説明

テルビウムまたはネオジムとセリウムとで共付活した高発光効率の板状蛍光体およびその製造方法

【課題】 セキュリティ技術に使用する印刷インクまたは塗料の材料として好適な、ゼオライトを母体とし希土類金属のイオンを保持させることにより蛍光特性を与え、板状の結晶形態を維持している蛍光体において、既知のものよりも高い発光効率を有する蛍光体と、その製造方法を提供する。
【解決手段】 リンデQ型のゼオライトをTb3+またはNd3+に加えてCe3+でイオン交換し、焼成してゼオライト構造は失わせるが、板状の結晶形態は維持させた蛍光体を得る。Tb3+およびCe3+でイオン交換した共付活体は紫外線励起により緑色の蛍光を発し、Nd3+およびCe3+でイオン交換した共付活体は紫外線励起により赤外領域の蛍光を発する。この蛍光体は、セキュリティ技術用の印刷インクまたは塗料に10〜20%含有させることにより、十分な発光強度を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルビウムまたはネオジムとセリウムとで共付活した高発光効率の板状蛍光体に関する。本発明の蛍光体は、紫外線照射により、緑色の可視光、または赤外線スコープによってのみ検出可能な赤外線を発光する。この蛍光体は板状の形態を有しており、適宜のビヒクルと配合したものが塗布性および隠蔽性にすぐれているので、有価証券や製品ラベルの印刷に用いる偽造防止印刷インキに使用する蛍光顔料として好適である。本発明はまた、この板状蛍光体を、板状の形態を有するゼオライトを母結晶として製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
有価証券や製品ラベルなどの偽造防止技術、いわゆる「セキュリティ技術」においては、蛍光体顔料を含有するインクを用いた印刷を行なうことや、紙そのものが発光する、蛍光体をすき込んだセキュリティペーパーを使用することが行なわれている。この目的に用いる蛍光体としては、紫外線励起可視光発光蛍光体や、紫外線励起赤外発光蛍光体が適当である。セキュリティ技術に用いる蛍光体は、紙をはじめとするシート状体の上に印刷するものであるから、塗布性と隠蔽性が高いことが要求され、板状の粒子であることが望ましい。ところが、この種の蛍光体を製造する方法として以前から知られている固相反応法、フラックス法などは、製品蛍光体の粒子形状の制御が不可能であり、好適な板状蛍光体を得ることができない。
【0003】
これまでに知られている蛍光体の製造技術を概観すれば、まずフラックス法によるホウ酸塩系板状蛍光体の製造方法がある(特許文献1)が、この製造方法によるときは、粒径の制御が困難である。蛍光体の原料としてゼオライトを使用することが、よく行なわれている。そのひとつの手段は、ゼオライトの細孔内に金属酸化物−希土類金属からなる蛍光体を均一に分散させたものである(特許文献2)。この技術は、ゼオライトそのものに蛍光特性を付与するものではなく、板状の蛍光体が得られるものでもない。そのほかに、ゼオライト由来のシリカとアルミナの非晶質マトリクス中に蛍光体であるセラミックス微粒子を分散させたものもある(特許文献3)が、これも、ゼオライト構造を保持した蛍光体ではなく、板状の蛍光体を提供するものでもない。本願の共同出願人の一人が提案した、ゼオライトから蛍光体を製造する技術(特許文献4)もあるが、やはり板状の蛍光体に関するものではない。
【0004】
板状の蛍光体を得るには、板状の結晶自形をもつゼオライトを母結晶として使用すればよいので、この考えにもとづく技術が多数提案されている。ただし、ゼオライト中に含まれる水が励起を妨げることから、その対策として、加熱によりゼオライト構造を非晶質にしたり、他のアルミノケイ酸塩構造の化合物に変換したり、希土類金属を有機配位子と錯体化したりする必要がある。
【0005】
