説明

テレスコピックステアリング装置

【課題】調節作業の際に運転者に与える違和感等の低減効果や、乱暴な調節操作に基づく不具合の発生防止効果を、変位ブラケットを大型化する事なく、十分に図れる構造を実現する。
【解決手段】前記変位ブラケット22aに設けた前後方向長孔25aの内側に、弾性スリーブ35を装着する。この弾性スリーブ35の前後両端部に、それぞれ前側緩衝部37と後側緩衝部38とを設ける。このうち、ステアリングホイールを最前位置に移動させた状態で調節ロッド19aと衝合する、後側緩衝部38の厚さを大きくする事で、この後側緩衝部38の緩衝作用を大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイールの前後位置を調節する為のテレスコピックステアリング装置の改良に関する。具体的には、ステアリングホイールを調節可能な前後両端位置にまで勢い良く移動させた場合に加わる衝撃を緩和できる、コンパクトな構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の操舵装置は、図14に示す様に構成して、ステアリングホイール1の回転をステアリングギヤユニット2の入力軸3に伝達し、この入力軸3の回転に伴って左右1対のタイロッド4、4を押し引きして、前車輪に舵角を付与する様にしている。前記ステアリングホイール1は、ステアリングシャフト5の後端部に支持固定されており、このステアリングシャフト5は、円筒状のステアリングコラム6を軸方向に挿通した状態で、このステアリングコラム6に回転自在に支持されている。又、前記ステアリングシャフト5の前端部は、自在継手7を介して中間シャフト8の後端部に接続し、この中間シャフト8の前端部を、別の自在継手9を介して、前記入力軸3に接続している。
【0003】
この様な操舵装置で、運転者の体格や運転姿勢に応じて、前記ステアリングホイール1の上下位置を調節する為のチルト機構や、前後位置を調節する為のテレスコピック機構が、従来から広く知られている。このうちのチルト機構を構成する為に、前記ステアリングコラム6を車体10に対して、幅方向(幅方向とは、車体の幅方向を言い、左右方向と一致する。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)に設置した枢軸11を中心とする揺動変位を可能に支持している。又、前記ステアリングコラム6の後端寄り部分に固定した変位ブラケットを、前記車体10に支持した支持ブラケット12に対して、上下方向及び前後方向(前後方向とは、車体の前後方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の変位を可能に支持している。このうち、前後方向の変位を可能とするテレスコピック機構を構成する為に、前記ステアリングコラム6を、アウタコラム13とインナコラム14とをテレスコープ状に伸縮自在に組み合わせた構造とし、前記ステアリングシャフト5を、アウタシャフト15とインナシャフト16とを、スプライン係合等により、トルク伝達自在に、且つ、伸縮自在に組み合わせた構造としている。尚、図示の例は、電動モータ17を補助動力源として前記ステアリングホイール1を操作する為に要する力の低減を図る、電動式パワーステアリング装置も組み込んでいる。
【0004】
チルト機構やテレスコピック機構の場合、電動式のものを除き、調節レバーの操作に基づいて、前記ステアリングホイール1の位置を調節可能な状態としたり、調節後の位置に固定できる様にしている。例えば特許文献1には、図15〜16に示す様な、調節レバー18による調節ロッド19の回転に基づいて、カム装置20の軸方向寸法を拡縮させると同時にカム部材21を揺動変位させる構造が記載されている。この従来構造の場合、前記カム装置20の拡縮に基づき、アウタコラム13aに固定した変位ブラケット22の、支持ブラケット12aに対する係脱を行わせる。又、前記カム部材21の揺動変位に基づき、インナコラム14aの前記アウタコラム13aに対する摺動の可否を切り換える。
【0005】
前記調節ロッド19は、前記支持ブラケット12aを構成する左右1対の支持板部23、23に形成した上下方向長孔24、24と、前記変位ブラケット22に形成した前後方向長孔25、25とを、幅方向に挿通している。アウタシャフト15aとインナシャフト16aとから成るステアリングシャフト5aの後端部に支持固定したステアリングホイール1(図14参照)の上下位置又は前後位置を調節する際には、前記調節レバー18を所定方向に揺動させて、前記カム装置20の軸方向寸法を縮めると共に、前記カム部材21を前記インナコラム14aの外周面から離隔させる。この状態では、前記調節ロッド19が前記各長孔24、25内で変位できる範囲内で、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置を調節できる。このステアリングホイール1を所望の位置に移動させた後、前記調節レバー18を前記所定方向とは逆方向に揺動させて、前記カム装置20の軸方向寸法を拡張すると共に、前記カム部材21により前記インナコラム14aの外周面を抑え付ける。この結果、前記ステアリングホイール1を調節後の位置に保持できる。
【0006】
上述の様にしてこのステアリングホイール1の位置調節を行う際に、このステアリングホイール1を調節可能な限度位置まで勢い良く移動させると、前記調節ロッド19若しくはこの調節ロッド19に外嵌したスリーブ26a、26bの外周面が、前記各長孔24、25のうちの何れかの長孔24、24(25、25)の端部に、勢い良く衝突する。この結果、前記ステアリングホイール1を操作する運転者の腕に衝撃が加わり、この運転者に、違和感乃至不快感を与える原因となる。更に、前記ステアリングホイール1を最前位置にまで、極端に大きな力で勢い良く変位させると、車体に対するステアリングコラム6aの支持力が喪失する可能性がある。この点に就いて、以下に説明する。
【0007】
