これに限定されるものではない。
【0062】
ビームスプリッタ11は、例えば、ハーフミラー型ビームスプリッタや偏光ビームスプリッタ等で構成される。ビームスプリッタ11は、レーザー発生部10から出力されるフェムト秒レーザーを、THz波発生源12へ供給するポンプ光と、チャープ発生光学器22へ供給するプローブ光の2つに分岐する。
【0063】
THz波発生源12は、例えば、低温成長ガリウム・ヒ素(LT−GaAs)上に金属アンテナを形成した半導体等の光伝導アンテナ、インジウム・ヒ素(InAs)基板等のバルク半導体、半導体量子井戸、テルル化亜鉛(ZnTe)などの非線形光学結晶、高温超伝導体などで構成される。第1の実施形態では半導体インジウム・ヒ素基板を用いている。
【0064】
THz波発生源12は、ビームスプリッタ11で分岐されたポンプ光を発生素子(図示省略)に受けて、テラヘルツ波パルス(THz波パルス)を発生させる。THz波発生源12には、通常、発生効率、発生強度を増大させるために、大きな分岐比で分岐されたポンプ光が照射される。
【0065】
光学的時間遅延器21は、例えば、図示しない複数の折り返しミラーの組み合わせにより構成される。光学的時間遅延器21は、後述する演算回路50からの制御信号に基づいて、ビームスプリッタ11で分岐されたプローブ光を所定の時間、遅延させて出力する。
【0066】
チャープ発生光学器22は、例えば、バルク回折格子対、プリズム、ホログラフィックグレーティング、ファイバーグレーティング、コリメータレンズ等(いずれも図示省略)を用いて構成される。チャープ発生光学器22は、光学的時間遅延器21にて時間遅延されて出力されたプローブ光を線形チャープしたチャープパルスに変換して出力する。チャープ発生光学器22は、10ピコ秒以上、例えば、20ピコ秒程度の時間幅を持つチャープパルスを生成する。
【0067】
ビームスプリッタ31は、例えば、ハーフミラー型ビームスプリッタや偏光ビームスプリッタ等で構成される。ビームスプリッタ31は、チャープ発生光学器22にて変換されたチャープパルスを、参照光入力部32へ供給する参照光と、信号光入力部45へ供給する信号光の2つに分岐する。
【0068】
参照光入力部32は、例えば、光ファイバの端部等で構成される。参照光入力部32は、ビームスプリッタ31にて分岐されたチャープパルスの参照光が入光され、後述する分光検出部48へ供給する。
【0069】
光学素子配列40は、チャープパルスを透過させTHz波パルスを反射するハーフミラー41と、平行光を集光反射する軸外し放物面鏡42と、THz波パルスの電場信号でチャープパルスを変調する電気光学結晶43と、偏光子23の偏光方向に直交する偏光方向を有しTHz変調を受けたチャープパルスを透過する偏光子44とを有して構成される。
【0070】
ここで、電気光学結晶43は、例えば、テルル化亜鉛(ZnTe)結晶等で構成される。電気光学結晶43はTHz波パルスが照射されると、その電場信号によるポッケルス効果で透過する信号光の時間波形を変調する。
【0071】
信号光入力部45は、例えば、光ファイバの端部等で構成される。信号光入力部45は、ビームスプリッタ31にて分岐されたチャープパルスの信号光が入光され、後述する分光検出部48へ供給する。
【0072】
分光検出部48は、例えば、回折格子等の分光器とCCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)等の検出器とを一体として収納する多素子検出器付き分光器等で構成される。第1の実施形態の分光検出部48は受光領域を2つに分け、参照光入力部32からの参照光と信号光検出部45からの信号光とを受光している。尚、ここで、参照光入力部32と分光検出部48とは、本願の参照光検出手段の一例を構成し、また、信号光入力部45と分光検出部48とは本願の信号光検出手段の一例を構成する。分光検出部48で検出された信号光及び参照光の横軸は波長或いは周波数である。線形のチャープパルスは周波数と時間の間で線形の関係であるから、検出された信号光及び参照光の横軸をチャープレートの値を用いて時間軸に変換できる。実際にチャープレートの値を得るには、例えば、1)周波数分解光ゲート法により求めるか、或いは、2)光学的時間遅延器21によりTHz波とチャープパルスとが電気光学結晶43で重なるタイミングを変えてTHz時間波形を波長又は周波数横軸上で動かし、その時の波形の主ピークの波長(或いは周波数)変化量と時間との関係をプロットする等により求めることができる。
【0073】
演算回路50は、例えば、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)等で構成される。演算回路50は、光学的時間遅延器21に対して時間遅延量を指示する制御信号を出力する。また、演算回路50は、分光検出部48からTHz波パルスの電場時間波形を取得し、その電場時間波形をフーリエ変換してTHz波パルスの周波数スペクトルを算出する。ここで、制御信号が指示する時間遅延量として、例えば、THz波発生源12から出力されるTHz波パルスがチャープ発生光学器22から出力されるチャープパルスに時間的にオーバーラップする(時間的に同期する)ための時間遅延量がある。また、例えば、測定対象物がある場合とない場合のTHz波パルスの時間波形の主ピーク間の時間差がある。これについては後述する。
【0074】
尚、上記した第1の実施形態にかかるテラヘルツ波スペクトル測定装置1では、多素子検出器付き分光器等で構成される1個の分光検出部48が受光領域を分けて参照光と信号光とを検出する例を説明したが、2個の多素子検出器付き分光器が参照光の検出と信号光の検出とを分担する構成としても良い(図示省略)。
