説明

テルルを含むアルカリ浸出残渣からのテルル回収方法

【課題】アルカリ浸出工程で生成されたテルルを含むアルカリ浸出残渣を、製錬に繰り返すことなく有効利用でき、テルルの回収率を向上可能なテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法を提供する。
【解決手段】テルルを含むアルカリ浸出残渣を酸で溶解してテルルを浸出させる浸出工程と、浸出工程で得られる浸出後液中のテルルを還元回収する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製は、転炉からの粗銅を、精製炉において99.5%程度に精製し、鋳造した陽極(アノード)と陰極としての銅板(Cu板)又はステンレス鋼(SUS)板とを、電解槽に交互に数十枚一組で吊して実施する。Cu板又はSUS板上に電着した銅は電気銅と呼ばれる。電解槽の底には陽極中に含まれる不純物が泥状に沈積する。この沈積物は銅電解殿物(アノードスライム)と呼ばれる。銅電解物中には、金を始め原料中の種々の貴金属が濃縮しており、貴金属回収の主要原料とされている。
【0003】
銅電解殿物の処理においては、乾式法、湿式法のいずれの処理法も実用化されているが、設備コスト、処理流れなどの面から、湿式法の有用性が高いと考えられてきている。湿式法においては、銅電解殿物を電解液でリパルプし、殿物中に残留している銅、テルル、砒素その他の溶解可能な不純物を溶解させ、貴金属、セレンなどを主体とする不溶解物と固液分離し、貴金属の濃縮精製を行う。不溶解物の主要な成分は、銀、セレン、金、白金族、テルル、鉛等である。
【0004】
銅電解殿物の処理フローの例を図3に示す。まず、脱銅浸出工程において、電解殿物を銅電解液を用いて溶解し、銅、テルル、砒素等の不純物を浸出する。浸出残渣は塩酸溶液と酸化剤を用いて溶解した後、銀等を塩化物として固液分離する(塩化浸出工程)。分離後の浸出後液から金を、ジブチルカルビトール(DBC)等を用いた溶媒抽出により分離し(金抽出工程)、金還元処理を行って製品金を得る。一方、金抽出後液からは、亜硫酸ガス(SO2)を吹き込むセレン還元処理によりセレン滓を得て、真空蒸着処理によりセレンを取り出す。なお、セレン還元滓中にはテルル、セレン等が含まれるため、テルル還元滓から苛性ソーダによりテルルを浸出するためのアルカリ浸出工程へ送られる。
【0005】
一方、脱銅浸出工程で得られた浸出後液に対しては、脱テルル化処理が行われ、テルル化銅が取り出される。テルル化銅からテルルを回収するために、苛性ソーダによりテルルの浸出を行う(アルカリ浸出工程)。ろ過後の浸出後液は、硫酸を加えることによりテルルを単離させて二酸化テルルを得る(中和工程)。中和後液には亜硫酸ガス(SO2)を吹き込んで還元処理を行うことによりセレンを抽出する(脱セレン工程)。抽出後の還元後液及び還元残渣は、貴金属回収のための別工程へ送られる。一方、アルカリ浸出処理において生成されたアルカリ浸出残渣は、再び製錬に繰り返される。
【0006】
セレン、テルルの回収効率を高めるために、アルカリ浸出処理後の浸出後液から二酸化テルル、セレン等を取り出すための様々な検討が行われてきた。例えば、特開2005−126800号公報では、アルカリ浸出工程において、セレン、テルルを含む還元滓を苛性ソーダ水溶液中に入れ、過酸化水素を一定量添加し続けて浸出を行い、酸化還元電位が所定の値になった時点で過酸化水素の添加を止め、反応を終了させることで、ロジウム、ルテニウム等の貴金属を濃縮する一方で、セレンとテルルを効率良く浸出させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−126800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来アルカリ浸出処理後の浸出後液から二酸化テルル、セレン等を効率良く取り出すためのアルカリ浸出工程、その後の中和工程、脱セレン工程の最適化については多数検討されてきたが、これらの工程の検討だけでは、テルルの回収効率向上にも限界があった。一方で、アルカリ浸出工程で生成されたアルカリ浸出残渣は、従来からただ単に製錬に繰り返されるだけであり、このアルカリ浸出残渣を有効利用するための方法は殆ど検討されてこなかった。
【0009】
そこで、本発明は、アルカリ浸出工程で生成されたテルルを含むアルカリ浸出残渣を、製錬に繰り返すことなく有効利用でき、テルルの回収率を向上可能なテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討の結果、銅電解殿物処理工程で得られるテルルを含むアルカリ浸出残渣を、適切な溶液を用いて溶解させることにより、テルルを溶液中に浸出させ、浸出したテルルを還元処理することで、テルルを含むアルカリ浸出残渣からテルルを有効に回収できることを見出した。
【0011】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、(a)テルルを含むアルカリ浸出残渣を酸で溶解してテルルを浸出させる浸出工程と、(b)浸出工程で得られる浸出後液中のテルルを還元回収する工程とを含むテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法である。
【0012】