衝突事故の際には、運転者の身体が前記ステアリングホイール1に衝突する、二次衝突が発生する。この二次衝突の際に、前記運転者の身体に加わる衝撃を緩和する為に、前記支持ブラケット12aは車体10(図14参照)に対し、大きな衝撃荷重が加わった場合に、前方への離脱を可能に支持している。一方、前記ステアリングホイール1を最前位置にまで勢い良く変位させ、前記調節ロッド19(に外嵌したスリーブ26a、26b)の外周面に前記両前後方向長孔25、25の後端部を勢い良く衝突させた場合、前記変位ブラケット22を介して前記支持ブラケット12aに、二次衝突時に加わる衝撃荷重と同じ方向の衝撃が加わる。この為、体格の良い運転者が、前記ステアリングホイール1の前後位置調節時に、極端に大きな力で(乱暴に)このステアリングホイール1を前方に変位させると、前記支持ブラケット12aが前方に離脱する可能性がある。そして、離脱した場合には、前記ステアリングホイール1の操作が困難になる。
【0008】
特許文献2には、前後方向長孔に相当するプラスチックライナの内周面の長さ方向両端部に、エラストマー製の弾力性ブロックを配置して、緩衝機能を持たせた構造が記載されている。この様な改良された構造の場合には、調節作業の際に運転者に与える違和感等の低減を図れると共に、乱暴な調節操作に基づく不具合の発生を、或る程度は防止できるものと考えられる。但し、前記改良された構造の場合、前後両端部の弾力性ブロックとして同じものを使用している為、必要な性能を確保しつつ小型化を図る事が難しいものと考えられる。この点に就いて、以下に説明する。
【0009】
一般的に、引く力よりも押す力の方が大きく、ステアリングホイールの前後位置調節を行う際に、このステアリングホイールを乱暴に勢い良く移動させる方向は前方の場合が多い。又、支持ブラケットが前方に離脱する可能性があるのは、前記ステアリングホイールを前方に勢い良く変位させた場合である。但し、ステアリングホイールを後方に勢い良く移動させた場合にも、調節ロッドの外周面と相手部材の内周面との衝突に基づく違和感や不快感が発生するので、前後両端部に緩衝機構を設置する事が好ましい。一方、ステアリングホイールを最前位置に移動させた場合に必要且つ十分な緩衝機能を発揮できる構造を前後方向長孔の前後両端部に設けると、この前後方向長孔の長さが過度に長くなる。そして、この前後方向長孔を設けた変位ブラケットの前後方向寸法が徒に長くなり、この変位ブラケットを含むステアリングコラムが大型化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−322552号公報
【特許文献2】特表平10−512825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、調節作業の際に運転者に与える違和感等の低減効果や、乱暴な調節操作に基づく不具合の発生防止効果を、変位ブラケットを含むステアリングコラムを大型化する事なく、十分に図れる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のテレスコピックステアリング装置は、ステアリングコラムと、変位ブラケットと、ステアリングシャフトと、支持ブラケットと、調節ロッドと、拡縮機構とを備える。
このうちのステアリングコラムは、筒状で、少なくとも軸方向一端部の内径を拡縮可能としたアウタコラムと、このアウタコラムの内径側に軸方向の変位を可能に嵌合支持されたインナコラムとを組み合わせて、伸縮可能としている。
又、前記変位ブラケットは、前記ステアリングコラムの一部に設けられてこの一部と共に変位するもので、前記アウタコラムと前記インナコラムとのうちの一方(後側)のコラムで、前記ステアリングホイールの前後移動に伴って軸方向に変位するコラムに固設されている。又、このコラムの軸方向に長い、前後方向長孔を備えている。
又、前記ステアリングシャフトは、前記ステアリングコラムの内径側に回転自在に支持されている。そして、このステアリングコラムの後端開口よりも後方に突出した部分に、ステアリングホイールを固定する。
又、前記支持ブラケットは、前記ステアリングホイールの前後位置を調節可能として前記ステアリングコラムを車体に対し支持するもので、前記変位ブラケットを幅方向両側から挟む1対の支持板部と、これら両支持板部の互いに整合する部分に形成された通孔とを備えている。
又、前記調節ロッドは、これら両通孔及び前記前後方向長孔の内側を前記変位ブラケットの幅方向に挿通している。
更に、前記拡縮機構は、前記調節ロッドの両端部で前記両支持板部の外側面に対向する部分に設けた1対の押圧部同士の間隔を拡縮する事により、これら両支持板部の内側面同士の間隔を拡縮する。
【0013】
特に、本発明のテレスコピックステアリング装置に於いては、少なくとも前後両端部で前記前後方向長孔の内側に装着された、弾性材製の緩衝部材を備える。そして、前記調節ロッドがこの前後方向長孔の前後方向端部に移動した状態で、これら調節ロッドと緩衝部材とを当接させる事により、これら調節ロッドの外周面と前後方向長孔の端部内周面とが直接衝突する事を阻止すると共に、前記緩衝部材を弾性変形させる事により衝突エネルギを吸収する、緩衝機構を設けている。
更に、前記前後方向両端部に設けた緩衝機構のうち、前記ステアリングホイールの前後位置を調節可能な最前位置にすべく、前記ステアリングコラムの全長を最も縮めた状態で前記調節ロッドが位置する側の端部に設けた、一方の緩衝機構の緩衝性能を、前記ステアリングコラムの全長を最も伸ばした状態で前記調節ロッドが位置する側の端部に設けた、他方の緩衝機構の緩衝性能よりも高くしている。
この為に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記前後方向両端部に設けた緩衝機構を構成する前記弾性材のうち、前記一方の緩衝機構を構成する弾性材の前後方向に関する厚さ寸法を、前記他方の緩衝機構を構成する弾性材の同方向の厚さ寸法よりも大きくする。
【0014】