【0075】
(動作概要)
以上の構成を有するテラヘルツ波スペクトル測定装置1の動作概要を以下に説明する。
【0076】
レーザー発生部10から出力されたフェムト秒レーザーは、ビームスプリッタ11でポンプ光とプローブ光の2つに分岐される(第1の分岐工程)。ポンプ光はTHz波発生源12へ導かれTHz波パルスが発生される(THz波発生工程)。プローブ光は光学的時間遅延器21を通過した後にチャープ発生光学器22を用いて20ピコ秒程度以上の時間幅を持つチャープパルスに成形される(チャープ変換工程)。チャープパルスの時間幅からは、以下の式に従って、THz分光器の周波数分解能Δωが得られる。
【0077】
【数9】

【0078】
これにより、従来法であるA法を用いたテラヘルツ分光と同程度の数十GHzの周波数分解能を得る。
【0079】
チャープパルスを検出する分光検出部48の周波数分解能Δνは、被測定THz波パルスの時間波形の分解に必要な時間分解能の値に基づいて決定される。必要とされる時間分解能をΔτ、チャープレートの大きさをγとすると、
【0080】
【数10】

で得られる周波数分解能Δνが分光器の周波数分解能値の目安とされる。
【0081】
この目安に基づけば、従来法であるA法を用いたテラヘルツ分光と同程度の測定周波数帯域と周波数分解能とを同時に実現することができる。例えば、約100フェムト秒のパルス幅をもつレーザー(800nm中心)を用いて、チャープレートの大きさを0.2THz2で時間分解能約200フェムト秒を得たいのであれば、分光器に必要とされる波長分解能が計算できる。
【0082】
周波数分解能Δνは、以下の計算式から0.04THzである。
【0083】
【数11】

【0084】
800nm=375THzであるから、波長分解能は、
【0085】
【数12】

【0086】
よって、0.1nm程度の波長分解能を有する分光器を用いる。
【0087】
チャープ発生光学器22にて生成されて出力されたチャープパルスは偏光子23に通した後、ビームスプリッタ31で2つに分岐される(第2の分岐工程)。一方は、そのまま参照光入力部32に導かれる。もう一方は、光学素子配列40において、THz波発生源12から出力されるTHz波パルスに電気光学結晶43内で重ねられ、チャープパルスをTHz波電場により変調させる(変調工程)。その後、偏光子44を通して、信号光入力部45に導かれる。分光検出部48にて、参照光と信号光とを取得する(参照光検出工程、信号光検出工程)。
【0088】
以上により、テラヘルツ波スペクトル測定装置1は、参照光と信号光とを取得できる。
【0089】
(時間波形取得法)
以上で動作概要を説明したので、続いて、第1の実施形態にかかる時間波形取得法を説明する。
【0090】
(第1の検出工程)
以下に説明する第1の検出工程では、THz波を発生させないで、参照光R(t)_offと信号光S(t)_offとが同時に検出される。
【0091】
レーザー発生部10によって発生されたフェムト秒レーザーが、ビームスプリッタ11でポンプ光とプローブ光の2つに分岐される(第1の分岐工程)。ポンプ光はTHz波発生源12へ向けて導かれるが、図示しないシャッターにて遮断される。これにより、THz波発生源12はTHz波パルスを発生させない。尚、THz波発生源12の後ろにシャッター(図示省略)を設け、発生したTHz波パルスを遮断しても良い。一方、プローブ光は光学的時間遅延器21を通過した後にチャープ発生光学器22を用いてチャープパルスに成形される(チャープ変換工程)。
【0092】
チャープパルスはビームスプリッタ31で2つに分岐される(第2の分岐工程)。一方は参照光入力部32に導かれる。もう一方は、光学素子配列40を通過して信号光入力部45へ導かれる。THz波発生源12からTHz波パルスが出力されないので、光学素子配列40において変調されることはない。その後、信号光入力部45へ導かれる。分光検出部48にて、参照光R(t)_offと信号光S(t)_offとが同時に取得される。
【0093】
取得された参照光R(t)_offと信号光S(t)_offとに基づいて、演算回路50にてビームスプリッタ31の分岐比S(t)_off/R(t)_offが計算される。
【0094】
(第2の検出工程)
第2の検出工程では、THz波を発生させて参照光R(t)_onと信号光S(t)_onとが同時に検出される。
レーザー発生部10によって発生されたフェムト秒レーザーが、ビームスプリッタ11でポンプ光とプローブ光の2つに分岐される(第1の分岐工程)。ポンプ光はTHz波発生源12へ導かれ、THz波発生源12はTHz波パルスを発生させる(THz波発生工程)。一方、プローブ光は光学的時間遅延器21を通過した後にチャープ発生光学器22にてチャープパルスに成形される(チャープ変換工程)。
【0095】
チャープパルスはビームスプリッタ31で2つに分岐される(第2の分岐工程)。一方は参照光入力部32に導かれる。他方は、光学素子配列40において、THz波発生源12から出力されるTHz波パルスに電気光学結晶43内で重ねられ、チャープパルスをTHz波電場により変調させる(変調工程)。その後、信号光入力部45へ導かれる。分光検出部48にて、参照光R(t)_onと信号光S(t)_onとが同時に取得される。
【0096】
(演算工程)
第1の検出工程にて計算された分岐比S(t)_off/R(t)_off、及び、前記第2の検出工程にて取得された参照光R(t)_onを使って、THz波パルスで変調されないチャープパルスI(t)_offが、以下の(1)式で計算される。