出願人らは、他の共同出願人とともに、板状の結晶自形をもつゼオライトとしてリンデQ型ゼオライトを選び、そのKイオンを希土類金属の2価または3価のイオンと交換したのち、焼成することからなる蛍光体の製造技術を開示した(特許文献5)。発光のようすは希土類金属の種類によって異なり、紫外線で励起されたとき、ユーロピウム(Eu)を用いたものは赤色に、テルビウム(Tb)を用いたものは緑色に、ツリウム(Tm)を用いたものは青色に発色する。しかしいずれも、セキュリティ技術用の印刷インクに用いるには、発光強度が不足である。
【0006】
さらに出願人らと他の共同出願人とは、リンデQ型ゼオライトに組み合せる希土類金属イオンとしてネオジム(Nd)を選び、紫外線励起により赤外線領域の蛍光を発する蛍光体を開発した(特許文献6)。続いて出願人らは、やはりリンデQ型ゼオライトにセリウム(Ce)を組み合わせた蛍光体が青色の蛍光を発することを見出し、これも開示した(特許文献7)。この場合、セリウム(III)の酸化を防ぐために、焼成に当っては非酸化性の雰囲気が必要である。
【0007】
一方、蛍光体の発光中心としてセリウムとテルビウムとを併用し、いわゆる「共付活」を行なうことが、上記の蛍光体の発明以前から試みられていた。まず、ランプ用の緑色に発色するリン酸塩蛍光体(特許文献8)や、ランタンマグネシウムアルミン酸塩蛍光体(特許文献9)が開示されたが、いずれも、蛍光体の形態や粒径の制御が可能な技術ではない。やはり緑色発色をするケイ酸塩蛍光体とそれを用いた発光装置(特許文献10)の提案や、ホウ酸塩蛍光体とそれを用いた白色LED(特許文献11)の開示も続いたが、これらの技術も、蛍光体の形態や粒径の制御はできない。セリウム−テルビウム共付活蛍光体は、その後、窒化物系のもので平均粒径が2μm以上20μm以下であるものが開発された(特許文献12)が、形態を制御することには及んでいない。
【0008】
ネオジム−セリウム共付活蛍光体に関しては、赤外線発光特性をもつガラス材料が開発され(非特許文献1)、ネオジム単独の付活をしたガラスにくらべて、5倍の発光強度を示すことが報告された。
【特許文献1】特開2002−309245
【特許文献2】特開2003−246981
【特許文献3】特開2005−314573
【特許文献4】特開2005−048107
【特許文献5】特開2008−069290
【特許文献6】特開2011−001409
【特許文献7】特願2010−055172
【特許文献8】特開平5−171143
【特許文献9】特開平6−240252
【特許文献10】特開2002−105449
【特許文献11】特開2006−299207
【特許文献12】特開2008−069198
【非特許文献1】Optics and Lasers in Engineering 35 (2001) 11-17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、板状の結晶自形をもつゼオライトを母結晶とし、イオン交換によってその細孔内に発光中心となる希土類金属イオンを均一に保持させた板状の蛍光体はいくつが知られているが、その発光強度は、セキュリティ技術に用いる印刷インクの顔料に対して要求される、印刷面において十分な発光強度を発揮するというレベルには到達していなかった。他方、共付活により蛍光体の発光強度を高めることが可能なことも知られているが、その具体化された技術は、板状の蛍光体を与えるものではないし、形態の制御ができるものでもない。
【0010】
このような状況のもとで、本発明の目的は、板状の蛍光体であって、セキュリティ技術用の印刷インクの顔料として使用するに足りる、従来品よりも高い発光強度を示すものと、その製造方法を提供することにある。この蛍光体は、印刷インクや塗料に使用するものであるから、ビヒクルおよび溶剤によく分散するように、疎水性であるという条件を満たすものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成する本発明の蛍光体、すなわち形態が板状であって改善された発光強度を有する蛍光体の第一のものは、板状の結晶形態をもつゼオライトをテルビウムイオンおよびセリウムイオンでイオン交換して得たイオン交換体を焼成し、ゼオライト構造は失わせるが板状の結晶形態は維持させることによってなり、紫外線励起により緑色の蛍光を発する蛍光体である。