又、上述の様な本発明を実施する場合、具体的には、請求項3に記載した発明の様に、前記アウタコラムを後側に、前記インナコラムを前側に、それぞれ配置して、前記一方のコラムを、このうちのアウタコラムとする。又、このアウタコラムの前端部に軸方向に長いスリットを形成して、このアウタコラムの前端部の内径を弾性的に拡縮可能とする。又、前記変位ブラケットを、前記スリットを両側から挟む状態でこのアウタコラムの外周面に固設された、1対の被挟持板部から成るものとする。更に、前記前後方向長孔をこれら両被挟持板部の互いに整合する部分に形成し、弾性材により一体に造られた弾性スリーブを、前記両前後方向長孔の内側に装着する。そして、この弾性スリーブの前後両端部を、それぞれ前記緩衝部材として機能させる。
【0015】
この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、少なくとも前記前後方向長孔の後端部内周面と前記弾性スリーブの後端部外周面との間に隙間を介在させる。
又、前記弾性スリーブは、請求項5に記載した発明の様に、互いに別体とし、前記両被挟持板部にそれぞれ形成された1対の前後方向長孔にそれぞれ装着する事ができる。
或いは、請求項6に記載した発明の様に、前記両被挟持板部にそれぞれ形成された1対の前後方向長孔に、単一の弾性スリーブの幅方向両端部をそれぞれ内嵌して、この弾性スリーブを、前記両被挟持板部同士の間に掛け渡す事もできる。
【0016】
又、前後方向長孔の内周面と前記弾性スリーブの外周面との間に隙間を介在させる為には、例えば、請求項7に記載した発明の様に、前記前後方向長孔の端部内周面の形状を、曲率半径が一定の半円形とし、前記弾性スリーブの端部外周面の形状を、中央部の曲率半径がこの半円形の曲率半径よりも小さく、この中央部を挟む両側部分の曲率半径がこの半円形の曲率半径よりも大きな山形とする。そして、この両側部分で、前記前後方向長孔の端部内周面と前記弾性スリーブの端部外周面との間に前記隙間を介在させる。
この様な請求項7に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項8に記載した発明の様に、前記弾性スリーブの端部内周面の中央部に凹部を形成して、この中央部で、この弾性スリーブの厚さを、両側部分よりも小さくする。
【0017】
或いは、前記隙間を介在させる為に、請求項9に記載した発明の様に、前記前後方向長孔の端部内周面の形状を、曲率半径が一定の半円形とし、前記弾性スリーブの端部の形状を、中央部の平板部とこの平板部を挟む両側部分の曲板部とから成るものとする。そして、この平板部に対応する部分で、前記前後方向長孔の端部内周面と前記弾性スリーブの端部外周面との間に前記隙間を介在させる。
【0018】
又、前記隙間を介在させる発明を実施する場合に、例えば請求項10に記載した発明の様に、前記弾性スリーブの前後方向両端部のうちの少なくとも後端部の外周面の形状を、幅方向両端部に関して、前記前後方向長孔の後端部内周面の形状に見合う半円形とし、同じく幅方向中央部に関して、前記幅方向両端部よりも前方に凹んだ形状とする事もできる。この様な構造を採用する場合には、この幅方向中央部で、前記弾性スリーブの後端部外周面と前記前後方向長孔の後端部内周面との間に前記隙間を介在させる。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明によれば、変位ブラケットを含むステアリングコラムを大型化する事なく、ステアリングホイールの前後位置を調節する作業時に運転者に与える違和感や不快感を十分に低減でき、且つ、乱暴な調節操作が行われた場合にも、車体に対するステアリングコラムの支持力が喪失する事を十分に防止できるテレスコピックステアリング装置を実現できる。
即ち、本発明によれば、ステアリングホイールの前後位置を調節可能な前後両端位置にまで勢い良く変位させると、調節ロッドの外周面が、前後方向長孔の内周面の前後両端部に設置した緩衝機構に衝突する。そして、これら前後両端部の緩衝機構により、前記調節ロッドと変位ブラケットとの間で伝達される衝撃エネルギが緩和されて、前記ステアリングホイールの前後位置を調節している運転者の手に与える違和感や不快感を低減できる。更に、このステアリングホイールを最前位置に移動させた場合には、大きな緩衝作用を受けられるので、前記調節ロッドを介して前記変位ブラケットを支持した支持ブラケットが前方に離脱する事を防止できる。前記ステアリングホイールを最後位置に移動させた状態で前記調節ロッドが衝突する緩衝機構に就いては、前記違和感等を抑えられるものであれば足りるので、小型に構成できる。従って、前後方向長孔の前後両端部に緩衝機構を設けた場合でも、前記変位ブラケットの前後方向寸法が徒に嵩む事を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す要部側面図。
【図2】図1の左端部を、一部を省略して示す平面図。
【図3】図1のW−W断面図。
【図4】アウタコラム、アウタシャフト、及び調節ロッドのみを取り出して、図1と同方向から見た側面図。
【図5】図4の左下部拡大図。
【図6】図5のX−X断面図。
【図7】図5の右下部を、弾性スリーブが弾性変形する以前の状態(A)と弾性変形した状態(B)とで示す拡大図。
【図8】緩衝機構の仕様の相違が、前後方向に関する、ステアリングホイールの変位量とこの変位に対する抵抗との関係に及ぼす影響を示す線図。
【図9】本発明の実施の形態の第2例を示す、図5と同様の図。
【図10】同じく図7と同様の図。
【図11】本発明の実施の形態の第3例を示す、弾性スリーブの端部側面図(A)及び(A)のY−Y断面図(B)。
【図12】同じく第4例を示す、図3と同様の図。
【図13】同じく第5例を示す、図3と同様の図。
【図14】従来から知られている、テレスコピック機構及びチルト機構を備えたステアリング装置の、部分切断略側面図。
【図15】従来構造の第2例を示す縦断側面図。
【図16】図15の拡大Z−Z断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の第1例]