【0097】
【数13】

【0098】
また、参照光R(t)_onと同時に取得された信号光S(t)_onは、THz波パルスで変調されたチャープパルスI(t)_onであるから(I(t)_on=S(t)_on)、THz波パルスの時間波形ETHz(t)は、以下の(2)式により計算される。
【0099】
【数14】

【0100】
これにより、I(t)_onとI(t)_offの実効的な同時測定を果たし、(2)式から導いたTHz波パルスの時間波形のレーザーの揺らぎに起因する歪みを除去できる。
【0101】
尚、第1の検出工程において計算された分岐比S(t)_off/R(t)_offを、図示しない記憶手段に記憶し、その後は第2の検出工程だけを実行するようにしても良い。
【0102】
(透過スペクトル測定法)
以上で時間波形取得法を説明したので、次に、測定対象物を透過したTHz波のスペクトル測定法を説明する。
【0103】
透過スペクトル測定法では、所定の測定位置に測定対象物が配置されていない場合と配置されている場合のTHz波パルスの時間波形を、上に説明した時間波形取得法に基づいて取得する(第1の時間波形取得工程、第2の時間波形取得工程)。取得した2つの時間波形の主ピークの間の時間差に基づいて、演算回路50は、第1の時間波形に対する第2の時間波形の遅延量(透過THz波の時間遅延量)を算出する(時間遅延量算出工程)。
【0104】
算出した時間遅延量だけ時間を遅延させるように、演算回路50は光学的時間遅延器21に対して制御信号を出力して時間を遅延させ、測定対象物の透過THz波の時間波形を再度取得する(第3の時間波形取得工程)。そして、第1の時間波形と第3の時間波形とに基づいて、演算回路50は測定対象物を透過したTHz波のスペクトルを計算する(THzスペクトル計算工程)。
【0105】
以上により、測定位置に測定対象物がある場合とない場合の透過THz波がチャープパルス内の同じ時間領域を変調するので、テラヘルツ波スペクトル測定装置1の装置応答のTHz波変調領域依存性を除いたTHz波パルスの時間波形を取得できる。そして、その効果に起因した歪みのないTHzスペクトルを測定できる。
【0106】
尚、測定対象物がない状態のTHz波パルスの時間波形取得(第1の時間波形取得工程)、測定対象物がある状態のTHz波パルスの時間波形取得(第2の時間波形取得工程)や二つのTHz時間波形の時間差分を修正して実施した測定対象物がある状態のTHz波パルスの時間波形取得(第3の時間波形取得工程)は、それぞれ単発のレーザーパルスを用いて実行できるが、信号/雑音比(S/N比)を上げるために、複数回の測定を行って取得したデータを積算しTHzスペクトルを計算しても良い。
【0107】
(実施例1)
図1に示す構成を有するテラヘルツ波スペクトル測定装置1において、パルス幅:約150フェムト秒、パルスエネルギー:約0.5mJ、パルス繰り返し:約1kHz、中心波長:約800nmのフェムト秒レーザーを用いて、出力されるTHzスペクトルを測定した。THz波発生源12として0.5mm厚のインジウム・ヒ素(InAs)基板を用い、その表面にフェムト秒レーザーを照射してTHz波パルスを発生させた。チャープ発生光学器22として1200本/mmの回折格子対を用い、約0.2THz2のチャープレートのチャープパルスを発生させた。電気光学結晶43にテルル化亜鉛(ZnTe)結晶を用いた。分光検出部48には、CCDカメラ(1340×400ピクセル)付き分光器(30cm、1800本/mm)を用いた。分光器の分解能は約0.1nmである。検出領域を二つ(1340×200ピクセル)に分け、参照光と信号光とを二つの領域で同時に検出した。
【0108】
図2は、測定により導出されたTHz波パルスの時間波形のフーリエ変換スペクトルを示す。横軸は、導出されたTHz波パルスの周波数を示し、縦軸はTHz波パルスの電場振幅を示す。
【0109】
図2に示すように、測定を大気中で行ったため、測定された周波数領域において水蒸気の吸収に起因した幾つかのくぼみが存在する。
【0110】
実施例1にて測定されたTHz波パルスの時間波形は、低周波数領域からTHz波電場振幅の最大値の半値の周波数(約1.5THz)まで、A法を用いて取得したTHz波パルスの時間波形にほぼ一致する。このことから、実施例1は、A法とほぼ同じ測定周波数帯域を有することが判る。
【0111】
また、約1.1THz付近の水蒸気の吸収に起因するスペクトル中の鋭いくぼみに着目して周波数分解能をスペクトルの半値全幅で評価すると、実施例1の周波数分解能は、A法と同じ約0.03THzに達している。このことから、実施例1は、A法とほぼ同じ周波数分解能を有することが判る。
【0112】
以上により、約20ピコ秒程度のチャープパルスと分光検出部48の高波長分解能化(約0.1nm)により、実施例1では、従来型のA法と同程度の測定周波数帯域及び周波数分解能が達成された。両方の値でB法及びC法での値より優れた結果を得ている。
【0113】
また、実施例1では、C法のように白色パルスの発生という方法を用いることなく直接フェムト秒レーザーをチャープするだけで良い。
【0114】
図3は、分光検出部48の周波数分解能を変えて検出したTHz波パルスの時間波形の実験結果である。横軸は、時間(ピコ秒)を示し、縦軸は、THz波パルスの電場振幅を示す。
【0115】
図3に示すように、分光検出部48の周波数分解能が悪くなるとTHz波パルスのパルス幅が広がる。即ち、分光検出部48の周波数分解能が重要なパラメータであることを示す。