本発明のテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法は一実施形態において、酸が、硫酸と塩酸とを含む混酸である。
【0013】
本発明のテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法は別の一実施形態において、テルルを含むアルカリ浸出残渣が、テルルを5〜20質量%含む苛性ソーダ浸出残渣である。
【0014】
本発明のテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法は更に別の一実施形態において、還元回収する工程が、浸出後液に亜硫酸ガスを吹き込むことを含む。
【0015】
本発明のテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法は別の一実施形態において、浸出工程が、76〜84℃の温度において、硫酸を100〜200g/L、塩酸を25〜40g/L含む混酸に対して、テルルを含むアルカリ浸出残渣をスラリー濃度10〜100g/Lで混合させることを含む。
【0016】
本発明のテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法は更に別の一実施形態において、テルルを含むアルカリ浸出残渣が、銅電解殿物処理工程で得られるアルカリ浸出残渣である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルカリ浸出工程で生成されたテルルを含むアルカリ浸出残渣を、製錬に繰り返すことなく有効利用でき、テルルの回収率を向上可能なテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る苛性ソーダ浸出残渣を混酸中に溶解させた場合のテルル浸出率と浸出時間との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例に係る苛性ソーダ浸出残渣から浸出したテルルを含む浸出後液に対して亜硫酸ガスを吹き込んだ場合のテルル還元率及び銅還元率との関係を示すグラフである。
【図3】銅電解殿物の処理フローの一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係るテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法は、(a)テルルを含むアルカリ浸出残渣を酸で溶解してテルルを浸出させる浸出工程と、(b)浸出工程で得られる浸出後液中のテルルを還元回収する工程とを含む。以下、各工程を具体例に説明する。
【0020】
<処理対象原料>
本発明の実施の形態に係るテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法が処理対象とするアルカリ浸出残渣は、銅電解殿物処理工程で得られるアルカリ浸出残渣である。具体的には、例えば図3の脱テルル化銅処理後のテルル化銅をアルカリ浸出した後のアルカリ浸出残渣、及び/又は、銅電解殿物に対して脱銅浸出、塩化浸出、金抽出、セレン還元処理を行った後のテルル還元滓を、苛性ソーダによりアルカリ浸出した後のアルカリ浸出残渣等が利用可能である。このアルカリ浸出残渣中には、例えば、5〜20質量%のテルル(Te)が含まれている。脱テルル化銅処理後のテルル化銅をアルカリ浸出した後のアルカリ浸出残渣には、テルルに加えて例えば50〜60質量%の銅(Cu)等が含まれている。銅電解殿物に対して脱銅浸出、塩化浸出、金抽出、セレン還元処理を行った後のテルル還元滓を、苛性ソーダによりアルカリ浸出した後のアルカリ浸出残渣中には、テルルに加えて更に0〜2質量%のセレン(Se)、0.01〜0.05質量%のロジウム(Rh)、0.05〜0.2質量%のルテニウム(Ru)が含まれている。これらのアルカリ浸出残渣は、苛性ソーダ濃度が80〜160g/L(pH13〜14)程度である。
【0021】
<浸出工程>
次に、上記のアルカリ浸出残渣を酸で溶解させる。酸としては塩酸、硫酸等が好適に用いられる。塩酸、硫酸単体での使用も可能であるが、ここでは塩酸又は硫酸の単体の使用よりも塩酸と硫酸との混酸を用いることがより好ましい。アルカリ浸出残渣中にはテルルが化合物(Na2Cu2TeO6)の状態で存在しているが、硫酸のみ或いは塩酸のみを用いた場合は、後述する還元処理工程でのTeの還元率が低くなる場合がある。一方、硫酸と硫酸よりも酸化力の強い塩酸との混酸を使用することで、浸出残渣中のテルル化合物を溶解させやすくなり、Teの還元率もより高くできる。
【0022】
混酸としては、硫酸を100〜200g/L、塩酸を25〜40g/L含む混酸を用いるのが好ましく、より好ましくは硫酸を150〜200g/L、塩酸を30〜40g/L、更に好ましくは、硫酸を180〜200g/L、塩酸を35〜40g/L含む混酸である。混酸としては、例えば図3のセレン還元工程で得られる還元後液(硫酸濃度180g/L、塩酸濃度30g/L)を用いることができる。
【0023】
浸出処理条件としては、以下に制限されないが、例えば、76〜84℃の温度において、硫酸と塩酸とを含む混酸に対して、テルルを含むアルカリ浸出残渣をスラリー濃度10〜100g/L、より好ましくはスラリー濃度10〜30g/Lで混合させ、反応時間60〜180分で行うことができる。
【0024】
<還元回収工程>