図1〜7は、請求項1〜5、7、8に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の構造では、車体に対し支持固定される車体側固定ブラケット27に対して支持ブラケット12bを、二次衝突時に加わる衝撃荷重により、前方への離脱を可能に支持している。この為に本例の場合には、前記固定ブラケット27の幅方向中央部に形成した、前方が開口した係止切り欠き28の周縁部を、前記支持ブラケット12bの上板部29の上面の幅方向両端寄り部分と、この上板部29の上面に溶接固定した抑えブラケット30の抑え板部31の下面との間で挟持している。更に、前記固定ブラケット27のうちで前記係止切り欠き28の周縁部と、前記支持ブラケット12bの上板部29と、前記抑えブラケット30の抑え板部31との互いに整合する部分に形成した、小通孔乃至は切り欠きに、合成樹脂等の裂断し易い材料製の結合部材を掛け渡している。この構成により前記車体側固定ブラケット27と支持ブラケット12bとを、通常時にがたつく事がなく、且つ、二次衝突時にこの支持ブラケット12bの前方への離脱を可能に結合している。尚、この部分に関しては、本発明の要旨とは関係せず、従来から知られている各種構造を含めて、図示以外の構成も採用できるので、詳しい説明は省略する。
【0022】
前記支持ブラケット12bは、鋼板等の、十分な強度及び剛性を有する金属板を曲げ形成して成るもので、前記上板部29と、この上板部29の左右両端部から下方に向け直角に折れ曲がった1対の支持板部23a、23aとを備える。これら両支持板部23a、23aの互いに整合する部分には、特許請求の範囲に記載した通孔に相当する、上下方向長孔24a、24aを形成している。これら両上下方向長孔24a、24aは、ステアリングホイール1の上下位置調節を行う際の揺動中心となる枢軸11(図14、15参照)を中心とする部分円弧状である。
【0023】
そして、前記両支持板部23a、23a同士の間に、ステアリングコラム6bを構成するアウタコラム13bを、前後位置及び上下位置の調節を可能に支持(挟持)している。前記ステアリングコラム6bは、前記アウタコラム13bの前部とインナコラム14bの後部とを軸方向の相対変位を可能に嵌合させて成るテレスコピック構造である。このうちのアウタコラム13bは、アルミニウム系合金等の軽合金を鋳造(ダイキャスト成形)する事により、円筒状に形成している。又、前記アウタコラム13bの前半下端部に形成した、特許請求の範囲に記載したスリットに相当する軸方向スリット32の前端を、このアウタコラム13bの前端下半部に形成した周方向スリット33に開口させて、このアウタコラム13bの前半部の内径を弾性的に拡縮可能としている。尚、前記インナコラム14bの前端部は、例えばパワーステアリング装置のハウジングに結合固定し、このハウジングを前記枢軸11により、車体に対し揺動変位自在に支持する事で、前記ステアリングコラム6の後端部の上下位置を調節可能とする。
【0024】
又、前記アウタコラム13bの下面の幅方向両端寄り部分で、前記軸方向スリット32を左右両側から挟む位置に、変位ブラケット22aを構成する1対の被挟持板部34、34を形成している。これら両被挟持板部34、34は、基本的には平板状であり、前記アウタコラム13bと一体に鋳造されているが、それぞれの複数箇所に、軽量化及び鋳造後の引け防止用の凹部を形成している。又、前記両被挟持板部34、34の互いに整合する位置に、それぞれ前後方向長孔25a、25aを、前記アウタコラム13bの中心軸と平行に形成している。又、これら両前後方向長孔25a、25aの前後両端部を幅方向から見た(図1、4、5、7に表れた)形状は、曲率半径が一定の半円形である。本例の場合、これら両前後方向長孔25a、25aの内周面は、それぞれの中間部2個所位置ずつに段部が存在し、前記両被挟持板部34、34の外側面側から内側面側に向かう程開口面積が狭くなる、段付形状となっている。前記両被挟持板部34、34は、前記アウタコラム13bの本体部分と共に、軽合金を鋳造する事により造られている為、両前後方向長孔25a、25aの幅寸法並びに内周面形状は、ほぼ任意に調節できる。従って、これら両前後方向長孔25a、25aの内周面と、次述する1対の弾性スリーブ35、35の外周面との接触面積に就いても、ほぼ任意に調節できる。
【0025】
そして、前記両前後方向長孔25a、25aの内側に、それぞれがゴムの如きエラストマー製の弾性スリーブ35、35を内嵌支持している。これら両弾性スリーブ35、35は、前記両前後方向長孔25a、25aの貫通方向(図3の左右方向)中間部に内嵌される本体部分と、前記両被挟持板部34、34の外側面側端部に、全周に亙り突出する状態で形成された鍔部とを備える。又、前記両弾性スリーブ35、35の前後両端部外周面の形状を、頂部が丸まった山形形状としている。即ち、図5、7に示す様に、前記両弾性スリーブ35、35の自由状態での、これら両弾性スリーブ35、35の前後両端部外周面の中央部の曲率半径を、前記両前後方向長孔25a、25aの前後両端部の半円形の曲率半径よりも小さく、この中央部を挟む両側部分の曲率半径を、この半円形の曲率半径よりも大きくしている。そして、この両側部分で、前記両前後方向長孔25a、25aの前後両端部内周面と、前記両弾性スリーブ35、35の前後両端部外周面との間に、それぞれ図5、7に示す様な、円弧形の隙間36、36を存在させている。又、本例の場合には、前記両弾性スリーブ35、35の前後両端部に設けた、それぞれが略半円筒状である前側緩衝部37及び後側緩衝部38の内周面の中央部に、それぞれ凹部39a、39bを形成し、この中央部で、これら両緩衝部37、38の厚さを、両側部分よりも小さくしている。
【0026】
更に、本例の場合には、前記弾性スリーブ35、35の厚さ寸法を、前端部と後端部とで互いに異ならせる事により、前記前側緩衝部37と前記後側緩衝部38との緩衝性能を、互いに異ならせている。具体的には、前記ステアリングホイール1を調節可能な最前位置に移動させた状態で調節ロッド19aが対向する、前記後側緩衝部38の緩衝性能を、同じく最後位置に移動させた状態でこの調節ロッド19aが対向する、前記前側緩衝部37の緩衝性能よりも大きくしている。この為に本例の場合には、前記両弾性スリーブ35、35の前後両端部に存在する前記両緩衝部37、38のうち、後側緩衝部38の前後方向に関する厚さ寸法Tを、前側緩衝部37の同方向の厚さ寸法tよりも大きく(T>t)している。
【0027】