【0116】
分光器の分解能をΔω(THz)、チャープレートの大きさをγ(THz2)とすると、Δω/γにより測定システムの時間分解能Δτをおよそ評価できる。
【0117】
【数15】

【0118】
実施例1の場合、150フェムト秒のレーザー(800nm中心)を用いて、チャープレートの大きさを0.2THz2、分光器の分解能を0.1nmとすると、時間分解能Δτ=Δω/γ=0.1×10-9/(0.2×1012)=約200フェムト秒となり、A法で評価されたTHz波の元波形を充分分解できる時間分解能Δτを持つ。また、このチャープレートの場合、観測時間幅が数十ピコ秒であるから、数十GHzの周波数分解能を得る。この理論的な結果は実施例1(図2)とよく対応する。
【0119】
THz波パルスの時間波形の導出は、B法、C法及び実施例1で共通であり、(2)式により求める。
【0120】
B法及びC法では、第1の実施形態にかかるダブルビーム法での信号光に相当する信号のみを測定し、参照光を同時に測定しない。よって、異なるプローブパルスでI(t)_onとI(t)_offを計測する必要がある。かかる場合、レーザーの揺らぎに起因してチャープパルスがパルス毎に変化すると、I(t)_onは、I(t)_offにTHz波の変調以外にレーザーの揺らぎに起因した変化が載った信号となり、(2)式から導かれたTHz波パルスの時間波形は歪む恐れがある。
【0121】
一方、第1の実施形態では、THz波パルスを測定系に入射さることなく参照光R(t)_off及び信号光S(t)_offを同時測定して、分岐比S(t)_off/R(t)_offを予め取得する。そして、THz波パルスを測定系に入射させて参照光R(t)_on及び信号光S(t)_onを同時測定し、分岐比の値を用いて(2)式で用いるI(t)_offを(1)式により算出している。これにより、THz波パルスで変調されたチャープパルスと変調されないチャープパルスとを実質的に同時測定する。
【0122】
従って、第1の実施形態では、レーザーの揺らぎに起因したTHz波パルスの時間波形の歪みを排除できる。
【0123】
図4は、THz波パルスとチャープパルスとが電気光学結晶43中で出会う時間的タイミングを変えた時に測定されるTHz波パルスの時間波形である。横軸は、チャープパルスの波長を示し、縦軸は、THz波パルスの電場振幅を示す。尚、横軸は、チャープレートの値を用いて時間軸に変換が可能である。例えば、周波数を変換する場合、(測定周波数刻み)を(チャープレート)で除することにより時間に変換できる。
【0124】
図4に示すように、THz波パルスとチャープパルスとが電気光学結晶43中で出会う時間的タイミングを変えると、時間波形は一致しない。テラヘルツ波スペクトル測定装置1(図1参照)の装置応答は、THz波パルスとチャープパルスとの時間的重なりに依存することを示す。
【0125】
THz周波数領域で屈折率が1と異なる測定対象物をTHz波パルスが透過するとき、透過しない場合に比して、電気光学結晶43中でチャープパルスに出会う時間的タイミングが変わる。従って、測定対象物のTHzスペクトルの導出からその効果を除去するために、まず、所定の測定位置に測定対象物が配置されている場合と配置されていない場合のTHz波パルスの時間波形を測定し、その主ピークの間の時間差を求める。光学的時間遅延器21によりその時間差だけ時間を遅延させて、測定対象物の透過THz波パルスの時間波形を再度取得する。
【0126】
これにより、チャープパルス内の同じ時間領域でのTHz波変調を通して、測定対象物がない場合とある場合の透過THz波パルスを測定することができ、両者のTHz波パルスの時間波形を用いて、測定対象物のTHzスペクトルを得る。よって、THz波パルスとチャープパルスの時間的重なり方に依存する装置応答に起因したTHzスペクトルの歪みを除去することができる。
【0127】
第1の実施形態にかかるテラヘルツ波スペクトル測定装置1によれば、同時に検出された参照光と信号光とに基づいてTHz波の時間波形が取得される。これにより、フェムト秒レーザーのレーザーパルスがパルス毎に揺らぐ場合であっても、測定結果の信頼性を上げることができる。
【0128】
また、チャープ発生光学器22は、10nm程度のスペクトル幅を有するフェムト秒レーザーを数十ピコ秒以上に線形チャープしたチャープパルスに変換する。よって、A法と同程度の数10GHzの周波数分解能を実現できる。
【0129】
更に、THz波発生源12から発生されるTHz波とビームスプリッタ31にて分岐されたチャープパルスとが電気光学素結晶43にて時間的にオーバーラップするように、光学的時間遅延器(21)はプローブ光を遅延させる。よって、THz波とチャープパルスとを同期させることができ、チャープパルスに載ったTHz波の変調特性を取得できる。
【0130】
更にまた、THz波の第1の時間波形と第2の時間波形とに基づいて算出された時間遅延量だけ、光学的時間遅延器21によってプローブ光は遅延される。よって、測定対象物がある場合とない場合とでチャープパルス内の同じ時間領域を変調するTHz波は、THz波変調領域依存性を除くことができ、歪みのないTHzスペクトルを取得できる。
【0131】
更にまた、参照光と信号光とは、1個の(2チャンネル×多素子検出器付き分光器)である分光検出部48により検出される。よって、信号光と参照光とを同時に検出することが容易となる。
【0132】
更にまた、参照光と信号光とは、2個の多素子検出器付き分光器により検出される。よって、小型の多素子検出器付き分光器を採用でき、配置の自由度を高めることができる。