【0012】
本発明の蛍光体の第二のものは、板状の結晶形態をもつゼオライトをネオジムイオンおよびセリウムイオンでイオン交換して得たイオン交換体を焼成し、ゼオライト構造は失わせるが板状の結晶形態は維持させることによってなり、紫外線励起により赤外線の蛍光を発する蛍光体である。
【0013】
本発明の蛍光体を製造する方法は、第一のものを製造する場合は、テルビウムの可溶性塩とセリウムの可溶性塩の混合水溶液にゼオライトを浸漬し、100℃以下の温度でゼオライト中のKまたはNaとTb3+およびCe3+との間のイオン交換を行なって、少なくともそれぞれ20%の交換率でTbイオンおよびCeイオンをゼオライト中に存在させたのち、非酸化性の雰囲気下に、850℃以上、好ましくは900℃以上の温度で焼成することにより、ゼオライト構造は失わせるが板状の結晶形態は維持させることからなる製造方法である。
【0014】
第二のものを製造する場合は、上記の方法において、テルビウムの可溶性塩に代えてネオジムの可溶性塩を使用し、これとセリウムの可溶性塩の混合水溶液にゼオライトを浸漬し、100℃以下の温度でゼオライト中のKまたはNaとNd3+およびCe3+との間のイオン交換を行なって、少なくともそれぞれ20%の交換率でNdイオンおよびCeイオンをゼオライト中に存在させたのち、非酸化性の雰囲気下に、850℃以上、好ましくは900℃以上の温度で焼成することにより、ゼオライト構造は失わせるが板状の結晶形態は維持させることからなる製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蛍光体は、第一のものも第二のものも、セリウムイオンを利用した共付活により、テルビウムイオンまたはネオジムイオンの存在によりもたらされる蛍光の発光強度が5〜10倍に増大し、セキュリティ技術に使用する印刷インキや塗料の材料とする蛍光体に求められる発光強度を十分にみたすことができる。
【0016】
母結晶として使用したゼオライトは、焼成により結晶構造が失われているから、使用中に復水して発光強度が低下するという心配はない一方で、当初の板状の結晶自形は維持しているから、塗布性や隠蔽性にすぐれており、印刷インキや塗料用の顔料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で使用するゼオライトとしては、リンデQゼオライトが好適である。板状結晶のゼオライトとしては、ほかにもクリノプチロライトなどがあるが、リンデQゼオライトは六角板状の結晶自形をもち、イオン交換容量が大きい点で最も有力な原料である。どれを用いるにしても、ゼオライトは、径0.5〜10μm、厚さ10〜200nm、アスペクト比5以上のものが好ましい。
【0018】
ゼオライト中にあらかじめ存在するカリウムイオンやナトリウムイオンを、発光中心となる3価のテルビウムイオンまたはネオジムイオン、および共付活イオンとなる3価のセリウム(III)イオンとイオン交換するために、テルビウムまたはネオジムの硝酸塩、塩化物などの可溶性塩と、セリウム(III)の硝酸塩、塩化物などの可溶性塩の混合水溶液中にゼオライトを分散させ、100℃以下の温度でイオン交換させる。
【0019】
このイオン交換の程度は、いうまでもなくできるだけ高い方が、それに伴って発光効率が増大するので好ましいが、高い交換率において飽和する傾向があることは避けられない。交換すべき希土類金属イオンの濃度が高い混合水溶液を用いるとか、イオン交換を行なったものをいったん乾燥したのち、再度混合水溶液に浸漬するなどの手法により、合計量にして80%以上は容易に実現できる。しかし、90%を超える領域になると、交換率を増大させることは次第に困難になり、実用上は95%が限界であろう。
【0020】