又、前記ステアリングコラム6bの内側に、ステアリングシャフト5bを、回転自在に支持している。このステアリングシャフト5bは、後側のアウタシャフト15bの前半部と前側のインナシャフト16bの後半部とをスプライン係合させて成り、トルクの伝達及び伸縮を可能としている。そして、前記アウタシャフト15bを前記アウタコラム13bの内側に、このアウタコラム13bに対する軸方向の変位を阻止した状態で、回転自在に支持している。そして、前記アウタシャフト15bの後端部で前記アウタコラム13bの後端開口から突出した部分に、前記ステアリングホイール1(図14参照)を固定可能としている。
【0028】
更に、前記両上下方向長孔24a、24aと、前記両前後方向長孔25a、25aの内側に装着した前記両弾性スリーブ35、35との内側に、調節ロッド19aを挿通している。そして、この調節ロッド19aを組み込んだ拡縮機構により、前記両支持板部23a、23a同士の間隔を拡縮し、前記アウタコラム13bの上下位置及び前後位置の調節を可能としたり、このアウタコラム13bを調節後の位置に保持可能としている。前記拡縮機構を構成する為に、前記調節ロッド19aの基端部(図3の右端部)に設けた頭部40を一方(図3の右方)の支持板部23aに形成した上下方向長孔24aに、この上下方向長孔24aに沿った変位のみを可能に(回転を阻止した状態で)係合させている。一方、前記調節ロッド19aの先端部に螺着固定したナット41と他方(図3の左方)の支持板部23aの外側面との間に、このナット41の側から順番に、スラスト軸受42とカム装置20aとを設けている。このカム装置20aは、駆動側カム43と被駆動側カム44との相対変位に基づいて軸方向寸法を拡縮するもので、このうちの被駆動側カム44を、前記他方の支持板部23aに形成した上下方向長孔24aに、この上下方向長孔24aに沿った変位のみを可能に係合させている。一方、前記駆動側カム43は、調節レバー18aにより、前記調節ロッド19aの周囲での回動を可能としている。
【0029】
前記ステアリングホイール1の上下位置又は前後位置を調節する際には、前記調節レバー18aを下方に揺動させて、前記カム装置20aの軸方向寸法を縮める。この結果、前記頭部40と前記被駆動側カム44との間隔が拡がり、前記両支持板部23a、23aが前記変位ブラケット22aを構成する左右1対の被挟持板部34、34を抑え付けている力が、低下乃至は喪失する。同時に、前記アウタコラム13bの前半部の内径が弾性的に拡がり、このアウタコラム13bの前半部内周面と前記インナコラム14bの後半部外周面との嵌合部の面圧が低下乃至は喪失する。この状態では、前記調節ロッド19aが前記両上下方向長孔24a、24a内で変位できる範囲内で、前記ステアリングホイール1の上下位置を調節できる。又、前記調節ロッド19aが、前記両弾性スリーブ35、35の内側で変位できる範囲内で、前記ステアリングホイール1の前後位置を調節できる。このステアリングホイール1を所望の位置に移動させた後、前記前記調節レバー18aを上方に揺動させて、前記カム装置20aの軸方向寸法を拡張すれば、前記頭部40と前記被駆動側カム44との間隔が縮まり、前記両支持板部23a、23aが前記変位ブラケット22aを構成する左右1対の被挟持板部34、34を強く抑える。同時に、前記アウタコラム13bの前半部の内径が縮まり、このアウタコラム13bの前半部と前記インナコラム14bの後半部との嵌合強度が高くなる。この結果、前記ステアリングホイール1を調節後の位置に保持できる。
【0030】
本例のテレスコピックステアリング装置の場合には、前記ステアリングホイール1の前後位置を調節する際に、前記調節ロッド19aを前記両弾性スリーブ35、35の内側で前後両端部にまで勢い良く変位させても、前記調節ロッド19aに衝撃が加わる事がなく、前記ステアリングホイール1を操作している運転者に違和感や不快感を与える事を防止できる。即ち、前記ステアリングホイール1を調節可能な前後両端位置にまで勢い良く変位させると、前記調節ロッド19aが前記前側緩衝部37又は前記後側緩衝部38に衝突する。これら両緩衝部37、38は、何れも弾性変形可能で衝撃吸収能力を有する構造である為、前記違和感や不快感が生じる事を防止できる。
【0031】
特に、前記ステアリングホイール1を最前位置に勢い良く変位させる事に伴って、前記調節ロッド19aが前記両前後方向長孔25a、25aの後端側に移動し、その結果、この調節ロッド19aが前記両弾性スリーブ35、35の後側緩衝部38に衝突した状態では、十分な衝撃吸収能力を確保できる。即ち、前記調節ロッド19aを前記両弾性スリーブ35、35の後端部にまで勢い良く変位させると、これら両弾性スリーブ35、35が、図7の(A)に示した状態から(B)に示した状態にまで弾性変形する。即ち、大きな厚さ寸法Tを有する前記後側緩衝部38を、この厚さ寸法を縮める方向に押し潰しつつ、前記各隙間36、36を消失させる方向に、前記後側緩衝部38を弾性変形させる。具体的には、前記後側緩衝部38の後端部外周面の形状を、前記両前後方向長孔25a、25aの後端部外周面に合わせて半円筒形になるまで、前記後側緩衝部38を弾性変形させる。これらの弾性変形は、前記両弾性スリーブ35、35の後端部に設けた前記後側緩衝部38が、前記調節ロッド19aから退避する方向に行われる。この結果、前記調節ロッド19aから前記両弾性スリーブ34、34の端部に加えられた衝撃エネルギの相当部分が吸収される。
【0032】
この結果、前記ステアリングホイール1の前後位置を調節している運転者の手に与える違和感や不快感を低減できる。更に、前記アウタコラム13bから前記調節ロッド19aを介して前記支持ブラケット12bに加わる衝撃エネルギも緩和できるので、運転者が乱暴に前記ステアリングホイール1を最前位置に移動させた場合にも、前記支持ブラケット12bが前方に離脱する事を防止できる。即ち、体格の大きな運転者が、前記調節レバー18aを下方に回動させた状態で、前記ステアリングホイール1及び前記アウタシャフト15bを介して前記アウタコラム13bを前方に勢い良く押し動かすと、前記調節ロッド19aが前記両前後方向長孔25a、25aの後端部に向けて、勢い良く変位する。そして、前記アウタコラム13bが前方に移動する運動エネルギが、前記調節ロッド19aを介して前記支持ブラケット12bに、衝撃的に伝わる。