【0133】
第1の実施形態にかかる時間波形取得法によれば、第1の検出工程にて検出された参照光R(t)_offと信号光S(t)_off、及び、第2の検出工程にて信号光S(t)_onと参照光R(t)_onを使って、THz波の時間波形ETHz(t)を演算して取得する。これにより、THz波で変調されたチャープパルスI(t)_onと変調されないチャープパルスI(t)_offの実効的な同時測定を果たし、レーザーの揺らぎに起因する歪みを除去できる。
【0134】
また、記憶された参照光R(t)_offと信号光S(t)_off及び分岐比S(t)_off/R(t)_offのいずれか一方、並びに、第2の検出工程にて信号光S(t)_onと参照光R(t)_onを使って、THz波の時間波形ETHz(t)が演算されて取得される。よって、第1の検出工程を1回実行した後は、第2の検出工程だけを実行してTHz波の時間波形を取得できる。
【0135】
更に、分岐比S(t)_off/R(t)_offとを使ってTHz波で変調されないチャープパルスI(t)_offが演算され、第2の検出工程にて検出された信号光S(t)_onを使ってTHz波の時間波形ETHz(t)が演算され取得される。よって、THz波で変調されたチャープパルスI(t)_onと変調されないチャープパルスI(t)_offの実効的な同時測定を果たし、レーザーの揺らぎに起因する歪みを除去できる。
【0136】
第1の実施形態にかかるテラヘルツ測定法によれば、第1の時間波形と第2の時間波形とに基づいて算出された時間遅延量だけプローブ光を遅延させて測定対象物を透過したTHz波の第3の時間波形を取得され、THz波のスペクトルが計算される。これにより、チャープパルス内の同じ時間領域を変調するTHz波は、THz波変調領域依存性を除くことができ、歪みのないTHzスペクトルを取得できる。
【0137】
また、第1の時間波形と第2の時間波形との主ピークの時間差に基づいて時間遅延量が算出される。よって、測定対象物がある場合とない場合とでチャープパルス内の同じ時間領域を変調するTHz波は、THz波変調領域依存性を除いた時間波形を導出できる。
【0138】
更に、記憶された第1の時間波形と取得された第2の時間波形とに基づいて時間遅延量を算出する。よって、第1時間波形取得工程を省くことができるので、測定時間を短縮できる。
【0139】
更にまた、複数回検出された参照光と信号光とに基づいてTHz波の時間波形が取得される。よって、信号/雑音比(S/N比)を上げることができる。
【0140】
(第2の実施形態)
図5は、本発明にかかるテラヘルツ測定装置の第2の実施形態としてのテラヘルツ波スペクトル測定装置100の構成図である。図1に示すテラヘルツ波スペクトル測定装置1と同一の構成要素は、同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0141】
図5に示すように、テラヘルツ波スペクトル測定装置100は、ビームスプリッタ11とTHz波発生光学系12との間に、ビームスプリッタ11にて分岐され出力されたフェムト秒レーザーを更に励起光とポンプ光とに分岐する第3の分岐手段の一例としてのビームスプリッタ101と、ビームスプリッタ101にて分岐され出力されたポンプ光を受けて所定の時間遅延させて出力する第2の光学的時間遅延器の一例としての光学的時間遅延器102と、ビームスプリッタ101にて分岐された励起光の光路を開閉するシャッター103とを有する点で、図1に示すテラヘルツ波スペクトル測定装置1と相違する。
【0142】
ここで、ビームスプリッタ101は、例えば、ハーフミラー型ビームスプリッタや偏光ビームスプリッタ等で構成される。ビームスプリッタ101は、ビームスプリッタ11で分岐されたフェムト秒レーザーを、測定対象物に照射される励起光と、光学的時間遅延器102へ供給されるポンプ光の2つに分岐する。
【0143】
光学的時間遅延器102は、例えば、図示しない複数の折り返しミラーの組み合わせにより構成される。光学的時間遅延器102は、演算回路50からの制御信号に基づいて、ビームスプリッタ101で分岐されたポンプ光を時間遅延させて出力する。
【0144】
シャッター103は、例えば、黒色の金属薄板及びその駆動機構(図示省略)等で構成される。シャッター103は、演算回路50からの制御信号に基づいて、測定対象物を光励起するための励起光としてのフェムト秒レーザーを遮断する。
【0145】
以上の構成を有するテラヘルツ波スペクトル測定装置100では、ビームスプリッタ11を通過したフェムト秒レーザーは、ビームスプリッタ101にて更に励起光とポンプ光の2つに分けられる。
【0146】
励起光は、シャッター103を介して測定対象物に照射される。ポンプ光は、光学的時間遅延器102にて所定の時間だけ時間遅延されてTHz波発生源12に導かれる。
【0147】
励起光が照射されて光励起した測定対象物に対して、THz波発生源12からTHz波パルスが照射される。測定対象物を透過した透過THz波は、電気光学結晶43においてチャープ発生光学器22から出力されたチャープパルスに重ねられる。信号光入力部45及び分光検出部48にて信号光が検出され、THz波パルスの時間波形が取得される(励起状態での時間波形取得工程)。
【0148】
続いて、シャッター103によって励起光が遮断され、測定対象物は基底状態に戻る。THz波発生源12からTHz波パルスが照射され、透過THz波が電気光学結晶43にてチャープパルスに重ねられる。同様にして、信号光入力部45及び分光検出部48にて信号光が検出され、THz波パルスの時間波形が取得される(基底状態での時間波形取得工程)。