イオン交換に当っては、テルビウムイオンまたはネオジムイオンと、3価のセリウム(III)イオンとのバランスを適切に選択することが重要である。本発明の蛍光体にあっては、共付活というが、実際の発光はテルビウムまたはネオジムが担当し、セリウムの主たる任務は、それらに対して紫外光のエネルギーを伝達することにあると解される一方、たとえばテルビウム−セリウム共付活の場合、セリウムの交換量が増大するにつれてセリウムイオン自身がもたらす青色の発光が増大し、いわば発光の力が分散するという現象がみられる。好ましい交換量の概略を示せば、テルビウム−セリウム共付活の場合はテルビウム10〜80%+セリウム5〜50%であり、ネオジムム−セリウム共付活の場合も同様に、ネオジム10〜80%+セリウム5〜50%である。
【0021】
イオン交換を行なったゼオライトは、水洗し、100℃以下の温度で乾燥した後、焼成する。焼成は、ゼオライトの種類によって多少の差はあるが、代表的なリンデQ型ゼオライトの場合、850℃以上、好ましくは900℃以上の温度が必要である。焼成に当たってはゼオライトの結晶構造を完全に破壊する必要があり、残っていると、明確な復水現象は起こらなくても、紫外線による励起が続いたときに発光量が減少することが経験されたからである。ただし、1000℃を超える温度になると、ゼオライト結晶どうしの焼結が始まり、板状の結晶自形を有するという利点が失われるので、過度の高温は避けなければならない。焼成の雰囲気は、前述のように、セリウムイオン(III)の酸化を避けるため、非酸化性としなければならない。5%水素−ヘリウム混合ガスによる還元性雰囲気、または窒素ガスによる不活性雰囲気などを採用する。焼成の時間は、30分間以上2時間以内が適当である。
【実施例】
【0022】
以下の実施例において、試料のキャラクタリゼーションおよび性能の試験は、つぎのように行なった。
[イオン交換率の測定]
イオン交換試料(下記)を酸で分解し、誘導結合プラズマ発光分析装置(島津製作所製「ICPS−8000」)によりTb,Nd,CeおよびKを定量して、イオン交換率を求める。
[イオン交換試料および加熱試料の結晶相の同定]
粉末X線回折(XRD)(マック・サイエンスMXP3A、理学電機RINT−2550H)を使用。
[結晶形態の観察]
走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子JSM−6510LA)により観察。
[蛍光特性]
分光蛍光光度計(日立製作所F−2500,JOBINYVON SPEX Fluorolog-3)により、焼成試料の蛍光スペクトルを測定。
【実施例1】
【0023】
テルビウム−セリウム共付活リンデQゼオライト(その1)
粒径約1μm、厚さ約100nmの六角板状結晶形態を有するK型リンデQゼオライト(K2O・Al23・2SiO2・xH2O 以下、「リンデQ」と略称する)を合成した。塩化テルビウム(0.1モル/L)の水溶液60mLおよび塩化テルビウム(0.125モル/L)と硝酸セリウム(0.125モル/L)の混合水溶液60mLに、このリンデQゼオライト8gずつを入れ、90℃で24時間、イオン交換を行なった。メンブレンフィルターで固液分離し、蒸留水で洗浄して50℃で十分に乾燥することにより、下記2種のイオン交換試料を得た。
【0024】
それらのイオン交換率を測定して、つぎの値を得た。
(イオン交換試料) (Tb交換率)(Ce交換率)
Tb交換リンデQ : 45.5% −
Tb−Ce共付活リンデQ: 45.5% 37.1%
【0025】
これらのイオン交換試料を白金るつぼに入れ、還元雰囲気下に900℃に1時間焼成した。得られた焼成試料の結晶構造をX線回折により調べたところ、どちらも、リンデQゼオライトの構造が分解して非晶質になっていた。X線回折チャートを図1に示す。
【0026】
2種の焼成試料の蛍光特性を調べたところ、波長370nmの紫外線で励起したときに、544nm付近に発光ピークを有する緑色蛍光を検出した。蛍光スペクトルを図2に示す。図2にみるように、Tb−Ce共付活を行なった試料のピーク強度は、行なわなかったTb交換リンデQにくらべて、約6倍に達していた。
【実施例2】
【0027】
テルビウム−セリウム共付活リンデQゼオライト(その2)