【0033】
この様にしてこの支持ブラケット12bに伝わった衝撃エネルギが大きいと、この支持ブラケット12bと前記車体側固定部ラケット27とを結合している合成樹脂製の結合部材が裂断し、この支持ブラケット12bが前方に離脱する。これに対して本例の構造によれば、前記両弾性スリーブ35、35の後端部に設けた前記後側緩衝部38の弾性変形に基づき、前記アウタコラム13bから前記調節ロッド19aに伝わる衝撃エネルギの相当部分を吸収できるので、乱暴な操作程度の衝撃では、前記支持ブラケット12bが前方に離脱する事を防止できる。尚、二次衝突時に前記調節ロッド19aに伝わる衝撃エネルギは、前記乱暴な操作により加わる衝撃エネルギよりも遥かに大きいので、前記支持ブラケット12bを前方に離脱させて、ステアリングホイール1に衝突した運転者の身体に加わる衝撃を緩和する。この際も、前記両弾性スリーブ35、35の弾性変形に基づく衝撃吸収は、運転者保護に役立つ。例えば、図示の例の場合、前記調節ロッド19aが、前記支持ブラケット12bを構成する上板部29の直下にある。この様な構造は、この支持ブラケット12bに対する前記アウタコラム13bの支持剛性を確保する面からは有利である反面、前記調節ロッド19aの設置部分での、前記両支持板部23a、23aの幅方向に関する剛性が高くなる。従って、前記調節レバー18aにより前記頭部40と前記被駆動側カム44との間隔を縮める事に対する抵抗が大きくなり易く、前記両支持板部23a、23aにより前記アウタコラム13bを保持する力を大きくする面からは、多少不利になる。この為、二次衝突時には、前記支持ブラケット12bが前方に離脱するのに先立って、前記調節ロッド19aが前記両弾性スリーブ35、35の後端部に移動し易い。その場合でも、前記後側緩衝部38の弾性変形に基づいて衝撃エネルギを吸収し、運転者保護の面から有利になる。
【0034】
上述の様に本例の場合には、前記後側緩衝部38の厚さ寸法Tを大きくして、前記ステアリングホイール1を調節可能な最前位置に乱暴に変位させた状態でも、前記支持ブラケット12bが前方に離脱する事を防止できる様にしているが、この様な離脱が発生する事のない方向への移動時に作動する前側緩衝部37に関しては、その厚さ寸法tを小さく抑えている。従って、ステアリングホイール1の位置調節を前後何れの方向に関して行った場合でも、運転者に違和感や不快感を与える事を防止できる構造を実現すべく、前記両前後方向長孔25a、25aの前後両端部に前記前側、後側各緩衝機構37、38を設けた構造に拘らず、前記両前後方向長孔25a、25aを設けた、前記変位ブラケット22aの被挟持板部34、34の前後方向寸法が徒に嵩む事を防止できる。
【0035】
図8は、前記前側、後側各緩衝機構37、38が、前記調節ロッド19aから加わる衝撃を吸収する特性を示すもので、横軸はこの調節ロッド19aの変位量を、縦軸はこの調節ロッド19が変位する事に対する抵抗の値(吸収できる衝撃エネルギの大きさ)を、それぞれ示している。この様な図8のうちの破線αは前記後側緩衝機構38によるエネルギ吸収特性を、鎖線βは前記前側緩衝機構37によるエネルギ吸収特性を、それぞれ示している。又、これら破線α及び鎖線βのうち、原点(零点)から始まる、比較的傾斜が緩やかな部分は、前記各隙間36、36を解消しつつ前記前側、後側各緩衝機構37、38が弾性変形する事で、前記調節ロッド19aを変位させる範囲である。又、それに続く、比較的傾斜が急な部分は、前記各隙間36、36を解消した後、前記前側、後側各緩衝機構37、38部分の弾性材が圧縮方向に弾性変形する事で、前記調節ロッド19aを変位させる範囲である。更に、図8の実線γは、前記前後方向長孔25a、25aの端部に弾性材製の緩衝機構を設けず、軽合金製の被挟持板部34、34に形成した前記前後方向長孔25a、25aの内周面と、工具鋼製の前記調節ロッド19aの外周面とを直接衝突させた場合のエネルギ吸収特性を表している。この様な図8の各線α、β、γから、本例の構造により、前記ステアリングホイール1を前後両端部に変位させた場合に於ける、それぞれ適切な衝撃吸収特性を得られる事が分かる。
【0036】
尚、前記図8に示した各線α、β、γの傾斜は、模式的なもので、各構造による緩衝性能を、実際の比で表したものではない。実際の比は、前記弾性スリーブ35を構成する材質(弾性係数)、前記前側、後側各緩衝機構37、38の厚さ寸法t、T、前記各隙間36、36の寸法等により、任意にチューニングできる。因みに、図5に示した様な寸法関係によれば、前記鎖線βは、図8の状態よりも、全体的に左寄りになるか、逆に、前記破線αが図8の状態よりも全体的に右寄りになる。
又、本例の構造の変形例として、前記前側緩衝部37に関しては、凹部39aや隙間36、36を省略する事もできる。省略した場合には、前記鎖線βの右半部の、傾斜が比較的急な部分が、そのまま原点から始まる様な特性になる。
【0037】
[実施の形態の第2例]
図9〜10は、請求項1〜5、9に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、衝撃吸収の為の隙間36a、36aを介在させる為、弾性スリーブ35aの前後両端部に設けた、前側、後側両緩衝部37a、38aの形状を、上述した実施の形態の第1例と異ならせている。具体的には、前後方向長孔25aの端部内周面の形状を、上述した実施の形態の第1例の場合と同様に、曲率半径が一定の半円形とし、前記弾性スリーブ35aの前後両端部の形状を、中央部の平板部45a、45bと、この平板部45a、45bを挟む両側部分の曲板部とから成るものとしている。そして、これら両平板部45a、45bに対応する部分で、前記前後方向長孔25aの両端部内周面と前記弾性スリーブ35aの両端部外周面との間に、前記両隙間36a、36aを存在させている。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0038】
[実施の形態の第3例]