【0149】
取得された2つのTHz波パルスの時間波形が演算回路50にてフーリエ変換され、各々のTHzスペクトルが取得される。光励起前後のTHzスペクトルの変化から、光励起によって測定対象物内で起こる化学反応や相変化などの機能解析が実施される(解析工程)。
【0150】
第2の実施形態にかかるテラヘルツ波スペクトル測定装置100によれば、所定の測定位置に配置された測定対象物に対して、フェムト秒レーザーを照射して光励起させると共に、THz波発生源12からTHz波を照射させる。これにより、光励起によって測定対象物内で起こる化学反応や相変化などの機能解析ができる。
【0151】
第2の実施形態にかかるテラヘルツ測定法によれば、光励起された測定対象物を透過した透過THz波の時間波形と、基底状態の測定対象物を透過した透過THz波の時間波形とを取得し、光励起によって測定対象物に生じる変化を解析する。これにより、光励起によって測定対象物内で起こる化学反応や相変化などの機能解析ができる。
【0152】
尚、ビームスプリッタ101の後に、非線形光学効果により励起光の励起波長を変換する波長変換光学素子(図示省略)を配置しても良い。励起光を測定対象物に適した波長に変換して照射することができる。
【0153】
ここで、波長変換光学素子は、例えば、ベータバリウムボライト(BBO)など非線形光学結晶等で構成される。波長変換光学素子は、ビームスプリッタ101にて分光された励起光を用いた非線形光学効果により、測定対象物に適した励起波長を有する励起光としての光パルスを発生させる。波長変換光学素子は、例えば、800nmの2倍波や3倍波の光パルスや可視域を連続的に波長が可変な光パルスを発生させる。
【0154】
(検査装置)
図6は、図1に示したテラヘルツ波スペクトル測定装置1を用いた検査装置99の概観図である。
【0155】
図6に示すように、検査装置99は、テラヘルツ波スペクトル測定装置1と、測定対象物が入った容器97を所定の速度で搬送する搬送手段の一例としてのベルトコンベア98と、様々な物質のTHz領域におけるTHzスペクトルを記憶するデータベース96とを有して構成される。
【0156】
ここで、データベース96は、例えば、記憶手段の一例としてのハードディスクドライブ(図示省略)を内蔵したパーソナルコンピュータ等で構成される。テラヘルツ波スペクトル測定装置1から出力される測定結果と、記憶しているTHzスペクトルとを照合して、所定の判定を行う。
【0157】
テラヘルツ波スペクトル測定装置1は、ベルトコンベア98上を移動する容器97に向かってTHz波を照射する。そして、容器97に入っている測定対象物を透過するTHz波を受光する。ここで、容器97は、例えば、THz波パルスを透過する紙やプラスチックで構成される。
【0158】
実施例1に示した仕様を有するテラヘルツ波スペクトル測定装置1を用いれば、例えば、約1ミリ秒の時間間隔での測定が可能である。ベルトコンベア98で運ばれる測定対象物は、最速でテラヘルツ波スペクトル測定装置1の測定時間間隔で検査が可能であるから、高速の検査が実現される。
【0159】
例えば、覚醒剤などの禁止薬物や爆薬などの危険物は、THz領域に特徴的な指紋スペクトルを持つことが最近明らかになってきている。そのような指紋スペクトルのデータを予めデータベース96にデータ入力しておき、測定対象物の測定結果と比較することにより、測定対象物にそのような薬物が含まれるかどうかを判定することができる。上述のように、紙やプラスチックはTHz波パルスを透過するから、例えば、郵便物等に梱包された状態でも、測定して判定することができる。
【0160】
本実施形態にかかる検査装置99によれば、ベルトコンベア98により測定位置に搬送された測定対象物を透過する透過THz波を測定する。これにより、高速の検査が実現される。
【0161】
また、データベース96は、様々な物質のTHz領域におけるTHzスペクトルを記憶する。よって、測定対象物の透過THz波を、データベース96に記憶されたデータと照合することで、測定対象物を容易に特定できる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、半導体、セラミックス、超伝導体、ポリマーなどの材料評価、薬品、食品の成分分析、生体関連分子の分析、遺伝子解析、タンパク質の機能解析、癌の診断、医用材料の検査、違法薬物の検査・爆発物の検査、ペットボトル中の液体の検査、違法ガソリンの取り締まり、排ガス、有毒ガス監視など環境計測の分野に利用できる。
【符号の説明】
【0163】
1,100…テラヘルツ波スペクトル測定装置(テラヘルツ測定装置)、10…レーザー発生部(光パルス発生手段)、11…ビームスプリッタ(第1の分岐手段)、12…THz波発生源(テラヘルツ波発生光学系)、21…光学的時間遅延器、22…チャープ発生光学器(チャープ発生光学系)、31…ビームスプリッタ(第2の分岐手段)、32…参照光入力部(参照光検出手段)、43…電気光学結晶、45…信号光入力部(信号光検出手段)、48…分光検出部(参照光検出手段、信号光検出手段、多素子検出器付き分光器)、50…演算回路(演算手段)、96…データベース、98…ベルトコンベア(搬送手段)、99…検査装置、101…ビームスプリッタ(第3の分岐手段)、103…シャッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超短光パルスを発生する光パルス発生手段(10)と、