次に、上記の浸出工程で得られる浸出後液に対して、還元剤を用いて浸出後液中のテルルを還元処理により回収する。還元剤としては種々の材料を用いることができるが、銅電解殿物処理フローの中で得られる亜硫酸ガスを利用することが作業効率の点から好ましい。SO2以外に、鉄粉やヒドラジンなどの還元剤でも良い。SO2還元回収工程においては、例えば反応温度76〜84℃において、30Lの液に対してSO2濃度12〜15質量%の亜硫酸ガスを10〜20L/分の吹き込み量で、或いは16m3の液に対して亜硫酸ガスを5m3/分程度の吹き込み量で、300〜600分間吹き込む。この還元処理により、アルカリ浸出残渣中のCuは水酸化銅として析出する。析出された水酸化銅は回収する。還元されなかったCuは排水工程へ送られる。
【0025】
本発明の実施の形態に係るテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法によれば、従来は製錬に繰り返されていたテルル成分を回収できるため、テルルの回収率をより向上させることが可能となり、テルル生産を増産できる。また、テルルを含むアルカリ浸出残渣を製錬に繰り返すことがないため、アルカリ浸出残渣中の不純物を製錬工程に混入させることがなく、製錬処理で生産される銅アノード中の不純物品位を下げることができる。
【0026】
(その他の実施の形態)
上記のように本発明の実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの考案を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が明らかとなろう。
【0027】
例えば、上記の方法ではアルカリ浸出残渣として、図3の脱テルル化銅処理後のテルル化銅をアルカリ浸出した後のアルカリ浸出残渣、及び/又は、銅電解殿物に対して脱銅浸出、塩化浸出、金抽出、セレン還元処理を行った後のテルル還元滓を、苛性ソーダによりアルカリ浸出した後のアルカリ浸出残渣等を用いる例を示しているが、上記の例に制限されることなく、図3に示した電解殿物処理工程以外の処理工程で得られるテルルを含むあらゆるアルカリ浸出残渣に対して適用可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0029】
テルルを含むアルカリ浸出残渣として、銅電解殿物の脱テルル化処理後の苛性ソーダ浸出残渣を用意した。アルカリ浸出残渣の分析例を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
硫酸濃度180g/L、塩酸濃度30g/L、80℃の混酸(SO2還元後液)に対して上記の苛性ソーダ浸出残渣をスラリー濃度20g/Lで供給し、苛性ソーダ浸出残渣を混酸中に溶解させてテルルの浸出率を確認した。浸出率と浸出時間との関係を図1に示す。テルル浸出率は30分で80%に達し、30分以上行っても浸出率に変化はなかった。銅の浸出率も同様であった。
【0032】
次に、テルル浸出後液に対してSO2濃度12〜15質量%の亜硫酸ガスを10〜20(l/分)の吹き込み量で300〜600分吹き込み、テルル還元率及び銅還元率を確認した。還元時間と還元率の関係を図2に示す。初期テルル濃度等によって還元に要する時間は変化するが、還元時間が経過するにつれて徐々にテルルが還元されていき、還元時間200分でテルル還元率が90%に達し、300分でほぼ100%にまで達した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルルを含むアルカリ浸出残渣を酸で溶解してテルルを浸出させる浸出工程と、
前記浸出工程で得られる浸出後液中のテルルを還元回収する工程と
を含むテルルを含むアルカリ浸出残渣の処理方法。
【請求項2】
前記酸が、硫酸と塩酸とを含む混酸である請求項1に記載のアルカリ浸出残渣の処理方法。
【請求項3】
前記テルルを含むアルカリ浸出残渣が、テルルを5〜20質量%含む苛性ソーダ浸出残渣である請求項1又は2に記載のアルカリ浸出残渣の処理方法。
【請求項4】
前記還元回収する工程が、
前記浸出後液に亜硫酸ガスを吹き込むことを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルカリ浸出残渣の処理方法。
【請求項5】
前記浸出工程が、76〜84℃の温度において、硫酸を100〜200g/L、塩酸を25〜40g/L含む混酸に対して、前記テルルを含むアルカリ浸出残渣をスラリー濃度10〜100g/Lで混合させることを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルカリ浸出残渣の処理方法。
【請求項6】
前記テルルを含むアルカリ浸出残渣が、銅電解殿物処理工程で得られるアルカリ浸出残渣である請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルカリ浸出残渣の処理方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−211028(P2012−211028A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76660(P2011−76660)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】