図11は、請求項1〜5、9、10に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の構造では、弾性スリーブ35bの前後方向両端部の外周面の形状を、幅方向両端部に関して、前後方向長孔25a(図9〜10参照)の端部内周面の形状に見合う半円形とし、同じく幅方向中央部に関して、前記幅方向両端部よりも前方に凹んだ形状としている。そして、この幅方向中央部で、前記弾性スリーブ35bの端部外周面と前記前後方向長孔25aの端部内周面との間に隙間を介在させる。この様な本例の構造の場合、上述した実施の形態の第2例の場合よりも、前側、後側両緩衝部37a、38a(図9参照)の剛性を少し高くして、調節ロッド19aを前記前後方向長孔25a(図9〜10参照)の前後両端部に勢い良く変位させた状態での衝撃吸収性能を変える事ができる。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第2例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0039】
[実施の形態の第4例]
図12は、請求項1、6に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、アウタコラム13cと一体に設けた、変位ブラケット22bを構成する左右1対の被挟持板部34a、34aにそれぞれ形成された1対の前後方向長孔25b、25bに、単一の弾性スリーブ35cの幅方向両端部をそれぞれ内嵌している。要するに、この弾性スリーブ35cを、前記両被挟持板部34a、34a同士の間に掛け渡される状態で装着している。又、本例の場合には、支持ブラケット12cを車体に固定の部分に対し、左右1対の係止カプセル46、46を介して、二次衝突時に加わる衝撃エネルギにより、前方への離脱を可能に支持している。この様な、係止カプセル46、46を利用した離脱機構に就いては、従来から周知であるから、詳しい図示並びに説明は省略する。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0040】
[実施の形態の第5例]
図13も、請求項1、6に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合には、鋼板製の(電縫管又は引き抜き管である)アウタコラム13dの下面に、変位ブラケット22cを構成する1対の被挟持板部34b、34bを、このアウタコラム13dに形成した軸方向スリット32aを左右両側から挟む状態で、溶接固定している。そして、前記両被挟持板部34b、34bの互いに整合する部分に形成した前後方向長孔25b、25bに、単一の弾性スリーブ35dの幅方向両端部をそれぞれ内嵌して、この弾性スリーブ35dを、前記両被挟持板部34b、34b同士の間に掛け渡している。本例の構造の場合には、これら両被挟持板部34b、34bの板厚による制約がある為、前記両前後方向長孔25b、25bの内周面と、前記弾性スリーブ35dの外周面との接触面積を任意には調節しにくい。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第4例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、チルト機構を備えず、テレスコピック機構のみを備えたステアリング装置で実施する事もできる。但し、この場合でも、本発明を実施する為には、前後方向長孔を変位ブラケット側に形成する。本発明を実施しないテレスコピックステアリング装置に関する限り、変位ブラケットに単なる通孔(円孔)を形成し、支持ブラケットを構成する左右1対の支持板部に前後方向長孔を形成する事もできる。但し、この場合には、ステアリングホイールの前後位置調節に伴って調節レバーも前後移動する。しかも、前記両支持板部の厚さ寸法は小さく、これら両支持板部に形成した前後方向長孔の内周面の幅寸法は小さいので、本発明の様な弾性スリーブを装着する事は難しい。
更に、図示の例では、何れも変位ブラケットをステアリングコラムの下側に配置した構造に就いて示したが、上側に設ける事もできるし、アウタコラムを前側に、インナコラムを後側に、それぞれ配置した構造で、本発明を実施する事もできる。
【符号の説明】
【0042】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングギヤユニット
3 入力軸
4 タイロッド
5、5a、5b ステアリングシャフト
6、6a、6b ステアリングコラム
7 自在継手
8 中間シャフト
9 自在継手
10 車体
11 枢軸
12、12a、12b、12c 支持ブラケット
13、13a、13b、13c、13d アウタコラム
14、14a、14b インナコラム
15、15a、15b アウタシャフト
16、16a、16b インナシャフト
17 電動モータ
18、18a 調節レバー
19、19a 調節ロッド
20、20a カム装置
21 カム部材
22、22a、22b、22c 変位ブラケット
23、23a 支持板部
24、24a 上下方向長孔
25、25a、25b、25c 前後方向長孔
26a、26b スリーブ
27 車体側固定ブラケット
28 係止切り欠き
29 上板部
30 抑えブラケット
31 抑え板部
32、32a 軸方向スリット
33 周方向スリット
34、34a、34b 被挟持板部
35、35a、35b、35c、35d 弾性スリーブ
36、36a 隙間
37、37a 前側緩衝部
38、38a 後側緩衝部
39a、39b 凹部
40 頭部
41 ナット
42 スラスト軸受
43 駆動側カム
44 被駆動側カム
45a、45b 平板部
46 係止カプセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングコラムと、変位ブラケットと、ステアリングシャフトと、支持ブラケットと、調節ロッドと、拡縮機構とを備え、
前記ステアリングコラムは、筒状で、少なくとも軸方向一端部の内径を拡縮可能としたアウタコラムと、このアウタコラムの内径側に軸方向の変位を可能に嵌合支持されたインナコラムとを組み合わせて伸縮可能としたものであり、