前記光パルス発生手段(10)にて発生された前記超短光パルスをポンプ光とプローブ光の2つに分岐する第1の分岐手段(11)と、
前記第1の分岐手段(11)にて分岐された前記超短光パルスの前記ポンプ光を受けてテラヘルツ波(THz波)を発生させるテラヘルツ波発生光学系(12)と、
前記第1の分岐手段(11)にて分岐された前記超短光パルスの前記プローブ光を線形チャープしたチャープパルスに変換するチャープ発生光学系(22)と、
前記チャープ発生光学系(22)にて変換された前記チャープパルスを2つに分岐する第2の分岐手段(31)と、
前記第2の分岐手段(31)にて分岐された前記チャープパルスの一方を参照光としてスペクトルを検出する参照光検出手段(32,48)と、
前記第2の分岐手段(31)にて分岐された前記チャープパルスの他方を前記テラヘルツ波発生光学系(12)にて発生された前記THz波の電場信号で誘起された電気光学効果にて変調する電気光学結晶(43)と、
前記電気光学結晶(43)にて変調されて出力された光を受けて信号光としてスペクトルを検出する信号光検出手段(45,48)と、
同時に検出された前記参照光検出手段(32,48)による前記参照光と前記信号光検出手段(45,48)による前記信号光とに基づいて前記THz波の時間波形を取得する演算手段(50)と
を有することを特徴とするテラヘルツ測定装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のテラヘルツ測定装置において、前記チャープ発生光学系(22)は、前記超短光パルスを10ピコ秒以上に線形チャープした前記チャープパルスに変換することを特徴とするテラヘルツ測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のテラヘルツ測定装置において、
前記第1の分岐手段(11)にて分岐された前記超短光パルスの前記プローブ光を所定の時間だけ遅延させる光学的時間遅延器(21)を更に有し、
前記テラヘルツ波発生光学系(12)から発生される前記THz波と前記第2の分岐手段(31)にて分岐される前記チャープパルスの他方とが前記電気光学素結晶(43)において時間的にオーバーラップするように、前記光学的時間遅延器(21)は前記プローブ光を遅延させることを特徴とするテラヘルツ測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載のテラヘルツ測定装置において、
前記演算手段(50)は、所定の測定位置に測定対象物がない状態で取得された前記THz波の第1の時間波形と前記測定位置に配置された測定対象物を透過した前記THz波の第2の時間波形とに基づいて時間遅延量を算出し、
前記光学的時間遅延器(21)は、前記演算手段(50)にて算出された前記時間遅延量だけ前記プローブ光を遅延させることを特徴とするテラヘルツ測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載のテラヘルツ測定装置において、
前記第1の分岐手段(11)にて分岐された前記超短光パルスの前記ポンプ光を更に2つに分岐する第3の分岐手段(101)と、
前記第3の分岐手段(101)にて分岐された前記超短光パルスの一方の光路を開閉するシャッター(103)と
を更に有し、
前記測定位置に配置された前記測定対象物に対して、前記第3の分岐手段(101)にて分岐された前記超短光パルスの一方を照射して光励起させると共に、前記超短光パルスの他方を受けた前記テラヘルツ波発生光学系(12)から前記THz波を照射させることを特徴とするテラヘルツ測定装置。
【請求項6】
超短光パルスをポンプ光とプローブ光の2つに分岐する第1の分岐手段(11)と、
前記第1の分岐手段(11)にて分岐された前記超短光パルスの前記ポンプ光を受けてテラヘルツ波(THz波)を発生させるテラヘルツ波発生光学系(12)と、
前記第1の分岐手段(11)にて分岐された前記超短光パルスの前記プローブ光を線形チャープしたチャープパルスに変換するチャープ発生光学系(22)と、
前記チャープ発生光学系(22)から出力された前記チャープパルスを2つに分岐する第2の分岐手段(31)と、
前記第2の分岐手段(31)にて分岐された前記チャープパルスの一方を参照光としてスペクトルを検出する参照光検出手段(32,48)と
前記第2の分岐手段(31)にて分岐された前記チャープパルスの他方を受けて、前記テラヘルツ波発生光学系(12)にて発生された前記THz波の電場信号で誘起された電気光学効果にて変調する電気光学結晶(43)と、
前記電気光学結晶(43)にて変調された光を信号光としてスペクトルを検出する信号光検出手段(45,48)と、
同時に検出された前記参照光と前記信号光とに基づいて前記テラヘルツ波発生光学系(12)にて発生された前記THz波の時間波形を演算する演算手段(50)と
を有するテラヘルツ測定装置(1)において実行される時間波形取得法であって、
THz波を発生させないで前記参照光R(t)_offと前記信号光S(t)_offとを同時に検出する第1の検出工程と、
THz波を発生させて前記信号光S(t)_onと前記参照光R(t)_onとを同時に検出する第2の検出工程と、
前記第1の検出工程にて検出された前記参照光R(t)_offと前記信号光S(t)_off、及び、前記第2の検出工程にて前記信号光S(t)_onと前記参照光R(t)_onを使って、前記THz波の前記時間波形ETHz(t)を演算して取得する演算工程と
を有することを特徴とする時間波形取得法。
【請求項7】
請求項6に記載の時間波形取得法において、