発光特性に対してセリウムイオン交換率の与える影響、およびテルビウムイオン交換率とセリウムイオン交換率とのバランスが与える影響をみるため、種々のイオン交換率のTb−Ce共付活リンデQゼオライトを製造した。実施例1と同様に、粒径約1μm、厚さ約100nmの六角板状結晶形態を有するリンデQゼオライトを用意し、その12gずつを、塩化テルビウム(0.1モル/L)および硝酸セリウム(0,0.01,0.025,0.05,0.075,0.1または0.125モル/L)の7種の混合水溶液各90mLに入れ、90℃で24時間イオン交換を行なった。以下は実施例1と同様に、メンブレンフィルターで固液分離し、蒸留水で洗浄して50℃で十分に乾燥することにより、下記7種の、さまざまなTb交換率およびCe交換率をもつイオン交換試料を得た。
【0028】
それらのイオン交換率を測定して、つぎの値を得た。
(イオン交換試料) (Tb交換率)(Ce交換率)
Tb交換リンデQ : 43.8% −
Tb−Ce共付活リンデQ1: 43.4% 4.3%
2: 41.6% 10.1%
3: 41.1% 19.2%
4: 39.2% 26.4%
5: 38.5% 33.4%
6: 36.0% 38.2%
【0029】
上記7種のイオン交換試料を白金るつぼに入れ、実施例1と同様に、還元雰囲気下に900℃に1時間焼成した。焼成試料のX線回折チャートを図3に示す。この場合も、リンデQゼオライトの構造が分解して非晶質になっていることが確認された。一方、焼成試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果、当初の六角板状形態は、ゼオライト構造の分解にもかかわらず、維持されていることがわかった。図4に、Tb交換リンデQ、Tb−Ce共付活リンデQ4および同6の焼成試料の電子顕微鏡写真を示す。
【0030】
焼成試料の蛍光特性は、図5のスペクトルに見るとおりであって、波長310nmの紫外線励起により、544nm付近に発光ピークを有する緑色の発光が認められた。
【実施例3】
【0031】
ネオジム−セリウム共付活リンデQゼオライト
実施例1と同様に、粒径約1μm、厚さ約100nmの六角板状結晶形態を有するリンデQゼオライトを用意した。塩化ネオジム(0.1モル/L)および硝酸セリウム(0,0.01,0.025,0.05,0.075または0.1モル/L)の6種の混合水溶液各60mLに、このリンデQゼオライトを8gずつ入れ、90℃で24時間イオン交換を行なった。実施例1および2と同様に、メンブレンフィルターで固液分離し、蒸留水で洗浄して50℃で十分に乾燥することにより、下記6種の、さまざまなNd交換率およびCe交換率をもつイオン交換試料を得た。
【0032】
それらのイオン交換率を測定して、つぎの値を得た。
(イオン交換試料) (Nd交換率)(Ce交換率)
Nd交換リンデQ : 42.9% −
Nd−Ce共付活リンデQ1: 45.0% 4.4%
2: 45.3% 11.6%
3: 40.2% 20.8%
4: 37.0% 28.8%
5: 34.9% 36.5%
【0033】
これら6種のイオン交換試料を白金るつぼに入れ、実施例1および2と同様に、還元雰囲気下に900℃に1時間焼成した。焼成試料のX線回折チャートを図6に示す。この場合も、リンデQゼオライトの構造が分解して非晶質になっていることが確認された。一方、焼成試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果、この場合も、当初の六角板状形態は、ゼオライト構造の分解にもかかわらず維持されていることがわかった。図7に、Nd−Ce共付活リンデQ5およびNd交換リンデQの電子顕微鏡写真を示す。
【0034】
焼成試料の蛍光特性は、図8のスペクトルに見るとおりであって、波長354nmの紫外線で励起したとき、1063nm付近に発光ピークを有する赤外線発光が認められた。図8によれば、セリウム共付活を行ない、そのセリウムイオン交換率が高いもの、つまりセリウムイオン含有率が高いものほど、ネオジムの交換率がむしろ低下しているにもかかわらず、発光強度が高いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1において、リンデQゼオライトを、テルビウムで、またはテルビウムおよびセリウムでイオン交換したイオン交換試料を焼成して得た焼成試料のX線回折チャート。