前記変位ブラケットは、前記ステアリングコラムの一部に設けられてこの一部と共に変位するもので、前記アウタコラムと前記インナコラムとのうちの一方のコラムで、前記ステアリングホイールの前後移動に伴って軸方向に変位するコラムに固設されていて、このコラムの軸方向に長い、前後方向長孔を備えており、
前記ステアリングシャフトは、前記ステアリングコラムの内径側に回転自在に支持されて、このステアリングコラムの後端開口よりも後方に突出した部分にステアリングホイールを固定するものであり、
前記支持ブラケットは、前記ステアリングホイールの前後位置を調節可能として前記ステアリングコラムを車体に対し支持するもので、前記変位ブラケットを幅方向両側から挟む1対の支持板部と、これら両支持板部の互いに整合する部分に形成された通孔とを備えており、
前記調節ロッドは、これら両通孔及び前記前後方向長孔の内側を前記変位ブラケットの幅方向に挿通しており、
前記拡縮機構は、前記調節ロッドの両端部で前記両支持板部の外側面に対向する部分に設けた1対の押圧部同士の間隔を拡縮する事により、これら両支持板部の内側面同士の間隔を拡縮するものである
テレスコピックステアリング装置に於いて、
少なくとも前後両端部で前記前後方向長孔の内側に装着された弾性材製の緩衝部材を備え、前記調節ロッドがこの前後方向長孔の前後方向端部に移動した状態でこれら調節ロッドと緩衝部材とを当接させる事により、これら調節ロッドの外周面と前後方向長孔の端部内周面とが直接衝突する事を阻止すると共に、前記緩衝部材を弾性変形させる事により衝突エネルギを吸収する緩衝機構を設けており、
前記前後方向両端部に設けた緩衝機構のうち、前記ステアリングホイールの前後位置を調節可能な最前位置にすべく、前記ステアリングコラムの全長を最も縮めた状態で前記調節ロッドが位置する側の端部に設けた一方の緩衝機構の緩衝性能を、前記ステアリングコラムの全長を最も伸ばした状態で前記調節ロッドが位置する側の端部に設けた他方の緩衝機構の緩衝性能よりも高くした事を特徴とする
テレスコピックステアリング装置。
【請求項2】
前記前後方向両端部に設けた緩衝機構を構成する前記弾性材のうち、前記一方の緩衝機構を構成する弾性材の前後方向に関する厚さ寸法が、前記他方の緩衝機構を構成する弾性材の同方向の厚さ寸法よりも大きい、請求項1に記載したテレスコピックステアリング装置。
【請求項3】
前記アウタコラムが後側に、前記インナコラムが前側に、それぞれ配置されており、前記一方のコラムがこのうちのアウタコラムであって、このアウタコラムの前端部に軸方向に長いスリットが形成されていて、このアウタコラムの前端部の内径が弾性的に拡縮可能であり、前記変位ブラケットが、前記スリットを両側から挟む状態でこのアウタコラムの外周面に固設された1対の被挟持板部から成るものであり、前記前後方向長孔がこれら両被挟持板部の互いに整合する部分に形成されており、弾性材により一体に造られた弾性スリーブが前記両前後方向長孔の内側に装着されていて、この弾性スリーブの前後両端部が、それぞれ前記緩衝部材として機能する、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したテレスコピックステアリング装置。
【請求項4】
少なくとも前記前後方向長孔の後端部内周面と前記弾性スリーブの後端部外周面との間に隙間を介在させている、請求項3に記載したテレスコピックステアリング装置。
【請求項5】
前記両被挟持板部にそれぞれ形成された1対の前後方向長孔に、互いに別体とされた弾性スリーブがそれぞれ装着されている、請求項3〜4のうちの何れか1項に記載したテレスコピックステアリング装置。
【請求項6】
前記両被挟持板部にそれぞれ形成された1対の前後方向長孔に、単一の弾性スリーブの幅方向両端部がそれぞれ内嵌されて、この弾性スリーブが、前記両被挟持板部同士の間に掛け渡される状態で装着されている、請求項3〜4のうちの何れか1項に記載したテレスコピックステアリング装置。
【請求項7】
前記前後方向長孔の端部内周面の形状が、曲率半径が一定の半円形であり、前記弾性スリーブの端部外周面の形状が、中央部の曲率半径がこの半円形の曲率半径よりも小さく、この中央部を挟む両側部分の曲率半径がこの半円形の曲率半径よりも大きな山形であり、この両側部分で、前記前後方向長孔の端部内周面と前記弾性スリーブの端部外周面との間に前記隙間が存在する、請求項4又は請求項4を引用した請求項5〜6のうちの何れか1項に記載したテレスコピックステアリング装置。
【請求項8】
前記弾性スリーブの端部内周面の中央部に凹部が形成されていて、この中央部で、この弾性スリーブの厚さが、両側部分よりも小さくなっている、請求項7に記載したテレスコピックステアリング装置。
【請求項9】
前記前後方向長孔の端部内周面の形状が、曲率半径が一定の半円形であり、前記弾性スリーブの端部の形状が、中央部の平板部とこの平板部を挟む両側部分の曲板部とから成るものであり、この平板部に対応する部分で、前記前後方向長孔の端部内周面と前記弾性スリーブの端部外周面との間に前記隙間が存在する、請求項4又は請求項4を引用した請求項5〜6のうちの何れか1項に記載したテレスコピックステアリング装置。
【請求項10】
前記弾性スリーブの前後方向両端部のうちの少なくとも後端部の外周面の形状を、幅方向両端部に関して、前記前後方向長孔の後端部内周面の形状に見合う半円形とし、同じく幅方向中央部に関して、前記幅方向両端部よりも前方に凹んだ形状とし、この幅方向中央部で、前記弾性スリーブの後端部外周面と前記前後方向長孔の後端部内周面との間に前記隙間を介在させた、請求項5又は請求項5を引用した請求項7〜9のうちの何れか1項に記載したテレスコピックステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−82331(P2013−82331A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223816(P2011−223816)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】