前記第1の検出工程にて検出された前記参照光R(t)_offと前記信号光S(t)_off、及び、当該参照光R(t)_offと当該信号光S(t)_offとから算出される分岐比S(t)_off/R(t)_offのいずれかを記憶する記憶工程を更に有し、
前記演算工程では、前記記憶工程にて記憶された前記参照光R(t)_offと前記信号光S(t)_off及び前記分岐比S(t)_off/R(t)_offのいずれか一方、並びに、前記第2の検出工程にて前記信号光S(t)_onと前記参照光R(t)_onを使って、前記THz波の前記時間波形ETHz(t)を演算して取得することを特徴とする時間波形取得法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の時間波形取得法において、
前記第1の検出工程にて検出された前記参照光R(t)_offと前記信号光S(t)_offとに基づいて分岐比S(t)_off/R(t)_offを算出し、
前記第2の検出工程にて検出された前記参照光R(t)_onと算出された前記分岐比S(t)_off/R(t)_offとを使って、前記THz波で変調されない前記チャープパルスI(t)_offを演算し、
前記第2の検出工程にて検出された前記信号光S(t)_onを前記THz波で変調された前記チャープパルスI(t)_onと見なして、前記THz波の前記時間波形ETHz(t)を演算して取得することを特徴とする時間波形取得法。
【請求項9】
請求項8に記載の時間波形取得法において、
前記THz波で変調されない前記チャープパルスI(t)_offを、式(1)
【数16】

により演算し、
前記THz波の前記時間波形ETHz(t)を、式(2)
【数17】

により取得することを特徴とする時間波形取得法。
【請求項10】
所定の測定位置に測定対象物がない状態でTHz波の第1の時間波形を取得する第1時間波形取得工程と、
前記測定位置に配置された前記測定対象物を透過した前記THz波の第2の時間波形を取得する第2時間波形取得工程と、
前記第1時間波形取得工程にて取得された前記第1の時間波形と前記第2時間波形取得工程にて取得された前記第2の時間波形とに基づいて時間遅延量を算出する時間遅延量算出工程と、
前記時間遅延量算出工程にて算出された前記時間遅延量だけプローブ光を遅延させて、前記測定対象物を透過した前記THz波の第3の時間波形を取得する第3時間波形取得工程と、
前記第1時間波形取得工程にて取得した前記第1の時間波形と、前記第3時間波形取得工程にて取得された前記第3の時間波形とに基づいて、前記測定対象物を透過した前記THz波のスペクトルを計算するTHzスペクトル計算工程と
を有することを特徴とするテラヘルツ測定法。
【請求項11】
請求項10に記載のテラヘルツ測定法において、前記時間遅延量算出工程では、前記第1の時間波形と前記第2の時間波形との主ピークの時間差に基づいて前記時間遅延量を算出することを特徴とするテラヘルツ測定法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のテラヘルツ測定法において、
前記第1の時間波形を記憶する第1時間波形記憶工程を更に有し、
前記時間遅延量算出工程では、前記第1時間波形記憶工程にて記憶された前記第1の時間波形と前記第2の時間波形とに基づいて前記時間遅延量を算出することを特徴とするテラヘルツ測定法。
【請求項13】
請求項10に記載のテラヘルツ測定法において、前記第1及び第3時間波形取得工程は複数回実行され、検出された参照光と信号光とに基づいて前記THz波の時間波形を取得することを特徴とするテラヘルツ測定法。
【請求項14】
超短光パルスを励起光として測定対象物に照射して、光励起された当該測定対象物を透過した透過THz波の時間波形を取得する励起状態での時間波形取得工程と、
基底状態の前記測定対象物を透過した前記透過THz波の時間波形を取得する基底状態での時間波形取得工程と、
前記励起状態での時間波形取得工程にて取得された励起状態での前記透過THz波の前記時間波形と、前記基底状態での時間波形取得工程にて取得された基底状態での前記透過THz波の前記時間波形とに基づいて、光励起によって前記測定対象物に生じる変化を解析する解析工程と
を有することを特徴とするテラヘルツ測定法。
【請求項15】
測定対象物を所定の測定位置に搬送する搬送手段(98)と、
前記搬送手段(98)により前記測定位置に搬送された前記測定対象物を透過する透過THz波を測定する請求項1に記載のテラヘルツ測定装置(1)と
を有することを特徴とする検査装置(99)。
【請求項16】
請求項15に記載の検査装置において、
様々な物質のTHz領域におけるTHzスペクトルを記憶するデータベース(96)を更に有し、
前記テラヘルツ測定装置(1)にて測定された前記測定対象物の前記透過THz波と前記データベース(96)に記憶された前記THzスペクトルとに基づいて当該測定対象物を検査することを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−57696(P2013−57696A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−287642(P2012−287642)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2008−165659(P2008−165659)の分割
【原出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】