【図2】図1にX線回折チャートを示した焼成試料の蛍光スペクトル。
【図3】本発明の実施例2において、リンデQゼオライトを、テルビウムで、またはテルビウムおよび種々の量のセリウムでイオン交換したイオン交換試料を焼成して得た焼成試料のX線回折チャート。
【図4】実施例2における3種の焼成試料の走査型電子顕微鏡写真。
【図5】図3にX線回折チャートを示した焼成試料の蛍光スペクトル。
【図6】本発明の実施例3において、リンデQゼオライトを、ネオジムで、またはネオジムおよび種々の量のセリウムでイオン交換したイオン交換試料を焼成して得た焼成試料のX線回折チャート。
【図7】実施例3における2種の焼成試料の走査型電子顕微鏡写真。
【図8】図6にX線回折チャートを示した焼成試料の蛍光スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の結晶形態をもつゼオライトをテルビウムイオンおよびセリウムイオンでイオン交換して得たイオン交換体を焼成し、ゼオライト構造は失わせるが板状の結晶形態は維持させた、紫外線励起により緑色の蛍光を発する蛍光体。
【請求項2】
ゼオライトとして、K2O・Al23・2SiO2・xH2Oの組成を有し六角板状の結晶形態をもつ「リンデQ」型ゼオライトを使用し、テルビウムイオンの交換率が少なくとも20%であり、セリウムイオンの交換率が少なくとも10%である請求項1の蛍光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載した蛍光体を製造する方法であって、テルビウムの可溶性塩とセリウムの可溶性塩の混合水溶液にゼオライトを浸漬し、100℃以下の温度でゼオライト中のKまたはNaとTb3+およびCe3+との間のイオン交換を行なったのち、非酸化性の雰囲気下に、850℃以上の温度で焼成することにより、ゼオライト構造は失わせるが板状の結晶形態は維持させることからなる製造方法。
【請求項4】
板状の結晶形態をもつゼオライトをネオジムイオンおよびセリウムイオンでイオン交換して得たイオン交換体を焼成し、ゼオライト構造は失わせるが板状の結晶形態は維持させた、紫外線励起により赤外線の蛍光を発する蛍光体。
【請求項5】
ゼオライトとして、K2O・Al23・2SiO2・xH2Oの組成を有し六角板状の結晶形態をもつ「リンデQ」型ゼオライトを使用し、ネオジムイオンの交換率が少なくとも20%であり、セリウムイオンの交換率が少なくとも10%である請求項4の蛍光体。
【請求項6】
請求項4または5に記載した蛍光体を製造する方法であって、ネオジムの可溶性塩とセリウムの可溶性塩の混合水溶液にゼオライトを浸漬し、100℃以下の温度でゼオライト中のKまたはNaとNd3+およびCe3+との間のイオン交換を行なったのち、非酸化性の雰囲気下に、850℃以上の温度で焼成することにより、ゼオライト構造は失わせるが板状の結晶形態は維持させることからなる製造方法。
【請求項7】
請求項1または4に記載した蛍光体を含有する、セキュリティ技術に使用する印刷インクまたは塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−79342(P2013−79342A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220550(P2011−220550)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年9月7日 公益社団法人日本セラミックス協会発行の「第24回 秋季シンポジウム 講演予稿集」に発表
【出願人】(591100563)栃木県 (33)
【出願人】(000160407)吉澤石灰工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】